樹枝状部分を有する金属ナノ粒子及びその製法
【課題】高い比表面積と共に良好な熱的安定性を有する微細構造の金属(代表的なものは白金)ナノ粒子を提供する。
【解決手段】金属ナノ粒子が樹枝状部分を有するようにする。中心部より放射状に樹枝状部分が伸長した金平糖形状を有すること、結晶構造体であること、金属元素は、白金(Pt)、金(Au)又はパラジウム(Pd)のいずれかであること、少なくとも40m2/gの比表面積を有すること、前記金属ナノ粒子の粒径は17±10nmであり、その粒径バラツキ(標準偏差)は2nm以内であることなどが好ましい。このような金属ナノ粒子は以下のステップによって用意に製造することができる。(a)生成原料である金属塩類の溶液に界面活性剤を混合して混合液を得る。(b)前記混合液中に前記金属塩類を還元する還元剤を混合し、前記金属塩類を還元して金属ナノ粒子を生成する。
【解決手段】金属ナノ粒子が樹枝状部分を有するようにする。中心部より放射状に樹枝状部分が伸長した金平糖形状を有すること、結晶構造体であること、金属元素は、白金(Pt)、金(Au)又はパラジウム(Pd)のいずれかであること、少なくとも40m2/gの比表面積を有すること、前記金属ナノ粒子の粒径は17±10nmであり、その粒径バラツキ(標準偏差)は2nm以内であることなどが好ましい。このような金属ナノ粒子は以下のステップによって用意に製造することができる。(a)生成原料である金属塩類の溶液に界面活性剤を混合して混合液を得る。(b)前記混合液中に前記金属塩類を還元する還元剤を混合し、前記金属塩類を還元して金属ナノ粒子を生成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池等の電極や工業触媒に利用可能な金属ナノ粒子に関する。また、それを製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子の代表的な例として、白金(Pt)ナノ粒子の現状を以下に説明する。
白金(Pt)ナノ粒子は、触媒として高い活性を持つことが知られており、電池などの電極や工業触媒(自動車の場合は排気ガスの浄化触媒)として広く用いられている。白金の比表面積が大きくなると、露出している白金の表面積が相対的に増加するため、触媒機能が非常に活性化する。そのため、これまでにもナノ粒子、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノ(メソ)ポーラス物質等の様々な白金ナノ材料の合成が盛んに研究され、開発されてきた。
これまでに開発されてきたナノファイバー、ナノチューブ、ナノ(メソ)ポーラス物質等の白金ナノ材料の比表面積は30m2/g程度であり、市販の白金黒と同レベルである。逆ミセル法等により高い比表面積を有するナノ粒子(粒子サイズ:数nm程度)も合成されているが、この比表面積は、粒子径を単に小さくしたことにより達成されたものであり、熱的に安定な粒子径を持った金属ナノ粒子の比表面積を大きくすることは困難とされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、熱的に安定な粒子径を有しながら、従来の同様な粒子径をもつものに比し大きな比表面積を有する金属ナノ粒子とその製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、金属元素からなるとともに樹枝状部分を有する金属ナノ粒子が与えられる。
本発明の他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は中心部より放射状に樹枝状部分が伸長した金平糖形状を有することが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は結晶構造体であることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は単一の金属元素のみにより構成されていることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子の金属元素は白金(Pt)、金(Au)又はパラジウム(Pd)のいずれかであることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は少なくとも40m2/gの比表面積を有することが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子の粒径が17±10nmであり、その粒径バラツキ(標準偏差)は2nm以内であることが好ましい。
【0005】
本発明によれば、以下の(a)から(b)のステップを有し、樹枝上部分を有する金属ナノ粒子を製造する方法も与えられる。
(a) 生成原料である金属塩類の溶液に界面活性剤を混合して混合液を得る。
(b) 上述の混合液中に上述の金属塩類を還元する還元剤を混合し、上述の金属塩類を還元して金属ナノ粒子を生成する。
本発明の更に他の側面によれば、上述の界面活性剤はブロックコポリマーが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述のブロックコポリマーは、ポリエチレンオキサイド(PEO)とポリプロピレンオキサイド(PPO)とのジブロックコポリマー若しくはトリブロックコポリマーが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の混合液中の前記界面活性剤の濃度はミセル形成濃度未満が好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述のステップ(b)の前に金属塩類の混合液をエージング処理するステップを設けることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の還元剤はアスコルビン酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属ナノ粒子は樹枝状部分を有するため、その粒子径に比べ大きな比表面積を有することになった。
故に、熱安定性を持つ直径であっても、従来に比し極めて高い比表面積を持つようにすることができるようになった。
また、その製造法によって、得られる本願発明の金属ナノ粒子は、その粒子径のばらつきが少なく、実用上に高い信頼性を持った、金属ナノ粒子を生成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の合成過程の色相変化を説明するための図(写真)である。
【図2】実施例1のUV−可視光スペクトラムを示す図である。
【図3】上(A)は実施例1のPtナノ粒子(DPN)のTEM像であり、下(B)は同DPNのHAADF TEM像である。なお、上(A)における挿入図はSAEDパターンである。
【図4】実施例1のPtナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図5】実施例1のPtナノ粒子の広角XRDパターンである。
【図6】実施例1のPtナノ粒子を250℃で2h加熱した後のTEM像である。
【図7】実施例1の遠沈洗浄後のPtナノ粒子のFT−IRスペクトラム、および粉状のPluronic F127のFT−IRスペクトラムを示す。
【図8】実施例1の遠沈洗浄後のPtナノ粒子のN2吸着−脱着曲線を示す。
【図9】実施例2のPtナノ粒子のTEM像を示す。
【図10】実施例3のPtナノ粒子のTEM像を示す。
【図11】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図12】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図13】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図14】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図15】図3に示す粒子一個についての高分解TEM像を示す。(樹枝状部の境界を矢印で示す。)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の金属ナノ粒子は、伸張した樹枝状部分を有する形状(以下、デンドリック形状という)を有する。好ましくは、この金属ナノ粒子は中心部より放射状に樹枝状部分が伸張した形状を有する。好ましくはこの金属ナノ粒子は結晶体である。本件実施例により製造された金属ナノ粒子の結晶性が高いものであることは、図15に示す高分解TEM像より明らかである。当該写真は、実施例1にて得られたfcc構造を有するPtナノ粒子1個を(111)面から撮影したものであり、その右側には左側の写真中で白い四角形で示す枠中を拡大した詳細写真を配置してある。
図15の写真においては、格子縞が左側の全体写真のいくつかの樹枝状部にわたって一様に広がっている。矢印で示されているように、ドメイン境界がはっきり観察できるので、個々のPtナノ粒子は単結晶性ではない。また、図15中の詳細写真によれば、結晶の格子間距離(d spacing)が0.23nmであり、また二面角(dihedral angle)が約70度であるので、この結晶格子縞はPtの(111)面に対応することがわかる。
また、250℃で2hrという加熱を施しても、その前後において形状の変化が生じない高い熱安定を有する点においても、結晶体であり凝集体ではないことが明らかである。
なお、熱安定性を保証するには、Ptナノ粒子の場合にはその直径が7nm以上とするのが望ましい。
また、図5のXRDパターンからは、得られたナノ粒子はPt元素のみからなる単元素結晶体であることが明らかである。
単金属元素のナノ粒子の比表面積が大きいことは、他の複合物などにくらべ、その表面機能を確実かつ容易に発現させることを意味する。
また、その比表面積は、粒子径にもよるが、40m2/g以上(好ましくは、55m2/g以上)とすることに成功したものである。
本発明の金属ナノ粒子は、生成原料である金属塩類の溶液に前記金属塩類を構成する金属元素表面と前記溶液との界面を活性する界面活性剤を混合した混合液に、前記金属塩類を還元する還元剤を混合し、前記金属塩類を還元して金属ナノ粒子を液中にて生成した。
このことにより、得られた金属ナノ粒子の直径のバラツキは標準偏差で2nm以内、変動係数で12%以内のものも得られるようになった。
本発明の製造法により、上記金属ナノ粒子を容易に調製することができる。金属がPtの例では、還元剤を加えてから、下記実施例に示すように約10分間で本発明の金属ナノ粒子を合成でき、また金属(白金)収率も100%を達成でき、貴重な資源を無駄にしない。還元剤の量を制御することで、均一な粒子径を実現でき、金属ナノ粒子が水又は水系媒体に完全に分散した分散液としても得ることができる。
【0009】
また、金属塩類の溶液として予めエージングさせたものを用いることで、金属塩類が溶媒に十分溶解して、より還元が容易な化学組成に変化するので、本発明では、エージングは、収率を向上するうえで好ましい手段である。
【0010】
下記実施例では、白金の塩類を例示したが、溶媒中にて還元できる金属塩類、特に白金(Pt)と同種の金属元素である金(Au)又はパラジウム(Pd)の金属塩類を生成原料として用いることで、下記実施例と同様なデンドリック形状を有する金ナノ粒子又はPdナノ粒子が生成できる。
さらに、当該金属塩類が水に容易に溶解する塩類を選択することで、溶媒として利用が容易な水又は水系の溶媒を用いることができるので好ましい。
なお、白金(Pt)の水に容易に溶解する塩類としては、塩化白金(IV)・6水塩、塩化白金(IV)・無水塩、塩化白金(IV)カリウム、塩化白金(II)カリウム、塩化白金(IV)ナトリウム・6水塩等を挙げることができ、中でも、塩化白金(II)カリウム〔すなわち、K2PtCl4〕が好ましい。金(Au)では、Gold(III) chloride acid tetrahydrate、Gold(I) potassium cyanide、Gold(III) sodium chloride dehydrate等を挙げることができ、パラジウム(Pd)では、Palladium(II) potassium chloride、Palladium(II) sodium chloride、Palladium(II) nitrate、Palladium(II) nitrate dihydrate、Palladium(II) acetate、Palladium(II) acetylacetonate、Palladium(II) ammonium chloride、Palladium(II) chloride等を挙げることができる。
【0011】
前記金属塩類の溶液に混合する界面活性剤としては、生成された金属ナノ粒子と溶液を構成する溶媒との界面を活性化するものであれば良い。当該界面活性剤の作用により、生成された金属ナノ粒子の凝集を抑制することができるものと考えられる。
その界面活性剤としては、ブロックコポリマーを用いるのが望ましく、溶媒が水又は水系の場合は、疎水性−親水性、あるいは親水性−疎水性で表される各々の塊(ブロック)を有するジブロックコポリマーが好ましく用いられる。また、この構造を有するトリブロックコポリマーも好ましく用いられる。更に具体的には、ポリエチレンオキサイド(PEO)とポリプロピレンオキサイド(PPO)とのジブロックコポリマーあるいはトリブロックコポリマー(「プルロニックポリマー」と呼ばれる)である。Pluronic F127((PEO)100(PPO)65(PEO)100、Mw=12600)やPluronic P123((PEO)19(PPO)69(PEO)19、Mw=5750)は市販品を入手できる。
プルロニックポリマーなどの界面活性剤の作用を以下で更に具体的に説明する。
溶液中のプルロニックポリマーの疎水性部分であるPPO基は、形成されたPtなどの金属表面により強く吸着される。このようにして金属がデポジットされている過程で金属表面に吸着されたプルロニックポリマーなどの界面活性剤は、当該位置にキャビティを形成し、これによってデンドリック構造の成長を促進する。
ところが、溶液中の界面活性剤の濃度が一定値に達すると、ミセルが形成されることによりPPO基などの疎水性部分はミセル内部に閉じ込められ、デポジットされた金属表面への吸着が阻害される。したがって、溶液中のプルロニックポリマーなどの界面活性剤濃度は、上述したデンドリック構造成長促進のためにはある程度大きな値であることが望ましいが、ミセル形成濃度に達するまで濃度を上げると、上述の作用に寄与するという意味での有効界面活性剤濃度は逆に低下してしまうことに注意しなければならない。したがって、界面活性剤濃度はミセル形成濃度未満であることが望ましい。
たとえばブロックコポリマー(界面活性剤)としてPluronic F127を使用する場合、その濃度(上述の金属塩類の溶液にPluronic F127を混合する濃度)は、ミセル形成濃度(CMC)以上の〜2mMとしてもよいが、CMC未満の濃度(約0.8mM)が好ましい。
【0012】
用いる還元剤としては溶媒に溶解し、用いた金属塩類(錯塩)を還元反応により純金属を生成させるものであれば良い。そのようなものとして好ましいものは、アスコルビン酸である。
還元剤の濃度は、実験により最適濃度を適宜決めればよいが、アスコルビン酸を用いた場合、この濃度を制御することで均一な粒子径を実現できる。
【0013】
下記実施例では還元作用を常温でおこなったが、還元作用を促進させるために、前記溶液を加熱することも考えられる。得られた金属ナノ粒子を溶液と分離の方法は、従来周知の固液分離方法を用いることが可能である。例えば、遠心分離や遠心濾過が好ましく用いられる。
以上述べた製造法により、本発明のデンドリック構造を持った金属ナノ粒子を生成することができた。
【実施例1】
【0014】
界面活性剤としてPluronic F127(販売元Sigma Chemical Co.の(PEO)100(PPO)65(PEO)100, Mw =12600の商品名)を用いた場合の合成及び評価
(a)合成
以下の合成に使用する材料は以下の通りに調達した。
アスコルビン酸およびK2PtCl4はナカライテスク株式会社から購入した。
Pluronic F127((PEO)100(PPO)65(PEO)100, Mw =12600)溶媒として使用した水は、ミリポア(ミリポア社)処理精製水である。
K2PtCl4溶液は、水(溶媒)に前記K2PtCl4を溶かし、少なくとも24h経過(エージング)したものを用いた。このエージングによって、K2PtCl4溶液は、42%のPt(H2O)2Cl2、53%のPt(H2O)Cl3−及び5%のPtCl42−から成る平衡的混合液へと不均衡化(disproportionate)させることができた。(なお、%の値はモル比を表す)
典型的な合成では、Pluronic F127(0.794mM)含有のK2PtCl4(20mM)溶液5mLを小ビーカーに入れ、これにアスコルビン酸(0.1M)溶液5mLをすばやく加えて、K2PtCl4、Pluronic F127、及びアスコルビン酸の最終濃度を、各々、10mM、0.397mM及び0.05Mとした。次に、その反応溶液を通常の超音波洗浄器(J&L Co., China, JL−60DT)を用いて、56kHzの振動数で10分間処理した。反応溶液の色は、透明な淡茶色−黄色(図1中の左側の写真)から褐色(図1中の中央の写真)へと変化し、続いて(反応開始から9分30秒後には)不透明な黒色(図1中の右側の写真)へと変化した。図2に反応前後のUV−可視光スペクトラムを示す。図2中には左端近く(短波長側)でほぼ垂直に立ち上がっている3本のグラフの線が示されているが、これらのうちで中央に位置する線が反応開始時点の反応混合物のスペクトラムを、右側の線が反応10分後の反応混合物の遠沈上清のスペクトラムを示す。また、左側の線はPt塩類(10mM)水溶液のスペクトラムである。原料の白金錯塩は完全に(100%)還元されていることが図2から分かる。
上述の反応の過程は以下の通りであった。
先ず、アスコルビン酸がPt錯体前駆物質を還元して、個々のPtナノ粒子の凝集によって形成されたと思われる、ランダムな方向を向いた芽状部を有する不規則な初期粒子がもたらされた。反応が進行するにつれて、前駆物質の継続的な還元によって、この粒子のサイズは増大し続け、本体部分と主要な枝から二次的な枝が成長し始めた。その結果、初期の粒子が、その後にサンプルを取り出したときには6nm程度の大きさに成長していた。このような成長は、反応が進行するにつれて、Pt前駆物質が完全に消費されるまで、連続して起こった。反応開始から約10分経過すると、反応液の色は不透明な黒色のままで安定し、反応が終了したことが示された。このようにして、図3に示す、完成したPtナノ粒子が得られた。
【0015】
図3に示される白金ナノ粒子の表面上に形成するデンドリック形状のナノ構造は、界面活性剤分子(ポリプロピレンオキシド鎖)と白金との相互作用で作り出されていくと推定される。
生成物、すなわちナノ粒子を単離し、残存Pluronic F127は、10,000rpmで20分間遠沈後、水で3回(遠沈)洗浄した。沈殿物を集め、50℃で4日乾燥し、水に再び分散させてコロイド状懸濁液として、更に詳しい分析に供した。
【0016】
(b)評価
以下で説明する評価に当たって使用した装置および条件は以下の通りである。
透過型電子顕微鏡(TEM)及び高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)は、エネルギー分散スペクトロメータ(EDS)分析器を備えるJWOL JEM−2100F装置を用い、200kVで操作して行なった。TEM及びHRTEM分析用のサンプルは、炭素でコートされた銅グリッド上に希釈サンプル液の一滴を垂らし、室温で乾燥させることによって調製した。広角粉末X線回折(XRD)パターンは、リガクリントの単色Cu Kα放射(40kV、100mA)の2500X回折計で、ステップスキャンプログラム(ステップ幅は0.05°)を用いて得られた。窒素ガスの吸着−脱着データは、Belsorp 28型(Bel Japan, Inc.)を用いて77Kでとり、サンプルは測定前に50℃で24h加熱した。UV可視吸収スペクトルはJASCO V−570 UV-vis-NIRスペクトロメータを用いて記録した。フーリエ変換赤外線吸収(FT−IR)スペクトルはNicolet 4700赤外線スペクトロメータを用いて行なった。
【0017】
図3は得られたPtナノ粒子のTEM像で、Aは明視野、Bは暗視野のTEM像である。この図から、得られたPtナノ粒子は粒子径の揃ったきれいなデンドリック構造(デンドリック形状)粒子で、粒子径(金平糖状になった粒子全体の径)は約20nm、その突起物(個々の樹枝状部)の太さは約3nmであることが分かる。樹枝状部の本数は粒子毎に異なるが、数本〜20本以上であった。なお、図3A中の挿入図のSAEDパターンは、この粒子が白金の結晶であることを示している。
【0018】
図4は得られたPtナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。この結果は、平均粒子径が17.4nmであり、標準偏差は1.16nm(平均粒子径の6.7%)で、粒径分布が非常にシャープであることを示しており、上の図3のTEM像の結果とよく整合している。
【0019】
図5は得られたPtナノ粒子の広角XRDパターンである。この結果からも、得られた粒子が白金の結晶であることが支持される。
【0020】
図6は得られたPtナノ粒子を250℃で2h加熱した後のTEM像である。この加熱後のPtナノ粒子は加熱前に比べてわずかな凝集は見られるものの、加熱前のPtナノ粒子(図3)の形状をよく保持しており、粒子の熱安定性も高いことを示している。
【0021】
図7中の「DPNs after washing」で示される線は遠沈洗浄後のPtナノ粒子のFT−IRスペクトラムである。この図は、用いた界面活性剤がPtナノ粒子から充分に除去されたことを示している。図7にはまた参考として、粉状のPluronic F127のFT−IRスペクトラム(「Pluronic F127」)も示す。
【0022】
図8は得られたPtナノ粒子のN2吸着(Adsorption)−脱着(Desorption)曲線を示すものである。この図からBET法で比表面積を計算すると、56m2/gとなった。
【実施例2】
【0023】
Pluronic F127以外の界面活性剤を用いた場合
(a) Brij 58又はSDSを用いた場合
実施例1におけるPluronic F127の代わりに、Brij 58(Sigma社)又はSDS(ナカライテスク株式会社)を用い、それ以外は実施例1と同一の条件で実験を行った。得られたPtナノ粒子のTEM像をそれぞれ図9A,図9Bに示した。これらの図からわかるように、いずれの場合も、Ptナノ粒子には樹枝状部はわずかに見られるものの、実施例1に比較してその成長の程度はかなり低い。また、これらのPtナノ粒子は粒子径が30−80nmと比較的大きく、また比表面積も実施例1のように大きなものは得られなかった。
(b) Pluronic P123を用いた場合
実施例1におけるPluronic F127の代わりに、Pluronic P123 ((PEO)19(PPO)69(PEO)19 、Mw=5750)(Sigma社)を用いて、それ以外は実施例1と同一の条件で実験を行った。得られたPtナノ粒子のTEM像を図9Cに示した。図9Cからわかるように、Pluronic F127を用いた場合と同様に、顕著なデンドリック形状を呈し、比表面積の大きなPtナノ粒子が得られた。
【実施例3】
【0024】
ミセル形成濃度(CMC)以上のPluronic F127を用いた場合
用いたPluronic F127の濃度をミセル形成濃度(CMC)以上の1.985mMとしたほかは、実施例1と同様に行なった。得られたPtナノ粒子のTEM像を図10に示した。実施例1(Pluronic F127の濃度はCMCより低い0.794mM)で得られたPtナノ粒子ほどきれいで粒揃いではないが、それに類似するデンドリック形状の比表面積の大きなナノPt粒子が得られた。
【実施例4】
【0025】
金属塩類の濃度を変化させた場合
Pluronic F127含有のK2PtCl4溶液中でのK2PtCl4の濃度を1mM、5mM、20mM、40mMの4通りに変化させた以外は実施例1と同一の条件で実験を行った結果得られたPtナノ粒子のTEM像を、それぞれ図11、図12、図13、図14に示す。
図11からわかるように、Pt濃度が低い場合(1mM)に得られるナノ粒子の形状は不規則になり、また樹枝状の部分の成長はあまり顕著ではない。これに対して、より高いPt濃度(5mM、20mM、40mM)では、図12〜図14に示すように、実施例1と類似のデンドリック形状が得られ、収率およびナノ粒子の品質の点から好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
従来、ブロックコポリマーはシリカあるいは金属ベースのメソ多孔質材料の合成の際の直接的なテンプレートとして使用されることはあったが、本発明ではこの種の従来技術とはまったく異なり、高い熱的安定性や高い比表面積を有する金属(代表的には、白金)ナノ粒子を穏やかな反応条件下で簡単かつ短時間で製造することができるようになる。これにより本発明の金属ナノ粒子は、従来のナノ粒子を越える様々な触媒反応に広く利用できるであろう。現在、白金ナノ粒子/カーボン複合体などが触媒として工業的に使用されているが、ナノ粒子の熱的安定性が問題点としてあげられている。カーボン等に組み込まれた白金ナノ粒子は、更に高い熱的安定性を提供するものとして期待でき、従来の問題点の『反応中のナノ粒子の凝集』を克服することができると考えられる。
また、本発明の製造法は、これまでにない簡便かつ実用的な方法であり、白金と他の金属(Ru,Ni,Co,Pdなど)との合金化も容易である。今後は用途に合った組成の金属ナノ材料のテーラーメイドデザインも狙える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Wang,X.G. et al.: Chem. Commun. 2008, 4442.
【非特許文献2】Niesz,K. et al.: Nano Lett. 2005, vol.5, 2238.
【非特許文献3】Meier,M.A.R. et al.: J. Mater. Chem.2006, vol.16, 3001.
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池等の電極や工業触媒に利用可能な金属ナノ粒子に関する。また、それを製造する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子の代表的な例として、白金(Pt)ナノ粒子の現状を以下に説明する。
白金(Pt)ナノ粒子は、触媒として高い活性を持つことが知られており、電池などの電極や工業触媒(自動車の場合は排気ガスの浄化触媒)として広く用いられている。白金の比表面積が大きくなると、露出している白金の表面積が相対的に増加するため、触媒機能が非常に活性化する。そのため、これまでにもナノ粒子、ナノファイバー、ナノチューブ、ナノ(メソ)ポーラス物質等の様々な白金ナノ材料の合成が盛んに研究され、開発されてきた。
これまでに開発されてきたナノファイバー、ナノチューブ、ナノ(メソ)ポーラス物質等の白金ナノ材料の比表面積は30m2/g程度であり、市販の白金黒と同レベルである。逆ミセル法等により高い比表面積を有するナノ粒子(粒子サイズ:数nm程度)も合成されているが、この比表面積は、粒子径を単に小さくしたことにより達成されたものであり、熱的に安定な粒子径を持った金属ナノ粒子の比表面積を大きくすることは困難とされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、熱的に安定な粒子径を有しながら、従来の同様な粒子径をもつものに比し大きな比表面積を有する金属ナノ粒子とその製造方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明によれば、金属元素からなるとともに樹枝状部分を有する金属ナノ粒子が与えられる。
本発明の他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は中心部より放射状に樹枝状部分が伸長した金平糖形状を有することが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は結晶構造体であることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は単一の金属元素のみにより構成されていることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子の金属元素は白金(Pt)、金(Au)又はパラジウム(Pd)のいずれかであることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子は少なくとも40m2/gの比表面積を有することが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の金属ナノ粒子の粒径が17±10nmであり、その粒径バラツキ(標準偏差)は2nm以内であることが好ましい。
【0005】
本発明によれば、以下の(a)から(b)のステップを有し、樹枝上部分を有する金属ナノ粒子を製造する方法も与えられる。
(a) 生成原料である金属塩類の溶液に界面活性剤を混合して混合液を得る。
(b) 上述の混合液中に上述の金属塩類を還元する還元剤を混合し、上述の金属塩類を還元して金属ナノ粒子を生成する。
本発明の更に他の側面によれば、上述の界面活性剤はブロックコポリマーが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述のブロックコポリマーは、ポリエチレンオキサイド(PEO)とポリプロピレンオキサイド(PPO)とのジブロックコポリマー若しくはトリブロックコポリマーが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の混合液中の前記界面活性剤の濃度はミセル形成濃度未満が好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述のステップ(b)の前に金属塩類の混合液をエージング処理するステップを設けることが好ましい。
本発明の更に他の側面によれば、上述の還元剤はアスコルビン酸であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の金属ナノ粒子は樹枝状部分を有するため、その粒子径に比べ大きな比表面積を有することになった。
故に、熱安定性を持つ直径であっても、従来に比し極めて高い比表面積を持つようにすることができるようになった。
また、その製造法によって、得られる本願発明の金属ナノ粒子は、その粒子径のばらつきが少なく、実用上に高い信頼性を持った、金属ナノ粒子を生成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1の合成過程の色相変化を説明するための図(写真)である。
【図2】実施例1のUV−可視光スペクトラムを示す図である。
【図3】上(A)は実施例1のPtナノ粒子(DPN)のTEM像であり、下(B)は同DPNのHAADF TEM像である。なお、上(A)における挿入図はSAEDパターンである。
【図4】実施例1のPtナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。
【図5】実施例1のPtナノ粒子の広角XRDパターンである。
【図6】実施例1のPtナノ粒子を250℃で2h加熱した後のTEM像である。
【図7】実施例1の遠沈洗浄後のPtナノ粒子のFT−IRスペクトラム、および粉状のPluronic F127のFT−IRスペクトラムを示す。
【図8】実施例1の遠沈洗浄後のPtナノ粒子のN2吸着−脱着曲線を示す。
【図9】実施例2のPtナノ粒子のTEM像を示す。
【図10】実施例3のPtナノ粒子のTEM像を示す。
【図11】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図12】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図13】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図14】実施例4のPtナノ粒子のTEM像の1つを示す。
【図15】図3に示す粒子一個についての高分解TEM像を示す。(樹枝状部の境界を矢印で示す。)
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の金属ナノ粒子は、伸張した樹枝状部分を有する形状(以下、デンドリック形状という)を有する。好ましくは、この金属ナノ粒子は中心部より放射状に樹枝状部分が伸張した形状を有する。好ましくはこの金属ナノ粒子は結晶体である。本件実施例により製造された金属ナノ粒子の結晶性が高いものであることは、図15に示す高分解TEM像より明らかである。当該写真は、実施例1にて得られたfcc構造を有するPtナノ粒子1個を(111)面から撮影したものであり、その右側には左側の写真中で白い四角形で示す枠中を拡大した詳細写真を配置してある。
図15の写真においては、格子縞が左側の全体写真のいくつかの樹枝状部にわたって一様に広がっている。矢印で示されているように、ドメイン境界がはっきり観察できるので、個々のPtナノ粒子は単結晶性ではない。また、図15中の詳細写真によれば、結晶の格子間距離(d spacing)が0.23nmであり、また二面角(dihedral angle)が約70度であるので、この結晶格子縞はPtの(111)面に対応することがわかる。
また、250℃で2hrという加熱を施しても、その前後において形状の変化が生じない高い熱安定を有する点においても、結晶体であり凝集体ではないことが明らかである。
なお、熱安定性を保証するには、Ptナノ粒子の場合にはその直径が7nm以上とするのが望ましい。
また、図5のXRDパターンからは、得られたナノ粒子はPt元素のみからなる単元素結晶体であることが明らかである。
単金属元素のナノ粒子の比表面積が大きいことは、他の複合物などにくらべ、その表面機能を確実かつ容易に発現させることを意味する。
また、その比表面積は、粒子径にもよるが、40m2/g以上(好ましくは、55m2/g以上)とすることに成功したものである。
本発明の金属ナノ粒子は、生成原料である金属塩類の溶液に前記金属塩類を構成する金属元素表面と前記溶液との界面を活性する界面活性剤を混合した混合液に、前記金属塩類を還元する還元剤を混合し、前記金属塩類を還元して金属ナノ粒子を液中にて生成した。
このことにより、得られた金属ナノ粒子の直径のバラツキは標準偏差で2nm以内、変動係数で12%以内のものも得られるようになった。
本発明の製造法により、上記金属ナノ粒子を容易に調製することができる。金属がPtの例では、還元剤を加えてから、下記実施例に示すように約10分間で本発明の金属ナノ粒子を合成でき、また金属(白金)収率も100%を達成でき、貴重な資源を無駄にしない。還元剤の量を制御することで、均一な粒子径を実現でき、金属ナノ粒子が水又は水系媒体に完全に分散した分散液としても得ることができる。
【0009】
また、金属塩類の溶液として予めエージングさせたものを用いることで、金属塩類が溶媒に十分溶解して、より還元が容易な化学組成に変化するので、本発明では、エージングは、収率を向上するうえで好ましい手段である。
【0010】
下記実施例では、白金の塩類を例示したが、溶媒中にて還元できる金属塩類、特に白金(Pt)と同種の金属元素である金(Au)又はパラジウム(Pd)の金属塩類を生成原料として用いることで、下記実施例と同様なデンドリック形状を有する金ナノ粒子又はPdナノ粒子が生成できる。
さらに、当該金属塩類が水に容易に溶解する塩類を選択することで、溶媒として利用が容易な水又は水系の溶媒を用いることができるので好ましい。
なお、白金(Pt)の水に容易に溶解する塩類としては、塩化白金(IV)・6水塩、塩化白金(IV)・無水塩、塩化白金(IV)カリウム、塩化白金(II)カリウム、塩化白金(IV)ナトリウム・6水塩等を挙げることができ、中でも、塩化白金(II)カリウム〔すなわち、K2PtCl4〕が好ましい。金(Au)では、Gold(III) chloride acid tetrahydrate、Gold(I) potassium cyanide、Gold(III) sodium chloride dehydrate等を挙げることができ、パラジウム(Pd)では、Palladium(II) potassium chloride、Palladium(II) sodium chloride、Palladium(II) nitrate、Palladium(II) nitrate dihydrate、Palladium(II) acetate、Palladium(II) acetylacetonate、Palladium(II) ammonium chloride、Palladium(II) chloride等を挙げることができる。
【0011】
前記金属塩類の溶液に混合する界面活性剤としては、生成された金属ナノ粒子と溶液を構成する溶媒との界面を活性化するものであれば良い。当該界面活性剤の作用により、生成された金属ナノ粒子の凝集を抑制することができるものと考えられる。
その界面活性剤としては、ブロックコポリマーを用いるのが望ましく、溶媒が水又は水系の場合は、疎水性−親水性、あるいは親水性−疎水性で表される各々の塊(ブロック)を有するジブロックコポリマーが好ましく用いられる。また、この構造を有するトリブロックコポリマーも好ましく用いられる。更に具体的には、ポリエチレンオキサイド(PEO)とポリプロピレンオキサイド(PPO)とのジブロックコポリマーあるいはトリブロックコポリマー(「プルロニックポリマー」と呼ばれる)である。Pluronic F127((PEO)100(PPO)65(PEO)100、Mw=12600)やPluronic P123((PEO)19(PPO)69(PEO)19、Mw=5750)は市販品を入手できる。
プルロニックポリマーなどの界面活性剤の作用を以下で更に具体的に説明する。
溶液中のプルロニックポリマーの疎水性部分であるPPO基は、形成されたPtなどの金属表面により強く吸着される。このようにして金属がデポジットされている過程で金属表面に吸着されたプルロニックポリマーなどの界面活性剤は、当該位置にキャビティを形成し、これによってデンドリック構造の成長を促進する。
ところが、溶液中の界面活性剤の濃度が一定値に達すると、ミセルが形成されることによりPPO基などの疎水性部分はミセル内部に閉じ込められ、デポジットされた金属表面への吸着が阻害される。したがって、溶液中のプルロニックポリマーなどの界面活性剤濃度は、上述したデンドリック構造成長促進のためにはある程度大きな値であることが望ましいが、ミセル形成濃度に達するまで濃度を上げると、上述の作用に寄与するという意味での有効界面活性剤濃度は逆に低下してしまうことに注意しなければならない。したがって、界面活性剤濃度はミセル形成濃度未満であることが望ましい。
たとえばブロックコポリマー(界面活性剤)としてPluronic F127を使用する場合、その濃度(上述の金属塩類の溶液にPluronic F127を混合する濃度)は、ミセル形成濃度(CMC)以上の〜2mMとしてもよいが、CMC未満の濃度(約0.8mM)が好ましい。
【0012】
用いる還元剤としては溶媒に溶解し、用いた金属塩類(錯塩)を還元反応により純金属を生成させるものであれば良い。そのようなものとして好ましいものは、アスコルビン酸である。
還元剤の濃度は、実験により最適濃度を適宜決めればよいが、アスコルビン酸を用いた場合、この濃度を制御することで均一な粒子径を実現できる。
【0013】
下記実施例では還元作用を常温でおこなったが、還元作用を促進させるために、前記溶液を加熱することも考えられる。得られた金属ナノ粒子を溶液と分離の方法は、従来周知の固液分離方法を用いることが可能である。例えば、遠心分離や遠心濾過が好ましく用いられる。
以上述べた製造法により、本発明のデンドリック構造を持った金属ナノ粒子を生成することができた。
【実施例1】
【0014】
界面活性剤としてPluronic F127(販売元Sigma Chemical Co.の(PEO)100(PPO)65(PEO)100, Mw =12600の商品名)を用いた場合の合成及び評価
(a)合成
以下の合成に使用する材料は以下の通りに調達した。
アスコルビン酸およびK2PtCl4はナカライテスク株式会社から購入した。
Pluronic F127((PEO)100(PPO)65(PEO)100, Mw =12600)溶媒として使用した水は、ミリポア(ミリポア社)処理精製水である。
K2PtCl4溶液は、水(溶媒)に前記K2PtCl4を溶かし、少なくとも24h経過(エージング)したものを用いた。このエージングによって、K2PtCl4溶液は、42%のPt(H2O)2Cl2、53%のPt(H2O)Cl3−及び5%のPtCl42−から成る平衡的混合液へと不均衡化(disproportionate)させることができた。(なお、%の値はモル比を表す)
典型的な合成では、Pluronic F127(0.794mM)含有のK2PtCl4(20mM)溶液5mLを小ビーカーに入れ、これにアスコルビン酸(0.1M)溶液5mLをすばやく加えて、K2PtCl4、Pluronic F127、及びアスコルビン酸の最終濃度を、各々、10mM、0.397mM及び0.05Mとした。次に、その反応溶液を通常の超音波洗浄器(J&L Co., China, JL−60DT)を用いて、56kHzの振動数で10分間処理した。反応溶液の色は、透明な淡茶色−黄色(図1中の左側の写真)から褐色(図1中の中央の写真)へと変化し、続いて(反応開始から9分30秒後には)不透明な黒色(図1中の右側の写真)へと変化した。図2に反応前後のUV−可視光スペクトラムを示す。図2中には左端近く(短波長側)でほぼ垂直に立ち上がっている3本のグラフの線が示されているが、これらのうちで中央に位置する線が反応開始時点の反応混合物のスペクトラムを、右側の線が反応10分後の反応混合物の遠沈上清のスペクトラムを示す。また、左側の線はPt塩類(10mM)水溶液のスペクトラムである。原料の白金錯塩は完全に(100%)還元されていることが図2から分かる。
上述の反応の過程は以下の通りであった。
先ず、アスコルビン酸がPt錯体前駆物質を還元して、個々のPtナノ粒子の凝集によって形成されたと思われる、ランダムな方向を向いた芽状部を有する不規則な初期粒子がもたらされた。反応が進行するにつれて、前駆物質の継続的な還元によって、この粒子のサイズは増大し続け、本体部分と主要な枝から二次的な枝が成長し始めた。その結果、初期の粒子が、その後にサンプルを取り出したときには6nm程度の大きさに成長していた。このような成長は、反応が進行するにつれて、Pt前駆物質が完全に消費されるまで、連続して起こった。反応開始から約10分経過すると、反応液の色は不透明な黒色のままで安定し、反応が終了したことが示された。このようにして、図3に示す、完成したPtナノ粒子が得られた。
【0015】
図3に示される白金ナノ粒子の表面上に形成するデンドリック形状のナノ構造は、界面活性剤分子(ポリプロピレンオキシド鎖)と白金との相互作用で作り出されていくと推定される。
生成物、すなわちナノ粒子を単離し、残存Pluronic F127は、10,000rpmで20分間遠沈後、水で3回(遠沈)洗浄した。沈殿物を集め、50℃で4日乾燥し、水に再び分散させてコロイド状懸濁液として、更に詳しい分析に供した。
【0016】
(b)評価
以下で説明する評価に当たって使用した装置および条件は以下の通りである。
透過型電子顕微鏡(TEM)及び高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)は、エネルギー分散スペクトロメータ(EDS)分析器を備えるJWOL JEM−2100F装置を用い、200kVで操作して行なった。TEM及びHRTEM分析用のサンプルは、炭素でコートされた銅グリッド上に希釈サンプル液の一滴を垂らし、室温で乾燥させることによって調製した。広角粉末X線回折(XRD)パターンは、リガクリントの単色Cu Kα放射(40kV、100mA)の2500X回折計で、ステップスキャンプログラム(ステップ幅は0.05°)を用いて得られた。窒素ガスの吸着−脱着データは、Belsorp 28型(Bel Japan, Inc.)を用いて77Kでとり、サンプルは測定前に50℃で24h加熱した。UV可視吸収スペクトルはJASCO V−570 UV-vis-NIRスペクトロメータを用いて記録した。フーリエ変換赤外線吸収(FT−IR)スペクトルはNicolet 4700赤外線スペクトロメータを用いて行なった。
【0017】
図3は得られたPtナノ粒子のTEM像で、Aは明視野、Bは暗視野のTEM像である。この図から、得られたPtナノ粒子は粒子径の揃ったきれいなデンドリック構造(デンドリック形状)粒子で、粒子径(金平糖状になった粒子全体の径)は約20nm、その突起物(個々の樹枝状部)の太さは約3nmであることが分かる。樹枝状部の本数は粒子毎に異なるが、数本〜20本以上であった。なお、図3A中の挿入図のSAEDパターンは、この粒子が白金の結晶であることを示している。
【0018】
図4は得られたPtナノ粒子の粒径分布を示すヒストグラムである。この結果は、平均粒子径が17.4nmであり、標準偏差は1.16nm(平均粒子径の6.7%)で、粒径分布が非常にシャープであることを示しており、上の図3のTEM像の結果とよく整合している。
【0019】
図5は得られたPtナノ粒子の広角XRDパターンである。この結果からも、得られた粒子が白金の結晶であることが支持される。
【0020】
図6は得られたPtナノ粒子を250℃で2h加熱した後のTEM像である。この加熱後のPtナノ粒子は加熱前に比べてわずかな凝集は見られるものの、加熱前のPtナノ粒子(図3)の形状をよく保持しており、粒子の熱安定性も高いことを示している。
【0021】
図7中の「DPNs after washing」で示される線は遠沈洗浄後のPtナノ粒子のFT−IRスペクトラムである。この図は、用いた界面活性剤がPtナノ粒子から充分に除去されたことを示している。図7にはまた参考として、粉状のPluronic F127のFT−IRスペクトラム(「Pluronic F127」)も示す。
【0022】
図8は得られたPtナノ粒子のN2吸着(Adsorption)−脱着(Desorption)曲線を示すものである。この図からBET法で比表面積を計算すると、56m2/gとなった。
【実施例2】
【0023】
Pluronic F127以外の界面活性剤を用いた場合
(a) Brij 58又はSDSを用いた場合
実施例1におけるPluronic F127の代わりに、Brij 58(Sigma社)又はSDS(ナカライテスク株式会社)を用い、それ以外は実施例1と同一の条件で実験を行った。得られたPtナノ粒子のTEM像をそれぞれ図9A,図9Bに示した。これらの図からわかるように、いずれの場合も、Ptナノ粒子には樹枝状部はわずかに見られるものの、実施例1に比較してその成長の程度はかなり低い。また、これらのPtナノ粒子は粒子径が30−80nmと比較的大きく、また比表面積も実施例1のように大きなものは得られなかった。
(b) Pluronic P123を用いた場合
実施例1におけるPluronic F127の代わりに、Pluronic P123 ((PEO)19(PPO)69(PEO)19 、Mw=5750)(Sigma社)を用いて、それ以外は実施例1と同一の条件で実験を行った。得られたPtナノ粒子のTEM像を図9Cに示した。図9Cからわかるように、Pluronic F127を用いた場合と同様に、顕著なデンドリック形状を呈し、比表面積の大きなPtナノ粒子が得られた。
【実施例3】
【0024】
ミセル形成濃度(CMC)以上のPluronic F127を用いた場合
用いたPluronic F127の濃度をミセル形成濃度(CMC)以上の1.985mMとしたほかは、実施例1と同様に行なった。得られたPtナノ粒子のTEM像を図10に示した。実施例1(Pluronic F127の濃度はCMCより低い0.794mM)で得られたPtナノ粒子ほどきれいで粒揃いではないが、それに類似するデンドリック形状の比表面積の大きなナノPt粒子が得られた。
【実施例4】
【0025】
金属塩類の濃度を変化させた場合
Pluronic F127含有のK2PtCl4溶液中でのK2PtCl4の濃度を1mM、5mM、20mM、40mMの4通りに変化させた以外は実施例1と同一の条件で実験を行った結果得られたPtナノ粒子のTEM像を、それぞれ図11、図12、図13、図14に示す。
図11からわかるように、Pt濃度が低い場合(1mM)に得られるナノ粒子の形状は不規則になり、また樹枝状の部分の成長はあまり顕著ではない。これに対して、より高いPt濃度(5mM、20mM、40mM)では、図12〜図14に示すように、実施例1と類似のデンドリック形状が得られ、収率およびナノ粒子の品質の点から好ましいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
従来、ブロックコポリマーはシリカあるいは金属ベースのメソ多孔質材料の合成の際の直接的なテンプレートとして使用されることはあったが、本発明ではこの種の従来技術とはまったく異なり、高い熱的安定性や高い比表面積を有する金属(代表的には、白金)ナノ粒子を穏やかな反応条件下で簡単かつ短時間で製造することができるようになる。これにより本発明の金属ナノ粒子は、従来のナノ粒子を越える様々な触媒反応に広く利用できるであろう。現在、白金ナノ粒子/カーボン複合体などが触媒として工業的に使用されているが、ナノ粒子の熱的安定性が問題点としてあげられている。カーボン等に組み込まれた白金ナノ粒子は、更に高い熱的安定性を提供するものとして期待でき、従来の問題点の『反応中のナノ粒子の凝集』を克服することができると考えられる。
また、本発明の製造法は、これまでにない簡便かつ実用的な方法であり、白金と他の金属(Ru,Ni,Co,Pdなど)との合金化も容易である。今後は用途に合った組成の金属ナノ材料のテーラーメイドデザインも狙える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Wang,X.G. et al.: Chem. Commun. 2008, 4442.
【非特許文献2】Niesz,K. et al.: Nano Lett. 2005, vol.5, 2238.
【非特許文献3】Meier,M.A.R. et al.: J. Mater. Chem.2006, vol.16, 3001.
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素から成るとともに樹枝状部分を有する金属ナノ粒子。
【請求項2】
中心部より放射状に樹枝状部分が伸長した金平糖形状を有する、請求項1記載の金属ナノ粒子。
【請求項3】
結晶構造体である、請求項1又は請求項2記載の金属ナノ粒子。
【請求項4】
単一の金属元素のみにより構成される、請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項5】
前記金属元素は、白金(Pt)、金(Au)又はパラジウム(Pd)のいずれかである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項6】
少なくとも40m2/gの比表面積を有する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子の粒径は17±10nmであり、その粒径バラツキ(標準偏差)は2nm以内である、請求項1から請求項6のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項8】
以下の(a)から(b)のステップを有し、樹枝上部分を有する金属ナノ粒子を製造する方法。
(a) 生成原料である金属塩類の溶液に界面活性剤を混合して混合液を得る。
(b) 前記混合液中に前記金属塩類を還元する還元剤を混合し、前記金属塩類を還元して金属ナノ粒子を生成する。
【請求項9】
前記界面活性剤がブロックコポリマーである、請求項8に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記ブロックコポリマーが、ポリエチレンオキサイド(PEO)とポリプロピレンオキサイド(PPO)とのジブロックコポリマー若しくはトリブロックコポリマーである、請求項9に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記混合液中の前記界面活性剤の濃度がミセル形成濃度未満である、請求項8から請求項10のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(b)の前に前記金属塩類の混合液をエージング処理するステップを設けた、請求項8から請求項11のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
前記還元剤がアスコルビン酸である、請求項8から請求項12のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項1】
金属元素から成るとともに樹枝状部分を有する金属ナノ粒子。
【請求項2】
中心部より放射状に樹枝状部分が伸長した金平糖形状を有する、請求項1記載の金属ナノ粒子。
【請求項3】
結晶構造体である、請求項1又は請求項2記載の金属ナノ粒子。
【請求項4】
単一の金属元素のみにより構成される、請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項5】
前記金属元素は、白金(Pt)、金(Au)又はパラジウム(Pd)のいずれかである、請求項1から請求項4のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項6】
少なくとも40m2/gの比表面積を有する、請求項1から請求項5のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項7】
前記金属ナノ粒子の粒径は17±10nmであり、その粒径バラツキ(標準偏差)は2nm以内である、請求項1から請求項6のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項8】
以下の(a)から(b)のステップを有し、樹枝上部分を有する金属ナノ粒子を製造する方法。
(a) 生成原料である金属塩類の溶液に界面活性剤を混合して混合液を得る。
(b) 前記混合液中に前記金属塩類を還元する還元剤を混合し、前記金属塩類を還元して金属ナノ粒子を生成する。
【請求項9】
前記界面活性剤がブロックコポリマーである、請求項8に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
前記ブロックコポリマーが、ポリエチレンオキサイド(PEO)とポリプロピレンオキサイド(PPO)とのジブロックコポリマー若しくはトリブロックコポリマーである、請求項9に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
前記混合液中の前記界面活性剤の濃度がミセル形成濃度未満である、請求項8から請求項10のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項12】
前記ステップ(b)の前に前記金属塩類の混合液をエージング処理するステップを設けた、請求項8から請求項11のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項13】
前記還元剤がアスコルビン酸である、請求項8から請求項12のいずれかに記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−26665(P2011−26665A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173879(P2009−173879)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月17日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/ja902485x」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年6月17日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/ja902485x」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】
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