説明

構造物の壁面への覆工の形成に用いられる空気抜き用パイプ

【課題】構造物の壁面への覆工の形成に際して打設されるコンクリートと構造物の壁面との間に残る空気を排出するために使用されるパイプであって、該パイプを通してのコンクリートの排出量を制限することができる空気抜き用パイプを提供すること。
【課題を解決するための手段】パイプ(42)は、構造物(10)の壁面(16)への覆工のために設置される型枠(14)と構造物の壁面との間のコンクリート打設空間(17)に打設されるコンクリートと構造物の壁面の頂部又はその近傍との間に残る空気をコンクリート打設空間外に導くために用いられる。パイプは閉鎖された一端(64)と、一端の近傍に形成されパイプの内部と外部とに連通する少なくとも1つの穴(66)とを有する。空気は穴(66)を通してパイプ内に導入可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルのような構造物の壁面に覆工を形成する際に用いられる空気抜き用パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、掘削により生じた山岳トンネルの地山、該地山に吹き付けられた吹き付けコンクリート等からなるトンネル壁面を場所打ちコンクリートからなる覆工で被覆することが行われている。
【0003】
前記覆工の形成は、通常、トンネルの軸線方向に分けられた複数の区画ごとに、坑口から切羽に向けて順次に行われる。各区画における覆工の形成のため、トンネル壁面に沿って型枠装置が設置され、前記型枠装置により前記トンネル壁面との間に形成されたコンクリート打設空間にコンクリートが打設される。
【0004】
前記コンクリート打設空間へのコンクリートの打設は通常トンネルの坑口の側から行われ、前記打設空間はトンネルの坑口の側からその切羽の側に向けて、またその底部から頂部に向けて次第にコンクリートで満たされる。
【0005】
ところで、前記覆工の形成においては、前記コンクリート打設空間の特に前記トンネルの坑口側の頂部及びその近傍に空隙が不可避的に残ることが指摘されていた。
【0006】
従来、前記空隙を除去するため、コンクリートの打設の間、ホースを用いて、前記空隙の発生箇所から前記コンクリート打設空間の外部に空気を排出することが提案されている(後記特許文献1参照)。また、前記ホースに代えてパイプを使用することが行われている。これによれば、前記打設空間からの空気の排出により該空気が占めていた空間がコンクリートで満たされ、前記空隙の発生が防止される。
【0007】
しかし、前記ホース又はパイプによる空気の排出はその開口端を通して行うため、前記開口端を通して、コンクリートもまた多量に排出されるという問題があった。
【0008】
【特許文献1】特開2005−179891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、構造物の壁面への覆工の形成に際して打設されるコンクリートと構造物の壁面との間に残る空気を排出するために使用されるパイプであって、該パイプを通してのコンクリートの排出量を制限することができる空気抜き用パイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、構造物の壁面への覆工のために設置される型枠と前記構造物の壁面との間のコンクリート打設空間に打設されるコンクリートと前記構造物の壁面の頂部又はその近傍との間に残る空気を前記コンクリート打設空間外に導くために用いられるパイプであって、閉鎖された一端と、該一端の近傍に形成され前記パイプの内部と外部とに連通する少なくとも1つの穴とを有し、前記空気は前記穴を通して前記パイプ内に導入可能である。
【0011】
前記パイプの一端はその端面に取り付けられた蓋により閉鎖され、前記穴は前記パイプの端面の一部とその側面の一部とを切り欠いてなるものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パイプはその一端が閉鎖されかつ該一端の近傍に穴が形成されていることから、前記パイプの一端をコンクリート打設空間に位置させるとき、前記パイプの一端からの該パイプ内へのコンクリートの流入を阻止しつつ前記パイプの穴を通して前記コンクリート打設空間内の空気を該パイプ内に導き入れることができる。このとき、前記穴を通してコンクリートが該パイプ内に流入するが、前記パイプの一端を開放状態にする場合に比べて、前記パイプ内へのコンクリートの流入量を制限することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1を参照すると、構造物の一つである、地山を掘削することにより形成された山岳トンネル10に場所打ちコンクリートによる覆工12(図2参照)を形成すべく、トンネル10内に型枠装置14が設置されている。本発明に係るパイプは、後述するように、この型枠装置14に装置されている。本発明が適用される構造物には、図示の山岳トンネルのほか、例えば地中に形成されるトンネル、リニューアルの対象とされる既存のトンネル、他の地下構造物等がある。
【0014】
覆工12の形成は、トンネル10の軸線方向に区分けされた複数の領域(区画)について、トンネル10の坑口からその切羽に向けて順次に行われる。このため、各区画における覆工の形成に使用される型枠装置14は、トンネル10内を一の区画からこれに隣接する他の区画へ移動される。
【0015】
型枠装置14は、トンネル10の地山又は該地山の表面に吹き付けられたモルタル層、あるいはこれらを被覆するシート(図示せず)からなるトンネル壁面16との間にコンクリートの打設空間17を規定するための型枠18と、該型枠をトンネル10内に支持しまた移動するための支持台車20とを含む。
【0016】
型枠18は、トンネル壁面16に相対するように配置される頂部型枠部21と両側部型枠部とを有する。各側部型枠部は2つの部分22,24からなり、一方の部分22は頂部型枠部21の周方向両端部に枢着され、また他方の部分24は一方の部分22に枢着されている。各部分22,24は型枠18の軸線と平行な軸線の周りに枢動可能である。
【0017】
型枠18は複数の液圧ジャッキ26,28,30を介して支持台車20に支持されている。液圧ジャッキ26の両端部はそれぞれ支持台車20と型枠の頂部型枠部21とに連結され、液圧ジャッキ28の両端部はそれぞれ支持台車20と型枠の側部型枠部の一方部分22とに連結され、また液圧ジャッキ30は支持台車20と型枠の側部型枠部の他方部分24とに連結されている。
【0018】
これによれば、液圧ジャッキ26を伸縮動作させると、型枠18の頂部型枠部21が側部型枠部22,24と共に昇降する。また、液圧ジャッキ28を伸縮動作させると、側部型枠部の一方部分22が頂部型枠部21に対して枢動し、同時に他方部分24が一方部分22と共に枢動する。さらに、液圧ジャッキ30を伸縮動作させると、側部型枠部の他方部分24が枢動する。
【0019】
液圧ジャッキ26,28,30の伸縮動作により、頂部型枠部21及び側部型枠部22,24を、これらがトンネル壁面16に沿ってその周方向へ伸びる伸長状態(型枠18がコンクリート打設空間17を形成する状態)及びトンネル10の内方に向けて頂部型枠部21が下降されかつ側部型枠部22,24が枢動された折り畳み状態(型枠18が脱型される状態)におくことができる。
【0020】
型枠18の支持台車20には、トンネル10の底面32上に配置されその軸線方向へ伸びる一対のレール34上を転動可能である車輪36が設けられている。
【0021】
トンネル内の一区画への型枠装置14の設置によりトンネル壁面16と型枠18との間にコンクリート打設空間17が形成され、その後コンクリート打設空間17内にコンクリートC(図2)が打設される。
【0022】
コンクリートの打設は、例えば、初めに型枠18の側部型枠部22,24に設けられたコンクリート供給口(図示せず)を通して行い、トンネル壁面16と側部型枠部22,24との間の空間部分にコンクリートを充填する。その後、型枠18のトンネル10の坑口側の端部38に設けられ型枠18の頂部近傍に位置する供給口40(図2)を通して、コンクリート打設空間17にコンクリートを供給する。前記コンクリートは、供給口40からトンネル壁面16と型枠の頂部型枠部21との間の空間部分に上方に向けて吹き出される。これにより、コンクリート打設空間17の前記空間部分がトンネル10の坑口側から切羽側に向けてコンクリートで満たされる。なお、コンクリートCの供給口40は、図示の例に限らず、必要に応じて、型枠18の端部38以外の他の箇所に設けられることがある。
【0023】
このとき、コンクリート打設空間17における型枠18の端部38の側において、型枠18の頂部及びその近傍への空気の滞留に伴う覆工内への空隙の発生を防止するため、コンクリート打設空間17へのコンクリートの打設の間に前記空気をコンクリート打設空間17の外部に排出する。
【0024】
前記空気の排出は、型枠装置14に装置されコンクリート打設空間17の内部と外部とに開放する2つのパイプ42を用いて行うことができる。型枠装置14には、また、各パイプ42に近接した位置、すなわちパイプ42の周囲を覆うこととなる打設コンクリートに振動作用を与え得る位置にバイブレータ44(図3)が装置されている。図示のバイブレータ44は円筒状のケーシングとその内部に配置された起振機とを備え、前記起振機の作動により前記ケーシングが振動する。
【0025】
パイプ42及びバイブレータ44は、型枠18に設けられたコンクリート供給口40の近傍、図示の例では型枠18の端部38の近傍において型枠18の頂部又はその近傍に配置され、上方に向けて、ほぼ、型枠18の頂部型枠部21の直径方向へ伸びている。
【0026】
パイプ42及びバイブレータ44は、それぞれ、支持部材46,48を介して、コンクリート打設空間17の外部において型枠18の頂部型枠部21に取り付けられており、型枠18の頂部型枠部21にその長さ方向(軸線方向)へ互いに間隔をおいて設けられた穴50,52(図3)を貫通している。
【0027】
より詳細には、パイプ42及びバイブレータ44は、それぞれ、これらに接続されこれらと平行に伸びる2対の液圧ジャッキ54,56を介して支持部材46,48に取り付けられている。
【0028】
液圧ジャッキ54,56は、それぞれ、これらのシリンダ部において支持部材46,48に固定され、パイプ42及びバイブレータ44は、それぞれ、液圧ジャッキ54,56の前記シリンダ部を出入可能であるロッド部に一対のブラケット58,60を介して固定されている。
【0029】
液圧ジャッキ54,56の伸縮動作により、パイプ42及びバイブレータ44を、それぞれ、これらの軸線方向へ移動(昇降)させることができる。図示の例では、各液圧ジャッキ54,56の前記ロッド部が防塵のための蛇腹部材62で覆われており、蛇腹部材62は前記液圧ジャッキの伸縮動作に応じて伸縮する。
【0030】
パイプ42は、好ましくは、これを上昇させることにより、その上端部をトンネル壁面16に当てることができる長さ寸法を有する。また、図示のパイプ42は、閉鎖された一端(上端)64と、該上端の近傍に形成されパイプ42の内部と外部とに連通する2つの穴66とを有する(図3及び図4参照)。
【0031】
図示の例では、パイプ42の上端64はその開放面に固定されたディスク状の蓋68により閉鎖されている。蓋68はパイプ42の外径と同径の直径を有し、その中心がパイプ42の軸線上に位置する。また、図示の両穴66は、それぞれ、パイプ42の上端面の一部とこれに連なる側面の一部とを切り欠いてなり、パイプ42の軸線の周りに180°の角度をおいて位置する。
【0032】
蓋68はパイプ42の開放上端を塞ぐことができる他の任意のもの、例えばパイプの上端部の内面に形成された雌ねじに係合可能である雄ねじで構成することができる。また、穴68はその数量を少なくとも1つとすることができる。穴68は、例えばパイプ42の側面にのみ開放する孔とすることができる。穴68は、コンクリート打設空間17の上方部分で開口するように、パイプ42の上端に近接していること望ましい。
【0033】
パイプ42は、その上端がトンネル壁面16に突き当たるまで、又は突き当たる直前の高さ位置に至るまで、上昇させる。
【0034】
このパイプ42によれば、コンクリート打設空間17の上方部分に残る前記空気をその穴66を通してその内部に導き、その開放下端からコンクリート打設空間17の外部に排出することができる。また、前記空気の排出に伴ってコンクリート打設空間17の前記上方部分がコンクリートで満たされるとき、前記コンクリートの一部もまたパイプ42の穴68を通して該パイプから流れ出るが、パイプ42の上端が閉鎖されているため、これが開放している場合と比べて、その流出量は少ない。コンクリート打設空間17の前記上方部分がコンクリートで満たされたか否かは、型枠18のトンネル切羽側に設けられた窓(図示せず)を通して確認することができる。
【0035】
コンクリート打設空間17の前記上方部分へのコンクリートの充填を確認した後、コンクリート中のパイプ42を下降させる。パイプ42の下降の間、好ましくはさらに下降停止後しばらくの間、バイブレータ44を作動させる。このとき、パイプ42に近接した位置にあるバイブレータ44はその振動をパイプ42の周囲のコンクリートに及ぼし、これにより、パイプ42が存在したところにコンクリートを流動させてコンクリート中にパイプ42の抜き跡が残らないようにすると共に前記コンクリートを締め固める作用をなす。
【0036】
パイプ42の下降は該パイプの上端が型枠18に達したとき、より詳細には蓋68の頂面が型枠18の頂部の内面のレベルに到達したとき、停止する(図5参照)。このとき、パイプ42の上端の蓋68が穴50を塞ぎ、該穴からのコンクリートの漏れを防ぐと共に型枠18の一部としての作用をなす。これによれば、内周面に凹凸のない覆工を形成することができる。この例に代えて、パイプ42を穴50から引き抜き、その後、穴50を例えば板材で塞ぐことも可能である。
【0037】
バイブレータ44は、パイプ42の下降の間又はその停止後、バイブレータ44を作動させながら前記コンクリート中を下降させる。これにより、パイプ42のコンクリート中からの引き抜きにおけると同様、コンクリート中にバイブレータ44の抜き跡が生じないようにすることができる。バイブレータ44の下降もまたその上端が型枠18の頂部の内面に達したときに停止させる。これにより、バイブレータ44の上端により穴52を塞ぎ、該穴からのコンクリートの漏れを防ぐと共に型枠18の一部としての作用を担わせることができる。バイブレータ44についても、これを穴52から引き抜き、穴52を板材で塞いでもよい。
【0038】
パイプ42及びバイブレータ44の組の数を2とする図示の例に代えて、これを1組又は3組以上とすることができる。また、1つのパイプ42と複数のバイブレータ44とからなる組とし、あるいは複数のパイプ42と1つのバイブレータとからなる組とすることができる。
【0039】
また、パイプ42は円形の横断面形状を有するものに代えて、例えば角形の横断面形状を有するものとすることができる。さらに、パイプ42は、図示の例に代えて、上端開放のものとすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】掘削により生じた山岳トンネル内に配置された型枠装置の正面図である。
【図2】型枠装置の概略的な縦断面図である。
【図3】型枠装置に装置されたパイプ及びバイブレータの部分拡大図である。
【図4】コンクリート打設空間に上昇された状態のパイプの拡大図である。
【図5】コンクリート打設空間から下降された状態のパイプの拡大図である。
【符号の説明】
【0041】
10 山岳トンネル
12 覆工
14 型枠装置
16 トンネル壁面
17 コンクリート打設空間
18 型枠
42 パイプ
44 バイブレータ
64 パイプの一端
66 穴
68 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の壁面の覆工のために設置される型枠と前記構造物の壁面との間のコンクリート打設空間に打設されるコンクリートと前記構造物の壁面の頂部又はその近傍との間に残る空気を前記コンクリート打設空間外に導くために用いられるパイプであって、
閉鎖された一端と、該一端の近傍に形成され前記パイプの内部と外部とに連通する少なくとも1つの穴とを有し、前記空気は前記穴を通して前記パイプ内に導入可能である、パイプ。
【請求項2】
前記パイプの一端はその端面に取り付けられた蓋により閉鎖され、前記穴は前記パイプの端面の一部とその側面の一部とを切り欠いてなる、請求項1に記載のパイプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−291792(P2007−291792A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122964(P2006−122964)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000001317)株式会社熊谷組 (551)
【出願人】(593147531)大旺建設株式会社 (15)
【出願人】(000158725)岐阜工業株式会社 (56)
【Fターム(参考)】