説明

樹状細胞ワクチン製造用培養装置並びに樹状細胞の製造方法

【課題】末梢血単核球細胞区分より単球を分離し、そのままの場所で培養分化成熟させることのできる密閉型培養容器、並びに該密閉型培養容器による樹状細胞の製造方法を提供する。
【解決手段】注入口及び排出口を有し、内容積の容量が変化可能である、単球又は樹状細胞の分離及び培養用密閉型培養容器。当該密閉型培養容器に末梢血由来の単核球画分を加える工程、及び、非接着性細胞を除去する工程を含む、容器内の接着性細胞を培養する工程を含む、樹状細胞及び単球の製造方法、及び、当該方法で製造された樹状細胞等。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単球を分離するための培養容器、及び、当該培養容器を用いた単球の分離方法等に関する。特に、本発明は、樹状細胞ワクチンによる感染予防並びに癌樹状細胞ワクチン免疫細胞療法に使用する樹状細胞を製造するための培養容器、当該容器を利用した樹状細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単球は、CD34+造血幹細胞からミエロイド系分化経路を経て分化することにより生成する白血球の一種で、遊走能、貪食能、接着能を備え、組織中でマクロファージや樹状細胞に分化することができる。樹状細胞は生体内で唯一ナイーブT細胞を活性化することができる抗原提示細胞である。樹状細胞は、造血幹細胞よりミエロイド系やリンパ球系分化経路を経て未熟樹状細胞へ分化し、さらに炎症環境にて抗原を取り込み、成熟樹状細胞へと分化する。成熟樹状細胞はT細胞にMHCとともに抗原を提示して抗原特異的T細胞を活性化する。また、樹状細胞は、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞を活性化することも知られている。このように樹状細胞は、免疫反応を惹起することから、感染防御、癌、肝炎、感染症等の免疫療法に利用できることが知られている。
【0003】
免疫療法に用いる樹状細胞は、末梢血から単球又は未熟樹状細胞を分離し、分離された単球をGM−CSF及びIL−4等のサイトカイン(分化因子)の存在下で培養することにより分化誘導した後、抗原タンパク質又は抗原ペプチドを添加し、必要に応じて炎症刺激により成熟させることにより得られる。よって、所望の樹状細胞を効率的に得るために、単球の分離方法、及び樹状細胞への分化誘導方法について各種方法が検討されている。
【0004】
例えば、樹状細胞前駆体の含まれる集団から前駆体を濃縮した後、GM−CSFを含む培地で培養し増殖させる方法が知られている(特許文献1参照)。また、CD34造血性前駆細胞をGM−CSF及びTNFαで処理する方法や、CD14末梢血単球をGM−CSF及びIL−4で処理する方法が知られている(特許文献2参照)。現在、樹状細胞を取得する方法としては、操作の容易性や生成した樹状細胞の均質性からCD14末梢血単球をGM−CSF及びIL−4で処理する方法が採用されている。
【0005】
CD14末梢血単球を得るために末梢血から単球を分離する方法としては、フィコール・コンレー比重遠心法で得られた単球画分又は成分採血により得られた単球画分から、粘着力の差を利用して分離する方法が採用されている。しかし、免疫療法に使用する樹状細胞は医療用であるため、GMP等の医療用細胞の調製に関する各種法規制に即して製造する必要があり、当該規制に対応可能な方法が各種検討されている。例えば、閉鎖系でフィルタを用いることにより単球を分離及び精製する方法(特許文献3、及び、特許文献4参照)、ビーズ状や層状の担体に接着させることにより分離する方法(特許文献5参照)、樹状細胞に特異的に存在する膜分子を特異的に認識する抗体を利用して樹状細胞を分離する方法が知られている(特許文献6参照)。また、本発明者らは、これまで、医療用細胞の調製に関する各種規制に即して細胞を製造することを可能とするため、自動細胞培養に適した密閉型培養用容器や培地交換システムについて検討を行ってきた(特許文献7、及び、特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−507881号公報
【特許文献2】国際公開第1997/029182号パンフレット
【特許文献3】特開2003−274923号公報
【特許文献4】特開2004−129550号公報
【特許文献5】特表2004−535829号公報
【特許文献6】特開2001−352977号公報
【特許文献7】特開2002−153256号公報
【特許文献8】特開2002−153261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のフィルタを用いて単球を分離した場合には、分離した単球を十分に回収できないという問題があった。また、上述のビーズ状や層状の単体を使用した場合、非接着性細胞を十分に除去できないという問題があった。また、樹状細胞特異的な抗体等を用いた場合には、装置のコストが高くなるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これまで、自動化装置等へ応用可能な非接着性細胞の除去方法を検討すべく、培地の連続的供給による洗浄を試みたが、流速の小さい培養容器表面に沈降した非接着性細胞を効率的に除去することができなかった。そこで、本発明者らは沈降した非接着性細胞の効率的除去のため、培養容器をほぼ垂直に立てた状態での培地の供給による洗浄を試みたが、やはり非接着性細胞は効率的に除去されなかった。これらの結果から、本発明者らは、非接着性細胞が培養容器表面との弱い結合を備えると考え、非接着性細胞と培養容器表面との結合を切ることが可能な洗浄条件の検討を行った。その結果、意外にも培地容量を減少させた後、新しい培地を添加する方法を採用することで、培養容器表面と結合していた非接着性細胞が効率的に除去されることを見出した。即ち、本発明者らは、単球の分離に用いる密閉型培養容器に培地の容量を変化させる手段を設けることで、非接着性細胞を効率的に除去できるだけでなく、接着させた単球を効率よく回収できることを見出した。また、本発明者らは、分離された単球を、回収後、別の培養容器への播種する工程を経ることなく、当該分離に用いた容器に接着した状態で、培養し、分化させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
より具体的には、本発明は、以下の発明に関する。
(1) 注入口及び排出口を有する、接着性細胞分離用密閉型培養容器、
(2) 内容積の容量が変化可能である、請求項1に記載の密閉型培養容器、
(3) 酸素透過性部材及び弾性体を備える、(1)又は(2)のいずれか1項に記載の密閉型培養容器、
(4) 弾性体が伸縮性のあるフィルムである、(3)に記載の密閉型培養容器、
(5) 酸素透過性部材が面部材であり、かつ、当該面部材と相対する位置に細胞付着性面部材を備えることを特徴とする、(3)又は(4)に記載の密閉型培養容器、
(6) (1)〜(5)のいずれか1項に記載の密閉型培養容器に末梢血由来の単核球画分を加える工程、当該培養容器を静置することにより接着性細胞を付着させる工程、並びに、容器容量を減少させることにより溶液及び非接着性細胞を排出する工程を含む、接着性細胞の分離方法、
(7) 更に、容器容量を増加させることにより溶液を注入する工程を含み、かつ、容器容量を減少させることにより溶液及び非接着性細胞を排出する工程と、容器容量を増加させることにより溶液を注入する工程とが繰り返し行われることを特徴とする、(6)に記載の分離方法、
(8) (6)又は(7)に記載の分離方法により単球を分離する工程を含む、樹状細胞の製造方法、
(9) 更に、容器内の接着性細胞を培養する工程を含む、(8)に記載の製造方法、
(10) 更に、容器内の細胞を分化因子の存在下で培養する工程を含む、(9)に記載の製造方法、
(11) 更に、該容器内の接着性細胞に抗原タンパク質又は抗原ペプチドを接触させることにより該接着性細胞に抗原を提示させる工程を含む、(10)に記載の製造方法、
(12) (1)〜(5)のいずれか1項に記載の密閉型培養容器を備える培養装置、及び、
(13) 接着性細胞の分離及び/又は培養に使用される(12)に記載の培養装置。
【0010】
本発明において、「内容積の容量が変化可能である密閉型培養容器」とは、培養容器の内容積を必要に応じて変化させることができる密閉型の培養容器であれば特に限定されない。例えば、このような培養容器として、一部又は全部が弾性体で構成された培養容器、培養容器の少なくとも一面が可動性となっており、当該面と対抗する他の面との距離が適宜調整可能な培養容器、培養容器中に挿脱可能な嵩上材を備える培養容器、折りたたみ可能な袋状の培養容器等を挙げることができ、これらのうち好ましくは、一部が弾性体で構成された培養容器であり、より好ましくは、一部が伸縮性のあるフィルムで構成された培養容器である。また、本発明における「内容積の容量が変化可能である密閉型培養容器」は、その内容積が外部からの力を受けて変化するものであっても良いし、内包する流体からの力を受けて変化するものであっても良い。
【0011】
本発明において、「弾性体」とは、弾性変形可能な材料からなる部材のことである。弾性体の材料としては、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、多硫化ゴム、ノルボルネンゴム等のゴム;及び、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、塩ビ系エラストマ、ウレタン系エラストマ、エステル系エラストマ、アミド系エラストマ等のエラストマを挙げることができる。本発明における弾性体として、好ましくは酸素透過性を有する弾性体であり、より好ましくは酸素透過性を有するエラストマである。また、本発明の弾性体の形状は特に限定されないが、好ましくはフィルム状である。
【0012】
本発明の「伸縮性のあるフィルム」としては、例えば、ニトリルゴムフィルム、水素化ニトリルゴムフィルム、アクリルゴムフィルム、ウレタンゴムフィルム、エチレンプロピレンゴムフィルム、クロロプレンゴムフィルム、エピクロルヒドリンゴムフィルム、天然ゴムフィルム、イソプレンゴムフィルム、スチレンブタジエンゴムフィルム、ブタジエンゴムフィルム、多硫化ゴムフィルム、ノルボルネンゴムフィルム等のゴムフィルム;スチレン系エラストマフィルム、オレフィン系エラストマフィルム、塩ビ系エラストマフィルム、ウレタン系エラストマフィルム、エステル系エラストマフィルム、アミド系エラストマフィルム等のエラストマフィルム;ポリエチレンフィルム;ポリスチレンフィルム;ポリプロピレンフィルム等のフィルムを挙げることができる。本発明における伸縮性のあるフィルムとして、好ましくは酸素透過性を有する伸縮性のあるフィルムであり、より好ましくは酸素透過性を有し、伸縮性があり且つ光透過性のあるフィルムである。
【0013】
本発明において、「酸素透過性部材」及び「酸素透過性面部材」とは、水を透過せず、酸素を透過させることができる材料であれば特に限定されない。このような、酸素透過性材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、パーフルオロアルコキシ、ふっ化エチレンプロピレン、ポリプロピレン、メチルメタクリレート、セルロースアセテート、ブチレート、トリス(トリメチリシロキシシリルプロピルメタクリレート)、ペンタメチルジシロキサニル等を挙げることができる。
【0014】
本発明において、「細胞付着性面部材」とは、付着性細胞が付着可能な材料であれば特に限定されない。このような、細胞付着性部材の材料としては、例えば、ポリグラクチン、ポリ(α−ヒドロキシ酸)、ポリ(1,4−ジオキサン−2−オン)、フィブリノーゲン、セルロース、デンプン、デキストラン、アルギン酸、キチン、キトサン、プルラン、ヒアルロン酸、コラーゲン、ゼラチン、フィブロイン、セリシン、カゼイン、フィブリン、核酸、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリリジン、ナイロン4、ナイロン2−ナイロン6共重合体、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプトラクトン、ポリジオキサノン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリコハク酸ブチレン、ポリ(アジピン酸/テレフタル酸ブチレン)、ポリ(アジピン酸/テレフタル酸エチレン)、ポリカーボネート、ポリシアノアクリル酸エステル、ハイドロキシアパタイト、A−Wガラスセラミックス、e−ポリテトラフルオロエチレン、ポリホスファゼン、炭酸カルシウムの生体親和性を有する材料、並びに、金属、ポリマー、セラミックス等の生体親和性を有しない材料であって、表面又は立体加工により細胞付着性を備えることが可能な材料を挙げることができる。また、本発明の細胞付着性面部材の材料は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、細胞付着性面部材は、細胞付着面を備える限りその構造が限定されるものではなく、例えば、フィルム状、板状、繊維状、不織布状、織物状、ロープ状、チューブ状、ブロック状等を挙げることができ、好ましくは板状又はフィルム状である。
【0015】
本発明の「接着性細胞」として、好ましくは単球である。本発明において、「単球」とは、CD14樹状細胞前駆細胞のことであり、樹状細胞やマクロファージへの分化能を有する細胞のことである。
【0016】
本発明において、「樹状細胞」は、分化系統や成熟段階を問わず、未熟樹状細胞及び成熟樹状細胞を含む。例えば、本発明における樹状細胞としては、機能的サブセット分類により、タイプ−1樹状細胞(DC1)、プレカーサタイプ−1樹状細胞(pDC1)、タイプ−2樹状細胞(DC2)、プレカーサタイプ−2樹状細胞(pDC2)、免疫寛容誘導性樹状細胞、制御性T細胞誘導性樹状細胞を挙げることができる。また、本発明における樹状細胞としては、マーカー分子によるサブセット分類により、CD4CD1aCD11cサブセット、CD4CD1aCD11cサブセット、CD4CD1aCD11cサブセット等の末梢血樹状細胞;HLA−DRhighCD4CD11cサブセット、HLA−DRmodCD4CD11cCD13サブセット、HLA−DRmodCD4CD11cCD123サブセット、HLA−DRmodCD4CD11cCD123サブセット、HLA−DRmodCD4CD11cサブセット等の扁桃腺樹状細胞;CD4CD11cCD83CD86サブセット、CD4CD11cCD14lowCD80CD83CD86サブセット、CD4CD11cCD14CD80CD83CD86サブセット、CD4CD11cサブセット等の脾臓樹状細胞;及び、HLA−DRintCD4CD123highCD45RAhighCD11cCD13CD33lowサブセット、HLA−DRhighCD4CD11cサブセット、HLA−DRintCD4CD11cCD13CD33サブセット等の胸腺樹状細胞を挙げることができる。
【0017】
本発明において、「分化因子」とは、樹状細胞への分化及び/又は成熟樹状細胞への成熟を促進する因子のことである。このような分化因子としては、例えば、GM−CSF、IL−4、IL−13、IL−5、IFNα、MCM、IL−1β、IL−6、TNFα、PGE、リポ多糖、菌体産物(例えば、モノホスホリル脂質A(MPL)、リポタイコ酸)、ホスホリルコリン、カルシウムイオノフォア、ホルボールエステル(例えば、PMA)、熱ショックタンパク質、ヌクレオチド類(例えば、ATP)、リポペプチド、トールライク受容体に対する人工リガンド、二本鎖RNA(ポリI:C)、免疫刺激性DNA配列、CD40リガンド等を挙げることができる。本発明においては、これらの分化因子を単独で使用してもよいし、2以上の分化因子を組み合わせて使用しても良い。分化因子を主に樹状細胞への分化に用いる場合、好ましくは、IL−4、IL−13、IL−5及びIFNαから選ばれる少なくとも1つの分化因子とGM−CSFとの混合物である。また、分化因子を主に成熟樹状細胞への成熟に用いる場合、好ましくは、IL−1β、IL−6、TNFα及びPGEの混合物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の密閉型培養容器は、培地の容量を変化させる手段を備えることから、末梢血単核球画分から効率的に単球及び樹状細胞を分離することができ、また、フィルタやスポンジのような形状を有さないことから、付着した接着性細胞を効率的に回収することができる。また、本発明の密閉型培養容器は、細胞培養にも使用することができることから、分離した細胞を含む容器に培地を加えることにより、当該細胞を培養することができ、樹状細胞製造工数を削減することができる。特に、本発明の密閉容器は、単一容器で分離、培養、抗原刺激を行うことができることから、樹状細胞の自動製造に適している。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の密閉型培養容器を用いた単球の分離、又は、本発明の密閉型培養容器を用いた樹状細胞の製造は、以下の工程により行うことができる:(i)末梢血由来の単核球画分を加える工程、(ii)培養容器を静置することにより接着性細胞を付着させる工程、(iii)容器容量を減少させることにより溶液及び非接着性細胞を排出する工程。
【0020】
(i)末梢血由来の単核球画分を加える工程
本発明における製造方法で使用する末梢血由来の単核球画分は、被験者の末梢血を採取し、当業者周知の方法で単核球画分を分離、採取することにより得ることができる。単核球画分を得る方法としては、例えば、ACD溶液を用いてヒト末梢血から連続遠心分離する方法や、アフェレーシス(成分採血)を挙げることができる。得られた単核球画分は、適宜培地又は生理食塩水等に懸濁して注入口より密閉型培養容器内に注入することができる。使用される培地としては、単球を培養することができる培地であれば特に限定されないが、好ましくは樹状細胞又はその前駆体用培地(例えば、95L10HSA(AYS社))、又は、1〜5%自己血清含有RPMI1640培地である。
【0021】
(ii)培養容器を静置することにより接着性細胞を付着させる工程
密閉型培養容器内に注入された単核球画分に含まれる細胞は、37℃、5%CO条件下で、10分〜24時間(好ましくは、30分〜3時間、更に好ましくは、1〜2時間)静置することにより、接着性細胞を培養容器表面に接着させることができる。
【0022】
(iii)容器容量を減少させることにより溶液及び非接着性細胞を排出する工程
培養液及び非付着細胞を抽出口から排出させながら密閉型培養容器の容量が10〜40%(好ましくは、20〜30%)となるよう減少させることにより、非接着性細胞を除去することができる。
【0023】
好ましくは、本発明における単球の分離、又は、本発明の密閉型培養容器を用いた樹状細胞の製造は、上述の(i)〜(iii)及び以下の工程により行うことができる:(iv)容器容量を増加させることにより溶液を注入する工程、(v)(iii)と(iv)を繰り返し行う工程。
【0024】
(iv)容器容量を増加させることにより溶液を注入する工程
培地又は生理食塩水等を加えながら、密閉型培養容器の容量がほぼ100%となるように増加させることにより、再び培養容器を溶液で満たす。使用される培地としては、単球を培養することができる培地であれば特に限定されないが、好ましくは樹状細胞又はその前駆体用培地(例えば、95L10HSA(AYS社))、又は、1〜5%自己血清含有RPMI1640培地である。
【0025】
(v)(iii)と(iv)を繰り返し行う工程
更に、(iii)の容器容量を減少させることにより溶液及び非接着性細胞を排出する工程と、(iv)の容器容量を増加させることにより溶液を注入する工程を繰り返し行うことにより、より非付着性細胞をより効率的に除去することができる。繰り返しの数は、特に限定はないが、好ましくは2〜3回である。
【0026】
本発明における樹状細胞の製造は、上述の(i)〜(iii)又は(i)〜(v)、及び以下の工程により行うことができる:(vi)容器内の接着性細胞を培養する工程。
【0027】
(vi)容器内の接着性細胞を培養する工程
容器内の接着性細胞を培養するため、注入口より培地を注入しながら再び容器の容量をほぼ100%となるまで増加させる。その後、37℃、5%CO条件下で1日〜1週間(好ましくは、3〜5日間)静置することにより、容器内の接着性細胞を培養することができる。使用される培地としては、単球を培養することができる培地であれば特に限定されないが、好ましくは樹状細胞又はその前駆体用培地(例えば、95L10HSA(AYS社))、又は、1〜5%自己血清含有RPMI1640培地である。
【0028】
好ましくは、本発明における樹状細胞の製造は、上述の(i)〜(vi)及び以下の工程により行うことができる:(vii)容器内の細胞を分化因子の存在下で培養する工程。
【0029】
(vii)容器内の細胞を分化因子の存在下で培養する工程
容器内の細胞を分化因子の存在下で培養するため、例えば、分化因子を含む培地を容器中に注入ことができる。使用される分化因子としては、GM−CSF、IL−4、IL−13、IL−5、IFNα、MCM、IL−1β、IL−6、TNFα、PGE、リポ多糖、菌体産物(例えば、モノホスホリル脂質A(MPL)、リポタイコ酸)、ホスホリルコリン、カルシウムイオノフォア、ホルボールエステル(例えば、PMA)、熱ショックタンパク質、ヌクレオチド類(例えば、ATP)、リポペプチド、トールライク受容体に対する人工リガンド、二本鎖RNA(ポリI:C)、免疫刺激性DNA配列、CD40リガンド等を用いることができる。単球を樹状細胞に分化させる場合には、例えば、容器内の細胞に、800U/mL GM−CSF、500U/mL IL−4含有RPMI 1640培地を加え、37℃、5%CO条件下で、1〜7日間(好ましくは、3〜5日間)培養することにより行うことができる。
【0030】
また、本発明により分離された単球は、使用される分化因子を、分化させようとする細胞に応じて適宜選択することにより、マクロファージやランゲルハンス細胞に文化させることができる。例えば、単球をマクロファージに分化させる場合には、M−CSFを用いることができ、単球をランゲルハンス細胞に分化させる場合には、GM−CSF、TNFα、TGFβ1等を用いることができる。
【0031】
より更に好ましくは、本発明における樹状細胞の製造は、上述の(i)〜(vii)及び以下の工程により行うことができる:(viii)容器内の接着性細胞に抗原タンパク質又は抗原ペプチドを接触させることにより該接着性細胞に抗原を提示させる工程。
【0032】
(viii)容器内の接着性細胞に抗原タンパク質又は抗原ペプチドを接触させることにより該接着性細胞に抗原を提示させる工程
使用される抗原タンパク質又は抗原ペプチドは、樹状細胞を免疫療法として用いる対象疾患に応じて適宜決定することができる。例えば、対象疾患がB型肝炎の場合、抗原タンパク質又は抗原ペプチドとして、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs抗原)を用いることができる。また、対象疾患が癌である場合、癌抗原として知られているタンパク質又はペプチドを抗原タンパク質又は抗原ペプチドとして用いることができる。
【0033】
以下、本発明をより詳細に説明するため実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1) 一部が弾性体で構成された培養容器を用いた樹状細胞の製造
細胞付着部の面積15cm、標準内容積4.5mL、液深3mmで、注入口及び抽出口を備え、細胞培養(付着)面に対する面が弾性体で構成された培養容器を用いて、以下の方法により樹状細胞の製造を行った。
被験者より成分採血により採取した単核細胞は、1〜5%自己血清含有RPMI 1640培地(ニプロ社製)に懸濁して、1×10cells/容器となるように培養容器に播種した。37℃、5%CO条件下で、90分間静置し培養した後、容器の容量を減少させながら80%の培地を除去した。その後、800U/mL GM−CSF(ペプロテックEC社製)、500U/mL IL−4(ペプロテックEC社製)含有RPMI 1640培地(ニプロ社製)4mLを注入し、37℃、5%CO条件下で、4日間静置し培養した。その後、2mLの培地を除去しながら、800U/mL GM−CSF(ペプロテックEC社製)、500U/mL IL−4(ペプロテックEC社製)含有RP 1640培地(ニプロ社製)2mLを注入した。37℃、5%CO条件下で、4日間静置し培養した後、回収し樹状細胞数及び割合を顕微鏡下にてカウントした結果、1.4×10細胞が回収され、純度は13.6%であった。
【0035】
(比較例1) 容量が固定された培養容器を用いた樹状細胞の製造
細胞付着部の面積15cm、最大内容積4mL、液深3mmで、注入口及び抽出口を備え、細胞培養(付着)面に対する面が弾性体で構成された培養容器を用いて、以下の方法により樹状細胞の製造を行った。
被験者より成分採血により採取した単核細胞は、1〜5%自己血清含有RPMI 1640培地(ニプロ社製)に懸濁して、1×10cells/容器となるように培養容器に播種した。37℃、5%CO条件下で、90分間静置し培養した後、容器を垂直にして、注入口を上側にした状態で、800U/mL GM−CSF(ペプロテックEC社製)、500U/mL IL−4(ペプロテックEC社製)含有RPMI 1640培地(ニプロ社製)4mLを1mL/分で注入しながら、注入量と同量の培養容器中の培地を排出口から排出した。容器を水平の状態に戻し、37℃、5%CO条件下で、4日間静置し培養した。
その後、再び容器を垂直にして、注入口を上側にした状態で、800U/mL GM−CSF(ペプロテックEC社製)、500U/mL IL−4(ペプロテックEC社製)含有RPMI 1640培地(ニプロ社製)2mLを1mL/分で注入しながら、注入量と同量の培養容器中の培地を排出口から排出した。37℃、5%CO条件下で、4日間静置し培養した後、回収し樹状細胞の数と割合を顕微鏡下にてカウントした結果、1.2×10細胞が回収され、純度は6.6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入口及び排出口を有する、接着性細胞分離用密閉型培養容器。
【請求項2】
内容積の容量が変化可能である、請求項1に記載の密閉型培養容器。
【請求項3】
酸素透過性部材及び弾性体を備える、請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の密閉型培養容器。
【請求項4】
弾性体が伸縮性のあるフィルムである、請求項3に記載の密閉型培養容器。
【請求項5】
酸素透過性部材が面部材であり、かつ、当該面部材と相対する位置に細胞付着性面部材を備えることを特徴とする、請求項3又は請求項4に記載の密閉型培養容器。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の密閉型培養容器に末梢血由来の単核球画分を加える工程、当該培養容器を静置することにより接着性細胞を付着させる工程、並びに、容器容量を減少させることにより溶液及び非接着性細胞を排出する工程を含む、接着性細胞の分離方法。
【請求項7】
更に、容器容量を増加させることにより溶液を注入する工程を含み、かつ、容器容量を減少させることにより溶液及び非接着性細胞を排出する工程と、容器容量を増加させることにより溶液を注入する工程とが繰り返し行われることを特徴とする、請求項6に記載の分離方法。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載の分離方法により単球を分離する工程を含む、樹状細胞の製造方法。
【請求項9】
更に、容器内の接着性細胞を培養する工程を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
更に、容器内の細胞を分化因子の存在下で培養する工程を含む、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
更に、該容器内の接着性細胞に抗原タンパク質又は抗原ペプチドを接触させることにより該接着性細胞に抗原を提示させる工程を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の密閉型培養容器を備える培養装置。
【請求項13】
接着性細胞の分離及び/又は培養に使用される請求項12に記載の培養装置。

【公開番号】特開2010−200693(P2010−200693A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50891(P2009−50891)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【出願人】(503223821)メディカルサイエンス株式会社 (3)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】