説明

標的核酸の遺伝子型、および変異の判定方法、不溶性支持体に核酸断片を固定化する方法、所望の核酸を精製し、かつ増幅するための方法、並びに遺伝子型アッセイキット

【課題】B型肝炎感染患者についての病態の把握や病気の進行の予測、さらに各種治療の効果予測のために、標的核酸の遺伝子型または変異、特に感染したウイルスゲノムの遺伝子型の簡単な検出方法を提供する。
【解決手段】B型肝炎ウイルスゲノムの遺伝子型または変異を判定するための方法。また、不溶性支持体にプローブ核酸断片を固定化するための方法。さらに、所望の核酸を精製し、増幅するための簡便、かつ効率のよいPCR方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的核酸の遺伝子型、および変異の判定法に関する。また、本発明は、不溶性支持体に核酸断片を固定化する方法に関する。さらに、本発明は、精製・増幅が可能な方法、およびキットに関する。
【0002】
特に、本発明は、ウイルス性肝炎の症状を呈する患者に対し、病態の把握や予後の予測、治療方針の決定に役立てる目的で、患者体内のウイルスの有無、感染しているウイルスの遺伝子型等を簡便に測定する方法に関する。さらに、プローブDNA断片を、不溶性支持体に効率よく固相化するための方法に関する。
【0003】
たとえば、マイクロタイタープレート及びマイクロアレイ、DNAチップなどのための不溶性支持体に固定化した1本鎖の核酸断片に、被検検体から採取したウイルスゲノムを基に作成した増幅DNA断片を特異的にハイブリダイゼーションさせ、被検検体に感染しているウイルスゲノムの塩基配列の変異を検出する方法に関する。さらにC型肝炎ウイルスの遺伝子型を決めるための遺伝子型特異的な配列を数箇所含む領域をPCRにて増幅させる方法とそのために必要なプライマー、その産物をマイクロタイタープレート等の不溶性支持体に固定化した遺伝子型別のDNA断片に特異的にハイブリダイゼーションさせることによりC型肝炎ウイルスの遺伝子型を判別する方法、固定化したプローブへのハイブリダイゼーションを利用して血清サンプルからウイルスゲノムを抽出し、検出に必要な精製、増幅までの工程を簡単に行う方法、およびキットに関する。
【背景技術】
【0004】
C型肝炎ウイルス(HCV)は、日本国内で約200万人が感染していると言われている。感染後10年から20年の経過の後に、高率に肝癌を発症することがわかっており、慢性肝炎のうちにウイルスを完全に排除しておくことが強く望まれている。その治療には、主にインターフェロン療法が行なわれている。しかし、治療には多くの副作用を伴ううえに多額の費用がかかるといった問題があり、実際には3割程度の患者でしか行われていない。このため、治療開始前にインターフェロン療法の効果をある程度予測し、治療が奏効する可能性のある患者を選び出すことが、患者の負担を軽減するために重要な意味をもつと考えられており、治療効果に影響を及ぼすとされている感染ウイルスの特徴を簡便に測定する方法の開発が待たれている。
【0005】
特にC型慢性肝炎の場合、インターフェロン療法の効果は、主にウイルス側の要因によって規定されていると考えられていることもあり、様々な予測法が用いられてきた。最も影響すると考えられている要因は感染したウイルスの型であり、これはウイルスゲノムの特徴によっていくつかに分類されている。日本人に多く見られる型は1b、2a、2b型でそれぞれ感染者の約68%、17%、6%を占める。またウイルスタンパク質に対する抗体を用いたタイプ分け(血清型)も行われており、その場合は遺伝子型の1b型は血清型の1型、同じく2a、2b型は2型と判定される。インターフェロン療法がよく効くとされているのは、2a、2b型(血清型2型)であり、その7割程度に著効する。一方の1b型(血清型1型)では、2割程度しか著効は望めない。
【0006】
もう一つ、インターフェロン療法の効果に大きく影響するとされている要因は、C型肝炎ウイルスの血中濃度であり、血中ウイルス量が多い症例では、治療効果が得られにくい。逆に血中ウイルス量が少ない患者では、高い治療効果が得られる確率が高いとされている。また、このウイルス量は、先述のウイルスの遺伝子型との関連が大きく、遺伝子型1bではウイルス量が多くなる傾向があり、逆に2a、2b型では、ウイルス量があまり多くならないという大まかな相関が認められる。
【0007】
一方、その他の肝炎ウイルスにおいても、ウイルスゲノムの塩基配列の違いで、病態に変化をもたらす例が報告されている。例えば、B型肝炎は重症化や劇症化に関する変異株がいくつか報告されている。劇症肝炎に関する報告では、1896番目の塩基がGからAに変異したpre-core変異株(非特許文献1、非特許文献2を参照)、1762番目の塩基がAからTに、1764番目の塩基がGからAに変異したcore-promoter変異株(非特許文献3を参照)などが知られている。
【0008】
以上の感染ウイルスゲノムの特徴を検出するには、これまで主に遺伝子のシーケンシング解析が行なわれていた。しかし、この方法は特別な解析装置が必要であり簡便な方法とはいえない。また、その他の方法として制限酵素による切断を利用したRFLP法を使用する場合には、変異箇所にちょうどよい制限酵素切断部位が存在することが必須条件であり、すべての変異部位に対応できる方法とは言えなかった。
【0009】
また、あるDNA断片の一部の変異を見る場合、これまではニトロセルロース等からなる膜にターゲットである核酸を結合させた後、該膜に目的のDNA断片に対するプローブをハイブリダイゼーションさせて検出していた。しかし、膜を扱うことは非常に煩雑な作業をともない、洗浄やハイブリダイゼーションに必要な液も大量に必要であるといった問題があった。
【0010】
作業が簡便で必要とする液量も少ない方法として、マイクロタイタープレートにDNA断片を固定化して変異を見る方法が考えられるが、これまでの方法は、オリゴヌクレオチドではなく長いDNA断片(PCR産物など)を固定化する場合の効率が悪く、実用化には至っていなかった。
【0011】
また、C型肝炎ウイルスの2要因、すなわち、遺伝子型および血中濃度を測定するために、従来は別々の方法を使用して測定していた。まずC型肝炎ウイルスの遺伝子型は、PCR法を用いて測定するのが一般的である(たとえば、特許文献3、4を参照)。たとえば、センス側のプライマーを各遺伝子型に共通の配列に基づいて一箇所設定し、アンチセンス側のプライマーを各遺伝子型に特異的な配列に基づいて設定する。その際、各遺伝子型特異的なプライマーの配置は、遺伝子型別にずらして設計する。すると各遺伝子型毎に増幅産物の長さが異なり、電気泳動の移動度が異なることとなり、これを利用して遺伝子型の判定が可能となる。たとえば、ゲノムサイエンス研究所製のスマイテスト HCVジェノタイプ等の製品が、上述の原理を使用している。しかし、この方法では数種類のプライマ−を同時に持ち込んでPCR反応を行うため、プライマ−の特異性を維持させるために特別な処置が必要であった(ホットスタート法や、Taqを保護する抗体の利用など)。また、ちょうど型によって異なった特徴を示す箇所が、適当な距離だけ離れて存在しているような領域を探すことが困難なウイルスゲノムの場合、この系は簡単に組むことができないといった問題もあった。
【0012】
さらに、ウイルス型の判定を抗体によって検出する血清型の方法も報告されている。この方法では、C14-1及びC14-2抗体(非特許文献4を参照)を用いたELIZA法によって測定される。しかし、血清型では、1型、2型との大まかな区別しかできないうえに、ウイルス量が少ない場合などに誤判定する可能性も報告されている。
【0013】
したがって、上記報告された各種のウイルス遺伝子型の判定方法では、その判定精度、判定効率、操作の煩雑さ、判定に要する時間、コストなどにおいて、充分に満足できるものではなく、新たなウイルス遺伝子型の判定方法を確立すること、および簡易・迅速に遺伝子型判定できる系の開発が望まれている。
【0014】
上記のような解析を行う際には、ハイブリダイゼーション、およびDNAチップといった技術を使用することが不可欠である。しかし、プローブを容易に、かつ効率よく不溶性支持体に固定化するための従来法はなく、実験者が自分で所望のプローブを不溶性支持体に固定化することが困難であった。
【0015】
従来、不溶性支持体に核酸を固定化するための方法として、主に1M以下(主に0.15M)という希薄な塩化ナトリウム溶液を用いる方法が用いられていた。この方法は、0.15M 塩化ナトリウム溶液に所望の核酸を溶解し、不溶性支持体にこの溶液を添加するというものである。また、その他にも、タンパク質を固相する際に用いる希薄な炭酸塩(0.15M K2CO3)を含む緩衝液が用いられている例もあるが、いずれの方法においても十分な固定化量は得られていなかった。特にPCR産物を固定化する場合には、固定化される核酸の量が非常に少なく、プローブの固定化が非常に困難であるという問題があった。
【0016】
一方、感染したウイルス型の特徴を検出するためには、ウイルスゲノムを包んでいる殻を壊して、殻の主な成分であるたんぱく質を除去して精製しなければならない。さらに、必要な酵素反応を経てゲノムを増幅することによってはじめて遺伝子型の検出が可能になっていた。これは、被検体試料中には様々な物質が含まれており、直接PCRを行っても、PCR反応が阻害されるのを防止しなければならない等の理由によるものである。しかし、その工程は煩雑で、またPCR等によって増幅を行うことからコンタミネーションを生じる可能性があり、慎重さを要求される検出系であった。加えて、ウイルスゲノムを精製後、PCRのために新たなチューブを用意して、PCR反応を行う必要もあった。
【0017】
上述したウイルスの遺伝子型の検出を行う際に、被検体試料から容易にウイルスを精製し、かつそのまま増幅することができれば非常に便利であるが、このような方法は開発されていなかった。従来法では、精製後にサンプルを移し替える必要があり、操作の煩雑さ、判定に要する時間、コストなどにおいて、充分に満足できるものではなく、簡易かつ迅速に遺伝子を増幅するための新たな系の開発が望まれていた。
【特許文献1】特開2002-388595号公報
【特許文献2】特許第2573443号明細書
【特許文献3】特開平7-75585号公報
【特許文献4】特開平8-187096号公報
【非特許文献1】Kosaka Y et al.、Fulminant hepatitis B: induction by hepatitis B virus mutants defective in the precore region and incapable of encoding e antigen.、“Gastroenterology”、(USA)、1991年、100巻、p.1087-1093
【非特許文献2】Omata M. et al.、Mutation in the precore region of hepatitis B virus DNA in patients with fulminant and severe hepatitis.、“N. Engl. J. Med.”、(England)、1991年、324巻、p.1699-1704
【非特許文献3】Sato S et al.、Hepatitis B virus with mutations in the core promoter in patients with fuluminant hepatitis 、“Ann. Intern. Med.”、(USA)、1995年、122巻、p.241-248
【非特許文献4】Tsukiyama-Kohara K et al.、Antigenicities of Group I and II hepatitis C virus polypeptide--molecular basis of diagnosis.、“Virology”、(USA)、1993年、192巻、p.430-437
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記の状況に鑑み、本発明は、個々の感染患者についての病態の把握や病気の進行の予測、さらに各種治療の効果が期待できるかどうかをあらかじめ予測するための簡便な方法を提供することを目的とする。すなわち、遺伝子型、または変異を、特にウイルス性肝炎患者に感染したウイルスゲノムの遺伝子型を簡単な方法で検出することを目的とする。
【0019】
また、上記方法の実施には、核酸断片の固定化が不可欠であることに鑑み、オリゴヌクレオチドのみならず比較的長い核酸断片をも不溶性支持体(たとえばマイクロタイタープレート)に固定化することが可能な、簡便、かつ効率のよい方法を提供することを目的とする。さらに、該方法を応用して核酸の塩基配列の変異を簡単に検出する方法を提供することを目的とする。
【0020】
加えて、本発明は、上記ウイルスゲノムの遺伝子型、および変異の検出において必要とされるウイルスゲノムの抽出、精製、増幅までの工程を簡略化することによって、血清サンプルからウイルスゲノムの特徴を容易に調べることが可能な方法、およびキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者らは、ウイルスの型によってウイルスゲノムの特定領域に変異がみられることに着目し、この特定領域の配列をプローブとして利用することによりウイルス型を判別することに成功した。特に、HCV遺伝子のタイプ1a、2a、およびタイプ2a、2b、を確実に判定することができるという事実を見出した。またこの知見を基礎として、臨床検体中のB型肝炎ウイルスが野生型、または変異型であるのか確実に判定することにも成功し、簡便な操作により短時間で遺伝子型判定を行うことができる新たな方法(系)を完成するに至った。さらに、上記知見から、遺伝子型、または変異を簡便かつ短時間に判定することができる方法を完成するに至った。
【0022】
第一の側面において、本発明は、所望の核酸配列中の遺伝子型、または変異の判定を簡便に行うための方法を提供する。
【0023】
すなわち、遺伝子型、または変異の判定方法であって、
1.前記遺伝子型、または変異に特徴的な配列を選び出す工程と、
2.前記配列を含む核酸を増幅する工程と、
3.前記増幅された核酸を、前記遺伝子型、または変異に特異的なプローブにハイブリダイゼーションさせる工程と、
4.前記プローブにハイブリダイズした核酸を検出して、ハイブリダイズパターンを解析する工程と、
を含む方法を提供する。
【0024】
上記方法の好ましい態様において、前記遺伝子型は、C型肝炎ウイルスの遺伝子型であり、前記遺伝子型に特徴的な配列は、a〜e領域の配列であり、かつ前記遺伝子型特異的なプローブは、各遺伝子型のa〜e領域の配列に相補的な配列を有するプローブである。
【0025】
また、本発明者は、上記問題を解決するために鋭意研究を行った結果、核酸を不溶性支持体に固定化する際の被覆用溶液の濃度と固定化される核酸量の関係、および固定化する核酸(DNA)断片の長さと固定化される核酸量の関係について明らかにし、その結果に基づいて、核酸の固定化に使用する被覆用溶液として最適な塩、および最適な条件の塩濃度を見出すことに成功した。本発明者は、従来想定されなかったほど高濃度の炭酸塩溶液に核酸を溶解した被覆用溶液を使用することによって、不溶性支持体に核酸(DNA)断片を高率で固定化することに成功した事実に基づいて本発明を完成するに至った。
【0026】
すなわち、その第二の側面において、本発明は、不溶性支持体に核酸断片を固定化するための方法であって、前記核酸断片を溶解する被覆用溶液の塩濃度が1〜5Mであることを特徴とする方法を提供する。
【0027】
上記方法の好ましい態様において、前記被覆用溶液に使用する塩は、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、Na2CO3、KCl、NaClの群から選択される塩であり、さらに好ましくは、前記被覆用溶液に使用する塩は、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、Na2CO3、の群から選択される炭酸塩である。
【0028】
本発明者らは、さらに鋭意研究を行い、上記固定化方法を応用して上記第一の側面の発明、および以下に記載する第三の側面の発明を完成するに至った。
【0029】
すなわち、本発明者は、血清サンプルから、簡便かつ迅速にウイルスゲノムを精製し、増幅するための新たな系を開発するに至った。従来、PCRチューブ、マイクロタイタープレート等の反応容器は、核酸断片等の吸着をできるだけ少なくなるように工夫されており、逆に、反応容器に核酸を固定化するという発想はなかった。本方法は、このような反応容器に高効率で核酸を固定化できる方法を応用することにより完成された。
【0030】
したがって、その第三の側面において、本発明は、所望の核酸を精製し、かつ増幅するための方法であって、
1.所望のウイルスゲノムに対応するプローブを不溶性支持体からなる反応容器の内面に固定化する工程と、
2.前記反応容器に、前記所望のウイルスを含むサンプル液を添加して前記ウイルスゲノムをハイブリダイズさせる工程と、
3.前記サンプル液を除去する工程と、
4.前記反応容器にPCR反応液を添加して、PCR反応により前記核酸を増幅する工程と、
を含む方法を提供する。
【0031】
その好ましい態様において、前記ウイルスゲノムは、C型肝炎ウイルスゲノムであり、前記プローブは、それぞれa〜e領域に対応する配列の核酸であり、かつ前記PCR反応によって前記C型肝炎ウイルスゲノムが増幅される。
【0032】
さらに、本発明は、前記方法を使用して所望の核酸を精製し、かつ増幅するためのキットであって、
前記核酸に相補的な配列を有するプローブを固相化するための被覆用溶液が添加されている不溶性支持体からなる反応容器と、
前記核酸が含まれているサンプルを稀釈するための稀釈液と、
前記核酸を増幅するためのPCR反応液と、
が含まれることを特徴とするキットを提供する。
【0033】
好ましい態様において、本発明は、B型肝炎ウイルスの遺伝子型、および変異株を判別するためのアッセイキットであって、
前記B型肝炎ウイルスゲノムの各遺伝子型、および変異株について、1762番および1764番目の塩基を含む領域に相補的な配列を有するプローブが、それぞれ固定化された不溶性支持体と、
前記B型肝炎ウイルスゲノムをPCRで増幅させるためのプライマーを含むPCR反応液と、
を含むアッセイキットである。
【発明の効果】
【0034】
本発明の第一の側面に従った方法により、個々の感染患者についての病態の把握や病気の進行の予測、さらに各種治療の効果が期待できるかどうかをあらかじめ予測を簡便に行うことが可能となる。すなわち、ウイルス性肝炎患者に感染したウイルスゲノムの遺伝子型を簡単に検出することが可能となる。
【0035】
また、本発明の第二の側面に従った方法により、簡便、かつ効率のよく、オリゴヌクレオチドのみならず比較的長い核酸断片をも不溶性支持体(たとえばマイクロタイタープレート)に固定化することが可能なる。該方法を応用して核酸の塩基配列の変異を簡単に検出する方法を提供することを目的とする。
【0036】
加えて、本発明の第三の側面に従った方法、およびキットにより、上記ウイルスゲノムの遺伝子型、および変異株の検出において必要とされるウイルスゲノムの抽出、精製、増幅までの工程を簡略化することが可能となる。すなわち、これまで必要だと思われていた血清サンプルからの煩雑なウイルスゲノムの抽出、精製工程を行わなくとも、PCRチューブに特異的に必要なウイルスゲノムを吸着させることによって、簡単にPCR反応まで持ち込むことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の第一の側面に従う方法によれば、標的核酸の遺伝子型、または変異を正確に判定することが可能である。
【0038】
本発明の方法による遺伝子型、または変異の判定の原理をウイルスの遺伝子型の判定を例にして以下に簡単に説明する。
【0039】
まず、患者血清などから抽出したウイルスゲノムDNA(RNAウイルスであればRNAを逆転写反応によってcDNA化する)を鋳型として、PCRを行う。このPCRは、以下の工程でハイブリダイゼーションに必要なコピー数を得るためにおこなわれる。この時、ターゲットにラベルが必要な検出系を使用するのであれば、PCRに用いるプライマーにビオチン等のラベルをしておくことによりハイブリダイゼーション後に検出可能となる。電流検出型DNAチップ等のようにハイブリダイゼーション時に挿入剤を添加する系の場合、通常のプライマーを使用する。
【0040】
一方、マイクロタイタープレートの基底部分に、各遺伝子型特異的なプローブを固相化しておき、適当なブロッキング処理の後、前記PCR産物とのハイブリダイゼーションを行う。たとえば、C型肝炎ウイルスの遺伝子型判定のためには、1検体あたり10種類のプローブとの結合の有無を見ることが好ましいため、1検体あたり10個のウェルを使用してハイブリダイゼーションを行う。ゲノムの変異度の低いウイルスのであれば、野生株と変異株の最低2種類のプローブによって判別可能な場合もある。変異のバリエーションに応じて、プローブ数を適宜変更することになる。
【0041】
増幅したウイルスゲノムの特徴によって、該PCR産物が、ハイブリダイゼーションできるプローブとできないプローブがあるため、適当な洗浄操作の後、あらかじめPCR産物にラベルしておいたビオチン等の標識を検出することにより(あるいは、ハイブリダイゼーションの結果できた2本鎖に結合した挿入剤を利用することにより)、ハイブリダイゼーションの有無を確認することができる。ハイブリダイゼーションの結果から、ウイルスゲノムの変異のバリエーションを判別することができ、この変異の種類から遺伝子型を推定することにより型判定が可能になるというものである。
【0042】
以下、より詳細に本発明の方法を説明する。
【0043】
本方法の第一の工程は、核酸配列(ゲノム)中の遺伝子型、または変異に特徴的な配列を選び出す工程である。本発明において、前記遺伝子型、または変異に特徴的な配列とは、既知の核酸配列において変異の見出されている配列を意味する。このような配列は、種々のゲノムにおいて見出されており、たとえばヒトの多型部位(一塩基多型等)の配列なども、該配列に該当する。特にウイルスの場合であれば、ウイルスの遺伝子型によって配列が異なっている(すなわち変異が存在する)領域の配列を意味する。たとえば、C型肝炎ウイルスでは、タイプ1並びにサブタイプ2a、2bおよび3aといったウイルス型が知られているが、以下の実施例に示したようなa〜e(a、b、c、およびe)領域では、ウイルス型により配列が異なっている。このような領域の配列が、前記ウイルスゲノム中の遺伝子型に特徴的な配列に該当する。b領域を例にしてより詳細に説明すると、図1に示したように、タイプ1bの配列では、231/229の塩基は、ぞれぞれT/Cであるが、タイプ2a、および2bにおいて対応する塩基はそれぞれC/Tに変異しており、遺伝子型に特徴的な配列となっている。その他a領域、c領域、e領域にも同様に変異が存在し、これらが遺伝子型に特徴的な配列であることがわかる。また、B型肝炎ウイルスでは、以下の実施例に示した通り野生型と変異型が存在し、一定の配列の変異(野生株A1762/C1764、変異株T1762/A1764)が明らかとなっているが、この配列が前記遺伝子型に特徴的な配列に該当する。このような、ウイルスの型によって配列が異なった領域は、当業者であればそのゲノム配列を比較することにより、容易に選出することができるであろう。また、比較に使用するためのゲノム配列は、GeneBank等に登録された株から各ウイルス型の配列を入手することができるであろう。
【0044】
本方法の第二の工程は、前記遺伝子型、または変異に特徴的な配列を含む核酸を増幅する工程である。前記増幅は、当業者に周知の方法を使用して増幅すればよく、たとえば前記配列を挟むように設計されたプライマーを使用してPCRを行って増幅すればよい。前記遺伝子型に特徴的な配列を増幅するためには、該配列が増幅されるように、すなわち該配列を挟むように設計されたプライマーを使用してPCRを行えばよい。ウイルス量が少ないサンプルの場合には、充分な感度で検出できるようにnested PCRによって増幅することが好ましい。前記遺伝子型に特徴的な配列が、ウイルス内に数個存在する場合には、それぞれの領域をすべて含むように増幅することが好ましい。たとえば、本発明者がC型肝炎ウイルスにおいて確認した配列には、a〜e領域の4種類に遺伝子型特徴的な配列が存在する。上記したように、この領域をすべて挟むように設計したプライマーを使用して増幅すれば、以下の工程で使用するための増幅が一回だけでよいことになる。
【0045】
具体的には、C型肝炎ウイルスの遺伝子型を判別する場合であれば、以下の実施例に示した通り、第一のPCRのプライマーとして、a〜e領域の配列をすべてを挟むように設計された配列番号11、12のプライマーを使用し、第二のPCRのプライマーとして、配列番号12、13のプライマーを使用してnested PCRで増幅すればよい。
【0046】
また、テンプレートにはウイルスゲノムを使用するが、患者に感染したウイルスのウイルスの型を判定したい場合には、被検検体から採取したウイルスゲノムをテンプレートとして増幅すればよい。被検検体からのウイルスゲノムを抽出するには、通常のいずれの方法を使用してもよいが、たとえばSepa-Gene-RV-R(三光純薬 社製)等のキットを使用すればよい。
【0047】
前記ウイルスがRNAウイルス(たとえばC型肝炎ウイルス)の場合には、得られたウイルスゲノムをPCRに使用するために逆転写反応を行わなければならない。このような逆転写反応も、通常の方法を使用して行えばよいが、たとえばHexa-deoxyribonucleotide mixture(TAKARA社製)を用いて、M-MLVReverse Transcriptase(LIFE TECHNOLOGIES社製)によって逆転写することができる。
【0048】
以下の工程において、ハイブリダイゼーションの検出に標識(蛍光標識、放射線標識等)を使用する場合、前記PCRの際に使用するプライマーをあらかじめ標識しておけばよい。nested PCRによって増幅するのであれば、一度目のPCRは標識なしのプライマー対を用いて行い、内側のプライマーで行う2度目のPCRにおいて、一方のプライマーにビオチン標識したプライマーを使用すればよい。電流検出型DNAチップ等のようにハイブリダイゼーション時に挿入剤を添加する場合は、標識されていない通常のプライマーを使用すればよい。
【0049】
本方法の第三の工程は、前記増幅された核酸を、前記遺伝子型、または変異に特異的なプローブにハイブリダイゼーションさせる工程である。
【0050】
ここで、遺伝子型、または変異に特異的なプローブとは、前記「遺伝子型、または変異に特徴的な配列」にハイブリダイズすることが可能な配列を有するプローブを意味する。すなわち、前記遺伝子型、または変異に特徴的な配列に相補的な配列を有するプローブを意味する。たとえば、前記C型肝炎ウイルスのb領域の場合であれば、タイプ1bに対するプローブは、配列番号4のプローブである。このプローブを使用した場合、ウイルス型がタイプ1bであれば、前記増幅された核酸がプローブにハイブリダイズするが、2a、2b等の他のタイプであれば、ハイブリダイズしないことになる。このような遺伝子型特異的なプローブの一例として、C型肝炎ウイルスの遺伝子型を判別する場合は、各遺伝子型のa〜e領域に相補的な配列を有するプローブである。具体的には、配列番号1〜10の配列を有するプローブである。
【0051】
その他の遺伝子型、または変異を判別するためのプローブとして適切な配列、および適切な長さ等は、当業者であれば、前記遺伝子型、および変異に特徴的な配列に基づいて容易に判断することができるであろう。たとえば、ヒトの一塩基多型等を検出するのであれば、検出したい多型部位に基づいてプローブを作製することができる。また、このようなプローブは、DNA合成等の通常の合成方法を使用して容易に作成することが可能である。さらに、前記ハイブリダイゼーションさせるための最適なバッファー、およびハイブリダイゼーション条件は、当業者であればプローブのTm等から容易に判断することができるであろう。
【0052】
前記プローブは、不溶性支持体に固定化された1本鎖の核酸断片(プローブ)であることが好ましい。特に、前記プローブは、不溶性支持体(たとえばマイクロタイタープレートまたはDNAチップなど)に固定化されている必要がある。
【0053】
前記プローブを不溶性支持体に固定するためには、当業者に既知のいずれの方法を使用してもよいが、以下に詳述する本発明の第二の側面に従う方法を使用することができる。該方法を使用すれば、不溶性支持体(マイクロタイタープレートなど)に高率にプローブを固定化することが可能となり、高感度でハイブリダイズしたことを検出することができるであろう。このように核酸を容易かつ高率に不溶性支持体に固定化する手段は、従来法にはなく、本工程においても特に有用な手段である。
【0054】
本方法の第四の工程は、前記プローブにハイブリダイズした核酸を検出して、ハイブリダイズパターンを解析する工程である。
【0055】
前記ハイブリダイゼーションした核酸を検出する方法も、慣用されている方法から適宜選択することができる。一例として、PCRで増幅する際にあらかじめプライマーをラベルしておき、増幅産物のラベルを検出してハイブリダイゼーションの状態を検出する方法を概説する。例えば発色によって検出する場合には、あらかじめプライマーにビオチンラベルを施しておき、このビオチンラベルプライマーを使用して前記増幅工程を行う。次の工程で、増幅産物をプローブにハイブリダイズさせる。次いで、25%FCSを含むTBS緩衝液中に、何らかの標識したストレプトアビジンを最終濃度7.5mUになるように溶解した溶液でウェルを被覆し、振とうしながら室温で1時間程度インキュベートすることにより、ビオチンに標識を結合させる。標識の種類は、特に限定されないが、例えばペルオキシダーゼ標識のものであればペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)等の市販の試薬を利用することができる。次いで、ツイーン20を含む2xSSC緩衝液にてウェルを洗い、ペルオキシダーゼの発色性基質、例えばTMB(3,3',5,5'-tetramethylbenzidine)-ELIZA液(ライフテックオリエンタル社製)等を用いて発色させ、吸光度を測定する。吸光度が高ければ、ハイブリダイズした核酸の量が多いことがわかる。
【0056】
また、上記ハイブリダイゼーションを検出するための方法のもう一つの例として、電流型DNAチップ(たとえば、特許文献2を参照)等を検出に用いることもできる。該DNAチップを使用した場合は、PCRの際にプライマーにラベルを施す必要はなく、ハイブリダイゼーションされた2本鎖部分に電位を発生させる挿入剤(たとえば、ヘキスト33258、アクリジンオレンジ、ビスアクリジン等のビスインターカレーターなど)を結合させることによって測定する方法が選択できる。該電流型DNAチップによる検出の場合、前記工程3においてプローブを固定化する不溶性支持体は、マイクロタイタープレートではなく、所定のDNAチップを使用することになる。
【0057】
ここで、ハイブリダイズパターンの解析とは、前記ハイブリダイゼーションの結果に基づいて、核酸配列が、いずれの配列を有するゲノムであるかを明らかにし、いずれの遺伝子型であるか、または変異配列であるのかを型判定することである。
【0058】
たとえば、C型肝炎ウイルス1b型について解析した場合、増幅した配列を、配列番号1〜10(a〜e領域のそれぞれの領域に相補的な配列を有するプローブ)のすべてのプローブとハイブリダイズさせた結果、配列番号1、4、6のプローブとハイブリダイズすることになる(図4)。ハイブリダイズしたプローブの配列は、すべて1b型のウイルスに対応する配列であることから、ウイルス型も1b型であることが導き出される。
【0059】
このようにして、数領域のハイブリダイズパターンを基にすれば、容易にウイルスゲノム配列を推定することができるため、ハイブリダイズパターンからウイルス型を特定することが可能であり、シーケンシングを行わずに遺伝子型を判定することが可能となる。
【0060】
上記方法の一つの態様として、たとえばC型肝炎ウイルスの遺伝子型を型判定するための方法であって、前記マイクロタイタープレートに固相したC型肝炎ウイルスの遺伝子型に特異的な数種のプローブに対して、PCRで増幅したウイルス由来の産物をハイブリダイゼーションさせ、前記プローブとのハイブリダイゼーションの有無を調べることによって遺伝子型を判定する方法が提供される。
【0061】
本発明のもう一つの態様において、前記方法を利用することにより、遺伝子型、または変異を判定するためのキットを提供することもできる。たとえば、前記工程2の核酸を増幅するためのプライマー(C型肝炎ウイルスの場合であれば、a〜e領域の配列をすべて含む一領域を増幅できるプライマー、すなわち配列番号11、12のプライマー)と、前記工程3において使用する遺伝子型、または変異に特異的なプローブ(C型肝炎ウイルスの場合であれば、a〜e領域の配列の各遺伝子型に対するプローブ、すなわち配列番号1〜10の配列のプローブ)が固定化された不溶性支持体(マイクロタイタープレートなど)とを含むキットである。該キットを使用すれば、使用者は、キットに含まれているプライマーを使用して前記遺伝子型、または変異に特徴的な配列を含む領域を増幅するだけで、前記工程1において配列を選び出す必要はなく、また工程3において必要なプローブも自分で準備する必要もないため、非常に簡便、かつ迅速に遺伝子型、または変異を判定することが可能となるであろう。
【0062】
本発明の第二の側面に従う方法を使用することにより、不溶性支持体に、高率で核酸断片を固相化することができる。
【0063】
ここで、不溶性支持体とは、マイクロタイタープレートに代表される核酸(プローブ)を固相化するための支持体を意味し、その素材は、プラスチック材料からなる支持体をいう。前記プラスチック材料には、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニル、その他いずれのプラスチック材料も含むが、特に、前記不溶性支持体の素材には、ポリスチレン、ポリビニルが好ましい。実際の研究において核酸の固相化が必要であるにもかかわらず固相化が困難である素材は、前記プラスチック材料の製品であり、製品例としては、ELISA-PLATE, MICROLON, 96W, FLAT-BOTT, MEDIUM BINDING(グライナー社製)などが挙げられる。本発明の方法によって固定化される不溶性支持体の形態は、特に限定されず、マイクロタイタープレート、各種PCRチューブ、DNAチップその他の目的に使用するためのプラスチック材料、その他の形態の不溶性支持体に核酸を固相化するために使用することができる。
【0064】
本発明の方法は、まず、固相化したい核酸を被覆用溶液に溶解して使用する。本発明の方法において、前記被覆用溶液は、塩溶液であることを特徴とする。該溶液に使用するための塩は、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、Na2CO3、KCl、NaClの群から選択される塩である必要がある。特に、好ましい塩は、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、Na2CO3の群から選択される炭酸塩である。また、前記被覆用溶液は、通常、単一の塩の塩溶液であるが、数種類の塩を混合した塩溶液であってもよい。
【0065】
また、本方法において、前記被覆用溶液は、塩濃度が、1M〜10Mであることを特徴とする。前記塩濃度は、好ましくは1M〜5Mであり、より好ましくは、1M〜4Mである。以下の実施例において示したように、固相化に最適な塩濃度、使用する核酸の量によって多少異なるため、核酸の量にあわせて最適な濃度を使用することが望ましい。最適な濃度は、図2のグラフを参照することにより、容易に判断できるであろう。しかし、いずれの塩を使用した場合であっても、核酸を高率で固相化するには、1M以上の高濃度で使用しなければならないことが図2のグラフからも明らかである。
【0066】
本方法に使用する核酸の濃度は、いずれの濃度であってもよいが、被覆用溶液に含まれる核酸の濃度が高い方が、固相化される核酸の量が多くなるであろうことは、当業者であれば明らかである。
【0067】
本方法は、前期所望の核酸を溶解した被覆用溶液を不溶性支持体上に滴下すればよい。たとえば、マイクロタイタープレートであれば、適量を分注して、適当な時間(1時間から一晩程度)静置すればよい。
【0068】
ここで、本方法の実施態様の一例を概説する。3Mの炭酸カリウム溶液に、DNA(プローブ等)を0.4μMとなるように溶解する(この溶液が被覆溶液である)。次いで、該溶液を固定化したい不溶性支持体(たとえばマイクロタイタープレート)に適量を分注し、4℃において一晩静置する。これだけの操作を行うだけで、核酸を高率で不溶性支持体に固定化することができる。
【0069】
以下の実施例に示したように、本方法によって、ハイブリダイズ実験に使用するためのプローブを、マイクロタイタープレートまたはDNAチップにDNAを固定化することもできる。さらに、本方法によれば、プローブをPCRチューブ内に固定化することも可能となり、以下に詳述したように、テンプレートDNAの精製、およびその後の増幅を同じチューブ内で行うことも可能となる。
【0070】
本発明の第三の側面に従う方法によれば、テンプレート核酸の精製、および増幅の工程を簡略化したPCRが可能となる。
【0071】
詳細には、不溶性支持体からなる反応容器の内面に固定化したプローブへのハイブリダイゼーションを利用して、未精製サンプルから複雑な精製工程を経ずに(たとえば、熱処理を行うのみでよく、チューブの移し替えが不要)検出に必要な精製、増幅までの工程を簡略化するPCR方法であり、目的のターゲットのみを固定化したプローブにハイブリダイゼーションさせてトラップし、そのままPCR反応液を添加してPCR反応を開始できる方法である。
【0072】
以下、図6を参照して本方法を説明する。
【0073】
本方法の第一の工程は、所望の核酸に相補的な配列を有するプローブを不溶性支持体からなる反応容器の内面に固定化する工程である(図6-1、2、3)。
【0074】
前記所望の核酸は、PCRによって増幅したい核酸であり、いずれの核酸であってもよく、好ましくはウイルスゲノム、より好ましくはB型肝炎ウイルスゲノムである。したがって、これらの核酸を増幅したい場合、前記プローブには、これら核酸の相補的な配列を有するプローブを使用すればよい。このようなプローブは、通常の合成方法を使用して作製することができる。前記プローブとして適切な配列、および長さ等は、当業者であれば、前記核酸配列に基づいて容易に判断することができるであろう。
【0075】
本方法に使用する不溶性支持体は、PCRに使用可能な支持体であればいずれのものでもよいが、通常は、ポリスチレン、ポリビニル等を素材とするPCRチューブである。
【0076】
前記プローブを不溶性支持体に固定するためには、当業者に既知のいずれの方法を使用してもよいが、上述した本発明の第二の側面に従う方法を使用することができる。該方法を使用すれば、不溶性支持体(マイクロタイタープレートなど)に高率にプローブを固定化することが可能となり、高感度でハイブリダイズさせることができるであろう。該方法のように、核酸を容易かつ高率に不溶性支持体に固定化する方法は、従来法にはなく、本発明は、該固相化法が発明されたことによって容易に実施可能となったといえる。
【0077】
また、プローブを固定化したPCRチューブ等は、そのままの状態で以下の工程に使用することも可能であるが、非特異的な結合を防止するためにブロッキングを行っておくことが好ましい。たとえば、ブロッキングは、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNAからなる溶液を分注し、1時間程度室温にて軽く振とうしながらインキュベートすることによって行うことができる。
【0078】
本方法の第二の工程は、前記不溶性支持体(プローブが固定化されている)に、増幅したい核酸を含むサンプル液を添加して、該核酸を前記プローブにハイブリダイズさせる工程である(図6-4、5、図7-6)。
【0079】
この工程では、使用する核酸を適切な溶液(生理食塩水等)に溶解または稀釈してサンプル溶液を作製する。サンプルとして、ウイルス、細菌、細胞等を直接使用する場合(たとえば、患者検体から採取した血清など)は、効率よくウイルスゲノム等を露出させるために、ウイルスを1% SDS、1% 2-メルカプトエタノールを含む溶液(サンプル稀釈液)に溶解してサンプル液とし、さらにこのサンプル液を95℃において10分間程度加熱処理をすることが好ましい。しかし、以下の実施例において示したように、このような処理を行わなくても単に生理食塩水で適切な濃度にサンプル(ウイルスを含む血清など)ウイルスを稀釈して、95℃において10分間加熱するだけでもよい。また、サンプルとして、超音波処理された細胞、cDNAライブラリー等を使用する場合は、すでに核酸が露出した状態になっているため、該サンプルを適切な溶液に溶解するだけで、加熱処理を行わなくてもよいであろう。
【0080】
その後のブロッキング、ハイブリダイゼーションの条件は、特に限定するものではなく、慣用されている方法から適宜選択可能である。ハイブリダイゼーションのためには、前記不溶性支持体からなる反応容器(たとえばPCRチューブ)に、適切なハイブリダイゼーションバッファー(たとえば、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 0.5% SDS, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNA)を分注し(PCRチューブであれば50μl程度が好ましい)、適切なハイブリダイゼーション温度に加温しておく。次いで、上記の通り溶解したサンプル液を95℃で処理した後、直ちに氷中に移して1本鎖の状態を維持しておき、ハイブリダイゼーション溶液を分注して加温してある反応容器に添加する。適切なハイブリダイゼーション温度において、適切な時間(たとえば2時間程度)振とうしながらインキュベーションすることによってハイブリダイゼーションを行えばよい。上記適切なハイブリダイゼーションバッファー、およびハイブリダイゼーション条件等は、通常使用されるものを用いればよく、当業者であればプローブのTm等から容易に判断できるであろう。
【0081】
本方法の第三の工程は、前記サンプル液を除去する工程である。
【0082】
前記工程においてサンプル液を添加して、適切な条件でハイブリダイゼーションさせた後、PCRチューブ等の反応容器(固定化プローブには核酸がハイブリダイズしている)から該サンプル液を除去する。除去後、適切な洗浄液(通常は、ツイーン20を含む2xSSC緩衝液、生理食塩水等である)で1回程度洗浄しておくことが好ましい。
【0083】
増幅したい核酸がRNAである場合(たとえばC型肝炎ウイルスゲノムの場合)は、次の工程の前にRNAをDNAに転写しておく必要がある。すなわち、得られたウイルスゲノムをPCRに使用するために逆転写反応を行わなければならない。このような逆転写反応は、ハイブリダイズしたRNAをテンプレートとして、通常の方法、およびキット等を使用して行えばよいが、たとえばHexa-deoxyribonucleotide mixture(TAKARA社製)を用いて、M-MLVReverse Transcriptase(LIFE TECHNOLOGIES社製)によって逆転写することができる。
【0084】
本方法の第四の工程は、前記反応容器にPCR反応液を添加して、PCR反応により前記核酸を増幅する工程である(図7-7、8)。
【0085】
本工程で行われるPCRは、プローブにハイブリダイズした核酸をテンプレートとして使用する。したがって、プライマーは、ハイブリダイズした核酸(核酸がRNAの場合は、逆転写したDNA)を増幅するための適切なプライマーを使用すればよく、このようなプライマーを設計して作製することは、当業者であれば容易に行うことができるであろう。たとえば、B型肝炎ウイルスゲノムの1762番および1764番目の塩基を含む領域を増幅するのであれば、配列番号20、21のプライマーを使用して、通常のPCR反応を行えばよい。
【0086】
上記方法の一つの態様において、患者検体から得られた血清中のB型肝炎ウイルスの遺伝子型、および変異株を判別するために、該ウイルスゲノムの変異領域(1762番および1764番目の塩基を含む領域)を増幅したい場合、前記第一の工程において、B型肝炎ウイルスゲノムに相補的な配列を有するプローブ(たとえば、配列番号22または23)を不溶性支持体からなる反応容器の内面に固定化し、第二の工程において、血清サンプルを添加してB型肝炎ウイルスゲノムをプローブにハイブリダイズさせ、第四の工程において、上述した領域を増幅させるためのプライマー(たとえば、配列番号20または21)を使用してPCRを行うことによって、血清中のB型肝炎ウイルスゲノムの変異領域を容易に増幅させることが可能となる。
【0087】
また、本発明のもう一つの側面に従えば、前記方法を利用して所望の核酸を精製、増幅するためのキットが提供される。該キットは、プローブを固定化するための被覆用溶液が添加された不溶性支持体からなる反応容器(PCRチューブなど)と、前記核酸が含まれたサンプルを稀釈するための稀釈液と、前記核酸をPCRで増幅させるためのPCR反応液を含む。
【0088】
たとえば、キットの構成要素として、下記の(a)〜(e)を含むことができる。
【0089】
(a)PCRチューブに2M〜3M Na2CO3 or K2CO3溶液を分注したもの(適切なプローブを予め加えておき、特定の核酸を増幅するためのキットとすることもできる)
(b)希釈液 (1%SDS, 1% 2-メルカプトエタノール等)
(c)Hybri. Sol (6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 0.5% SDS, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNA, 50%ホルムアミド等)
(d)洗浄液 (Tween-20を含む2xSSC等)
(e)PCR反応液(PCR pre-mixture) (Taq polymerase, PCR buffer, dNTPs,等通常のPCRに必要な試薬を含む。適切なプライマーを予め加えておき、特定の核酸を増幅するためのキットとすることもできる)。
【0090】
前記所望の核酸とは、ユーザーが増幅したい核酸であり、いずれの核酸であってもよい。ユーザーは、前記核酸に相補的なキットに含まれていないプローブ、および前記核酸を増幅できるプライマーの配列を選択し、準備することになる。このようなプローブ、およびプライマーは、当業者であれば容易に選択することができるであろう。しかし、増幅する核酸をあらかじめ決定しておき、該核酸を増幅するためのキットとして提供されてもよく、この場合には、前記被覆用溶液に適切なプローブを添加し、該プローブを不溶性支持体からなる反応容器に固定しておき、前記PCR反応液には、該核酸の増幅に適したプライマーを添加しておいてもよい。
【0091】
また、前記被覆用溶液は、上記本発明の第二の側面に関して記載した塩溶液である。好ましくは、2〜3MのK2CO3またはNa2CO3溶液である。
【0092】
前記稀釈液は、たとえば生理食塩水、1%SDS, 1% 2-メルカプトエタノール液等である。
【0093】
前記PCR反応液は、通常のPCR反応に必要な試薬が含まれたpre-mixture溶液であり、Taq polymerase, PCR buffer, dNTPs,等通常のPCRに必要な試薬を含む。上述の通り、該反応液には、適切なプライマーが含まれていてもよい。
【0094】
該キットの操作手順は、第三の側面において説明したPCR法に従って、該方法の第二工程から実施すればよい。たとえば患者検体から得られた血清中のウイルスを精製、増幅する場合、該血清を稀釈で稀釈してサンプル液を作製し、加熱処理を行っておく。この溶液をキットに含まれている反応容器(プローブが固相化されたPCRチューブ)に添加して、ハイブリダイゼーションを行う。次いで、サンプル液を除去し、適切なプライマーを含むPCR反応液(キットに含まれている)を前記反応容器に添加する。これを通常と同様の条件でPCRにかければ、ウイルスゲノムが増幅される。このような操作手順(ハイブリダイゼーション条件、PCR条件等)についての解説書をキットに含めておくことが望ましい。
【0095】
上記のようなキットの一例として、B型肝炎ウイルスの重症化株として知られているT1762A1764について検出するキットについて記載する。本キットのユーザーは、被検患者から得た血清サンプルとPCR機、ピペッター、電気泳動装置等を準備するだけでよい。
【0096】
キットに含まれるPCRチューブには、予め必要な2箇所の変異を検出するためのプローブ、すなわち前記B型肝炎ウイルスゲノムの各遺伝子型について、1762番および1764番目の塩基を含む領域に相補的な配列を有するプローブが固定化されている。野生型プローブ(たとえば、配列番号22)と変異型プローブ(たとえば、配列番号23)を別々のチューブに固定化し、1検体について2本の反応を行う。ユーザーは、そのチューブに入っている液体(乾燥を防ぐための1xTEや、もしくはプローブ固定化液)を除去して、血清を20μl程度添加する。それに、添付の希釈液を入れて(80μl程度)、95℃にしたPCR機にセットして10分放置する。その後は直ちに氷上に移す。
【0097】
さらに、42℃のPCR機にセットし、上から42℃にあたためたhybro.solを100μl添加し、30分から1時間放置する。
【0098】
その後、チューブ内の液体を捨て、洗浄液を200μl添加して数回ピペッティングして捨てる。
【0099】
次に添付のPCR反応液をチューブに添加する。この反応液には、B型肝炎ウイルスゲノムをPCRで増幅ためのプライマー(たとえば、配列番号20、21)が、すでに添加されている。適切な反応条件も指定しておくので、ユーザーは、その条件で反応を開始するだけである。
【0100】
その後、PCR精製産物を電気泳動などによって確認する。被検検体に野生型のウイルスが存在した場合、野生型のプローブを固相化したチューブのみが増幅されてシグナルが得られ、変異型のプローブを固相化したチューブでは、増幅されずに陰性となる。
【0101】
以上の方法を用いることによって、これまで必要だと思われていた血清サンプルからの煩雑なウイルスゲノムの抽出、精製工程を行う必要がなくなり、PCRチューブに適切な配列のプローブを固定化しておくことによって、簡単にPCR反応まで持ち込むことが可能となる。
【実施例】
【0102】
実施例1
HBVB型肝炎患者のうち肝炎を発症した症例のもつウイルスから高率に検出される変異株(T1762A1764)の検出法
1.患者検体の採取法
測定すべき患者から末梢血を採血し、ゼリー管等の採血管に採取した。十分に凝固させたのち3000rpm, 10分間程度の遠心を行い、血球成分を除いて血清を得た。血清は数本の保存用試験管に分注したのち-20℃以下の冷凍庫内に保存した。
【0103】
2.B型肝炎ウイルスのゲノム抽出
ウイルスゲノムの抽出には、1検体あたり血清25μlを用いて行った。抽出は、スマイテストEX-R&D(ゲノムサイエンス研究所製)キットを用いて、付属の説明書にしたがって行った。
【0104】
3.B型肝炎ウイルスゲノムのPCR
PCRは、ウイルス量が少ないサンプルでも十分な感度で検出できるようにnested PCRによって行った。1st PCRは、ビオチン標識なしのプライマー対(primer #eP1-1:5’-gcatggagaccaccgtgaac-3’配列番号18、primer #eP1-2:5’-ggaaagaagtcagaaggcaa-3’配列番号19)を使用して行った。反応条件は、94℃で4分間処理した後、94℃で1分、55℃で1.5分、72度で2分を1サイクルとする反応を35回繰り返し、最後に72℃で7分の処理を行った。2nd PCRは、ビオチンで標識したプライマ−対を用いて(#eP2-1:5’-cataagaggactcttggact-3’配列番号20、primer #eP2-2:5’-ggcaaaaaagagagtaactc-3’配列番号21)、反応条件は、94℃で4分間処理した後、94℃で1分、55℃で1分、72度で1.5分を1サイクルとする反応を30回繰り返し、最後に72℃で7分の処理を行った。
【0105】
4.マイクロタイタープレートへのプローブの固相
ELISA-PLATE, MICROLON, 96W, FLAT-BOTT, MEDIUM BINDING(グライナー社製)に、プローブを0.4μMになるように3M炭酸カリウム溶液で調整した被覆液を分注し、4℃で一晩保温した。プローブは、野生型プローブ(5’-taggttaaaggtctttgta-3’配列番号22と変異型プローブ(5’-taggttaatgatctttgta-3’配列番号23)の2種類を固定化した。
【0106】
5.増幅したB型肝炎ウイルスゲノムとのハイブリダイゼーション
次に、ツイーン20を含むTBS緩衝液にてウェルを洗浄し、6xSSC、0.01M EDTA(pH8.0)、5x Denhardt’s solution, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNAからなる溶液を各ウェルに100μlずつ分注し、1時間程度室温にて軽く振とうしながらインキュベートすることによってブロッキングを行った。その後ツイーン20を含むTBS緩衝液にてウェルを洗い、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 0.5% SDS, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNAからなるハイブリダイゼーション溶液を50μlずつ分注して、今回のハイブリダイゼーションの温度である50℃に加温しておいた。ターゲットとなるPCR産物を98℃で2分間処理し、ただちに氷中に移して1本鎖の状態を維持させておき、ハイブリダイゼーション溶液を分注して加温してあるウェルに添加した。50℃で2時間程度軽く振とうしながらインキュベートすることによってハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後は、ツイーン20を含む2xSSC緩衝液にてウェルを洗浄した。
【0107】
6.検出
次に、25%FCSを含むTBS緩衝液中に、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を最終濃度7.5mUになるように溶解したもの(50μl)でウェルを被覆し、振とうしながら室温で1時間程度インキュベートした。さらにツイーン20を含む2xSSC緩衝液にてウェルを洗浄し、TMB(3,3’,5,5’-tetramethylbenzidine)-ELIZA液(ライフテックオリエンタル社製)を50μlずつ添加した。十分に発色するまで暗所に静置したのち、反応停止液(2N硝酸ナトリウム)を50μlずつ添加して、492nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定はマルチスキャン バイクロマティック(ラボシステムズ ジャパン社製)を用いて行った。
【0108】
7.結果
結果を図3に示した。図3は、ダイレクトシークエンス法により予め明らかであった配列に応じて、各サンプルを野生型、変異型、その中間型にわけて表記してある。HBe抗原陽性時から、Hbe抗体陽性時を経て、慢性肝炎患者へと病態が進むにつれて変異型の割合が増加していることがわかる。また、ダイレクトシークエンスの結果と本発明の結果が一致していることがわかる。
【0109】
実施例2
C型肝炎ウイルスの遺伝子型判定法
1.患者検体の採取法
測定すべき患者から末梢血を採血し、ゼリー管等の採血管に採取した。十分に凝固させたのち3000rpm, 10分間程度の遠心を行い、血球成分を除いて血清を得た。血清は数本の保存用試験管に分注したのち-20℃以下の冷凍庫内に保存した。
【0110】
2.C型肝炎ウイルスのゲノム抽出法
ウイルスゲノムの抽出には、1検体あたり血清100μlを用いて行った。抽出にはSepa-Gene-RV-R(三光純薬 社製)キットを用いた。これにより必要なHCV RNAを含む分画がペレットとして得られた。そのペレットを1unit/μlの濃度で含む1mM DTT溶液9μlにて溶解し、逆転写反応に供するHCV RNAサンプルとした。
【0111】
3.C型肝炎ウイルスゲノムRNAの逆転写反応
逆転写反応は、Hexa-deoxyribonucleotide mixture(TAKARA社製)を用いて、M-MLVReverse Transcriptase(LIFE TECHNOLOGIES社製)にて、先ほどのHCV RNAサンプル9μlを加えて総量20μlとして、42℃で30分間インキュベートすることによって行った。
【0112】
4.C型肝炎ウイルスの遺伝子型を判別するためのPCR
PCRは、ウイルス量が少ないサンプルでも十分な感度で検出できるようにnested PCRにて行った。一度目のPCRはビオチン標識なしのプライマー対を用いて行い、二度目のPCRは、内側のプライマーを使用して、片方のプライマーには、ビオチン標識して行った。反応条件は、94℃で4分間処理した後、94℃で30秒、55℃で30秒、72度で1分を1サイクルとする反応を1度目のPCRでは25回、2度目のPCRでは30回繰り返し、それぞれ最後に72℃で7分の処理を行った。PCRは、GeneTaq(和光純薬社製)を使用して行った。一度目、二度目共に総量50μlとして行った。
【0113】
5.マイクロタイタープレートへのプローブの固相
ELISA-PLATE, MICROLON, 96W, FLAT-BOTT, MEDIUM BINDING(グライナー社製)に、プローブを0.4μMになるように3M炭酸カリウム溶液で調整した被覆液を分注し、4℃で一晩保温した。プローブは、1検体につきC型肝炎ウイルスの遺伝子型を調べる目的で10種類(配列番号1〜10)を使用した。
【0114】
プローブを固定化した後、ツイーン20を含むTBS緩衝液にてウェルを洗浄し、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNAからなる溶液を各ウェルに100μlずつ分注して、1時間程度室温にて軽く振とうしながらインキュベートすることによってブロッキングを行った。
【0115】
6.ハイブリダイゼーション
その後、ツイーン20を含むTBS緩衝液にてウェルを洗い、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 0.5% SDS, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNAからなるハイブリダイゼーション溶液を50μlずつ分注して、今回のハイブリダイゼーションの温度である50℃に加温しておいた。ターゲットとなるPCR産物を98℃で2分間処理し、ただちに氷中に移して1本鎖の状態を維持させておき、ハイブリダイゼーション溶液を分注して加温してあるウェルに添加した。50℃で2時間程度軽く振とうしながらインキュベートすることによってハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後は、ツイーン20を含む2xSSC緩衝液にてウェルを洗浄した。
【0116】
7.検出
次に、25%FCSを含むTBS緩衝液中に、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(ロシュ・ダイアグノスティックス社製)を最終濃度7.5mUになるように溶解したもの50μlでウェルを被覆し、振とうしながら室温で1時間程度インキュベートした。さらにツイーン20を含む2xSSC緩衝液にてウェルを洗い、TMB(3,3’,5, 5’-tetramethylbenzidine)-ELIZA液(ライフテックオリエンタル社製)を50μlずつ添加した。十分に発色するまで暗所に静置したのち反応停止液(2N硫酸)を50μlずつ添加して、492nmにおける吸光度を測定した。吸光度の測定はマルチスキャン バイクロマティック(ラボシステムズ ジャパン社製)を使用して行った。
【0117】
8.結果
結果は図4に示した通りである。12検体はそれぞれ1〜4までが1b型、5〜8までが2a型、9〜12までが2b型である。それぞれのグラフは、ターゲットの遺伝子型別に示した。マイクロプレートに分注して固相したプローブを、増幅した各サンプル由来の産物をグラフの横軸に示した。ビオチンが多く検出されたウェルに固相してあったプローブから型判定を行った結果、それぞれの遺伝子型において、各サンプルとも予想されたプローブにハイブリダイゼーションした。
【0118】
a領域では、1b型の場合a-12にハイブリダイゼーションし、2a型ではa-20、2b型では、a-32にハイブリダイゼーションしていることがわかる。b領域では、1b型の場合、b-11にハイブリダイゼーションし、2a、2b型では、b-21にハイブリダイゼーションしている。c領域では、1b型の場合、c-11にハイブリダイゼーションし、2a型では、c-21、2b型はc-31にハイブリダイゼーションしている。e領域では、1b型の場合、e-21にハイブリダイゼーションし、2a、2b型では、e-31にハイブリダイゼーションしている。
【0119】
今回検討した1b、2a、2b型のそれぞれ4例では、それぞれ予想されたプローブにハイブリダイゼーションしていることがわかり、プローブにハイブリダイゼーションしたパターンを解析することによって、C型肝炎ウイルスの遺伝子型が測定できることが明らかとなった。また、低い数値ながら予想されたプローブ以外にハイブリダイゼーションする場合もみられたが、4種の領域を調べ総合的に判断することにより、遺伝子型を判別することが可能であった。
【0120】
実施例3
核酸固定化のための最適条件の検討
不溶性支持体(マイクロタイタープレート)にプローブを固相化するための最適な条件を検討した。数種類の塩溶液を数段階の濃度に溶解して、この被覆用溶液中に、20塩基からなるプローブを0.4μMの濃度に溶解し、マイクロタイタープレートに分注して4℃で一晩放置し、ツイーン20を含むTBS(トリス・バッファード・セリン)緩衝液にてウェルを洗い、プローブ固相化の操作とした。
【0121】
図2にその結果を示した。図2−aでは、20塩基からなるプローブをビオチンラベルした後に、また図2−bでは、221bpの長さのPCR産物をビオチンラベルした後に、図中に示した12種類の溶媒に溶解し、該溶液をプレートに滴下してプローブを固相化し、固定化されたビオチン量を測定することによって、固相化量を検出した結果をグラフに示した。グラフの横軸は各塩溶液の濃度を示している。この検討の結果、20塩基のプローブをもっとも効率よく固相化することができた塩溶液は、2M炭酸カリウム溶液、および2〜3M炭酸ナトリウム溶液であり、221bpのPCR産物の場合に最も効率がよかったものは、3M炭酸カリウム溶液、および3M炭酸ナトリウム溶液であることが確認された。
【0122】
実施例4
従来の抽出法を使用しないでHBVの増幅を行う方法
1.患者検体の採取法
測定すべき患者から末梢血を採血し、ゼリー管等の採血管に採取した。十分に凝固させたのち3000rpm, 10分間程度の遠心を行い、血球成分を除いて血清を得た。血清は数本の保存用試験管に分注したのち-20℃以下の冷凍庫内に保存した。
【0123】
2.従来法でのB型肝炎ウイルスのゲノム抽出法
従来法の例では、ウイルスゲノムの抽出に、1検体あたり血清25μlを用いて行った。抽出には、スマイテストEX-R&D(ゲノムサイエンス研究所製)キットを使用した。
【0124】
3.マイクロタイタープレートにDNA断片の固定化
プローブとして使用するために、PCRチューブには、10μMのHBV S領域に特異的なプライマ−HS1-1(5’-tcgtgttacaggcggggttt-3’配列番号14)とHS1-2(5’-cgaaccactgaacaaatggc-3’配列番号15)を0.4μMになるように2M炭酸カリウム溶液で調整した被覆溶液を50μlずつ分注し、4℃で一晩保温した。プライマー(プローブ)を固定化した後、ツイーン20を含むTBS緩衝液にてウェルを洗浄し、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNAからなる溶液を各ウェルに100μlずつ分注し、1時間程度室温にて軽く振とうしながらインキュベートすることによってブロッキングを行った。
【0125】
4.血清の前処理
血清は、前処理をしない場合(5μlの血清に生理食塩水を加えて95℃にて10分間処理したもの)と、前処理あり(5μlの血清に対して、1% SDS, 2% 2-mercaptoethanol, 2%ツイーン20、プロテアーゼ K(PK)等を様々に加えた溶液を添加し、それぞれ95℃にて10分間処理)の場合をテストした。
【0126】
5.ハイブリダイゼーション
プライマ−(プローブ)を固定化してブロッキングを行ったPCRチューブを、ツイーン20を含むTBS緩衝液にて洗い、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 0.5% SDS, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNA、50%ホルムアミドからなる基本ハイブリダイゼーションバッファー、もしくはULTRA hyb(Ambion社製)を50μlずつ分注して、今回のハイブリダイゼーションの温度である42℃に加温しておいた。4.の工程の前処理後のサンプルをターゲットとして、または2.の工程の抽出サンプルをコントロールとして使用し、95℃で処理した後、ただちに氷中に移して1本鎖の状態を維持させておき、ハイブリダイゼーション溶液を分注して加温してあるPCRチューブに添加した。42℃で2時間程度軽く振とうしながらインキュベートすることによってハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーション後は、ツイーン20を含む生理食塩水にてPCRチューブ内を1回洗浄した。
【0127】
6.PCR
PCRのプライマ−には、PCRチューブに固定化した2種のプライマ−より内側に位置するプライマ−HS2-1(5’-caaggtatgttgcccgtttg-3’配列番号16)、HS2-2(5’-ggcactagtaaactgagcca-3’配列番号17)を使用した。PCR反応に必要な酵素、プライマ−、dNTPs、バッファー等は、予め調整しておき、ハイブリダイゼーション後に1回洗浄したPCRチューブに50μlずつ添加して、そのままPCR反応を開始した
7.検出
2%アガロースゲルにて電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色を行って、紫外線下で写真撮影をおこなった。
【0128】
8.結果
結果を図5に示した。(1)は、抽出HBV DNAと血清サンプルに1%SDS,2% 2−メルカプトエタノール処理した場合の比較で、a,b2種類の陽性サンプルについて検出を行った結果である。ハイブリダイゼーションバッファーとして、6xSSC, 0.01M EDTA(pH8.0), 5x Denhardt’s solution, 0.5% SDS, 100μg/ml Sheared, denatured salmon sperm DNA、50%ホルムアミドからなる溶液(基本的ハイブリダイゼーションバッファーとする)とULTRA hybを比較した。その結果、ハイブリダイゼーションに用いるバッファーとして、ULTRAhybより基本ハイブリダイゼーションバッファーの方がよかった。ULTRAhybを用いた場合は、今回のハイブリダイゼーション条件では検出できなかったが、基本的ハイブリダイゼーションバッファーではうまく検出できた。また、既成の抽出キットを用いたサンプルと、PCRチューブ内で簡単な前処理をしたのみのサンプルとではほぼ同程度の増幅をしめした。抽出したHBV-DNAと同様に、チューブ内で1% SDS, 2% 2-mercaptoethanolで熱処理しただけのサンプルでも、同様に目的の産物が増幅された。
【0129】
(2)は、血清サンプルに対する様々な前処理方法を比較検討した。その結果、1% SDS, 2% ツイーン20によって前処理した場合では、若干増幅量が落ちていたが、前処理に2%ツイーン20を添加した4番以外のチューブでは、ほぼ同程度の増幅をしめした。特に、6番のチューブは、前処理として熱処理のみであったが、他の前処理ありのサンプルと同程度に増幅可能であった。すなわち、前処理なしの生理食塩水希釈のみでも、前処理ありの場合と同様の増幅効率を示すことが明らかとなった。
【0130】
以上の結果から、本発明を用いることによって、従来のウイルスゲノム抽出法を用いることなく、血清サンプルに熱処理を行うのみで、目的の産物を1チューブ内で増幅まで行うことができることがわかった。
【0131】
ここで、上述の発明の詳細な説明、および実施例において使用したプローブ、およびプライマーを簡単に説明する。
【0132】
a領域
a-12 ctc aat gcc tgg aga ttt ggg(配列番号1)
a-20 tct atg ccc ggc cat ttg gg(配列番号2)
a-32 ctc tat gtc cgg tca ttt ggg(配列番号3)
b領域
b-11 agt agt gtt ggg tcg cga a(配列番号4)
b-21 agt agc gtt ggg ttg cga a(配列番号5)
c領域
c-11 gag cgg tcg caa cct cgt g(配列番号6)
c-21 gag cgg tcc cag cca cgt(配列番号7)
c-31 agc gat ccc agc cgc gtg(配列番号8)
e領域
e-21 cga ggt tcc cgt ccc tct t(配列番号9)
e-31 cgc ggg tct cgt cct act t(配列番号10)
PCR primers for HCV genotyping (semi nested PCR)
1st PCR
nt2 ccc tgt gag gaa cta ctg tc(配列番号11)
core1 gga atg tac ccc atg agg tc(配列番号12)
2nd PCR
nc4 tct gcg gaa ccg gtg agt ac(配列番号13)
core 1 1stと同じ
PCR primers for HBV
HS1-1 5’-tcgtgttacaggcggggttt-3’(配列番号14)
HS1-2 5’-cgaaccactgaacaaatggc-3’(配列番号15)
HS2-1 5’-caaggtatgttgcccgtttg-3’(配列番号16)
HS2-2 5’-ggcactagtaaactgagcca-3’(配列番号17)
PCR primers for HBV
eP1-1:5’-gcatggagaccaccgtgaac-3’(配列番号18)
eP1-2:5’-ggaaagaagtcagaaggcaa-3’(配列番号19)
eP2-1:5’-cataagaggactcttggact-3’(配列番号20)
eP2-2:5’-ggcaaaaaagagagtaactc-3’(配列番号21)
proves for HBV
wildtype 5’-taggttaaaggtctttgta-3’(配列番号22)
mutant 5’-taggttaatgatctttgta-3’(配列番号23)
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】C型肝炎ウイルスの遺伝子型判定に用いたゲノム配列(それぞれの配列の左のアルファベットと数字は、GenBankのAccession No.であり、その後ろに続いて遺伝子型であり、配列の塩基番号はそれぞれの登録配列に準じている。最上段の株に対し同じ塩基の場合は、−で示した。プローブには、各遺伝子型内では共通であるが、他の遺伝子型とは異なるような配列を選んだ。四角で囲んだ配列がプローブとして用いた箇所である。)の一部を示す図。
【図2】各溶液をグラフの横軸に示した濃度で調整し、20塩基からなるビオチンつきのプローブを最終濃度400mMになるように溶解してウェルに分注し、4℃で一晩静置したのち洗浄し、次いでビオチンを検出する手順を経てOD492を測定することにより、マイクロタイタープレートへのプローブの固相条件の検討結果を示した図。
【図3】本発明を用いて、HBV感染者のうち肝炎を発症した症例のもつウイルスから高率に検出される変異株(T1762A1764)を検出する検討を行い、固定化した2種類のプローブ別(1.野生型プローブ、2.変異型プローブ)に結果を示した図。
【図4】C型肝炎ウイルスの遺伝子型を検出する方法に関するグラフを示す図。
【図5】従来の抽出法、および本発明の方法によってHBVの増幅を行った結果を示す図。
【図6】本発明のウイルスゲノムを精製し、かつ増幅するための方法の一実施態様を示す概略図。
【図7】本発明のウイルスゲノムを精製し、かつ増幅するための方法の一実施態様を示す概略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸の遺伝子型、または変異の判定方法であって、
1.前記遺伝子型、または変異に特徴的な配列を選び出す工程と、
2.前記配列を含む核酸を増幅する工程と、
3.前記増幅された核酸を、前記遺伝子型、または変異に特異的なプローブにハイブリダイゼーションさせる工程と、
4.前記プローブにハイブリダイズした核酸を検出して、ハイブリダイズパターンを解析する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記遺伝子型、または変異は、C型肝炎ウイルスの遺伝子型であり、前記C型肝炎ウイルスの遺伝子型に特徴的な配列は、a〜e領域の配列であり、かつ前記遺伝子型特異的なプローブは、各遺伝子型のa〜e領域の配列に相補的な配列を有するプローブである方法。
【請求項3】
不溶性支持体に核酸断片を固相化するための方法であって、前記核酸断片を溶解する被覆用溶液の塩濃度は、1M〜5Mであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記被覆用溶液に使用する塩は、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、Na2CO3、KCl、NaClの群から選択される塩であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記被覆用溶液に使用する塩は、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3、Na2CO3の群から選択される炭酸塩であることを特徴とする方法。
【請求項6】
所望の核酸を精製し、かつ増幅するための方法であって、 1.前記所望の核酸に相補的な配列を有するプローブを不溶性支持体からなる反応容器の内面に固定化する工程と、
2.前記反応容器に、前記核酸を含むサンプル液を添加して前記核酸を前記プローブにハイブリダイズさせる工程と、
3.前記サンプル液を除去する工程と、
4.前記反応容器にPCR反応液を添加して、PCR反応により前記核酸を増幅する工程と、
を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の所望の核酸を精製し、かつ増幅するための方法であって、前記核酸は、ウイルスゲノムである方法。
【請求項8】
請求項6に記載の所望の核酸を精製し、かつ増幅するための方法であって、前記核酸は、B型肝炎ウイルスゲノムであり、前記プローブは、前記B型肝炎ウイルスゲノムに相補的な配列を有するプローブであり、かつ前記PCR反応に使用するプライマーは、前記B型肝炎ウイルスゲノムを増幅させるためのプライマーである方法。
【請求項9】
所望の核酸を精製し、かつ増幅するためのキットであって、
前記核酸に相補的な配列を有するプローブを固相化するための被覆用溶液が添加されている不溶性支持体からなる反応容器と、
前記核酸が含まれているサンプルを稀釈するための稀釈液と、
前記核酸を増幅するためのPCR反応液と、
が含まれることを特徴とするキット。
【請求項10】
B型肝炎ウイルスの遺伝子型および変異株を判別するためのアッセイキットであって、
前記B型肝炎ウイルスゲノムの各遺伝子型について、1762番および1764番目の塩基を含む領域に相補的な配列を有するプローブが、それぞれ固定化された不溶性支持体からなる反応容器と、
前記B型肝炎ウイルスゲノムをPCRで増幅させるためのプライマーを含むPCR反応液と、
を含むアッセイキット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−283977(P2008−283977A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150119(P2008−150119)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【分割の表示】特願2007−210024(P2007−210024)の分割
【原出願日】平成14年9月27日(2002.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】