説明

検体分析方法、分光光度測定方法、検査装置および検査チップ

【課題】基板表面の微細な流路に検体および薬液を導入した場合でも、それらの化学反応を促進させた後に吸光度を測定することができる検査装置を提供すること。
【解決手段】臨床検査装置1の検査チップ3は、基板41と、この表面42に形成された流路46〜49を備えている。流路46〜49の途中には反応チャンバ51〜54が設けられており、基板41におけるその下側部分51a〜54aは基板41の裏面側から切り欠かれて薄肉の平板になっている。臨床検査装置1は下側部分51a〜54aを音響焦点とする超音波を照射できる超音波加振手段5を備えており、検体が導入されると超音波を照射する。この結果、下側部分51a〜54aが振動することにより、反応チャンバ51〜54に流れ込んでいる検体および薬液が振動して乱流拡散し、攪拌されて均一に混合される。従って、これらの反応を十分促進させた後に検体の吸光度を測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体分析方法に関し、特に薬液と検体とを十分に化学反応させた状態でそれらの吸光度を測定することができる分光光度測定方法に関する。また、そのような分光光度測定方法に用いる検査装置および検査チップに関する。
【背景技術】
【0002】
μTAS(Micro Total Analysis System)は、数cm角の大きさの基板の表面に形成した微細な流路に検体および薬液を導入し、流路を通過させる間にそれらを反応させて、その結果を分析するシステムである。一般生化学検査、免疫検査などに用いられており、例えば、薬液と反応した検体の吸光度を測定して、その成分濃度を分析する。μTASを用いれば、導入される検体および薬液が微量で済み、分析後におけるそれらの廃棄量が少ないという利点がある。また、分析に必要な時間も、大型の分析システムと比較して短時間で済むという利点がある。
【0003】
一方、流路が微細なので、そこに導入された検体および薬液が均一に混合されず、化学反応が進行しないという問題がある。このような問題を解決するために、特許文献1では、流路の途中の断面積を小さくして、検体と薬液とが拡散現象により均一に混合されるまでの時間を確保するようにしている。また、特許文献2では、基板に攪拌素子を取り付けて、流路を流れる検体等を振動させて、化学反応を促進させている。
【特許文献1】特開2005−30999号公報
【特許文献2】特開2005−164549号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、微細な流路内では検体および薬液はそれぞれ層流となり乱流拡散が期待できないことが分かってきた。このため、流路の形状を規定することにより拡散時間を確保しても、所望の化学反応が得られないという問題がある。
【0005】
また、基板に攪拌素子を取り付けるのでは、基板を小さく構成することができないという問題がある。また、基板の製造コストが上昇してしまうという問題がある。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、微細な流路に検体および薬液を導入した場合でも、それらの化学反応を十分に促進させた後に検体を分析することができる検体分析方法を提供することにある。また、基板に攪拌素子などを取り付けることなく、流路を流れる検体等の化学反応を促進させることができる検体分析方法を提供することにある。
【0007】
また、基板表面に形成した微細な流路に検体および薬液を導入した場合でも、それらの化学反応を十分に促進させた後に吸光度を測定することができる分光光度測定方法を提供することにある。また、そのような分光光度測定方法に用いる検査装置および検査チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、検体分析方法であって、
基板の表面に形成してある流路に検体および薬液を導入し、
前記基板における前記流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射して、検体および薬液を振動させ、
薬液と反応した検体を分析すること特徴とする。
【0009】
本発明の検体分析方法によれば、導入された検体および薬液が通過する流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射し、しかる後に検体の分析を行う。超音波によって流路の所定部分を振動させることにより、所定部分を通過する検体および薬液を振動させることができる。これにより、検体と薬液は乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合されるので、これらの化学反応が進行する。この結果、検体および薬液の化学反応を十分促進させた後に検体を分析することができる。従って、例えば、蛍光法、化学発光法、ラテックス凝集法などを用いて、検体を精度よく分析できる。また、流路の所定部分を音響焦点とする超音波によって検体および薬液を攪拌しているので、基板全体を振動させることがない。従って、分析機器などを基板の周辺に配置することが容易である。また、基板に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、基板を小さく構成することができる。また、基板を安価に製造することができる。
【0010】
次に、本発明は、分光光度測定方法であって、
基板の表面に形成してある流路に検体および薬液を導入し、
前記基板における前記流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射して、検体および薬液を振動させ、
薬液と反応した検体に検査光を透過させ、
その透過光から吸光度を測定することを特徴とする。
【0011】
本発明の分光光度測定方法によれば、導入された検体および薬液が通過する流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射し、しかる後に、検体の吸光度を測定している。超音波によって流路の所定部分を振動させることにより、所定部分を通過する検体および薬液を振動させることができる。これにより、検体と薬液は乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合されるので、これらの化学反応は進行する。この結果、検体および薬液の化学反応を十分促進させた後に検体の吸光度を測定することができる。また、流路の所定部分を音響焦点とする超音波によって検体および薬液を攪拌しているので、基板全体を振動させることがない。従って、吸光度を測定するための機器を基板の周辺に配置することが容易である。また、基板に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、基板を小さく構成することができる。また、基板を安価に製造することができる。
【0012】
ここで、基板上に形成されている流路を利用して吸光度を測定するためには、前記流路を経由させて薬液と反応した検体に前記検査光を透過させることが望ましい。
【0013】
次に、本発明は、上記の分光光度測定方法に用いられる検査装置であって、
前記基板および前記流路を備えている検査チップと、
前記超音波を照射する超音波加振手段と、
前記検査光を射出する光射出手段および前記透過光を受光する受光手段を備えている分光光度計を有し、
前記流路は、この流路の途中を幅広に形成してある反応チャンバを備えており、
前記基板における前記反応チャンバの所定部分は、前記超音波の音響焦点になっていることを特徴とする。
【0014】
本発明の検査装置は超音波加振手段を備えており、ここから照射される超音波によって反応チャンバの所定部分が振動する。これにより、幅広の反応チャンバに流れ込んでいる検体および薬液が振動して乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合されるので、これらの化学反応が進行する。この結果、検体および薬液の化学反応を十分促進させた後に検体の吸光度を測定することができる。また、流路の所定部分を音響焦点とする超音波によって検体および薬液を攪拌しているので、基板全体を振動させることがない。従って、分光光度計を基板の周辺に配置することが容易である。また、基板に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、検査チップを小さく構成することができる。また、検査チップを安価に製造することができる。
【0015】
ここで、反応チャンバに流れ込んでいる検体等を十分に振動させて化学反応を促進させるためには、前記反応チャンバの所定部分は、前記流路の他の流路部分と比較して薄肉に形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明において、流路を利用して検体の吸光度を測定するためには、前記流路は、前記反応チャンバの下流において所定の寸法だけ真っ直ぐに形成されている測定チャンバを備えており、
前記光射出手段から射出された検査光はこの測定チャンバを経由して前記受光手段で受光されることが望ましい。このようにすれば、吸光度を測定するために検体を貯留するセルを別途用意する必要がない。
【0017】
ここで、測定チャンバを経由して検体等に検査光を通過させるためには、前記流路において、前記測定チャンバに連続する上流側流路部分は、前記測定チャンバが延びている方向と直交する方向から前記測定チャンバの上流端部分に連続しており、前記測定チャンバから連続する下流側流路部分は、前記測定チャンバの下流端部分から前記測定チャンバが延びている方向と直交する方向に連続しており、
前記測定チャンバの上流側端面および下流側端面は透明な光通過部を備えており、
前記上流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が装着される上流側装着部が形成されており、前記下流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が装着される下流側装着部が形成されていることが望ましい。
【0018】
また、測定チャンバを経由して検体等に検査光を通過させるためには、前記測定チャンバの上流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が装着される上流側装着部がこの反応チャンバ内に突出しており、
前記測定チャンバの下流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が装着される上流側装着部がこの反応チャンバ内に突出しており、
前記上流側装着部と前記下流側装着部とは対向しており、向かい合う端面は透明な光通過部を備えていることが望ましい。
【0019】
本発明において、検体と薬液とを分注した後にそれらを反応させるためには、前記流路における前記反応チャンバの上流は複数に分岐しており、
分岐している流路部分の各上流端にはこの流路に薬液および検体を導入するための導入部が形成されていることが望ましい。
【0020】
本発明において、検査チップにおける基板のエッチングなどの製造プロセスを簡略化し、基板材料の選択の自由度を高くするためには、前記流路の深さは一定であることが望ましい。
【0021】
次に、本発明は、上記の分光光度測定方法に用いられる検査装置であって、
前記基板およびその表面に形成されている第1、第2流路を備えている検査チップと、
前記超音波を照射する超音波加振手段と、
前記検査光を射出する光射出手段およびその前記透過光を受光する受光手段を備えている分光光度計と、
前記検査チップと前記超音波加振手段とを相対的に移動させる第1移動機構とを有し、
前記第1、第2流路は、それぞれ各流路の途中を幅広に形成してある前記第1、第2反応チャンバを備えており、
前記第1、第2反応チャンバは並列に形成されており、
前記第1移動機構によって前記検査チップと前記超音波加振手段とを前記第1、第2反応チャンバの配列方向に相対的に移動させることにより、前記基板における前記第1反応チャンバの所定部分または第2反応チャンバの所定部分が前記超音波の音響焦点になることを特徴とする。
【0022】
本発明の検査装置は、1枚の基板の表面に複数の流路が形成されており、各流路はそれぞれ反応チャンバを備えている。また、第1移動機構によって検査チップと超音波加振手段とが相対的に移動することによって、各反応チャンバの所定部分を超音波の音響焦点とすることができる。従って、1枚の検査チップ上で、複数の検体と薬液の化学反応を十分促進させた後に、それらの吸光度を測定することができる。
【0023】
ここで、反応チャンバに流れ込んでいる検体等の化学反応を促進させるためには、前記第1、第2反応チャンバの所定部分は、各流路の他の流路部分と比較して薄肉に形成されていることが望ましい。
【0024】
本発明において、前記検査チップと前記分光光度計とを相対的に移動させる第2移動機構を有し、
前記第1、第2流路は、それぞれ前記第1、第2反応チャンバの下流において所定の寸法だけ真っ直ぐに形成されている第1、第2測定チャンバを備えており、
前記第1、第2測定チャンバは並列に形成されており、
前記第2移動機構によって前記検査チップと前記分光光度計とを前記第1、第2測定チャンバの配列方向に相対的に移動させることにより、前記光射出手段から射出された検査光は前記第1測定チャンバまたは第2測定チャンバを経由して前記受光手段で受光されることが望ましい。このようにすれば、第2移動機構によって検査チップと分光光度計とを相対的に移動させることにより、各測定チャンバを経由して検査光を通過させることができる。
【0025】
また、複数の分光光度計を備える場合には、前記検査光とは波長が異なる第2検査光を射出する第2光射出手段および透過光を受光する第2受光手段を備えている第2分光光度計を有し、
前記第2移動機構は前記検査チップと前記第2分光光度計とを相対的に移動させることが可能になっており、
前記第2移動機構によって前記検査チップと前記第2分光光度計とを前記第1、第2測定チャンバの配列方向に相対的に移動させることにより、前記第2光射出手段から射出された前記第2検査光は前記第1測定チャンバまたは第2測定チャンバを経由して前記第2受光手段で受光されることが望ましい。
【0026】
ここで、各測定チャンバを経由して検体等に検査光を通過させるためには、各流路において、各測定チャンバに連続する上流側流路部分は、各測定チャンバが延びている方向と直交する方向から各測定チャンバの上流端部分に連続しており、各測定チャンバから連続する下流側流路部分は、各測定チャンバの下流端部分から各測定チャンバが延びている方向と直交する方向に連続しており、
各測定チャンバの上流側端面および下流側端面は透明な光通過部を備えており、
前記上流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が着脱可能に装着される上流側装着部が形成されており、前記下流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が着脱可能に装着される下流側装着部が形成されていることが望ましい。
【0027】
また、各測定チャンバを経由して検体等に検査光を通過させるためには、各測定チャンバの上流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が装着される上流側装着部が各反応チャンバ内に突出しており、
各測定チャンバの下流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が着脱可能に装着される上流側装着部が各反応チャンバ内に突出しており、
前記上流側装着部と前記下流側装着部とは対向しており、向かい合う端面は透明な光通過部を備えていることが望ましい。
【0028】
本発明において、検体と薬液とを分注した後にそれらを反応させるためには、各流路における各反応チャンバの上流は複数に分岐しており、
それら分岐している流路部分の各上流端には各流路に薬液および検体を導入するための導入部が形成されていることが望ましい。
【0029】
本発明において、一つの導入部に分注された検体または薬液を、複数の流路に導入するためには、前記第1流路に形成されている複数の前記導入部のうちの少なくとも1つの導入部は、前記第2流路の少なくとも一つの導入部と一体に形成されていることが望ましい。
【0030】
本発明において、検査チップにおける基板のエッチングなどの製造プロセスを簡略化し、基板材料の選択の自由度を高くするためには、前記第1、第2流路の深さは同一であり、各流路の深さは一定であることが望ましい。
【0031】
次に、本発明は、上記の検査装置に用いられる検査チップとすることができる。本発明によれば、基板に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、検査チップを小さく構成することができる。また、検査チップを安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の検体分析方法によれば、導入された検体および薬液が通過する流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射し、しかる後に検体の分析を行う。超音波によって流路の所定部分を振動させることにより、流路を通過する検体および薬液を振動させることができる。これにより、検体と薬液は乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合されるので、これらの化学反応が進行する。この結果、検体および薬液の化学反応を十分促進させた後に検体を分析することができる。また、流路の所定部分を音響焦点とする超音波によって検体および薬液を攪拌しているので、基板全体を振動させることがない。従って、分析機器などを基板の周辺に配置することが容易である。また、基板に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、基板を小さく構成することができる。また、基板を安価に製造することができる。
【0033】
本発明の分光光度測定方法によれば、導入された検体および薬液が通過する流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射し、しかる後に検体の吸光度を測定している。超音波によって流路の所定部分を振動させることにより、流路を通過する検体および薬液を振動させることができる。これにより、検体と薬液は乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合されるので、これらの化学反応は進行する。この結果、検体および薬液の化学反応を十分促進させた後に検体の吸光度を測定することができる。また、流路の所定部分を音響焦点とする超音波によって検体および薬液を攪拌しているので、基板全体を振動させることがない。従って、吸光度を測定するための機器を基板の周辺に配置することが容易である。また、基板に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、基板を小さく構成することができる。また、基板を安価に製造することができる。
【0034】
また、本発明の検査装置は超音波加振手段を備えており、ここから照射される超音波によって反応チャンバの所定部分が振動する。これにより、幅広の反応チャンバに流れ込んでいる検体および薬液が振動して乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合されるので、これらの化学反応が進行する。この結果、検体および薬液の化学反応を十分促進させた後に検体の吸光度を測定することができる。また、流路の所定部分を音響焦点とする超音波によって検体および薬液を攪拌しているので、基板全体を振動させることがない。従って、分光光度計を基板の周辺に配置することが容易である。
【0035】
また、本発明の検査チップによれば、基板に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、小さく構成することができる。また、検査チップを安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下に、図面を参照して、本発明を適用した臨床検査装置の実施の形態を説明する。
【0037】
図1は本実施の形態に係る臨床検査装置の主要部分の概略構成図である。図2は(a)がその概略正面図であり、図2(b)が概略平面図である。図3は図1のA−A線で切断した部分を示す概略断面図である。これらの図を参照して、臨床検査装置1の全体構成を説明する。
【0038】
(全体構成)
本例の臨床検査装置1は、インクジェットプリンタに使用されているインクジェットヘッドと同様な機構の液滴吐出ヘッド2を用いて、検体および検体検査用の薬液を検査チップ3に分注し、検査チップ3上でそれらを反応させて、その結果を分光光度測定ユニット4A、4Bにより測定するものである。臨床検査装置1は、検査チップ3に向けて超音波を照射する超音波加振手段5を備えており、この超音波によって検査チップ3に導入された検体と薬液とを振動させて混合し、これらの反応を促進させる。
【0039】
図1、2に示すように、臨床検査装置1は、矩形枠状の装置フレーム6を備えており、この底面中央部分には前後方向(Y方向)に出し入れ可能な検査テーブル7が取り付けられている。検査テーブル7の中央部分には装着開口部8が形成されており、ここに検査チップ3が装着されている。装着開口部8は検査チップ3の周縁部分と嵌合して検査チップ3を保持するものであり、検査チップ3は下側が開放された状態で装着されている。
【0040】
装着開口部8および検査チップ3の下方には、吸光度を測定するための第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bと超音波加振手段5が配置されている。分光光度測定ユニット4A、4Bは、それぞれ検査チップ3上で薬液と反応している検体に特定波長の光からなる検査光を透過させ、その透過光を受光することにより吸光度を測定する。超音波加振手段5は検査チップ3の外側から、この検査チップ3に向けて超音波を照射する。なお、検査チップ3、分光光度測定ユニット4A、4Bおよび超音波加振手段5については、その詳細を後述する。
【0041】
装置フレーム6には、検査テーブル7の上方を経由して左右方向(X方向)に往復移動可能なヘッドキャリッジ9が取り付けられている。ヘッドキャリッジ9は、X方向に掛け渡したキャリッジガイド軸9aに沿って、キャリッジモータ9b、タイミングベルト9c、プーリ9dなどからなるキャリッジ駆動機構によってX方向に移動する。ヘッドキャリッジ9には、検体検査用の薬液を検査チップ3に分注するための液滴吐出ヘッド2が搭載されている。
【0042】
液滴吐出ヘッド2は、ヘッドキャリッジ9に搭載されている3連式の駆動ユニット11(1)〜11(3)と、これらの駆動ユニット11(1)〜11(3)のそれぞれの装着穴12(1)〜12(3)に着脱可能に上側から装着される3本のノズルカートリッジ13(1)〜13(3)とを備えている。
【0043】
図3に示すように、ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)は、その上半部分が薬液を貯留するための貯留部31とされ、その下半部分が装着穴12(1)〜12(3)に装着可能な装着部32とされている。この装着部32の先端には液滴吐出用のノズル33が形成されており、装着部32の内部には、液滴をノズル33から吐出させるために必要な圧力変動を発生させるための圧力発生用流路34が形成されている。圧力発生用流路34の一端がノズル33に連通しており、その他端が貯留部31に連通している。
【0044】
次に、図1から3に示すように、ヘッドキャリッジ9には、3本のノズルカートリッジ13(1)〜13(3)を覆う状態に、吸引流路板14が着脱可能な状態で装着されている。吸引流路板14の上面には不図示のフィルムで封鎖された各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の貯留部31内に連通する3本の吸引流路14(a)〜14(c)が形成されている。これらの吸引流路14(a)〜14(c)の一端は、図3から分かるように、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の貯留部31の内部に連通している。これらの吸引流路14(a)〜14(c)の他端は、ヘッドキャリッジ9と装置フレーム6の間にU状に湾曲させて架け渡したフレキシブル配線板15に沿って引き出されている不図示の可撓性の吸引チューブを介して、装置フレーム6の背面に搭載されているヘッド吸引ポンプ16の吸引ポート(図示せず)に繋がっている。
【0045】
吸引チューブと吸引ポートの間には三方電磁弁(図示せず)が配置されている。三方電磁弁を切り替えることにより、ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の内部をヘッド吸引ポンプ16によって吸引可能である。また、ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)とヘッド吸引ポンプ16の間を切断して、ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の貯留部31内を大気開放できるようになっている。
【0046】
次に、装置フレーム6の底部における側方の部位には、廃液回収ユニット17が配置されている。廃液回収ユニット17は、ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)のノズル33が形成されている先端部分を覆うためのキャップ18と、チューブポンプなどの廃液回収ポンプ19と、廃液回収ポンプ19によって吸引された廃液の回収部(図示せず)とを備えている。キャップ18をノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の先端部分に被せて、廃液回収ポンプ19を駆動することにより、各ノズル33を介して各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)内の液体を外部に排出して回収することができるようになっている。
【0047】
装置フレーム6の底部における廃液回収ユニット17とは反対側の側方の部位には、液体貯留ユニット21が配置されている。この液体貯留ユニット21は、マトリックス状に液体貯留用のウエル22が形成されているウエルプレート23と、このウエルプレート23を昇降させるための昇降ユニット24とを備えている。例えば、3行5列のウエル22(1,1)〜22(3,5)が形成されており、各行の間隔は3本のノズルカートリッジ13(1)〜13(3)のノズル33に対応した間隔とされている。
【0048】
例えば、1列分の3個のウエル22(1,1)〜22(3,1)は洗浄液が貯留された洗浄液貯留部である。残りのウエルは薬液貯留部であり、第1行目の4個のウエル22(1,2)〜(1,5)は薬液(指標薬)が貯留された薬液貯留部、第2行目の4個のウエル22(2,2)〜22(2,5)は反応薬が貯留された反応薬貯留部、第3行目の4個のウエル22(3,2)〜22(3,5)は緩衝薬が貯留された緩衝薬貯留部である。
【0049】
ここで、図1、2を参照して、ヘッドキャリッジ9に搭載されている液滴吐出ヘッド2の移動位置について説明する。液滴吐出ヘッド2は、その各ノズル33が、廃液回収ユニット17に対峙した待機位置2Aと、検査テーブル7上の検査チップ3に対峙した分注位置(液滴吐出位置)2Bと、液体貯留部21における洗浄液貯留用のウエル22(1,1)〜22(3,1)に対峙した洗浄液吸引位置2Cと、これら以外のウエルの各列に対峙した4箇所の薬液吸引位置2Dを経由するヘッド移動経路に沿って搬送されるようになっている。なお、図2は、液滴吐出ヘッド2のノズル33が3列目のウエル2(1,3)〜2(3,3)に位置している状態を示してあり、図1は、液滴吐出ヘッド2が待機位置2Aに位置している状態を示してある。
【0050】
(検査チップ、超音波加振手段、分光光度測定ユニット)
次に、図4〜6を参照しながら、検査チップ3、超音波加振手段5および分光光度測定ユニット4A、4Bについて詳細に構成を説明する。図4(a)は検査チップを構成する基板の斜視図であり、図4(b)はその平面図であり、図4(c)は図4(b)のB−B線で切断した断面図である。図5は検査チップ、分光光度測定ユニットおよび超音波加振手段を説明するための概略分解斜視図である。図6(a)は検査チップ、分光光度測定ユニットおよび超音波加振手段の位置関係を説明するための概略斜視図であり、図6(b)はその概略正面図であり、図6(c)は図6(a)のC−C線で切断した概略断面図である。
【0051】
図4に示すように、検査チップ3は、側方に突出部分40を備える矩形の扁平な基板41を有している。基板41の平坦な表面42には、第1〜第4流路46〜49が形成されている。基板41は合成樹脂やガラスからなり、これら第1〜第4流路46〜49は、例えば、エッチングにより形成されている。基板41の表面には、図5、6に示すように、透明基板43が取り付けられる。
【0052】
第1〜第4流路46〜49の途中には、流路を幅広に形成した第1〜第4反応チャンバ51〜54が設けられている。その下流には流路を所定の寸法だけ真っ直ぐに形成した第1〜第4測定チャンバ56〜59が設けられている。第4流路49の第4測定チャンバ59は突出部分40に形成されている。
【0053】
反応チャンバ51〜54よりも上端側の流路部分はいずれも2つに分岐している。分岐している一方の流路部分の上流端には、それぞれ検体または薬液を導入するための矩形の導入口61〜64が形成されている。他方の流路部分の上流端はいずれも基板41の上側中央部分に導かれており、そこには第1〜第4流路46〜49に共通する共通導入口60が形成されている。なお、各流路46〜49の下流端は基板41の側端面に達しており、各流路46〜49に導入された検体および薬液を排出するための第1〜第4排出口66〜69になっている。
【0054】
各反応チャンバ51〜54は幅広に形成されているが、その深さは均一であり、各流路46〜49の他の流路部分と同一の深さである。基板41における各反応チャンバ51〜54の下側部分51a〜54aには基板41の裏面側から切り欠き55が形成されている。この結果、反応チャンバの下側部分51a〜54aは各流路46〜49の他の流路部分の下側部分よりも薄肉の平板状になっている。第1〜第4反応チャンバ51〜54はX方向に配列されている。
【0055】
ここで、超音波加振手段5は不図示の超音波振動子とホーンを含む超音波振動装置等から成り、図6に示すように、検査チップ3の装着位置の下方に配置されており、各反応チャンバ51の下側部分51aを音響焦点とする超音波を照射することができる。照射する超音波の周波数は40kHz程度である。超音波加振手段5は、不図示の第1移動機構によってX方向に移動可能になっているので、各反応チャンバ51〜54の下側部分51a〜54aのそれぞれを音響焦点とする超音波を照射することができる。
【0056】
次に、図4を参照しながら各測定チャンバ56〜59を説明する。各測定チャンバ56〜59は、それぞれ流路を幅広にするとともに所定の長さ寸法だけ真っ直ぐに形成したものである。所定の長さ寸法とは、吸光度を精度よく測定するために必要な光路長に対応する長さである。各測定チャンバ56〜59の深さは均一である。また、流路の他の部分と同一の深さである。また、第1〜第4測定チャンバ56〜59はX方向に配列されている。
【0057】
各流路46〜49において、各測定チャンバ56〜59に連続する上流側流路部分46a〜49aは、各測定チャンバ56〜59が延びている方向と直交する方向から各測定チャンバ56〜59の上流端部分に連続している。また、各測定チャンバ56〜59から連続する下流側流路部分46b〜49bは、各測定チャンバ56〜59の下流端部分から各測定チャンバ56〜59が延びている方向と直交する方向に連続している。また、各測定チャンバ56〜59の上流側端面56a〜59aは透明な光通過部となっている。下流側端面56b〜59bも透明な光通過部となっている。
【0058】
ここで、第1〜第3流路46〜48の各測定チャンバ56〜58の上流側端面56a〜58aおよび下流側端面56b〜58bの外側には、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bを着脱可能に装着するための一対の装着口71〜73が形成されている。また、突出部分40に形成されている第4流路49の第4測定チャンバ59の上流側端面59aおよび下流側端面59bの外側の基板41と検査テーブル7との間は、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bを着脱可能に装着するための一対の装着孔74が形成されている(図1および図2(b)参照)。
【0059】
透明基板43は、平面形状が基板41と同一の薄い平板である。基板41の共通導入口60、導入口61〜64に対応する領域には円形の開口60a〜64aが形成されている。また、一対の装着口71〜73に対応する領域には矩形の開口71a〜73aが形成されている。
【0060】
次に、分光光度測定ユニット4A、4Bは、図5、6に示すように、それぞれ立方体のユニットケース75を備えている。ユニットケース75の内部には、それぞれ、検体に向けて検査光を射出する光射出手段76と検体を透過した透過光を受光する受光手段80とを備えている。分光光度測定ユニット4A、4Bは、光射出手段76から射出される検査光の波長が相違しているが他の構成は同一なので、分光光度測定ユニット4Aについて説明し、分光光度測定ユニット4Bの対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0061】
光射出手段76は、不図示の白色レーザ等の光源と、この光源から射出された検査光を端面77aから射出する光射出側光ファイバ77を有している。光射出側光ファイバ77の端部分77bはL字形状に曲げられた状態で立方体のユニットケース75の天井板部分から突出しており、この端面77aから検査光が射出される。受光手段80は、不図示のフォトマルチプレクサ等の受光素子と、端面81aから入射する光をこの受光素子の受光部に導く受光側光ファイバ81とを有している。端面81aを備えている受光側光ファイバ81の端部分81bはL字形状に曲げられた状態でユニットケースの天井板部分から突出している。ここで、光射出側光ファイバ77の端面77aと受光側光ファイバ81の端面81aとは対向しており、光射出手段76から射出された検査光は受光手段80によって受光可能になっている。
【0062】
図6に示す例では、第1分光光度測定ユニット4Aは第1流路46の第1測定チャンバ56を挟む一対の装着口71に装着されている。詳細には、光射出側光ファイバ77の端部分77bが一対の装着口71の上流側装着部71aに装着されており、受光側光ファイバ81の端部分81bが一対の装着口71の下流側装着部71bに装着されている。端部分77bの端面77aは第1測定チャンバ56の透明な上流側端面56aに当接しており、端部分81bの端面81aは透明な下流側端面56bに当接している。
【0063】
また、第2分光光度測定ユニット4Bは第4流路49の第4測定チャンバ59を挟む一対の装着孔74に装着されている。詳細には、光射出側光ファイバ77の端部分77bが一対の装着孔74の上流側装着部74aに装着されており、受光側光ファイバ81の端部分81bが一対の装着孔74の下流側装着部74bに装着されている。端部分77bの端面77aは第4測定チャンバ59の透明な上流側端面59aに当接しており、端部分81bの端面81aは透明な下流側端面59bに当接している。
【0064】
ここで、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bは、不図示の第2移動機構によってそれぞれX方向および上下方向に移動可能になっている。従って、各装着口71〜73および装着孔74に第1、第2分光光度測定ユニットをそれぞれ着脱可能に装着することができる。この結果、光射出手段76から射出された検査光を、第1〜第4測定チャンバ56〜59のうちのいずれかを経由させて、受光手段80で受光できる。
【0065】
(分注動作)
次に、図7および図8は、臨床検査装置における動作のうち、主に薬液分注動作を示す説明図である。
【0066】
まず、図1、2に示すように、待機位置2Aに待機しているヘッドキャリッジ9に搭載されている駆動ユニット11(1)〜11(3)の装着穴12(1)〜12(3)に、空のノズルカートリッジ13(1)〜13(3)をそれぞれ装着して、液滴吐出ヘッド2を構成する。また、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の上に吸引流路板14を取り付ける。
【0067】
次に、図7(a)に示すように、検査テーブル7を前方に引き出し、チップマガジン10から取り出された検査チップ3を装着開口部8に装着する。このとき、共通導入口60にピペッティングなどにより検体(例えば血しょう)を導入する。そして、検査テーブル7を元の位置に引き込む。
【0068】
この後は、図7(b)に示すように、ヘッドキャリッジ9によって液滴吐出ヘッド2を洗浄液吸引位置2Cに移動する。洗浄液吸引位置2Cにおいて、昇降ユニット24によってウエルプレート23を上昇させ、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)のノズル33が形成されている先端部分を洗浄液貯留部であるウエル22(1,1)〜22(3,1)に貯留されている洗浄液内に差し込む。この状態で、ヘッド吸引ポンプ16を駆動して、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の貯留部31の内部を負圧状態にする。これにより、各ノズル33を介して、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の貯留部31の内部に洗浄液が吸引される。
【0069】
次に、図7(c)に示すように、ヘッドキャリッジ9によって液滴吐出ヘッド2を待機位置2Aに戻し、廃液回収ユニット17のキャップ18を上昇させて、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)のノズル33を密閉状態で覆う(図3参照)。この状態で廃液回収ポンプ19を駆動して、各ノズル33を介して、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の内部から洗浄液を吸い出して回収する。これにより、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)における貯留部31の内部、圧力発生用流路34およびノズル33が洗浄される。
【0070】
この後は、図8(a)に示すように、ヘッドキャリッジ9によって液滴吐出ヘッド2を薬液吸引位置2Dに移動し、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の各ノズル33を薬液貯留部としての第2〜第5のウエル列のいずれかに位置決めする。この状態で、昇降ユニット24によってウエルプレート23を上昇させ、各ノズル33を各ウエルに貯留されている薬液内に差し込む。次に、ヘッド吸引ポンプ16を駆動して、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の貯留部31の内部を負圧状態にする。これにより、各ノズル33を介して、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の貯留部31の内部に所定の薬液が吸引される。
【0071】
次に、図8(b)に示すように、ヘッドキャリッジ9によって液滴吐出ヘッド2を分注位置2Bに移動し、検査チップ3に各ノズル33から薬液を必要回数吐出する。これにより、検査チップ3に各薬液が分注される。例えば、液滴吐出ヘッド2の各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)のノズル33を順次に検査チップ3の吐出位置に位置決めして、各ノズル33から薬液を吐出する。各ノズル33と検査チップ3の吐出位置との位置決めは、検査テーブル7をY方向に移動させることにより行われる。この後は、液滴吐出ヘッド2を待機位置に戻す。
【0072】
上記の図7(a)の検体導入の後、図8(a)の薬液吸引と図8(b)の薬液分注動作を繰り返し行うことにより、検査チップ3に形成されている導入口61〜64には、所定の薬液を分注することができる。なお、検体も液滴吐出ヘッド2を用いて共通導入口60に分注することも可能である。
【0073】
各薬液の分注が終了した後は、図8(c)に示すように、液滴吐出ヘッド2を待機位置に戻す。そして、廃液回収ユニット17のキャップ18を上昇させて、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)のノズル33を密閉状態で覆う(図3参照)。この状態で廃液回収ポンプ19を駆動して、各ノズル33を介して、各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)の内部に残っている薬液を吸い出して回収する。空となった使用済みの各ノズルカートリッジ13(1)〜13(3)を、各駆動ユニット11(1)〜11(3)から取り外して廃棄する。
【0074】
(吸光度測定動作)
次に、図6および図9を参照しながら、検査チップ3に導入された検体および薬液を反応させ、その吸光度を求める吸光度測定動作を説明する。図9(a)は超音波加振手段をX方向に移動させた状態を示す斜視図であり、図9(b)は分光光度測定ユニットを移動させた状態を示す斜視図である。
【0075】
分注動作によって、検査テーブル7に装着されている検査チップ3の各導入口61〜63には、液滴吐出ヘッド2によって所定の薬液がそれぞれ分注されている。また、共通導入口60には検体が導入されている。各薬液は毛細管力によって各反応チャンバ51〜54に向かって移動する。そして、各薬液は共通導入口60から毛細管力によって各反応チャンバ51〜54に向かって移動してくる検体と合流して、各反応チャンバ51〜54に流れ込む。
【0076】
ここで、超音波加振手段5は、各反応チャンバ51〜54の下側部分51a〜54aを音響焦点とする超音波を照射する。本例では、図6に示すように、まず、超音波加振手段5は超音波を第1反応チャンバ51の下側部分51aに照射する。次に、図9(a)に示すように、第1移動機構によってX方向の左側に移動させられて停止し、第2反応チャンバ52の下側部分52aに超音波を照射する。この後もX方向を同一方向に移動させられた後に停止および照射を繰り返し、第3、第4反応チャンバ53、54の下側部分53a、54aをこの順番で照射する。これらの動作によって、下側部分51a〜54aが振動し、各反応チャンバ51〜54を通過している検体および各薬液は振動して乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合される。この結果、各反応チャンバ51〜54において、検体と薬液との化学反応が促進される。
【0077】
その後、薬液と反応している検体は、各反応チャンバ51〜54の下流の流路部分を通過して、各測定チャンバ56〜59に流れ込む。
【0078】
ここで、第1分光光度測定ユニット4Aは、図6に示すように、第1測定チャンバ56を挟む一対の装着口71に装着されている。すなわち、所定の待機位置から、第2移動機構によってX方向を第1測定チャンバ56直下まで移動させられ、その後に上昇させられて一対の装着口71に装着されている。一方、第2分光光度測定ユニット4Bは第4測定チャンバ59を挟む一対の装着孔74に装着されている。すなわち、所定の待機位置から、第2移動機構によってX方向を装着孔74の直下まで移動させられ、その後に上昇させられて装着孔74に装着されている。
【0079】
この状態で、第1分光光度測定ユニット4Aの光射出手段76から検査光が射出されると、検査光は第1測定チャンバ56において薬液と反応している検体を透過し、透過光が受光手段80によって検出される。第2分光光度測定ユニット4Bの光射出手段76から検査光が射出されると、検査光は第4測定チャンバ59において薬液と反応している検体を透過し、透過光は受光手段80によって検出される。従って、第1流路46および第4流路49において薬液と反応している検体の吸光度を求めることができる。
【0080】
次に、図9(b)に示すように、第1分光光度測定ユニット4Aは第2測定チャンバ57を挟む一対の装着口72に装着される。詳細には、第2移動機構によって装着口71から下降させられた後に、X方向を第2測定チャンバ57の直下まで移動させられ、その後に上昇させられて装着口72に装着される。一方の第2分光光度測定ユニット4Bは第3測定チャンバ58を挟む一対の装着口73に装着される。詳細には、第2移動機構によって装着孔74から下降させられた後に、X方向を第3測定チャンバ58の直下まで移動させられ、その後に上昇させられて装着口73に装着される。
【0081】
この状態で、第1分光光度測定ユニット4Aの光射出手段76から検査光が射出されると、検査光は第2測定チャンバ57において薬液と反応している検体を透過し、透過光が受光手段80によって検出される。第2分光光度測定ユニット4Bの光射出手段76から検査光が射出されると、検査光は第3測定チャンバ58において薬液と反応している検体を透過し、透過光は受光手段80によって検出される。従って、第2流路47および第3流路48において薬液と反応している検体の吸光度を求めることができる。
【0082】
なお、本例では、第1、第2流路46、47で薬液と反応した検体の吸光度を第1分光光度測定ユニット4Aで測定し、第3、第4流路48、49で薬液と反応した検体の吸光度を第2分光光度測定ユニット4Bで測定しているが、第1分光光度測定ユニット4Aを用いて全ての流路で吸光度を測定することもできる。また、第2分光光度測定ユニット4Bを用いて全ての流路で吸光度を測定することもできる。なお、各分光光度測定ユニット4A、4Bの検査光を同一の波長の光としておくこともできる。さらに、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bが吸光度を測定する流路の順番を任意に定めることができる。また、超音波加振手段5が超音波を各反応チャンバ51〜54の下側部分51a〜54aに照射する順番も任意に定めることができる。
【0083】
(本形態の効果)
以上説明したように、本例の臨床検査装置1は超音波加振手段5を備えており、ここから照射される超音波によって各反応チャンバ51〜54の下側部分51a〜54aが振動する。これにより、各反応チャンバ51〜54に流れ込んでいる検体および薬液が振動して乱流拡散する。また、攪拌されて均一に混合されるので、これらの化学反応が進行する。この結果、検体および薬液の化学反応を十分促進させた後に検体の吸光度を測定することができる。
【0084】
また、各反応チャンバ51〜54の下側部分51a〜54aを音響焦点とする超音波によって検体および薬液を攪拌しているので、基板41の全体を振動させることがない。従って、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bを基板41の周辺に配置することが容易である。
【0085】
また、基板41に攪拌素子などを取り付ける必要がないので、検査チップ3を小さく構成することができる。また、検査チップ3を安価に製造することができる。
【0086】
さらに、各反応チャンバ51〜54の下側部分51a〜54aは薄い平板になっているので、そこを音響焦点とする超音波を照射することにより各反応チャンバ51〜54に流れ込んでいる検体等を十分に振動させて、化学反応を促進させることができる。
【0087】
また、基板41に形成されている各流路46〜49は同一の深さであり、その途中に形成されている各反応チャンバ51〜54および各測定チャンバ56〜59を含めて一定の深さである。従って、流路を形成する際の基板41のエッチングなどの製造プロセスを簡略化し、基板41の材料の選択の自由度を高くすることができる。
【0088】
さらに、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bが装着口71〜73および装着孔74に装着されることにより、検査光は吸光度の測定に十分な長さ寸法を備えた測定チャンバを通過するようになっている。この結果、各測定チャンバ56〜59に流れ込んでいる薬液および検体の吸光度を精度よく測定することができる。また、流路を利用して吸光度を測定できるので、吸光度を測定するために検体を貯留するセルを別途用意する必要がない。
【0089】
また、本例は、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bを備えているので、薬液と反応している検体に対して異なる波長の検査光を透過させて、その吸光度を測定することができる。
【0090】
(その他の実施の形態)
上記の例では、第1、第2分光光度測定ユニット4A、4Bを装着するための一対の装着口および一対の装着口は、いずれも各測定チャンバ56〜59を外側から挟む位置に形成されていた。しかし、図10に示すように、各測定チャンバの内部において突出する一対の装着凸部91〜94を形成することもできる。
【0091】
この場合には、各測定チャンバ56〜59の上流端部分には、光射出手段76および受光手段80のいずれか一方が着脱可能に装着される上流側装着凸部91a〜94aを形成し、各測定チャンバ56〜59の下流端部分には、光射出手段76および受光手段80のいずれか他方が着脱可能に装着される下流側装着凸部91b〜94bを形成する。また、上流側装着凸部と下流側装着凸部とが対向し、それらの向かい合う端面は透明な光通過部を備えるように形成する。そして、これら端面の間隔を、吸光度を測定するために必要な光路長に対応する長さ寸法とする。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明を適用した臨床検査装置の主要部分の概略構成図である。
【図2】図1の臨床検査装置の正面図および平面図である。
【図3】図1のA−A線で切断した部分の断面図である。
【図4】検査チップを構成する基板の斜視図、平面図および断面図である。
【図5】検査チップ、分光光度測定ユニット、超音波加振手段の説明図である。
【図6】検査チップ、分光光度測定ユニット、超音波加振手段の説明図である。
【図7】図1の臨床検査装置1の分注動作を示す説明図である。
【図8】図1の臨床検査装置1の分注動作を示す説明図である。
【図9】分光光度測定ユニットおよび超音波加振手段の移動動作を示す斜視図である。
【図10】分光光度測定ユニットを装着する装着部の別の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0093】
1 臨床検査装置、2 液滴吐出ヘッド、2A 待機位置、2B 分注位置、2C 洗浄液吸引位置、2D 薬液吸引位置、3 検査チップ、4A,4B 分光光度測定ユニット、5 超音波加振手段5、6 装置フレーム、7 検査テーブル、8 装着開口部、9 ヘッドキャリッジ、9a キャリッジガイド軸 9b キャリッジモータ、9c タイミングベルト、9d プーリ、10 チップマガジン、11(1)〜11(3) 駆動ユニット、12(1)〜12(3) 装着穴、13(1)〜13(3) ノズルカートリッジ、14 吸引流路板、14(a)〜14(c) 吸引流路、15 フレキシブル配線板、16 ヘッド吸引ポンプ、17 廃液回収ユニット、18 キャップ、19 廃液回収ポンプ、21 液体貯留部、22(1,1)〜22(3,5) ウエル、23 ウエルプレート、24 昇降ユニット、26 液送ポンプ、31 貯留部、32 装着部、33 ノズル、34 液体流路、40 突出部分、41 基板、42 表面、46〜49 流路 51〜54 反応チャンバ、56〜59 測定チャンバ、60 共通導入口、61〜63 導入口、66〜69 排出口、71〜73 装着口、74 装着孔、76 光射出手段、77 光射出側光ファイバ、80 受光手段、81 受光側光ファイバ、91〜94 装着凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に形成してある流路に検体および薬液を導入し、
前記基板における前記流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射して、検体および薬液を振動させ、
薬液と反応した検体を分析すること特徴とする検体分析方法。
【請求項2】
基板の表面に形成してある流路に検体および薬液を導入し、
前記基板における前記流路の所定部分を音響焦点とする超音波を照射して、検体および薬液を振動させ、
薬液と反応した検体に検査光を透過させ、
その透過光から吸光度を測定することを特徴とする分光光度測定方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記流路を経由させて薬液と反応した検体に前記検査光を透過させることを特徴とする分光光度測定方法。
【請求項4】
請求項2に記載されている分光光度測定方法に用いられる検査装置であって、
前記基板および前記流路を備えている検査チップと、
前記超音波を照射する超音波加振手段と、
前記検査光を射出する光射出手段および前記透過光を受光する受光手段を備えている分光光度計を有し、
前記流路は、この流路の途中を幅広に形成してある反応チャンバを備えており、
前記基板における前記反応チャンバの所定部分は、前記超音波の音響焦点になっていることを特徴とする検査装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記反応チャンバの所定部分は、前記流路の他の流路部分と比較して薄肉に形成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記流路は、前記反応チャンバの下流において所定の寸法だけ真っ直ぐに形成されている測定チャンバを備えており、
前記光射出手段から射出された検査光はこの測定チャンバを経由して前記受光手段で受光されることを特徴とする検査装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記流路において、前記測定チャンバに連続する上流側流路部分は、前記測定チャンバが延びている方向と直交する方向から前記測定チャンバの上流端部分に連続しており、前記測定チャンバから連続する下流側流路部分は、前記測定チャンバの下流端部分から前記測定チャンバが延びている方向と直交する方向に連続しており、
前記測定チャンバの上流側端面および下流側端面は透明な光通過部を備えており、
前記上流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が装着される上流側装着部が形成されており、前記下流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が装着される下流側装着部が形成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項8】
請求項6において、
前記測定チャンバの上流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が装着される上流側装着部がこの反応チャンバ内に突出しており、
前記測定チャンバの下流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が装着される上流側装着部がこの反応チャンバ内に突出しており、
前記上流側装着部と前記下流側装着部とは対向しており、向かい合う端面は透明な光通過部を備えていることを特徴とする検査装置。
【請求項9】
請求項4ないし8のうちのいずれかの項において、
前記流路における前記反応チャンバの上流は複数に分岐しており、
分岐している流路部分の各上流端にはこの流路に薬液および検体を導入するための導入部が形成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項10】
請求項4ないし9のうちのいずれかの項において、
前記流路の深さは一定であることを特徴とする検査装置。
【請求項11】
請求項2に記載されている分光光度測定方法に用いられる検査装置であって、
前記基板およびその表面に形成されている第1、第2流路を備えている検査チップと、
前記超音波を照射する超音波加振手段と、
前記検査光を射出する光射出手段およびその前記透過光を受光する受光手段を備えている分光光度計と、
前記検査チップと前記超音波加振手段とを相対的に移動させる第1移動機構とを有し、
前記第1、第2流路は、それぞれ各流路の途中を幅広に形成してある前記第1、第2反応チャンバを備えており、
前記第1、第2反応チャンバは並列に形成されており、
前記第1移動機構によって前記検査チップと前記超音波加振手段とを前記第1、第2反応チャンバの配列方向に相対的に移動させることにより、前記基板における前記第1反応チャンバの所定部分または第2反応チャンバの所定部分が前記超音波の音響焦点になることを特徴とする検査装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1、第2反応チャンバの所定部分は、各流路の他の流路部分と比較して薄肉に形成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項13】
請求項11または12のうちのいずれかの項において、
前記検査チップと前記分光光度計とを相対的に移動させる第2移動機構を有し、
前記第1、第2流路は、それぞれ前記第1、第2反応チャンバの下流において所定の寸法だけ真っ直ぐに形成されている第1、第2測定チャンバを備えており、
前記第1、第2測定チャンバは並列に形成されており、
前記第2移動機構によって前記検査チップと前記分光光度計とを前記第1、第2測定チャンバの配列方向に相対的に移動させることにより、前記光射出手段から射出された検査光は前記第1測定チャンバまたは第2測定チャンバを経由して前記受光手段で受光されることを特徴とする検査装置。
【請求項14】
請求項13において、
前記検査光とは波長が異なる第2検査光を射出する第2光射出手段および透過光を受光する第2受光手段を備えている第2分光光度計を有し、
前記第2移動機構は前記検査チップと前記第2分光光度計とを相対的に移動させることが可能になっており、
前記第2移動機構によって前記検査チップと前記第2分光光度計とを前記第1、第2測定チャンバの配列方向に相対的に移動させることにより、前記第2光射出手段から射出された前記第2検査光は前記第1測定チャンバまたは第2測定チャンバを経由して前記第2受光手段で受光されることを特徴とする検査装置。
【請求項15】
請求項13または14において、
各流路において、各測定チャンバに連続する上流側流路部分は、各測定チャンバが延びている方向と直交する方向から各測定チャンバの上流端部分に連続しており、各測定チャンバから連続する下流側流路部分は、各測定チャンバの下流端部分から各測定チャンバが延びている方向と直交する方向に連続しており、
各測定チャンバの上流側端面および下流側端面は透明な光通過部を備えており、
前記上流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が着脱可能に装着される上流側装着部が形成されており、前記下流側端面の外側には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が着脱可能に装着される下流側装着部が形成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項16】
請求項13または14において、
各測定チャンバの上流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか一方が装着される上流側装着部が各反応チャンバ内に突出しており、
各測定チャンバの下流端部分には、前記光射出手段および前記受光手段のいずれか他方が着脱可能に装着される上流側装着部が各反応チャンバ内に突出しており、
前記上流側装着部と前記下流側装着部とは対向しており、向かい合う端面は透明な光通過部を備えていることを特徴とする検査装置。
【請求項17】
請求項11ないし16のうちのいずれかの項において、
各流路における各反応チャンバの上流は複数に分岐しており、
それら分岐している流路部分の各上流端には各流路に薬液および検体を導入するための導入部が形成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項18】
請求項17において、
前記第1流路に形成されている複数の前記導入部のうちの少なくとも1つの導入部は、前記第2流路の少なくとも一つの導入部と一体に形成されていることを特徴とする検査装置。
【請求項19】
請求項11ないし18のうちのいずれかの項において、
前記第1、第2流路の深さは同一であり、
各流路の深さは一定であることを特徴とする検査装置。
【請求項20】
請求項4ないし19のうちのいずれかの項に記載されている検査装置に用いられる検査チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−14636(P2009−14636A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−179317(P2007−179317)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】