説明

標識不使用の結合検出機能と蛍光増幅機能を兼備する格子型センサおよびセンサ用読取りシステム

格子に基づくセンサが開示され、該センサはエバネッセント共鳴(ER)検出方式および標識不使用検出方式の両方が可能となるように組立および設計がなされた格子構造を有している。一次元および二次元の格子も開示され、該格子には、中央部のポスト、中央部のホール、および2段の2次元格子を備えた単位セルを特徴とする格子が含まれる。それらのセンサ用の読取りシステムも開示されている。バイオセンサとしての種々の用途が開示され、該用途には、薬剤化合物、タンパク質、ペプチドおよび他の物質の細胞機能に対する影響を評価する細胞に基づくアッセイが含まれる。2つの異なる波長における発光応答に対して最適化されたバイオセンサの実施形態も開示されている。その発光応答は、蛍光(天然蛍光または付着した蛍光体からの蛍光)、燐光、化学ルミネセンス、または他の発光技術により生成させることができる。2つの異なる発光技術を、同一のバイオセンサチップ上で組み合わせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2007年6月15日に出願された米国出願番号11/818,742号に基づく優先権を主張するものであり、該出願の内容は本明細書の一部となる。
【0002】
A.本発明の分野
本発明は、一般的に、格子に基づく生化学的センサ装置およびその装置に用いる検出器に関する。格子に基づくセンサは、DNA、タンパク質、ウィルスまたは細胞等の生物学的物質、小分子または化学薬品の装置表面または装置の内部への吸着を光学的に検出するために一般的に用いられている。本発明のセンサは、次の2つの異なる用途に使用できるように組立てられている格子構造を具有する:(a)標識不使用の検出方式、および(b)蛍光検出方式(該蛍光検出方式では例えばサンプルを蛍光体に結合させるか、またはサンプル自身が天然の蛍光を発光する)。
【背景技術】
【0003】
B.関連技術の説明
1.標識不使用検出方式センサ
格子に基づくセンサは、新しい種類の光学装置であり、100nm未満の精度で材料を正確に沈着およびエッチングできる半導体作製手段の近年の進歩により可能となったものである。
【0004】
フォトニック結晶のいくつかの特性は、フォトニック結晶を、格子型の標識不使用光学バイオセンサとしての応用に対しての理想的な候補としている。第1に、フォトニック結晶の反射/透過の挙動は、生物学的物質(例えば、タンパク質、DNA、細胞、ウィルス粒子及びバクテリア等)の該結晶上への吸着によって容易に調整することができる。検出可能なその他の種類の生物学的物質には、小さな低分子量分子(すなわち、分子量が1000ダルトン(Da)未満および1000Daと10,000Daの間である物質)、アミノ酸、核酸、脂質、炭水化物、核酸ポリマー、ウィルス粒子、ウィルス成分および細胞成分(例えば、特に限定するものではないが、ベシクル、ミトコンドリア、膜、構造特徴成分、ペリプラズム(periplasm)またはそれらの抽出物等)が含まれる。これらの種類の物質について、それらの有限の誘電率により、それら自身を通過する光の光路長を変化させることができることが示されている。第2に、フォトニック結晶の反射/透過スペクトルは非常に狭くできるので、簡単な照明装置と検出装置を用いるだけで、生化学的結合に伴う光学的特性のシフトを高分解能で決定することができる。第3に、フォトニック結晶構造は、電磁場の伝搬を高度に局在化させるように設計できるので、一つのフォトニック結晶の表面を用いることにより、多数の生化学的結合現象を、3〜5ミクロン未満の範囲内の隣接領域間で光学的干渉を起こすことなく、同時に測定することができる。最後に、高い表面/体積比率と、生化学的試験サンプルと接触する領域に電磁場強度を集中させる機能とを備えた実用的なフォトニック結晶装置を組み立てるために、広範囲の材料と作製方法を用いることができる。材料と作製方法は、プラスチック系材料を用いる大量生産または半導体材料を用いる高感度性能を最適化するように選択することができる。
【0005】
格子型バイオセンサの代表的な例が、
B.T.カニングハム、P.リ、B,リン及びJ.ペパー、センサーズ・アンド・アクチュエーターズ B、第81巻(2002年)、第316頁〜第328頁(「直接的な生化学的アッセイ法としての熱量測定による共鳴反射」)、
B.T.カニングハム、J.キュウ、P.リ、J.ペパー及びB.フー、センサーズ・アンド・アクチュエーターズ B、第85巻(2002年)、第219頁〜第226頁(「標識の介在しない生化学的相互作用の多重同時検出のための熱量測定によるプラスチック製共鳴光学的バイオセンサ」)、及び
A.J.ヘス及びR.P.V.ドゥイン、ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティー、第124巻(2002年)、第10596頁〜第10604頁(「ナノスケールの光学的バイオセンサ:三角形状の銀ナノ粒子の局存化表面プラスモン共鳴スペクトロスコピーに基づくアプローチの感度と選択度」)、に開示されている。
【0006】
フォトニック結晶バイオセンサを組み合わせることの利益を、他の標識不使用のバイオセンサ技術が超えることはないであろう。高感度で、小型で、低コストで高度に並列的であるバイオセンサと、簡単で、小型で、耐久性のある読取り装置の開発により、従来経済的観点から使用できなかった用途において、医薬の開発(discovery)、診断試験、環境関連試験および食品安全等の分野におけるバイオセンサの応用が可能となるであろう。
【0007】
バイオセンサとして機能するようにフォトニックバンドギャップ装置を適合させるためには、該装置構造のいくつかの部分は試験サンプルに接触している必要がある。生体分子、細胞、タンパク質、または他の物質が、フォトニック結晶の一部に導入され、局所的に閉じ込められた電磁場強度が最大となる場所に吸着される。その結果、結晶の中への光の共鳴結合が変更され、反射/透過の出力(すなわち、ピーク波長)が同調される(すなわち、シフトする)。反射による出力のシフト量は、センサ上に存在する物質の量に関係している。センサは、センサの中に光を導入して反射光または透過光を捕捉する照明−検出装置と共に用いられる。反射光または透過光は、ピーク波長のシフトを測定する分光器へ送られる。
【0008】
共鳴光結合(resonant light coupling)の高い品質係数(Q)、高い電磁エネルギー密度、および緊密な光学的閉じ込めを提供するフォトニック結晶の機能を利用して、高感度の生化学的センサを製造することができる。ここで、Qは、共鳴周波数におけるピーク波長の鋭さを示す尺度である。フォトニック結晶バイオセンサは、試験サンプルが周期格子に浸透し、生体分子または細胞の付着による該結晶の表面誘電率の変化によって共鳴性の光学的結合条件に同調するように設計される。共鳴の高いQ値および結合電磁場と表面結合物質との強い相互作用に起因して、報告されている最高感度を有するいくつかのバイオセンサ装置がフォトニック結晶から得られている(カニンガムらによる前記の論文参照)。この種の装置が、200ダルトン(Da)未満の分子量を有する分子を高い信号対雑音の許容範囲で検出する機能及び個々の細胞を検出する機能を有していることは証明されている。フォトニック結晶内において共鳴的に結合した光は空間的に効果的に閉じ込めることができるので、フォトニック結晶表面は、アレイ形式による多数の同時におこなわれる生化学的アッセイを可能にする。この場合、相互に約10μmの範囲内の隣接領域は独立して測定することができる。この点に関しては次の文献を参照されたい:P.リ、B.リン、J.ゲルステンマイヤー及びB.T.カニンガム、センサーズ・アンド・アクチュエーターズ B、2003年(「生体分子の相互作用の標識を介在させないイメージングに関する新規な方法」)。
【0009】
フォトニック結晶構造に基づく標識不使用バイオセンサには多くの実用的な利点がある。蛍光物質、放射性リガンド又は二次的レポーターを使用しない生化学的な細胞性結合の直接的検出法は、実験上の不正確さ、即ち、分子のコンフォメーション、活性な結合性エピトープの遮断、立体障害および標識サイトへの不到達性に対する標識の効果、又は実験における全ての分子に対して同等に機能する適当な標識を見出すことができないことによってもたられる不正確さの問題を除去する。標識を使用しない検出法は、アッセイ法の開発に要する時間と労力を著しく単純化すると共に、実験用試薬の失活、貯蔵寿命及びバックグラウンド蛍光に関する問題を解消する。標識を使用しないその他の光学的バイオセンサに比べて、フォトニック結晶の機能は、広帯域の光源(例えば、白熱電球又はLED)から垂直の入射角で光を照射し、反射される色彩のシフトを測定することによって容易に調べることができる。簡単な励起/読取りスキームの利用により、実験室用器具に使用するのに適した安価で小型の強靱なシステム、及び介護に際しての医学的診断や環境の監視に使用される手持ちでも操作できる携帯システムを得ることが可能となる。フォトニック結晶自体は電力を消費しないので、この種の装置は、種々の液体状又は気体状のサンプリングシステム内へ容易に埋設することができる。あるいは、この種の装置は、単一の照明/検出基地によって建物内の何千ものセンサの状態が追跡される光学的ネットワークと関連させて配置させることができる。フォトニック結晶バイオセンサは広範囲の材料と方法によって製造することができるが、連続的なフィルム状シート上で行うプラスチックに基づく製法によれば、高感度の構造体が得られることが判明している。プラスチックに基づく設計と製法によれば、従来はその他の光学的バイオセンサに対しては経済的に不適当とされていた低コスト/アッセイが要求される用途におけるフォトニック結晶バイオセンサの使用が可能となる。
【0010】
本発明の譲受人は、標識不使用下での結合の検出のためのフォトニック結晶バイオセンサ及びこれに関連する検出装置を開発した。このセンサと検出装置は次の特許文献に記載されている:米国特許出願公報2003/0027327号、同2002/0127565号、同2003/0059855号および同2003/0032039号。共鳴ピーク波長のシフトの検出法は、米国特許出願公報2003/0077660号に教示されている。これらの特許文献に記載されているバイオセンサは、プラスチック製のフィルム又は基体の連続的シート上に形成された一次元的又は二次元的な周期的構造化表面を含む。この結晶の共鳴波長は、垂直入射におけるピーク反射率を、0.5ピコメーターの波長分解能が得られる分光計を用いて測定することによって決定される。1pg/mm(三次元的なヒドロゲル表面の化学的性質を利用しないで得られた質量検出感度)よりも小さな値は、その他の市販のバイオセンサによっては証明されていない。
【0011】
前記の特許出願の明細書に記載されているバイオセンサ装置の基本的な利点は、プラスチック材料を用いる連続的な工程(1〜2フィート/分)によって大量生産できることである。このようなセンサを大量生産する方法は、米国特許出願公報2003/0017581号に記載されている。図1に示すように、バイオセンサ10の周期的表面構造体は低屈折率を有する材料12から形成されており、該材料は、より屈折率の高い材料14によって被覆されている。低屈折率材料12は透明なプラスチック材料からなる基体シート16と結合される。この表面構造体は、ポリエステル製の基体16の表面上での連続的製膜法を用いることによって、シリコンウェーハの「マスター」金型(即ち、所望の複製構造体の陰原型)からの硬化エポキシ層12の内部で複製される。液状のエポキシ12をマスター格子の形態に適合させ、次いで紫外線の照射によって硬化させる。好ましくは、硬化エポキシ12を、ポリエステル製のシート状の基体16に接着させ、シリコンウェーハから剥離させる。センサの製造工程は、屈折率の高い材料14である酸化チタン(TiO)を硬化エポキシ12の格子表面上へスパッター法により120nmの厚さで蒸着させることによって完結する。酸化チタンを蒸着させた後、マイクロプレートの切片(3×5インチ)をセンサのシートから切り取り、該切片を、底のない96個のウェル及び384個のウェルを具有するマイクロタイタープレートの底部へエポキシを用いて結合させる。
【0012】
図2に示すように、マイクロタイタープレートのウェルを規定するウェル20は液体サンプル22を保有する。底なしマイクロプレートとバイオセンサ構造体10を組み合わせたものは集合的にバイオセンサ装置26として図示する。この方法によれば、非常に低いコストで、フォトニック結晶のセンサを平方ヤードの規模で大量生産することができる。
【0013】
フォトニック結晶製バイオセンサ用の検出装置は、構造が簡単で、安価で、消費電力が少なく、強靱である。このシステムの模式図を図2に示す。反射される共鳴を検出するためには、白色光源からの光を、光ファイバー32(直径:100μm)とコリメーターレンズ34を通して、マイクロプレートの底部をほぼ垂直の入射角で通過させることによってセンサの表面領域(直径が約1mmの領域)へ照射する。検出ファイバー36は、分光器38を用いる分析用の反射光を集めるための照射ファイバー32を用いて束ねられる。8個の一連の照明/検出ヘッド40は直線状に配置されるので、反射スペクトルは、マイクロプレートの一列内の8個の全てのウェルから一度に集められる。図3を参照。マイクロプレート+バイオセンサ10は、X−Y軸方向でアドレス可能な作動ステージ(図2には図示せず)上に配設されるので、マイクロプレート内の各々のウェル列は順次アドレス指定することができる。測定時間は、作動ステージの作動速度によって制限されるが、この装置を使用する場合には、96個の全てのウェルに関する測定は約15秒間でおこなわれる。図2及び図3に示すシステムの構成に関するさらに詳細な説明は、米国特許出願公報2003/0059855号に記載されている。
【0014】
以下の説明と議論は、BIND技術として先に説明した標識を使用しない技術に関する。「BIND」は、本願の譲受人であるSRUバイオシステム社の商標である。
【0015】
2.蛍光増幅センサ
米国特許第6707561号には、当該分野においてはしばしば「エバネッセント共鳴(ER;evanescent resonance)」と呼ばれている格子に基づくバイオセンサ技術が記載されている。この技術においては、サブミクロンスケールの格子構造を用いてルミネセンス信号(例えば、蛍光、化学ルミネセンス、エレクトロルミネセンス、燐光等の信号)を増幅させた後、1つの結合分子が蛍光標識を保有する格子表面上での結合事象を増幅させる。ER技術は、非増幅アッセイの場合に比べて著しく低い濃度の被検体の結合検出を可能にする蛍光体に基づくアッセイの感度を増大させる。
【0016】
ER技術においては、格子によってもたらされる光学的共鳴を利用することによって、結合がおこなわれた格子表面上へレーザー光を集める。実用に際しては、レーザースキャナーが、一般的には格子の上から幅のある入射角(θ)でセンサを掃引する。一方、検出器はセンサの表面からの蛍光を、より長い光学的波長において検出する。設計により、ER格子の光学的特性によってほぼ100%の反射(共鳴としても知られている)を特定の入射角とレーザー波長(λ)においてもたらすことができる。格子構造によるその内部へのレーザー光の閉じ込めによって、消失場の範囲内(一般的には1〜2nm)に結合した蛍光体からの発光を増幅させる。従って、共鳴においては、透過光の強度はゼロ近くまで低下する。
【0017】
前述のように、先に言及した特許出願の明細書に記載されている標識不使用バイオセンサにおいては、サブミクロンスケールの格子構造が使用されるが、該格子構造は、ER用の格子に比べて、幾何学的形態と使用目的の点で著しく相違する。実用に際しては、標識を使用しない技術とER技術は、共鳴に近い光学的特性に関して異なる要求を有する。共鳴現象におけるスペクトルの幅と位置が主として相違する。共鳴幅は、波長に対して反射率又は透過率としてプロットされる共鳴特性の波長尺度での半値幅(full width at half maximum)を示す。また、該共鳴幅は前記のQ係数とも呼ばれている。共鳴幅は、入射角(θ)の関数として反射率又は透過率を表示する曲線上にプロットされる共鳴特性の幅(単位:度)も示す。
【0018】
所望により、標識不使用の格子に基づくセンサからできるだけ幅の狭い共鳴ピークを発生させることによって、結合性の低いことを示すピーク位置の小さな変化の検出を促進させることができる。標識不使用のセンサは、より多くの試料を結合させるために大きな格子表面積を有するという利点を有する。現在の実施においては、より大きな表面積は、他の方法も存在するが、格子をより深くすることによって得られる。現在市販されている標識不使用のセンサによれば850nm近くで共鳴が得られるので、標識不使用のBIND検出装置はこの波長を読み取るように最適化されている。
【0019】
これとは反対に、実用的なER格子センサは、物理的な可変因子(例えば、格子上に蓄積する試料の種類やセンサの製造条件の相違等)の存在下において、レーザー光の固定された波長で共鳴が発生すると共に、多くの場合は、固定入射角において共鳴が発生することを保証するために、比較的幅広い共鳴が利用できるように設計されている。一般に、場の強度は共鳴幅の増加に伴って減少するので、実用的なERセンサの設計には共鳴幅における調和が要求される。適当な共鳴幅を選択することによって、ER信号の利得を保持すると共に、アッセイ、測定器具及びセンサの可変範囲にわたって一定の増幅度が得られることが保証される。典型的な用途においては、Cy5として知られているような一般的な蛍光性色素を励起させるために633nmの波長が使用される。一部のERの走査型計測器によれば、最大のレーザー−蛍光体結合(coupling)に向けて共鳴を同調させるように入射角を調整することが可能である。しかしながら、このような実施方法は、適切な調整手段を採用しない限り、許容できない偏差の原因をもたらすかもしれない。
【0020】
既知のER設計においては、標識を使用しない最適設計に比べて深さの浅い格子が採用されている。例えば、前述の米国特許第6707561号明細書においては、「透明層」(即ち、屈折率の大きな被覆層)の厚さに対する格子の深さの比は1未満(好ましくは0.3〜0.7)に規定されている。標識を使用しない最適な設計においては、同様に規定される比が1よりも大きな値(好ましくは1.5よりも大きな値)の格子が採用されている。標識を使用しない設計においては、格子の深さは、一般的には格子の線幅又は半周期によって定義される。例えば、現在実用化されている市販の標識不使用センサの半周期は275nmであり、格子の深さは約275nmであり、幾何学的比は1:1である。この同じセンサの設計においては、格子の上部面上には大きな屈折率を有する酸化物被覆層(厚さ:約90nm)が形成される。従って、米国特許第6707561号明細書に記載の定義によれば、このセンサにおける格子の深さ:酸化物層の厚さの比は約3:1である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本開示は、格子に基づくバイオセンサ設計について報告するものであり、該バイオセンサ設計は単一の装置内において2種の検出方式(標識不使用方式及び蛍光増幅方式)に対して最適化できるように組み立てられている。そのような格子は、単一の製品により可能となる用途の多様性を顕著に増加させる。
【0022】
上記のすべての引用技術は、出典明示によりすべて本明細書の一部となる。
【課題を解決するための手段】
【0023】
以下の実施形態およびその観点は、範囲を制限しない例示的なシステム、装置及び方法によって例証的に記載および図示されている。種々の実施形態においては、前述の1または複数の問題点を軽減又は解消し、また、その他の実施形態は別の改良に向けられたものである。
【0024】
第1の観点においては、1または複数の細胞を含むサンプルに対する細胞に基づくアッセイの実施方法が記載されている。該方法は、周期的な表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサを提供する工程を含み、該周期的な表面格子構造は、1)エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問(optical interrogation)、および2)標識不使用方式における光によるセンサの光学的質問の両方が可能となるように組み立てられている。該方法は、さらに1または複数の細胞を含むサンプルを該バイオセンサに塗布する工程を含むものである。
【0025】
該方法は、下記の(a)〜(m)の少なくとも1つの事象を測定するためにバイオセンサを用いる工程を含む:
(a)サンプル中の細胞の格子構造表面への付着(attachment)、
(b)サンプル中の細胞のセンサまたはセンサを覆う細胞外マトリックスへの接着(adhesion)、
(c)サンプル中の細胞の他の細胞への接着、
(d)サンプル中の細胞の形態変化、
(e)サンプル中の細胞の走化性、
(f)細胞からセンサ付近へのタンパク質の開口分泌、
(g)センサ付近における細胞内外へのイオン流動、
(h)細胞移動、
(i)細胞の平板化または球状化、
(j)細胞の成長または分化、
(k)細胞死、
(l)サンプル中の細胞の細胞骨格再配置、
(m)サンプル中の細胞の内外のタンパク質の再配置、再編成または変異発現(expression)。
「細胞外マトリックス」という用語は、本明細書ではフィラメント状構造物を意味するものとして用いており、該フィラメント状構造物は、細胞に基づくサンプルにおいては、外側の細胞表面に付着して、細胞の固着、牽引および位置認識の役割を果たす。
【0026】
本発明の多くの実用的な用途において、前の段落で列挙した測定は、標識不使用方式で作動させたバイオセンサで行うことができる。しかし、いくつかの細胞に基づくアッセイでは、その測定をER検出方式で行うこともできる。
【0027】
また、本方法はさらに、サンプル中の細胞の細胞機能に対する下記の(a)〜(q)の少なくとも一つ物質の影響を測定するためにバイオセンサを用いる工程を含む:
(a)候補薬剤化合物(例えば、公知の薬または小分子の候補薬剤である。)、
(b)タンパク質、
(c)ペプチドまたは修飾ペプチド、
(d)抗体、免疫親和性タンパク質またはその断片、
(e)修飾DNAを含むDNA(生物学的効果を引き出すために公知のもの)、
(f)修飾RNAiを含むRNAi、
(g)RNA(修飾RNAを含む)、
(h)ケモカイン、
(i)ウィルス、
(j)バクテリアまたは他の有機体を含む他の細胞、
(k)改質結合領域(例えば、アフィボディ(Affibody)、設計アンキリン反復タンパク質、アドネクチン)、
(l)糖質または修飾糖質、
(m)イオン、
(n)脂質および修飾脂質、
(o)金属、
(p)無機溶媒、および
(q)有機溶媒。
【0028】
また、バイオセンサは、細胞外マトリックス成分の可溶性物質またはセンサ被覆補修剤としての添加を測定するために、ER方式または標識不使用方式のいずれかで使用してもよい。この種の細胞外マトリックス成分は、特に限定されるものではないが、糖タンパク質、プロエオリカン(proeolycan)、血清、ポリ−L−リジン、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、ヒアルロン酸、エラスチン、線状または分岐状の多糖類のすべての形態を含む。
【0029】
多くの用途において、前の段落で列挙した細胞の機能への影響についての測定は、ER検出方式で作動させたバイオセンサで行うことができる。しかし、いくつかの細胞に基づくアッセイでは、その測定を標識不使用検出方式で行うこともできる。
【0030】
一つの可能な形態として、バイオセンサをマイクロプレートの中に取り付けてもよい。また、バイオセンサを、例えば、顕微鏡用スライドガラス、カートリッジまたは他の適切な取付装置等の、隔離したサンプル収容部を具有する取付装置の中に取り付けてもよい。
【0031】
一つの形態では、細胞機能としての細胞表面のタンパク質の機能に対する影響の測定にバイオセンサを用いる。測定可能な他の細胞機能には、内部の細胞の機能または発現、膜または膜結合細胞の機能または発現(例えばイオンチャンネル機能)、受容体チロシン機能、ウィルス性結合または細胞内への侵入、またはGタンパク質結合受容体(GPCR)信号がある。別の形態では、細胞機能は細胞の生存能力である。
【0032】
一つの形態では、候補薬化合物が、イオンチャンネル標的化薬(ion-channel targeting drug)の形態をとってもよい。さらに別の形態では、細胞機能として、イオンチャンネル標的化薬に対する心臓毒性的な反応を測定するものであり、その細胞機能をそのような薬剤に対する患者の反応の予測に用いてもよい。
【0033】
別の形態では、高分解能の標識不使用画像をバイオセンサから取得してもよく(例えば、CCDまたは他の検出器を用いて)、該バイオセンサは試験分子の処理に伴う、細胞に対する詳細な内的または外的な形態学的変化を発現してもよい。このような変化には、特に限定されるものではないが、食菌作用、細胞の増殖物の増加または減少、チャンネルの開放または閉鎖、細胞の伸長または収縮もしくは「球状化(rounding up)」、細胞内オルガネラの再配置、タンパク質の再分布、および他のものが含まれる。
【0034】
別の観点では、1つまたは複数の細胞を含むサンプルに対する細胞に基づくアッセイの実施方法が提供され、該方法は、
周期的表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサ基体であって、該周期的表面格子構造が、1)エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問、および2)標識不使用方式における光によるセンサの光学的質問の両方が可能となるように組み立てられている該バイオセンサ基体を用意する工程と、
サンプル中の細胞の上記の格子構造の表面への細胞付着をバイオセンサを用いて測定する工程と、
候補薬剤化合物のサンプル中の細胞の細胞機能への影響をバイオセンサを用いて測定する工程とを含む。
【0035】
上記方法においては、必須ではないが、一般的には、細胞付着の測定は標識不使用検出方式でなされる。候補薬剤化合物の影響の測定は、必須ではないが、一般的には、ER検出方式でなされる。
【0036】
一の特別の形態では、細胞機能は、細胞表面タンパク質の機能または発現を含む。別の形態では、細胞機能は、細胞の生存能力または細胞の生存能力の変化を含む。
【0037】
本開示の別の観点として、周期的表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサが開示され、該周期的表面格子構造はエバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問が可能となるように組み立てられており、それによりバイオセンサからの発光応答が2つの別個の発光波長で発生する。蛍光応答は発光応答の一つの可能な例であり、他のタイプの発光応答、例えば、燐光のような化学発光も可能である。一形態として、第1波長はスペクトルの近赤外光域にあり、第2波長はスペクトルの可視光域にある。例えば、第1波長は、バイオセンサ上に載置されたサンプルに結合した第1色素の蛍光波長に対応し、第2波長は、サンプルに結合した第2色素の蛍光波長に対応する。この種の色素の例として、シアニン−5およびシアニン−3がある。一つの可能な形態では、格子構造は一次元の格子構造である。別の形態では、格子構造は二次元の周期的格子構造である。該周期的格子構造は、互いに直交する第一次元と第二次元において周期的である。第一次元における周期的格子構造はバイオセンサの光学的質問に対して最適化され、それにより第1色素からの発光(例えば蛍光)応答を発生させ、第二次元における周期的格子構造はバイオセンサの光学的質問に対して最適化され、それにより第2色素からの発光(例えば蛍光)応答を発生させる。
【0038】
さらに別の観点として、単一のバイオセンサチップ上で2つの異なる発光技術(例えば蛍光と燐光)を組み合わせたバイオセンサが記載されている。
【0039】
さらに別の観点では、1または複数の細胞を含有するサンプルに対する細胞に基づくアッセイの実施方法であって、下記の工程(1)〜(3)を含む該実施方法:
(1)周期的表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサ基体であって、該周期的表面格子構造が、1)エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問および2)標識不使用方式における光によるセンサの光学的質問の両方が可能となるように組み立てられている該バイオセンサ基体を用意する工程、
(2)サンプルをバイオセンサに塗布する工程、および
(3)少なくとも2つの異なる細胞種の相互作用をモニターする工程であって、一方の細胞種を標識不使用方式で測定し、他方の細胞種をER方式で測定する該工程の1つの典型的な形態では、細胞に基づくアッセイは細胞浸透実験を含み、該実験では、第1細胞層をセンサ上に置き、別の細胞種からなる第2細胞層を第1細胞層の上面に置き、第2細胞層の細胞が第1細胞層を通過する能力を測定する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
例示的な実施形態を添付図に基づいて説明する。これらの実施形態及び添付図は、本願発明を例示的に説明するためのものであって、本願発明を限定するものではない。本願発明の範囲に関するすべての疑問は、特許請求の範囲に基づいて回答されるべきである。
【0041】
【図1】図1は、従来のバイオセンサ配置を示す図である。
【図2】図2は、バイオセンサを照明し、バイオセンサからの反射光のピーク波長のシフトを測定するための、従来のバイオセンサおよび検出システムを示す図である。
【図3】図3は、底なしのマイクロタイタープレートの底に付着させた図1の構造体を含むバイオセンサ装置のウェルの全列を読み取る8個の照明ヘッドの配置を示す図である。
【図4】図4は、ER検出方式と標識不使用検出方式を組み合わせたバイオセンサの第1の形態の断面図である。
【図5】図5は、ER検出方式と標識不使用検出方式を組み合わせたバイオセンサの第2の形態の断面図である。
【図6】図6は、従来技術によるERバイオセンサ(「ノヴァチップ(NovaChip)」)における入射角θの関数としての透過率を比較するグラフである。この場合、乾燥媒体(空気)環境下におけるER検出に使用した図4に示す形態のコンピュータシミュレーションを用いた。
【図7】図7は、水性媒体環境下における標識不使用検出方式による図4に示す形態に対する波長の関数としての反射率を比較するグラフである。この場合、該グラフは、図4に示す形態のコンピュータシミュレーションから得られたものである。
【図8】図8は、標識不使用検出方式による図4に示す形態に対する波長の関数としての反射率のグラフを示す。該グラフは、表面への質量付加(例えば、バイオセンサへの試料の添加による質量付加)に応答するピーク波長値のシフトを示す。この場合、該グラフも、図4に示す形態のコンピュータシミュレーションから得られたものである。
【図9】図9は、標識不使用方式およびER検出方式による図5に示す形態に対する共鳴ピークを示す波長の関数としての反射率のグラフを示す。この場合、該グラフは、図5に示す形態のコンピュータシミュレーションから得られたものである。
【図10】図10は、図5に示す形態に対するθの関数としての透過率のグラフである。該グラフは、ERセンサの例である従来技術による「ノヴァチップ」の透過率曲線と比較される。
【図11】図11A及び図11Bは、専らER検出用に設計された一次元的な直線状格子構造体であって、ブダッハらによる従来技術文献に開示されているERチップとほぼ類似するようにモデル化された格子構造体の斜視図及び断面図をそれぞれ示す。
【図12】図12A及び12Bは、波長の関数としての反射効率のグラフ及び入射角の関数としての反射効率のグラフをそれぞれ示す。これらのグラフは、X軸方向へ偏光された光を図11Aと図11Bに示す構造体上へ入射させたときに得られたグラフである。
【図13】図13A〜図13Cは、図11A及び図11Bに示す構造体(Z=110nm)の下部表面に対応するXY平面における電界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。図13D〜図13Fは、図13A〜図13Cに示す同じXY平面における磁界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。
【図14】図14A〜図14Cは、図11A及び図11Bに示す構造体(Z=140nm)の上部表面に対応するXY平面における電界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。図14D〜図14Fは、図14A〜図14Cに示す同じXY平面における磁界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。
【図15】図15A及び図15Bは、格子構造中の周期的なホールを特徴とする二次元的格子の形態の斜視図及び断面図をそれぞれ示す。この場合、該格子構造は、X軸方向の偏光によって照射されたときの水環境内でのBIND(標識不使用)検出に対して最適化されると共に、Y軸方向の偏光によって照射されたときの空気環境内でのER検出に対して最適化された構造である。
【図16】図16は、Y軸方向の偏光を図15A及び図15Bに示す構造体上へ入射させたときに得られたグラフであって、波長の関数としての反射効率のグラフ及び入射角(632.5nm)の関数としてのグラフをそれぞれ示す。これらの図はER様式の有用性を示す。
【図17】図17は、Y軸方向の偏光を図15A及び図15Bに示す構造体上へ入射させたときに得られたグラフであって、波長の関数としての反射効率のグラフ及び入射角(632.5nm)の関数としてのグラフをそれぞれ示す。これらの図はER様式の有用性を示す。
【図18】図18A〜図18Cは、図15A及び図15Bに示す構造体(Z=78nm)の下部表面に対応するXY平面における電界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632.5nm)。図18D〜図18Fは、図18A〜図18Cに示す同じXY平面における磁界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632.5nm)。
【図19】図19A〜図19Cは、図15A及び図15Bに示す構造体(Z=433nm)の上部表面に対応するXY平面における電界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632.5nm)。図19D〜図19Fは、図19A〜図19Cに示す同じXY平面における磁界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。 図19Gは、X軸方向の偏光を図15に示す構造体上へ照射させたときに得られたグラフであって、波長の関数としての反射効率のグラフを示す。この共鳴ピークは標識不使用検出に使用される。
【図20】図20A及び図20Bは、格子構造中の周期的なポストを特徴とする二次元的格子の形態の斜視図及び断面図をそれぞれ示す。この場合、該格子構造は、X軸方向の偏光によって照射されたときの水環境内でのBIND(標識不使用)検出のための1つの方向に対して最適化されると共に、Y軸方向の偏光によって照射されたときの空気環境内でのER検出に対して最適化された構造である。
【図21】図21A及び図21Bは、Y軸方向の偏光を図20A及び図20Bに示す構造体上へ入射させたときに得られたグラフであって、波長の関数としての反射効率のグラフ及び入射角(波長:633nm)の関数としてのグラフをそれぞれ示す。これらの図はER方式の有用性を示す。
【図22】図22A〜図22Cは、図20A及び図20Bに示す構造体(Z=70nm)の下部表面に対応するXY平面における電界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:633nm)。図22D〜図22Fは、図22A〜図22Cに示す同じXY平面における磁界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:633nm)。
【図23】図23A〜図23Cは、図20A及び図20Bに示す構造体(Z=430nm)の上部表面に対応するXY平面における電界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:633nm)。図23D〜図23Fは、図23A〜図23Cに示す同じXY平面における磁界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。
【図24】図24は、X軸方向の偏光を図20に示す構造体上へ照射させたときに得られたグラフであって、波長の関数としての反射効率のグラフを示す。この共鳴ピークは標識不使用検出に使用される。
【図25】図25は、ER方式と標識不使用方式を組み合わせた格子に基づくセンサに関する画像読取りシステムの模式図である。
【図26】図26は、ER方式と標識不使用方式を組み合わせた格子に基づくセンサに関する第2の画像読取りシステムの模式図である。
【図27】図27は、図26に示す実施形態のより詳細な模式図である。
【図28】図28A〜図28Cは、ER方式と標識不使用方式を組み合わせたセンサのさらに別の実施形態における2段型の二次元的格子構造体を示す3種の単位セルの斜視図である。
【図29】図29は、図28A〜図28Cに示す構造体のコンピュータシミュレーションによって得られた反射スペクトル(反射光の波長の関数としての相対強度)のグラフである。
【図30】図30は、ERとBINDを組み合わせた格子に基づくセンサの断面図である。この場合、UV−硬化プラスチック製格子層およびセンサーの上部表面を形成する高屈折率層との間には、中間のSiO層が介在する。
【図31】図31は、格子に基づくセンサ(該センサは、ER測定とBIND測定の両方に対して最適化されていてもよく、あるいは最適化されていなくてもよい)上に沈着されたスポットの微小配列の画像を示す。
【図32】図32は、センサ上に載置されたDNA試料の存在に起因する図31に示すスポットの1つに関するピークシフトを示すグラフである。
【図33】図33は、位置の関数としてのピーク波長値のnm単位のシフト(該シフトはスポット中に含まれるDNAの量と定量的に関連づけられる)および消失スポット(スポット列の暗い位置)を示すスポット列を表示するグラフである。この場合、消失スポットはグラフの下部領域に示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
周期的な格子構造を有する格子に基づくバイオセンサが開示される。該格子構造は、液状環境又は乾燥環境下でのER検出方式及び標識不使用検出方式の両方に対して最適化されており、これらの検出方式に対して有用である。該バイオセンサを用いる用途に適合する読取りシステムも開示される。また、本発明によるバイオセンサを用いる試料の試験方法も開示される。
【0043】
一つの観点として、ER方式と標識不使用方式の両方の実施に適合する格子に基づくセンサが開示される。この種のセンサは、小さな入射角(θ)において広帯域の共鳴をもたらし、常套のER方式による格子型バイオセンサの場合と類似の性能曲線を示すと共に、標識不使用検出方式における鋭い共鳴ピークを保持する。いくつかの典型的な実施形態を開示する。第1の実施形態は、空気試料媒体中において光(格子に対して垂直な光)のTM偏光を伴うER方式に対して最適化される。第2の実施形態は、液状試料媒体中においてほぼ垂直な入射角、633nmでの励起及びTE偏光を伴うER方式に対して最適化される。これらの実施形態のコンピュータによるモデリングは、各々の実施形態が、標識不使用検出方式において鋭いピーク波長共鳴(高いQ因子)を維持することを示している。
【0044】
1つの実施形態においては、バイオセンサは一次元又は二次元の周期的表面格子構造を有している。この場合、該周期的表面格子構造は、エバネッセント共鳴(ER)検出方式における第1光源からの光によるバイオセンサの光学的質問を最適化するように構成されると共に、標識不使用検出方式における第2光源からの光によるバイオセンサの光学的質問を最適化するように構成される。1つの可能な実施形態においては、格子は二次元的格子の形態を有しており、該格子は相互に直交する第1方向と第2方向において周期的である。別の実施形態においては、格子は一次元的格子の形態を有しており、第1方向(例えば、X方向)においては周期的であるが、第2方向においては周期的ではない。
【0045】
バイオセンサにおいて標識不使用検出方式を使用する利点は、より大きな表面積をもたらすより深い格子に起因し、これによってより多量の試料の付着が可能となる。より多くの付着試料は、ピーク波長値のより大きなシフトをもたらすより多くの信号を発生させる。従来のER格子は、標識不使用の本発明による格子センサと同等な標識不使用感度をもたらすのに十分な表面積(深さ)を有していない。従って、最大の表面積(この場合には大きな格子深さに起因する)をもたらすと共に、所望のレーザー励起波長と小さな入射角(好ましくは10度未満、より好ましくは5度未満)において広い共鳴曲線をもたらすバイオセンサを設計することができる。代表的な一次元形態におけるERと標識不使用性能に対する要求を満たすバイオセンサにおいては、半周期に対する格子深さの比は約0.6〜約1.2である。約160nm〜約210nmの格子深さは特に要請される。もちろん、これらのパラメーターは、ER又は標識不使用性能を重要視するための特定のセンサの性能目的に対応させるために変化させてもよく、あるいは、例えば、本明細書に記載のような二次元的格子において変化させてもよい。
【0046】
当業者であれば、本明細書に開示される教示内容による格子の設計をコンピュータでシミュレーションすることにより、該教示内容による別の格子であって、先に例示した非制限的な第1実施形態と第2実施形態の詳細な事項とは相違する格子の設計を開発することができる。別の観点においては、ERと標識不使用検出の2つの用途に供されるバイオセンサの設計方法が、コンピュータによるモデリング技法によって開示される。
【0047】
ER検出方式と標識不使用検出方式の両方に適した二次元的な直交格子構造を有する格子に基づくセンサも開示され、該センサは一部の機器においては好ましいものである。二次元的格子はワッフル(waffle)(ホール)、ワッフル焼き型(waffle iron)(ポスト)、又は2方向において大領域と小領域が交互に出現するチェス盤のような形態を有していてもよい。二次元的な格子はX方向とY方向において異なる周期を有していてもよい。このような形態的特徴を有する格子はZ方向において種々の側面、例えば、傾斜状側面又は湾曲状側面等を有していてもよい。従って、ワッフル状形態の場合、窪み又はウェルは正方形よりも長方形の形態を有していてもよい。実用上、これらの形態はX方向とY方向において丸みを帯びていてもよい(即ち、鋭利な角を有していなくてもよい)。そのような丸みを帯びた角は、酸化チタンを蒸着させる際、光を平行にしないことにより形成してもよい。コンピュータにおける鋭利な角と実際の丸みを帯びた角との違いは、観測されるセンサ特性について、シミュレーション特性におけるセンサ特性からのいくらかのずれを発生させる可能性がある。従って、「正方形」又は「長方形」という用語は全体的な形態について使用するものであり、このような形態は丸みを帯びていてもよい。)二次元的格子によってもたらされる付加的な融通性を利用することにより、標識不使用検出とER検出の両方に関する共鳴の位置が異なる波長において出現するように調整することができる。このような可能性により、既存の標識不使用検出機器との適合性を維持すると共に、ERを異なる波長での共鳴に調整できるという重要な利点が得られる。例えば、X方向の周期性は、Cy3蛍光体(緑色光)又はCy5蛍光体(赤色光)を励起するように調整された波長の光の入射角が垂直またはほぼ垂直になる条件下において広帯域共鳴をもたらすことができ、一方、Y方向の周期性は、現在市販されている標識不使用センサの場合と同様に、820nm〜850nm(近赤外)において鋭敏な標識不使用共鳴をもたらすことができる。
【0048】
ER検出と標識不使用検出の両方に対して良好な性能を発揮するように構成されて配置される格子に基づくバイオセンサの別の実施形態として、二次元的な2段状(two-level)格子構造体も開示される。
【0049】
別の観点においては、次の過程を含む少なくとも1種の試料の分析方法が開示される:エバネッセント共鳴(ER)検出方式におけるバイオセンサの光学的質問に対して対応できるような構造に設計されると共に、標識不使用検出方式におけるバイオセンサの光学的質問を最適化する周期的な表面格子構造を有する基体を具備するバイオセンサ上に少なくとも1種の試料を載置させる。この分析方法にはさらに次の過程が含まれる:ER検出方式用に設計された少なくとも1つの光源からの光を用いて読取検出器(readout detection instrument)内のバイオセンサを照射すると共に、標識不使用検出方式用に設計された該光源(又は第2光源)を用いて該バイオセンサを照射し、次いでバイオセンサからの反射光を分析する。試料の分析過程には、試料中の成分の結合性、例えば、バイオセンサの表面上への試料中の成分の結合性又は第1成分(例えば、タンパク質)への第2成分(例えば、蛍光体、抑制剤又は標識等)の結合性等を検出する過程が含まれていてもよい。
【0050】
1つの実施形態においては、読取り系は2つの光源を含む。即ち、第1光源はBIND用光源(例えば、白色光源又は発光ダイオード)であり、第2光源はER測定用光源(例えば、レーザー等)である。しかしながら、別の実施形態においては、単一の光源(例えば、キセノン放電ランプ及び波長可変レーザー等)が使用され、2つ又はそれよりも多くの帯域通過フィルターを用いて2種の検出方式に対して適当な照射波長がもたらされるように光源のサンプリングがおこなわれる。
【0051】
1つの可能な実施形態においては、試料は空気媒体中に存在し、第1光源からの光は、格子構造に対して垂直な偏光を含む。別の可能な実施形態においては、試料は液状媒体中に存在し、第1光源からの光は格子構造に対して平行な偏光を含む。1つの可能な実施形態においては、第1光源からの光は、試料に結合される蛍光体を活性化させるように選択される波長を有する。別の可能な実施形態においては、第1光源からの光は、試料の天然の蛍光を活性化させるように選択される波長を有する。さらに別の実施形態においては、試料の一部は、結合蛍光体を含んでいてもよい抑制剤と結合する。試料は、例えば、タンパク質等であってもよい。
【0052】
本発明によるバイオセンサ用の読取/検出装置のいくつかの代表的な形態についても説明する。1つの実施形態においては、読取/検出装置は下記の構成要素を具備する:
バイオセンサからER検出データを得るために適合させた第1光源、
標識不使用検出データを得るために適合させた第2光源、
第1光源からの光と第2光源からの光を合成することによって、バイオセンサを照射するための照射ビームを発生させる光学系、
バイオセンサからの反射光を検出するための少なくとも1つの検出器、及び
少なくとも1つの検出器からのデータを使用することによって試料からERデータと標識不使用データを得るための分析モジュール。
検出器は結像検出器、例えば、電荷結合素子(CCDイメージャー(imager))等であってもよい。別のタイプの検出器、例えば、光検出器若しくは分光器であってもよく、又はこれらを併用し、一方の検出器によってERデータを入手し、他方の検出器によってBINDデータを入手してもよい。別の代表的な形態においては、光学系は、単一光源からの光を用いてバイオセンサを選択的に照射する。バイオセンサは多数の検出サイト又はウェルを有していてもよく、また、上記の装置は、光源に対して検出サイトを連続的に移動させることによって全ての検出サイトからERデータと標識不使用データを連続的に入手できるようにする可動性ステージ(motion stage)を具備していてもよい。
【0053】
要約すれば、本明細書の開示内容においては、高い蛍光能を有するフォトニック結晶に基づく標識不使用バイオセンサを単一装置内で組み合わせる新規な検出/定量化プラットホームが記載される。標識不使用技術とER技術は単独でも非常に有用である。単一バイオセンサ内でこれらの2種の検出技術の組合せが可能となることにより、生物学的物質、例えば、細胞、タンパク質及び低分子等の相互作用を一般的に検出して選択的に測定するための強力なアプローチ手段がもたらされる。本明細書に開示される組み合わされたバイオセンサは、広範囲にわたる生物学的試料又は化学的試料の検出において有用である。
検出することができる試料群には、分子量が小さいか又は比較的小さい分子(即ち、1000Da未満の分子量を有する物質及び1000〜10000Daの分子量を有する物質)、アミノ酸、核酸、脂質、炭水化物、核酸ポリマー、ウィルス粒子、ウィルス成分、細胞成分(例えば、特に限定的ではないが、ベシクル、ミトコンドリア、構造的特徴成分、周辺質又はこれらの抽出物等が例示される)等が含まれる。
【0054】
一般的には、本発明によるバイオセンサを用いて検出してもよい特異的に結合する物質(試料)には下記のものが含まれる:ポリペプチド、抗原、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体(scFv)、F(ab)フラグメント、F(ab')2 フラグメント、Fv フラグメント、有機低分子、細胞、ウィルス、バクテリア、ポリマー、ペプチド溶液、タンパク質溶液、化学的化合物ライブラリー(library)の溶液、単鎖DNA溶液、二重鎖DNA溶液、単鎖DNA溶液と二重鎖DNAの溶液との組合せ、RNA溶液、及び生物学的試料。この種の生物学的試料は、例えば、下記の群から選択される試料であってもよい:血液、血漿、血清、胃腸分泌物、細胞または組織または腫瘍のホモジェネート、滑液、大便、唾液、痰、シスト液、羊水、髄液、腹膜液、肺洗浄液、精液、リンパ液、涙及び前立腺液。
【0055】
本明細書に開示されるバイオセンサは、次の結合性(a)〜(c)を検出するために使用してもよい:(a)上記のいずれかの種類の試料成分とバイオセンサ表面との結合性、(b)試料と試料中の別成分(例えば、試料中の蛍光体)との結合性、および(c)試料または試料成分と、該試料中に添加される第2試料との結合性。結合性(b)の場合、センサの表面は、試料中の一部の成分(例えば、ストレプタビジン−ビオチン又は6His)と結合してよく、また、バイオセンサは、試料中の結合成分と試料中の付加的な成分群(例えば、ポリメラーゼ錯体)との相互作用を検出するために使用してもよい。結合性(c)の場合、試料は、バイオセンサの表面に結合した成分、及びバイオセンサ上に存在する第2試料からの他の成分と特異的に結合/付着した別の成分を含んでいてもよい。
【0056】
本明細書に開示されるセンサは、結合又は相互作用する物質の量の定量化のために使用してもよい。
【0057】
以下の一般的な例は、本明細書に開示される格子に基づくセンサの併用によって可能となる新規な有用性の全てを挙げるものではなく、また、該有用性はこれらに限定されるものではない。
1)2つの技術の結合により、混合試料の母集団(population)中に存在する蛍光体で標識化された物質の百分率が識別される。標識の存在しないシグナルは、センサに結合したマス全体の定量的な尺度を提供する。一方、ERシグナルは標識の存在を定量化する。
2)これらの技術の結合は、異種源からの2つの結合シグナルを提供することによって、細胞、タンパク質及び小さな分子間における相互作用の測定における統計的厳密性も高める。
3)フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)原理を利用することにより、センサの併用によって、2つの標識度の異なる蛍光分子間の距離又は同一分子の2つの標識化度の異なる部分間の距離の測定が可能となる。標識不使用信号は分子の密度を定量する。
4)2つの技術の結合により、付加的な情報を提供することができる。標識のないシグナルは細胞の付着を定量化することができ、発光シグナルは、細胞に結合した蛍光体標識化リガンドの量を定量化することができる。もちろん、上述のような標識のない生物学的物質及び標識化した生物学的物質が本発明によるバイオセンサにおいて検出される場合には、その他の方法も可能である。
5)2つの技術の結合により、結合した全マスと分子数を識別することによって分子量の測定をおこなってもよい。
6)さらに、結合されたバイオセンサは、抑制結合の研究のような他の方法を実施するための相互に独立した2種の定量試験を可能とする。さらに、抑制剤リガンドの結合性の直接的定量化能を含むタンパク質と基体との間の抑制結合相互作用に関するより完全な理解と特徴付けが可能となる。付加的な例としては、バイオセンサが非常に強い結合性相互作用に関する研究であって、弱い結合親和性を有する既知の競合性抑制剤を使用することによって、より強い結合性物質の摂動と観察を行う該研究を促進することが挙げられる。
7)組み合わされたER/標識不使用バイオセンサは、生物学的分子の天然の蛍光を利用することによって(即ち、結合蛍光標識の使用を必要としない)、活性、例えば、他の生物学的分子と小さな被験分子との相互作用における折畳み(folding)、積重ね(stacking)及び変化並びにこれらへの変化速度等)の生物物理学的特徴の測定を行うアッセイに対して特に有用である。このような特徴の測定は、結合蛍光標識を用いて行うことができるが、この種の結合標識は必ずしも必要ではなく、特に固有の蛍光特性を有する生物学的物質に対してはそうである。この点に関しては次の文献を参照されたい:チャールズR.カントン及びポールR.シンメル、第1部〜第3部 バイオフィジカル・ケミストリー:生物学的分子の挙動と研究、W.H.フリーマン・アンド・カンパニー、ニューヨーク(1980年)、第443頁、表8−表2(該表には、タンパク質と核酸の構成成分及び補酵素の蛍光特性、これらの吸収スペクトルと発光スペクトル及び感度が記載されている)。天然蛍光を用いるこの技法は、核酸ポリマー(DNA、RNA)(蛍光ヌクレオシド塩基)のスタッキングとハイブリダイゼーション、タンパク質(蛍光アミノ酸フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシン)および脂質膜(これらの異なる区画へ蛍光体を組み入れたときの発光の強化効果と抑制効果)に関して特に重要である。1つの実施形態においては、標識不使用BINDの特徴により、試料または試料に結合したリガンドの量を定量することができ、また、ERの特徴により、天然蛍光の検出と生物物理学的変化の高感度追跡が可能となる。
【0058】
第1の実施形態
図4は、格子に基づくセンサのER検出と標識不使用検出に対する商業的な要求に適合することが期待される格子構造100を有する一次元的センサの第1の実施形態を示す模式断面図である。図4は、一次元又は一方向に延びる格子構造100の1つの周期を示す。図4においては、寸法の尺度は一定ではない。
【0059】
図4に示す格子構造100は積層状態で透明な材質、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)若しくはその他のプラスチック、ガラス又はその他の材質から成る基材シート(図示せず)に重ねられて接合される。
【0060】
格子構造は、周期的に反復される材料102から成る。好ましくは、該材料はUV−硬化性材料(例えば、エポキシ)を含有する。該硬化性材料は格子のマスターウェーハ(master wafer)(図示せず)を用いて塗布され、これによって、基体層の下方に位置するPET材料製の基材シート上に格子パターンが複製される。UV硬化材料102はPETシートのような基体シート上に適用される。基体材料はポリカーボネート又は環状オレフィンポリマー、例えば、「ゼアノール(Zeanor)」(登録商標)等も含むことができる。構造化層102のその他の製造法には、ポリマー基体中への直接的な熱的型押法が含まれる。中間材104は、スパッター法によって形成される高屈折率を有する酸化物(例えば、TiO又はTa)の被覆層を示す。最上部の材料106は、試料用媒体を示す。通常は、該媒体は水性緩衝液(標識不使用検出方式の場合)又は空気(ER検出方式の場合)である。図4に示すように、この格子構造は周期的な層状構造と水平方向の遷移点を有する。もちろん、図示するデザインの特徴は、標識不使用検出方式とER検出方式の両方に対して良好な性能を保持した状態で変化させてもよい。
【0061】
図4に示すデザインの開発とその性能設計は、コンピュータとソフトウェアプログラム「GSolver」(グレイチング・ソルバー・デベロップメン社、アレン、テキサス;www.gsolver.com)を用いて行われた。種々の幾何学的な寸法とパラメーター、間隔、ウェルの深さ、材料及び該材料に関連する屈折率に関するデータを用いることにより、検討すべきデザインをコンピュータ上で行うことができ、また、シミュレーションによって透過率対θ曲線及び波長曲線の関数としての反射を予測することができる。このようなシミュレーションは、試料が乾燥状態にある条件下、及び試料が水又は屈折率が既知のその他の液状媒体中に懸濁された条件下で行うことができる。このようなシミュレーションにより、デザイナーは、ER検出方式と標識不使用検出方式の両方に対する要求を満たすように、種々のデザイン上のパラメーター(例えば、厚さ、透過率、及び周期等)を最適化させる(即ち、変化させる)ことができる。
【0062】
従来のER技術においては、格子に平行な偏光入射光によって誘発される共鳴方式を採用しており、本明細書においては、該技術をTE方式またはTE偏光として定義する。標識不使用検出技術においては、一般的には、格子に垂直な偏光入射光によって誘発される共鳴方式を採用しており、本明細書においては、該技術をTM方式またはTM偏光として定義する。この方式は、試料を液状媒体中へ懸濁させたときに、最も狭い共鳴をもたらす。
【0063】
図4に示す第1の実施形態においては、格子バイオセンサのデザインであって、液中へ懸濁させた試料の標識不使用検出及び空気環境下(乾燥環境下)でのER検出の両方に対してTM偏光を利用する該デザインが記載されている。格子上の媒体を水から空気へ変換することによって、共鳴特性の変化、即ち、標識不使用検出方式に対して有用な共鳴特性から633nmでの励起に応答する色素のER増幅に対して有用な共鳴特性への変化がもたらされる。図4に示すバイオセンサのデザインは、水中でのER検出方式に対して特に最適なものではなく、また、水中でのER方式に対して許容できるように作動しないかもしれない。しかしながら、多くのER検出アッセイは空気環境下でおこなわれるので、図4に示すデザインはER検出に対して非常に有用である。
【0064】
図6は、従来技術によるER装置「ノヴァチップ」(ノヴァルチス社製)と図4に示す第1のデザイン「コムバインド400エア(ComBIND 400 Air)」に関するコンピュータによるシミュレーション又はモデルにおける透過率とθとの関係を示すグラフを比較するものである。「ノヴァチップ」に関するデータは次の文献に記載されている:ブダッハら、「高感度の蛍光に基づくマイクロアレイ用変換器及び遺伝子発現プロファイリングへの応用」、アナリティカル・ケミストリー、2003年、およびノイシェファーら、「エバネッセント共鳴器チップ;蛍光に基づくマイクロアレイ用の高感度万能プラットホーム」、バイオセンサーズ・アンド・バイオエレクトロニックス、第18巻(2003年)、第489頁〜第497頁。曲線110及び112は類似の形状を示しており、このことは、シミュレートされた装置(コムバインド400エア)がER装置と同等に機能することを示すものである。ノヴァチップのTE共鳴は、垂直入射から約2度のところで発生する。図4に示す第1のデザインは約3度のところでTE共鳴をもたらす。このθ値の相違は、入射光の角度が調整できることを考慮するならば、非常に小さな相違であると考えられる。この点に関しては、この開示の後の方に記載するセンサ用の読取り/検出装置に関する説明を参照されたい。
【0065】
図7に示すグラフは、「コムバインド400エア」デザイン(図4)において、シミュレートされた反射率を波長に対してプロットしたものである。628nm付近に中心が位置する幅広い反射率ピークは、前記の透過率対θ曲線において約3度のところで発生するER−空気方式の共鳴に対応する。標識化された「水」に関する狭いピークは、標識不使用検出方式に利用される。この場合、ピーク114が非常に鋭いことに注目すべきである。このことは、図4に示すデザインのバイオセンサが水環境下での標識不使用検出に対して十分に機能することを示す。
【0066】
標識不使用検出方式による検出過程においては、生物学的分子はTiO被覆層上に付着し、その光学的厚さを効果的に増加させる。この結果、共鳴のピーク波長値(PWV)はシフトする。一定量の試料に対するPWVのシフトが大きいほど検出感度はより高くなる。コンピュータによるシミュレーションにおいて格子のデザインを比較するときには、付加的な生物学的物質のシミュレーションは、仮想的な生物学的層を付加するよりも、TiO層の厚さを増加させることによってモデル化することができる。この方法は、その他の格子デザインの実行においても有効であることが証明された。
【0067】
図8は、一定量の模擬マス(図4に示すTiO層104の厚さを増大させることによってシミュレートされたマス)の添加の前後における水環境中でのPWVをプロットしたグラフを示す。ピークの位置は、標識が存在しないバイオセンサの操作において予想されるように、高波長側へシフトする。模擬マスに対する波長シフトの比は、本件出願人により商業化されたバイオセンサの対応する値と同等である。従って、図4に示す格子は、現在使用されている標識不使用バイオセンサの格子の場合と同等の標識不使用検出性能をもたらすことが期待される。
【0068】
要約すれば、図4に示す格子デザインに対する二用途の可能性がシミュレ−ションによって予測される。乾燥条件下においては、該格子デザインは、エバネッセント共鳴(ER)として知られている技術に従って、蛍光結合信号を増幅させることができる。湿潤条件下においては、格子は、導波モード共鳴検出として知られている技術による標識不使用検出器、又は本件出願の譲受人であるSRUバイオシステムズ社の市販品「バインド(BIND)」(SRUバイオシステムズ社の商標)としても機能する。
【0069】
第2の実施形態
図5は第2の実施形態の模式的断面図である。この図においては、一次元の格子構造の1つの周期並びにUV硬化層102、高屈折率層104及び試料媒体106の構造を示す。この図には寸法と遷移点も示すが、寸法の目盛りは示さない。
【0070】
図5に示すデザインは、図4に示すデザインといくつかの点で相違する。
a)格子の周期がより短い。
b)格子の溝又は窪みがより狭い。図5における装荷率(duty cycle)(単位セル中の上部面における格子の百分率)は88%である(0〜0.85および0.97〜1.0)。装荷率が70%〜95%の狭い溝は、狭い溝の実施形態の例示である。一般的には、狭い溝は標識不存在下での良好な検出結果をもたらす。狭い溝の特徴は、TE共鳴ピークの幅を狭めることであり、このことは場の強度を高めることを示す。ER効果の実用的な用途に対しては十分に広い共鳴が必要であるが、過度に広い共鳴は、有用な蛍光信号の増幅をもたらすには不十分な場の強度を示す。
c)半周期に対する格子深さの比は1:1である。
【0071】
図5に示すデザインは、水又は緩衝液の環境下での標識不使用操作及びER操作の両方を可能にする一次元的センサを例示する。この点は、図4に示すデザイン、即ち、空気中でのER操作及び水中での標識不使用操作のためのデザインとは対照的である。図9のグラフは、図5に示すデザインに関する水環境下におけるER(TE偏光)スペクトル共鳴特性と比較的狭い標識不使用(TM偏光)スペクトル共鳴特性を示す。このグラフは、図5に示す実施形態のコンピュータシミュレーションから得られたものである。図10のグラフは、図5に示すデザイン(「コムバインド 370」)に関するTE角共鳴(励起波長:633nm)を従来技術による「ノヴァチップ」の場合と比較するものである。この場合、シミュレートされた最小透過率116は、入射角が5度未満のときに出現し、この値は、現存するノヴァチップER装置の場合に近接する。入射角、周期、励起波長、高屈折率材料の厚さ、格子の装荷率、及び格子の深さは全て相互に関連する。市販の蛍光体の励起波長は知られており、検討することができる。25度未満の入射角は許容されるべきであるが、垂直に近い角度(θは0に近い)が好ましい。角度と波長を狭い範囲に制限することにより、機能的で商業上有用なER性能と標識不使用性能を備えた格子を設計するためには、標識不使用検出の用途に対しては、格子の周期、装荷率及び深さ、並びに質量付着に応答して大きなPWVシフトをもたらす高屈折率材料の厚さを決定しなければならず、また、ER方式に対しては、特定の蛍光体又は色素の励起波長における高い表面場を決定しなければならない。さらに、このデザインによって、できるだけ狭いスペクトル幅を伴う標識不使用下での共鳴がもたらされると共に、測定用の実用的パラメーターのウィンドウ(window)をもたらすのに十分な角度幅を伴うER共鳴が維持されるようにしなければならない。このデザインにトレードオフ性能を組み入れてもよい。例えば、ER性能の最適化には、信号の増幅をもたらす場の強度と、センサ、測定器及びアッセイの変数の許容範囲との間でトレードオフが行われる。一般的には、より狭いER共鳴はより高い場の強度を示し、より広いER共鳴は高い測定許容度をもたらす。典型的には、標識不使用性能とER性能の最適化には、標識不使用性能を高める格子の深さとER共鳴幅との間の別のトレードオフが含まれる。例えば、図5に示すデザインの場合、格子の深さの増大により、TE/ER共鳴幅は最適幅を超えて広くなる。装荷率の増大(溝を狭くすることに対応する)により、共鳴は最適値に向けて狭くなり、ERの場の強度は保持される。
【0072】
従って、ER検出方式と標識不使用検出方式の両方に適用される二用途格子構造を見出すための1つの好ましい方策には、半周期に対する深さの比が0.6から1.2又はこれよりも大きな値の範囲にある格子であって、所望の励起波長(例えば、633nm)と25度未満の共鳴角の条件下において空気環境下でのTM方式、空気環境下でのTE方式又は水環境下でのTE方式において広い角共鳴をもたらす格子を見出すことが含まれる。好ましくは、この広い共鳴は1度〜10度の角度幅を有し、5nm〜30nmのスペクトル幅を有する。このようなデザインを得るための操作は、コンピュータ内において、例えば「Gソルバー・ソフトウェア」を使用することによって容易に実行することができる。より直接的には、「R−ソフト」(Rソフト・デザイン・グループ社の市販品;www. rsoftdesigngroup.com)のようなソフトウェアを使用することによって、格子表面上において場の強度を比較的容易にモデル化することができる。
【0073】
100nm〜600nmの格子の深さおよび300nm〜600nmの格子の周期は例示的な値である。
【0074】
本発明の開示内容の利点を理解する当業者であれば、潜在的に使用可能な格子のデザインをコンピュータ上においてモデル化し、本発明による適当なデザインに到達することができる。
【0075】
二次元的格子
ER方式と標識不使用方式の両方に適した二次元的(2−D)格子構造の可能性も考慮することができ、このような構造は好ましいものである。二次元的格子は、二次元において高い領域と低い領域が交互に配列されたワッフル(ホール)、ワッフル焼き型(ポスト)またはチェス盤のような形態を有する。二次元的格子は、X方向とY方向において異なる周期を有する。このような特徴を有する格子はZ方向において種々の側面(例えば、段状側面又は湾曲状側面等)を有する。ワッフル状パターンの場合、窪み又はウェルは正方形の形態よりも長方形の形態を有していてもよい。これによって付与される可撓性に基づいて、標識不使用検出方式及びER検出方式に対する共鳴位置が異なる波長において発生するように調整することができる。また、この可撓性は、ER共鳴を異なる励起波長に対して発生するように調整することができると共に、現存する標識不使用検出の計測系との適合性を維持することができるという重要な利点をもたらす。例えば、X方向の周期性は、CY3蛍光体(緑色光)又はCY5蛍光体(赤色光)を励起するように調整される波長を有する垂直入射角又はこれに近い入射角における共鳴をもたらし、Y方向の周期性は、820nm〜850nmの範囲(近赤外領域)に固定される共鳴をもたらす。
【0076】
本明細書に記載の2−Dバイオセンサの構造例は、市販のソフトウェアパッケージ(Rソフト社製)を用いるコンピュータシミュレーションと厳密結合波分析(RCWA;Rigorous Coupled Wave Analysis)によって開発されたものである。装置のデザイナーはこのコンピュータシミュレーションを用いることにより、装置の物理的パラメーター(屈折率、厚さ、幅、高さ、構造形態)を変化させることによって、1)装置の内部及び周辺部における電磁場分布、2)光の入射角と波長の関数としての反射率又は透過率の挙動、および3)バイオセンサの表面上への生体分子の付着による反射スペクトル又は透過スペクトルの変化挙動を決定することができる。
【0077】
本明細書に記載の2−Dバイオセンサの特定の実施形態は、単一装置内においてBIND法とER法との併用検出法に対して最適化される。この場合、バイオセンサは、BIND測定中は水と接触し、ER測定中においては空気と接触する。BIND法とER法に対する乾式法と湿式法のいずれの組合せ方式も同様にして最適化させることができる。例えば、BIND法による測定とER法による測定の両方を湿式方式によって行うことができる。
【0078】
ER法とBIND法(標識不使用法)を組み合わせた二次元的装置によってもたらされる利点をさらに詳細に評価するために、最初に、ERのみに対して最適化された線状(一次元的)構造に関する図11〜図14に基づいて説明する。最初に、ERのみの構造に関してシミュレーションを行った。この構造は、ブダッハらによって公表されている従来のERチップにほぼ対応するもので、これに関しては次の文献を参照されたい:「蛍光に基づく高感度マイクロアレイ用タイプの変換器及び該変換器の遺伝子発現プロファイリングへの応用」、Anal. Chem.、第75巻(2003年)、第2571頁〜第2577頁。ブダッハらによる格子は線状格子であり、本明細書で用いる用語によれば、1−D構造である。ブダッハらによる文献に記載されている比較的厚いTa層に比べて薄い高屈折率材料(TiO)層(図11A及び図11B)は、この2種の材料の異なる屈折率を考慮することにより、等価な光学的厚さを有する装置をもたらす。図11Aおよび図11Bに示すモデルはブダッハらによるものを正確に複製したものではないが、ほぼこれに対応する。
【0079】
Cy5色素のER強化用の代表的な装置に対する角度と波長の関数としての反射率及び電磁場分布を決定するためにシミュレーションを行った。原則的には、図11A及び図11Bは、ER検出のみのために設計された一次元的な線状格子構造の斜視図及び断面図をそれぞれ示す。図示するように、この構造は、30nm隆起したリッジ201及び該リッジを被覆するTiO層203(厚さ:110nm)から成る線状の格子状側面を有する。周期性は、Y方向において356nm毎に繰り返すリッジ201である。
【0080】
図12A及び図12Bは、図11A及び図11Bに示す構造における波長の関数としての反射効率及び入射角の関数としての反射効率をそれぞれ示すグラフである。これらのグラフはRCWAによって測定したデータに基づく。垂直入射の場合には、ピーク波長(図12Aにおける632nm)はCy5の励起波長に対応し、また、入射光を格子のライン又はリッジ201に関して平行な方向に回転させるときには、632nmの波長における高い反射効率を伴う広い範囲の角度が存在する(図12B)。
【0081】
図13A〜図13Cは、図10A及び図10Bに示す構造の下部表面に対応するXY面内の電界強度のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(Z=110nm、入射波長:632nm)。図13D〜図13Fは、図13A〜図13Cに示す同じXY面における磁界強度のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。
【0082】
図13のプロットは、装置の下部の暴露表面上のXY面内の位置の関数としての電界ベクトルの3つの成分(Ex、EyおよびEz)及び磁界ベクトルの3つの成分(Hx、HyおよびHz)の強度を示す。この場合、構造200の上部の暴露部分は陰影で表示されている。これは、上部表面が、下部表面とは異なる水平面内に位置するからである。コンピュータによるシミュレーションにおいては、センサには、共鳴波長において1V/mの電界の大きさおよび1A/mの磁界の大きさを有する光源からの光が照射される。従って、1よりも大きな場の強度の値は、共鳴から得られるセンサ表面における場の強度の濃度を示す。電磁場の力は、EとHの場の成分のクロス乗積によって計算される。構造体の表面上の所定の位置における場の力は、センサの表面に接合された蛍光体を励起させるために利用できるエネルギーを規定する。理論的には、この力が強いほど、より強い蛍光発光がもたらされる。図中に示すプロットは、電場と磁場(従って、場の力)が構造体の表面上に均等に分布しないことを示す。しかしながら、平均的な力よりも大きな力を示す場所(カラー図面の202において示される赤色とオレンジ色の領域)および平均的な力よりも小さな力を示す場所(カラー図面の204において示される紫色又は青色の領域)が存在する。
【0083】
図14A〜図14Cは、図11Aおよび図11Bに示す構造体の上部表面に対応するXY面内の電界強度のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(Z=140nm、入射波長:632nm)。図14D〜図14Fは、図14A〜図14Cに示す同じXY面における磁界強度のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長:632nm)。
【0084】
図14のプロットは、装置の上部の暴露表面上のXY面内の位置の関数としての電界ベクトルの3つの成分(Ex、Ey及びEz)及び磁界ベクトルの3つの成分(Hx、Hy及びHz)の強度を示す。この場合、200において示されるように、構造体の下部の暴露部分は陰影で表示されている。これは、上部表面が、下部表面とは異なる水平面内に位置するからである。図13のプロットの場合のように、コンピュータによるシミュレーションにおいては、センサには、共鳴波長において1V/mの電界の大きさ及び1A/mの磁界の大きさを有する光源からの光が照射される。従って、1よりも大きな場の強度の値は、共鳴から得られるセンサ表面における場の強度の濃度を示す。前記のように、EとHの場の成分のクロス乗積は、蛍光体を励起させるために利用できる共鳴波長における瞬間的な力の分布を示す。
【0085】
A.ホールの実施形態例
複合バイオセンサの2−D「ホール(hole)」の実施形態の特定の実施例を図15〜図19に基づいて説明する。このバイオセンサは、単一の装置を用いるER方式と標識不使用方式(BIND)の両方による検出に対して最適化されるように二次元的に設計されている。
【0086】
図15Aおよび図15Bは、格子構造における周期的なホール210によって特徴付けられる二次元的な格子デザイン用の単位セルの斜視図及び断面図をそれぞれ示す。この格子デザインは、水環境下でのBIND(標識不使用)方式による検出及び空気環境下でのER方式による検出に対して最適化されている。この装置は、上部のTiO層104(厚さ:78nm)、及び基材の基体シート上へ適用された格子パターンを有するUV硬化材料製の下部の基体層102を含む。
【0087】
図15A及び図15Bに示す二次元的な単位セルは、図11A及び図11Bに示す一次元的な線状格子デザインとは相違する。図15Aと図15Bに示す構造体は、図示するように、X軸に対して垂直方向に偏光された入射光がBIND信号を発生すると共に、Y軸に対して垂直方向に偏光された入射光がER測定を可能にするように設計されている。この設計方法を使用することによって、特定の入射角(好ましくは垂直に近い入射角)におけるBINDとERの共鳴波長は相互に独立して選定してもよいので、BINDとERの各々の共鳴波長は非常に異なる値であってもよい。この実施形態において記載したBINDとERの組合せ構造を最適化することによって、近赤外波長(約800〜900nm)領域においてBIND共鳴を発生させると共に、ER共鳴は、Cy5蛍光体を励起させるための632.5nmにおいて発生させることができる。この実施例におけるデザインは、BIND測定中におけるセンサ上の環境としては水を想定しており、また、ER測定中におけるセンサ上の環境としては空気を想定している。
ERとBINDに対して異なる波長が要求される場合には、矩形状の「ホール」(210)を有する単位セルが選択される。従って、この単位セルはX方向とY方向において異なる寸法を有する。例えば、BIND波長に対するX方向の周期は550nmであるが、低波長のER共鳴に対して必要とされるY方向の周期は432nmである。製造法によって、高屈折率の誘電体の厚さをX方向とY方向において同一にすることができる。製造法を簡単化するためには、このデザインも均一な格子深さを有するようにする。また、この製造法はホールの角に丸みをもたらすが、デザインの主要な機能は維持される。当業者であれば次のことを理解することができる。即ち、図15Aと図15Bに示すようなデザインをコンピュータを用いて創作して該デザインを試験する場合、デザイナーは単位セル、格子の深さ及び被覆層の特定の寸法を変化させることによって、場の強度、ピーク波長、θの関数としての反射率及びその他の試験のシミュレーションを実行し、また、許容される結果を達成すると共に、その他の寸法を選択してもよい。従って、図15Aと図15Bに示す実施例は例示的な実施形態であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0088】
図16および図17は、図15Aおよび図15Bに示す構造に対する波長の関数としての反射効率のグラフ及び入射角の関数としての反射効率のグラフをそれぞれ示す。この場合、光照射は、Y軸に沿って偏光された光を用いて行った。これらのグラフはRCWAによって作成したものであって、ER方式における操作を示す。図17は、共鳴波長における入射角の関数としての反射強度が、有意なER効果を誘発する光に対して許容される角度をもたらすことを示す。物理的測定においては、図16に示すプロットにおけるピーク間の伏角と二重ピークは分割しない。
【0089】
上述の1D実施例の場合と類似の方法により、RCWAによる計算を使用することによって、図15A及び図15Bに示す構造に対するER共鳴波長における電界成分(Ex、EyおよびEz)および磁界成分(Hx、HyおよびHz)の振幅の空間的分布を決定してもよい。図18A〜図18Cは、図15Aおよび図15Bに示す構造体の下部表面に対応するXY面内の電界強度のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(Z=78nm;入射波長=632.5nm)。図18D〜図18Fは、図18A〜図18Cに示すXY面内の磁界強度のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(入射波長=632.5nm)。これらの電界と磁界の振幅の分布は、X方向とY方向において反復する単位セルのホール内の下部のTiO表面に対する分布である。前述のように、電界と磁界の成分EとHのクロス乗積は、下部表面における蛍光励起に起因する瞬間的な電流密度分布を示す。1V/mの電界と1A/mの磁界における共鳴波長での平面波を照射源として使用した。
【0090】
同様にして、単位セルの上部のTiO表面に対する電磁場の分布を計算することができる。図19A〜図19Cは、図15Aおよび図15Bに示す構造体の上部表面に対応するXY面内の電界振幅のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(Z=433nm;入射波長=632.5nm)。図19D〜図19Fは、図19A〜図19Cに示す同じXY面内の磁界振幅のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(入射波長=632nm)。これらのプロットの説明文に示すように、各々の場の成分の最大振幅が、従来技術によるデザインの場合に比べて実質上大きいことに注目すべきである。このことは、より大きな電流密度がこの装置の表面上で得られることを示す。特に、従来技術による1DデザインのEz振幅とは対照的に、実質的に大きなEz成分が出現するということに注目すべきである。
【0091】
図19Gは、X軸に対して平行に偏光された入射光を用いてモデル化された波長の関数としてプロットした反射効率を示す。図15に示すデザインの構造体上へ入射するX軸に関する偏光は、標識不使用検出に対して有用な共鳴であって、最大値が830nm付近に現れる幅が約12.5nmの共鳴を発生させる。シミュレーションによって、バルクの屈折率のシフト係数を予測することができる。この係数はδ(PWV)/δ(n)によって定義される。ここで、δ(PWV)は、センサの上方の環境中の屈折率の変化δ(n)によって誘発されるピーク波長値のシフトを示す。この数量は、格子表面上への試料の結合に関するセンサの感度を示す。図15Aと図15Bに示す「ホール」デザインの構造体の予測されたバルクの屈折率のシフト係数は200であり、このことは該構造体が、標識不使用の高感度性能をもたらすことを示す。
【0092】
B.ポスト実施形態の実施例
ポスト(post)によって特徴付けられる反復単位セルを用いる二次元的格子構造について、図20〜図24に基づいて説明する。
【0093】
図20A及び図20Bは、センサの表面上に形成された周期的なポスト220によって特徴付けられる二次元的格子デザインを有する単位セルの斜視図及び断面図をそれぞれ示す。各々の単位セルは1つのポスト220を有する。ポスト220は、基材シート(図示せず)上に塗布された基体材料102(例えば、UV硬化ポリマー)内に隆起した突起である。これらの図に示すように、高い屈折率を有する被覆層(例えば、TiO)が該突起と基体上に形成される。図示される構造体は、X方向に偏光された光を用いる水環境下でのBIND(標識不使用)検出方式、及びY方向に偏光された光を用いる空気環境下でのER検出方式に対して最適化されている。
【0094】
図20に示すデザインについて、RCWAコンピュータシミュレーションを用いて検討した。図15に示す前述の構造体の単位セルは、Z方向においてより高い面における領域によって包囲された「ホール」領域を含んでいるが、図20に示す格子構造体は、Z方向においてより低い面における領域によって包囲された中央部の「ポスト」領域を含む。上述のように、図20に示すデザインは、BIND/ER複合構造体であって、近赤外波長領域(約800〜900nm)においてBIND共鳴をもたらすと共に、Cy5蛍光体を励起させる632nmにおいてERをもたらすように最適化された構造体である。この実施例においても、当該デザインは、BIND測定中におけるセンサ上の水環境、及びER測定中のセンサ上の空気環境を想定している。ERとBINDに対するこれらの異なる波長に関する要求を満たすために、矩形状の「ポスト」状単位セルが選択された。従って、この単位セルはX方向とY方向において異なる寸法を有していてもよい。例えば、BIND波長に関しては、X方向の周期は530nmとし、より低波長のER共鳴に対して要求されるY方向の周期は414nmにしてもよい。製造法によって、高屈折率の誘電体の厚さをX方向とY方向において同一にすることができる。製造法を簡単化するためには、このデザインも均一な格子深さを有するようにする。また、この製造法はポストの角に丸みをもたせてもよいが、デザインの主要な機能は維持される。図20に示す実施例は例示的な実施形態であって、本発明の範囲を限定するものではない。もちろん、特定の寸法は変化させることができる。
【0095】
図21Aおよび図21Bは、図20Aおよび図20Bに示す構造に対する波長の関数としての反射効率のグラフおよび入射角の関数としての反射効率のグラフをそれぞれ示す。この場合、光照射は、Y軸に沿って偏光された光を用いておこなった。これらのグラフはRCWAによって作成したものであって、ER方式における操作を示す。図21Aは、633nmにおける共鳴ピークの最大反射を示し、また、図21Bは、633nmで照射したときの入射角の範囲にわたる共鳴を示す。
【0096】
RCWAコンピュータシミュレーションを使用することによって、ER共鳴波長における電界成分(Ex、EyおよびEz)および磁界成分(Hx、HyおよびHz)の振幅の空間的分布を決定してもよい。図22A〜図22Cは、図20Aおよび図20Bに示す構造体の下部表面に対応するXY面内の電界振幅のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(Z=70nm;入射波長=633nm)。図22D〜図22Fは、図22A〜図22Cに示す同じXY面内の磁界振幅のX成分、Y成分及びZ成分のプロットを示す(入射波長=633nm)。図22に示すように、これらの電界と磁界の振幅の分布は、X方向とY方向において反復する単一の単位セルのポストを包囲する下部表面に対する分布である。前述のように、電界と磁界の成分EとHのクロス乗積は、下部表面における蛍光励起に起因する瞬間的な電流密度分布を示す。1V/mの電界と1A/mの磁界における共鳴波長での平面波を照射源として使用した。
【0097】
同様にして、単位セルの上部のTiO表面に対する電磁場の分布を計算することができる。図23A〜図23Cは、図20Aおよび図20Bに示す構造体の上部表面に対応するXY面内の電界振幅のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(Z=430nm;入射波長=633nm)。図23D〜図23Fは、図23A〜図23Cに示す同じXY面内の磁界振幅のX成分、Y成分およびZ成分のプロットを示す(入射波長=632nm)。各々の場の成分の最大振幅が、従来技術によるデザイン(図10)の場合に比べて、各々の場の成分に対して実質上大きいことに注目すべきである。このことは、潜在的により大きな電流密度がこの装置の表面上で得られることを示す。
【0098】
図24は、X軸に対して平行に偏光された入射光を用いてモデル化された反射効率を示す。図15に示すデザインの構造体上へ入射するX軸に関する偏光は、標識不使用検出方式に対して有用な共鳴であって、反射の最大値が805nm付近に現れる幅が約8nmの共鳴を発生させる。このシミュレーションによってもたらされる前述のシフト係数は90である。図20に示す実施形態においても、図15に示す実施形態の場合よりは低いかもしれないが、標識不使用の高感度性能がもたらされることが期待される。2種類の2Dデザインに関する振幅値とシフト係数を比較することにより、次のことが提案される。即ち、格子構造体のさらなる最適化によって、トレードオフとして、一方の検出方式の性能が低下しても、他方の検出方式の性能を向上させることができる。
【0099】
ER検出の増幅量は、蛍光体の励起波長内において、装置の構造からセンサ表面上に分布される蛍光体へ移動する電力に関連する。共鳴波長が励起波長の範囲内にあるという条件下においては、共鳴波長におけるセンサ表面上の出力密度分布は、異なるデザインのER装置の感度を比較する手段をもたらす。場の力(field power)又は「増幅因子(magnification factor)」として、クロス乗積 E(max)×H(max)を定義することができる。構造体の上部、底部及び側部からのエバネッセント場の強度分布のより厳密な分析、及び高出力領域と低出力領域との間の差を明らかにするための出力密度の詳細な積分によれば、一方の装置が他方の装置よりも効率的に機能するかどうかということをより正確に予測することができ、また、E成分の最大振幅と垂直なH成分との積によって、デザインを比較するための非常に簡単で大雑把な方法がもたらされる。装置の露出された上部面と下部面に関するRCWA分析によれば、図11Aと図11Bに示す従来技術によるデザインについてのE×H増幅因子は144であった。一方、図15Aと図15Bに示す「ホール」型の単位セルについてのE×H増幅因子は6217であり、また、図20Aと図20Bに示す「ポスト」型の単位セルについてのE×H増幅因子は5180であった。この大雑把な分析に基づけば、図15と図20に示すデザインの2D格子のER方式によって、図10に示すデザインの線状格子よりも潜在的により高い感度のER性能がもたらされる。さらに、コンピュータシミュレーションに基づき、図15と図20に示すデザインによれば、前述のように、標識不使用検出方式に対して優れた感度がもたらされることが期待される。従って、単一の装置内におけるER検出方式と標識不使用検出方式の有用な組合せは、上述の2D格子の実施形態によって達成される。
【0100】
C.二段型の2−D格子
図28A〜図28Cは、ERと標識不使用(BIND)の組合せ検出用に設計されて製造されたバイオセンサ用の単位セル500のさらに別の実施形態を示す3つの斜視図である。この構造のいくつかの特徴を理解するためには、エバネッセント共鳴(ER)センサと標識不使用(BIND)センサに適合したデザインの観点について概括することが有用である。この種のセンサは3つの基本的なデザインの観点、即ち、共鳴波長、共鳴幅及び格子の深さの観点において相違する。
【0101】
共鳴波長
ERセンサは、励起波長の数(約+/−2)nm内で共鳴を発生することが好ましい。励起光が一般的にレーザーから発生されてその帯域が非常に狭い場合には、この要件は、ER共鳴の波長位置に関して高い特異性となる。BIND方式の操作にはこの制限がないので、別の波長(例えば、外部の周辺光の波長の範囲)で共鳴するという利点があり、また、BIND信号をER励起源からスペクトル的に分離させることによって検出の重なりによる検出相反の可能性を回避することができる。
【0102】
共鳴幅
ERセンサは、可変因子(例えば、生物学的被覆物の厚さ及び照射の開口数)の存在下で励起波長に重なるのに十分な共鳴幅を有していなければならない。実際上は、ER共鳴は、約5nm未満の半値幅(FWHM)を有しているべきではなく、より好ましくは半値幅は10〜15nmである。一方、ピークの幅が狭くなるとピーク位置の不確定性が低減するので、BINDの感度は約1/sqrt(FWHM)増大する。
【0103】
格子深さ
BINDセンサは、格子上により多くの生物学的物質が付着すると、より大きな共鳴波長シフトを示す。より深い格子は、生物学的物質の結合に対して、より大きな表面積を提供する。ERの格子深さが深くなると、ER効果は必ずしも改善されず、低減するかもしれない。
【0104】
先に説明した2−Dデザインの格子の深さ(例えば、ポストの実施例の場合のポストの高さ、または、ホールの実施例の場合のホールの深さ)は均一である。単一の格子深さを選択することには、ピーク幅と表面積の両方に関するBINDとER性能の妥協(即ち、BINDのPWVシフト)が含まれる。
【0105】
図28A〜図28Cに示すバイオセンサのデザインは、二段型の二次元デザインである。このデザインの特性については、以下において詳述する。このデザインは、狭いTM BIND共鳴と高いBINDシフト性能を保持すると共に、より広いTE ER共鳴をもたらす。先に説明した二次元的デザインの場合と同様に、BIND格子とER格子は異なる周期を有することができるので、相互に独立して決定される共鳴波長を有することができる。
【0106】
図28A〜図28Cに示す「二段型」の「comBIND」は多数の反復単位セル500を含んでおり、各々の単位セルにおいては、X方向に延びる比較的浅いER格子502が、Y方向に延びる比較的深いBIND格子504に積み重ねられる。図28A〜図28Cは、このデザインの1つの「単位セル」500を示しており、該単位セルをXY面上で複製させることによって完全な格子が形成される。
【0107】
単位セル500はUV硬化ポリマー層524から成り、該ポリマー層はマスター格子ウェーハを用いて基材基体シート、例えば、PETフィルム(図示せず)上に塗布される。ポリマー層524はBIND格子504の構造、即ち、底部領域と高部領域がY方向に交互に延びた構造を有する。X方向においても、格子は交互に延びる低部領域と高部領域を有するが、X方向におけるUV硬化ポリマー524の低部領域に対する高領域の相対的な高さは、Y方向における場合よりも低い。
【0108】
UV硬化ポリマー層上にはTiOまたはSiO若しくはTaの層522が沈着される。図示する実施形態においては、この層は均一な厚さを有する。層522は上部の反復表面506、508、510及び512並びに下部の反復表面514、516、518及び519を有する。下部の反復表面514、516、518及び519はUV硬化ポリマー層の上部表面上に配置される。空気又は水の試料媒体520は、TiOまたはSiO若しくはTaの層522の上部の反復表面506、508、510及び512上に接触して存在させる。
【0109】
図28A〜図28Cから理解されるように、「二段型の2−D」格子構造体は、Y方向に延びた比較的深いBIND格子504であって、上部の表面506/508と下部の表面510/512によって特徴付けられる該格子を具備する。従って、単位格子のBINDの観点によれば、より多くの試料物質を付与してより多くの物質を格子に付着させることによって、より大きな共鳴シフトをもたらすことができる。BIND(Y方向)における格子の深さが深いほど、生物学的物質を結合させるための表面積はより大きくなる。
【0110】
逆に、X方向に延びるER格子502は、高部領域506と低部領域508並びに高部領域510と低部領域512を含む比較的浅い格子パターンから成る。この格子は良好なBIND検出能をもたらすことに加えて、同時に、最適な幅を有する広いTE ER共鳴をもたらす。
【0111】
図28A〜図28Cに示すデザインの明らかな利点は、ER構造体とBIND構造体が相互に独立して作動することである。ER検出とBIND検出のそれぞれに対して最適化された構造の寸法は、図28A〜図28Cに示すER/BINDセンサの組合せに対しても適合すべきである。図28A〜図28Cに示す単位セルを有する構造体の特定の寸法はもちろん可変的であるが、1つの代表的な実施形態においては、BIND格子504の周期は約260nm〜約1500nmであり、また該格子の深さ(表面506と表面510との間の距離)は100nm〜約3000nmである。ER格子502においては、周期は約200nm〜約1000nmであり、また深さ(表面506と表面508との間のZ方向の距離及び表面510と表面512との間のZ方向の距離)は10nm〜約300nmである。
【0112】
図28A〜図28Cに示す構造体のコンピュータによるシミュレーションを、RCWAを用いて行い、ER格子構造をX方向に加える場合と加えない場合におけるシミュレートされた反射スペクトルを得た。図30は、X方向にER格子502を含まない場合のBIND格子スペクトル(曲線592)及びER格子とBIND格子が組み合わされた格子スペクトル(曲線590)を示す。両方のスペクトルのシミュレーションには、バイオセンサの表面上の水が含まれる。BIND格子上へER格子を加えた場合のスペクトル(曲線590)においては、CY5蛍光体のER励起に対して適当な幅と位置を有する付加的な共鳴ピーク(600及び602)が出現する。ER格子502(図28A〜図28C)及び曲線590は全表面積を増大させるので、BINDシフトの改良の可能性をもたらす。BINDピーク波長値は図30におけるピーク606及び604に示す。
【0113】
抑制剤を使用するER+BINDバイオセンサに対する別の用途
以下に説明する抑制剤結合シナリオについて検討した。次式に示すように、このシナリオにおいては、被検出物(例えば、タンパク質)の一部を格子の基体(標識不使用)上へ直接結合させ、タンパク質の別の一部を、蛍光性標識を有する抑制剤へ結合させる。式中、K及びKは基体及び抑制剤に対する平衡結合定数をそれぞれ示す。
【化1】

【0114】
上記の典型的な抑制剤結合シナリオにおいては、濃度と平衡結合定数(K)に関する値と関係式を規定する下記の数学的方程式(1)及び(2)を定立することができる。

=[タンパク質〜基体]/[タンパク質]×[基体] (1)
=[タンパク質〜抑制剤]/[タンパク質]×[抑制剤] (2)

上記の2つの方程式を組合せて書き直すことによって、基体へ結合した一部のタンパク質に関しては、容易に次の方程式を得ることができる:
【数1】

式中、X=(K+(K/KI+S+P)であり、Kは抑制剤結合定数を示し、Kは基体結合定数を示し、また、P、S及びIはタンパク質、基体及び抑制剤をそれぞれ示す。
【0115】
新たな抑制剤に対する試験反応の準備に際しては、一般にオペレーターは結合した基体の量のみを、例えば蛍光性標識を用いることによって測定するが、同時に抑制剤リガンドの結合性又はKを直接的に定量化することはできず、該結合性は推論される。本明細書に開示されるERと標識不使用方式が組み合わされたバイオセンサによって提供される2つの相互に独立した定量化法と簡単な試験を実行することによって、上記の結合シナリオに関する全ての変数の値を知ることができる。換言すれば、このような結合特性のより完全な理解と特性決定は、本発明によるER/標識不存在センサを用いる単一の試験法を実行することによって行うことができる。
【0116】
蛍光性標識は格子の基体表面上に存在させることができ、あるいは抑制剤上に存在させることができる。このことは、基体と抑制剤のいずれか一方には標識を含めないこと(標識不使用)ができるということを意味する。好ましい実施形態においては、第1の結合性分子(例えば、バイオセンサの基体であってもよい)と第2の潜在的な結合性分子(例えば、抑制剤分子)を使用する。この場合、第2の結合性分子は、生物学的物質(例えば、タンパク質)と第1の結合性分子との結合に影響を及ぼすか、又は該結合と競合してもよい。
【0117】
標識存在/標識不存在バイオセンサにおける結合反応に影響を及ぼす抑制剤を使用する方法は、非常に強い相互作用を包含するように拡張することができ、この場合、より弱い結合親和性を有する既知の競合性抑制剤の使用によって、より強い結合性物質の摂動/観測が可能となる。
【0118】
一般に、本発明によるバイオセンサを用いて検出してもよい特異的な結合性物質としては、下記のものが例示される:核酸、ポリペプチド、抗原、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体(scFv)、F(ab)フラグメント、F(ab')2 フラグメント、Fv フラグメント、有機低分子、細胞、ウィルス、バクテリア、ポリマー、ペプチド溶液、タンパク質溶液、化合物ライブラリーの溶液、単鎖DNA溶液、二重鎖DNA溶液、単鎖DNA溶液と二重鎖DNAの溶液との組合せ、RNA溶液、及び生物学的試料。生物学的試料は、例えば、血液、血漿、血清、胃腸分泌物、組織又は腫瘍のホモジェネート、滑液、大便、唾液、痰、シスト液、羊水、髄液、腹膜液、肺洗浄液、精液、リンパ液、涙及び前立腺液等を含むことができる。
【0119】
本明細書に記載のバイオセンサは、(a)これらのタイプのいずれかの試料の成分のバイオセンサ表面への結合、(b)試料中の別の成分、例えば、試料中の蛍光体等への試料の結合、および(c)試料中へ添加される第2試料への当該試料又は試料成分の結合を検出するために使用してもよい。結合(b)の例として、センサ表面は試料中の一部の成分(例えば、ストレプタビジン−ビオチン又は6His)と結合させてもよく、また、バイオセンサは、試料中の結合成分と該試料中の付加的な成分群(例えば、ポリメラーゼ錯体)との相互作用を検出するために使用してもよい。結合(c)の後者の例においては、試料は、バイオセンサの表面上へ付着した成分、およびバイオセンサ上に存在する第2試料からの特異的に結合/付着する別の成分を含有していてもよい。
【0120】
天然の蛍光を使用する実施形態
別の実施形態として、ER方式と標識不使用方式を組み合わせたバイオセンサは、生物学的分子の有する天然の蛍光を利用するアッセイ(即ち、結合された蛍光性標識の使用を必要としないアッセイ)であって、他の生物学的分子や低分子量の被験分子との相互作用に際してのこれらの折り畳み、スタッキングおよび変化と変化速度に関する生物物理学的特性測定を行うアッセイに対して特に有用である。このような特性測定は結合した蛍光性標識を用いて行うことはできるが、この種の結合標識は必ずしも必要ではなく、特に固有の蛍光特性を有する生物学的分子に対しては不要である。
【0121】
タンパク質、核酸成分及び補酵素の蛍光特性を以下の表1に示す。表中のΦFに示す値は、通常観測される最大値である。所定の場合、実際の値はかなり小さい。なお、この表のデータは次の文献から得た:チャールズ・R・キャントール及びポール・R・シンメル著、「バイオフィジカル・ケミストリー:生物学的分子の挙動と研究」、第1部〜第3部、第443頁、W.H.フリーマン・アンド・カンパニー(ニューヨーク)発行、1980年。
【0122】
【表1】

【0123】
この技術は、核酸ポリマー(DNA、RNA)(蛍光性ヌクレオシド塩基)のスタッキングとハイブリダイゼーション、タンパク質(蛍光性アミノ酸であるフェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)及び脂質膜(蛍光体を異なる区画内へ組み入れたときの増強効果と消光効果をもたらす)を用いる場合に特に重要である。1つの実施形態においては、標識を使用しないBINDの特徴によって、試料物質又はこれに結合したリガンドの量の定量化が可能となり、また、ERの特徴によって、生物物理学的変化の高感度追跡が可能となる。
【0124】
バックグラウンド蛍光を低減させるための付加的な低蛍光性SiO層を具備するER/BINDバイオセンサ
本明細書に開示されるERとBINDを組み合わせたセンサを結合蛍光体からの蛍光又は天然蛍光を検出するために使用する場合、バイオセンサの構成物質の内部から放出されるバックグラウンド蛍光を低減させることは有用であり、これによって、信号対雑音比のより高い条件下での蛍光測定が可能となる。これを達成するための1つの方法は、付加的な低蛍光性SiO層をUV−硬化ポリマー層上へ沈着させた後、SiO層上にさらに屈折率の高い物質(例えば、TiO)から成る最上層を沈着させる。この種のバイオセンサの断面図を図30に示す。このバイオセンサは、UV−硬化ポリマー層524(該層は図示されていない基体シート上に結合されている)、中間のSiO層700及び上部のTiO層522を具備する。空気又は水に基づく媒体中の試料はTiO層上に存在させる。付加的なSiO層700の厚さは、格子の装荷率や要求されるバックグラウンド蛍光レベル等の要因によって左右されるが、一般的には、500〜5000Åである。
【0125】
好ましくは、SiO層700は、バイオセンサに質問をするために使用される光源からの入射光に応答して低い天然蛍光を示す。SiO層中の蛍光レベルは該酸化物の調製法によって左右され、また、該酸化物の構造(非晶質構造及びナノ結晶質構造)もこれに影響を及ぼす役割を果たしてもよい。所謂「SiO1.95」に比べた場合のSiO層中のSiO分子の完全な酸化も、蛍光性の低い層を形成させるために重要である。好ましくは、SiO層は、比較的低い天然蛍光性をもたらすような調製法によって調製され、また、このような天然蛍光性を示す構造を有する。
【0126】
中間のSiO層の1つの使用例は、図28A〜図28Cに示す構造体中における使用である。この場合、上部のTiO層522の下部においては、低蛍光性のSiO層がUV−硬化ポリマー層上に形成される。中間のSiO層は、X方向とY方向において均一な厚さを有する。
【0127】
蛍光性の低い付加的なSiO層は、本明細書において先に説明した他のセンサ中に存在させてもよい。
【0128】
図28と図30及び高屈折率を有する上部層を示すその他の図において、上部層522に対してTiOは必須の物質ではない。Ta(五酸化タンタル)も機能を果たすことができる。高屈折率層としてTiOが一般的に使用されている理由は、Taに比べてTiOがより高い屈折率を有するからである。Taを使用する場合、同じ光学的厚さを達成するためには、より大きな物理的厚さを必要とする。本明細書に記載の実施例においては、上部層522の厚さは、TiO又はTaを使用する場合、約70nm〜250nmである。
【0129】
1つの別の可能な実施形態においては、高屈折率層として、TiO又はTaの代わりに酸化ハフニウム被覆層がバイオセンサへ塗布される。赤外波長と可視波長においては、TiO又はTaは吸収性を示さないが、低波長になると、これらの酸化物は吸収性を示し始め、これらの吸収性は波長の低下に伴って増大する。このような挙動は共鳴装置においては問題となる。何故ならば、吸収性は共鳴の低減効果(即ち、ピークが測定されなくなるか、又はピークが小さくなる)をもたらすからである。酸化ハフニウムは、400nmのような低い波長においても吸収性を示さない。酸化ハフニウム被覆層の厚さと格子の寸法は、関心のあるUV波長において共鳴がもたらされるように選択される。
【0130】
時間分解蛍光(TRF)と蛍光偏光(FP)測定のためのERセンサの使用
本発明によるER/BINDセンサの新規な用途の1つの別の実施例は、時間分解蛍光(TRF)と蛍光偏光(FP)を測定するための該センサの使用である。TRFとFPは、本明細書に開示された標識不使用装置とERを組み合わせた装置から誘導だれる増強信号から大きな利点をもたらす2つの方法である。これらの2つの方法は、バックグラウンド信号及び結合事象に関与しない分子からの結合事象に関する特定のER信号の分離に対して有用である。蛍光体は、センサの波長増強能に適合させる必要がある。
【0131】
ERとFP及び/又はTRFを使用する方法の発明は、結合事象に含まれる蛍光体の存在を正確に検出する機会をユーザーに付与すると共に、このような検出をバックグラウンド又は非関与分子から非常に高い感度で識別することを可能にする。
【0132】
FP及びTRFは、診断と薬学的試験に関連するタンパク質/化合物のスクリーニングの産業分野において広範囲に使用されている技術である。この点に関しては次の米国特許文献を参照されたい:第6432632号、第6207397号、第6159750号、第6448018号、第6455861号、第6566143号、第5504337号。これらの特許文献の開示内容も本願明細書の一部を成すものである。また、ブダッハらによる米国特許第6870630号と銅第6707561号及びノイシェファーらによる米国特許第6078705号と同第6289144号の開示内容も参照されたい。このような方法は、望ましくない信号、例えば、バックグラウンドや非結合分子からの結合信号の識別を可能にするために一般的に使用されている。本発明方法は、信号対雑音比(感度)を改善し、試薬の消費量の低減化を可能にする。このような改善は、感度と試薬が制限される「プロテオミクス(proteomics)」として知られている研究分野において特に有用である。さらに、一般的な生物物理学的決定法の分野(折り畳み、他の分子への接近、サイズ等)においても感度の増大がもたらされる。
【0133】
結合相互作用の決定における50〜100倍の潜在的な感度増大に起因して、このような技術はいくつかの商業的な利点(例えば、試薬の消費量の低減化及び低信号における信頼性限界の拡大等)ももたらす。
【0134】
清浄な底部プレートの下面からのFPを測定するために使用できるいずれの装置も、本明細書記載のER/BINDバイオセンサのために機能させることができる。FPとTREの両方を測定できる市販の装置、例えば、モレキュラー・デバイシス社製の「スペクトラマックス M5」装置等が知られている。しかしながら、FP測定を検出するための装置は、TRF測定を可能にする装置と同じ装置である必要はない。
【0135】
信号および信号対雑音比を大幅に改善することによってFP又はTRF測定に対してより多くの利点をもたらすERバイオセンサの物理的特徴は、増大信号に対して共鳴効果をもたらす本明細書において詳述したバイオセンサの格子構造である。FPとTRFは薬学的なスクリーニング活性に対して推薦される方法である。この理由は、これらの方法によれば、スクリーニングに供される化合物の天然蛍光から望ましくない信号(即ち、これらの化合物を用いるときのより高い雑音/バックグラウンド)をユーザーが回避できるからである。
【0136】
ERとBINDセンサを用いるスポット形成過程と品質管理
本発明によるバイオセンサの1つの可能な用途においては、ERとBINDセンサを使用することによって、多数の位置における試料の分析がおこなわれる。この場合、各々の位置は、直径が約10〜500ミクロンのマイクロアレイのスポットを規定する。
【0137】
「スポット」という用語は、バイオセンサの表面上載置された少量の試料物質を意味する。このようなスポットは、試料を含有する標的溶液の小滴をバイオセンサの表面上へ沈着させた後、該小滴を乾燥させることによって形成される。小滴の大きさはスポットの大きさを決定する。このような小滴を沈着させる方法としては別の方法も知られており、この種の技術は当該分野においては一般的に知られている。1つの可能な実施方法においては、センサの表面は多くのスポットのアレイ(即ち、スポットのマイクロアレイ)を保有し、大部分のこれらのスポットは異なる組成を有する。
【0138】
次いで、種々の複雑な組成を有する共通の試験物質を全アレイへ適用する。1つの実施例においては、この試験物質は蛍光的に標識化された試験物質を含有する。次いで、光を用いてセンサに対して、試験物質とスポットとの間の結合に関して質問をする。多数のスポットのマイクロアレイを保有するバイオセンサを分析するために、全スポットを示すバイオセンサの画像を得た後(後述する図25に示す実施形態における画像読取り装置参照)、画像分析法又は各々のスポットからの分光データを別々に捕獲する方法を利用することによって、各々のスポットからの信号(ピーク波長値の強度とシフト)を決定する。各々のスポットは1つのデータ点を与える。画像は、スポットのサイズよりも小さな分解寸法[ピクセルサイズ(pixel size)]を有していなければならない。
【0139】
アッセイ表面上への試料物質のスポット形成(例えば、DNAのスポット形成)中の過程の可変性によって、その後の試験試料の結合に対して不確定な結果がもたらされる。試料物質の密度の制御不能な変化およびスポット間の密度の制御不能な変化によって、蛍光信号による試験物質の結合頻度の定量化がかなり妨げられる。第2標識を適用することによる試料物質の定量化は一般的には実用的ではない。
【0140】
本明細書に開示されるER方式と標識不使用方式を組み合わせたバイオセンサはこのような問題を解決する。特に、BIND信号は、スポット中の試料物質の量を非破壊的な方法で迅速に定量するために使用される。この場合、蛍光体又はその他の添加標識剤を必要としない。BIND測定は、蛍光体で標識化された試験物質に対して試料(スポット)を曝す前におこなわれる。ER測定は、蛍光体で標識された試験物質に対して試料を曝した後でおこなわれる。BIND測定によって、各々のスポットからの蛍光信号に対して正規化量がもたらされる。スポットされたアレイのBIND画像もスポットの形態に関する情報をもたらし、また、スポット形成過程に対する品質管理機能を果たす。
【0141】
1つの代表的な実施形態について、図31〜図33に基づいて説明する。図31は、7ミクロンの分解能を有する格子に基づくセンサ上に沈着されたスポットのマイクロアレイの画像を示す。該センサはERとBINDの両方の測定に対して最適化されていてもよく、あるいは最適化されていなくてもよい。この画像はCCDカメラによって撮像された(以下において説明する図25に示す実施形態参照)。DNAスポットの画像は種々のミクロンオーダー、例えば、7ミクロン、15ミクロン及び30ミクロン等の分解能(ピクセルサイズ)で得てもよい。図32は、センサ上に載置されたDNA試料の存在に起因する図31に示すスポットの1つに関するピークシフトのグラフである。このシフトは、DNAスポットに対してピーク波長値が右側へ移動することを示す。このシフトの度合いは、スポット中に存在するDNAの量を示す定量的尺度である。図33はスポット列及び該列に沿った位置の関数としてのピーク波長値(PWV)のシフト(nm単位)の対応するグラフを示す。PWVの変化は、該列のスポット上に位置するDNA試料の量に関する定量的尺度である。DNA試料物質のスポットが存在しないセンサ表面上の領域はスポット列の画像中の暗部で示され、また、消失スポットはグラフの下部領域に示される。従って、図33に示すグラフは、アレイ中のスポット上に存在するDNAに関する定量的/定性的尺度をもたらす。
【0142】
この開示内容によるスポット形成によれば、ナノメーターサイズの構造化光学的表面、例えば、標識を使用しないBIND法において使用される光学的表面上のDNAスポット(又は、いずれかの生物学的物質、例えば、RNA、タンパク質、炭水化物、及びペプチド等)の厚さ、均一性及び形態の分析法が提供される。この方法は、ナノメーターサイズの構造化光学的表面、例えば、本明細書に記載のER方式と標識不使用方式を組み合わせたセンサの両方を利用するために適している。また、該方法は、1つの技術又は他の技術に対して設計される格子構造体上のスポットの分析にも使用することができる。
【0143】
印刷されたマイクロアレイの品質の管理は、マイクロアレイのメーカーとユーザーの双方にとって重要である。印刷されたDNAスポットは識別可能な標識又は該スポットに装着されるタグ(tag)(例えば、蛍光、量子ドット、放射能等)を具有しない場合が多い。このため、アッセイを実施する前に、品質保証のための印刷スポットの画像形成を迅速かつ確実に定量的に行うことは困難である。スポット上に印刷されたDNAの量の変化はハイブリダイゼーションアッセイの結果に大きな効果をもたらし、特に診断に関連する用途においては重大な影響をもたらす。これらの点を考慮するならば、本明細書に開示される本発明によるスポット形成法によって、ナノメーターサイズの構造化光学的表面(センサ表面)上に印刷されたDNAスポットの画像を非破壊的で非接触的に形成させる方法が提供される。この発明は、DNAスポットの印刷法の特徴と信頼性を確認して欠陥のあるマイクロアレイを除去することによって、この種のマイクロアレイの製造コストを低減させるために使用することができる。また、この発明は、最初にスポットされた物質の量に関してこれらのチップ(蛍光等を介在させるチップ)を用いておこなわれる標識化アッセイから得られる最終的な結果を正規化させることによって、他の手段によっては従来は得ることができなかった結合の親和性/効率に関する情報を提供するために使用することができる。
【0144】
本明細書に開示された方法は,好ましくは,非接触的で非破壊的な形態で行われる。即ち、スポットの画像形成は光学的手段を介しておこなわれ、定量的情報と定性的情報は、図31〜図33に関連して説明したように、スポットに関連して得られる。この方法は、チップの表面上に存在する単鎖DNAへ弱く結合した標識化末端(例えば、蛍光性タグ)を有するランダム配列の短鎖オリゴヌクレオチドを使用する従来法よりも優れていると考えられる。結合スポットからの蛍光信号は、該スポット中に存在するDNAの量を示す。これらの方法は、種々の問題の影響を受ける場合が多い。この種の問題としては。ランダム標識化オリゴマー/DNA錯体の低融点に起因する室温での解離、ストリーキング(streaking)、スポット形成、基質に対する非特異的結合とこれに伴うバックグラウンドの増大、及びこれらのQC試験における洗剤の使用に起因して発生することがあるスポットからの結合DNAの完全な除去等が例示される。パーキン・エルマー社製の反射撮像装置を使用してスポットの存否を非破壊的に測定した。この場合、DNAスポット中に存在する塩結晶からの反射レーザー光を用いた。この方法は、スポットの存否を測定する完全に定性的な方法であり、また、印刷溶液が塩を含有しない場合や塩結晶がスポットのアレイから洗い流されるときには使用できない。
【0145】
本明細書に開示されたこの点に関連する画像形成技術の機能的な利点は、構造化光学表面に結合した物質の量の定量的分析法を提供することである。この分析法は、非破壊的な非接触的測定法である。さらに、この発明によれば、マイクロアレイのメーカーとユーザーは、マイクロアレイ表面上のスポットの特性(均一性、スポットの形態及び結合した物質の量)を確認することができる。さらに、この分析においては従来法において必要とされているかなり長い時間は不要であり、分析に要する時間は約1分間である。従って、この分析法によれば、少量の試料に制限されることなく、全てのマイクロアレイにおける分析を行うことができる。
【0146】
細胞に基づくアッセイ(Cell-based Assays)へのComBINDバイオセンサの応用
本明細書に開示された格子に基づくバイオセンサは、細胞に基づくアッセイの領域において、潜在的な可能性を有する。該細胞に基づくアッセイは、製薬用薬剤化合物のスクリーニングのための新たに出現した方法であり、生体内で化合物が有するかもしれない影響を、一般的なリガンド結合アッセイよりもより正確に評価する。背景資料として、G.E.クロストン、「化学的ゲノム薬剤開発における、機能的な細胞に基づくアッセイの超ハイスループットスクリーニング(uHTS)」、トレンズ・イン・バイオクテクノロジー、第20巻、第110頁〜第115頁、を参照されたい。蛍光イメージングプレート読取装置は、イオンチャンネル標的化薬のハイスループットスクリーニングを行う場合において、細胞のイオンチャンネル機能の評価に用いることができ(J.デニア、J.ウォーリー、B.コックス、G.アレンビーおよびM.バンクス、「電圧制御型イオンチャンネル薬剤開発」、ドラッグ・ディスカバリー・トゥデイ、第3巻、第323頁〜第332頁(1998年)、およびJ.E.ゴンザレス、K.オーデス、Y.ライチキス、P.A.ネグレスク、「イオンチャンネル標的物のスクリーニングのための細胞に基づくアッセイおよび装置」、ドラッグ・ディスカバリー・トゥデイ、第4巻、第431頁〜第439頁(1999年)を参照)、および薬剤に対する心臓毒性的な反応をハイスループットで測定するために用いることができる(R.ネッツアー、A.エブネス、U.ビスコフ、およびO.ポングス、「QT時間延長に導く化合物のスクリーニング」、ドラッグ・ディスカバリー・トゥデイ、第6巻、第78頁〜第84頁(2001年)を参照)。イオンチャンネル機能および他の細胞膜タンパク質の存在に対するマイクロプレートアッセイのSNR(蛍光性分子の信号のバックグラウンド信号に対する比率)を、マイクロプレートにフォトニック結晶表面を組み込むことにより、大きく向上させることができる。これは、該フォトニック結晶表面が構造表面の100〜200nmの範囲における蛍光のみを増加させることによる。標識不使用方式の操作は、フォトニック(PC)結晶表面への細胞付着の測定を同時に独立して行うことを可能にするものであって、蛍光測定と結合させることができ、それによりSNRをさらに向上させる。標識不使用の細胞に基づくアッセイについては、PCバイオセンサを用いて、化合物の細胞毒性効果を観察すること、および特定の細胞表面タンパク質の存在をモニターすることが既に実証されている。B.T.カニングハム、P.リ、S.シュルツ、B.リン、C.ベアード、J.ゲルシュテンメイヤー、C.ゲニック、F.ワン、E.フィン、L.レイン、「BINDシステムに対する標識不使用アッセイ」、ジャーナル・オブ・バイオモレキュラー・スクリーニング、第9巻、第481頁〜第490頁(2004年)を参照されたい。これらの標識不使用アッセイに強化された蛍光を用いる蛍光アッセイを結合させることにより、細胞機能、特に細胞表面タンパク質、および細胞の生存能力に対する薬剤化合物の効果を高感度の形式で評価する実験を行うことができる。
【0147】
したがって、本明細書には、1または複数の細胞を含むサンプルに対する細胞に基づくアッセイの実施方法が開示されていることが理解されるであろう。該方法は、周期的な表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサを提供する工程を含み、該工程において、上記周期的な表面格子構造は、1)エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問、および2)標識不使用方式における光によるセンサの光学的質問の両方が可能となるように組み立てられている。先に記載した種々の実施形態を参照されたい。一つの可能な実施形態では、バイオセンサがマイクロプレート、顕微鏡用スライドガラスまたは他の取付用構造体に取り付けてもよい。該方法は、さらに、サンプル中の細胞の上記の格子構造の表面への細胞付着を上記バイオセンサを用いて測定する工程を含み、該細胞付着の測定は、必須ではないが、一般的には、標識不使用検出方式でなされる。該方法は、さらに、候補薬化合物のサンプル中の細胞の細胞機能への影響を上記バイオセンサを用いて測定する工程を含み、該候補薬化合物の影響の測定は、必須ではないが、一般的には、ER検出方式でなされる。それらの方法は、必要に応じて、センサからのRWV測定値に加えて、あるいはセンサからのRWV測定値の代わりに、バイオセンサの画像を収集する工程を含んでもよい。
【0148】
一つの実施形態では、ER方式で測定される細胞機能は、細胞表面タンパク質または他のタンパク質の機能(例えば、緑色蛍光タンパク質、または緑色蛍光タンパク質または他の内部発光タンパク質を含むハイブリッドタンパク質等の発現タンパク質の量、あるいはこの種の表面タンパク質の存在)である。別の実施形態では、細胞機能は細胞の生存能力である。候補薬化合物は、イオンチャンネル標的化薬の形態をとってもよい。さらに別の実施形態では、測定される細胞機能は、イオンチャンネル標的化薬に対する心臓毒性的な反応である。
【0149】
別の実施形態では、バイオセンサを用いて、タンパク質、ペプチド、抗体、DNA、RNAi、RNA、ケモカイン、ウィルス、他の細胞、単一ドメイン抗体、および改質結合性ドメイン(例えば、アフィボディ、設計アンキリン反復タンパク質、アドネクチン)の、サンプル中の細胞の細胞機能への影響をER検出方式により検出する。
【0150】
一つの実施形態においては、サンプル中の細胞のセンサ表面への細胞付着をBIND方式を用いて検出してもよく、別の実施形態では、サンプル中の細胞のセンサまたはセンサを覆う細胞外マトリックスへの接着(adhesion)、サンプル中の細胞の他の細胞への接着、サンプル中の細胞の形態変化、サンプル中の細胞の走化性(運動)、サンプル中の細胞の細胞骨格の再配置、およびサンプル中の細胞の内部または外部のタンパク質の再配置、再編成または変異発現をセンサのBIND方式を用いて検出してもよい。
【0151】
より一般的に言えば、本明細書に開示した方法は、下記の(a)〜(m)の少なくとも1つの事象を測定するために、本明細書に記載されたERおよびBINDバイオセンサを用いる工程を含む:
(a)サンプル中の細胞の格子構造表面への付着(attachment)、
(b)サンプル中の細胞のセンサまたはセンサを覆う細胞外マトリックスへの接着、
(c)サンプル中の細胞の他の細胞への接着、
(d)サンプル中の細胞の形態変化、
(e)サンプル中の細胞の走化性、
(f)細胞からセンサ付近へのタンパク質の開口分泌、
(g)センサ付近における細胞内外へのイオン流動、
(h)細胞移動、
(i)細胞の平板化または球状化、
(j)細胞の成長または分化、
(k)細胞死、
(l)サンプル中の細胞の細胞骨格再配置、
(m)サンプル中の細胞の内外のタンパク質の再配置、再編成または変異発現。
「細胞外マトリックス」という用語は、本明細書ではフィラメント状構造物を意味するものとして用いており、該フィラメント状構造物は、外側の細胞表面に付着して、細胞の固着、牽引および位置認識の役割を果たす。
【0152】
本発明の多くの実用的な用途において、前の段落で列挙した測定は、標識不使用方式で作動させたバイオセンサで行うことができる。しかし、細胞に基づくいくつかのアッセイでは、その測定をER検出方式で行うこともできる。
【0153】
また、本方法はさらに、サンプル中の細胞の細胞機能に対する下記の(a)〜(q)の少なくとも一つ物質の影響を測定するためにバイオセンサを用いる工程を含む:
(a)候補薬剤化合物(例えば、公知の薬剤または小分子の候補薬剤である。)、
(b)タンパク質、
(c)ペプチドまたは修飾ペプチド、
(d)抗体、免疫親和性タンパク質またはその断片、
(e)修飾DNAを含むDNA(生物学的効果を引き出すために公知のもの)、
(f)修飾RNAiを含むRNAi、
(g)RNA(修飾RNAを含む)、
(h)ケモカイン、
(i)ウィルス、
(j)バクテリアまたは他の有機物を含む他の細胞、
(k)改質結合領域(例えば、アフィボディ、設計アンキリン反復タンパク質、アドネクチン)、
(l)糖質または修飾糖質、
(m)イオン、
(n)脂質および修飾脂質、
(o)金属、
(p)無機溶媒、および
(q)有機溶媒。
【0154】
本発明の多くの実用的な用途において、前の段落で列挙した測定は、ER検出方式で作動させたバイオセンサで行うことができる。しかし、細胞に基づくいくつかのアッセイでは、その測定を標識不使用検出方式で行うこともできる。
【0155】
一つの可能な実施形態として、バイオセンサをマイクロプレートの中に取り付けてもよい。また、バイオセンサを、例えば、顕微鏡用スライドガラス、カートリッジまたは他の適切な取付装置等の、隔離されたサンプル収容部を具有する取付装置の中に取り付けてもよい。
【0156】
一つの実施形態では、細胞機能として細胞表面のタンパク質の機能の影響の測定にバイオセンサを用いる。測定可能な他の細胞機能には、内部の細胞機能または細胞発現、膜または膜結合細胞の機能または発現(例えばイオンチャンネル機能)、受容体チロシン機能、ウィルス性結合または細胞内への侵入、またはGタンパク質結合受容体(GPCR)信号がある。別の実施形態では、細胞機能は細胞の生存能力である。
【0157】
一つの実施形態では、候補薬化合物は、イオンチャンネル標的化薬の形態をとってもよい。さらに別の実施形態では、測定される細胞機能はイオンチャンネル標的化薬に対する心臓毒性的な反応であり、該機能は、そのような薬物に対する患者の反応の予測に用いてもよい。
【0158】
別の実施形態では、高分解能の標識不使用画像をバイオセンサから取得してもよく(例えばCCDまたは他の検出器を用いて)、該バイオセンサは試験分子の処理に関係する細胞の詳細な内部的または外部的な形態変化を発現してもよい。このような変化には、特に限定されるものではないが、食作用、細胞の増殖物の増加または減少、チェンネルの開放または閉鎖、細胞の伸長または収縮もしくは球状化、細胞内オルガネラの再配置、タンパク質の再分布、およびさらに他のものが含まれる。
【0159】
また、本明細書のバイオセンサを用いた操作方法も含むものであり、該方法は、2つまたはそれ以上の異なる細胞種の相互作用をモニターするものであり、一つの細胞種を一つの方式(例えば標識不使用方式)で測定し、別の細胞種は別の方式(例えばER方式)で測定する。例えば、該方法は細胞浸透実験も含み、該実験では、一つの細胞層をセンサ上に載置し、別の細胞種を該細胞層の上面に積層し、アッセイでは、一の細胞種が第1層を浸透する能力を評価する。これらのアッセイは、走化性アッセイの一種である、内皮遊走(transendothelial migration)アッセイとして当該分野の当業者には知られている。
【0160】
本発明のセンサを用いた細胞に基づくアッセイのさらなる観点および実施形態は、本願の特許請求の範囲に反映されており、これらの特許請求の範囲の開示内容は本明細書の一部を形成している。
【0161】
2つの別個の波長における発光応答を用いた応用
生化学的被検体および細胞被検体を標識化するために蛍光性分子を用いて行うアッセイは、医薬品開発、診断試験、および生命科学研究において一般的に行われている。一般的には、検討対象の標識化された被検体は、特定の特性波長における蛍光体のレーザー励起およびその後の、一般的にはより高波長の別個の波長における放出光子の検出によってのみ測定することができる。特定の種類の蛍光アッセイ、すなわち、DNAまたはタンパク質のマイクロアレイでは、多数の非標識化リガンドスポットからなるx−yグリッドが、顕微鏡用スライドガラス等の平板状表面に適用される。次いで、スポットのグリッドは、2つの異なる蛍光性分子で標識された蛍光標識化分析物を含む試験サンプルに曝露される。マイクロアレイを、試験サンプルからの分析物と対照サンプルからの分析物に同時に曝露させることにより(ここで、試験サンプルと対照サンプルは異なる蛍光体で標識されている)、アレイにスポットされた各物質と試験サンプルおよび対照サンプルとの相対的な相互作用を最大の精度でもって測定することができる。それ故、試験サンプルの相互作用と対照サンプルの相互作用の比率は、遺伝子発現レベルまたはタンパク質発現レベルにおける差を決定するために、最も一般的に用いられる。
【0162】
蛍光に基づく生化学的および細胞的なアッセイにおける信号対雑音の検出効率を向上させるために、種々の方法が提案されている。限定された体積要素に対して光源の焦点を集めて強力な局部電場を形成する共焦点顕微鏡に基づく発光検出原理とは異なり、平面状導波管を用いてエバネッセント場を発生させており、該エバネッセント場は導波管表面に堆積した表面結合蛍光体の励起効率を増大させる。導波管表面近傍の電場は指数関数的に減衰するので、表面に結合した標識化された分析物は強力に励起される(ブダッハ、Anal. Chem.、第71巻(1999年)、第3347頁)。同様に、エバネッセント共鳴電場を用いて蛍光検出感度を増大させるために、線状格子を用いた導波方式の共鳴フィルター構造体を使用し、それにより局部的に閉じ込められた光の励起を発生させる。該励起に起因して、単一励起波長による表面上の蛍光の高い分解的イメージングが可能となる(ブダッハ、Anal. Chem.、第75巻(2003年)、第2571頁、および米国特許出願番号 2002/0135780号)。この方法を用いると信号対雑音の検出感度が100倍まで向上することが主張されており、従来は検出できなかった低存在量の遺伝子およびタンパク質についてもより正確な情報を提供できる見込みがある。
【0163】
本発明の付加的な一の観点は、二次元の格子に基づくバイオセンサ構造体を用いて構造体の表面に存在する2種の異なる蛍光体分子の蛍光を同時にまたは別々に励起するという考えに関連するものである。直線状の格子パターンではなく、二次元の格子パターンを用いることにより、入射レーザー光の2つの別個の偏光配向は、2つの別々の波長でエバネッセント電場を強力に励起することができる。
【0164】
一つの可能な実施形態では、二次元格子を、例えば、図15〜19および図20〜24に示すポストまたはホールの二次元アレイとして配置されているような矩形の規則的なアレイから構成することができる。矩形の大きさと、xおよびy方向における矩形間の間隔を選択することにより、xz平面またはyz平面から観測される格子断面について、2つの異なる格子周期が得られる。二次元導波方式共鳴フィルター構造体を形成するために、以下の断面図に示すように、矩形は、表面構造体のわずかに隆起した領域または同等に低い領域を表す。好ましい実施形態では、湿式化学エッチング法、プラズマエッチング法、浮き彫り法、鋳型法または複製法を含む工業的な製造プロセスを用いて、表面構造体をガラスまたはプラスチック等の低屈折率の光学材料で作製する。低屈折率の表面構造体の上に、高屈折率材料を蒸着させることにより、導波方式フィルター構造体を作製する。高屈折率材料には、酸化チタン、酸化タンタル、窒化珪素、硫化亜鉛、または公知の他のものを用いてもよい。表面構造体の深さおよび高屈折率材料の厚さは、50〜500nmの範囲にしてもよい。
【0165】
一実施例として、Cy3蛍光体およびCy5蛍光体のそれぞれの励起波長である532nmと633nmにおけるエバネッセント共鳴の発生を示すために、厳密結合波分析(RCWA;Rigorous Coupled Wave Analysis)(GSOLVER)を用いて構造体を設計しかつシミュレートした。これらの波長は、レーザーに基づくマイクロアレイスキャナーに一般に使用されており、他の励起波長に適合するように本明細書に開示した新規なセンサを設計することができる。構造体には、x方向に周期が343nm、y方向の周期が418nmの矩形の二次元格子を用いた。表面構造体の深さが120nmである低屈折率(n=1.5)のプラスチックを用い、高屈折率被膜(n=2.25)は厚さ120nmとなるように適用した。x方向とy方向では周期が異なるので、x方向に垂直に偏向した垂直入射光はCy3の励起波長である532nmで共鳴反射し、y方向に垂直に偏向した垂直入射光はCy5の励起波長である635nmで共鳴反射する。
【0166】
垂直または垂直に近い入射角が市販の蛍光スキャナーにほとんどの場合使用されているが、他の入射照明角において所望の2波長における共鳴特性を生成させるために、上記デザインが変更可能であることに留意されたい。
【0167】
2つの異なる波長において同時にまたは別々にスキャンする能力は、DNAおよびタンパク質のアレイにおける格子に基づくバイオセンサの使用には有利である。
【0168】
本発明は、2つの異なる蛍光励起波長をマイクロアレイ表面の同じ領域に用いることを可能にする点において先行技術に対する進歩を示すものである。エバネッセント共鳴効果による蛍光励起の信号対雑音比の増大の利点を、ほとんどのDNAマイクロアレイで一般的に行われている2波長でスキャンできる能力と組み合わせることは、検出方法に対するより大きな商業的な意味をもたらす。
【0169】
したがって、本明細書に記載した設計の方法論は、強化された蛍光と標識不使用吸着検出センサを組み合わせる設計に限定されるものではなく、別個の2波長での蛍光応答(例えば、強化された蛍光(ER)、燐光、化学ルミネセンス、エレクトロルミネセンス、または量子ドットを含む他の発光源)を検出するように設計されたフォトニック結晶構造体を作製することをむしろ追求することもできる。蛍光現象または他の発光現象の観測は共鳴ピーク波長に依存し、該共鳴ピーク波長はフォトニック結晶の寸法をわずかに調節することにより調節可能であるので、2つの蛍光、化学ルミネセンス、燐光または他の色素に対しては、ルミネセンス応答の共鳴波長に対して最適化されたデザイン(すなわち、深さ、周期および格子構造の間隔)を有する格子に基づくER装置を作製することができる。例えば、本明細書に記載した装置の近赤外光の共鳴ピークは、必要であれば、標識不使用による吸着検出ではなく、むしろ近赤外光波長で蛍光を発する色素を用いたERに用いることができる。したがって、格子は、もっぱら2つの発光(例えば、蛍光)波長に完全に適合させることができ、標識不使用検出方式用には特別に設計されない。代わりに、別のフォトニック結晶の格子に基づくセンサを、近赤外光波長ではなくむしろ別の可視光波長で共鳴ピークを形成するように設計することができる。したがって、例えば、シアニン−5色素とシアニン−3色素の両方からの蛍光を強化することの可能なフォトニック結晶を作製することができ、これにより多くの生物学者により現在実施されている標準的な2色素DNAマイクロアレイの感度およびSNRを向上させることができる。
【0170】
さらに、我々が、周期的な表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサ(上記実施形態を参照)であって、該周期的な表面格子構造が、エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問に対し、バイオセンサから別個の2つの波長で発光(例えば、蛍光、燐光、化学ルミネセンス、エレクトロルミネセンス等)応答を行うように組み立てられているバイオセンサを開示していることは理解されるであろう。一つの実施形態では、第1波長はスペクトルの近赤外光域にあり、第2波長はスペクトルの可視光域にある。例えば、第1波長を、バイオセンサ上に載置されたサンプルに結合した第1色素の蛍光波長に対応させ、第2波長を、サンプルに結合した第2色素の蛍光波長に対応させることができる。この種の色素の例には、シアニン−5色素とシアニン−3色素が含まれる。一つの可能な実施形態では、格子構造は一次元の格子構造である。別の実施形態では、格子構造は二次元の周期的格子構造の形態を具有し、該周期的格子構造としては、先に記載したポストまたはホールの実施形態または二次元の2段の実施形態等が例示される。該周期的格子構造は、互いに直交する第一次元と第二次元において周期的である。蛍光の実施形態では、第一次元における周期的格子構造をバイオセンサからの光学的質問に適合させることによって(空間的および構造的なパラメータが与えられる)、第1色素からの蛍光を生成させると共に、第二次元における周期的格子構造をバイオセンサからの光学的質問に適合させることによって、第2色素からの蛍光を生成させる。
【0171】
別の観点として、周期的表面格子構造を有する基体を含む格子に基づくバイオセンサが企図される。この場合、該周期的表面格子構造をエバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問が可能となるように組み立てることによって、それによりバイオセンサ上に載置されたサンプルからの発光応答を2つの別個の発光波長で発生させ、該2つの別個の発光波長での発光応答を、2つの異なる種類の発光により発生させる。例えば、該2つの異なる種類の発光は、蛍光、燐光、化学ルミネセンスおよびエレクトロルミネセンスの任意の組合せからなる群から選択することができ、例えば、蛍光と化学ルミネセンスである。
【0172】
さらなる例として、単一の所定波長の光により励起させた場合に複数の発光波長で発光応答をもたらす色素を用いてもよい。
【0173】
標識不使用検出と蛍光増幅(ER)を組み合わせたバイオセンサ用読取りシステム
ER法と標識不使用法を組み合わせたバイオセンサに関する上記の説明を参酌しながら次の実施形態について説明する。即ち、センサに質問をした後で、検出器上の単一の結合サイトから標識不使用データとERデータの両方を獲得するために有用な読取り/検出システムのいくつかの実施形態について説明する。
【0174】
読取/検出システム300の第1の実施形態を図25に模式的に示す。図25に示す読取/検出システム300は画像化(imaging)読取りシステムである。バイオセンサ100は、光学スペクトルにおいては標識不使用検出法に対して鋭い共鳴ピークを示すと共に、バイオセンサのエバネッセント領域においては蛍光信号の顕著な増大に対して高電磁場を発現させるように設計される。この読取りシステムは、これらのバイオセンサの特性を利用することによって、これらの効果の両方を読み取る。この開示内容によれば、バイオセンサからの一方又は両方の信号の測定能を有する新規な画像化読取りシステムが提供される。
【0175】
「comBINDセンサ」で示されるバイオセンサ100は、該バイオセンサの底部側から光学的に質問を受ける。バイオセンサ100の上部側においては、該バイオセンサは水又はその他の液体中に浸漬されていてもよく、あるいは空気に曝されていてもよい。いずれかの分子又は細胞の結合相互作用は、該相互作用を検出できるように設計されたバイオセンサ100の上部面側で行われる。バイオセンサ100は、液体保有容器、例えば、各列がウェル(例えば12個のウェル)を有する8列のウェルを備えたマイクロウェルプレートを具備するより大きなアッセイ装置の一部であってもよい。このバイオセンサはマイクロアレイのスライドの構成要素であってもよい。図25に示す構成形態においては、単一ウェル(検出サイト)302は断面図で示されており、この種の検出サイトは数十個、数百個又は数千個存在していてもよい。
【0176】
画像化読取り/検出システム300は、レーザー(例えば、HeNeレーザー等)形態のER光源340、ハロゲン白色光を含む広帯域スペクトルBIND光源350又はLED352、及び連続的な画像におけるERデータと標識不使用データの両方を捕獲するための共通の検出器として機能するCCDカメラシステム338を具備する。該システム300は、光学ビームを合体させるサブシステムを具備する。該サブシステムは、光源340/352からバイオセンサへの入射光の合体と誘導を行うダイクロイックミラー(dichroic mirror)364/330を具備する。ダイクロイックミラー330は検出用信号光を捕集し、これをレンズ336へ誘導し、該レンズを通過した信号光はCCDカメラ338によって撮像される。
【0177】
バイオセンサ100の下部に存在する光ビーム370は照射光372と反射光374から成る。反射光374は直接反射光の他に、バイオセンサ上に蛍光物質が存在するときには該物質から放射される蛍光を含む。
【0178】
レンズシステム336を通過後にCCDカメラ338によって検出される信号は、電子的処理又はコンピュータによるアルゴリズムによって処理されてBIND(標識不使用)データ380又はERデータ382となる。この種のデータは、読取りシステム300のユーザーにより、分析装置を用いて記憶/表示させて分析してもよい。分析装置としては、図25に示すような計測化に使用されるコンピュータ又はワークステーション等であって該データ382/380にアクセスできる装置(図示せず)が例示される。さらに、ユーザーは、BINDデータ380とERデータ382を組み合わせることによって、新規なバイオセンサ100による特有の情報であって、結合相互作用又は細胞相互作用に関する情報を得ることが可能となる
【0179】
図示する構成形態においては、光学的構成要素340/350/330は、入射される単一ビーム372が発生されるように配設され、バイオセンサはX方向とY方向に移動し、これによって、バイオセンサ100の表面上に存在する全てのウェル302又は結合サイトからデータを連続的に得ることができる。このようなバイオセンサの移動は、当業者には周知の手法、即ち、X方向とY方向に移動可能なステージ(図示せず)上にバイオセンサを載置させる手法を用いて行ってもよい。所定のウェル又は結合サイト302がビーム372に適合するように配設される場合の1つの実施形態においては、光源340/350を連続的に(又はバイオセンサ上への直接的放射を可能とするように選択的に)作動させ、第1画像と第2画像(一方の画像はER画像であり、他方の画像はBIND画像である)をCCDカメラによって撮像する。CCD画像の連続的撮像は、ビーム選択機構360(例えば、シャッター)を使用することによって促進させることができる。該ビーム選択機構は光源340又は光源350からの光を選択的に通過させて該光をダイクロイックミラー330へ誘導させた後、バイオセンサ上へ反射させる。ビームの選択も電子的に行うことができる。例えば、光源340/350の作動時間と停止時間を電子的に制御することによって行うことができる。あるいは、両方の光源を同時に作動させ、ビーム選択機構360を両方のビームが通過するように作動させることによって、入射ビームが両方の光源からの光を含むようにしてもよい。この場合、CCDカメラ338はER情報とBIND情報を含む単一画像を撮像する。CCDカメラ338から得られる画像を画像処理法により処理することによって、複合画像の中からBIND成分とER成分が抽出される。
【0180】
ER光源340はレーザー、例えば、ヘリウム/ネオン(HeNe)レーザー等であってもよい。レーザービーム341はさらにビーム調整装置342、例えば、ビーム拡大器等を通過させる。ビーム拡大器342は小さな直径を有するレーザービームを大きな直径を有するレーザービームへ拡大させる。出力ビーム343は平行化された後、直線状に偏光される。バイオセンサは、特定の偏光における入射光に応答してER効果をもたらす。偏光は、直線状に偏光された出力レーザービームを発生するように設定されたレーザーを用いて行ってもよい。
【0181】
BIND(標識不使用)光源350は、ハロゲン又はLED光源352、及び波長調整機構356を有するモノクロメーター354から成っていてもよい。光源352から放射される光ビーム353は本来的に広帯域であり、モノクロメーター354の出口部における光ビーム355は単色性である。
【0182】
モノクロメーター354からの出力光ビーム355はビーム調整装置358によって調整される。該ビーム調整装置はコリメーターであってもよい。ミラー365は、ビーム調整装置358の出力からダイクロイックミラー364へと光ビーム349を誘導する。光源340/350からの合成光366はビームの分割/合成アセンブリー330へ誘導された後、バイオセンサ100の底部表面上へ誘導される。
【0183】
BIND光源350は波長可変レーザーから成っていてもよい。この場合、ビーム調整装置358はビーム拡大器である。BIND測定とER測定の両方に対して波長可変レーザー又はフラッシュランプ(flash lamp)を単一の照射源として使用してもよいことに留意すべきである。
【0184】
さらに、偏光はBIND信号の検出を促進するので、光源352の内部に偏光子を設置することによって、光363を直線状に偏光させてもよい。あるいは、光検出素子365は偏光ビームのスプリッターであってもよく、これにより、ランダム偏光359を直線状偏光363へ変換させてもよい。
【0185】
レーザーで励起された蛍光信号を検出するためには、一組の光学フィルター332/334をビームの分割/合成アセンブリー330に組み入れてもよい。フィルター332はダイクロイックフィルターであり、該フィルターはレーザー光を反射させると共に、試料からの蛍光を透過させる。フィルター332はBIND波長範囲内においてビームスプリッターとしても機能する。1つの好ましい設計における該波長範囲は830nm〜900nmである。フィルター334は2つの波長範囲(レーザーで励起された蛍光とBINDの波長範囲)において光の透過のみを行う。結像レンズ336を使用することによって、バイオセンサ表面上の蛍光を捕獲し、該蛍光をCCDカメラ338の焦点面上へ集束させてもよい。
【0186】
図25に示す設計形態には、ER検出を行うために、入射ビーム372に対してバイオセンサを回転させる回転装置も配置させる。1つの可能な実施形態においては、回転装置331はビームの分割/合成アセンブリー330へ装着され、該アセンブリーを図中の矢印で示す方向に回転させ、これによって、入射ビームを約θの角度で回転させる。別の実施形態においては、回転装置331は省略され、その代わりに、回転装置333がXY方向への移動ステージに装着される。図26の回転装置333の左側の矢印で示すように、該回転装置はXY方向への移動ステージとこれに装着されたバイオセンサ100を固定された入射ビーム372に対して回転させる。
【0187】
所望の性能を達成するために、付加的なレンズ、ミラー及び光学フィルターを上記の読取りシステムへ組み入れてもよい。適当に設計された光学フィルターを使用することによって、BIND検出とER検出との間の望ましくないクロストーク(cross-talk)を排除してもよい。さらに、電子的又は機械的なシャッター360の形態のビーム選択機構を使用することによって、2つのチャンネルの検出と光照射を適当に同期させてもよい。この結果、1つの光源のみを用いてバイオセンサを所定時間照射することによってクロストークを排除することができる。
【0188】
図25に示すバイオセンサの読取りシステムの重要な利点は、同じバイオセンサの位置においてBINDのデータとERのデータを同時に又は立て続けに入手できることである。高分解能画像形成法は多量のバイオアッセイ、例えば、セルに基づくアッセイ又はマイクロアレイを用いるアッセイに対して有用である。
【0189】
積分型の単一点検出器によってCCDカメラ338を置き換えてもよい。この場合、該システムは、検出器の出力を伴う入射放射線372の位置にわたって、センサの動きを同期することによって画像をもたらす。
【0190】
バイオセンサからERのデータを得るためにCCDカメラを使用することに関するさらに詳細な事項は、例えば、下記のような技術文献に記載されており、この文献の開示内容も本明細書の一部を成すものである:ディーター・ノイシェファー及びウォルフガング・ブダッハら、「バイオセンサーズ&バイオエレクトロニックス」、第18巻、2003年、第489頁〜第497頁。
【0191】
読取/検出装置300の第2の実施形態を図26に示す。図25に示す実施形態は画像化読取りシステムであるのに対して、図26に示す実施形態は画像化システムではない。前述のように、バイオセンサ100は、標識を使用しない検出のための光学スペクトルにおいて鋭い共鳴ピークを示すと共に、蛍光信号を著しく増大させるためのバイオセンサのエバネッセント領域において高い電磁場を示すように設計される。バイオセンサのこのような特性に起因して、これらの効果の両方を読取るシステムが必要となる。図26には、バイオセンサからの一方又は両方の信号を測定する別の新規な読取りシステムを示す。
【0192】
バイオセンサ100に対しては、結合サイト(例えば、ウェル302)の位置における底部側から光学的な質問がなされる。バイオセンサ100の上部は水又はその他の液体中に浸漬されていてもよく、あるいは空気に曝されていてもよい。バイオセンサによって検出されるいずれかの生体分子又は細胞の結合性の相互作用はバイオセンサの上部において行われる。ここに記載されたいずれの測定システムも、必要な場合には適当な集束装置を用いてバイオセンサ100を上部(結合側)から読取る。
【0193】
先に言及したように、センサ100は、液体保有容器(例えば、マイクロウェル具有プレート)を具備するより大きなアッセイ装置の一部であってもよい。また、バイオセンサは、マイクロアレイ具有スライドの構成要素であってもよい。
【0194】
読取りシステム300はBIND光源402、BIND検出器400、ER光源406及びER検出器404を具備する。光学システム430は、光源406/402からの光を合成し、該合成光を入射ビーム450としてバイオセンサ100の底部表面上へ誘導する。光学システム430は、バイオセンサからの反射光452をさらに捕集し、該反射光を検出器400/404へ誘導する。光学システム430は4つの光ビーム分割/合成装置432/434/436/438から成り、装置432はBIND検出器用の装置であり、装置434はBIND光源用の装置であり、装置436はER検出器用の装置であり、また装置438はER光源用の装置である。バイオセンサの下方に存在する光ビーム450は入射光452と反射光454から成る。反射光454は反射光の他に、バイオセンサ上に蛍光性物質が存在する場合には該物質が発光する蛍光も含む。
【0195】
BIND(標識不使用)検出器400によって検出される信号は電子的に処理されるか、又はコンピュータによる演算によってBINDデータ380へ変換され、該データは、当該読取りシステムを操作するユーザーにより、コンピュータへ記憶されて表示/解析される。同様に、ER検出器404によって検出された信号は、ユーザーのために処理されてERデータ382へ変換される。さらに、ユーザーは、BINDデータ380とERデータ382を組み合わせることによって、当該新規なバイオセンサに特有の情報である結合性相互作用又は細胞相互作用に関する情報を得ることができる。
【0196】
図26に示す実施形態においても、入射光ビーム452をバイオセンサ100に対して回転させるための回転装置331又はXYステージとバイオセンサ100を入射光452に対して回転させるための回転装置333が含まれる。回転装置331は、アセンブリー430の全体の回転がもたらされるように配置してもよい。
【0197】
図27においては、図26に示すシステムと類似する読取りシステムを、図26の場合よりもより詳細に示す。この実施形態におけるBIND検出器400は分光器である。BIND光源402はタングステンハロゲン電球であってもよく、あるいは発光ダイオード(LED)であってもよい。ER検出器404は光検出器、例えば、光電子増倍管(PMT)を具有していてもよい。ER光源406は、好ましくは、バイオセンサと共に使用される蛍光体の励起帯域内の波長を有するビームを発生するレーザーである。例えば、CY5蛍光体の励起に対してはヘリウム/ネオン(HeNe)である。
【0198】
BIND光源402からの光ビーム456は、BIND信号を検出するための平行光である。従って、光源402はコリメーターレンズを具有していてもよい。さらに、BIND信号の検出は偏光の使用によって改善されるので、光源402は、光456を偏光させる偏光子を具有していてもよい。あるいは、ビームスプリッター434は偏光性のビームスプリッターであってもよく、これによってランダム偏光456を直線状の偏光に変換させてバイオセンサ100の底部へ入射させることができる。
【0199】
レーザー406からの光ビーム458は平行ビームである。レーザービームが直線状に偏光されると、ER性能が改善される。直線状の偏光をもたらすように設計されたレーザーを使用して偏光を達成してもよい。
【0200】
バイオセンサ100からのレーザーで励起された蛍光信号を検出するためには、一組の光学フィルター472/474/476をビーム分割/合成アセンブリー436に組み入れてもよい。フィルター472はレーザー源406からの入射レーザービーム458のビーム分割/合成アセンブリー436内の透過を可能にする。フィルター476はダイクロイックフィルターであり、該フィルターは、光源406からのレーザー光を透過させると共に、バイオセンサ100からの蛍光を光検出器404の方向へ反射させる。フィルター474は、蛍光を透過させて光検出器404へ誘導する。結像レンズ478を使用することによって、バイオセンサ表面上からの蛍光をより効果的に捕集してもよい。
【0201】
所望の性能を達成するために、付加的なレンズ、ミラー及び光学フィルターを上記の読取りシステムへ組み入れてもよい。適当に設計された光学フィルターを使用することによって、BIND検出とER検出との間の望ましくないクロストークを排除してもよい。さらに、電子的又は機械的なシャッターを使用することによって、2つのチャンネルの検出と光照射を適当に同期させてもよい。この結果、1つの光源のみを用いてバイオセンサを所定時間照射することによってクロストークを排除することができる。
【0202】
図25に示す実施形態においては、図26と図27に示す光学的構成要素は、1つの位置において入射するビーム452が発生すると共に、XY方向への移動ステージがバイオセンサをX方向とY方向へ移動させることによって、バイオセンサ100の表面上に存在する全てのウェル302又は結合サイトからデータが連続的に得られるように構成して配置させることができる。1つの実施形態においては、光源402/406を連続的に作動させることによって、ビーム452が照射される所定のウェル又は結合サイト302からのデータを検出器400/404において連続的に発生させる。ERデータとBINDデータの連続的な捕集は、シャッターのようなビーム選択機構(図26には示されていない)の使用又は光源402/406の電子的制御によって促進させることができる。あるいは、両方の光源を同時に作動させることによって、入射ビーム452が両方の光源からの光を含むようにすることができる。この場合、検出器400/404はデータを同時に得る。
【0203】
ここに示すバイオセンサの読取りシステムの重要な利点は、同じバイオセンサの位置においてBINDのデータとERのデータを同時に又は立て続けに入手できることである。BIND検出器400とER検出器404は、1つの結合サイト又はウェルあたりの単一点からのデータを比較的広い領域にわたって得る積分型検出器、又はユーザーによって規定される分解能における画素単位のデータを捕集する画像化検出器(例えば、CCD検出器)であってもよい。高分解能画像化法は多量のバイオアッセイ、例えば、セルに基づくバイオアッセイ又はマイクロアレイを用いるバイオアッセイに対して有用である。
【0204】
さらに、図25〜図27に示す光学的構造体は、例えば、図3に示す形態を利用することにより、バイオセンサ100上に存在する多数のウェル又は結合サイトに対して同時に問い合わせをしてデータが得られるように反復して配設させることができる。
【0205】
単一光発生源を備えた読取りシステム
図25に示す実施形態と図26に示す実施形態においては次の点に留意すべきである。即ち、前者においては、BIND測定用光源350とER測定用光源340が別々に配設されており、後者においては、BIND測定用光源402とER測定用光源406が別々に配設されている。1つの可能な変形形態においては、BIND測定とER測定の両方に対して単一光源を使用してもよい。このような光源としてはいくつかの光源が使用可能であり、例えば、波長可変レーザー、又は広帯域スペクトルを示す高強度閃光電灯等が挙げられる。光源からの出力は所望により平行化し、ビーム拡大器を用いて拡大し(光源として波長可変レーザーを使用する場合)、モノクロメーター又はフィルターを通過させ(閃光電灯を使用する場合)、次いでバイオセンサの表面上へ誘導される。ER信号とBIND信号を検出するために使用される光学装置(optics)は図25〜図27に示す形態及び前述の形態の装置であってもよい。
【0206】
1つの実施形態においては、バイオセンサ中の所定の結合サイトからBINDデータとERデータの両方を得るために、光源を2回作動させることにより、照射用の異なる波長範囲を選択することができる。即ち、一方の波長範囲はBIND測定用であり、他方の波長範囲はER測定用である。例えば、光源の第1活性化においてはBIND検出器によってBINDデータが得られ、一方、光源の第2活性化においてはER検出器によってERデータが得られる。
【0207】
1つの可能な変形形態においては、広帯域光源(例えば、キセノン閃光電灯)を使用する場合、広帯域スペクトルを用いてバイオセンサを照射し、反射信号を分割して2つの異なるフィルターを通過させて方向転換させることによって、BINDデータとERデータを同時に捕集することができる。BIND/ERに係る同時の照射とデータ捕集を実施するためには、プレート面に対する入射角に多少の差異を設けて照射を行う必要がある。鏡面からの直接的な反射成分はBINDピークを含んでおり、該ピークのスペクトル位置はモノクロメーターによって決定される。入射角以外の角度で表面から離反する光のみを集めるレンズ系又は積分球は、問題となる蛍光体の発光の範囲を選択するフィルター又はモノクロメーターを通過した後、比較的鮮明な信号をもたらす。
【0208】
上記の説明においては、例示的な観点と実施形態について議論したが、当業者であれば、これらに関連する特定の修正、変更、追加及び下位概念的組合せが上記の開示内容に包含されることを認識できる。従って、特許請求の範囲によって規定される技術的思想と技術的範囲にはこれらの全ての修正、変更及び下位概念的組合せも包含される。
【0209】
特許請求の範囲において使用される「エバネッセント共鳴(ER)検出」又は「エバネッセント共鳴(ER)検出方式」という用語には、蛍光、燐光、化学発光、電界発光及び、例えば、次の特許文献に記載されているようなその他のタイプの発光の検出が包含される:ブダッハら、米国特許第6707561号。この種の発光は、試料物質の天然発光又は結合物質(例えば、蛍光標識)、あるいは量子ドット(発光性金属)に起因する。この種の結合物質は被験試料、バイオセンサの表面又はこれらの双方に結合していてもよい。
【符号の説明】
【0210】
10 バイオセンサ、12 低屈折率材料、14 高屈折率材料、16 基体、20 ウェル、22 サンプル、26 バイオセンサ装置、30 白色光源、32 照射光ファイバー、34 コリメーターレンズ、36 検出光ファイバー、38 分光器、40 照明/検出ヘッド、100 格子構造、102 構造化層、104 中間材、106 最上部材料、200 構造、201 リッジ、203 TiO層、210 ホール、220 ポスト、300 読取/検出システム、302 単一ウェル、330 ダイクロイックミラー、332,334 光学フィルター、333 回転装置、336 レンズ、338 CCDカメラシステム、340 ER光源、341 レーザービーム、342 ビーム調整装置、343 ビーム拡大器、350 BIND光源、352 LED、353 光ビーム、354 モノクロメーター、355 出力光ビーム、356 波長調整機構、358 ビーム調整装置、359 ランダム偏光、360 ビーム選択機構、363 直線状偏光、365 光検出素子、366 合成光、370 光ビーム、372 照射光、374 反射光、380 BINDデータ、382 ERデータ、500 単位セル、502,504 BIND格子、506,508,510,512 上部の反復表面、514,516,518,519 下部の反復表面、520 水または空気、522 TiO層またはSiO層、524 UV硬化ポリマー層、700 SiO層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1または複数の細胞を含有するサンプルに対する細胞に基づくアッセイの実施方法であって、下記の工程(1)〜(4)を含む該実施方法:
(1)周期的表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサ基体であって、該周期的表面格子構造が、1)エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問および2)標識不使用方式における光によるセンサの光学的質問の両方が可能となるように組み立てられている該バイオセンサ基体を用意する工程、
(2)サンプルをバイオセンサに塗布する工程、
(3)下記の(a)〜(m)の少なくとも1つ事象を測定するためにバイオセンサを用いる工程:
(a)サンプル中の細胞の格子構造表面への付着、
(b)サンプル中の細胞のセンサまたはセンサを覆う細胞外マトリックスへの接着、
(c)サンプル中の細胞の他の細胞への接着、
(d)サンプル中の細胞の形態変化、
(e)サンプル中の細胞の走化性、
(f)細胞からセンサ付近へのタンパク質の開口分泌、
(g)センサ付近における細胞内外へのイオン流動、
(h)細胞移動、
(i)細胞の平板化または球状化、
(j)細胞の成長または分化、
(k)細胞死、
(l)サンプル中の細胞の細胞骨格再配置、および
(m)サンプル中の細胞の内外のタンパク質の再配置、再編成または変異発現、および
(4)サンプル中の細胞の細胞機能に対する下記の(a)〜(q)の少なくとも一つ物質の影響を測定するためにバイオセンサを用いる工程:
(a)候補薬剤化合物、
(b)タンパク質、
(c)ペプチドまたは修飾ペプチド、
(d)抗体、免疫親和性タンパク質またはその断片、
(e)修飾DNAを含むDNA(生物学的効果を引き出すために公知のもの)、
(f)修飾RNAiを含むRNAi、
(g)RNA(修飾RNAを含む)、
(h)ケモカイン、
(i)ウィルス、
(j)バクテリアまたは他の有機体を含む他の細胞、
(k)改質結合領域(例えば、アフィボディ、設計アンキリン反復タンパク質、アドネクチン)、
(l)糖質または修飾糖質、
(m)イオン、
(n)脂質および修飾脂質、
(o)金属、
(p)無機溶媒、および
(q)有機溶媒。
【請求項2】
上記細胞機能が、細胞表面タンパク質の機能または発現を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記細胞機能が、細胞の生存能力または生存能力の変化を含む請求項1記載の方法。
【請求項4】
上記細胞機能が、内部の細胞の機能または発現を含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
上記細胞機能が、膜または膜結合細胞の機能または発現を含む請求項1記載の方法。
【請求項6】
上記細胞機能が、Gタンパク質結合受容体(GPCR)信号を含む請求項1記載の方法。
【請求項7】
上記細胞機能が、イオンチャンネル標的化薬に対する心臓毒性的な反応を含む請求項1記載の方法。
【請求項8】
上記候補薬化合物が、イオンチャンネル標的化薬を含む請求項1記載の方法。
【請求項9】
上記格子に基づくバイオセンサが、二次元の周期的格子として組み立てられている請求項1記載の方法。
【請求項10】
上記バイオセンサがマイクロプレートに取り付けられている請求項1記載の方法。
【請求項11】
上記バイオセンサが、隔離されたサンプル収容部を具有する取付装置の中に取り付けられている請求項1記載の方法。
【請求項12】
上記バイオセンサが顕微鏡用スライドガラスに取り付けられている請求項1記載の方法。
【請求項13】
上記取付装置がカートリッジを含む請求項11記載の方法。
【請求項14】
上記工程(3)の測定を標識不使用方式で行う請求項1記載の方法。
【請求項15】
上記工程(4)の測定をER検出方式で行う請求項1記載の方法。
【請求項16】
周期的表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサであって、
該周期的表面格子構造をエバネッセント共鳴(ER)検出方式において2つの別個の波長における励起光によるセンサの光学的質問が可能となるように組み立てることによって、バイオセンサ上に載置されたサンプルから、少なくとも2つの別個の発光波長において発光応答を発生させる該バイオセンサ。
【請求項17】
上記発光応答が蛍光による応答を含み、該蛍光が天然蛍光またはサンプルに付着した蛍光性物質により生成する蛍光である請求項16記載のバイオセンサ。
【請求項18】
上記発光応答が燐光による応答を含む請求項16記載のバイオセンサ。
【請求項19】
上記発光応答が、バイオセンサ上に載置したサンプルに結合した色素により生成させる請求項16記載のバイオセンサ。
【請求項20】
第1発光波長がスペクトルの近赤外光域にあり、第2発光波長がスペクトルの可視光域にある請求項16記載のバイオセンサ。
【請求項21】
第1発光波長がバイオセンサ上に載置されたサンプルに結合した第1色素の発光波長に対応し、第2発光波長がサンプルに結合した第2色素の発光波長に対応する請求項16記載のバイオセンサ。
【請求項22】
上記第1色素がシアニン−5を含み、上記第2色素がシアニン−3を含む請求項20記載のバイオセンサ。
【請求項23】
上記格子構造が二次元の周期的格子構造を有し、該周期的格子構造が相互に直交する第一次元および第二次元において周期的であり、第一次元における該周期的格子構造が、第1色素から蛍光を発生させるようにバイオセンサの光学的質問に対して最適化され、および第二次元における該周期的格子構造が、第2色素から蛍光を発生させるように光学的質問に対して最適化され、第1色素および第2色素が異なる波長で蛍光を放射する請求項20記載のバイオセンサ。
【請求項24】
周期的表面格子構造を有する基体を含む格子に基づくバイオセンサであって、
該周期的表面格子構造をエバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問が可能となるように組み立てることによって、バイオセンサ上に載置されたサンプルからの2つの別個の波長による発光応答を生成させ、該2つの別個の波長による発光応答を2つの異なる種類の発光により生成させる該バイオセンサ。
【請求項25】
上記2つの異なる種類の発光の内の1種類が蛍光を含み、該蛍光が、天然蛍光またはサンプルに付着した蛍光性物質から生成する蛍光である請求項24記載のバイオセンサ。
【請求項26】
上記2つの異なる種類の発光の内の1種類が燐光を含む請求項24記載のバイオセンサ。
【請求項27】
上記2つの異なる種類の発光の内の1種類が化学ルミネセンスを含む請求項24記載のバイオセンサ。
【請求項28】
上記2つの異なる種類の発光の内の1種類がエレクトロルミネセンスを含む請求項24記載のバイオセンサ。
【請求項29】
上記2つの別個の波長の少なくとも一つにおける発光応答を、サンプルに結合した色素により生成させる請求項24記載のバイオセンサ。
【請求項30】
上記格子構造が二次元の周期的格子構造を含み、かつ該該周期的格子構造が第一次元と第二次元において周期的であって、第一次元と第二次元とが互いに直交している請求項24記載のバイオセンサ。
【請求項31】
1または複数の細胞を含有するサンプルに対する細胞に基づくアッセイの実施方法であって、下記の工程(1)から(4)を含む該実施方法:
(1)周期的表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサ基体であって、該周期的表面格子構造が、1)エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問および2)標識不使用方式における光によるセンサの光学的質問の両方が可能となるように組み立てられている該バイオセンサ基体を用意する工程、
(2)サンプルをバイオセンサに塗布する工程、
(3)サンプル中の細胞の格子構造に対する細胞付着を測定するためにバイオセンサを用いる工程、および
(4)サンプル中の細胞の細胞機能に対する候補薬剤化合物の影響を測定するためにバイオセンサを用いる工程。
【請求項32】
上記細胞機能の測定を標識不使用検出方式で行う請求項31記載の方法。
【請求項33】
上記候補薬剤化合物の影響の測定をER検出方式で行う請求項31記載の方法。
【請求項34】
上記細胞機能が、細胞表面タンパク質の機能または発現を含む請求項31記載の方法。
【請求項35】
上記細胞機能が、細胞の生存能力または生存能力の変化を含む請求項31記載の方法。
【請求項36】
上記バイオセンサがマイクロプレートに取り付けられている請求項31記載の方法。
【請求項37】
上記候補薬剤化合物が、イオンチャンネル標的化薬を含む請求項31記載の方法。
【請求項38】
上記細胞機能が、イオンチャンネル標的化薬に対する心臓毒性的な反応を含む請求項31記載の方法。
【請求項39】
上記格子に基づくバイオセンサの基体が、二次元の周期的格子として組み立てられている請求項31記載の方法。
【請求項40】
上記バイオセンサを、候補薬剤のリガンド依存型イオンチャンネルへの影響を測定するために用いる請求項1または請求項31に記載の方法。
【請求項41】
上記細胞が内因性標的発現細胞である請求項1または31に記載の方法。
【請求項42】
上記バイオセンサをER方式または標識不使用方式のいずれかの方式で用いることによって、細胞外マトリックス成分の可溶性物質またはセンサ被覆補修物としてのバイオセンサに対する付加を測定する請求項1または請求項31記載の方法。
【請求項43】
1または複数の細胞を含有するサンプルに対する細胞に基づくアッセイの実施方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含む該実施方法:
(1)周期的表面格子構造を有する格子に基づくバイオセンサ基体であって、該周期的表面格子構造が、1)エバネッセント共鳴(ER)検出方式における光によるセンサの光学的質問および2)標識不使用方式における光によるセンサの光学的質問の両方が可能となるように組み立てられている該バイオセンサ基体を用意する工程、
(2)サンプルをバイオセンサに塗布する工程、および
(3)少なくとも2つの異なる細胞種の相互作用をモニターする工程であって、一方の細胞種を標識不使用方式で測定し、他方の細胞種をER方式で測定する工程。
【請求項44】
上記細胞に基づくアッセイが、細胞浸透実験を含み、該実験では、第1細胞層をセンサ上に置き、別の細胞種からなる第2細胞層を第1細胞層の上面に置き、第2細胞層の細胞の、第1細胞層を通過する能力を測定する請求項43記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図19G】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公表番号】特表2010−530069(P2010−530069A)
【公表日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512151(P2010−512151)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/007031
【国際公開番号】WO2008/156560
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(503159210)エス アール ユー バイオシステムズ,インコーポレイテッド (24)
【Fターム(参考)】