説明

検知管

【要 約】
【課題】長期間劣化せず、LPガス中のメタノールの含有率を測定できる検知管を提供する。
【解決手段】試料ガスの流れの検出部15よりも下流側にモレキュラーシーブを含有する下流側除湿部12を配置し、封止状態の管体10内部の水分を下流側除湿部12によって除去しているので、検出部15に流入する試料ガス中の水分を除去する上流側除湿部11には強力な除湿剤を配置する必要が無くなり、そのため、フッ化セシウム等のアルコールを吸着しない除湿剤を上流側除湿部に配置することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLPガス中のメタノールを測定する技術に係り、特に、その測定を簡易迅速に行なえる検知管に関する。
【背景技術】
【0002】
LPガス(liquefied petroleum gas:液化石油ガス)には凍結防止剤としてメタノールが規定量添加されている。
LPガスに添加されているメタノール量を管理するためのメタノール分析方法(JLPGA−S−06)が日本LPガス協会より制定されている。
しかしながら、この分析方法(公定法)は利便性・安全性に欠けるため、その操作・作業に熟練や工数が必要とされており、簡易・迅速な検査方法が求められている。
【0003】
従来、試料ガス中のメタノールを検出する方法として、検知管内に酸化クロム塩と硫酸を封入し、試料ガスを検知管内に注入すると、試料ガスにメタノールが含まれていると、酸化クロムがメタノールにより還元され、価数変化により変色を観察する方法がある。
【0004】
しかし、この反応は、LPガスの主成分であるブロパンガスにも反応してしまうため、用いることができない。
他方、プロパンガスとは反応しない過塩素酸マグネシウムを用い、アルコールやエーテルを検出する方法が知られているが、過塩素酸マグネシウムは水分と反応してしまい、水分を除去するために試料ガスをモレキュラーシーブに通すと、試料ガス中のメタノールもモレキュラーシーブに吸着されてしまう。
【0005】
メタノールが吸収されない除湿剤を用いた場合、そのような除湿剤はモレキュラーシーブに比べて除湿能力が低いため、検知管が封止状態でも、過塩素酸塩が検知管内部に残留する水分や有機溶剤の影響を受け、測定条件に必要なpH範囲に変化させることができなくなるという問題がある。
【特許文献1】特開2006−184157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、LPガス及び水分の影響を受けずにLPガス中のアルコールを検出できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、細長で両端部が封止され、内部が観察可能な管体を有し、アルコールを吸収しない除湿剤が含有された上流側除湿部と、プロパンガスと反応しない過塩素酸塩と、pH指示薬とを含有する検出部と、モレキュラーシーブが含有された下流側除湿部とが前記管体の内部の一端部から他端部に向けてこの順序で配置され、前記pH指示薬は、前記過塩素酸塩がアルコールと反応し、前記検出部のpHが変化すると変色する検知管である。
また、本発明は、前記過塩素酸塩には、過塩素酸マグネシウムが用いられた検知管である。
また、本発明は、前記除湿剤にはフッ化セシウムが用いられた検知管である。
また、本発明は、前記除湿剤には臭化リチウムが用いられた検知管である。
【0008】
本発明は上記のように構成されており、過塩素酸塩はメタノールの他、水分とも反応してpHがアルカリ性方向に変化することから、第1の除湿部で試料ガス中の水分を除去するようになっている。
【0009】
メタノールを吸収しない除湿剤は、メタノールを吸収する除湿剤よりも除湿能力が低いが、本発明では、試料ガスの流れの検出部よりも下流側に、モレキュラーシーブを含有する下流側除湿部が配置されており、管体が封止された状態では、管体内部の水分及び有機溶剤はモレキュラーシーブによって除去され、長期間劣化しないようになっている。
【0010】
また、過塩素酸塩を後述の担体に担持させる際に、過塩素酸を有機溶剤(エタノール)に溶解させ、その有機溶剤に担体を接触させ、乾燥して過塩素酸を担体に付着させているため、有機溶剤が担体に残留すると管体内で過塩素酸塩が反応してしまう。
【0011】
本発明では、管体内に放出された有機溶剤はモレキュラーシーブによって除去されるので、管体内で呈色しないようになっている。
モレキュラーシーブは、化学合成された結晶性ゼオライトであり、合成結晶アルミノシリケートの含水金属塩を加熱脱離除去し、金属塩がもつ結晶水を取り除くことで、結晶水が除去された後の微細空洞の内壁に被吸着分子を吸着しており、水、エタノールなど、極性が高い分子程吸着されやすくなっている。
【0012】
結晶水除去前のモレキュラーシーブは下記一般式(1)で表わすことができる。
M2/nO・Al2O3・xSiO2・yH2O ……一般式(1)
但し、M:金属カチオン、n:原子価である。
MにはNaが用いられており、例えば、
【0013】
Na12〔(AlO2)12(SiO2)12〕・27H2O……化学式(1)
や、
【0014】
Na86〔(AlO2)86(SiO2)106〕・276H2O……化学式(2)
で表わされるモレキュラーシーブが知られている。
【0015】
また、ナトリウムイオンを他の金属カチオンとイオン交換することによって、さまざまな特性をもったモレキュラーシーブが提供されている。いずれのモレキュラーシーブも、結晶水は加熱除去されており、上記一般式(1)や化学式(1)、(2)のH2Oを除去して活性化された状態で提供されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の検知管は長期間劣化せず、LPガス中に含まれるメタノールの含有率を、少量の試料ガスで安全、迅速に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1(a)は、本発明の検知管2の外観を示しており、同図(b)は内部を示している。
この検知管2は、ガラス製であって、両端が溶融封止された管体10を有している。
管体10の内部には、第一のフィルタ21と、上流側除湿部11と、検出部15と、下流側除湿部12と、第二のフィルタ22が、管体10の一端から他端に向けてこの順序で配置されている。
【0018】
検出部15は、過塩素酸塩とpH指示薬が配置されている。過塩素酸塩とpH指示薬は、粉末状、又は粒子状の珪砂から成る担体の表面に付着されている。ここでは過塩素酸塩には過塩素酸マグネシウムが用いられており、pH試薬には、クリスタルバイオレットが用いられている。
【0019】
過塩素酸塩は水分や有機溶剤に触れるとpHが変化してしまうが、下流側除湿部12には、粉末又は粒子状のモレキュラーシーブが充填されている。モレキュラーシーブは水分や有機溶剤の吸収力が非常に強く、管体10の内部の水分及び有機溶剤を吸収している。管体10の先端は先細に形成されている。
【0020】
第一、第二のフィルタ21、22は、先端部分を除去したときに、管体10の残りの中央部分に残るようにされており、管体10の残りの部分の両端部は、第一、第二のフィルタ21、22によって塞がれ、両端部から上流側及び下流側除湿部11、12や検出部15がこぼれ落ちないようにされている。
先端部分が除去されると、管体10の内部は大気と連通する。
【0021】
第一、第二のフィルタ21、22は繊維質及び樹脂栓であり、上流側及び下流側除湿部11、12と検出部15は粉末又は粉体状であり、管体10の両端部を除去し、一端を吸入器に差し込み、他端を吸込口として、LPガスから成る試料ガス雰囲気中に差し入れ、吸入器によって管体10内部を吸引すると、吸込口から管体10の内部に試料ガスが吸引される。
吸引された試料ガスは、管体10内部の上流側除湿部11と、検出部15と、下流側除湿部12をこの順序で通過して吸入器に流入する。
【0022】
上流側除湿部11には、メタノールやプロパンガスが吸収されない除湿剤が配置されている。ここでは、粉末又は粒子状への担体の表面に担持させたフッ化セシウムが除湿剤として配置されており、試料ガスは上流側除湿部11内を通過する際に試料ガス中に含まれる水分が除湿剤によって吸収され、水分が除去された試料ガスが検出部15の内部に流入する。
【0023】
試料ガスにメタノールが含まれている場合、検出部15の内部でメタノールが過塩素酸塩と反応し、塩基性物質が生成されると、反応した部分のpHがアルカリ方向に変化し、反応部分ではpH指示薬が変色する。クリスタルバイオレットの場合、強酸性のpHでは黄色であり、pHがアルカリ側に移動すると、先ず緑色に変化し、更にアルカリ側に移動すると紫色になる。この検知管2では、酸性色である黄色が、メタノールと過塩素酸塩との反応により緑色に変色する。
【0024】
変色部分の長さは管体10を通して観察可能であり、吸込口に近い位置から変色が起こるが、検知管2の管体10表面には濃度目盛18が設けられており、変色部分の長さは濃度目盛18から読み取れるようになっている。
【0025】
検知管2内を規定体積の試料ガスを流した場合の、試料ガス中に含まれるメタノール濃度と検知管長さの間の関係を調べておくと、規定体積の試料ガスを流して変色部分の長さを測定することで、試料ガス中のメタノール濃度を知ることができる。
【0026】
公定法と検知管を用いた測定方法の比較は以下の通りである。
(1)LPガス使用量
現LPガス公定法・・・・・約50g
本発明(検知管法) ・・・・・・・・約1g
本発明によれば、測定に必要な試料ガス(LPガス)は少量で済む(約1/50である)。
【0027】
(2)分析時間
現LPガス公定法・・・・・ 約4時間(内訳:ガスクロ調整及び検量線作成に2時間、ガスの吸収に1時間、分析に1時間)
本発明(検知管法)・・・・・・・・・約10分間
本発明に寄れば、測定に必要な時間が短縮される(約1/24)。
【0028】
(3)安全性
現LPガス公定法・・・・・LPガス約50gを水にバブリングさせメタノールを水に吸収させる。50gのLPガスを放出するため危険性が伴う。
本発明(検知管法)・・・・・・・・・約lgをテドラーバックに取り検知管で吸引するため、殆ど放出しない。
本発明によれば、安全性が改善される。
【0029】
(4)分析(操作)手法
現LPガス公定法・・・・・ 煩雑な操作が必要(水への吸収(バブリング)、GC測定(準備・検量線作成・測定・解析))
本発明(検知管法)・・・・・・・・・簡便な操作で済む。
本発明によれば分析手法が改善される。
【0030】
なお、上記実施例では、過塩素酸塩に過塩素酸マグネシウムを用いたが、過塩素酸マグネシウムに替えて他の過塩素酸塩、例えば過塩素酸ナトリウムなども用いることもできる。
【0031】
上記実施例では、除湿剤には、フッ化セシウムを用いたが、水の吸収力が強く、アルコールやLPガスを吸収せず、また、アルコールやLPガスと反応しない除湿剤であればフッ化セシウムに限定されるものではなく、例えば臭化リチウムを用いることもできる。
【0032】
また、pH指示薬はクリスタルバイオレットに限定されるものではなく、メチルバイオレットなど、pH変化によって変色するpH指示薬を広く用いることができる。pH指示薬は、過塩素酸塩との組み合わせによって最適なものを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a):本発明の検知管の外観図 (b):その内部を説明するための図
【符号の説明】
【0034】
2……検知管
10……管体
11……上流側除湿部
12……下流側除湿部
15……検出部
18……濃度目盛
21……第1のフィルター
22……第2のフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長で両端部が封止され、内部が観察可能な管体を有し、
アルコールを吸収しない除湿剤が含有された上流側除湿部と、
プロパンガスと反応しない過塩素酸塩と、pH指示薬とを含有する検出部と、
モレキュラーシーブが含有された下流側除湿部とが前記管体の内部の一端部から他端部に向けてこの順序で配置され、
前記pH指示薬は、前記過塩素酸塩がアルコールと反応し、前記検出部のpHが変化すると変色する検知管。
【請求項2】
前記過塩素酸塩には、過塩素酸マグネシウムが用いられた請求項1記載の検知管。
【請求項3】
前記除湿剤にはフッ化セシウムが用いられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の検知管。
【請求項4】
前記除湿剤には臭化リチウムが用いられた請求項1又は請求項2のいずれか1項記載の検知管。

【図1】
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【公開番号】特開2009−257866(P2009−257866A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105543(P2008−105543)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【出願人】(390010364)光明理化学工業株式会社 (18)
【Fターム(参考)】