説明

検体搬送システム

【課題】検体搬送システムにおいて、検体を目的のトレイへ移載した場合にラック内に空ポジションができることによる移載処理後の検体搬送効率、および処理効率が低下する。
【解決手段】検体固有の検体識別コードを持つ検体を複数個積載可能な複数のラックと、該ラックを順次検体搬送ラインに投入する投入部と、前記検体を複数個保持可能なトレイを複数設置する機構と、実験情報システムからの依頼項目に基づき前記ラックから前記検体を前記トレイへ移載する機構と、前記ラックに空ポジションが出来た場合に前記ラック内の残検体を一時的に移載するテンポラリトレイと、前記残検体を前記テンポラリトレイに移載する機構を有することを特徴とする検体搬送システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体搬送システム、特に臨床検査分野において検体検査を自動的に行うのに適した検体搬送システムに関するものである。本明細書において、検体とは検体を収容した容器を意味する。
【背景技術】
【0002】
検体搬送システムは、患者から採血した血液や尿などの検体を検査内容や容器形状に適したラックへ積載し投入することで、遠心分離、開栓、分注、分類、搬送、および分析などの処理を自動化したものである。特に、LIS(Laboratory Information System、実験情報システム。以下LISと略記する。)からの依頼項目や属性情報にもとづき、ラックに積載されている検体を目的のトレイへ移載するような処理を行う検体分類ユニットでは、移載処理が実行されることでラック内に空ポジションを作り出し、移載処理後の該ラックを搬送している。
【0003】
また、従来の検体搬送システムでは、多種類の検体を適したラックへ積載するために、オペレータがマニュアルで検体の種類に適したラックかどうかの確認を必要とし、オペレータへ負荷をかけていた。また、特許文献1に代表される検体振分装置など、LISからの依頼項目や検体属性などの情報をもとに検体を目的のラックへ移載するユニットをシステムへ組み込むことで、オペレータの負荷を軽減していた。
【0004】
【特許文献1】特開平5−142232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術によれば、検体搬送システムが検体投入部、検体分類ユニット、遠心分離ユニット、開栓ユニットの順で構成されているとき、検体投入部からラック内の全ポジションへ検体を積載して投入した場合でも、検体分類ユニットで検体を目的のトレイへ移載することがある。すると、ラック内に空ポジションができるため、移載処理後は1ラックで搬送可能な検体数が減ることになり、検体分類ユニットの後ろに接続されたユニットでは検体の搬送効率が低下する。また、検体分類ユニットの後ろに接続されるユニットでは、ラックごとの処理をするため、ラック内に空きポジションがあると、処理効率が低下してしまう。さらに、検体搬送システム内にラック内に空きポジションのあるラックが増えると、ラック内の全ポジションに検体がある状態と比較して、同じ数の検体を処理するためにより多くの数のラックを必要とするため、検体搬送システム内に稼動するラックが増加し、ラック渋滞の原因につながる。
【0006】
また、LISからの依頼項目や属性情報にもとづき、検体搬送システムに投入したラックに積載されている検体を目的のラックへ移載するような検体振分ユニットを使用した場合、検体投入部から投入したラックと移載先のラックが検体振分ユニットの後部ユニットへ搬送されるため、検体搬送システム内で稼働中のラック数が増加する。
【0007】
これを回避するため、本発明は検体分類ユニットのトレイへラック内の検体を移載したときにできるラック内の空ポジションを無くし、検体の搬送効率、および処理効率の向上を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、検体固有の検体識別コードを持つ検体を複数個積載可能な複数のラックと、該ラックを順次検体搬送ラインに投入する投入部と、前記検体を複数個保持可能なトレイを複数設置する機構と、実験情報システムからの依頼項目に基づき前記ラックから前記検体を前記トレイへ移載する機構と、前記ラックに空ポジションが出来た場合に前記ラック内の残検体を一時的に移載するテンポラリトレイと、前記残検体を前記テンポラリトレイに移載する機構を有することを特徴とする検体搬送システムに関する。
【0009】
すなわち、検体搬送システムの検体分類ユニットに検体を一時的に保持するためのテンポラリトレイを設け、移載処理を行い空ポジションができたラックに対して、ラック内の残検体を移載するか、テンポラリトレイから補充する。ここで、残検体の移載とは、移載処理後のラックに検体が残った場合、それらの残検体をテンポラリトレイへ移載する機能である。また、補充とは、移載処理後のラックに空ポジションがある場合、テンポラリトレイの検体をラックの空ポジションへ補充する機能である。この2つの機能により、移載処理後のラック内全ポジションに検体のない空ラック、もしくはラック内全ポジションに検体を保持するラックが流れる。
【0010】
また、移載処理後のラック内全ポジションに検体のない空ラックは、検体分類ユニットの後ろに接続されたユニットに立寄らず直接ラック収納部まで搬送させ、検体分類ユニットの後ろに接続されたユニットには、検体の積載されているラックのみ立寄らせ、ユニットの処理効率の低下を防ぐ。
【0011】
本発明により、従来の検体搬送システムになかった検体のラック内前詰めが可能となり、ラック内の空きポジションがなくなることから、検体搬送システム内の検体搬送効率が向上し、また遠心分離、開栓、分注などの処理効率の向上にも寄与する。さらに、血液検査、外注検査など検体搬送システムで処理しない検体を分類トレイへ移載する機能と、生化学や免疫などの検体搬送システムで処理する検体をラック内で前詰めする機能を1台の検体分類ユニットで実装可能となるため、血液検査や外注検査用の移載専用ラックが不要になり、オペレータがラックと検体の種類を認識する必要がなくなり、オペレータの負荷低減に寄与する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、検体搬送システムの検体の移送効率が向上し、システム全体の処理効率が向上し、オペレータ等に対する負担が軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明により、検体搬送システムにおける移載処理後の検体の搬送効率は、移載処理前と同等になる。また、遠心、分注などの処理を必要としない検体をシステム投入直後に分類トレイへ移載するため、ラック内に遠心、分注を必要としない検体が排除され、システム全体の処理効率の向上が図れる。さらに、オペレータが検体とそれに適合するラックの識別にかかわる負担を軽減することができる。
【実施例1】
【0014】
以下本発明を実施例により詳細に説明する。図1は本発明による一実施例を示す検体搬送システムの概略図である。検体はラック1aに積載され検体投入部2に仮設される。ラック1aの投入が開始されると、ID読取り手段により検体に貼り付けられた検体識別コードである検体バーコード、およびラックに貼りつけられたラック識別コードであるラックバーコードの読取りを行い、ラック1aのどのポジションにどの検体が積載されているかコントローラ10に登録される。コントローラ10はその登録された情報に基づいてラック1aの搬送、および処理を制御する。
【0015】
本発明は、図1の検体分類ユニット3aに実装されて、投入されたラック1aに血液検査、外注検査など検体搬送システムで処理しない検体が積載されている場合、コントローラ10がLIS11から受信した依頼項目、もしくは属性情報にもとづいて検体分類ユニット3aに指示し、検体分類ユニット3aがラック1aの該当検体を分類トレイ4b、4c、4d、4eに移載する。
【0016】
さらに、検体分類ユニット3aは、移載処理後に残った検体をテンポラリトレイ4aに移載して、ラック1aを空にする。この空になったラック1aは、後部ユニットである遠心バッファ部5、遠心分離ユニット6、開栓ユニット7などに立寄らず、検体収納部9まで搬送される。その後、ラック1bが検体分類ユニット3aで移載処理を実施してラック1bに空きポジションができた場合、テンポラリトレイ4aに保持している検体をラック1bの空きポジションへ積載し、ラック1bに空きポジションがない状態としてラック1bを後部ユニットへ搬送する。
【0017】
図2にテンポラリトレイ4aへの検体の移載の一例を示す。検体分類ユニット13aの分類トレイ14bは、血液検査の検体を移載するための分類トレイである。ラック1aに積載された検体のうち、ラック1a内ポジション13b、ラック1a内ポジション13c、およびラック1a内ポジション13eに積載された検体は、血液検査の検体であり、分類トレイ4aの14a、14b、14cに移載される。この移載処理を終了するとラック1aには、ラック1a内ポジション13aとラック1a内ポジション13dに積載される2検体が残る。テンポラリトレイ4aには、テンポラリトレイポジション15aとテンポラリトレイポジション15bに2検体が保持されており、このテンポラリトレイ4aの検体をラック1aに積載しても、ラック1aの3つの空きポジションが埋まらない。そのため、ラック1a内ポジション13aとラック1a内ポジション13dの2検体をテンポラリトレイ4aのテンポラリトレイポジション15cとテンポラリトレイポジション15dへ移載する。
【0018】
図3でテンポラリトレイ4aに保持される検体をラックへ補充する一例を示す。ラック1bに積載された検体は、ラック1b内ポジション16a、およびラック1b内ポジション16bは、分類トレイ4b内のポジション14e、および分類トレイ4b内のポジション14fに移載される。この移載処理を終了するとラック1bには、ラック1b内ポジション16c、ラック1b内ポジション16d、およびラック1b内ポジション16eの3検体が残り、ラック1bの空ポジションが2つになる。テンポラリトレイ4aには、4本の検体が保持されているため、テンポラリトレイポジション15aとテンポラリトレイポジション15bをラック1b内ポジション16a、およびラック1b内ポジション16bへ積載し、ラック1bの空きポジションを埋める。
【0019】
なお、検体を分類トレイ4b、4c、4d、4eへ移載する機能と、テンポラリトレイ4aの検体をラックへ積載する機能を検体分類ユニット1台で実現することができるため、検体振分ユニットなどの専用ユニットをシステムへ組み込む必要がなくなる。さらに、検体振分ユニットのように、検体投入用ラックと目的に合わせてセットされた空ラックを区別する必要がなく、ラック1aの移載処理、ラック1bの補充処理を1種類のラックで実現できる。
【0020】
また、検体分類ユニット3aのテンポラリトレイ4a内ポジション15c、およびテンポラリトレイ4a内ポジション15dが、一定時間例えば、300秒間ラックへ積載されない場合、検体分類ユニット3aはアラームを発生し、オペレータに注意を促す。オペレータは、検体投入部2から空ラックを投入することで、空ラックが検体分類ユニット3aへ立寄り、第3のテンポラリトレイ4a内ポジション15c、および第4のテンポラリトレイ内ポジション15dの検体を空ラックへ積載する。なお、検体投入部2から空ラックを投入した場合に限り、テンポラリトレイ4aの検体をラックへ移載する目的のため、ラックに空ポジションができる場合でも、テンポラリトレイ4aからラックへ検体を積載する。また、テンポラリトレイ4aへ検体を積載してからアラームを発生させるまでの時間は、コントローラ10で設定変更が可能であり、検体分類ユニット3aで第1の分類トレイ4b、第2の分類トレイ4c、第3の分類トレイ4d、第4の分類トレイ4e、第5の分類トレイ4fなどへの移載処理を行う検体数や、各納入施設の運用状況に合わせ調整が可能である。
【0021】
図1〜図3において、12aは第1の検体搬送ライン、12bは第2の検体搬送ライン、12cは第3の検体搬送ライン、13aは第1のラック1a内ポジション、13bは第2のラック1a内ポジション、13cは第3のラック1a内ポジションである。また、13dは第4のラック1a内ポジション、13eは第5のラック1a内ポジション、14aは第10の分類トレイ4b内ポジション、14bは第11の分類トレイ4b内ポジション、14cは第12の分類トレイ4b内ポジションである。更に、14dは第20の分類トレイ4b内ポジション、14eは第13の分類トレイ4b内ポジション、14fは第14の分類トレイ4b内ポジション、15aは第1のテンポラリトレイ内4aポジション、15bは第2のテンポラリトレイ内4aポジション、15cは第3のテンポラリトレイ内4aポジション、15dは第4のテンポラリトレイ内4aポジション、15eは第20のテンポラリトレイ内4aポジションである。また、16aは第1のラック1b内ポジション、16bは第2のラック1b内ポジション、16cは第3のラック1b内ポジション、16dは第4のラック1b内ポジション、16eは第5のラック1b内ポジションである。
【0022】
図4に検体分類ユニットが、テンポラリトレイに検体を移載するのか、テンポラリトレイからラックへ検体を積載するのかを判断するフローチャートを示す。これらの判断を実行するのがコントローラである。検体分類ユニットは、ラックが到達したときコントローラから移載処理の指示情報を受信する。そして、ラック内に検体がある場合、移載処理後の空ポジション数を算出し、テンポラリトレイの保持されている検体数と比較する。テンポラリトレイの検体数が移載処理後の空ポジション数より小さい場合、ラック内の残検体をテンポラリトレイへ移載する。
【0023】
一方、テンポラリトレイの検体数が移載処理後の空ポジション数以上の場合、テンポラリトレイから空ポジションへ検体を積載する。また、フローチャート判断18aにより、検体分類ユニットに到達したラックが空であった場合、フローチャート処理17eのテンポラリトレイの検体をラックへ移載する処理を実行する。
【0024】
図4において、17aは移載処理指示受信、17bは移載処理後の空ポジション算出、17cはテンポラリトレイ4aの検体数取り出し、17dはラック内の残検体をテンポラリトレイ4aへ移載、17eはテンポラリトレイ4aの検体をラックへ積載、18aはラック内の検体有無を判断し、18bはテンポラリトレイ内検体数とラック内空ポジション数の比較をする。
【0025】
さらに、図1では、検体分類ユニット3aで血液検査を行う検体を抜き取り分類トレイ4b、4c、4d、4eなどへ移載するため、検体分類ユニット3a以降の遠心分離ユニット6、開栓ユニット7、およびオンライン分注ユニット8で処理の不要な血液検査の検体が流れることが無く、ラック内全ポジションに検体がある状態で実施されることから、検体搬送システム全体の処理能力が向上する。また、従来の検体振分ユニットのように検体をラックからラックへ移載する専用ユニットが不要になり、設置スペースを縮小でき、検体振分ユニット用のラックが不要になることで、運用の簡素化につながる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、臨床検査における血液や尿の検体の分類、振分に方法、およびその機能を有する装置を含む検体搬送システムに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による一実施例を示す検体搬送システムの概念図。
【図2】検体の移載を示すための検体分類ユニットの平面図。
【図3】テンポラリトレイの検体のラックへの積載を示すための検体分類ユニットの平面図。
【図4】検体の移載を実行するためのフローチャート図。
【符号の説明】
【0028】
1a…1番目に投入するラック、1b…2番目に投入するラック、2…検体投入部、3a…第1の検体分類ユニット、3b…第2の検体分類ユニット、4a…テンポラリトレイ、4b…第1の分類トレイ、4c…第2の分類トレイ、4d…第3の分類トレイ、4e…第4の分類トレイ、4f…第5の分類トレイ、5…遠心バッファ部、6…遠心分離ユニット、7…開栓ユニット、8…オンライン分注ユニット、9…検体収納部、10…コントローラ、11…実験情報システムLIS。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体固有の検体識別コードを持つ検体を複数個積載可能な複数のラックと、該ラックを順次検体搬送ラインに投入する投入部と、前記検体を複数個保持可能なトレイを複数設置する機構と、実験情報システムからの依頼項目に基づき前記ラックから前記検体を前記トレイへ移載する機構と、前記ラックに空ポジションが出来た場合に前記ラック内の残検体を一時的に移載するテンポラリトレイと、前記残検体を前記テンポラリトレイに移載する機構を有することを特徴とする検体搬送システム。
【請求項2】
既に前記テンポラリトレイ上に保持している検体を、前記ラックに積載されていた検体を前記トレイへ移載したことで空となったポジションに積載することを特徴とする請求項1記載の検体搬送システム。
【請求項3】
ラック内の前記残検体を前記テンポラリトレイへ移載する機能、および前記テンポラリトレイの保持する検体を前記空ポジションへ積載する機能の両方を実装するユニットを有する請求項1記載の検体搬送システム。
【請求項4】
前記テンポラリトレイ上に保持する時間を設定する機能を有し、その時間を超過した場合、アラームを出力してオペレータへ通知することを特徴とする請求項1記載の検体搬送システム。
【請求項5】
オペレータが検体を1本も積載しない空ラックを前記検体搬送システムへ投入すると、前記テンポラリトレイ上に保持されている検体を前記空ラックへ積載できることをアラーム通知することを特徴とする請求項1記載の検体搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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