説明

標本の光学的分析を行うためのアダプタ

【課題】標本から受容される光を集めるように配置されるとともに、分析軸に交差する光軸に概ね沿うよう光を向けるミラーを用いる構成において、分析軸と、光軸に沿って位置決めされる光学系との双方に対して、ミラーが正確かつ反復性をもって位置決めされるようにする。
【解決手段】ミラー(18)は、分析軸上の作動位置に挿入可能、かつ分析軸から離れた非作動位置に後退可能である。調整可能な第1マウント(44)が放物面ミラー(18)の挿入位置を定める。また、調整可能な第2マウント(46)が放物面ミラー(18)の後退位置を定めるとともに、作動位置から非作動位置へ後退する間にミラーの位置を定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本分析システムに関するものである。好適な実施形態においては、電子顕微鏡が分光分析システム、例えばラマン分光システム、光ルミネセンス分光システムまたは陰極ルミネセンス分光システムに組み合わされる。
【背景技術】
【0002】
本出願人の特許文献1においては、分析システム、例えば走査型電子顕微鏡が分析軸(analytical axis)に沿って標本に電子のビームを照射する。概ね標本上の分析軸には放物面ミラーが取り付けられ、このミラー内の開口により電子ビームが通過して標本に達することができるようになっている。ミラーはミラーホルダアセンブリ上に取り付けられ、このアセンブリは一般に分析軸と交差する光軸を有する。ミラーホルダアセンブリは、ミラーをその作動位置と分析軸から離れた非作動位置との間で進退できるものであってもよい。
【0003】
【特許文献1】国際公開99/58939号公報
【特許文献2】米国特許第5,446,970号明細書
【特許文献3】国際特許出願GBO1/00170号明細書
【特許文献4】米国特許第4,451,987号明細書
【特許文献5】米国特許第4,473,955号明細書
【非特許文献1】George TurrelおよびJacques Corset「Raman Microscopy, Developments & Applications」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分析軸と、光軸に沿って位置決めされる光学系との双方に対して、ミラーが正確かつ反復性をもって位置決めされるようにすることが望まれる。
【0005】
さらに、走査型電子顕微鏡などの分析システムは超高真空下で作動可能なものであるので、作動位置と非作動位置との双方についてミラーの調整を真空の外でできるようにすることが好適である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の形態は、分析軸を有するとともに該分析軸に概ね沿う分析ビームを標本に向かって照射する他の分析装置の標本チャンバ内にマウントされた標本の光学的分析を行うためのアダプタであって、
前記標本から受容される散乱または発生光を集めるように配置されるとともに、前記分析軸に交差する光軸に概ね沿うよう前記光を向ける光学エレメントを具え、
該光学エレメントは前記分析軸上の作動位置と前記分析軸からはなれた非分析位置との間で調整可能である、アダプタにおいて、
6自由度に前記光学エレメントの変位を抑える調整可能なマウントによって前記作動位置が定められるアダプタを提供する。
【0007】
好ましくは、前記調節可能なマウントが運動学的なものである。
【0008】
好ましくは、前記標本チャンバ内が減圧状態にあり、当該減圧状態が前記光学エレメントを前記作動位置に向けて付勢するのに用いられている。
【0009】
好ましくは、前記光学エレメントは前記光軸に沿う入力光ビームも受容し、該入力光ビームが前記標本に向かうようにされている。
【0010】
好ましくは、前記光学エレメントがミラーである。あるいは、前記光学エレメントが光ファイバ集光エレメントであるものとすることができる。
【0011】
好ましくは、前記光軸が前記分析軸に対して概ね横切る方向にある。
【0012】
6自由度に前記光学エレメントの変位を抑える第2マウントによって前記非作動位置が定められるものであってもよい。この第2マウントが調整可能なものであってもよい。
【0013】
本発明の第2の形態は、分析軸を有するとともに該分析軸に概ね沿う分析ビームを標本に向かって照射する他の分析装置の標本チャンバ内にマウントされた標本の光学的分析を行うためのアダプタであって、
第1焦点面を有し、前記標本から受容される散乱または発生光を集めるように配置されるとともに、前記分析軸に交差する光軸に概ね沿うよう前記光を向ける第1光学エレメントを具え、
該第1光学エレメントは前記分析軸上の作動位置と前記分析軸からはなれた非分析位置との間で調整可能であり、
第2焦点面を有する第2光学素子が前記第1光学エレメントに対して固定された関係をもって設けられ、前記第2光学エレメントが、前記第1光学エレメントにより前記光軸に沿うよう向けられた光を光学的アナライザに向かわせるものであるアダプタにおいて、
前記第1および第2光学エレメントは、
前記第1光学エレメントが前記作動位置にあるときに、それらの焦点面が前記第1光学エレメントの移動の向きに平行となるよう配置され、
前記第1光学エレメントのその作動位置での位置決めにおける誤差を少なくとも一部補正するよう配置されていることを特徴とするアダプタを提供する。
【0014】
好ましくは、前記第1光学エレメントの位置をその作動位置に定めるべく位置決めマウントが設けられるとともに、
前記第1光学エレメントが前記作動位置にあるときに、前記第1光学エレメントの焦点距離と、前記第2光学エレメントの焦点距離との比が、前記第1光学エレメントの焦点および前記位置決めマウント間の光路に沿った距離と、前記第2光学エレメントの焦点および前記位置決めマウント間の光路に沿った距離との比に対して反転している。
【0015】
好ましくは、前記第1および第2光学エレメントの焦点距離が等しく、前記第1光学エレメントが前記作動位置にあるときに、前記第1光学エレメントの焦点および前記位置決めマウント間の光路に沿った距離が、前記第2光学エレメントの焦点および前記位置決めマウント間の光路に沿った距離に等しい。
【0016】
好ましくは、前記第1および第2光学エレメントが放物面ミラーを具えている。
【0017】
本発明の第3の形態は、分析ビームを標本に向かって照射する他の分析装置の標本チャンバ内にマウントされた標本の光学的分析を行うためのアダプタであって、
前記標本から受容される散乱または発生光を集めるように配置されるとともに、前記分析軸に交差する光軸に概ね沿って光学的アナライザに前記光を向かわせる光学エレメントを具え、
該光学エレメントが放物面ミラーであるアダプタにおいて、
前記放物面ミラーによって反射された光を光学的アナライザに合わせるための少なくとも1つのミラーが設けられ、該少なくとも1つのミラーが調整可能であるとともに、
前記光学的分析手段での歪みが画像処理ソフトウェアにより補正されるアダプタを提供する。
【0018】
好ましくは、前記放物面ミラーと前記光学的アナライザとの間に第2放物面ミラーが配設され、当該2つの放物面ミラーは収差をキャンセルする向きに配置されている。前記放物面ミラーと前記光学的分析手段との間にさらに2つの放物面ミラーが配設され、当該4つの放物面ミラーは収差をキャンセルする向きに配置されているものとすることができる。
【0019】
本明細書において用いるような、「運動学的(kinematic)」、「運動学的に(kinematically)」という語および同様の語の意味の議論については、特許文献2が参照されるべきである。これらの語は、保持(carrying)部材および受容部材上の各要素対間で点接触が行われるような運動学的支持だけでなく、各要素間で小面積のまたは線の接触が行われる半運動学的支持または擬似運動学的支持をも含むものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明を説明する。
図1は、一般的な電子ビーム発生・集束・走査システム12を有する電子顕微鏡10を示している。これは、公知の方法で、概ね分析軸14に沿って電子のビームを標本16に対し照射する。
【0021】
走査型電子顕微鏡の代わりに、本発明は、透過型電子顕微鏡を含む他の種類の分析システムや、イオンビーム照射(ion beam bombardment)システムとともに用いられるものでもよい。
【0022】
放物面ミラーまたはその他の凹面鏡18が概ね標本16上の軸14にマウントされ、中央開口20を有することで電子ビームが標本16に向けて通過することが可能となる。放物面ミラー18はミラーホルダアーム22に取り付けられ、これは走査型電子顕微鏡の分析軸14に概ね直交する光軸24を有している。ミラーホルダ22は、放物面ミラー18を、作動位置(実線で示す)と非作動位置(破線で示す)との間で、双方向矢印26で示すように進退させることができる。非作動位置において放物面ミラー18は、走査型電子顕微鏡内の他の機器、すなわち電子ビームを標本16に照射することによって生じるX線を検出するのに用いることができるX線検出器などと干渉することはない。
【0023】
システム内には、例えば分光計を具えることができる光学系28も設けられている。作動位置にあるときには、入射するレーザビーム27をミラー25またはその他の手段を介して光軸24に沿うように向け、放物面ミラー18によって標本16上に集束させることができる。レーザビームは、例えば紫外線、可視光または赤外線とすることもできる。標本16からの散乱光は、放物面ミラー18によって集められ、コリメートされて、光学系28に向かう光軸24に沿った戻し方向にフィードバックされる。集められた光は、ラマン、蛍光または光ルミネセンスなどのような非弾性散乱光(inelastically scattered light)であってもよい。また、レーザ波長では弾性散乱(レーリー)光を含むであろう。これに代えて、またはこれとともに、ミラー18によって標本16から集められる光は陰極ルミネセンスであってもよく、これはレーザ入射を要することなく標本16上の電子ビームの作用によって生じる。
【0024】
図1は、走査型電子顕微鏡チャンバに対して光学系28が剛に固定されたシステムを示している。この場合、放物面ミラーは、これが作動位置に置かれる度に、光学系と電子ビームとの双方に対して正確に位置決めされなければならない。他の構成として、光学系を放物面ミラーに対して剛に固定し、系全体がともに進退できるようにすることもできる。この構成は、電子ビームに対して放物面ミラーを正確に配置すれば足りるという点で有利であるが、重くかさばる光学系の分光計およびレーザ、あるいは信号収集およびレーザ供給に関連する部品をミラーホルダアームのアセンブリによって支持しなければならない点で不利である。
【0025】
図2には後退機構の機能要素が示されている。走査型電子顕微鏡には、走査型電子顕微鏡チャンバ11の壁にチャンバフランジ30が設けられている。後退機構32は、機構フランジ34を介して走査型電子顕微鏡チャンバのフランジ30に取り付けられる。機構フランジ34が走査型電子顕微鏡チャンバ11に取り付けられると、電子ビーム軸14に対して固定され、従って重要なすべての光学的および機械的配置はこの機構フランジ34が基準とされる。
【0026】
一対のガイドレール36(一方のみを図示)および後退スクリュ38が機構フランジ38に取り付けられる。後退アーム40がガイドレール36に取り付けられ、後退スクリュ38によりガイドレール36に沿って前進または後退(wound in or out)可能である。後退スクリュ38はモータ駆動されるものとすることができる。放物面ミラー18は摺動チューブ42により間接的に移送され、これは光軸24について後退アーム40と同心に取り付けることができる。摺動チューブ42すなわち放物面ミラー18の位置は、調整可能な運動学的マウントを具える2セットのマウントによって定められる。これらは位置決めマウント44および後退マウント46である。後退アーム40がガイドレール36に沿って前進または後退することで、位置決めマウント44上に摺動チューブ42を押圧(すなわち挿入位置に放物面ミラーを保持)し、または、後退マウント46上に摺動チューブ42を押圧(すなわち後退位置に放物面ミラーを保持)する。ベローズシール48を用いて、直線移動可能な真空シールを実現する。この種のシールには、チルト、軽度の回転および横方向変位を許容するという利点があり、超高真空圧力に至るまで信頼性のあるシールである。摺動Oリングシールのような他のシールが用いられてもよい。
【0027】
ベローズシールは、一端にベローズ固定フランジ50を、他端にベローズ移動フランジ52を有している。ベローズ固定フランジ50は走査型電子顕微鏡チャンバ10に隣接する機構フランジ34に取り付けられている。ベローズ移動フランジ52は光学系フランジ54と、走査型電子顕微鏡チャンバ10から離れた摺動チューブ42の抜き出し端との双方に取り付けられている。光学系フランジ54は、光の取り出しを行うための真空ウィンドウ56を備えるとともに、走査型電子顕微鏡チャンバ10内で放物面ミラー18を支持しているミラーホルダアーム22を保持する。
【0028】
後退アーム40を用いて、走査型電子顕微鏡チャンバ10に向けて摺動チューブ42を押すことができ、ここではその位置が位置決めマウント44によって定められる。後退アーム40はまた、走査型電子顕微鏡チャンバ10から離れるように摺動チューブ42を押すことができ、後退アーム40に対するその位置は、後退の間と後退位置にあるときとの双方で、後退マウント46により定められるようになっている。摺動アーム42すなわち放物面ミラー18の位置は常に、位置決めマウント44または後退マウント46のいずれかによって定められる。
【0029】
位置決めマウント44の運動学的マウントは、後退機構32の機構フランジ34上の光軸24と同心の円上で、120度の間隔をおいた3つのV型溝を具える。これらは摺動チューブ42に隣接する機構フランジ34の面上に設けられる。各V型溝は、図3に示すように、一対の平行な円筒状ローラ60によって提供されるものでもよい。同様に間隔をおいた球状端をもつ3つのベアリングが、機構フランジ34に隣接する摺動チューブの面に設けられる。摺動チューブ42が機構フランジ34に向かって移送されると、ボールベアリングがV型溝と相互に作用し合うことで、機構フランジ44に対する摺動チューブ42の位置、従って放物面ミラー18の位置が正確に定められる。
【0030】
走査型電子顕微鏡チャンバ内の真空が機構フランジに対して摺動チューブを所定位置に保持するので、磁力あるいはばねによるものなどのような、運動学的要素を保持するための他の方法は不要である。
【0031】
運動学的マウントについては調整可能であることが望ましく、またその調整についても真空外で(ex-vacuo)可能であることが望ましい。本例では、球状端をもつ各ベアリングの位置は光軸24に平行に調整可能である。図4および図5に示すように、球状端をもつ各ベアリングは丸みのある端部64をもつ円筒状ロッド62によって提供される。各円筒状ロッド62は摺動チューブ42内に配置されるハウジング66に収容されている。ハウジング66はその長手軸に沿って延在する中央開口68を有している。この開口は段付きのものであり、拡大部70と縮小部72とを有している。円筒状ロッド62は段部74をもつ拡大部70内に嵌入され、縮小部72に入るところで係止される。円筒状ロッド62はねじ76によりハウジング66内の所定位置で保持される。このねじ76はハウジング66の側面にある開口78を通して挿入され、円筒状ロッド62の側面の一部にある平坦部80を押圧するものである。円筒状ロッド62の丸みのある端部64はハウジング66の中央開口から外方に延在する。
【0032】
ハウジング66の外側部もまた段付き円筒形状を有している。ハウジングの縮小部82の外側表面にはねじが付けられており、摺動チューブ42内のねじ付き開口84に螺着されるとともにボルト85によって所定位置に保持される。ハウジング66の内側表面の縮小部72にもねじが付けられ、調整ねじ86を受容する。この調整ねじは、摺動チューブ42に対しハウジング66の位置をその長手軸方向に調整できるようにするものである。
【0033】
球状端をもつベアリングは、光軸24に平行に個々に位置調整可能である。従って、ボールベアリングの位置を個々に調整することにより、ミラーホルダアーム22を3軸のそれぞれに関して60度チルトさせることができる。光学アーム58もまた、球状端をもつベアリングの位置を全体的に調整することによって、進退軸に平行に移動可能である。これらのアライメントは、走査型電子顕微鏡14に関して3次元に放物面ミラー18を位置決めするのに十分である。
【0034】
シリンダ64の丸みのある端部はV型溝に対して2接点をもつ。V型溝に対して2接点をもつ他の形状を用いることもでき、例えば図6においては楔形が示されている。この楔形は、例えば60度の角度をもつものとすることができる。
【0035】
放物面ミラー18を後退させるために、後退アーム40を後退させて走査型電子顕微鏡チャンバ10から離れた摺動チューブ42の端部に接触させ、そして機構全体を機構フランジ34から引き離す。位置決めマウント44での接触は解除され、後退の間、放物面ミラー18の位置は後退マウント46によって定められる。放物面ミラー18の後退は、後退スクリュ上の調整可能な係止部(不図示)によって制限される。
【0036】
後退アーム40と摺動チューブとの間の接触は、位置決めマウント44と同様の調整可能な運動学的マウントにより行われる。ここでは、球状端をもつベアリングが後退アーム40に配設されるとともに、摺動チューブ42上のV型溝と接触する。
【0037】
図7は後退アームの端面を示す。ガイドレールのための開口92が設けられるとともに、後退スクリュのためのねじ付き開口94が設けられている。4つの細長い開口90が設けられ、ここに球状端をもつベアリングのためのハウジングが配置される。これらの細長いスリットによって、各ハウジングを個々に、横方向に調整することができる。
【0038】
従って摺動チューブ42の位置すなわち放物面ミラー18の位置は、位置決めマウント44によって(すなわち機構フランジ34に対して)、または、後退マウント46によって(すなわち後退アーム40に対して)、常に定められることになる。
【0039】
位置決めマウント44での運動学的マウントの調整によって放物面ミラー18のアライメントが行われた後、後退マウント46での運動学的マウントの調整が行われ、そのボールベアリングのなす平面が位置決めマウント部の平面に平行になるようにされる。また、ボールベアリングがV型溝に確実に位置合わせされるよう、横方向の調整を行うことによって、位置決めマウント44のチルト調整により生じる、後退アームに対する摺動チューブ42のいかなる横方向変位も補償されるようにする。これらの調整は、位置決めマウント44の係合から後退マウント46の係合までの移行を通じて、放物面ミラー18のいかなる変位も最小限にする助けとなる。そして、位置決めマウント44の調整によって放物面ミラー18の位置合わせに変化が生じた後には、それらの調整を要するのみである。
【0040】
本発明の調整可能な運動学的マウントは、他の適用において使用する場合にも好適である。例えば、特許文献3に記載されたような光ファイバの集光エレメント(fibre optic light collection element)を、標本と欠陥検査装置(defect review tool(DRT);半導体ウェハ内の欠陥を検出するための電子顕微鏡の一種)の対物レンズとの間で、正確に位置決めすることができる。ウェハ内の欠陥をDRT内で電子の光学的中心(electron optical centre)となるように正確に位置づけることができ、これにより光ファイバ集光エレメントも標本表面から既知の距離をもって電子の光学的中心に移動されるものとなる。よって光ファイバ集光エレメントは、X,YおよびZにおいて正確に位置決めされるものとなり、これは上述の調整可能な運動学的マウントを使用することによって実現できる。
【0041】
本発明は調節可能な位置決めマウントに限られるものではない。6自由度で放物面ミラー18の位置を制約する他の調整可能マウントもまた好適である。かかるマウントは例えば、プレートに当接していくつかの変位を制限するボールと、他の変位を制限する平面ばね(planar spring)との組み合わせを具えることができ、これについては特許文献4および特許文献5に開示されている。
【0042】
図8は、分光計のように、放物面ミラー18によって集められた光を光学系に結合するための光学的構成を示している。先の図面において示したものと同様の部分には同一の参照番号が用いられている。
【0043】
放物面ミラー18によって集められた標本からの光は調整可能なミラー100,102を介し第2放物面ミラーに向けて反射される。二つの放物面ミラーは互いに固定された関係にあり、それらの相対的アライメントは二つの調整可能なミラー100,102によって6軸に調整することができる。
【0044】
顕微鏡の対物部(objective)106は後退機構32の機構フランジ34(従って標本チャンバ)に対して固定位置に設けられる。顕微鏡対物部106は第2放物面ミラー104の焦点に位置し、光をコリメートして、分光計に向く適切な平行ビームにする。顕微鏡の対物部106を調整可能とし、第2放物面ミラー104の焦点に正確に位置づけできるようにすることが望ましい。
【0045】
放物面ミラーは平面鏡より好ましく用いられるが、これはより良好な集光効率(light collection efficiency)を提供するからである。放物面ミラーは楕円面鏡(ellipsoid)より好ましく用いられるが、楕円面鏡は2焦点を有し、位置合わせが複雑で微妙なものとなるからである。
【0046】
放物面ミラーを用いることの当然の結果として、軸外の画像が歪むことになる。これは二つの放物面ミラーを用いることで改善される。四つの放物面ミラーを用いればより一層の改善が可能となるが、この場合は位置合わせが容易でなくなる。
【0047】
図8は、アライメントミラー100,102とともに標本から顕微鏡対物部106に光結合を行う一対の放物面ミラー18,104を示しているが、アライメントミラーとともに1または4つの放物面ミラーを使用するシステムを用いることもできる。
【0048】
ラマンレーザプローブ(Raman laser probe)を電子顕微鏡に結合するために放物面ミラーを使用することについては、先に非特許文献1に開示されている。このシステムにおいては、図9に示すように、一対の放物面ミラー110,112が配置され、それらの焦点114,116が異なる水平面にあるようになっている。この配置はすべての収差(aberration)をキャンセルできない点で不利である。
【0049】
本発明においては、図10に示すように、焦点が同一水平面にあるように放物面ミラー110,112が配置されている。放物面ミラーのこの構成によって収差がキャンセルされ、特に近軸光線(paraxial rays)からの収差が補正される。
【0050】
残余の歪み(糸巻き形歪み(pin-cushion distortion)や樽形歪み(barrel distortion)など)を補正するために、イメージワープ(image warping)などの画像処理技術が用いられる。
【0051】
1μmより高い精度でレーザスポットを標本上に反復可能に位置決めすることが望ましい。しかし非運動学的位置決めマウント(例えばエンドストップすなわち滑り軸受)が用いられる場合、あるいは運動学的位置決めマウントが汚損された場合には、例えばドリフトによってスポット位置の精度は低下する。標本上でのレーザスポット位置の精度低下は以下に述べる光学的構成によって補償される。
【0052】
図11は無限共役比モード(infinite conjugate mode)で働く焦点距離fの2つの等しいレンズ120,122を示しており、これらは、物体Oが上方に移動すると、画像Iは同じ量だけ逆移動(invert)する。後退アームの位置の小さい誤差を補償するのにこの性質を用いる。
【0053】
図12Aは後退アームにおいて用いられている光学素子を単純化した形態で示している。光学素子の各セットは平面鏡124,126およびレンズ128,130を具えることができる。あるいは、図8に示したように、光学素子は一対の放物面ミラーを具えていてもよい。光学素子は後退アーム内で互いに剛に取り付けられており、その結果後退アームの挿入/後退が光学系アセンブリ全体の移動を生じさせる。加えて、光学素子は整合の取れた対であり、画像/物体に関する小領域について、物体は倍率ファクタ1で結像され、焦点が合っており、かつ反転(invert)されるようになっている。
【0054】
図12Aは2つのミラー・レンズアセンブリ124,128・126,130を示しており、これらは等しい焦点距離fを有し、回転中心(すなわち位置決めマウント)に対して等距離離隔している。
【0055】
図12Bに示すようにアセンブリ全体がX方向に移動する一方、物体Oが固定されていれば、後退アームに対して−X移動する画像I’が生じる。従って標本上のレーザスポットの位置はそのままであり、後退アームの僅かな移動によって影響を受けることはない。上述の補償をX,−X,Yおよび−Yにおける後退アームの移動に適用する。
【0056】
このシステムは、Z方向における後退アームの移動については同様の方法で補償しない。しかし光学系の被写界深度(depth of field)内のZ方向における変化が小さければ問題はない。本光学系において用いる放物面ミラーの被写界深度は、例えば約20μmである。スポットを1μm以内で位置決めすることを目的としているので、放物面ミラーのこのオーダの小変位は受容される。
【0057】
また光学素子を対称に配置することによって、後退アームの僅かな揺動も補償される。図11は、例えばハウジング132によって互いに固定された2つのレンズ120,122を示している。物体Oが固定され、ハウジング132が回転中心Pの回りに揺動し、被写界深度内で小角度がついても、画像Iは動かない。これは上述と同じ理由による。しかしこれは2つの光学素子の中心に回転軸がある場合にのみ成り立つことである。後退アームの位置決めマウント(運動学的またはその他のもの)は光学素子間の回転軸として作用する。
【0058】
レンズの焦点距離が等しくない場合は、回転中心を焦点距離が長い方のレンズに近い位置に移動させなければならない。例えば、対物レンズ焦点距離f1:結像レンズ焦点距離f2の比が1:2であれば、物体から回転中心までの距離:回転中心から画像までの距離の比を2:1にしなければならない。
【0059】
後退アームが揺動するとZにおける変位も生じるが、揺動角が小さくかつ回転中心から物体までの距離が大きければ、画像には影響がない。
【0060】
図13は図8に示したものと同様な後退アームの光学的構成を示している。この構成は光路を曲げるための2つのミラー134,136を含んでいる。位置決めマウントは回転軸Pを形成し、レンズ128,130が等しい焦点距離をもつ場合には、ミラー・レンズアセンブリ124,128・126,130のそれぞれから等距離に位置づけられる。
【0061】
従って、対称な光学素子を用いることで、不正確な動きのシステムに対する補正が行われる。この光学素子の配置とすることで、精度の低い位置決めマウントを用いても、後退アームの位置が多少正確でなくてもこれが補正されるので、安定かつ反復性のある後退アームの位置決めが可能となる。
【0062】
光学系が一対の放物面ミラーを具える場合には、図10を参照して述べたように、補正の度合いは画像フィールドにわたる画像品位の関数であり、これら放物面ミラーが相等しいものであることを要する。放物面ミラーを用いることで、平面鏡・レンズアセンブリよりも、よりよい集光、従ってまたより高速の光学系が提供されるという利点がある。加えて、放物面ミラーは後退アーム内での占有スペースが小さく、また大きい被写界深度を有するために後退アームの大きいZ内変位を許容できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】分光システムに組み合わされる走査型電子顕微鏡の模式図である。
【図2】図1の後退機構の模式図である。
【図3】後退機構の機構フランジの端面図である。
【図4】後退機構の調整可能な運動学的マウントを示す。
【図5】調整可能な運動学的マウントの部分の分解図である。
【図6】他の運動学的マウントである。
【図7】後退機構の後退アームの端面図である。
【図8】走査型電子顕微鏡と光学系との間の光学的配置の模式図である。
【図9】放物面ミラーの従来の連結を示す。
【図10】本発明において用いられる放物面ミラーの連結を示す。
【図11】無限共役比モードの2つのレンズの図である。
【図12】図12Aおよび図12Bは後退アームにおける光学素子を単純化して示す。
【図13】後退アーム内の光学素子を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析軸を有するとともに該分析軸に概ね沿う分析ビームを標本に向かって照射する他の分析装置の標本チャンバ内にマウントされた標本の光学的分析を行うためのアダプタであって、
前記標本から受容される散乱または発生光を集めるように配置されるとともに、前記分析軸に交差する光軸に概ね沿うよう前記光を向ける光学エレメントを具え、
該光学エレメントは前記分析軸上の作動位置に挿入可能、かつ前記分析軸から離れた非作動位置に後退可能である、アダプタにおいて、
6自由度に前記光学エレメントの変位を抑える第1マウントによって前記作動位置が定められ、
6自由度に前記光学エレメントの変位を抑える第2マウントによって前記非作動位置が定められ、
前記第2マウントはさらに、前記作動位置から前記非作動位置へ後退する間に前記光学エレメントの位置を定める、
ことを特徴とするアダプタ。
【請求項2】
前記第1および第2マウントが運動学的なものであることを特徴とする請求項1に係るアダプタ。
【請求項3】
前記光学エレメントが前記作動位置に向けて付勢されていることを特徴とする請求項1または請求項2に係るアダプタ。
【請求項4】
前記標本チャンバ内が減圧状態にあり、当該減圧状態が前記光学エレメントを前記作動位置に向けて付勢するのに用いられていることを特徴とする請求項3に係るアダプタ。
【請求項5】
前記光学エレメントは前記光軸に沿う入力光ビームも受容し、該入力光ビームが前記標本に向かうようにされていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに係るアダプタ。
【請求項6】
前記光学エレメントがミラーであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに係るアダプタ。
【請求項7】
前記光学エレメントが光ファイバ集光エレメントであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに係るアダプタ。
【請求項8】
前記光軸が前記分析軸に対して概ね横切る方向にあることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに係るアダプタ。
【請求項9】
前記第1マウントが調整可能なものであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに係るアダプタ。
【請求項10】
前記第2マウントが調整可能なものであることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれかに係るアダプタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−31314(P2009−31314A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291333(P2008−291333)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【分割の表示】特願2003−519668(P2003−519668)の分割
【原出願日】平成14年8月5日(2002.8.5)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】