説明

検査用プレートと、前記検査用プレートを用いた検査方法

【課題】 特に、検査等したいときにだけ、上流側収納室に収納された上流側物質を、下流側物質が収納される下流側収納室まで流し込み、任意のタイミングで、前記下流側収納室で前記上流側物質と下流側物質とを混合させることが可能な検査用プレートと、前記検査用プレートを用いた検査方法を提供。
【解決手段】 プレート基板2と蓋体3とを有し、前記プレート基板には、流路4と、前記流路の上流側に連結するとともに、上流側物質11を収納するための上流側収納室5と、前記流路の下流側に連結するとともに、下流側物質12を収納するための下流側収納室6とを有し、前記上流側収納室から流路を通って前記下流側収納室まで至る空間A,B,Cの表面のうち、少なくとも一部の表面が、撥水面となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば血液検査、尿検査、あるいはDNA検査を医療機関や個人などで行なうことが可能な簡易な検査用プレートに係わり、特に、下流側物質が収納される下流側収納室で任意のタイミングで上流側物質と混合させることが可能な検査用プレートと、前記検査用プレートを用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血液や尿など、人体からの採取物に対する検査用のチップの開発が盛んになっている。例えば、DNAチップは、ガラスなどの基板上に多種類のDNA断片(プローブ)を貼り付けた物で、人から採取した遺伝子(検体,あるいはターゲット)の働き具合(発現)等を一度に測定することが出来る。
【0003】
従来、試験管とスポイト、あるいは攪拌機等で行なわれていた生化学反応を前記チップ上で行なうことで、高速度で検査することができ、また検査工程の簡略化を測ることが可能であると考えられ、注目を浴びている。
【0004】
ところで検査チップは、現在、研究用チップとして大学や研究機関向けに開発されているのが主流であるが、将来的には、医療機関や個人向けへの簡易な検査チップが商品化されることが期待される。
【0005】
下記の特許文献1には、微量試料の分析や検出を簡便に行なうことが可能な分析装置に好適なバルブ機構に関する発明が開示されている。
【特許文献1】特開2003−287479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の図3に示されている符号Vは保存槽であり、前記保存槽V内には、吸水ポリマーLが収容されている。符号Sは液体槽で、符号Wは排液槽であり、分岐したキャピラリ12に、前記保存槽V,液体槽S及び排液槽Wがそれぞれ連結されている。
【0007】
特許文献1の図4(a)に示すように、液体槽Sのダイアフラム膜14を押圧すると、前記液体槽S内の液体が矢印のごとく前記キャピラリ12内を流れる。
【0008】
次に特許文献1の図4(b)に示すように、保存槽Vのダイアフラム膜14を押圧すると、前記保存槽V内の吸水ポリマーLが押し出されて、前記液体槽Sと排液槽W間を繋ぐキャピラリ12を塞ぎ、前記液体槽Sから前記排液槽Wへ向けて流れる液体の流れを阻止している。
【0009】
特許文献1では、前記液体槽Sに収納された液体は、まず図4(a)のように、保存槽V及び排液槽Wに流れてしまうが、前記液体槽Sに収納された液体を、所定時間の間、その中に留めておき、任意のタイミングで前記キャピラリ12から所定の槽内へ流したい場合がある。
【0010】
例えば、前記液体槽Sに予めプローブ等の試薬が収納されており、前記キャピラリ12に連結された他の槽に検体を収容した後、任意のタイミングで、前記試薬を前記検体が収容された他の槽へ流したい場合があるが、特許文献1では、そのような方法で検査することが出来ない。
【0011】
そこで本発明は上記課題を解決するためのものであり、特に、検査等したいときにだけ、上流側収納室に収納された上流側物質を、下流側物質が収納される下流側収納室まで流し込み、任意のタイミングで、前記下流側収納室で前記上流側物質と下流側物質とを混合させることが可能な検査用プレートと、前記検査用プレートを用いた検査方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の検査用プレートは、
プレート基板と蓋体とを有し、
前記プレート基板には、流路と、前記流路の上流側に連結するとともに、上流側物質を収納するための上流側収納室と、前記流路の下流側に連結するとともに、下流側物質を収納するための下流側収納室とを有し、
前記上流側収納室から流路を通って前記下流側収納室まで至る空間を構成する表面のうち、少なくとも一部の表面が、撥水面となっていることを特徴とするものである。
【0013】
上記により、上流側物質は、前記撥水面によりはじかれて、前記下流側物質が収納された下流側収納室まで至ることはなく、前記上流側物質を前記下流側収納室の少なくとも手前でせき止めておくことが可能である。そして例えば前記下流側収納室内に下流側物質を収納した後、検査等したいときに任意のタイミングで、所定の手段を用いて、前記上流側物質を前記下流側収納室まで導き、前記下流側収納室内で前記上流側物質と下流側物質とを混合させることが可能である。
【0014】
また本発明では、前記撥水面は、前記流路あるいは上流側収納室での空間を構成する一部の表面に形成されていることが好ましい。これにより、適切に、前記上流側物質を前記下流側収納室の少なくとも手前でせき止めておくことが可能である。
【0015】
また本発明では、前記撥水面は、前記上流側収納室から流路を通って前記下流側収納室まで至る空間を構成する表面の全てに形成されていることが好ましい。これにより前記検査用プレートを簡単に成形することが出来る。
【0016】
また本発明では、前記撥水面は、前記空間を構成する表面に撥水剤がコーティングされて形成されているか、あるいは前記プレート基板及び/または蓋体自体に撥水剤が含有されて、前記表面が撥水面として構成されることが好ましい。後者の方が、前記検査用プレートを簡単に成形することが出来て好ましい。
【0017】
また本発明では、前記撥水剤にはトリアジンチオールあるいはシラン系カップリング剤が含有されていることが好ましい。これにより前記撥水剤を適切に前記空間を構成する表面にコーティングでき、あるいは前記プレート基板や蓋体内に前記撥水剤を含有させることが出来る。
【0018】
また本発明では、前記上流側収納室には送圧手段が連結されており、前記下流側収納室には、前記送圧手段からの圧力を外部へ抜くための通路が前記下流側収納室と連結されていることが好ましい。これにより前記上流側物質を前記下流側収納室まで適切且つ簡単に送ることが可能になる。
また本発明では、前記通路の径は前記流路の径よりも小さいことが好ましい。
【0019】
また本発明は、上記のいずれかに記載された検査用プレートを用いて、所定の検査を行なう検査方法において、
前記検査用プレートの前記上流側収納室内に、予め前記上流側物質を収納しておき、少なくとも前記上流側物質は、前記撥水面によりはじかれて、前記下流側収納室にまで至らない状態に保たれ、
次に前記下流側収納室内に、下流側物質を収納した後、所定の手段を用いて前記上流側物質を前記下流側収納室まで送って、前記下流側収納室内で、前記上流側物質と下流側物質とを混合させることを特徴とするものである。
【0020】
上記のように、上流側物質は、前記撥水面によりはじかれて、前記下流側物質が収納された下流側収納室まで至らず、前記上流側物質を前記下流側収納室の少なくとも手前でせき止めておくことが可能である。このため、前記下流側収納室内に下流側物質を収納した後、検査したいときに任意のタイミングで、所定の手段を用いて、前記上流側物質を前記下流側収納室まで導き、前記下流側収納室内で前記上流側物質と下流側物質とを混合させることが可能である。
【0021】
また本発明では、前記下流側物質を収納した後、前記送圧手段を用いて、前記上流側物質を前記下流側収納室まで送ることが好ましい。これにより、素早く且つ簡単に、前記上流側物質を前記下流側収納室内まで送って、前記下流側収納室内で前記上流側物質と下流側物質とを混合させることが出来る。
【0022】
また本発明では、前記上流側物質は試薬であり、下流側物質は検体であることが好ましく、例えば上流側物質は表面にプローブが固着したビーズである。
【0023】
係る場合、前記ビーズの粒径は、前記下流側収納室に連結された通路の径よりも大きく、前記ビーズは、前記下流側収納室内に食い止められることが好ましい。これにより前記ビーズが前記通路を通過して外部に漏れ出すことを防止できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、上流側物質は、撥水面によりはじかれて、下流側物質が収納された下流側収納室まで至ることはなく、前記上流側物質を前記下流側収納室の少なくとも手前でせき止めておくことが可能である。そして例えば前記下流側収納室内に下流側物質を収納した後、検査等したいときに任意のタイミングで、所定の手段を用いて、前記上流側物質を前記下流側収納室まで導き、前記下流側収納室内で前記上流側物質と下流側物質とを混合させることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明における検査用プレートの外観部分斜視図、図2は図1に示す検査用プレートを真上から見たときの部分平面図、図3は図2に示すIII−III線から前記検査用プレートを膜厚方向へ切断し、前記切断面を矢印方向から見た部分断面図、図4は、検査時の上流側物質の流れ方等を説明するための図2と同様の部分平面図を用いた説明図、図5は図1ないし図3とは異なる形態の本発明の検査用プレートの部分平面図、である。
【0026】
図1に示す符号1は、検査用プレートである。図1に示す検査用プレート1は、例えば人体から血液や尿などを採取し、これら採取物を、所定の試薬などと反応させて所定の検査を行なうためのものである。前記検査用プレートを例えばDNAチップとして用いる場合には、採取した前記血液に所定の処理を施して使用する。
【0027】
前記検査用プレート1は、幅方向(図示X1−X2方向)の両端から直角に長さ方向(図示Y1−Y2方向)に延びる所定の厚みを有した略直方形状であるが、前記略直方形状以外の形状であってもかまわない。
【0028】
前記検査用プレート1は、プレート基板2と蓋体3とで構成される。前記プレート基板2及び蓋体3は、ガラスや樹脂などで形成されたものである。前記プレート基板2及び蓋体3は所定の蛍光強度を有する材質で形成される。特に前記検査用プレート1をDNAチップやプロテインチップ等として用いる場合には、前記検査用プレート1は低蛍光性で、耐薬品性に優れた材質であることが好ましく、例えば石英ガラス、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などで形成される。
【0029】
前記検査用プレート1が樹脂で形成されるときは、射出成形によって前記検査用プレート1を成形することが好ましく、場合によっては熱プレスを施して、前記検査用プレート1のプレート基板2の表面2aに形成される溝を高アスペクト比のものとして成形する。また前記検査用プレート1がガラスで形成されるときは、熱プレスにより成形する。
【0030】
なお前記プレート基板2と蓋体3は同じ材質で形成されなくてもよいが、同じ材質で形成された方が、前記プレート基板2と蓋体3とを接着剤無しに接合させやすい等の利点があって好ましい。
【0031】
図1に示すプレート基板2の表面2aには、流路4と、前記流路4内を流れる物質の流れ方向に対する上流側(図示Y1側)に位置し、前記流路4と連結された上流側収納室5と、前記流路4内を流れる物質の流れ方向に対する下流側(図示Y2側)に位置し、前記流路4と連結された下流側収納室6とが溝形状で形成されている。
【0032】
図2に示すように前記流路4は、所定幅T3を有する直線状で形成されている。前記流路4を直線状で形成することで、前記流路4内に物質が流れる際、乱流が生じにくくなり好ましい。ただし前記流路4は直線状以外の形状であってもよい。
【0033】
また、図2に示すように、前記上流側収納室5及び下流側収納室6はいずれも略円形状で形成されているが、円形状以外の形状であってもよい。図2に示すように、前記上流側収納室5の最大径T4及び下流側収納室6の最大径T5は、いずれも流路4の幅寸法T3よりも大きい。
【0034】
図2に示すように、前記上流側収納室5及び下流側収納室6が略円形状であると前記上流側収納室5及び下流側収納室6の側面5b,6bが前記流路4の側面4bとの付け根部分で湾曲しているため、この部位で物質の流れに乱流が生じ難くなり好ましい。したがって前記上流側収納室5及び下流側収納室6は略円形状以外に楕円形状や、流路4側に湾曲面が向く半円形状などであってもよい。
【0035】
前記流路4,上流側収納室5及び下流側収納室6は、それぞれ底面4a,5a,6aと、前記底面から表面2aに向けて延びる側面4b,5b,6bとを有し、前記底面と側面とで前記溝が構成される。
【0036】
さらに図3に示すように、前記プレート基板2上には蓋体3が重ねられるため、前記蓋体3が重ねられた状態では、前記流路4,上流側収納室5及び下流側収納室6は、前記底面4a,5a,6aと、側面4b,5b,6bと、前記蓋体3の下面3aとから囲まれた空間となる。以下、空間Aと言うときは、流路4を構成する空間を指し、空間Bというときは、上流側収納室5を構成する空間を指し、空間Cというときは、下流側収納室6を構成する空間を指す。
【0037】
また図1,図2,図3に示すように、前記上流側収納室5の前記流路4と反対側(図示Y1側)には、前記上流側収納室5と連結する溝形状の上流側通路7が形成されており、前記下流側収納室6の前記流路4と反対側(図示Y2側)には、前記下流側収納室5と連結する溝形状の下流側通路8が形成されている。これら通路7,8も底面7a,8aと、前記底面から表面2aに向けて延びる側面7b,8bとを有して溝が構成され、さらに蓋体3が重ねられると、前記蓋体3の下面3aを含む空間が形成される。ここで空間Dと言うときは、上流側通路7を構成する空間を指し、空間Eと言うときは、下流側通路8を構成する空間を指す。
【0038】
図1,図2,図3に示すように、前記上流側通路7の前記上流側収納室5と反対側の端部には、送圧部9が連結されている。また図1,図2,図3に示すように前記下流側通路8の前記下流側収納室6と反対側の端部は、前記プレート基板2の側面2bまで形成され、前記下流側通路8は前記プレート基板2の側面2bから外部に露出(開放)している。
【0039】
本発明の特徴的部分は、前記上流側収納室5から流路4を通って前記下流側収納室6まで至る空間A,B,Cを構成する表面のうち、少なくとも一部の表面が撥水面となっている点である。
【0040】
なお上記のように「空間を構成する表面」とは、前記空間を形成するプレート基板2側に形成された溝形状の底面、側面、及び蓋体3側の下面3aのいずれの面も指す。
【0041】
図3に示す実施形態では、前記流路4の底面4a、上流側収納室5の底面5a及び下流側収納室6の底面6aに、撥水性に優れたコーティング層10が設けられている。前記コーティング層10は、前記各空間A,B,Cを構成する側面4b,5b,6bに形成されていなくてもよいし、形成されていてもよい。前記コーティング層10の表面10aが撥水面(以下、撥水面10aと称する場合がある)として機能する。
【0042】
また、前記撥水面10aの好ましい形成箇所は、流路4を構成する空間Aの一部の表面か、あるいは上流側収納室5を構成する空間Bの一部の表面である。したがって例えば前記上流側収納室5を構成する底面5aのみや、あるいは前記底面5aの全面でなくても前記底面5aの一部のみに前記コーティング層10が形成されている形態,または図3に示す流路4の底面4a(あるいは前記底面4aの一部)上にのみ前記コーティング層10が形成される形態も本発明の範囲内である。
【0043】
最も好ましくは、前記撥水面10aは、前記流路4,上流側収納室5及び下流側収納室6を構成する空間A,B,Cの全ての表面に形成されていることである。すなわち前記空間A,B,Cを構成するプレート基板2側の底面4a,5a,6a、側面4b,5b,6b及び蓋体3の下面3aすべてにコーティング層10が形成されることが最も好ましい。
【0044】
前記コーティング層10は、フッ素を含有したり、あるいは、炭化水素系化合物、シリコーンなどで形成された樹脂やゴムなど撥水性に優れた材質である。前記コーティング層10の表面10aは「撥水面」であるが、撥水面であるか否かは接触角を測定することで判断される。接触角が大きいと撥水性に優れ、接触角が小さいと撥水性が弱まる。前記コーティング層10が形成された表面10aと、前記コーティング層10が施されていない前記プレート基板2などの表面との接触角を測定することで、前記コーティング層10の表面10aが「撥水面」であることを確認できる。
【0045】
前記プレート基板2や蓋体3が例えばガラスであったとし、前記プレート基板2や蓋体3の所定部位に前記コーティング層10を形成するには、前記プレート基板2及び蓋体3と前記コーティング層10間の接着力を強めるために、前記コーティング層10を構成する撥水剤にはカップリング剤を添加することが好ましく、前記カップリング剤には、トリアジンチオールやシラン系カップリング剤が選択される。
【0046】
前記コーティング層10(撥水剤)は、所定の部位に印刷やスピンコート、スプレイなどで塗布することで形成できるが、例えば、前記上流側収納室5の底面5aのみに前記コーティング層10を形成するには、前記コーティング層10を形成しない部位にマスクをかけておく必要があるなど煩雑な作業となるので、前記プレート基板2の表面2aも含め全体的に前記コーティング層10を形成することが作業性を向上させることができて好ましい。
【0047】
また本発明では前記プレート基板2及び蓋体3自体に例えばフッ素系等の撥水剤を含有させ前記プレート基板2及び蓋体3全体を撥水処理することで、前記空間A,B,Cを構成する表面全てを撥水面として機能させることも出来る。係る場合、前記プレート基板2及び蓋体3に対する撥水処理が非常に簡単になり作業性を向上させることができて好ましい。係る場合も前記撥水剤にはトリアジンチオールやシラン系カップリング剤等が含有されている。なお例えば、前記プレート基板2には、前記基板2内にフッ素系等の撥水剤を含有させて前記プレート基板2表面の全てを撥水面として処理し、一方、蓋体3側は、その下面3aに前記コーティング層10を塗布して、前記下面3aのみ撥水処理してもよく、あるいはその逆であってもよい。
【0048】
上記のように本発明では、前記空間A,B,Cを構成する表面のうち、少なくとも一部の表面が、撥水面となっており、好ましくは、前記流路4かあるいは、上流側収納室5を構成する空間A,Bの一部の表面が前記撥水面となっており、最も好ましくは、前記空間A,B,Cを構成する全ての表面が撥水面となっていることである。
【0049】
このため、本発明では、前記上流側収納室5に収納される上流側物質11が、毛細管作用などによって前記流路4を伝って前記下流側収納室6まで至ることを防止することが出来る。前記上流側物質11は、前記下流側収納室6に至るまでの間に設けられている、いずれかの「撥水面」によりはじかれ、前記下流側収納室6内にまで、何等かの手段を用いないと導かれないようになっている。
【0050】
図2に示すように、前記送圧部9は、例えば前記プレート基板2の上流側通路7の前記上流側収納室5とは反対側に、前記上流側通路7に連結された溝形状で形成され、前記送圧部9上は、蓋体3とは別個に形成されたシート13によって覆われている。前記シート13にも前記送圧部9と同様の形状の凹み部が形成されていることが好ましい。前記シート13は、前記プレート基板2や蓋体3に比べて軟質な材質で形成されている。前記シート13とプレート基板2とは送圧部9以外の箇所が接合されて、前記送圧部9内は空間となっており、この送圧部9内には空気が充填されることで、前記送圧部9は軟質なシート13側が、上方向へ膨らんだ状態になっている。前記送圧部9と前記上流側通路7との間には図示しない弁が形成されており、上流側物質11と下流側物質12を混合させる前の状態では、前記送圧部9から前記上流側通路7へ空気は送られていない。
【0051】
また前記送圧部9の下側も前記プレート基板2とは別個に形成された軟質なシートによって形成され、前記プレート基板2側のシートと、前記蓋体3側のシート13間が、送圧部9となる部分以外、接合されて、前記シート間に前記上流側通路7と連結する所定空間の送圧部9が形成されていてもよい。
【0052】
本発明は、まず前記上流側収納室5内に上流側物質11を収納する。例えば前記上流側物質11は、プローブ(DNAの断片)が表面に固着された多数のビーズである。前記ビーズはガラスや繊維等によって形成されたもので、前記ビーズには数種の蛍光色素が異なる割合で配合されている。
【0053】
上記したように、少なくとも上流側収納室5か流路4を構成する空間A,Bの表面の一部が撥水面であるため、前記上流側物質11は、前記下流側収納室6に至るまでの間にある、いずれかの撥水面上ではじかれて前記下流側収納室6内にまで導かれない状態に保たれる。
【0054】
次に、前記下流側収納室5に下流側物質12を収納する。前記下流側物質12は人から採取した血液等である。DNA検査の場合、前記血液は所定の処理が施され、所定の処理が施された検体が前記下流側収納室5内に収納される。
【0055】
次に、検査者が前記送圧部9を上下から例えば指等で挟み、前記送圧部9の上のシート13表面を下方向へ押圧すると前記送圧部9内に充填された空気が前記上流側通路7との間に形成された弁を開放させて前記上流側通路7へ送られる(図4)。
【0056】
図4に示すように、前記上流側収納室5内に収納されていた上流側物質11は、前記上流側通路7から送られてきた空気の圧力により、前記流路4を通って前記下流側収納室6内まで送られる。上記のように前記上流側物質11が、プローブ(DNAの断片)が表面に固着された多数のビーズであると、個々のビーズ11aが、前記流路4を通って前記下流側収納室6内にまで至り、前記下流側収納室6内に収納された下流側物質(検体)12と、前記ビーズ11aに固着されたプローブとが前記下流側収納室6内で混ざり、前記ビーズ11aに固着されたプローブと下流側物質(検体)12とが反応したか否か(前記プローブと検体とがくっついたか否か)を前記ビーズ11aの蛍光強度を測定するなどして解析することが出来る。
【0057】
図4に前記流路4の径T3は前記下流側通路8の径T2よりも大きく形成されている。そして、前記ビーズ11aの外径はT1で形成され、前記外径T1は前記径T3よりも小さいが前記径T2よりも大きくなっており、これによって前記下流側収納室6内に導かされた前記ビーズ11aは、前記下流側収納室6内に食い止められ、前記ビーズ11aが前記下流側通路8を通って外部へ流出することを防止することが出来る。
【0058】
前記下流側通路8は、前記送圧部9から送られた空気を抜くための通路として機能するが、前記上流側物質11及び下流側物質12の少なくともどちらか一方が液体である場合、前記液体は前記下流側通路8を通過して外部へ流出しやすいので、前記外部への流出を抑制するには、前記下流側通路8を構成する空間Eの表面も撥水面であることが好ましい。
【0059】
なお前記上流側通路7を構成する空間Dの表面も撥水面とすれば、前記上流側物質11が前記上流側通路7を通って前記送圧部9方向へ送られるのを抑制することが出来る。
【0060】
また上記の構成では、前記送圧部9内に空気が充填されていたが、空気でなくてもよく、例えば、前記上流側物質11と同じ物質が含有されていてもかなわない。係る場合、前記上流側通路7を構成する空間Dが撥水面である必要はない。前記送圧部9を押圧することで、前記送圧部9内に充填された上流側物質11が前記上流側収納室5まで送られて、前記上流側収納室5内の上流側物質11と混ざり、さらに前記送圧部9からの圧力で前記上流側物質11は前記下流側収納室6内まで送られ、前記上流側物質11と下流側物質12とが前記下流側収納室6内で混合させられる。
【0061】
また上記実施形態では、前記上流側収納室5の前記流路4側とは反対側に前記送圧部9を設けていたが、例えば前記上流側収納室5上に重ねられる蓋体3の部分を少なくとも軟質な材質で形成しておき、前記上流側収納室5上の軟質な蓋体3を押圧することで、前記上流側収納室5に収納された上流側物質11を前記下流側収納室6まで送る送圧手段であっても良い。なお前記蓋体3全体を前記プレート基板2よりも軟質な材質で形成しておいてもよい。
【0062】
また、上流側物質11が液体である場合には、空間A〜Cの全面を撥水面とすると共に、前記液体をほぼ球状に保ち、かつこの球径を流路4の径T3よりも大きくすることで、上流側物質11を上流側収納室5に保持しておくことも可能である。この場合、送圧部9から上流側収納室5へ空気を送ることにより球状の上流側物質11を流路4に押し出すと、上流側物質11が流路4の径であるT3以下の小球に分割された状態で流路4を進み、これら小球が下流側収納室6のやはり球状で保持された検体と混合されることで検査が可能になる。このとき、下流側収納室6での混合体もまた球状で維持させることができるので、この混合体が下流側通路8を通過して外部へ流出してしまうことがない。
【0063】
図5は図1ないし図4とは異なる形態の検査用プレート20で、上流側収納室21,22は二つ設けられ、前記上流側収納室21,22からそれぞれ下流側収納室23に向けて流路24,25が形成されている。前記流路24,25は前記下流側収納部23の手前で一つの流路26になり前記流路26が前記下流側収納室23に連結されている。なお図5に示す実施形態にも前記下流側収納室23には下流側通路8が連結され、前記上流側収納室21,22には前記上流側通路7,7が連結されている。
【0064】
図5に示す実施形態でも2つの前記上流側収納室21,22から流路24,25,26を通って前記下流側収納室23まで至る空間のうち、少なくとも一部の表面が撥水面となっている。最も好ましくは、前記上流側収納室21,22、流路24,25,26及び下流側収納室23を構成する空間の全ての表面が撥水面である点である。撥水処理の手法は図1ないし図4の実施形態で説明した通りなのでそちらを参照されたい。
【0065】
図5の実施形態では、前記上流側収納室21,22にぞれぞれ上流側物質27,28が収納される。前記上流側物質27,28は前記上流側収納室21,22や流路24,25,26を構成する空間の少なくとも一部の表面に形成された撥水面によってはじかれ、前記下流側収納室23内にまで至らない状態で保持される。
【0066】
前記下流側収納室23に下流側物質(図示しない)が収納された後、送圧部16からの圧力によって前記上流側物質27,28が、前記流路24,25,26を通って前記下流側収納室23にまで導かれ、前記下流側収納室23内で、前記上流側物質27,28,及び下流側物質が混合させられる。
【0067】
図5に示すように、流路24,25,26が複数に分岐する形態であると、様々な検査手法を用いることが出来る。例えば前記上流側物質27,28を別々の試薬とし、予め、前記流路24,25を通って、前記流路が一つになる前記流路26の上流側収納室21,22寄りに図示しない反応室を設けておき、ここでまず上流側物質27,28を混合(反応)させた後、前記反応室から前記混合物を前記下流側収納室23内へ送り込む検査手法も考えられる。係る場合、前記流路24,25を構成する空間表面を親水処理しておき、前記流路24,25を前記上流側物質27,28が毛細管作用によって前記反応室まで導かれるようにしておくことがよい。一方、前記流路26を構成する空間表面は撥水面としておき、前記反応室で上流側物質27,28が適切に混合された後、送圧部16からの圧力によって、前記混合物を前記流路26を通って前記下流側収納室23内まで導かせる。
【0068】
また例えば上流側収納室21,22のうち、上流側収納室21に収納される物質27を試薬にし、前記下流側収納室23に収納される物質を検体にし、上流側収納室22に収納される物質28を洗浄液などにしておく。係る場合、前記上流側収納室21,22に上流側通路7,7を介して連結される送圧部16は別々に設けられ、まず前記上流側収納室21に収納された上流側物質(試薬)27を、前記上流側収納室21に連結された送圧部からの圧力によって前記下流側収納室23内まで導き、前記下流側収納室23内の検体と前記上流側物質(試薬)27とを反応させて所定の検査を行なった後、前記上流側収納室22に連結された送圧部を押圧して前記上流側収納室22に収納された上流側物質(洗浄液)28を前記下流側収納室23内まで導き、前記下流側収納室23内での試薬と検体との反応物を、前記上流側物質(洗浄液)28により、前記下流側通路8を通して外部へ流出させる。前記洗浄液28によって前記下流側収納室23は洗浄されるので、再び、前記下流側収納室23に検体を収納して所定の検査を行なうことが出来る。
【0069】
医療用や個人用として使用される検査用プレートは使い捨てのものであってもよいし、上記したように洗浄液を用いて数回、使用することが出来るものであってもよい。
【0070】
また図1ないし図4に示す実施形態では、前記送圧部9を押圧して前記送圧部9から発生した圧力によって前記上流側収納室5に収納された上流側物質11を前記下流側収納室6まで導く手法であったが、例えば図5のように、前記送圧部16を有するシート13にヒーター部(空気膨張手段)15を設けておき、前記ヒーター部15からの熱によって、前記上流側通路7,7と連結する送圧部17内の空気を膨張させて、前記送圧部17から空気が前記上流側収納室27,28へ送られる形態であってもよい。
【0071】
本発明は、特に前記下流側収納室6に下流側物質12を収納した後に、上流側収納室5に収納された上流側物質11が、何等かの手段(本発明で説明した具体的手段は送圧手段)によってしか下流側収納室6まで導かれないようにしておく形態のものに有用である。
【0072】
このため本発明では、例えば、プローブ(DNA断片)が表面に固着したビーズや、あるいは血液検査や尿検査のための試薬が予め、上流側物質11,27,28として前記上流側収納室5,21,22内に収納されており、医者や個人が、検査したいときに、医者や個人の任意のタイミングで、上流側物質11と下流側物質12とを下流側収納室6,23内で混合させることが可能になる。
【0073】
本発明の検査用プレートは、DNAチップやプロテインチップの簡便な診断用として使用でき、また反応、分離、分析等を一つのプレート上で行なうことが出来るμ−TAS(micro-total analysis system)や、Lab−on−chip、あるいはマイクロファクトリー用のプレートとして用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明における検査用プレートの外観部分斜視図、
【図2】図1に示す検査用プレートを真上から見たときの部分平面図、
【図3】図2に示すIII−III線から前記検査用プレートを膜厚方向へ切断し、前記切断面を矢印方向から見た部分断面図、
【図4】検査時の上流側物質の流れ方等を説明するための図2と同様の部分平面図を用いた説明図、
【図5】図1ないし図3とは異なる形態の本発明の検査用プレートの部分平面図、
【符号の説明】
【0075】
1、20 検査用プレート
2 プレート基板
3 蓋体
4、24、25、26 流路
5、21、22 上流側収納室
6、23 下流側収納室
7 上流側通路
8 下流側通路
9、17 送圧部
10 コーティング層
13 シート
11 上流側物質
12 下流側物質
15 ヒーター部
A、B、C、D、E 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレート基板と蓋体とを有し、
前記プレート基板には、流路と、前記流路の上流側に連結するとともに、上流側物質を収納するための上流側収納室と、前記流路の下流側に連結するとともに、下流側物質を収納するための下流側収納室とを有し、
前記上流側収納室から流路を通って前記下流側収納室まで至る空間を構成する表面のうち、少なくとも一部の表面が、撥水面となっていることを特徴とする検査用プレート。
【請求項2】
前記撥水面は、前記流路あるいは上流側収納室での空間を構成する一部の表面に形成されている請求項1記載の検査用プレート。
【請求項3】
前記撥水面は、前記上流側収納室から流路を通って前記下流側収納室まで至る空間を構成する表面の全てに形成されている請求項1または2に記載の検査用プレート。
【請求項4】
前記撥水面は、前記空間を構成する表面に撥水剤がコーティングされて形成されている請求項1ないし3のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項5】
前記プレート基板及び/または蓋体自体に撥水剤が含有されて、前記表面が撥水面として構成される請求項1ないし3のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項6】
前記撥水剤にはトリアジンチオールあるいはシラン系カップリング剤が含有されている請求項4または5に記載の検査用プレート。
【請求項7】
前記上流側収納室には送圧手段が連結されており、前記下流側収納室には、前記送圧手段からの圧力を外部へ抜くための通路が前記下流側収納室と連結されている請求項1ないし6のいずれかに記載の検査用プレート。
【請求項8】
前記通路の径は前記流路の径よりも小さい請求項7記載の検査用プレート。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載された検査用プレートを用いて、所定の検査を行なう検査方法において、
前記検査用プレートの前記上流側収納室内に、予め前記上流側物質を収納しておき、少なくとも前記上流側物質は、前記撥水面によりはじかれて、前記下流側収納室にまで至らない状態に保たれ、
次に前記下流側収納室内に、下流側物質を収納した後、所定の手段を用いて前記上流側物質を前記下流側収納室まで送って、前記下流側収納室内で、前記上流側物質と下流側物質とを混合させることを特徴とする検査方法。
【請求項10】
前記下流側物質を収納した後、前記送圧手段を用いて、前記上流側物質を前記下流側収納室まで送る請求項9記載の検査方法。
【請求項11】
前記上流側物質は試薬であり、下流側物質は検体である請求項9または10に記載の検査方法。
【請求項12】
上流側物質は表面にプローブが固着したビーズである請求項11記載の検査方法。
【請求項13】
前記ビーズの粒径は、前記下流側収納室に連結された通路の径よりも大きく、前記ビーズは、前記下流側収納室内に食い止められる請求項12記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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