説明

楽器用木質材料の製造方法、該製造方法により得られる楽器用木質材料及び該楽器用木質材料を用いた楽器

【課題】天然の楽器用木材と類似した振動特性を有する楽器用木質材料を、簡単に製造することができる製造方法を提供すること。
【解決手段】複数の、厚さ0.2〜0.6mmの木材単板を、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して積層体を得る第1の積層工程と、得られた積層体を、繊維方向に沿って、積層面に垂直方向に一定角度でスライスして厚さ0.2〜0.6mmの積層単板を得、得られた積層単板に、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して第2の積層体を得る第2の積層工程とを有し、第1及び/又は第2の積層工程において、積層体の密度を0.8〜1.4g/cmの範囲内に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器用木質材料の製造方法、該製造方法により得られる楽器用木質材料及び該楽器用木質材料を用いた楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クラリネット等の木管楽器をはじめとする多くの楽器の製作には、主に、グラナディラ、ローズウッド等の天然の木材が用いられている。このような天然の木材を用いた楽器は音質がよいため、広く用いられている。
しかしながら、天然の木材を用いた楽器には以下のような問題がある。
・原料となるグラナディラやローズウッド等の木材が希少であり、種の存続の危機にあること、また、それゆえに高価であること。
・乾燥が難しく、楽器の製作に長期間(一般的には約3年)を要すること、すなわちリードタイムが長いこと。
・歩留まりが低いこと(通常、不良率が約30%)。
・天然の材料であるので、色調に差があり、多部品で構成される楽器では、色あわせが困難であること、また、固さや密度などの性質にもばらつきが大きく、音質にも個体差が生じてしまうこと。
・外観デザインの自由度が少ないこと。
・乾燥や急激な温度変化、水分の付着等によって割れ易く、手入れに手間がかかること。
【0003】
一方、天然の木材以外の楽器用材料としては、グラナディラの木粉とエポキシ樹脂との複合材料や、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体)樹脂、アクリル樹脂等の人工材料がある。
グラナディラの木粉とエポキシ樹脂との複合材料を用いた楽器の場合、割れにくく、歩留まりがよく、また、個体差が少ないという利点を有しているものの、以下のような問題がある。
・原料となるグラナディラが種の存続の危機にあること、また、それゆえに高価であること。
・外観デザインの自由度が少ないこと。
・音質が悪いこと。
・天然の材料を用いた場合に見られる木目などが見られないなど、外観が悪いこと。
また、ABS樹脂やアクリル樹脂を用いた楽器の場合、安価で、耐水性には優れるものの、音質が悪く、オーケストラ等で使用できるものではない。また、外観も悪い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記複合材料や人工材料を用いた楽器は、特に、楽器にとって最も重要な音質が、天然の木材を用いた楽器に比べて非常に劣っている。
このような音質の悪さには、用いている材料の振動特性が影響していると考えられる。
振動特性の中で、木管楽器の音質に対しては特に、密度や、繊維方向の弾性率(EL)と接線方向の剛性率(横(剪断)弾性率;GTL)との比(EL/GTL)が関係している。
EL/GTLは、ティモシェンコ方程式を用いて、材料の寸法、質量及びモード角振動数を測定することにより算出される値であり、EL/GTLがグラナディラ等の天然の木材のEL/GTLに近いほど、好ましい楽器用材料となる。
【0005】
密度とEL/GTLの両方の値がそれぞれ近い材料同士は、よく似た振動特性を示すので、上述のような複合材料や人工材料の密度及びEL/GTLの値を、製作しようとする楽器に用いられている木材に近づければ、それらの木材に近い振動特性の材料が製造できると考えられる。例えば、グラナディラの場合、その密度はおよそ1.0〜1.4g/cmに分布しており、EL/GTLの値はおよそ4〜7に分布している。
【0006】
しかしながら、密度とEL/GTLの両方の値を楽器に適した値に調整することは、これまで非常に困難であった。例えば、前記グラナディラの木粉とエポキシ樹脂との複合材料や、ABS樹脂、アクリル樹脂等を圧縮して、密度を所望の値に調整したとしても、EL/GTLの値と密度との間に関連性はなく、EL/GTLの値を調整することは難しい。そのため、望ましい振動特性を有する材料の製造には、手間も時間もかかってしまい、コストが高くなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、以下の利点を有し、且つ、天然の楽器用木材と類似した振動特性を有する楽器用木質材料を、簡単に製造することができる製造方法を提供することを目的としている。
・希少な天然木材を使用しなくてもよく、省資源、省コストが達成できる。
・天然の楽器用木材とよく似た振動特性を有し、製造される楽器の音質が良好。
・振動特性や色調のばらつきがないので、個体差が少なく、部品合わせが容易。
・割れにくく、リードタイムが短い。
・歩留まりが向上し、材料コストが低減。
・外観デザインの自由度が大きい。
・外観が良好。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、繊維方向が一定に揃った積層体を、密度が0.8〜1.4g/cmの範囲内の所定の値になるように圧縮、接着することにより上記目的が達成されることを発見し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、前記課題を解決する本発明の第一の発明は、複数の、厚さ0.2〜0.6mmの木材単板に、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して積層体を得る積層工程を有し、積層工程において、積層体の密度を0.8〜1.4g/cmの範囲内に調整することを特徴とする楽器用木質材料の製造方法である。
前記課題を解決する本発明の第二の発明は、複数の、厚さ0.2〜0.6mmの木材単板を、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して積層体を得る第1の積層工程と、得られた積層体を、繊維方向に沿って、積層面に垂直方向に一定角度でスライスして厚さ0.2〜0.6mmの積層単板を得、得られた積層単板に、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して第2の積層体を得る第2の積層工程とを有し、第1及び/又は第2の積層工程において、積層体の密度を0.8〜1.4g/cmの範囲内に調整することを特徴とする楽器用木質材料の製造方法である。この場合、好ましくは、前記第2の積層工程において、積層体の密度を0.8〜1.4g/cmの範囲内に調整する。
前記木材単板の一部は紙に置き換えてもよい。
前記課題を解決する本発明の第三の発明は、前記楽器用木質材料の製造方法を用いて得られる楽器用木質材料である。
前記課題を解決する本発明の第四の発明は、前記楽器用木質材料の製造方法を用いて得られた厚さ20mm以下の楽器用木質材料を、複数枚、繊維方向を一定に揃えて積層してなる楽器用木質材料である。
前記課題を解決する本発明の第五の発明は、前記楽器用木質材料を用いた楽器である。
前記楽器は木管楽器であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の楽器用木質材料の製造方法により、以下の利点を有し、且つ、天然の楽器用木材と類似した振動特性を有する楽器用木質材料を、簡単に製造することができる。
・希少な天然木材を使用しなくてもよく、省資源、省コストが達成できる。
・天然の楽器用木材とよく似た振動特性を有し、製造される楽器の音質が良好。
・振動特性や色調のばらつきがないので、個体差が少なく、部品合わせが容易。
・割れにくく、リードタイムが短い。
・歩留まりが向上し、材料コストが低減。
・外観デザインの自由度が大きい。
・外観が良好。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をより詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法の第1の実施態様を示す工程図である。第1の実施態様では、まず、(a)複数の、厚さ0.2〜0.6mmの木材単板1を用意し、(b)これらの木材単板1を、染料を含む染色液2中に浸漬するなどして任意の色に染色して、乾燥後、(c)それらの木材単板1を、樹脂を含む樹脂溶液3中に浸漬するなどして、木材単板1の全部又は一部に樹脂を含浸させる。または、樹脂溶液3を、木材単板1の全部又は一部に塗布してもよい。そして、(d)繊維方向Dを揃えて積層し、樹脂が含浸された複数の木材単板1が積層された積層体4を得る。
次いで、(e)得られた積層体4を、適当なプレス手段5を用いて、積層体4全体の密度が0.8〜1.4g/cmの範囲内で所望の値になるようにプレス圧力を調整して熱プレス圧締し、樹脂を硬化させることにより、各木材単板1を接着し、楽器用木質材料6を得る。
【0012】
図2は、本発明の製造方法の第2の実施態様を示す工程図である。尚、以下に記載する実施形態において、第1の実施形態に対応する構成要素には、同一の符号を付す。第2の実施態様では、まず、(a)複数の、厚さ0.2〜0.6mmの木材単板1を用意し、(b)これらの木材単板1を、染料を含む染色液2中に浸漬するなどして任意の色に染色して、乾燥後、(c)それらの木材単板1を、樹脂を含む樹脂溶液3中に浸漬するなどして、木材単板1の全部又は一部に樹脂を含浸させる。または、樹脂溶液3を、木材単板1の全部又は一部に塗布してもよい。そして、(d)繊維方向Dを揃えて熱圧積層し、複数の木材単板1が接着積層された第1の積層体7を得る第1の積層工程を行う。
次いで、(g)得られた第1の積層体7を、積層面に垂直に、適当なスライス手段8を用いて、繊維方向Dに沿ってスライスして厚さ0.2〜0.6mmの積層単板9を得るスライス工程を行う。このとき、積層体7は、積層面に垂直方向だけでなく、垂直方向に任意の一定角度をつけてスライスしてもよい。
そして、(h)得られた積層単板9を、樹脂を含む樹脂溶液3’中に浸漬するなどして、積層単板9の全部又は一部に樹脂を含浸させる。樹脂溶液3’に含まれる樹脂は、第1の積層工程で用いた樹脂と同じでも異なっていてもよい。また、樹脂溶液3’を、積層単板9の全部又は一部に塗布してもよい。そして、(i)繊維方向D’を一定に揃えて熱圧積層して第2の積層体10を得る。(j)得られた第2の積層体10を、適当なプレス手段5を用いて、第2の積層体10全体の密度が0.8〜1.4g/cmの範囲内で所望の値になるようにプレス圧力を調整してプレス圧締し、樹脂を硬化させることにより、各積層単板9を接着し、楽器用木質材料11を得る。
【0013】
なお、上記第1の実施態様及び第2の実施態様において用いられている木材単板及び積層単板の一部を紙に置き換えて、同様の方法で楽器用材料を製造することもできる。紙を用いる場合、例えば、樹脂を含浸した紙と、木材単板及び/又は積層単板とを、交互に積層した後、プレス圧締して樹脂を硬化させることにより接着することもできる。木材単板及び/又は積層単板に換えて紙を用いる場合、原料コストを更に削減することができ、また、樹脂を木材単板に塗布又は含浸させる操作を行わなくてもよいため、工程がより簡単になるという利点がある。
この際用いられる紙の種類に特に制限はなく、強度等を考慮して適宜選択すればよい。
【0014】
上記実施態様で用いられる木材単板の原料木材は、特に制限はないが、音の放射特性やコスト及び森林保護等の観点から、アユース、ポプラ等の植林木が好ましい。グラナディラやローズウッドなどの希少材に換えてこれらの木材を用いることにより、希少材の保存やコスト削減が達成される。
また、木材単板としては、厚さが0.2〜0.6mmのものを用いる。木材単板の厚さがこの範囲内のものを用いると、得られる楽器用木質材料の音響特性が特に優れている。
【0015】
染色に用いる染料は、通常、木材の染色に使用されているものであれば特に制限はなく、公知の染料から任意に選択して用いることができる。
染色は、例えば、染料を、水、アルコール、有機溶媒等に溶解させ、得られた染色液を木材単板に塗布又は含浸させることにより行うことができる。
なお、本実施態様では、外観デザインを考慮して、木材単板を染色して用いているが、必ずしも染色する必要はなく、そのまま用いてもよい。
また、染色には、染料の替わりに顔料を用いてもよい。
また、染色前工程として、脱色工程を設けてもよい。
【0016】
含浸又は塗布する樹脂としては、通常、木材の接着剤に用いられている樹脂であれば特に制限はないが、好ましくは熱硬化性樹脂を用いる。
熱硬化性樹脂としては、具体的には、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂等を挙げることができるが、好ましくはメラミン樹脂を用いる。これは、硬化後の臭気が少ないためである。
【0017】
樹脂の塗布方法としては、特に制限はないが、ロール、ハケ等を用いて、木材単板の両面又は片面の少なくとも一部に塗布することができる。
また、樹脂の含浸方法としては、特に制限はないが、ディッピング、減圧含浸、加圧含浸等の方法を用いることができる。
【0018】
スライス手段8としては、例えば、スライサー、ロータリーレース等を挙げることができる。
スライス手段8を用いて形成する積層単板9の厚さは、0.2〜0.6mmである。積層単板の厚さがこの範囲内のものを用いると、得られる楽器用木質材料の音響特性が特に優れている。
【0019】
楽器用木質材料の密度は、例えば、積層工程により得られた積層体の幅、長さ及び質量を予め測定しておき、プレス圧締で、所定の密度となる厚さにまでプレスすることにより調整することができる。
積層体を形成する第1の積層工程で密度を0.4〜0.6g/mとし、積層単板を積層する第2の積層工程で0.8〜1.4g/mにするのが好ましい。
【0020】
積層工程(積層体を形成する第1の積層工程、及び、積層単板を積層する第2の積層工程を含む)のプレス圧締の際に用いるプレス手段5としては、例えば、熱板プレス、高周波プレス、水蒸気プレス等を挙げることができる。
【0021】
ただし、プレス圧締において、仕上がり密度が高い場合は、高いプレス圧力が必要になる。その場合、仕上がり厚さが20mm以上になると、積層体全体に圧力が均一に伝わりにくく、密度の均一な楽器用木質材料が得られにくくなったり、部分的に強い圧力がかかって割れなどの欠陥が発生しやすくなる。したがって、仕上がり厚さが20mm以上の楽器用木質材料を製造する場合は、まず、上述のようにして厚さ20mm未満の楽器用木質材料を製造し、それらを、繊維方向を揃えて接着することにより、厚さ20mm以上の楽器用木質材料を、密度のばらつきを生じることなく製造することができる。
【0022】
なお、前記楽器用木質材料の密度は、プレス圧力の他に、樹脂の塗布量や含浸量を調節することによっても調節することができる。例えば、含浸時間を延ばしたり、減圧、加圧等の手段により含浸量を増やしたり、樹脂溶液の樹脂(モノマー、オリゴマー)濃度を高めたり、含浸されやすくするために樹脂(モノマー、オリゴマー)の分子量を低くすることにより、密度を高くすることができる。
【0023】
上述の楽器用木質材料の製造方法は、グラナディラ等の希少な木材を使用しなくてもよいので、希少種の保護に有用である。また、製造に要するリードタイムも、天然の木材を用いる場合よりも短い。
また、密度等の性質に、天然の木材に見られるようなばらつきがなく、均質な振動特性の材料を製造することができる。
さらに、製造される楽器用木質材料の外観デザインの自由度も大きい。すなわち、用いる単板や樹脂層の色を変えることにより、様々な杢の表現が可能であり、また、積層前の染色により、様々な色の表現が可能である。
さらに、得られた木質材料を用いて楽器を製造する場合、天然の木材を用いる場合は約30%である不良率が、本発明により、約2〜3%にまで減少する。
【0024】
本発明の楽器用木質材料は、上述の製造方法により製造されたものであり、楽器用材料に適した振動特性を有しており、また、性質や色にばらつきがなく、楽器の管体合わせなどの作業が容易である。本発明の楽器用木質材料は、特に、クラリネット、オーボエ、ピッコロ、リコーダー等の木管楽器の材料として適しており、その他にも、弦楽器や打楽器等の多くの楽器を構成するあらゆる木製部品の代替材料として使用することができる。
【0025】
前記楽器用木質材料用いた楽器は、通常用いられている木材に換えて該楽器用木質材料を用い、定法により製造することができる。前記楽器用木質材料を用いた楽器は、天然の木材を用いた楽器と比較して、同等又はそれ以上の優れた音質を有しており、且つ、より安価であり、個体差も少ない。
【実施例】
【0026】
以下、実施例を示して本発明およびその効果を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
なお、材料の密度(ρ)は以下のようにして測定した。
<密度(ρ)の測定>
厚さ、幅、長さ:デジタルノギスを用いて0.01mmの桁まで測定した。
質量:電子天秤を用いて0.01gの桁まで測定した。
測定したこれらの値から密度を計算した。
【0027】
実施例1
600枚の長さ180cm×幅90cm×厚さ0.6mmの木材単板(アユース材)の片面全体に、メラミン樹脂の水溶液を塗布し、これらの木材単板を、繊維方向を揃えて積層した。これを、130℃で加熱プレスし、メラミン樹脂を硬化させて接着し、積層体を得た。得られた積層体の密度は0.5g/m3であった。得られた積層体を、積層面に垂直な方向に、繊維方向に沿って、スライサーを用いてスライスし、積層単板(長さ150cm×幅30cm×厚さ0.6mm)を得た。これらの積層単板を、上記で用いたのと同じメラミン樹脂の水溶液に2時間浸漬して、メラミン樹脂を含浸した。これらの積層単板を、繊維方向を揃えて積層し、熱盤プレス(温度130℃、圧力70kg/cm)にて圧締し、メラミン樹脂を硬化させて、楽器用木質材料(長さ30cm×幅30cm×厚さ10mm)を得た。得られた楽器用木質材料の密度は1.27〜1.3g/cmであった。
【0028】
実施例2
600枚の長さ180cm×幅90cm×厚さ0.6mmの木材単板(アユース材)の片面全体に、メラミン樹脂の水溶液を塗布し、これらの木材単板を、繊維方向を揃えて積層した。これを、130℃で加熱プレスし、メラミン樹脂を硬化させて接着し、積層体を得た。得られた積層体を、積層面に垂直な方向に、繊維方向に沿って、スライサーを用いてスライスし、積層単板(長さ150cm×幅30cm×厚さ0.25mm)を得た。これらの積層単板を、上記で用いたのと同じメラミン樹脂の水溶液を含浸させた紙(厚さ0.06mm)とを交互に積層した。なお、これらの積層単板の繊維方向は揃えて積層した。これを、熱盤プレス(温度130℃、圧力70kg/cm)にて圧締し、メラミン樹脂を硬化させて、楽器用木質材料(長さ30cm×幅30cm×厚さ10mm)を得た。
得られた楽器用木質材料の密度は約1.37g/cmであった。
【0029】
試験例1
上記実施例で製造された楽器用木質材料の特性(弾性率と剛性率の比(EL/GTL))を測定した。また、比較例1として、クラリネットなどの材料として一般的に用いられているグラナディラについても同様の測定を行った。
EL/GTLの測定方法:FFTアナライザーを用いて、自由振動法により両端自由撓み振動のモード0からモード3までの共振周波数を測定し、ティモシェンコ方程式の帰結により計算した。
なお、これらの測定はすべて20℃、60%RHに調湿された室内にて行った。得られた結果を図3及び表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
この結果から明らかなように、実施例1及び2で得られた楽器用木質材料は、グラナディラと同等のEL/GTLを有していた。
なお、密度ρ=1.0〜1.1g/cmのABS樹脂及びアクリル樹脂について同様の測定を行ったところ、EL/GTL=2〜3であり、グラナディラとは大きく異なっていた。
【0032】
試験例2
木材部分に、実施例1,2及び比較例1の材料を用いてクラリネットを作成し、その音質を比較した。
その結果、実施例1,2で製造された木質材料を用いた楽器は、グラナディラを用いた楽器とよく似た音質であった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施態様を示す工程図である。
【図2】本発明の第2の実施態様を示す工程図である。
【図3】試験例1の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0034】
1…木材単板、2…染色液、3…樹脂溶液、4…積層体、5…プレス手段、6…楽器用木質材料、7…第1の積層体、8…スライス手段、9…積層単板、10…第2の積層体、11…楽器用木質材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の、厚さ0.2〜0.6mmの木材単板に、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して積層体を得る積層工程を有し、
積層工程において、積層体の密度を0.8〜1.4g/cmの範囲内に調整することを特徴とする楽器用木質材料の製造方法。
【請求項2】
複数の、厚さ0.2〜0.6mmの木材単板に、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して積層体を得る第1の積層工程と、
得られた積層体を、繊維方向に沿って、積層面に垂直方向に一定角度でスライスして厚さ0.2〜0.6mmの積層単板を得、得られた積層単板に、樹脂を塗布又は含浸して、繊維方向を一定に揃えて積層し、熱圧接着して第2の積層体を得る第2の積層工程とを有し、
第1及び/又は第2の積層工程において、積層体の密度を0.8〜1.4g/cmの範囲内に調整することを特徴とする楽器用木質材料の製造方法。
【請求項3】
前記第2の積層工程において、積層体の密度を0.8〜1.4g/cmの範囲内に調整することを特徴とする請求項2記載の楽器用木質材料の製造方法。
【請求項4】
前記木材単板の一部を紙に置き換えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の楽器用木質材料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の楽器用木質材料の製造方法を用いて得られる楽器用木質材料。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の楽器用木質材料の製造方法を用いて得られた厚さ20mm以下の楽器用木質材料を、複数枚、繊維方向を一定に揃えて積層してなる楽器用木質材料。
【請求項7】
請求項5又は6記載の楽器用木質材料を用いた楽器。
【請求項8】
木管楽器である請求項7記載の楽器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−196692(P2007−196692A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−86180(P2007−86180)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【分割の表示】特願2002−218759(P2002−218759)の分割
【原出願日】平成14年7月26日(2002.7.26)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】