説明

検量線作成方法

【課題】多数個の標準固体試料を測定する手間や、標準固体試料の入手の困難さの問題を解決することができる検量線作成方法の提供。
【解決手段】複数の基準検量線が登録されたデータベースを作成するデータベース作成ステップと、発光分析装置に基準検量線を記憶させる基準検量線記憶ステップと、発光分析装置で、測定対象の元素を既知濃度で母材中に含有する少なくとも1個の標準固体試料を測定することにより、少種類の各スペクトルの強度をそれぞれ取得する強度取得ステップと、基準発光分析装置の光検出器と発光分析装置の光検出器との検出感度差である補正係数を算出する補正係数算出ステップと、記憶された基準検量線を補正係数で補正することにより、発光分析装置に検量線を記憶させる補正検量線記憶ステップとを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパーク放電、アーク放電、誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma=ICP)放電等の各種放電法やレーザ励起法等により、母材中に含有される測定対象の元素の濃度を算出するために、検量線を作成する検量線作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼品種(例えば、低合金鋼や炭素鋼やステンレス鋼や低合鋳鉄等)や非鉄金属品種の多様化や高品質化や製鋼加工技術の発展に伴い、母材(例えば、Fe、Cu、Al等)中に含有される微量成分、特にC、Si、S、P、Mn、Ni等の元素の量を厳密にコントロールすることが要求されてきており、鉄鋼材や非鉄金属材等の生産工場等での製鋼・精練工程において、母材中に含有される微量成分を定量することが重要となってきている。
このような製鋼・精練工程はオンライン操業であるため、定量結果が速やかに製鋼・精練工程にフィードバックされることが好ましい。
【0003】
そこで、近年、母材中に含有される微量成分の定量を迅速に行うことができる発光分光分析方法が広く利用されるようになってきている。図4は、このような発光分光分析方法を用いる発光分析装置の一例を示す概略構成図である。
発光分析装置10は、開孔2aが形成されている発光スタンド2と、開孔2aと対向する位置に設置された対向電極3と、各元素に特有な波長nを有する輝線スペクトルに分光する凹面回折格子(分光器)4と、輝線スペクトルの強度Aを検出する受光素子15aを有する光検出器15と、発光分析装置10全体の制御を行うコンピュータ40とを備える(例えば、特許文献1参照)。コンピュータ40においては、データ処理部41やメモリ22を備え、さらにモニタ画面等を有する表示装置31と、キーボードやマウス等を有する入力装置30とが連結されている。
【0004】
このような発光分析装置10を用いて、例えば、低合金鋼(固体試料)6’における母材Fe中に含有される測定対象の元素Cの濃度Yを算出するには、操作者は、まず、製鋼・精練工程中に採取した低合金鋼6’を切断、研磨した後、低合金鋼6’の分析面6a’が発光スタンド2の開孔2aを塞ぐように、低合金鋼6’を当接する。次に、対向電極3に電圧を印加することにより、低合金鋼6’の分析面6a’と対向電極3との間でスパーク放電することで発光させる。そして、発生した発光光を凹面回折格子4に導入することにより、凹面回折格子4で発光光を、各元素に特有な波長nを有する輝線スペクトルに分光した後、光検出器15で波長156.1nmを有する輝線スペクトルの強度A156.1を検出している。そして、コンピュータ40は、輝線スペクトルの強度A156.1を検量線(C/Fe)に当てはめることにより、母材Fe中に含有される元素Cの濃度Yを算出している。
【0005】
ところで、母材Fe中に含有される元素Cの濃度Yを算出するためには、発光分析装置10で予め検量線(C/Fe)を作成する必要があり、母材Fe中に既知濃度Y’の元素Cを含有する固体試料(以下、「標準固体試料」ともいう)6を発光分析装置10で測定し、さらに元素Cを先程と異なる既知濃度Y’’で母材Fe中に含有する標準固体試料6を発光分析装置10で測定した結果、輝線スペクトルの強度A156.1と、母材Fe中に含有される元素Cの濃度Yとの関係を示す検量線(C/Fe)を作成している。例えば、検量線(C/Fe)は、図2に示すように、Y=αC/Fe156.1+βC/Fe156.1+γC/Feで表される。
【0006】
また、元素Cの濃度Yだけでなく元素Siの濃度YSiを算出するためには、母材Fe中に既知濃度YSi’の元素Siを含有する標準固体試料6を発光分析装置10で測定し、さらに元素Siを先程と異なる既知濃度YSi’’で母材Fe中に含有する標準固体試料6を発光分析装置10で測定した結果、輝線スペクトルの強度A212.4と、母材Fe中に含有される元素Siの濃度YSiとの関係を示す検量線(Si/Fe)を作成している。例えば、検量線(Si/Fe)は、YSi=αSi/Fe212.4+βSi/Fe212.4+γSi/Feで表される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−69853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、発光分析装置10で複数(例えば、10個)の検量線(C/Fe、Si/Fe、・・・)を作成するためには、測定対象とする種類の元素(C、Si、・・・)を様々な濃度Y’、Y’’、・・・で母材Fe中に含有する多数個T(例えば、100個)の標準固体試料6を測定する必要があった。また、母材もFeだけでなく他のものSにおける複数(例えば、10個等)の検量線(C/S、Si/S、・・・)を作成するときには、さらに多数個T(例えば、100個)の標準固体試料6を測定する必要があった。よって、複数(例えば、20個)の検量線を作成するためには、多数個(例えば、200個)の標準固体試料6を測定する手間が非常にかかった。
また、検量線(C/Fe)を作成するためには、測定対象とする種類の元素Cが既知濃度Y’、Y’’、・・・で母材Fe中に含有される複数個Tの標準固体試料6を使用することになるが、標準固体試料6は、全体が均質で偏りのないものでなければならない。しかし、標準固体試料6は固体であるため、偏析・欠陥が生じることが多いので、各既知濃度Y’、Y’’、・・・について均質なものを手に入れることは容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題である多数個Tの標準固体試料6を測定する手間や、標準固体試料6の入手の困難さの問題を解決するために、本件発明者らは、検量線(C/Fe、Si/Fe、・・・)を作成する検量線作成方法について検討を行った。そして、検討を行ったところ、使用しようとしている発光分析装置10で作成した検量線(C/Fe、Si/Fe、・・・)と、発光分析装置10とは異なる他の発光分析装置で作成した検量線(C/Fe’、Si/Fe’、・・・)(以下、「基準検量線」ともいう)とには、一定の相関性が生じ、この相関性を利用して、他の発光分析装置で作成した基準検量線(C/Fe’、Si/Fe’、・・・)を補正して、発光分析装置10に検量線(C/Fe、Si/Fe、・・・)を作成することを見出した。このような検量線作成方法によれば、どこか(他の発光分析装置)で作成された基準検量線(C/Fe’、Si/Fe’、・・・)を得ることができれば、発光分析装置10で少なくとも1個T(T>T)の標準固体試料6を測定して、発光分析装置10と他の発光分析装置との相関性を算出するだけで、発光分析装置10で多数個Tの標準固体試料6を測定することなく、検量線(C/Fe、Si/Fe、・・・)を作成することができる。
【0010】
ところで、発光分析装置10は、ある生産工場等での専用機として使用されるものが多数であり、特定の種類の母材S中に含有される特定の種類の元素Xの濃度Yを算出することができればよいため、少種類Nの各スペクトルの強度Aをそれぞれ検出することが可能な光検出器15しか備えていない。例えば、発光分析装置10には、母材Fe中に含有される測定対象とする種類の元素C、Siに対応する輝線スペクトルが照射される位置のみに、受光素子15aが予め配置されている。つまり、発光分析装置10は、ある生産工場等での専用機として使用されるものであるので、他の生産工場等で使用される発光分析装置とは、母材Sの種類も元素Xの種類も異なるため、受光素子15aが配置される位置は全く異なる。よって、どこか(他の発光分析装置)で作成された基準検量線(C/Fe’、Si/Fe’、・・・)を得ることはなかなかできない。
【0011】
一方、様々な種類の母材S中に含有される様々な種類の元素Xの濃度Yを算出することができる発光分析装置(以下、「基準発光分析装置」ともいう)も開発されている。図1は、このような基準発光分析装置の一例を示す概略構成図である。なお、発光分析装置10と同様のものについては、同じ符号を付している。
基準発光分析装置1では、多数(例えば、7個)の受光素子5aを有する光検出器5を用いて、各輝線スペクトルの強度Aをそれぞれ検出している。例えば、基準発光分析装置1には、母材Fe中に含有される様々な種類の元素(例えば、C、Si、S、P、Mn、Ni等)に対応する輝線スペクトルが照射される位置に、受光素子5aが予め配置されている。
これにより、このような基準発光分析装置1で複数の基準検量線(X/S’、・・・)を作成して、複数の基準検量線(X/S’、・・・)が登録されたデータベースを作成しておけば、データベースから必要な基準検量線を選択して、発光分析装置10に基準検量線(X/S’、・・・)を記憶させることができる。
【0012】
すなわち、本発明の検量線作成方法は、少種類Nの各輝線スペクトルの強度をそれぞれ検出することが可能な光検出器を備える発光分析装置で、母材中における測定対象の元素についての検量線を作成する検量線作成方法であって、多種類N(ただし、N≧N)の各輝線スペクトルの強度をそれぞれ検出することが可能な光検出器を備える基準発光分析装置で、元素を異なる既知濃度で母材中に含有する多数個Tの標準固体試料を測定することにより、多種類Nの各輝線スペクトルの強度をそれぞれ取得して、多種類Nの輝線スペクトルから選択される少なくとも1個の輝線スペクトルの強度と、母材中に含有される元素の濃度との関係を示す基準検量線を作成する基準検量線作成ステップと、前記基準発光分析装置を用いて検量線作成ステップを繰り返して実行することにより、複数の種類の母材中における複数の種類の元素についての複数の基準検量線を作成して、複数の基準検量線が登録されたデータベースを作成するデータベース作成ステップと、前記発光分析装置で測定しようとする母材の種類と、測定対象の元素若しくは元素に特有な波長を有する輝線スペクトルの種類とに基づいて、前記データベースから少なくとも1つの基準検量線を選択して、前記発光分析装置に基準検量線を記憶させる基準検量線記憶ステップと、前記発光分析装置で、測定対象の元素を既知濃度で母材中に含有する少なくとも1個T(ただし、T>T)の標準固体試料を測定することにより、少種類Nの各輝線スペクトルの強度をそれぞれ取得する強度取得ステップと、前記強度取得ステップで取得された輝線スペクトルの強度と、測定対象の元素の既知濃度と、記憶された基準検量線とに基づいて、前記基準発光分析装置の光検出器と発光分析装置の光検出器との検出感度差である補正係数を算出する補正係数算出ステップと、記憶された基準検量線を補正係数で補正することにより、前記発光分析装置に検量線を記憶させる補正検量線記憶ステップとを含むようにしている。
【0013】
本発明の検量線作成方法では、1台の基準発光分析装置と少なくとも1台の発光分析装置とが使用される。「基準発光分析装置」は、多種類Nの各スペクトルの強度Aをそれぞれ検出することが可能な光検出器を備える。これにより、様々な種類の母材S中に含有される様々な種類の元素Xの濃度Yを算出することができるようになっている。一方、「発光分析装置」は、少種類N(N≧N)の各スペクトルの強度Aをそれぞれ検出することが可能な光検出器を備える。これにより、特定の種類の母材S中に含有される特定の種類の元素Xの濃度Yを算出することができるようになっている。
そして、1台の基準発光分析装置には、多数個Tの標準固体試料を用いて検量線を記憶させることになるが、発光分析装置には、少数個T(T>T)の標準固体試料を用いて検量線を記憶させることになる。なお、標準固体試料は、例えば、半径rの円形の上面と底面とを有する円柱形状となっており、母材S中に既知濃度Y’の元素Xを含有するものであり、全体が均質で偏りのないものである。そのため、標準固体試料を入手することは困難となっている。
【0014】
本実施形態に係る検量線作成方法によれば、まず、基準発光分析装置と、多数個Tの標準固体試料とを準備する。
次に、基準発光分析装置で複数個Tの標準固体試料を測定することにより、多種類Nの各スペクトルの強度をそれぞれ取得して、スペクトルの強度Aと、母材S中に含有される元素Xの濃度Yとの関係を示す基準検量線(X/S’)を作成する(基準検量線作成ステップ)。そして、基準検量線作成ステップを繰り返して実行することにより、複数の基準検量線(X/S’、・・・)が登録されたデータベースを作成する(データベース作成ステップ)。
【0015】
次に、発光分析装置で母材S中における測定対象の元素Xについての検量線(X/S)を作成する際には、基準発光分析装置と、少数個Tの標準固体試料とを準備する。
次に、発光分析装置で測定しようとする母材の種類Sと測定対象の元素の種類X若しくは元素に特有な波長を有するスペクトルの種類nとに基づいて、データベースから基準検量線(X/S’)を選択して、発光分析装置に基準検量線(X/S’)を記憶させる(基準検量線記憶ステップ)。
しかし、基準発光分析装置の光検出器と発光分析装置の光検出器とでは、検出感度に差があるので、発光分析装置で基準検量線(X/S’)をそのまま用いることはできない。そこで、上述したように、発光分析装置とは異なる基準発光分析装置で作成した基準検量線とには、一定の相関性が生じるので、この相関性を利用して、基準発光分析装置で作成した基準検量線を補正して、発光分析装置に検量線を作成することになる。
【0016】
まず、発光分析装置で、測定対象の元素Xを既知濃度Y’で母材S中に含有する少数個Tの標準固体試料を測定することにより、少種類Nの各スペクトルの強度Aをそれぞれ取得する(強度取得ステップ)。
次に、強度取得ステップで取得されたスペクトルの強度Aと、測定対象の元素Xの既知濃度Y’と、基準検量線(X/S’)とに基づいて、基準発光分析装置の光検出器と発光分析装置の光検出器との検出感度差である補正係数を算出する(補正係数算出ステップ)。例えば、基準発光分析装置で作成された図6に示すような基準検量線(C/Fe’)であるY=αC/Fe’A156.1+βC/Fe’A156.1+γC/Fe’を、発光分析装置に用いる図2に示すような検量線(C/Fe)であるY=αC/Fe156.1+βC/Fe156.1+γC/Feに変換することになる。
次に、基準検量線(C/Fe’)を補正係数で補正することにより、発光分析装置に検量線(C/Fe)を記憶させる(補正検量線記憶ステップ)。
【0017】
そして、発光分析装置で、固体試料である母材Fe中に含有される元素Cの濃度Yを算出するときには、固体試料を測定することにより、スペクトルの強度A156.1を取得する。このようにして取得されたスペクトルの強度A156.1を検量線(C/Fe)に当てはめることになる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の検量線作成方法によれば、発光分析装置で、母材S中における測定対象の元素Xについての検量線(X/S)を作成するときに、基準検量線(X/S’)を得て、少数個Tの標準固体試料を準備するだけでよくなる。よって、多数個Tの標準固体試料を測定する手間や、標準固体試料の入手の困難さの問題を解決することができる。
【0019】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
また、本発明の検量線作成方法は、前記データベース作成ステップにおいて、母材中に複数の種類の元素が含有されたときに用いるための共存元素補正係数を算出して、当該共存元素補正係数が登録されたデータベースを作成し、前記基準検量線記憶ステップにおいて、前記データベースから共存元素補正係数を発光分析装置に記憶させるようにしている。
【0020】
そして、本発明の検量線作成方法は、前記基準検量線記憶ステップにおいて、前記発光分析装置で測定しようとする母材の種類と、測定対象の元素若しくは元素に特有な波長を有する輝線スペクトルの種類が入力されると、前記データベースから1つの基準検量線を選択するアルゴリズムが基準発光分析装置に記憶されているようにしている。
さらに、本発明の検量線作成方法は、前記補正係数算出ステップにおいて、強度取得ステップで取得された輝線スペクトルの強度と、測定対象の元素の既知濃度と、記憶された基準検量線とに基づいて、前記基準発光分析装置の光検出器と発光分析装置の光検出器との検出感度差である補正係数を算出するアルゴリズムが発光分析装置に記憶されているようにしている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】基準発光分析装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】検量線の一例である。
【図3】基準発光分析装置によるデータベース作成方法について説明するためのフローチャートである。
【図4】発光分析装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】基準発光分析装置と発光分析装置とによる検量線作成方法について説明するためのフローチャートである。
【図6】基準検量線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0023】
本実施形態では、1台の基準発光分析装置1と多数の発光分析装置10とを使用する。「基準発光分析装置」は、多種類(例えば、7種類)の各スペクトルの強度Aをそれぞれ検出することが可能な光検出器5を備える。これにより、様々な種類の母材S中に含有される様々な種類の元素Xの濃度Yを算出することができるようになっている。一方、「発光分析装置」は、少種類(例えば、2種類)の各スペクトルの強度Aをそれぞれ検出することが可能な光検出器15を備える。これにより、特定の種類の母材S中に含有される特定の種類の元素Xの濃度Yを算出することができるようになっている。つまり、発光分析装置10は、ある生産工場等での専用機として使用されるものである。
【0024】
そして、1台の基準発光分析装置1には、多数個Tの標準固体試料6を用いて検量線(X/S’)を記憶させることになるが、発光分析装置10には、少数個Tの標準固体試料6を用いて検量線(X/S)を記憶させることになる。なお、「標準固体試料」は、例えば、半径rの円形の上面と底面とを有する円柱形状となっており、母材S中に既知濃度Y’の元素Xを含有するものであり、全体が均質で偏りのないものである。そのため、標準固体試料6を入手することは困難となっている。
また、「検量線」は、輝線スペクトルの強度Aと、母材S中に含有される元素Xの濃度Yとの関係を示すものである。例えば、検量線(C/Fe)は、図2に示すように、Y=αC/Fe156.1+βC/Fe156.1+γC/Feで表される。
【0025】
まず、基準発光分析装置1の一例について説明する。図1は、基準発光分析装置1の一例を示す概略構成図である。
基準発光分析装置1は、発光スタンド2と、対向電極3と、凹面回折格子(分光器)4と、光検出器5と、基準発光分析装置1全体の制御を行うコンピュータ20とを備える。
発光スタンド2の上面には、円形状の開孔2aが形成されており、対向電極3は、発光スタンド2の内部で、開孔2aと対向する位置に設置されている。これにより、標準固体試料6の分析面6aが、開孔2aを塞ぐように当接されて、対向電極3に電圧が印加されると、分析面6aと対向電極3との間でスパーク放電を行うことができるようになっている。
凹面回折格子4は、発光スタンド2の内部で、分析面6aと対向電極2aとの間でスパーク放電を行うことで発生した発光光が導入されるように配置されている。そして、凹面回折格子4は、発光光を、各元素に特有な波長nを有する輝線スペクトルに分光する。
光検出器5は、各輝線スペクトルの強度Aをそれぞれ検出する複数(例えば、7個)の受光素子5aを有する。つまり、1個の受光素子5aは、対応付けられた元素Xに特有な波長nを有する輝線スペクトルの強度Aを検出する。そして、複数の受光素子5aでそれぞれ検出された輝線スペクトルの強度Aは、コンピュータ20に出力されるようになっている。
【0026】
コンピュータ20においては、データ処理部21やメモリ22を備え、さらにモニタ画面等を有するCRT(表示装置)31と、キーボードやマウス等を有する入力装置30とが連結されている。
データ処理部21は、対向電極3に電圧を印加するとともに、光検出器5で各輝線スペクトルの強度Aをそれぞれ検出する制御を行う。
【0027】
ここで、基準発光分析装置1により、複数の検量線(C/Fe’、Si/Fe’、・・・)を作成して、複数の検量線(C/Fe’、Si/Fe’、・・・)が登録されたデータベースを作成するデータベース作成方法の一例について説明する。図3は、基準発光分析装置1によるデータベース作成方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、母材種類を示すパラメータS=Sとするとともに、標準固体試料6の個数を示すパラメータt=0とする。
次に、ステップS102の処理において、操作者は、S=S、t=tの標準固体試料6の分析面6aが開孔2aを塞ぐように、標準固体試料6を当接する。
【0028】
次に、ステップS103の処理において、データ処理部21は、対向電極3に電圧を印加することにより、標準固体試料6の分析面6aと対向電極3との間でスパーク放電することで発光させる。そして、発生した発光光を凹面回折格子4に導入することにより、凹面回折格子4で発光光を、各元素に特有な波長nを有する輝線スペクトルに分光した後、光検出器5で各輝線スペクトルの強度Aをそれぞれ検出する。
次に、ステップS104の処理において、操作者は、S=S、t=t+1の標準固体試料6を測定するか否かを判断する。このとき、例えば、100(T)個の標準固体試料6を測定することになる。標準固体試料6をまだ測定すると判断したときには、ステップS105の処理において、t=t+1とし、ステップS102の処理に戻る。
【0029】
一方、標準固体試料6をもう測定しないと判断したときには、ステップS106の処理において、操作者は、t個の標準固体試料6における母材S中に含有される元素Xの既知濃度Y’と輝線スペクトルの強度Aとに基づいて、基準検量線(X/S’)を作成してメモリ22に記憶させる(基準検量線作成ステップ)。例えば、基準検量線(C/Fe’)は、図6に示すようにY=αC/Fe’A156.1+βC/Fe’A156.1+γC/Fe’で表される。また、基準検量線(Si/Fe’)は、YSi=αSi/Fe’A212.4+βSi/Fe’A212.4+γSi/Fe’で表される。なお、このとき、母材S中に複数の種類の元素Xが含有されたときに用いるための共存元素補正係数も作成してメモリ22に記憶させる。
次に、ステップS107の処理において、操作者は、母材種類がS=Sn+1である標準固体試料6を測定するか否かを判断する。標準固体試料6をまだ測定すると判断したときには、ステップS108の処理において、S=Sn+1とし、ステップS102の処理に戻る。つまり、標準固体試料6をもう測定しないと判断するときまで、ステップS102〜S106の処理が繰り返されることになる(データベース作成ステップ)。
一方、標準固体試料6をもう測定しないと判断したときには、本フローチャートを終了させる。
【0030】
次に、発光分析装置10の一例について図4を用いて説明する。
発光分析装置10は、発光スタンド2と、対向電極3と、凹面回折格子(分光器)4と、光検出器15と、発光分析装置10全体の制御を行うコンピュータ40とを備えている。そして、発光分析装置10は、ある生産工場において、母材Fe中に含有される元素Cの濃度Yと元素Siの濃度YSiとを算出するために使用されるものである。
【0031】
光検出器15は、各輝線スペクトルの強度(A156.1、A212.4)をそれぞれ検出する2個の受光素子15aを有する。つまり、発光分析装置10には、測定対象とする種類の元素C、Siに対応する輝線スペクトルが照射される位置のみに、受光素子5aが予め配置されている。よって、母材Fe中に含有される元素Cの濃度Yと元素Siの濃度YSiとを算出するために、元素Cに特有な波長(156.1nm)を有する輝線スペクトルが照射される位置と、元素Siに特有な波長(212.4nm)を有する輝線スペクトルが照射される位置とに、受光素子15aがそれぞれ配置されている。そして、2個の受光素子5aでそれぞれ検出された輝線スペクトルの強度(A156.1、A212.4)は、コンピュータ40に出力されるようになっている。
【0032】
コンピュータ40においては、データ処理部41やメモリ22を備え、さらにモニタ画面等を有する表示装置31と、キーボードやマウス等を有する入力装置30とが連結されている。
データ処理部41は、対向電極3に電圧を印加するとともに、光検出器15で各輝線スペクトルの強度(A156.1、A212.4)をそれぞれ検出する制御を行う。
【0033】
ここで、基準発光分析装置1と発光分析装置10とを用いて、発光分析装置10で検量線(C/Fe、Si/Fe)を作成する検量線作成方法の一例について説明する。図5は、基準発光分析装置1と発光分析装置10とによる検量線作成方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS201の処理において、発光分析装置10で測定しようとする母材Feと測定対象の元素C、Si(若しくは元素C、Siに特有な波長を有する輝線スペクトルの種類n(156.1、212.4nm))とに基づいて、基準発光分析装置1のメモリ22に記憶されたデータベースから2つの基準検量線(C/Fe’、Si/Fe’)を選択して、発光分析装置10のメモリ22に基準検量線(C/Fe’、Si/Fe’)を記憶させる(基準検量線記憶ステップ)。このとき、発光分析装置10で測定しようとする母材の種類Feと、測定対象の元素C(若しくは元素Cに特有な波長を有する輝線スペクトルの種類156.1nmが入力装置30で入力されると、データベースから1つの基準検量線(C/Fe’)を選択するアルゴリズムが基準発光分析装置1のメモリ22に記憶されているようにしてもよい。また、このとき、基準発光分析装置1のメモリ22から発光分析装置10のメモリ22に共存元素補正係数も記憶させるようにしてもよい。
【0034】
次に、ステップS202の処理において、母材種類を示すパラメータS=Sとするとともに、標準固体試料6の個数を示すパラメータt=0とする。
次に、ステップS203の処理において、操作者は、S=S、t=tの標準固体試料6の分析面6aが開孔2aを塞ぐように、標準固体試料6を当接する。
【0035】
次に、ステップS204の処理において、データ処理部41は、対向電極3に電圧を印加することにより、標準固体試料6の分析面6aと対向電極3との間でスパーク放電することで発光させる。そして、発生した発光光を凹面回折格子4に導入することにより、凹面回折格子4で発光光を、各元素に特有な波長nを有する輝線スペクトルに分光した後、光検出器15で各輝線スペクトルの強度(A156.1、A212.4)をそれぞれ検出する(強度取得ステップ)。
次に、ステップS205の処理において、操作者は、S=S、t=t+1の標準固体試料6を測定するか否かを判断する。このとき、例えば、1個や2個(T)の標準固体試料6を測定することになり、ステップS104の処理で判断した標準固体試料6の個数Tより少なくなる。標準固体試料6をまだ測定すると判断したときには、ステップS206の処理において、t=t+1とし、ステップS203の処理に戻る。
【0036】
一方、標準固体試料6をもう測定しないと判断したときには、ステップS207の処理において、操作者は、t個の標準固体試料6における母材Fe中に含有される元素Cの既知濃度Y’と元素Siの既知濃度YSi’と、輝線スペクトルの強度(A156.1、A212.4)と、基準検量線(C/Fe’、Si/Fe’)とに基づいて、基準発光分析装置10の光検出器5と発光分析装置1の光検出器15との検出感度差である補正係数を算出してメモリ22に記憶させる(補正係数算出ステップ)。例えば、基準発光分析装置1で作成された図6に示すような基準検量線(C/Fe’)であるY=αC/Fe’A156.1+βC/Fe’A156.1+γC/Fe’を、発光分析装置10に用いる図2に示すような検量線(C/Fe)であるY=αC/Fe156.1+βC/Fe156.1+γC/Feに変換することになる。また、基準発光分析装置1で作成された基準検量線(Si/Fe’)であるYSi=αSi/Fe’A212.4+βSi/Fe’A212.4+γSi/Fe’を、発光分析装置10に用いる検量線(Si/Fe)であるYSi=αSi/Fe212.4+βSi/Fe212.4+γSi/Feに変換することになる。このとき、強度取得ステップで取得された輝線スペクトルの強度A156.1と、測定対象の元素Cの既知濃度Y’と、記憶された基準検量線(C/Fe’)とに基づいて、基準発光分析装置1の光検出器5と発光分析装置10の光検出器15との検出感度差である補正係数を算出するアルゴリズムが発光分析装置10のメモリ22に記憶されているようにしてもよい。
【0037】
次に、ステップS208の処理において、基準検量線(C/Fe’、Si/Fe’)を補正係数で補正することにより、発光分析装置10に検量線(C/Fe、Si/Fe)を記憶させる(補正検量線記憶ステップ)。例えば、検量線(C/Fe)は、図2に示すように、Y=αC/Fe212.4+βC/Fe212.4+γC/Feで表される。また、検量線(Si/Fe)は、YSi=αSi/Fe156.1+βSi/Fe156.+γSi/Feで表される。
次に、ステップS209の処理において、操作者は、母材種類がS=Sn+1である標準固体試料6を測定するか否かを判断する。標準固体試料6をまだ測定すると判断したときには、ステップS210の処理において、S=Sn+1とし、ステップS203の処理に戻る。
一方、標準固体試料6をもう測定しないと判断したときには、本フローチャートを終了させる。
【0038】
以上のように、検量線作成方法によれば、発光分析装置10で、母材S中における測定対象の元素Xについての検量線(X/S)を作成するときに、基準検量線(X/S’)を得て、少数個Tの標準固体試料6を準備するだけでよくなる。よって、多数個Tの標準固体試料6を測定する手間や、標準固体試料6の入手の困難さの問題を解決することができる。
【0039】
(他の実施形態)
上述した検量線作成方法におけるステップS201の処理において、基準検量線と共存元素補正係数とを記憶させる構成としたが、母材中に多量の元素が含有されたときに用いるための100%補正情報も記憶させるような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、スパーク放電、アーク放電、誘導結合プラズマ放電等の各種放電法やレーザ励起法等により、母材中に含有される測定対象の元素の濃度を算出する発光分析装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1: 基準発光分析装置
5、15: 光検出器
6: 標準固体試料
10: 発光分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少種類Nの各輝線スペクトルの強度をそれぞれ検出することが可能な光検出器を備える発光分析装置で、母材中における測定対象の元素についての検量線を作成する検量線作成方法であって、
多種類N(ただし、N≧N)の各輝線スペクトルの強度をそれぞれ検出することが可能な光検出器を備える基準発光分析装置で、元素を異なる既知濃度で母材中に含有する多数個Tの標準固体試料を測定することにより、多種類Nの各輝線スペクトルの強度をそれぞれ取得して、多種類Nの輝線スペクトルから選択される少なくとも1個の輝線スペクトルの強度と、母材中に含有される元素の濃度との関係を示す基準検量線を作成する基準検量線作成ステップと、
前記基準発光分析装置を用いて検量線作成ステップを繰り返して実行することにより、複数の種類の母材中における複数の種類の元素についての複数の基準検量線を作成して、複数の基準検量線が登録されたデータベースを作成するデータベース作成ステップと、
前記発光分析装置で測定しようとする母材の種類と、測定対象の元素若しくは元素に特有な波長を有する輝線スペクトルの種類とに基づいて、前記データベースから少なくとも1つの基準検量線を選択して、前記発光分析装置に基準検量線を記憶させる基準検量線記憶ステップと、
前記発光分析装置で、測定対象の元素を既知濃度で母材中に含有する少なくとも1個T(ただし、T>T)の標準固体試料を測定することにより、少種類Nの各輝線スペクトルの強度をそれぞれ取得する強度取得ステップと、
前記強度取得ステップで取得された輝線スペクトルの強度と、測定対象の元素の既知濃度と、記憶された基準検量線とに基づいて、前記基準発光分析装置の光検出器と発光分析装置の光検出器との検出感度差である補正係数を算出する補正係数算出ステップと、
記憶された基準検量線を補正係数で補正することにより、前記発光分析装置に検量線を記憶させる補正検量線記憶ステップとを含むことを特徴とする検量線作成方法。
【請求項2】
前記データベース作成ステップにおいて、母材中に複数の種類の元素が含有されたときに用いるための共存元素補正係数を算出して、当該共存元素補正係数が登録されたデータベースを作成し、
前記基準検量線記憶ステップにおいて、前記データベースから共存元素補正係数を発光分析装置に記憶させることを特徴とする請求項1に記載の検量線作成方法。
【請求項3】
前記基準検量線記憶ステップにおいて、前記発光分析装置で測定しようとする母材の種類と、測定対象の元素若しくは元素に特有な波長を有する輝線スペクトルの種類が入力されると、前記データベースから1つの基準検量線を選択するアルゴリズムが基準発光分析装置に記憶されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検量線作成方法。
【請求項4】
前記補正係数算出ステップにおいて、強度取得ステップで取得された輝線スペクトルの強度と、測定対象の元素の既知濃度と、記憶された基準検量線とに基づいて、前記基準発光分析装置の光検出器と発光分析装置の光検出器との検出感度差である補正係数を算出するアルゴリズムが発光分析装置に記憶されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の検量線作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−68145(P2012−68145A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213783(P2010−213783)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】