構築部材の接合構造および接合装置
【課題】発生頻度の高い小さめの地震に対しては高い剛性を発揮し、発生頻度の低い大きめの地震に対しては十分な靱性とエネルギー吸収性能とを発揮するようにする。
【解決手段】木材の構築部材1の端部に金属製のパイプ41〜44が一体に取り付けられる。各パイプ41〜44の前後の各端面に接合相手の構築部材2の端部に一体に取り付けられた互いに平行な一対の金属製の添板5A,5Bが重ねられるとともに、各添板5A,5Bに設けられたボルト挿通孔51〜54および各パイプ41〜44のボルト挿通孔に通したボルト61〜64を、パイプ41〜44と添板5A,5Bとの間の摩擦力を超える力が加わったときにパイプ41〜44の前後の端面と添板5A,5Bとの間に滑りが生じるように締め付けて、各添板5A,5Bをパイプ41〜44に圧接している。
【解決手段】木材の構築部材1の端部に金属製のパイプ41〜44が一体に取り付けられる。各パイプ41〜44の前後の各端面に接合相手の構築部材2の端部に一体に取り付けられた互いに平行な一対の金属製の添板5A,5Bが重ねられるとともに、各添板5A,5Bに設けられたボルト挿通孔51〜54および各パイプ41〜44のボルト挿通孔に通したボルト61〜64を、パイプ41〜44と添板5A,5Bとの間の摩擦力を超える力が加わったときにパイプ41〜44の前後の端面と添板5A,5Bとの間に滑りが生じるように締め付けて、各添板5A,5Bをパイプ41〜44に圧接している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば柱と梁のように、建物を構成する2つの構築部材を接合するための接合構造と、その接合に用いられる接合装置とに関し、特にこの発明は、接合される2つの構築部材の少なくとも一方が木材により構成されている場合の接合構造と、その接合に用いられる接合装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木造建築物における柱と梁とを接合するのに、木質ラーメン構法が用いられている。この木質ラーメン構法は、大開口、大空間の実現が可能であり、間取の自由度が高いことから、工場、校舎、共同住宅、庁舎などの大規模木造構造を対象に発展してきた。近年、上記した木質ラーメン構法の特質に鑑み、1階をビルトインガレージにするなどの要望を叶えるのに、木質ラーメン構法が一般住宅にも取り入れられてきている。
【0003】
この木質ラーメン構法は、例えば、柱と梁との接合部をしっかり固めることで、壁や筋交いなどによらずに、柱や梁だけで地震や風による水平荷重に耐えるようにしたものである。この場合に、柱と梁との接合部に相当な負荷がかかるため、接合部の設計が重要であり、これまで、接着剤を用いた接合やドリフトピンやボルトなどの金物を用いた接合など、種々の提案がなされてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−179947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着剤による接合は、接合部の強度や剛性が高められるので、発生頻度の高い小さめの地震に耐えられるが、靱性(粘り強さ)が低いので、発生頻度の低い大きめの地震に対しては接合部の変形が許容されず、地震のエネルギーを吸収できない。一方、金物による接合は、金物によるねばりによって接合部の靱性(粘り強さ)は高くなるので、大きめの地震のエネルギーを吸収する作用はあるが、接合部の剛性が低いため、地震に対して不安定になりやすいという問題がある。また、いずれの接合も、大きめの地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがあり、地震発生後は接合部の性能が大幅に低下するという問題がある。
【0006】
この発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、通常時および発生頻度の高い小さめの地震の発生時においては高い剛性を発揮し、発生頻度の低い大きめの地震の発生時においては十分な靱性(粘り強さ)とエネルギー吸収性能とを発揮する構築部材の接合構造とおよび接合装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による構築部材の接合構造は、接合される2つの構築部材の少なくとも一方が木材により構成されて成るもので、前記木材の構築部材に金属製の接合部材が一体に取り付けられている。その接合部材が有する圧接面に接合相手の構築部材に一体に取り付けられた金属製の添板が重ねられるとともに、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通したボルトを、接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けて、添板を接合部材に圧接している。
【0008】
上記した構築部材の接合構造では、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、接合部材と添板との間は剛接合の状態にあり、地震による荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、接合部材と添板との間に滑りが生じて接合部の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。
【0009】
この発明の好ましい実施態様では、接合される2つの構築部材のいずれもが木材により構成され、一方の構築部材の側面に他方の構築部材の端面が対向した状態で接合されているが、この発明はこれに限らず、一方の構築部材の端面に他方の構築部材の端面が対向した状態や90度以外の角度をもつ状態の接合にも適用できる。
【0010】
この発明の上記した構成において、前記接合部材は種々の態様のものが考えられるが、そのひとつの態様は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成るもので、前記木材の構築部材に形成された貫通孔に両端面が突出する状態で嵌め込まれて一体化されており、前記パイプの両端面を圧接面として各圧接面に互いに平行な一対の添板が重ねられて圧接されている。
【0011】
また、接合部材の他の態様は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成るもので、前記木材の構築部材の端部にその構築部材の端面に設けられた添板挿入溝を隔てて形成された前後の各貫通孔に内端面が前記添板挿入溝へ突出する状態でそれぞれ嵌め込まれて一体化されており、各パイプの内端面を圧接面としてそれぞれの圧接面に添板挿入溝に挿入された添板の表裏の各面が重ねられて圧接されている。
【0012】
さらに、接合部材の他の態様は、ボルト挿通孔を有する接合板が基板上に一体形成されたT字状の金属板より成るもので、木材により構成された構築部材の端面に基板を当てて一体化されており、前記接合板の表裏各面を圧接面として各圧接面に前記の各添板が重ねられて圧接されている。
【0013】
上記の各接合部材は、例えば、木材の構築部材に接着、ねじ込み、圧入、圧着のいずれかの方法で一体に取り付けられるものである。
【0014】
この発明の好ましい実施態様では、各添板に形成される前記ボルト挿通孔は、接合部材と各添板との間の滑りが許容される形状および大きさに設定されている。
【0015】
この発明による構築部材の接合装置は、少なくとも一方が木材に構成されている2つの構築部材を接合するためのものであって、前記木材の構築部材に一体に取り付けられる金属製の接合部材と、接合相手の構築部材に一体に取り付けられ前記接合部材が有する圧接面に重ねられる金属製の添板と、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通され接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けられて添板を接合部材に圧接するボルトとを備えたものである。
【0016】
上記した構築部材の接合装置によると、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、接合部材と添板との間は剛接合の状態となり、地震による荷重に耐えることができる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、接合部材と添板との間が滑って構築部材の変形が許容され、地震のエネルギーを吸収することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、発生頻度の高い小さめの地震に対しては高い剛性を発揮し、発生頻度の低い大きめの地震に対しては十分な靱性(粘り強さ)とエネルギー吸収性能とを発揮するもので、耐震性に優れ、地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがなく、地震発生後は接合部の性能が低下するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施例である柱と梁との接合構造を示す斜視図である。
【図2】図1の柱の部分の接合構造を示す断面図である。
【図3】図1の実施例に用いられた接合装置の分解斜視図である。
【図4】他の実施例の接合構造を示す平面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】図4の実施例に用いられた接合装置の分解斜視図である。
【図7】他の実施例の接合構造を示す正面図である。
【図8】図7の実施例の接合構造を分解して示す側面図である。
【図9】この発明による接合構造の耐圧実験結果を示す説明図である。
【図10】図9の実験結果を得るための実験例を示す正面図である。
【図11】この発明による接合構造の他の耐圧実験結果を示す説明図である。
【図12】図11の実験結果を得るための実験例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明の一実施例である構築部材1,2の接合構造を示している。図示例の第1の構築部材1は柱、第2の構築部材2は梁であり、米松の集成材などで構成されている。なお、この発明は、第1、第2の各構築部材1,2のうち、一方のみが木材により構成されている構築部材間の接合にも適用できる。
第1の構築部材1は垂直に、第2の構築部材2は水平に、それぞれ設けられており、第1、第2の各構築部材1,2は互いに直角をなしている。第1の構築部材1の上端部の一側面に第2の構築部材2の端面が対向し、わずかな隙間が介在した状態で第1,第2の各構築部材1,2が接合装置3により接合されている。
【0020】
図示の接合装置3は、図1〜図3に示すように、第1の構築部材1の上端部に前後に嵌挿されて一体化される鋼製の4本のパイプ41〜44より成る接合部材4と、第2の構築部材2の端部に一体に取り付けられ各パイプ41〜44の前端面45および後端面46にそれぞれ重ねられる互いに平行な一対の金属製の添板5A,5Bとを含んでいる。各添板5A,5Bと各パイプ41〜44の前後の各端面45,46との間は4本のボルト61〜64およびナット65〜68により締め付けられるもので、各パイプ41〜44の前端面45と前側の添板5Aとの間の摩擦力または後端面46と後側の添板5Bとの間の摩擦力を超える力(地震などによる水平荷重)が加わったときに各パイプ41〜44の前端面45および後端面46と前後の各添板5A,5Bとの間に滑りが生じるように、各添板5A,5Bが各パイプ41〜44の前端面45および後端面46に適度な締付力により圧接されている。
【0021】
各パイプ41〜44は、第1の構築部材1の上端部の90度等角の位置に前後方向に形成された4個の貫通孔11〜14に嵌挿されている。各貫通孔11〜14内の各パイプ41〜44の外周にはエポキシ樹脂などの接着剤10が装填されることにより各パイプ41〜44が第1の構築部材1に一体接合されている。この実施例では、第1の構築部材1に4本のパイプ41〜44を嵌挿しているが、パイプの本数は4本に限られるものではない。なお、各パイプ41〜44を各貫通孔11〜14へ嵌め込んで一体化する方法は、上記の接着剤による接合に限らず、ネジ込みや圧入など、種々の方法がある。
【0022】
各パイプ41〜44の長さLは第1の構築部材1の前後の厚みdより大きく、前端面45および後端面46が貫通孔11〜14の前後の開口面より突き出ている。前端面45および後端面46は、平坦かつ互いに平行であって前後の添板5A,5Bを摩擦力により圧接するための圧接面を構成している。各パイプ41〜44を貫通する内孔はボルト61〜64を挿通するためのボルト挿通孔41a〜44aを構成している。
【0023】
前後の添板5A,5Bは、縦横の長さが約1対2の長方矩形状であり、この実施例ではアルミニウム合金により形成されているが、これに限らず、鋼板やステンレス板を用いることもできる。各添板5A,5Bの対向する内側の面は各パイプ41〜44の前端面45および後端面46に圧接されて摩擦力で接合されるが、大きめの地震による所定値を超える水平荷重が加わったとき圧接状態のまま滑動するので、メッキなどの表面処理を施して滑りやすくしてもよい。
【0024】
各添板5A,5Bの反対側の端部は、第2の構築部材2に4本のボルト71〜74およびナット75〜78により滑動しないように接合される。第2の構築部材2には、第1の構築部材1と同様、4個の貫通孔21〜24を前後方向に形成し、各貫通孔21〜24に接合部材8を構成する鋼製のパイプ81〜84を嵌挿してエポキシ樹脂などの接着剤(図示せず)により一体固定している。
【0025】
各添板5A,5Bには、第1の構築部材1の各貫通孔11〜14の位置に合わせて4本のボルト61〜64を通すボルト挿通孔51〜54が、第2の構築部材2の各貫通孔21〜24に位置に合わせて4本のボルト71〜74を通すボルト挿通孔55〜58が、それぞれ開設されている。第1の構築部材1の側のボルト挿通孔51〜54は、前記の滑動が許容されるようにボルト61〜64の軸径より大きな径であって長円形などに形成されているが、第2の構築部材2の側のボルト挿通孔55〜58は、ボルト71〜74の軸径と同じ直径であって真円に形成されている。
なお、この実施例では、第1の構築部材1の側を滑動可能に構成しているが、第2の構築部材2の側を滑動可能に構成することもできる。
【0026】
上記した各ボルト61〜64および71〜74は高力ボルトが用いられ、一方の各ボルト61〜64は各添板5A,5Bのボルト挿通孔51〜54とパイプ41〜44のボルト挿通孔41a〜44aとに挿通されてナット65〜68により適度な締付圧で締め付けられる。他方の各ボルト71〜74は各添板5A,5Bのボルト挿通孔55〜58とパイプ81〜84のボルト挿通孔(図示せず)とに挿通されてナット75〜78により適度な締付圧で締め付けられる。なお、図中、61a〜64aは一方のボルト61〜64の頭部、71a〜74aは他方のボルト71〜74の頭部である。また、図示していないが、ナット65〜68および75〜78の下にワッシャーを挿入してもよい。
【0027】
上記の実施例は第1の構築部材1の上端部の側面に第2の構築部材2の端面を対向させて接合したものであるが、図4〜図6に示す実施例は、第1の構築部材1の中間部の側面に第2の構築部材2の端面を対向させて接合したものである。この実施例では、第2の構築部材2の側が滑動可能に構成されており、第2の構築部材2の端部に、端面および上下各面に開口する縦方向の添板挿入溝25が形成されるとともに、添板挿入溝25と直交しかつ添板挿入溝25を隔てて前後に連通する3列の貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bが形成されている。
【0028】
図示例の接合装置3は、前記の貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bのそれぞれに嵌挿されて一体化される鋼製の6本のパイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bより成る接合部材4と、第1の構築部材1に一体に取り付けられ添板挿入溝25へ突出した各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bの内端面47,48に表裏の各面がそれぞれ重ねられるアルミニウム合金製の添板5とを含むものである。
添板5と各パイプの内端面47,48との間は3本のボルト61〜63およびナット65〜67により締め付けられるもので、前側の各パイプ41A〜43Aの内端面47と添板5との間の摩擦力または後側の各パイプ41B〜43Bの内端面48と添板5との間の摩擦力を超える力(地震などによる水平荷重)が加わったときに各パイプの内端面47,48と添板5の表裏各面との間に滑りが生じるように、添板5が各パイプの内端面47,48に適度な締付力により圧接されている。
【0029】
第2の構築部材2に形成された各貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bには、各貫通孔内の各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bとの間にエポキシ樹脂などの接着剤20が装填されることにより各パイプが第2の構築部材2に一体接合されている。なお、各パイプを各貫通孔へ嵌め込んで一体化する方法は接着剤による接合に限られないことは前記の実施例と同様である。
【0030】
各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bの内端面47,48は貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bの添板挿入溝25に面した開口面より突き出ており、添板5を摩擦力により圧接するための圧接面を構成している。各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bを貫通する内孔はボルト61〜63を挿通するためのボルト挿通孔41a,41b,42a,42b,43a,43bを構成している。
【0031】
前記添板5は、その表裏各面がパイプ41A,42A,43Aの内端面47およびパイプ41B,42B,43Bの内端面48にそれぞれ圧接されて摩擦力で接合されるが、大きめの地震による所定値を超える水平荷重が加わったとき圧接状態のまま滑動するので、メッキなどの表面処理を施して滑りやすくしてもよい。
【0032】
添板5は矩形状の基板部50上に一体に垂設されている。この基板部50は、第1の構築部材1に4本のボルト71〜74およびナット75〜78により滑動しないように接合される。第1の構築部材1には、4個の貫通孔11〜14が前後方向に形成され、各貫通孔11〜14に接合部材8を構成する鋼製のパイプ81〜84を嵌挿してエポキシ樹脂などの接着剤(図示せず)により一体固定している。
【0033】
添板5には、第2の構築部材2の各貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bの位置に合わせて3本のボルト61〜63を通すボルト挿通孔51〜53が開設されるとともに、添板5の基板部50には、第1の構築部材1の各貫通孔11〜14に位置に合わせて4本のボルト71〜74を通すボルト挿通孔55〜58が開設されている。添板5の各ボルト挿通孔51〜53は、前記の滑動が許容されるようにボルト61〜63の軸径より大きな径であって長円形に形成されているが、基板部50の各ボルト挿通孔55〜58は、ボルト71〜74の軸径と同じ直径であって真円に形成されている。
【0034】
上記した各ボルト61〜63および71〜74は高力ボルトが用いられ、一方の各ボルト61〜63は添板5のボルト挿通孔51〜53とパイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bのボルト挿通孔41a,41b,42a,42b,43a,43bとに挿通されてナット65〜67により適度な締付圧で締め付けられる。他方の各ボルト71〜74は添板5の基板部50のボルト挿通孔55〜58とパイプ81〜84のボルト挿通孔(図示せず)とに挿通されてナット75〜78により適度な締付圧で締め付けられる。なお、図中、61a〜63aはボルト61〜63の頭部、71a〜74aはボルト71〜74の頭部である。
【0035】
上記の各実施例は、直角をなす第1、第2の各構築部材1,2の接合構造であるが、この発明は、図7および図8に示すように、直線状をなす第1、第2の各構築部材1,2の接合構造にも適用することが可能である。
図示例の接合装置3では、接合部材4として、基板90上に2個のボルト挿通孔91,92を有する接合板93が垂直に一体形成されたT字状の金属板9を用いており、木材より成る構築部材1の端面に基板90を当てて4本のボルト94によりT字状の金属板9を一体に取り付けている。ボルト94と後述するボルト95は、接着、ねじ込み、圧入などにより構築部材1と構築部材2とにそれぞれ一体化されている。前記接合板93の表裏の各面は圧接面を構成し各面に一対の添板5A,5Bがそれぞれ重ねられ、各添板5A,5Bの一端部に形成されたボルト挿通孔51,52と接合板93に形成されたボルト挿通孔91,92にボルト61,62を挿通してナット65,66により適度な締付圧で締め付けている。各添板5A,5Bのボルト挿通孔51,52は長さ方向に長い長円形に形成されており、接合板93の前後の各面と前後の各添板5A,5Bとの間の摩擦力を超える長さ方向の力が加わったときに接合板93と前後の各添板5A,5Bとの間に滑りが生じて滑動が許容されるようになっている。
【0036】
各添板5A,5Bの反対側の端部は、第2の構築部材2に取り付けられた同様の接合部材4に2本のボルト71,72およびナット75,76により滑動しないように一体に接合される。なお、接合部材4は第2の構築部材2の端面に4本のボルト95により一体に取り付けられている。
【0037】
図9は、この発明による構築部材の接合構造の耐圧実験結果を示している。図9の耐圧実験結果は図10に示す実験例によって得られたもので、図中、1が木材より成る構築部材、5A,5Bは下端が鋼材Gに固定され上端部が構築部材1の一端部に接合装置3に接合された前後の添板である。この実験は、構築部材1の他端部に材料試験機により下向きの荷重(図中、矢印で示す)を与え、摩擦力による接合部分に生じるモーメント(図9の縦軸)と接合部の回転角(図10の横軸)との関係を求めている。
図9において、○で示す点は降伏点、△で示す点は割裂発生点、□で示す点は倒壊点であり、同図には、高い初期剛性(Pで示す)と十分な靱性(Qで示す)とが顕著に現れている。
【0038】
図11は、他の耐圧実験結果を示している。図11の耐圧実験結果は図12に示す実験例によって得られたもので、図中、1が木材より成る構築部材、5A,5Bは下端部が鋼材Gに固定され上部が構築部材1の下部に接合装置3に接合された前後の添板である。この実験では、構築部材1の上部に材料試験機により正逆の横向きの荷重(図中、矢印で示す)を順次大きくして繰り返し与え、摩擦力による接合部分に生じるモーメント(図12の縦軸)と接合部の回転角(図12の横軸)との関係を求めている。図12において、一点鎖線、点線、二点鎖線、および実線の順で大きな正逆各方向の荷重が与えられており、いずれの荷重に対しても、高い剛性と十分な靱性とを有している。
【0039】
図1〜図3に示した構築部材1,2の接合構造において、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、4本のパイプ41〜44より成る接合部材4と前後の各添板5A,5Bとの間は摩擦力による剛接合の状態にあり、地震による水平荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、各パイプ41〜44の前端面45および後端面46と前後の添板5A,5Bとの間に滑りが生じて構築部材の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。したがって、地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがなく、地震発生後は接合部の性能が低下するのを防止できる。
【0040】
図4〜図6に示した構築部材1,2の接合構造において、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、6本のパイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bより成る接合部材4と添板5との間は摩擦力による剛接合の状態にあり、地震による水平荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bの内端面47,48と添板5との間に滑りが生じて構築部材の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。したがって、地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがなく、地震発生後は接合部の性能が低下するのを防止できる。
【0041】
図7,8に示した実施例についても上記の各実施例と同様であり、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、T字状の金属板9の接合板93と前後の各添板5A,5Bとの間は摩擦力による剛接合の状態にあり、地震による水平荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、接合板93の前後の各面と前後の添板5A,5Bとの間に滑りが生じて接合部の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。
【符号の説明】
【0042】
1,2 構築部材
3 接合装置
4 接合部材
5A,5B,5 添板
9 T字状の金属板
10,20 接着剤
11,12,13,14 貫通孔
41,42,43,44 パイプ
41A,41B,42A,42B,43A,43B パイプ
45 前端面
46 後端面
47,48 内端面
41a,42a,43a,44a ボルト挿通孔
51,52,53,54 ボルト挿通孔
61,62,63,64 ボルト
65,66,67,68 ナット
93 接合板
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば柱と梁のように、建物を構成する2つの構築部材を接合するための接合構造と、その接合に用いられる接合装置とに関し、特にこの発明は、接合される2つの構築部材の少なくとも一方が木材により構成されている場合の接合構造と、その接合に用いられる接合装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木造建築物における柱と梁とを接合するのに、木質ラーメン構法が用いられている。この木質ラーメン構法は、大開口、大空間の実現が可能であり、間取の自由度が高いことから、工場、校舎、共同住宅、庁舎などの大規模木造構造を対象に発展してきた。近年、上記した木質ラーメン構法の特質に鑑み、1階をビルトインガレージにするなどの要望を叶えるのに、木質ラーメン構法が一般住宅にも取り入れられてきている。
【0003】
この木質ラーメン構法は、例えば、柱と梁との接合部をしっかり固めることで、壁や筋交いなどによらずに、柱や梁だけで地震や風による水平荷重に耐えるようにしたものである。この場合に、柱と梁との接合部に相当な負荷がかかるため、接合部の設計が重要であり、これまで、接着剤を用いた接合やドリフトピンやボルトなどの金物を用いた接合など、種々の提案がなされてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−179947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
接着剤による接合は、接合部の強度や剛性が高められるので、発生頻度の高い小さめの地震に耐えられるが、靱性(粘り強さ)が低いので、発生頻度の低い大きめの地震に対しては接合部の変形が許容されず、地震のエネルギーを吸収できない。一方、金物による接合は、金物によるねばりによって接合部の靱性(粘り強さ)は高くなるので、大きめの地震のエネルギーを吸収する作用はあるが、接合部の剛性が低いため、地震に対して不安定になりやすいという問題がある。また、いずれの接合も、大きめの地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがあり、地震発生後は接合部の性能が大幅に低下するという問題がある。
【0006】
この発明は、上記した問題を解決するためになされたもので、通常時および発生頻度の高い小さめの地震の発生時においては高い剛性を発揮し、発生頻度の低い大きめの地震の発生時においては十分な靱性(粘り強さ)とエネルギー吸収性能とを発揮する構築部材の接合構造とおよび接合装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による構築部材の接合構造は、接合される2つの構築部材の少なくとも一方が木材により構成されて成るもので、前記木材の構築部材に金属製の接合部材が一体に取り付けられている。その接合部材が有する圧接面に接合相手の構築部材に一体に取り付けられた金属製の添板が重ねられるとともに、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通したボルトを、接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けて、添板を接合部材に圧接している。
【0008】
上記した構築部材の接合構造では、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、接合部材と添板との間は剛接合の状態にあり、地震による荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、接合部材と添板との間に滑りが生じて接合部の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。
【0009】
この発明の好ましい実施態様では、接合される2つの構築部材のいずれもが木材により構成され、一方の構築部材の側面に他方の構築部材の端面が対向した状態で接合されているが、この発明はこれに限らず、一方の構築部材の端面に他方の構築部材の端面が対向した状態や90度以外の角度をもつ状態の接合にも適用できる。
【0010】
この発明の上記した構成において、前記接合部材は種々の態様のものが考えられるが、そのひとつの態様は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成るもので、前記木材の構築部材に形成された貫通孔に両端面が突出する状態で嵌め込まれて一体化されており、前記パイプの両端面を圧接面として各圧接面に互いに平行な一対の添板が重ねられて圧接されている。
【0011】
また、接合部材の他の態様は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成るもので、前記木材の構築部材の端部にその構築部材の端面に設けられた添板挿入溝を隔てて形成された前後の各貫通孔に内端面が前記添板挿入溝へ突出する状態でそれぞれ嵌め込まれて一体化されており、各パイプの内端面を圧接面としてそれぞれの圧接面に添板挿入溝に挿入された添板の表裏の各面が重ねられて圧接されている。
【0012】
さらに、接合部材の他の態様は、ボルト挿通孔を有する接合板が基板上に一体形成されたT字状の金属板より成るもので、木材により構成された構築部材の端面に基板を当てて一体化されており、前記接合板の表裏各面を圧接面として各圧接面に前記の各添板が重ねられて圧接されている。
【0013】
上記の各接合部材は、例えば、木材の構築部材に接着、ねじ込み、圧入、圧着のいずれかの方法で一体に取り付けられるものである。
【0014】
この発明の好ましい実施態様では、各添板に形成される前記ボルト挿通孔は、接合部材と各添板との間の滑りが許容される形状および大きさに設定されている。
【0015】
この発明による構築部材の接合装置は、少なくとも一方が木材に構成されている2つの構築部材を接合するためのものであって、前記木材の構築部材に一体に取り付けられる金属製の接合部材と、接合相手の構築部材に一体に取り付けられ前記接合部材が有する圧接面に重ねられる金属製の添板と、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通され接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けられて添板を接合部材に圧接するボルトとを備えたものである。
【0016】
上記した構築部材の接合装置によると、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、接合部材と添板との間は剛接合の状態となり、地震による荷重に耐えることができる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、接合部材と添板との間が滑って構築部材の変形が許容され、地震のエネルギーを吸収することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、発生頻度の高い小さめの地震に対しては高い剛性を発揮し、発生頻度の低い大きめの地震に対しては十分な靱性(粘り強さ)とエネルギー吸収性能とを発揮するもので、耐震性に優れ、地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがなく、地震発生後は接合部の性能が低下するのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施例である柱と梁との接合構造を示す斜視図である。
【図2】図1の柱の部分の接合構造を示す断面図である。
【図3】図1の実施例に用いられた接合装置の分解斜視図である。
【図4】他の実施例の接合構造を示す平面図である。
【図5】図4のA−A線に沿う断面図である。
【図6】図4の実施例に用いられた接合装置の分解斜視図である。
【図7】他の実施例の接合構造を示す正面図である。
【図8】図7の実施例の接合構造を分解して示す側面図である。
【図9】この発明による接合構造の耐圧実験結果を示す説明図である。
【図10】図9の実験結果を得るための実験例を示す正面図である。
【図11】この発明による接合構造の他の耐圧実験結果を示す説明図である。
【図12】図11の実験結果を得るための実験例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、この発明の一実施例である構築部材1,2の接合構造を示している。図示例の第1の構築部材1は柱、第2の構築部材2は梁であり、米松の集成材などで構成されている。なお、この発明は、第1、第2の各構築部材1,2のうち、一方のみが木材により構成されている構築部材間の接合にも適用できる。
第1の構築部材1は垂直に、第2の構築部材2は水平に、それぞれ設けられており、第1、第2の各構築部材1,2は互いに直角をなしている。第1の構築部材1の上端部の一側面に第2の構築部材2の端面が対向し、わずかな隙間が介在した状態で第1,第2の各構築部材1,2が接合装置3により接合されている。
【0020】
図示の接合装置3は、図1〜図3に示すように、第1の構築部材1の上端部に前後に嵌挿されて一体化される鋼製の4本のパイプ41〜44より成る接合部材4と、第2の構築部材2の端部に一体に取り付けられ各パイプ41〜44の前端面45および後端面46にそれぞれ重ねられる互いに平行な一対の金属製の添板5A,5Bとを含んでいる。各添板5A,5Bと各パイプ41〜44の前後の各端面45,46との間は4本のボルト61〜64およびナット65〜68により締め付けられるもので、各パイプ41〜44の前端面45と前側の添板5Aとの間の摩擦力または後端面46と後側の添板5Bとの間の摩擦力を超える力(地震などによる水平荷重)が加わったときに各パイプ41〜44の前端面45および後端面46と前後の各添板5A,5Bとの間に滑りが生じるように、各添板5A,5Bが各パイプ41〜44の前端面45および後端面46に適度な締付力により圧接されている。
【0021】
各パイプ41〜44は、第1の構築部材1の上端部の90度等角の位置に前後方向に形成された4個の貫通孔11〜14に嵌挿されている。各貫通孔11〜14内の各パイプ41〜44の外周にはエポキシ樹脂などの接着剤10が装填されることにより各パイプ41〜44が第1の構築部材1に一体接合されている。この実施例では、第1の構築部材1に4本のパイプ41〜44を嵌挿しているが、パイプの本数は4本に限られるものではない。なお、各パイプ41〜44を各貫通孔11〜14へ嵌め込んで一体化する方法は、上記の接着剤による接合に限らず、ネジ込みや圧入など、種々の方法がある。
【0022】
各パイプ41〜44の長さLは第1の構築部材1の前後の厚みdより大きく、前端面45および後端面46が貫通孔11〜14の前後の開口面より突き出ている。前端面45および後端面46は、平坦かつ互いに平行であって前後の添板5A,5Bを摩擦力により圧接するための圧接面を構成している。各パイプ41〜44を貫通する内孔はボルト61〜64を挿通するためのボルト挿通孔41a〜44aを構成している。
【0023】
前後の添板5A,5Bは、縦横の長さが約1対2の長方矩形状であり、この実施例ではアルミニウム合金により形成されているが、これに限らず、鋼板やステンレス板を用いることもできる。各添板5A,5Bの対向する内側の面は各パイプ41〜44の前端面45および後端面46に圧接されて摩擦力で接合されるが、大きめの地震による所定値を超える水平荷重が加わったとき圧接状態のまま滑動するので、メッキなどの表面処理を施して滑りやすくしてもよい。
【0024】
各添板5A,5Bの反対側の端部は、第2の構築部材2に4本のボルト71〜74およびナット75〜78により滑動しないように接合される。第2の構築部材2には、第1の構築部材1と同様、4個の貫通孔21〜24を前後方向に形成し、各貫通孔21〜24に接合部材8を構成する鋼製のパイプ81〜84を嵌挿してエポキシ樹脂などの接着剤(図示せず)により一体固定している。
【0025】
各添板5A,5Bには、第1の構築部材1の各貫通孔11〜14の位置に合わせて4本のボルト61〜64を通すボルト挿通孔51〜54が、第2の構築部材2の各貫通孔21〜24に位置に合わせて4本のボルト71〜74を通すボルト挿通孔55〜58が、それぞれ開設されている。第1の構築部材1の側のボルト挿通孔51〜54は、前記の滑動が許容されるようにボルト61〜64の軸径より大きな径であって長円形などに形成されているが、第2の構築部材2の側のボルト挿通孔55〜58は、ボルト71〜74の軸径と同じ直径であって真円に形成されている。
なお、この実施例では、第1の構築部材1の側を滑動可能に構成しているが、第2の構築部材2の側を滑動可能に構成することもできる。
【0026】
上記した各ボルト61〜64および71〜74は高力ボルトが用いられ、一方の各ボルト61〜64は各添板5A,5Bのボルト挿通孔51〜54とパイプ41〜44のボルト挿通孔41a〜44aとに挿通されてナット65〜68により適度な締付圧で締め付けられる。他方の各ボルト71〜74は各添板5A,5Bのボルト挿通孔55〜58とパイプ81〜84のボルト挿通孔(図示せず)とに挿通されてナット75〜78により適度な締付圧で締め付けられる。なお、図中、61a〜64aは一方のボルト61〜64の頭部、71a〜74aは他方のボルト71〜74の頭部である。また、図示していないが、ナット65〜68および75〜78の下にワッシャーを挿入してもよい。
【0027】
上記の実施例は第1の構築部材1の上端部の側面に第2の構築部材2の端面を対向させて接合したものであるが、図4〜図6に示す実施例は、第1の構築部材1の中間部の側面に第2の構築部材2の端面を対向させて接合したものである。この実施例では、第2の構築部材2の側が滑動可能に構成されており、第2の構築部材2の端部に、端面および上下各面に開口する縦方向の添板挿入溝25が形成されるとともに、添板挿入溝25と直交しかつ添板挿入溝25を隔てて前後に連通する3列の貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bが形成されている。
【0028】
図示例の接合装置3は、前記の貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bのそれぞれに嵌挿されて一体化される鋼製の6本のパイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bより成る接合部材4と、第1の構築部材1に一体に取り付けられ添板挿入溝25へ突出した各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bの内端面47,48に表裏の各面がそれぞれ重ねられるアルミニウム合金製の添板5とを含むものである。
添板5と各パイプの内端面47,48との間は3本のボルト61〜63およびナット65〜67により締め付けられるもので、前側の各パイプ41A〜43Aの内端面47と添板5との間の摩擦力または後側の各パイプ41B〜43Bの内端面48と添板5との間の摩擦力を超える力(地震などによる水平荷重)が加わったときに各パイプの内端面47,48と添板5の表裏各面との間に滑りが生じるように、添板5が各パイプの内端面47,48に適度な締付力により圧接されている。
【0029】
第2の構築部材2に形成された各貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bには、各貫通孔内の各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bとの間にエポキシ樹脂などの接着剤20が装填されることにより各パイプが第2の構築部材2に一体接合されている。なお、各パイプを各貫通孔へ嵌め込んで一体化する方法は接着剤による接合に限られないことは前記の実施例と同様である。
【0030】
各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bの内端面47,48は貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bの添板挿入溝25に面した開口面より突き出ており、添板5を摩擦力により圧接するための圧接面を構成している。各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bを貫通する内孔はボルト61〜63を挿通するためのボルト挿通孔41a,41b,42a,42b,43a,43bを構成している。
【0031】
前記添板5は、その表裏各面がパイプ41A,42A,43Aの内端面47およびパイプ41B,42B,43Bの内端面48にそれぞれ圧接されて摩擦力で接合されるが、大きめの地震による所定値を超える水平荷重が加わったとき圧接状態のまま滑動するので、メッキなどの表面処理を施して滑りやすくしてもよい。
【0032】
添板5は矩形状の基板部50上に一体に垂設されている。この基板部50は、第1の構築部材1に4本のボルト71〜74およびナット75〜78により滑動しないように接合される。第1の構築部材1には、4個の貫通孔11〜14が前後方向に形成され、各貫通孔11〜14に接合部材8を構成する鋼製のパイプ81〜84を嵌挿してエポキシ樹脂などの接着剤(図示せず)により一体固定している。
【0033】
添板5には、第2の構築部材2の各貫通孔21A,21B、22A,22B、および23A,23Bの位置に合わせて3本のボルト61〜63を通すボルト挿通孔51〜53が開設されるとともに、添板5の基板部50には、第1の構築部材1の各貫通孔11〜14に位置に合わせて4本のボルト71〜74を通すボルト挿通孔55〜58が開設されている。添板5の各ボルト挿通孔51〜53は、前記の滑動が許容されるようにボルト61〜63の軸径より大きな径であって長円形に形成されているが、基板部50の各ボルト挿通孔55〜58は、ボルト71〜74の軸径と同じ直径であって真円に形成されている。
【0034】
上記した各ボルト61〜63および71〜74は高力ボルトが用いられ、一方の各ボルト61〜63は添板5のボルト挿通孔51〜53とパイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bのボルト挿通孔41a,41b,42a,42b,43a,43bとに挿通されてナット65〜67により適度な締付圧で締め付けられる。他方の各ボルト71〜74は添板5の基板部50のボルト挿通孔55〜58とパイプ81〜84のボルト挿通孔(図示せず)とに挿通されてナット75〜78により適度な締付圧で締め付けられる。なお、図中、61a〜63aはボルト61〜63の頭部、71a〜74aはボルト71〜74の頭部である。
【0035】
上記の各実施例は、直角をなす第1、第2の各構築部材1,2の接合構造であるが、この発明は、図7および図8に示すように、直線状をなす第1、第2の各構築部材1,2の接合構造にも適用することが可能である。
図示例の接合装置3では、接合部材4として、基板90上に2個のボルト挿通孔91,92を有する接合板93が垂直に一体形成されたT字状の金属板9を用いており、木材より成る構築部材1の端面に基板90を当てて4本のボルト94によりT字状の金属板9を一体に取り付けている。ボルト94と後述するボルト95は、接着、ねじ込み、圧入などにより構築部材1と構築部材2とにそれぞれ一体化されている。前記接合板93の表裏の各面は圧接面を構成し各面に一対の添板5A,5Bがそれぞれ重ねられ、各添板5A,5Bの一端部に形成されたボルト挿通孔51,52と接合板93に形成されたボルト挿通孔91,92にボルト61,62を挿通してナット65,66により適度な締付圧で締め付けている。各添板5A,5Bのボルト挿通孔51,52は長さ方向に長い長円形に形成されており、接合板93の前後の各面と前後の各添板5A,5Bとの間の摩擦力を超える長さ方向の力が加わったときに接合板93と前後の各添板5A,5Bとの間に滑りが生じて滑動が許容されるようになっている。
【0036】
各添板5A,5Bの反対側の端部は、第2の構築部材2に取り付けられた同様の接合部材4に2本のボルト71,72およびナット75,76により滑動しないように一体に接合される。なお、接合部材4は第2の構築部材2の端面に4本のボルト95により一体に取り付けられている。
【0037】
図9は、この発明による構築部材の接合構造の耐圧実験結果を示している。図9の耐圧実験結果は図10に示す実験例によって得られたもので、図中、1が木材より成る構築部材、5A,5Bは下端が鋼材Gに固定され上端部が構築部材1の一端部に接合装置3に接合された前後の添板である。この実験は、構築部材1の他端部に材料試験機により下向きの荷重(図中、矢印で示す)を与え、摩擦力による接合部分に生じるモーメント(図9の縦軸)と接合部の回転角(図10の横軸)との関係を求めている。
図9において、○で示す点は降伏点、△で示す点は割裂発生点、□で示す点は倒壊点であり、同図には、高い初期剛性(Pで示す)と十分な靱性(Qで示す)とが顕著に現れている。
【0038】
図11は、他の耐圧実験結果を示している。図11の耐圧実験結果は図12に示す実験例によって得られたもので、図中、1が木材より成る構築部材、5A,5Bは下端部が鋼材Gに固定され上部が構築部材1の下部に接合装置3に接合された前後の添板である。この実験では、構築部材1の上部に材料試験機により正逆の横向きの荷重(図中、矢印で示す)を順次大きくして繰り返し与え、摩擦力による接合部分に生じるモーメント(図12の縦軸)と接合部の回転角(図12の横軸)との関係を求めている。図12において、一点鎖線、点線、二点鎖線、および実線の順で大きな正逆各方向の荷重が与えられており、いずれの荷重に対しても、高い剛性と十分な靱性とを有している。
【0039】
図1〜図3に示した構築部材1,2の接合構造において、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、4本のパイプ41〜44より成る接合部材4と前後の各添板5A,5Bとの間は摩擦力による剛接合の状態にあり、地震による水平荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、各パイプ41〜44の前端面45および後端面46と前後の添板5A,5Bとの間に滑りが生じて構築部材の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。したがって、地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがなく、地震発生後は接合部の性能が低下するのを防止できる。
【0040】
図4〜図6に示した構築部材1,2の接合構造において、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、6本のパイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bより成る接合部材4と添板5との間は摩擦力による剛接合の状態にあり、地震による水平荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、各パイプ41A,41B,42A,42B,43A,43Bの内端面47,48と添板5との間に滑りが生じて構築部材の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。したがって、地震の発生によって木材のめり込みや割裂で破壊が生じるおそれがなく、地震発生後は接合部の性能が低下するのを防止できる。
【0041】
図7,8に示した実施例についても上記の各実施例と同様であり、発生頻度の高い小さめの地震に対しては、T字状の金属板9の接合板93と前後の各添板5A,5Bとの間は摩擦力による剛接合の状態にあり、地震による水平荷重に耐えられる。発生頻度の低い大きめの地震に対しては、接合板93の前後の各面と前後の添板5A,5Bとの間に滑りが生じて接合部の変形が許容され、地震のエネルギーが吸収される。
【符号の説明】
【0042】
1,2 構築部材
3 接合装置
4 接合部材
5A,5B,5 添板
9 T字状の金属板
10,20 接着剤
11,12,13,14 貫通孔
41,42,43,44 パイプ
41A,41B,42A,42B,43A,43B パイプ
45 前端面
46 後端面
47,48 内端面
41a,42a,43a,44a ボルト挿通孔
51,52,53,54 ボルト挿通孔
61,62,63,64 ボルト
65,66,67,68 ナット
93 接合板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接合される2つの構築部材の少なくとも一方が木材により構成されて成り、前記木材の構築部材に金属製の接合部材が一体に取り付けられ、その接合部材が有する圧接面に接合相手の構築部材に一体に取り付けられた金属製の添板が重ねられるとともに、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通したボルトを、接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けて、添板を接合部材に圧接して成る構築部材の接合構造。
【請求項2】
接合される2つの構築部材のいずれもが木材により構成され、一方の構築部材の側面に他方の構築部材の端面が対向した状態で接合されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項3】
前記接合部材は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成り、前記木材の構築部材に形成された貫通孔に両端面が突出する状態で嵌め込まれて一体化されており、前記パイプの両端面を圧接面として各圧接面に互いに平行な一対の添板が重ねられて圧接されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項4】
前記接合部材は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成り、前記木材の構築部材の端部にその構築部材の端面に設けられた添板挿入溝を隔てて形成された前後の各貫通孔に内端面が前記添板挿入溝へ突出する状態でそれぞれ嵌め込まれて一体化されており、各パイプの内端面を圧接面としてそれぞれの圧接面に添板挿入溝に挿入された添板の表裏の各面が重ねられて圧接されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項5】
前記接合部材は、ボルト挿通孔を有する接合板が基板上に一体形成されたT字状の金属板より成り、木材により構成された構築部材の端面に基板を当てて一体化されており、前記接合板の表裏各面を圧接面として各圧接面に前記の各添板が重ねられて圧接されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項6】
前記接合部材は、前記木材の構築部材に接着、ねじ込み、圧入、圧着のいずれかの方法で一体に取り付けられている請求項1,3,4,5のいずれかに記載された構築部材の接合構造。
【請求項7】
各添板に形成される前記ボルト挿通孔は、接合部材と各添板との間の滑りが許容される形状および大きさに設定されている請求項1,3,4,5のいずれかに記載された構築部材の接合構造。
【請求項8】
少なくとも一方が木材に構成されている2つの構築部材を接合するための接合装置であって、前記木材の構築部材に一体に取り付けられる金属製の接合部材と、接合相手の構築部材に一体に取り付けられ前記接合部材が有する圧接面に重ねられる金属製の添板と、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通され接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けられて添板を接合部材に圧接するボルトとを備えて成る構築部材の接合装置。
【請求項1】
接合される2つの構築部材の少なくとも一方が木材により構成されて成り、前記木材の構築部材に金属製の接合部材が一体に取り付けられ、その接合部材が有する圧接面に接合相手の構築部材に一体に取り付けられた金属製の添板が重ねられるとともに、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通したボルトを、接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けて、添板を接合部材に圧接して成る構築部材の接合構造。
【請求項2】
接合される2つの構築部材のいずれもが木材により構成され、一方の構築部材の側面に他方の構築部材の端面が対向した状態で接合されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項3】
前記接合部材は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成り、前記木材の構築部材に形成された貫通孔に両端面が突出する状態で嵌め込まれて一体化されており、前記パイプの両端面を圧接面として各圧接面に互いに平行な一対の添板が重ねられて圧接されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項4】
前記接合部材は、前記ボルトが通されるボルト挿通孔を有する金属製のパイプより成り、前記木材の構築部材の端部にその構築部材の端面に設けられた添板挿入溝を隔てて形成された前後の各貫通孔に内端面が前記添板挿入溝へ突出する状態でそれぞれ嵌め込まれて一体化されており、各パイプの内端面を圧接面としてそれぞれの圧接面に添板挿入溝に挿入された添板の表裏の各面が重ねられて圧接されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項5】
前記接合部材は、ボルト挿通孔を有する接合板が基板上に一体形成されたT字状の金属板より成り、木材により構成された構築部材の端面に基板を当てて一体化されており、前記接合板の表裏各面を圧接面として各圧接面に前記の各添板が重ねられて圧接されている請求項1に記載された構築部材の接合構造。
【請求項6】
前記接合部材は、前記木材の構築部材に接着、ねじ込み、圧入、圧着のいずれかの方法で一体に取り付けられている請求項1,3,4,5のいずれかに記載された構築部材の接合構造。
【請求項7】
各添板に形成される前記ボルト挿通孔は、接合部材と各添板との間の滑りが許容される形状および大きさに設定されている請求項1,3,4,5のいずれかに記載された構築部材の接合構造。
【請求項8】
少なくとも一方が木材に構成されている2つの構築部材を接合するための接合装置であって、前記木材の構築部材に一体に取り付けられる金属製の接合部材と、接合相手の構築部材に一体に取り付けられ前記接合部材が有する圧接面に重ねられる金属製の添板と、添板および接合部材に設けられたボルト挿通孔に通され接合部材の圧接面と添板との間の摩擦力を超える力が加わったときに接合部材の圧接面と添板との間に滑りが生じるように締め付けられて添板を接合部材に圧接するボルトとを備えて成る構築部材の接合装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−7363(P2012−7363A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143604(P2010−143604)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(307012344)株式会社構造総研 (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(307012344)株式会社構造総研 (6)
【Fターム(参考)】
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