樹脂フィルムの除電装置、およびこの除電装置を備えた印刷装置
【課題】この発明は、装置構成を簡略化でき、装置コストを安価にでき、樹脂フィルムを効果的に除電できる除電装置、およびこの除電装置を備えた印刷装置を提供することを課題とする。
【解決手段】供給軸22から送り出されて剥離帯電したインクリボン12を除電する除電装置1は、インクリボン12の搬送方向上流側でインクリボン12の表面に接触して配置された導電性ローラ34、およびインクリボン12の搬送方向下流側でインクリボン12の裏面に対向して配置された除電ブラシ32を有する。導電性ローラ34は、インクリボン12の表面との間で、パッシェンの法則に基づく放電を生出させ、インクリボン12の表面を除電する。除電ブラシ32は、導電性ローラ34による除電によって表裏の電荷のバランスが崩れたインクリボンとの間で放電を生じせしめて裏面を除電する。
【解決手段】供給軸22から送り出されて剥離帯電したインクリボン12を除電する除電装置1は、インクリボン12の搬送方向上流側でインクリボン12の表面に接触して配置された導電性ローラ34、およびインクリボン12の搬送方向下流側でインクリボン12の裏面に対向して配置された除電ブラシ32を有する。導電性ローラ34は、インクリボン12の表面との間で、パッシェンの法則に基づく放電を生出させ、インクリボン12の表面を除電する。除電ブラシ32は、導電性ローラ34による除電によって表裏の電荷のバランスが崩れたインクリボンとの間で放電を生じせしめて裏面を除電する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂フィルムを除電する除電装置に係り、例えば、インクリボンを媒体に沿って走行させてサーマルヘッドを用いてインクを熱転写するタイプの印刷装置、およびこの印刷装置に組み込まれたインクリボンや中間転写フィルムなどの樹脂フィルムを除電するための除電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、IDカードや通帳などの比較的小さなカード媒体に顔写真などの高精細画像を印刷する印刷装置として、加熱により溶融する色インクを保持したインクリボンを使用する印刷装置が知られている。この種の印刷装置では、例えば、サーマルヘッドとプラテンローラとの間に中間転写フィルムとインクリボンを重ねて搬送し、インクリボンのインクをサーマルヘッドで溶融して、中間転写フィルム上に各色のインクを重ねて転写する。そして、この中間転写フィルム上で重ねたカラーインクをカード媒体に転写することで、カード媒体にカラー画像を印刷する。
【0003】
インクリボンの両端は、供給軸と巻取り軸にそれぞれ巻き付けられており、供給軸から供給されたインクリボンが途中でサーマルヘッドを通過して巻取り軸で巻き取られる。供給軸からインクリボンが供給されるとき、供給軸に重ねて巻き付けられている未使用のインクリボンから新たに送り出されるインクリボンが剥離され、供給軸に巻き付けられているインクリボンと送り出されたインクリボンの両方に剥離帯電を生じる。
【0004】
インクリボンのこのような帯電は、表裏で極性が異なる傾向にあり、且つ供給軸に巻き付けられていたときに互いに重なっていたインク色の組み合わせによっても剥離したときの帯電量が異なる。つまり、供給軸に巻き付けられたインクリボンが供給されるにつれ、インクリボンの径が徐々に小さくなるため、インクリボンの長手方向に沿った色パターンに規則性があっても、重ねて巻き付けられているインクリボン同士の色の重なり方は不規則であり、供給されるインクリボンの帯電特性も不規則になる。
【0005】
一方で、サーマルヘッドは、温度低下する前に剥離する熱時剥離による印刷を実施するニアエッジタイプ或いはコーナーエッジタイプが一般的であるため、上記のように帯電したインクリボンがサーマルヘッドを通過すると、両者の間でしばしばパッシェン効果による放電を生じることが知られている。この放電は、しばしば、サーマルヘッドを破壊してしまう問題を生じる。このため、インクリボンは、サーマルヘッドを通過する手前の段階で放電を生じない程度に除電する必要がある。
【0006】
一般に、このような樹脂フィルムの除電方法として、高圧交流イオン化チャンバでイオン化した空気をフィルムに吹き付ける方法(例えば、特許文献1、2参照。)や、高圧交流電源に接続した導電性ローラをフィルム両面に接触させて放電を生じさせることでイオンを発生させる方法(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−216453号公報
【特許文献2】特開2002−236331号公報
【特許文献3】特開平7−142187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述したように、高圧電源を用いる除電装置は、制御系、電極、送風装置などを必要とし、比較的大きな設置スペースを必要とする。また、この種の除電装置は、初期設備コストおよびランニングコストが高い。このため、上述したようなインクリボンを用いる比較的小型の卓上型の印刷装置にこのように大掛かりな除電装置を採用することは難しい。
【0009】
この発明の目的は、装置構成を簡略化でき、装置コストを安価にでき、樹脂フィルムを効果的に除電できる除電装置、およびこの除電装置を備えた印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明の除電装置は、帯状の樹脂フィルムを巻回した供給軸から送り出される樹脂フィルムの一方の面に対向して配置され、この一方の面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることでこの一方の面を除電する除電器と、上記供給軸から上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿って上記除電器より下流側にずれた位置で上記樹脂フィルムの他方の面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、を有する。
【0011】
上記発明によると、パッシェン効果による放電を利用した除電器を樹脂フィルムの一方の面に対向させて配置するとともに、比較的安価な除電ブラシを除電器の下流側にずれた位置で樹脂フィルムの他方の面に対向させて配置したため、従来の大掛かりな除電装置のように高圧電源を用いることなく、装置構成を簡略化でき、装置コストを安価にでき、樹脂フィルムを効果的に除電できる。
【0012】
つまり、帯状の樹脂フィルムを重ねて巻回せしめた供給軸から樹脂フィルムを送り出す際には、供給軸に巻き付けられている未使用の樹脂フィルムと送り出される樹脂フィルムが剥離され、供給軸側の樹脂フィルムと送り出される側の樹脂フィルムそれぞれの対向面が剥離帯電される。このような帯電は、送り出される樹脂フィルムの両面で極性が異なる傾向にあり、電荷がフィルムの両面で概ね相殺されている。この状態で除電ブラシを作用させても十分な電位が静電誘導されないため、放電が発生し難く、除電効果が得難い。
【0013】
このため、上流側でパッシェン効果による放電を生じさせて一方の面を効果的に除電して、フィルム両面に電位差を形成した上で、他方の面を下流側で除電ブラシによって除電するようにした。除電ブラシの放電により生成されたイオンは、フィルムを透過しないため、除電ブラシと反対面には除電作用がない。従って、除電ブラシのみをフィルムに作用させても、電位差が小さいことと、イオンがフィルムを透過しないという理由で効果的な除電はできない。
【0014】
また、この発明の印刷装置は、帯状の樹脂フィルムの表面にインクを保持せしめたインクリボンを巻回した供給軸と、この供給軸から送り出されたインクリボンを巻き取る巻取り軸と、上記供給軸と巻取り軸との間で張設されて走行するインクリボンの裏面側に配置されたサーマルヘッドと、上記供給軸から上記インクリボンを送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で上記インクリボンの上記裏面に接触して配置され、この裏面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることで該裏面に帯電した電荷を除電する除電器と、上記送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で且つ上記除電器より下流側にずれた位置で上記インクリボンの表面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、を有する。
【0015】
上記発明によると、パッシェン効果による放電を利用した除電器をインクリボンの裏面に接触させて配置するとともに、比較的安価な除電ブラシを除電器の下流側にずれた位置でインクリボンの表面に対向させて配置したため、従来の大掛かりな除電装置のように高圧電源を用いることなく、剥離帯電したインクリボンを確実且つ効果的に除電することができる。このため、インクリボンがサーマルヘッドを通過する際に、サーマルヘッドの破壊に至るような放電を生じることを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の樹脂フィルムの除電装置、およびこの除電装置を備えた印刷装置は、上記のような構成および作用を有しているので、装置構成を簡略化でき、装置コストを安価にでき、樹脂フィルムを効果的に除電できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明の実施の形態に係る除電装置を組み込んだ印刷装置の概略図である。
【図2】図2は、図1の印刷装置に組み込まれたインクリボンの帯電圧を計測した結果の一例を示すグラフである。
【図3】図3は、図2のグラフを得るための静電気センサについて説明するための概略図である。
【図4】図4は、除電ブラシをインクリボンに対向させた場合の帯電圧の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、インクリボンの表面に除電ブラシを対向させた状態を示す概略図である。
【図6】図6は、インクリボンの裏面に除電ブラシを対向させた状態を示す概略図である。
【図7】図7は、導電性ローラをインクリボンに対向させた場合の帯電圧の変化を示すグラフである。
【図8】図8は、インクリボンの表面に導電性ローラを接触配置した状態を示す概略図である。
【図9】図9は、インクリボンの裏面に導電性ローラを接触配置した状態を示す概略図である。
【図10】図10は、図8の導電性ローラをインクリボンに接触させた部位を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
【図11】図11は、パッシェンの法則について説明するためのパッシェンカーブを示すグラフである。
【図12】図12は、この発明の実施の形態に係る除電装置を示す概略図である。
【図13】図13は、図12の除電装置を用いた除電の効果について説明するためのグラフである。
【図14】図14は、図12の除電装置に組み込まれた導電性ローラに代る除電器の他の実施の形態を示す概略図である。
【図15】図15は、図14の除電器のさらに別の実施の形態を示す概略図である。
【図16】図16は、この発明の印刷装置の他の実施の形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1には、この発明の実施の形態に係る除電装置1を組み込んだ印刷装置10の概略図を示してある。本発明の除電装置1について説明する前に、まず、印刷装置10の実施例について説明する。
【0019】
印刷装置10は、インクリボン12、中間転写フィルム14、サーマルヘッド16、ここでは図示を省略したヒートローラなどを有する。サーマルヘッド16には、プラテンローラ18が対向配置されている。プラテンローラ18は、サーマルヘッド16に押圧される位置とサーマルヘッド16から離間する位置との間で移動可能に取り付けられている。
【0020】
インクリボン12の両端は、供給軸22および巻取り軸24に巻回されている。インクリボン12の軸22、24間を延びた中途部は、複数のガイドローラに掛け回されて張設されており、サーマルヘッド16とプラテンローラ18の間を通っている。
【0021】
中間転写フィルム14の両端は、送出し軸26および巻取り軸28に巻回されている。中間転写フィルム14の軸26、28間を延びた中途部は、複数のガイドローラに掛け回されて張設されており、インクリボン12の中途部のプラテンローラ18側に重なるように、サーマルヘッド16とプラテンローラ18の間を通っている。
【0022】
中間転写フィルム14を巻き回したガイドローラの1つはテンションローラ13として機能し、中間転写フィルム14に張力を与えている。また、中間転写フィルム14に沿って、テンションローラ13とプラテンローラ18との間には、中間転写フィルム14に搬送力を与えるための駆動ローラ15が配置されている。
【0023】
駆動ローラ15の硬度は、30〜60度であり、中間転写フィルム14は、駆動ローラ15に対し、できるだけ巻き付け角度が大きくなるよう巻き回されている。本実施の形態では、90°〜130°の巻き付け角度で中間転写フィルム14を駆動ローラ15に巻き付けた。駆動ローラ15には、図示しない5相ステッピングモータ、タイミングベルト、およびプーリーによる減速機構が組み合わされており、中間転写フィルム14の搬送量を正確にコントロールできるようになっている。
【0024】
本実施の形態のインクリボン12は、帯状の樹脂フィルムの表面に、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の溶融インクをダンダラ状に保持せしめている。樹脂フィルムの厚さやインク層の厚さは、印刷ドットの再現性の点で極めて重要なパラメータであり、インクリボン12の総厚として、好ましくは3〜25μm、より好ましくは4〜10μm程度が良い。
【0025】
また、中間転写フィルム14も、帯状の樹脂フィルムを基材とし、インクリボン12の表面に接触する側の表面上に、受像層として機能するとともに接着層として機能する転写層を有する。樹脂フィルムの厚さや転写層の厚さは、接着性や膜切れ特性に影響を与えるパラメータであり、中間転写フィルム14の総厚として、好ましくは10〜100μm、より好ましくは25〜50μm程度が良い。
【0026】
サーマルヘッド16は、ニアエッジ、またはコーナーエッジタイプのヘッドであり、温度低下する前に剥離する熱時剥離による印刷を行なう。つまり、このサーマルヘッド16は、図示のように、インクリボン12の走行面に対して傾斜した状態で設置されている。このため、サーマルヘッド16とインクリボン12との間には、パッシェンの法則に基づく放電を生じ易い環境にある。
【0027】
インクリボン12は、供給軸22から送り出されて巻取り軸24で巻き取られ、複数のガイドローラによって張設された状態で、サーマルヘッド16とプラテンローラ18との間を搬送される。一方、中間転写フィルム14は、送出し軸26から送り出されて巻取り軸28で巻き取られ、或いは、巻取り軸28から送り出されて送出し軸26で巻き取られ、複数のガイドローラによって張設された状態で、サーマルヘッド16とプラテンローラ18との間を正逆両方向に搬送される。
【0028】
サーマルヘッド16を通過してインクを転写するとき、インクリボン12と中間転写フィルム14は、それぞれの転写領域を同期して、同じ速度で順方向に搬送される。言い換えると、中間転写フィルム14をインクリボン12と相反する方向に搬送させる際には、プラテンローラ18をサーマルヘッド16から離間させ、中間転写フィルム14とインクリボン12との接触を解除する。
【0029】
つまり、各色インクを転写するとき、インクリボン12および中間転写フィルム14は、それぞれの表面が対向するように接触されてサーマルヘッド16とプラテンローラ18との間を搬送される。このとき、インクリボン12の裏面側に配置されたサーマルヘッド16によってインクリボン12の各色のインク層が加熱されて溶融され、印字信号に応じたインクドットが中間転写フィルム14表面の転写層に転写される。インクドットを転写した後のインクリボン12は、巻取り軸24によって巻き取られる。
【0030】
一方、インクドットを転写された中間転写フィルム14は、各色のインクを重ねて転写するため、重ねる色の数だけ逆方向にも搬送され、中間転写フィルム14の表面にある転写層に各色のインクを重ねてカラー画像が転写される。このとき、プラテンローラ18も、重ねる色インクの数だけサーマルヘッド16に対して離接される。
【0031】
このように、各色インクが重ねられてカラー画像として転写された中間転写フィルム14は、駆動ローラ15によって搬送されて、駆動ローラ15の下流側で中間転写フィルム14の裏面側に配置された図示しないヒートローラを通過される。中間転写フィルム14がヒートローラを通過する際、図示しない搬送機構によって中間転写フィルム14の表面に沿って搬送された図示しない被転写媒体(例えば、IDカードや通帳などのカード媒体)に、カラーインクを保持した転写層が転写され、被転写媒体の表面にカラー画像が形成される。被転写媒体に転写層を転写した中間転写フィルム14は、巻取り軸28によって巻き取られる。
【0032】
以上のような熱溶融転写方式の特徴として、画像耐久性が高いこと、インク材料に機能性材料を適用することが比較的容易なこと(たとえば、蛍光顔料、アルミ蒸着薄膜等)などが挙げられ、偽造防止を目的とする印刷物に適している。なお、インクリボン12としては、単色インクのみのリボンでもよく、また、紫外線によって発光する蛍光顔料インク、さらに、光沢面も持つ印刷用の金属薄膜(アルミ蒸着)層、あるいは、印刷用のホログラム層などの機能を有するリボン材料を有していてもよい。
【0033】
本実施の形態の印刷装置10で使用したインクリボン12は、基材として樹脂フィルムを用いているため、供給軸22から送り出す際に、静電気による剥離帯電を生じる。より具体的には、供給軸22に巻回されている外側のインクリボン12を内側に巻かれているインクリボン12から剥離すると、剥離して送り出す外側のインクリボン12の裏面(内側の面)と、供給軸22に巻回されている内側のインクリボン12の表面(外側の面)が、互いに異なる極性で略同じ電位に帯電される。つまり、供給軸22から送り出されるインクリボン12は、1周分異なるタイミングで、両面が異なる極性に帯電される。
【0034】
実際には、本実施の形態のインクリボン12は、白黒を含む6色のインクをダンダラ状に保持しているため、互いに剥離されるインクリボンの重なった部位に保持されているインクの色の重なり具合によって、剥離によるインクリボン12の帯電特性が区々になる。単純に考えても、インクの色(種類)の違いによって、剥離帯電した場合の帯電極性および帯電量(帯電特性)に違いを生じる。また、供給軸22に巻かれているインクリボン12を送り出すことで、インクリボン12の径が徐々に小さくなり、重なったインクリボン12同士の色の組み合わせも区々になるため、経時的にも帯電特性が種々変化する。
【0035】
図2には、本実施の形態のインクリボン12を剥離したとき(送り出したとき)の帯電特性の一例をグラフにして示してある。このグラフは、図3に簡略化して示すように、供給軸22から送り出されたインクリボン12の表面および裏面を除電しないまま、インクリボン12の表面から離間して配置した静電気センサ30によって、インクリボン12の帯電状態を測定した結果の一例を示してある。これによると、静電気センサ30を介して測定されるインクリボン12の帯電圧は、インクリボン12の測定部位によって区々であるばかりか、その極性にも規則性が無いことが分かる。
【0036】
ここで用いた静電気センサ30は、非接触式の表面電位計であり、本実施の形態のインクリボン12のように薄い樹脂フィルムの帯電圧を測定する場合、表面の電荷と裏面の電荷の相和としてフィルムの帯電圧が測定される。多くの場合、上述したように、インクリボン12の表面と裏面の帯電電荷は極性が逆になるため、静電気センサ30で測定する電荷は、フィルムの表面と裏面の電荷を相殺した値になる。つまり、図2のグラフでプラス側或いはマイナス側にピークを有する測定値は、インクリボン12の表裏の電荷のバランスが片面側に片寄った部位の測定結果である。
【0037】
図2のグラフを見ると、例えば、赤色インクが塗布されたインクリボン12の部位は、プラスの帯電圧を示す傾向にあることが分かる。しかし、この次に出現する色パターンの赤色インクの部位では、帯電特性を示すグラフの波形が同じ波形になるとは限らない。つまり、インクの色によって帯電極性の傾向は概ね決まっているものの、その帯電圧は必ずしも同じにはならない。このように、インクリボン12の剥離帯電には、規則性が無く、そのパターンを定量化することは不可能である。
【0038】
しかし、図2のグラフからも明らかなように、剥離帯電したインクリボン12において、帯電圧が突出して大きくなる部位が存在することは確かであり、この部位がサーマルヘッド16を通過すると、両者の間で、パッシェンの法則に基づく放電が発生する可能性が高い。このように、インクリボン12とサーマルヘッド16との間で放電を生じると、最悪の場合、サーマルヘッド16のドット回路が破壊されてしまう。
【0039】
本実施の形態では、上述した放電によるサーマルヘッド16の破壊を防止するため、サーマルヘッド16に送り込まれる前のインクリボン12を十分に除電するようにした。この種の印刷装置10の除電装置として、従来のように高圧電源を用いる大掛かりな装置を採用することは事実上不可能であるため、本願発明者等は、最も小型で手に入り易い、初期コストもランニングコストも軽微な除電ブラシを用いた除電方法の可能性について検討した。なお、ここで言う除電ブラシとは、接地した導電性繊維で形成された自己放電型ブラシである。
【0040】
このような除電ブラシを用いて剥離帯電した樹脂フィルムを除電する場合、通常、樹脂フィルムの表面から除電ブラシを離間させて配置し、両者の間で放電を生じさせてイオンを発生させる。より詳細には、帯電物としての樹脂フィルムからの静電誘導によって除電ブラシに反対極の電荷を誘導させ、帯電物との間の電位差によってコロナ放電を生じさせる。そして、このコロナ放電によって発生したイオンによって樹脂フィルムを除電する。このとき、樹脂フィルムを効果的に除電するためには多量のイオンを発生させる必要がある。多量のイオンを発生させるためには、除電の対象となる樹脂フィルムと除電ブラシとの間に比較的大きな電位差を形成してコロナ放電を生じさせる必要がある。
【0041】
しかし、上述したような樹脂フィルムの剥離帯電の場合、樹脂フィルムの帯電圧は、フィルム表裏の電荷によって相殺された電圧になるため、除電ブラシとの間に大きな電位差を形成することが難しい。このため、フィルムのそれぞれの面に多くの電荷があっても、除電ブラシには低い電荷しか誘導されないことになる。つまり、単に除電ブラシだけを用いた除電方法では、樹脂フィルムとの間で十分なコロナ放電を発生させることが難しく、樹脂フィルムを効果的に除電することはできない。
【0042】
除電ブラシだけを用いた場合の樹脂フィルムの除電効果を調べるため、剥離帯電したインクリボン12に自己放電型の除電ブラシ32を対向させてインクリボン12を除電した後で、インクリボン12の帯電圧を測定した。その結果を図4に示す。帯電圧の測定は、インクリボン12の表面に対向させた上述した静電気センサ30を用いた。
【0043】
図4では、比較のため、除電ブラシ32を設けずに除電しない状態のインクリボン12の帯電圧を静電気センサ30で測定した結果を併記した。なお、図4では、図5に示すように除電ブラシ32をインクリボン12の表面に対向させた場合の帯電圧の測定結果と、図6に示すように除電ブラシ32をインクリボン12の裏面に対向させた場合の帯電圧の測定結果を示した。
【0044】
これによると、除電ブラシ32をインクリボン12の表面或いは裏面に対向させてインクリボン12を除電した場合、除電ブラシ32による除電をしない場合と比較して、静電気センサ30で測定したインクリボン12の帯電圧がマイナス側に僅かにシフトしているように見える。しかし、このような帯電圧の変化は、インクリボン12の片面側だけが僅かに除電されたことによるものであり、インクリボン12の表面に帯電した電荷と裏面に帯電した電荷のバランスが崩れたことによるものと考えられる。
【0045】
つまり、除電ブラシ32に静電誘導される電荷は、インクリボン12の帯電圧に依存するため、表裏の電荷のバランスを保った状態のインクリボン12を除電ブラシで除電する場合、静電誘導によって除電ブラシ32に引き付けられる電荷は少なくなる。このため、除電ブラシ32だけを用いた除電では、インクリボン12との間に大きな電位差を形成することはできず、十分なコロナ放電を発生させることができない。よって、除電ブラシ32による除電だけでは、インクリボン12を十分に除電することはできない。なお、除電ブラシ32をインクリボン12の表面に対向させた場合と裏面に対向させた場合とで略同じことが言える。
【0046】
このため、本願発明者等は、パッシェンの法則に基づく放電をインクリボン12の表面側に発生させて表面の電荷を除電することで、インクリボン12の表裏の帯電量のバランスを一旦崩し、インクリボン12の帯電圧を大きくした上で、接地した除電ブラシ32を用いてインクリボン12との間でコロナ放電を生じさせ、インクリボン12の裏面側に多量のイオンを発生させて、インクリボン12を効果的に除電する方法を発明した。以下、本発明の除電方法について、そのメカニズムを含めて詳細に説明する。
【0047】
第1の実施の形態では、パッシェンの法則に基づく放電をインクリボン12の表面との間で発生させるための本発明の除電器として、接地した導電性ローラ34を用いた。導電性ローラ34は、導電性グリースベアリングを介して図示しないアームに取り付けられ、アームを接地することでアースされている。また、導電性ローラ34は、インクリボン12の表面に接触して配置される。なお、ここで使用する導電性ローラ34は、金属ローラ、導電性ゴムローラ、或いは、導電性スポンジローラとすることができる。本実施の形態では、金属ローラ34を導電性ローラとして用いた。
【0048】
導電性ローラ34だけを用いた場合のインクリボン12の除電効果を調べるため、剥離帯電したインクリボン12に接地した金属ローラ34を接触させてインクリボン12を除電した後で、インクリボン12の帯電圧を測定した。その結果を図7に示す。帯電圧の測定は、インクリボン12の表面に対向させた上述した静電気センサ30を用いた。
【0049】
図7では、比較のため、金属ローラ34を設けずに除電しない状態のインクリボン12の帯電圧を静電気センサ30で測定した結果を併記した。なお、図7では、図8に示すように金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させた場合の帯電圧の測定結果と、図9に示すように金属ローラ34をインクリボン12の裏面に接触させた場合の帯電圧の測定結果を示した。
【0050】
これによると、金属ローラ34をインクリボン12の表面或いは裏面に接触させてインクリボン12を除電した場合、インクリボン12を除電しない場合と比較して、静電気センサ30で測定したインクリボン12の帯電圧が大きく変動しているのが分かる。また、インクリボン12の表面に金属ローラ34を接触させて帯電圧を測定したグラフと、裏面に接触させて帯電圧を測定したグラフを比較すると、両者は互いに大きく離間しているのが分かる。
【0051】
図7のグラフからも明らかなように、インクリボン12の片面だけを金属ローラ34で除電した場合、インクリボン12の表裏の電荷のバランスが大きく崩れ、その結果、静電気センサ30で測定したインクリボン12の帯電圧が大きく変動したものと考えられる。特に、上述したように除電ブラシ32だけを用いた場合と比較しても、帯電圧の変動が大きいことから、金属ローラ34をインクリボン12に接触させた方が除電ブラシをインクリボン12に離間対向させた場合より多くの電荷を除電できていることが分かる。
【0052】
図10には、接地した金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させた部位を部分的に拡大して示してある。矢印方向に搬送されるインクリボン12の表面に、接地した金属ローラ34を接触させると、金属ローラ34の湾曲した周面の形状によって、接触点に向けて両者の間の距離が徐々に近付いていく。このとき、インクリボン12の帯電圧と気圧をパラメータとして金属ローラ34の周面とインクリボン12の表面との間の距離がある決まった距離まで近付くと、金属ローラ34の周面とインクリボン12の表面との間でパッシェンの法則に基づくコロナ放電が生じる。金属ローラ34による除電は、このパッシェンの法則に基づくコロナ放電によってなされる。
【0053】
図11には、パッシェンカーブを示してある。パッシェンの法則に基づくコロナ放電は、ある一定の電位差を有する電極間の距離(ここでは、金属ローラ34の周面とインクリボン12の表面との間の距離)がある一定距離まで近付いたときに生じるが、このときの電極間の電位差を最低電圧としてこれ以上電極間の距離が近付くと放電が生じなくなる。この距離をパッシェンミニマムと言う。逆に、パッシェンミニマムを超えて電極間の距離が大きくなると、最低電圧から放電を生じるために必要となる電圧が徐々に大きくなる。例えば、1気圧の大気中で、電極間に330Vの電位差を与えた場合、パッシェンミニマムは、約7.5μmになる。
【0054】
本実施の形態のインクリボン12と金属ローラ34との間の関係に置き換えて考えると、インクリボン12の帯電圧は、上述したように、両面の電荷を相殺した値となるため、接地した金属ローラ34の周面との間の電位差はそれ程大きくはならない。しかし、両者間の距離が上述したパッシェンミニマムまで近付くとコロナ放電を生じるため、インクリボン12の表面側にイオンを発生させることができ、表面の電荷を確実に除電できる。このため、除電ブラシ32を用いた場合より、金属ローラ34をインクリボン12に接触させてパッシェンの法則に基づくコロナ放電を生出させた方が、除電効果が高くなるものと考えられる。なお、発生したイオンは、インクリボン12の裏面側に影響しないため、金属ローラ34を接触させたインクリボン12の表面側だけ除電ができる。
【0055】
以上のように、金属ローラ34を用いてパッシェンの法則に基づく除電を行うと、インクリボン12の片面の電荷を効果的に除電でき、その結果として、インクリボン12の帯電圧を大きくすることができる。本実施の形態では、このように、金属ローラ34による除電を実施してインクリボン12の表裏の帯電量のバランスを一旦崩し、インクリボン12の搬送方向下流側で、インクリボン12と除電ブラシ32との間に比較的大きな電位差を形成し、除電ブラシ32を用いてインクリボン12の裏面を効果的に除電するようにした。
【0056】
図12には、本実施の形態の除電装置1をインクリボン12に取り付けた状態の概略図を示してある。ここでは、この除電装置1による除電効果を確かめるための静電気センサ30を除電装置1の下流側に配置した状態を図示してあるが、実際の装置では、静電気センサ30は取り外してある。
【0057】
除電装置1は、インクリボン12の搬送方向(図示矢印方向)に沿って上流側でインクリボン12の表面(一方の面)に接触して配置された接地された金属ローラ34(除電器)と、この金属ローラ34の下流側に離間した位置でインクリボン12の裏面(他方の面)に対向して配置された接地された自己放電型の除電ブラシ32と、を有する。本実施の形態では、上流側の金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させて配置し且つ下流側の除電ブラシ32をインクリボン12の裏面に対向させて配置したが、インクリボン12の裏面に上流側の金属ローラ34を接触させてインクリボン12の表面に下流側の除電ブラシ32を対向させて同様のことが言える。
【0058】
インクリボン12の搬送方向に沿って、金属ローラ34がインクリボン12の表面に接触する位置から、除電ブラシ32がインクリボン12の裏面に対向する位置までの距離は、少なくとも、金属ローラ34による電界が除電ブラシ32による除電作用に影響を及ぼすことのない距離だけ離れている必要がある。より具体的には、影響を受ける電位が100V以下となるような最小距離Dminは、インクリボン12の帯電圧をVボルトとした場合、
Dmin=7×10−4E[m]
を満たす値になる。
【0059】
この除電装置1を用いてインクリボン12を除電する際には、まず、インクリボン12の搬送方向上流側にある金属ローラ34によるパッシェン効果によってインクリボン12の表面を除電する。これにより、インクリボン12の表裏の帯電量のバランスが崩れ、インクリボン12の帯電圧が大きくなる。そして、この後、下流側に配置した除電ブラシ32を用いて、インクリボン12の裏面を除電する。このとき、インクリボン12と除電ブラシ32との間の電位差は比較的大きくされているため、除電ブラシ32をインクリボン12の裏面から離間させても十分な放電を生じさせることができ、多量のイオンを発生させることができ、効果的な除電が可能となる。
【0060】
これに対し、インクリボン12と除電ブラシ32との間の電位差が小さい場合であっても、両者の間の距離をパッシェンミニマムまで狭めることで放電を生じさせることができるが、この場合の放電エネルギーは小さく、発生するイオンの量も少なくなる。つまり、除電ブラシ32を用いた場合、除電対象物(ここでは、インクリボン12)との間の距離はできるだけ大きくとることが望ましく、そのためにはコロナ放電を生出させるための大きな電位差を形成する必要がある。
【0061】
本実施の形態では、除電ブラシ32による除電を効果的に実施するための前工程として、金属ローラ34を用いたパッシェン効果を利用した除電を採用したため、除電ブラシ32とインクリボン12との間の電位差を大きくすることができ、結果として、除電ブラシ32をインクリボン12から離間せしめて配置することができ、コロナ放電による多量のイオンを発生させることができ、インクリボン12を確実且つ効果的に除電することができた。なお、自己放電型の除電ブラシ32を使用する場合の適当な設置距離(ギャップ)は、実験的に1mm〜3mmであることが分かっている。
【0062】
図13には、本実施の形態の効果を検証するため、インクリボン12を全く除電しない場合における帯電圧(除電なし)、金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させて配置した場合における帯電圧(金属ローラ表面)、金属ローラ34をインクリボン12の裏面に接触させて配置した場合における帯電圧(金属ローラ裏面)、および金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させて配置し且つ除電ブラシ32を下流側でインクリボン12の裏面に対向させて配置した場合における帯電圧(金属ローラ表、除電ブラシ裏)を、上述した静電気センサ30で測定した結果のグラフを示してある。
【0063】
これによると、金属ローラ34をインクリボン12の上流側で表面に接触させて配置し、且つインクリボン12の下流側で裏面に除電ブラシ32を対向させて配置した本実施の形態の除電装置1を用いた場合、インクリボン12の帯電圧が最もゼロに近付いているのが分かる。見方を変えると、静電気センサ30で測定する帯電圧は、インクリボン12の表裏の電荷を相殺した値として測定されることから、測定値がゼロであっても必ずしも除電が効果的に行われたとは言えないかもしれないが、上述した説明を考慮すれば、本実施の形態の除電装置1を用いることで、インクリボン12の効果的な除電ができたことは明白である。
【0064】
以上のように、本実施の形態の除電装置1を用いることでインクリボン12を確実に除電できるため、インクリボン12がサーマルヘッド16を通過する際に、インクリボン12とサーマルヘッド16との間で放電を生じることを防止でき、放電によるサーマルヘッド16の破壊を防止することができる。
【0065】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【0066】
例えば、上述した実施の形態では、印刷装置10に組み込まれたインクリボン12の除電装置に本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、中間転写フィルム14の除電装置として本発明を利用しても良い。つまり、中間転写フィルム14も樹脂フィルムを基材としているため剥離により帯電し、インクリボン12と同様の課題を有する。この他に、本発明を適用可能な樹脂フィルムとして、物品を包装するためのラミネートフィルムやビニールシートなど、種々の素材が考えられる。
【0067】
また、上述した実施の形態では、下流側の除電ブラシ32を効果的に利用するための上流側の除電器として、金属ローラ34を用いた場合について説明したが、パッシェンの法則に基づくコロナ放電を生出させることのできる他の除電器を採用しても良い。
【0068】
図14には、この発明の除電器の他の実施の形態の概略図を示してある。この除電器40は、接地した自己放電型の除電ブラシ42を利用したものである。この種の除電ブラシを利用する場合、上述した実施の形態で説明したように、除電対象物との間の電位差を大きくして、インクリボン12との間の距離を比較的大きくとることが望ましい。しかし、その場合には、インクリボン12の帯電圧を比較的大きくして、接地した除電ブラシとの間の電位差を大きくすることが条件となる。しかし、本発明の除電器のように、インクリボン12の表裏の電荷のバランスを崩す目的で接地した自己放電型の除電ブラシを利用する場合、インクリボン12の表裏の電荷が相殺された状態であるため、除電ブラシをインクリボン12に極めて近付けて配置しなければならなくなる。
【0069】
しかし、除電ブラシをインクリボン12に近付けて配置し、且つ両者の間のギャップを高精度に管理することは難しく、パッシェンミニマムとなる距離に除電ブラシを固定して配置することは不可能に近い。また、このようにギャップを管理して除電ブラシを高精度に位置決めして配置できたとしても、両者の間の電位差が小さいため、コロナ放電のエネルギーも小さく、イオンの発生量も少なくなってしまう。
【0070】
このため、本実施の形態の除電器40は、インクリボン12の搬送方向(図示矢印方向)に沿ってブラシの長さを徐々に異ならせた除電ブラシ42を図示のように立位で配置し、インクリボン12の表面にブラシを接触させて取り付けた。そして、この除電ブラシ42をインクリボン12の表面に対して離接する方向に振動させるようにした。
【0071】
除電ブラシ42を振動させるための振動機構44は、除電ブラシ42を先端に取り付けたアーム46と、アーム46の回動軸46aと除電ブラシ42との間の部位に作用するカム48と、このカム48を回転させる図示しないモータと、を有する。モータを動作させてカム48を回転させると、六角形のカム48がアーム46に作用してアーム46を振動させ、アーム46の先端に取り付けられた除電ブラシ42がインクリボン12から離接する方向に振動する。除電ブラシ42が振動すると、長さを異ならせたブラシの先端がインクリボン12の表面に対して接触および離間を繰り返し、長さの異なるブラシのいずれかが常にインクリボン12に対してパッシェンミニマムの距離に配置される。
【0072】
このように、ブラシの長さを異ならせることで、除電ブラシ42の位置決め制度を低くでき、いずれかの部位で常に放電を生じさせることができ、インクリボン12の表面を効果的に除電することができる。また、この場合、パッシェンの法則を利用した放電を生出させているため、単に除電ブラシをインクリボン12から離間させて配置した場合と異なり、十分な放電を生出させることができ、多量のイオンを発生させることができる。
【0073】
なお、この実施の形態で説明した除電器40の除電ブラシ42は、必ずしも振動させる必要はなく、ブラシの長さを異ならせるだけでも本発明の効果を奏することができる。この場合、振動機構44を省略することができ、装置構成を簡略化できる。
【0074】
図15には、この発明の除電器のさらに他の実施の形態の概略図を示してある。この除電器50は、接地した自己放電型の除電ブラシ52を単に傾斜させてインクリボン12の表面に接触させたものである。図示の姿勢で除電ブラシ52をインクリボン12に押し付けることで、上述した金属ローラ34を接触させた場合と同様に、パッシェンの法則に基づく放電を、インクリボン12との間で生出させることができる。
【0075】
この他に、インクリボン12の表面に対して鋭角をなすように傾斜して接触せしめた図示しない金属板を除電器として利用することもでき、この場合も、パッシェンの法則に基づく放電を生出させることができ、インクリボン12の表面を効果的に除電することができる。
【0076】
さらに、上述した実施の形態では、インクリボン12が保持した各色インクを中間転写フィルム14に重ねて転写して、この中間転写フィルム14上で重ねたカラーインクを転写層とともに媒体に転写するようにした印刷装置10について説明したが、これに限らず、例えば、図16に示す印刷装置60に本発明を適用することもできる。
【0077】
つまり、この印刷装置60は、中間転写フィルム14を使用せずに、サーマルヘッド16とプラテンローラ18との間に媒体Mを直接搬送するタイプの装置であり、インクリボン12に本発明の除電装置1を取り付ければ、上述した実施の形態と同様の効果を奏し得る。
【符号の説明】
【0078】
1…除電装置、10…印刷装置、12…インクリボン、13…テンションローラ、14…中間転写フィルム、15…駆動ローラ、16…サーマルヘッド、18…プラテンローラ、22…供給軸、24、28…巻取り軸、26…送出し軸、30…静電気センサ、32…除電ブラシ、34…導電性ローラ(金属ローラ)、40、50…除電器、42、52…除電ブラシ。
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂フィルムを除電する除電装置に係り、例えば、インクリボンを媒体に沿って走行させてサーマルヘッドを用いてインクを熱転写するタイプの印刷装置、およびこの印刷装置に組み込まれたインクリボンや中間転写フィルムなどの樹脂フィルムを除電するための除電装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、IDカードや通帳などの比較的小さなカード媒体に顔写真などの高精細画像を印刷する印刷装置として、加熱により溶融する色インクを保持したインクリボンを使用する印刷装置が知られている。この種の印刷装置では、例えば、サーマルヘッドとプラテンローラとの間に中間転写フィルムとインクリボンを重ねて搬送し、インクリボンのインクをサーマルヘッドで溶融して、中間転写フィルム上に各色のインクを重ねて転写する。そして、この中間転写フィルム上で重ねたカラーインクをカード媒体に転写することで、カード媒体にカラー画像を印刷する。
【0003】
インクリボンの両端は、供給軸と巻取り軸にそれぞれ巻き付けられており、供給軸から供給されたインクリボンが途中でサーマルヘッドを通過して巻取り軸で巻き取られる。供給軸からインクリボンが供給されるとき、供給軸に重ねて巻き付けられている未使用のインクリボンから新たに送り出されるインクリボンが剥離され、供給軸に巻き付けられているインクリボンと送り出されたインクリボンの両方に剥離帯電を生じる。
【0004】
インクリボンのこのような帯電は、表裏で極性が異なる傾向にあり、且つ供給軸に巻き付けられていたときに互いに重なっていたインク色の組み合わせによっても剥離したときの帯電量が異なる。つまり、供給軸に巻き付けられたインクリボンが供給されるにつれ、インクリボンの径が徐々に小さくなるため、インクリボンの長手方向に沿った色パターンに規則性があっても、重ねて巻き付けられているインクリボン同士の色の重なり方は不規則であり、供給されるインクリボンの帯電特性も不規則になる。
【0005】
一方で、サーマルヘッドは、温度低下する前に剥離する熱時剥離による印刷を実施するニアエッジタイプ或いはコーナーエッジタイプが一般的であるため、上記のように帯電したインクリボンがサーマルヘッドを通過すると、両者の間でしばしばパッシェン効果による放電を生じることが知られている。この放電は、しばしば、サーマルヘッドを破壊してしまう問題を生じる。このため、インクリボンは、サーマルヘッドを通過する手前の段階で放電を生じない程度に除電する必要がある。
【0006】
一般に、このような樹脂フィルムの除電方法として、高圧交流イオン化チャンバでイオン化した空気をフィルムに吹き付ける方法(例えば、特許文献1、2参照。)や、高圧交流電源に接続した導電性ローラをフィルム両面に接触させて放電を生じさせることでイオンを発生させる方法(例えば、特許文献3参照。)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−216453号公報
【特許文献2】特開2002−236331号公報
【特許文献3】特開平7−142187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述したように、高圧電源を用いる除電装置は、制御系、電極、送風装置などを必要とし、比較的大きな設置スペースを必要とする。また、この種の除電装置は、初期設備コストおよびランニングコストが高い。このため、上述したようなインクリボンを用いる比較的小型の卓上型の印刷装置にこのように大掛かりな除電装置を採用することは難しい。
【0009】
この発明の目的は、装置構成を簡略化でき、装置コストを安価にでき、樹脂フィルムを効果的に除電できる除電装置、およびこの除電装置を備えた印刷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、この発明の除電装置は、帯状の樹脂フィルムを巻回した供給軸から送り出される樹脂フィルムの一方の面に対向して配置され、この一方の面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることでこの一方の面を除電する除電器と、上記供給軸から上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿って上記除電器より下流側にずれた位置で上記樹脂フィルムの他方の面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、を有する。
【0011】
上記発明によると、パッシェン効果による放電を利用した除電器を樹脂フィルムの一方の面に対向させて配置するとともに、比較的安価な除電ブラシを除電器の下流側にずれた位置で樹脂フィルムの他方の面に対向させて配置したため、従来の大掛かりな除電装置のように高圧電源を用いることなく、装置構成を簡略化でき、装置コストを安価にでき、樹脂フィルムを効果的に除電できる。
【0012】
つまり、帯状の樹脂フィルムを重ねて巻回せしめた供給軸から樹脂フィルムを送り出す際には、供給軸に巻き付けられている未使用の樹脂フィルムと送り出される樹脂フィルムが剥離され、供給軸側の樹脂フィルムと送り出される側の樹脂フィルムそれぞれの対向面が剥離帯電される。このような帯電は、送り出される樹脂フィルムの両面で極性が異なる傾向にあり、電荷がフィルムの両面で概ね相殺されている。この状態で除電ブラシを作用させても十分な電位が静電誘導されないため、放電が発生し難く、除電効果が得難い。
【0013】
このため、上流側でパッシェン効果による放電を生じさせて一方の面を効果的に除電して、フィルム両面に電位差を形成した上で、他方の面を下流側で除電ブラシによって除電するようにした。除電ブラシの放電により生成されたイオンは、フィルムを透過しないため、除電ブラシと反対面には除電作用がない。従って、除電ブラシのみをフィルムに作用させても、電位差が小さいことと、イオンがフィルムを透過しないという理由で効果的な除電はできない。
【0014】
また、この発明の印刷装置は、帯状の樹脂フィルムの表面にインクを保持せしめたインクリボンを巻回した供給軸と、この供給軸から送り出されたインクリボンを巻き取る巻取り軸と、上記供給軸と巻取り軸との間で張設されて走行するインクリボンの裏面側に配置されたサーマルヘッドと、上記供給軸から上記インクリボンを送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で上記インクリボンの上記裏面に接触して配置され、この裏面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることで該裏面に帯電した電荷を除電する除電器と、上記送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で且つ上記除電器より下流側にずれた位置で上記インクリボンの表面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、を有する。
【0015】
上記発明によると、パッシェン効果による放電を利用した除電器をインクリボンの裏面に接触させて配置するとともに、比較的安価な除電ブラシを除電器の下流側にずれた位置でインクリボンの表面に対向させて配置したため、従来の大掛かりな除電装置のように高圧電源を用いることなく、剥離帯電したインクリボンを確実且つ効果的に除電することができる。このため、インクリボンがサーマルヘッドを通過する際に、サーマルヘッドの破壊に至るような放電を生じることを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の樹脂フィルムの除電装置、およびこの除電装置を備えた印刷装置は、上記のような構成および作用を有しているので、装置構成を簡略化でき、装置コストを安価にでき、樹脂フィルムを効果的に除電できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、この発明の実施の形態に係る除電装置を組み込んだ印刷装置の概略図である。
【図2】図2は、図1の印刷装置に組み込まれたインクリボンの帯電圧を計測した結果の一例を示すグラフである。
【図3】図3は、図2のグラフを得るための静電気センサについて説明するための概略図である。
【図4】図4は、除電ブラシをインクリボンに対向させた場合の帯電圧の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、インクリボンの表面に除電ブラシを対向させた状態を示す概略図である。
【図6】図6は、インクリボンの裏面に除電ブラシを対向させた状態を示す概略図である。
【図7】図7は、導電性ローラをインクリボンに対向させた場合の帯電圧の変化を示すグラフである。
【図8】図8は、インクリボンの表面に導電性ローラを接触配置した状態を示す概略図である。
【図9】図9は、インクリボンの裏面に導電性ローラを接触配置した状態を示す概略図である。
【図10】図10は、図8の導電性ローラをインクリボンに接触させた部位を部分的に拡大して示す部分拡大図である。
【図11】図11は、パッシェンの法則について説明するためのパッシェンカーブを示すグラフである。
【図12】図12は、この発明の実施の形態に係る除電装置を示す概略図である。
【図13】図13は、図12の除電装置を用いた除電の効果について説明するためのグラフである。
【図14】図14は、図12の除電装置に組み込まれた導電性ローラに代る除電器の他の実施の形態を示す概略図である。
【図15】図15は、図14の除電器のさらに別の実施の形態を示す概略図である。
【図16】図16は、この発明の印刷装置の他の実施の形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながらこの発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1には、この発明の実施の形態に係る除電装置1を組み込んだ印刷装置10の概略図を示してある。本発明の除電装置1について説明する前に、まず、印刷装置10の実施例について説明する。
【0019】
印刷装置10は、インクリボン12、中間転写フィルム14、サーマルヘッド16、ここでは図示を省略したヒートローラなどを有する。サーマルヘッド16には、プラテンローラ18が対向配置されている。プラテンローラ18は、サーマルヘッド16に押圧される位置とサーマルヘッド16から離間する位置との間で移動可能に取り付けられている。
【0020】
インクリボン12の両端は、供給軸22および巻取り軸24に巻回されている。インクリボン12の軸22、24間を延びた中途部は、複数のガイドローラに掛け回されて張設されており、サーマルヘッド16とプラテンローラ18の間を通っている。
【0021】
中間転写フィルム14の両端は、送出し軸26および巻取り軸28に巻回されている。中間転写フィルム14の軸26、28間を延びた中途部は、複数のガイドローラに掛け回されて張設されており、インクリボン12の中途部のプラテンローラ18側に重なるように、サーマルヘッド16とプラテンローラ18の間を通っている。
【0022】
中間転写フィルム14を巻き回したガイドローラの1つはテンションローラ13として機能し、中間転写フィルム14に張力を与えている。また、中間転写フィルム14に沿って、テンションローラ13とプラテンローラ18との間には、中間転写フィルム14に搬送力を与えるための駆動ローラ15が配置されている。
【0023】
駆動ローラ15の硬度は、30〜60度であり、中間転写フィルム14は、駆動ローラ15に対し、できるだけ巻き付け角度が大きくなるよう巻き回されている。本実施の形態では、90°〜130°の巻き付け角度で中間転写フィルム14を駆動ローラ15に巻き付けた。駆動ローラ15には、図示しない5相ステッピングモータ、タイミングベルト、およびプーリーによる減速機構が組み合わされており、中間転写フィルム14の搬送量を正確にコントロールできるようになっている。
【0024】
本実施の形態のインクリボン12は、帯状の樹脂フィルムの表面に、例えば、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の溶融インクをダンダラ状に保持せしめている。樹脂フィルムの厚さやインク層の厚さは、印刷ドットの再現性の点で極めて重要なパラメータであり、インクリボン12の総厚として、好ましくは3〜25μm、より好ましくは4〜10μm程度が良い。
【0025】
また、中間転写フィルム14も、帯状の樹脂フィルムを基材とし、インクリボン12の表面に接触する側の表面上に、受像層として機能するとともに接着層として機能する転写層を有する。樹脂フィルムの厚さや転写層の厚さは、接着性や膜切れ特性に影響を与えるパラメータであり、中間転写フィルム14の総厚として、好ましくは10〜100μm、より好ましくは25〜50μm程度が良い。
【0026】
サーマルヘッド16は、ニアエッジ、またはコーナーエッジタイプのヘッドであり、温度低下する前に剥離する熱時剥離による印刷を行なう。つまり、このサーマルヘッド16は、図示のように、インクリボン12の走行面に対して傾斜した状態で設置されている。このため、サーマルヘッド16とインクリボン12との間には、パッシェンの法則に基づく放電を生じ易い環境にある。
【0027】
インクリボン12は、供給軸22から送り出されて巻取り軸24で巻き取られ、複数のガイドローラによって張設された状態で、サーマルヘッド16とプラテンローラ18との間を搬送される。一方、中間転写フィルム14は、送出し軸26から送り出されて巻取り軸28で巻き取られ、或いは、巻取り軸28から送り出されて送出し軸26で巻き取られ、複数のガイドローラによって張設された状態で、サーマルヘッド16とプラテンローラ18との間を正逆両方向に搬送される。
【0028】
サーマルヘッド16を通過してインクを転写するとき、インクリボン12と中間転写フィルム14は、それぞれの転写領域を同期して、同じ速度で順方向に搬送される。言い換えると、中間転写フィルム14をインクリボン12と相反する方向に搬送させる際には、プラテンローラ18をサーマルヘッド16から離間させ、中間転写フィルム14とインクリボン12との接触を解除する。
【0029】
つまり、各色インクを転写するとき、インクリボン12および中間転写フィルム14は、それぞれの表面が対向するように接触されてサーマルヘッド16とプラテンローラ18との間を搬送される。このとき、インクリボン12の裏面側に配置されたサーマルヘッド16によってインクリボン12の各色のインク層が加熱されて溶融され、印字信号に応じたインクドットが中間転写フィルム14表面の転写層に転写される。インクドットを転写した後のインクリボン12は、巻取り軸24によって巻き取られる。
【0030】
一方、インクドットを転写された中間転写フィルム14は、各色のインクを重ねて転写するため、重ねる色の数だけ逆方向にも搬送され、中間転写フィルム14の表面にある転写層に各色のインクを重ねてカラー画像が転写される。このとき、プラテンローラ18も、重ねる色インクの数だけサーマルヘッド16に対して離接される。
【0031】
このように、各色インクが重ねられてカラー画像として転写された中間転写フィルム14は、駆動ローラ15によって搬送されて、駆動ローラ15の下流側で中間転写フィルム14の裏面側に配置された図示しないヒートローラを通過される。中間転写フィルム14がヒートローラを通過する際、図示しない搬送機構によって中間転写フィルム14の表面に沿って搬送された図示しない被転写媒体(例えば、IDカードや通帳などのカード媒体)に、カラーインクを保持した転写層が転写され、被転写媒体の表面にカラー画像が形成される。被転写媒体に転写層を転写した中間転写フィルム14は、巻取り軸28によって巻き取られる。
【0032】
以上のような熱溶融転写方式の特徴として、画像耐久性が高いこと、インク材料に機能性材料を適用することが比較的容易なこと(たとえば、蛍光顔料、アルミ蒸着薄膜等)などが挙げられ、偽造防止を目的とする印刷物に適している。なお、インクリボン12としては、単色インクのみのリボンでもよく、また、紫外線によって発光する蛍光顔料インク、さらに、光沢面も持つ印刷用の金属薄膜(アルミ蒸着)層、あるいは、印刷用のホログラム層などの機能を有するリボン材料を有していてもよい。
【0033】
本実施の形態の印刷装置10で使用したインクリボン12は、基材として樹脂フィルムを用いているため、供給軸22から送り出す際に、静電気による剥離帯電を生じる。より具体的には、供給軸22に巻回されている外側のインクリボン12を内側に巻かれているインクリボン12から剥離すると、剥離して送り出す外側のインクリボン12の裏面(内側の面)と、供給軸22に巻回されている内側のインクリボン12の表面(外側の面)が、互いに異なる極性で略同じ電位に帯電される。つまり、供給軸22から送り出されるインクリボン12は、1周分異なるタイミングで、両面が異なる極性に帯電される。
【0034】
実際には、本実施の形態のインクリボン12は、白黒を含む6色のインクをダンダラ状に保持しているため、互いに剥離されるインクリボンの重なった部位に保持されているインクの色の重なり具合によって、剥離によるインクリボン12の帯電特性が区々になる。単純に考えても、インクの色(種類)の違いによって、剥離帯電した場合の帯電極性および帯電量(帯電特性)に違いを生じる。また、供給軸22に巻かれているインクリボン12を送り出すことで、インクリボン12の径が徐々に小さくなり、重なったインクリボン12同士の色の組み合わせも区々になるため、経時的にも帯電特性が種々変化する。
【0035】
図2には、本実施の形態のインクリボン12を剥離したとき(送り出したとき)の帯電特性の一例をグラフにして示してある。このグラフは、図3に簡略化して示すように、供給軸22から送り出されたインクリボン12の表面および裏面を除電しないまま、インクリボン12の表面から離間して配置した静電気センサ30によって、インクリボン12の帯電状態を測定した結果の一例を示してある。これによると、静電気センサ30を介して測定されるインクリボン12の帯電圧は、インクリボン12の測定部位によって区々であるばかりか、その極性にも規則性が無いことが分かる。
【0036】
ここで用いた静電気センサ30は、非接触式の表面電位計であり、本実施の形態のインクリボン12のように薄い樹脂フィルムの帯電圧を測定する場合、表面の電荷と裏面の電荷の相和としてフィルムの帯電圧が測定される。多くの場合、上述したように、インクリボン12の表面と裏面の帯電電荷は極性が逆になるため、静電気センサ30で測定する電荷は、フィルムの表面と裏面の電荷を相殺した値になる。つまり、図2のグラフでプラス側或いはマイナス側にピークを有する測定値は、インクリボン12の表裏の電荷のバランスが片面側に片寄った部位の測定結果である。
【0037】
図2のグラフを見ると、例えば、赤色インクが塗布されたインクリボン12の部位は、プラスの帯電圧を示す傾向にあることが分かる。しかし、この次に出現する色パターンの赤色インクの部位では、帯電特性を示すグラフの波形が同じ波形になるとは限らない。つまり、インクの色によって帯電極性の傾向は概ね決まっているものの、その帯電圧は必ずしも同じにはならない。このように、インクリボン12の剥離帯電には、規則性が無く、そのパターンを定量化することは不可能である。
【0038】
しかし、図2のグラフからも明らかなように、剥離帯電したインクリボン12において、帯電圧が突出して大きくなる部位が存在することは確かであり、この部位がサーマルヘッド16を通過すると、両者の間で、パッシェンの法則に基づく放電が発生する可能性が高い。このように、インクリボン12とサーマルヘッド16との間で放電を生じると、最悪の場合、サーマルヘッド16のドット回路が破壊されてしまう。
【0039】
本実施の形態では、上述した放電によるサーマルヘッド16の破壊を防止するため、サーマルヘッド16に送り込まれる前のインクリボン12を十分に除電するようにした。この種の印刷装置10の除電装置として、従来のように高圧電源を用いる大掛かりな装置を採用することは事実上不可能であるため、本願発明者等は、最も小型で手に入り易い、初期コストもランニングコストも軽微な除電ブラシを用いた除電方法の可能性について検討した。なお、ここで言う除電ブラシとは、接地した導電性繊維で形成された自己放電型ブラシである。
【0040】
このような除電ブラシを用いて剥離帯電した樹脂フィルムを除電する場合、通常、樹脂フィルムの表面から除電ブラシを離間させて配置し、両者の間で放電を生じさせてイオンを発生させる。より詳細には、帯電物としての樹脂フィルムからの静電誘導によって除電ブラシに反対極の電荷を誘導させ、帯電物との間の電位差によってコロナ放電を生じさせる。そして、このコロナ放電によって発生したイオンによって樹脂フィルムを除電する。このとき、樹脂フィルムを効果的に除電するためには多量のイオンを発生させる必要がある。多量のイオンを発生させるためには、除電の対象となる樹脂フィルムと除電ブラシとの間に比較的大きな電位差を形成してコロナ放電を生じさせる必要がある。
【0041】
しかし、上述したような樹脂フィルムの剥離帯電の場合、樹脂フィルムの帯電圧は、フィルム表裏の電荷によって相殺された電圧になるため、除電ブラシとの間に大きな電位差を形成することが難しい。このため、フィルムのそれぞれの面に多くの電荷があっても、除電ブラシには低い電荷しか誘導されないことになる。つまり、単に除電ブラシだけを用いた除電方法では、樹脂フィルムとの間で十分なコロナ放電を発生させることが難しく、樹脂フィルムを効果的に除電することはできない。
【0042】
除電ブラシだけを用いた場合の樹脂フィルムの除電効果を調べるため、剥離帯電したインクリボン12に自己放電型の除電ブラシ32を対向させてインクリボン12を除電した後で、インクリボン12の帯電圧を測定した。その結果を図4に示す。帯電圧の測定は、インクリボン12の表面に対向させた上述した静電気センサ30を用いた。
【0043】
図4では、比較のため、除電ブラシ32を設けずに除電しない状態のインクリボン12の帯電圧を静電気センサ30で測定した結果を併記した。なお、図4では、図5に示すように除電ブラシ32をインクリボン12の表面に対向させた場合の帯電圧の測定結果と、図6に示すように除電ブラシ32をインクリボン12の裏面に対向させた場合の帯電圧の測定結果を示した。
【0044】
これによると、除電ブラシ32をインクリボン12の表面或いは裏面に対向させてインクリボン12を除電した場合、除電ブラシ32による除電をしない場合と比較して、静電気センサ30で測定したインクリボン12の帯電圧がマイナス側に僅かにシフトしているように見える。しかし、このような帯電圧の変化は、インクリボン12の片面側だけが僅かに除電されたことによるものであり、インクリボン12の表面に帯電した電荷と裏面に帯電した電荷のバランスが崩れたことによるものと考えられる。
【0045】
つまり、除電ブラシ32に静電誘導される電荷は、インクリボン12の帯電圧に依存するため、表裏の電荷のバランスを保った状態のインクリボン12を除電ブラシで除電する場合、静電誘導によって除電ブラシ32に引き付けられる電荷は少なくなる。このため、除電ブラシ32だけを用いた除電では、インクリボン12との間に大きな電位差を形成することはできず、十分なコロナ放電を発生させることができない。よって、除電ブラシ32による除電だけでは、インクリボン12を十分に除電することはできない。なお、除電ブラシ32をインクリボン12の表面に対向させた場合と裏面に対向させた場合とで略同じことが言える。
【0046】
このため、本願発明者等は、パッシェンの法則に基づく放電をインクリボン12の表面側に発生させて表面の電荷を除電することで、インクリボン12の表裏の帯電量のバランスを一旦崩し、インクリボン12の帯電圧を大きくした上で、接地した除電ブラシ32を用いてインクリボン12との間でコロナ放電を生じさせ、インクリボン12の裏面側に多量のイオンを発生させて、インクリボン12を効果的に除電する方法を発明した。以下、本発明の除電方法について、そのメカニズムを含めて詳細に説明する。
【0047】
第1の実施の形態では、パッシェンの法則に基づく放電をインクリボン12の表面との間で発生させるための本発明の除電器として、接地した導電性ローラ34を用いた。導電性ローラ34は、導電性グリースベアリングを介して図示しないアームに取り付けられ、アームを接地することでアースされている。また、導電性ローラ34は、インクリボン12の表面に接触して配置される。なお、ここで使用する導電性ローラ34は、金属ローラ、導電性ゴムローラ、或いは、導電性スポンジローラとすることができる。本実施の形態では、金属ローラ34を導電性ローラとして用いた。
【0048】
導電性ローラ34だけを用いた場合のインクリボン12の除電効果を調べるため、剥離帯電したインクリボン12に接地した金属ローラ34を接触させてインクリボン12を除電した後で、インクリボン12の帯電圧を測定した。その結果を図7に示す。帯電圧の測定は、インクリボン12の表面に対向させた上述した静電気センサ30を用いた。
【0049】
図7では、比較のため、金属ローラ34を設けずに除電しない状態のインクリボン12の帯電圧を静電気センサ30で測定した結果を併記した。なお、図7では、図8に示すように金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させた場合の帯電圧の測定結果と、図9に示すように金属ローラ34をインクリボン12の裏面に接触させた場合の帯電圧の測定結果を示した。
【0050】
これによると、金属ローラ34をインクリボン12の表面或いは裏面に接触させてインクリボン12を除電した場合、インクリボン12を除電しない場合と比較して、静電気センサ30で測定したインクリボン12の帯電圧が大きく変動しているのが分かる。また、インクリボン12の表面に金属ローラ34を接触させて帯電圧を測定したグラフと、裏面に接触させて帯電圧を測定したグラフを比較すると、両者は互いに大きく離間しているのが分かる。
【0051】
図7のグラフからも明らかなように、インクリボン12の片面だけを金属ローラ34で除電した場合、インクリボン12の表裏の電荷のバランスが大きく崩れ、その結果、静電気センサ30で測定したインクリボン12の帯電圧が大きく変動したものと考えられる。特に、上述したように除電ブラシ32だけを用いた場合と比較しても、帯電圧の変動が大きいことから、金属ローラ34をインクリボン12に接触させた方が除電ブラシをインクリボン12に離間対向させた場合より多くの電荷を除電できていることが分かる。
【0052】
図10には、接地した金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させた部位を部分的に拡大して示してある。矢印方向に搬送されるインクリボン12の表面に、接地した金属ローラ34を接触させると、金属ローラ34の湾曲した周面の形状によって、接触点に向けて両者の間の距離が徐々に近付いていく。このとき、インクリボン12の帯電圧と気圧をパラメータとして金属ローラ34の周面とインクリボン12の表面との間の距離がある決まった距離まで近付くと、金属ローラ34の周面とインクリボン12の表面との間でパッシェンの法則に基づくコロナ放電が生じる。金属ローラ34による除電は、このパッシェンの法則に基づくコロナ放電によってなされる。
【0053】
図11には、パッシェンカーブを示してある。パッシェンの法則に基づくコロナ放電は、ある一定の電位差を有する電極間の距離(ここでは、金属ローラ34の周面とインクリボン12の表面との間の距離)がある一定距離まで近付いたときに生じるが、このときの電極間の電位差を最低電圧としてこれ以上電極間の距離が近付くと放電が生じなくなる。この距離をパッシェンミニマムと言う。逆に、パッシェンミニマムを超えて電極間の距離が大きくなると、最低電圧から放電を生じるために必要となる電圧が徐々に大きくなる。例えば、1気圧の大気中で、電極間に330Vの電位差を与えた場合、パッシェンミニマムは、約7.5μmになる。
【0054】
本実施の形態のインクリボン12と金属ローラ34との間の関係に置き換えて考えると、インクリボン12の帯電圧は、上述したように、両面の電荷を相殺した値となるため、接地した金属ローラ34の周面との間の電位差はそれ程大きくはならない。しかし、両者間の距離が上述したパッシェンミニマムまで近付くとコロナ放電を生じるため、インクリボン12の表面側にイオンを発生させることができ、表面の電荷を確実に除電できる。このため、除電ブラシ32を用いた場合より、金属ローラ34をインクリボン12に接触させてパッシェンの法則に基づくコロナ放電を生出させた方が、除電効果が高くなるものと考えられる。なお、発生したイオンは、インクリボン12の裏面側に影響しないため、金属ローラ34を接触させたインクリボン12の表面側だけ除電ができる。
【0055】
以上のように、金属ローラ34を用いてパッシェンの法則に基づく除電を行うと、インクリボン12の片面の電荷を効果的に除電でき、その結果として、インクリボン12の帯電圧を大きくすることができる。本実施の形態では、このように、金属ローラ34による除電を実施してインクリボン12の表裏の帯電量のバランスを一旦崩し、インクリボン12の搬送方向下流側で、インクリボン12と除電ブラシ32との間に比較的大きな電位差を形成し、除電ブラシ32を用いてインクリボン12の裏面を効果的に除電するようにした。
【0056】
図12には、本実施の形態の除電装置1をインクリボン12に取り付けた状態の概略図を示してある。ここでは、この除電装置1による除電効果を確かめるための静電気センサ30を除電装置1の下流側に配置した状態を図示してあるが、実際の装置では、静電気センサ30は取り外してある。
【0057】
除電装置1は、インクリボン12の搬送方向(図示矢印方向)に沿って上流側でインクリボン12の表面(一方の面)に接触して配置された接地された金属ローラ34(除電器)と、この金属ローラ34の下流側に離間した位置でインクリボン12の裏面(他方の面)に対向して配置された接地された自己放電型の除電ブラシ32と、を有する。本実施の形態では、上流側の金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させて配置し且つ下流側の除電ブラシ32をインクリボン12の裏面に対向させて配置したが、インクリボン12の裏面に上流側の金属ローラ34を接触させてインクリボン12の表面に下流側の除電ブラシ32を対向させて同様のことが言える。
【0058】
インクリボン12の搬送方向に沿って、金属ローラ34がインクリボン12の表面に接触する位置から、除電ブラシ32がインクリボン12の裏面に対向する位置までの距離は、少なくとも、金属ローラ34による電界が除電ブラシ32による除電作用に影響を及ぼすことのない距離だけ離れている必要がある。より具体的には、影響を受ける電位が100V以下となるような最小距離Dminは、インクリボン12の帯電圧をVボルトとした場合、
Dmin=7×10−4E[m]
を満たす値になる。
【0059】
この除電装置1を用いてインクリボン12を除電する際には、まず、インクリボン12の搬送方向上流側にある金属ローラ34によるパッシェン効果によってインクリボン12の表面を除電する。これにより、インクリボン12の表裏の帯電量のバランスが崩れ、インクリボン12の帯電圧が大きくなる。そして、この後、下流側に配置した除電ブラシ32を用いて、インクリボン12の裏面を除電する。このとき、インクリボン12と除電ブラシ32との間の電位差は比較的大きくされているため、除電ブラシ32をインクリボン12の裏面から離間させても十分な放電を生じさせることができ、多量のイオンを発生させることができ、効果的な除電が可能となる。
【0060】
これに対し、インクリボン12と除電ブラシ32との間の電位差が小さい場合であっても、両者の間の距離をパッシェンミニマムまで狭めることで放電を生じさせることができるが、この場合の放電エネルギーは小さく、発生するイオンの量も少なくなる。つまり、除電ブラシ32を用いた場合、除電対象物(ここでは、インクリボン12)との間の距離はできるだけ大きくとることが望ましく、そのためにはコロナ放電を生出させるための大きな電位差を形成する必要がある。
【0061】
本実施の形態では、除電ブラシ32による除電を効果的に実施するための前工程として、金属ローラ34を用いたパッシェン効果を利用した除電を採用したため、除電ブラシ32とインクリボン12との間の電位差を大きくすることができ、結果として、除電ブラシ32をインクリボン12から離間せしめて配置することができ、コロナ放電による多量のイオンを発生させることができ、インクリボン12を確実且つ効果的に除電することができた。なお、自己放電型の除電ブラシ32を使用する場合の適当な設置距離(ギャップ)は、実験的に1mm〜3mmであることが分かっている。
【0062】
図13には、本実施の形態の効果を検証するため、インクリボン12を全く除電しない場合における帯電圧(除電なし)、金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させて配置した場合における帯電圧(金属ローラ表面)、金属ローラ34をインクリボン12の裏面に接触させて配置した場合における帯電圧(金属ローラ裏面)、および金属ローラ34をインクリボン12の表面に接触させて配置し且つ除電ブラシ32を下流側でインクリボン12の裏面に対向させて配置した場合における帯電圧(金属ローラ表、除電ブラシ裏)を、上述した静電気センサ30で測定した結果のグラフを示してある。
【0063】
これによると、金属ローラ34をインクリボン12の上流側で表面に接触させて配置し、且つインクリボン12の下流側で裏面に除電ブラシ32を対向させて配置した本実施の形態の除電装置1を用いた場合、インクリボン12の帯電圧が最もゼロに近付いているのが分かる。見方を変えると、静電気センサ30で測定する帯電圧は、インクリボン12の表裏の電荷を相殺した値として測定されることから、測定値がゼロであっても必ずしも除電が効果的に行われたとは言えないかもしれないが、上述した説明を考慮すれば、本実施の形態の除電装置1を用いることで、インクリボン12の効果的な除電ができたことは明白である。
【0064】
以上のように、本実施の形態の除電装置1を用いることでインクリボン12を確実に除電できるため、インクリボン12がサーマルヘッド16を通過する際に、インクリボン12とサーマルヘッド16との間で放電を生じることを防止でき、放電によるサーマルヘッド16の破壊を防止することができる。
【0065】
なお、この発明は、上述した実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上述した実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、上述した実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施の形態に亘る構成要素を適宜組み合わせても良い。
【0066】
例えば、上述した実施の形態では、印刷装置10に組み込まれたインクリボン12の除電装置に本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、中間転写フィルム14の除電装置として本発明を利用しても良い。つまり、中間転写フィルム14も樹脂フィルムを基材としているため剥離により帯電し、インクリボン12と同様の課題を有する。この他に、本発明を適用可能な樹脂フィルムとして、物品を包装するためのラミネートフィルムやビニールシートなど、種々の素材が考えられる。
【0067】
また、上述した実施の形態では、下流側の除電ブラシ32を効果的に利用するための上流側の除電器として、金属ローラ34を用いた場合について説明したが、パッシェンの法則に基づくコロナ放電を生出させることのできる他の除電器を採用しても良い。
【0068】
図14には、この発明の除電器の他の実施の形態の概略図を示してある。この除電器40は、接地した自己放電型の除電ブラシ42を利用したものである。この種の除電ブラシを利用する場合、上述した実施の形態で説明したように、除電対象物との間の電位差を大きくして、インクリボン12との間の距離を比較的大きくとることが望ましい。しかし、その場合には、インクリボン12の帯電圧を比較的大きくして、接地した除電ブラシとの間の電位差を大きくすることが条件となる。しかし、本発明の除電器のように、インクリボン12の表裏の電荷のバランスを崩す目的で接地した自己放電型の除電ブラシを利用する場合、インクリボン12の表裏の電荷が相殺された状態であるため、除電ブラシをインクリボン12に極めて近付けて配置しなければならなくなる。
【0069】
しかし、除電ブラシをインクリボン12に近付けて配置し、且つ両者の間のギャップを高精度に管理することは難しく、パッシェンミニマムとなる距離に除電ブラシを固定して配置することは不可能に近い。また、このようにギャップを管理して除電ブラシを高精度に位置決めして配置できたとしても、両者の間の電位差が小さいため、コロナ放電のエネルギーも小さく、イオンの発生量も少なくなってしまう。
【0070】
このため、本実施の形態の除電器40は、インクリボン12の搬送方向(図示矢印方向)に沿ってブラシの長さを徐々に異ならせた除電ブラシ42を図示のように立位で配置し、インクリボン12の表面にブラシを接触させて取り付けた。そして、この除電ブラシ42をインクリボン12の表面に対して離接する方向に振動させるようにした。
【0071】
除電ブラシ42を振動させるための振動機構44は、除電ブラシ42を先端に取り付けたアーム46と、アーム46の回動軸46aと除電ブラシ42との間の部位に作用するカム48と、このカム48を回転させる図示しないモータと、を有する。モータを動作させてカム48を回転させると、六角形のカム48がアーム46に作用してアーム46を振動させ、アーム46の先端に取り付けられた除電ブラシ42がインクリボン12から離接する方向に振動する。除電ブラシ42が振動すると、長さを異ならせたブラシの先端がインクリボン12の表面に対して接触および離間を繰り返し、長さの異なるブラシのいずれかが常にインクリボン12に対してパッシェンミニマムの距離に配置される。
【0072】
このように、ブラシの長さを異ならせることで、除電ブラシ42の位置決め制度を低くでき、いずれかの部位で常に放電を生じさせることができ、インクリボン12の表面を効果的に除電することができる。また、この場合、パッシェンの法則を利用した放電を生出させているため、単に除電ブラシをインクリボン12から離間させて配置した場合と異なり、十分な放電を生出させることができ、多量のイオンを発生させることができる。
【0073】
なお、この実施の形態で説明した除電器40の除電ブラシ42は、必ずしも振動させる必要はなく、ブラシの長さを異ならせるだけでも本発明の効果を奏することができる。この場合、振動機構44を省略することができ、装置構成を簡略化できる。
【0074】
図15には、この発明の除電器のさらに他の実施の形態の概略図を示してある。この除電器50は、接地した自己放電型の除電ブラシ52を単に傾斜させてインクリボン12の表面に接触させたものである。図示の姿勢で除電ブラシ52をインクリボン12に押し付けることで、上述した金属ローラ34を接触させた場合と同様に、パッシェンの法則に基づく放電を、インクリボン12との間で生出させることができる。
【0075】
この他に、インクリボン12の表面に対して鋭角をなすように傾斜して接触せしめた図示しない金属板を除電器として利用することもでき、この場合も、パッシェンの法則に基づく放電を生出させることができ、インクリボン12の表面を効果的に除電することができる。
【0076】
さらに、上述した実施の形態では、インクリボン12が保持した各色インクを中間転写フィルム14に重ねて転写して、この中間転写フィルム14上で重ねたカラーインクを転写層とともに媒体に転写するようにした印刷装置10について説明したが、これに限らず、例えば、図16に示す印刷装置60に本発明を適用することもできる。
【0077】
つまり、この印刷装置60は、中間転写フィルム14を使用せずに、サーマルヘッド16とプラテンローラ18との間に媒体Mを直接搬送するタイプの装置であり、インクリボン12に本発明の除電装置1を取り付ければ、上述した実施の形態と同様の効果を奏し得る。
【符号の説明】
【0078】
1…除電装置、10…印刷装置、12…インクリボン、13…テンションローラ、14…中間転写フィルム、15…駆動ローラ、16…サーマルヘッド、18…プラテンローラ、22…供給軸、24、28…巻取り軸、26…送出し軸、30…静電気センサ、32…除電ブラシ、34…導電性ローラ(金属ローラ)、40、50…除電器、42、52…除電ブラシ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の樹脂フィルムを巻回した供給軸から送り出される樹脂フィルムの一方の面に対向して配置され、この一方の面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることでこの一方の面を除電する除電器と、
上記供給軸から上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿って上記除電器より下流側にずれた位置で上記樹脂フィルムの他方の面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、
を有することを特徴とする除電装置。
【請求項2】
上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿って、上記除電器が上記樹脂フィルムの一方の面に対向する位置から、上記除電ブラシが上記樹脂フィルムの他方の面に対向する位置までの距離は、少なくとも上記除電器による電界が上記除電ブラシによる除電作用に影響を及ぼさない距離だけ離れていることを特徴とする請求項1に記載の除電装置。
【請求項3】
上記除電器は、上記樹脂フィルムの一方の面に周面を接触して配置された接地された導電性ローラであることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項4】
上記導電性ローラは、金属ローラ、導電性ゴムローラ、或いは、導電性スポンジローラのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の除電装置。
【請求項5】
上記除電器は、上記樹脂フィルムの一方の面に対して鋭角をなすよう傾斜して接触せしめた接地した除電ブラシであることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項6】
上記除電器は、上記樹脂フィルムの一方の面に対して鋭角をなすように傾斜して接触せしめた金属板であることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項7】
上記除電器は、上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿ってブラシの長さを徐々に異ならせた除電ブラシであって、ブラシを上記樹脂フィルムの一方の面に接触せしめた接地された除電ブラシあることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項8】
上記除電器は、上記除電ブラシを上記樹脂フィルムの一方の面に対して離接させる方向に振動させる振動機構をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の除電装置。
【請求項9】
帯状の樹脂フィルムの表面にインクを保持せしめたインクリボンを巻回した供給軸と、
この供給軸から送り出されたインクリボンを巻き取る巻取り軸と、
上記供給軸と巻取り軸との間で張設されて走行するインクリボンの裏面側に配置されたサーマルヘッドと、
上記供給軸から上記インクリボンを送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で上記インクリボンの上記裏面に接触して配置され、この裏面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることで該裏面に帯電した電荷を除電する除電器と、
上記送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で且つ上記除電器より下流側にずれた位置で上記インクリボンの表面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、
を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
上記インクリボンを送り出す方向に沿って、上記除電器が上記インクリボンの上記裏面に対向する位置から、上記除電ブラシが上記インクリボンの上記表面に対向する位置までの距離は、少なくとも上記除電器による電界が上記除電ブラシによる除電作用に影響を及ぼさない距離だけ離れていることを特徴とする請求項9に記載の印刷装置。
【請求項11】
上記除電器は、上記インクリボンの上記裏面に周面を接触して配置された接地された導電性ローラであることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項12】
上記導電性ローラは、金属ローラ、導電性ゴムローラ、或いは、導電性スポンジローラのいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の印刷装置。
【請求項13】
上記除電器は、上記インクリボンの上記裏面に対して鋭角をなすよう傾斜して接触せしめた接地した除電ブラシであることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項14】
上記除電器は、上記インクリボンの上記裏面に対して鋭角をなすように傾斜して接触せしめた金属板であることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項15】
上記除電器は、上記インクリボンを送り出す方向に沿ってブラシの長さを徐々に異ならせた除電ブラシであって、ブラシを上記インクリボンの上記裏面に接触せしめた接地された除電ブラシあることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項16】
上記除電器は、上記除電ブラシを上記インクリボンの上記裏面に対して離接させる方向に振動させる振動機構をさらに有することを特徴とする請求項15に記載の印刷装置。
【請求項1】
帯状の樹脂フィルムを巻回した供給軸から送り出される樹脂フィルムの一方の面に対向して配置され、この一方の面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることでこの一方の面を除電する除電器と、
上記供給軸から上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿って上記除電器より下流側にずれた位置で上記樹脂フィルムの他方の面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、
を有することを特徴とする除電装置。
【請求項2】
上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿って、上記除電器が上記樹脂フィルムの一方の面に対向する位置から、上記除電ブラシが上記樹脂フィルムの他方の面に対向する位置までの距離は、少なくとも上記除電器による電界が上記除電ブラシによる除電作用に影響を及ぼさない距離だけ離れていることを特徴とする請求項1に記載の除電装置。
【請求項3】
上記除電器は、上記樹脂フィルムの一方の面に周面を接触して配置された接地された導電性ローラであることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項4】
上記導電性ローラは、金属ローラ、導電性ゴムローラ、或いは、導電性スポンジローラのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載の除電装置。
【請求項5】
上記除電器は、上記樹脂フィルムの一方の面に対して鋭角をなすよう傾斜して接触せしめた接地した除電ブラシであることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項6】
上記除電器は、上記樹脂フィルムの一方の面に対して鋭角をなすように傾斜して接触せしめた金属板であることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項7】
上記除電器は、上記樹脂フィルムを送り出す方向に沿ってブラシの長さを徐々に異ならせた除電ブラシであって、ブラシを上記樹脂フィルムの一方の面に接触せしめた接地された除電ブラシあることを特徴とする請求項2に記載の除電装置。
【請求項8】
上記除電器は、上記除電ブラシを上記樹脂フィルムの一方の面に対して離接させる方向に振動させる振動機構をさらに有することを特徴とする請求項7に記載の除電装置。
【請求項9】
帯状の樹脂フィルムの表面にインクを保持せしめたインクリボンを巻回した供給軸と、
この供給軸から送り出されたインクリボンを巻き取る巻取り軸と、
上記供給軸と巻取り軸との間で張設されて走行するインクリボンの裏面側に配置されたサーマルヘッドと、
上記供給軸から上記インクリボンを送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で上記インクリボンの上記裏面に接触して配置され、この裏面との間でパッシェン効果による放電を生じさせることで該裏面に帯電した電荷を除電する除電器と、
上記送り出す方向に沿って上記サーマルヘッドの上流側で且つ上記除電器より下流側にずれた位置で上記インクリボンの表面に対向して配置された自己放電型の接地した除電ブラシと、
を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
上記インクリボンを送り出す方向に沿って、上記除電器が上記インクリボンの上記裏面に対向する位置から、上記除電ブラシが上記インクリボンの上記表面に対向する位置までの距離は、少なくとも上記除電器による電界が上記除電ブラシによる除電作用に影響を及ぼさない距離だけ離れていることを特徴とする請求項9に記載の印刷装置。
【請求項11】
上記除電器は、上記インクリボンの上記裏面に周面を接触して配置された接地された導電性ローラであることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項12】
上記導電性ローラは、金属ローラ、導電性ゴムローラ、或いは、導電性スポンジローラのいずれかであることを特徴とする請求項11に記載の印刷装置。
【請求項13】
上記除電器は、上記インクリボンの上記裏面に対して鋭角をなすよう傾斜して接触せしめた接地した除電ブラシであることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項14】
上記除電器は、上記インクリボンの上記裏面に対して鋭角をなすように傾斜して接触せしめた金属板であることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項15】
上記除電器は、上記インクリボンを送り出す方向に沿ってブラシの長さを徐々に異ならせた除電ブラシであって、ブラシを上記インクリボンの上記裏面に接触せしめた接地された除電ブラシあることを特徴とする請求項10に記載の印刷装置。
【請求項16】
上記除電器は、上記除電ブラシを上記インクリボンの上記裏面に対して離接させる方向に振動させる振動機構をさらに有することを特徴とする請求項15に記載の印刷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−267409(P2010−267409A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115748(P2009−115748)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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