説明

構造物のケーブル定着構造および該ケーブル定着構造におけるケーブルの張力調整方法

【課題】橋梁等の構造物について、ケーブルを導入して定着する際の作業を円滑に行うことができる作業性に優れた構造物のケーブル定着構造を提供する。
【解決手段】柱体3と、対向するウェブ6を有する定着桁2とをケーブル5で接続し、ケーブル5の一端側を、ウェブ6の間に固定されるアンカー20に定着する構造物のケーブル定着構造であって、アンカー20は、ケーブル5の端部が挿入されるパイプ部21と、パイプ部21の軸方向に沿って配され、かつ、一端側がパイプ部21の外周面に接合され、他端がウェブ6に向けて張り出す接続板22と、接続板22の下端側に配置されてウェブ側に向けて延びる方向がこれに直行する方向に比して大きく設定された扁平板状のフランジ部23と、を備え、フランジ部23及び接続板22の各先端縁がウェブ6に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向が上下方向に延びるように配された柱体と、相互に対向するウェブを有する定着桁とを接続するケーブルにおける定着桁側のケーブル定着構造および該ケーブル定着構造におけるケーブルの張力調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄塔や橋梁の主塔等の柱体が、その軸方向が上下に延びるように設置されているものにつき、この柱体と定着桁とを斜めに延びるケーブルで接続し、柱体の姿勢を安定させることが行われている。
【0003】
例えば、斜張橋は、水平に延びる主桁を一定間隔毎に主塔で支持して構成されている。そして、各主塔と主桁とは、ワイヤロープからなる複数のケーブルで相互に接続されている。このケーブルは、主塔の上部と主桁との間で斜めに傾けられて延ばされており、軸方向の一端が主塔の上部に定着され、他端が主桁に定着される。
【0004】
かかる斜張橋において、従来から、このケーブルを主桁に定着させる際にどのようにしてケーブルの端部を主桁に設けられたアンカーに導入させるか、という引き込みの方法ないしその引き込み装置については、様々な研究がなされていた。
【0005】
例えば、特許文献1は、ケーブルの軸方向の端部を主桁のアンカーに導入する導入装置に関する発明を開示したものである。この導入装置は、主桁の上フランジに配置され、ケーブルの端部を保持して、導入装置の下側に配されたアンカーへ導入させるためのものである。
【0006】
この特許文献1のように、ケーブルの軸方向の端部をどのようにしてアンカーへ導入させるかという技術については研究がなされているが、その一方で、ケーブルを主桁に定着させる構造そのものについてはその開発がおよそ手つかずの状態であった。
【0007】
図19は、従来から一般的に使用されているケーブル定着構造を示す図であり、アンカー130を利用してケーブル5の端部を主桁2に定着させる作業状態を示している。
【0008】
図19に示されるように、この例におけるアンカー130は、引き込みロッド60が4本タイプのケーブル導入装置150に対応するように形成されたものである。
アンカー130には、主桁2を構成するウェブ6同士の間に配置され、その中央にケーブル5を挿入させるための挿入部131が形成されている。また、その軸方向の下端側には外側方に張り出すフランジ部133が設けられている。挿入部131はその周囲が板材132により縦横が囲まれており、アンカー130自体が大きなボックス状に形成されている。さらには、下端側に設けられたフランジ部133は、挿入部から上下及び左右に向けてそれぞれ大きく張り出している。
そして、フランジ部133の四隅にはケーブル導入装置150の引き込みロッド60の端部を取り付ける取付部133aが設けられている。
【0009】
【特許文献1】特開平2−243808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のケーブル定着構造におけるアンカー130は、引き込みロッド60が4本タイプのケーブル導入装置150に対応するように形成されていた。そのため、アンカー130のフランジ部133の四隅に引き込みロッド60の端部を取り付ける取付部133aを設ける必要から、フランジ部133が大きくなっていた。そして、そのようなフランジ部133に対応して板材132をボックス状に形成していたためにアンカー130の全体形状が大きくなっていた。
また、従来の定着構造におけるアンカーにおいては、ケーブル挿入部は応力負担部材として扱わずに設計されていたという事情がある。そのため、応力負担部材としては、ケーブル挿入部の周囲に設置されるボックス状の板材132およびフランジ部133であり、板材132およびフランジ部133の有効断面を大きくする必要があり、この点においてもアンカー130が大型化していた。
アンカー130が大型化すると、主桁2のウェブ6間に形成される空間部分の大半を占め、ケーブル5の導入作業を行う際の作業性がきわめて悪くなるという問題があった。
【0011】
なお、近年では、引き込みロッド60が2本タイプのケーブル導入装置150が開発されているが、これに対応するような定着構造体の具体的なものは提案されていない。
【0012】
本発明では、橋梁等の構造物について、引き込みロッド60が2本タイプのケーブル導入装置150にも対応できるケーブル定着構造であって、ケーブルを導入して定着する際の作業を円滑に行うことができる作業性に優れた構造物のケーブル定着構造を提供することを目的としている。
また、張力の調整が容易にできメンテナンスの効率化を図れるケーブルの張力調整方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、発明者は、アンカーの設計に際して、ケーブル挿入部についても応力を負担する応力負担部材とみなすことによって、アンカーの全体形状を小型化することを考えた。そして、さらに具体的な接続板の配置を考案することによって、アンカーの小型の実現を可能としたものであり、具体的には、以下のような構成を有するものである。
【0014】
(1)本発明に係る構造物のケーブル定着構造は、軸方向が上下方向に延びるように配された柱体と、対向するウェブを有する定着桁とをケーブルで接続し、前記ケーブルの一端側を、前記ウェブの間に固定されるアンカーに定着する構造物のケーブル定着構造であって、前記アンカーは、前記ケーブルの端部が挿入されるパイプ部と、該パイプ部の軸方向に沿って配され、かつ、一端側が前記パイプ部の外周面に接合され、他端が前記ウェブに向けて張り出す接続板と、該接続板の少なくとも下端側に配置されて前記ウェブ側に向けて延びる方向がこれに直行する方向に比して大きく設定された扁平板状のフランジ部と、を備え、前記フランジ部及び前記接続板の各先端縁が前記ウェブに接合されていることを特徴とするものである。
【0015】
ここでいう柱体とは、斜張橋を構成する主塔、アンテナ等が設けられた鉄塔、一般構造物を構成する支柱等、その軸方向が上下方向に延びるように配された部材又は構造体をいう。また、定着桁とは、橋梁の主桁などの長尺物に限らず、一定の長さに形成された短尺物をも含ものであり、ケーブルの軸方向の一端側を固定させるための機能を具備する桁を意味する。
【0016】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、フランジ部におけるパイプ部の軸線に対して対称となる位置にケーブル導入装置の引き込みロッドを取り付ける取付部が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
(3)また、上記(1)または(2)に記載のものにおいて、接続板は、パイプ部の外周面に一定の間隔を離して対向して接合された一対の板材を、前記パイプ部における前記各ウェブに対向する部位にそれぞれ配置してなり、対向する板材の間隔が、前記パイプ部との接合部における間隔よりもウェブとの接合部における間隔が広くなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0018】
(4)また、本発明におけるケーブルの張力調整方法は、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の構造物のケーブル定着構造におけるケーブルの張力調整方法であって、ケーブルの端部にケーブルの軸方向に延びる取付部材を取り付け、該取付部材にフランジ部に対向してウェブ側に張り出す支持部材を着脱可能に取り付け、該支持部材とフランジ部との間にジャッキシリンダを設置し、該ジャッキシリンダの伸縮によって前記ケーブルの張力を調整するようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1に、アンカーを扁平状に形成でき、アンカーが主桁のウェブ内に占める割合を減少させることができる。これにより、作業者がケーブルをアンカーのパイプ部に導入させる作業を行う際の作業スペースをウェブ内に確保することができる。そして、作業スペースを確保することで、効率よくしかも安全に作業を行うことが可能となる。
【0020】
また、本発明のケーブルの張力調整方法によれば、ケーブルをアンカーに対して軸方向に移動させることができるため、柱材と定着桁とをケーブルで接続して構造物を完成させた後であっても、ケーブルを軸方向に、移動させることで張力の調整が容易にできメンテナンスの効率化を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[実施の形態1]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明のケーブル定着構造が適用される斜張橋1の一部を示す斜視図である。斜張橋1は、一定の間隔毎に配置された鉛直に延びる複数の主塔3と、主塔3にワイヤーロープからなる複数のケーブル5を介して支持される主桁2と、主桁2上に設けられる床版4を備えて構成される。なお、この図1は、複数の主塔3のうち、その一つ主塔3の近傍のみについて図示するものである。
【0022】
主桁2は、主塔3に設けられた開口部を貫通するように配置され、主塔3を跨ぐ両側から各ケーブル5によって支持されている。
主塔3には、高さ方向一定の間隔毎にケーブル5の一端側が取り付けられている。また、主桁2には、主桁2の延びる方向に一定間隔毎にケーブル5の他端が取り付けられている。なお、主塔3の最も高い位置に一端が取り付けられたケーブル5は、その他端が、主塔3から最も離れた位置にて主桁2に取り付けられ、以下順にケーブル5の主塔3との取付位置が下がるにしたがって主桁2との取付位置が主塔3に近づくようになっている。そして、主塔3の最も低い位置に一端が取り付けられたケーブル5が、主塔3に最も近い位置にて主桁2にその他端が取り付けられている。
【0023】
図2は、主塔3に対するケーブル定着構造、及び主桁2に対するケーブル定着構造の概要を示している。主塔3には、その幅方向の中心部に複数のアンカー10が上下方向に並べられて配置される。図2は、これらアンカー10の中の一つを示すものである。このアンカー10には、主桁2が延びる方向である前後の両側に、ケーブル5が通される穴が形成されており、ケーブル5の一端は、この穴に通され、図示しないケーブルソケットに保持されることで、アンカー10に取り付けられる。
【0024】
主桁2は、幅方向にて対向されて、相互に平行をなして延びる一対のウェブ6と、これらウェブ6の上端同士及び下端同士を連結して主桁2の上部及び下部を閉鎖しているフランジ7とから構成されている。そして、アンカー20が一対のウェブ6の対向する内面に固着されている。ケーブル5の下端側は、このアンカー20に定着されている。
【0025】
図3は図2における丸で囲んだA部の拡大図である。図4はアンカー20の平面図である。
図3に示すように、本実施の形態のケーブル定着構造は、主桁2を構成する一対のウェブ6にアンカー20を接合し、このアンカー20に、ケーブル5の下端を定着させてなるものである。
【0026】
アンカー20は、保持するケーブル5が挿入されるパイプ部21と、このパイプ部21の外周面からウェブ6に向けて張り出す接続板22と、接続板22のパイプ部21の軸方向の両端の位置に設けられたフランジ部23とを備えている。アンカー20は、パイプ部21の軸方向がケーブル5の傾きに一致するようにアンカー20全体を斜めに傾けた状態で主桁2に固定されている。
【0027】
パイプ部21は、その上部が主桁2の上フランジの上方に突き出されて主塔3に向けられている。一方で、パイプ部21の下端は、主桁2の上下のフランジ7の中間に位置しており、パイプ部21の下端と下のフランジ7との間には大きな隙間がそれぞれ形成されている。
【0028】
接続板22は、相互に平行をなしてパイプ部21の軸方向に沿って延びる一対の板材からなり、この一対の板材がパイプ部21の両側にあるウェブ6に向けてそれぞれ張り出している。
この接続板22は、相互に対向する接続板22の間隔H(図3参照)がパイプ部21の直径寸法Dよりも小さくなるように配され、上側に配された接続板22及び下側に配された接続板22のいずれもが、パイプ部21の直径方向のうち上下方向に関し、パイプ部21の直径寸法Dの範囲内に配されている。具体的には、これら一対の接続板22は、パイプ部21がその直径方向について、およそ3等分される位置に配される。
【0029】
フランジ部23は接続板22の上下端部においてパイプ部21の軸方向と直交して配された板材であり、パイプ部21の外周面から上下左右に張り出すように形成されている。このフランジ部23は、ウェブ6に向けて延びる左右方向の寸法が、パイプ部21の直径方向である上下方向の寸法よりも大きくなるように形成され、その外形が扁平状になっている。なお、この実施形態にかかるフランジ部23は、扁平な八角形に形成されているが、これに限定されるものではなく、両側端が平坦に形成されていれば長方形等その他の形状に形成しても構わない。
【0030】
これら一対の接続板22と一対のフランジ部23は、ウェブ6に向けて延びる方向の先端が面一となるように形成され、接続板22及びフランジ部23のこれらの先端は、対向配置されたウェブ6の内面にそれぞれ接合されている。図5は、ウェブ6と、接続板22及びフランジ部23との接合部分の形状を示したものである。このようにしてアンカー20は、主桁2のウェブ6に固定されている。
【0031】
各フランジ部23には、これらの板厚方向を貫通する貫通孔24が形成されている。これら貫通孔24は、フランジ部23がパイプ部21からウェブ6に向けて延びる左右方向において、パイプ部21に対して対称となる位置に形成されている。なお、これら貫通孔24は、すべてパイプ部21から同寸となる位置にそれぞれ形成され、パイプ部21に対して同じ側に位置する貫通孔同士を結ぶ線Lは、パイプ部21の軸方向とそれぞれ平行をなしている。
【0032】
これら貫通孔24は、ケーブル5をアンカー20のパイプ部21に挿入する際に使用するケーブル導入装置(不図示)の引き込みロッド60が挿入される穴である。たとえば、主桁2の上フランジの上面に、ケーブル導入装置を設置し、このケーブル導入装置からアンカー20に向けて2本の引き込みロッド60を延ばす。そして、各引き込みロッド60をアンカー20のフランジ部23に形成された貫通孔24にそれぞれ挿入させ、下端側に位置するフランジ部23からこれらの先端を突出させる。突出された引き込みロッド60の先端に固着具61を取付け、引き込みロッド60をフランジ部23に固定する。この状態で、ケーブル導入装置を駆動して、引き込みロッド60によってアンカー20に反力をとり、ケーブル5をアンカー20のパイプ部21の内部に押し込むようにする。
【0033】
パイプ部21内に押し込まれたケーブル5の下端部には円柱状のケーブルソケット31が設けられており、ケーブルソケット31とパイプ部21の下端部との間にドーナツ状の支圧板30およびシムプレート34が配されて、ケーブルソケット31がパイプ部21から抜け出さないように保持している。
【0034】
また、アンカー20の下端側には、メンテナンス時において、ケーブル5の端部を保持すると共に、ケーブル5をその軸方向に対して移動させることが可能な機構を取り付けられるようになっている。図6はこのような機構をアンカー20に取り付けた状態の斜視図、図7は平面図、図8は側面図である。以下においては、メンテナンス時、例えばケーブル5が緩んだ場合に張力を付与する時の手順を説明する。
【0035】
まず、ケーブルソケット31の下端部に後述する支持板33を取り付けるための取付ねじ32を設置する。取付ねじ32の設置は、ケーブルソケット31の下端部にはねじ穴が設けられており、このねじ穴に取付ねじ32の端部をねじ込むようにする。
【0036】
支持板33は、フランジ部23と同様にその上下方向の寸法が左右方向に寸法に対して大幅に小さく形成され、扁平状の八角形に形成されている。そして、中心部にはその板厚方向を貫通する貫通穴が形成されており、取付ねじ32がこの貫通穴に挿入される。そして、支持板33の外側からシムプレート34を設置し、ナット35で固定する。
【0037】
そして、下端側のフランジ部23と支持板33との間において、パイプ部21の両側に、ジャッキシリンダ50を配置する。ジャッキシリンダ50は、油圧シリンダが採用されており、円筒状のシリンダチューブ51と、このシリンダチューブ51の内部に一端側が挿入されたシリンダロッド52とを備えている。このジャッキシリンダ50は、シリンダチューブ51の後端がフランジ部23に突き当てられ、シリンダロッド52の先端側が支持板33に向けられて、先端が支持板33に突き当てられている。シリンダロッド52は、シリンダチューブ51の内部を軸方向に往復動可能に構成され、シリンダロッド52の往復動に伴って、ジャッキシリンダ50はその全長が伸縮する。
【0038】
シリンダロッド52の先端にはねじ部53が軸方向に突出するようにして設けられている。シリンダロッド52のねじ部53は、支持板33の貫通孔を貫通し、ナット54が支持板33の外側から螺合される。これにより、支持板33はジャッキシリンダ50のシリンダロッド52に固定される。
【0039】
上記のようにジャッキシリンダ50が設置されると、ジャッキシリンダ50のシリンダロッド52を伸長することで、支持板33を下方に移動させ、これによって取付ねじ32を介してケーブルソケット31を下方に移動させ、ケーブル5に張力を付与し、あるいはケーブル5のアンカー20への引き込み具合の調整を行う。
この様な調整を行った後は、ケーブル5の張力が維持されるよう、パイプ部21の下端部とケーブルソケット31との間にシムプレート34を追加する。以上の調整の後は、ジャッキシリンダ50及び支持板33は必要なくなるので、図3に示すように、これらジャッキシリンダ50及び支持板33は、アンカー20から取り外される。
【0040】
以上の構成を備えたケーブル定着構造によれば、第1に、ケーブル5の定着作業を大幅に向上させることができる。
即ち、このケーブル定着構造で採用したアンカー20は、一対の接続板22がパイプ部21の直径寸法Dの範囲内に納められ、かつ、フランジ部23が扁平状に形成されているため、その全体自体も扁平に形成され、このため、当該アンカー20を取り付けた状態において、主桁2のウェブ6内に広い作業空間を残すことができるのである。
【0041】
この点について、図9を参照して従来のアンカー130と比較する。図9において、左側に示したアンカーは、図19に示した従来技術のアンカー130と同類のものであり、図9の右側に示すアンカーは、この実施形態にかかるアンカー20を示している。
なお、図19に示したアンカー130では挿入部131が下側のフランジ部133よりも延出していない例であるが、図9に示したアンカー130は本実施形態との比較をするために本実施形態のものと同様に下側のフランジ部133よりも下方に挿入部131が延出したものを示した。
【0042】
従来のアンカー130では、ケーブル5を挿入させる中央の挿入部131からフランジ部133が左右上下に大きく張り出していた。また、アンカー130をウェブ6に接続して固着させるための板材132も、ケーブル5が挿入される挿入部131から上下に外れた位置に設けられていた。このためアンカー130自体の外形が大きくなり、アンカー130の定着された位置においては、ウェブ6内の空間がアンカー130によりほとんど占領される状態となる。特に、この図9に示す場合のように、アンカー130の設置位置において、リブ8が上下のフランジ7から突出している場合にはリブ8とアンカー130との間には隙間がほとんどない状態となる。
【0043】
この様な従来のアンカー130では、作業者は、主桁2の延びる方に関してアンカー130を間に挟んだ前後の位置に移動する場合、一旦、主桁2内の空間から外に出て主桁2の外部を移動しなければならない。そして、主桁2の外部を移動するためには、上フランジ7の上側に移動するか、あるいは、主桁2の左右に別途足場を設ける必要がある。これでは、作業効率の向上は到底望めない。
【0044】
この点、図9の右側に示す、本実施形態にかかるアンカー20では、その上下に広い作業スペースが形成される。このため、主桁2の延びる方向に関し、アンカー20を間に挟んだ両側に移動する場合においても、主桁2のウェブ6及び上下のフランジ7により形成された空間をそのまま移動できる。これにより、作業効率を大幅に向上させることができるのである。
【0045】
また、ケーブルソケット31に支持板33を取り付け、ジャッキシリンダ50でパイプ部21の軸方向、即ちパイプ部21に通されたケーブル5の軸方向に移動させることによりケーブル5の張力を自在に設定できる。加えて、一度定着させたケーブル5を後にメンテナンスする際に、ジャッキシリンダ50を利用してケーブルソケット31をアンカー20から引き離せば、容易にメンテナンスすることができる。なお、支持板33及びジャッキシリンダ50は、アンカー20に対して着脱自在であるため、ケーブル5の定着作業を終了した後は、これらを当該ケーブル定着構造から取り外しておくことができる。
【0046】
以上、接続板22が相互に平行をなして構成されたアンカー20を採用するケーブル定着構造を例に説明したが、これには限定されない。図10は、対向する接続板72が外側方に向けて末広がりとなるように配されたアンカー70を採用したものを示している。
【0047】
この図10に示すアンカー70の接続板72は、パイプ部71の外周面から主桁2のウェブ6に向けて延びている。対向する接続板72同士は、パイプ部71からウェブ6に向け相互にその間隔が拡幅されるように配されている。そして、パイプ部71の軸方向における両端に位置するフランジ部73は、長方形に形成されている。さらに、このアンカー70は、対向する接続板72同士を相互に連結している連結板75が設けられている。この連結板75は、接続板72の外側縁よりもやや内側にて接続板72の対向する面同士を相互に連結している。なお、このアンカー70についても、フランジ部73には、パイプ部71を中心にして左右対称となる位置に貫通孔74が形成されている。この貫通孔74は、ケーブル導入装置の引き込みロッドを挿入させる穴である。
【0048】
この図10に示すアンカー70のように、対向する接続板72同士の間隔をウェブ6に向けて拡幅することで、接続板72とウェブ6との接合部分において応力の流れをスムーズにすることができる。その一方で、接続板72同士の間隔がウェブ6に向かうに連れて拡幅されたとしても、パイプ部71の近傍では、依然として接続板72同士の間隔はパイプ部71の直径の範囲内であるため、主桁のウェブ6内には広い作業スペースが確保される。
【0049】
[実施の形態2]
次に、図11〜図12を参照して本発明の第2の実施形態について説明する。
【0050】
この第2の実施形態にかかるケーブル定着構造は、使用されるアンカー80の構造が上記第1の実施形態にかかるケーブル定着構造と相違する。アンカー80も主桁2を構成するウェブ6の間に配されるものであり、内部にケーブル5を挿入させるパイプ部81と、このパイプ部81の外周面から二つの対向するウェブ6に向けてそれぞれ張り出す接続板82と、接続板82の両端部の位置でパイプ部81の外周面から外側方に向けて張り出す一対のフランジ部83とから構成されている。
【0051】
アンカー80のパイプ部81は、第1の実施形態にかかるアンカー20のパイプ部21と同様に、主桁2のウェブ6内の空間からその上部が主桁2の上フランジ7から突き出され、上端が主塔3に向けられる。その一方で、パイプ部81の下端は、主桁2の上下のフランジ7の中間に位置されて、パイプ部81の下端と上下いずれものフランジ7との間には大きな隙間がそれぞれ形成される。
なお、この第2の実施形態にかかるケーブル定着機構では、パイプ部81の下端は、下側のフランジ部83の内面に当接して、フランジ部83の外面には支圧板30とシムプレート34が設置されている。
【0052】
接続板82は、パイプ部81の直径方向をなす上下方向の中心部にのみ設けられている。接続板82は、パイプ部81の中心部において、このパイプ部81の軸方向に沿って配された板材からなり、パイプ部81の外周面からウェブ6に向けて左右に張り出して設けられている。
【0053】
フランジ部83は、上記の第1の実施形態にかかるアンカー20と基本的な構成は同様である。即ち、フランジ部83はパイプ部81の軸方向と直交して配された板材であり、パイプ部81の外周面から上下左右に張り出すように形成されている。そして、ウェブ6に向けて延びる左右方向の寸法が、パイプ部81材の直径方向である上下方向の寸法に対して大きくなるように形成され、その外形が扁平状の八角形となされている。なお、このフランジ部83も、扁平な八角形にその形状が限定されるものではなく、両側端が平坦に形成されていれば長方形等その他の形状に形成しても構わない。
【0054】
そして、これら接続板82と一対のフランジ部83は、ウェブ6に向けて延びる方向の先端が面一となるように形成され、接続板82及びフランジ部83の先端は、ウェブ6が相互に対向している内面にそれぞれ接続されている。図12はウェブ6と、接続板82及びフランジ部83との接続面の形状を示したものである。このようにしてアンカー80は、主桁2のウェブ6に固定されている。
【0055】
そして、このアンカー80にあっては、フランジ部83同士を連絡するように、挿入管84がパイプ部81の両側に設けられている。各フランジ部83にはその板厚方向を貫通する貫通孔85が、パイプ部81を間に挟んで形成されている。これら貫通孔85は、フランジ部83がパイプ部81からウェブ6に向けて延びる左右方向において、パイプ部81に対して対称となる位置に形成されている。また、これら貫通孔85はパイプ部81から同寸となる位置にそれぞれ形成され、パイプ部81に対して同じ側に位置する貫通孔85同士を結ぶ線L(図14参照)は、パイプ部81の軸方向とそれぞれ平行をなしている。
【0056】
一方、接続板82には、各フランジ部83のパイプ部81に対して同じ側に形成された上述の貫通孔85同士を連絡している挿入管84が設けられている。この挿入管84は、アンカー80の中央に位置するパイプ部81の軸線と平行をなしてそれぞれ配されている。
【0057】
これら貫通孔85及び挿入管84は、ケーブル5をアンカー80のパイプ部81に挿入する際に使用するケーブル導入装置の引き込みロッドが挿入される。
【0058】
そして、この第2の実施形態にかかるケーブル5の定着構造においても、下端側のフランジ部83には、図13、図14に示すように、ケーブル5の端部を保持すると共に、ケーブル5をその軸方向に対して移動させることが可能な機構を設けることができる。なお、この機構は、第1の実施形態にかかるケーブル定着機構のものと同一の構成であるので、同一部材については、同一の符号を付して概要のみを説明する。下側のフランジ部83よりも下側には、ケーブルソケット31に取り付けられた取付ねじ32に支持板33が着脱可能に取り付けられる。フランジ部83と支持板33との間には、ケーブルソケット31を中心としてその左右両側に、ジャッキシリンダ50がそれぞれ配置される。
上記の機構は、ケーブル5の張力を調整する際に使用したり、メンテナンスする際に使用する。
【0059】
[実施の形態3]
以上に説明した第1の実施形態及び第2の実施形態におけるケーブル定着構造では、一つのフランジ部のうち、パイプ部の軸方向下端側のフランジ部にケーブル導入装置の引き込みロッドを固定する場合を想定しているが、上端側のフランジ部に引き込みロッドを固定させるようにしてもよい。
【0060】
図15は、第3の実施形態にかかるケーブル定着構造を示すものであり、上端側のフランジ部93に引き込みロッド60を固定させるケーブル定着構造を示している。このケーブル定着構造のアンカー90は、内部にケーブル5を挿入させるパイプ部91と、このパイプ部91の外周面から二つの対向するウェブに向けてそれぞれ張り出す接続板92と、パイプ部91の軸方向における接続板92の両端部の位置で、パイプ部91の外周面から外側方に向けて張り出す一対のフランジ部93とから構成されている。
【0061】
この第3の実施形態にかかるケーブル定着構造のアンカー90は、そのパイプ部91、接続板92及びフランジ部93の基本構造が上述の第2の実施形態にかかるケーブル定着構造のアンカー80と同様である。しかし、上端側のフランジ部93に引き込みロッド60を固定させるために特有の構造を備えている。
【0062】
まず、フランジ部93にあっては、上端側のフランジ部93にのみ、その板を貫通する貫通孔が形成される。但し、これらの貫通孔についても、フランジ部93がパイプ部からウェブに向けて延びる方向に関し、パイプ部91を中心として対称となるようにパイプ部91の両側に形成されている。一方、接続板92には、その上端縁に、2つの矩形状の切欠部94が形成されている。これらの切欠部94は、フランジ部93に形成された貫通孔に対応する位置にそれぞれ形成されている。そして、切欠部94にはねじ切り鋼管からなるホルダ65が溶接にて取り付けられている。
【0063】
引き込みロッド60は、アンカー90の上側からフランジ部93の貫通孔へ挿入され、その下端がホルダ65にねじ込まれて保持される。これにより、引き込みロッド60の下端がアンカー90に固定され、ケーブル5の引き込みの際に発生する反力をアンカー90より支持できるようにしている。
【0064】
なお、アンカーを構成するフランジ部の形態は、第1〜第3の実施形態にかかるもの以外にも、様々な形態のものを採用できる。その内のいくつかの例を図示して説明する。
【0065】
図16に示すアンカー100は、その接続板102の上端側がパイプ材101の軸方向に対して直交する向きに平坦に形成されている一方で、下端側は、下方に向かうにつれ中心側に向けて先細り状に形成されている。そして、フランジ部103,104は、この接続板102の上下端に対応する形態のものが設けられている。即ち、上端側のフランジ部103は、パイプ部101の外周面から、このパイプ部101の軸方向に直交して左右に張り出すようにして設けられている。一方、下端側のフランジ部104は、パイプ部101の外周面から、左右に向けて張り出すと共に、上端側に向けて斜めに傾けられて配されている。
【0066】
この図16に示すアンカー100は、引き込みロッドを上端側のフランジ部に固定させるタイプのものである。
【0067】
図17に示すアンカー110は、図16に示すアンカー100とは逆に、その接続板112の下端側がパイプ部111の軸方向に対して直交する向きに平坦に形成されている一方で、上端側は、上側に向かうに連れて、中心側に向けて先細り状に形成されている。そして、フランジ部113,114は、この接続板112の上下端に対応するように設けられている。即ち、上端側のフランジ部113は、パイプ部111の外周面から、左右に向けて張り出すと共に、下端側に向けて斜めに傾けられて配されている。一方、下端側のフランジ部114は、パイプ部111の外周面から、このパイプ部111の軸方向に直交して左右に張り出すようにして設けられている。この図17に示すアンカー110は、引き込みロッドを下端側のフランジ部114に固定させるタイプのものである。
【0068】
図18は、さらに別の実施形態にかかるアンカー120を示している。このアンカー120は、接続板122は、長方形状にその外形が形成されており、パイプ部121の直径方向における上下の中心位置から左右に張り出すように設けられている。そして、この接続板の下端側のみにフランジ部123が設けられている。このフランジ部123は、板材がパイプ部121の外周面からパイプ部121の軸方向に直交するように左右に張り出している。
【0069】
なお、これら図16〜図18に示すアンカーにおいても、接続板の先端縁とフランジ部の先端縁とが面一となるようにそれぞれ形成されている。
【0070】
以上に説明したケーブル定着構造のアンカーは、適用する斜張橋の態様、アンカーと主桁のウェブとの間に発生する応力の許容値に応じて適宜選定すればよい。
【0071】
なお、以上では、橋梁の幅方向の中央においてケーブルを配置するいわゆる一面吊りタイプの橋梁に適用した場合を例に説明したが、橋梁の両側部にてケーブルを配置するいわゆる2面吊りタイプの橋梁に適用しても良い。また、適用する構造物は、橋梁に限定されるものではない。例えば、アンテナ等の鉄塔をその軸方向を上下方向に延びるようにしてケーブルで支持する場合に、ケーブルの一端側を、例えば、建造物に設けられた定着桁に固定せしめ、他端側をこの鉄塔に接続する。このように当該構造物のケーブル定着構造は、一般構造物にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のケーブル定着構造が適用される斜張橋の斜視図である。
【図2】図1に示す斜張橋の主塔及び主桁に設けられたケーブル定着構造を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態にかかるケーブル定着構造の斜視図である。
【図4】図3に示したケーブル定着構造の平面図である。
【図5】図3に示したケーブル定着構造を構成するアンカーと主桁のウェブとの接合部分の形状を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施形態にかかるケーブル定着構造におけるメンテナンス時の状態を説明する斜視図である。
【図7】図6に示したケーブル定着構造におけるメンテナンス時の状態を説明する平面図である。
【図8】図6に示したケーブル定着構造におけるメンテナンス時の状態を説明する側面図である。
【図9】従来のケーブル定着構造のアンカーと第1の実施形態にかかるケーブル定着構造との比較を示す図である。
【図10】第1の実施形態にかかるアンカーの変形例を示すアンカーの横断面図である。
【図11】第2の実施形態に係るケーブル定着構造に用いるアンカーの斜視図である。
【図12】図11に示したケーブル定着構造を構成するアンカーと主桁のウェブとの接合部分の形状を示す図である。
【図13】図11に示したケーブル定着構造におけるメンテナンス時の状態を説明する斜視図である。
【図14】図11に示したケーブル定着構造におけるメンテナンス時の状態を説明する平面図である。
【図15】本発明の第3の実施形態にかかるケーブル定着構造に用いるアンカーの斜視図。
【図16】ケーブル定着構造を構成するアンカーの変形例を示す斜視図である。
【図17】ケーブル定着構造を構成するアンカーの変形例を示す斜視図である。
【図18】ケーブル定着構造を構成するアンカーの変形例を示す斜視図である。
【図19】従来のケーブル定着構造を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
1 斜張橋
2 主桁
3 主塔
5 ケーブル
20,70,80,90 アンカー
21,71,81,91 パイプ部
22,72,82,92 接続板
23,73,83,93 フランジ部
24,74、85 貫通孔
30 支圧板
31 ケーブルソケット
32 取付ねじ
33 支持板
34 シムプレート
50 ジャッキシリンダ
60 引き込みロッド
84 挿入管
94 切欠部
100,110,120 アンカー
101,111,121 パイプ部
102,112,122 接続板
103,113,123 フランジ部
114,124 フランジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向が上下方向に延びるように配された柱体と、対向するウェブを有する定着桁とをケーブルで接続し、前記ケーブルの一端側を、前記ウェブの間に固定されるアンカーに定着する構造物のケーブル定着構造であって、
前記アンカーは、前記ケーブルの端部が挿入されるパイプ部と、該パイプ部の軸方向に沿って配され、かつ、一端側が前記パイプ部の外周面に接合され、他端が前記ウェブに向けて張り出す接続板と、該接続板の少なくとも下端側に配置されて前記ウェブ側に向けて延びる方向がこれに直行する方向に比して大きく設定された扁平板状のフランジ部と、を備え、
前記フランジ部及び前記接続板の各先端縁が前記ウェブに接合されていることを特徴とする構造物のケーブル定着構造。
【請求項2】
フランジ部におけるパイプ部の軸線に対して対称となる位置にケーブル導入装置の引き込みロッドを取り付ける取付部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の構造物のケーブル定着構造。
【請求項3】
接続板は、パイプ部の外周面に一定の間隔を離して対向して接合された一対の板材を、前記パイプ部における前記各ウェブに対向する部位にそれぞれ配置してなり、対向する板材の間隔が、前記パイプ部との接合部における間隔よりもウェブとの接合部における間隔が広くなるように設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の構造物のケーブル定着構造。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の構造物のケーブル定着構造におけるケーブルの張力調整方法であって、
ケーブルの端部にケーブルの軸方向に延びる取付部材を取り付け、該取付部材にフランジ部に対向してウェブ側に張り出す支持部材を着脱可能に取り付け、該支持部材とフランジ部との間にジャッキシリンダを設置し、該ジャッキシリンダの伸縮によって前記ケーブルの張力を調整するようにしたことを特徴とするケーブルの張力調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−192011(P2007−192011A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−251316(P2006−251316)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)
【Fターム(参考)】