説明

検体容器

【課題】綿棒から検出物を効率よく希釈液へと抽出するための検体抽出容器の提供を課題とする。
【解決手段】筒状の容器の内側に綿球の径と同じ、もしくはそれより少し広い空間ができるように複数のリブを配置することで、綿棒の軸を回転させることによりそのリブに綿球が擦れて、綿球から被検出物を効率良く抽出することができる検体抽出容器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易検査に用いられる検体の抽出の作業効率を上げる検体容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ウイルスや細菌等の病原体の感染の有無確認や、妊娠の有無確認など、様々な検査を短時間で行う簡易検査試薬やキットが開発されている。簡易検査試薬の多くは、特別な設備を必要とせず操作も簡単で安価であるという特徴を有している。また、病原体の感染を検査する簡易検査試薬は、他の検査試薬と異なり、大病院や医療検査センター以外にも、一般の病院や診療所で広く使用されている。その理由は、これらの施設は患者が最初に訪れる医療機関である場合が多く、患者から採取した検体についてその場で感染の有無が判明すれば、早い段階で治療措置を施すことができるからであり、簡易検査試薬の医療における重要性は益々高まってきている。
【0003】
現在、簡易検査試薬で採用されている測定方法としては、抗原抗体反応を利用したメンブランアッセイ法、特に、ニトロセルロース等のメンブランを用いたアッセイ法が一般に知られており、フロースルー式アッセイ法とラテラルフロー式アッセイ法に大別される。前者は、被検出物を含む溶液をメンブランに対して垂直方向に通過させるものであり、後者は水平方向に展開させるものである。また後者には、ディップスティック式のものも含まれる。いずれの場合も、被検出物に特異的に結合する捕捉物質、被検出物および被検出物に特異的に結合する標識体の複合体を固相上に形成させて、標識を検出あるいは定量することで、被検出物の検出あるいは定量を行うという点で共通している。
【0004】
被検出物を捕捉するための捕捉物質が結合したメンブレンを備えたアッセイ装置を用いる簡易メンブレンアッセイ法では、被検出物が存在すると予測される部位から一部を採取して、緩衝液等に被検出物を浮遊させて、メンブレンアッセイ用の試料を調製している。例えば、インフルエンザ等の検査に用いられる鼻腔ならびに咽頭検体は患者の咽頭や鼻腔等から綿棒等の検体採取器具を用いて拭い液を採取して緩衝液に浮遊させている。
【0005】
綿棒の綿球に吸収された被検出物を綿棒外に排出するには、検体抽出容器内の抽出液(希釈液)に綿球を浸し、自然に溶出する他、外部から綿球に圧力をかけ、強制的に排出させるのが一般的である。この場合、抽出液(希釈液)を入れる容器は、抽出液中に綿球部を浸した状態で外部から綿球部分に圧力をかけられるよう、柔らかいプラスチック素材のものを使う場合が多い。
【0006】
あるいは、綿棒の綿球に吸収された被検出物を綿棒の外へ排出するため希釈液を収容する容器に縮径部を設け、当該縮径部を綿球が通過する際に綿球に付着した検体を搾り出し、希釈液に回収可能な構成とした容器が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】実用新案第3000661号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被検出物を含む綿球部分からの被検出物の抽出効率は、被検出物の検出感度にも影響する。自然溶出の場合、綿球内の被検出物とその外側の抽出液(希釈液)が置換されることにより被検出物が溶出されるが、綿球内には被検出物が一定の割合で残り、被検出物全部が排出されるわけではない。
一方、外部から綿球部分に圧力をかけ、強制的に被検出物を抽出液側に排出する場合、抽出液を入れた容器に綿球を浸し、容器の外から指で綿球部分を挟むように搾り出すため、被検出物の抽出効率は上がるが、多数の検体を処理する場合、指にかなりの負担が掛かる問題があった。また、特許文献1のように容器に縮径部を設けた場合、検体が水分を多く含み、綿球が十分にこれを吸収したような場合は、綿球が縮径部を通過することによって綿球中の被検出物が抽出液側に搾り出されることになるが、それ以外は、従来のやり方と同様に、綿球を容器内壁に擦り付けたり、容器の外から指で挟むようにして搾り出す必要があり、様々な検体に対して指への負担を掛けずに、確実に抽出効率を上げるには依然として不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、筒状の容器の内側に使用する綿球の径(乾燥状態時の径)と同じ、もしくは1mm前後細い空間ができるように複数のリブを配置し、そのリブに綿球がこすれるように綿棒の軸を回転させることにより、綿球から被検出物を強制的に排出させることができ、検査実施者の肉体的負担(指への負担)を著しく軽減できることを見出し本発明を完成した。
また、さらにこのリブに段差を加える等して綿球が入る部分の径を容器の底部側の方が小さくなるようにすることにより、径の異なる綿棒も利用できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の検体抽出容器を用いれば、検体を含んだ綿棒の綿球部分を容器内面に設けたリブの中心部分に挿入し、綿棒の軸を回転させることで、もしくは綿棒を上下動させることで、リブ部分による抵抗を受けるため、綿球部分に保持されている検体を容易に搾り出すことが可能である。こうして得られる検体抽出液は、従来同様、フロースルー式やラテラルフロー式、ディップスティック式の検査デバイスを用いた試験に適用できる。また、従来のように1検体ごとに指で検体を搾り出す必要がないため、疲れず、単位時間当たりの検体処理効率が向上し、多検体処理にも容易に対応可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(検体)
本発明の方法において分析しようとする検体は特に限定されず、全血、血清、血漿、尿、唾液、喀痰、鼻汁、鼻腔または咽頭拭い液、汗、糞便等の生体試料の他、肉、植物等の食物の抽出物、汚水、泥水、土壌等の環境由来の試料、菌、ウイルス等の微生物培養液もしくは浮遊液等、菌やウイルス等からの抽出物が含まれる。また、該検体中の被検出物も、特に限定されないが、例えば臨床検査の分野では、抗原または抗体など、例えば、インフルエンザウイルス由来の蛋白質抗原が挙げられる。
【0011】
(検体希釈液)
検体を検出デバイスに供給する際は、綿球などで吸収した検体を本発明容器を用いて搾り出し、検体供給部位に希釈等の処理をすることなく直接供給してもよい。また、検体が粘性を有する等の理由により固相支持体上で容易に展開移動できない検体に関しては、予め抽出液で希釈して前記検出デバイスに供給してもよい。抽出液は、被検出物が検出工程上、支障がない程度に固相支持体上を展開できれば、その液性については酸性、中性、塩基性を問わない。また、界面活性剤、変性剤等を含む各種緩衝液でも、いかなる組成の溶液でもよい。
【0012】
(綿棒)
本発明でいう被検体を含浸する部材とは、被検体が吸収されて希釈液へと抽出できるものであればいずれでもよいが、上述のとおり、主に綿棒又は綿球がこれに相当する。
なお、前記の綿棒や綿球などについては、臨床検査の分野で、ヒトなどから検体を採取する場合には、衛生面から滅菌消毒された綿棒もしくは綿球が使用されることが多いが、これに限定されるものではなく、綿球類似の吸水性を有し、衛生面等で問題なければ、その材質は特に限定されない。例えば、綿、パルプやレーヨン等の化学繊維性のものなども使用できる。
【0013】
(容器の材質、形状)
本発明の実施例において、検体抽出容器は、ポリエチレン製のものを用いたが、本発明の検体抽出容器は、ポリエチレン製に限るものでないことは勿論である。すなわち、本発明の検体抽出容器は、綿球等の吸水性部材に保持されている検体を、容器内面に設けたリブ部分で搾り出すことにより、検体を効率よく抽出するためのものであるから、この目的に合うことを限度として、検体抽出容器の材質は適宜選択が可能である。例えば、検体抽出容器が可撓性の材質であっても、前記態様の搾りだしを実施できるものであればよい。材質の選択の際の具体的な例を挙げると、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、PET、ABS、シリコンゴム、熱可塑性エラストマー、塩化ビニルなどの樹脂素材が好ましく用いられる。また、それらの弾性率は、公知の方法で適宜調整して差し支えない。
尚、従来の、指で検体抽出容器の外部から綿球部分に圧力をかける場合には、容器の材質をやわらかくする必要があったため、容器内の希釈液が容器を透過して蒸発してしまうという問題もあった。しかし、本発明の容器は、容器外側からの指による検体搾り出し操作が不要なため、容器を肉厚にしたり、気体透過率の低い材質を使用(一般に容器の柔軟性が劣る)して蒸発防止効果の高い容器にすることもできる。実用的な材質としては、例えば高密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
また、容器の材質は上記のとおりであるが、そのうち透明、半透明の材質にすれば、綿棒のリブへの接触具合が良く見え、また、希釈抽出液中へのテストスティックの挿入、浸漬の状態を見ることもできるので都合がよい。
また、容器の形状は、筒状であって、希釈液を入れ、綿棒を浸すのに適当な大きさ、形状であれば特に限定されないが、独立して垂直に保持できるような構造が望ましい。そのような形状としては、例えば円筒の他、四角柱、六角柱などの角柱が挙げられ、容器本体部においては同一断面構造あるいは上部から下部に向かって一部にテーパーを有する構造が挙げられる。
また、容器は、検体抽出液を収容可能なように一端に開口部を有するが、当該開口部は、容器の上部に設けられ、密閉可能に蓋もしくはシールを取り付けられる構造であることが望ましい。
また、容器はさらに、外壁部に必要に応じて滑り止め構造を設けてもよい。例えば、容器に綿棒を挿入し、綿球を回転させながらリブに押し当てることにより容器に回転力が加えられた場合に、該回転を抑制するために支持可能な凸部及び/又は凹部を有することが望ましい。そのような凸部及び/又は凹部としては、容器の外壁に外周方向に外側リブを設けた構造が該当する。この場合、容器本体の外壁の長手方向の延長上に外側リブの先端が位置するように配すれば、容器の回転を抑制する上でも、また美観の上からも望ましい。
【0014】
(リブの形状)
検体抽出容器の内壁面に設けるリブの形状は、被検出物を含む綿球等からリブとの接触により検体を搾りだすことが出来れば特に限定されないが、好ましくは容器の内壁面から中心に向かって伸びる複数のリブを設けることが望ましい。別の表現で説明すると、該リブは、筒状の中心点を基準として放射状に配置されているが、中心点で結合することなく、互いに独立して容器内壁面に固着されている。そして、中心点部分には使用する綿棒等が挿入可能な空間を有する。
本発明において、リブの本数は、特に限定はないが、2本以上、好ましくは3〜10本程度、さらに好ましくは6〜8本程度である。また、リブの大きさについて一例を挙げると、容器の内径が6.6mmのとき、後記する実施例1のリブを用いるとして、綿球部分を挿入する部分の径は2.8mm程度、すなわち容器内径の中心点からリブまでの距離が1.4mm程度である。この綿球部分を挿入する部分の径は、使用する綿棒などの綿球部分の外径に近似するが、それに比べてやや小さい口径の空間が作られるようにするのが好ましい。しかしながら、本発明では、リブの数や幅、大きさ(高さ)、形状などは、使用を想定する綿棒などの吸水性部材の形状やサイズに合わせて任意に設計することで差し支えない。
また、容器内壁面から中心点に向かうリブ部分の長さを上部から段階的に小さくすることにより、径の異なる綿棒等にも適用することができる。
なお、リブの本数が多い場合は、容器内壁面からリブが立設していると表現することもできるが、肉厚の異なる容器内壁面の長手方向に溝が切ってあるとも言い換えることができ、いずれも本発明の範囲に含まれるものとする。
また、リブは長手方向に連続した形状の他、長手方向に1箇所、あるいは2箇所設けるなど断続であってもよい。
また、リブの材質は、特に問わないが、成型の容易性から、容器と同材質で一体的に成型することが望ましい。
【0015】
(本発明容器のバリエーション)
上記のとおり、本発明容器は、被検出物を含む綿球等からリブとの接触により検体を搾り出すことが出来る構造であれば、いろいろなバリエーションが考えられるが、具体的な形状を図10、11に示す。
図10は、容器本体部のリブが立設された部分での横断面図である。例えば、10−1、10−2、10−3は、1つのリブが内周壁の約1/6〜1/3を覆うような広範囲のリブが2つ〜4つ立設されている例である。また、リブは内壁面より、必ずしも容器内径の中心方向に向かって立設されている必要はなく、容器に挿入された綿球を囲う空間を形成可能に当該空間の周りにリブが配されていればよい。すなわち、リブにより形成される空間が容器内径の中心からずれているような構造であってもよい(例えば10−2)。10−4は、リブが容器内周の全周にわたって一体的に立設されており、リブで囲まれた中心部分の形状が星型となっている。10−5及び10−6は、容器の形状が円筒状ではなく、それぞれ四角柱、六角柱の場合を示す。また、10−5では、各頂点及び辺の中心付近に四角形の中心方向に向かって計8本のリブが立設されており、リブの中心付近へ延びる長さは、頂点から立設されているものの方が辺の中心付近から立設されているものよりも長く、これにより容器内径の中心部分に綿球の挿入される空間が構成される。10−7は、容器内壁から立設されるリブが容器内径の中心点よりずれた方向に向かって立設されている例である。
図11は異なる態様のリブが立設された容器本体部を正面から見た図である。11−1は、リブが容器本体の長手方向に連続的でなく、不連続に立設されている例である。すなわち、内壁から水平方向に向かうリブが、垂直方向に互い違いに立設されている。11−2は、帯状の連続したリブが螺旋状に容器内壁に立設された例である。
【0016】
本発明の検体抽出容器の典型的な一例を図1〜図8に示す。図1は検体抽出容器を正面から見た図であり、図2は上から見た図、図3は底面から見た図である。また、図4は、本発明の検体抽出容器の縦断面図であり、図4におけるA−Aの位置、B−Bの位置、C−Cの位置での横断面図をそれぞれ図5,6,7に示す。図8は、本発明の検体抽出容器の使用状態を示す斜視図である。図1の検体抽出容器は、筒状形状をしており、外壁につば3が設けられている。つば3より上部の容器上部2の外壁にはねじ山がきってあり、キャップ等(図示せず)を取り付け可能に構成されている。容器の本体部5は、上から下へ向かって半分くらいの位置までテーパーにより縮径されており、半分くらいから下は縮径せずにストレートな形状となっている。容器下部7は、容器本体のストレートな形状と連続的なストレートな形状をとっている。リブは容器の本体部5の長手方向ほぼ下半分の内壁から容器の中心点部分11に向かって8本立設されており(図1,4−7)、上から下へ向かって2段階のテーパーを有している。この2段階のテーパーにより径の異なる綿球に対しても対応が可能である。すなわち、径の大きな綿球の場合、リブの上部のテーパー9に綿球をすりつけることで綿球中の対象物が抽出され、径の小さな綿球の場合、リブの下部のテーパー10に綿球をこすりつけることで抽出される。図1の容器では8本のリブが立設されている(図5,6)。容器下部には、容器外壁面より外側リブ8が6本容器中心より放射状に立設されている。外側リブ8は、容器に綿棒等を入れてリブに擦り付けて綿棒を回転させる際に、指でつかんで容器が回転しないように固定するためにも機能する。
【0017】
このような検体抽出容器に検体抽出液14をあらかじめ添加しておき、検体を吸収した綿棒12を当該容器の中心部に挿入し、容器内壁から立設しているリブに綿球13を擦り付けるように綿棒を回転させることで、検体を抽出液へと抽出する(図8)。このようにして得られた検体抽出液は、各種テストデバイスに供給して、被検出物を検出することができる。例えば、図9に示すテストスティックを本抽出容器に挿入し、抽出液に浸すディップスティック式、抽出液をテストデバイスへと供給するラテラルフロー式、フロースルー式の各種検査方法に適用することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
ウイルス抗原液を採取した綿棒を、本発明の検体抽出容器により抽出処理した場合
(1)検体抽出容器の作製
図1〜8に示す形状の容器を作製した。リブの本数は8本であり、容器の内容量の全量は約2160μL、容器の材質はポリエチレンである。
【0019】
(2)標識結合アッセイ法用固相(抗体固定化メンブレン)の作製
20mmol/Lトリス緩衝液(pH8.0)に対し、マウス抗A型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を0.75mg/mL、スクロースを2.5%(w/v)となるように添加し、A型インフルエンザ用固相作製用試薬(A型用抗体)とした。
同様に、10mmol/Lりん酸緩衝液(pH7.2)にマウス抗B型インフルエンザウイルスモノクローナル抗体を1.0mg/mL、スクロースを2.5%(w/v)となるように添加し、B型インフルエンザ用固相作製用試薬(B型用抗体)とした。
また、10mmol/Lりん酸緩衝液(pH7.2)に、ヤギ抗マウスIgG抗体を0.75mg/mL、スクロースを2.5%(w/v)となるように添加し、コントロールライン用固相作製用試薬(CTRL用抗体)とした。
上記3種の固相作製用試薬を、ニトロセルロースメンブレンにA型用抗体、B型用抗体、CTRL用抗体の並びで、相互に間隔を開けて塗布し、乾燥機で乾燥させたものを抗体固定化メンブレンとした。
【0020】
(3)標識抗体パッドの作製
1.3%(w/v)カゼイン及び4%スクロースを含む20mmol/Lトリス緩衝液(pH7.5)に、金コロイド標識抗A型インフルエンザウイルスマウスモノクローナル抗体及び金コロイド標識抗B型インフルエンザウイルスマウスモノクローナル抗体を加えて混合し、標識抗体液とした。標識抗体液をグラスファイバーシートに塗布し、乾燥機で乾燥させたものを標識抗体パッドとした。
【0021】
(4)テストスティックの作製
プラスチック製粘着シートに前記(2)で作製した抗体固定化メンブレンを貼り、図9のように標識抗体パッド、サンプルパッド、吸水パッドを配置した。すなわち、抗A型用抗体が塗布されている側(固相上での測定試料の展開における上流)の末端近傍に前記(3)で作製した標識抗体パッドを配置し、この標識抗体パッドに一部重なるようにサンプルパッドを配置した。一方、CTRL用抗体が塗布されている側(固相上での測定試料の展開における下流)の末端に吸水パッドを配置した。さらにその上から、透明プラスチックシールで覆った。張り合わせたシートは、4mm幅で裁断し、テストスティックとした。なおこのときのシート長は98mmであった。
【0022】
(5)測定(ディップスティック式メンブレンアッセイ)
インフルエンザウイルス抗原液(1.7×107TCID50/mL)の希釈系列(A型抗原:10、20、40倍希釈、B型抗原:5、10、20倍希釈)を作製し、その抗原液を綿棒で採取し、0.3%Tween20及び0.25%(w/v)BSAを含む20mmol/Lりん酸緩衝液(pH7.6)を300μL充填した本発明の検体抽出容器(リブあり:指での搾り出し操作不要)、もしくは指での搾り出し操作が必要な従来容器(リブなし)により検体抽出処理を行い、測定試料とした。
また、抽出方法は以下の3通りを比較した。
1.リブなし容器で指での搾り出し操作あり:綿棒を抽出容器内に挿入後、容器壁に擦り付けながら3回転させ、容器の外から指で綿球部分を挟むように搾り出し操作を行う。
2.リブなし容器で指での搾り出し操作なし:綿棒を抽出容器内に挿入後、容器壁に擦り付けながら3回転させる。指での搾り出し操作は行わない。
3.リブあり容器で指での搾り出し操作なし:綿棒を抽出容器内に挿入後、リブ部分で3回転させる。指での搾り出し操作は行わない。
前記の検体抽出処理操作後、抽出された検体を含む容器にテストスティックを浸漬し、10分後にテストスティックの各抗体塗布部位に現れる赤色ラインの発色強度を測定した。ウイルス抗原の抽出処理は各条件で3回(n=3)行った。その結果を表1、表2に示す。
なお、判定には、発色強度に応じて色調を数値化したカラーチャート(薄い色から、+/−、1+、1.5+、2+、2.5+、3+、3.5+、4+)を使用し、表中+は赤色ラインが観察されたことを意味し、数値が大きいほど着色が濃いことを表す。また、Nは赤色ラインが観察されなかったことを表す。
【0023】
(6)測定結果
表1のインフルエンザA型抗原において、リブなしの従来容器を用いて指での搾り出し操作を行わなかった場合、指での搾り出し操作を行った時に検出可能であった20倍希釈抗原を3回中1回、検出することができなかった。一方、本発明の検体抽出容器(リブあり:指での搾り出し操作不要)で抽出処理を行った場合、従来容器で指での搾り出し操作を行った時と同様、3回すべてにおいて20倍希釈抗原を検出することができた。
表2のインフルエンザB型抗原において、従来容器を用いて指での搾り出し操作を行わなかった場合、搾り出し操作を行った時に検出可能な10倍希釈抗原を検出することはできなかった。一方、本発明の検体抽出容器で抽出処理を行った場合、3回すべてにおいて10倍希釈抗原を検出することができた。
以上より、本発明の検体抽出容器を用いた場合、労力を要する指での搾り出し操作が不要であり、容易に検体抽出処理ができることが判る。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
〔実施例2〕
インフルエンザA型陽性鼻腔吸引検体を採取した綿棒を、本発明の検体抽出容器により抽出処理した場合
(1)測定(ディップスティック式メンブレンアッセイ)
インフルエンザA型陽性鼻腔吸引検体(PCR法にてA型陽性を確認済み)を綿棒で採取し、0.3%Tween20及び0.25%(w/v)BSAを含む20mmol/Lりん酸緩衝液(pH7.6)を300μL充填した本発明の検体抽出容器(リブあり:指での搾り出し操作不要)、もしくは指での搾り出し操作が必要な従来容器(リブなし)により抽出処理を行い、測定試料とした。抽出方法は前記実施例1と同様である。
前記の検体抽出処理操作後、抽出された検体を含む容器にテストスティックを浸漬し、10分後にテストスティックの各抗体塗布部位に現れる赤色ラインの発色強度を測定した。その結果を表3、表4に示す。なお、判定には、前記のカラーチャートを使用した。
【0027】
(2)測定結果
表3に示すように、インフルエンザA型陽性鼻腔吸引検体において、リブなしの従来容器で搾り出し操作を行った場合と、本発明の検体抽出容器で抽出処理を行った場合を比較したところ、同等の感度(15例中14例で陽性)が認められた。
表4のインフルエンザB型陽性鼻腔吸引検体において、リブなしの従来容器で搾り出し操作を行った場合と、本発明の検体抽出容器で抽出処理を行った場合とを比較したところ、同等の感度(15例中14例で陽性)が認められた。
以上より、本発明の検体抽出容器を用いた場合、労力を要する指での搾り出し操作が不要であり、容易に検体抽出処理ができることが判る。
【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
〔実施例3〕
検体採取用綿棒を、本発明の検体抽出容器により抽出処理した場合の所要時間
検体抽出液を充填した本発明の検体抽出容器、もしくは指での搾り出し操作が必要な従来容器を用いて、検体抽出操作を10回連続して行った際の所要時間を計測した。その結果を表5に示す。検体抽出方法は前記実施例1と同様である。
表5の所要時間の計測結果から、本発明の検体抽出容器を用いた場合は、指での搾り出し操作が不要となることにより、抽出に要する時間は著しく短縮された。つまり、本発明の検体抽出容器を使用することにより、検体抽出処理の効率化が図られた。
【0031】
【表5】




【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の検体抽出容器によれば、試験実施者に過度の負担を強いることなく綿球部分に保持されている検体を容易に抽出することが可能である。従って、このようにして得られた検体抽出液を、従来同様、フロースルー式、ラテラルフロー式、ディップスティック式の検査デバイスを用いた試験に適用することができ、特に多検体処理に適している。

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の検体抽出容器を正面から見た図である。
【図2】本発明の検体抽出容器を上から見た図である。
【図3】本発明の検体抽出容器を底面から見た図である。
【図4】本発明の検体抽出容器の縦断面図である。
【図5】本発明の検体抽出容器の図4におけるA−Aの位置での横断面図である。
【図6】本発明の検体抽出容器の図4におけるB−Bの位置での横断面図である。
【図7】本発明の検体抽出容器の図4におけるC−Cの位置での横断面図である。
【図8】本発明の検体抽出容器の使用状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の検体抽出容器を用いた抽出液を用いて試料の検出を行うためのテストスティックを示す図である。
【図10】本発明の検体抽出容器のリブ形状のバリエーションを示す検体抽出容器の横断面図である。
【図11】本発明の検体抽出容器のリブ形状のバリエーションを示す検体抽出容器の正面から見た図である。
【符号の説明】
【0034】
1 開口部
2 容器上部
3 つば
4 リブ
4a リブ1
4b リブ2
5 容器本体部
6 検体抽出容器
7 容器下部
8 外側リブ
9 リブの上部のテーパー
10 リブの下部のテーパー
11 容器中心点部分
12 綿棒
13 綿球
14 検体抽出液
(a) サンプルパッド
(b) 標識抗体パッド
(c) 多孔性固相(抗体固定化メンブレン)
(d) 捕捉試薬(抗体)
(e) 吸水パッド
(f) 透明プラスチックシール
(g) プラスチック製粘着シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体抽出液を収容可能な一端に開口部を有する筒状構造からなる検体容器であって、当該容器内壁に、被検体が含浸された部材を押し当てることにより当該部材より被検体を抽出可能とするリブが設けられていることを特徴とする検体容器。
【請求項2】
前記リブが、容器内壁から内径の中心点を基準として放射状に配置されているが、中心点で結合することなく、互いに独立して内壁に固着されていて、中心に向かって伸びている複数のリブである請求項2に記載の検体容器。
【請求項3】
前記リブが容器の長手方向中央付近から底部に向かって連続的に伸びているリブである請求項2に記載の検体容器。
【請求項4】
前記容器の長手方向中央付近から底部に向かって連続的に伸びているリブの容器中心点方向の長さが、段階的に異なる請求項3に記載の検体容器。
【請求項5】
リブの容器中心点方向の長さが、上部から底部に向かって段階的に長くなっている請求項4に記載の検体容器。
【請求項6】
前記開口部は、キャップが着脱可能に構成されている請求項1〜5のいずれかに記載の検体容器。
【請求項7】
容器外壁部に、当該筒状容器に回転力が加えられた場合に、該回転を抑制するために支持可能な凸部及び/又は凹部を有する請求項1〜6のいずれかに記載の検体容器。
【請求項8】
容器の回転を抑制するために支持可能な凸部及び/又は凹部が、容器下部の外壁に設けられた複数のリブである請求項7に記載の検体容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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