構造物用既設基礎の補強方法
【課題】杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎を、合理的かつ経済的に強固に補強することが可能な、構造物用既設基礎の補強方法を提供する。
【解決手段】杭3上に構築された既設フーチング4を備えた構造物用既設基礎の補強方法において、既設フーチング4の周囲に、複数枚のU形鋼矢板を平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁5を構築し、鋼矢板壁5の内側谷部内の地盤に鋼管杭7を打ち込んで、鋼矢板壁5と鋼管杭7とを連結手段により一体化し、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間にコンクリートを打設して新設フーチング9を構築し、鋼矢板壁5および鋼管杭7と既設フーチング4とを一体化手段により一体化する。
【解決手段】杭3上に構築された既設フーチング4を備えた構造物用既設基礎の補強方法において、既設フーチング4の周囲に、複数枚のU形鋼矢板を平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁5を構築し、鋼矢板壁5の内側谷部内の地盤に鋼管杭7を打ち込んで、鋼矢板壁5と鋼管杭7とを連結手段により一体化し、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間にコンクリートを打設して新設フーチング9を構築し、鋼矢板壁5および鋼管杭7と既設フーチング4とを一体化手段により一体化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、構造物用既設基礎の補強方法、特に、杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎において、既設フーチングの周囲に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで、鋼矢板壁と鋼管杭とを一体化し、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築し、鋼矢板壁および鋼管杭と既設フーチングとを一体化することにより既設基礎を強固に補強することが可能な、構造物用既設基礎の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、図7に示すように、構造物の基礎21は、地盤22中に構築された杭23と、杭23上に構築された鉄筋コンクリート製フーチング24とからなっている。基礎21の構築に際しては、従来、以下のような背景があった。
【0003】
(1)杭23とフーチング24との結合方法には、図8に示すように、杭23の頭部から伸ばしたアンカー鉄筋25をフーチング24のコンクリートに定着させる方法、および、図9に示すように、杭23の上部をそのままフーチング24内に埋め込む方法がある。何れの方法も、杭23を確実にフーチング24に固定する必要があるので、図8および図9中(L1)で示すように、杭23の外縁部をフーチング24の端部より、通常、杭23の半径寸法(L2)以上、離す必要があった。
【0004】
(2)一般にフーチング24は、地表から0.5mから3.0m程度の深さに構築されるので、基礎21を構築する地盤22を、実際に構築するフーチング24の寸法より広く掘削し、掘削穴内に外型枠を設置した後、外型枠内にコンクリートを打設し、埋め戻すのが一般的である。
【0005】
(3)上述した基礎21の設計に際しては、杭23は、水平方向剛性よりも軸方向剛性に優れているという特性を有していることから、基礎21上に、例えば、構造物としての橋脚を構築する場合、橋脚の中心に対して、杭23の位置をできるだけ遠くに離して配置すれば、基礎21の回転剛性を全体的に高めることができる。すなわち、このように杭23を配置すれば、基礎21の合理的かつ経済的な構築が可能となる。
【0006】
(4)従来から地盤掘削時の仮土留め工に鋼矢板を用いるシートパイル基礎工法が知られている。シートパイル基礎工法によれば、上記(2)の外型枠を不要とすることができるので、地盤の掘削領域を減少させることができる。例えば、特許文献1(特許第4300166号公報)には、図10に示すように、鋼矢板壁26とフーチング24とを孔開き鋼板27等により一体化することによって、基礎21の強度向上を図った構造物用基礎が開示されている。また、特許文献2(特開2008−240356号公報)には、図11に示すように、杭23に支持された、橋脚28が構築されるフーチング24と、杭23の周囲の地盤中に構築された鋼矢板壁26と備え、杭23と鋼矢板壁26とをフーチング24を介して一体化した構造物用基礎が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4300166号公報
【特許文献2】特開2008−240356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
都市部等の狭隘な場所に、例えば、橋梁等の構築物を構築する場合には、橋脚の用地幅(構築時に借地できる範囲も含めた用地幅)が非常に狭くなる。この結果、上記(1)および上記(2)の理由により、杭23の構築位置を橋脚中心から十分に離すことができなかった。すなわち、図12に示すように、狭隘な場所に橋脚28を構築するには、例えば、地盤22中に杭23を構築した後、基礎21の構築用地の境界直近の地盤22中に鋼矢板を打ち込んで土留め壁としての鋼矢板壁26を構築する。次いで、鋼矢板壁26内の地盤22を所定深さまで掘削した後、鋼矢板壁26の内側に作業スペース29を設けて外型枠30を構築する。次いで、外型枠30内にコンクリートを打設してフーチング24を構築し、埋め戻す。そして、フーチング24上に橋脚28を構築する。なお、鋼矢板壁26は、基礎21の構築後、撤去する場合もある。
【0009】
このようにして橋脚28が構築されるが、鋼矢板26の内側に作業スペース29を設ける必要があるので、フーチング24の寸法は、掘削穴より小さくなる。従って、上記(3)の理由により、橋脚28の中心位置と杭23の中心位置との間の距離(L2)を離すことができず、杭23の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができない。この結果、基礎21の回転剛性を全体的に高めることができない。すなわち、基礎21の合理的かつ経済的な構築が行えない。
【0010】
この問題は、図12に示すように、杭23の径(R2)を太くして、水平剛性を高めることによって解決することができるが、このようにすると建設コストが大幅に上昇する。
【0011】
なお、上記特許文献1に開示された図10に示す構造物用基礎によれば、フーチング24を構造物の構築用地の境界直近にまで構築することができるが、この基礎21は、杭を用いず、従って、杭と鋼矢板壁26とを一体化するといった思想はない。
【0012】
また、上記特許文献2に開示された図11に示す構造物用基礎によれば、杭23の周囲を鋼矢板壁26により囲み、杭23と鋼矢板壁26とを一体的にすることによって、杭23を補強することはできるが、この構造物用基礎は、杭23をこれが鋼矢板壁26の内側谷部内の地盤に打ち込むものではないので、橋脚28の中心位置と杭23の中心位置との間の距離(L2)を離すことができない。
【0013】
従って、この発明の目的は、杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎において、既設フーチングの周囲に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで、鋼矢板壁と鋼管杭とを一体化し、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築し、鋼矢板壁および鋼管杭と既設フーチングとを一体化することにより既設基礎を強固に補強することが可能な、構造物用既設基礎の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、下記を特徴とするものである。
【0015】
請求項1に記載の発明は、杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎の補強方法において、前記既設フーチングの周囲に、複数枚の凹凸形鋼矢板を平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁を構築し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間の地盤を掘削し、前記鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込み、前記鋼矢板壁と前記鋼管杭とを連結手段により一体化し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間にコンクリートを打設して新設フーチングを構築し、前記鋼矢板壁および前記鋼管杭と前記新設フーチングとを一体化手段により一体化することに特徴を有するものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、 前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼管杭を打ち込んだ後、前記鋼矢板壁を構築し、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することに特徴を有するものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の、構造物用基礎の構築方法において、前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼管杭を打ち込み、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することに特徴を有するものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記鋼管杭は、前記鋼矢板壁の前記内側谷部に納まる径を有していることに特徴を有するものである。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記連結手段は、溶接からなっていることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記連結手段は、前記鋼管杭と前記鋼矢板壁とを連結する連結部材からなっていることに特徴を有するものである。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記一体化手段は、前記鋼管杭に固定された、複数個の開口が形成された板材からなり、前記鋼管杭と前記新設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記板材の前記開口内に入り込むことにより一体化されることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記一体化手段は、前記鋼管杭に形成された複数個の開口からなり、前記鋼管杭と前記既設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記鋼管杭の前記開口内に入り込むことにより一体化されることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、以下のような効果がもたらされる。
(1)鋼矢板として、例えば、U形鋼矢板を使用し、杭として鋼管杭を使用することにより杭と鋼矢板壁とを強固に一体化することが可能となる。
(2)既設基礎の構築用地の用地境界直近の地盤中に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで鋼矢板壁と一体化し、そして、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築することによって、フーチング上の構造物の中心に対して、杭の位置を遠くに離して配置することができる。この結果、杭の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができる。
(3)杭の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができるので、鋼管杭径を細くすることができ、この結果、基礎の補強に要するコストを低減することができる。
(4)以上の効果によって、構造物用既設基礎を合理的かつ経済的に強固に補強することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の補強方法によって補強された構造物用既設基礎を示す概略断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとの一体化手段を示す正面図である。
【図4】この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとの別の一体化手段を示す正面図である。
【図5】この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとのさらに別の一体化手段を示す正面図である。
【図6】この発明の補強方法を示す概略断面図であり、(a)は、地盤に鋼矢板壁を構築した状態を示す図、(b)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間の地盤を掘削した状態を示す図、(c)は、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んだ状態を示す図、(d)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間にコンクリートを打設して、新設フーチングを構築した状態を示す図である。
【図7】杭と杭上に構築されたフーチングとからなる基礎を示す概略断面図である。
【図8】杭の頭部から伸ばしたアンカー鉄筋をフーチングのコンクリートに定着させることによる杭とフーチングとの結合状態を示す概略断面図である。
【図9】杭の上部をそのままフーチング内に埋め込むことによる杭とフーチングとの結合状態を示す概略断面図である。
【図10】特許文献1に開示された構造物用基礎を示す概略断面図である。
【図11】特許文献2に開示された構造物用基礎を示す概略断面図である。
【図12】狭隘な場所に構築された構造物用基礎を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の、構造物用既設基礎の補強方法の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、この発明の補強方法によって補強された構造物用既設基礎を示す概略断面図、図2は、図1のA−A線断面図、図3から図5は、この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとの一体化手段を示す正面図である。
【0027】
図1において、1は、既設基礎であり、地盤2に構築された杭3と、杭3上に構築された既設フーチング4とから構成されている。5は、既設フーチング4の周囲に構築された鋼矢板壁である。鋼矢板壁5は、図2に示すように、複数枚の凹凸形鋼矢板、例えば、U形鋼矢板5aを平面視が波形となるように互いに連結したものからなっていて、構築物としての、例えば、橋脚6の用地境界(図1および図2中、二点鎖線で示す。)の直近の地盤2中に構築されている。なお、既設基礎1の構築の際の鋼矢板壁5が撤去されていない場合には、既設の鋼矢板壁をそのまま使用する。
【0028】
7は、鋼矢板壁5の内側谷部(C)内の地盤に打ち込まれた鋼管杭である。鋼管杭7は、図2に示すように、内側谷部(C)に納まる径(R1)を有している。このように、鋼管杭7の径(R1)を、鋼矢板壁5の内側谷部(C)に納まる程度の細径にすることによって、後述するように、既設フーチング4上の橋脚6の中心に対して、鋼管杭7の位置を遠くに離して配置することができ、この結果、鋼管杭7の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができるからである。鋼管杭7の頭部と鋼矢板壁5とは後述する連結手段を介して互いに強固に連結されている。
【0029】
なお、この例では、鋼管杭7の径(R1)は、鋼矢板壁5の内側谷部(C)に納まる程度の寸法を有しているが、鋼管杭7の一部が内側谷部(C)から突出する寸法であってもよい。
【0030】
上記連結手段としては、鋼矢板壁5と鋼管杭7とは溶接可能であるので、これらを直接、溶接(溶接箇所を図2中、Wで示す。)する手段があるが、これ以外に、図2に示すように、鋼矢板壁5と鋼管杭7とを板状連結部材8を介して溶接しても良い。板状連結部材7は、鋼管杭3の長手方向に沿って間隔をあけて設けても、あるいは、連続して設けても良い。板状連結部材7を連続して設ける場合には、鋼管杭3と鋼矢板壁5と板状連結部材8とにより閉鎖空間(S)が形成されるので、この閉鎖空間(S)内に、後述する新設フーチングを構築する際のコンクリートを充填すれば、鋼矢板壁5と鋼管杭7とがより強固に連結される。勿論、鋼矢板壁5と鋼管杭7とを直接、溶接する連結手段と、連結部材7による連結手段とを併用しても良い。
【0031】
9は、鋼矢板壁5既設フーチング4との間に構築された新設フーチングである。鋼矢板壁5および鋼管杭7と既設フーチング9とは、一体化手段により一体化されている。鋼矢板壁5と既設フーチング9との一体化手段は、図1に示すように、鋼矢板壁5と既設フーチング9の補強鉄筋(図示せず)との間に固定した鉄筋10からなり、鉄筋10が新設フーチング9のコンクリートと定着することにより一体化される。なお、既設フーチング4と新設フーチング9とは、これらの間に鉄筋等を配すること等の手段によって一体化される。
【0032】
鋼管杭7と新設フーチング9との一体化手段は、図3に示すように、鋼管杭7と新設フーチング9の補強鉄筋(図示せず)との間に配筋された鉄筋12からなり、鋼管杭7と新設フーチング9とは、鉄筋12が新設フーチング9のコンクリートと定着することにより一体化される。
【0033】
一体化手段は、図4に示すように、鋼管杭7にその長手方向に沿って溶接された、複数個の開口11aが形成された鋼板からなる板材11であっても良い。新設フーチング9のコンクリートが板材11の開口11aに入り込むことによって、鋼管杭7と新設フーチング9とが一体化される。
【0034】
一体化手段は、図5に示すように、鋼管杭7に形成された複数個の開口7aであっても良い。新設フーチング9のコンクリートが鋼管杭7の開口7a内に入り込むことによって、鋼管杭7と新設フーチング9とが一体化される。
【0035】
一体化手段としては、図4中、二点鎖線でに示すように、板材11の開口11aと新設フーチング9内の鉄筋(図示せず)との間に鉄筋13を固定しても良く、図5中、二点鎖線でに示すように、鋼管杭7の開口7aと新設フーチング9の補強鉄筋(図示せず)との間に鉄筋14を固定しても良い。このように、鉄筋13あるいは鉄筋14を配し、新設フーチング9のコンクリートと定着させることによって、鋼管杭7と新設フーチング9とをさらに強固に一体化させることができる。
【0036】
このように、既設基礎1の構築用地の用地境界直近の地盤2中に、既設フーチング4を取り囲むように鋼矢板壁5を構築し、鋼矢板壁5の内側谷部(C)の地盤中に鋼管杭7を打ち込んで鋼矢板壁5と一体化し、そして、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間に新設フーチング9を構築し、鋼矢板壁5および鋼管杭7と新設フーチング9を一体化することによって、用地境界直近まで既設フーチング4を増設することが可能となり、しかも、既設フーチング4上の橋脚6の中心に対して、鋼管杭7の位置を遠くに離して配置することができる。すなわち、図1において、橋脚6の中心位置と鋼管杭7の中心位置との間の距離を(L1)で示し、橋脚6の中心位置と既設杭3の中心位置との間の距離を(L2)で示すが、(L2)より(L1)の方が長くなっているので、鋼管杭7の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができる。
【0037】
また、鋼管杭7の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができるので、鋼管杭7の径を細くすることができ、この結果、既設基礎1の補強に要するコストを低減することができる。すなわち、図1において、鋼管杭7の直径を(R1)で示し、既設杭3の直径を(R2)で示すが、(R2)より(R1)の方が細くなっている。
【0038】
以上の効果によって、構造物用既設基礎1を合理的かつ経済的に補強することが可能となる。
【0039】
次に、この発明の、構造物用既設基礎の補強方法を、図面を参照しながら説明する。
【0040】
図6は、この発明の補強方法を示す概略断面図であり、(a)は、地盤に鋼矢板壁を構築した状態を示す図、(b)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間の地盤を掘削した状態を示す図、(c)は、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んだ状態を示す図、(d)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間にコンクリートを打設して、新設フーチングを構築した状態を示す図である。
【0041】
先ず、図6(a)に示すように、既設フーチング4の周囲に、複数枚のU形鋼矢板5aを平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁5を構築する。
【0042】
次いで、同図(b)に示すように、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間の地盤2を掘削する。
【0043】
次いで、同図(c)に示すように、鋼矢板壁5の内側谷部(C)内の地盤2に鋼管杭7を打ち込み、鋼管杭7の頭部と鋼矢板壁5とを、上述した連結手段により一体化する。
【0044】
次に、同図(d)に示すように、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間に新設フーチング用補強鉄筋10を配筋し、コンクリートを打設して新設フーチング9を構築する。この際、既設フーチング4と新設フーチング9とを、これらの間に鉄筋(図示せず)を配筋する等の手段により強固に一体化すると共に、鋼矢板壁5および鋼管杭7と新設フーチング9とを、上述した一体化手段により一体化する。
【0045】
このようにして、構造物用既設基礎を強固に補強することができる。
【0046】
上記補強例は、先ず、鋼矢板壁5を構築した後、鋼矢板壁5内の地盤2を掘削し、次いで、鋼管杭7を打ち込むものであるが、鋼管杭7を打ち込んだ後、鋼矢板壁5を構築し、次いで、鋼矢板壁5内の地盤2を掘削しても、あるいは、鋼矢板壁5を構築した後、鋼管杭7を打ち込み、次いで、鋼矢板壁5内の地盤2を掘削しても良い。
【0047】
以上のように、この発明によれば、鋼矢板として、例えば、U形鋼矢板を使用し、杭として鋼管杭を使用することにより杭と鋼矢板壁とを強固に一体化することが可能となる。また、既設フーチングの周囲に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで、鋼矢板壁と鋼管杭とを一体化し、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築し、鋼矢板壁および鋼管杭と既設フーチングとを一体化することにより既設基礎を合理的かつ経済的に強固に補強することが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1:既設基礎
2:地盤
3:杭
4:既設フーチング
5:鋼矢板壁
5a:鋼矢板
6:橋脚
7:鋼管杭
7a:開口
8:板状連結部材
9:新設フーチング
10:鉄筋
11:板材
11a:開口
12:鉄筋
13:鉄筋
14:鉄筋
21:基礎
22:地盤
23:杭
24:フーチング
25:アンカー鉄筋
26:鋼矢板壁
27:孔明き鋼板
28:橋脚
29:作業スペース
30:外型枠
【技術分野】
【0001】
この発明は、構造物用既設基礎の補強方法、特に、杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎において、既設フーチングの周囲に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで、鋼矢板壁と鋼管杭とを一体化し、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築し、鋼矢板壁および鋼管杭と既設フーチングとを一体化することにより既設基礎を強固に補強することが可能な、構造物用既設基礎の補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、図7に示すように、構造物の基礎21は、地盤22中に構築された杭23と、杭23上に構築された鉄筋コンクリート製フーチング24とからなっている。基礎21の構築に際しては、従来、以下のような背景があった。
【0003】
(1)杭23とフーチング24との結合方法には、図8に示すように、杭23の頭部から伸ばしたアンカー鉄筋25をフーチング24のコンクリートに定着させる方法、および、図9に示すように、杭23の上部をそのままフーチング24内に埋め込む方法がある。何れの方法も、杭23を確実にフーチング24に固定する必要があるので、図8および図9中(L1)で示すように、杭23の外縁部をフーチング24の端部より、通常、杭23の半径寸法(L2)以上、離す必要があった。
【0004】
(2)一般にフーチング24は、地表から0.5mから3.0m程度の深さに構築されるので、基礎21を構築する地盤22を、実際に構築するフーチング24の寸法より広く掘削し、掘削穴内に外型枠を設置した後、外型枠内にコンクリートを打設し、埋め戻すのが一般的である。
【0005】
(3)上述した基礎21の設計に際しては、杭23は、水平方向剛性よりも軸方向剛性に優れているという特性を有していることから、基礎21上に、例えば、構造物としての橋脚を構築する場合、橋脚の中心に対して、杭23の位置をできるだけ遠くに離して配置すれば、基礎21の回転剛性を全体的に高めることができる。すなわち、このように杭23を配置すれば、基礎21の合理的かつ経済的な構築が可能となる。
【0006】
(4)従来から地盤掘削時の仮土留め工に鋼矢板を用いるシートパイル基礎工法が知られている。シートパイル基礎工法によれば、上記(2)の外型枠を不要とすることができるので、地盤の掘削領域を減少させることができる。例えば、特許文献1(特許第4300166号公報)には、図10に示すように、鋼矢板壁26とフーチング24とを孔開き鋼板27等により一体化することによって、基礎21の強度向上を図った構造物用基礎が開示されている。また、特許文献2(特開2008−240356号公報)には、図11に示すように、杭23に支持された、橋脚28が構築されるフーチング24と、杭23の周囲の地盤中に構築された鋼矢板壁26と備え、杭23と鋼矢板壁26とをフーチング24を介して一体化した構造物用基礎が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4300166号公報
【特許文献2】特開2008−240356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
都市部等の狭隘な場所に、例えば、橋梁等の構築物を構築する場合には、橋脚の用地幅(構築時に借地できる範囲も含めた用地幅)が非常に狭くなる。この結果、上記(1)および上記(2)の理由により、杭23の構築位置を橋脚中心から十分に離すことができなかった。すなわち、図12に示すように、狭隘な場所に橋脚28を構築するには、例えば、地盤22中に杭23を構築した後、基礎21の構築用地の境界直近の地盤22中に鋼矢板を打ち込んで土留め壁としての鋼矢板壁26を構築する。次いで、鋼矢板壁26内の地盤22を所定深さまで掘削した後、鋼矢板壁26の内側に作業スペース29を設けて外型枠30を構築する。次いで、外型枠30内にコンクリートを打設してフーチング24を構築し、埋め戻す。そして、フーチング24上に橋脚28を構築する。なお、鋼矢板壁26は、基礎21の構築後、撤去する場合もある。
【0009】
このようにして橋脚28が構築されるが、鋼矢板26の内側に作業スペース29を設ける必要があるので、フーチング24の寸法は、掘削穴より小さくなる。従って、上記(3)の理由により、橋脚28の中心位置と杭23の中心位置との間の距離(L2)を離すことができず、杭23の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができない。この結果、基礎21の回転剛性を全体的に高めることができない。すなわち、基礎21の合理的かつ経済的な構築が行えない。
【0010】
この問題は、図12に示すように、杭23の径(R2)を太くして、水平剛性を高めることによって解決することができるが、このようにすると建設コストが大幅に上昇する。
【0011】
なお、上記特許文献1に開示された図10に示す構造物用基礎によれば、フーチング24を構造物の構築用地の境界直近にまで構築することができるが、この基礎21は、杭を用いず、従って、杭と鋼矢板壁26とを一体化するといった思想はない。
【0012】
また、上記特許文献2に開示された図11に示す構造物用基礎によれば、杭23の周囲を鋼矢板壁26により囲み、杭23と鋼矢板壁26とを一体的にすることによって、杭23を補強することはできるが、この構造物用基礎は、杭23をこれが鋼矢板壁26の内側谷部内の地盤に打ち込むものではないので、橋脚28の中心位置と杭23の中心位置との間の距離(L2)を離すことができない。
【0013】
従って、この発明の目的は、杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎において、既設フーチングの周囲に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで、鋼矢板壁と鋼管杭とを一体化し、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築し、鋼矢板壁および鋼管杭と既設フーチングとを一体化することにより既設基礎を強固に補強することが可能な、構造物用既設基礎の補強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、下記を特徴とするものである。
【0015】
請求項1に記載の発明は、杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎の補強方法において、前記既設フーチングの周囲に、複数枚の凹凸形鋼矢板を平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁を構築し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間の地盤を掘削し、前記鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込み、前記鋼矢板壁と前記鋼管杭とを連結手段により一体化し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間にコンクリートを打設して新設フーチングを構築し、前記鋼矢板壁および前記鋼管杭と前記新設フーチングとを一体化手段により一体化することに特徴を有するものである。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、 前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼管杭を打ち込んだ後、前記鋼矢板壁を構築し、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することに特徴を有するものである。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の、構造物用基礎の構築方法において、前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼管杭を打ち込み、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することに特徴を有するものである。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記鋼管杭は、前記鋼矢板壁の前記内側谷部に納まる径を有していることに特徴を有するものである。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記連結手段は、溶接からなっていることに特徴を有するものである。
【0020】
請求項6に記載の発明は、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記連結手段は、前記鋼管杭と前記鋼矢板壁とを連結する連結部材からなっていることに特徴を有するものである。
【0021】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記一体化手段は、前記鋼管杭に固定された、複数個の開口が形成された板材からなり、前記鋼管杭と前記新設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記板材の前記開口内に入り込むことにより一体化されることに特徴を有するものである。
【0022】
請求項8に記載の発明は、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法において、前記一体化手段は、前記鋼管杭に形成された複数個の開口からなり、前記鋼管杭と前記既設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記鋼管杭の前記開口内に入り込むことにより一体化されることに特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、以下のような効果がもたらされる。
(1)鋼矢板として、例えば、U形鋼矢板を使用し、杭として鋼管杭を使用することにより杭と鋼矢板壁とを強固に一体化することが可能となる。
(2)既設基礎の構築用地の用地境界直近の地盤中に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで鋼矢板壁と一体化し、そして、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築することによって、フーチング上の構造物の中心に対して、杭の位置を遠くに離して配置することができる。この結果、杭の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができる。
(3)杭の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができるので、鋼管杭径を細くすることができ、この結果、基礎の補強に要するコストを低減することができる。
(4)以上の効果によって、構造物用既設基礎を合理的かつ経済的に強固に補強することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の補強方法によって補強された構造物用既設基礎を示す概略断面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとの一体化手段を示す正面図である。
【図4】この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとの別の一体化手段を示す正面図である。
【図5】この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとのさらに別の一体化手段を示す正面図である。
【図6】この発明の補強方法を示す概略断面図であり、(a)は、地盤に鋼矢板壁を構築した状態を示す図、(b)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間の地盤を掘削した状態を示す図、(c)は、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んだ状態を示す図、(d)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間にコンクリートを打設して、新設フーチングを構築した状態を示す図である。
【図7】杭と杭上に構築されたフーチングとからなる基礎を示す概略断面図である。
【図8】杭の頭部から伸ばしたアンカー鉄筋をフーチングのコンクリートに定着させることによる杭とフーチングとの結合状態を示す概略断面図である。
【図9】杭の上部をそのままフーチング内に埋め込むことによる杭とフーチングとの結合状態を示す概略断面図である。
【図10】特許文献1に開示された構造物用基礎を示す概略断面図である。
【図11】特許文献2に開示された構造物用基礎を示す概略断面図である。
【図12】狭隘な場所に構築された構造物用基礎を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の、構造物用既設基礎の補強方法の一実施態様を、図面を参照しながら説明する。
【0026】
図1は、この発明の補強方法によって補強された構造物用既設基礎を示す概略断面図、図2は、図1のA−A線断面図、図3から図5は、この発明の補強方法における鋼管杭と新設フーチングとの一体化手段を示す正面図である。
【0027】
図1において、1は、既設基礎であり、地盤2に構築された杭3と、杭3上に構築された既設フーチング4とから構成されている。5は、既設フーチング4の周囲に構築された鋼矢板壁である。鋼矢板壁5は、図2に示すように、複数枚の凹凸形鋼矢板、例えば、U形鋼矢板5aを平面視が波形となるように互いに連結したものからなっていて、構築物としての、例えば、橋脚6の用地境界(図1および図2中、二点鎖線で示す。)の直近の地盤2中に構築されている。なお、既設基礎1の構築の際の鋼矢板壁5が撤去されていない場合には、既設の鋼矢板壁をそのまま使用する。
【0028】
7は、鋼矢板壁5の内側谷部(C)内の地盤に打ち込まれた鋼管杭である。鋼管杭7は、図2に示すように、内側谷部(C)に納まる径(R1)を有している。このように、鋼管杭7の径(R1)を、鋼矢板壁5の内側谷部(C)に納まる程度の細径にすることによって、後述するように、既設フーチング4上の橋脚6の中心に対して、鋼管杭7の位置を遠くに離して配置することができ、この結果、鋼管杭7の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができるからである。鋼管杭7の頭部と鋼矢板壁5とは後述する連結手段を介して互いに強固に連結されている。
【0029】
なお、この例では、鋼管杭7の径(R1)は、鋼矢板壁5の内側谷部(C)に納まる程度の寸法を有しているが、鋼管杭7の一部が内側谷部(C)から突出する寸法であってもよい。
【0030】
上記連結手段としては、鋼矢板壁5と鋼管杭7とは溶接可能であるので、これらを直接、溶接(溶接箇所を図2中、Wで示す。)する手段があるが、これ以外に、図2に示すように、鋼矢板壁5と鋼管杭7とを板状連結部材8を介して溶接しても良い。板状連結部材7は、鋼管杭3の長手方向に沿って間隔をあけて設けても、あるいは、連続して設けても良い。板状連結部材7を連続して設ける場合には、鋼管杭3と鋼矢板壁5と板状連結部材8とにより閉鎖空間(S)が形成されるので、この閉鎖空間(S)内に、後述する新設フーチングを構築する際のコンクリートを充填すれば、鋼矢板壁5と鋼管杭7とがより強固に連結される。勿論、鋼矢板壁5と鋼管杭7とを直接、溶接する連結手段と、連結部材7による連結手段とを併用しても良い。
【0031】
9は、鋼矢板壁5既設フーチング4との間に構築された新設フーチングである。鋼矢板壁5および鋼管杭7と既設フーチング9とは、一体化手段により一体化されている。鋼矢板壁5と既設フーチング9との一体化手段は、図1に示すように、鋼矢板壁5と既設フーチング9の補強鉄筋(図示せず)との間に固定した鉄筋10からなり、鉄筋10が新設フーチング9のコンクリートと定着することにより一体化される。なお、既設フーチング4と新設フーチング9とは、これらの間に鉄筋等を配すること等の手段によって一体化される。
【0032】
鋼管杭7と新設フーチング9との一体化手段は、図3に示すように、鋼管杭7と新設フーチング9の補強鉄筋(図示せず)との間に配筋された鉄筋12からなり、鋼管杭7と新設フーチング9とは、鉄筋12が新設フーチング9のコンクリートと定着することにより一体化される。
【0033】
一体化手段は、図4に示すように、鋼管杭7にその長手方向に沿って溶接された、複数個の開口11aが形成された鋼板からなる板材11であっても良い。新設フーチング9のコンクリートが板材11の開口11aに入り込むことによって、鋼管杭7と新設フーチング9とが一体化される。
【0034】
一体化手段は、図5に示すように、鋼管杭7に形成された複数個の開口7aであっても良い。新設フーチング9のコンクリートが鋼管杭7の開口7a内に入り込むことによって、鋼管杭7と新設フーチング9とが一体化される。
【0035】
一体化手段としては、図4中、二点鎖線でに示すように、板材11の開口11aと新設フーチング9内の鉄筋(図示せず)との間に鉄筋13を固定しても良く、図5中、二点鎖線でに示すように、鋼管杭7の開口7aと新設フーチング9の補強鉄筋(図示せず)との間に鉄筋14を固定しても良い。このように、鉄筋13あるいは鉄筋14を配し、新設フーチング9のコンクリートと定着させることによって、鋼管杭7と新設フーチング9とをさらに強固に一体化させることができる。
【0036】
このように、既設基礎1の構築用地の用地境界直近の地盤2中に、既設フーチング4を取り囲むように鋼矢板壁5を構築し、鋼矢板壁5の内側谷部(C)の地盤中に鋼管杭7を打ち込んで鋼矢板壁5と一体化し、そして、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間に新設フーチング9を構築し、鋼矢板壁5および鋼管杭7と新設フーチング9を一体化することによって、用地境界直近まで既設フーチング4を増設することが可能となり、しかも、既設フーチング4上の橋脚6の中心に対して、鋼管杭7の位置を遠くに離して配置することができる。すなわち、図1において、橋脚6の中心位置と鋼管杭7の中心位置との間の距離を(L1)で示し、橋脚6の中心位置と既設杭3の中心位置との間の距離を(L2)で示すが、(L2)より(L1)の方が長くなっているので、鋼管杭7の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができる。
【0037】
また、鋼管杭7の有する有利な軸方向剛性を有効に活用することができるので、鋼管杭7の径を細くすることができ、この結果、既設基礎1の補強に要するコストを低減することができる。すなわち、図1において、鋼管杭7の直径を(R1)で示し、既設杭3の直径を(R2)で示すが、(R2)より(R1)の方が細くなっている。
【0038】
以上の効果によって、構造物用既設基礎1を合理的かつ経済的に補強することが可能となる。
【0039】
次に、この発明の、構造物用既設基礎の補強方法を、図面を参照しながら説明する。
【0040】
図6は、この発明の補強方法を示す概略断面図であり、(a)は、地盤に鋼矢板壁を構築した状態を示す図、(b)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間の地盤を掘削した状態を示す図、(c)は、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んだ状態を示す図、(d)は、鋼矢板壁と既設フーチングとの間にコンクリートを打設して、新設フーチングを構築した状態を示す図である。
【0041】
先ず、図6(a)に示すように、既設フーチング4の周囲に、複数枚のU形鋼矢板5aを平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁5を構築する。
【0042】
次いで、同図(b)に示すように、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間の地盤2を掘削する。
【0043】
次いで、同図(c)に示すように、鋼矢板壁5の内側谷部(C)内の地盤2に鋼管杭7を打ち込み、鋼管杭7の頭部と鋼矢板壁5とを、上述した連結手段により一体化する。
【0044】
次に、同図(d)に示すように、鋼矢板壁5と既設フーチング4との間に新設フーチング用補強鉄筋10を配筋し、コンクリートを打設して新設フーチング9を構築する。この際、既設フーチング4と新設フーチング9とを、これらの間に鉄筋(図示せず)を配筋する等の手段により強固に一体化すると共に、鋼矢板壁5および鋼管杭7と新設フーチング9とを、上述した一体化手段により一体化する。
【0045】
このようにして、構造物用既設基礎を強固に補強することができる。
【0046】
上記補強例は、先ず、鋼矢板壁5を構築した後、鋼矢板壁5内の地盤2を掘削し、次いで、鋼管杭7を打ち込むものであるが、鋼管杭7を打ち込んだ後、鋼矢板壁5を構築し、次いで、鋼矢板壁5内の地盤2を掘削しても、あるいは、鋼矢板壁5を構築した後、鋼管杭7を打ち込み、次いで、鋼矢板壁5内の地盤2を掘削しても良い。
【0047】
以上のように、この発明によれば、鋼矢板として、例えば、U形鋼矢板を使用し、杭として鋼管杭を使用することにより杭と鋼矢板壁とを強固に一体化することが可能となる。また、既設フーチングの周囲に鋼矢板壁を構築し、鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込んで、鋼矢板壁と鋼管杭とを一体化し、鋼矢板壁と既設フーチングとの間に新設フーチングを構築し、鋼矢板壁および鋼管杭と既設フーチングとを一体化することにより既設基礎を合理的かつ経済的に強固に補強することが可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1:既設基礎
2:地盤
3:杭
4:既設フーチング
5:鋼矢板壁
5a:鋼矢板
6:橋脚
7:鋼管杭
7a:開口
8:板状連結部材
9:新設フーチング
10:鉄筋
11:板材
11a:開口
12:鉄筋
13:鉄筋
14:鉄筋
21:基礎
22:地盤
23:杭
24:フーチング
25:アンカー鉄筋
26:鋼矢板壁
27:孔明き鋼板
28:橋脚
29:作業スペース
30:外型枠
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎の補強方法において、
前記既設フーチングの周囲に、複数枚の凹凸形鋼矢板を平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁を構築し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間の地盤を掘削し、前記鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込み、前記鋼矢板壁と前記鋼管杭とを連結手段により一体化し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間にコンクリートを打設して新設フーチングを構築し、前記鋼矢板壁および前記鋼管杭と前記新設フーチングとを一体化手段により一体化することを特徴とする、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項2】
前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼管杭を打ち込んだ後、前記鋼矢板壁を構築し、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することを特徴とする、請求項1に記載の構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項3】
前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼管杭を打ち込み、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することを特徴とする、請求項1に記載の構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項4】
前記鋼管杭は、前記鋼矢板壁の前記内側谷部に納まる径を有していることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項5】
前記連結手段は、溶接からなっていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項6】
前記連結手段は、前記鋼管杭と前記鋼矢板壁とを連結する連結部材からなっていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項7】
前記一体化手段は、前記鋼管杭に固定された、複数個の開口が形成された板材からなり、前記鋼管杭と前記新設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記板材の前記開口内に入り込むことにより一体化されることを特徴とする、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項8】
前記一体化手段は、前記鋼管杭に形成された複数個の開口からなり、前記鋼管杭と前記既設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記鋼管杭の前記開口内に入り込むことにより一体化されることを特徴とする、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項1】
杭上に構築された既設フーチングを備えた構造物用既設基礎の補強方法において、
前記既設フーチングの周囲に、複数枚の凹凸形鋼矢板を平面視が波形となるように互いに連結したものからなる鋼矢板壁を構築し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間の地盤を掘削し、前記鋼矢板壁の内側谷部内の地盤に鋼管杭を打ち込み、前記鋼矢板壁と前記鋼管杭とを連結手段により一体化し、前記鋼矢板壁と前記既設フーチングとの間にコンクリートを打設して新設フーチングを構築し、前記鋼矢板壁および前記鋼管杭と前記新設フーチングとを一体化手段により一体化することを特徴とする、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項2】
前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼管杭を打ち込んだ後、前記鋼矢板壁を構築し、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することを特徴とする、請求項1に記載の構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項3】
前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削し、次いで、前記鋼管杭を打ち込む代わりに、前記鋼矢板壁を構築した後、前記鋼管杭を打ち込み、次いで、前記鋼矢板壁内の地盤を掘削することを特徴とする、請求項1に記載の構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項4】
前記鋼管杭は、前記鋼矢板壁の前記内側谷部に納まる径を有していることを特徴とする、請求項1から3の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項5】
前記連結手段は、溶接からなっていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項6】
前記連結手段は、前記鋼管杭と前記鋼矢板壁とを連結する連結部材からなっていることを特徴とする、請求項1から4の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項7】
前記一体化手段は、前記鋼管杭に固定された、複数個の開口が形成された板材からなり、前記鋼管杭と前記新設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記板材の前記開口内に入り込むことにより一体化されることを特徴とする、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【請求項8】
前記一体化手段は、前記鋼管杭に形成された複数個の開口からなり、前記鋼管杭と前記既設フーチングとは、前記新設フーチングのコンクリートが前記鋼管杭の前記開口内に入り込むことにより一体化されることを特徴とする、請求項1から6の何れか1つに記載の、構造物用既設基礎の補強方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−31679(P2012−31679A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173493(P2010−173493)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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