説明

極端紫外光発生装置の診断方法及び診断装置

【課題】迅速かつ的確な診断を行うことが可能な極端紫外光発生装置の診断方法を提供する。
【解決手段】極端紫外光の光源部で生成された複数の光パルスの光強度値の時系列データを生成する工程S2と、時系列データから統計データを生成する工程S3と、統計データに基づいて光源部の発光状態を評価する工程S4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、極端紫外光発生装置の診断方法及び診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の微細化にともない、露光光源に極端紫外(extreme ultraviolet:EUV)光を用いたリソグラフィ技術が提案されている。EUV光源としては、放電プラズマ(discharge produced plasma:DPP)方式及びレーザー生成プラズマ(laser produced plasma:LPP)方式が開発されている。DPP方式及びLPP方式ともに、パルス発光型の光源である。
【0003】
パルス発光型の光源では、各光パルスの出力が一定であることが望ましい。そのため、出力安定化制御が行われているが、現実には様々な理由により出力がばらついている。また、通常のばらつき分布から外れた「外れ値(outlier)」が生じる場合がある。この外れ値の出現は、出力安定化制御の誤差要因となるだけでなく、装置の故障の前兆を示している可能性もある。したがって、このような外れ値を迅速に検出して、装置の迅速な診断を行うことが重要である。
【0004】
しかしながら、従来は、外れ値を迅速かつ的確に検出することが困難であった。そのため、極端紫外光発生装置の迅速かつ的確な診断を行うことが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−208219号公報
【特許文献2】特開2008−59270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
迅速かつ的確な診断を行うことが可能な極端紫外光発生装置の診断方法及び診断装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る極端紫外光発生装置の診断方法は、極端紫外光の光源部で生成された複数の光パルスの光強度値の時系列データを生成する工程と、前記時系列データから統計データを生成する工程と、前記統計データに基づいて前記光源部の発光状態を評価する工程と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態に係る極端紫外光発生装置の診断方法及び診断装置が適用される露光装置の構成を模式的に示した図である。
【図2】放電プラズマ(DPP)方式の光源部の詳細な構成を模式的に示した図である。
【図3】図1に示した診断部の基本的な構成を示したブロック図である。
【図4】図1に示した診断部で行われる基本的な動作を示したフローチャートである。
【図5】光強度値の時系列分布の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る極端紫外光発生装置の診断方法及び診断装置が適用される露光装置の構成を模式的に示した図である。
【0011】
図1に示された装置は、極端紫外(EUV)光を用いた反射型の露光装置であり、光源部10、照明光学系20、投影光学系30及びウェハステージ40を備えている。すなわち、光源部10から照明光学系20を介して反射型フォトマスク50にEUV光が照射され、反射型フォトマスク50で反射された光が投影光学系30を介してウェハ60上に結像される。
【0012】
光源部10は、電源11、キャパシタ12、アノード13、カソード14、フォイルトラップDMT15及びコレクタ16を備えており、アノード13とカソード14との間に大電流を流すことでプラズマ17が発生する。この光源部10の詳細については、後述する。
【0013】
照明光学系20とフォトマスク50との間には露光量センサ70が配置されており、この露光量センサ70によって光源部10からのEUV光の強度が検出される。ウェハステージ40上には、照度計80が配置されている。また、露光量センサ70には、診断部90が接続されている。この診断部90の詳細については後述する。
【0014】
図2は、放電プラズマ(DPP)方式の光源部10の詳細な構成を模式的に示した図である。以下、光源部10の構成を説明するとともに、光源部10で発生し得る異常放電について説明する。
【0015】
真空チャンバ(図示せず)内には、電極101及び電極102が配置されており、電極101及び電極102間には絶縁体103が設けられている。電極101及び電極102の一方はアノードであり、他方はカソードである。電極101、電極102及び絶縁体103によって放電部が構成される。
【0016】
キセノンガス104を放電部に供給しながら、電極101及び電極102間に大電流を流すと、放電プラズマが発生する。このとき、電流を取り囲む磁場も発生する。磁場と電流とが相互作用をし、電流には中心方向に向かう磁気圧がかかる。その結果、放電部の略中心(貫通穴の中心)でプラズマが圧縮され、EUV放射に必要な温度及び密度を有するプラズマが生成される。このような大電流で発生する自己磁場によってプラズマが収束(ピンチ)する放電は、ピンチ放電と呼ばれる。このピンチ放電では、電子温度が30eV程度で、イオン密度が1017〜1018/cm2 程度の、波長13.5nmの発光に適したプラズマが得られる。
【0017】
ピンチ放電によって発生したプラズマ105からは、EUV光が放射される。EUV光は、集光鏡106を介して露光機側光学系(図示せず)に向けて放射される。集光鏡106は、回転楕円形状、回転放物形状或いは回転双曲面形状を有しており、ニッケルなどの金属材料で形成されている。集光鏡106の反射面には、EUV光を効率的に反射するために、ルテニウムやパラジウムなどの金属がコーティングされており、25度以下の入射角度のEUV光を良好に反射することができる。
【0018】
放電部で発生した高温プラズマからEUV光が放射される際に、放電部からはデブリが放出され、放出されたデブリはチャンバ内に飛散する。デブリには、高温プラズマによって侵食された放電部(電極101、電極102及び絶縁体103)からの生成物や、放電に寄与して分解された原料、放電に寄与せずに排出された原料、及びこれらの原料の反応生成物などが含まれる。
【0019】
プラズマ105と集光鏡106との間には、デブリを捕捉するためにフォイルトラップDMT108が配置されている。また、デブリを減速させるためにのガスカーテン用のガス供給部107が設けられている。
【0020】
デブリが絶縁体103に付着すると、プラズマ生成空間よりも絶縁体表面の方が抵抗が低くなる。そのため、絶縁体の表面を電流が流れやすくなる。このような絶縁不良に起因する寄生放電が発生すると、プラズマ生成空間に電流が流れにくくなる。その結果、プラズマの加熱が不十分となり、EUV光が弱まる或いはEUV光が放射されなくなる。このようなEUV光の放射に関わらない放電は、異常放電と呼ばれる。
【0021】
異常放電は、最初は単発的に発生するが、しだいに発生間隔が短くなり、最終的には電極間が短絡した状態になる。このとき、アノードとカソードとの間に過大な電流が流れる。その結果、電極が溶融するといった、致命的な問題が発生するおそれがある。
【0022】
異常放電が生じると、ピンチ放電電流が小さくなり、EUV光の強度が弱まる。したがって、EUV光の強度を常に監視し、EUV光の強度の異常な低下を迅速に検知できれば、異常放電に対する適切な対応が可能である。
【0023】
本実施形態では、以下のようにして、異常放電を迅速かつ適切に検出できるようにしている。
【0024】
図3は、図1に示した診断部90(EUV光発生装置の診断装置)の基本的な構成を示したブロック図である。図4は、図1に示した診断部90で行われる基本的な動作を示したフローチャートである。以下、図3及び図4を参照して、診断部90の構成(機能)及び動作等について説明する。
【0025】
図1に示したように、EUV光の光路の途中には露光量センサ70が配置されており、この露光量センサ70によってEUV光の強度が検出される。露光量センサ70によって得られた光強度は、診断部90内の光強度値取得部91に入力される。放電プラズマ(DPP)方式の光源はパルス発光型の光源であるため、光強度値取得部91では光源部で生成された複数の光パルスの光強度値が順次取得される(S1)。時系列データ生成部92では、光強度値取得部91で取得された複数の光パルスの光強度値の時系列データが生成される(S2)。
【0026】
図5は、光強度値取得部91で取得される光強度値の時系列分布の一例を示したものである。横軸は、光パルスの発生順を示した番号である。したがって、横軸は時間軸に対応している。縦軸は、各光パルスの強度を示している。図5に示した光パルス列の時間軸方向の分布をデータ化したものが、時系列データに対応する。なお、図5に示した例では、光強度値は概ね200〜300程度の範囲に収まっているが、極端に強度の低いパルスも存在する。このような極端に強度の低いパルスは、異常放電に起因するものと考えられる。
【0027】
時系列データ生成部92では、図5に示すように、一定期間Pに発生した光パルス列の時系列データを生成する。この時系列データの取得期間Pは、時間の経過にしたがってシフトされる。すなわち、時系列データの取得期間Pは、図5の横軸方向にシフトしてゆく。時系列データは、予め決められたフォーマットにしたがって記憶部に保存される。
【0028】
統計データ生成部93では、時系列データ生成部92で生成された時系列データから統計データを生成する(S3)。具体的には、統計データ生成部93では、時系列データから標本数N個(期間Pにおけるパルス数)のデータが読み出され、光強度値の平均値μ及び標準偏差sが算出される。
【0029】
発光状態評価部94では、統計データ生成部93で生成された統計データに基づいて、光源部の発光状態を評価する(S4)。具体的には、光源部で生成された各光パルスの光強度値が予め決められた評価基準を満たすか否かを判断する。より具体的には、外れ値(outlier:通常のばらつき分布から外れた値)であるか否かを検定したいパルスの光強度の計測データxk について、検定統計量τk を求める。検定統計量τk は、以下の式
τk =(μ−xk )/s
で表される。ただし、μは平均値、sは標準偏差である。なお、m番目のパルスを検定したい場合には、例えば、その直前の(m−1)番目までの一定期間Pについて求めた光強度値の平均値μ及び標準偏差sを用いる。このようにして求められた検定統計量τk の値(両側検定を行う場合には、τk の絶対値)が、有意点の値より大きいか否かの検定を行う。例えば、3を有意点として、τk >3であれば、計測データxk はμ±3σの範囲外である。この場合、計測データxk は外れ値であると判定され、計測データxk に対応するパルスは異常放電に基づくものであると判断される。
【0030】
発光停止判断部95では、発光状態評価部94での評価結果に基づいて、光源部の発光を停止させるか否かを判断する(S5)。例えば、評価基準を満たさない光強度値を有する光パルスの数が一定期間内に所定数を越えた場合に、発光を停止させる旨の判断をする。この判断結果は、診断部90から外部に送出される。発光停止判断部95での判断結果に基づき、光源部の発光を自動的に停止するようにしてもよいし、オペレータが光源部の発光を停止するようにしてもよい。
【0031】
以上のように、本実施形態では、光パルスの光強度値の時系列データから統計データを生成し、統計データに基づいて極端紫外(EUV)光の光源部の発光状態を評価する。このような手法によって発光状態を評価することで、異常値(外れ値)をほぼリアルタイムで迅速且つ的確に検出することができ、光源の発光状態の迅速且つ的確な診断を行うことが可能である。異常値(外れ値)を検出する際に、予め決められた閾値を設定しておくことも考えられるが、発光強度は一般に装置間で異なり装置内でも変動するため、一定の閾値を予め設定しておくことは困難である。本実施形態では、上記のような手法を用いることで、異常値(外れ値)を常に適切に検出することが可能である。そして、光源に異常が生じたと判断された場合には、光源の発光を停止するといった的確な対策を迅速に行うことができる。その結果、光源トラブルによる装置停止時間を短縮することができ、半導体装置の生産性を高く維持することが可能となる。
【0032】
なお、上述した実施形態は種々の変更が可能である。
【0033】
上述した実施形態において、時系列データが正規分布で表現できるような場合には、発光状態を評価する際に、統計的検定法としてスミルノフ・グラッブス(Smirnov-Grubbs)検定法を用いることが可能である。具体的には、検定したいパルスの光強度の計測データxk について、検定統計量Gk を求める。検定統計量Gk は、以下の式
k =|μ−xk|/s
で表される。ただし、μは平均値、sは標準偏差である。この値Gk が有意点の値よりも大きいか否かの検定を行う。すなわち、以下の式(1)が成り立つ場合に、計測データxk は外れ値(異常値)であると判定される。
【数1】

【0034】
ただし、Nは標本数、αは予め決められた有意水準、tα/(2N),N-2は自由度N−2のt分布のα/2N×100パーセンタイルである。
【0035】
上記のように、スミルノフ・グラッブス検定法を用いた場合にも、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。また、スミルノフ・グラッブス検定法を用いることにより、外れ値の検定をより正確に行うことができる。
【0036】
また、上述した実施形態において、発光状態を評価する際に、統計データの平均値及び分散値の少なくとも一方が所定条件を満たすか否かを判断するようにしてもよい。すなわち、一定期間の時系列データについて統計データの平均値及び分散値の少なくとも一方を算出し、算出された値が所定条件を満たさない場合に、発光状態が異常であるとの判断をするようにしてもよい。例えば、平均値が基準値以下である場合に、発光状態が異常であるとの判断をするようにしてもよい。このような方法を用いても、上述した実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0037】
また、上述した実施液体では、EUV光源として放電プラズマ(DPP)方式を用いた場合について説明したが、EUV光源としてレーザー生成プラズマ(LPP)方式を用いた場合にも、上述した効果と同様の効果を得ることが可能である。
【0038】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
10…光源部 11…電源 12…キャパシタ
13…アノード 14…カソード 15…フォイルトラップDMT
16…コレクタ 17…プラズマ
20…照明光学系 30…投影光学系 40…ウェハステージ
50…反射型フォトマスク 60…ウェハ 70…露光量センサ
80…照度計 90…診断部
91…光強度値取得部 92…時系列データ生成部
93…統計データ生成部 94…発光状態評価部
95…発光停止判断部
101…電極 102…電極 103…絶縁体
104…キセノンガス 105…プラズマ 106…集光鏡
107…ガス供給部 108…フォイルトラップDMT

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外光の光源部で生成された複数の光パルスの光強度値の時系列データを生成する工程と、
前記時系列データから統計データを生成する工程と、
前記統計データに基づいて前記光源部の発光状態を評価する工程と、
を備え、
前記光源部の発光状態を評価する工程は、統計的検定法を用いて行われ、
前記統計的検定法は、スミルノフ・グラッブス検定法を含む
ことを特徴とする極端紫外光発生装置の診断方法。
【請求項2】
極端紫外光の光源部で生成された複数の光パルスの光強度値の時系列データを生成する工程と、
前記時系列データから統計データを生成する工程と、
前記統計データに基づいて前記光源部の発光状態を評価する工程と、
を備えたことを特徴とする極端紫外光発生装置の診断方法。
【請求項3】
前記光源部の発光状態を評価する工程は、統計的検定法を用いて行われる
ことを特徴とする請求項2に記載の診断方法。
【請求項4】
前記統計的検定法は、スミルノフ・グラッブス検定法を含む
ことを特徴とする請求項3に記載の診断方法。
【請求項5】
前記光源部の発光状態を評価する工程は、前記光源部で生成された各光パルスの光強度値が予め決められた評価基準を満たすか否かを判断する工程を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の診断方法。
【請求項6】
前記光源部の発光状態を評価する工程は、前記統計データの平均値及び分散値の少なくとも一方が所定条件を満たすか否かを判断する工程を含む
ことを特徴とする請求項2に記載の診断方法。
【請求項7】
前記発光状態の評価に基づいて前記光源部の発光を停止させるか否かを判断する工程をさらに備えた
ことを特徴とする請求項2に記載の診断方法。
【請求項8】
前記時系列データの取得期間は、時間の経過にしたがってシフトされる
ことを特徴とする請求項2に記載の診断方法。
【請求項9】
極端紫外光の光源部で生成された複数の光パルスの光強度値の時系列データを生成する時系列データ生成部と、
前記時系列データから統計データを生成する統計データ生成部と、
前記統計データに基づいて前記光源部の発光状態を評価する発光状態評価部と、
を備えたことを特徴とする極端紫外光発生装置の診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−74132(P2013−74132A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212326(P2011−212326)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】