説明

検体ラック、及び検体搬送システム

【課題】
収納部に並ぶ各検体の分析状況や状態を、検体ラックから視覚的かつ直感的な手段によって直接外部に通知することで、作業者は他の情報媒体と見比べることなく、所望する検体の状態や所在を識別、分類することを可能とする。
【解決手段】
検体ラック1自らが保持する各検体容器内の検体の分析状況や状態に関する情報を作業者に通知する発光体2を、各検体容器挿入口3の近傍に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿などの生体サンプルの処理や分析を行う前処理装置や分析装置において、検体が入る検体容器を単数もしくは複数同時に保持する検体ラック、および前処理装置もしくは分析装置へと検体ラックを搬送するための装置内もしくは装置外に装備される検体搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
検体を分析するために検体に必要な処理を行う前処理装置や、検体の分析を自動化する分析装置は、検査項目や検体数の増加に伴って、装置の大型化が進んだ。一方で、検査業務の効率化のため、装置には、信頼性向上、高スループット化、低コスト化が要望されており、処理能力を上げるために複数の装置を連結させ、それら装置をまたがって検体を搬送するための検体搬送システムや、複数検体の同時搬送を可能とする検体ラックが開発・製品化されている。
【0003】
検体ラックに保持された検体は、検体搬送システムの投入部から前処理装置や分析装置へと搬送され、必要な処理や分析が終了後、検体搬送システムの収納部へと搬送される。検体の量や状態によっては、処理や分析の途中で、検体中の凝固物などによって検体を吸引するピペットが詰まったり、分析する項目数に対して検体の液量が不足するなどの異常が発生することがある。装置はセンサ情報から検体の状態を判断し、異常を検知した場合は、装置は直ちに異常検体に対する分析動作を中止し、次の検体の分析動作へと移る。詰まりや液量不足が発生した異常検体は、再度前処理が施されるなどして、改めて分析にかけられる。
【0004】
大型の装置になると、数十〜百個以上の検体ラックが装置上を搬送されるため、検体ラックが保持できる検体数によっては、装置上の総検体数が数百もの数になる。これだけの数の検体と、各検体に対する分析項目や分析の進捗、結果の対応付けを自動的かつ正確に行うため、特許文献1のように検体容器にバーコードなどのIDを付与し、それを確実に読み取れるようにするだけでなく、特許文献2のように検体ラックにもバーコードなどのIDを付与させる。また、特許文献3のように、検体ラックに通信手段と読み書き可能なIDタグを持たせ、装置との間で情報をやり取りさせることによって、自律的な搬送、分析を実現し、更なる効率化を目的とした技術が考案されている。 このように、多くの検査項目、多くの検体の検査を自動でかつ正確に行うためには、高度な情報処理能力が求められることから、大型の装置の情報処理には主に装置とは別に付属したPCが利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願平11-229083号公報
【特許文献2】特開平 2-253854号公報
【特許文献3】特開平11-83865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、一連の処理や分析の終了後、収納部に並ぶ検体から、正常に処理や分析が終了した検体と、詰まりや液量不足などの異常が検知された検体とを識別し、分類するためには、分類したい検体のIDや収納部上での所在を、装置に付属したPCのモニタ画面や別途印刷した帳票などの表示と見比べる必要がある。収納部には同じ外見の検体容器、検体ラックが多数並んでおり、検体数が数百にもなる場合には、モニタ画面や帳票の表示と比較しながら異常検体を判別して、分別し取り出す作業は、煩雑で非効率であるだけでなく、検体を取り違えるなどの人為的ミスを誘発してしまう可能性がある。そのため、検体もしくは検体ラックに情報を与え、必要に応じて検体や検体ラックから情報を発信する技術が必要とされるが、上記にて示した特許文献のいずれも、検体や検体ラックから発信された情報を入手するには、装置と通信するPCや携帯電話などのなんらかの情報機器、もしくは印刷した帳票類を介する必要があり、本課題の根本的な解決に至らない。
【0007】
本発明の目的は、収納部に並ぶ各検体の分析の状況や検体の状態を、検体ラックから視覚的かつ直感的な手段によって直接外部に通知することで、作業者が他の情報媒体と見比べることなく、所望する検体の状態や所在を識別、分類することを可能とする検体ラックと検体搬送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の構成は以下の通りである。
【0009】
単数もくしは複数の検体容器(通常は試験管状だが、これに限らない)を同時に保持可能な検体ラックにおいて、自らが保持する各検体容器内の検体に対する分析の状況や検体の状態に関する情報を外部に通知する手段と、通知手段の実行に必要な情報を外部と送受信するための通信手段を有することを特徴とする検体ラック。及び、検体を分析するための前処理を行う装置や検体の分析を行う分析装置に対して検体を搬送する検体搬送システムにおいて、上記検体ラックが通知手段を実行するために必要となる情報を、上記検体ラックと送受信するための通信手段を有する。
【0010】
検体ラックの通知手段には、単色もしくは複数色の発光体を用いることが出来る。また、それら発光体は、検体ラックの上底部もしくは上底部より上に配置することが出来る。さらには、発光体と検体との対応付けを認識し易くする為、対応しない検体の検体容器挿入口と比べて、対応する検体の検体容器挿入口の近傍に発光体を配置することも可能である。そして、予め対応づけられた発光体の色の組み合わせによって、自らが保持する単数もしくは複数の各検体容器内の検体に対する分析の状況や検体の状態について、外部に通知する情報量を増やすことができる。
【0011】
一方、検体ラックの通知手段や通信手段の実行に必要な電力を受供給する手段として、検体ラック、および検体搬送システムにおいて、接触もしくは非接触にて電力を、検体搬送システムから検体ラックへと供給する手段を有することができるものとする。検体ラックは、検体搬送システムや充電器から供給された電力を蓄電する手段を有しても良い。また、検体搬送システムの投入部もしくは収納部のどちらか一方もしくは両方に検体ラックへ電力を供給する手段を設けることもできる。この場合、検体ラックには投入部もしくは収納部のどちらか一方もしくは両方に設けられた電力供給手段から電力を受給する手段が必要となる。なお、検体ラックの通知手段や通信手段の実行に必要な電力の受供給を上記手段によらない場合には、検体ラックは通知手段や通信手段を実行するための電力を供給する電源を自ら有する必要がある。
【0012】
検体ラックと検体搬送システムとの間での通信手段については、検体ラックと検体搬送システムにおいて、通知に必要な情報を接触もしくは非接触にて送受信する手段を、投入部もしくは収納部のどちらか一方もしくは両方に有することを可能とし、検体ラックには投入部もしくは収納部のどちらか一方もしくは両方に設けられた通信手段と情報を送受信するための通信手段を設ける。
【0013】
検体ラックに設けた通知手段を実行、制御するために必要となる情報を記憶する手段として、外部との通信によって得た情報の全てもしくは一部を一時的に記憶する手段と、書き換えや消去が不要の読み取り専用の情報を半永久的に記憶する手段を検体ラックに設ける。
【0014】
特に、検体ラックが保持する各検体の分析状況や状態といった、検体ラックの記憶手段に一時的に記憶した情報は、検体ラックや検体搬送システム、もしくは検体搬送システムと接続した分析装置や前処理装置に付属もしくは独立に設けられた操作卓や操作画面のボタンやスイッチを操作することによって消去することが可能である。
【0015】
さらに、投入部もしくは収納部が検体搬送システム本体から取り外された場合においても、取り外す前と同じように検体ラックに設けた通知手段を実行するため、検体搬送システム本体と、もしくは取り外し後の投入部や収納部の移設先に設けられた通信手段と、有線もしくは無線にて通信するための手段を、検体ラック、もしくは投入部や収納部に設ける。また、検体ラックに設けた通知手段を実行、制御するために必要となる電力を、検体搬送システム本体から、もしくは取り外し後の投入部や収納部の移設先に設けられた電力供給手段から、有線もしくは無線にて受給するための手段を、検体ラック、もしくは投入部や収納部に設ける。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、収納部に多数並ぶ検体それぞれの分析の状況や検体の状態を、それらを保持する検体ラックから視覚的かつ直感的な手段によって直接外部に通知することで、作業者は収納部から物理的に離れたPCのモニタ画面や帳票などの情報媒体の表示内容と見比べることなく、異常が検知された検体など所望する検体の状態や所在を識別、分類することが可能になる。
【0017】
結果として、作業者の作業効率が向上するだけでなく、検体を取り違えるなどの人為的ミスの可能性を低減させる効果が期待できる。さらには、前処理装置や分析装置を運用する施設における検査業務の信頼性、効率性、経済性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の提供する検体ラックの斜視図
【図2】通知条件、通知内容、通知方法の対応の一例を示す説明図
【図3】検体の処理、分析から通知手段の実行までのフローの一例を示す説明図
【図4】指示情報の一例を示す説明図
【図5】本発明の提供する検体ラックが収納部に並んだ様子を示す説明図
【図6】本発明の提供する検体ラックに搭載される各手段の構成を示すブロック図
【図7】検体ラックと検体搬送システムの電力受供給手段の一例を示す説明図
【図8】電力受給用電極から通知手段までの配線の一例を示す配線図
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0020】
図1は、本発明の提供する検体ラックの斜視図を示す。検体ラック1は、長方形状であり、円筒形の検体容器を保持する検体容器挿入口3と、各検体容器挿入口3に対応する発光体2(例えばLED(発光ダイオード)や、有機ELや液晶で構成されたディスプレイ)を有する。本発明が提供する検体ラック1において、通知手段として単色もしくは複数色の発光体2を、検体ラック1の上底部、かつ対応しない検体の検体容器挿入口と比べて、対応する検体の検体容器挿入口のそれぞれ近傍に配置した場合の例を示す。発光体2を検体ラック1の上底部よりも上の位置に配置してもよい。尚、上底部とは、上面部をいう。また、通知手段として、音声による通知(スピーカなど)や振動による通知(振動子など)を用いても良い。
【0021】
なお、図1では、検体ラックが保持する検体容器を5本として、検体容器挿入口3を5つ設けているが、本発明の実施の形態において、検体ラック1が保持する検体容器の本数ならびに検体容器挿入口の数は“5”に限らず、“1”でも“10”でも構わない。また、発光体2は、図1に示すように各検体容器挿入口3の間や各検体容器挿入口3の近傍に限らず、作業者が各検体との視覚的に対応付けが可能な箇所に配置しても良い。ただし、対応する検体と大きく離れた箇所に発光体が配置された場合には、検体容器挿入口3近傍に配置した場合などと比べて、発光体2と検体容器との視覚上の対応付けが劣ることが想定される。また、発光体2は、検体ラック1の側面(好ましくは、側面のうち検体ラック1の上底部に近い側面)や、検体容器を透過して発光するように、検体容器挿入口3内に配置してもよい。
【0022】
図2は、通知条件と通知内容、および通知方法である発光体の発光色および発光方式との対応表の一例を示す。例えば、処理や分析の動作の異常として、検体を吸引するピペットの詰まりを検知するセンサAがONに反応した場合は、発光体2の発光色を「赤」、発光方式を「点灯」によって、ピペット詰まりが検知された検体であることを外部(例えば作業者)に通知する。同様にして、液量不足を検知するセンサBがONに反応した場合は、発光体2の発光色を「緑」、発光方式を「点滅」によって外部に通知する。この図2を用いることで、センサ情報が通知条件を満たす場合の通知手段の通知方法、この場合は発光体の発光色と発光方式を決定することができる。異常のみを単色、単方式で表示してもよい。
【0023】
図3は、検体の処理または分析から、通知手段での通知の実行までのフローを示したものである。分析装置や前処理装置は、情報処理部(例えばCPU)と、プログラムやデータベース、テーブルを記憶する記憶手段を有する。検体ラック2も、情報処理部(例えばマイコン)と、プログラムやデータベース、テーブルを記憶する記憶手段を有する。
【0024】
分析装置や前処理装置の情報処理部は、検体容器に収められた検体に、処理や分析の対象となる検体を識別するための検体IDを割り当てる。分析装置や前処理装置の記憶手段は、図2の対応表を記憶している。
【0025】
そして、分析装置や前処理装置の情報処理部は、検体IDを有する検体に対する処理や分析の途中で(ステップ33)、センサがある異常を検知した場合(異常を示すセンサ情報を受信した場合)、分析装置や前処理装置の情報処理部において、当該検体の検体IDに対してセンサ情報を連結する(ステップ34)。例えば、検体IDとセンサ情報とを1対1に対応するように記憶手段に格納していくことにより、検体IDに対してセンサ情報を連結することができる。一方で、分析装置や前処理装置の情報処理部は、図2の対応表31を用いて、センサ情報から通知方法(発光色と発光方式)を検索する(ステップ35)。そして、分析装置や前処理装置の情報処理部は、検体IDに対して通知方法を連結する(ステップ36)。以上の結果から、当該検体IDを持つ検体に関してどのような通知方法を実行するかを決定できる。
【0026】
各検体ラック1にも、検体ラックを識別するためのラックIDが予め割り当てられており、各検体ラック1が有する記憶手段(例えばバーコードやICチップ、EEPROM)が各ラックIDを保持している。分析装置や前処理装置の情報処理部は、処理や分析の実行前に、検体ラック1や検体容器に付与されているバーコードなどのID情報に基づいて、どの検体がどの検体ラック1の何番目の検体容器挿入口3に保持されているのかというラックIDと検体IDの対応表32を作成し、分析装置や前処理装置の記憶手段に格納する。分析装置や前処理装置の情報処理部は、この対応表32に基づいて当該検体IDを有する検体がどのラックの何番目の検体容器挿入口3に保持されているかを照合することによって、当該検体を保持するラックIDが特定され、当該検体ラック1の何番目の発光体を何色に点灯もしくは点滅させるかといった指示情報を作成し(ステップ37)、その指示情報を検体ラック1へ送信する(ステップ38)。
【0027】
図4は、検体ラックの検体容器挿入口の数が「5」の場合の指示情報の一例である。図4では、検体ラック1のラックIDと各検体ラックの検体容器挿入口3の位置に対して、検体IDが対応づけられ、さらに、通知方法(発光色と発光方式)が対応づけられている。
【0028】
こうして決定した指示情報を検体搬送システムの通信手段から検体ラック1の通信手段へと送信する(ステップ39)。その送信方法としては、検体の処理や分析を行う装置から検体搬送システムの収納部までの搬送ライン上にて、検体搬送システムの通信手段の近辺を通過する際に、検体ラックと検体搬送システムの各通信手段間でラックIDと検体IDの照会を行い、通過中の検体ラックが異常を検知した検体を保持している検体ラックであることを認識した場合に、検体搬送システムの通信手段から検体ラックの通信手段へと送信する方法が考えられる。あるいは、収容最大数もしくは決まった数だけの検体ラックが収納部に搬送された時点、もしくは作業者が検体ラックへの送信を指示した時に、収納部に並ぶ各検体ラックの通信手段に対して、収納部に設けた通信手段から指示情報をブロードキャストすることで、検体搬送システム側と検体ラック側とでラックIDと検体IDの照合を行い、該当するIDを持つ検体ラックが指示情報を受信するといった方法も考えられる。そのため、検体ラック1は、自らが保持している検体の検体IDとラック上の位置に関する情報を記憶手段に一時的に記憶しておく必要がある。この情報は検体搬送システムの通信手段から検体ラックの通信手段へと送信されるが、その送受信の時間としては、ラックや検体容器のバーコードなどのIDが読み込まれた時点から処理や分析の実行前の間が望ましい。また、ひとつの検体搬送システムや装置上に同じラックIDを有する検体ラックが複数存在し得ることが想定されるため、ラックIDだけでなく、基本的に同一IDが許されない検体IDとの組み合わせによって、指示情報の送信先を正しく判断する必要がある。
【0029】
検体ラック1は、自らに設けられた発光体について、ラック上の検体容器挿入口3の位置を表す番号、および発光できる発光色の種類と発光方式に関する設定情報40を読み取り専用情報として記憶手段に予め記憶している。検体ラック1の情報処理部は、この設定情報34と受信した指示情報(図4)とを照合することで、発光する発光体の位置、発光色、発光方式を決定し(ステップ41)、発光体2を発光させる(ステップ42)。指示情報の受信後はいつでも指示情報に基づいて該当する発光体2を点灯もしくは点滅することが可能となる。ただし、発光体2を発光させる時間は、作業者が検体ラック1の収納部に複数並ぶ検体を分別する作業の開始時から終了時までであることが望ましい。そのため、検体搬送システムや分析装置、前処理装置に付属する操作卓や操作画面の操作による作業者の指示に従って、開始信号や終了信号を分析装置や前処理装置から検体ラック1へ送信して、発光体の発光の開始や終了を制御できると良い。また、検体ラック1又は検体ラック1を搬送する搬送レール又は搬送レールに隣接する構造物に、検体ラック1が搬送レール上の所定の位置(作業者が検体を分別する作業の開始時から終了時までの位置)に到達したことを検出するセンサ又はスイッチを設けておき、そのセンサ又はスイッチの検出信号をトリガーとして、検体ラック1自らが又は開始信号や終了信号を分析装置や前処理装置から検体ラック1へ送信して、発光体の発光の開始や終了を制御してもよい。また、検体ラック1が搬送レール上の所定の位置(作業者が検体を分別する作業の開始時から終了時までの位置)のみに、検体ラック1への給電手段(例えば供給用電極)を設けてもよい。これにより、検体ラック1が搬送レール上の所定の位置に存在する場合のみ、電力を受けて動作することとなる。
【0030】
なお、通知する内容は、再度の処理や分析のために収納部での分別が必要となるピペットの詰まりや検体の液量不足といった、処理や分析の途中において前処理装置や分析装置に設けられたセンサによって検知される検体の状態や分析の進捗に関する情報に限らない。図2に例示したように、通知手段を実行する通知条件と外部に通知する通知内容と発光体の発光色や発光方式を予め対応付けしておけば良い。例えば、装置の全てのセンサが反応しなかったことを通知条件として、必要な処理や分析が全て正常に終了した正常検体であることを通知するために発光体を発光させることや、検体ラックの記憶手段に一時的に記憶した情報をリセットした際に、情報の消去が正常に終了したことを通知条件として、リセットの完了を通知するために発光体を発光させることができる。通知する時間は、正常検体であることの通知には、ピペット詰まりや液量不足などのセンサが反応した検体との明示的な区別のために、作業者の分別作業の開始から終了までの時間が相応しいが、この時間に限らない。また、リセット完了の通知は、作業者の操作によって検体ラックの記憶手段から情報が消去された時点から一定の時間発光体が発光するといったことが考えられる。
【0031】
図5は、検体ラックの収納部において、図1に示す検体ラックが、作業者に対して横を向いて並べられている様子を示す。図5では、検体容器を5本保持可能な検体ラックが、12個連続している。作業者の視線方向から、検体容器挿入口3に対し左側に発光体2を配置する。作業者の視線方向から検体容器の陰になる部分4を除けば、作業者の視線方向から、検体容器挿入口3に対し右側や手前側など、作業者が視覚的に認識できる部分に発光体2を配置すればよい。
【0032】
図5のような収納方法の場合、図1のような発光体2の配置であれば、隣り合う検体ラック1や検体容器の陰に発光体2が隠れることなく、発光体2の発光が作業者から確認し易く、かつ発光体と検体との対応が識別し易くなる。このように、検体ラック1における発光体2の配置箇所の最適な条件としては、発光時における検体ラックの姿勢や作業者の視線方向に対する向き、近隣の検体ラックや検体容器、検体搬送システムの筐体部分との重なり具合を考慮し、発光体の発光の確認や発光体と検体との対応の識別が妨げられないことが望ましい。
【0033】
なお、本発明の実施形態において、検体搬送システムや分析装置、前処理装置の構成上、収納部は投入部と別個であっても、同一であってもよい。
【0034】
上記条件下において、複数色を組み合わせた発光体を各検体に対応するように配置することにより、色の組み合わせの数だけ通知情報量を増やすことが可能である。例えば、4色の発光体を2つ組み合わせれば、4×4=16種類の内容が通知可能となる。また、組み合わせた発光体を交互に点灯もしくは点滅させることによっても、通知する情報量を増すことができる。ただし、発光色の組み合わせによっては、組み合わせた色同士の判別が難しく、本発明が提供したい視覚的かつ直感的な通知手段に反する可能性があることを考慮して、発光色を組み合わせると良い。
【0035】
図6は、本特許の実施形態において検体ラックが有する通知手段および通信手段と、これら手段を実行させるための実施形態として考えられる、制御手段61、記憶手段62、電力供給手段63の構成を示すブロック図である。
【0036】
通信手段64を通じて外部(例えば分析装置や前処理装置)から得た指示情報(例:図4)に基づいて、記憶手段62が有するプログラムに則って、制御手段61は指示情報中の検体IDと発光させる発光体の位置や発光色、発光方式の対応付けを行い、その対応付けに従ってラックID及び検体容器挿入口3の位置によって特定した発光体2を発光させるなどして通知手段65を制御する。外部から得た情報のうち一時的な保存が必要な情報は記憶手段62に記憶しておく。記憶手段62において、制御用プログラムなどの書き換えが不要な情報や読み出し専用の情報の記憶にはROM(Read Only Memory)、検体ラック上のどの発光体を何色に発光させるかなどの逐次書き換えが必要な情報や一時的な情報の保存にはRAM(Random Access Memory)など、記憶させる情報の内容や利用形態に合わせて既存の記憶手段を利用することが望ましい。
【0037】
なお、RAMなどに一時的に記憶された情報は、検体ラック(特に記憶手段)への電力の供給が切れた時点で消滅するようにするか、検体ラックと検体搬送システムに設けられた通信手段を用いて、前処理装置や分析装置に設けられた操作卓や操作画面のボタンやスイッチの操作や、前処理装置や分析装置と通信しているPCなどの情報機器の操作による作業者からの指示に応じて逐次消去するか、もしくは検体ラックに設けたリセットボタンなどを押下するなどの情報消去のための操作で消去することができる。また、作業者から指示をしなくとも、検体搬送システムや分析装置、前処理装置、またはこれらシステムや装置とは独立の検体ラック設置設備のいずれかにおいて、予め定めた所定の条件、所定の論理に従って、適宜自動消去するようにしてもよい。
【0038】
一方、通知手段65や通信手段64などの上記手段を実行するために必要となる電力は、電力供給手段63から供給される。ただし、通信手段64に整流回路が内蔵されたRFID(Radio Frequency Identification)などのIDタグを用いる場合、電力供給手段63は通信手段64に対して電力を供給する必要は無い場合がある。さらに、通知手段65として、各通知手段65に対して制御手段61と記憶手段62と通信手段64が一体形に形成されたLED一体型のRFIDを用い、自らのRFID宛ての信号を分析装置や前処理装置から受信したときのみLEDを発光するように、分析装置や前処理装置からLED一体型のRFIDを制御すれば、LED一体型のRFID以外の制御手段や記憶手段、電力供給手段63からの配線を検体ラック1に設ける必要がなくなる、これら各手段は、検体ラックが搬送される前処理装置や分析装置、また検体搬送システムの投入部、搬送路、収納部の省スペース化のため、検体ラックの小型化を妨げない大きさ、形状で、検体ラックに装備されることが望ましい。例えば、図1に示したように、通知手段65に小型かつ低電力で発光が可能なLEDを用いることは、通知手段65の小型化のみならず、電力供給部の小型化も併せて可能であるため、本発明が提供する検体ラックの実装に好ましい。
【0039】
電力供給手段63の実施形態として図7を示す。図7は、検体搬送システムから検体ラックへ電力を接触方式で供給する場合において、収納部9(または投入部、検体ラック設置設備)における検体ラック1の転倒防止と移動経路固定のための収納部の搬送レール11(もしくは検体ラック設置用レール)と、その搬送レール11に乗って検体ラック1が収納部9を移動するように検体ラック1の底面5に設けられている溝7に対して、電力受供給用の電極を設けた場合を示している。
【0040】
検体ラック1の溝7の受給用電極6、8と検体搬送システムの搬送レール11の供給用電極10、12は、それぞれが対応するように設けられている。なお、検体ラック1は、検体搬送システムや充電器(図示せず)から供給された電力を蓄電するための手段(図示せず)を有することもできる。ただし、検体ラック1の通知手段65と通信手段64を実行させるための電力の受供給を上記手段によらない場合には、通知手段65と通信手段64を実行させる電力を供給するための乾電池や燃料電池などの電源を検体ラック1に設ける必要がある。
なお、図7に示した収納部は、検体搬送システム本体から取り外し可能である場合において、取り外し後の収納部の移設先が検体搬送システム本体と独立であっても、検体ラックに設けた通知手段の実行、制御に必要な情報の通信や電力の受供給のための手段を、検体ラックや収納部、または必要に応じて検体搬送システム本体や移設先に設けることで、取り外し後も取り外し前と同等の効果を得ることが出来る。
また、検体搬送システムや分析装置、前処理装置とは独立した別個の検体ラック設置設備に検体ラックを設置した場合においても、検体搬送システムから取り外し可能な上記の収納部と同じように、検体ラック設置設備や検体ラック、または必要に応じて検体搬送システム本体に対して、検体ラックに設けた通知手段の実行、制御に必要な情報の通信や電力の受供給のための手段を設けることで、同等の効果を得ることが可能である。
【0041】
図8は、図7に示した実施形態において、検体ラック1の溝7に設けた受給用電極6、8から通知手段65までの配線について、通知手段65にLED13を使用した場合の一例を示す。図中の制御回路14には、LED13への電流調整用の抵抗やコンデンサ、図6の制御手段61に該当するマイコンなどが含まれる。また、この配線図は、検体ラック1の検体容器挿入口の数を「5」として、各挿入口に一個ずつのLED13を配置した場合の例であり、1つの制御回路14に対して5つのLED13が接続され、制御される。 各検体容器挿入口3に複数のLEDを配置する場合や、LEDへの電力の供給を他の手段による場合などはこの配線図に限らない。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明が対象とする検体ラックと検体搬送システムは、多数の検体を取り扱う病院や検査センター、研究所などの施設において、分析・検査業務の信頼性向上、高スループット化、低コスト化といったニーズに応えるものであり、競合各社が開発、販売を進めている製品である。検体ラックの通知手段として実施形態で例示したLEDは、小型かつ低電力で発光可能なため、現在広く普及している各社の検体ラックの大きさでも実装が可能である。また、色の種類が複数(赤、黄、青、緑、白など)あるため通知内容に対応させた各色の選択が可能である。さらに製品化において、大量生産が可能であり、かつ安価、長寿命であることが利点である。一方、検体ラックと検体搬送システムの通信手段においては、電波による情報の読み書きが可能なRFIDなどのIDタグの技術高度化と低価格化が進んでおり、検体ラックに付与するIDとして現在広く採用されているバーコードに代わってRFID採用の増加が見込まれる。今後開発、販売される製品において本発明が利用される期待は大きい。
【符号の説明】
【0043】
1・・・検体ラック、2・・・発光体、3・・・検体容器挿入口、4・・・作業者の視線方向から検体容器の陰になる部分、5・・・検体ラックの底面、6・・・受給用電極、7・・・溝、8・・・受給用電極、9・・・収納部、10・・・供給用電極、11・・・搬送レール、12・・・供給用電極、13・・・LED、14・・・制御回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体が入る検体容器を単数もしくは複数保持可能な検体ラックにおいて、
当該検体ラックが保持する単数もしくは複数の各検体容器内の検体に対する分析の状況や検体の状態に関する情報を外部に通知する通知手段と、
上記通知手段の実行に必要な情報を外部装置と送受信するための通信手段とを有することを特徴とする検体ラック。
【請求項2】
請求項1に記載の検体ラックにおいて、
上記通知手段は、単色もしくは複数色の発光体によって構成されることを特徴とする検体ラック。
【請求項3】
請求項2に記載の検体ラックにおいて、
上記発光体は、当該検体ラックの上底部もしくは上底部より上の位置に配置されることを特徴とする検体ラック。
【請求項4】
請求項2、3のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
上記発光体は、対応しない検体の検体容器挿入口と比べて、対応する検体の検体容器挿入口の近傍に配置されることを特徴とする検体ラック。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
予め対応づけられた発光体の色の組み合わせ、又は発光体の点灯方法、又は発光体の色と発光体の点灯方法の組み合わせによって、当該検体ラックが保持する単数もしくは複数の各検体容器内の検体に対する分析の状況や検体の状態を通知することを特徴とする検体ラック。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの一項に記載の検体ラックにおいて、
接触もしくは非接触にて、電力を受給する手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの一項に記載の検体ラックにおいて、
電力を蓄電する手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
検体搬送システムにおける当該検体ラックの投入部もしくは収納部のどちらか一方もしくは両方に設けられた電力供給手段から電力を受給する手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
上記通知手段を実行、制御するために必要となる情報を記憶する手段として、上記外部装置との通信によって得た情報の全てもしくは一部を一時的に記憶する記憶手段と、書き換えや消去が不要の読み取り専用の情報を半永久的に記憶する記憶手段のいずれか一方もしくは両方を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項10】
請求項9に記載の検体ラックにおいて、
上記いずれか一方もしくは両方の記憶手段に一時的に記憶した情報を消去する手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項11】
請求項10に記載の検体ラックにおいて、
上記消去する手段は、当該検体ラックや検体搬送システム、もしくは検体分析装置や検体分析前処理装置に付属もしくは独立に設けられた操作卓や操作画面のボタンやスイッチに対する作業者からの操作によって、上記一時的に記憶した情報を消去することを特徴とする検体ラック。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
当該検体ラックや検体搬送システムから取り外し可能な投入部もしくは収納部が、上記検体搬送システムもしくは取り外し後の投入部や収納部の移設先に設けられた通信手段と、有線もしくは無線にて通信するための手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
当該検体ラックや検体搬送システムから取り外し可能な投入部や収納部が、上記検体搬送システムから、もしくは取り外し後の投入部や収納部の移設先に設けられた電力供給手段から、有線もしくは無線にて電力を受給するための手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
当該検体ラックは、検体搬送システムや検体分析装置、検体分析前処理装置とは独立した検体ラック設置設備に配置され、
上記検体ラック設置設備は、通信手段と電力受供給手段を有し、
当該検体ラックは、上記検体ラック設置設備に当該検体ラックが設置される場合においても、当該検体ラックに設けられた上記通知手段が実行できるよう、上記検体搬送システムもしくは上記検体ラック設置設備と、無線もしくは有線にて通信するための手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項に記載の検体ラックにおいて、
当該検体ラックは、検体搬送システムや検体分析装置、検体分析前処理装置とは独立した検体ラック設置設備に配置され、
上記ラック設置設備は、通信手段と電力受供給手段を有し、
当該検体ラックは、当該検体ラック設置設備に当該検体ラックが設置される場合においても、当該検体ラックに設けられた上記通知手段が実行できるよう、当該検体ラック設置設備から、無線もしくは有線にて電力を受給するための手段を有することを特徴とする検体ラック。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れかに一項に記載の検体ラックと、
検体分析装置と検体分析前処理装置のいずれか一方又は両方を有することを特徴とする検体搬送システム。
【請求項17】
請求項16の記載の検体搬送システムにおいて、
接触もしくは非接触にて上記検体ラックと情報を送受信する通信手段を有し、
上記接触もしくは非接触にて上記検体ラックと情報を送受信する通信手段は、投入部から上記検体分析前処理装置や上記検体分析装置までの搬送ライン上、もしくは上記検体分析前処理装置や上記検体分析装置から収納部までの搬送ライン上のどちらか一方もしくは両方に配置されることを特徴とする検体搬送システム。
【請求項18】
検体を保持する検体容器を単数もしくは複数保持可能な検体ラックにおいて、
各検体容器を保持する保持手段と、
各検体容器内の検体の正常若しくは異常又は各検体容器内の検体に対する分析処理の正常若しくは異常を示す情報、又は各検体容器内の検体の正常若しくは異常又は各検体容器内の検体に対する分析処理の正常若しくは異常を示す情報に基づいて表示手段を表示させる表示方法を示す情報を受信する通信手段と、
各保持手段に対応して配置され、上記各検体容器内の検体の正常若しくは異常又は各検体容器内の検体に対する分析処理の正常若しくは異常を表示する表示手段とを有し、
上記表示手段は、当該検体ラックの上底部又は上底部近傍の側面で、かつ、上記表示手段に対応しない保持手段に比較して上記表示手段に対応する保持手段の近傍に配置されることを特徴とする検体ラック。
【請求項19】
請求項18に記載の検体ラックにおいて、
上記表示手段は、作業者が上記検体を検査する位置に当該検体ラックが存在する場合に、上記各検体容器内の検体の正常若しくは異常又は各検体容器内の検体に対する分析処理の正常若しくは異常を表示することを特徴とする検体ラック。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の検体ラックと、
上記検体ラックを搬送する搬送手段と、
上記検体の分析装置とを有し、
上記表示手段は、作業者が上記検体を検査する上記搬送手段上の位置に当該検体ラックが存在する場合に、上記各検体容器内の検体の正常若しくは異常又は各検体容器内の検体に対する分析処理の正常若しくは異常を表示することを特徴とする検体搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−83371(P2012−83371A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−21489(P2012−21489)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【分割の表示】特願2007−142775(P2007−142775)の分割
【原出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】