説明

横方向挙動量検出手段のゼロ点補正装置

【課題】 車両の横方向挙動量を検出する横方向挙動量検出手段のゼロ点を短時間で精度良く補正する。
【解決手段】 規範ヨーレート算出手段M1および規範横加速度算出手段M2は、操舵角θおよび車速Vに基づいて規範ヨーレートγrefおよび規範横加速度YGrefを算出し、直進走行状態判定手段M3が規範横加速度YGrefに基づいて車両の直進走行状態を判定すると、ゼロ点補正手段M4が規範ヨーレートγrefおよび規範横加速度YGrefに対するヨーレートγおよび横加速度YGの偏差が減少するようにヨーレートセンサ14および横加速度センサ13の出力を補正するので、車両が概ね直線走行状態にあるときに常にヨーレートセンサ14の出力および横加速度センサ13の出力のゼロ点補正を行うことができ、そのゼロ点補正を速やかに完了させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横加速度やヨーレートのような車両の横方向挙動量を検出する横方向挙動量検出手段のゼロ点を補正するためのゼロ点補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の横加速度やヨーレートを検出するためのセンサは、車両が直進走行状態にあるとき(横加速度およびヨーレートがゼロのとき)、ゼロ点に対応する基準電圧を出力するように設定されており、右方向の横加速度やヨーレートが増加するとセンサが出力する電圧が基準電圧から例えば増加し、逆に左方向の横加速度やヨーレートが増加するとセンサが出力する電圧が基準電圧から例えば減少するようになっている。しかしながら、センサの個々の特性のばらつきや経時的な変化により、車両が直進走行状態にあってもセンサがゼロ点に対応する基準電圧を出力しない場合があり、センサのゼロ点補正を行わないとその出力が正しい値を表さない可能性がある。
【0003】
そこで、ステアリングホイールの操舵角が操舵角センサのゼロ点を通過する時点の横加速度センサの出力値の所定回数の平均値をとり、その平均値が横加速度センサのゼロ点となるようにゼロ点補正を行うものが、下記特許文献1により公知である。
【特許文献1】特許第3213546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来のものは、ステアリングホイールの操舵角が操舵角センサのゼロ点を所定回数通過するまで横加速度センサのゼロ点補正が行われないため、車両の運転状態によってはゼロ点補正が行われるまでに長い時間が掛かる場合があった。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両の横方向挙動量を検出する横方向挙動量検出手段のゼロ点を短時間で精度良く補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、運転者による操舵装置の操作量を検出する操舵操作量検出手段と、前記操舵操作量検出手段で検出した操舵装置の操作量に基づいて規範横方向挙動量を設定する規範横方向挙動量設定手段と、車両の横方向挙動量を検出する横方向挙動量検出手段と、車両の直進走行状態を判定する直進走行状態判定手段と、前記直進走行状態判定手段が車両の直進走行状態を判定したときに、前記規範横方向挙動量に対する前記横方向挙動量の偏差が減少するように、前記横方向挙動量検出手段の出力を補正するゼロ点補正手段とを備えることを特徴とする横方向挙動量検出手段のゼロ点補正装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ゼロ点補正手段は、前記偏差が大きいときほど前記補正量を大きくすることを特徴とする横方向挙動量検出手段のゼロ点補正装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記横方向挙動量検出手段はヨーレートセンサおよび横加速度センサであり、前記ゼロ点補正手段は前記ヨーレートセンサおよび前記横加速度センサの出力を同時に補正することを特徴とする横方向挙動量検出手段のゼロ点補正装置が提案される。
【0009】
尚、実施の形態の操舵角センサ11は本発明に操舵操作量検出手段に対応し、実施の形態のヨーレートセンサ14および横加速度センサ13は本発明の横方向挙動量検出手段に対応し、実施の形態の規範ヨーレート算出手段M1および規範横加速度算出手段M2は本発明の規範横方向挙動量設定手段に対応し、実施の形態のヨーレートオフセット量OFS1および横加速度オフセット量OFS2は本発明の偏差に対応し、実施の形態のヨーレートγおよび横加速度YGは本発明の車両の横方向挙動量に対応し、実施の形態の規範ヨーレートγrefおよび規範横加速度YGrefは本発明の規範横方向挙動量に対応し、実施の形態の操舵角θは本発明の操舵装置の操作量に対応する。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の構成によれば、操舵操作量検出手段が運転者による操舵装置の操作量を検出すると、規範横方向挙動量設定手段が操舵操作量検出手段で検出した操舵装置の操作量に基づいて規範横方向挙動量を設定し、直進走行状態判定手段が車両の直進走行状態を判定すると、ゼロ点補正手段が規範横方向挙動量に対する横方向挙動量の偏差が減少するように横方向挙動量検出手段の出力を補正するので、車両が概ね直線走行状態にあるときに常に横方向挙動量検出手段の出力のゼロ点補正を行うことができ、そのゼロ点補正を速やかに完了させることができる。
【0011】
また請求項2の構成によれば、ゼロ点補正手段は偏差が大きいときほど補正量を大きくするので、横方向挙動量検出手段のゼロ点を一層速やかに補正することができる。
【0012】
また請求項3の構成によれば、ゼロ点補正手段はヨーレートセンサの出力および横加速度センサの出力を同時に補正するので、例えばヨーレートおよび横加速度からタイヤのスリップ角の微分値を算出するような場合に、その算出精度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を添付の図面に基づいて説明する。
【0014】
図1〜図3は本発明の第1の実施の形態を示すもので、図1はヨーレートセンサおよび横加速度センサのゼロ点補正を行う電子制御ユニットに接続された各センサを示す図、図2は電子制御ユニットの回路構成を示す図、図3はヨーレートセンサおよび横加速度センサのゼロ点補正の手順を示すフローチャートである。
【0015】
図1に示すように、電子制御ユニットUには、ステアリングホイールの操舵角θを検出する操舵角センサ11と、車速Vを検出する車速センサ12と、車両の横加速度YGを検出する横加速度センサ13と、車両のヨーレートγを検出するヨーレートセンサ14とが接続される。電子制御ユニットUは、それらの操舵角θ、車速V、横加速度YGおよびヨーレートγに基づいて、横加速度センサ13およびヨーレートセンサ14のゼロ点を補正する。
【0016】
図2に示すように、電子制御ユニットUは、規範ヨーレート算出手段M1と、規範横加速度算出手段M2と、直進走行状態判定手段M3と、ゼロ点補正手段M4とを備えており、規範ヨーレート算出手段M1には車速Vおよび操舵角θが入力され、規範横加速度算出手段M2には車速Vおよび規範ヨーレートγrefが入力され、直進走行状態判定手段M3には規範横加速度YGrefが入力され、ゼロ点補正手段M4には直進走行状態判定信号、規範横加速度YGref、規範ヨーレートγref、横加速度YGおよびヨーレートγが入力される。
【0017】
規範ヨーレート算出手段M1は、車速Vおよび操舵角θに基づいて、その車速Vおよび操舵角θにおいて車両に発生しているはずである規範ヨーレートγrefを算出する。即ち、操舵角θが決まると車両の旋回半径Rが決まり、その旋回半径Rおよび車速Vから規範横加速度γrefをγref=V/Rにより算出する。
【0018】
規範横加速度算出手段M2は、規範ヨーレート算出手段M1で算出した規範ヨーレートγrefに車速Vを乗算することで規範横加速度YGrefをYGref=V2 /Rにより算出する。
【0019】
直進走行状態判定手段M3は、規範横加速度算出手段M2で算出した規範横加速度YGrefが所定値(例えば、0.1G)以下のとき、車両が直進走行状態にあると判定する。
【0020】
規範ヨーレート算出手段M1、規範横加速度算出手段M2および直進走行状態判定手段M3に接続されたゼロ点補正手段M4は、直進走行状態判定手段M3が車両の直進走行状態を判定したときに、横加速度センサ13およびヨーレートセンサ14のゼロ点を補正する。
【0021】
ゼロ点補正手段M4が出力する横加速度YGの補正量±ΔYGは、横加速度センサ13が出力する横加速度YGに加算されて補正された横加速度YGが算出され、またゼロ点補正手段M4が出力するヨーレートγの補正量±Δγは、ヨーレートγセンサ14が出力するヨーレートγに加算されて補正されたヨーレートγが算出される。
【0022】
次に、ゼロ点補正手段M4の機能を中心に、図3のフローチャートを参照しながら本実施の形態の作用を説明する。
【0023】
先ずステップS1で直進走行状態判定手段M3が規範横加速度YGrefが0.1G以下であって車両が直進走行中であると判定すると、ステップS2で規範ヨーレート算出手段M1が規範ヨーレートγrefをγref=V/Rにより算出する。続くステップS3〜S6はゼロ点補正手段M4により行われる処理で、ステップS3でヨーレートオフセット量OFS1を、ヨーレートセンサ14が出力するヨーレートγから規範ヨーレートγrefを減算することで算出する。
【0024】
OFS1=γ−γref
車両の直進走行中には、旋回半径Rは無限大あるために規範ヨーレートγrefはゼロになるはずであるが、規範横加速度YGrefが0.1G以下という条件は車両が完全な直進走行中であることを保証するものではなく、また旋回半径Rを算出する根拠となる操舵角θも誤差を含んでいるため、規範ヨーレートγrefは完全にゼロになる保証は無い。また車両の直進走行中にはヨーレートγセンサ14が出力するヨーレートγはゼロになるはずであるが、車両が完全な直進走行中であることが保証されておらず、かつヨーレートセンサ14の出力も誤差を含んでいるため、ヨーレートγは完全にゼロになる保証は無い。よって、ヨーレートオフセット量OFS1もゼロにならず、所定の値を持つのが通常である。
【0025】
続くステップS4でヨーレートオフセット量OFS1がゼロ以上であれば、ヨーレートγが規範ヨーレートγref以上であるため、ステップS5でヨーレートセンサ14が出力するヨーレートγから予め設定された一定の補正量Δγを減算する補正を行う。一方、前記ステップS4でヨーレートオフセット量OFS1がゼロ未満であれば、ヨーレートγが規範ヨーレートγref未満であるため、ステップS6でヨーレートセンサ14が出力するヨーレートγに予め設定された一定の補正量Δγを加算する補正を行う。
【0026】
このように、ループ毎にヨーレートセンサ14が出力するヨーレートγを補正量Δγずつ増減する補正を行うことで、補正されたヨーレートγがゼロ点補正手段M4にフィードバックされ(図2参照)、ヨーレートセンサ14が出力するヨーレートγはループ毎に正しい値、つまり直進走行状態に対応する値に収束して行き、ヨーレートセンサ14のゼロ点が較正される。
【0027】
続くステップS7で規範横加速度算出手段M2が規範横加速度YGrefをYGref=V2 /Rにより算出する。続くステップS8〜S11はゼロ点補正手段M4により行われる処理で、ステップS8で横加速度オフセット量OFS2を、横加速度センサ14が出力する横加速度YGから規範横加速度YGrefを減算することで算出する。
【0028】
OFS2=YG−YGref
車両の直進走行中には、旋回半径Rは無限大あるために規範横加速度YGrefはゼロになるはずであるが、規範横加速度YGrefが0.1G以下という条件は車両が完全な直進走行中であることを保証するものではなく、また旋回半径Rを算出する根拠となる操舵角θも誤差を含んでいるため、規範横加速度YGrefは完全にゼロになる保証は無い。また車両の直進走行中には横加速度センサ13が出力する横加速度YGはゼロになるはずであるが、車両が完全な直進走行中であることが保証されておらず、かつ横加速度センサ13の出力も誤差を含んでいるため、横加速度YGは完全にゼロになる保証は無い。よって、横加速度オフセット量OFS2もゼロにならず、所定の値を持つのが通常である。
【0029】
続くステップS9で横加速度オフセット量OFS2がゼロ以上であれば、横加速度YGが規範横加速度YGref以上であるため、ステップS10で横加速度センサ13が出力する横加速度YGから予め設定された一定の補正量ΔYGを減算する補正を行う。一方、前記ステップS9で横加速度オフセット量OFS2がゼロ未満であれば、横加速度YGが規範横加速度YGref未満であるため、ステップS11で横加速度センサ13が出力する横加速度YGに予め設定された一定の補正量ΔYGを加算する補正を行う。
【0030】
このように、ループ毎に横加速度センサ13が出力する横加速度YGを補正量ΔYGずつ増減する補正を行うことで、補正された横加速度YGがゼロ点補正手段M4にフィードバックされ(図2参照)、横加速度センサ13が出力する横加速度YGはループ毎に正しい値、つまり直進走行状態に対応する値に収束して行き、横加速度センサ13のゼロ点が較正される。
【0031】
以上のように、車両が概ね直線走行状態にあるとき、例えば実施の形態では規範横加速度YGrefが0.1G以下のときに、常に横加速度センサ13およびヨーレートセンサ14のゼロ点補正が実行されるので、横加速度センサ13およびヨーレートセンサ14のゼロ点誤差を常に小さい状態に維持して横加速度YGおよびヨーレートγを用いた制御の精度を高めることができる。
【0032】
また横加速度センサ13のゼロ点補正とヨーレートセンサ14のゼロ点補正とを同時に行うので、例えば横加速度YGおよびヨーレートγからタイヤのスリップ角の微分値を算出するような場合に、横加速度センサ13およびヨーレートセンサ14のゼロ点補正をそれぞれ別個に行う場合に比べて、タイヤのスリップ角の微分値の算出精度を高めることができる。
【0033】
次に、図4に基づいて本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0034】
図3のフローチャートのステップS5,S6ではヨーレートγの補正量Δγが予め設定された一定値であり、ステップS10,S11では横加速度YGの補正量ΔYGが予め設定された一定値であるが、第2の実施の形態ではヨーレートγの補正量Δγおよび横加速度YGの補正量ΔYGが可変値とされる。
【0035】
図4(A)は、ヨーレートオフセット量OFS1の絶対値|OFS1|からヨーレートγの補正量Δγを検索するマップを示すもので、|OFS1|が増加するに伴ってヨーレートγの補正量Δγがリニアに増加するように設定される。
【0036】
図4(B)は、横加速度オフセット量OFS2の絶対値|OFS2|から横加速度YGの補正量ΔYGを検索するマップを示すもので、|OFS2|が増加するに伴って横加速度YGの補正量ΔYGがリニアに増加するように設定される。
【0037】
このように、ヨーレートオフセット量OFS1の絶対値および横加速度オフセット量OFS2の絶対値が大きいときに、ヨーレートγの補正量Δγおよび横加速度YGの補正量ΔYGを大きくすることで、ヨーレートセンサ14および横加速度センサのゼロ点を一層速やかに較正することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0039】
例えば、実施の形態では直進走行状態判定手段M3が規範横加速度YGrefに基づいて車両の直進走行状態を判定しているが、規範ヨーレートγrefに基づいて車両の直進走行状態を判定しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】第1の実施の形態に係るヨーレートセンサおよび横加速度センサのゼロ点補正を行う電子制御ユニットに接続された各センサを示す図
【図2】電子制御ユニットの回路構成を示す図
【図3】ヨーレートセンサおよび横加速度センサのゼロ点補正の手順を示すフローチャート
【図4】第2の実施の形態に係るヨーレート補正量および横加速度補正量を検索するマップを示す図
【符号の説明】
【0041】
11 操舵角センサ(操舵操作量検出手段)
13 横加速度センサ(横方向挙動量検出手段)
14 ヨーレートセンサ(横方向挙動量検出手段)
M1 規範ヨーレート算出手段(規範横方向挙動量設定手段)
M2 規範横加速度算出手段(規範横方向挙動量設定手段)
M3 直進走行状態判定手段
M4 ゼロ点補正手段
OFS1 ヨーレートオフセット量(偏差)
OFS2 横加速度オフセット量(偏差)
YG 横加速度(車両の横方向挙動量)
YGref 規範横加速度(規範横方向挙動量)
γ ヨーレート(車両の横方向挙動量)
γref 規範ヨーレート(規範横方向挙動量)
θ 操舵角(操舵装置の操作量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者による操舵装置の操作量(θ)を検出する操舵操作量検出手段(11)と、
前記操舵操作量検出手段(11)で検出した操舵装置の操作量(θ)に基づいて規範横方向挙動量(γref,YGref)を設定する規範横方向挙動量設定手段(M1,M2)と、
車両の横方向挙動量(γ,YG)を検出する横方向挙動量検出手段(14,13)と、 車両の直進走行状態を判定する直進走行状態判定手段(M3)と、
前記直進走行状態判定手段(M3)が車両の直進走行状態を判定したときに、前記規範横方向挙動量(γref,YGref)に対する前記横方向挙動量(γ,YG)の偏差(OFS1,OFS2)が減少するように、前記横方向挙動量検出手段(14,13)の出力を補正するゼロ点補正手段(M4)と、
を備えることを特徴とする横方向挙動量検出手段のゼロ点補正装置。
【請求項2】
前記ゼロ点補正手段(M4)は、前記偏差(OFS1,OFS2)が大きいときほど前記補正量を大きくすることを特徴とする、請求項1に記載の横方向挙動量検出手段のゼロ点補正装置。
【請求項3】
前記横方向挙動量検出手段はヨーレートセンサ(14)および横加速度センサ(13)であり、前記ゼロ点補正手段(M4)は前記ヨーレートセンサ(14)および前記横加速度センサ(13)の出力を同時に補正することを特徴とする、請求項1に記載の横方向挙動量検出手段のゼロ点補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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