説明

植生用再乳化形粉末樹脂

【課題】 低温造膜性及び固着性に優れ、好ましくは更に種子の発芽性及び耐水性に優れる総合的に優れた植生用再乳化形粉末樹脂を提供する。
【解決手段】 ガラス転移点が20℃より高いビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と、160℃〜280℃の沸点を有する液状の造膜助剤(B)を含み、最低造膜温度が5℃以下である植生用再乳化形粉末樹脂である。この樹脂は、固着性が向上しながら最低造膜温度を低く保つことができる。更に、エマルジョン(A)に造膜助剤(B)を混合後、噴霧乾燥して製造することで、その低温造膜性、固着性がより向上される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植生用再乳化形粉末樹脂に関し、例えば、地表面並びに建築物の屋上もしくは壁面を緑化するときに使用される植生用再乳化形粉末樹脂に関する。更に、本発明は、上述の植生用再乳化形粉末樹脂を含んで成る植生用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、道路の切り通し及び河川の堤防等の傾斜した地表面(以下、「傾斜面」ともいう)を保護し、安定化すること等を目的として、傾斜面に植生を生じさせる、いわゆる「緑化」が行われている。この傾斜面等を緑化する方法を、通常、「緑化工法」ともいう。傾斜面を緑化する際、傾斜面を形成する土壌は、通常良好な耐水性を有することが要求される。土壌の耐水性を向上させる方法として、土壌に樹脂を混入する方法が行われている。この方法は、具体的には、例えば、客土、ピートモス及びバーク等を配合した土壌、肥料、種子及び樹脂等を含んで成る組成物を、傾斜面に吹き付けることによって、又は上述の組成物をシート状に成形した後、その成型物を傾斜面に貼り合わせることによって行われる。上述の組成物に樹脂を加える理由は、種子が発芽するまでに、雨水等によって土壌が浸食されること、又は流出することを防止するためである。
【0003】
このような緑化工法に用いられる樹脂として、例えば、アクリル系エマルジョン及び酢酸ビニル系エマルジョン並びに合成ゴムラテックス等の流体状の樹脂が、一般的に使用される(例えば、特許文献1〜3参照)。これらの流体状の樹脂を用いる場合、通常、これらの流体状の樹脂を施工する現場(即ち、傾斜面)まで運送し、その現場で流体状の樹脂と、土壌、肥料及び種子等を混合して流体状の組成物を作製し、それを傾斜面に吹き付ける方法が用いられる。従って、これらの流体状の樹脂は流体状であるがゆえに、その運搬及び取り扱い等が不便であるという問題があった。更に、これらの流体状の樹脂を用いると、流体状であるがゆえに、その包装容器が大きく、また丈夫なので、使用される容器の廃棄も不便であるという問題があった。また、冬場になると、これらの流体状の樹脂が凍結することもあり、その場合は、施工困難であるという問題もあった。従って、このような問題点を有する流体状の樹脂の代わりに、近年、流体状ではない、粉末状の樹脂である再乳化形粉末樹脂を使用する方法が検討されている。
【0004】
「再乳化形粉末樹脂」とは、一般に、樹脂のエマルジョンを、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法を用いて粉末にしたものであり、水と混合することによって、再び樹脂のエマルジョンを形成するものをいう。
このような再乳化形粉末樹脂を使用する緑化工法として、例えば、ガラス転移点が20℃以下のビニル系合成樹脂のエマルジョンを抗粘結剤とともに噴霧乾燥して、得られた再乳化形粉末樹脂を含む植生用組成物を使用する緑化方法が知られている(特許文献4参照)。この方法は、再乳化形粉末樹脂を使用するので、予め工場内で再乳化形粉末樹脂、土壌、肥料及び種子を混合して、植生用組成物を調製することができる。従って、これらの成分を現場で混合していた従来の方法と比較して、作業が簡略になり、植生用組成物の品質が安定するという長所がある。また、流体状の樹脂を使用する上述の方法と比較すると、包装容器の廃棄や運送コスト等の点で優れた方法である。
【0005】
この方法では、低温での固まり易さ、即ち、低温での樹脂の造膜性を考慮して、使用されるビニル系合成樹脂のエマルジョンの樹脂のガラス転移点(又はガラス転移温度:Tg)は20℃以下とされている。しかし、樹脂のTgが低い場合、樹脂が固まった後で得られる固着体の強度が弱い(即ち、固着性が低い)という問題がある。樹脂が固まった後の固着体の強度を高くするために、樹脂のTgを高くすると、低温での造膜性が低下するという問題がある。従って、樹脂の固まり易さと、固まった後の固着体の強度には、トレードオフの関係があり、両者を共に満足させることは困難である。
【0006】
また、再乳化形粉末樹脂の固まり易さ、即ち、造膜性を向上させるために、可塑剤として粉末状のアルキルフェニルエーテル誘導体を混合する方法が検討されている(特許文献5参照)。本発明者等は、再乳化形粉末樹脂と共に粉末状の可塑剤を組成物に配合して検討したところ、固まり易くなり、造膜性は向上するが、粉末状の可塑剤の存在により、得られる土壌の耐水性が低下し、総合的に満足な組成物を得ることができなかった。
【0007】
【特許文献1】特公昭47−47324号公報
【特許文献2】特開昭58−207419号公報
【特許文献3】特開昭60−137212号公報
【特許文献4】特許第2623184号公報
【特許文献5】特開平9−165521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その課題は、従来の植生用再乳化形粉末樹脂と比較して、低温造膜性及び固着性に優れる(即ち、樹脂が固まり易く、固まった後の固着体の強度が高い)植生用再乳化形粉末樹脂を提供すること、好ましくは更に種子の発芽性及び耐水性に優れる総合的に優れた植生用再乳化形粉末樹脂を提供することであり、またそのような再乳化形粉末樹脂を含む植生用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、植生用再乳化形粉末樹脂について鋭意検討を重ねた結果、高いガラス転移点を有するビニル系合成樹脂のエマルジョンから、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と、特定の造膜助剤を含んで成る再乳化形粉末樹脂は、優れた特性を有することを見出して、本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
本発明は、一の要旨において、新規な植生用再乳化形粉末樹脂を提供し、それは、
ガラス転移点が20℃より高いビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂及び、
160℃〜280℃の沸点を有する液状の造膜助剤(B)
を含んで成り、
最低造膜温度が5℃以下であることを特徴とする植生用再乳化形粉末樹脂である。
【0011】
本発明の一の態様において、エマルジョン(A)に造膜助剤(B)を混合後、噴霧乾燥することによって得られる植生用再乳化形粉末樹脂を提供する。
【0012】
本発明の別の態様において、造膜助剤(B)は、グリコールエーテル類である上述の植生用再乳化形粉末樹脂を提供する。
【0013】
本発明の更に別の態様において、グリコールエーテル類は、フェノキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートから選択される少なくとも一種である上述の植生用再乳化形粉末樹脂を提供する。
【0014】
本発明の好ましい態様において、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部当たり、造膜助剤(B)を3〜8重量部含んで成る上述の植生用再乳化形粉末樹脂を提供する。
【0015】
本発明の他の態様において、pH調整剤(C)を、更に含んで成る上述の植生用再乳化形粉末樹脂を提供する。
【0016】
本発明の他の好ましい態様において、
エマルジョン(A)を噴霧乾燥した後、pH調整剤(C)を混合することによって得られ、
エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部当たり、pH調整剤(C)を0.5〜30重量部含んで成る植生用再乳化形粉末樹脂であって、
固形分の濃度が10重量%となるように水中に再分散して得られる分散液のpHが6〜9となる上述の植生用再乳化形粉末樹脂を提供する。
【0017】
本発明は、他の要旨において、新たな植生用組成物を提供し、それは、上述の植生用再乳化形粉末樹脂を含む植生用組成物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、
ガラス転移点が20℃より高いビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂及び、
160℃〜280℃の沸点を有する液状の造膜助剤(B)
を含んで成り、
最低造膜温度が5℃以下なので
最低造膜温度を低く保ちながら、樹脂が固まった後の強度、即ち、固着性を向上することができる。これは、成分(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と成分(B)を組み合わせることによって、見出されたものである。即ち、Tgが比較的高い特定の樹脂のエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と、特定の沸点を有する液状の造膜助剤成分(B)を組み合わせることで、固着性を向上させながら、最低造膜温度を低く保つことができ、好ましくは耐水性も向上された植生用再乳化形粉末樹脂が得ることができる。
【0019】
本発明の植生用再乳化形粉末樹脂を、エマルジョン(A)に造膜助剤(B)を混合後、噴霧乾燥することによって得る場合、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と、造膜助剤(B)が、より均一に混合した植生用再乳化形粉末樹脂が得られるので、低温造膜性、固着性がより高くなる。
【0020】
本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、造膜助剤(B)が、グリコールエーテル類の場合、低温造膜性、固着性がより向上する。
更に、本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、グリコールエーテル類が、フェノキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートから選択される少なくとも一種である場合、低温造膜性、固着性がより向上する。
【0021】
本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部当たり、造膜助剤(B)を3〜8重量部含んで成る場合、低温造膜性、固着性がより向上する。
【0022】
本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、pH調整剤(C)を、更に含んで成る場合、発芽性が向上する。
【0023】
本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、
エマルジョン(A)を噴霧乾燥した後、pH調整剤(C)を混合することによって得られ、
エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部当たり、pH調整剤(C)を0.5〜30重量部含んで成る植生用再乳化形粉末樹脂であって、
固形分の濃度が10重量%となるように水中に再分散して得られる分散液のpHが6〜9となる場合、発芽性が更に向上され、緑化工法に好適な植生用再乳化形粉末樹脂を得ることができる。
【0024】
本発明の植生用組成物は、上述の植生用再乳化形粉末樹脂を含む植生用組成物であるから、最低造膜温度を低く保ちながら、樹脂が固まった後の強度、即ち、固着性を向上することができ、好ましくは発芽性、耐水性等も向上された総合的に優れた植生用組成物を提供することができる。
【0025】
本発明の植生用再乳化形粉末樹脂を含んで成る植生用組成物は、緑化工法に好適に使用することができ、下記のような長所を有する。
本発明に係る植生用組成物は、形態が粉末状である植生用再乳化形粉末樹脂を含んで成るので、冬場でも凍結しない植生用組成物を提供することができる。
更に、植生用再乳化形粉末樹脂は、形態が粉末状であるため、例えば植生基盤材及び植生用添加剤等に吸着され難いので、本発明は、植生基盤材及び植生用添加剤等と、より均一に混合された植生用組成物を提供することができる。
また、植生用再乳化形粉末樹脂は、形態が粉末状であるため、種子又は根茎を被覆し難いので、種子又は根茎の発芽育成を阻害し難い植生用組成物を提供することができる。
【0026】
流体状のビニル系合成樹脂のエマルジョンは施工後、植生用組成物層を緻密に硬くし得るという問題を生じ得るが、本発明に係る植生用再乳化形粉末樹脂を緑化工法に使用すると、植生用組成物層をよりかさ高く仕上げることができる。よって、本発明に係る植生用再乳化形粉末樹脂を用いて得られる植生用組成物層は、水分や空気の保持性がより改良され、種子または根茎の発芽、育成がより向上され得る。
植生用再乳化形粉末樹脂は、より容易に均一に混合することができるので、植生用組成物をよりかさ高く仕上げることができるので、吹き付け時の作業性がより向上される。更に、植生用組成物の単位使用量当たりの施工面積をより広くすることができる。
更に、植生用再乳化形粉末樹脂は、流体状の樹脂エマルジョンと異なり、金属製の丈夫な包装容器を必要とせず、紙袋を用いて搬送することができる。使用後の紙袋は焼却処分か可能であり、運送及び包装容器の使用後の処分等の簡便さが向上される。特に、山間避地での緑化工法には、本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は有用である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本明細書において「植生用再乳化形粉末樹脂」とは、緑化工法に使用する植生用の再乳化形粉末樹脂を意味し、より具体的には、「ガラス転移点が20℃より高いビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂」と、「160℃〜280℃の沸点を有する液状の造膜助剤(B)」を含んで成り、特定の最低造膜温度を示す植生用の再乳化形粉末樹脂をいう。
また、「植生用組成物」とは、上述の「植生用再乳化形粉末樹脂」を含んで成り、更に、例えば、種子(根茎)、植生基盤材及び化成肥料等を含んで成る、緑化工法に使用される組成物をいう。
更に、「再乳化形粉末樹脂」とは、上述したように、水と混合し攪拌することにより、再びエマルジョン状態に復する粉末樹脂をいう。
【0028】
本発明において「植生用再乳化形粉末樹脂」は、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と造膜助剤(B)を含んで成り、特定の最低造膜温度を有するものであれば、特に制限されるものではない。ここで「エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂」とは、エマルジョン状態にあるエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる樹脂を意味するが、目的とする「植生用再乳化形粉末樹脂」が得られる限り、媒体を除去する方法は、特に制限されるものではない。
ここで「媒体」とは、一般的に、例えば、蒸留水、イオン交換水及び純水等の水をいうが、目的とする植毛用再乳化形粉末樹脂に悪影響を与えない限り、有機溶媒を含んでもよい。
【0029】
同様に、目的とする「植生用再乳化形粉末樹脂」が得られる限り、植生用再乳化形粉末樹脂の製造方法も特に制限されるものではない。例えば、エマルジョン(A)を乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法を用いて再乳化形粉末樹脂とした後、造膜助剤(B)を混合して、目的とする植生用再乳化形粉末樹脂を製造してもよいし、エマルジョン(A)に造膜助剤(B)を混合した後、乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等の方法を用いて目的とする植生用再乳化形粉末樹脂を製造してもよい。
ここで「噴霧乾燥」とは、いわゆる噴霧器を用いて分散液をスプレーし、適度のサイズの滴として、分散液を急速に乾燥させる方法をいう。
生産効率と生産コストの点から、噴霧乾燥を用いて植生用再乳化形粉末樹脂を、製造することが好ましい。
また、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と造膜助剤(B)がより均一に混合した植生用再乳化形粉末樹脂が得られるので、エマルジョン(A)に造膜助剤(B)を混合した後、一緒に噴霧乾燥して、製造することが特に好ましい。
【0030】
乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等による粉末樹脂の製造は、当業者であれば、一般的な製造条件を参考にして、製造条件を適宜修正することで行うことができる。噴霧乾燥の乾燥方法として、例えば、1.0〜8.0気圧の空気中で液滴の温度が80〜160℃になるようにノズルを通して噴霧乾燥する方法を例示することができ、4気圧の空気中で液滴の温度が125℃になるようにノズルを通して噴霧乾燥する方法がより好ましい。
【0031】
本発明においてビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)とは、一般的に「ビニル系合成樹脂のエマルジョン」とされるものであって、その樹脂のガラス転移点(Tg)が、20℃より高いものであれば、目的とする植生用再乳化形粉末樹脂を得られる限り特に制限されるものではない。
樹脂のTgは、示差熱の変化を測定することによって求められるが、具体的には、実施例にて詳細に説明する方法で測定される。
エマルジョン(A)の樹脂のTgは、25℃以上であることがより好ましく、25〜30℃であることが特に好ましい。
【0032】
エマルジョン(A)は、通常、ビニル系合成樹脂のエマルジョンが製造される方法を用いて製造することができるが、そのような製造方法として、例えば、水溶性高分子を保護コロイドとし、ビニル系単量体を重合する製造方法を例示することができる。
使用されるビニル系単量体として、例えば、酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル、バーサティック酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン及び塩化ビニル等を例示することができる。特に、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ブチルが好ましい。これらは、単独で又は組み合わせて用いることができる。酢酸ビニルが特に好ましい。植生用再乳化形粉末樹脂に用いるということを考慮すると、エマルジョン(A)として、生分解性に優れるポリ酢酸ビニルのエマルジョンを用いることが特に好ましいからである。
保護コロイドして用いる水溶性高分子として、一般的に保護コロイドとして用いられるものであって、目的とする植生用再乳化形粉末樹脂を得ることができる限り、特に制限されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、キサンタンガム等を例示できる。
【0033】
造膜助剤(B)は、「160℃〜280℃の沸点を有する液状の造膜助剤」であれば、目的とする植生用再乳化形粉末樹脂を得られる限り特に制限されるものではない。造膜助剤(B)は、植生用再乳化粉末樹脂の造膜性を改良するために配合される溶剤であり、沸点160〜280℃であることが好ましく、230〜280℃であることが特に好ましい。また、造膜助剤(B)は、凝固点が20℃以下であることが好ましい。
【0034】
造膜助剤(B)として、例えば、グリコールエーテル類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類等を例示することができる。
造膜助剤(B)として、グリコールエーテル類が好ましく、グリコールエーテル類として、例えば、具体的には、フェノキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等を例示できる。これらは、単独で又は組み合わせて使用できる。尚、造膜助剤(B)は常温常圧で液体であり、いわゆる粉末状の可塑剤(例えば、アルキルフェニルエーテル誘導体)とは別のものである。
【0035】
本明細書において「最低造膜温度」とは、樹脂が連続フィルムを形成するために必要な最低境界温度をいい、Protzmanらが考案した温度勾配板法により測定される温度をいう。測定方法として、勾配試験装置を使用し、JIS K6828−2(2003)に規定される合成樹脂エマルジョン−第2部の最低造膜温度の測定方法に、準じて測定する。特定の沸点を有する造膜助剤を含むことによって、本発明に係る植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度は5℃以下に調製され、0〜5℃に調製されることが好ましい。
【0036】
また、本発明に係る植生用再乳化形粉末樹脂は、ビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部(固形分換算)当たり、造膜助剤(B)3〜8重量部を含んで成ることが好ましい。造膜助剤の含有量が3重量部未満の場合、植生用再乳化形粉末樹脂は、最低造膜温度の低下が不十分と成り得るので、冬場に使用しにくいものとなる。造膜助剤の含有量が8重量部を超える場合、加えた量に応じたほどの効果は発揮されず、造膜助剤の無駄を生じ得る。
【0037】
本発明の好ましい実施形態として、植生用再乳化形粉末樹脂は、「pH調整剤(C)」を、更に含んで成ることが好ましい。
ここで「pH調整剤(C)」とは、植生用再乳化形粉末樹脂が再分散されてエマルジョンを形成した場合、エマルジョンのpHを、植生の発芽に好適なpHに調整するものをいう。
pH調整機能を有するものであって、本発明の目的とする植生用再乳化形粉末樹脂を得ることができるものであれば、pH調整剤として使用することができ、特に制限されるものではない。pH調整剤として、例えば、シリカ、クレー、ドロマイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、珪酸アルミニウム等を例示することができる。炭酸カルシウム及びドロマイトがより好ましい。また、pH調整剤(C)の形態は、粉末状の形態であることが好ましい。
【0038】
植生用再乳化形粉末樹脂は、pH調整剤(C)を含む場合、目的とする植生用再乳化形粉末樹脂が得られる限り、製造方法は特に制限されるものではない。そのような製造方法として、例えば、エマルジョン(A)を、乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥等することによって得ることができる再乳化形粉末樹脂に、造膜助剤(B)及びpH調整剤(C)を加える製造方法を例示することができる。更に、エマルジョン(A)及び造膜助剤(B)から得られる再乳化形粉末樹脂に、pH調整剤(C)を加える製造方法を例示することができる。また、エマルジョン(A)、造膜助剤(B)及びpH調整剤(C)を含む混合物から上記方法を用いて再乳化形粉末樹脂を得る製造方法も例示できる。エマルジョン(A)及び造膜助剤(B)から得られる再乳化形粉末樹脂に、pH調整剤(C)を加える製造方法がより好ましい。より具体的な製造方法として、上述した噴霧乾燥方法及びその噴霧乾燥条件を好適に使用することができる。
【0039】
pH調整剤(C)は、ビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)100重量部(固形分換算)当たり、0.5〜30重量部含まれることが好ましい。pH調整剤(C)の含有量が、0.5重量部未満の場合、植生用再乳化形粉末樹脂を含む植生用組成物を地表面に吹き付けても、地表面の発芽性が不十分と成り得る。またpH調整剤の含有量が30重量部を超える場合、植生用再乳化形粉末樹脂の造膜性が低下する、固着性が不十分と成り得る等の問題を生じ得る。
【0040】
植生用再乳化形粉末樹脂を、固形分の濃度が10重量%となるように水中に再分散した分散液のpHは、6〜9であることが好ましい。分散液のpHを6〜9とすることで、発芽性をより向上することができる。pHが6未満の場合及びpHが9を超える場合、発芽性が低下し得る。
【0041】
従って、本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、エマルジョン(A)を噴霧乾燥した後、pH調整剤(C)を混合することによって得られ、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部(固形分換算)当たり、pH調整剤(C)を0.5〜30重量部含む再乳化形粉末樹脂であって、固形分の濃度が10重量%となるように水中に再分散した分散液のpHが6〜9となることが、より好ましい。
更に、本発明の植生用再乳化形粉末樹脂は、エマルジョン(A)に造膜助剤(B)を加えて噴霧乾燥した後、pH調整剤(C)を混合することによって得られ、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部(固形分換算)当たり、造膜助剤(B)3〜8重量部及びpH調整剤(C)0.5〜30重量部を含む再乳化形粉末樹脂であって、固形分の濃度が10重量%となるように水中に再分散した分散液のpHが6〜9となることが、より好ましい。
【0042】
本発明に係る植生組成物は、上述した植生用再乳化形粉末樹脂を含んで成り、更に、通常植生用組成物に含まれるもの、例えば、種子又は根茎、植生基盤材及び化成肥料等を含んで成り、上述のもの、即ち、植生用再乳化形粉末樹脂、及び通常植生用組成物に含まれるもの、例えば、種子又は根茎、植生基盤材及び化成肥料等を均一に混合して得ることができる。
【0043】
植生用組成物は、上述の植生用再乳化形粉末樹脂を、組成物全体を100重量部として、0.01〜1重量部含むことが好ましい。含有量が0.01重量部未満の場合、得られる土壌の耐水性が不十分と成り得る。含有量が1重量部を超える場合、含有量を増やしたほどの効果を生じない。
【0044】
植生用組成物に含まれる「種子」又は「根茎」は、一般に、緑化工法に使用される種子又は根茎でよく、特に制限されるものではない。そのような「種子」又は「根茎」として、例えば、ケンタッキー31フェスタ、ウィピングラググラス、イタリアンライグラス、ホワイトクローバー、クリーピングレッドフェスタ、バミユダグラス、メドハギ、ヨモギ、ススキ、日本芝、ニセアカシア、ヤシャブシ、ヤマハギ等を例示することができる。
などである。
「種子」又は「根茎」の含有量は、使用する種子または根茎の種類により異なり、また植生用組成物を吹き付ける厚さによっても異なるので、適宜選択すべきものであるが、例えば、植生基盤材1m当たり、100g〜1Kgであることが好ましい。
【0045】
植生組成物に含まれる「植生基板材」とは、一般に、緑化工法に使用される植生基盤材でよく、通常、客土、バーク、ピートモス等から選んだ1または2以上の組み合わせをいう。「客土」として、例えば、74μフルイの通過量が30〜70%、礫の寸法は6mm以下、礫の量は5%以下で、植物の生育に有害な物質を含まない土壌を用いることが好ましい。通常植生用に配合される人工客土を用いることがより好ましい。
【0046】
「化成肥料」とは、通常、緑化工法に使用される化成肥料でよく、具体的には、例えば、硫安、硝安、尿素、石灰窒素及び緩効性窒素肥料等の窒素肥料;過燐酸石灰及び溶成燐肥等の燐酸肥料;塩化カリ及び硫酸カリ等のカリ肥料、及びそれらの複合肥料を例示することができる。化成肥料の含有量は、種子または根茎の種類及び量によって異なり、適宜選択することができるが、通常、植生基盤材1m当たり、1Kg〜20Kgであることが好ましい。
【0047】
本発明に係る「植生用組成物」は、必要に応じて各種添加剤を更に含んで成ることができる。各種添加剤は、通常、植生用組成物に用いられるものであれば、特に制限されることはないが、例えば、保温剤、強度向上剤、化成肥料以外の肥料及び保水剤等を例示することができる。「保温剤」として、例えば、バーミキュライト及びパーライト等を例示することができる。「強度向上剤」として、例えば、ロックウール、ガラス繊維及びセルロース繊維等を例示できる。「化成肥料以外の肥料」として、例えば、腐葉土及び油粕等を例示することができる。「保水剤」として、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等を例示することができる。
【0048】
本発明に係る上述の植生用組成物を、道路及び海岸等の傾斜面(又は地表面)等に吹き付けることで、緑化工法が行われる。緑化工法は、吹き付ける方法によって、一般に湿式と乾式の二種類に分類される。「湿式」の吹き付け方法では、植生用組成物に更に水を加えて泥状の植生用組成物とした後、例えば、ハイドロシーダー、小型のドラムシーダー及び背負い式のジェットシーダー等を用いて、傾斜面(表面)に吹き付けることで緑化工法が行われる。
【0049】
また、「乾式」の吹き付け方法では、均一に混合して得られる植生用組成物そのものを、例えば、モルタル吹き付け機等を用いて、傾斜面(地表面)等に吹き付けることで緑化工法が行われる。「乾式」の吹き付け方法を用いた場合、吹き付けた後に散水してもよいが、再乳化形粉末樹脂を再乳化するために、乾式で吹き付けをする際に悪影響を与えない程度の少量の水を加えた組成物を、上述の乾式の吹き付け方法を用いて吹き付けてもよい。尚、植生用組成物の各種添加剤として、水分を多量に含む添加剤、例えば、バーク堆肥及びピートモス等を用いた場合、それらの中に含まれる水分が、再乳化形粉末樹脂の再乳化に寄与するため、水を加えないで、乾式で緑化工法を行なうことができる。
【0050】
本発明に係る植生用組成物は、緑化を必要とする場所に一般的に用いられる。また、緑化を必要としない場所であっても美観、温暖化防止等の関係から緑化することが好ましい場所にも用いられる。本発明の植生用組成物は、特に(1)急な傾斜面、(2)種子を単に散布する方法を用いても、通常種子が生育しない程度にやせた土地又は岩盤が露出した土地、及び(3)緑化の難しい砂質の土地等を緑化するために特に好適である。
【実施例】
【0051】
(1)植生用再乳化形粉末樹脂の製造に使用した各成分を下記に示す。
(A)ガラス転移点が20℃より高いビニル系合成樹脂のエマルジョン
(a1)ポリ酢酸ビニルエマルジョン
温度制御装置を備えた2リットル反応容器中にて、水570gに65gのポリビニルアルコール(ケン化度:88%、4重量%水溶液の粘度:4mPa・s(20℃))を溶解させた後、重炭酸ナトリウムを用いてpHを7.5に調整した。この溶液を75℃に加熱後、70gの酢酸ビニルと0.5gのt−ブチルハイドロパーオキサイドを加えた、更に1分後に10重量%のロンガリット水溶液5gを加えた。30分間攪拌した後、500gの酢酸ビニルと4.8gのt−ブチルハイドロパーオキサイドと10重量%のロンガリット水溶液45gを、同時に3.5時間かけて連続的に加えながら攪拌した。添加を終了した後、更に75℃で2時間引き続き攪拌した。冷却後、固形分濃度50.3%、pH7.1の(a1)ポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
(a1)のガラス転移点は、(a1)を20℃で1週間乾燥して得られた厚さ約0.5mmの樹脂のフィルムについて、熱流速示差走査熱量計(島津製作所製のDSC−50型(商品名))を使用して、5℃/分の速度で昇温してDSC曲線を得ることで測定した。DSC曲線におけるベースラインの接線とガラス転移による吸熱領域の急峻な下降位置の接線との交点をTgとした。(a1)のTgは、28℃であった。
【0052】
(a2)ポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル(6/4))エマルジョン
上述した(a1)の製造の際に、(70g+500g)の酢酸ビニルの代わりに、メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル=340g/230gを使用した以外は、同様の方法を用いて、(a2)ポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル(6/4))エマルジョンを得た。更に、(a2)のTgは、(a1)と同様にして測定して、23℃であった。
【0053】
比較のために、(A)’ガラス転移点が20℃以下のビニル系合成樹脂のエマルジョンも準備した。
(a3)’Tgが10℃のポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル(5/5))エマルジョン
製造は、上述した(a1)の製造の際に、(70g+500g)の酢酸ビニルの代わりに、メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル=285g/285gを使用した以外は、同様の方法を用いて、(a2)’ポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル(5/5))エマルジョンを得た。更に、(a2)’のTgは、(a1)と同様にして測定して、10℃であった。
【0054】
(B)沸点が160℃〜280℃の液体の造膜助剤
(b1)フェノキシエタノール(沸点:245℃、凝固点:14℃)
(b2)プロピレングリコールn−ブチルエーテル
(沸点:170℃、凝固点:−80℃)
【0055】
比較のために、(B)’沸点が160℃〜280℃の範囲に入らない常温で液体又は固体も準備した。
(b3)’フタル酸ジブチル(沸点:340℃、凝固点:−35℃)
(b4)’エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:135℃、−70℃)
(b5)’ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル
(沸点>280℃、凝固点:46℃)
【0056】
(C)pH調整剤
(c1)炭酸カルシウム
(c1)ドロマイト
【0057】
(2)植生用再乳化形粉末樹脂の製造
実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
(a1)ポリ酢酸ビニルエマルジョン100重量部(固形分換算)当たり、4重量部の(b1)フェノキシエタノールを加え、均一に攪拌した後、4気圧の空気中で液滴の温度が125℃になるようにノズルを通して噴霧乾燥した。その後、10重量部の(c1)炭酸カルシウムを更に加えることによって、実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。
【0058】
実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度は、下記の様に行った。まず、植生用再乳化形粉末樹脂の濃度が50%となるように水に分散したエマルジョンを準備した。その後、熱勾配試験装置(理学工業製の900L型(商品名))を使用して、JIS K6828−2(2003)の合成樹脂エマルジョン−第2部に記載された最低造膜温度の測定方法に準拠して、このエマルジョンの最低造膜温度を測定した。最低造膜温度は、4℃であった。
【0059】
実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の10重量%の水分散液のpHは、植生用再乳化形粉末樹脂を濃度が10重量%となるように、水に分散したエマルジョンを準備し、pHメーター(堀場製作所製のHORIBA pH Meter F−13(商品名))を使用して、そのエマルジョンのpHを測定した。pHは、7.4であった。
【0060】
実施例2の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(b1)フェノキシエタノールの代わりに、(b2)プロピレングリコールn−ブチルエーテルを用いた以外は、同様の方法を用いて、実施例2の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。実施例2の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々4℃と7.5であった。
【0061】
実施例3の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(c1)炭酸カルシウムの代わりに、(c2)ドロマイトを用いた以外は、同様の方法を用いて、実施例3の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。実施例3の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々3℃と7.1であった。
【0062】
実施例4の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(a1)ポリ酢酸ビニルエマルジョンの代わりに、(a2)ポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル(6/4))エマルジョンを用いた以外は、同様の方法を用いて、実施例4の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。実施例4の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々2℃と7.0であった。
【0063】
実施例5の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(c1)炭酸カルシウムを用いなかった以外は、同様の方法を用いて、実施例5の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。実施例5の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々3℃と5.1であった。
【0064】
比較例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(b1)フェノキシエタノールの代わりに、(b3)’フタル酸ジブチルを用いた以外は、同様の方法を用いて、比較例1の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。比較例1の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々0℃と7.2であった。
【0065】
比較例2の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(b1)フェノキシエタノールの代わりに、(b4)’エチレングリコールモノエチルエーテルを用いた以外は、同様の方法を用いて、比較例2の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。比較例2の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々13℃と7.1であった。
【0066】
比較例3の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(b1)フェノキシエタノールを用いなかった以外は、同様の方法を用いて、比較例3の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。比較例3の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々18℃と7.3であった。
【0067】
比較例4の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(b1)フェノキシエタノールの代わりに、(b5)’ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルを用いた以外は、同様の方法を用いて、比較例4の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。比較例4の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々5℃と7.3であった。
【0068】
比較例5の植生用再乳化形粉末樹脂の製造
上述した実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の製造において、(a1)ポリ酢酸ビニルエマルジョンの代わりに、(a3)’ポリ(メタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル(5/5))エマルジョンを用いた以外は、同様の方法を用いて、比較例5の植生用再乳化形粉末樹脂を得た。比較例5の植生用再乳化形粉末樹脂の最低造膜温度及び10重量%の水分散液のpHは、上述した方法と同様の方法を用いて測定して、各々0℃と6.9であった。
【0069】
(3)植生用再乳化形粉末樹脂の評価
(i)発芽性の評価
100重量部当たりの花と野菜の土に、1.0重量部の実施例1の再乳化形粉末樹脂を配合して得た土壌を、100mlの容器に入れた後、20粒のトールフェスクを、土壌に散布した。毎日夕方に5mlの水を与えて、トールフェスクの発芽状況(発芽数)の経時変化を目視にて観察した。トールフェスクの発芽率が9〜10割の場合を◎とし、発芽率が8〜9割の場合を○とし、発芽率が8割以下の場合を△とした。実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂は◎であった。他の植生用再乳化形粉末樹脂も同様にして評価した。結果は、表1に示した。
【0070】
(ii)低温造膜性
実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の濃度が50重量%の水分散液を作製した。この分散液を、5℃において、10×10cmのポリエチレン板の上に、湿潤状態で1mmの厚さで塗布した後、3日間乾燥した。得られた膜の造膜状態(例えば、クラックの有無等)を目視にて観察した。膜の状態が良好であり、クラックが無い場合を○とし、膜の状態が不良であり、クラックが有る場合を×とした。実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂は○であった。他の植生用再乳化形粉末樹脂も同様にして評価した。結果は、表1に示した。
【0071】
(iii)樹脂フィルムの耐水性
実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂の濃度が50重量%の水分散液を作製した。この分散液を、室温において、ガラス板の上に、湿潤状態で0.25mmの厚さで、約100cmの面積に塗布した後、1日間室温で乾燥した。その後、得られたフィルムを20℃の水中に1日間浸漬し、浸漬の前後のフィルムの重量を用いる下記式(I)に基づいて、溶出率を算出して、耐水性を評価した。
(式I)溶出率=(W1−W2)×100/W1
W1:浸漬前のフィルムの重量
W2:浸漬後のフィルムの重量
溶出率が0〜25%の場合、耐水性は○とし、溶出率が25%以上の場合、耐水性は×とした。実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂は○であった。他の植生用再乳化形粉末樹脂も同様にして評価した。結果は、表1に示した。
【0072】
(iv)土の固着性
100重量部の花と野菜の土(30メッシュの篩を通過した部分)に、20重量部の実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂を混合して得た土壌に、0.1重量部の消泡剤と50重量部の水を加えて攪拌した後、約2mmの厚さのフィルムを作製した。フィルムをダンベル2号型を用いて打ち抜いて得られた試料の引張り強伸度を、インストロン(INSTRON社製のModel 5595(商品名))を用いて、引っ張り速度20mm/minの条件で測定した。引張り強伸度が、2.2N/mm以上の場合、土の固着性は◎とし、引張り強伸度が1.8〜2.2N/mmの場合、土の固着性は○とし、引張り強伸度が0.3〜1.8N/mmの場合、土の固着性は△とし、引張り強伸度が0.3N/mm以下の場合、土の固着性は×とした。実施例1の植生用再乳化形粉末樹脂は◎であった。他の植生用再乳化形粉末樹脂も同様にして評価した。結果は、表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例と比較例を比べることにより、エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂と、造膜助剤(B)を必須成分として含むことによって、低温造膜性と固着性が改良されることが理解される。更に、pH調整剤(C)を含むことによって、発芽性も改良され、総合的に優れた植生用再分散性樹脂が得られることが理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移点が20℃より高いビニル系合成樹脂のエマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂及び、
160℃〜280℃の沸点を有する液状の造膜助剤(B)
を含んで成り、
最低造膜温度が5℃以下であることを特徴とする植生用再乳化形粉末樹脂。
【請求項2】
エマルジョン(A)に造膜助剤(B)を混合後、噴霧乾燥することによって得られることを特徴とする請求項1に記載の植生用再乳化形粉末樹脂。
【請求項3】
造膜助剤(B)は、グリコールエーテル類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の植生用再乳化形粉末樹脂。
【請求項4】
グリコールエーテル類は、フェノキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル及びジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項3に記載の植生用再乳化形粉末樹脂。
【請求項5】
エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部当たり、造膜助剤(B)を3〜8重量部含んで成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の植生用再乳化形粉末樹脂。
【請求項6】
pH調整剤(C)を、更に含んで成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の植生用再乳化形粉末樹脂。
【請求項7】
エマルジョン(A)を噴霧乾燥した後、pH調整剤(C)を混合することによって得られ、
エマルジョン(A)から、その媒体が除去されることで得られる粉末樹脂100重量部当たり、pH調整剤(C)を0.5〜30重量部含んで成る植生用再乳化形粉末樹脂であって、
固形分の濃度が10重量%となるように水中に再分散して得られる分散液のpHが6〜9となることを特徴とする請求項6に記載の植生用再乳化形粉末樹脂。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の植生用再乳化形粉末樹脂を含む植生用組成物。

【公開番号】特開2006−36851(P2006−36851A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216019(P2004−216019)
【出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(397020537)日本エヌエスシー株式会社 (13)
【Fターム(参考)】