説明

検査チップ、これを用いるセンシング装置および物質検出方法

【課題】正確にベースライン差分処理を行うことができ、液体試料中の被検出物質を高精度かつに検出することができる検査チップを提供することにある。
【解決手段】プリズムと、プリズムの一表面に形成され、被検出物質と特異的に結合する第1の特異的結合物質が表面に配置された金属膜と、プリズムの一面上に配置され、始端部から終端部に液体試料を伝搬させることで液体試料を金属膜に供給する流路が形成された流路基板とを有し、流路は、始端部と金属膜の間の一点から金属膜との接触位置までの区間が、第1分岐流路と、蛍光物質により標識され、被検出物質と特異的に結合する第2の特異的結合物質が載置されている領域を備える第2分岐流路とに分岐され、第1分岐流路を伝播した液体試料を金属膜に到達させた後に、第2分岐流路を伝播した液体試料を金属膜に到達させることで上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属膜に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を用いた液体試料中の被検出物質の検出に用いる検査チップ、この検査チップを用いるセンシング装置および金属膜に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を用いる物質検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定(生体分子反応の測定)等において被検出物質を高感度かつ容易に検出(または測定)する方法としては、特定波長の光により励起され蛍光を発する蛍光物質(つまり、蛍光性を有する物質)からの蛍光を検出することで、被検出物質を検出(または測定)する蛍光法がある。
この蛍光法は、例えば、被検出物質が蛍光物質体の場合は、被検出物質を含むと考えられる検査対象試料に特定波長の励起光を照射し、そのときの蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。
また、被検出物質は、蛍光物質ではない場合が多いが、この場合も、被検出物質と特異的に結合する特異的結合物質を蛍光物質で標識し、この特異的結合物質を被検出物質に結合させ、その後上記と同様にして、蛍光(具体的には、被検出物質と結合した特異的結合物質を標識する蛍光物質の蛍光)を検出することにより、被検出物質の存在を確認することができる。
【0003】
ここで、蛍光法を用いて、被検出物質をさらに高感度に検出する方法としては、蛍光物質を励起させるために金属膜の表面プラズモン共鳴による増強電場を利用する方法が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2及び特許文献3)。
【0004】
特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載された方法は、いずれも、蛍光物質により標識された被検出物質を金属膜の近傍に配置した状態で、金属薄膜とプリズム(半円柱プリズム、三角形ガラスプリズム)との境界面に、プラズモン共鳴条件を満たす角度(プラズモン共鳴角)で光を入射させて金属薄膜に増強された電場を発生させ、金属薄膜近傍にある物質を強く励起し、蛍光を増幅させるというものであり、表面プラズモン増強蛍光(以下「SPF」ともいう。)を利用した蛍光検出法である。
【0005】
ここで、特許文献2に記載されているように、表面プラズモンの電場は、金属表面に強く局在し、かつ、金属表面からの距離に応じて指数関数的に減衰するため、金属表面に吸着固定されている蛍光標識抗体(つまり蛍光物質)のみを選択的かつ高確率で励起することができる。これにより、特許文献2に記載されているように、SPFを利用した蛍光検出法を用いることで、界面から離れた位置にある妨害物質の影響を最小限に抑制することができ、高精度に被検出物質を検出することも可能になる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−62255号公報
【特許文献2】特開2001−21565号公報
【特許文献3】特開2002−257731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、蛍光法により蛍光物質の蛍光を検出する場合は、容器、液体試料、および光学系等の各部の自家蛍光や、受光光学系のフィルタでカットできなかった金属膜からの励起光や、検出系のエレキノイズ等の、蛍光物質による蛍光以外の光がノイズとして測定値に含まれる。
そのため、蛍光法の場合は、これらのノイズをカットするベースライン差分処理を行う。具体的には、蛍光物質で標識された被検出物質が金属膜(以下「検出面」ともいう。)上に配置される前の蛍光を検出信号P0として測定し、配置された後の蛍光を検出信号Pとして測定し、(P−P0)をノイズが除去された後の被検出物質を標識している蛍光物質に起因する蛍光信号として検出する。
【0008】
ここで、一般に、P0測定時(つまり、被検出物質が検出面上に配置される前)の検出面は空気のみが接触している状態であり、P測定時(つまり、蛍光物質に標識された検出対象物質が配置されている時)の検出面は液体試料で満たされている状態となる。また、検出面は、表面に液体が有るか否かで屈折率が大きく変化する。そのため、P0測定時とP測定時とでは検出面の屈折率が大きく変化し、その屈折率の差dnは、例えば、dn=0.3となる。
また、SPFを利用した蛍光の検出方法では、金属薄膜表面の屈折率に応じてプラズモン共鳴条件が変化し、プラズモン共鳴角が変化するため、金属薄膜表面の屈折率が大きく変化するとプラズモン共鳴角も大きく変化する。
したがって、P0測定時とP測定時とでは、プラズモン共鳴角が大きく変化する。例えば、屈折率が0.3変化すると、プラズモン共鳴角も約20度変化する。
【0009】
そのため、P0測定時とP測定時に同じ角度から同じ波長の光を入射しても、プラズモン共鳴が発生せず、表面プラズモン増強効果が発生しない。このため、同条件でP0測定とP測定とを測定し、ベースライン差分処理を行っても、金属膜上に形成される増強強度が異なり発光状態が異なるため、正確にノイズを除去することができない。
【0010】
これに対して、P0測定時とP測定時とで、励起光の入射角や波長を変更することで、表面プラズモン増強効果を発生させることができるが、屈折率の変化に応じて、励起光の入射角や波長を調整可能な装置構成とすると、装置が複雑になり、また、高価になるという問題がある。
また、異なるプラズモン共鳴角が大きく異なり、波長や入射角を変化させるとノイズも変化するため、異なる条件で測定したP0、Pに基づいてベースライン差分処理を行っても、測定時のノイズを正確に除去することはできない。
【0011】
また、上述のようにP0測定時に検出面が乾燥したままではベースライン差分処理を行えないため、予めバッファ液で検出面を塗らしてP0の測定を行うことが考えられる。しかし、バッファ液を使用するのでコストが増大してしまう。また、バッファ液と被検出物質を含む液体試料との間に屈折率差があると、やはりプラズモン共鳴条件が変化するので、蛍光の増強度が変化してしまい、定量性にかけ、正確なノイズ除去ができないという問題がある。
【0012】
また、ノイズは、試料の種類、状態、濃度、金属薄膜の厚みや、プリズムの形状等に変化するため、予め測定したサンプルのデータを用いても測定時のノイズを正確に除去することはできない。
また、表面プラズモンがつくる電場を利用して被検出物質を検出する場合に限らず、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場を利用して被検出物質を検出する場合にも、同様の問題がある。
【0013】
本発明の目的は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、正確にベースライン差分処理を行うことができ、液体試料中の被検出物質を高精度に検出することができる検査チップ、これを用いるセンシング装置および物質検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、液体試料に含まれる被検出物質を蛍光物質により標識し、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場により前記蛍光物質の蛍光を増強させて被検出物質を検出するセンシング装置に用いる検査チップであって、プリズムと、前記プリズムの一表面に形成され、前記被検出物質と特異的に結合する第1の特異的結合物質が表面に配置された金属膜と、前記プリズムの一面上に配置され、始端部から終端部に前記液体試料を伝搬させることで前記液体試料を前記金属膜に供給する流路が形成された流路基板とを有し、前記流路は、前記始端部と前記金属膜の間の一点から前記金属膜との接触位置までの区間が、第1分岐流路と、前記蛍光物質により標識され、前記被検出物質と特異的に結合する第2の特異的結合物質が載置されている領域を備える第2分岐流路とに分岐され、前記第1分岐流路を伝播した前記液体試料を前記金属膜に到達させた後に、前記第2分岐流路を伝播した前記液体試料を前記金属膜に到達させることを特徴とする検査チップを提供するものである。
【0015】
ここで、前記流路基板は、前記第1分岐流路内の前記液体試料の流通を制御する第1制御弁と、前記第2分岐流路内の前記液体試料の流通を制御する第2制御弁とを有することが好ましい。
また、前記流路は、前記第2分岐流路が前記第1分岐流路よりも前記液体試料の伝搬時間が長いことも好ましい。
また、前記第2分岐流路は、凹凸形状を有することが好ましい。
また、前記第2分岐流路は、前記始端から前記金属膜との接触部までの間の一部に他の領域よりも幅が狭くなる領域があることも好ましい
前記第2分岐流路は、前記第1分岐流路よりも流路長が長いことも好ましい。
また、前記第1分岐流路と第2分岐流路との境界に撥水性部材が配置されていることも好ましい。
また、前記増強場は、表面プラズモン共鳴により増強させた増強電場であることが好ましい。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様は、上記のいずれかに記載の検査チップと、前記検査チップを支持する検査チップ支持手段と、光を射出する光源と、前記光源から射出された光を、前記プリズムと前記金属膜との境界面で全反射する角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、前記金属膜の前記プリズム側とは反対側の面に対向して配置され、前記金属膜近傍で発生した光を検出する光検出手段とを有することを特徴とするセンシング装置を提供するものである。
【0017】
ここで、前記光検出手段は、前記第1分岐流路のみから前記液体試料が供給された前記金属膜の表面から射出される光を検出した後、前記第2分岐流路から前記液体試料が供給された前記金属膜の表面から射出される光を検出することが好ましい。
【0018】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様は、液体試料に含まれる被検出物質を蛍光物質により標識し、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場により前記蛍光物質の蛍光を増強させて検出するセンシング装置であって、光を射出する光源と、プリズムと、前記プリズムの一表面に形成され、前記被検出物質と特異的に結合する第1の特異的結合物質が表面に配置された金属膜と、前記金属膜上に滴下された前記液体試料を前記金属膜上に保持する試料保持部と、前記光源から射出された光を、前記プリズムと前記金属膜との境界面で全反射する角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、前記金属膜の前記プリズム側とは反対側の面に対向して配置され、前記金属膜近傍で発生した光を検出する光検出手段と、前記液体試料を収容する第1収容部と、蛍光物質により標識され、かつ、前記測定対称物質と特異的に結合する第2の特異的結合物質を収容する第2収容部と、前記液体試料を前記金属膜上に分注する分注手段と、前記分注手段による前記液体試料の分注位置および前記光検出手段による前記金属膜の表面から射出される光の検出の順序を決定する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記分注手段により前記第1収容部に収容されている前記液体試料を前記金属膜上に分注させ、前記光検出手段により前記第1収容部の前記液体試料が分注された前記金属膜の表面から射出される光を検出させた後、前記分注手段により前記液体試料を前記第2収容部に分注させ、前記液体試料と前記第2の特異点結合物質とを混合させ、混合した液体を前記金属膜上に分注させ、前記光検出手段により液体が分注された前記金属膜の表面から射出される光を検出させることを特徴とするセンシング装置を提供するものである。
ここで、前記増強場は、表面プラズモン共鳴により増強させた増強電場であることが好ましい。
【0019】
また、上記センシング装置は、いずれも、前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記試料内の前記被検出物質の濃度を算出する算出手段を有することが好ましい。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の他の態様は、プリズムの一表面に形成され、かつ、前記被検出物質と特異的に結合する第1の特異的結合物質が表面に配置された金属膜に、蛍光物質により標識された被検出物質を含む液体試料を接触させ、前記液体試料が接触されている前記金属膜に前記液体試料が接している面とは反対側の面から光を照射して増強場を発生させ、前記増強場が発生した状態の金属膜近傍から射出される光を検出し、前記液体試料内の前記被検出物質を検出する物質検出方法であって、前記蛍光物質に標識されていない液体試料を前記金属膜に接触させる第1液体試料供給ステップと、蛍光物質に標識されていない液体試料を接触させた状態で、前記金属面に光を照射して前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を検出する第1光検出ステップと、前記液体試料に、蛍光物質により標識され、前記被検出物質と特異的に結合する第2の特異的結合物質を混合し、前記被検出物質と前記第2の特異的結合物質とを結合させ、前記被検出物質を前記蛍光物質により標識する混合ステップと、前記混合ステップで生成された、前記蛍光物質により標識された前記被検出物質を含有する前記液体試料を前記金属膜上に接触させる第2液体試料供給ステップと、前記蛍光物質により標識された前記被検出物質を含有する前記液体試料を前記金属膜上に接触させた状態で、前記金属膜に光を照射して前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を検出する第2光検出ステップとを有することを特徴とする物質検出方法を提供するものである。
【0021】
ここで、物質検出方法は、さらに、前記第1光検出ステップで検出した検出値と、前記第2光検出ステップで検出した検出値との差分に基づいて、前記液体試料内の前記被検出物質の濃度を算出する算出ステップを有することが好ましい。
また、前記増強場は、表面プラズモン共鳴により増強させた増強電場であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、蛍光物質に標識された第2の特異的結合物質を含まない液体試料が接触した状態の金属膜の近傍から射出された光の測定した後、蛍光物質に標識された第2の特異的結合物質を含む液体試料が接触した状態の金属膜の表面の近傍から射出された光の測定することができる。
このようにいずれの場合も液体試料が金属膜を覆った状態で、金属膜の表面の近傍から射出された光の測定ができることで、同一のプラズモン共鳴条件で金属膜の表面から射出される光を測定することができる。これにより、バックグラウンドを適切に測定することができ、バックグラウンドに起因するノイズを適切に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明に係るに検査チップ、これを用いるセンシング装置及び物質検出方法について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の検査チップを用いる本発明のセンシング装置の一実施形態であるセンシング装置10の概略構成を示すブロック図であり、図2(A)は、図1に示したセンシング装置10の光源12、入射光光学系14、検査チップ16の概略構成を示す上面図であり、図2(B)は、図2(A)のB−B線断面図である。
【0025】
図1、図2(A)及び(B)に示すようにセンシング装置10は、基本的に、所定波長の光を射出する光源12と、光源12から射出された光(以下「励起光」ともいう。)を導光し集光する入射光光学系14と、被検出物質84を含有する液体試料(つまり測定対象)82を保持し、入射光光学系14により集光された光が入射される検査チップ16と、検査チップ16を支持する検査チップ支持手段17と、検査チップ16の測定位置から射出される光を検出する光検出手段18と、光検出手段18の検出結果に基づいて被検出物質を検出する(つまり、光検出手段18で検出した信号をデジタル化し被検出物質の有無、濃度を判断する)算出手段20とを有し、液体試料82に含有されている被検出物質84を検出(及び測定)する。
また、センシング装置10は、さらに、励起光を変調するファンクションジェネレータ(以下「FG」ともいう。)24と、FG24で発生された電圧に比例した電流を光源12に流す光源ドライバ26とを有する。
ここで、FG24は、High、Lowの電圧の繰り返しクロックを発生する信号発生器である。FG24が信号を光源ドライバ26に流し、光源ドライバ26がその電圧に比例した電流を光源12に流すことで、光源12は、クロックに応じて変調された光を発光する。また、FG24のクロックは、ロックインアンプ64に接続されており、ロックインアンプ64は、FG24から流されるクロックと同期した信号のみを光検出手段18の出力から取り出す。
また、図示は省略したが、検査チップ16以外のセンシング装置10の各部も、互いの位置関係を固定するために支持機構により支持されている。
【0026】
光源12は、所定の波長の光を射出する光射出装置である。なお、光射出装置としては、半導体レーザ、LED、ランプ、SLD等も用いることができる。
【0027】
入射光光学系14は、コリメータレンズ30と、シリンドリカルレンズ32と、偏光フィルタ34とを有し、励起光の光路において、光源12側からコリメータレンズ30、シリンドリカルレンズ32、偏光フィルタ34の順で配置されている。したがって、光源12から射出された光は、コリメータレンズ30、シリンドリカルレンズ32、偏光フィルタ34をこの順で透過し、その後、検査チップ16に入射する。
【0028】
コリメータレンズ30は、光源12から射出され、所定角度で放射状に拡散する光を平行光に変換する。
シリンドリカルレンズ32は、図2(A)及び(B)に示すように、後述する検査チップの流路の長手方向に平行な方向が軸方向となる柱状レンズであり、コリメータレンズ30により平行光とされた光を柱状の軸に垂直な面(図2(B)に示す面と平行な面)のみに集光させる。
偏光フィルタ34は、透過した光を後述する検査チップ16の反射面に対してp偏光となる方向に偏光するフィルタである。
【0029】
次に、検査チップ16は、プリズム38と、金属膜40と、基板42と、透明カバー44を有し、プリズム38の一面に形成された金属膜40上に被検出物質84を含有する液体試料82が載置される。
【0030】
プリズム38は、断面が二等辺三角形となる略三角柱形状(正確には、二等辺三角形の各頂点部分を二等辺三角形の底面に垂直または平行に切断した六角柱形状)のプリズムであり、光源12から射出され入射光光学系14で集光される光の光路上に配置されている。
プリズム38は、入射光光学系14で集光された光が、3つの側面のうち二等辺三角形の2つの斜辺のうちの1つの辺で構成される面から入射する向きで配置されている。
プリズム38は、公知の透明樹脂や光学ガラスで形成することができ、例えば、日本ゼオン株式会社製ZEONEX(登録商標)330R(屈折率1.50)を材料として形成することができる。また、プリズム38は、コストをより低くすることができるため、光学ガラスよりも樹脂で形成することが好ましく、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィンを含む非晶性ポリオレフィン(APO)等の樹脂で形成することが好ましい。
プリズム38は、このような構成であり、入射光光学系14で集光された光を、二等辺三角形の2つの斜辺のうちの1つの辺で構成される面から入射させ、二等辺三角形の底辺で構成される面で反射し、二等辺三角形の2つの斜辺のうちの他方の辺で構成される面から射出する。
【0031】
金属膜40は、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面の一部(具体的には、プリズム38に入射した光が照射される領域を含む領域)に形成された金属の薄膜である。
ここで、金属膜40に用いる材料としては、Au、Ag、Cu、Pt、Ni、Al等の金属を用いることができる。なお、液体試料との反応を抑制するためにAu、Ptを用いること好ましい。
また、金属膜40の形成方法としては、種々の方法を用いることができ、例えば、スパッタ、蒸着、めっき、貼り付け等によりプリズム38上に形成することができる。
ここで、図3は、図2(A)及び(B)に示す検査チップ16の金属膜40の一部を拡大して示す拡大模式図である。
図3に示すように、金属膜40の表面には、被検出物質84と特定的に結合する特異的結合物質である一次抗体80が固定されている。
【0032】
基板42は、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面に配置された板状部材であり、金属膜40に液体試料82を供給する流路45が形成されている。
流路45は、金属膜40を横断して形成された線状部46と、線状部46の一方の端部に形成され、測定時に液体試料82が供給される液溜りとなる始端部47と、線状部46の他方の端部に形成され、始端部47に供給され線状部46を通過した液体試料82が到着する液溜りとなる終端部48とで構成される。
【0033】
ここで、線状部46は、始端部47と金属膜40との間の一部の区間が、第1分岐流路102と第2分岐流路104の2つの流路で構成される。
また、第2分岐流路104には、蛍光物質86によって標識された二次抗体88(以下単に「標識二次抗体」ともいう。)が載置された二次抗体載置領域49が設けられている。ここで、二次抗体88とは、被検出物質84と特定的に結合する特異的結合物質である。
【0034】
ここで、検査チップ16は、第1分岐流路102内に配置された第1開閉弁106と、第2分岐流路104内に配置された第2開閉弁108を有する。
第1開閉弁106は、第1分岐流路102の開放および閉塞を制御する弁であり、第1開閉制御弁106を開放すると、液体試料が第1分岐流路102を通過可能な状態となり、第1開閉制御弁106を閉塞すると、液体試料が第1分岐流路102に流れない状態となる。
また、第2開閉弁108は、第2分岐流路104の開放および閉塞を制御する弁であり、第2開閉制御弁108を開放すると、液体試料が第2分岐流路104を通過可能な状態となり、第2開閉制御弁108を閉塞すると、液体試料が第2分岐流路104に流れない状態となる。
ここで、第1開閉弁106、及び第2開閉弁108の構造は特に制限されず、流路の閉塞および開放を制御可能なものであれば種々の開閉弁を用いることができる。
【0035】
透明カバー44は、基板42のプリズム38と接している面とは反対側の面に接合された透明な板状の部材である。透明カバー44は、基板42のプリズム38と接している面とは反対側の面を塞ぐことで、基板42に形成された流路45を密閉している。
また、透明カバー44は、流路45の始端部47に対応する部分および流路45の終端部48に対応する部分に開口が形成されている。また、透明カバー44は、始端部47(さらには終端部48)に対応する位置に形成した開口に開閉可能な蓋を設けてもよい。
検査チップ16は、以上のような構成である。なお、プリズム38と、金属膜40と基板42とは、一体で形成することが好ましい。
【0036】
検査チップ支持手段17は、検査チップ16を所定位置に固定する固定部材であり、検査チップ16を光源12と入射光光学系14と後述する光検出手段18とに対して所定の位置関係となるように、検査チップ16を着脱自在に支持している。
また、光源12と入射光光学系14と検査チップ16とは、入射光光学系14からプリズム38に入射した光をプリズム38と金属膜40との境界面で全反射させてプリズムの他方の面から射出させる位置関係で配置されている。
【0037】
光検出手段18は、検出光光学系50と、フォトダイオード(以下「PD」という。)52と、フォトダイオードアンプ(以下「PDアンプ」という。)54とを有し、検査チップ16の金属膜40近傍(つまり、金属膜40上にある液体試料82)から射出されている光を検出する。
【0038】
検出光光学系50は、第1レンズ56と、カットフィルタ58と、第2レンズ60と、これらを支持する支持部62とを有し、金属膜40の表面から射出される光(つまり、金属膜40上で発光されている光)を集光し、PD52に入射させる。また、検出光光学系50は、金属膜40で発光された光の光路上において、金属膜40側から順に第1レンズ56、カットフィルタ58、第2レンズ60の順に互いに所定間隔離間して配置されている。
【0039】
第1レンズ56は、コリメータレンズであり、金属膜40に対向して配置されており、金属膜40上で発光し、第1レンズ56に到達した光を平行光にする。
カットフィルタ58は、励起光と同一波長の光を選択的にカットし、励起光と異なる波長の光(例えば、蛍光物質86に起因する蛍光等)を通過させる特性を有するフィルタであり、第1レンズ56で平行光とされた光のうち、励起光と異なる波長の光のみを通過させる。
第2レンズ60は、集光レンズであり、カットフィルタ58を透過した光を集光し、PD52に入射させる。
支持部62は、第1レンズ56と、カットフィルタ58と、第2レンズ60と互いに所定間隔離間させて一体的に保持する保持部材である。
【0040】
PD52は、受光した光を電気信号に変換する光検出器であり、第2レンズ60で集光され、入射した光を電気信号に変換する。またPD52は、変換した電気信号を検出信号としてPDアンプ54に送る。
PDアンプ54は、検出信号を増幅する増幅器であり、PD52から送られた検出信号を増幅し、算出手段20に送る。
【0041】
算出手段20は、ロックインアンプ64とPC(つまり演算部)66とを有し、検出信号から被検出対象の質量、濃度等を算出する。
【0042】
ロックインアンプ64は、検出信号のうち参照信号と等しい周波数成分を増幅する増幅器であり、PDアンプ54により増幅された検出信号のうち、FG24から送られた参照信号と同期する信号成分を増幅する。ロックインアンプ64で増幅された検出信号は、PC66に流される(出力される)。
【0043】
PC66は、ロックインアンプ64から供給された検出信号をデジタル信号に変換し、変換した信号に基づいて、試料中の被検出物質の濃度を検出する。ここで、試料中の被検出物質の濃度は、被検出物質の個数と液量との関係から算出することができる。また、被検出物質の個数は、個数既知の被検出物質を用いて検出信号の強度と被検出物質の個数との関係を算出し検量線を作成しておくことで算出することができる。なお、サンプルユニット16の基板42の流路45に供給する試料の液量を一定量とすること(または、一定量となるように設計すること)で、簡単かつ正確に濃度を算出することができる。
センシング装置10は、基本的に以上のような構成である。
【0044】
以下、検査チップ16を用いたセンシング装置10による物質検出方法について説明することで本発明をより詳細に説明する。図4(A)〜(D)は、それぞれ、検査チップ16での液体試料82の流れを示す説明図であり、図5は、液体試料82が到達した金属膜40の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【0045】
まず、第1開閉弁106を開放し、かつ、第2開閉弁108を閉塞して、第1分岐流路102のみに液体試料82が流通可能な状態とする。
この状態で、検査チップ16の基板42の流路45の始端部47に、被検出物質84を含有する液体試料82を滴下(分注)する。始端部47に滴下された液体試料82は、毛細管形状により、線状部46及びガラスカバー44で形成された管の中を終端部48に向けて移動する。
ここで、上述したように、第1分岐流路102のみ、液体試料82が流通可能な状態であるため、始端部47から線状部46に移動した液体試料82は、図4(A)に示すように、第1分岐流路102内を移動する。
第1分岐流路102内を終端部48に向けて移動する液体試料82は、金属膜40に到達し、その後、図4(B)に示すように、終端部48まで移動する。
【0046】
ここで、センシング装置10は、第1分岐流路102を通過した液体試料82が金属膜40に到達した状態となったら、光源12から励起光を射出して、金属膜40上に増強電場(後述するが、正確には、表面プラズモン及び表面プラズモン共鳴により増強された増強電場)を発生させ、金属膜40の表面近傍から射出された光を光検出手段18により検出し、検出信号P0を取得する。
ここで、検出信号P0は、標識二次抗体を含まない液体試料82で覆われた(つまり、液体試料82が接触している状態の)金属膜40の表面から射出された光を光検出手段18で受光して得た信号であり、蛍光物質86による蛍光を含まないバックグランドとしての信号である。なお、具体的な検出信号の取得方法については、後ほど詳細に説明する。
【0047】
検出信号P0を検出したら、第2開閉弁108を開放し、かつ、第1開閉弁106を閉塞して、第2分岐流路66のみに液体試料が流通可能な状態とする。
第1開閉弁106及び第2開閉弁108が切り換えられると、第1分岐流路102の液体試料82は移動せず、始端部47の液体試料82は、図4(C)に示すように、第2分岐流路104内を移動する。
【0048】
始端部47から終端部48に向けて線状部46の第2分岐流路104を移動する液体試料82は、二次抗体載置領域49に到達する。液体試料82が二次抗体載置領域49に到達すると、液体試料82に含有されている被検出物質84と二次抗体載置領域49に載置されている二次抗体88(つまり、標識二次抗体)との間で抗原抗体反応がおき、被検出物質84と二次抗体88とが結合する。また、この二次抗体88は、蛍光物質86により標識されているため、二次抗体88と結合した被検出物質84は、蛍光物質86により標識された状態となる。
【0049】
二次抗体載置領域49を通過した液体試料82は、第2分岐流路104をさらに終端部48側に移動し、線状部46の金属膜40に到達する。液体試料82が金属膜40に到達すると、図5に示すように、液体試料82に含有されている被検出物質84と金属膜40上に固定されている一次抗体80との間で抗原抗体反応がおき、被検出物質84が一次抗体80に捕捉される。ここで、一次抗体80に捕捉された被検出物質84は、二次抗体載置領域49で蛍光物質86により標識された状態であるため、被検出物質84を捕捉した一次抗体80は、蛍光物質86で標識された状態となる。つまり、被検出物質84は、一次抗体80と標識二次抗体とでサンドイッチされた状態となる。
【0050】
金属膜40を通過した液体試料82は、終端部48まで移動する。また、一次抗体80により捕捉されなかった被検出物質84、被検出物質84に結合されなかった標識二次抗体も液体試料82とともに終端部48まで移動する。
これにより、図4(D)に示すように、金属膜40上に標識二次抗体と結合し、蛍光物質86により標識され、かつ一次抗体80に捕捉された被検出物質84が残った状態となる。
【0051】
センシング装置10は、第2分岐流路104を通過し被検出物質84が標識二次抗体と結合した液体試料82が、金属膜40に到達した状態となったら、光源12から励起光を射出して、金属膜40上に増強電場を発生させ、金属膜40の表面近傍から射出される光を光検出手段18により検出し、検出信号Pを取得する。
検出信号Pは、表面の一次抗体80に、標識二次抗体により標識された被検出物質84が捕捉されている状態の金属膜40の表面から射出された光を光検出手段18で受光して得た信号であり、蛍光物質による蛍光を含む信号である。
【0052】
ここで、検出信号P0及び検出信号Pの検出方法について詳細に説明する。
なお、検出信号P0の検出と検出信号Pの検出は、金属膜40上の液体試料82の状態(具体的には、蛍光物質86による蛍光があるか否か)以外は、同様であるので、以下では、代表して検出信号Pを検出する場合について説明する。
まず、第2分岐流路104を通過した液体試料82が金属膜40に到達し、検出信号Pを検出可能な状態となったら、FG24で決定された強度変調信号に基づいて光源ドライバ26から流れる電流に基づいて、光源12から励起光を射出させる。
励起光は、光源12から射出された後、入射光光学系14を透過する。具体的には、励起光は、コリメータレンズ30により平行光とされ、その後、シリンドリカルレンズ32により一方向のみ集光され、偏光フィルタ34により偏光される。
入射光光学系14を通過した光は、プリズム38に入射され、所定の角度幅の光としてプリズム38と金属膜40との境界面に到達し、プリズム38と金属膜40との境界面で全反射され、プリズム38から射出される。なお、シリンドリカルレンズ32は、プリズム38と金属膜40との境界面を一定距離越えた位置が焦点となるように集光する。
また、コリメータレンズ30により生成された平行光を、シリンドリカルレンズ32により一方向のみに集光することで、プリズム38と金属膜40との境界面の線状部46の延在方向に平行な方向には、同一角度の光を入射することができる。
【0053】
励起光がプリズム38と金属膜40との境界面で全反射されることで、金属膜40の流路45側の面(プリズム38側とは反対側の面)に、エバネッセント波が滲み出し、このエバネッセント波により、金属膜40中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜40の表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。
このとき、所定の角度幅で入射された励起光のうち、プリズム38と金属膜40との境界面に所定角度(具体的には、プラズモン共鳴条件を満たす角度)した入射した励起光により発生した、エバネッセント波と表面プラズモンとが共鳴し、表面プラズモン共鳴(プラズモン増強効果)が発生する。このように、表面プラズモン共鳴(プラズモン増強効果)が発生した領域では、より強い電場増強が形成される。ここで、プラズモン共鳴条件は、入射された光により発生したエバネッセント波の波数ベクトルと、表面プラズモンの端数とが等しくなり、波数整合が成立する条件であり、上述したように、試料の種類、試料の状態、金属膜の厚み、密度、励起光の波長、入射角度等種々の条件に基づいて決まる。なお、本発明において、プラズモン共鳴角及び励起光(つまり、各光束)の入射角度は、金属面に垂直な線とのなす角である。
【0054】
また、このとき、エバネッセント波の滲み出している領域において蛍光物質86がある場合、蛍光物質86が励起されて蛍光を発生させる。また、エバネッセント波が染み出している領域とほぼ同等の領域に存在する表面プラズモンによる電場増強の効果、特に、表面プラズモン共鳴により増強された電場増強の効果により、この蛍光が増強される。
なお、エバネッセント波の滲み出し領域外の蛍光物質は励起されないため、蛍光を発生させない。
このようにして、金属膜40上に固定された被検出物質84を標識する蛍光物質86の蛍光は、励起され、増強される。
表面プラズモンにより励起され蛍光物質86から射出された光は、光検出手段18の第1レンズ56に入射し、カットフィルタ58を透過し、第2レンズ60で集光され、PD52に入射され電気信号に変換される。また、第1レンズ56に入射した光のうち励起光を同一波長の光は、カットフィルタ58を透過できないため、励起光成分は、PD52まで到達しない。
【0055】
PD52で生成された電気信号は、検出信号Pとして、PDアンプ54で増幅され、ロックインアンプ64で、参照信号と同期する信号成分を増幅する。これにより、励起光に起因して発生した光を増幅することができるため、、その他のノイズ成分(例えば、部屋の蛍光灯、装置内のセンサーの光など、検出光光学系50以外からPD52に入射した光や、PDで発生する暗電流)と蛍光物質86から射出された光とを確実に識別することができる。
ロックインアンプ64で増幅された検出信号Pは、PC66に送られる。
検出信号Pは、以上のようにして検出される。また、上述したように検出信号P0も同様の方法で検出される。
【0056】
PC66は、検出された検出信号P0および検出信号Pを用いて、ベースライン差分処理(具体的には、P−P0を算出)し、バックグランドが除去された後の蛍光物質に起因する信号を算出する。
PC66は、信号をA/D変換し、あらかじめ記憶していた検量線に基づき、被検出物質84の算出結果から、試料82中の被検出物質84の濃度を検出する。
センシング装置10は、以上のようにして、液体試料82中の被検出物質84の質量及び濃度を検出する。
【0057】
センシング装置10によれば、始端部47に滴下された液体試料82が通過する分岐流路を切り替え、被検出物質84が標識二次抗体により標識されていない液体試料82に覆われている状態の金属膜40の表面から射出される光の検出信号P0と、被検出物質84が標識二次抗体により標識されている液体試料82に覆われている状態の金属膜40の表面から射出される光の検出信号Pとを検出し、検出信号P0と検出信号Pを用いてベースライン差分処理を行うことで、適切にノイズを除去することができ、被検出物質84を標識している蛍光物質86に起因する蛍光をより正確に検出することができる。
具体的には、センシング装置10では、バックグランドの信号の検出を、金属膜40が液体試料84で覆われた状態で行うことにより、金属膜40の表面の屈折率を実際の測定時と同様の値とすることができるため、検出信号P0の検出時と検出信号Pの検出時で実質的に同じプラズモン共鳴条件とすることができるため、バックグランドの測定を好適に行うことができ、ノイズを正確に除去することができる。
また、プラズモン共鳴角が変化に応じて、励起光の入射角を変化させるための機構を設ける必要がなくなるため、装置構成の複雑化、装置の大型化、コストの増大等を防止することができる。
【0058】
また、液体試料を金属膜に接触させて検出信号P0を検出することで、バッファ液を用いるよりもより正確にノイズを検出することができる。また、新たな液体を準備する必要がないため、装置構成を簡単にすることができ、また、コストを下げることもできる。
【0059】
また、1つの検査チップで開閉弁を切り換えるのみで、検出信号P0と検出信号Pとを確実に検出することができるため、検査も簡単にすることができる。
【0060】
また、検査チップ毎に簡単にバックグラウンドを測定し、ノイズを除去することができるため、検査チップにより変化するノイズも正確に検出することができ、検査チップの許容誤差を大きくすることができるため、検査チップを安価に製造することが可能となる。
【0061】
ここで、検査チップ16には、流路45の終端に設けられた終端部48に溜った液体試料を吸引する吸引手段を設けることが好ましい、吸引手段により、終端部48の液体試料を吸引することで、液体試料の流れを促進することができ、より短時間で検出(及び測定)を行うことができる。
【0062】
また、検査チップ16では、第1分岐流路102および第2分岐流路104の開放および閉塞を制御するのにそれぞれ第1開閉弁106および第2開閉弁108を用いるとしたが、これに限定されず、第1分岐流路102および第2分岐流路104の開放および閉塞を制御可能な構成であればよく、例えば、第1分岐流路102と第2分岐流路104との分岐位置に配置され、始端部47から延在する流路と第1分岐流路102とを接続させた状態と、始端部47から延在する流路と第2分岐流路104と接続させた状態とを切り換える切り替え手段を配置してもよい。
【0063】
ここで、上述した検査チップ16は、第1開閉弁106及び第2開閉弁108を設け、第1分岐流路102および第2分岐流路104のうちいずれの流路に液体試料を流通させるかを選択可能な構成とし、第1分岐流路102を通過した液体試料を金属膜40に到達させて、測定を行った後、第2分岐流路104を通過した液体試料を金属膜に到達させて、測定を行ったが、本発明はこれに限定されず、第1分岐流路を通過した液体試料と第2分岐流路を通過した液体試料とで金属膜に到達するまでの時間が異なるような構成、具体的には、第1分岐流路を通過した液体試料が金属膜に到達して、所定時間経過後に第2分岐流路を通過した液体試料が金属膜に到達するような構成としてもよい。
【0064】
以下、図6(A)、図6(B)及び図7(A)〜(D)を用いて、本発明の検査チップの他の一例について説明する。
図6(A)は、本発明の検査チップの他の一例の検査チップ130の概略構成を示す上面図であり、図6(B)は、図6(A)のB−B線断面図であり、図7(A)〜(D)は、それぞれ、図6(A)及び(B)に示す検査チップ130での液体試料の流れを示す説明図である。
なお、検査チップ130は、基板131の流路132の線状部133の形状を除いて、他の構成は、検査チップ16と同様であるので、同一の部材および構成には同一符号を付してその説明は省略する。また、図6では、カバーを除いて流路基板の形状を示している。
【0065】
検査チップ130の基板131は、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面に配置された板状部材であり、金属膜40に液体試料82を供給する流路132が形成されている。
流路132は、金属膜40を横断して形成された線状部133と、線状部133の一方の端部に形成された始端部47と、線状部133の他方の端部に形成された終端部48とで構成される。
【0066】
線状部133、始端部47と金属膜40との間の一部の区間が、第1分岐流路134と第2分岐流路136の2つの流路で構成される。この第1分岐流路134と第2分岐流路136の2つの分岐流路は、隣接して直線状に形成されており、第1分岐流路134と第2分岐流路136との境界部には、撥液性の油性インクが塗布されている。
【0067】
ここで、第1分岐流路134は、内壁が平坦な流路である。
また、第2分岐流路136は、図6(B)に示すように、底面(流路のプリズム38に近い面)に凹凸部138が形成されている。つまり、底面に液体試料の流れ方向に直交する方向に延在する溝が複数形成されており、凹凸形状となっている。
このように第2分岐流路136は、底面に凹凸部138が形成されているため、底面が平坦な第1分岐流路102よりも、液体試料を始端部47から金属膜40に流通させるのに時間がかかる。
なお、第2分岐流路136は、第2分岐流路104と同様に標識二次抗体が載置された二次抗体載置領域49を有する。
また、第1分岐流路134と第2分岐流路136との境界部には、撥液性の油性インクが塗布されているため、第1分岐流路134を流れる液体試料が第2分岐流路136に移動することが抑制され、第2分岐流路136を流れる液体試料が第1分岐流路134に移動することも抑制される。なお、本実施形態では、撥液性の油性インクを塗布したが、本発明はこれに限定されず、第1分岐流路134と第2分岐流路136との境界部に撥液性の部材を配置すれば、同様の効果を得ることができる。例えば、撥液性の材料で形成されたしきいを配置してもよい。
【0068】
以下、検査チップ130での液体試料82の流れを説明する。
まず、検査チップ130の始端部47に検出対象物質を含む液体試料を滴下する。始端部47に滴下された液体試料82は、毛細管形状により、線状部133及びガラスカバー44で形成された管の中を終端部48に向けて移動する。
始端部47から終端部48に向けて移動する液体試料82は、図7(A)に示すように、線状部133を流れ、第1分岐流路134および第2分岐流路136に到達する。
第1分岐流路134および第2分岐流路136に到達した液体試料82は、さらに終端部48に向けて移動する。ここで、第2分岐流路136には凹凸部138が形成されているため、第2分岐流路136を移動する液体試料82の移動速度よりも第1分岐流路134を移動する液体試料82の移動速度の方が早くなる。そのため、図7(B)に示すように、第2分岐流路136を移動する液体試料82よりも第1分岐流路134を移動する液体試料82の方がより早く終端部48側に移動する。
【0069】
第1分岐流路134および第2分岐流路136を移動する液体試料82が、さらに終端部48側に移動すると、図7(C)に示すように、第1分岐流路134を流れる液体試料82が、第2分岐流路136を流れる液体試料82よりも先に金属膜40に到達する。
センシング装置10は、図7(C)に示すように、第1分岐流路134を通過した液体試料82(つまり、被検出物質84が蛍光物質86により標識されていない液体試料82)が金属膜40に到達した状態となったら、光源12から励起光を射出して、金属膜40上に増強電場を発生させ、金属膜40近傍から発光される光を光検出手段18により検出し、検出信号P0を取得する。
【0070】
その後、第1分岐流路134および第2分岐流路136を移動する液体試料82が、さらに、に終端部48側に移動すると、図7(D)に示すように、第2分岐流路136を流れる液体試料も金属膜40に到達する。
センシング装置10は、図7(D)に示すように、第2分岐流路136を通過した液体試料82(つまり、被検出物質84が蛍光物質86により標識されている液体試料82)が金属膜40に到達した状態となったら、光源12から励起光を射出して、金属膜40上に増強電場を発生させ、金属膜40から発光される光(増強電場により増強された蛍光物質からの蛍光を含む)を光検出手段18により検出し、検出信号Pを取得する。
【0071】
このように、検査チップ130は、第2分岐流路136に凹凸部138を設け、第1分岐流路134を移動する液体試料よりも第2分岐流路136を移動する液体試料をゆっくり移動させることで、被検出物質84が蛍光物質86により標識されていない液体試料82が金属膜40を覆っている状態の検出信号P0を取得した後、被検出物質84が蛍光物質86により標識されている液体試料82が金属膜40を覆っている状態の検出信号Pを取得することができる。
このように検査チップ130も、蛍光物質の蛍光を検出するための測定と同じプラズモン共鳴角で、バックグラウンドの信号を適切に検出することができ、ノイズを適切に除去することができ、高精度に被検出物質を検出することができ、上記検査チップ16と同様の効果を得ることができる。この検査チップ130を用いたセンシング装置とすることで、上記センシング装置10と同様の効果を得ることができる。
【0072】
ここで、上記実施形態において、第2分岐流路136は、凹凸部138を形成することで、第1分岐流路134よりも液体試料の流れを遅らせるものであったが、本発明の検査チップ及びセンシング装置の第2分岐流路の形状はこれに限定されず、液体試料が検出面まで到達するまでの時間が、第1分岐流路よりも長くなる形状であればよい。
図8および図9は、それぞれ検査チップの他の実施形態を示す上面図である。なお、図8および図9に示す実施形態では、第2分岐流路の形状以外は、基本的に図6(A)に示した検査チップ130と同様の構成を有するので、同一の部材および構成には同一符号を付してその説明は省略する。また、図8および図9では、カバーを除いて流路基板の形状を示している。
【0073】
図8に示す検査チップ140の基板141上に形成される流路142は、線状部143が第1分岐流路144と、第2分岐流路146とで構成されている。第2分岐流路146は、その一部に他の部分よりも幅が狭い細幅部148を有する。第2分岐流路146は、細幅部148を有することで、第2分岐流路146を移動する液体試料の移動速度が、第1分岐流路144を移動する液体試料の移動速度よりも遅くなる。結果として、第1分岐流路144を移動する液体試料よりが金属膜40に到達した後、第2分岐流路146を移動する液体試料82が金属膜に到達する。したがって、上記実施形態と同様に、ベースライン差分処理を行い、適切にノイズを除去することができるので、高精度の測定が可能となる。
【0074】
また、図9に示す検査チップ150の基板151上に形成される流路152は、線状部153が第1分岐流路154と、第2分岐流路156とで構成されている。第2分岐流路156は、その流路長が第1分岐流路154よりも長くなっている。具体的には、図9に示すように、第1分岐流路154は、直線形状であり、第2分岐流路156は、曲線形状であり、さらに、流路の始点と終点は、同一位置であるので、第2分岐流路156は、第1分岐流路154よりも曲がっている分、流路長が長くなる。
これにより、第2分岐流路156を移動する液体試料82は、第1分岐流路154を移動する液体試料より移動距離が長くなるため、第1分岐流路154を移動する液体試料よりが金属膜40に到達した後、第2分岐流路156を移動する液体試料82が金属膜に到達する。したがって、上記実施形態と同様にベースライン差分処理を行うことができ、適切にノイズを除去することができるので、高精度の測定が可能となる。
【0075】
次に、本発明のセンシング装置の他の実施形態について説明する。
図10は、本発明のセンシング装置の他の実施形態のセンシング装置200の概略構成を示すブロック図である。また、図11(A)は、図10に示すセンシング装置200に用いる検査チップ202の概略構成を示す上面図であり、図11(B)は、図11(A)のB−B線断面図であり、図11(C)は、図11(A)のC−C線断面図である。さらに、図12(A)〜(G)は、それぞれ図10に示すセンシング装置200による物質検出方法を説明するための説明図である。
【0076】
センシング装置200は、図10に示すように、基本的に、光源12と、入射光光学系14と、検査チップ202と、検査チップ移動手段204と、光検出手段18と、算出手段20と、分注手段206と、制御手段208とを有する。また、図10では、図示を省略したが、センシング装置200は、センシング装置10と同様にFG、光源ドライバ、及び各部を支持する支持手段を有する。ここで、光源12、入射光学系14、光検出手段18、算出手段20、FG、光源ドライバは、センシング装置10の各部と同様の構成、機能であるので、その詳細な説明は省略する。
【0077】
検査チップ202は、プリズム38と、金属膜40と、基板210とを有し、プリズム38の一面に形成された金属膜40上に被検出物質84を含有する液体試料82が載置される。
プリズム38は、検査チップ16のプリズム38と同様に、断面が二等辺三角形となる略三角柱形状(正確には、二等辺三角形の各頂点部分を二等辺三角形の底面に垂直または平行に切断した六角柱形状)のプリズムであり、光源12から射出され入射光光学系14で集光される光の光路上に配置されている。
金属膜40は、検査チップ16の金属膜40と同様に、プリズム38の二等辺三角形の底辺で構成される面の一部(具体的には、プリズム38に入射した光が照射される領域を含む領域)に形成された金属の薄膜である。
【0078】
次に、基板210は、図11(A)〜(C)に示すように、板状部材であり、測定面用開口212となる1つの開口と、第1収容部214と、第2収容部216となる2つの凹部が形成されている。ここで、測定面用開口212、第1収容部214及び第2収容部216は、直線上に一方の端部から測定面用開口212、第2収容部216、第1収容部214の順に形成されている。
【0079】
ここで、図11(B)及び(C)に示すように、基板210の測定面用開口212には、光源12が配置されている面側から金属膜40が開口で形成される穴の底面となるようにプリズム38がはめ込まれている。つまり、測定面用開口212と、金属膜40及びプリズム38とで測定面用開口212が側面となり金属膜40が底面となる凹部が形成されている。したがって、基板210の測定面用開口212は、金属膜40上に滴下された液体試料が金属膜40上からこぼれないように保持する試料保持部となる。
【0080】
第1収容部214は、液体試料を貯留する凹部であり、図示しない液体試料供給機構から供給される液体試料を所定量貯留する。なお、第1収容部214に貯留する液体試料は、含有する被検出物質が蛍光物質により標識されていない液体試料である。
第2収容部216は、標識二次抗体が載置されている凹部である。
【0081】
検査チップ移動手段204は、検査チップ202を着脱自在に支持する検査チップ支持部218と検査チップ支持部218を移動させる駆動機構220とを有し、駆動機構220により検査チップ支持部218を移動させることで、検査チップ202を移動させる。 なお、駆動機構220としては、リニア機構、ギヤ機構等の種々の移動機構を用いることができる。
【0082】
ここで、検査チップ移動手段204は、必要に応じて、検査チップ202を検査チップ202の測定面用開口212の底面を構成する金属膜40とプリズム38の境界面に光源12から射出され入射光光学系14を通過した光が入射する位置に移動させ、検査チップ202を測定面用開口212と後述する分注手段206とが対向する位置に移動させ、また、検査チップ202を第1収容部214と後述する分注手段206とが対向する位置に移動させ、また、検査チップ202を第2収容部216と後述する分注手段206とが対向する位置に移動させる。
なお、本実施形態では、測定面用開口212、第1収容部214及び第2収容部216が直線上に配置されているため、検査チップ移動手段204は、検査チップ202を測定面用開口212、第1収容部214及び第2収容部216を結ぶ直線と平行な方向(図10中矢印方向)に移動させる。
【0083】
分注手段206は、液体を吸引、排出するピペット等であり、検査チップ202の測定面用開口212、第1収容部214及び第2収容部216の移動経路上に配置されている。本実施形態では、分注手段206は、光検出手段18に対して、検査チップ202の移動方向に平行な方向に所定距離離間した位置に配置されている。
分注手段206は、対向した位置に配置されている測定面用開口212、第1収容部214及び第2収容部216に貯留されている液体を吸引したり、吸引した液体を排出したりする。
【0084】
制御手段208は、検査チップ移動手段204による検査チップ202の移動タイミングおよび移動位置や、分注手段206による吸引、排出動作を制御する。
また、制御手段208は、光源ドライバや、光検出手段18とも接続されており、光源12からの光を射出させるタイミングや、光検出手段18による光検出のタイミングを制御したり、各動作との同期をとったりする。
センシング装置200は、基本的に以上のような構成である。
【0085】
以下、センシング装置200による物質検出方法について説明することで、本発明をより詳細に説明する。図12(A)〜(G)は、それぞれ、センシング装置200による物質検出方法を説明するための説明図である。
【0086】
まず、図12(A)に示すように、検査チップ移動手段204により、第1収容部214が分注手段206と対向する位置に検査チップ202を移動させる。その後、第1収容部214に貯留されている液体試料を分注手段206で一定量吸引する。
分注手段206で液体試料を一定量吸引したら、図12(B)に示すように、検査チップ移動手段204により、測定面用開口212が分注手段206と対向する位置に検査チップ202を移動させる。その後、分注手段206が第1収容部214で吸引した液体試料を測定面用開口212の金属膜40上に排出する。
【0087】
液体試料を金属膜40上に排出したら、図12(C)に示すように、検査チップ移動手段204により、測定面用開口212が光検出手段18と対向する位置(つまり、励起光がプリズム38と金属膜40との境界面に入射される位置)に検査チップ202を移動させる。その後、光源12から励起光を射出させ、金属膜40上に増強電場を発生させ、標識二次抗体を含まない液体試料82で覆われた金属膜40の表面から射出される光を光検出手段18により検出し、検出信号P0を取得する。
【0088】
検出信号P0を取得したら、図12(D)に示すように、検査チップ移動手段204により、第1収容部214が分注手段206と対向する位置に検査チップ202を移動させる。その後、第1収容部214に貯留されている液体試料を分注手段206で一定量吸引する。
分注手段206で液体試料を一定量吸引したら、図12(E)に示すように、検査チップ移動手段204により、第2収容部216が分注手段206と対向する位置に検査チップ202を移動させる。その後、分注手段206が第1収容部214で吸引した液体試料を第2収容部216に排出する。さらにその後、第2収容部216上の液体試料を吸引し、吸引した液体試料を第2収容部216に排出することを繰り返し、第2収容部216上の液体試料を攪拌する。液体試料の攪拌が終了したら、分注手段206は、第2収容部216上の液体試料を吸引する。
ここで、第2収容部216には、標識二次抗体が載置されている。したがって、第2収容部216内で液体試料を攪拌することで、液体試料中の被検出物質と標識二次抗体が結合され、被検出物質が二次抗体を標識している蛍光物質で標識された状態となる。
【0089】
分注手段206が第2収容部216上の液体試料を吸引したら、図12(F)に示すように、検査チップ移動手段204により、測定面用開口212が分注手段206と対向する位置に検査チップ202を移動させる。その後、分注手段206が第2収容部216で吸引した液体試料を測定面用開口212の金属膜40上に排出する。ここで、金属膜40上には、一次抗体が固定されているため、液体試料中の蛍光物質で標識された被検出物質は一次抗体と結合し金属膜上に固定される。
【0090】
液体試料を金属膜40上に排出したら、図12(G)に示すように、検査チップ移動手段204により、測定面用開口212が光検出手段18と対向する位置(つまり、励起光がプリズム38と金属膜40との境界面に入射される位置)に検査チップ202を移動させる。その後、光源12から励起光を射出させ、金属膜40上に増強電場を発生させ、標識二次抗体を含み、被検出物質が蛍光物質により標識されている液体試料82で覆われた金属膜40の表面から射出される光を光検出手段18により検出し、検出信号Pを取得する。
【0091】
このようにして、取得した検出信号P0及び検出信号Pを用いて、上述のセンシング装置10と同様に、ベースライン差分処理(具体的には、P−P0を算出)し、バックグランドが除去された後の蛍光物質に起因する信号を算出する。
【0092】
以上より、センシング装置200に示すように、分注手段により、金属膜上に標識二次抗体を含まない液体試料82を滴下し、検出信号を取得した後、標識二次抗体を含む液体試料82を滴下し、検出信号を取得することでも、ノイズを好適に除去することができ、高精度に被検出物質を検出することができる。
【0093】
ここで、上述のセンシング装置200を用いた物質検出方法では、検出信号Pを検出する際に、一次抗体と結合していない標識二次抗体を除去するため、測定面用開口に保持されている液体試料を一部除去してもよい。また、検査チップの基板上に一次抗体と結合していない標識二次抗体を排出するための廃液収容部を設けてもよい。
【0094】
なお、標識二次抗体が含まれないようにバックグラウンドの信号を検出できるため、本実施形態のように、バックグラウンドの信号を取得した後、液体試料と標識二次抗体とを混合(攪拌)させることが好ましいが、本発明はこれに限定されず、先に第2収容部で液体試料と標識二次抗体とを攪拌させた後、第1収容部の標識二次抗体が含まれないよう液体試料を測定面用開口に排出し、検出信号を取得してもよい。
【0095】
また、本発明は、上記センシング装置10またはセンシング装置200を用いた物質検出方法に限定されず、標識二次抗体を含まない液体試料82で金属膜を覆った状態で、検出信号を取得した後、標識二次抗体を含む液体試料82で金属膜を覆った状態で検出信号を取得すれば、その液滴の滴下方法、検査チップの構成等を特に限定されない。
【0096】
以上、本発明に係る検査チップ、これを用いるセンシング装置及び物質検出方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【0097】
例えば、上述した実施形態では、いずれも入射光光学系として、コリメータレンズと集光レンズとなるシリンドリカルレンズとを設け、光源から射出された光をコリメータレンズで平行光にした後、シリンドリカルレンズで集光させたが、本発明はこれに限定されず、集光レンズのみを設け、光源から射出された光を平行光にせずに集光レンズで集光させる構成としてもよい。
【0098】
また、センシング装置10では、入射光学系にシリンドリカルレンズまたは集光レンズを用い、光源から射出された光を集光したが、これに限定されず、光源から所定の放射角で射出された光を集光させずにプリズムと金属膜との境界面に入射させてもよい。
また、偏光フィルタも必ずしも設ける必要はなく、特に、光源としてレーザ光源を用いる場合は、光源から射出される光が偏光された光であるので、偏光フィルムは設けなくてもよい。
【0099】
また、上述した実施形態では、いずれも試料に含まれる被検出物質の個数または濃度を検出したが、本発明はこれに限定されず、試料に被検出物質が含有されるが否か(つまり、試料の中に被検出物質があるか否か)を検出してもよい。
【0100】
また、上述した実施形態では、いずれも金属膜の表面にエバネッセント波及び表面プラズモンを発生させ、さらに表面プラズモン共鳴を発生させることで、増強された電場を形成させたが本発明はこれに限定されず、増強電場が形成される面への光の入射角度によって増強度が変化する(つまり、所定の入射角で光が入射したときのみ増強場が変化する)種々の方式に用いることができる。例えば、プリズム上に金膜と厚み約1μmのSiO膜とを積層させ、所定角度で入射した光をSiO膜内で共振させることで増強された電場を形成する方式にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明の検査チップを用いる本発明のセンシング装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図2】(A)は、図1に示したセンシング装置の光源、入射光光学系、検査チップの概略構成を示す上面図であり、(B)は、(A)のB−B線断面図である。
【図3】図2(A)及び(B)に示す検査チップの金属膜の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【図4】(A)〜(D)は、それぞれ、検査チップでの液体試料の流れを示す説明図である。
【図5】試料が到達した金属膜の一部を拡大して示す拡大模式図である。
【図6】(A)は、本発明の検査チップの他の一例を示す上面図であり、(B)は、(A)のB−B線断面図である。
【図7】(A)〜(D)は、それぞれ、図6に示す検査チップでの液体試料の流れを示す説明図である。
【図8】本発明の検査チップの他の一例を示す上面図である。
【図9】本発明の検査チップの他の一例を示す上面図である。
【図10】本発明のセンシング装置の他の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
【図11】(A)は、図10に示すセンシング装置に用いる検査チップの概略構成を示す上面図であり、(B)は、(A)のB−B線断面図であり、(C)は、(A)のC−C線断面図である。
【図12】(A)〜(G)は、それぞれ図10に示すセンシング装置による物質検出方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0102】
10 センシング装置
12 光源
14 入射光光学系
16、130、140、150、202 検査チップ
17 検査チップ支持手段
18 光検出手段
20 算出手段
24 ファンクションジェネレータ(FG)
26 光源ドライバ
30 コリメータレンズ
32 シリンドリカルレンズ
34 偏光フィルタ
38 プリズム
40 金属膜
42、131、141、151、210 基板
44 透明カバー
45、132、142、152 流路
46、133、143、153 線状部
47 始端部
48 終端部
49 二次抗体載置領域
50 検出光光学系
52 フォトダイオード(PD)
54 フォトダイオードアンプ(PDアンプ)
56 第1レンズ
58 カットフィルタ
60 第2レンズ
62 支持部
64 ロックインアンプ
66 PC
80 一次抗体
82 液体試料
84 被検出物質
86 蛍光物質
88 二次抗体
102、134、144、154 第1分岐流路
104、136、146、156 第2分岐流路
106 第1開閉弁
108 第2開閉弁
138 凹凸部
148 細線部
204 検査チップ移動手段
206 分注手段
212 測定面用開口
214 第1収容部
216 第2収容部
218 検査チップ支持部
220 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料に含まれる被検出物質を蛍光物質により標識し、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場により前記蛍光物質の蛍光を増強させて被検出物質を検出するセンシング装置に用いる検査チップであって、
プリズムと、
前記プリズムの一表面に形成され、前記被検出物質と特異的に結合する第1の特異的結合物質が表面に配置された金属膜と、
前記プリズムの一面上に配置され、始端部から終端部に前記液体試料を伝搬させることで前記液体試料を前記金属膜に供給する流路が形成された流路基板とを有し、
前記流路は、前記始端部と前記金属膜の間の一点から前記金属膜との接触位置までの区間が、第1分岐流路と、前記蛍光物質により標識され、前記被検出物質と特異的に結合する第2の特異的結合物質が載置されている領域を備える第2分岐流路とに分岐され、前記第1分岐流路を伝播した前記液体試料を前記金属膜に到達させた後に、前記第2分岐流路を伝播した前記液体試料を前記金属膜に到達させることを特徴とする検査チップ。
【請求項2】
前記流路基板は、前記第1分岐流路内の前記液体試料の流通を制御する第1制御弁と、前記第2分岐流路内の前記液体試料の流通を制御する第2制御弁とを有する請求項1に記載の検査チップ。
【請求項3】
前記流路は、前記第2分岐流路が前記第1分岐流路よりも前記液体試料の伝搬時間が長い請求項1に記載の検査チップ。
【請求項4】
前記第2分岐流路は、凹凸形状を有する請求項3に記載の検査チップ。
【請求項5】
前記第2分岐流路は、前記始端から前記金属膜との接触部までの間の一部に他の領域よりも幅が狭くなる領域がある請求項3または4に記載の検査チップ。
【請求項6】
前記第2分岐流路は、前記第1分岐流路よりも流路長が長い請求項3に記載の検査チップ。
【請求項7】
前記第1分岐流路と第2分岐流路との境界に撥水性部材が配置されている請求項3〜6のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項8】
前記増強場は、表面プラズモン共鳴により増強させた増強電場である請求項1〜7のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の検査チップと、
前記検査チップを支持する検査チップ支持手段と、
光を射出する光源と、
前記光源から射出された光を、前記プリズムと前記金属膜との境界面で全反射する角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、
前記金属膜の前記プリズム側とは反対側の面に対向して配置され、前記金属膜近傍で発生した光を検出する光検出手段とを有することを特徴とするセンシング装置。
【請求項10】
前記光検出手段は、前記第1分岐流路のみから前記液体試料が供給された前記金属膜の表面から射出される光を検出した後、前記第2分岐流路から前記液体試料が供給された前記金属膜の表面から射出される光を検出する請求項9に記載のセンシング装置。
【請求項11】
液体試料に含まれる被検出物質を蛍光物質により標識し、検出面に光を所定の入射角で入射させることで発生する増強場により前記蛍光物質の蛍光を増強させて検出するセンシング装置であって、
光を射出する光源と、
プリズムと、
前記プリズムの一表面に形成され、前記被検出物質と特異的に結合する第1の特異的結合物質が表面に配置された金属膜と、
前記金属膜上に滴下された前記液体試料を前記金属膜上に保持する試料保持部と、
前記光源から射出された光を、前記プリズムと前記金属膜との境界面で全反射する角度で前記プリズムに入射させる入射光光学系と、
前記金属膜の前記プリズム側とは反対側の面に対向して配置され、前記金属膜近傍で発生した光を検出する光検出手段と、
前記液体試料を収容する第1収容部と、
蛍光物質により標識され、かつ、前記測定対称物質と特異的に結合する第2の特異的結合物質を収容する第2収容部と、
前記液体試料を前記金属膜上に分注する分注手段と、
前記分注手段による前記液体試料の分注位置および前記光検出手段による前記金属膜の表面から射出される光の検出の順序を決定する制御手段とを備え、
前記制御手段は、前記分注手段により前記第1収容部に収容されている前記液体試料を前記金属膜上に分注させ、前記光検出手段により前記第1収容部の前記液体試料が分注された前記金属膜の表面から射出される光を検出させた後、
前記分注手段により前記液体試料を前記第2収容部に分注させ、前記液体試料と前記第2の特異点結合物質とを混合させ、混合した液体を前記金属膜上に分注させ、前記光検出手段により液体が分注された前記金属膜の表面から射出される光を検出させることを特徴とするセンシング装置。
【請求項12】
前記増強場は、表面プラズモン共鳴により増強させた増強電場である請求項11に記載のセンシング装置。
【請求項13】
前記光検出手段の検出結果に基づいて、前記試料内の前記被検出物質の濃度を算出する算出手段を有する請求項9〜12のいずれかに記載のセンシング装置。
【請求項14】
プリズムの一表面に形成され、かつ、前記被検出物質と特異的に結合する第1の特異的結合物質が表面に配置された金属膜に、蛍光物質により標識された被検出物質を含む液体試料を接触させ、前記液体試料が接触されている前記金属膜に前記液体試料が接している面とは反対側の面から光を照射して増強場を発生させ、前記増強場が発生した状態の金属膜近傍から射出される光を検出し、前記液体試料内の前記被検出物質を検出する物質検出方法であって、
前記蛍光物質に標識されていない液体試料を前記金属膜に接触させる第1液体試料供給ステップと、
蛍光物質に標識されていない液体試料を接触させた状態で、前記金属面に光を照射して前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を検出する第1光検出ステップと、
前記液体試料に、蛍光物質により標識され、前記被検出物質と特異的に結合する第2の特異的結合物質を混合し、前記被検出物質と前記第2の特異的結合物質とを結合させ、前記被検出物質を前記蛍光物質により標識する混合ステップと、
前記混合ステップで生成された、前記蛍光物質により標識された前記被検出物質を含有する前記液体試料を前記金属膜上に接触させる第2液体試料供給ステップと、
前記蛍光物質により標識された前記被検出物質を含有する前記液体試料を前記金属膜上に接触させた状態で、前記金属膜に光を照射して前記増強場を発生させ、前記金属膜の表面から射出される光を検出する第2光検出ステップとを有することを特徴とする物質検出方法。
【請求項15】
さらに、前記第1光検出ステップで検出した検出値と、前記第2光検出ステップで検出した検出値との差分に基づいて、前記液体試料内の前記被検出物質の濃度を算出する算出ステップを有する請求項14に記載の物質検出方法。
【請求項16】
前記増強場は、表面プラズモン共鳴により増強させた増強電場である請求項13または14に記載の検査チップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−204509(P2009−204509A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48119(P2008−48119)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】