説明

構造物の表面亀裂の開口変動量の測定方法、表面亀裂深さの測定方法及びそれに利用するデータベース

【課題】 構造物の表面亀裂の開口変動量を簡単、迅速にかつ高精度で測定する方法、亀裂深さの測定方法及びそれに利用するデータベースを提供する。
【解決手段】 開口変動量測定方法は、構造物の表面亀裂をまたぐように圧電フィルムを該構造物に貼り付ける段階と、前記圧電フィルム上に所定長さの電極を、当該電極の中心が表面亀裂の裂け目上にあり、かつ、電極の長手方向が表面亀裂の裂け目の方向と直交するように貼付する段階と、前記構造物の表面亀裂部分に曲げ歪みを生じさせその際に前記圧電フィルムに発生する電圧を取り出す段階と、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の表面に開口した亀裂(表面亀裂)が面外曲げ力を受ける際の開口変動量を測定する方法、これを利用した亀裂深さを測定する方法及び亀裂深さの測定方法に利用されるデータベースに係り、特に亀裂の開口変動量を測定する素子として圧電フィルム又は歪みゲージを利用するものに関する。ここに「開口変動量」とは、表面亀裂の開口幅が外力により変動した量をいう。
【背景技術】
【0002】
橋梁、船舶や機械等の構造物は安全上の観点から損傷の有無について定期的に点検がなされることが多い。このような点検において特に溶接構造物の場合は、溶接部に発生する亀裂が構造物破壊の起点になりやすいことから、溶接部の亀裂の有無の点検が重要である。そして亀裂を発見した場合に、どのような対策を行うか判断するには構造物に生ずる亀裂の開口変動量や亀裂の深さの知見が必須である。
【0003】
このため、表面亀裂の開口変動量や亀裂深さを測定する方法として種々の提案がなされている。例えば特許文献1に電位差計測法が提案されている。特許文献2には超音波探傷法が提案されている。特許文献3には高速ビデオカメラを用い、特許文献4にはマイクロスコープを用いて亀裂を動画撮影し、その画像解析から亀裂の開口変動量を求める方法が提案されている。また、特許文献5にはクリップゲージやカンチレバーを測定部位に取り付けて亀裂の開口変動量を測定する開口変位計を用いた方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10-307117号公報
【特許文献2】特公平7-69309号公報
【特許文献3】特開2000-275094号公報
【特許文献4】特開2001-56272号公報
【特許文献5】特開2003-329557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1による方法では表面亀裂の亀裂部の接触状態等によって誤差を生じやすいという問題があり、特許文献2による方法では特に溶接部位の亀裂に対しては溶接部から雑エコーが混入するために精度が悪くなりやすいという問題がある。特許文献3又は4による方法では、構造物に実際に負荷されるような大荷重を負荷しない限り開口変動量の測定が困難であるという問題がある。また、特許文献5による方法は、クリップゲージやカンチレバーを測定部位、特に溶接部位に取り付けるのは容易でなく、さらに、この方法で測定した亀裂変動量には、亀裂周囲の母材の伸びが含まれているため、浅い亀裂の開口変動量は測定できないという問題がある。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑み、比較的測定が困難な溶接止端部に生じた表面亀裂や深さの浅い表面亀裂であっても簡単、迅速にかつ高精度でその開口変動量を求める測定方法、これを利用した亀裂深さの測定方法及びそれに利用するデータベースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、構造物の表面亀裂をまたぐように圧電フィルムを構造物に貼り付け、構造物に面外曲げ力を与えた際に、圧電フィルムに発生する電圧Vは表面亀裂の開口変動量δに比例するとの知見を得、さらに、上記により求められた開口変動量δと、表面亀裂が存在しないと仮定した場合に表面亀裂部に発生する公称歪ε0を開口変動量δと同時に測定し、開口変動量δを公称歪ε0で除した値(単位歪み当たりの開口変動量、すなわち標準化された開口変動量)は亀裂深さaに比例するとの知見を得て、本発明を完成した。
【0007】
本発明に係る構造物の表面亀裂の開口変動量の測定方法は、構造物の表面亀裂をまたぐように圧電フィルムを該構造物に貼り付ける段階と、前記圧電フィルム上に所定長さの電極を、当該電極の中心が亀裂の裂け目に一致し、かつ、電極の長手方向が亀裂の裂け目の方向と直交するように貼付する段階と、前記構造物の表面亀裂部分に曲げ歪みを生じさせその際に前記圧電フィルムに発生する電圧を取り出す段階と、からなる。
【0008】
上記発明において、所定長さの電極は、長さが1〜3mmの電極であるのが好ましく、構造物の表面亀裂部分に与える所定の曲げ歪みは、打撃により発生せしめられるものであるのが好ましい。また、本発明は、圧電フィルムに代えて歪みゲージを用いるものであってもよい。
【0009】
本構造物の表面亀裂の亀裂深さ測定方法は、上記構造物の表面亀裂の開口変動量測定方法を用いて、表面亀裂の複数箇所で、開口変動量δと、それと同時に表面亀裂が存在しないと仮定した場合に表面亀裂部位に発生する公称歪ε0を測定し、得られた表面亀裂の各位置r1、r2・・rjに関する標準化された開口変動量δ(r1)/ε0(r1)、δ(r2)/ε0(r2)・・δ(r)/ε0(rj)の分布を最もよく表す予め数値解析により求められた標準化された開口変動量δ1n(r)を表す曲線Xを選択し、その曲線Xに係る亀裂倍数kで前記標準化された開口変動量δ(r1)/ε0(r1)、δ(r2)/ε0(r2)・・δ(rj)/ε0(rj)を除することにより亀裂深さa(r1)、a(r2)・・a(rj)を求める。
【0010】
上記発明においては、深さがa(r)で表される表面亀裂を有する構造体モデルの所定位置に打撃を加えて面外曲げを生じさせたとき、数値解析により求めた表面亀裂位置rに係る標準化された開口変動量(δ1n)(r)と、亀裂深さa(r)との間に成立する比例関係より得られる常数を亀裂倍数kとし、上記構造体モデルの形状、a(r)で表される亀裂深さ、打撃位置と力の大きさ、(δ1n)(r)で表される標準化された開口変動量及び亀裂倍数kに係る各データを蓄積した開口変動量データベースを予め作成し利用するのがよい。
【0011】
また、本発明は上記開口変動量データベースを利用したコンピュータにより亀裂深さを求めるのがよい。すなわち、そのコンピュータは、入力データ作成手段から表面亀裂を有する構造体の形状と表面亀裂の位置に関するデータ、打撃力の大きさと位置及びその構造体から得られた実測による複数の標準化された開口変動量δ/ε0の各データを記憶する手段、構造体モデルの形状、a(r)で表される亀裂深さ、打撃位置と力の大きさ、(δ1n)(r)で表される標準化された開口変動量及び亀裂倍数kに係る各データを蓄積した開口変動量データベース、前記記録された入力データを基にその入力条件に最も当てはまる開口変動量データベース内の標準化された開口変動量(δ1n)(r)と亀裂倍数kのデータを検索する手段、及び検索により得られた亀裂倍数kを基にa(r)=(δ1n)(r)/kなる関係式から亀裂深さa(r)を求める手段、として機能させるようにするのがよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る構造物に生じた表面亀裂の開口変動量の測定方法は、比較的測定が困難な溶接止端部に生じた表面亀裂や深さの浅い表面亀裂に対して、開口変動量を簡単、迅速かつ高精度で測定することができる。また、この開口変動量の測定方法を利用して容易に亀裂深さを測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る構造物の表面亀裂の開口変動量の測定は、打撃手段で亀裂部に面外曲げを生じさせ、このとき圧電フィルムに生ずる歪みを求めることによって行う。この表面亀裂の開口変動量の測定方法を、図1に示すような表面亀裂を有する試験片を例に説明する。試験片1は、片持ち支持され、板幅60mm、長さ350mm及び板厚10mmの短冊状をなし、その自由端から140mmの位置に中心線nに対して対称な長さ45mm、幅0.2mmの放電加工により作成された円弧状の表面亀裂3を有している。表面亀裂の開口変動量の測定においては、先ず、表面亀裂3をまたぐように表面亀裂3の幅より幅広の圧電フィルム5を試験片1に貼り付ける。次いで、圧電フィルム5上に電極7を、電極7の中心が表面亀裂3の裂け目4の中心に一致し、かつ、電極7の長手方向が表面亀裂3の裂け目4の方向と直交するように貼付する。次に、打撃手段40で試験片1の自由端P点を叩き、圧電フィルム5からの出力電圧を電極7及び配線14を介して読出装置12に出力する。なお、後述のように圧電フィルム3は、表面亀裂3の裂け目4の長さよりやや長いものを用い表面亀裂3の全体を覆うように貼付するのがよい。これにより圧電フィルム5上の所要の部位に電極7を貼付すれば、表面亀裂3の所要の部位の開口変動量を容易に測定することができる。
【0014】
上記において、圧電フィルム5は公知のものを使用することができる。例えば、フィルムの厚みが40〜100μm、ヤング率が2000〜4000MPa、ポアソン比が0.3〜0.35のPVDFを使用することができる。圧電フィルム5を試験片1に貼付するには瞬間接着剤を用いるのがよい。例えば、圧電フィルム5にセメダインPPX(商標、セメダイン株式会社)を塗布して試験片1に貼付すればよい。瞬間接着剤の厚みは薄いほどよい。
【0015】
電極7は、以下に説明するように所定長さのものを使用する。本例では長さ2mmのものを使用する。電極7の幅は、表面亀裂3の幅より大きければ特に制限はないが、取扱い性を考慮しピンセットで容易に取り扱うことができる3〜5mmがよい。例えば、公知の導電性粘着剤付きの金属箔電極を使用することができる。この金属箔電極の厚みは約100μm程度である。なお、圧電フィルム5にアルミニュームや銅を蒸着又はスパッタリングして電極と一体に構成したものを用いる場合は、表面亀裂3の裂け目に沿って電極7と同等程度の大きさの短冊状圧電フィルムを瞬間接着剤等で貼付すればよい。
【0016】
電極7は、圧電フィルム5上に電極7の中心が表面亀裂3の裂け目4に一致し、かつ、電極7の長手方向が裂け目4の方向と直角に交わるように貼付するのがよい。これは開口変動量の測定において、測定精度を低下させることなく測定するためであり、厳密に上記のように位置決めをする必要はない。
【0017】
読出装置12は、圧電フィルム5からの出力電圧を読み出し、そのデータを必要に応じて解析装置等に供給し又記録することができる装置であればよい。例えば、オシログラフを使用することができる。
【0018】
打撃手段40は、表面亀裂3部分に面外曲げを生じさせるものであり、表面亀裂3部分の圧電フィルム5に10-5〜10-3の曲げ歪みを与えるものがよい。その程度の歪みであれば実際の構造物であってもハンドハンマー、例えば特開2002-25700に提案されているインパクトハンマを用いて必要な打撃力を与えることができるから、大きな構造物の表面亀裂であっても容易にその開口変動量を測定することができる。なお、インパクトハンマ以外にも計装化ハンマ(打撃力制御機能付きハンマ)や、圧電素子、超磁気歪素子、圧搾空気又は電磁石を利用した打撃装置を使用することができる。
【0019】
このような構成の試験片1において、自由端のP点をインパクトハンマで軽く叩いたとき圧電フィルム5から得られた出力電圧の変化状態を図2に示す。出力電圧は、図2に示すように打撃力に応じた減衰振動波を示すが、圧電フィルム5に生じた歪みは、一般に第2波又は第3波、特に第2波の出力電圧から求めたものの精度が高い。
【0020】
この圧電フィルム5の出力電圧をもとに、表面亀裂の開口変動量は以下のように求めることができる。圧電フィム5の出力電圧Vは圧電フィルムの面積S、すなわち圧電フィルム5上に貼付した電極7の面積に比例し、また歪速度dε/dtに比例するから、V=h×S×dε/dt(但しhは定数)で表すことができる。この場合、変動幅ε、角速度ωの歪振動が生じており、電極7が長さL、幅Bの方形であるとすると、V=h×S×ω×ε=h×L×B×ω×εになる。すなわち、表面亀裂の開口変動量δは、δ=L×ε=V/h×B×ωより求めることができる。
【0021】
上記表面亀裂の開口変動量の測定においては、電極7の長さLを所定の長さにすることが重要である。以下にこの測定原理を図3に基づいて説明する。図3は図1に示す表面亀裂3の所定位置、例えば試験片1の縁部からrの位置におけるBB断面を示す。図3に示すように、圧電フィルム5が試験片1に接着剤6により接着され、圧電フィルム5上には電極7が導電性粘着剤8により粘着されている。長さLの電極7は、電極7の中心が裂け目4の上にあり、電極7の長手方向が裂け目4の方向(紙面の垂直方向)とほぼ直角に交わっており、裂け目4に対してほぼ対称に粘着されている。δ1は表面亀裂3の裂け目4の開口変動量を示す。
【0022】
上記構成について、面外曲げ力Mを与えた場合に圧電フィルム5に発生する歪みを数値解析により求める。数値解析は、有限要素法を用いるのがよい。図3の一点鎖線で示す曲線Sは、有限要素法で求めた歪分布曲線である。図3に示すように、歪分布曲線Sは、裂け目4の中心を頂点として対称な山形をしており、裂け目4からL1/2離れた位置で歪みが0(ゼロ)になる。また、このL1/2の前後で歪分布曲線Sは曲率の大きい下に凸形状をしている。さらに裂け目4から遠くになると、歪みは次第に大きくなる。図中のε1は歪分布曲線Sのうち上記山形部分の平均歪を示す。歪分布曲線Sを+L1/2〜-L1/2の範囲で積分すると圧電フィルムの伸び、すなわち表面亀裂3の開口変動量δ1が求まる。
【0023】
上記説明から分かるように、表面亀裂3をまたぐように貼付した圧電フィルム5上に長さL1の電極7を、電極7の中心が表面亀裂の裂け目の中心と一致し、かつ、電極7の長手方向が表面亀裂3の裂け目4の方向と直交するように貼付して測定した歪みεはε1に等しい。さらに、歪分布曲線Sの+L1/2及び-L1/2前後の範囲の歪みは非常に小さく、歪み変化がほとんどないので、長さL1にほぼ等しい電極7であれば高い精度でε1を測定することができることが分かる。従って、L1にほぼ等しいLの長さの電極7で測定した歪みεから、δ=L×εとして、開口変動量を高い精度で測定できることが分かる。
【0024】
圧電フィルム5や接着剤6等の材質、厚さ等を種々変え歪分布曲線Sを求めると、歪みが0になる+L1/2又は-L1/2の値は圧電フィルム5や接着剤6等の材質、厚さ等に関係することが分かる。しかしながら、通常使用される構成にあっては、+L1/2又は-L1/2の絶対値は0.5〜0.8(mm)の範囲にある。従って、電極7の長さLは2mm前後、好ましくは1〜3mmとするのがよい。
【0025】
上述の表面亀裂の開口変動量の測定方法を利用することによって、橋梁等の大きな構造物であっても高速ビデオカメラ等使用しないで、表面亀裂の開口変動量を高精度かつ容易に測定できる。また、高速ビデオカメラや開口変位計を用いた方法では測定できないほど小さな開口変動量も、本発明の開口変動量測定方法により求めることができる。さらに、以下に示すように本発明に係る開口変動量の測定方法を利用することによって、非破壊的に表面亀裂の亀裂深さを求めることができる。
【0026】
図4は、図1の場合において表面亀裂3の裂け目4の方向に測った位置rにおける亀裂深さaと、数値解析より求めた開口変動量δ1を、表面亀裂3が存在しないと仮定した場合に表面亀裂部位に発生する公称歪(亀裂部位公称歪)εnで除した値δ1n(標準化された開口変動量)との関係を示す。この図4によると、亀裂深さaと標準化された開口変動量δ1nとは比例関係があることがわかる。すなわち、この比例係数を亀裂倍数kとすると、亀裂深さは、a=δ1/(εn×k)により求められることが分かる。なお、上記亀裂部位公称歪εnは、表面亀裂部位に作用する曲げモーメントをM、亀裂がないと仮定した場合の表面亀裂部位の断面係数をZ、ヤング率をEとすると、εn=M/(Z×E)より求めることができる定数である。
【0027】
亀裂倍数kは以下のように求めることもできる。すなわち、亀裂深さが関数a(r)で表され、数値解析より求めた標準化された開口変動量が関数δ1(r)/εn、すなわち(δ1n)(r)で表される場合に、この標準化された開口変動量を亀裂深さで除し亀裂倍数関数(δ1(r)/εn)/a(r)、すなわち(δ1/(εn×a))(r)を求める。求められた亀裂倍数関数の面外曲げ歪みが10-5〜10-3の範囲内の勾配の平均値を亀裂倍数kとすることもできる。
【0028】
このような関係は、亀裂深さaと、実測された開口変動量δを実測された亀裂部位公称歪ε0で徐した標準化された開口変動量δ/ε0との間でも成立する。図5は、図1の場合における円弧状の表面亀裂a(r)を表す曲線Y、有限要素法で求めた標準化された開口変動量(δ1n)(r)を表す曲線X、実測に基づく標準化された開口変動量δ/ε0の分布(白丸印)、及び有限要素法で求めた亀裂倍数k(k=5.9)を用いて5.9×a(r)で表される曲線Zをそれぞれ表示したグラフを示すものである。これによると、白丸印で示すδ/ε0は、上記曲線X及びZの周りに分布しており、δ1n=a×k=δ/ε0なる関係式が成立していることが分かる。なお、δ1n及びδ/ε0は、面外曲げ力の大きさに依存しない値であり、打撃力の大小に関わらず一定である。また、ε0は測定により得られる亀裂部位公称歪であり、理論的にはε0=εnである。
【0029】
以上の結果から、所定の構造物又はその構造物の一部分(構造体モデル)について数値解析による標準化された開口変動量(δ1n)(r)を表す曲線X、及びその曲線Xに係る亀裂倍数kを予め求めておくならば、その構造体モデルが適用できる構造物の表面亀裂の各位置で測定された開口変動量δ(r1)、δ(r2)・・δ(rj)と亀裂部位公称歪ε0の値から亀裂深さを求め得ることが分かる。すなわち、亀裂深さa(r)(表面亀裂の各部位における亀裂深さ)は、以下のように求めることができる。
【0030】
先ず、構造物の表面亀裂3部分に面外曲げ力を負荷し、表面亀裂3の位置r1における開口変動量δ(r1)と、同時に、亀裂部位公称歪ε0(r1)を測定する。上記測定を表面亀裂の複数箇所、望ましくは3カ所以上で行い、表面亀裂3の位置r1、r2・・rjについての標準化された開口変動量δ(r1)/ε0(r1)、δ(r2)/ε0(r2)・・δ(rj)/ε0(rj)を求める。なお、亀裂部位公称歪ε0は、例えば図1において、打撃点Pと電極7を結ぶ延長上で表面亀裂3から離れた位置(表面亀裂の影響を受けない位置)に、圧電フィルム55を貼付しさらに圧電フィルム55の上に電極77を貼付し、圧電フィルム55に生ずる歪みを求め比例計算によりε0を求めることができる。なお、表面亀裂3の裂け目4方向の延長上で表面亀裂3から離れた位置に圧電フィルム55を貼付することができる場合は、ε0を直接求めることができる。
【0031】
次に、図5に示すように、表面亀裂3の裂け目4の方向を横軸とし、標準化された開口変動量を縦軸とするグラフを作成する。上記で求めた表面亀裂3の各位置での標準化された開口変動量をプロットし、図5の白丸印で示す開口変動量の分布図を作成する。次に、その白丸印で構成される分布状態を最もよく表す予め数値解析で求めておいた標準化された開口変動量(δ1n)(r)を表す曲線Xを選択し、その曲線Xに係る亀裂倍数kを求める。次に、先に求めた表面亀裂3の位置r1、r2・・rjについての開口変動量δ(r1)/ε0(r1)、δ(r2)/ε0(r2)・・δ(rj)/ε0(rj)をkで除して亀裂深さa(r1)、a(r2)・・a(rj)を求め、亀裂深さa(r1)、a(r2)・・a(rj)の各点を結ぶ滑らかな曲線を求めると、図5に示す亀裂深さa(r)を表す曲線Yが得られる。
【0032】
なお、得られた(r1、δ(r1)/ε0(r1))、(r2、δ(r2)/ε0(r2))・・の分布を適切に表す曲線(δ/ε0)(r)を数学的に求め、次に、その曲線に最も近似する予め数値解析で求めておいた標準化された開口変動量(δ1n)(r)を表す曲線Xを求めてその曲線Xに係る亀裂倍数kを求めることにより、亀裂深さa(r)を表す曲線Yを得ることもできる。
【0033】
上記亀裂深さa(r)を求める方法は、例えば、表面亀裂3の亀裂断面形状が2つの円弧亀裂が結合したようなものであっても適用できる。図6は、図1で説明した試験片と同様の試験片に2つの円弧亀裂が結合した形の表面亀裂を設けたものの試験結果である。図6において、曲線Yは表面亀裂の実際の亀裂深さa(r)を表す曲線、白丸印は実測に基づく標準化された開口変動量δ/ε0を示し、一点鎖線で表した曲線Zは亀裂深さa(r)を5.4倍(5.4×a(r))したものを示す。測定点δ/ε0はほぼ曲線Z上に分布している。すなわち、本発明は種々の形の亀裂に対して適用可能である。
【0034】
図7は、上記の表面亀裂の亀裂深さを測定する方法を実施する亀裂深さ測定装置を示す。本装置は、開口変動量測定装置10と解析装置20からなる。開口変動量測定装置10は、構造物100の表面亀裂3上に貼付する圧電フィルム5、電極7、打撃装置40及び圧電フィルム5からの出力電圧を配線14を介して取り出す読出装置12からなる。圧電フィルム5からの出力電圧を測定する場合、図7に示すような接触端子16を用いると表面亀裂3の各部位の開口変動量を容易かつ迅速に測定することができる。
【0035】
解析装置20は、入力データ作成手段23、開口変動量データベース25、比較手段27及び表示手段28からなる。入力データ作成手段23は実測に基づく標準化された開口変動量δ/ε0のデータ、構造物のデータ及び打撃位置等のデータを入力し、開口変動量データベース25に必要なデータを供給する手段である。開口変動量データベース25は、図8に示すように構造体モデルの形状、表面亀裂の形状及び打撃位置に関するデータを有し、さらに、それらの各条件に対し数値解析で求めた標準化された開口変動量(δ1n)(r)と亀裂倍数kのデータを有するデータベースである。比較手段27は、前述の亀裂倍数kを求める方法をソフトウエアにより求める手段である。すなわち、表面亀裂の各位置から得られた標準化された開口変動量δ/ε0の分布を最もよく表すデータベース内にある標準化された開口変動量(δ1n)(r)曲線を求め、求められた(δ1n)(r)曲線からその曲線に係る亀裂倍数kを求め、その亀裂倍数k及び亀裂倍数kを基にa(r)=(δ1n)(r)/kなる関係式から求めた亀裂深さをa(r)に関するデータを表示手段28に提供する手段である。表示手段28は、比較手段27から提供された亀裂倍数k及び亀裂深さa(r)を基に所要の表示の仕方で亀裂深さa(r)を表示する手段である。
【0036】
以上説明したように、本発明に係る構造物の表面亀裂の開口変動量と亀裂深さの測定方法及び亀裂深さ測定装置により、開口変動量と亀裂深さを非破壊で容易、迅速かつ高精度で測定することができる。しかしながら本発明は上記の実施例に限らない。例えば、圧電フィルム5に換えて歪みゲージを利用し圧電フィルム5と同様に表面亀裂の開口変動量と亀裂深さを測定することができる。図9は、図1と同様の試験条件で、圧電フィルム及び歪みゲージの両者を使用してそれぞれ標準化された開口変動量δ/ε0分布を求めた場合の結果を示す。白丸印は圧電フィルムを用いた場合の結果で、×印は歪みゲージを用いた場合の結果を示す。曲線Xは数値解析で求めた標準化された開口変動量を示し、曲線Yは実際の亀裂深さを示す曲線である。図9によると白丸印及び×印とも曲線Yの周りにあり、歪みゲージによっても圧電フィルムと同様に亀裂深さを求めることができることが分かる。なお、歪みゲージは、ゲージの長手方向の歪みのみ測定するのに対し、圧電フィルム5の場合は、電極7の長手方向とともに長手方向と直角方向の歪みも同時に測定するから、圧電フィルム5により求めたδ/ε0は歪みゲージにより求めたものより小さくなる傾向がある。
【0037】
また、打撃手段40に打撃力検出器付き打撃具を用いる場合は、亀裂が生じていない構造物で予め亀裂部位公称歪ε0を測定し、打撃力と亀裂部位公称歪ε0の関係式を求めておけば、同様形状の構造物の表面亀裂の亀裂深さを測定するときは、打撃力のみを測定し亀裂部位公称歪ε0の測定を省略することができる。
【0038】
さらに、本発明は、開口変動量データベース25に適当なデータがない場合でも容易に亀裂深さを測定することができる。図10にその亀裂深さ測定装置の例を示す。この亀裂深さ測定装置は、図7に示した亀裂深さ測定装置と解析装置20部分の開口変動量データベース25部分に入力データ解析手段35を設けた解析装置30を有する点が異なる。入力データ解析手段35は、図11に示す手順で亀裂倍数kを求めるようになっている。
【0039】
すなわち、まず、標準化された開口変動量の測定値(δ/ε0)(r1)、(δ/ε0)(r2)、・・・を適当に定めた亀裂倍数klで除して亀裂深さ形状a(1)(r)=(δ/ε0)(r)/klを仮想する。次に、仮想した亀裂深さ形状を有する構造体モデルを有限要素法などで数値解析して標準化された開口変動電(δ(1)0)(r)を求める。次に、((δ(1)0)(r)-(δ/ε0)(r))が正ならばklを微少量増加させてk2とし、逆に負ならばklを微少量減少させてk2とする。このk2を図11の(2)のk1の代わりに使用して、(3)、(4)、(5)の操作を繰り返すイタレーションを行うと、亀裂倍数kがk3、k4、、、kjのように更新される。そして、((δ(j)0)(r)-(δ/ε0)(r))がほぼ零になったときの(δ(j)0)(r)を標準化された開口変動量とし、そのときのkjを亀裂倍数とする。
【実施例1】
【0040】
角廻し溶接を行った構造物100を片振り3点曲げ疲労試験し、溶接止端部に疲労亀裂を生じさせたものの表面亀裂の開口変動量及び亀裂深さを測定した。疲労試験の条件は、応力比R=0.1、3Hz、105サイクルであった。図12に当該構造物100の形状、圧電フィルム5(5A〜D)、55及び電極7(7A〜7H)、77の貼付位置、打撃点Pの位置を示す。構造物100は図11に示すように片持ち支持した。圧電フィルム5は、表面亀裂3に合わせて4枚に分けて貼付した。電極7は、導電性粘着剤付き金属箔の電極板からなる長さL×幅Bが2mm×5mmのものを使用した。標準化された開口変動量δ/ε0の測定は、表面亀裂3から120mm離れた自由端P点をプラスチックハンマで微弱に打撃して行った。
【0041】
図13に測定結果を示す。丸印は測定したδ/ε0の分布、曲線Xは有限要素法で求めた(δ1n)(r)の分布曲線、曲線yは(δ1n)(r)を亀裂倍数k(k=5.5)で除して求めた曲線、曲線Yは試験後構造物100を亀裂部分から破断して亀裂深さa(r)を実測した結果を示す。図12に示すように、曲線Yと曲線yはよく一致しており、測定値δ/ε0の分布より亀裂深さa(r)が高精度で求められることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る構造物の表面亀裂の開口変動量の測定方法による実施例を説明する模式図である。
【図2】図1の場合の圧電フィルムに生じた出力電圧を示す例である。
【図3】図1の場合の有限要素法による解析を説明する模式図である。
【図4】図1の場合の表面亀裂の亀裂深さと、数値解析により求められた標準化された開口変動量との関係を説明する図である。
【図5】図1の場合の亀裂深さと、実測及び数値解析により求められた標準化された開口変動量との関係を示す図である。
【図6】2つの円弧亀裂が組み合わされた表面亀裂を有する構造物の亀裂深さと、実測及び数値解析により求められた標準化された開口変動量との関係を示す図である。
【図7】亀裂深さ測定装置のレイアウト図である。
【図8】開口変動量データベースの内容を示すチャート図である。
【図9】歪みゲージを使用して表面亀裂の亀裂深さを測定した結果を、圧電フィルムを使用して表面亀裂の亀裂深さを測定した結果と比較したグラフである。
【図10】開口変動量データベースがない場合の亀裂深さ測定装置のレイアウト図である。
【図11】開口変動量データベースに適当なデータがない場合に亀裂倍数kを求める手順を示すチャート図である。
【図12】疲労亀裂を有する構造物の亀裂深さを測定した実施例を示す模式図である。
【図13】図12の実施例の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 試験片
3 表面亀裂
4 裂け目
5、55 圧電フィルム
6 接着剤
7、77 電極
8 導電性粘着剤
10 開口変動量測定装置
12 読出装置
14 配線
16 接触端子
20 解析装置
23 入力データ作成手段
25 開口変動量データベース
27 比較手段
28 表示手段
30 解析装置
35 入力データ解析手段
40 打撃手段
100 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面亀裂をまたぐように圧電フィルムを該構造物に貼り付ける段階と、
前記圧電フィルム上に所定長さの電極を、当該電極の中心が表面亀裂の裂け目上にあり、かつ、電極の長手方向が表面亀裂の裂け目の方向と直交するように貼付する段階と、
前記構造物の表面亀裂部分に曲げ歪みを生じさせその際に前記圧電フィルムに発生する電圧を取り出す段階と、からなる構造物の表面亀裂の開口変動量測定方法。
【請求項2】
所定長さの電極は、長さが1〜3mmの電極であることを特徴とする請求項1に記載の構造物の表面亀裂の開口変動量測定方法。
【請求項3】
構造物の表面亀裂の上に、所定長さの歪みゲージを、当該歪みゲージの中心が表面亀裂の裂け目上にあり、かつ、歪みゲージの長手方向が表面亀裂の裂け目の方向と直交するように貼付する段階と、
前記構造物の表面亀裂部分に曲げ歪みを生じさせその際に前記歪みゲージに発生した歪みを取り出す段階と、からなる構造物の表面亀裂の開口変動量測定方法。
【請求項4】
所定長さの歪みゲージは、有効ゲージ部の長さが1〜3mmであることを特徴とする請求項3に記載の構造物の表面亀裂の開口変動量測定方法。
【請求項5】
構造物の表面亀裂部分に与える所定の曲げ歪みは、打撃により発生せしめられる面外曲げ歪みであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の構造物の表面亀裂の開口変動量測定方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の構造物の表面亀裂の開口変動量測定方法を用いて、表面亀裂の複数箇所で、開口変動量δと、それと同時に表面亀裂が存在しないと仮定した場合に表面亀裂部位に発生する公称歪ε0を測定し、得られた表面亀裂の各位置r1、r2・・rjに関する標準化された開口変動量δ(r1)/ε0(r1)、δ(r2)/ε0(r2)・・δ(r)/ε0(rj)の分布を最もよく表す開口変動量データベース内に蓄積された曲線Xを選択し、その曲線Xに係る亀裂倍数kで前記標準化された開口変動量δ(r1)/ε0(r1)、δ(r2)/ε0(r2)・・δ(rj)/ε0(rj)を除することにより亀裂深さa(r1)、a(r2)・・a(rj)を求める構造物の表面亀裂の亀裂深さ測定方法。
【請求項7】
深さがa(r)で表される表面亀裂を有する構造体モデルの所定位置に打撃を加えて面外曲げを生じさせたとき、数値解析により求めた表面亀裂位置rに係る標準化された開口変動量(δ1n)(r)と、亀裂深さa(r)との間に成立する比例関係より得られる常数を亀裂倍数kとし、上記構造体モデルの形状、a(r)で表される亀裂深さ、打撃位置と力の大きさ、(δ1n)(r)で表される標準化された開口変動量及び亀裂倍数kに係る各データを蓄積した開口変動量データベース。
【請求項8】
構造物の表面亀裂について実測による複数の標準化された開口変動量δ/ε0データから亀裂裂深さを求めるためにコンピュータを、
入力データ作成手段から表面亀裂を有する構造体の形状と表面亀裂の位置に関するデータ、打撃力の大きさと位置及びその構造体から得られた実測による複数の標準化された開口変動量δ/ε0の各データを記憶する手段、
構造体モデルの形状、a(r)で表される亀裂深さ、打撃位置と力の大きさ、(δ1n)(r)で表される標準化された開口変動量及び亀裂倍数kに係る各データを蓄積した開口変動量データベース、
前記記録された入力データを基にその入力条件に最も当てはまる開口変動量データベース内の標準化された開口変動量(δ1n)(r)と亀裂倍数kのデータを検索する手段、
及び検索により得られた亀裂倍数kを基にa(r)=(δ1n)(r)/kなる関係式から亀裂深さa(r)を求める手段、
として機能させる亀裂裂深さ測定プログラム及びそのプログラムを記録した記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−53095(P2006−53095A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−236089(P2004−236089)
【出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】