説明

樹脂充填ワイヤロープ

【課題】磨耗、疲労断線および形崩れが生じにくく、長寿命が得られ、しかもロープ径が増大せず目視検査も容易であり、製造も容易に行える樹脂充填ワイヤロープを提供する。
【解決手段】芯部とこれの周りに複数本のストランドを配して撚合したロープにおいて、ロープ本体の前記ストランド間に合成樹脂が充填固化され、前記合成樹脂が、ストランドの山部における素線表面がほぼ露出するようにロープ外接円内を満たしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤロープとりわけクレーン用巻上げ索などに好適な樹脂充填ワイヤロープ関する。
【背景技術】
【0002】
クレーン用巻上げ索としては、従来、例えば6xFi(29)や6xWS(31)などの普通撚りのJISロープが使用されている。これらのワイヤロープは、繊維心やIWRCの周りにストランドを撚り合わせて構成され、ロープグリースを塗布して使用されているが、高い張力のもとシーブで屈曲を受けることにより、最外層の山部で素線に磨耗・疲労が生じ、またワイヤロープはウインチドラムに巻かれて駆動するので、多層に巻かれることによりドラム上でロープ同士の接触による潰れ、形崩れを生じる問題があった。
【0003】
こうした問題を解消すべく、動索用のワイヤロープにおいて、先行技術1には、クロージング工程でストランド間にインサート材を挿入したロープが開示されている。また、先行技術2では、ロープ全周を樹脂被覆したロープが提案されている。
【0004】
先行技術1においては、ストランド間に挿入したインサート材がロープ外接円にまで達し、伸びの低減、騒音を防ぐ役割を保つとともに寿命が長くなるとしているが、製造時にストランド数の倍の数だけボビン数が必要であり、フライヤ数が増えるため、特殊なハラハラ撚りが可能なクロージング機が必要となる。また、インサート材は常温で撚り合わされるため、素線間まで樹脂を充填することが出来ない問題がある。
【0005】
先行技術2においては、ロープ外周全体を被覆することにより素線の磨耗が減少し長寿命になるとされているが、全体を被覆するためにロープ径増加が避けられず、既存のクレーン等の設備への即時導入は困難である。またロープ表面が被覆により見えないため、外観検査ができないという問題があった。
【特許文献1】特開平8−209568号公報
【特許文献2】特開2002−275773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、磨耗、疲労断線および形崩れが生じにくく、長寿命が得られ、しかもロープ径が増大せず目視検査も容易であり、製造も容易に行える樹脂充填ワイヤロープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、芯部とこれの周りに複数本のストランドを配して撚合したロープにおいて、ロープ本体の前記ストランド間に合成樹脂が充填固化され、前記合成樹脂が、ストランドの山部における素線表面がほぼ露出するようにロープ外接円内を満たしていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、各ストランドの谷部が合成樹脂で充填されており、ストランド及び樹脂で面圧を受けるためストランドが受ける面圧は減少され、磨耗・疲労断線(山切れ)の発生寿命を延長することができる。また、接触面圧軽減効果により、シーブやドラムでの潰れや形崩れも改善することができる。
しかも、合成樹脂はストランドの山部を越える大きな外接円で被覆されておらず、山部の最も外側にある一部の素線が露出しているためロープ径の増加がなく、既存の設備に即座に適応することができ、ロープ表面を目視できるため外観検査が容易であり、メンテナンスも容易である。
さらに、合成樹脂は溶融したものを充填するので製造も連続的に効率よく行なえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
合成樹脂の充填率が75〜115%の範囲である。
これによれば、シーブと樹脂が接触するのでストランドの接触面圧低減効果が得られ、また、シーブ溝が相対的に小さくならないのでしごかれて樹脂が破れる問題も回避でき、上限が115%であるためロープ径がわずかに増加するが、樹脂の弾性により変形するため、同一シーブでの使用に問題ない利点がある。
好適には、合成樹脂は押出し成形で充填されている。
これによれば、連続的に合成樹脂が充填されるので生産性が高く、安価に量産することができ、かつ流動性がよい溶融樹脂を隙間に充填するので、ストランドの複雑な凹凸に即応して確実に埋めることができる。
【実施例1】
【0010】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1と図2は本発明による樹脂充填ワイヤロープの第1実施例を示している。
1はロープ本体であり、芯部2とこれの周りに配されて撚り合わされた複数本(この例では6本)のストランド3から構成されている。前記芯部2は、心ロープ4とこれを外囲した被覆樹脂5からなっており、心ロープ4は芯ストランド4aの周りに6本のストランド4bをグリースを封じ込めて撚り合せたIWRCからなる。ストランド3はこの例では、6×Fi(29)構造からなっている。前記ストランド3は内接円側が前記芯部2の被覆樹脂5にめり込むようにタイトに撚られている。
【0011】
6は前記各ストランド3の谷間を埋める充填樹脂層であり、最も内部は前記芯部2の被覆樹脂5にまで達して接合されている。充填樹脂層6はこの例では外表面60が各ストランド3の山部の最外側にある少なくとも1本以上の素線30の表面とほぼ面一となっており、谷部の断面積に対する充填樹脂6の断面積の割合を充填率と定義すると、この実施例は充填率:100%となっている。
この実施例では、ロープ全体の断面が円形状となっている。これによれば、ロープが移動する時の凹凸が小さくなり、シーブとの接触により生じる騒音も軽減される利点がある。
【実施例2】
【0012】
図3と図4は本発明の第2実施例を示している。この実施例においても、芯部2とこれの周りに配されて撚り合わされた複数本(この例では6本)のストランド3からロープ本体1が構成されており、前記各ストランド3の谷間を充填樹脂層6が埋めているが、芯部2は、芯ストランド4aの周りに6本のストランド4bをグリースを封じ込めて撚り合せたIWRCからなる心ロープ4と、これを外囲したグリース層7からなっており、ストランド3は前記グリース層7にめり込むようにタイトに撚られている。
【0013】
前記充填樹脂層6は、この実施例では、外表面60が各ストランド3の山部の最外側にある少なくとも1本以上の素線30の表面を露出させるように充填されている。谷部の断面積に対する充填樹脂6の断面積の割合を充填率と定義すると、この実施例は充填率:約80%となっている。ロープ全体の断面が円形に近いが、表面が露出された素線30の存在により間隔的に凸部が形成されている。
【実施例3】
【0014】
図5は本発明の第3実施例を示しており、この実施例においても、芯部2とこれの周りに配されて撚り合わされた複数本(この例では6本)のストランド3からロープ本体1が構成され、前記各ストランド3の谷間を充填樹脂層6が埋めているが、この実施例では、芯部2が合成繊維芯からなり、ストランド3は前記芯部2にめり込むようにタイトに撚られている。
【0015】
前記充填樹脂層6は、この実施例では、外表面60が各ストランド3の山部の最外側にある少なくとも1本以上の素線30の表面を露出させるように充填されている。この例では、表面が露出された素線30を境として次のストランドの表面が露出された素線30の間で外側に膨らむように構成されており、したがって、ロープ全体の断面が円形に近いが、前記膨らみにより間隔的に凸部が形成されている。谷部の断面積に対する充填樹脂6の断面積の割合を充填率と定義すると、この実施例は充填率:約110%となっている。
【0016】
前記3つの実施例において、充填樹脂層6の樹脂は、耐摩耗性がよく強度が高くかつ押出しが可能な熱可塑性樹脂が用いられる。その例としては、高密度ポリエチレンで代表されるポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリウレタン系、エンジニアリングプラスチックなどがあげられる。
第1実施例のような芯部2が被覆樹脂5を有する場合、その被覆樹脂5は充填樹脂層6の樹脂と同質であることが好ましいが、異質であってもよい。
【0017】
充填樹脂層6の充填率は75〜115%の範囲が望ましい。充填率が75%以下では、シーブと樹脂が全く接触しないことになるため、ストランドに対する接触面圧低減効果が得られない。しかし、充填率が115%を超えて高いとシーブ溝が相対的に小さくなり、しごかれて充填樹脂が破れるので好ましくない。なお115%ではロープ径が約1%増加するが、樹脂の弾性により変形するため、同一シーブでの使用に問題ない。最も好適には、充填樹脂層6の充填率は80〜110%である。
【0018】
前記充填樹脂層6を得るには、図6のように、ロープ本体1の移動経路に、押出し機7aと成形ロール7bと水槽などの冷却槽7cと引取り機7dをこの順序で配置し、ロープ本体1を引取り機7dで牽引させることにより、押出し機7aにおいて溶融樹脂をロープ本体1のストランド3の谷間を埋めるように押出し成形して被覆し、押出し機7aから出たところで加熱されている成形ロール7bにより絞りをかけて余分な樹脂を除去し、充填率:75〜115%に調整する。そして冷却槽7cを通過させて樹脂を硬化させるものである。
【0019】
なお、図示するものは本発明の数例であり、ロープ本体構造はどのようなものでもよく、ストランドの構造、本数も限定はなく、芯部も材質、塗油の有無なども限定はない。
【0020】
具体的に本発明ロープを製作し、曲げ疲労試験を行なった結果を示す。
ロープ本体は、第2実施例の構造:IWRC 6×Fi(29)、0/0 径16mm、B種を用いた。このロープ本体に押出し機で高密度ポリプロピレンを50、75,100,115、140%被覆してロープを得た。
得られたロープから試料を作成し、図7に示すU曲げ疲労試験機を使用し、D/d=25,安全率:8、50万回までの条件にて試験シーブを往復させて疲労試験を行い、曲げ疲労特性を充填なしの場合ともども評価した。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
この表1から明らかなように、充填率が75〜115%の場合にストランドが受ける接触面圧が低減され、磨耗や疲労断線の発生が抑えられ、接触面圧が低減されることで潰れや型崩れが改善された良好な結果が得られている。特に充填率が100%のときに最良の結果が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は本発明にかかる樹脂充填ロープの第1実施例を示す拡大断面図、(b)はその一部拡大図である。
【図2】第1実施例の部分的斜視図である。
【図3】第2実施例の拡大断面図である。
【図4】第2実施例の部分的斜視図である。
【図5】第3実施例の拡大断面図である。
【図6】本発明の充填ロープ製造工程例を示す説明図である。
【図7】曲げ疲労試験方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ロープ本体
2 芯部
3 ストランド
6 充填樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部とこれの周りに複数本のストランドを配して撚合したロープにおいて、ロープ本体の前記ストランド間に合成樹脂が充填固化され、前記合成樹脂が、ストランドの山部における素線表面がほぼ露出するようにロープ外接円内を満たしていることを特徴とする樹脂充填ワイヤロープ。
【請求項2】
合成樹脂の充填率が75〜115%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂充填ワイヤロープ。
【請求項3】
合成樹脂は押出し成形で充填されていることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂充填ワイヤロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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