説明

極細繊維構造体の製造方法

【課題】数ミクロンを越えるような孔が存在せず、高い選択透過性能を要求される用途に好適に用いることができる極細繊維構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に静電紡糸法によりポリマー溶液から極細繊維を形成し、極細繊維構造体の製造する方法であって、(1)帯電電極と対向電極との間の電位差により形成される電界中で、(2)帯電電極と対向電極との間に、両電極に接触させずに基材を配置し、(3)帯電電極である部位から極細繊維を形成するポリマー溶液を放散させ、(4)放散されたポリマー溶液は極細繊維を形成しながら基材上に集積させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電紡糸法によりポリマー溶液から極細繊維からなる構造体を成形する極細繊維構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電解紡糸の改良手段は数多く提案がなされており、得られる極細繊維網の繊維径や品質、生成速度の改善が図られている。例えば、特許文献1には、ポリマー溶液を拡幅して薄膜状に吐出する吐出孔と、前記吐出孔から吐出されたポリマー溶液を薄膜状に流下させる傾斜面と、前記傾斜面に対して垂直に延在した方向に前記傾斜面と平行かつ対向して設けられた対向電極とを備え、前記傾斜面を流下するポリマー溶液から極細繊維を紡出して対向電極上に捕集する方法が開示されている。また、特許文献2には、繊維を紡出する紡糸ヘッドと紡出された繊維を捕集するコレクターとの間に大きな電位差を付与して強電界場を形成した雰囲気中に荷電した紡糸液を紡出して極細繊維からなる集合体をコレクター上に形成するためのエレクトロスピニング装において、紡糸液を拡幅して薄膜状に吐出する吐出孔と、吐出孔から吐出された紡糸液を薄膜状に流下させる紡糸液の貯留部と、紡糸液の貯留部に対して垂直に延在した方向に紡糸液の貯留部と平行かつ対向して設けられたコレクターとを備え、紡糸液の貯留部を流下する紡糸液から極細繊維を紡出してコレクター上に捕集する方法が開示されている。さらに、特許文献3には、対極板のコレクター部において微小凹凸パターン構造を有する基材を鋳型とすることでマイクロパターン構造を持つナノ・マイクロファイバー不織布を製造する方法が開示されている。これらはそれぞれ電界紡糸の効率化、すなわち比較的速い速度で極細繊維を形成せしめる点において有効性が認められるが、品質や均一性の点においては未だ充分ではない。
【0003】
特に得られる極細繊維網の網目、すなわち極細繊維により形成された孔のサイズが、数ミクロンを越えることがあり、これは特に選択透過を目的とする用途では、その選択性を著しく損なうといった致命的ともいえる欠陥がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−190055号公報
【特許文献2】特開2009−127150号公報
【特許文献3】特開2006−328562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記のような問題を鑑みなされたものであり、数ミクロンを越えるような孔が存在せず、高い選択透過性能を要求される用途に好適に用いることができる極細繊維構造体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため検討したところ、通常、基材を対向電極に接触させ対向電極と同じ電位となるよう配置し、該基材にポリマー溶液を放散させて極細繊維構造体を形成すするが、基材を対向電極とに特定の距離を設けたところ、極細繊維が基材上に均一に集積されることを見出し、本発明に至ったものである。かくして本発明によれば、基材上に静電紡糸法によりポリマー溶液から極細繊維を形成し、極細繊維構造体の製造する方法であって、(1)帯電電極と対向電極との間の電位差により形成される電界中で、(2)帯電電極と対向電極との間に、両電極に接触させずに基材を配置し、(3)帯電電極である部位から極細繊維を形成するポリマー溶液を放散させ、(4)放散されたポリマー溶液は極細繊維を形成しながら基材上に集積させることを特徴とする極細繊維構造体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、帯電電極に接触させずに基材を配置することで、数ミクロンを越えるような大きな孔が成形されず、均一で高品質の極細繊維構造体を容易に製造することができる。本発明によれば、基材の繊維存在密度や凹凸にとらわれずに比較的均一に極細繊維網が集積され、極細繊維構造体に形成されるミクロンサイズの大きな孔の発生を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、基材上に静電紡糸法によりポリマー溶液から極細繊維を形成し、極細繊維構造体の製造する方法であって、(1)帯電電極と対向電極との間の電位差により形成される電界中で、(2)帯電電極と対向電極との間に、両電極に接触させずに基材を配置し、(3)帯電電極である部位から極細繊維を形成するポリマー溶液を放散させ、(4)放散されたポリマー溶液は極細繊維を形成しながら基材上に集積させることを特徴とすることを特徴とする。
【0009】
本発明で用いるポリマー溶液は、洩糸性ポリマーを、これが可溶な適切な溶媒により溶解させた溶液で且つ洩糸性を有するものを指す。ただし、次に示す特徴を備えている。具体的には、芳香族ポリアミド溶液、セルロース溶液、ポリビニルアルコール溶液、ポリウレタン溶液、ポリアミド溶液などを好適に挙げることができるが、これらに限定されるものではない。適切な加熱・耐熱設備とすれば、融点を持つポリマーを溶融状態でポリマー溶液に替えて用いることもできる。
【0010】
本発明における洩糸性ポリマー溶液を放散する部位とは、継続的または断続的に洩糸性ポリマー溶液が供給されて空間中へ静電力などで洩糸しながら放出する部位を差す。具体的には、中空のシリンジの先端部や、洩糸性ポリマー溶液をすくい上げる部位、微孔が側面に存在する管などを挙げることができる。
【0011】
本発明における帯電電極は、上記の洩糸性ポリマー溶液を放散する部位である。その素材はステンレスやアルミ、銅などの金属が好適であるが、直流電源にて電荷を負荷できるのであればこれらに限定されるものではない。
【0012】
一方、本発明において対向電極は、特に制限は無いが、基材に接触させずかつ基材全体の電位を例えば0kV以下に保つような構造として、素材がステンレス、アルミ、銅などの金属製で平板状のものなどを例示することができる。
【0013】
本発明において基材は、織物、編物、不織布などを例示することができる。また、これらを構成する繊維は、合成繊維であっても天然繊維または無機繊維であっても良い。天然繊維としては、セルロース繊維、タンパク質繊維など、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維などが挙げられる。合成繊維としては、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維などのポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維などのポリエステル繊維、ナイロン6繊維、ナイロン66繊維などの脂肪族ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル繊維、芳香族ポリアミド繊維などが挙げられる。
【0014】
本発明では、(2)帯電電極と対向電極との間に、両電極に接触させることなく基材が配置されていることが肝要であり、基材と対向電極とが同じ電位であることが好ましい。従来の電解紡糸においては、対向電極と基材とを接触し一体化して、これらと帯電電極との電位差による静電力(クーロン力)により帯電電極からポリマー溶液を引張り出し、基材へと誘導していた。しかし、この方法では、基材あるいはそれと接触一体となっている対向電極の部位による導電抵抗の僅かな差によって、比較的電気が流れ難い部位の極細繊維の積層が阻害されてしまい、極細繊維網にミクロンメートル(μm)サイズあるいはミリメートル(mm)サイズの孔が形成されてしまう。このような場合、得られる極細繊維構造体をフィルターなどに用いたとき、選択透過性能を著しく損なわれることになる。これに対して本発明では、基材が対向電極とが接触していないため、上記のような導電抵抗の僅かな差による影響を受けず、極細繊維が対向電極に向かう途上で基材に捕らえられる形となり、結果として、得られる極細繊維網にミクロンメートルサイズあるいはミリメートルサイズの孔が生じない。また、基材と対向電極とを同じ電位とすることで、より安定して上記の効果が得られ、均一な極細繊維網を形成することができる。
【0015】
基材の設置方法は、基材の両端辺を固定しスクリーン状に張ってよいし、基材幅以上の幅を有する供給ローラと、引取または巻取ローラ間にスクリーン状に基材を張ってもよい。特に後者の場合は、長尺の基材を連続して供給することが可能となる。
【0016】
本発明においては、装置等によっても異なるが、帯電電極と基材との距離は、好ましくは5〜50cm、より好ましくは10〜30cmである。帯電電極と基材との距離があまり短すぎると極細繊維網の形成が難しくなる傾向にあり、あまり長すぎても帯電電極からポリマー溶液を引張り出し、極細繊維を形成しながら基材へと誘導するのが難しくなる傾向にある。一方、基材と対向電極との距離は、好ましくは0.5〜5cm、より好ましくは1〜3cmである。基材と対向電極との距離があまり短すぎると両者が接触しやすくなり、あまり長すぎても、基材の電位と対向電極の電位が大きく異なることになり、帯電電極からポリマー溶液を引張り出し、極細繊維を形成しながら基材へと誘導するのが難しくなり、また、基材の電位も不安定となって、極細繊維網にミクロンメートルサイズあるいはミリメートルサイズの孔が形成されやすくなる。
【0017】
また、下記式で表される帯電電極と基材の単位電位差は0.5〜50kV/cmであることが好ましい。なお、単位電位差は下記式で表される数値の絶対値とした。単位電位差が0.5kV/cmを下まわると極細繊維の積層速度が遅くなり、現実的に極細繊維網を得るのに時間が掛かり過ぎるといった難点が生じる場合がある。また、単位電位差が50kV/cmを超えると、クーロン力が強く、電気力線が乱れて極細繊維の積層ムラが生じる場合がある。さらに、上記の同様の理由から、帯電電極と対向電極の電位差は1〜500kVであることが好ましい。
単位電位差(kV/cm)=(帯電電極の電位(kV)−基材の電位(kV))/帯電電極と基材との距離(cm)
上記方法で得られる極細繊維の直径としては、好ましくは10〜800nm、より好ましくは10〜600nmである。
【0018】
本発明においては、以上に説明した極細繊維構造体の製造方法を組み込んだり、応用したりして、これを含む電界紡糸装置または電界紡糸システムとすることができる。
また、本発明には、上記の極細繊維構造体の製造方法、これを含む電界紡糸装置または電界紡糸システムにより成形した極細繊維積層体が含まれる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその説明内容に限定されるものではない。なお、実施例で用いた試験片の作製方法、評価方法は下記の通りである。
【0020】
(1)極細繊維により形成された孔のサイズの測定、評価方法
得られた超極細繊維網をまず、目視観察し、目視観察でも判る1mm以上の孔(mmサイズの孔と称することがある)の有無を確認した。これがない場合、レーザー型顕微鏡で任意の10cm×10cmの範囲で1000倍の倍率で30箇所を無作為に選択して1μm以上1mm未満の孔(μmサイズの孔と称することがある)の有無を確認した。mmサイズの孔が1つでもあれば本発明の狙いとする効果がないと判断する。また、μmサイズの孔が4つ以上あっても本発明の狙いとする効果がないと判断した。
【0021】
(2)繊維径の測定
極細繊維層から任意にサンプリングした繊維100本について、走査型電子顕微鏡JSM6330F(JEOL社製)にて測定し、繊維径の平均値を求めた。なお測定は、30,000倍の倍率で行った。
【0022】
(3)選択透過能力(フィルター性能)の評価
得られた極細繊維網と基材が一体となったものを試験片に用い、0.3μmのNaCl粒子の試験用粉塵含有空気を面速度5.3cm/sになるように試験用フィルターに流し、フィルター前後の圧力差(圧力損失)を微差圧計にて測定し、さらにフィルター上流側および下流側におけるNaCl粒子濃度CINおよびCOUTを、それぞれパーティクルカウンタによって測定し、下記式によって捕集効率を求めた。
捕集効率(%)=(1−CIN/COUT)×100
【0023】
[実施例1]
極細繊維を積層せしめうる基材には、平均繊維径25μmで、目付け50g/mのポリプロピレンからなるスパンボンド不織布を使用した。
また、ポリマー溶液には、界面重合法により次に示すものを用いた。イソフタル酸クロライド14.2gを金属ナトリウムにて脱水したテトラヒドロフラン100mlに溶解し、攪拌しながら、メタフェニレンジアミン7.41gをテトラヒドロヒラン100mlに溶解した溶液を細流として徐々に加えていくと白濁した乳化液を作製した。攪拌を約5分継続した後、炭酸ソーダ14.8gおよび食塩28.0gを300mlの水に溶かした水溶液を速やかに加え、約5分間激しく攪拌した。得られた白色重合体を静置して沈殿させ、透明な水溶液相を除去、ろ過することで芳香族ポリアミドポリマー(ポリメタフェニレンイソフタルアミド)を得た。これをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に、10重量%となるように溶解し、ポリマー溶液を得た。
【0024】
電界紡糸(エレクトロスピニング)を特開2006−336173号公報記載の方法に準じて実施して極細繊維網を基材上に積層し、極細繊維構造体を得た。この電界紡糸の際、基材は帯電電極と対向電極との間に配し、帯電電極と基材との距離を20cm、基材と対向電極との距離を1cmとした。帯電電極の電位をプラス10kV、対向電極の電位をマイナス10kVとした。基材は帯電電極と同じプラス10kVを印加した。この電解紡糸は20分間実施した。得られた極細繊維層の単位面積あたりの重量(積層量)は0.1g/mであった。mmサイズの孔の数は0、μmサイズの孔も0であった。繊維径は150nm、フィルター性能の圧力損失は28Pa、捕集効率は57%であった。結果を表1に示す。
【0025】
[比較例1]
基材と対向電極と接触させて一体として電界紡糸をおこなった以外は実施例1と同様にして、極細繊維構造体を得た。結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2〜10]
電界紡糸の各種条件やポリマー溶液を表1のように変えて、また、実施例2は基材と対向電極との距離を4cmに変更して、電界紡糸を行った以外は実施例1と同様に実施し評価を行った。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、基材の繊維存在密度や凹凸にとらわれずに比較的均一に極細繊維が集積され、極細繊維構造体に形成されるミクロンサイズ大の孔の発生を低減することができ、高品質の極細繊維構造体の製造することができる。このため、フィルター用途など、高い選択透過性能が要求される用途に広く応用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に静電紡糸法によりポリマー溶液から極細繊維を形成し、極細繊維構造体の製造する方法であって、(1)帯電電極と対向電極との間の電位差により形成される電界中で、(2)帯電電極と対向電極との間に、両電極に接触させずに基材を配置し、(3)帯電電極である部位から極細繊維を形成するポリマー溶液を放散させ、(4)放散されたポリマー溶液は極細繊維を形成しながら基材上に集積させることを特徴とする極細繊維構造体の製造方法。
【請求項2】
基材の電位が対向電極の電位と同じである請求項1に記載の極細繊維構造体の製造方法。
【請求項3】
下記で表される帯電電極と基材との単位電位差が0.5〜50kV/cmである請求項1または2記載の極細繊維構造体の製造方法。
単位電位差(kV/cm)=(帯電電極の電位(kV)−基材の電位(kV))/帯電電極と基材との距離(cm)
なお、単位電位差は上記式で表される数値の絶対値を示す。
【請求項4】
ポリマー溶液が、芳香族ポリアミド溶液、セルロース溶液、ポリビニルアルコール溶液、ポリウレタン溶液、ポリアミド溶液のいずれかである請求項1〜3のいずれかに記載の極細繊維構造体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の極細繊維構造体の製造方法を含む電界紡糸装置または電界紡糸システム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の極細繊維積層体の製造方法により成形した極細繊維構造体。

【公開番号】特開2011−122258(P2011−122258A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279377(P2009−279377)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】