説明

検査装置

【課題】シリンジへのシリコン塗布の検査のような被検査物の表面状態の違いを検査することができる検査装置を提供する。
【解決手段】被検査物10に所定形状の像10aが結像するように照明する照明手段12と、所定形状の像10aが結像された被検査物10を撮像する撮像手段14とが設けられている。撮像手段14により撮像された撮像画像に2次元FFT処理を行い、2次元FFT処理されたデータのスペクトル分散の程度に基づいて被検査物10の表面状態を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシリンジのような被検査物を検査する検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンジのような被検査物を検査する検査装置として、被検査物をカメラにより撮像し、その撮像した画像を2値化し、2値化した画像内に検査領域を設定し、その検査領域内の画像に基づいて被検査物であるシリンジの良否を判定するものが知られている。
【0003】
シリンジの傷やゴミの有無を検査する場合には、検査領域内における黒又は白の画素数をカウントして、その画素数が所定範囲内になっていない場合には、そのシリンジが不良であると判定する。
【0004】
その場合、複数種類のシリンジが混在しても、判定基準を選択することにより、シリンジの種類毎に適切な検査を行う技術が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、磨りガラスの濃さにばらつきがあるようなシリンジに対しても、2値化レベルを調整することにより、その良否を正しく判定することができる技術が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平11−183401号公報
【特許文献2】特開2004−344300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、注射器用のシリンジでは、内面に例えばシリコンを塗布し、投与時に薬液をスムーズに押し出せるようにしている。シリコンの塗布もれや塗布不足があると、薬液をスムーズに押し出すことができない。このため、シリンジにシリコンが塗布されているかを検査する必要がある。
【0007】
しかしながら、従来の検査装置では、シリンジの傷やゴミの有無を検出することはできるものの、シリンジにシリコンが塗布されているか否かのような被検査物の表面状態の違いを検査することはできなかった。
【0008】
本発明の目的は、シリンジへのシリコン塗布の検査のような被検査物の表面状態の違いを検査することができる検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、シリンジへのシリコン塗布検査のような被検査物の表面状態の違いを検査するために、被検査物に対してどのように照明すればよいか、また、照明された被検査物の撮像画像をどのように処理すれば判別できるかについて、様々な方法を試行した。
【0010】
本願発明者等が鋭意研究した結果、被検査物に外縁がはっきりした所定形状の像が結像するように照明すると、その所定形状の像の外縁が被検査物の表面状態に応じて変化することがわかった。シリンジにシリコンが塗布されていると所定形状の像の外縁がぼけるのに対し、シリンジにシリコンが塗布されていないと所定形状の像の外縁がはっきりする。
【0011】
このような像の外縁の相違は目視により判別できるものの、外縁を含む検査領域内における黒又は白の画素数をカウントする従来の検査方法では判別することができない。
【0012】
そこで、更に本願発明者等が鋭意研究した結果、撮像画像に2次元FFT処理を行えば、2次元FFT処理されたデータのスペクトル分散の程度により、シリンジへのシリコン塗布の有無による被検査物の表面状態の相違を検出できることがわかった。
【0013】
したがって、本発明による検査装置は、被検査物に所定形状の像が結像するように照明する照明手段と、所定形状の像が結像された被検査物を撮像する撮像手段と、撮像手段により撮像された撮像画像に2次元FFT処理を行う手段と、2次元FFT処理されたデータのスペクトル分散の程度に基づいて被検査物の表面状態を検出する検出手段とを有することを特徴とする。
【0014】
上述した検査装置において、被検査物はシリンジであり、検出手段により検出された被検査物の表面状態に基づいて、シリンジの内面にシリコンが塗布されているか否かを検出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
以上の通り、本発明によれば、被検査物に所定形状の像が結像するように照明し、所定形状の像が結像された被検査物を撮像し、撮像された撮像画像に2次元FFT処理を行い、2次元FFT処理されたデータのスペクトル分散の程度に基づいて被検査物の表面状態を検出するようにしたので、シリンジへのシリコン塗布の検査のような被検査物の表面状態の違いを検査することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施形態による検査装置について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による検査装置を示す斜視図である。図2は本実施形態による検査装置を示すブロック図である。
【0017】
本実施形態の検査装置は、図1に示すように、被検査物であるシリンジ10を中心として、一方の側に照明装置12が設けられ、他方の側に撮像装置14が設けられている。照明装置12は、水平方向に細長い矩形状の照射光12aをシリンジ10に照射する。シリンジ10は、図1に示すように、長手方向が垂直となるように載置されている。照明装置12の照射光12aからの細長い矩形状の照射光12aにより、シリンジ10の長手方向に直交する細長い矩形状の像10aがシリンジ10上に結像する。撮像装置14は、照明装置12により照明されて矩形状の像10aが結像したシリンジ10の全体を撮像する。
【0018】
撮像装置(カメラ)14により撮像された撮像画像は、図2に示すように、前処理部16により前処理がなされ、前処理された撮像画像は、検査処理部22により検査処理がなされ、所定の判定結果を得る。
【0019】
前処理部16は、撮像装置(カメラ)14により撮像されたグレースケールの多値撮像画像を2値化する2値化処理部18と、撮像画像から検査のために必要な検査領域を取得するマスク処理部20とから構成されている。
【0020】
検査処理部22は、2値化された撮像画像に2次元FFT(Fast Fourier Transform)処理を行って周波数成分を抽出する2次元FFT処理部24と、2次元FFT処理により周波数成分が抽出されたデータに対して2値化する2値化処理部26と、2値化された画像に基づいてシリンジ10の表面状態を判定して判定結果を出力する判定部28とから構成されている。
【0021】
本実施形態の検査装置の動作について図3を参照して説明する。図3は本実施形態の検査装置の各段階における撮像画像を示す図である。
【0022】
撮像装置(カメラ)14により被検査物であるシリンジ10を撮像すると、図3(a)に示すように、中央にシリンジ10が映し出された撮像画像を取得する。この撮像画像には、中央にシリンジ10が撮像され、シリンジ10の像の中央には水平方向で細長い矩形状の照明光の像10aが結像している。
【0023】
この撮像画像を2値化処理部18において2値化した後、マスク処理部20においてマスク処理を行う。図3(b)に示すように、2値化された撮像画像中のシリンジ10の細長い矩形状の像10aを含むようなマスク20aを予め用意しておき、そのマスク20a内の画像のみを切り出す。マスク20aにより切り出された撮像画像を図3(c)に示す。
【0024】
なお、図3(a)、(b)において像10aにハッチングを施したが、実際の撮像画像では、図3(c)に示すように、ハッチングされた像10aの部分のみが明るく他は暗くなっている。
【0025】
次に、マスク処理された撮像画像(図3(c))に対して、2次元FFT処理部24により2次元FFT処理を実行すると、この撮像画像の周波数成分が抽出されたデータが得られる。周波数成分が抽出されたデータを所定値により2値化すると、図3(d)に示すように、2値化された撮像FFTデータが得られる。この撮像FFTデータは、撮像画像のスペクトル分散の程度を示すものである。
【0026】
図3(d)に示す撮像FFTデータは、縦軸が水平方向の周波数成分、横軸が垂直方向の周波数成分を表しており、黒点が周波数成分の有無を表している。黒点の位置により周波数成分が高い低いを表している。黒点の位置が中心に近ければ近いほど周波数成分が低く、中心から離れれば離れるほど周波数成分が高くなる、
図3(d)に示す撮像FFTデータは、その中央付近でスペクトル分散の程度が大きく、周囲になるほどスペクトル分散の程度が小さくなる。撮像FFTデータの2値化された黒点は、中央に集中し、その周囲に一定程度で広がっている。
【0027】
本実施形態では、2値化された撮像FFTデータにおける所定領域内の黒点の数にもとづいてシリンジ10の表面状態を判定する。この判定について、図4及び図5に示す実験例を用いて説明する。
【0028】
なお、図4、図5では、図3とは異なり、細長い矩形形状の像の長手方向が図の上下方向となっている。図4、図5に示す撮像FFTデータは、縦軸が垂直方向の周波数成分、横軸が水平方向の周波数成分を表しており、黒点が周波数成分の有無を表している。
【0029】
図4(a1)は、シリンジ10にシリコンが塗布された良品の撮像画像である。図4(a2)は、図4(a1)の撮像画像に対して2次元FFT処理を行った後、所定値により2値化された撮像FFTデータである。
【0030】
図4(b1)は、シリンジ10にシリコンが塗布された他の良品の撮像画像である。図4(b2)は、図4(b1)の撮像画像に対して2次元FFT処理を行った後、所定値により2値化された撮像FFTデータである。
【0031】
図5(a1)は、シリンジ10にシリコンが塗布されていない不良品の撮像画像である。図5(a2)は、図5(a1)の撮像画像に対して2次元FFT処理を行った後、所定値により2値化された撮像FFTデータである。
【0032】
図5(b1)は、シリンジ10にシリコンが塗布されていない他の良品の撮像画像である。図5(b2)は、図5(b1)の撮像画像に対して2次元FFT処理を行った後、所定値により2値化された撮像FFTデータである。
【0033】
図4(a1)、(b1)と、図5(a1)、(b1)を比較すればわかるように、シリンジ10にシリコンが塗布されている良品の場合(図4(a1)、(b1))には、撮像画像中の所定形状の像10aの外縁がぼけているのに対し、シリンジ10にシリコンが塗布されていない不良品の場合(図5(a1)、(b1))には、撮像画像中の所定形状の像10aの外縁がはっきりしている。
【0034】
そのため、良品である図4(a1)、(b1)の撮像画像に対する撮像FFTデータ(図4(a2)、(b2))は、多数の黒点が中央に集中し、その周囲にも大きく広がっているパターンとなるのに対し、不良品である図5(a1)、(b1)の撮像画像に対する撮像FFTデータ(図5(a2)、(b2))は、黒点が中央に集中しているもののその数は少なく、その周囲にも大きく広がっていないパターンとなる。
【0035】
したがって、撮像FFTデータの中心から所定距離以内の領域の黒点をカウントすると、シリンジ10にシリコンが塗布されているものの方が、シリンジ10にシリコンが塗布されていないものよりも、黒点のカウント値が大きくなる。このカウント値を所定のしきい値と比較して、所定のしきい値よりも大きい場合には、判定部28により、シリコンが塗布されたシリンジ10の良品と判定し、所定のしきい値よりも小さい場合には、判定部28により、シリコンが塗布されていないシリンジ10の不良品と判定する。
【0036】
このように本実施形態によれば、シリンジに矩形形状の像が結像するように照明し、矩形形状の像が結像されたシリンジを撮像し、撮像画像に2次元FFT処理を行い、2次元FFT処理されたデータのスペクトル分散の程度に基づいてシリンジの表面状態を検出するようにしたので、シリンジへのシリコン塗布の有無を確実に検査することができる。
【0037】
次に、本実施形態の検査装置を、シリンジの生産ラインに設ける場合の構成について、図6及び図7を用いて説明する。図6はシリンジの生産ラインの概要を示す図であり、図7は生産ラインに設置された検査装置を示す図である。
【0038】
生産ラインにおいては、シリンジ10は、図6に示すように、その先端部を上方に向けた状態でホルダ(図示せず)に収容されており、ホルダに収容された状態でコンベヤ30からスターホイール32を介して回転テーブル34に搬入される。搬入されたシリンジ10は、回転テーブル34の回転に同期して移動している間にシリコン塗布装置(図示せず)によりシリンジ10の内面にシリコンが塗布される。回転テーブル34の搬出側には、シリコン塗布の有無を検査するために本実施形態の検査装置が設置されている。
【0039】
本実施形態の検査装置として、照明装置12と撮像装置14が、回転テーブル34により移動するシリンジ10を挟んで設けられている。回転テーブル34によるシリンジ10の移動に同期して、照明装置12はシリンジ10を照明し、撮像装置14はシリンジ10を撮像する。
【0040】
回転テーブル34を移動するシリンジ10は、スターホイール36を介してコンベヤ38に搬出される。
【0041】
シリンジの生産ラインでは、シリンジ10の内面にシリコンを塗布するため、雰囲気中にシリコンの微粒子が飛散し、そのままでは、飛散したシリコン微粒子が、撮像装置(カメラ)14のレンズに付着してしまい、検査に支障をきたすことがある。このことを防止するために、本実施形態では、図7に示すように、撮像装置(カメラ)14をカメラボックス40に収納する。このカメラボックス40には、撮像用窓40aと空気吸入口40bが設けられ、撮像用窓40aには透明なレンズキャップ42が設けられている。検査中は、空気吸入口42bから常にきれいな空気を外部から注入し続ける。これにより、カメラボックス40内に、図7に示すように、空気吸入口40bから撮像用窓40aとレンズキャップ42間を流れる空気の流れが発生し、撮像装置(カメラ)14前面のレンズの部分には常にきれいな空気が流れるため、生産ラインの雰囲気中に飛散しているシリコンがレンズに付着するのを防止することができる。
【0042】
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0043】
例えば、上記実施形態では、シリンジに結像する細長い矩形形状の像の方向をシリンジの長手方向に直交するようしたが、シリンジの長手方向と平行な方向でも、斜めの方向でもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、シリンジに細長い矩形形状の像を結像したが、細長い矩形形状である必要はなく、少なくとも1辺の外縁がある像であればよい。また、細長い矩形形状の像が1本である必要はなく、多数の細長い矩形形状の像であってもよい。より感度よく検出することができる。
【0045】
また、上記実施形態では、被検査物であるシリンジのシリコンを塗布したか否かを判定する場合に本発明を適用したが、被検査物の表面状態を検査するものであれば、他の検査にも本発明を適用することができる。
【0046】
また、上記実施形態では、樹脂製のシリンジに本発明を適用したが、樹脂、ガラスのような透明又は半透明の被検査物に対して塗布されている透明な塗布剤の有無を検知するのにも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態による検査装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態による検査装置を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態による検査装置の各段階における撮像画像を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態による検査装置の撮像画像の具体例を示す図(その1)である。
【図5】本発明の一実施形態による検査装置の撮像画像の具体例を示す図(その1)である。
【図6】シリンジの生産ラインの概要を示す図である。
【図7】シリンジの生産ラインに設置された検査装置を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10…シリンジ
10a…矩形状の像
12…照明装置
12a…矩形状の照射光
14…撮像装置(カメラ)
16…前処理部
18…2値化処理部
20…マスク処理部
20a…マスク
22…検査処理部
24…2次元FFT処理部
26…2値化処理部
28…判定部
30…コンベヤ
32…スターホイール
34…回転テーブル
36…スターホイール
38…コンベヤ
40…カメラボックス
40a…撮像用窓
40b…空気吸入口
42…レンズキャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物に所定形状の像が結像するように照明する照明手段と、
前記所定形状の像が結像された前記被検査物を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段により撮像された撮像画像に2次元FFT処理を行う手段と、
2次元FFT処理されたデータのスペクトル分散の程度に基づいて前記被検査物の表面状態を検出する検出手段と
を有することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1記載の検査装置において、
前記被検査物はシリンジであり、
前記検出手段により検出された前記被検査物の表面状態に基づいて、前記シリンジの内面にシリコンが塗布されているか否かを検出する
ことを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項2記載の検査装置において、
前記所定形状の像は、前記シリンジの長手方向に直交する細長い矩形状の像である
ことを特徴とする検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−343138(P2006−343138A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167035(P2005−167035)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(505213699)
【出願人】(505213242)株式会社MAXLink (1)
【出願人】(505212418)株式会社クリップス (1)
【Fターム(参考)】