説明

検知体、および検知方法

【課題】視認性が著しく優れ、判り易く段階的に表示することができ、且つ家庭向け用途に最適なコンパクト形状で経済性に優れた検知体、および検知方法を提供すること。
【解決手段】反応の進行に伴って色変化する感応部と、感応部の色変化前の色調、表示上限色変化後の色調、及びこれら色調間の色変化途中の少なくとも1つ以上の色調を表す比色部とを有し、感応部に隣接して比色部を色変化前から表示上限色変化後までの順に配列してなる構造であることを特徴とする検知体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境の状態などを色変化によって視覚的に判定するための検知体および検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人が生活を営んでいる環境には、常に何らかのニオイが存在しており、無臭の空間は無いといっても過言ではない。生活環境に存在するニオイは、例えば家庭では食品から発生するニオイ、生ゴミから発生するニオイ、トイレに漂うニオイ、下駄箱から漂うニオイ、タバコのニオイなど実に様々なニオイが存在する。そして、人体もニオイの発生源の一つであり、ニオイが及ぶ範囲は広くはないものの、体臭、汗臭、口臭などが発生する。
ニオイとは、一般に、複数の揮発性化学物質からなり、それらを臭気成分と呼んでいる。ニオイの臭気成分は、発生源や発生状況により成分物質や成分割合は異なるものであり、一概に特定できるものではない。しかし、一部の臭気については、臭気とその臭気成分が、主要成分ではあるが関係付けを認められているものもある。例えば、(社)繊維評価技術協議会で設定された消臭加工繊維製品マーク制度では、幾つかの臭気に対して、それぞれの悪臭成分を指定している。次に、消臭加工繊維製品マーク制度で設定された臭気と、その指標となる臭気成分を列挙する。
汗臭:アンモニア、酢酸、イソ吉草酸
加齢臭:アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナール
排泄臭:アンモニア、酢酸、硫化水素、メチルメルカプタン、インドール
タバコ臭:アンモニア、酢酸、硫化水素、アセトアルデヒド、ピリジン
生ゴミ臭:アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン
【0003】
また、嗅覚で感じることはないが、炭酸ガスや酸素ガスも、環境や密閉された空間内の状態を示す指標物質となり得る。例えば、室内の換気状態については、建築基準法や建築物における衛生的環境の確保に関する法律により、炭酸ガス濃度が室内空気汚染の指標として定められている。一方、食品包装分野では、食品中の脂質酸化や微生物の増殖による食品劣化を防止するために、ガス置換包装技術、真空包装技術、脱酸素包装技術などが広く利用されている。これら包装技術は、密閉包装体内をできる限り酸素濃度が低い状態にして食品を保つ技術であるが、包装が適正になされているか、あるいは包装後にもリークせずに適正な状態を保っているかを密閉包装体内の酸素濃度を指標として検査している。
環境の状態を知ろうとする時、上記のような環境に存在するニオイの臭気成分や、炭酸ガス、酸素ガスを指標として、ガス濃度計などの計測機器を用いることにより、定量的に正確に測定することは可能である。ところが、家庭で生活環境を知ろうとする場合には、機器測定の手法は、機器自体が高価で、且つ取扱いに専門的知識を必要とすることから不適切であり、計測機器を用いずに簡便に環境の状態などを判定する手法が望まれている。
【0004】
計測機器を用いずに、簡便に環境の状態などを判定する手法としては、例えば特許文献1には環境判定インジケータが、特許文献2にはガス検知装置などが開示されている。特許文献1で開示されている環境判定インジケータは、環境条件の変化によって変色する変色層を部分的に設けて報知文字パターンを形成し、変色層の変色により報知文字パターンを視認不能状態と視認可能状態の何れか一方の状態から他方の状態に変化させるようにしたものであり、温度、湿度、紫外線照射量、アンモニア濃度、pH値等の環境条件の変化の判定に用いるものである。該公報によれば、比色見本を必要とせず、色の比較による判断を行うことなく、環境条件の変化を報知文字パターンとして表示し得るとしている。また、特許文献2で開示されているガス検知装置は、変色性ガス検知シートが装填された容器を開口部から底面部にわたって断面積が次第に小さくなる形状とし、更にガス検知シートの変色層がストライプ状に形成したものである。該公報によれば、ガス濃度、ガス露出時間、CT値(ガス濃度×暴露時間)等に応じて各変色層が段階的に変色し検知することができるとしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された環境判定インジケータでは、環境条件の変化が大きくない場合には、視認不能状態と視認可能状態の何れか一方の状態から他方の状態に完全には変化せずに、報知文字パターンが出現しかかった、或いは消失しかかった不明瞭な表示となって環境条件の変化の判定に迷うという、本来は判り易く表示するための工夫が逆に判り難くなっている致命的な問題点があった。また、特許文献2に開示されたガス検知装置では、開口部から底面部にわたって段階的に変色が起るようにするために、ガス拡散を起こすガス通路用空間と断面積の変化を必要とし、比較的広い開口部断面積と底面部までの長いガス通路用空間からなる大きな容器となり、製造コストが著しく高く高価になる問題点、家庭向け用途としては保管や携帯が不便である問題点など幾多の問題点があった。
【特許文献1】特開2001−281002号公報
【特許文献2】特開2002−303617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、視認性が著しく優れており、環境の状態などを判り易く段階的に表示することができ、且つ家庭向け用途に最適なコンパクト形状で経済性に優れた検知体、および検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は下記のとおりである。
(1)反応の進行に伴って色変化する感応部と、感応部の色変化前の色調、表示上限色変化後の色調、及びこれら色調間の色変化途中の少なくとも1つ以上の色調を表す比色部とを有し、感応部に隣接して比色部を色変化前から表示上限色変化後までの順に配列してなる構造であることを特徴とする検知体。
(2)(1)に記載の検知体を用いて、該検知体が置かれた環境に存在する被検物質によって色変化した感応部の色調と比色部の色調を比較して環境に存在する被検物質の濃度及び/または暴露時間を検知する方法。
(3)(2)に記載の検知方法により、食品から発生する腐敗したニオイの臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって食品品質を判定する方法。
(4)(2)に記載の検知方法により、冷蔵庫内のニオイの臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって冷蔵庫内のニオイの程度を判定する方法。
(5)(2)に記載の検知方法により、生ゴミ臭の臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって生ゴミの腐敗の程度を判定する方法。
(6)(2)に記載の検知方法により、タバコ臭の臭気成分であるアンモニアを被験物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって口臭、衣類などへの付着タバコ臭気、および室内環境タバコ臭気の程度を判定する方法。
(7)(2)に記載の検知方法により、排泄臭の臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によってトイレ室内環境臭気、リネン付着臭気、および堆糞肥料臭気の程度を判定する方法。
(8)(2)に記載の検知方法により、汗臭の臭気成分であるアンモニアを被験物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって体臭、および衣類付着臭気の程度を判定する方法。
(9)(2)に記載の検知方法により、口臭の臭気成分であるアンモニアを被験物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって呼気臭気の程度を判定する方法。
(10)(2)に記載の検知方法により、口臭の臭気成分である揮発性硫黄化合物を被験物質として、揮発性硫黄化合物の濃度または、濃度および暴露時間の指示によって呼気臭気の程度を判定する方法。
(11)炭酸ガスを被検物質としてpH変化により感応する固形感応部を用いることを特徴とする(2)に記載の検知方法。
(12)(11)に記載の検知方法により、室内環境中の炭酸ガスを被検物質として、炭酸ガスの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって室内空気換気の程度を判定する方法。
(13)(1)に記載の検知体を一定濃度の被検物質が存在する環境に置き、被検物質によって色変化した感応部の色調と比色部の色調を比較することによって、検知体が環境に置かれてからの時間と温度の積算の程度を検知する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の検知体、および検知方法は、視認性が著しく優れており、環境の状態などを判り易く段階的に表示することができ、且つ家庭向け用途に最適なコンパクト形状で経済性に優れる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明について、特にその好ましい形態を中心に、以下具体的に説明する。本発明の検知体は、反応の進行に伴って色変化する感応部と、該感応部の色変化前の色調、表示上限色変化後の色調、及びこれら色調間の色変化途中の少なくとも1つ以上の色調を表す比色部とを有し、感応部に隣接して比色部を色変化前から表示上限色変化後までの順に配列してなる構造である。尚、本発明でいう感応とは、検知体の感応部が反応物質および被検物質との反応の進行に伴って色変化することをさす。本発明では、反応物質とは感応部に色変化をおこさせる物質をさし、なかでも環境に存在する気体状の反応物質を被検物質と定義している。反応物質としては、環境に存在する気体状の物質以外に液体や固体の物質も含み、例えば感応部に所定量の液体物質を意図的に供与して反応させる場合や、感応部に固体物質を意図的に接触させて昇華や融解により反応を進行させる場合も含まれる。
【0010】
また、被検物質とは、環境の状態などを判定するための環境に存在する気体状の物質であり、例えば酸素や炭酸ガス、臭気成分などをさす。本発明における感応部とは、反応性色素、或いは反応により色変化する化合物(以下、これらをまとめて反応性色素等と略記する)を含有する検知体の部分をいい、色変化とは、反応性色素等が反応による構造変化に応じて可視光吸収スペクトルが変化し、該感応部の色調が変化することをいう。該感応部は反応の進行に伴って色変化するが、この色調の変化は検知体を使用する前の色である「色変化前の色調」から、任意に設定した環境などの検知条件における感応部の色変化した後の色である「表示上限色変化後の色調」まで漸次起こるものである。また、本発明における比色部とは、感応部が反応する環境条件下においても色変化が起こらず、感応部の色変化前の色調、表示上限色変化後の色調、及びこれら色調間の色変化途中の少なくとも1つ以上の色調を表し、感応部の色調と比色するための検知体の部分をいう。尚、本発明の検知体では、上記比色部の色調は、判定視認性と作製経済性の観点から、色変化前の色調から表示上限色変化後の色調まで含めて4〜6段階設けることが特に好ましい。
【0011】
本発明の最大の特徴は、色変化前の色調と表示上限色変化後の色調の他に、感応部の色変化過程における途中の色調も比色部とし、且つ感応部の色変化過程の順に配列して、感応部に隣接配置することにある。本発明が特許文献1の従来技術と最も相違するところは、環境の状態などを判定するために、該従来技術は感応部の最終色変化のみをもって表示するものであるのに対し、本発明は感応部の色変化過程の始めから終りまで途中の色調も含めて利用し表示するものである。すなわち、本発明と該従来技術とは、感応部色変化の利用の仕方が異なるものである。これにより、該従来技術では報知文字パターンが不明瞭な表示となる場合があったのに対し、本発明では視認性が著しく優れて判り易く段階的に表示することができる利点がある。
【0012】
また、本発明が特許文献2の従来技術と最も相違するところは、環境の状態などを段階的に判定するために、該従来技術はガス拡散を起こすガス通路用空間とストライプ状の感応部を形成して、ストライプ状の複数の感応部がガス拡散に伴って開口部側から順次色変化するものであるのに対し、本発明は該従来技術のようなガス拡散を起こすためのガス通路用空間を必要とせず、感応部自体が反応の進行に伴って漸次色変化するものである。すなわち、本発明と該従来技術とは、感応部の色変化の仕方が異なるものである。これにより、該従来技術では家庭向け用途には不適切な大きな形状となったのに対し、本発明では家庭向け用途に最適なコンパクト形状とすることができる。
【0013】
本発明の検知体では、反応の進行に伴って漸次色変化し判り易く段階的に表示するための手段として、感応部に用いる反応の反応速度を制御することが好ましい。反応速度の制御の方法としては、用いる反応物質の組成量、反応性色素等などの量や、反応に触媒や酵素を使用する場合はそれらの量を調整する方法などが挙げられる。具体的には、例えば感応部に含有させる反応性色素等の量は、少なくすれば表示上限色変化までが比較的希薄な被検物質濃度でも達し得るが、色自体は薄く色変化も小さいものとなる。一方、該量を多くすれば表示上限色変化までは比較的濃厚な被検物質濃度でなければ達し得ないが、色自体は濃く色変化は大きいものとなる。本発明では、検知体の用途に応じて、この様な反応性色素等の量を適宜調整して使用する。また、反応に触媒や酵素を使用する場合には、触媒や酵素の量を少なくすれば反応速度を遅くすることができ、表示上限色変化までは比較的濃厚な被検物質濃度でなければ達し得ない。一方、該量を多くすれば反応速度を早くすることができ、表示上限色変化までが比較的希薄な被検物質濃度でも達し得る。或いは、バインダを利用した固形感応部を使用する場合は、バインダの含有量や、バインダ自体の被検物質を透過させる能力を調整する方法、または感応部をオーバーコート層や保護フィルムで被覆する場合は、それら自体で被検物質の透過を調整する方法などが挙げられる。
【0014】
本発明の環境状態などを判定する方法は、上記本発明の検知体を用いて、使用を開始してから色変化した感応部の色調と比色部の色調とを比較して、指示される感応部の色変化の進行状況から環境の状態などを判定する方法である。本方法の最大の特徴は、置かれた環境の状態、被検物質の濃度や接触時間、及び環境の温度などによって検知体の感応部が異なる反応の進行状況となり、その色変化の状況を、色変化前の色調、表示上限色変化後の色調、及びこれら色調間の色変化途中の少なくとも1つ以上の色調が色変化前の色調から表示上限色変化後の色調までの順に配列してある感応部に隣接した比色部と比較することで、環境の状態などの判定を迷うことなく明確に行うことができるものである。
【0015】
本発明において検知する対象の被検物質としては、知ろうとする環境に存在する物質のうちから何れか一つを、感応部に用いる反応系を勘案して適宜選んだものでよい。環境におけるニオイを検知しようとする場合、例えば前述した消臭加工繊維製品マーク制度で設定された臭気では、その指標となる臭気成分から何れか一つを適宜選べばよい。具体的には、該制度で設定された臭気である生ゴミ臭や排泄臭などを検知しようとする場合には、アンモニアなどである。また、例えば人体から発生するニオイとして口臭の程度を知ろうとする場合、口臭が発生する口腔内を環境と見なし、口腔内や口腔から排出される呼気中に存在する物質のうちから何れか一つを適宜選べばよい。具体的には、「渋谷耕司、生理的口臭の成分と由来に関する研究、口腔衛生学会誌、Vol.51、No.5、p.778−792(2001)」に臭気成分として記述されているアンモニアや硫化水素などである。
【0016】
本発明において検知する対象の被検物質として、更に例示すると、室内環境の状態を知ろうとする場合は被検物質には室内空気中の炭酸ガスを選べばよい。密閉された空間内の状態を知ろうとする場合には、例えばガス置換包装体内、真空包装体内、脱酸素包装体内を環境と見なし、これら包装の目的を勘案して適宜選べばよく、具体的には酸素や炭酸ガスなどである。これら環境の状態とは異なり、一定温度における経過時間の程度、または時間と温度の積算の程度を知ろうとする場合には、感応部の反応として、温度の影響により反応速度が大きく変化する反応系、或いは逆に反応速度が温度の影響を受け難い反応系などの反応系を用いて、密閉した空間内に存在する物質や、多段反応系を用いて反応生成物を被検物質に選べばよいし、空気中の炭酸ガスや酸素と反応する反応系を用いて炭酸ガスや酸素を被検物質に選べばよい。この場合、検知体は、所定濃度の被検物質を意図的に付与した密閉環境中に置くか、あるいは換気状態の良い空気環境中に置いて空気中炭酸ガスの300ppmや空気中酸素の21%など概ね一定濃度となる物質を被検物質として選定することにより、意図的に物質濃度の変更操作を行わない限りは、概ね安定した経過時間の程度、または時間と温度の積算の程度を指示することができる。
【0017】
本発明において感応部に用いられる反応としては、被検物質を反応物質の一つとして、且つ感応部が接する被検物質の濃度および暴露時間によって反応の進行が変化する反応系であれば何れの反応を用いてもよい。例えば、アンモニア、あるいはトリメチルアミンなどのアミン類などの窒素系塩基性化合物を被検物質とする場合には、該化合物が反応系に含有される水分に吸収水和され、生じた水酸化物イオンによるpH変化で反応性色素等として用いるブロモチモールブルー等のpH指示薬が色変化する多段反応系を選べばよいし、硫化水素やメチルメルカプタンなどの硫黄系化合物を被検物質とする場合には、反応性色素等として用いる酢酸鉛と反応して硫化鉛を生成する一段反応系を選べばよい。これらのように、本発明の感応部に用いられる反応としては、一段反応系でも、複数の反応から構成される多段反応系でも何れの反応を用いてもよい。
【0018】
本発明において感応部に用いられる反応として、更に例示すると、アンモニアを被検物質とする場合、上記の他の反応としては、例えばテトラビニルテトラベンゾ[b,f,j,n][1,5,9,13]テトラアザシクロヘキサデシンパラジウム等の様な遷移金属錯体にアンモニアがアンミン配位子として結合することで色変化する配位反応、硫化水素を被検物質とする場合、上記の他の反応としては、例えばプロトポルフィリンの鉄錯体を主構成としたミオグロビンに硫化水素が配位子として結合することで色変化する配位反応、酢酸等の有機酸を被検物質とする場合には、有機酸が反応系に含有される水分に吸収水和され、解離した水素イオンによるpH変化で反応性色素等として用いるフェノールレッド等のpH指示薬が色変化する多段反応系、アセトアルデヒド等のアルデヒド類を被検物質とする場合には、例えばリン酸ヒドロキシルアミンの存在下で4−フェニルアゾジフェニルアミン等と反応して色変化する反応系、エチレンを被検物質とする場合には、例えば硫酸パラジウムや亜硫酸パラジウムナトリウムの存在下でモリブデン酸アンモニウム等と反応してモリブデンブルーを生成し色変化する反応系、炭酸ガスを被検物質とする場合には、反応系に含有される水分に吸収され、生じた水素イオンによるpH変化で反応性色素等として用いるクリスタルバイオレット等のpH指示薬が色変化する多段反応系(この反応系では例えばヒドラジン等を炭酸ガスの補足剤として添加してもよい)、酸素を被検物質とする場合には、反応性色素等として例えばメチレンブルーやインジゴカルミン等の酸化還元指示薬を用いて、アルカリ性還元糖で還元しロイコ状態とした後に酸素によって酸化させて色変化する反応系、酸素を被検物質とする場合、上記の他の反応としは、例えばラッカーゼ、カテコールオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ等の酸化還元酵素を用いて、反応性色素等として用いる2,2’−アジノビス(3−エチルベンゾチアゾリン−6−スルホン酸)ジアンモニウム塩等の酸化還元指示薬を変色性基質として酸化させて色変化する一段反応系、また例えばグルコースオキシダーゼを用いてグルコースを酸素で酸化し、その際に生成する過酸化水素によってペルオキシダーゼを用いてN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)アニリン等の改良トリンダー試薬類を変色性基質として4−アミノアンチピリンとカップリングさせて色変化する多段反応系、エタノールを被検物質とする場合には、アルコールオキシダーゼを用いて酸素で酸化し、そのその際に生成する過酸化水素によってペルオキシダーゼを用いて反応性色素等として用いるo−トルイジンや4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ジフェニル−(2,7−ヒドロキシ−1−ナフチル)メタン等の酸化還元指示薬を変色性基質として酸化させて色変化する多段反応系等、公知既存の反応を選べばよい。
【0019】
また、本発明の応用例として、口腔内の清浄状態を知ろうとする場合に、上記の反応性色素等としてpH指示薬を用いる反応の検知体をキャップ内側に設けたスクリューキャップ付き小型サンプル瓶を用意し、これに口腔内の唾液を採取し、更に所定の尿素水を加えて密閉し、唾液中にふくまれる口腔内細菌のウレアーゼ活性により発生するアンモニアを被検物質として、反応系に含有される水分に吸収水和され、生じた水酸化物イオンによるpH変化で反応性色素等として用いるブロモフェノールブルー等のpH指示薬が色変化する多段反応系を選べばよい。
本発明によると、検知体として、小サイズ薄片の基材、例えば紙片、プラスチックのフィルム片やシート片などに、感応部と該感応部に隣接する比色部を配列配置することにより、家庭向け用途に最適なコンパクト形状とすることが可能である。本発明の検知体で用いることができる基材としては、例えば濾紙、上質紙、コート紙などの紙類、アクリル樹脂、アミノ樹脂、塩素系樹脂、ナイロン、フッ素樹脂、ポリウレタン、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレンなどのプラスチックのフィルムやシート、およびそれらプラスチックの不織布や多孔質成形品、合成繊維、半合成繊維、天然繊維からなる織布、アルミ箔などの金属箔などが挙げられ、プラスチックのフィルムやシートが特に望ましい。
【0020】
本発明の検知体を作製するには、上記基材に感応部と比色部を形成するが、先ず感応部の形成について述べる。本発明の検知体の感応部は、上述した反応に必要な反応物を含んでなるものであるが、反応に必要な反応物を含む反応液を、例えば濾紙、不織布、多孔質成形品、織布などの液吸収体に吸収させたもの、或いはそれを乾燥させたものでもよい。また、例えばプラスチックのフィルムやシートなどの実質的に液体を吸収しない液非吸収体上に、反応液を部分的に滴下したり、塗布したりした後に乾燥させたものでもよい。これらのうち、より望ましくは、反応液を乾燥させたものである。本発明の検知体の感応部として最も望ましい形態は、感応部の経時的な性能変化や外力による剥脱を防ぐために、少なくとも上述した反応性色素等とバインダを含む反応液を調製し、該反応液をインク液として滴下、塗布、および印刷したのち乾燥させた固形のものである。
【0021】
本発明でいう反応性色素等とは、上述したとおり反応性色素、或いは反応により色変化する化合物をさすが、反応性色素としては、pH変化や酸化還元などの反応による構造変化に起因して色変化する色素、例えばpH指示薬や酸化還元指示薬などを用いることができる。pH指示薬としては、「化学大辞典10、p.63−65、共立出版(1964)」に記載の酸塩基指示薬などから検知体の用途に応じて適宜選べばよく、例えばクリスタルバイオレット、ブロモフェノールブルー、コンゴーレッド、ブロモクレゾールパープル、ブモチモールブルー、フェノールレッドなどを用いることができる。酸化還元指示薬としては、「化学大辞典3、p.902−903、共立出版(1963)」に記載の酸化還元指示薬などから検知体の用途に応じて適宜選べばよく、例えばフェノサフラニン、インジゴカルミン、メチレンブルー、トルイジンブルー、2,6−ジクロロフェノールインドフェノールなどを用いることができる。また、色変化する化合物としては、前記した感応部に用いられる反応に関する記載に例示した化合物などが挙げられる。
【0022】
本発明でいうバインダは、上述した反応性色素等などの反応の反応物、検知体の基材、検知体の用途などに応じて、公知のインキ用バインダ、その他の合成樹脂、天然樹脂誘導体、天然樹脂精製物から適宜選べばよい。インキ用バインダでは「相原次郎著、印刷インキ入門、p.28−41、印刷学会出版部(1984)」にビヒクルの樹脂成分として記載されているもの、例えばロジン、セラック、ロジン変性フェノール樹脂、ケトン樹脂、ブチラール樹脂、スチレン・マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、アミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタンなど、他の合成樹脂では例えばポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなど、天然樹脂誘導体では酢酸セルロースなどセルロースエステル類、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどアルキルセルロース類など、天然樹脂精製物ではゼラチン、寒天、アガロース、デンプン、アルギン酸ナトリウム、ローカストビーンガム、カラギーナンなどを用いることができる。
【0023】
本発明の検知体では、固形感応部とするためにバインダを使用する場合、感応部の反応の進行を制御するという観点でバインダを選定することが肝要である。この様な観点でバインダを選定するには、バインダ自体の特性である被検物質の透過能力や熱的性質を考慮すべきであり、更に感応部におけるバインダの使用量についても考慮すべきである。更に、検知体の用途についても考慮すべきであり、感応部の色変化を制御する目的で、例えば臭気成分のアンモニアを被検物質としてニオイの程度を判定するための用途ではpH指示薬とバインダの量比を適宜調整したり、酸素を被検物質としてガス置換などの包装体内のリークを判定するための用途ではバインダ自体の酸素透過度を適宜調整したり、空気中の酸素を被検物質として置かれた環境の温度と暴露時間により一定温度における経過時間の程度、または時間と温度の積算の程度を判定するための用途ではバインダ自体のガラス転移温度などを適宜調整するなどが挙げられる。具体的には、例えば反応性色素等とバインダの量比は、バインダの組成割合を多くすると反応の進行が抑制され、表示上限色変化までは比較的濃厚な被検物質濃度でなければ達し得ない。一方、バインダの組成割合を少なくすると反応の進行は抑制されずに、表示上限色変化まではより希薄な被検物質濃度でも達し得るようになる。例えばバインダ自体の被検物質の透過能力は、該透過能力が高いものと低いものを混合して使用すれば、それらの組成割合を調整することで反応の進行を制御できる。例えばガラス転移温度などバインダ自体の熱的性質は、その特性値の前後で被検物質の透過能力が激変することで反応の進行を制御するものである。この場合、ガラス転移点は、該値が高いものと低いものを混合して使用する、あるいは可塑剤を添加して使用すれば、それらの組成割合を調整することで反応の進行を制御できる。
【0024】
また、反応色素等とバインダを含む反応液とするための溶剤としては、上述した反応性色素等などの反応の反応物、上記バインダ、検知体の基材、検知体の用途などに応じて、公知の溶剤、その他の溶剤から選べばよく、「相原次郎著、印刷インキ入門、p.42−45、印刷学会出版部(1984)」に記載されているもの、例えばヘキサン、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、エチレングリコール、ジエチレングリコールブチルセロソルブアセテートなどや、揮発性有機化合物の発生を抑制したい場合には水などを用いることができ、これらを適宜混合しても使用することができる。
【0025】
本発明における反応液は、主として反応性色素等を含む反応液、あるいは更にバインダも含む反応液である。これら反応液の調製は、反応性色素等と、必要に応じてバインダを、上述した溶媒に溶解あるいは分散させて得られるものである。また、本発明における感応部は、主として反応性色素等を含むか、あるいは更にバインダも含むものであり、感応部の形成は上述したとおり反応液を液吸収体に吸収させたもの、それを乾燥させたもの、或いは液非吸収体上に反応液を塗布・乾燥させたものである。反応性色素等やバインダの反応液中の濃度、及び反応性色素等の固形感応部中の固形分濃度は、これらの溶解性や分散性、吸光度係数などの反応性色素等の発色特性、反応液の粘度、反応の進行し易さに関連する検知体の検知感度、検知体の用途などに応じて適宜選定される。具体的に例示すると、反応液中の反応性色素等の濃度が0.01〜40重量%、反応液中のバインダの濃度が0〜50重量%であれば、反応液の調製が行い易く望ましい。また、固形感応部中の反応性色素等の固形分濃度が、0.05〜70重量%であれば色変化を判定し易く且つ剥脱が起り難くなり望ましく、より望ましくは該濃度が0.1〜50重量%であればより色変化を判定し易く且つ感応部の強度が増す。
【0026】
尚、反応液に含ませる反応性色素等、バインダ、溶媒の他の物質としては、必要に応じて使用することになるが、例示すると油、可塑剤、ワックス、ドライヤ、分散剤、湿潤剤、増粘剤等の粘度調整剤、ゲル化剤、保湿剤、消泡剤、安定剤、保水剤、架橋剤、硬化剤、増量剤、吸湿剤、界面活性剤、顕色剤、防カビ剤、抗菌剤、pH調整剤、pHバッファー、触媒や酵素等の反応推進剤、ラジカル補足剤や還元剤等の反応調整剤などを適宜選定して用いることができる。
本発明の検知体の感応部は、上記の反応液を滴下、塗布、および印刷して形成するが、滴下、塗布、および印刷の方法としては、公知の何れの方法を用いてもよく、粘度などの反応液特性、液吸収性か非吸収性かなどの用いる基材の特性やサイズ、検知体の用途に応じて適宜選定すればよい。具体的に例示すると、滴下では例えばアプリケーターやディスペンサーなど、塗布では例えばバーコート、スプレーコート、刷毛塗りなど、印刷では例えば凸版印刷、平版印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷などの方法を用いることができる。更に、本発明では、感応部を固形とすることが望ましいが、反応液を固形とするための乾燥や固化の方法としては、公知の何れの方法を用いてもよく、反応性色素等などの反応の反応物、上記バインダ、検知体の基材、検知体の用途などに応じて適宜選定すればよい。具体的に例示すると、外部加熱乾燥、電磁波加熱乾燥、自然乾燥、外部加熱硬化、紫外線硬化、重合硬化、冷却固化、ゲル化、ゾル−ゲル固化などの方法を用いることができる。
【0027】
また、本発明の検知体では、感応部を機械的外力から保護する、液体浸漬から保護する、食品や皮膚との接触に対する安全衛生などの目的で、感応部をコーティング剤等でオーバーコートしたり、保護フィルムや気体透過液体不透過性膜などで被覆を行うことが望ましい。但し、オーバーコート層や保護フィルムなどで被覆する場合は、検知体を置いた環境に存在する被検物質の透過能力について、表示方法や用途などを考慮する必要がある。本発明の検知体に用いることができるオーバーコート層や保護フィルムなどとしては、公知の何れのものを用いても良く、使用する目的に応じて適宜選定すればよい。具体的に例示すると、オーバーコート層としては上述したバインダなどや保護フィルムとしては合成樹脂フィルムなどが挙げられ、例えば食品接触に対する安全衛生の目的では、セラックなどによるオーバーコートや、食品接触が認められたポリオレフィン、ポリスチレン、エチレン−ビニルアルコールコポリマーなどのフィルム被覆などである。
【0028】
次に、比色部の形成について述べる。本発明の検知体の比色部は、上述したとおり、感応部の色変化前の色調、表示上限色変化後の色調、及びこれら色調間の色変化途中の少なくとも1つ以上の色調を、感応部に隣接して色変化前から表示上限色変化後までの順に配列してなるものであり、特に環境の状態を判定する検知体の場合では、環境に存在する被検物質では実質的に色変化しないものである。尚、本発明の検知体では、上記比色部の色調は、判定視認性と作製経済性の観点から、色変化前の色調から表示上限色変化後の色調まで含めて4〜6段階設けることが特に好ましい。該比色部は、公知の顔料、塗料、インキなど色をつける色材から、反応性色素等の色調、感応部のバインダ、検知体の基材、検知体の用途などに応じて適宜選定すればよい。比色部の複数の色調を、感応部の色変化前から表示上限色変化後の色調に色合せするには、事前に被検物質の濃度や接触時間の影響、温度や湿度の影響などによる感応部色変化の色調を測定しておき、それに合せて比色部の色材の色調とすればよい。尚、色調の表示法と測定方法としては、マンセル色票やJIS色票と見比べて該色票の記号や数値により色指定する方法、JIS Z8701で規定しているXYZ系などのCIE表色法、色差計を用いたJIS Z8730で規定しているL表色法などが挙げられる。尚、色差計としては、例えば、日本電色工業社製ハンディ型簡易分光色差計NF333などがある。
【0029】
本発明でいう表示上限色変化後の色調とは、任意に設定した環境などの検知条件における感応部の色変化した後の色をさす。本発明の検知体は、感応部の色変化を隣接する比色部と比較することで判定するものであるが、その為に検知体の検知範囲は比色部の表示範囲に限られるものである。即ち、検知体感応部の色変化の範囲内であれば、検知体の作製者が任意の表示範囲を設定できるものである。この点は、同一の感応部を用いても、比色部の表示範囲を変更するだけで、判定できる検知範囲や検知精度を容易に変更することができ、従来技術にない本発明の全く新しい利点である。
本発明では、検知体の比色部を、感応部に隣接して、感応部の色変化前から表示上限色変化後までの順に配列することが特徴である。比色部の配列の仕方としては、感応部の色変化前と表示上限色変化後の色調を含む少なくとも3区分、より好ましくは4区分、最も好ましくは感応部の色変化前から表示上限色変化後まで連続的にグラデーションで色調表示するものである。尚、感応部に隣接するとは、検知体の同一面内に感応部と比色部を共に設けることをいうが、感応部と比色部との間隔は出来る限り少ない方が好ましく、より好ましくは感応部と比色部の全区分が共に接している場合である。感応部と比色部との間隔は、少ない方が検知体全体のサイズをコンパクトに出来ること、そして比色のし易さの観点から有利である。
【0030】
本発明の検知体は、上述したとおり、最も望ましい形態としては基材への印刷やコーティングによる固形感応部を持つことであるが、この場合は大版の基材に感応部と比色部を印刷して、その後小片にカットすることができるので、検知体の大量生産が可能になり、経済性に優れて安価に製造することができる。この点も、本発明の検知体が家庭向け用途に最適な特徴である。
本発明の検知体について、その具体例を図を用いて説明する。
図1は、本発明の検知体における感応部と比色部の配置の一例である。該図は、基材(5)に感応部(1)を形成し、感応部の色変化前の色調(2)、表示上限色変化後の色調(3)、及びこれら色調間の色変化途中の色調(4a、4b)を表す比色部を、感応部(1)に隣接して感応部の色変化前の色調(2)から表示上限色変化後の色調(3)までの順に配列してなる検知体の模式図である。
【0031】
図2は、本発明の検知体における感応部と比色部の配置の一例である。該図は、基材(5)に感応部(1)を形成し、感応部の色変化前の色調(2)、表示上限色変化後の色調(3)、及びこれら色調間の色変化途中の色調(4a、4b、4c、4d)を表す比色部を、感応部(1)に隣接して感応部の色変化前の色調(2)から表示上限色変化後の色調(3)までの順に配列してなる検知体の模式図である。
図3は、本発明の検知体における感応部と比色部の配置の一例である。該図は、基材(5)のほぼ全面に感応部(1)を形成し、感応部の色変化前の色調(2)、表示上限色変化後の色調(3)、及びこれら色調間の色変化途中の色調(4a、4b)を表す比色部を、感応部(1)上に、感応部の色変化前の色調(2)から表示上限色変化後の色調(3)までの順に配列してなる検知体の模式図である。
【0032】
図4は、口腔内の清浄状態を判定する本発明の検知方法に用いる器具の一例である。該図は、スクリュー瓶(7)に採取した唾液と尿素水の混合液(8)を入れ、透明キャップ(6)で封止した斜視図である。
図5は、図4の器具に本発明の検知体を設けた一例である。該図は、本発明の検知体を透明キャップ(6)の内側に設けている模式図である。該検知体は、透明キャップ(6)の外側から判定できるように、透明な基材(5)に感応部(1)を形成し、感応部の色変化前の色調(2)、表示上限色変化後の色調(3)、及びこれら色調間の色変化途中の色調(4a、4b)を表す比色部を、感応部(1)に隣接して感応部の色変化前の色調(2)から表示上限色変化後の色調(3)までの順に配列してなるものである。
【実施例】
【0033】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例は、特に提示のない場合は、温度23±3℃、相対湿度65±5%の環境条件で行ったものである。
[実施例1]
反応性色素等としてブロモフェノールブルー(和光純薬工業社製試薬特級)を用いて、エタノール(和光純薬工業社製試薬特級)90vol%と蒸留水(和光純薬工業社製)10vol%の混合溶媒に溶解して6.7g/Lのブロモフェノールブルー母液を調製した。バインダとしてポリビニルアルコール(和光純薬工業社製試薬特級)を用いて、蒸留水に溶解して5.0wt%のポリビニルアルコール母液を調製した。50mLスクリュー瓶に、ポリビニルアルコール母液6.0gとブロモフェノールブルー母液1.5mLを量り取った後、エタノール25.1mLを加えて均一溶液とした。これに撹拌子を入れて、マグネティックスターラーにて300rpmで撹拌しながら、pHメーター(メトラートレード社製セブンイージーS20キット2(商品名))にてpHを測定し、1mol/L水酸化ナトリウム溶液(和光純薬工業社製容量分析用)と1mol/L塩酸(和光純薬工業社製容量分析用)を用いてpH2.50に調整した。その後、50mLスクリュー瓶中の溶液が全量30.0gとなるように更に蒸留水を加えて均一溶液とし、pH指示薬とバインダを含むインク液を得た。
【0034】
上記インク液を用いて、ポリエステル製粘着シート(住友ベークライト社製プレートシール(商品名))の非粘着面に、直径12mmの円形内にインク液40μLを塗布し、その後40℃に設定した熱風循環式恒温槽中に30分間入れて乾燥させた。このようにして、基材上に感応部を24ヶ所の塗膜部分として形成した感応部色変化測定用サンプル5枚を得た。該感応部の色変化前の色調を、色差計(日本電飾工業社製ハンディ型簡易分光色差計NF333)を用いてL表色法で測定したところ、L=82.4、a=−6.0、b=76.8であった。
上記感応部色変化測定用サンプル5枚を用いて、アンモニアガス濃度0.5ppm、1ppm、2ppm、5ppm、10ppmに設定した環境内に各々置き、該感応部の色変化を経時観察した。尚、アンモニアガス濃度の測定はガス検知管(ガステック社製アンモニア用No.3L)を用いて行い、色変化の経時観察は色差計(日本電飾工業社製ハンディ型簡易分光色差計NF333)を用いてL表色法で色調を測定した。感応部の色変化の経時観察の結果、30分後の色調を表1に示す。
ポリエステル製粘着シートを一辺30mmの正方形に切り出し、これを基材として非粘着面に、直径12mmの円形内に上記インク液40μLを塗布し、感応部を1ヶ所の塗膜部分として形成した。次に、図1の様に、感応部に隣接して比色部を形成した。比色部は、サクラクレパス社製ポスターカラー「サクラアクリルガッシュ12色」(商品名)を用いて、色調を測定しつつ適宜混色して色調を調整し、それを塗布、乾燥して形成した。これら比色部の色調の測定値を表2に示す。
【0035】
この様にして作製した検知体を用いて、食品品質を判定する試験を行った。食品品質判定試験は、蓋付プラスチック容器(旭化成ライフ&リビング社製Ziplocコンテナー(商品名)角型中591mL)内で23℃の環境に10日間おいて腐敗させた精肉(豚バラ肉200g)、同種容器内で4℃に設定した冷蔵庫内に3日間(店舗で購入した際にラベルに記載してあった賞味期限内)おいた可食の精肉(豚バラ肉200g)、及び同種容器に入れた新鮮な精肉(豚バラ肉200g)を各々用意し、この容器内に検知体を入れて30分経過した後の感応部の色変化を目視観察して行った。その結果、腐敗させた精肉が入っている容器内に入れた検知体は、わずかに緑味掛かった青色に色変化しており、隣接する比色部と比較して、該容器内には2ppm超過5ppmに近いのアンモニアガスを含む腐敗したニオイがあることを示した。実際に、該容器内のニオイを嗅いで確認したところ、強い腐敗臭を感じた。一方、可食の精肉が入っている容器内に入れた検知体は、薄く緑味掛かった黄色に色変化しており、隣接する比色部と比較して、該容器内にはアンモニアガスが1ppm未満であり腐敗したニオイは少ないことを示した。実際に、該容器内のニオイを嗅いで確認したところ、腐敗臭は感じなかった。また、新鮮な精肉が入っている容器内に入れた検知体は、くすんだ黄色で実質的な色変化は確認されず、隣接する比色部と比較して、該容器内にはアンモニアガスを含む腐敗したニオイはほとんど無いことを示した。実際に、該容器内のニオイを嗅いで確認したところ、腐敗臭は全く感じなかった。これらの結果から、本発明の検知体は、食品から発生する腐敗したニオイの臭気成分であるアンモニアを被験物質として食品品質を判定することができ、その判定に際しては、段階的な比色部と比較することで判定の視認性が著しく優れていることが判る。
【0036】
[実施例2]
実施例1と同じ検知体を用いて、冷蔵庫内のニオイの程度を判定する試験を行った。冷蔵庫内ニオイ判定試験は、庫内のニオイを嗅いで悪臭を感じる一般家庭の冷蔵庫内に、検知体を入れて30分経過した後の感応部の色変化を目視観察して行った。その結果、該検知体は、黄味の強い黄緑色に色変化しており、隣接する比色部と比較して、該冷蔵庫内には1ppm未満だが幾分かのアンモニアガスを含むニオイがあることを示した。次に、該冷蔵庫内を、内容物を全て取り出し、洗剤を使用して清掃を行った。取り出した内容物は元に戻さず、庫内を空のままにして、上記と同様に検知体を入れて30分経過した後の感応部の色変化を目視観察して行った。その結果、該検知体は、くすんだ黄色で実質的な色変化は確認されず、隣接する比色部と比較して、清掃後の庫内にはアンモニアガスを含む腐敗したニオイはほとんど無いことを示した。実際に、清掃後の庫内のニオイを嗅いで確認したところ、悪臭は全く感じなかった。これらの結果から、本発明の検知体は、冷蔵庫内のニオイの臭気成分であるアンモニアを被験物質として該ニオイの程度を判定することができ、その判定に際しては、段階的な比色部と比較することで判定の視認性が著しく優れていることが判る。
【0037】
[実施例3]
実施例1と同様にして、基材(5)を直径12mm円形、感応部(1)を直径4mm円形、三角比色部(2、4a、4b)を一辺4mm正三角形、四角比色部(3)を一辺4mm正方形の図5様の検知体を作製した。該検知体は、片面に粘着層を有す基材(5)の非粘着面に感応部(1)と比色部(2、4a、4b、3)を形成し、基材(5)の粘着層面を貼って使用できるようにしたものである。
上記検知体を用いて、口腔内の清浄状態を判定する試験を行った。口腔内清浄状態判定試験は、キャップ付プラスチック製遠沈管(全長120mm×口径15mm、容量15mL)に濃度5mg/mLの尿素水3mLと被験者から採取した唾液1mLを量り取り混合した後、直ちに上記検知体をキャップ内側に貼ったキャップを閉じた。該遠沈管を23℃の環境で静置し、30分経過した後の感応部の色変化を目視観察して行った。試験に際し、被験者は24時間は歯磨きを行わずに、口腔内を不浄状態として唾液を採取して試験を行った。唾液採取時に被験者の口臭を嗅いで確認したところ、明らかに悪臭を感じた。その結果、該検知体は、青緑色に色変化しており、隣接する比色部と比較して、該遠沈管内には2ppm超過5ppm未満のアンモニアガスが発生していることを示した。次に、被験者は歯磨きを行って、口腔内を清浄状態として唾液を採取し、同様に試験をおこなった。歯磨き後の唾液採取時に被験者の口臭を嗅いで確認したところ、歯磨きペーストの芳香のみを感じ、悪臭は感じなかった。その結果、該検知体は、くすんだ黄色で実質的な色変化は確認されず、隣接する比色部と比較して、歯磨き後に採取した唾液の場合は遠沈管内にアンモニアガスがほとんど発生しないことを示した。
【0038】
次に、被験者が歯磨きを行ってから3時間経過した後、同様に唾液を採取して試験を行った。この唾液採取時に被験者の口臭を嗅いで確認したところ、口臭は感じたか特に悪臭は認められなかった。その結果、該検知体は、わずかに緑味掛かった黄色に色変化しており、隣接する比色部と比較して、該遠沈管内には1ppm未満の極わずかなアンモニアガスが発生していることを示した。これらの結果から、本発明の検知体は、唾液中に含まれる口腔内細菌のウレアーゼ活性により発生するアンモニアを被験物質として、口腔内の清浄状態を判定することができ、その判定に際しては、段階的な比色部と比較することで判定の視認性が著しく優れていることが判る。更に、本手法によれば、口腔内の清浄状態や悪臭口臭の有無が、分析等の知識や装置を必要とせずに簡便に判定することが可能であり、コンパクト形状で家庭向け用途に最適であることが判る。
【0039】
[実施例4]
以下に記す感応部色変化測定用サンプルの作製は、窒素置換したグローブボックス内(酸素濃度30ppmの低酸素環境)で行った。感応部は、酸化還元指示薬メチレンブルーと還元性物質と塩基性物質と食紅を含む反応液を紙に含浸してなる酸素検知剤(パウダーテック社製ワンダーセンサー(商品名))を、直径6mm円形に切り抜いたものを用いた。直径30mm円形の片面に粘着層を有するPET製透明ラベル(サトウシール社製、75μm厚、酸素透過率15cc/m/24hr/atm)の粘着面中心に、上記円形感応部を貼り付け、その上から直径20mm円形の保護フィルム(旭化成パックス社特製PET12μm/OPS25μm積層ラミネートフィルム、酸素透過率100cc/m/24hr/atm)により該検知部を覆って該ラベルの粘着力により貼合せ、更に該ラベルの粘着力により剥離紙に貼合せた。この感応部色変化測定用サンプルを、酸素吸収剤(三菱ガス化学社製「エージレス」(商品名SA−100)と共に、酸素ガスバリア性保存袋(旭化成パックス社製「飛竜」(商品名)規格袋)内に入れて、入れ口をヒートシールにて密封した。このようにして得られた感応部色変化測定用サンプル10枚を用いて、該感応部の色変化前の色調を色差計を用いてL表色法で測定したところ、L=69.5、a=25.9、b=5.8であった。尚、該測定は、23℃の環境で、保存袋から取り出した直後に、透明ラベルの非粘着面側から行った。該測定値は、該サンプル10枚の平均値で示した。
【0040】
上記感応部色変化測定用サンプル10枚は、色変化前の色調を測定した後、直ちに剥離紙から剥し、保護フィルム面が空気中に曝されるように置いて、該感応部の色変化を経時観察した。尚、色変化の経時観察は、23℃の環境で、色差計を用いてL表色法で、透明ラベルの非粘着面側から該感応部の色調を測定した。感応部の色変化の経時観察の結果を表3に示す。この結果は該サンプル10枚の平均値で示した。
上記透明ラベルの非粘着面に中心から直径8mm円の領域を除いて白ベタ印刷を施した粘着ラベルを用意して、該白ベタ印刷部分に図1様に比色部を形成した。比色部は実施例1と同様にして形成し、これら比色部の色調の測定値を表4に示す。次に、比色部を形成した粘着ラベルを用いて、上記感応部色変化測定用サンプルと同様にして、該粘着ラベルの非粘着面側から見えるように中心から直径8mm円の領域に円形感応部を貼り付け、これを覆って保護フィルム、剥離紙を貼合せた。この様にして作製した検知体は、非粘着面側から見ると、粘着ラベル中心の感応部に隣接して比色部が色変化前から表示上限色変化後までの順に配列している。該検知体は、酸素吸収剤と共に酸素ガスバリア性保存袋内に入れて密封し、使用するまで空気と接触しないようにした。
【0041】
上記検知体を用いて、一定温度における経過時間の程度を判定する試験を行った。23℃の環境で、上記検知体を保存袋から取り出し、直ちに剥離紙から剥し、保護フィルム面が空気中に曝されるように置き、感応部の色変化を目視観察した。その結果、4時間経過後には該感応部はくすんだ桃色へ色変化してしており、隣接する比色部と比較して、未だ6時間が経過していないことを示した。8時間経過後には該感応部は薄い藤色へ色変化してしており、隣接する比色部と比較して、6時間超過9時間未満の時間が経過したことを示した。26時間経過後には該感応部は濃い青色へ色変化してしており、隣接する比色部と比較して、18時間以上の時間が経過したことを示した。これらの結果から、本発明の検知体は、一定温度における時間経過の程度を判定することができ、その判定に際しては、既に市販されている時間と温度の積算の程度を判定するラベル(例えばAvery Dennison社製「TTsensor」(商品名))とは異なり、段階的な比色部と比較することで時間経過判定の視認性が著しく優れていることが判る。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の検知体、および検知方法は、主として生活環境におけるニオイや環境状態などを判定するための器具に関する分野で好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の検知体における感応部と比色部の配置の一例を示す模式図。
【図2】本発明の検知体における感応部と比色部の配置の一例を示す模式図。
【図3】本発明の検知体における感応部と比色部の配置の一例を示す模式図。
【図4】口腔内の清浄状態を判定する本発明の検知方法に用いる器具の一例を示す斜視図。
【図5】図4の器具に本発明の検知体を設けた一例を示す模式図。
【符号の説明】
【0048】
1 感応部
2 感応部の色変化前の色調
3 表示上限色変化後の色調
4a〜4d 感応部の色変化前から表示上限色変化後の間の色変化途中の色調
5 基材
6 透明キャップ
7 スクリュー瓶
8 採取した唾液と尿素水の混合液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応の進行に伴って色変化する感応部と、感応部の色変化前の色調、表示上限色変化後の色調、及びこれら色調間の色変化途中の少なくとも1つ以上の色調を表す比色部とを有し、感応部に隣接して比色部を色変化前から表示上限色変化後までの順に配列してなる構造であることを特徴とする検知体。
【請求項2】
請求項1に記載の検知体を用いて、該検知体が置かれた環境に存在する被検物質によって色変化した感応部の色調と比色部の色調を比較して環境に存在する被検物質の濃度及び/または暴露時間を検知する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の検知方法により、食品から発生する腐敗したニオイの臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって食品品質を判定する方法。
【請求項4】
請求項2に記載の検知方法により、冷蔵庫内のニオイの臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって冷蔵庫内のニオイの程度を判定する方法。
【請求項5】
請求項2に記載の検知方法により、生ゴミ臭の臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって生ゴミの腐敗の程度を判定する方法。
【請求項6】
請求項2に記載の検知方法により、タバコ臭の臭気成分であるアンモニアを被験物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって口臭、衣類などへの付着タバコ臭気、および室内環境タバコ臭気の程度を判定する方法。
【請求項7】
請求項2に記載の検知方法により、排泄臭の臭気成分であるアンモニアを被検物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によってトイレ室内環境臭気、リネン付着臭気、および堆糞肥料臭気の程度を判定する方法。
【請求項8】
請求項2に記載の検知方法により、汗臭の臭気成分であるアンモニアを被験物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって体臭、および衣類付着臭気の程度を判定する方法。
【請求項9】
請求項2に記載の検知方法により、口臭の臭気成分であるアンモニアを被験物質として、アンモニアの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって呼気臭気の程度を判定する方法。
【請求項10】
請求項2に記載の検知方法により、口臭の臭気成分である揮発性硫黄化合物を被験物質として、揮発性硫黄化合物の濃度または、濃度および暴露時間の指示によって呼気臭気の程度を判定する方法。
【請求項11】
炭酸ガスを被検物質としてpH変化により感応する固形感応部を用いることを特徴とする請求項2に記載の検知方法。
【請求項12】
請求項11に記載の検知方法により、室内環境中の炭酸ガスを被検物質として、炭酸ガスの濃度または、濃度および暴露時間の指示によって室内空気換気の程度を判定する方法。
【請求項13】
請求項1に記載の検知体を一定濃度の被検物質が存在する環境に置き、被検物質によって色変化した感応部の色調と比色部の色調を比較することによって、検知体が環境に置かれてからの時間と温度の積算の程度を検知する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−278926(P2007−278926A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107396(P2006−107396)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】