説明

樹脂シート及び電子部品搬送用容器並びにカバーテープ

【課題】低湿度下でも帯電防止性を発揮する、樹脂シートを用いることにより、低湿度下でも静電気による電子部品の破壊や、実装不良等が起こらない、電子部品搬送用容器及びカバーテープを提供する。
【解決手段】少なくともシートの一部にイオン性液体を含有し、片面又は両面の表面抵抗値が10〜1011Ω/□となるようにイオン性液体を含有させることで、低湿度下でも帯電防止性を発揮する、樹脂シート及びそれを用いた、電子部品搬送用容器及びカバーテープ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シート及びそれを用いた電子部品搬送用容器並びにカバーテープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子部品の輸送時や実装時に発生する静電気で、電子部品が壊れたり、実装不良が起こったりする問題が起きていた。この問題に対して、電子部品の搬送用容器であるキャリアテープやカバーテープを帯電防止性にすることで対応してきた。しかしながら、電子部品の更なる小型化により、現状のレベルの帯電防止性では、問題を解決出来ない事例が増えてきている。これに伴い、キャリアテープに関してはカーボンブラック等をシートに練り込んだり、表面に塗布したりすることで、安定した帯電防止性能を実現している。しかしながら、カーンブラックを用いると黒色になることから、透明用途では使用できないという問題や、カーボンブラックの脱落により、電子部品が汚染される等の問題がある。また、カバーテープに関しては、特許文献1に示されるように、帯電防止剤を用いて、この問題に対応しているが、一般的な透明帯電防止剤は湿度が低いとその効果を発揮しないため、特に湿度の低い冬場では、静電気による、電子部品の破壊や、実装不良の問題を解決しきれていない。そこで、低湿度下でも帯電防止性を発揮する、電子部品搬送用容器及びカバーテープの開発が求められている。
【0003】
【特許文献1】特開2001−171727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明により、イオン性液体を含有させることで、低湿度下でも帯電防止性を発揮する樹脂シートを提供でき、それを用いることにより、低湿度下でも静電気による電子部品の破壊や、実装不良が起こらない電子部品搬送用容器及びカバーテープを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
(1)イオン性液体を含有することを特徴とする樹脂シート、
(2)前記樹脂シートの片面又は両面の表面抵抗値が10〜1011Ω/□である(1)項記載の樹脂シート、
(3)前記樹脂シートの片面又は両面に、少なくとも1層を積層した(1)又は(2)項記載の樹脂シート、
(4)前記イオン性液体が、イミダゾリウム系イオン性液体、ピリジニウム系イオン性液体、アンモニウム系イオン性液体、ホスホニウム系イオン性液体、スルホニウム系イオン性液体のいずれか又は、それらの組み合わせである(1)から(3)項のいずれかに記載の樹脂シート、
(5)(1)〜(4)項のいずれかに記載の樹脂シートから成形される電子部品搬送用容器、
(6)基材層、シール層からなる少なくとも2層のカバーテープであって、(1)〜(4)項のいずれかに記載の樹脂シートを層構成に含有するカバーテープ、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従うと、イオン性液体を含有させることで、低湿度下でも帯電防止性を発揮する樹脂シートを提供でき、これを用いることにより、低湿度下でも静電気による電子部品の破壊や、実装不良が起こらない、電子部品搬送用容器及びカバーテープを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、イオン性液体を含有することを特徴とする樹脂シートである。イオン性液体とは、特定のカチオン及びアニオンの組み合わせからなる、室温付近で液体状態にある有機塩(常温溶融塩)である。カチオンとしては、特に限定はしないが、イミダゾリウム系、ピリジニウム系、アンモニウム系、ホスホニウム系、スルホニウム系等が好ましく使用できる。アニオンとしては、特に規定はしないが、BF、PF、AlCl、NO、NO、I、AsF、SbF、NbF、TaF、等の無機アニオン系、CFSO、(CFSO、p−CHPhSO、CHCO、CHSO、CFSO、(CFSO、CCO、CSO、(CSO、(CFSO)(CFCO)N、(CN)の有機アニオン系等が好ましく使用できる。導電性の機構としてはイオンによるものなので、湿度に関係なく、安定した導電性を示す。また、イオン性液体は、透明であることから、基材の透明性をほとんど損なわない。
【0008】
イオン性液体を含有する層の表面抵抗値は10〜1011Ω/□である。表面抵抗値が下限値未満になると、表面抵抗値が低すぎて外部で発生した静電気等が流れ込み、内容物である電子部品を破壊する恐れがある。また、上限値を超えると、静電気の抑制にあまり効果がなく、発生した静電気による、電子部品の破壊や、実装不良が起こりやすい。
【0009】
本発明での樹脂シートは、熱可塑性樹脂シートが用いられる。その中でも、ポリ塩化ビニル系樹脂シートやポリオレフィン樹脂系シート、ポリスチレン樹脂系シート、ポリエステル樹脂系シート、ポリアミド樹脂系シートなどが好ましく使用される。更に、これかの樹脂シートを多層化して用いることもできる。
【0010】
本発明の樹脂シートを用いることにより、低湿度下でも安定した帯電防止性を有する電子部品搬送用容器又はカバーテープを製作することが出来る。また、イオン性液体を含有する層を中間の層に用いることもでき、電子部品搬送用容器とカバーテープとが接するシール面に影響を与えることなく使用できるため、電子部品搬送用容器とカバーテープのシール性に影響を与えず使用することも出来る。
電子部品と接する面にイオン性液体を用いた帯電防止層を用いる場合は、発生した静電気を瞬時に拡散し、静電気による不具合を抑えることが出来る。
【0011】
以下にイオン性液体を含有する層を中間の層に用いた場合の静電気抑制について、図1を用いて述べる。図1は模式的なカバーテープを示した。基材層1の外面が(+)電荷に帯電したとすると、反対のシール層3の外面は誘導帯電により(−)電荷に帯電する。電気力線は(+)電荷に始まり(−)電荷で終わるので、この場合の電気力線は、図1の方向aとなる。このカバーテープの内層部には、基材層1とクッション層2との間に中間のイオン性液体を含有した層4が存在すると、層4の中は自由に電荷がイオンとして動くことが出来るので、この電荷の偏りを打ち消す方向に電荷が偏る。つまり、層4の基材層1側面に(−)電荷、中間層2側面に(+)電荷となり、電気力線は図1の方向bとなる。層4内の電気力線はカバーテープ全体の電気力線の方向aと反対向きなので、カバーテープ全体の電気力線と打ち消しあって、電気力線の強さを減少させる。これらの効果により、イオン性液体含有層4があると、静電気の発生を抑えることが出来る。
【0012】
樹脂シートにイオン性液体を含有させる方法としては特に限定しないが、樹脂シートの表面にイオン性液体含有塗料を塗布する方法、熱可塑性樹脂等にイオン性液体を分散させ、それをシーティングする方法、接着剤にイオン性液体を分散させ、その接着剤でシートを接着する方法等が好ましく使用できる。
【0013】
イオン性液体を含有するシートには、帯電防止性能を損なわない範囲で、各種添加剤やフィラー等を添加する事が可能である。
【実施例】
【0014】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、これは単なる例示であり、本発明はこれにより限定されるものではない。
<実施例1>
ウレタン系塗料(大阪印刷インキ(株)製 UPT−100(V)OP)にイオン性液体(広栄化学工業(株)製 IL−P14)を混合し、厚み0.3mmのA−PET基材の両面に塗布し、塗料塗布面の表面抵抗値が10Ω/□の樹脂シートを得た。
<実施例2>
O−PETとLLDPEをドライラミネート剤(三井武田ケミカル(株)製 A310/A3)で貼り合わせた。その後、カバーテープとの熱圧着用のシーラント塗料(住友ベークライト(株)製)とイオン性液体(広栄化学工業(株)製 IL−P14)を混合した塗料を、LLDPE面に塗布し、LLDPE面の表面抵抗値が10Ω/□の多層の樹脂シートを得た。
<実施例3>
O−PETとLLDPEをドライラミネート剤(三井武田ケミカル(株)製 A310/A3)で貼り合わせ、ウレタン系塗料(大阪印刷インキ(株)製 UPT−100(V)OP)にイオン性液体(広栄化学工業(株)製 IL−P14)を混合した塗料を、O−PET面に塗布し、O−PET面の表面抵抗値が10Ω/□の多層の樹脂シートを得た。その後、LLDPE面にカバーテープとの熱圧着用のシーラント(住友ベークライト(株)製)を塗布した。
<実施例4>
ドライラミネート剤(三井武田ケミカル(株)製 A310/A3)に、イオン性液体(広栄化学工業(株)製 IL−P14)を混合したものを、O−PETに塗布し、ドライラミネート剤の塗布面の表面抵抗値が10Ω/□のO−PETの樹脂シートを得た。その後、ドライラミネート剤の塗布面とLLDPEを貼り合わせた。その後、LLDPE面にカバーテープとの熱圧着用のシーラント(住友ベークライト(株)製)を塗布した。
<比較例1>
ウレタン系塗料(大阪印刷インキ(株)製)を、厚み0.3mmのA−PET基材の両面に塗布した。
<比較例2>
帯電防止剤(花王(株)製 エレクトロストリッパー)を、厚み0.3mmのA−PET基材の両面に塗布した。
<比較例3>
ドライラミネート剤(三井武田ケミカル(株)製 A310/A3)で、O−PETとLLDPEを貼り合わせた。その後、LLDPE面にカバーテープとの熱圧着用のシーラント(住友ベークライト(株)製)を塗布した。
<比較例4>
O−PETとLLDPEをドライラミネート剤(三井武田ケミカル(株)製 A310/A3)で貼り合わせ、ウレタン系塗料(大阪印刷インキ(株)製)を、O−PET面に塗布した。その後、LLDPE面にカバーテープとの熱圧着用のシーラント(住友ベークライト(株)製)を塗布した。
<比較例5>
O−PETとLLDPEをドライラミネート剤(三井武田ケミカル(株)製 A310/A3)で貼り合わせ、帯電防止剤(花王(株)製 エレクトロストリッパー)を、O−PET面に塗布した。その後、LLDPE面にカバーテープとの熱圧着用のシーラント(住友ベークライト(株)製)を塗布した。
【0015】
表1に実施例1〜4及び、比較例1〜5において、表面抵抗値の湿度依存性測定結果を示した。イオン性液体を含有した実施例1〜4では、低湿度でも表面抵抗値の上昇がなく、低湿度下での帯電防止性能が発揮できている。しかし、帯電防止剤を塗布した比較例2及び5では、湿度が20%RHになると、表面抵抗値が1012Ω/□以上になっており、低湿度下で帯電による問題が発生することとなる。
【0016】
また、表1に樹脂シートの光線透過率及びヘイズを示した。実施例1〜4の光線透過率及びヘイズは、イオン性液体を含有していない比較例1、3及び4と比べ、同等であり、イオン性液体は透明性を阻害しないといえる。
【0017】
更に、表1にキャリアテープ及びカバーテープの帯電圧を測定した。測定方法としては、まず、実施例1、比較例1及び2のA−PETシートをキャリアテープに成形した。そのキャリアテープに電子部品を挿入し、カバーテープ(住友ベークライト(株)製 CSL−Z7302)をシールし、25℃―20%RHの環境下で、600rpmで5分間振動させた。その後、25℃―20%RHの環境下で、カバーテープを剥離後、電子部品を取り出し、キャリアテープの帯電圧を、表面電位計(トレック・ジャパン(株)製 MODEL 370−1)で測定した。同様に、実施例2及び3、比較例3〜5のカバーテープを、電子部品を挿入したキャリアテープ(住友ベークライト(株)製 A771C)に、シールし、25℃―20%RHの環境下で、600rpmで5分間振動させた。その後、25℃―20%RHの環境下で、カバーテープを剥離後、カバーテープの帯電圧を、表面電位計(トレック・ジャパン(株)製 MODEL 370−1)で測定した。帯電圧が50Vより低いものを○、50〜3000Vのものを△、3000Vを超えるものを×とした。いずれの組み合わせに関しても、イオン性液体含有の実施例1〜4において、キャリアテープ及びカバーテープの帯電は50Vより低く、ほとんど帯電関係の問題は起きないレベルである。
【0018】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、イオン性液体を含有させることで、低湿度下でも帯電防止性を発揮する、樹脂シートを提供でき、それを用いることにより、低湿度下でも、静電気による電子部品の破壊や、実装不良等が起こらない、電子部品搬送用容器及びカバーテープを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】模式的なカバーテープの説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1:基材層
2:クッション層
3:シール層
4:イオン性液体含有層
5:カバーテープ
a、b:電気力線の方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体を含有することを特徴とする樹脂シート。
【請求項2】
前記樹脂シートの片面又は両面の表面抵抗値が10〜1011Ω/□である請求項1記載の樹脂シート。

【請求項3】
前記樹脂シートの片面又は両面に、少なくとも1層を積層した請求項1又は2記載の樹脂シート。
【請求項4】
前記イオン性液体が、イミダゾリウム系イオン性液体、ピリジニウム系イオン性液体、アンモニウム系イオン性液体、ホスホニウム系イオン性液体、スルホニウム系イオン性液体のいずれか又は、それらの組み合わせである請求項1から3のいずれかに記載の樹脂シート。

【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂シートから成形される電子部品搬送用容器。
【請求項6】
基材層、シール層からなる少なくとも2層のカバーテープであって、請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂シートを層構成に含有するカバーテープ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−299120(P2006−299120A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123924(P2005−123924)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】