椎間円板プロテーゼ
椎間円板の髄核を置換するための人工器官インプラントは、断面が円板状でそれぞれ前後径が横方向径よりも小さい、上側と下側の端部壁と、上側端部壁と下側端部壁の周縁を接続し、実質的に非圧縮性液体または柔軟なプラスチック材料で満たされた内室を包囲する砂時計形の側壁とを有する。人体の椎間円板全体を置換するための総プロテーゼは、中心キャビティを包囲する第2の生体適合性ポリマーからなる輪状コアと、輪状コアの上面と下面に固定され、第1の生体適合性ポリマーの弾性率より大きい弾性率を有する第2の生体適合性材料からなる移行板と、隣接する脊椎と接触するようになされ、かつそれぞれ上側および下側移行板に固定される上側および下側終板とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
−他の出願との関係−
本願は2003年7月17日出願の米国特許出願第60/487,605号、2003年11月26日出願の米国特許出願第60/524,902号および2004年2月18日出願の米国特許第10/779,873号に基づく優先権を主張するものであり、これら出願は引用により本願に援用する。
【0002】
本発明は人体脊椎の構造を置換するプロテーゼ(prosthesis: 人工器官)に関するものであり、より詳しくは椎間板および/または髄核を置換するプロテーゼに関するものである。
【背景技術】
【0003】
腰部の痛みはごくありふれた疾患であるが、様々な病的症状の原因となり、また仕事の時間を奪う元ともなる。腰痛の罹患率は非常に高く、場合によっては全人口のおよそ80%に及ぶ。大部分の患者は苦痛となる症状を時折感じるのみで完全に回復するが、患者のおよそ10%は、様々な医療を施しても慢性的に続き、生活に支障を生じさせる腰痛に悩んでいる。
【0004】
慢性的で生活に支障を生じさせる腰痛のもっともよくある原因は変性円板疾患(DDD:Degenerated Disk Disease)である。非外科的治療の効果の見られない慢性的で生活に支障を生じさせる腰痛に対しては、脊椎固定術が効果的な治療方法であった。米国において、毎年およそ35万件の脊椎固定術が行われていると推定されている。脊椎固定術は(すべての脊椎固定術の51%)は、DDDの様々な段階(内的な椎間板ずれ(internal disk derangement)、椎間板ヘルニア、椎間板性の不安定(discogenic instability)、および脊椎狭窄)に起因する慢性的な腰痛に対して指示されることとが最も一般的である。近年になって初めて、椎間板に起因する痛みの治療として、椎間円板の置換や髄核の置換の新たな技法が誕生した。
【0005】
脊椎固定術は、DDDにより引き起こされる腰痛の標準的な外科治療であるが、これには以下のような問題がある。
【0006】
a) 固定術は成功するとは限らない。様々な新しい技法や器具が開発されているにもかかわらず、固定術の成功率はほとんど一定で、平均85%に留まる。更に、脊椎固定術の予後の臨床的成功率は、過去2、30年で平均75%に留まる。
【0007】
b) 脊椎固定術の術後の療養期間は平均15ヶ月である。
【0008】
c) 脊椎固定術は固定を施した脊椎運動分節の運動および衝撃吸収機能を失わせる。このことが、固定(fusion)に隣接した脊椎運動分節の変性を加速する原因となっている。脊椎固定術と同等以上の結果をもたらすために、以下に詳細に説明するように様々なタイプの椎間板プロテーゼが開発されており、いくつかのものは人体において臨床的に試みられている。
【0009】
−椎間円板の解剖学的構造と生体力学
椎間円板は複雑な関節であり、3つの明確に区別される部位を有する、即ち椎体終板と髄核と線維輪である。椎間円板は重量を支持する関節であり、1つの椎体から別の椎体に荷重を伝達する。椎間円板は脊柱において主要な安定化構造であり、同時に3つの直交面内の運動を許容する。矢状面における運動(屈曲/伸展)が最大である(8°乃至15°)。冠状面内の運動(横曲げ)および水平面における運動(ねじり)はそれよりも小さい。椎間円板はその粘弾性により衝撃吸収機能も有する。
【0010】
椎間円板の荷重支持機能は、体液で満たされた非圧縮性の髄核を介しての「フープ応力(hoop stress)」によって圧縮負荷を椎体終板から線維輪へと伝達することにより果たされる。その非圧縮性により変形しない髄核が、この荷重伝達メカニズムの鍵であり、椎間円板の高さ維持の鍵でもある。髄核は運動時の回転の中心として機能する。この回転中心は固定されたものではなく、瞬間的な回転中心である。屈曲時には後方に移動し、伸展時には前方に移動する。髄核は通常椎間円板断面積の20%乃至40%を占め、これは年齢が進むにつれて、また変性状態になると拡大する。髄核は大まかに配置されたII型コラーゲンとプロテオグリカンからなる。若く健康な椎間円板の髄核は重量にしておよそ80%の水を含むが、水含有量は年齢が進むにつれて、また変性と共に減少する。線維輪を介しての「フープ応力」により髄核が荷重伝達媒体として機能するためには、このように高い水含有量を維持することが必須である。正常な椎間円板の髄核は球形でも卵形でもない。解剖学的断面、MRIおよび椎間板造影は、核キャビティ(nucleus cavity)が2つの室からなり(上室と下室)、これら2室は前後方向、内側外側方向の両方において中間の「砂時計」形の首部により連結されていることを、はっきりと示している(図4参照)。
【0011】
線維輪は椎間円板の重量支持および安定化機能において最も重要な構造である。線維輪は8層乃至12層の積層されたコラーゲン線維からなり、コラーゲンの大部分はI型であって、終板に対して+/−30°の角度をなしている。線維輪の厚さは円板内の部位の違いにより変化する。前側でより厚くなり、後側でより薄くなる。線維輪の断面積は、椎体終板に近い線維輪の上端および下端よりも、中間の高さにおいてより大きくなっており、「亜鈴(ダンベル)」あるいは「砂時計」形の断面プロファイルを有するキャビティを形成している(図4参照)。線維輪の壁はその中間高さ部において椎体終板付近よりも厚くなっており、特に椎間円板の前側領域において厚くなっている。従って、髄核は多くの解剖学書にそう描かれ、また椎間円板プロテーゼや髄核プロテーゼのほとんどの従来設計がそうであるような球形あるいは卵形ではない。髄核の「亜鈴」あるいは「砂時計」形状と、それと相補的な線維輪の形状との関係は、おそらく椎間円板の応力伝達および運動パターンにおいて重要な役割を演じている。正常な椎間円板の圧縮曲げ時において、線維輪は外側のみならず内側にも膨出する。変性した円板では、髄核の「砂時計」構造と、それと相補的な線維輪のキャビティとの関係は消失する。
【0012】
椎体終板との接触面における髄核の比較的大きな断面積は、椎体終板の損傷を防止する広い応力分布をもたらすために必須のものである。椎間円板と椎体終板との間の接触面積および負荷加重および骨ミネラル濃度は、椎体終板の損傷(沈下)に関する鍵となる要素である。任意の患者において、負荷荷重(体重)と骨ミネラル濃度は一定であるが、接触面積はプロテーゼの設計によって変化する。
【0013】
線維輪および髄核の上述の特徴的な解剖学的構成により、屈曲時において、線維輪の前柱は圧縮−屈曲荷重の下で外側および内側に曲がり、線維輪の後柱はあまり外側に膨出することなく伸張される。核キャビティ内に球形または卵形のプロテーゼが設置されていると、全く異なった振る舞いをする。圧縮時に、応力は等方性の液体または物質で満たされた球形または卵形のキャビティの周りに均等に分布する。これにより、終板とプロテーゼとの間の小さな接触面における応力集中が生ずる。圧縮−屈曲時に、線維輪の前柱はプロテーゼを後側に押す力を生じさせ、後側壁の過度の膨出あるいはプロテーゼの突出を引き起こす。髄核の「砂時計」形状およびそれと相補的な線維輪の形状は、脊椎運動分節の運動の全域において髄核を椎間円板内で安定化させることを助ける。
【0014】
−椎体終板−
椎体終板は濃縮された海綿骨の非常に薄い層(骨性終板)と軟骨層(軟骨終板)とからなる。椎体終板は重量を支持する、椎体と椎間円板との間の移行構造である。終板は椎骨と椎間円板間での液体と栄養分の重要な通路である。解剖学者、生体力学者、臨床家、外科医などの科学者達は、椎体終板の形態学、即ち形状と外形、およびその臨床的な意義について関心を持っていない。従って、終板やそれに関連する構造の生体力学や臨床的な観点からの重要性は、あまり理解されていない。
【0015】
椎体終板および周辺骨の異常な変化は、変性円板疾患において頻繁に見られる。椎体終板の実際の損傷(圧縮/破裂骨折)は外傷において見られる。骨移植片や椎間固定器具や椎間円板プロテーゼの終板を介しての椎骨への沈下は、腰仙椎の再建手術において度々報告される問題である。沈下、硬化症、骨髄浮腫、外形変化といった問題は、椎骨と椎間円板間の異常な応力パターンによるものである。
−椎間円板プロテーゼ−
【0016】
人工椎間円板プロテーゼは大きく2つのタイプに分けられる、即ち総円板プロテーゼ(total disc prosthesis)と核プロテーゼ(nucleus prosthesis)である。総円板プロテーゼは椎間円板全体を置換するものであるのに対し、核プロテーゼは髄核のみを置換する。
【0017】
各プロテーゼは変性した椎間円板の生体力学を復元するために、椎間円板の各部分のみを置換するように設計されている。核プロテーゼにはいくつかの異なるタイプの設計がある。そのいくつかは人体に対して臨床的なテストが行われており、重大な問題が見つかっている。即ち例えば、突出および/または移動および/または沈下および/または椎体終板の好ましくない変化などである。核プロテーゼには外科的にインプラントするために線維輪の多くの部分の切除を必要とするものもある。これは更なる椎間円板の不安定化を引き起こす。これは核プロテーゼが特に線維輪の機能回復を目的として設計されているわけではないからである。ほとんどの核プロテーゼは、髄核の損傷が全くないか最小限の損傷しかない椎間円板変性の初期段階のものに指示されるものである。現在の核プロテーゼ設計は、核キャビティ内の非圧縮性の静水圧の生体力学的効果を再現するために、3つの異なるアプローチを用いている。1つのアプローチは1つ以上のキャビティ(バルーンやブラダ(嚢袋)など)を用いるものであり、該キャビティを健康な組織への損傷を最小限にする外科的手法を用いて椎間円板内に設置した後、流体や気体などの注入可能な物質で満たして膨張させる。別のアプローチでは、脱水したあるいは部分的に脱水した親水性の物質をバルーン即ち強靱なジャケットに入れて、開放外科処置(open surgical exposure)により髄核キャビティ内にインプラントし、そこで水分を供給する。また別のアプローチでは、重合可能な生体材料を髄核キャビティ内に注入し、そこで適切な形状に重合させる。
【0018】
しかしこれらの従来技術設計は問題がある。球形または卵形の設計では、プロテーゼと椎体終板との間の接触面積が比較的小さくなりがちであり、それにより応力集中および/または沈下および/または終板反応(endplate reaction)を生じさせる。球形バルーンプロテーゼは屈曲時に椎間円板壁の後方膨出を引き起こす場合があり、それにより後側線維輪に異常な応力を発生させ、突出や移動を起こしやすくする可能性がある。従って、これらの設計は、線維輪に損傷が全くないか、あるいは最小限の線維輪損傷しかないような椎間円板に対してのみ指示される。
【0019】
椎間円板プロテーゼの別の設計は「カプセル」プロテーゼである。このようなプロテーゼは多少の線維輪の損傷を含む広い範囲の椎間円板変性に対して指示される。しかし、このタイプの器具をインプラントする外科的な処置は線維輪の更なる損傷を生じさせ、また椎間円板内における安定性がよくない。更に、このようなプロテーゼは天然の椎間円板の生体力学を復元しない。このようなプロテーゼは十分な接触面積を持たず、終板内で沈下や術後の変化を引き起こし、回転中心や瞬間的な回転軸が正常な場合と極めて異なっているために、生理に合わない運動パターンを生じさせる傾向がある。
【0020】
流体、気体または生体材料を膨張可能な核プロテーゼに導入した場合には別の問題が起こる。このような物質は本来的に等方的に機能する。ある一点に加わった圧力は該物質の他の部分にも等しく作用する。一般にこの装置を膨張させると、椎体終板に接触するのは小さな表面積のみであり、そのため応力集中が起こる。更に、このような装置の壁は後輪裂(posterior annular fissure)のような抵抗の最も小さい所に向かって膨出する傾向を持つ。
【0021】
従って、これまで入手可能なプロテーゼの短所を持たない椎間円板プロテーゼが、引き続き必要とされている。
【発明の開示】
【0022】
椎間円板の髄核を置換するための人工器官インプラントは、
断面が円板状でそれぞれ前後方向径が横方向径よりも小さい、上側と下側の端部壁と、
上側端部壁と下側端部壁の周縁を接続し、実質的に非圧縮性液体または柔軟なプラスチック材料で満たされた内室を包囲する砂時計形の側壁とを有する。
【0023】
人体の椎間円板全体を置換するための総プロテーゼは、
中心キャビティを包囲し、上面と下面と側面とを有し、第1の生体適合性材料からなり、天然の椎間円板の髄核を近似する形状および大きさを有する輪状コアであって、該第1の生体適合性材料は天然の人体椎間円板の線維輪の弾性率に近い弾性率を有するエラストマーである輪状コアと、
輪状コアの上面および下面にそれぞれ固定される上側および下側移行板であって、第1の生体適合性ポリマーよりも大きなデュロメーター硬度を有する第2の生体適合性材料からなる上側および下側移行板と、
隣接する脊椎と接触するようになされ、かつそれぞれ上側および下側移行板に固定される上側および下側終板と、を有する。
【0024】
このように、本発明の1つの目的は、人体の椎間円板を置換するプロテーゼを提供することである。
【0025】
更なる目的は、人体の椎間板を置換するプロテーゼであって、人体の椎間円板の構造と機能に正確に対応するプロテーゼを提供することである。
【0026】
また別の目的は、髄核を置換する構造を含む、人体の椎間円板を置換するプロテーゼを提供することである。
【0027】
また別の目的は、髄核を置換する砂時計形の構造を含む、人体の椎間円板を置換するプロテーゼを提供することである。
【0028】
また別の目的は、人体の椎間円板の髄核を置換するプロテーゼを提供することである。
【0029】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、天然の髄核を模倣する形状と機能を有するプロテーゼを提供することである。
【0030】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、天然の髄核に似た砂時計形の形状を有するプロテーゼを提供することである。
【0031】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、健康な組織の損傷を最小限にする外科的技法によりインプラントすることのできるプロテーゼを提供することである。
【0032】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、健康な組織の損傷を最小限にする外科的技法により挿入するために折り畳み可能であり、インプラント後に膨張可能なプロテーゼを提供することである。
【0033】
本発明のその他の目的は以下の本発明の説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は人体の椎間板の髄核を置換するプロテーゼ、および椎間板全体を置換するプロテーゼを含む。
【0035】
図1A乃至1Dは、2つの椎骨100の間に位置する天然の椎間円板120を、断面において示している。図1Aは脊椎の脊柱が中立的な位置にあるときの椎間円板120の構成を示す。図1Bは椎間円板の拡大断面図であり、天然の線維輪116に取り巻かれた天然の髄核122を示している。天然の線維輪の内側に張り出した内壁124によって形成される、天然の髄核の砂時計形状を見て取ることができる。図1Cは脊椎が屈曲し、線維輪116の前縁を圧縮し、内壁124を内方に張り出させ、線維輪116の後縁が伸張したときの椎間板の構成を示している。その結果、図に示されるように、回転中心は後方に移動する。逆に図1Dに示すように脊椎が伸展しているときには、線維輪116の後縁が圧縮され、前縁が伸張されて、回転中心は前方に移動する。
【0036】
線維輪116の内壁の形状および線維輪内の髄核の砂時計形状は、図4に示す天然の椎間板の椎間板造影画像に示されている。この画像では適切な造影剤を用いてX線により構造を可視化している。
−髄核プロテーゼ−
【0037】
本発明の髄核プロテーゼは、病変のあるあるいは変性した天然の髄核を除去した後にそれを置換するための、および椎間円板の最小限ないしある程度損傷した線維輪を部分的に置換するための体内プロテーゼである。この装置は天然の軟骨椎体終板と関節結合するよう設計されている。装置は薄い可撓性の壁を有し、該壁の形状は天然の髄核の形状を模倣し、かつ液体や気体または柔軟な合成ポリマーを満たすことのできる中空キャビティを取り囲み、天然の髄核の粘弾性的な動作を模倣するようになされている。この装置は、膨張させると所定の形状と外形を有する膨張可能なバルーンと考えることができる。装置は3つの要素を含む、即ち2つの終板部および「亜鈴」または「砂時計」形状の中間部である。装置は完全に膨張させた状態でインプラントしてもよいし、折り畳んだ(つぶれた)状態でインプラントし、インプラント後に膨張させてもよい。2つの横安定化コード(紐)を設けてもよい。これらのコードの1つは膨張のための核プロテーゼキャビティへのアクセス路として設けてもよい。
【0038】
髄核プロテーゼを完全に膨張させると、終板部(上側および下側)は概ね同等の形状となり、それぞれ椎骨側で凸となるドーム形状を有し、接触するホスト椎体終板に倣うように構成されている。下側終板の最大深さの平均は約2.0mmであり、上側終板の最大深さの平均はおよそ約1.2mm(一般的に0.6mm乃至1.5mm)である。このプロテーゼの終板部は典型的には中間の側壁よりも厚い層またはデュロメータ硬度のより高い生体材料からなる。また、終板を繊維補強してもよい。好適には終板部は中間部の側壁よりも硬くしプロテーゼを膨張させたときにドーム形の外形を所定の程度維持するようにする。断面あるいは平面図において、髄核プロテーゼの終板は「ディスク(円板)状の」形状を示す。終板ディスクの接触領域、即ち椎体終板との接触領域の大きさは、典型的には椎体終板断面積の約30%乃至60%である。個々の患者におけるこの装置の終板部の接触面積は、ホスト椎骨の大きさと核/円板の変性程度によって決められる。一般的に、変性のひどい椎間円板ほど大きくする。従来の髄核を置換する球形または卵形のプロテーゼとは異なり、本発明の髄核プロテーゼは幅広い範囲の終板接触面積を提供することができ、椎間板変性の様々な段階に対応できる。椎間円板の変性の程度が進むにつれて核キャビティが大きくなり、線維輪の重量支持能力は低下する。核キャビティ内にプロテーゼを設置したとき、プロテーゼ終板の凸部の最大深さは椎体終板の前後方向(A-P:antero-posterior)寸法において後側60%の位置にある。ドームの頂上即ち頂点は中−横方向(M-L: medial-lateral)寸法の中央に位置する。
【0039】
中間部は砂時計形とし、線維輪の正常な解剖学的構造に適応し、かつ曲げに際して側壁の過度の張り出しを防止するようにする。砂時計部の壁厚は壁の横部の前側と後側で変化させて所望の形状と外形とすることができる。中間部のこの構成は、運動に際して正常な椎間円板の場合と同様に線維輪が内方に張り出すことを許容する。中間部のこの外形はまた、圧縮荷重の下での屈曲−伸展および横曲げ時に、プロテーゼの砂時計形の外形と線維輪(中央部でより大きい厚みを有する)の相補的な形状(花瓶形とも表現される)とが組み合うことにより、核プロテーゼを安定化させる。装置はキャビティを膨張させるために取り付けられたバルブ機構を有する。バルブからの延長チューブを、線維輪壁を介して円板の外部へと導いてアクセスを容易にしてもよい。片側に1つずつ、2つのチューブを用いてもよい。これらのチューブは、外側端部を椎間円板の外壁に固定した際に、プロテーゼを椎間円板内で安定化する構造として機能させることができる。
【0040】
終板部の形状および「砂時計」形の中間部は、好適には厚さおよび/または硬度の異なる弾性ポリマー、例えばポリカーボネイト−熱可塑性ポリウレタン混合物などで構成してよい。
【0041】
この装置は好適には折り畳み可能で、チューブ状に丸めて後−横線維輪の鈍的な孔(blunt hole)を通して挿入することができる。核キャビティ内にインプラントした後、流体即ち生体適合性のポリマーによって膨張させ、所期の形状および外形とする。所期の形状および外形は、装置の異なる部位において様々な厚さ、硬度あるいは剛性を有する生体適合性のポリマーによって装置をモールドすることによって実現する。圧縮曲げおよび軸方向荷重の下での装置の変形特性は、装置の様々な部位で剛性を変えることにより制御することができる。
【0042】
髄核プロテーゼはシリアルカニューレ(serial cannulas)を介した、あるいは健康な組織の損傷を最小限に抑えた外科的な手法による径皮的な方法を用いてインプラントすることができる。椎間円板の後−横部を介して挿入される径を次第に大きくした一連のプローブおよびカニューレによって輪孔を拡張した後に、核キャビティ内にバイポータルスコープ(bi-portal scope)を導入してもよい。上側および下側核キャビティから変性/損傷した物質を取り除き、線維輪の中間部はそのままとする。髄核プロテーゼ装置をカニューレを介して導入し、その後生体適合性の流体、即ち適切な生体適合性粘弾性ポリマー物質によって膨張させる。1つ以上の非吸収性の保持縫合線、コード、チューブなどにより髄核プロテーゼを更に安定化してもよい。これらを装置に取り付け、かつ椎間円板外部に取り出して、椎間円板外部の例えば骨や適切な軟組織などの構造に留める。好適にはこのような縫合線を髄核プロテーゼの各側に1本ずつで2本用いる。このような安定化要素の1つ以上を、それを介して髄核プロテーゼを膨張させるチューブとすることもできる。
【0043】
髄核プロテーゼの好適な実施形態は、残存する天然の線維輪と髄核プロテーゼによって構成される椎間円板であれ、椎間板全体を置換する人工線維輪によって構成される椎間円板であれ、椎間円板全体をできる限り自然に機能させるように設計されている。
【0044】
従って、本発明の髄核プロテーゼは、それが完全に膨張せられたときに、天然の髄核の形状および外形に合う形状および外形を有するように設計されている。これはプロテーゼの異なる部位を異なる粘弾性を有するように構成することによって実現される。例えば、以下により詳細に説明するように、プロテーゼの異なる領域を、装置の異なる部位、例えば壁の異なる部分のための異なる厚さまたは硬度の物質でモールドすることができる。
【0045】
髄核プロテーゼの頂部および底部板は、好適にはそれらが接触する椎体終板の外形にできる限り忠実に倣う外形とする。そのように設計することにより、髄核プロテーゼと椎体終板との間の接触面積を可能な限りで最大とすることができ、それによって界面における応力集中を最小化し、プロテーゼの沈下を最大限に防止する。
【0046】
終板は横断面において円盤状の形状であり、好適にはそれが接触する脊椎面と一致する形状および外形を有するようにモールドする。特に、好適には接合相手の椎体終板に合うように、様々なサイズの髄核プロテーゼの終板を準備する。プロテーゼ終板の典型的なサイズは、接合相手の椎体終板の断面積の30乃至60%とである。しかし外科的に修復された椎間円板内で十分な生体力学特性を実現するために必要で有れば、それよりも大きくしてもよい。より大きなサイズのプロテーゼ終板は、核キャビティがより大きくかつ線維輪の損傷がより大きい、より進行した椎間円板変性に対して指示される。このような場合、損傷したおよび/または変性した線維輪の重量支持能力は低下しているので、椎体終板の破損を防止するために椎体終板とプロテーゼ終板との間の接触面積を相対的により大きくする必要がある。
【0047】
好適には、髄核プロテーゼの終板は終板を連結する壁よりも高い剛性をもたせる。これはたとえば、厚みをより厚くすることにより、より硬いプラスチック材料、即ちより大きなデュロメータ硬度を有する材料を用いることにより、あるいは繊維で補強することなどにより実現する。より好適には、プロテーゼ終板に、圧縮負荷あるいは圧縮−曲げ負荷が加わった際にプロテーゼと椎体終板の界面の応力分布を一様にするのに十分な剛性をもたせる。
【0048】
好適には、各髄核プロテーゼ終板は接合相手の椎体終板の対応する外形に適合する外形を有する。典型的には髄核プロテーゼ終板の椎体終板へ向かう凸形状の深さは、上側終板で平均1.2mm(約0.7mm乃至約1.5mmの範囲)、下側終板で平均2.0mm(約1.5mm乃至約2.5mmの範囲)である。凸形状の最大深部はおよそ左右寸法の中央、かつ前縁から後方に向かって前後方向寸法の約60%の所に位置する。熟練した者であれば理解するように、特定のプロテーゼの特定の寸法は、プロテーゼを用いる患者の椎間板に最もよく適合するように、適宜変更される。
【0049】
髄核プロテーゼの中間部は、正常な椎間円板の生体力学をできる限り忠実に復元するように設計された、特徴的な「亜鈴」または「砂時計」形状を有している。この点において、本発明のプロテーゼは、従来公知の設計よりも、正常な機能をより忠実に近似していると考えられる。この砂時計形状はまた、円板内でプロテーゼを安定させ移動や突出を防止している。好適には、中間部の側壁の凹み(くびれ)を、前側、後側、横側の壁でそれぞれ異なるようになす。横壁の凹みは前壁の凹みより小さい。従って、前壁と後壁は曲げに際して横壁よりも変形する傾向を有する。これは脊椎は特定の脊椎分節において、横曲げよりも屈曲/伸展の方が広い運動範囲を持つからである。更に、線維輪の前壁は後壁よりもかなり厚いので、圧縮−屈曲に際してより多くの移動空間を必要とする。
【0050】
本発明の髄核プロテーゼは、健康な組織の損傷を最小限とする外科的手法によるインプラントを可能にするように、好適に折り畳み可能である。椎間円板キャビティ内にインプラント後、このような折り畳み可能なプロテーゼに充填物質を注入して膨張させる。充填物質は例えば、液体や流体物質、流体状態の重合可能なあるいは硬化可能な物質、合成ヒアルロン酸、等である。充填剤は従来のいかなる手法により導入してもよい、即ち例えばシリンジおよびニードルその他のカニューレを用いて、あるいはプロテーゼの横壁に取り付けられ、プロテーゼの充填完了後にバルブ機構またはその場での生体材料シーリングによりシールされる1つ以上の延長チューブを介して導入してよい。好適な実施形態においてこのような延長チューブを用いる場合には、プロテーゼを更に安定化させるために、一対のそのようなチューブまたは同等のコードなどを、好適には片側に1つずつ、椎間円板の外部において固定する。
【0051】
本発明の髄核プロテーゼは、これまで知られているプロテーゼに比べて、より様々な変性段階の椎間円板に対して、広く指示される。一般的にプロテーゼと終板の接触がある程度限られた面積で生ずる球形または卵形のプロテーゼと異なり、本発明の髄核プロテーゼは広い範囲の終板接触面積を許容し、様々な程度の椎間円板変性に適応する。
【0052】
本発明の髄核プロテーゼを図2A乃至2Dおよび図3A乃至3Cに示す。
【0053】
図2Aは髄核プロテーゼ200の平面図である。図2Bは本発明の髄核プロテーゼ200の正面立面図である。図2Cは髄核プロテーゼ200の正面立面断面図である。図2Dは髄核プロテーゼ200の左側立面図である。髄核プロテーゼ200は頂部壁周縁部204を有する頂部壁即ち終板202と、底部壁周縁部208を有する底部壁即ち終板206と、頂部端壁周縁部204と底部端壁周縁部208との間に延在する側壁210とからなり、上に述べたような適切な、ほぼ非圧縮性の流体または粘弾性物質で満たされた内室212を封入している。頂部端壁202および底部端壁206は平面形状であり、それぞれ上位、下位の脊椎の椎間板との界面の天然の髄核の水平断面と同じ形状となっている。従って、頂部端壁202と底部端壁206の平面形状は、ある種の平坦ディスク形状であり、横方向(即ち左右方向)の寸法が前後方向の寸法(端壁の前縁216、218から後縁220、222までの寸法)よりも大きい。平面形状の後縁は、少なくとも近似的に、天然の髄核の断面に倣うように反っている。頂部端壁202および底部端壁206は典型的かつ好適には同形状、同サイズである。しかし特定の患者に適合させるために形状およびサイズをある程度異ならせることを排除するものではない。
【0054】
髄核プロテーゼ200の側壁210は砂時計または亜鈴形であり、これは少なくとも近似的に髄核の天然の形状を模倣しており、それによって天然の髄核の置換を提供する。天然の髄核の形状は例えば図4の椎間板造影画像に示されている。従って、上端部壁202と下端部壁206に隣接し取り付けられる側壁210の上位および下位部分は、それぞれ上壁202、下壁208の対応する寸法を近似する断面を有しており、他方で中間の腰部224は側壁210の上位および下位部の寸法よりも小さい断面寸法を有している。髄核プロテーゼの砂時計形状は線維輪の天然の形状と協働し、椎間円板の天然の髄核が与える支持と柔軟性の忠実な置換を提供する。
【0055】
本発明の髄核プロテーゼ200はほぼ非圧縮性の物質で製造されかつ充填され、従来の開放外科技法によりインプラントされるが、髄核を丸めるあるいは折り畳む(つぶす)ことにより空の状態にして、天然の髄核を取り除いて形成したキャビティ内にチューブを介して導入することが好ましい。導入後、髄核プロテーゼ200を広げてカニューレを介して導入した流体物質で充填することによって膨張させる。この物質は、液体またはその場で重合して髄核プロテーゼの適切な充填剤を形成する重合可能な物質としてよい。
【0056】
髄核プロテーゼ200を椎間円板内の意図した位置で支持するために、椎間円板の外部の解剖学的構造に固定して円板を安定化させる1つ以上のコード即ち縫合線226、228を用いてもよい。コード226、228をしっかりと固定する点を与えるべく、側壁210の腰領域224に厚みを厚くした部分230を設けてもよい。
【0057】
典型的には側壁210の横位置236のくびれは、側壁210の前方部238および後方部240のくびれよりも小さい。
【0058】
髄核プロテーゼ200は非圧縮性の流動性あるいは柔軟性を有する物質214で満たされる。これに適した充填剤の代表的なものとしては、生理食塩水、生体適合性オイル、合成ヒアルロン酸/プロテオグリカン混合物、柔軟な生体適合性合成ポリマーなどの液体物質がある。柔軟な固体物質は好適には0〜4Mpaの弾性率とすべきである。特に柔軟な生体適合性合成ポリマーは0〜1Mpaの好適な弾性率を有する。
【0059】
図3A乃至3Cは、椎間円板内の適所に設置された本発明の髄核プロテーゼ200を示す。図3Aは髄核200を破線で示す斜視図であり、椎間円板の線維輪116内での位置を示している。図3B上位および下位の脊椎100の間の椎間円板112内に位置する髄核200の前面を一部断面で示す図である。各脊椎は脊椎縁部(骨端輪)104および椎体終板106を有する椎体102からなる。椎間板に最も近い脊椎端部は部分的に取り去って、椎体100内部の海綿状骨110に裏打ちされた高密度な骨の薄い層108を有する構造を示している。各椎体終板106は薄い軟骨層112で覆われている。椎体終板106の凹状の湾曲はそれぞれの頂点114、即ち脊椎縁部104の縁のなす線から最も遠い点を有している。各椎体終板106の頂点114は、図2Bに示すように脊椎の両側部のほぼ中央にあり、図3Cに示すように一般的に脊椎縁部104の前縁116と後縁118との間の距離のおよそ60%の位置にある。髄核プロテーゼ200の端壁202、206はそれぞれの頂点232、234を有する。この頂点232、234は端壁202、206の周縁がなす線から最大距離の点として定義される。頂点は椎体終板106の対応する頂点114と接触する位置に配置される。
【0060】
−総円板プロテーゼ−
本発明の総円板プロテーゼは、天然の椎間円板の線維輪および髄核の生体力学的特性、即ち運動、衝撃吸収、安定化等と類似の特性を有するエラストマコアを提供するために開発されたものである。このプロテーゼは天然の椎体終板の形態計測学的研究に基づく特定の形状および外形を有する人工椎体終板を組み込んでおり、かつエラストマ円板プロテーゼコアと人工終板との間で関節機能する構造および構成、そして椎骨と人工終板との界面での固定を行うための構造を組み込んでいる。
【0061】
天然の椎体終板の形状および外形についての正確な情報を得るため、腰仙椎椎体終板の形態計測学的研究を新たに行った。
【0062】
これまで腰仙椎椎体の正確な形状、外形、形についての情報は簡単に手に入る状況になかった。そのため、極めて信頼性の高い計測技法を用いて成人の腰椎椎体終板の形態計測学的研究を行った。非接触レーザーセンサ(ブリティッシュコロンビア州デルタ、LMI Technologies Inc.製のLMI DynaVision SPR-04レーザーセンサ)を用いてスキャンすることにより、椎体終板の外形を測定した。椎間円板で満たされた椎間空間に面して対向する椎体終板の典型的なスキャンデータを図5に示す。
【0063】
この研究の結果は、人体の腰椎終板の形態計測学的特徴に関する新たな情報をもたらした。特に、この研究の方法は、従来の研究より更に進み、前後および左右の両方について終板の外形(輪郭)の極めて正確かつ連続的なトレースを行った。一般的に、椎体終板は椎体に向かって凹状に湾曲しており、下側終板の湾曲凹部は上側終板のものとは異なっている。脊椎腰仙部領域の測定結果、より詳しくは第3腰椎の下側終板(L3L)、第4および第5腰椎の上側および下側終板(L4U、L4L、L5U、L5L)、および第1仙椎の上側板の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0064】
L3、L4、L5の下側椎体終板の湾曲の最大深さは、平均で1.8mmであり、L4、L5の上側終板では平均0.93mmであった。湾曲の頂点は冠状面の中央、かつ前縁から後縁の平均で60%の所に位置していた。
【0065】
本発明の総円板プロテーゼは3つの部分からなる、即ち1つのポリマー円板コアと2つの椎体終板である。
【0066】
ポリマー円板コアは3つの要素からなる、即ち1つのポリマー輪状部と2つの移行終板である。ポリマー輪状部は好適には生体適合性のポリマーの外壁を有する。この外壁は天然の線維輪の機能的置換品となるような形状および大きさである。即ち、ポリマーコアの横断面は概ね円板状であり、前後方向の寸法より横方向の寸法の方がある程度大きく、後方側においてある程度平坦になっている。外壁は天然の線維輪の径方向厚さをほぼ近似する径方向厚さを有する。以下により詳細に説明するように、外壁は天然の髄核を置換する物質で充填するための中心キャビティを取り囲む。
【0067】
好適には、外壁は断面が「砂時計」または「亜鈴」状となる中心キャビティを与えるような形状とする。即ち、径方向の厚さが上下端面の間の中間において上下面に隣接する部分よりも大きくなるようにする。天然の髄核を置換する内部の「砂時計」形キャビティは流体、オイル、柔軟な生体材料または合成ヒアルロン酸で充填され、キャビティの壁は充填剤を「砂時計」形で閉じこめる。従って、人工輪(輪状部)の外壁は、健康な椎間円板の天然の線維輪が提供する生体力学的特性に見合う適切な厚さおよび剛性を有する。天然の髄核の「砂時計」形状を与える人工輪の中心キャビティは、ポリマーコアの体積の約20〜50%の大きさで、その弾性率(e-value)は0〜4Mpaである。輪状部はポリマーコアの50〜80%を占め、その弾性率は3〜16Mpaである。「砂時計」形の各キャビティを満たす物質は輪状部と同じ種類の物質でもよいが、より柔軟なものとする。あるいは、別の種類の物質としてもよい。ポリマーコアの輪状部は上側および下側の移行ポリマー終板に固着され、これにより核キャビティが輪状部と終板とによって完全にシールされる。移行ポリマー終板はポリマー輪状部にモールドしてもよいし、または適切な生体適合性の接着剤によって接着してもよい。核キャビティの充填は移行ポリマー終板をポリマー輪状部に対してモールドあるいはシールする際に行ってもよいし、または移行終板をポリマー輪状部にシールした後にポートを用いて充填し、充填後に該ポートをシールしてもよい。
【0068】
核キャビティを円筒形、卵形、円盤状とし、それを水溶液やオイル状物質、柔軟な合成または天然の生体材料、例えば合成ヒアルロン酸やポリマー輪状部に用いられているものとは異なる種類の柔軟な合成重合物質などで充填してもよい。
【0069】
本発明の椎間円板プロテーゼの製造に際しては、硬い金属終板と円板プロテーゼのエラストマー状のポリマーコア部分との間に適切なインターフェイスを設ける必要がある。このインターフェイスは、1)金属終板と合成ポリマーコアとの間の大きな硬さの違いによるインターフェイスあるいはその近傍で生じうる応力集中の問題、および2)ポリマーコアの金属終板への接着/固定に関わる問題に対処しなければならない。
【0070】
本発明では、硬い金属終板とより柔軟な合成ポリマーコアとの間に移行ポリマー板を用いる。
【0071】
移行ポリマー板は硬い金属終板の硬度とより柔軟なポリマーコアの硬度の中間の硬度を有する。移行ポリマー板はポリマー輪状部に対してモールドするかあるいはしっかりと固定し、応力集中を生じさせずに応力を滑らかに移行させるようにする。好適には、移行ポリマー板に用いる物質は比較的硬いものとし(ショアA100〜D60)、これにより、金属終板への確実な機械的固定を可能とし、あるいは金属終板との間の接触面において、全臀および膝プロテーゼと同様に、自由な滑動を可能とする。
【0072】
コアの頂部および底部ポリマー終板はコアの輪状部分よりも硬い物質からなり、かつドーム状の金属終板と接触するためのドーム形状を有する。移行終板は好適には、芳香族および/または脂肪族ポリカーボネイト熱可塑性物質−ポリウレタン混合物など、ポリマーコアの輪状部と同じ化学分類に属する物質からなるが、より硬いものとする(デュロメータ硬度100A〜65D)。移行ポリマー板の後端部の厚さは1mm乃至3mmであり、前側壁の厚さは4mm乃至7mmである。好適には移行ポリマー板の合成ポリマー輪状部に面する内側面は平坦とする。移行ポリマー板の前縁と後縁の厚さの違いにより、金属終板は適切な前湾角度(lordotic angle)(5〜15°)で配向される。金属終板は脊椎骨終板に向かって凸になっており、天然の椎体終板についての上記の形態計測学的研究の結果に基づいた、以下に述べる好適な寸法を有している。ポリマー終板、金属終板の横断面形状は共に円板状であり、それらの間の界面においてよく一致する対向面を有することが好ましい。
【0073】
下側終板のドーム部湾曲の最大深さは平均で2mm(1.5〜2.5mm)であり、上側終板の同様の深さは平均で1.2mm(0.7〜1.5mm)である。好適には、最大深さの位置は、椎体終板の前縁と後縁の間で後方側60%の位置にあり、左右側縁の間のほぼ中程にある。従って、ポリマーコアは概ね円板状の断面を有し、かつそれと組み合わせる金属終板の接触面ととほぼ一致する表面積を有する。上述したように、ポリマーコアの中心核キャビティを外科的インプラント前に膨張させても良いし、外科的インプラント後に膨張させてもよい。
【0074】
新たな形態計測学的研究に基づいて、金属終板はそれが接触する椎体終板と最もよく一致する形状と外形を有するように好適に形成される。この金属終板の好適な特徴は以下の通りである。1)上位脊椎の下側椎体終板に面する上側終板は、冠状面(左右方向)の中線上かつ矢状面(前後方向)における前縁から後方に60%の位置において、1.5mm乃至2.5mmの最大湾曲深さを有し、椎体終板に適合する凸形状を有する。2)下位脊椎の上側椎体終板に面する下側終板は、冠状面の中線上かつ矢状面における前縁から後方に60%の位置において、0.6mm乃至2.0mmの最大湾曲深さを有し、椎体終板に適合する凸形状を有する。適合を最適化するために、天然の椎体円板を削り金属終板と一致させてより滑らかな接触面をあたえる。
【0075】
金属終板の形状は天然の椎体終板と同様である。即ち、金属終板の湾曲部の平均サイズは短径(前後方向)がおよそ2.5cm(2.0〜3.0cm)、長径(左右方向)がおよそ3.0cm(2.5〜3.5cm)である。終板は個々の患者において、その接触面積、即ちプロテーゼの終板が接触する椎体終板の面積が椎体終板の断面積のおよそ30〜100%となるような大きさとする。好適には接触面積は椎体終板の断面積のおよそ30〜80%である。金属終板は好適にはその前縁の板中心線上に前後方向に配向されたほぼ垂直なフィンを有する。このフィンは椎骨の前側に形成されたくぼみに嵌合させて、金属終板の脊椎への固定を改善するものである。フィンにスロットを設け、それと係合する付加板の位置決め突起を受容するようにしてもよい。これは後に説明するように、付加板を位置決めするものである。
【0076】
金属終板はCo−Cr合金やチタン合金などの適切な強度を有する生体適合性の金属からなる。頂部および底部終板の椎骨に面する外面に多孔性のテクスチュアを設け、骨の内成長によって確実な固定を助長するようにする。
【0077】
金属終板と移行ポリマー終板とは、互いに対して自由に滑動してもよい。移行ポリマーコア終板に滑らかで特別に硬化された面を設けてこのような滑らかな滑動を容易にするために、移行ポリマー板の金属接触面に従来のイオン化処理を施してもよい。
【0078】
または、後に説明するように、ポリマーコア部の終板どうしを1つ以上の方法によって確実に固定してもよい。
【0079】
各終板システム(金属終板およびそれと接触する移行ポリマー板)は2要素構造(金属終板および移行ポリマー板)としてもよいし、3要素構造(金属終板、1つの移行ポリマー終板および金属製前部付加板)としてもよい。
【0080】
それぞれの構造(2要素構造または3要素構造)において、金属終板の後縁部に椎骨から遠ざかるように湾曲するほぼ垂直な壁を設け、移行ポリマー終板の後縁と係合させてもよい(例えば舌状部と溝として)。
【0081】
後部に凹部を設けた別の実施形態では、金属終板と移行ポリマー終板のプロテーゼ後側4分の1乃至2分の1に「段カット」された嵌合部を設けてもよい。この実施形態では、移行プレートの後部の外側面上に、移行板の後縁から前方にその前後方向径の4分の1乃至2分の1の所に位置する段差から移行板の後縁まで延在する凹部(低くなった部分)を設ける。このように、凹部は移行板の前後径の4分の1乃至2分の1に渡って延在し、凹部の外側面は概ね、かつ好適に、移行板の内表面と平行になっている。段部は典型的には移行板の左縁から右縁まで延在する。段部は移行板の両側方向(横方向即ち冠状方向)の径にほぼ平行な直線状の段差としてもよいし、あるいは湾曲していてもよい、即ち移行板の前部に向かって凹または凸となっていてもよい。更に、段差部の面は凹部の外側面(および移行板の内側面)とほぼ垂直であってもよいし、前後方向に傾斜していてもよい。即ち、段差部を横方向から見ると、ベベルを設けたプロファイルまたはアンダーカットしたプロファイルとなるようにしてもよい。
【0082】
後方に凹部を設けた実施形態では、一般に金属製のプロテーゼ終板は、移行板の外側面上の段差に対応しほぼ適合する内側に段差のついた肉厚後部を有する。好適には移行板の外側面の段部とプロテーゼ終板の内側面の段部とをアンダーカットし、移行板とプロテーゼ終板との間に積極的な機械的結合を与える。移行板とプロテーゼ終板の合致する横方向段部の与える積極的な機械的相互ロックは、両板間のねじり回転を最小化するあるいは防止する強力な規制をもたらす。更に、この実施形態では、プロテーゼ(金属)終板の後縁の湾曲フック延長部を設ける必要がなく、かつ移行板の後縁を輪状部の後縁よりも突出させる必要がない。従って、この構成は、椎間空間での位置決めに適したプロテーゼを提供し、金属終板の頂点が好適な位置、即ち脊椎の前後方向径において脊椎の前縁から後方に径の60%の位置に位置決めされる。これは特に椎間円板の前後径の小さい患者にインプラントする場合に有用である。
【0083】
2要素構造においては、金属終板は、移行ポリマー板の前部壁の2分の1または3分の1を覆う湾曲した垂直壁を有する。2要素構造においては、金属板の前部は金属終板の湾曲部よりも前側に延在し、かつ湾曲部と連続的(一体)である。この前部領域は椎体の稠密な周縁部に面する。前側延長部の概ね平坦な領域の平均前後寸法は約0.8cmであるが、この寸法はゼロ(前側延長部なし)から約1.2cmの間で変えてよい。前側延長部の平均的な幅はその後部で約3.0cmであり、前方に向かってテーパーを付けられ椎体終板の前縁の輪郭と合致する。金属板と移行ポリマー板とは金属終板の前部垂直壁を移行ポリマー板の前壁に、例えば両側にそれぞれ1つずつとした1つ以上のネジによって留めることにより、互いに固定される。あるいは、後に説明するように、金属終板と移行ポリマー終板とを1本以上のワイヤあるいはケーブルにより締め付ける留め具によって締結してもよい。金属板および移行板の側部付属部に係合するネジにより付加的な固定を行ってもよい。
【0084】
また別の実施形態では、金属終板および移行ポリマー終板を、金属終板の前縁および/または側縁においてバネ式留め具を用いたスナップ嵌合によって確実に係合させてもよい。これらのバネ式留め具はそれだけで用いてもよいし、ネジやケーブルによってバネ式留め具を締めてもよい。
【0085】
3要素構造は、凸形状の金属終板(主金属終板)と、該主金属終板とは別の前側付加板とを含む。金属終板と椎骨との総接触面積は椎骨終板面の50%乃至80%である。ほぼ水平に延在する前側付加板は該前側付加板と垂直で椎骨から離れる方向に突出する湾曲壁を有する。この垂直壁はコアの移行ポリマー板の前部壁と合致するよう湾曲している。前側付加板はまたその中心線上に椎骨の方へ突出し、前後方向に延在する垂直フィンを有する。該垂直フィンは付加板の後縁よりも後側まで延在し、主金属終板の対応するフィンの嵌合ソケットに係合する。フィンの前後方向の全長は椎体の前後長のおよそ3分の1乃至2分の1である。水平前側付加板は、円板空間から骨内に向かうネジによりこの板を椎体終板に対して固定するためのネジ孔を、その中心線の両側にそれぞれ有する。前側付加板の湾曲した垂直壁はまた、前側板を移行ポリマー終板に固定するためのネジ孔を、例えばその中心線の両側にそれぞれ備えてもよい。移行ポリマー終板内に雌ネジをモールドにより設けてもよい。
【0086】
総円板プロテーゼの3要素構造は、再手術が必要な場合に、そのコア部分を取り外して取り替えることができるようになっている。現在入手できる円板プロテーゼの1つの補修あるいは取り替えが必要になった場合、以前にインプラントしたプロテーゼのすべての要素を取り外すことは非常に難しい。現在の総円板プロテーゼのほとんどのすべての設計では、金属終板は該金属終板にロックされた即ち固定された媒介位置決め部材を用いて椎骨に固定される。このようなプロテーゼを取り外すには、プロテーゼを壊して金属終板を骨から取り外さなければならない。これはインプラントサイトにおいて修理するための備えがなされていないからである。明らかにこのような手術は困難であり、かつ更なる外傷を与える可能性がある。
【0087】
前側付加板を移行ポリマー板および金属終板に固定するために、プロテーゼの両側に取り付けたフィンおよび/またはネジ・ワイヤ・ケーブル式のロック機構の係合を用いた、別のあるいは付加的な固定方法を用いてもよい。
【0088】
本発明のプロテーゼの一実施形態では、金属終板、移行ポリマー板、前側付加板に側方延長ブロックを設ける。側方延長ブロックは円板プロテーゼの両側それぞれにネジまたはケーブルまたはワイヤ用の孔を有し、該孔は外科的手術時に終板およびコアの3円板を組み付けると整列する。ネジ、ワイヤ、ケーブルやセルフロック装置により、これら3つの要素を緊密に締結する。
【0089】
この実施形態の設計において、移行ポリマー板とスナップ嵌合するための湾曲した翼部を金属終板の周縁に設けてもよく、かつ上述のように、この翼部を取り巻くワイヤあるいはケーブルにより更に締結してもよい。
【0090】
総円板プロテーゼのこの実施形態では、金属終板を損なうことなくポリマーコアを取り去ることができる。コアを取り去るには、前側付加板を残りのドーム形金属終板から外すが、移行ポリマー終板に対しては上に述べたようにネジおよび/またはワイヤおよび/またはケーブルにより固定したままとする。別の方法としては、前側付加板をドーム形主金属終板から取り外すことにより、インプラントされた主金属終板を取り外すことなくポリマーコア要素を取り去るあるいは交換するためのアクセス窓をあけてもよい。新たなポリマーコアを挿入した後、上に述べたようにワイヤ、ケーブルまたはネジなどで前側付加板を再び取り付けることができる。従って、本発明の総円板プロテーゼのこの実施形態では円板プロテーゼを容易に修復することが可能となる。
【0091】
本発明の総円板プロテーゼは、人工終板の形状および外形が天然の椎体終板に最高に適合するように一致していることにより、金属終板と椎体終板が極めてよく嵌合するので、均一な応力伝達および長期に渡る装置の生体内での安定性をもたらす。
【0092】
総円板プロテーゼの実施例を図6乃至16に示す。
【0093】
総円板プロテーゼの図示実施例は円板コア400、上側および下側移行板406および408、金属終板502および504を有する。円板コア400は核キャビティ404を取り巻くポリマー輪状部402を有する。ポリマー輪状部402は健康な天然線維輪の断面と概ね類似した断面を有する。その各寸法は特定患者の天然の線維輪を置換するように設計される。従って、ポリマー輪状部402の横寸法は約2.5cm〜約4.0cmの範囲であり、前後寸法は約1.4cm〜3.0cmである。ポリマー輪状部402の厚さは、インプラントしたときに総円板プロテーゼの全体の厚みが、被施術者の天然の椎間円板が変性する前における椎間空間とほぼ等しい椎間空間を提供するように、あるいは少なくとも天然の椎間円板の変性によって生じた症状を軽減するように選定する。典型的にはポリマー輪状部402の上面から下面までの厚さは約0.4cm〜約1.2cmである。ポリマー輪状部402の中心の核キャビティ404の横断面は健康な天然髄核の断面と概ね同じである。核キャビティ404は生体適合性の非圧縮性の物質410でみたされる。該物質は生体適合性のオイルや柔軟な生体適合性のポリマーなどとすることができる。中心キャビティはポリマーコア400の体積の約20%〜80%を占め、上側および下側の移行板406および408との接触領域412および414は平坦で、その中心は移行板406および408の前後端416および418の中程にあり、かつ移行板406および408の横方向端420および422の中程にある。核キャビティ404の上下端の断面は円板形状である。核キャビティ400の腰部領域424の横断面は、核キャビティ400の上下端の横断面のおよそ30%乃至80%である。核キャビティ404は移行板406および408によってシールされ、該移行板はポリマー輪状部402の上面および下面426、428に対して、モールドにより、あるいは適当な生体適合性接着剤によりシールされる。
【0094】
図16に示す別の実施例として、核キャビティ404Aは概ね垂直な壁を有し、円板状断面のほぼ円筒形のキャビティを形成し、上端と下端の間の中間部がはっきりとしたくびれ形を持たないように構成してもよい。
【0095】
核キャビティ404を生体適合性オイルまたは柔軟なあるいは液体のポリマー物質で満たしてもよい。このポリマー物質は輪状部402を形成するポリマーと同じ類の化学組成であってもよいし、あるいは化学的に異なる物質であってもよい。例えば、輪状部がA70〜A90のデュロメータ硬度を有するポリカーボネイト−ポリウレタン混合物である場合、核キャビティの充填に用いることのできる、デュロメータ硬度がA70以下の柔軟性を有する商業的に入手可能な共重合体は存在しない。従って、このような輪状部402に対してはデュロメータ硬度がA70未満の化学的に異なる種類のポリマー、例えばシリコーンベースのポリマーを用いて核キャビティを充填しなければならない。
【0096】
ポリマー輪状部402は好適にはデュロメータ硬度A70〜A90の生体適合性ポリマーで形成する。ポリマー輪状部402の形成に好適なポリマーは、生体適合性のポリカーボネイト・ポリウレタン配合物である。ポリマー輪状部402の外縁は円板状であり、また内壁は核キャビティ404を画成する。好適には核キャビティ404は砂時計または亜鈴形状とする。ポリマー輪状部の体積はポリマーコア全体の体積のおよそ20%乃至80%であり、これはポリマー輪状部の硬さおよび核キャビティ404を満たす物質の硬さによって変わる。ポリマーコア400の総体積のおよそ20%乃至50%の体積で非圧縮性の流体で満たした核キャビティ404を有するようポリマーコア400を構成し、ポリマー輪状部402の体積をポリマーコア400の総体積のおよそ50%乃至80%としてその弾性率をおよそ3〜16Mpaとすると、圧縮、圧縮曲げおよびねじりについての生体力学的特性が、脊椎の腰仙部の天然椎間円板と概ね同等のものとなる。(なお、流体物質は弾性率を持たない。)ポリマーコア400の総体積のおよそ20%乃至50%の体積で、弾性率1〜4Mpaの柔軟なポリマーで満たした核キャビティ404を有するようポリマーコア400を構成し、ポリマー輪状部402の体積をポリマーコア400の総体積のおよそ50%乃至80%としてその弾性率をおよそ4〜16Mpaとすると、流体で満たされたコアを有する線維輪の生体力学的特性を与える。一般的に、非圧縮性の流体で満たした中心キャビティ404を有するポリマーコア400の方が、ポリマー輪状部より柔軟な(弾性率の低い)ポリマーで満たした中心キャビティを有するポリマーコアよりも優れた滑り特性(creep behavior)を有する。従ってそのようなポリマーコア400は好適な実施例となる。
【0097】
移行終板406および408は、好適にはデュロメータ硬度がA100〜D70の範囲にあるポリカーボネイト・ポリウレタン配合物などの比較的硬い生体適合性ポリマーで形成し、ポリマー輪状部402にモールド可能なものとする。ポリマー終板406および408は、ポリマー輪状部402とほぼ同じディスク状の横断面形状であるが、輪状部402の後縁430をこえて延在する後側舌状延長部432および434を有する。
【0098】
移行板の外側面436および438、即ち椎骨に面する面は終板502、504に向かって凸となっている。移行板406および408のポリマー輪状部402に面した内側面440、442はほぼ平坦でポリマー輪状部402の平坦な上面および下面に適合し、かつモールディングや接着などの従来手法によってポリマー輪状部の表面にシールされる。好適には移行板406、408の内側面440、442はポリマー輪状部の上面および下面426、428にモールドする。
【0099】
移行終板406、408の一方または両方において、輪状に隆起させた突起444(図16に断面で示されている)をポリマー輪状部402に面する面上に設けてもよい。この突起444はポリマー輪状部の上面および/または下面においてポリマー輪状部の内壁に勘合して、ポリマー輪状部402と移行板406、408を整列させ、またより強力および/またはより確実なシールを形成する。このような突起により、輪状部と移行板との間のインターフェイスが、特にねじりおよび剪断に関して安定なものとなる。
【0100】
移行終板の後側部分は相対的に薄くなっており、厚さが1〜3mmの範囲であるのに対し、移行終板の前側部分はある程度厚く、4〜7mmの厚さである。移行終板406、408の前縁416と後縁418のこのような厚さの違いにより、(例えば図11からわかるように)円板プロテーゼの前湾角度(lordotic angle)448を個々の患者に合わせて変えることができる。
【0101】
円板プロテーゼの終板502および504は適切な強靱かつ生体適合性の物質からなる。終板は好適にはチタン、ステンレススチール、Cr−Co合金などの金属製である。典型的には終板の厚さは一様である。本発明の円板プロテーゼの上側および下側金属終板502、504は椎骨に向かって凸となっている。凸形状の最大深部(頂点516)位置は冠状面(左右)内で終板の側縁の中線上、かつ矢状面(前後)内で終板の前縁から後方に60%の位置にある。凸形状の高さは典型的には、上側終板502でおよそ1.5mm〜2.5mm、下側終板でおよそ0.6mm〜2.0mmである。
【0102】
各終板の内側面514は、隣接する移行終板の外側面と滑らかに接するように、高度に研磨することが好ましい。各終板の外側面512には、骨の内成長のために多孔性のテクスチュアを設けることが好ましい。
【0103】
各終板の後縁508には、移行板に向かって曲げられ、あるいは移行板に向かって延在し、ポリマー輪状部402の後縁418を越えて延在する移行板の後縁を「舌状部と溝」式係合により受容する溝を形成する延長部522が設けられている。
【0104】
金属終板502、504の一方または両方の前側の中線位置には椎骨に向かって延在するフィン518が設けられている。このフィン518は椎体終板の前側の中線位置において椎骨に形成した切り込み即ち凹部に係合する。各主金属終板502、504のフィン518は二重壁になっており、後述するように前側付加板602の係合フィン612を受容するスロット520を形成している。
【0105】
各前側水平付加延長板602は、好適には同一の物質、例えば主金属終板と同様に金属などで作られ、ほぼ同一の厚さを有する。各水平付加板の後縁606は主金属板の前縁506の水平曲率と一致する。付加板の前縁604もまた湾曲しており、プロテーゼの中心線において前後方向深さを与える。従って、水平付加板602の前後寸法は中心線において最大となり、各側で前縁604から横後方縁606に向かってテーパが付いている。各水平付加板は、隣接する脊椎とは反対側に、付加板602の湾曲した後縁606に沿って延在する湾曲した垂直板610を有する。湾曲した垂直板610は移行板406、408の前縁416の湾曲および厚さに適合する。移行板406、408の前縁416にねじ入れる、あるいは移行板の前縁に設けたネジ孔に螺合させるネジ用の孔を、湾曲垂直板610に設けてもよい。典型的には湾曲垂直板610のそれぞれに、中心線の各側に配置した2つのネジ孔620を設ける。
【0106】
図示の実施例では、終板502とそれに対応する付加板602、および隣接する移行板406は、それらの側縁に設けられ、これら板を組み付けると整列して固定ネジ526を受容するようになるスリーブを有する。
【0107】
別の方法としては、ネジスリーブとネジを用いる代わりに、図18および詳細図19に示すように、T字形末端部530または、それと同等の構造を有するワイヤあるいはケーブル528をスロット付きスリーブ526、448および622に通し、参照符号532で図式的に示すような従来の締め具を用いて、ねじるなどの従来の手法で締結することによって、終板502、移行板406および付加板602を互いに固定してもよい。
【0108】
また、移行板406、408の前壁に設けたくぼみにスナップ式に嵌る可撓性あるいはバネ式の付属部(図示せず)を水平付加板602の湾曲垂直板610に設けてもよい。
【0109】
また別の実施形態では、主金属終板を一体構造として、移行板の後縁を受容する溝を有する後側延長部を設け、かつ移行板の前縁および/または側縁の対応するくぼみおよび/または溝とスナップ係合する可撓性あるいは弾性の付属部をその前縁および側縁の選定した箇所に設けてもよい。
【0110】
移行板が金属終板にスナップ留めされる実施形態では、スナップ係合付属部に締結ケーブルを受容するスロットを設けて、更に固定してもよい。この締結ケーブルは、該ケーブルの各端部をスナップ係合付属部のスロット内で固定するための、ケーブルに垂直に延在する端止め構造を有する。ケーブルを付属部のスロット内に設置し、結ぶ、ねじる、クリンプする等により、またはその他の従来のセルフロック機構を典型的には総円板プロテーゼの略前側部に設けることにより締結する。
【0111】
また別の方法として、あるいは上記に加えて、金属終板とそれに対応する移行板と前側付加板とを、ネジで締結する側方付属部を用いて互いに固定してもよい。このような実施形態では終板と移行板と付加板とが正しく整列すると、例えば組み付けネジを受容する貫通孔やネジの端部の螺条を受容するネジ孔を有するスリーブなどの付属部が一線に並ぶようになっており、そこで組み付けネジを挿入して締め付けることによりこれら板を堅固に固定する。スリーブは、例えば金属終板および移行板の前横部分と付加板の後横隅に設け、かつ、これら板を適切に組み付けるとネジ孔が整列するような方向と位置に設ける。また、このようなスリーブあるいは類似の付属部にスロットを設け、上に説明したようにワイヤやケーブルを通して固定できるようにしてもよい。
【0112】
「段カット」した後部を用いた移行板−終板構造の別の実施例700を図20乃至図30に示す。この実施例では、前縁856、後縁858、側縁860を有する移行板850(図20〜図23)に、側縁860間に延在する段部862を設けている。段部862は図21に示すようなアンダーカットとしてよい。外表面の窪んだ後部864は段部864から移行板850の後縁858まで延在する。以下に説明するように、側壁866は外側終板702のスナップ式付属部722を受容するための周辺溝868を有する。
【0113】
移行板850に締結される終板702は前縁706、後縁708、側縁710を有する。終板702の外側面712は、例えば多孔性の骨内成長のためのテクスチュアを設けた表面とし、椎体終板への良好な固定を確実なものとする。内側面714には移行板850の対応する段部862と係合する段部718が設けられている。ほぼ平坦な後方面720は移行板850の平坦な後方面864と接する。段部718に図示のような逆傾斜ベベルを設け、移行板850の対応する逆傾斜のついた段部862と係合するようにする。スナップ式付属部722は移行板850の周辺溝868に勘合し、終板702を移行板850に締結する。付属部722に締め付け可能なケーブルを受容するスロット726を設けて、図18および図19に示した実施例のように、付加的な固定を与える。この終板702と移行板850とからなるアセンブリ700を、例えば図17および18に示す同様のアセンブリの代わりに用いて、図示の前円板プロテーゼの上部および下部を構成することもできる。
【0114】
本発明をいくつかの実施形態によって説明したが、当業者には明らかであろうように、本発明の思想あるいは必須の特徴を逸脱することなく、多くの変形や変更が可能である。本発明はそのような変形を取り入れたすべての実施形態を含むものである。従って、ここになされた開示は例示のためのものであり、添付の請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は均等の効力および範囲に含まれるすべての変形を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1A】一対の正常な人体脊椎を、断面で示された椎間円板と共に図式的に示す図であり、脊椎が通常の位置にある状態を示す。
【図1B】図1Aの椎間円板のある程度拡大した断面図である。
【図1C】図1Aと同様な図であり、脊柱が屈曲した状態の構造を示す図である。
【図1D】図1Aと同様な図であり、脊柱が伸展した状態の構造を示す図である。
【図2A】本発明の髄核プロテーゼの平面図である。
【図2B】本発明の髄核プロテーゼの正面立面図である。
【図2C】本発明の髄核プロテーゼの正面立面断面図である。
【図2D】本発明の髄核プロテーゼの左横立面図である。
【図3A】天然の線維輪内にインプラントされた本発明の髄核プロテーゼを破線にて示す斜視図である。
【図3B】椎間円板の線維輪内適所置かれた髄核プロテーゼの前側立面断面図である。
【図3C】椎間円板の線維輪内適所置かれた髄核プロテーゼの左側面を一部は断面図で示す立面図である。
【図4】2つの脊椎間に位置する正常な人体椎間円板のX線像を示す椎間板造影画像であり、造影剤の注入により線維輪を可視化している。
【図5】隣接する脊椎の椎体終板のスキャンプロファイルを示すグラフである。
【図6】本発明の総椎間円板プロテーゼに用いる金属終板の平面図である。
【図7】図6の金属終板と共に用いる前側付加板の平面図である。
【図8】図6の金属終板の前側立面図である。
【図9】本発明の総円板プロテーゼの図6および図7の線9−9に沿った分解断面図である。
【図10】組み付けられた状態の図9の総円板プロテーゼを示す断面図である。
【図11】2つの脊椎間にインプラントされた本発明の総プロテーゼの一実施形態を示す側面断面図である。
【図12】図6の総円板プロテーゼのコア部分を示す平面図である。
【図13】図6の総円板プロテーゼのコア部分を図12の線13−13において示す正面立面図である。
【図14】図12のコア部分を図12の線14−14に沿った正面立面断面図である。
【図15】図13のコア部分のポリマー輪状部を図13の線15−15において示す平面図である。
【図16】図6乃至15に示す総円板プロテーゼの変形例を示す側面断面図である。
【図17】図6乃至15に示す総円板プロテーゼを組み付けた状態で示す横立面図である。
【図18】要素どうしを締結する締め付けケーブルを用いた、図17の総円板プロテーゼの変形例をしめす横立面図である。
【図19】図18の総円板プロテーゼのケーブル締結構造の詳細図である。
【図20】本発明の別の実施形態で用いる移行板の平面図である。
【図21】図20の移行板の左横立面図である。
【図22】図20の移行板の正面立面図である。
【図23】図20の移行板の底面図である。
【図24】図20の移行板と共に用いる終板の平面図である。
【図25】図24の終板の左横立面図である。
【図26】図24の終板の図24の線25−25に沿った左横立面断面図である。
【図27】図24の終板の正面立面図である。
【図28】図24の終板の底面図である。
【図29】図20の移行板と図24の終板からなるアセンブリの正面立面図である。
【図30】図29のアセンブリの左横立面図である。
【技術分野】
【0001】
−他の出願との関係−
本願は2003年7月17日出願の米国特許出願第60/487,605号、2003年11月26日出願の米国特許出願第60/524,902号および2004年2月18日出願の米国特許第10/779,873号に基づく優先権を主張するものであり、これら出願は引用により本願に援用する。
【0002】
本発明は人体脊椎の構造を置換するプロテーゼ(prosthesis: 人工器官)に関するものであり、より詳しくは椎間板および/または髄核を置換するプロテーゼに関するものである。
【背景技術】
【0003】
腰部の痛みはごくありふれた疾患であるが、様々な病的症状の原因となり、また仕事の時間を奪う元ともなる。腰痛の罹患率は非常に高く、場合によっては全人口のおよそ80%に及ぶ。大部分の患者は苦痛となる症状を時折感じるのみで完全に回復するが、患者のおよそ10%は、様々な医療を施しても慢性的に続き、生活に支障を生じさせる腰痛に悩んでいる。
【0004】
慢性的で生活に支障を生じさせる腰痛のもっともよくある原因は変性円板疾患(DDD:Degenerated Disk Disease)である。非外科的治療の効果の見られない慢性的で生活に支障を生じさせる腰痛に対しては、脊椎固定術が効果的な治療方法であった。米国において、毎年およそ35万件の脊椎固定術が行われていると推定されている。脊椎固定術は(すべての脊椎固定術の51%)は、DDDの様々な段階(内的な椎間板ずれ(internal disk derangement)、椎間板ヘルニア、椎間板性の不安定(discogenic instability)、および脊椎狭窄)に起因する慢性的な腰痛に対して指示されることとが最も一般的である。近年になって初めて、椎間板に起因する痛みの治療として、椎間円板の置換や髄核の置換の新たな技法が誕生した。
【0005】
脊椎固定術は、DDDにより引き起こされる腰痛の標準的な外科治療であるが、これには以下のような問題がある。
【0006】
a) 固定術は成功するとは限らない。様々な新しい技法や器具が開発されているにもかかわらず、固定術の成功率はほとんど一定で、平均85%に留まる。更に、脊椎固定術の予後の臨床的成功率は、過去2、30年で平均75%に留まる。
【0007】
b) 脊椎固定術の術後の療養期間は平均15ヶ月である。
【0008】
c) 脊椎固定術は固定を施した脊椎運動分節の運動および衝撃吸収機能を失わせる。このことが、固定(fusion)に隣接した脊椎運動分節の変性を加速する原因となっている。脊椎固定術と同等以上の結果をもたらすために、以下に詳細に説明するように様々なタイプの椎間板プロテーゼが開発されており、いくつかのものは人体において臨床的に試みられている。
【0009】
−椎間円板の解剖学的構造と生体力学
椎間円板は複雑な関節であり、3つの明確に区別される部位を有する、即ち椎体終板と髄核と線維輪である。椎間円板は重量を支持する関節であり、1つの椎体から別の椎体に荷重を伝達する。椎間円板は脊柱において主要な安定化構造であり、同時に3つの直交面内の運動を許容する。矢状面における運動(屈曲/伸展)が最大である(8°乃至15°)。冠状面内の運動(横曲げ)および水平面における運動(ねじり)はそれよりも小さい。椎間円板はその粘弾性により衝撃吸収機能も有する。
【0010】
椎間円板の荷重支持機能は、体液で満たされた非圧縮性の髄核を介しての「フープ応力(hoop stress)」によって圧縮負荷を椎体終板から線維輪へと伝達することにより果たされる。その非圧縮性により変形しない髄核が、この荷重伝達メカニズムの鍵であり、椎間円板の高さ維持の鍵でもある。髄核は運動時の回転の中心として機能する。この回転中心は固定されたものではなく、瞬間的な回転中心である。屈曲時には後方に移動し、伸展時には前方に移動する。髄核は通常椎間円板断面積の20%乃至40%を占め、これは年齢が進むにつれて、また変性状態になると拡大する。髄核は大まかに配置されたII型コラーゲンとプロテオグリカンからなる。若く健康な椎間円板の髄核は重量にしておよそ80%の水を含むが、水含有量は年齢が進むにつれて、また変性と共に減少する。線維輪を介しての「フープ応力」により髄核が荷重伝達媒体として機能するためには、このように高い水含有量を維持することが必須である。正常な椎間円板の髄核は球形でも卵形でもない。解剖学的断面、MRIおよび椎間板造影は、核キャビティ(nucleus cavity)が2つの室からなり(上室と下室)、これら2室は前後方向、内側外側方向の両方において中間の「砂時計」形の首部により連結されていることを、はっきりと示している(図4参照)。
【0011】
線維輪は椎間円板の重量支持および安定化機能において最も重要な構造である。線維輪は8層乃至12層の積層されたコラーゲン線維からなり、コラーゲンの大部分はI型であって、終板に対して+/−30°の角度をなしている。線維輪の厚さは円板内の部位の違いにより変化する。前側でより厚くなり、後側でより薄くなる。線維輪の断面積は、椎体終板に近い線維輪の上端および下端よりも、中間の高さにおいてより大きくなっており、「亜鈴(ダンベル)」あるいは「砂時計」形の断面プロファイルを有するキャビティを形成している(図4参照)。線維輪の壁はその中間高さ部において椎体終板付近よりも厚くなっており、特に椎間円板の前側領域において厚くなっている。従って、髄核は多くの解剖学書にそう描かれ、また椎間円板プロテーゼや髄核プロテーゼのほとんどの従来設計がそうであるような球形あるいは卵形ではない。髄核の「亜鈴」あるいは「砂時計」形状と、それと相補的な線維輪の形状との関係は、おそらく椎間円板の応力伝達および運動パターンにおいて重要な役割を演じている。正常な椎間円板の圧縮曲げ時において、線維輪は外側のみならず内側にも膨出する。変性した円板では、髄核の「砂時計」構造と、それと相補的な線維輪のキャビティとの関係は消失する。
【0012】
椎体終板との接触面における髄核の比較的大きな断面積は、椎体終板の損傷を防止する広い応力分布をもたらすために必須のものである。椎間円板と椎体終板との間の接触面積および負荷加重および骨ミネラル濃度は、椎体終板の損傷(沈下)に関する鍵となる要素である。任意の患者において、負荷荷重(体重)と骨ミネラル濃度は一定であるが、接触面積はプロテーゼの設計によって変化する。
【0013】
線維輪および髄核の上述の特徴的な解剖学的構成により、屈曲時において、線維輪の前柱は圧縮−屈曲荷重の下で外側および内側に曲がり、線維輪の後柱はあまり外側に膨出することなく伸張される。核キャビティ内に球形または卵形のプロテーゼが設置されていると、全く異なった振る舞いをする。圧縮時に、応力は等方性の液体または物質で満たされた球形または卵形のキャビティの周りに均等に分布する。これにより、終板とプロテーゼとの間の小さな接触面における応力集中が生ずる。圧縮−屈曲時に、線維輪の前柱はプロテーゼを後側に押す力を生じさせ、後側壁の過度の膨出あるいはプロテーゼの突出を引き起こす。髄核の「砂時計」形状およびそれと相補的な線維輪の形状は、脊椎運動分節の運動の全域において髄核を椎間円板内で安定化させることを助ける。
【0014】
−椎体終板−
椎体終板は濃縮された海綿骨の非常に薄い層(骨性終板)と軟骨層(軟骨終板)とからなる。椎体終板は重量を支持する、椎体と椎間円板との間の移行構造である。終板は椎骨と椎間円板間での液体と栄養分の重要な通路である。解剖学者、生体力学者、臨床家、外科医などの科学者達は、椎体終板の形態学、即ち形状と外形、およびその臨床的な意義について関心を持っていない。従って、終板やそれに関連する構造の生体力学や臨床的な観点からの重要性は、あまり理解されていない。
【0015】
椎体終板および周辺骨の異常な変化は、変性円板疾患において頻繁に見られる。椎体終板の実際の損傷(圧縮/破裂骨折)は外傷において見られる。骨移植片や椎間固定器具や椎間円板プロテーゼの終板を介しての椎骨への沈下は、腰仙椎の再建手術において度々報告される問題である。沈下、硬化症、骨髄浮腫、外形変化といった問題は、椎骨と椎間円板間の異常な応力パターンによるものである。
−椎間円板プロテーゼ−
【0016】
人工椎間円板プロテーゼは大きく2つのタイプに分けられる、即ち総円板プロテーゼ(total disc prosthesis)と核プロテーゼ(nucleus prosthesis)である。総円板プロテーゼは椎間円板全体を置換するものであるのに対し、核プロテーゼは髄核のみを置換する。
【0017】
各プロテーゼは変性した椎間円板の生体力学を復元するために、椎間円板の各部分のみを置換するように設計されている。核プロテーゼにはいくつかの異なるタイプの設計がある。そのいくつかは人体に対して臨床的なテストが行われており、重大な問題が見つかっている。即ち例えば、突出および/または移動および/または沈下および/または椎体終板の好ましくない変化などである。核プロテーゼには外科的にインプラントするために線維輪の多くの部分の切除を必要とするものもある。これは更なる椎間円板の不安定化を引き起こす。これは核プロテーゼが特に線維輪の機能回復を目的として設計されているわけではないからである。ほとんどの核プロテーゼは、髄核の損傷が全くないか最小限の損傷しかない椎間円板変性の初期段階のものに指示されるものである。現在の核プロテーゼ設計は、核キャビティ内の非圧縮性の静水圧の生体力学的効果を再現するために、3つの異なるアプローチを用いている。1つのアプローチは1つ以上のキャビティ(バルーンやブラダ(嚢袋)など)を用いるものであり、該キャビティを健康な組織への損傷を最小限にする外科的手法を用いて椎間円板内に設置した後、流体や気体などの注入可能な物質で満たして膨張させる。別のアプローチでは、脱水したあるいは部分的に脱水した親水性の物質をバルーン即ち強靱なジャケットに入れて、開放外科処置(open surgical exposure)により髄核キャビティ内にインプラントし、そこで水分を供給する。また別のアプローチでは、重合可能な生体材料を髄核キャビティ内に注入し、そこで適切な形状に重合させる。
【0018】
しかしこれらの従来技術設計は問題がある。球形または卵形の設計では、プロテーゼと椎体終板との間の接触面積が比較的小さくなりがちであり、それにより応力集中および/または沈下および/または終板反応(endplate reaction)を生じさせる。球形バルーンプロテーゼは屈曲時に椎間円板壁の後方膨出を引き起こす場合があり、それにより後側線維輪に異常な応力を発生させ、突出や移動を起こしやすくする可能性がある。従って、これらの設計は、線維輪に損傷が全くないか、あるいは最小限の線維輪損傷しかないような椎間円板に対してのみ指示される。
【0019】
椎間円板プロテーゼの別の設計は「カプセル」プロテーゼである。このようなプロテーゼは多少の線維輪の損傷を含む広い範囲の椎間円板変性に対して指示される。しかし、このタイプの器具をインプラントする外科的な処置は線維輪の更なる損傷を生じさせ、また椎間円板内における安定性がよくない。更に、このようなプロテーゼは天然の椎間円板の生体力学を復元しない。このようなプロテーゼは十分な接触面積を持たず、終板内で沈下や術後の変化を引き起こし、回転中心や瞬間的な回転軸が正常な場合と極めて異なっているために、生理に合わない運動パターンを生じさせる傾向がある。
【0020】
流体、気体または生体材料を膨張可能な核プロテーゼに導入した場合には別の問題が起こる。このような物質は本来的に等方的に機能する。ある一点に加わった圧力は該物質の他の部分にも等しく作用する。一般にこの装置を膨張させると、椎体終板に接触するのは小さな表面積のみであり、そのため応力集中が起こる。更に、このような装置の壁は後輪裂(posterior annular fissure)のような抵抗の最も小さい所に向かって膨出する傾向を持つ。
【0021】
従って、これまで入手可能なプロテーゼの短所を持たない椎間円板プロテーゼが、引き続き必要とされている。
【発明の開示】
【0022】
椎間円板の髄核を置換するための人工器官インプラントは、
断面が円板状でそれぞれ前後方向径が横方向径よりも小さい、上側と下側の端部壁と、
上側端部壁と下側端部壁の周縁を接続し、実質的に非圧縮性液体または柔軟なプラスチック材料で満たされた内室を包囲する砂時計形の側壁とを有する。
【0023】
人体の椎間円板全体を置換するための総プロテーゼは、
中心キャビティを包囲し、上面と下面と側面とを有し、第1の生体適合性材料からなり、天然の椎間円板の髄核を近似する形状および大きさを有する輪状コアであって、該第1の生体適合性材料は天然の人体椎間円板の線維輪の弾性率に近い弾性率を有するエラストマーである輪状コアと、
輪状コアの上面および下面にそれぞれ固定される上側および下側移行板であって、第1の生体適合性ポリマーよりも大きなデュロメーター硬度を有する第2の生体適合性材料からなる上側および下側移行板と、
隣接する脊椎と接触するようになされ、かつそれぞれ上側および下側移行板に固定される上側および下側終板と、を有する。
【0024】
このように、本発明の1つの目的は、人体の椎間円板を置換するプロテーゼを提供することである。
【0025】
更なる目的は、人体の椎間板を置換するプロテーゼであって、人体の椎間円板の構造と機能に正確に対応するプロテーゼを提供することである。
【0026】
また別の目的は、髄核を置換する構造を含む、人体の椎間円板を置換するプロテーゼを提供することである。
【0027】
また別の目的は、髄核を置換する砂時計形の構造を含む、人体の椎間円板を置換するプロテーゼを提供することである。
【0028】
また別の目的は、人体の椎間円板の髄核を置換するプロテーゼを提供することである。
【0029】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、天然の髄核を模倣する形状と機能を有するプロテーゼを提供することである。
【0030】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、天然の髄核に似た砂時計形の形状を有するプロテーゼを提供することである。
【0031】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、健康な組織の損傷を最小限にする外科的技法によりインプラントすることのできるプロテーゼを提供することである。
【0032】
また別の目的は、人体椎間円板の髄核を置換するプロテーゼであって、健康な組織の損傷を最小限にする外科的技法により挿入するために折り畳み可能であり、インプラント後に膨張可能なプロテーゼを提供することである。
【0033】
本発明のその他の目的は以下の本発明の説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明は人体の椎間板の髄核を置換するプロテーゼ、および椎間板全体を置換するプロテーゼを含む。
【0035】
図1A乃至1Dは、2つの椎骨100の間に位置する天然の椎間円板120を、断面において示している。図1Aは脊椎の脊柱が中立的な位置にあるときの椎間円板120の構成を示す。図1Bは椎間円板の拡大断面図であり、天然の線維輪116に取り巻かれた天然の髄核122を示している。天然の線維輪の内側に張り出した内壁124によって形成される、天然の髄核の砂時計形状を見て取ることができる。図1Cは脊椎が屈曲し、線維輪116の前縁を圧縮し、内壁124を内方に張り出させ、線維輪116の後縁が伸張したときの椎間板の構成を示している。その結果、図に示されるように、回転中心は後方に移動する。逆に図1Dに示すように脊椎が伸展しているときには、線維輪116の後縁が圧縮され、前縁が伸張されて、回転中心は前方に移動する。
【0036】
線維輪116の内壁の形状および線維輪内の髄核の砂時計形状は、図4に示す天然の椎間板の椎間板造影画像に示されている。この画像では適切な造影剤を用いてX線により構造を可視化している。
−髄核プロテーゼ−
【0037】
本発明の髄核プロテーゼは、病変のあるあるいは変性した天然の髄核を除去した後にそれを置換するための、および椎間円板の最小限ないしある程度損傷した線維輪を部分的に置換するための体内プロテーゼである。この装置は天然の軟骨椎体終板と関節結合するよう設計されている。装置は薄い可撓性の壁を有し、該壁の形状は天然の髄核の形状を模倣し、かつ液体や気体または柔軟な合成ポリマーを満たすことのできる中空キャビティを取り囲み、天然の髄核の粘弾性的な動作を模倣するようになされている。この装置は、膨張させると所定の形状と外形を有する膨張可能なバルーンと考えることができる。装置は3つの要素を含む、即ち2つの終板部および「亜鈴」または「砂時計」形状の中間部である。装置は完全に膨張させた状態でインプラントしてもよいし、折り畳んだ(つぶれた)状態でインプラントし、インプラント後に膨張させてもよい。2つの横安定化コード(紐)を設けてもよい。これらのコードの1つは膨張のための核プロテーゼキャビティへのアクセス路として設けてもよい。
【0038】
髄核プロテーゼを完全に膨張させると、終板部(上側および下側)は概ね同等の形状となり、それぞれ椎骨側で凸となるドーム形状を有し、接触するホスト椎体終板に倣うように構成されている。下側終板の最大深さの平均は約2.0mmであり、上側終板の最大深さの平均はおよそ約1.2mm(一般的に0.6mm乃至1.5mm)である。このプロテーゼの終板部は典型的には中間の側壁よりも厚い層またはデュロメータ硬度のより高い生体材料からなる。また、終板を繊維補強してもよい。好適には終板部は中間部の側壁よりも硬くしプロテーゼを膨張させたときにドーム形の外形を所定の程度維持するようにする。断面あるいは平面図において、髄核プロテーゼの終板は「ディスク(円板)状の」形状を示す。終板ディスクの接触領域、即ち椎体終板との接触領域の大きさは、典型的には椎体終板断面積の約30%乃至60%である。個々の患者におけるこの装置の終板部の接触面積は、ホスト椎骨の大きさと核/円板の変性程度によって決められる。一般的に、変性のひどい椎間円板ほど大きくする。従来の髄核を置換する球形または卵形のプロテーゼとは異なり、本発明の髄核プロテーゼは幅広い範囲の終板接触面積を提供することができ、椎間板変性の様々な段階に対応できる。椎間円板の変性の程度が進むにつれて核キャビティが大きくなり、線維輪の重量支持能力は低下する。核キャビティ内にプロテーゼを設置したとき、プロテーゼ終板の凸部の最大深さは椎体終板の前後方向(A-P:antero-posterior)寸法において後側60%の位置にある。ドームの頂上即ち頂点は中−横方向(M-L: medial-lateral)寸法の中央に位置する。
【0039】
中間部は砂時計形とし、線維輪の正常な解剖学的構造に適応し、かつ曲げに際して側壁の過度の張り出しを防止するようにする。砂時計部の壁厚は壁の横部の前側と後側で変化させて所望の形状と外形とすることができる。中間部のこの構成は、運動に際して正常な椎間円板の場合と同様に線維輪が内方に張り出すことを許容する。中間部のこの外形はまた、圧縮荷重の下での屈曲−伸展および横曲げ時に、プロテーゼの砂時計形の外形と線維輪(中央部でより大きい厚みを有する)の相補的な形状(花瓶形とも表現される)とが組み合うことにより、核プロテーゼを安定化させる。装置はキャビティを膨張させるために取り付けられたバルブ機構を有する。バルブからの延長チューブを、線維輪壁を介して円板の外部へと導いてアクセスを容易にしてもよい。片側に1つずつ、2つのチューブを用いてもよい。これらのチューブは、外側端部を椎間円板の外壁に固定した際に、プロテーゼを椎間円板内で安定化する構造として機能させることができる。
【0040】
終板部の形状および「砂時計」形の中間部は、好適には厚さおよび/または硬度の異なる弾性ポリマー、例えばポリカーボネイト−熱可塑性ポリウレタン混合物などで構成してよい。
【0041】
この装置は好適には折り畳み可能で、チューブ状に丸めて後−横線維輪の鈍的な孔(blunt hole)を通して挿入することができる。核キャビティ内にインプラントした後、流体即ち生体適合性のポリマーによって膨張させ、所期の形状および外形とする。所期の形状および外形は、装置の異なる部位において様々な厚さ、硬度あるいは剛性を有する生体適合性のポリマーによって装置をモールドすることによって実現する。圧縮曲げおよび軸方向荷重の下での装置の変形特性は、装置の様々な部位で剛性を変えることにより制御することができる。
【0042】
髄核プロテーゼはシリアルカニューレ(serial cannulas)を介した、あるいは健康な組織の損傷を最小限に抑えた外科的な手法による径皮的な方法を用いてインプラントすることができる。椎間円板の後−横部を介して挿入される径を次第に大きくした一連のプローブおよびカニューレによって輪孔を拡張した後に、核キャビティ内にバイポータルスコープ(bi-portal scope)を導入してもよい。上側および下側核キャビティから変性/損傷した物質を取り除き、線維輪の中間部はそのままとする。髄核プロテーゼ装置をカニューレを介して導入し、その後生体適合性の流体、即ち適切な生体適合性粘弾性ポリマー物質によって膨張させる。1つ以上の非吸収性の保持縫合線、コード、チューブなどにより髄核プロテーゼを更に安定化してもよい。これらを装置に取り付け、かつ椎間円板外部に取り出して、椎間円板外部の例えば骨や適切な軟組織などの構造に留める。好適にはこのような縫合線を髄核プロテーゼの各側に1本ずつで2本用いる。このような安定化要素の1つ以上を、それを介して髄核プロテーゼを膨張させるチューブとすることもできる。
【0043】
髄核プロテーゼの好適な実施形態は、残存する天然の線維輪と髄核プロテーゼによって構成される椎間円板であれ、椎間板全体を置換する人工線維輪によって構成される椎間円板であれ、椎間円板全体をできる限り自然に機能させるように設計されている。
【0044】
従って、本発明の髄核プロテーゼは、それが完全に膨張せられたときに、天然の髄核の形状および外形に合う形状および外形を有するように設計されている。これはプロテーゼの異なる部位を異なる粘弾性を有するように構成することによって実現される。例えば、以下により詳細に説明するように、プロテーゼの異なる領域を、装置の異なる部位、例えば壁の異なる部分のための異なる厚さまたは硬度の物質でモールドすることができる。
【0045】
髄核プロテーゼの頂部および底部板は、好適にはそれらが接触する椎体終板の外形にできる限り忠実に倣う外形とする。そのように設計することにより、髄核プロテーゼと椎体終板との間の接触面積を可能な限りで最大とすることができ、それによって界面における応力集中を最小化し、プロテーゼの沈下を最大限に防止する。
【0046】
終板は横断面において円盤状の形状であり、好適にはそれが接触する脊椎面と一致する形状および外形を有するようにモールドする。特に、好適には接合相手の椎体終板に合うように、様々なサイズの髄核プロテーゼの終板を準備する。プロテーゼ終板の典型的なサイズは、接合相手の椎体終板の断面積の30乃至60%とである。しかし外科的に修復された椎間円板内で十分な生体力学特性を実現するために必要で有れば、それよりも大きくしてもよい。より大きなサイズのプロテーゼ終板は、核キャビティがより大きくかつ線維輪の損傷がより大きい、より進行した椎間円板変性に対して指示される。このような場合、損傷したおよび/または変性した線維輪の重量支持能力は低下しているので、椎体終板の破損を防止するために椎体終板とプロテーゼ終板との間の接触面積を相対的により大きくする必要がある。
【0047】
好適には、髄核プロテーゼの終板は終板を連結する壁よりも高い剛性をもたせる。これはたとえば、厚みをより厚くすることにより、より硬いプラスチック材料、即ちより大きなデュロメータ硬度を有する材料を用いることにより、あるいは繊維で補強することなどにより実現する。より好適には、プロテーゼ終板に、圧縮負荷あるいは圧縮−曲げ負荷が加わった際にプロテーゼと椎体終板の界面の応力分布を一様にするのに十分な剛性をもたせる。
【0048】
好適には、各髄核プロテーゼ終板は接合相手の椎体終板の対応する外形に適合する外形を有する。典型的には髄核プロテーゼ終板の椎体終板へ向かう凸形状の深さは、上側終板で平均1.2mm(約0.7mm乃至約1.5mmの範囲)、下側終板で平均2.0mm(約1.5mm乃至約2.5mmの範囲)である。凸形状の最大深部はおよそ左右寸法の中央、かつ前縁から後方に向かって前後方向寸法の約60%の所に位置する。熟練した者であれば理解するように、特定のプロテーゼの特定の寸法は、プロテーゼを用いる患者の椎間板に最もよく適合するように、適宜変更される。
【0049】
髄核プロテーゼの中間部は、正常な椎間円板の生体力学をできる限り忠実に復元するように設計された、特徴的な「亜鈴」または「砂時計」形状を有している。この点において、本発明のプロテーゼは、従来公知の設計よりも、正常な機能をより忠実に近似していると考えられる。この砂時計形状はまた、円板内でプロテーゼを安定させ移動や突出を防止している。好適には、中間部の側壁の凹み(くびれ)を、前側、後側、横側の壁でそれぞれ異なるようになす。横壁の凹みは前壁の凹みより小さい。従って、前壁と後壁は曲げに際して横壁よりも変形する傾向を有する。これは脊椎は特定の脊椎分節において、横曲げよりも屈曲/伸展の方が広い運動範囲を持つからである。更に、線維輪の前壁は後壁よりもかなり厚いので、圧縮−屈曲に際してより多くの移動空間を必要とする。
【0050】
本発明の髄核プロテーゼは、健康な組織の損傷を最小限とする外科的手法によるインプラントを可能にするように、好適に折り畳み可能である。椎間円板キャビティ内にインプラント後、このような折り畳み可能なプロテーゼに充填物質を注入して膨張させる。充填物質は例えば、液体や流体物質、流体状態の重合可能なあるいは硬化可能な物質、合成ヒアルロン酸、等である。充填剤は従来のいかなる手法により導入してもよい、即ち例えばシリンジおよびニードルその他のカニューレを用いて、あるいはプロテーゼの横壁に取り付けられ、プロテーゼの充填完了後にバルブ機構またはその場での生体材料シーリングによりシールされる1つ以上の延長チューブを介して導入してよい。好適な実施形態においてこのような延長チューブを用いる場合には、プロテーゼを更に安定化させるために、一対のそのようなチューブまたは同等のコードなどを、好適には片側に1つずつ、椎間円板の外部において固定する。
【0051】
本発明の髄核プロテーゼは、これまで知られているプロテーゼに比べて、より様々な変性段階の椎間円板に対して、広く指示される。一般的にプロテーゼと終板の接触がある程度限られた面積で生ずる球形または卵形のプロテーゼと異なり、本発明の髄核プロテーゼは広い範囲の終板接触面積を許容し、様々な程度の椎間円板変性に適応する。
【0052】
本発明の髄核プロテーゼを図2A乃至2Dおよび図3A乃至3Cに示す。
【0053】
図2Aは髄核プロテーゼ200の平面図である。図2Bは本発明の髄核プロテーゼ200の正面立面図である。図2Cは髄核プロテーゼ200の正面立面断面図である。図2Dは髄核プロテーゼ200の左側立面図である。髄核プロテーゼ200は頂部壁周縁部204を有する頂部壁即ち終板202と、底部壁周縁部208を有する底部壁即ち終板206と、頂部端壁周縁部204と底部端壁周縁部208との間に延在する側壁210とからなり、上に述べたような適切な、ほぼ非圧縮性の流体または粘弾性物質で満たされた内室212を封入している。頂部端壁202および底部端壁206は平面形状であり、それぞれ上位、下位の脊椎の椎間板との界面の天然の髄核の水平断面と同じ形状となっている。従って、頂部端壁202と底部端壁206の平面形状は、ある種の平坦ディスク形状であり、横方向(即ち左右方向)の寸法が前後方向の寸法(端壁の前縁216、218から後縁220、222までの寸法)よりも大きい。平面形状の後縁は、少なくとも近似的に、天然の髄核の断面に倣うように反っている。頂部端壁202および底部端壁206は典型的かつ好適には同形状、同サイズである。しかし特定の患者に適合させるために形状およびサイズをある程度異ならせることを排除するものではない。
【0054】
髄核プロテーゼ200の側壁210は砂時計または亜鈴形であり、これは少なくとも近似的に髄核の天然の形状を模倣しており、それによって天然の髄核の置換を提供する。天然の髄核の形状は例えば図4の椎間板造影画像に示されている。従って、上端部壁202と下端部壁206に隣接し取り付けられる側壁210の上位および下位部分は、それぞれ上壁202、下壁208の対応する寸法を近似する断面を有しており、他方で中間の腰部224は側壁210の上位および下位部の寸法よりも小さい断面寸法を有している。髄核プロテーゼの砂時計形状は線維輪の天然の形状と協働し、椎間円板の天然の髄核が与える支持と柔軟性の忠実な置換を提供する。
【0055】
本発明の髄核プロテーゼ200はほぼ非圧縮性の物質で製造されかつ充填され、従来の開放外科技法によりインプラントされるが、髄核を丸めるあるいは折り畳む(つぶす)ことにより空の状態にして、天然の髄核を取り除いて形成したキャビティ内にチューブを介して導入することが好ましい。導入後、髄核プロテーゼ200を広げてカニューレを介して導入した流体物質で充填することによって膨張させる。この物質は、液体またはその場で重合して髄核プロテーゼの適切な充填剤を形成する重合可能な物質としてよい。
【0056】
髄核プロテーゼ200を椎間円板内の意図した位置で支持するために、椎間円板の外部の解剖学的構造に固定して円板を安定化させる1つ以上のコード即ち縫合線226、228を用いてもよい。コード226、228をしっかりと固定する点を与えるべく、側壁210の腰領域224に厚みを厚くした部分230を設けてもよい。
【0057】
典型的には側壁210の横位置236のくびれは、側壁210の前方部238および後方部240のくびれよりも小さい。
【0058】
髄核プロテーゼ200は非圧縮性の流動性あるいは柔軟性を有する物質214で満たされる。これに適した充填剤の代表的なものとしては、生理食塩水、生体適合性オイル、合成ヒアルロン酸/プロテオグリカン混合物、柔軟な生体適合性合成ポリマーなどの液体物質がある。柔軟な固体物質は好適には0〜4Mpaの弾性率とすべきである。特に柔軟な生体適合性合成ポリマーは0〜1Mpaの好適な弾性率を有する。
【0059】
図3A乃至3Cは、椎間円板内の適所に設置された本発明の髄核プロテーゼ200を示す。図3Aは髄核200を破線で示す斜視図であり、椎間円板の線維輪116内での位置を示している。図3B上位および下位の脊椎100の間の椎間円板112内に位置する髄核200の前面を一部断面で示す図である。各脊椎は脊椎縁部(骨端輪)104および椎体終板106を有する椎体102からなる。椎間板に最も近い脊椎端部は部分的に取り去って、椎体100内部の海綿状骨110に裏打ちされた高密度な骨の薄い層108を有する構造を示している。各椎体終板106は薄い軟骨層112で覆われている。椎体終板106の凹状の湾曲はそれぞれの頂点114、即ち脊椎縁部104の縁のなす線から最も遠い点を有している。各椎体終板106の頂点114は、図2Bに示すように脊椎の両側部のほぼ中央にあり、図3Cに示すように一般的に脊椎縁部104の前縁116と後縁118との間の距離のおよそ60%の位置にある。髄核プロテーゼ200の端壁202、206はそれぞれの頂点232、234を有する。この頂点232、234は端壁202、206の周縁がなす線から最大距離の点として定義される。頂点は椎体終板106の対応する頂点114と接触する位置に配置される。
【0060】
−総円板プロテーゼ−
本発明の総円板プロテーゼは、天然の椎間円板の線維輪および髄核の生体力学的特性、即ち運動、衝撃吸収、安定化等と類似の特性を有するエラストマコアを提供するために開発されたものである。このプロテーゼは天然の椎体終板の形態計測学的研究に基づく特定の形状および外形を有する人工椎体終板を組み込んでおり、かつエラストマ円板プロテーゼコアと人工終板との間で関節機能する構造および構成、そして椎骨と人工終板との界面での固定を行うための構造を組み込んでいる。
【0061】
天然の椎体終板の形状および外形についての正確な情報を得るため、腰仙椎椎体終板の形態計測学的研究を新たに行った。
【0062】
これまで腰仙椎椎体の正確な形状、外形、形についての情報は簡単に手に入る状況になかった。そのため、極めて信頼性の高い計測技法を用いて成人の腰椎椎体終板の形態計測学的研究を行った。非接触レーザーセンサ(ブリティッシュコロンビア州デルタ、LMI Technologies Inc.製のLMI DynaVision SPR-04レーザーセンサ)を用いてスキャンすることにより、椎体終板の外形を測定した。椎間円板で満たされた椎間空間に面して対向する椎体終板の典型的なスキャンデータを図5に示す。
【0063】
この研究の結果は、人体の腰椎終板の形態計測学的特徴に関する新たな情報をもたらした。特に、この研究の方法は、従来の研究より更に進み、前後および左右の両方について終板の外形(輪郭)の極めて正確かつ連続的なトレースを行った。一般的に、椎体終板は椎体に向かって凹状に湾曲しており、下側終板の湾曲凹部は上側終板のものとは異なっている。脊椎腰仙部領域の測定結果、より詳しくは第3腰椎の下側終板(L3L)、第4および第5腰椎の上側および下側終板(L4U、L4L、L5U、L5L)、および第1仙椎の上側板の測定結果を表1に示す。
【表1】
【0064】
L3、L4、L5の下側椎体終板の湾曲の最大深さは、平均で1.8mmであり、L4、L5の上側終板では平均0.93mmであった。湾曲の頂点は冠状面の中央、かつ前縁から後縁の平均で60%の所に位置していた。
【0065】
本発明の総円板プロテーゼは3つの部分からなる、即ち1つのポリマー円板コアと2つの椎体終板である。
【0066】
ポリマー円板コアは3つの要素からなる、即ち1つのポリマー輪状部と2つの移行終板である。ポリマー輪状部は好適には生体適合性のポリマーの外壁を有する。この外壁は天然の線維輪の機能的置換品となるような形状および大きさである。即ち、ポリマーコアの横断面は概ね円板状であり、前後方向の寸法より横方向の寸法の方がある程度大きく、後方側においてある程度平坦になっている。外壁は天然の線維輪の径方向厚さをほぼ近似する径方向厚さを有する。以下により詳細に説明するように、外壁は天然の髄核を置換する物質で充填するための中心キャビティを取り囲む。
【0067】
好適には、外壁は断面が「砂時計」または「亜鈴」状となる中心キャビティを与えるような形状とする。即ち、径方向の厚さが上下端面の間の中間において上下面に隣接する部分よりも大きくなるようにする。天然の髄核を置換する内部の「砂時計」形キャビティは流体、オイル、柔軟な生体材料または合成ヒアルロン酸で充填され、キャビティの壁は充填剤を「砂時計」形で閉じこめる。従って、人工輪(輪状部)の外壁は、健康な椎間円板の天然の線維輪が提供する生体力学的特性に見合う適切な厚さおよび剛性を有する。天然の髄核の「砂時計」形状を与える人工輪の中心キャビティは、ポリマーコアの体積の約20〜50%の大きさで、その弾性率(e-value)は0〜4Mpaである。輪状部はポリマーコアの50〜80%を占め、その弾性率は3〜16Mpaである。「砂時計」形の各キャビティを満たす物質は輪状部と同じ種類の物質でもよいが、より柔軟なものとする。あるいは、別の種類の物質としてもよい。ポリマーコアの輪状部は上側および下側の移行ポリマー終板に固着され、これにより核キャビティが輪状部と終板とによって完全にシールされる。移行ポリマー終板はポリマー輪状部にモールドしてもよいし、または適切な生体適合性の接着剤によって接着してもよい。核キャビティの充填は移行ポリマー終板をポリマー輪状部に対してモールドあるいはシールする際に行ってもよいし、または移行終板をポリマー輪状部にシールした後にポートを用いて充填し、充填後に該ポートをシールしてもよい。
【0068】
核キャビティを円筒形、卵形、円盤状とし、それを水溶液やオイル状物質、柔軟な合成または天然の生体材料、例えば合成ヒアルロン酸やポリマー輪状部に用いられているものとは異なる種類の柔軟な合成重合物質などで充填してもよい。
【0069】
本発明の椎間円板プロテーゼの製造に際しては、硬い金属終板と円板プロテーゼのエラストマー状のポリマーコア部分との間に適切なインターフェイスを設ける必要がある。このインターフェイスは、1)金属終板と合成ポリマーコアとの間の大きな硬さの違いによるインターフェイスあるいはその近傍で生じうる応力集中の問題、および2)ポリマーコアの金属終板への接着/固定に関わる問題に対処しなければならない。
【0070】
本発明では、硬い金属終板とより柔軟な合成ポリマーコアとの間に移行ポリマー板を用いる。
【0071】
移行ポリマー板は硬い金属終板の硬度とより柔軟なポリマーコアの硬度の中間の硬度を有する。移行ポリマー板はポリマー輪状部に対してモールドするかあるいはしっかりと固定し、応力集中を生じさせずに応力を滑らかに移行させるようにする。好適には、移行ポリマー板に用いる物質は比較的硬いものとし(ショアA100〜D60)、これにより、金属終板への確実な機械的固定を可能とし、あるいは金属終板との間の接触面において、全臀および膝プロテーゼと同様に、自由な滑動を可能とする。
【0072】
コアの頂部および底部ポリマー終板はコアの輪状部分よりも硬い物質からなり、かつドーム状の金属終板と接触するためのドーム形状を有する。移行終板は好適には、芳香族および/または脂肪族ポリカーボネイト熱可塑性物質−ポリウレタン混合物など、ポリマーコアの輪状部と同じ化学分類に属する物質からなるが、より硬いものとする(デュロメータ硬度100A〜65D)。移行ポリマー板の後端部の厚さは1mm乃至3mmであり、前側壁の厚さは4mm乃至7mmである。好適には移行ポリマー板の合成ポリマー輪状部に面する内側面は平坦とする。移行ポリマー板の前縁と後縁の厚さの違いにより、金属終板は適切な前湾角度(lordotic angle)(5〜15°)で配向される。金属終板は脊椎骨終板に向かって凸になっており、天然の椎体終板についての上記の形態計測学的研究の結果に基づいた、以下に述べる好適な寸法を有している。ポリマー終板、金属終板の横断面形状は共に円板状であり、それらの間の界面においてよく一致する対向面を有することが好ましい。
【0073】
下側終板のドーム部湾曲の最大深さは平均で2mm(1.5〜2.5mm)であり、上側終板の同様の深さは平均で1.2mm(0.7〜1.5mm)である。好適には、最大深さの位置は、椎体終板の前縁と後縁の間で後方側60%の位置にあり、左右側縁の間のほぼ中程にある。従って、ポリマーコアは概ね円板状の断面を有し、かつそれと組み合わせる金属終板の接触面ととほぼ一致する表面積を有する。上述したように、ポリマーコアの中心核キャビティを外科的インプラント前に膨張させても良いし、外科的インプラント後に膨張させてもよい。
【0074】
新たな形態計測学的研究に基づいて、金属終板はそれが接触する椎体終板と最もよく一致する形状と外形を有するように好適に形成される。この金属終板の好適な特徴は以下の通りである。1)上位脊椎の下側椎体終板に面する上側終板は、冠状面(左右方向)の中線上かつ矢状面(前後方向)における前縁から後方に60%の位置において、1.5mm乃至2.5mmの最大湾曲深さを有し、椎体終板に適合する凸形状を有する。2)下位脊椎の上側椎体終板に面する下側終板は、冠状面の中線上かつ矢状面における前縁から後方に60%の位置において、0.6mm乃至2.0mmの最大湾曲深さを有し、椎体終板に適合する凸形状を有する。適合を最適化するために、天然の椎体円板を削り金属終板と一致させてより滑らかな接触面をあたえる。
【0075】
金属終板の形状は天然の椎体終板と同様である。即ち、金属終板の湾曲部の平均サイズは短径(前後方向)がおよそ2.5cm(2.0〜3.0cm)、長径(左右方向)がおよそ3.0cm(2.5〜3.5cm)である。終板は個々の患者において、その接触面積、即ちプロテーゼの終板が接触する椎体終板の面積が椎体終板の断面積のおよそ30〜100%となるような大きさとする。好適には接触面積は椎体終板の断面積のおよそ30〜80%である。金属終板は好適にはその前縁の板中心線上に前後方向に配向されたほぼ垂直なフィンを有する。このフィンは椎骨の前側に形成されたくぼみに嵌合させて、金属終板の脊椎への固定を改善するものである。フィンにスロットを設け、それと係合する付加板の位置決め突起を受容するようにしてもよい。これは後に説明するように、付加板を位置決めするものである。
【0076】
金属終板はCo−Cr合金やチタン合金などの適切な強度を有する生体適合性の金属からなる。頂部および底部終板の椎骨に面する外面に多孔性のテクスチュアを設け、骨の内成長によって確実な固定を助長するようにする。
【0077】
金属終板と移行ポリマー終板とは、互いに対して自由に滑動してもよい。移行ポリマーコア終板に滑らかで特別に硬化された面を設けてこのような滑らかな滑動を容易にするために、移行ポリマー板の金属接触面に従来のイオン化処理を施してもよい。
【0078】
または、後に説明するように、ポリマーコア部の終板どうしを1つ以上の方法によって確実に固定してもよい。
【0079】
各終板システム(金属終板およびそれと接触する移行ポリマー板)は2要素構造(金属終板および移行ポリマー板)としてもよいし、3要素構造(金属終板、1つの移行ポリマー終板および金属製前部付加板)としてもよい。
【0080】
それぞれの構造(2要素構造または3要素構造)において、金属終板の後縁部に椎骨から遠ざかるように湾曲するほぼ垂直な壁を設け、移行ポリマー終板の後縁と係合させてもよい(例えば舌状部と溝として)。
【0081】
後部に凹部を設けた別の実施形態では、金属終板と移行ポリマー終板のプロテーゼ後側4分の1乃至2分の1に「段カット」された嵌合部を設けてもよい。この実施形態では、移行プレートの後部の外側面上に、移行板の後縁から前方にその前後方向径の4分の1乃至2分の1の所に位置する段差から移行板の後縁まで延在する凹部(低くなった部分)を設ける。このように、凹部は移行板の前後径の4分の1乃至2分の1に渡って延在し、凹部の外側面は概ね、かつ好適に、移行板の内表面と平行になっている。段部は典型的には移行板の左縁から右縁まで延在する。段部は移行板の両側方向(横方向即ち冠状方向)の径にほぼ平行な直線状の段差としてもよいし、あるいは湾曲していてもよい、即ち移行板の前部に向かって凹または凸となっていてもよい。更に、段差部の面は凹部の外側面(および移行板の内側面)とほぼ垂直であってもよいし、前後方向に傾斜していてもよい。即ち、段差部を横方向から見ると、ベベルを設けたプロファイルまたはアンダーカットしたプロファイルとなるようにしてもよい。
【0082】
後方に凹部を設けた実施形態では、一般に金属製のプロテーゼ終板は、移行板の外側面上の段差に対応しほぼ適合する内側に段差のついた肉厚後部を有する。好適には移行板の外側面の段部とプロテーゼ終板の内側面の段部とをアンダーカットし、移行板とプロテーゼ終板との間に積極的な機械的結合を与える。移行板とプロテーゼ終板の合致する横方向段部の与える積極的な機械的相互ロックは、両板間のねじり回転を最小化するあるいは防止する強力な規制をもたらす。更に、この実施形態では、プロテーゼ(金属)終板の後縁の湾曲フック延長部を設ける必要がなく、かつ移行板の後縁を輪状部の後縁よりも突出させる必要がない。従って、この構成は、椎間空間での位置決めに適したプロテーゼを提供し、金属終板の頂点が好適な位置、即ち脊椎の前後方向径において脊椎の前縁から後方に径の60%の位置に位置決めされる。これは特に椎間円板の前後径の小さい患者にインプラントする場合に有用である。
【0083】
2要素構造においては、金属終板は、移行ポリマー板の前部壁の2分の1または3分の1を覆う湾曲した垂直壁を有する。2要素構造においては、金属板の前部は金属終板の湾曲部よりも前側に延在し、かつ湾曲部と連続的(一体)である。この前部領域は椎体の稠密な周縁部に面する。前側延長部の概ね平坦な領域の平均前後寸法は約0.8cmであるが、この寸法はゼロ(前側延長部なし)から約1.2cmの間で変えてよい。前側延長部の平均的な幅はその後部で約3.0cmであり、前方に向かってテーパーを付けられ椎体終板の前縁の輪郭と合致する。金属板と移行ポリマー板とは金属終板の前部垂直壁を移行ポリマー板の前壁に、例えば両側にそれぞれ1つずつとした1つ以上のネジによって留めることにより、互いに固定される。あるいは、後に説明するように、金属終板と移行ポリマー終板とを1本以上のワイヤあるいはケーブルにより締め付ける留め具によって締結してもよい。金属板および移行板の側部付属部に係合するネジにより付加的な固定を行ってもよい。
【0084】
また別の実施形態では、金属終板および移行ポリマー終板を、金属終板の前縁および/または側縁においてバネ式留め具を用いたスナップ嵌合によって確実に係合させてもよい。これらのバネ式留め具はそれだけで用いてもよいし、ネジやケーブルによってバネ式留め具を締めてもよい。
【0085】
3要素構造は、凸形状の金属終板(主金属終板)と、該主金属終板とは別の前側付加板とを含む。金属終板と椎骨との総接触面積は椎骨終板面の50%乃至80%である。ほぼ水平に延在する前側付加板は該前側付加板と垂直で椎骨から離れる方向に突出する湾曲壁を有する。この垂直壁はコアの移行ポリマー板の前部壁と合致するよう湾曲している。前側付加板はまたその中心線上に椎骨の方へ突出し、前後方向に延在する垂直フィンを有する。該垂直フィンは付加板の後縁よりも後側まで延在し、主金属終板の対応するフィンの嵌合ソケットに係合する。フィンの前後方向の全長は椎体の前後長のおよそ3分の1乃至2分の1である。水平前側付加板は、円板空間から骨内に向かうネジによりこの板を椎体終板に対して固定するためのネジ孔を、その中心線の両側にそれぞれ有する。前側付加板の湾曲した垂直壁はまた、前側板を移行ポリマー終板に固定するためのネジ孔を、例えばその中心線の両側にそれぞれ備えてもよい。移行ポリマー終板内に雌ネジをモールドにより設けてもよい。
【0086】
総円板プロテーゼの3要素構造は、再手術が必要な場合に、そのコア部分を取り外して取り替えることができるようになっている。現在入手できる円板プロテーゼの1つの補修あるいは取り替えが必要になった場合、以前にインプラントしたプロテーゼのすべての要素を取り外すことは非常に難しい。現在の総円板プロテーゼのほとんどのすべての設計では、金属終板は該金属終板にロックされた即ち固定された媒介位置決め部材を用いて椎骨に固定される。このようなプロテーゼを取り外すには、プロテーゼを壊して金属終板を骨から取り外さなければならない。これはインプラントサイトにおいて修理するための備えがなされていないからである。明らかにこのような手術は困難であり、かつ更なる外傷を与える可能性がある。
【0087】
前側付加板を移行ポリマー板および金属終板に固定するために、プロテーゼの両側に取り付けたフィンおよび/またはネジ・ワイヤ・ケーブル式のロック機構の係合を用いた、別のあるいは付加的な固定方法を用いてもよい。
【0088】
本発明のプロテーゼの一実施形態では、金属終板、移行ポリマー板、前側付加板に側方延長ブロックを設ける。側方延長ブロックは円板プロテーゼの両側それぞれにネジまたはケーブルまたはワイヤ用の孔を有し、該孔は外科的手術時に終板およびコアの3円板を組み付けると整列する。ネジ、ワイヤ、ケーブルやセルフロック装置により、これら3つの要素を緊密に締結する。
【0089】
この実施形態の設計において、移行ポリマー板とスナップ嵌合するための湾曲した翼部を金属終板の周縁に設けてもよく、かつ上述のように、この翼部を取り巻くワイヤあるいはケーブルにより更に締結してもよい。
【0090】
総円板プロテーゼのこの実施形態では、金属終板を損なうことなくポリマーコアを取り去ることができる。コアを取り去るには、前側付加板を残りのドーム形金属終板から外すが、移行ポリマー終板に対しては上に述べたようにネジおよび/またはワイヤおよび/またはケーブルにより固定したままとする。別の方法としては、前側付加板をドーム形主金属終板から取り外すことにより、インプラントされた主金属終板を取り外すことなくポリマーコア要素を取り去るあるいは交換するためのアクセス窓をあけてもよい。新たなポリマーコアを挿入した後、上に述べたようにワイヤ、ケーブルまたはネジなどで前側付加板を再び取り付けることができる。従って、本発明の総円板プロテーゼのこの実施形態では円板プロテーゼを容易に修復することが可能となる。
【0091】
本発明の総円板プロテーゼは、人工終板の形状および外形が天然の椎体終板に最高に適合するように一致していることにより、金属終板と椎体終板が極めてよく嵌合するので、均一な応力伝達および長期に渡る装置の生体内での安定性をもたらす。
【0092】
総円板プロテーゼの実施例を図6乃至16に示す。
【0093】
総円板プロテーゼの図示実施例は円板コア400、上側および下側移行板406および408、金属終板502および504を有する。円板コア400は核キャビティ404を取り巻くポリマー輪状部402を有する。ポリマー輪状部402は健康な天然線維輪の断面と概ね類似した断面を有する。その各寸法は特定患者の天然の線維輪を置換するように設計される。従って、ポリマー輪状部402の横寸法は約2.5cm〜約4.0cmの範囲であり、前後寸法は約1.4cm〜3.0cmである。ポリマー輪状部402の厚さは、インプラントしたときに総円板プロテーゼの全体の厚みが、被施術者の天然の椎間円板が変性する前における椎間空間とほぼ等しい椎間空間を提供するように、あるいは少なくとも天然の椎間円板の変性によって生じた症状を軽減するように選定する。典型的にはポリマー輪状部402の上面から下面までの厚さは約0.4cm〜約1.2cmである。ポリマー輪状部402の中心の核キャビティ404の横断面は健康な天然髄核の断面と概ね同じである。核キャビティ404は生体適合性の非圧縮性の物質410でみたされる。該物質は生体適合性のオイルや柔軟な生体適合性のポリマーなどとすることができる。中心キャビティはポリマーコア400の体積の約20%〜80%を占め、上側および下側の移行板406および408との接触領域412および414は平坦で、その中心は移行板406および408の前後端416および418の中程にあり、かつ移行板406および408の横方向端420および422の中程にある。核キャビティ404の上下端の断面は円板形状である。核キャビティ400の腰部領域424の横断面は、核キャビティ400の上下端の横断面のおよそ30%乃至80%である。核キャビティ404は移行板406および408によってシールされ、該移行板はポリマー輪状部402の上面および下面426、428に対して、モールドにより、あるいは適当な生体適合性接着剤によりシールされる。
【0094】
図16に示す別の実施例として、核キャビティ404Aは概ね垂直な壁を有し、円板状断面のほぼ円筒形のキャビティを形成し、上端と下端の間の中間部がはっきりとしたくびれ形を持たないように構成してもよい。
【0095】
核キャビティ404を生体適合性オイルまたは柔軟なあるいは液体のポリマー物質で満たしてもよい。このポリマー物質は輪状部402を形成するポリマーと同じ類の化学組成であってもよいし、あるいは化学的に異なる物質であってもよい。例えば、輪状部がA70〜A90のデュロメータ硬度を有するポリカーボネイト−ポリウレタン混合物である場合、核キャビティの充填に用いることのできる、デュロメータ硬度がA70以下の柔軟性を有する商業的に入手可能な共重合体は存在しない。従って、このような輪状部402に対してはデュロメータ硬度がA70未満の化学的に異なる種類のポリマー、例えばシリコーンベースのポリマーを用いて核キャビティを充填しなければならない。
【0096】
ポリマー輪状部402は好適にはデュロメータ硬度A70〜A90の生体適合性ポリマーで形成する。ポリマー輪状部402の形成に好適なポリマーは、生体適合性のポリカーボネイト・ポリウレタン配合物である。ポリマー輪状部402の外縁は円板状であり、また内壁は核キャビティ404を画成する。好適には核キャビティ404は砂時計または亜鈴形状とする。ポリマー輪状部の体積はポリマーコア全体の体積のおよそ20%乃至80%であり、これはポリマー輪状部の硬さおよび核キャビティ404を満たす物質の硬さによって変わる。ポリマーコア400の総体積のおよそ20%乃至50%の体積で非圧縮性の流体で満たした核キャビティ404を有するようポリマーコア400を構成し、ポリマー輪状部402の体積をポリマーコア400の総体積のおよそ50%乃至80%としてその弾性率をおよそ3〜16Mpaとすると、圧縮、圧縮曲げおよびねじりについての生体力学的特性が、脊椎の腰仙部の天然椎間円板と概ね同等のものとなる。(なお、流体物質は弾性率を持たない。)ポリマーコア400の総体積のおよそ20%乃至50%の体積で、弾性率1〜4Mpaの柔軟なポリマーで満たした核キャビティ404を有するようポリマーコア400を構成し、ポリマー輪状部402の体積をポリマーコア400の総体積のおよそ50%乃至80%としてその弾性率をおよそ4〜16Mpaとすると、流体で満たされたコアを有する線維輪の生体力学的特性を与える。一般的に、非圧縮性の流体で満たした中心キャビティ404を有するポリマーコア400の方が、ポリマー輪状部より柔軟な(弾性率の低い)ポリマーで満たした中心キャビティを有するポリマーコアよりも優れた滑り特性(creep behavior)を有する。従ってそのようなポリマーコア400は好適な実施例となる。
【0097】
移行終板406および408は、好適にはデュロメータ硬度がA100〜D70の範囲にあるポリカーボネイト・ポリウレタン配合物などの比較的硬い生体適合性ポリマーで形成し、ポリマー輪状部402にモールド可能なものとする。ポリマー終板406および408は、ポリマー輪状部402とほぼ同じディスク状の横断面形状であるが、輪状部402の後縁430をこえて延在する後側舌状延長部432および434を有する。
【0098】
移行板の外側面436および438、即ち椎骨に面する面は終板502、504に向かって凸となっている。移行板406および408のポリマー輪状部402に面した内側面440、442はほぼ平坦でポリマー輪状部402の平坦な上面および下面に適合し、かつモールディングや接着などの従来手法によってポリマー輪状部の表面にシールされる。好適には移行板406、408の内側面440、442はポリマー輪状部の上面および下面426、428にモールドする。
【0099】
移行終板406、408の一方または両方において、輪状に隆起させた突起444(図16に断面で示されている)をポリマー輪状部402に面する面上に設けてもよい。この突起444はポリマー輪状部の上面および/または下面においてポリマー輪状部の内壁に勘合して、ポリマー輪状部402と移行板406、408を整列させ、またより強力および/またはより確実なシールを形成する。このような突起により、輪状部と移行板との間のインターフェイスが、特にねじりおよび剪断に関して安定なものとなる。
【0100】
移行終板の後側部分は相対的に薄くなっており、厚さが1〜3mmの範囲であるのに対し、移行終板の前側部分はある程度厚く、4〜7mmの厚さである。移行終板406、408の前縁416と後縁418のこのような厚さの違いにより、(例えば図11からわかるように)円板プロテーゼの前湾角度(lordotic angle)448を個々の患者に合わせて変えることができる。
【0101】
円板プロテーゼの終板502および504は適切な強靱かつ生体適合性の物質からなる。終板は好適にはチタン、ステンレススチール、Cr−Co合金などの金属製である。典型的には終板の厚さは一様である。本発明の円板プロテーゼの上側および下側金属終板502、504は椎骨に向かって凸となっている。凸形状の最大深部(頂点516)位置は冠状面(左右)内で終板の側縁の中線上、かつ矢状面(前後)内で終板の前縁から後方に60%の位置にある。凸形状の高さは典型的には、上側終板502でおよそ1.5mm〜2.5mm、下側終板でおよそ0.6mm〜2.0mmである。
【0102】
各終板の内側面514は、隣接する移行終板の外側面と滑らかに接するように、高度に研磨することが好ましい。各終板の外側面512には、骨の内成長のために多孔性のテクスチュアを設けることが好ましい。
【0103】
各終板の後縁508には、移行板に向かって曲げられ、あるいは移行板に向かって延在し、ポリマー輪状部402の後縁418を越えて延在する移行板の後縁を「舌状部と溝」式係合により受容する溝を形成する延長部522が設けられている。
【0104】
金属終板502、504の一方または両方の前側の中線位置には椎骨に向かって延在するフィン518が設けられている。このフィン518は椎体終板の前側の中線位置において椎骨に形成した切り込み即ち凹部に係合する。各主金属終板502、504のフィン518は二重壁になっており、後述するように前側付加板602の係合フィン612を受容するスロット520を形成している。
【0105】
各前側水平付加延長板602は、好適には同一の物質、例えば主金属終板と同様に金属などで作られ、ほぼ同一の厚さを有する。各水平付加板の後縁606は主金属板の前縁506の水平曲率と一致する。付加板の前縁604もまた湾曲しており、プロテーゼの中心線において前後方向深さを与える。従って、水平付加板602の前後寸法は中心線において最大となり、各側で前縁604から横後方縁606に向かってテーパが付いている。各水平付加板は、隣接する脊椎とは反対側に、付加板602の湾曲した後縁606に沿って延在する湾曲した垂直板610を有する。湾曲した垂直板610は移行板406、408の前縁416の湾曲および厚さに適合する。移行板406、408の前縁416にねじ入れる、あるいは移行板の前縁に設けたネジ孔に螺合させるネジ用の孔を、湾曲垂直板610に設けてもよい。典型的には湾曲垂直板610のそれぞれに、中心線の各側に配置した2つのネジ孔620を設ける。
【0106】
図示の実施例では、終板502とそれに対応する付加板602、および隣接する移行板406は、それらの側縁に設けられ、これら板を組み付けると整列して固定ネジ526を受容するようになるスリーブを有する。
【0107】
別の方法としては、ネジスリーブとネジを用いる代わりに、図18および詳細図19に示すように、T字形末端部530または、それと同等の構造を有するワイヤあるいはケーブル528をスロット付きスリーブ526、448および622に通し、参照符号532で図式的に示すような従来の締め具を用いて、ねじるなどの従来の手法で締結することによって、終板502、移行板406および付加板602を互いに固定してもよい。
【0108】
また、移行板406、408の前壁に設けたくぼみにスナップ式に嵌る可撓性あるいはバネ式の付属部(図示せず)を水平付加板602の湾曲垂直板610に設けてもよい。
【0109】
また別の実施形態では、主金属終板を一体構造として、移行板の後縁を受容する溝を有する後側延長部を設け、かつ移行板の前縁および/または側縁の対応するくぼみおよび/または溝とスナップ係合する可撓性あるいは弾性の付属部をその前縁および側縁の選定した箇所に設けてもよい。
【0110】
移行板が金属終板にスナップ留めされる実施形態では、スナップ係合付属部に締結ケーブルを受容するスロットを設けて、更に固定してもよい。この締結ケーブルは、該ケーブルの各端部をスナップ係合付属部のスロット内で固定するための、ケーブルに垂直に延在する端止め構造を有する。ケーブルを付属部のスロット内に設置し、結ぶ、ねじる、クリンプする等により、またはその他の従来のセルフロック機構を典型的には総円板プロテーゼの略前側部に設けることにより締結する。
【0111】
また別の方法として、あるいは上記に加えて、金属終板とそれに対応する移行板と前側付加板とを、ネジで締結する側方付属部を用いて互いに固定してもよい。このような実施形態では終板と移行板と付加板とが正しく整列すると、例えば組み付けネジを受容する貫通孔やネジの端部の螺条を受容するネジ孔を有するスリーブなどの付属部が一線に並ぶようになっており、そこで組み付けネジを挿入して締め付けることによりこれら板を堅固に固定する。スリーブは、例えば金属終板および移行板の前横部分と付加板の後横隅に設け、かつ、これら板を適切に組み付けるとネジ孔が整列するような方向と位置に設ける。また、このようなスリーブあるいは類似の付属部にスロットを設け、上に説明したようにワイヤやケーブルを通して固定できるようにしてもよい。
【0112】
「段カット」した後部を用いた移行板−終板構造の別の実施例700を図20乃至図30に示す。この実施例では、前縁856、後縁858、側縁860を有する移行板850(図20〜図23)に、側縁860間に延在する段部862を設けている。段部862は図21に示すようなアンダーカットとしてよい。外表面の窪んだ後部864は段部864から移行板850の後縁858まで延在する。以下に説明するように、側壁866は外側終板702のスナップ式付属部722を受容するための周辺溝868を有する。
【0113】
移行板850に締結される終板702は前縁706、後縁708、側縁710を有する。終板702の外側面712は、例えば多孔性の骨内成長のためのテクスチュアを設けた表面とし、椎体終板への良好な固定を確実なものとする。内側面714には移行板850の対応する段部862と係合する段部718が設けられている。ほぼ平坦な後方面720は移行板850の平坦な後方面864と接する。段部718に図示のような逆傾斜ベベルを設け、移行板850の対応する逆傾斜のついた段部862と係合するようにする。スナップ式付属部722は移行板850の周辺溝868に勘合し、終板702を移行板850に締結する。付属部722に締め付け可能なケーブルを受容するスロット726を設けて、図18および図19に示した実施例のように、付加的な固定を与える。この終板702と移行板850とからなるアセンブリ700を、例えば図17および18に示す同様のアセンブリの代わりに用いて、図示の前円板プロテーゼの上部および下部を構成することもできる。
【0114】
本発明をいくつかの実施形態によって説明したが、当業者には明らかであろうように、本発明の思想あるいは必須の特徴を逸脱することなく、多くの変形や変更が可能である。本発明はそのような変形を取り入れたすべての実施形態を含むものである。従って、ここになされた開示は例示のためのものであり、添付の請求の範囲に記載する本発明の範囲を限定するものではなく、本発明は均等の効力および範囲に含まれるすべての変形を含むものとする。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1A】一対の正常な人体脊椎を、断面で示された椎間円板と共に図式的に示す図であり、脊椎が通常の位置にある状態を示す。
【図1B】図1Aの椎間円板のある程度拡大した断面図である。
【図1C】図1Aと同様な図であり、脊柱が屈曲した状態の構造を示す図である。
【図1D】図1Aと同様な図であり、脊柱が伸展した状態の構造を示す図である。
【図2A】本発明の髄核プロテーゼの平面図である。
【図2B】本発明の髄核プロテーゼの正面立面図である。
【図2C】本発明の髄核プロテーゼの正面立面断面図である。
【図2D】本発明の髄核プロテーゼの左横立面図である。
【図3A】天然の線維輪内にインプラントされた本発明の髄核プロテーゼを破線にて示す斜視図である。
【図3B】椎間円板の線維輪内適所置かれた髄核プロテーゼの前側立面断面図である。
【図3C】椎間円板の線維輪内適所置かれた髄核プロテーゼの左側面を一部は断面図で示す立面図である。
【図4】2つの脊椎間に位置する正常な人体椎間円板のX線像を示す椎間板造影画像であり、造影剤の注入により線維輪を可視化している。
【図5】隣接する脊椎の椎体終板のスキャンプロファイルを示すグラフである。
【図6】本発明の総椎間円板プロテーゼに用いる金属終板の平面図である。
【図7】図6の金属終板と共に用いる前側付加板の平面図である。
【図8】図6の金属終板の前側立面図である。
【図9】本発明の総円板プロテーゼの図6および図7の線9−9に沿った分解断面図である。
【図10】組み付けられた状態の図9の総円板プロテーゼを示す断面図である。
【図11】2つの脊椎間にインプラントされた本発明の総プロテーゼの一実施形態を示す側面断面図である。
【図12】図6の総円板プロテーゼのコア部分を示す平面図である。
【図13】図6の総円板プロテーゼのコア部分を図12の線13−13において示す正面立面図である。
【図14】図12のコア部分を図12の線14−14に沿った正面立面断面図である。
【図15】図13のコア部分のポリマー輪状部を図13の線15−15において示す平面図である。
【図16】図6乃至15に示す総円板プロテーゼの変形例を示す側面断面図である。
【図17】図6乃至15に示す総円板プロテーゼを組み付けた状態で示す横立面図である。
【図18】要素どうしを締結する締め付けケーブルを用いた、図17の総円板プロテーゼの変形例をしめす横立面図である。
【図19】図18の総円板プロテーゼのケーブル締結構造の詳細図である。
【図20】本発明の別の実施形態で用いる移行板の平面図である。
【図21】図20の移行板の左横立面図である。
【図22】図20の移行板の正面立面図である。
【図23】図20の移行板の底面図である。
【図24】図20の移行板と共に用いる終板の平面図である。
【図25】図24の終板の左横立面図である。
【図26】図24の終板の図24の線25−25に沿った左横立面断面図である。
【図27】図24の終板の正面立面図である。
【図28】図24の終板の底面図である。
【図29】図20の移行板と図24の終板からなるアセンブリの正面立面図である。
【図30】図29のアセンブリの左横立面図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
椎間円板の髄核を置換する人工器官インプラントであって、
それぞれ円板状の断面と周縁と、前後方向径および横方向径を有する上側端壁と下側端壁であって、前記前後方向径が前記横方向径よりも大きい上側端壁と下側端壁と、
前記上側端壁と下側端壁の前記周縁を接続する砂時計形の側壁と、を備え、
前記上側端壁と前記下側端壁と前記側壁とは内室を包囲し、
前記内室は実質的に非圧縮性の液体または柔軟なプラスチック物質で満たされている人工器官インプラント。
【請求項2】
前記内室は生理食塩水で満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項3】
前記内室は生体適合性のオイルで満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項4】
前記内室は合成ヒアルロン酸/プロテオグリカン混合物で満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項5】
前記合成ヒアルロン酸/プロテオグリカン配合物は0Mpa乃至4Mpaの範囲の弾性率を有することを特徴とする請求項4記載の人工器官インプラント。
【請求項6】
前記内室は0Mpa乃至1Mpaの範囲の弾性率を有する柔軟な生体適合性の合成ポリマーで満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項7】
前記上側端壁と下側端壁と前記側壁とは生体適合性の合成ポリマーからなることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項8】
前記生体適合性の合成ポリマーはA80乃至D65の範囲のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項9】
前記生体適合性の合成ポリマーはポリカーボネイト−ポリウレタン混合物であることを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項10】
前記ポリカーボネイト−ポリウレタン混合物はA80乃至D65の範囲のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項9記載の人工器官インプラント。
【請求項11】
前記両端壁の厚さは前記側壁の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項12】
前記両端壁の前記生体適合性ポリマーは前記側壁の生体適合性ポリマーのデュロメータ硬度よりも大きいデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項13】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有していることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項14】
前記上側端壁の前記外側に向かって凸の湾曲は、それが接触する椎体終板の湾曲と合致することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項15】
前記上側端壁の前記凸湾曲は前記周縁の平面から約1mm乃至約3mmの距離を隔てる頂点を有することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項16】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、前記生体適合性の合成ポリマーは、使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な硬度を有することを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項17】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、かつ使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な厚さを有することを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項18】
前記下側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有していることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項19】
前記下側端壁の前記外側に向かって凸の湾曲は、それが接触する椎体終板の湾曲と合致することを特徴とする請求項18記載の人工器官インプラント。
【請求項20】
前記下側端壁の前記凸湾曲は前記周縁の平面から約0.5mm乃至約2.5mmの距離を隔てる頂点を有することを特徴とする請求項18記載の人工器官インプラント。
【請求項21】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、前記生体適合性の合成ポリマーは、使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な硬度を有することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項22】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、かつ使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な厚さを有することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項23】
前記側壁は前記端壁よりも柔軟な合成ポリマーからなることを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項24】
前記側壁は前記端壁よりも薄い材料からなることを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項25】
前記両端壁のそれぞれは、それと接触すべき椎体終板の面積の約30%乃至約60%の面積を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項26】
前記内室は、前記上側端壁の横断面積の約20%乃至80%の最小横断面積を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項27】
前記内室は、前記下側端壁の横断面積の約20%乃至80%の最小横断面積を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項28】
前記インプラントに取り付ける少なくとも1つの安定化コードを更に有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項29】
前記安定化コードは前記インプラントの前記側壁に取り付けられることを特徴とする請求項28記載の人工器官インプラント。
【請求項30】
前記砂時計形の側壁はくびれ領域を有し、前記安定化コードは前記砂時計形の側壁の前記くびれ領域に取り付けられることを特徴とする請求項28記載の人工器官インプラント。
【請求項31】
前記人工器官インプラントは前記インプラントの径の対向する端に取り付けられる一対の安定化コードを更に有することを特徴とする請求項28記載の人工器官インプラント。
【請求項32】
前記人工器官インプラントは前記側壁の対向する側部の前記くびれ領域に取り付けられる一対の前記コードを有することを特徴とする請求項30記載の人工器官インプラント。
【請求項33】
人体の椎間円板全体を置換する総プロテーゼにおいて、
中心キャビティを包囲する輪状部を含むポリマーコアであって、該輪状部は上面、下面、側面を有し、第1の生体適合性材料からなり、かつ天然の椎間円板の線維輪を近似する形状および大きさを有し、該第1の生体適合性材料は天然の人体椎間円板の線維輪の弾性率に近い弾性率を有するエラストマーであるポリマーコアと、
該輪状部の上面および下面にそれぞれ取り付けられる上側および下側移行板であって、前記第1の生体適合ポリマーのデュロメータ硬度よりも大きいデュロメータ硬度を有する第2の生体適合性材料からなる上側および下側移行板と、
隣接する脊椎に接触するようになされ、かつそれぞれ上側移行板と下側移行板に取り付けられた上側および下側終板と、を備える総プロテーゼ。
【請求項34】
前記第1の生体適合性材料は第1のエラストマー合成ポリマーであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項35】
前記第1のエラストマー合成ポリマーは第1のポリカーボネイト−熱可塑性ポリウレタン混合物であることを特徴とする請求項34記載の総プロテーゼ。
【請求項36】
前記第1のエラストマー合成ポリマーはおよそショアA70乃至およそショアA90のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項34記載の総プロテーゼ。
【請求項37】
前記第1のエラストマー合成ポリマーはおよそ3乃至16メガパスカルの範囲の弾性率を有することを特徴とする請求項34記載の総プロテーゼ。
【請求項38】
前記第2の生体適合材料は第2のエラストマー合成ポリマーであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項39】
前記第2のエラストマー合成ポリマーは第2のポリカーボネイト−熱可塑性ポリウレタン混合物であることを特徴とする請求項38記載の総プロテーゼ。
【請求項40】
前記第2のエラストマー合成ポリマーはおよそショアA100乃至およそショアD65のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項38記載の総プロテーゼ。
【請求項41】
前記中心キャビティは砂時計形状であることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ
【請求項42】
前記中心キャビティは前記ポリマーコアの体積の約20%乃至約50%の体積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項43】
前記輪状部は前記ポリマーコアの体積の約50%乃至約80%の体積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項44】
前記キャビティは非圧縮性液体で満たされることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項45】
前記キャビティはおよそ1乃至4メガパスカルの弾性率を有する生体適合性ポリマーであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項46】
前記移行板の各々は輪状部の前記上側および下側面にモールドされることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項47】
前記移行板の各々はドーム状の外側面を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項48】
前記移行板の厚さ寸法は後縁でおよそ1乃至3mmであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項49】
前記移行板の厚さ寸法は前縁でおよそ4乃至7mmであることを特徴とする請求項33記載の全プロテーゼ。
【請求項50】
前記終板の各々は前記移行板のドーム状外側面と接触する形状になされた内側面を有することを特徴とする請求項33記載の全プロテーゼ。
【請求項51】
前記終板の各々は移行板の後縁を受容する溝を形成するような形状になされた突起部を後縁に有することを特徴とする請求項33記載の全プロテーゼ。
【請求項52】
前記終板の各々は頂点を有するドーム形状であることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項53】
前記上側終板の前記ドーム形状はおよそ1.5乃至2.5mmの最大湾曲深さを有することを特徴とする請求項52記載の全プロテーゼ。
【請求項54】
前記ドーム形状の湾曲の前期最大深さは前記終板の前縁から前記終板の前後方向径の約60%だけ隔たった位置にあることを特徴とする請求項53記載の総プロテーゼ。
【請求項55】
前記下側終板の前記ドーム形状はおよそ0.6乃至2.0mmの最大湾曲深さを有することを特徴とする請求項52記載の全プロテーゼ。
【請求項56】
前記ドーム形状の湾曲の前期最大深さは前記終板の前縁から前記終板の前後方向径の約60%だけ隔たった位置にあることを特徴とする請求項55記載の総プロテーゼ。
【請求項57】
前記終板のうちの少なくとも1つの外側面には骨の内成長のための表面テクスチュアが設けられていることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項58】
前記終板のうちの少なくとも1つに、前記外側面から立ち上がり前記外側面の横中心線に沿って前記前縁から遠ざかる方向に延在するフィンを設けたことを特徴とする請求項57記載の総プロテーゼ。
【請求項59】
前記終板のうちの少なくとも1つは主終板と前側付加板からなることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項60】
前記前側付加板はその外側面から立ち上がり前記主終板の前記フィンと相互作用するようになされたフィンを有することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項61】
前記前側付加板は前記移行板の前縁と接触するようになされ前記前側付加板にほぼ垂直に延在する壁を有することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項62】
前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とは、それぞれその側縁にスリーブを備え、前記スリーブは前記スリーブと協働して前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とを共に締結するネジを受容することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項63】
前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とは、それぞれその側縁に付属部を備え、該付属部は前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とを共に締結する締結ケーブルを受容することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項64】
前記移行板は、前記移行板の後縁から離れた前方壁を有しかつ前記前方壁から前記後縁まで延在する凹部を有することを特徴とする請求項33記載のプロテーゼ。
【請求項65】
前記前方壁はほぼ真っ直ぐで、前記移行板の前後方向径をほぼ垂直に前記移行板を横切って延在することを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項66】
前記前方壁は前記移行板の前記後縁から、前記移行板の前後方向径のおよそ4分の1乃至2分の1の距離だけ隔てられていることを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項67】
前記移行板は、前記終板の後縁から離れた前方壁を有しかつ前記前方壁から前記後縁まで延在する突起部を有し、前記突起部は前記移行板の前記凹部に適合することを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項68】
前記前方壁はほぼ真っ直ぐで、前記終板の前後方向径をほぼ垂直に横切って延在することを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項69】
前記前方壁は前記終板の前記後縁から、前記終板の前後方向径のおよそ4分の1乃至2分の1の距離だけ隔てられていることを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項70】
前記終板の少なくとも1つは、前記終板の周縁から内側方向に延在し前記移行板の少なくとも1つの対応する凹部に嵌合して前記終板を前記移行板に固定するようになされた少なくとも1つの弾性付属部を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項71】
前記少なくとも1つの終板は複数の前記弾性付属部を有することを特徴とする請求項70記載の総プロテーゼ。
【請求項72】
前記弾性付属部は締結ケーブルを受容する溝を有することを特徴とする請求項71記載の総プロテーゼ。
【請求項73】
前記移行板の少なくとも1つは外側面と内側面と前記外側面および前記内側面の間に延在する周縁面とを有し、前記周縁面に前記終板の前記弾性付属部と係合するための少なくとも1つの前記凹部が設けられていることを特徴とする請求項71記載の総プロテーゼ。
【請求項74】
前記移行板の前記周縁壁には、前記付属部を受容するための周縁溝が設けられていることを特徴とする請求項72記載の総プロテーゼ。
【請求項75】
前記終板の各々はそれが接触するようになされた椎体終板のおよそ30%乃至100%の範囲の面積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項76】
前記終板の各々はそれが接触するようになされた椎体終板のおよそ30%乃至80%の範囲の面積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項1】
椎間円板の髄核を置換する人工器官インプラントであって、
それぞれ円板状の断面と周縁と、前後方向径および横方向径を有する上側端壁と下側端壁であって、前記前後方向径が前記横方向径よりも大きい上側端壁と下側端壁と、
前記上側端壁と下側端壁の前記周縁を接続する砂時計形の側壁と、を備え、
前記上側端壁と前記下側端壁と前記側壁とは内室を包囲し、
前記内室は実質的に非圧縮性の液体または柔軟なプラスチック物質で満たされている人工器官インプラント。
【請求項2】
前記内室は生理食塩水で満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項3】
前記内室は生体適合性のオイルで満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項4】
前記内室は合成ヒアルロン酸/プロテオグリカン混合物で満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項5】
前記合成ヒアルロン酸/プロテオグリカン配合物は0Mpa乃至4Mpaの範囲の弾性率を有することを特徴とする請求項4記載の人工器官インプラント。
【請求項6】
前記内室は0Mpa乃至1Mpaの範囲の弾性率を有する柔軟な生体適合性の合成ポリマーで満たされることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項7】
前記上側端壁と下側端壁と前記側壁とは生体適合性の合成ポリマーからなることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項8】
前記生体適合性の合成ポリマーはA80乃至D65の範囲のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項9】
前記生体適合性の合成ポリマーはポリカーボネイト−ポリウレタン混合物であることを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項10】
前記ポリカーボネイト−ポリウレタン混合物はA80乃至D65の範囲のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項9記載の人工器官インプラント。
【請求項11】
前記両端壁の厚さは前記側壁の厚さよりも大きいことを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項12】
前記両端壁の前記生体適合性ポリマーは前記側壁の生体適合性ポリマーのデュロメータ硬度よりも大きいデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項13】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有していることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項14】
前記上側端壁の前記外側に向かって凸の湾曲は、それが接触する椎体終板の湾曲と合致することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項15】
前記上側端壁の前記凸湾曲は前記周縁の平面から約1mm乃至約3mmの距離を隔てる頂点を有することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項16】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、前記生体適合性の合成ポリマーは、使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な硬度を有することを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項17】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、かつ使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な厚さを有することを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項18】
前記下側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有していることを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項19】
前記下側端壁の前記外側に向かって凸の湾曲は、それが接触する椎体終板の湾曲と合致することを特徴とする請求項18記載の人工器官インプラント。
【請求項20】
前記下側端壁の前記凸湾曲は前記周縁の平面から約0.5mm乃至約2.5mmの距離を隔てる頂点を有することを特徴とする請求項18記載の人工器官インプラント。
【請求項21】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、前記生体適合性の合成ポリマーは、使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な硬度を有することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項22】
前記上側端壁は外側に向かって凸の湾曲を有し、かつ使用時に前記外側に向かって凸の湾曲を維持するのに十分な厚さを有することを特徴とする請求項13記載の人工器官インプラント。
【請求項23】
前記側壁は前記端壁よりも柔軟な合成ポリマーからなることを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項24】
前記側壁は前記端壁よりも薄い材料からなることを特徴とする請求項7記載の人工器官インプラント。
【請求項25】
前記両端壁のそれぞれは、それと接触すべき椎体終板の面積の約30%乃至約60%の面積を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項26】
前記内室は、前記上側端壁の横断面積の約20%乃至80%の最小横断面積を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項27】
前記内室は、前記下側端壁の横断面積の約20%乃至80%の最小横断面積を有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項28】
前記インプラントに取り付ける少なくとも1つの安定化コードを更に有することを特徴とする請求項1記載の人工器官インプラント。
【請求項29】
前記安定化コードは前記インプラントの前記側壁に取り付けられることを特徴とする請求項28記載の人工器官インプラント。
【請求項30】
前記砂時計形の側壁はくびれ領域を有し、前記安定化コードは前記砂時計形の側壁の前記くびれ領域に取り付けられることを特徴とする請求項28記載の人工器官インプラント。
【請求項31】
前記人工器官インプラントは前記インプラントの径の対向する端に取り付けられる一対の安定化コードを更に有することを特徴とする請求項28記載の人工器官インプラント。
【請求項32】
前記人工器官インプラントは前記側壁の対向する側部の前記くびれ領域に取り付けられる一対の前記コードを有することを特徴とする請求項30記載の人工器官インプラント。
【請求項33】
人体の椎間円板全体を置換する総プロテーゼにおいて、
中心キャビティを包囲する輪状部を含むポリマーコアであって、該輪状部は上面、下面、側面を有し、第1の生体適合性材料からなり、かつ天然の椎間円板の線維輪を近似する形状および大きさを有し、該第1の生体適合性材料は天然の人体椎間円板の線維輪の弾性率に近い弾性率を有するエラストマーであるポリマーコアと、
該輪状部の上面および下面にそれぞれ取り付けられる上側および下側移行板であって、前記第1の生体適合ポリマーのデュロメータ硬度よりも大きいデュロメータ硬度を有する第2の生体適合性材料からなる上側および下側移行板と、
隣接する脊椎に接触するようになされ、かつそれぞれ上側移行板と下側移行板に取り付けられた上側および下側終板と、を備える総プロテーゼ。
【請求項34】
前記第1の生体適合性材料は第1のエラストマー合成ポリマーであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項35】
前記第1のエラストマー合成ポリマーは第1のポリカーボネイト−熱可塑性ポリウレタン混合物であることを特徴とする請求項34記載の総プロテーゼ。
【請求項36】
前記第1のエラストマー合成ポリマーはおよそショアA70乃至およそショアA90のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項34記載の総プロテーゼ。
【請求項37】
前記第1のエラストマー合成ポリマーはおよそ3乃至16メガパスカルの範囲の弾性率を有することを特徴とする請求項34記載の総プロテーゼ。
【請求項38】
前記第2の生体適合材料は第2のエラストマー合成ポリマーであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項39】
前記第2のエラストマー合成ポリマーは第2のポリカーボネイト−熱可塑性ポリウレタン混合物であることを特徴とする請求項38記載の総プロテーゼ。
【請求項40】
前記第2のエラストマー合成ポリマーはおよそショアA100乃至およそショアD65のデュロメータ硬度を有することを特徴とする請求項38記載の総プロテーゼ。
【請求項41】
前記中心キャビティは砂時計形状であることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ
【請求項42】
前記中心キャビティは前記ポリマーコアの体積の約20%乃至約50%の体積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項43】
前記輪状部は前記ポリマーコアの体積の約50%乃至約80%の体積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項44】
前記キャビティは非圧縮性液体で満たされることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項45】
前記キャビティはおよそ1乃至4メガパスカルの弾性率を有する生体適合性ポリマーであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項46】
前記移行板の各々は輪状部の前記上側および下側面にモールドされることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項47】
前記移行板の各々はドーム状の外側面を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項48】
前記移行板の厚さ寸法は後縁でおよそ1乃至3mmであることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項49】
前記移行板の厚さ寸法は前縁でおよそ4乃至7mmであることを特徴とする請求項33記載の全プロテーゼ。
【請求項50】
前記終板の各々は前記移行板のドーム状外側面と接触する形状になされた内側面を有することを特徴とする請求項33記載の全プロテーゼ。
【請求項51】
前記終板の各々は移行板の後縁を受容する溝を形成するような形状になされた突起部を後縁に有することを特徴とする請求項33記載の全プロテーゼ。
【請求項52】
前記終板の各々は頂点を有するドーム形状であることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項53】
前記上側終板の前記ドーム形状はおよそ1.5乃至2.5mmの最大湾曲深さを有することを特徴とする請求項52記載の全プロテーゼ。
【請求項54】
前記ドーム形状の湾曲の前期最大深さは前記終板の前縁から前記終板の前後方向径の約60%だけ隔たった位置にあることを特徴とする請求項53記載の総プロテーゼ。
【請求項55】
前記下側終板の前記ドーム形状はおよそ0.6乃至2.0mmの最大湾曲深さを有することを特徴とする請求項52記載の全プロテーゼ。
【請求項56】
前記ドーム形状の湾曲の前期最大深さは前記終板の前縁から前記終板の前後方向径の約60%だけ隔たった位置にあることを特徴とする請求項55記載の総プロテーゼ。
【請求項57】
前記終板のうちの少なくとも1つの外側面には骨の内成長のための表面テクスチュアが設けられていることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項58】
前記終板のうちの少なくとも1つに、前記外側面から立ち上がり前記外側面の横中心線に沿って前記前縁から遠ざかる方向に延在するフィンを設けたことを特徴とする請求項57記載の総プロテーゼ。
【請求項59】
前記終板のうちの少なくとも1つは主終板と前側付加板からなることを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項60】
前記前側付加板はその外側面から立ち上がり前記主終板の前記フィンと相互作用するようになされたフィンを有することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項61】
前記前側付加板は前記移行板の前縁と接触するようになされ前記前側付加板にほぼ垂直に延在する壁を有することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項62】
前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とは、それぞれその側縁にスリーブを備え、前記スリーブは前記スリーブと協働して前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とを共に締結するネジを受容することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項63】
前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とは、それぞれその側縁に付属部を備え、該付属部は前記主終板と前記移行板と前記前側付加板とを共に締結する締結ケーブルを受容することを特徴とする請求項59記載の総プロテーゼ。
【請求項64】
前記移行板は、前記移行板の後縁から離れた前方壁を有しかつ前記前方壁から前記後縁まで延在する凹部を有することを特徴とする請求項33記載のプロテーゼ。
【請求項65】
前記前方壁はほぼ真っ直ぐで、前記移行板の前後方向径をほぼ垂直に前記移行板を横切って延在することを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項66】
前記前方壁は前記移行板の前記後縁から、前記移行板の前後方向径のおよそ4分の1乃至2分の1の距離だけ隔てられていることを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項67】
前記移行板は、前記終板の後縁から離れた前方壁を有しかつ前記前方壁から前記後縁まで延在する突起部を有し、前記突起部は前記移行板の前記凹部に適合することを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項68】
前記前方壁はほぼ真っ直ぐで、前記終板の前後方向径をほぼ垂直に横切って延在することを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項69】
前記前方壁は前記終板の前記後縁から、前記終板の前後方向径のおよそ4分の1乃至2分の1の距離だけ隔てられていることを特徴とする請求項64記載の総プロテーゼ。
【請求項70】
前記終板の少なくとも1つは、前記終板の周縁から内側方向に延在し前記移行板の少なくとも1つの対応する凹部に嵌合して前記終板を前記移行板に固定するようになされた少なくとも1つの弾性付属部を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項71】
前記少なくとも1つの終板は複数の前記弾性付属部を有することを特徴とする請求項70記載の総プロテーゼ。
【請求項72】
前記弾性付属部は締結ケーブルを受容する溝を有することを特徴とする請求項71記載の総プロテーゼ。
【請求項73】
前記移行板の少なくとも1つは外側面と内側面と前記外側面および前記内側面の間に延在する周縁面とを有し、前記周縁面に前記終板の前記弾性付属部と係合するための少なくとも1つの前記凹部が設けられていることを特徴とする請求項71記載の総プロテーゼ。
【請求項74】
前記移行板の前記周縁壁には、前記付属部を受容するための周縁溝が設けられていることを特徴とする請求項72記載の総プロテーゼ。
【請求項75】
前記終板の各々はそれが接触するようになされた椎体終板のおよそ30%乃至100%の範囲の面積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【請求項76】
前記終板の各々はそれが接触するようになされた椎体終板のおよそ30%乃至80%の範囲の面積を有することを特徴とする請求項33記載の総プロテーゼ。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【公表番号】特表2007−530093(P2007−530093A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−520155(P2006−520155)
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/015462
【国際公開番号】WO2005/016172
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506018064)ネクスジェン スパイン、インク. (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/015462
【国際公開番号】WO2005/016172
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(506018064)ネクスジェン スパイン、インク. (4)
【Fターム(参考)】
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