説明

極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法

【解決手段】プロピレンと下記化学式(A)で表されるアルケニルジアルキルアルミニウム化合物とを共重合して得られるプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体を分解剤と反応させ、該共重合体中のジアルキルアルミニウム基を分解剤に対応する極性基に変換することを特徴とする極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法。
【化10】


(式中、R1、R2は炭素数1〜20のアルキル基、nは1〜20の整数を示す。)
【効果】本発明は、新規なコモノマー構造を持つ、極性基含有立体規則性プロピレン系共重合体を与えるものである。高価な試薬や過酷な反応条件を用いることなく、製造できる。極性基として、水酸基、カルボキシル基、スルフィニル基などが適用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基を有する立体規則性プロピレン系共重合体の製造方法に関する。詳しくは本発明は新規なプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体を分解剤と反応させ、該共重合体中のジアルキルアルミニウム基を分解剤に対応する極性基に変換することにより、極性基含有プロピレン系共重合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは機械的物性、成形性、化学的安定性に優れ、コストパフォーマンス上も非常に優秀であることから、最も重要なプラスチック材料の一つとして多くの分野で使用されている。しかし、化学的に安定である反面、無極性のため接着性や染色性に劣ることや他のプラスチック材料との混和性が悪い等の問題がある。この問題を解決するために極性基を導入したプロピレン系共重合体を製造しようと多くの試みがなされている。
【0003】
まず最初に、極性基含有モノマーをZieglar-Natta触媒の存在下で直接重合することが提案された(特許文献1〜4参照)。ただし、Zieglar-Natta触媒は酸素等のルイス塩基との親和性が非常に高くこれらと反応して失活してしまうために、有機アルミニウムをはじめとするルイス酸で極性基を保護して重合に用いられた。しかし、この方法でも極端に多くのルイス酸を必要とすることや重合活性の極端な低下が起こる等の問題があった。
【0004】
次に、プロピレンに対して非共役ジエンを共重合する方法が提案された(特許文献5,非特許文献1参照)。これは、一方のオレフィン部分で付加重合を行い、側鎖に残存するもう一方のオレフィン部分を後変性するものである。この方法は、ジエンの両方のオレフィン部分が分子内や分子間で重合を起こしてしまい、環化や架橋によるゲル化を引き起こし所望のプロピレン系共重合体が得られないといった問題があった。
【0005】
さらに、プロピレンに対してアルケニルボランやアルケニルシランを共重合し、その後酸化分解して水酸基が導入された共重合体を得る方法が提案されている(特許文献6〜8参照)。しかし、ボランの場合にはアルケニルボランを得るための反応剤が高価であることや反応溶媒としてテトラハイドロフラン等の非プロトン性極性溶媒が必要であり、重合反応への持ち込みには高度な溶媒除去を要するという問題がある。シランの場合にも酸化分解反応で過酷な反応条件を必要とする等の課題がある。
【0006】
ところで、近年、酸素親和性の低い後周期の遷移金属錯体を用いることで極性モノマーを保護基なしで直接重合しようとする試みがなされている。例えば、Brookhartらは、パラジウム錯体でオレフィンとアルキルアクリレートの共重合体を得ている(非特許文献2参照)。 また、Grubbsらは、ニッケルのキレート型錯体を開発している(非特許文献3参照)。 ただし、これらはエチレンとの共重合であり、プロピレンをはじめとするα−オレフィンの系では、共重合性能や立体規則性の観点から極性モノマーの直接共重合は極めて難しい状況にある。
【0007】
現在、極性基を含有する立体規則性プロピレン系共重合体を安価で簡便に製造する方法が求められている。
【特許文献1】特開昭55−98209号公報
【特許文献2】特開平3−177403号公報
【特許文献3】特開平6−172447号公報
【特許文献4】特開平8−53516号公報
【特許文献5】特開昭55−165907号公報
【特許文献6】特開平4−1210号公報
【特許文献7】特開平4−93305号公報
【特許文献8】特開平4−218514号公報
【非特許文献1】Kim,I.;Shin,Y.S;Lee,J.K. J.Polym.Sci.,PartA:Polym.Chem.2000,38,1590
【非特許文献2】Brookhart,M.J.Chem.Soc.1996,118,267-268
【非特許文献3】Grubbs,R.Science 2000,287,460-462
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らはこのような状況に鑑みて検討した結果、種々の方法で合成したアルケニルジアルキルアルミニウムをプロピレンと共重合させ、プロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体を得た。また、これに酸化分解をはじめとする後反応を施すことにより、簡便に極性基を含有するプロピレン系共重合体を製造し得ることを見出した。さらに、この方法で製造された極性基を含有するプロピレン系共重合体は、後反応の調節により新規のコモノマー構造を持つ共重合体が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の知見に基づいて達成されたものであり、その要旨とするところは、プロピレンと下記化学式(A)で表されるアルケニルジアルキルアルミニウム化合物とを共重合して得られるプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体を、分解剤と反応させ、該共重合体中のジアルキルアルミニウム基を分解剤に対応する極性基に変換することを特徴とする極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法に存する。
【0010】
【化4】

【0011】
(式中、R1、R2は炭素数1〜20のアルキル基、nは1〜20の整数を示す。)
また、本発明の他の要旨とするところは、分解剤が酸素であり、極性基が水酸基であることを特徴とする前記の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法に存する。
【0012】
また、本発明の他の要旨とするところは、分解剤が二酸化炭素であり、極性基がカルボキシル基であることを特徴とする前記の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法に存する。
【0013】
また、本発明の他の要旨とするところは、分解剤が二酸化イオウであり、極性基がスルフィニル基であることを特徴とする前記の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法に存する。
【0014】
また、本発明の他の要旨とするところは、分解剤が三酸化イオウであり、極性基がスルフォニル基であることを特徴とする前記の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法に存する。
【0015】
また、本発明の他の要旨とするところは、プロピレン単位を50〜99.9モル%、下記化学式(C)で表される単位を0〜49.9モル%、下記化学式(D)で表される単位を0.1〜50モル%含有し、重量平均分子量が1,000〜1,000,000であることを特徴とする極性基含有プロピレン系共重合体に存する。
【0016】
【化5】

【0017】
(式中、nは1〜20の整数を示す。)
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、nは1〜20の整数、Xは−OH、−COOH、−SOOH又は−SOOOH基を示す。)
【0020】
また、本発明の他の要旨とするところは、nが2〜6で、XがOH基であることを特徴とする前記の極性基含有プロピレン系共重合体に存する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、新規なコモノマー構造を持つ、極性基含有立体規則性プロピレン系共重合体を与えるものである。高価な試薬や過酷な反応条件を用いることなく、製造できる。極性基として、水酸基、カルボキシル基、スルフィニル基などが適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
[アルケニルジアルキルアルミニウム化合物]
本発明で、プロピレンと共重合するアルケニルジアルキルアルミニウム化合物は、下記化学式(A)で表される。
【0023】
【化7】

【0024】
式中、R1、R2は炭素数1〜20のアルキル基、好ましくは炭素数1〜8のアルキル基、特に好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。またnは1〜20の整数、好ましくは2〜6の整数、より好ましくは4または6である。
【0025】
具体的には、プロペニルジエチルアルミニウム、プロペニルジイソブチルアルミニウム、ペンテニルジエチルアルミニウム、ペンテニルジイソブチルアルミニウム、ヘキセニルジイソブチルアルミニウム、ヘキセニルジエチルアルミニウム、オクテニルジイソブチルアルミニウム、オクテニルジエチルアルミニウム、デケニルジイソブチルアルミニウム、ドデケニルジイソブチルアルミニウム、ウンデケニルジイソブチルアルミニウム等を例示することができる。この中で好ましくは、ヘキセニルジイソブチルアルミニウム、ヘキセニルジエチルアルミニウム、オクテニルジイソブチルアルミニウム、オクテニルジエチルアルミニウムである。
【0026】
[アルケニルジアルキルアルミニウム化合物の製造法]
本発明に用いるアルケニルジアルキルアルミニウムは既知の多くの方法によって得られる。例えば、非共役ジエンのハイドロアルミネーション反応、アルケニルハライドと有機アルミニウム化合物のクロスカップリング反応、アルケニルリチウムやアルケニルマグネシウムといった有機金属化合物と有機アルミニウム化合物とのトランスメタル化反応等がある。この中で好ましい方法は、非共役ジエンのハイドロアルミネーション反応であり、非共役ジエンとジアルキルアルミニウムハイドライドを穏和な条件下で反応させて、アルケニルジアルキルアルミニウムを製造できる。
【0027】
[プロピレンとアルケニルジアルキルアルミニウムの共重合]
プロピレンとアルケニルジアルキルアルミニウムの共重合体を得る触媒は特に限定はされないが、通常プロピレンの重合に用いられる配位アニオン型の触媒を使用することができる。例えば、三塩化チタンを主成分とする触媒、マグネシウム、チタン、ハロゲン、電子供与体からなる固体を主成分とする触媒、いわゆるメタロセン触媒を使用することが出来る。この中でもアルケニルジアルキルアルミニウムの共重合性の観点からメタロセン触媒を使用することが好ましい。
【0028】
ここでメタロセン触媒とは、下記の成分(a)と成分(b)、必要に応じて成分(c)からなるものである。
【0029】
成分(a):共役五員環配位子を少なくとも1個有する周期表4〜6族の遷移金属化合物。
【0030】
成分(b):成分(a)を活性化させる活性化剤であり、下の(b−1)から(b−4)が挙げられる。
【0031】
(b−1)アルミニウムオキシ化合物
(b−2)成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換可能なイオン性化合物
(b−3)ルイス酸
(b−4)イオン交換性層状珪酸塩
成分(c):有機アルミニウム化合物。
【0032】
さらに、本発明に好適に用いられるメタロセン触媒は、所望のアイソタクチック特異性及びシンジオタクチック特異性を発現させるものが好ましい。
【0033】
ところで、本発明に於いては、コモノマーとしてアルケニルジアルキルアルミニウム化合物を使用するため、活性化剤として用いる(b−1)アルミニウムオキシ化合物を除いて、他の有機アルミニウム化合物を全く使用しない重合法も可能である。すなわち、アルケニルジアルキルアルミニウムはコノモマーとしても、成分(c)の有機アルミニウム化合物としても作用する。
【0034】
[重合方法]
本発明の共重合体を得るに際して、反応系中の各モノマーの量比は経時的に一定である必要はなく、各モノマーを一定の混合比で供給することも便利であるし、供給するモノマーの混合比を経時的に変化させることも可能である。また、共重合反応比を考慮してモノマーのいずれかを分割添加することもできる。
【0035】
本発明では下記化学式(B)で表される単位、即ちアルケニルジアルキルアルミニウム単位を最大50モル%導入することを目的としている。
【0036】
【化8】

【0037】
ここでこの様なアルケニルジアルキルアルミニウム単位を多量に含有する共重合体を得るための原料仕込み比を説明する。この仕込み比は重合反応に使用する触媒の共重合性やアルミニウム化合物の鎖長(炭素数)によって変化する。一般的に鎖長が長くなるとプロピレンに対する共重合性が低下する傾向にある。アルケニルジアルキルアルミニウム単位を最大50モル%導入するためのプロピレンとアルケニルジアルキルアルミニウムのモル比は、1:0.001〜1:10であり、好ましくは1:0.001〜1:5であり、より好ましくは1:0.001〜1:2である。
【0038】
重合様式は、触媒成分と各モノマーが効率よく接触するならば、あらゆる様式を採用しうる。具体的には、不活性溶媒を用いるスラリー法、不活性溶媒を実質的に用いずプロピレンを溶媒として用いるスラリー法、或いはアルケニルジアルキルアルミニウムを溶媒とするスラリー法、溶液重合法あるいは実質的に液体溶媒を用いない気相法などが採用出来る。また、連続重合、回分式重合、又は予備重合を行う方法も適用される。スラリー重合の場合には、重合溶媒として、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族又は芳香族炭化水素の単独または混合物が用いられる。重合温度は0〜200℃であり、また分子量調節剤として補助的に水素を用いることが出来る。重合圧力は0〜50kg/cm2Gの範囲で実施可能である。
【0039】
[プロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体]
本発明のプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体は、プロピレンから導かれる構造単位中に、下記化学式(B)で表されるアルケニルジアルキルアルミニウム由来の構造単位がランダムに分布したものであり、プロピレン単位を50〜99.9モル%、好ましくは60〜99.9モル%、より好ましくは65〜99.9モル%、化学式(B)で表される単位を0.1〜50モル%、好ましくは0.1〜40モル%、より好ましくは0.1〜35モル%含んでなるプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体である。
【0040】
【化9】

【0041】
アルミニウム由来の構造単位が0.1モル%より少ない場合には、ジアルキルアルミニウム基を極性基に変換した場合の効果(染色性、接着性等の改善)が得られ難い。また、50モル%より大きい場合には、ポリプロピレン本来の性能を出せないという問題がある。
【0042】
ところで、用途によってはアルミニウム由来の構造単位量の好ましい範囲が異なる。自動車材料や工業部品等の剛性や耐熱性を要求される用途に関しては、化学式(B)で表される単位の含有量は大き過ぎないことが好ましく、0.1〜5モル%、より好ましくは、0.1〜3モル%である。5モル%より大きい場合には、結晶性の低下をおこし剛性や耐熱性に悪影響を与えるからである。ところが、軟質材料や樹脂添加剤として使用する場合には、化学式(B)で表される単位の含有量が大きいことが好適であり、化学式(B)で表される単位の含有量は、20〜50モル%、好ましくは20〜40モル%、より好ましくは20〜35モル%である。
【0043】
また、本発明のプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体は、アイソタクチック、シンジオタクチック等の立体規則性を有していることが好ましい。特に好ましくは、13C−NMRの吸収スペクトルにおいてプロピレン単位のメチル基に帰属するピークの内、20.9ppm付近に観測されるピークの強度がプロピレン単位に帰属する全メチル基のピーク強度の0.5以上を示すアイソタクチック構造を持つか、13C−NMRの吸収スペクトルにおいてプロピレン単位のメチル基に帰属するピークの内、20.2ppm付近に観測されるピークの強度がプロピレン単位に帰属する全メチル基のピーク強度の0.5以上を示すシンジオタクチック構造を持つことである。この割合が0.5より小さい場合には製品のべたつき等が発生して問題となる。
【0044】
アルケニルジアルキルアルミニウム化合物の含有量と立体規則性の決定に関しては、13C−NMRを用いて決定する。測定条件は以下の通り。NMR装置:日本電子製JEOL−La−500、測定温度:120℃、溶媒:1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2、パルス角度:45゜、スキャン回数:1000、パルス間隔7秒。各吸収スペクトルの化学シフトの決定に関しては、1,1,2,2−テトラクロロエタンを内部標準として決定する。1,1,2,2−テトラクロロエタンの化学シフトは74.47ppmとする。
【0045】
本発明のプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体は非常に不安定であり、空気中の水分や酸素等で容易に分解を起こす。そこで、本発明では、重合生成物を窒素雰囲気下で、メタノールと反応させ、炭素−アルミニウムの結合を炭素−水素の結合に変換して、プロピレン由来のメチル基(16〜23ppm付近)とアルケニルジアルキルアルミニウム由来のメチル基(12〜15ppm付近)の吸収スペクトルの面積比からアルケニルジアルキルアルミニウム単位の共重合量の同定を行った。
【0046】
本発明のプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体の分子量は、重量平均分子量で1,000〜1,000,000、好ましくは3,000〜800,000〜、更に好ましくは、5,000〜600,000である。また、重量平均分子量と数平均分子量の比は特に制限がなく、重合条件によって広い範囲のものが製造出来るが、一般的に2〜8程度である。
【0047】
なお、重量平均分子量と数平均分子量は下の様にして測定する。すなわち、ウォーターズ社製150Cを用いて、ゲルパーミエーショングロマトグラフィーの手法により測定をおこなう。条件は測定温度:140℃、溶媒:オルトジクロロベンゼン、カラム:Shodex 80M/S 2本、分子量の算出は標準ポリスチレンから決定する。
【0048】
本発明のプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体の融点は、特に限定はされないが、一般的に70〜165℃であり、融解熱は10〜120(J/g)である。
【0049】
融点と融解熱の測定方法は、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製DSC−220)を使用し、シート状にしたサンプル片5mgをアルミパンに詰め、室温から一旦220℃まで昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で−40℃まで降温して結晶化させた後に、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)を融点とし、このピークの熱量を融解熱(J/g)とした。
【0050】
[極性基含有プロピレン系共重合体]
本発明の極性基含有プロピレン系共重合体について具体的に説明する。この共重合体はプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体を各種の分解剤と反応させることによって製造できる。すなわち、該共重合体中のジアルキルアルミニウム基(炭素−アルミニウム結合)を、分解剤に対応して各種の炭素−極性基の結合に変換することで得られる。
【0051】
分解剤との反応は、低分子有機アルミニウム化合物と無機化合物との反応に関する既知の方法に準じて実施することができる。分解剤としては、酸素、過酸化物、二酸化炭素、イオウ酸化物などが挙げられる。
【0052】
具体的には、酸素や過酸化物と接触させその後加水分解することにより、ジアルキルアルミニウム基を水酸基に変換することが可能であり、水酸基含有のプロピレン系共重合体が得られる(文献例:R.Rienacker and G. Ohloff,Angew.chem.,1961,73,240、P.Tesseire and M. Plattier,Recherches,1963,13,34 [Chem.abstr.,1964,60,15915])。また、二酸化炭素と接触させその後加水分解することにより、ジアルキルアルミニウム基をカルボキシル基に変換することが可能であり、カルボキシル基含有のプロピレン系共重合体が得られる(文献例:K.Zieglar,F.Krupp,K.Weyer and W.Larbig,Liebugs Ann.Chem.,1960,629,251)。更に、二酸化硫黄、三酸化硫黄と接触させその後加水分解することにより、それぞれ、ジアルキルアルミニウム基をスルフィニル(SOOH)基、スルフォニル(SOOOH)基に変換することが可能であり、これらの極性基を含有するプロピレン系共重合体が得られる(文献例:K.Zieglar,F.Krupp,K.Weyer and W.Larbig,Liebugs Ann.Chem.,1960,629,251、A.J.Kunchin,L.I.Akhmetov,V.P.Yur'ev and G.A.Tolstikov, J.Gen.Chem.USSR(Engl.Transl.),1978,48,420、A.J.Rutkowski andA.F.Turbak,US Pat.3121737 [Chem.abstr.,1964,60,10550])。
【0053】
ところで、本分解反応において、ジアルキルアルミニウム基を極性基に変換する割合は必ずしも100%である必要はない。必要に応じて、炭素−アルミニウム結合を単純に加水分解した(炭素−水素結合に変換した)化学式(C)の構造を持つ成分を含有させることができる。この様な部分的な分解をする方法としては、酸素や二酸化炭素とプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体を接触させる際に、アルコールや水等を混入させること、酸素や二酸化炭素をアルケニルジアルキルアルミニウムの含有量以下(当量以下)で接触させること、反応時の温度や時間などを変更することで達成することが可能である。
【0054】
本発明の極性基含有プロピレン系共重合体はプロピレンから導かれる構造単位中に、化学式(C)、化学式(D)で表される構造単位がランダムに分布したものであり、プロピレン単位を50〜99.9モル%、好ましくは60〜99.9モル%、より好ましくは65〜99.9モル%、化学式(C)で表される単位を0〜49.9モル%、好ましくは0〜40モル%、より好ましくは0〜30モル%、下限値としては、0.3モル以上が好ましい。化学式(D)で表される単位を0.1〜50モル%、好ましくは0.1〜40モル%、より好ましくは0.1〜35モル%含んでなる極性基含有プロピレン系共重合体である。化学式(D)で表される構造単位が0.1モル%より少ない場合には、染色性や接着性等の極性基の効果が得られない。また、50モル%より大きい場合には、ポリプロピレン本来の性能を出せないという問題がある。
【0055】
ところで、化学式(C)で表される構造単位の含有量は、本共重合体の結晶性に大きく影響する。このため化学式(C)で表される構造単位の含有量は、用途によって好ましい範囲が異なる。自動車材料や工業部品等の剛性や耐熱性を要求される用途に関しては、化学式(C)で表される単位の含有量は大きすぎないことが好ましく20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。20モル%より大きい場合には、結晶性の低下をおこし剛性や耐熱性に悪影響を与える。しかし、軟質材料や樹脂添加剤として使用する場合には、化学式(C)で表される単位の含有量が大きいことが好適であり、化学式(C)で表される単位の含有量は、20〜50モル%、好ましくは20〜40モル%である。
【0056】
化学式(C)、化学式(D)で表される構造単位の含有量は、前述の13C−NMRの測定条件と同様にして、プロピレン由来のメチル基(16〜23ppm)、化学式(C)で表される構造単位由来のメチル基(12ppm付近)、化学式(D)で表される構造単位由来のメチル基(40ppm以上)、ただし、カルボキシル基の場合にはカルボキシル基の炭素の吸収スペクトルの面積比から各単位の含有量を同定する。
【0057】
さらに、本発明の極性基を有するプロピレン系共重合体の分子量は、プロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体で記述した範囲の分子量、融点、融解熱を持つことが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の測定及び反応原料・助剤は下記の通りである。
【0059】
[物性の測定法]
(1)融点の測定及び融解熱の測定
セイコーインスツルメンツ社製DSC−220を使用し、シート状にしたサンプル片5mgをアルミパンに詰め、室温から一旦220℃まで昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で−40℃まで降温して結晶化させた後に、10℃/分で200℃まで昇温させた時の融解最大ピーク温度(℃)を融点とし、このピークの熱量を融解熱とした。
(2)分子量及び分子量分布の測定
ウォーターズ社製150Cを用いて、ゲルパーミエーショングロマトグラフィーの手法により測定した。条件は測定温度:140℃、溶媒:オルトジクロロベンゼン、カラム:Shodex 80M/S 2本、分子量の算出は標準ポリスチレンから決定した。
(3)アルケニルジアルキルアルミニウムの構造及び反応率の測定
1H−NMR、13C−NMRによる測定:日本電子製JEOL−La−300を用いて、室温条件下で、パルスフーリエ変換法にて実施した。
【0060】
ガスクロマトグラフィーによる測定:GLサイエンス社製GC−353を用い、
注入試料:1μml、インジェクション温度:250℃、検出器:FID、検出器温度、カラム温度:40℃で測定。反応混合物の組成の同定は、オーセンティックサンプルの保持時間との比較とクロマトグラムのピーク面積から算出した。
(4)共重合体のコモノマー含量の測定
13C−NMRを用いて前述の方法で決定した。測定条件は以下の通り。NMR装置:日本電子製JEOL−La−500、測定温度:120℃、溶媒:1,1,2,2−テトラクロロエタン−d2、パルス角度:45゜、スキャン回数:1000、パルス間隔7秒。
【0061】
また、本実施例における全ての反応は精製窒素雰囲気下で実施した。
【0062】
[原料、助剤]
(1)プロピレン:東燃化学社製プロピレンを60℃で酸化マンガン、モレキュラシーブ4Aの充填塔を通して精製した。
(2)1,7−オクタジエン:東京化成社製を水素化カルシウムを用いて脱水し、更に蒸留した。
(3)トルエン:水素化カルシウムを用いて脱水し、更に蒸留した。
(4)窒素、アルゴン:酸化マンガン、モレキュラシーブ4Aの充填塔を通して、微量の酸素と水分を除去した。
(5)ジイソブチルアルミニウムハイドライド:東ソーファインケム社製をそのまま使用した。
【0063】
(6)メタロセン錯体
・rac−ジメチルシリルビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド;rac−Me2Si[2−Me(Ind)2]ZrCl2
・ジフェニルメチリデン(シクロペンタジエニル)(9−フルオレニル)ジルコニウムジクロリド;
Ph2C[(Cp)(9−Flu)]ZrCl2
ボルダー サエティチフィック カンパニー社製をそのまま使用した。
(7)トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート;[Ph3C][B(C654]:旭硝子社製をそのまま使用した。
【0064】
[オクテニルジイソブチルアルミニウムの合成]
50mlの攪拌機付きガラス反応器に、1,7−オクタジエン(20ml:0.14mol)とジイソブチルアルミニウムハイドライド(2.5ml:0.014mol)を加え60℃で6時間反応させた。その後、残存する1,7−オクタジエンを減圧除去して反応生成物を得た。本反応生成物はガスクロマトグラフィーとNMRで分析をした。0.5mlの反応生成物を2mlのメターキシレン(内部標準)で希釈し、その後、蒸留水と塩酸を加えて分解して分析に用いた。その結果、オクテニルジイソブチルアルミニウムが定量的に生成していることを確認した。
【0065】
[実施例1]
[プロピレンとオクテニルジイソブチルアルミニウムの共重合]
200mlの攪拌機付きガラス反応器に、トルエンと前述の手法により得たオクテニルジイソブチルアルミニウム(0.034mol)を加えた、ここでトルエンの添加量は、オクテニルジイソブチルアルミニウムとトルエンの体積が100mlとなるように調整して加えた。反応器内を40℃とした。ここで、プロピレンを流通させ、内圧が1atmとなるようにプロピレンを溶解させた。ここで、[Ph3C][B(C654]を12μmol、rac−Me2Si[2−Me(Ind)2]ZrCl2を12μmolとなるようにトルエン溶液として添加し、40℃の温度で30分間重合を実施した。重合中はガスフローメーターでプロピレンの圧を1atmで維持した。30分後、少量のメタノール・塩酸を直接添加して重合反応を終了させた。反応生成物はろ別し、60℃で6時間減圧乾燥させ、プロピレン系共重合体を得た。この共重合体の重量と物性は表1に示す。
【0066】
この共重合体はアイソタクチック構造を有するものであり、13C−NMRの吸収スペクトルにおいてプロピレン単位のメチル基に帰属するピークの内、20.9ppm付近に観測されるピークの強度はプロピレン単位に帰属する全メチル基のピーク強度の0.94であった。
【0067】
[実施例2〜5]
添加するオクテニルジイソブチルアルミニウムの添加量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様の操作を実施した。得られたプロピレン系共重合体の収量及びポリマーの物性は表1に示す。
【0068】
[実施例6]
実施例1で使用したrac−Me2Si[2−Me(Ind)2]ZrCl2をPh2C[(Cp)(9−Flu)]ZrCl2に変更する以外は実施例1と同様の操作を実施した。得られたプロピレンとオクテニルジイソブチルアルミニウムの共重合体の収量及びポリマーの物性は表1に示す。
【0069】
この共重合体はシンジオタクチック構造を有するものであり、13C−NMRの吸収スペクトルにおいてプロピレン単位のメチル基に帰属するピークの内、20.2ppm付近に観測されるピークの強度はプロピレン単位に帰属する全メチル基のピーク強度の0.84であった。
【0070】
[実施例7〜9]
添加するオクテニルジイソブチルアルミニウムの添加量を表1のように変更した以外は、実施例6と同様の操作を実施した。得られたプロピレンとオクテニルジイソブチルアルミニウムの共重合体の収量及びポリマーの物性は表1に示す。
【0071】
[実施例10〜18]
実施例1〜9の方法によって30分の重合を行ったのち、乾燥酸素200ml/分を室温で1.5時間導入した。その後、反応生成物をろ別し、60℃で6時間減圧乾燥させ、水酸基含有プロピレン系共重合体を得た。これらの共重合体の物性は表2に示す。
【0072】
[参考例1]
実施例1に於いて、オクテニルジイソブチルアルミニウムの代わりに、トリイソブチルアルミニウム(0.0017mol)を加え、その他は実施例1と同様の操作を行い、プロピレン単独重合体8.0gを得た。このポリマーの物性は表1に示す。
【0073】
[参考例2]
実施例6に於いて、オクテニルジイソブチルアルミニウムの代わりに、トリイソブチルアルミニウム(0.0017mol)を加え、その他は実施例1と同様の操作を行い、プロピレン単独重合体3.7gを得た。このポリマーの物性は表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンと下記化学式(A)で表されるアルケニルジアルキルアルミニウム化合物とを共重合して得られるプロピレン−アルケニルジアルキルアルミニウム共重合体を、分解剤と反応させ、該共重合体中のジアルキルアルミニウム基を分解剤に対応する極性基に変換することを特徴とする極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法。
【化1】

(式中、R1、R2は炭素数1〜20のアルキル基、nは1〜20の整数を示す。)
【請求項2】
分解剤が酸素であり、極性基が水酸基であることを特徴とする請求項1に記載の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法。
【請求項3】
分解剤が二酸化炭素であり、極性基がカルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法。
【請求項4】
分解剤が二酸化イオウであり、極性基がスルフィニル基であることを特徴とする請求項1に記載の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法。
【請求項5】
分解剤が三酸化イオウであり、極性基がスルフォニル基であることを特徴とする請求項1に記載の極性基含有プロピレン系共重合体の製造方法。
【請求項6】
プロピレン単位を50〜99.9モル%、下記化学式(C)で表される単位を0〜49.9モル%、下記化学式(D)で表される単位を0.1〜50モル%含有し、重量平均分子量が1,000〜1,000,000であることを特徴とする極性基含有プロピレン系共重合体。
【化2】

(式中、nは1〜20の整数を示す。)
【化3】

(式中、nは1〜20の整数、Xは−OH、−COOH、−SOOH又は−SOOOH基を示す。)
【請求項7】
nが2〜6で、XがOH基であることを特徴とする請求項6に記載の極性基含有プロピレン系共重合体。

【公開番号】特開2007−126681(P2007−126681A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1088(P2007−1088)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【分割の表示】特願2002−49591(P2002−49591)の分割
【原出願日】平成14年2月26日(2002.2.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】