説明

樹脂内に配列した高熱伝導性材料

本発明は、ホスト樹脂マトリックス32と高熱伝導性充填剤30を有する高熱伝導性樹脂を提供する。高熱伝導性充填剤は、ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成し、該充填剤は3〜100のアスペクト比を有する。該充填剤はホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質に分布しており、かつ実質的に同じ方向で配列している。幾つかの実施態様では、樹脂は高度構造化樹脂タイプである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年6月15日に提出されたスミス(Smith)らによる仮出願のUS 60/580,023に優先権を主張するものであり、これを参照して本明細書中に取入れることとする。また本出願は、2005年4月15日に提出された米国特許出願 11/106845に優先権を主張するものであり、これを参照して本明細書中に取入れることとする。さらに、本出願は、米国特許明細書"樹脂に組込まれた高熱伝導性材料"、"グラフトした表面官能基を有する高熱伝導性材料"、"高熱伝導性充填剤を有する構造化樹脂系"にも関し、全てスミスらにより本明細書と共に提出された。よって、本明細書中に全てを参照して取入れることとする。
【0002】
本発明の分野
本発明の分野は、樹脂内に組込まれた配列した高熱伝導性材料を有する樹脂に関する。
【0003】
本発明の背景
どのような形の電気器具の用途でも、電気絶縁コンダクターにニーズがある。全ての電気系と電子系の大きさを常に減少させ、かつ合理化させる後押しにより、より良好で、かつよりコンパクトな絶縁体ならびに絶縁系を相応して見出す必要がある。
【0004】
容易に表面に接着できる丈夫かつ柔軟な電気絶縁材料のその実用的利便性により、様々なエポキシ樹脂が電気絶縁系において広範に使用されてきた。マイカフレークやガラス繊維のような従来の電気絶縁材料は、表面コーティングでき、かつこれらのエポキシ樹脂に結合して、増大した機械強度、耐薬品性および電気絶縁特性を有するコンポジット材料を製造できる。多くの場合に、エポキシ樹脂は従来のワニスの沈殿物と置き換わっており、このような材料は幾つかの高電圧電気装置において利用され続けてきた。
【0005】
良好な電気絶縁体は、その性質により良好な断熱材になる傾向があるが、これは望ましくない。断熱挙動は、特に空冷電気機器ならびに部材に関しては、部材ならびに装置の効率と耐久性を全体的に下げてしまう。最大の電気絶縁性と最小の断熱的性質を備えた電気絶縁系を作ることが望ましい。
【0006】
電気絶縁材は、大抵は絶縁テープの形で生じ、これ自体は種々の層を有する。これらのタイプのテープに共通しているものは、繊維層の界面で結合した紙の層である。両方の層は樹脂で含浸される傾向がある。絶縁材料の好ましいタイプは、マイカテープである。マイカテープへの改善には、米国特許第6103882号に教示されているような触媒添加マイカテープが含まれる。マイカテープはコンダクターの回りに巻かれて、著しく良好な電気絶縁材を提供する。この例は、図1に記載されている。ここで記載されているものは、コイル13であり、コンダクター14の多数の折り返しから成り、これは実施例に記載されるように組立てられて焼結コイルになる。ターン絶縁材15は、繊維状材料、例えばガラスまたはガラスと熱処理されたダクロンから製造される。コイル用のグランド絶縁材は、焼結コイル14の回りに、コンポジットマイカテープ16の1つ以上の層を巻付けることにより提供される。このようなコンポジットテープは、例えば、ガラス繊維布またはポリエチレングリコールテレフタレートマットのような柔軟なバッキングシート18と組合わさった紙または小さなマイカフレークのフェルトであってよく、マイカの層20は、これに液体樹脂結合剤により結合している。一般に、コンポジットテープ16の多数の層は、電圧の要求に応じてコイルの回りに巻付けられる。丈夫な繊維状材料、例えば、ガラス繊維の外周テープ21の巻付けをコイルに適用してもよい。
【0007】
一般的に、マイカテープ16の多数の層は、通常高電圧コイルに使用される16以上の層でコイルの回りに巻付けられる。次に樹脂がテープ層に含浸される。樹脂は、絶縁テープとは独立に絶縁材としても使用できる。都合の悪いことに、絶縁材のこの量は、放散熱の厄介な問題を更に加えることになる。必要なものは、通常の方法のものよりも高い熱を導電できるが、電気絶縁ならびに機械的適合性および熱適合性を含めた他の性能因子を妥協しない電気絶縁材である。
【0008】
従来技術を用いる他の欠点も存在するが、そのうちの幾つかを更なる記載の中で明らかにする。
【0009】
本発明のまとめ
上記のことを念頭において、方法と装置は、本発明と一致する。本発明は特に高熱伝導性(HTC)含浸媒体を通るフォノンの輸送を容易にして、HTC材料間の距離をフォノン平均自由行程長さの距離未満に下げる。これはフォノン散乱を減少させ、熱源から離れて、より大きなフォノンの正味の流れまたはフラックスを生じる。次に、樹脂は多層絶縁テープのようなホストマトリックス媒体に含浸される。
【0010】
高熱伝導性(HTC)有機−無機ハイブリッド材料は、ディスクリートな2相の有機−無機コンポジットから、分子合金をベースとする有機−無機連続相材料から、およびディスクリートな有機−デンドリマーコンポジットから形成することができ、その際、有機−無機界面はコア−シェル型デンドリマー構造内でディスクリートではない。連続相材料の構造は、構造エレメントの長さスケールが熱輸送に重要なフォノン分布よりも短く、または釣り合うことを保証することにより、および/またはマトリックスの全体の構造配列を増強することによりフォノン散乱中心の数を減らすことにより、および/またはコンポジット内での界面フォノン散乱を効果的に除去または減少することにより、フォノン輸送を増大し、フォノン散乱を減少させて形成してもよい。連続した有機−無機ハイブリッドは、無機、有機または有機−無機ハイブリッドナノ粒子を、線状または架橋ポリマー(熱可塑性樹脂を含む)および熱硬化性樹脂中に組込むことにより形成してもよく、その際、ナノ粒子の寸法はポリマーまたはネットワークセグメントの長さの大きさないし未満(通常1〜50nmまたはそれ以上)である。これらの様々なタイプのナノ粒子は、反応性表面を含有し、密接に共有結合したハイブリッドの有機−無機均質材料を形成する。同様の要求は、無機−有機デンドリマーに関しても存在し、これは共に反応するか、またはマトリックスポリマーもしくは反応性樹脂と反応して連続材料を形成してもよい。ディスクリートおよびディスクリートではない有機−無機ハイブリッドの両方の場合に、ゾル−ゲル化学を利用して連続分子合金を形成してもよい。結果として得られる材料は、通常の電気絶縁材料よりも高い熱伝導性を示し、かつ通常のマイカガラステープ製造において結合樹脂として使用してもよく、未反応の真空含浸樹脂として、および独立材料として利用する場合には回転および静電発電所ならびに高電圧(約5kV以上)および低電圧(約5kV以下)両方の電気装置、部材および製品において電気絶縁用途を満たす。
【0011】
規定された物理特性と性能特性を有し、かつ有機ホスト材料の存在でのナノからミクロの大きさの無機充填剤の使用に基づく工学的電気絶縁材料の形成は、有機ホストと密接な界面を形成できる粒子表面の製造を必要とする。このことは、充填剤の表面へ化学基がグラフトし、ホストマトリックスとの表面化学的および物理的適合性を可能にするか、または表面が有機ホストと反応する化学的反応性官能基を含有して、粒子とホストの間で共有結合を形成することにより達成できる。有機ホスト材料の存在でのナノからミクロの大きさの無機充填剤の使用は、バルク誘電特性および電気特性および熱伝導性の他に、規定された表面化学を有する粒子の製造を必要とする。殆どの無機材料は、形状、大きさおよび特性のような構造特性の独立した選択を可能にせず、種々の電気絶縁用途に適応しないか、または適切なバランスの特性と性能を有するコンポジットを達成しない。このことは、適切なバルク特性と形状および大きさの特性を有する粒子を選択することにより達成してもよく、ひいては表面と界面特性ならびに他の特性を変更し、電気絶縁用途に必要なコンポジット特性や性能を更にコントロールしてもよい。このことは、金属および非金属無機酸化物、窒化物、炭化物ならびに混合系の製造を含む粒子の適切な表面コーティングにより、および電気絶縁系においてホスト材料として働く適切な有機マトリックスと反応できる反応性表面基を含有する有機コーティング剤により達成してもよい。結果として得られる未反応または部分的に反応した形のハイブリッド材料およびコンポジットは、マイカガラステープの製造において結合樹脂として、通常のマイカテープ製造用の未反応の真空含浸樹脂として、他のガラス繊維、カーボン繊維およびplyタイプならびに織物コンポジットにおいて、および独立した材料として使用して、回転および静電発電所、高電圧および低電圧両方の電気装置、部材および製品における電気絶縁用途を満たしてもよい。
【0012】
1実施態様では、本発明は高熱伝導性充填剤を含有するホスト樹脂マトリックスを有する高熱伝導性樹脂を提供する。高熱伝導性充填剤は、ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成し、該充填剤は3〜100のアスペクト比を有する。この充填剤は、ホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質に分布しており、かつ実質的に同じ方向で配列しているか、または材料を咬み合わせている浸透構造内で結合している。幾つかの実施態様では、樹脂は高度構造化樹脂タイプである。
【0013】
他の実施態様では、本発明はホスト樹脂マトリックスを高熱伝導性充填剤で含浸し、かつ該高熱伝導性充填剤を樹脂マトリックス中に均質に分布させることから成る高熱伝導性樹脂を製造する方法を提供する。次に、高熱伝導性充填剤の少なくとも75%を共通方向の15゜以内に配列させ、かつ樹脂マトリックスを硬化または半硬化させる。高熱伝導性充填剤は、3〜100のアスペクト比を有する。幾つかの実施態様では、充填剤はホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成する。特殊な実施態様では、ホスト樹脂マトリックスは、高熱伝導性充填剤と均質に配列した高度構造化樹脂を有する。
【0014】
1実施態様では、配列は高熱伝導性充填剤の自己配列および凝集により行われ、浸透構造を形成し、他の場合には配列は外場(external field)の適用により行われる。外場の例には、機械、電気、磁気、ソニックおよび超音波が含まれる。ある場合には、初めに充填剤が外場応答性材料でコーティングされ、他の場合には外場応答性充填剤が高熱伝導性材料でコーティングされる。
【0015】
なお他の実施態様では、本発明はホスト樹脂マトリックスと高熱伝導性充填剤を有する高熱伝導性樹脂を提供する。高熱伝導性充填剤は、ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成し、かつ該高熱伝導性充填剤は3〜100のアスペクト比を有する。この樹脂は、ホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質に分布しており、かつ高熱伝導性充填剤は、ホスト樹脂マトリックス内で下位構造を形成する。この下位構造は、少なくとも円柱、層および規則格子のうち1つであってよい。
【0016】
また他の実施態様では、本発明は多孔質媒体と、高熱伝導性材料を装填した樹脂を有する高熱伝導性樹脂で含浸した多孔質媒体を提供する。高熱伝導性材料は樹脂の5〜60体積%を有し、かつ該高熱伝導性材料は、10〜50のアスペクト比を有し、かつ多孔質媒体中に実質的に同じ方向で配列している。
【0017】
本発明の他の実施態様も存在し、これは詳細な説明の記載から明らかになる。
【0018】
図の簡単な説明
一例として、本発明を以下の図面について更に詳細に説明する。
【0019】
図1は、ステーターコイルの回りに巻かれた絶縁テープの使用を示している。
【0020】
図2は、本発明の装填樹脂を通って移動するフォノンを示している。
【0021】
図3は、配列した本発明の充填剤を有する充填樹脂を通って移動するフォノンを示している。
【0022】
図4は、本発明の1実施態様による配列した充填剤の円柱配列を示す。
【0023】
図5は、本発明の1実施態様による配列した充填剤の層配列の横断面図を示している。
【0024】
図6は、本発明の1実施態様による高度構造化樹脂内に配列したHTC充填剤を示している。
【0025】
本発明の詳細な説明
高熱伝導性(HTC)コンポジットは、2相の有機−無機ハイブリッド材料である充填剤と組合わさった樹脂性ホストネットワークを有する。有機−無機ハイブリッド材料は、2相の有機−無機コンポジットから、分子合金をベースとする有機−無機連続相材料から、ならびにディスクリートな有機−デンドリマーのコンポジットから形成することができ、その際、有機−無機界面はコア−シェル型デンドリマー構造とはディスクリートではない。構造エレメントの長さスケールが熱輸送に重要なフォノン分布よりも短いか、または釣り合うことを保証することにより、フォノン輸送が増大し、フォノン散乱が減少する。
【0026】
2相の有機−無機ハイブリッドは、線状または架橋ポリマー(熱可塑性樹脂)および熱硬化性樹脂中に無機ミクロ、メソまたはナノ粒子を組込むことにより形成してもよい。ホストネットワークには、ポリマーおよび他のタイプの樹脂が含まれ、この定義は以下に挙げてある。一般に、ホストネットワークとして働く樹脂は、粒子と相溶性であり、必要な場合には、充填剤の表面で導入される基と反応できるどの樹脂であってもよい。ナノ粒子の寸法は、一般にポリマーネットワークのセグメント長さの大きさ、またはこれ未満であり、例えば1〜30nmである。無機粒子は、反応性表面を含有し、共有結合したハイブリッドの有機−無機均質材料を形成する。粒子は、酸化物、窒化物、炭化物ならびに化学量論的および非化学量論的な酸化物、窒化物および炭化物のハイブリッド混合物であってよい。この更なる例は、以下に挙げてある。
【0027】
無機粒子は表面処理されて、ホストネットワークとの反応に参加できる様々な表面官能基が導入される。表面反応性基には、ヒドロキシル基、カルボン酸基、アミン基、エポキシド基、シラン基およびビニル基が含まれるが、これらに限定されることはない。基は、湿式化学法、非平衡プラズマ法、化学蒸着法および物理蒸着法、レーザービーム、スパッタイオンメッキ法および電子ならびにイオンビーム蒸着法を用いて付与してもよい。充填剤にコーティングを付与する際にこれらの技法の幾つかを使用してもよい。
【0028】
ディスクリートな有機デンドリマーコンポジットは、共に反応するか、または樹脂マトリックスと反応して単一の材料を形成してもよい。デンドリマーの表面は、上記のようなものに類似した反応性基を含有でき、これはデンドリマーとデンドリマーまたはデンドリマーと有機マトリックスの反応を生じさせることを可能にする。デンドリマーは、興味のある反応性基を含有する無機コアと有機シェルを有するようになる。通常のゾル−ゲル化学に含まれるものに類似した無機反応に参加できるヒドロキシルまたはシラン基のような反応性基を含有する無機シェルと有機コアを有することもできる。
【0029】
ディスクリートではない有機−無機ハイブリッドの使用に関しては、ゾル−ゲル化学を使用して、連続した分子合金を形成できる。水性および非水性反応に関わるゲル−ゾル化学を使用してもよい。有機−無機ハイブリッドを形成するための他の化合物には、多面体オリゴマー状シルセスキオキサン(POSS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)およびテトラブチルオルトチタネート(TBOT)ならびに有機官能化無機化合物である関連するモノマーおよびオリゴマーのハイブリッド化合物が含まれる。POSSの例では、分子はR−SiO1.5[式中、R基は他の有機化合物ならびにホストネットワークと相溶化するように、かつ/または反応するように選択される]の構成単位の回りで形成される。ベース化合物は、組合わさってポリマーセグメントとコイル構造の大きさに比例した大きな分子を生じてもよい。POSSを使用して有機−無機ハイブリッドを形成してもよく、かつ存在するポリマーおよびネットワーク中にグラフトして、熱伝導性を含めた特性をコントロールしてもよい。材料は、AldrichTM Chemical Co., Hybrid PlasticsTM Inc.およびGelestTM Inc.のような提供者から得ることもできる。
【0030】
上記のように、材料の構造形をコントロールしてフォノン散乱を減らすことが重要である。このことは、そのマトリックスが高い熱伝導性を示すことが知られているナノ粒子を使用することにより更に補助でき、かつ粒度および樹脂とのその界面特性がこの効果を維持することが保証され、かつフォノン散乱を減らすために必要な長さスケールが満たされる。より高度に配列した構造の選択は、短い範囲および長い範囲両方の周期性を有する反応したデンドリマー結晶格子およびラダー構造または配列したネットワーク構造を含めてこのためになり、これは、液晶エポキシドおよびポリブタジエンのようなホスト樹脂から形成してもよい。
【0031】
充填樹脂を、回路基板や絶縁テープのような様々な工業で結合樹脂として使用してもよい。絶縁テープの特殊な種類は、発電機の分野で使用されるマイカ−ガラステープである。これらのタイプのテープを有する樹脂は、結合樹脂として、またはこの分野で知られているような含浸樹脂として使用できる。充填樹脂は、テープを用いずに発電機の分野で使用して、回転および静電電気装置の部材において電気絶縁用途を満たしてもよい。
【0032】
テープは、電気的対象物に適用する前または後に樹脂で含浸してもよい。樹脂含浸法には、以下に記載するようなVPIとGVPIが含まれる。VPIでは、一旦テープが巻付けられ含浸されると、これが圧縮される。所定の位置に一旦つくと、圧縮テープ中の樹脂が硬化し、これがHTC材料の位置を効果的に固定する。幾つかの実施態様では、この分野の通常の当業者には明らかであるように、樹脂は2工程プロセスで硬化される。しかし、装填HTC材料の最適な圧縮は、圧縮工程の間は完全に硬化しない樹脂を好む。
【0033】
図2には、本発明の1実施態様が示されている。ここでは、樹脂性マトリックス32に装填されたHTC材料30が記載されている。マトリックスを通って移動するフォノン34は、平均行程長さnを有するが、これがフォノン平均自由行程である。この行程長さは樹脂マトリックスの正確な組成物に依存して変えられるが、これは一般にエポキシ樹脂のような樹脂に関しては2〜100nm、より一般には5〜50nmである。従って、装填HTC材料間の平均距離は、平均してこの距離未満であるべきである。HTC材料間の距離は、テープの横断方向に対する厚さで変えることができ、かつこれは一般にスペーシングを最適化するのに必要な厚さ方向であることに留意されたい。
【0034】
フォノン34が樹脂32を通って移動するにつれて、これらのフォノンは埋込まれたHTC材料30に沿って通って行く傾向がある。このことは、局所のフォノンフラックスを増大させる。それというのも、約0.1〜0.5W/mKである樹脂とは対照的に、未処理のHTC材料が10〜1000W/mKの間の熱伝導性を有するようになるからである。フォノンが装填HTC材料に沿って通るにつれて、材料間の距離がn未満である場合には、フォノン36は次のHTC材料を通るようになり、従ってHTC材料は連続したネットワークを形成する。図2は、理想的な行程を示している。実際には、材料間の距離が短くなるにもかかわらず、フォノンが樹脂とHTC材料の間を通るにつれてフォノン散乱があり、かつHTC材料と樹脂の間のフォノン伝播特性の適合が良いほど、散乱が少なくなる。
【0035】
樹脂中に装填されるHTC材料の量は、実際に極めて少なくてもよい。例えば、図2に記載されているように約10%でよい。従って、装填HTC材料間の平均距離、または長さのスケールは、僅かにnよりも大きくてよい。しかし、多くのパーセンテージはn未満であるので、本発明の実施態様の範囲内におさまる。特殊な実施態様では、次のHTC材料からの距離がn未満であるパーセンテージ材料は50%以上であり、特殊な実施態様では75%以上である。特殊な実施態様では、HTC材料の平均長さはn以上であり、これは更にフォノン輸送を補助する。
【0036】
nが短いほど、装填HTC材料の濃度は高くなり、逆に粒度が大きいほど、必要なHTC材料は減る。特殊な実施態様では、樹脂と充填剤の全体積の5〜60%の装填HTC材料を使用し、より特殊な実施態様では25〜40%である。樹脂がテープに含浸される場合には、これはテープ繊維と基質の間の空間を埋める。しかし、この時点でのテープ内のHTC分布は、大抵は最適化されておらず、むしろn以上のHTC材料間の平均距離を有する。よって、本発明の実施では、樹脂を含浸したテープを圧縮して装填HTC材料間の距離を減らす。
【0037】
装填樹脂がテープに含浸される際に、特に樹脂の30%以上が充填剤である場合にはテープの繊維または粒子はHTC材料の幾つかをブロックするように働く。しかし、テープを圧縮することにより、逆のことが生じ、HTC材料自体が全体の構造の不可動部分に結合するので、より多くの充填剤がテープ内に閉じこめられる。HTC充填剤は、互いに固定される。挙げられた実施態様では、充填剤は樹脂マトリックスとは反応しないことが示されてきたが、幾つかの実施態様では、充填剤は樹脂と共有結合を形成し、より均質なマトリックスを形成する。均質なマトリックス中では、充填剤に結合した樹脂分子は結合していない樹脂分子よりも良好に圧縮の間に保持されるであろう。
【0038】
樹脂は、多くの工業で使用されており、かつ多数の用途がある。樹脂の様々な特性は、それらの用途に影響するだけではなく、共に使用される製品の品質と効率にも影響する。例えば、樹脂を電気絶縁用途で使用する場合には、それらの絶縁耐力と電圧耐久特性は、熱安定性と熱耐久性のように高くなる必要がある。しかし、大抵はこの目的とは異なり、樹脂は一般に低い熱伝導性を有する。本発明は、樹脂と絶縁系の様々な物理特性のバランスを取り、これらを通常の電気絶縁材料よりも高い熱伝導性を有する系を製造するために導入し、その際に、絶縁強度、電圧耐久特性、熱安定性および熱耐久性、機械的強度および粘弾性応答のような重要な物理特性は適切に、むしろ増大して維持される。熱、振動および機械的サイクリング効果が原因で起こる応力により生じる層割れおよびミクロ間隙の形成は、減少または除去される。ここで使用されているように、樹脂という用語は、変性エポキシ、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエステルイミド、ポリエーテルイミド、ビスマレイミド、シリコーン、ポリシロキサン、ポリブタジエン、シアネートエステル、炭化水素などを含めた全ての樹脂とエポキシ樹脂ならびにこれらの樹脂の均質なブレンドを意味する。この樹脂の定義には、架橋剤、促進剤およびその他の触媒および加工助剤のような添加剤が含まれる。液晶熱硬化性樹脂(LCT)や1,2−ビニルポリブタジエンのような特定の樹脂は、低分子量特性と良好な架橋特性を兼ね備えている。この樹脂は、ヘテロ原子含有または不含の炭化水素のような有機マトリックスであるか、シリケートおよび/またはアルミノケイ酸塩成分含有の無機マトリックス、ならびに有機および無機マトリックスの混合物であることができる。有機マトリックスの例には、ポリマーまたは反応性熱硬化性樹脂が含まれ、これは必要な場合には無機粒子表面上に導入された反応性基と反応できる。架橋剤を樹脂に添加して最終的な架橋ネットワークの構造やセグメントの長さ分布を操作することもでき、これは熱伝導においてプラスの効果を有することができる。この熱伝導性の強化は、触媒、促進剤ならびに他の加工助剤のような他の樹脂添加剤による変性により得ることもできる。液晶熱硬化性樹脂(LCT)や1,2−ビニルポリブタジエンのような特定の樹脂は、低分子量特性と良好な架橋特性を兼ね備えている。これらのタイプの樹脂は、それらの下位構造のミクロおよびマクロ配列が向上し、これが改善されたフォノン輸送を生じる結果、強化された熱伝導性を導くことができるので、良好に熱を伝える傾向がある。
【0039】
本発明の高熱伝導性充填剤を樹脂と混合する場合には、これらは連続生成物を形成するが、この中では樹脂と充填剤の間には界面がない。幾つかの場合には、充填剤と樹脂の間に共有結合が形成される。しかし、連続性は幾分主体的であり、かつ観測者が使用するスケールに依存する。マクロスケールでは、生成物は連続的であるが、ナノスケールでは、充填剤と樹脂ネットワークの間でなお明確な相がある。従って、高熱伝導性充填剤を樹脂と混合することは、マクロスケールではこれらは連続した有機−無機コンポジットを形成するのに対して、ミクロスケールでは同じ混合物をハイブリッドと称することができる。同様に、充填剤と、おそらく有するコーティングとの間には連続性がある。
【0040】
上記のように、充填した樹脂をテープを用いずに発電機の分野で使用して、回転および静電電気装置部材において電気絶縁用途を満たしてもよい。発電機における高熱伝導性材料の使用は多様である。ステーターコイル内では、設計を最適化するために高熱伝導性を有すべきであるグランドウォール以外に部材材料がある。他の部材のように、コイルと関連させて熱の除去を最大化させる。ステーターの設計を改善すると、発電機の効率を最大化できるようにローターの設計も改善する必要がある。
【0041】
樹脂中でのHTC充填剤/材料の分布は、使用されるHTC充填剤のタイプにとっても同様に重要である。充填剤が共に凝集せず、かつ樹脂マトリックスよりも過剰に相互に反応しないことが重要である。重要なことは、HTC材料が樹脂中に入り次第とる配列である。通常は、充填剤はランダムに配列し、通常の挿入技術のままにしておくと、自己凝集してしまう。しかし、本発明ではHTC材料を樹脂中に単独で配列させるか、または樹脂を多孔質媒体中に含浸させた場合に、配列した充填剤の方向に沿って熱がより多く伝わるように配列させる。
【0042】
図3は、この1実施態様を示している。ホスト樹脂32中のHTC材料30は、ほぼ同じ方向dを向いている。熱36が通る結果、樹脂は他の方向よりもdの方向に容易に移動する傾向がある。HTC材料の全てが配列する必要はないが、本発明の1実施態様では、ナノ充填剤の少なくとも75%がdの+/−15゜以内に配列することを想定している。
【0043】
HTC充填剤の配列は、表面コーティングや表面官能基のような特徴によりコントロールしてもよく、これは相互に多少反応する表面官能基を有することにより樹脂内の充填剤の一般的な分布にも影響を及ぼすことができ、その際に、樹脂マトリックスとの最適な反応性が保持されている。ダイヤモンド様コーティング剤、酸化物、窒化物および炭化物のような無機表面コーティング剤は、充填剤の大きさおよび形状分布と組合わさる場合に、絶縁系のバルク熱伝導性と電気絶縁性をコントロールして、規定の浸透構造を提供するように生じる。反応性表面官能基は、無機コーティング剤の一部である表面基から形成されても、または付加的な官能基の付与により達成されてもよく、またはこの両方であってもよい。付加的な官能基には、上記のようなホスト有機マトリックスと化学反応ができるヒドロキシル基、カルボン酸基、アミン基、エポキシド基、シラン基およびビニル基を含む有機コーティング剤のようなものが含まれる。
【0044】
表面コーティングした充填剤に関しては、選択された表面コーティング剤の性質により、それ自体を配列および凝集させるか、または外場の適用により、充填剤の向き、位置および構造的組成をコントロールしてもよい。このような外場の例は、磁気、電気および機械的(AC/ダイナミック、DC/スタティック、パルスおよびこれらの組合せ)、ソニックおよび超音波である。例えば、誘電泳動または電気泳動を使用してもよい。TiO2のようなコーティング剤は、電場に応答するのに対して、Ni、Co、Mn、V、CrまたはFe化合物を含有しているか、もしくはこれらから成るコーティング剤は磁場に、それぞれ常磁性または強磁性的方法で応答する。金属アセチルアセトネート、フェロセン、金属ポルフィリンおよび金属フタロシアニンのような有機金属化合物を使用してもよい。
【0045】
上記の外場に応答するHTCではない充填剤上にHTC材料を表面コーティングすることもできる。例えば、TiO2コアにBN表面コーティングを施すことができる。事実これは、HTC充填剤上に外場応答性の表面コーティングを載せるよりも効果的である。それというのも、この方法により充填剤の大部分は外場に応答するようになるのに対して、充填剤を通る熱は表面に沿って移動する傾向があるからである。
【0046】
単に樹脂を硬化させて、所定の位置で配列を固定する必要がある。しかし、幾つかの実施態様では、硬化する前に樹脂が適切に設置または位置されるように、樹脂は反応しないか、または半分硬化した状態であるか、または半流動体の状態である。例えば、樹脂とHTC充填剤をテープに含浸し、HTC充填剤を配列させてもよい。次に、テープは電気的対象物の周囲に巻き付けられ、HTC充填剤はテープに対してその配列を保持する。一旦対象物が巻き付けられると、樹脂を硬化してもよい。VPIとGVPIの場合には、HTC充填剤含有の樹脂はマイテープに含浸され、次に外場により配列され、かつ硬化プロセスの間にこの配列が固定される。
【0047】
上記の説明は、充填剤が相互に直接に殆ど接触することなく配列していることを想定している。しかし、幾つかの実施態様では、充填剤は樹脂内に円柱、層または規則格子および真珠首飾りのような構造物を形成する。これらの例は図4〜6に挙げてある。ここで用いられているように、HTCと共に使用する場合には、材料、粒子および充填剤は同意語である。
【0048】
図4に関しては、円柱42は、樹脂32中の他のHTC充填剤30と一緒に存在する。
この例では、円柱状ではない充填剤30は円柱と実質的に同じ方向に配列する。樹脂を通る熱(表示無し)は、密接に詰まった円柱を好む傾向がある。これは、単に一例であることに留意されたい。他の例には、外場作用または自己凝集により、より高い粒子濃度ならびに円柱への粒子の移動が含まれる。測定した時間での外場のスイッチオンおよびオフ、または外場の緩慢な変化のような作用の組合せにより、円柱を形成することもできる。
【0049】
図5に関しては、樹脂32の中で層44が幾つかの散乱した充填剤30に沿っていることが見られる横断面図である。図4の円柱と同様に、減少した熱流が層の間を通りながら熱は層に沿って通っている。規則格子の場合と同様に、熱は規則格子構造に沿って迅速に伝わる。例えば、規則格子の形はナノ粒子またはPOSSタイプの分子のリング状またはケージ状単位格子であることができる。これは、構成された結晶タイプ構造、例えば、立方体または面心立方規則格子を形成することができる。
【0050】
液相中の液晶樹脂のような樹脂も、記載したような似た方法で同じ外場の力により配列させることができる。このことは樹脂の有利な配向と構造的特徴を提供し、これは架橋により固定されて、所望の固定構造を達成することができる。液晶は、配向の際に充填剤と相互作用して二重構造的配列を導いて、向上した特性を作り出してもよい。また、充填剤は樹脂分子に共有結合し、協力して配列してもよい。
【0051】
図6は、この1例を示している。この図では、樹脂はLCTタイプの樹脂であり、これは小さなスケールで自己配列する傾向のあるメソゲン基40を形成する。メソゲン基は、樹脂のタイプに応じて0.5〜100nmの長さになる傾向があり、かつメソゲン基の凝集物は数百ナノメートルの長さであることができる。メソゲン基内で配列するものは、HTC充填剤30である。特殊な実施態様では、メソゲン基はHTC充填剤と協力して配列される。それによって、ナノ充填剤の配列はメソゲン基の配列内において補助でき、数千ナノメーターの長さの配列箇所を形成する。逆に、高度構造化樹脂系は含浸されたHTC充填剤の配列を補助することもできる。
【0052】
本発明の1実施態様では、樹脂に高熱伝導性(HTC)材料を添加して、樹脂の熱伝導性を改善する。幾つかの実施態様では、樹脂の他の物理特性は、より高い熱伝導性と引換に減少してしまう。しかし、他の実施態様では幾つかの他の物理特性は著しく影響されず、特殊な実施態様では、これらの特性は改善される。特殊な実施態様では、配列した下位構造を有するLCTエポキシのような樹脂にHTC材料が加えられる。これらのタイプの樹脂に加える場合には、使用されるHTC材料の量を、配列した下位構造のない樹脂で使用するよりも減らすことができる。
【0053】
樹脂に装填したHTC材料は、添加されると物理的および/または化学的に樹脂と相互作用するか、または反応して熱伝導性を改善するような様々な物質である。1実施態様では、HTC材料はデンドリマーであり、かつ他の実施態様では、これらは3〜100またはそれ以上、特に10〜50の範囲内のアスペクト比(横方向の平均寸法:縦方向の平均寸法の比)を有する高アスペクト比の粒子を含めた規定の大きさまたは形状を有するナノまたはミクロ無機充填剤である。
【0054】
関連する実施態様では、HTC材料は規定の大きさと形状分布を有していてよい。両方の場合に、充填剤粒子の濃度と相対濃度は、バルク結合(または、いわゆる浸透)構造が達成されるように選択される。このことは、容量充填ありまたは無しの高い熱伝導性を与え、増強した熱伝導性を有する構造的に安定なディスクリートな2相コンポジットを達成する。関連する他の実施態様では、HTC材料の配向は熱伝導性を増大する。なお、他の実施態様では、HTC材料の表面コーティングはフォノン輸送を増強する。これらの実施態様は、他の実施態様とは独立しているか、または完全に関連している。例えば、デンドリマーは、熱硬化性樹脂や熱可塑性材料のような他のタイプの高度構造化材料と結合する。これらは、HTC材料がフォノン散乱を減少するように樹脂マトリックス中に均質に分布し、かつフォノンに対してミクロスケールの架橋を提供し、HTC材料の間で良好な熱導電性界面を作る。高度構造化材料は、1つの方向、または局在化したもしくはバルク異方性電気絶縁材料を作る方向に沿って熱伝導が増大するように配列される。他の実施態様では、低熱伝導性充填剤を、高熱伝導性を有する金属酸化物、炭化物または窒化物ならびに混合系で表面コーティングすることによりHTCが達成され、これらは規定のバルク特性のある充填剤に物理的または化学的に結合しており、このような結合は、化学蒸着法および物理蒸着法ならびにプラズマ処理のような方法により達成されてもよい。
【0055】
関連する実施態様では、HTC材料は樹脂と一緒に、実質的に均質な混合物を形成するが、不所望な顕微鏡的界面や様々な粒子湿潤およびミクロ間隙形成が殆どない。これらの均質な材料は連続相材料を形成し、これは通常の電気絶縁材料内でのフォノン波長またはフォノン平均自由行程よりも短い長さスケールではディスクリートではない。幾つかの実施態様では、誘電破壊をコントロールするために意図する界面を樹脂構造中に置くことができる。絶縁材料中では、正常な条件が与えられて誘電破壊が生じる。2相系での界面の性質と空間分布をコントロールすることにより、絶縁破壊の強さと長期電気耐久性を増強できる。絶縁耐力の増大は、増大した焼き締まり、ミクロ間隙の除去および内部機械圧縮強さの高いレベルゆえに部分的に生じる。
【0056】
本発明の樹脂は、マイカテープおよびガラスおよびポリエステルテープのような他のコンポジット構造物の含浸に使用してもよい。通常は電気絶縁材に使用される標準のマイカ(白雲母、金雲母)の他に、黒雲母マイカならびにカオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイトおよびクロライトのような幾つかの他のマイカのようなアルミノケイ酸塩材料もある。モンモリロナイトは、その構造の中にラティスを有し、これはポリマー樹脂、金属カチオンおよびナノ粒子と共に容易に挿入されて、高い絶縁耐力のコンポジットを生じることができる。
【0057】
他の実施態様では、本発明は絶縁が望ましい表面上での連続コーティングとして使用される;ここで"連続コーティング"とは、マクロスケールの用途での説明であることに留意されたい。連続コーティングでは、テープまたは他の基質の必要なく樹脂は材料上でコーティングを形成する。基質と一緒に使用する場合には、様々な多種の方法によりHTC材料を樹脂と結合させることができる。例えば、これらは樹脂を基質に加える前に添加するか、または樹脂を含浸する前にHTC材料を基質に添加できる。また、樹脂を初めに加え、続いてHTC材料を加え、次に付加的な樹脂の含浸を行うことができる。他の製造法と加工法は、通常の当業者には明らかである。
【0058】
1実施態様では、本発明は新規有機−無機材料を使用し、これがより高い熱伝導性を提供し、かつ他の重要な特性と性能特性も維持または増強する。このような材料は、高熱伝導性が増強した電力定格、絶縁材の少ない厚さ、よりコンパクトな電気設計および高い熱輸送の点で利点を与える場合には、他の高電圧および低電圧電気絶縁状況において用途がある。本発明は、アルミナ、酸化マグネシウム、炭化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛およびダイヤモンドのようなナノ、メソおよびミクロの無機HTC材料ならびに他のものを加えて、より高い熱伝導性を与える。これらの材料は、様々な結晶形や形態学的形を有することができ、かつマトリックス材料で直接に、またはキャリヤー液として働く溶剤により加工してもよい。溶剤混合物を使用して、HTC−材料をマトリックス中に混合して、マイカテープのような様々な基質にしてもよい。これとは反対に、本発明の他の実施態様を形作る分子ハイブリッド材料は、ディスクリートな界面を有さず、有機物内の無機相により与えられる利点を有する。これらの材料は、熱安定性、引張強さ、曲げ強さおよび衝撃強さ、可変周波数および温度依存性機械的モジュライおよび機械的損失ならびに一般的粘弾性応答などのような他の物理的特性への強化を与えてもよい。
【0059】
他の実施態様では、本発明は、有機−無機界面がコア−シェル型デンドリマー構造とはディスクリートではないディスクリートな有機デンドリマーコンポジットを有する。デンドリマーは、中心コアの上に形成される3次元ナノスケールのコア−シェル構造のクラスである。コアは、有機または無機材料から成っていてよい。中心コアの上に形成することにより、デンドリマーは同軸シェルの連続した添加により形成される。シェルは分枝した分子基を有し、かつ各分枝シェルは世代と称される。一般に、使用される世代の数は、1〜10であり、外側のシェル中の分子基の数は世代と共に指数的に増大する。分子基の組成物は、精密に合成することができ、外側の基は、反応性官能基であってもよい。デンドリマーは、樹脂マトリックスと連結ならびに相互に連結することができる。従って、これらをHTC材料として樹脂に加えることもでき、また他の実施態様では、慣用の樹脂に加えることなくマトリックス自体を形成してもよい。
【0060】
分子基は、相互に反応する能力、または樹脂と反応する能力について選択できる。しかし、他の実施態様では、デンドリマーのコア構造は熱伝導性を補助するその独自の能力、例えば、以下に記載するような金属酸化物について選択される。
【0061】
一般に、デンドリマーが大きいほど、フォノン輸送エレメントとして働くその能力が大きい。しかし、材料を透過するその能力と、その浸透ポテンシャルは、その大きさにより不利に影響し得るので、必要な構造と特性のバランスを達成するように最適な大きさが探求される。他のHTC材料のように、溶剤をデンドリマーに加え、マイカまたはガラステープのような基質のそれらの含浸を補助することができる。多くの実施態様では、デンドリマーは種々の分子基を有する様々な世代と共に使用される。
【0062】
市販の有機デンドリマーポリマーには、ポリアミド−アミンデンドリマー(PAMAM)およびポリプロピレン−イミンデンドリマー(PPI)およびPAMAM内部構造と有機ケイ素外部を有するデンドリマーであるPAMAM-OSが含まれる。最初の2個は、AldrichChemical TM から、最後の1個はDow-CorningTMから入手可能である。
【0063】
同様の必要性は、無機−有機デンドリマーについても存在し、これは共に反応するか、またはマトリックスポリマーもしくは反応性樹脂と反応し、単一の材料を形成してもよい。この場合に、デンドリマーの表面は、デンドリマーとデンドリマー、デンドリマーと有機物、デンドリマーとハイブリッドおよびデンドリマーとHTCマトリックスの反応を生じることができる上記のものに類似した反応性基を含有していてもよい。この場合に、デンドリマーは、無機コアと有機シェルを有するようになるか、または逆に有機もしくは無機反応性基または興味のあるリガンドを含有する。よって、無機シェルを有する有機コアを有することもでき、前記無機シェルはヒドロキシル、シラノール、ビニル−シラン、エポキシ−シランのような反応性基ならびに通常のゾル−ゲル化学に関わるものに類似した無機反応に参加できる他の基も含有する。
【0064】
全ての場合に、構造エレメントの長さスケールが熱輸送に重要なフォノン分布よりも短いか、または釣り合うことを保証することによりフォノン輸送は増強され、かつフォノン散乱は減少する。より大きなHTC粒状材料は、それ自身で実際にフォノン輸送を増大するが、しかしより小さなHTC材料は樹脂マトリックスの性質を変えることができる。これにより、フォノン散乱の変化に影響を及ぼす。このことは、そのマトリックスが高い熱伝導性を示すことが知られているナノ粒子を使用することにより更に補助でき、かつ粒度および界面特性がこの効果を維持することが保証され、かつフォノン散乱を減らすために必要な長さスケールが満たされる。短い範囲および長い範囲両方の周期性を有する反応したデンドリマー結晶格子およびラダー構造または配列したネットワーク構造を含めて、より高度に配列した構造を選択することを考慮する必要があり、これは、液晶エポキシ樹脂やポリブタジエンのようなマトリックスから形成してもよい。従来技術の樹脂マトリックスは、約0.15W/mKの最大熱伝導率を有する。本発明は、0.5〜5W/mK、むしろこれ以上の熱伝導率を有する樹脂を提供する。
【0065】
連続した有機−無機ハイブリッドは、線状または架橋ポリマーおよび熱硬化性樹脂中に無機ナノ粒子を組込むことにより形成してもよく、その際、ナノ粒子の寸法はポリマーまたはネットワークセグメントの長さの大きさないし未満(通常1〜50nm)である。これには、次のものに限定されるわけではないが、これを生じることができる3つのルートもしくはメカニズムが含まれる(i)側鎖グラフティング、(ii)包括的グラフティング(例えば、2つのポリマー鎖の末端の間)、(iii)少なくとも2個、通常幾つかのポリマー分子を含む架橋グラフティング。これらの無機ナノ粒子は、反応性表面を含有して、密接に共有結合した均質な有機−無機ハイブリッド材料を形成する。これらのナノ粒子は、金属酸化物、金属窒化物および金属炭化物ならびに非金属酸化物、窒化物および炭化物であってもよい。例えば、アルミナ、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛ならびにその他の金属酸化物、窒化ホウ素および窒化アルミニウムおよび他の金属窒化物、炭化ケイ素およびその他の炭化物、天然または合成源のダイヤモンド、および各タイプの様々な物理的形態、その他の金属炭化物およびハイブリッドの化学量論および非化学量論的混合酸化物、窒化物および炭化物であってもよい。これらの特殊な例には、混ざった化学量論および非化学量論的組合せを有するAl23、AlN、MgO、ZnO、BeO、BN、Si34、SiCおよびSiO2が含まれる。さらに、これらのナノ粒子は表面処理されて、ホスト有機ポリマーまたはネットワークとの反応に参加できる様々な表面官能基が導入される。シリカや、その他のバルク充填剤材料のようなHTCではない材料を、HTC材料でコーティングすることもできる。これは、より高価なHTC材料が使用される場合の任意選択であってよい。
【0066】
樹脂中のHTC材料の体積パーセントは、約60体積%まで、またはそれ以上であってよく、特に、約35体積%までである。より高い体積充填は、マトリックスに更に高い構造安定性を与える傾向がある。しかし、大きさと形状分布の調節により、粒子結合とHTC材料の配列の程度は、1体積%以下という少なさを占めることができる。しかし、構造安定性の理由により、浸透が生じるのに必要な最小量よりも多い量を加えるのが有用である。従って、樹脂は物理的歪みに耐えることができ、かつ浸透構造とHTC特性に損傷を与えることなく変形できる。
【0067】
表面官能基の添加には、ホスト有機ポリマーまたはネットワークと化学反応して樹脂系を形成できるヒドロキシル基、カルボン酸基、アミン基、エポキシド基、シラン基またはビニル基が含まれる。これらの官能基は、無機充填剤の表面上に自然に存在するか、または湿式化学法、プラズマ重合を含む非平衡プラズマ法、化学蒸着法および物理蒸着法、レーザービーム、スパッタイオンメッキ法および電子ならびにイオンビーム蒸着法を用いて前記官能基を付与してもよい。マトリックスポリマーまたは反応性樹脂は、ナノ粒子と相溶性であり、必要な場合にはナノ粒子表面で導入される反応性基と反応できるどのような系であってもよい。これらは、エポキシ、ポリイミドエポキシ、液晶エポキシ、シアネートエステルおよび他の低分子量ポリマーならびに様々な架橋剤を有する樹脂であってよい。
【0068】
ディスクリートではない有機−無機ハイブリッドの場合には、ゾル−ゲル化学を使用して連続した分子合金を形成することができる。この場合には、水性および非水性反応を含むゾル−ゲル化学を考慮してもよい。
【0069】
本発明の製品は、通常の電気絶縁材料よりも高い熱伝導性を示し、かつマイカガラステープ製造における結合樹脂として、通常のマイカテープ製造用の未反応の真空含浸樹脂としてならびに独立した材料として使用して回転および静電発電所、高電圧および低電圧両方の電気装置、電子装置、部材および製品における電気絶縁用途を満たしてもよい。本発明の製品は、相互に、ならびに従来技術のHTC材料および他の材料と組合わせてもよい。
【0070】
ミクロおよびナノHTC粒子は、フィラメントおよび分枝デンドライトのような所望の構造形に自己凝集する能力に応じて選択してもよい。当然ながら粒子は、自己組織化するその能力に関して選択してもよいが、この方法は電界、磁界、ソニック、超音波、pHコントロールのような外力により、また界面活性剤および他の方法の使用により変更して、粒子の電荷分布を含む粒子表面の電荷状態を変化させてもよい。特殊な実施態様では、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、ダイヤモンドのような粒子は、自己組織化して所望の形状になる。このように所望の凝集構造は、高熱伝導性材料から初めに作られるか、またはホストマトリックスへ挿入する際に作られる。
【0071】
多くの実施態様では、HTC材料の大きさと形状は、同じ用途内でも変化する。大きさと形状の範囲は同じ製品で使用される。長くまた短く変動する様々なアスペクト比のHTC材料は、樹脂マトリックスの熱伝導性を増強し、向上した物理特性と性能を潜在的に提供する。しかし、観察すべき1つの点は、基質/絶縁材の層の間で架橋を生じるほど粒子の長さが長くならないことである。また、様々な形状と長さは、より均質な体積充填と充填密度を提供することによりHTC材料の浸透安定性を改善し、その結果より均質なマトリックスが生じる。大きさと形状を混合する場合には、1実施態様では、より長い粒子は、棒状であるのに対して、より小さな粒子は、球状、板状または円盤状むしろ立方形である。例えば、HTC材料含有の樹脂は、直径10〜50nmの球状物を55〜65体積%、および長さ10〜50μmの棒状物を約15〜25体積%、樹脂の10〜30体積%を含有し得る。
【0072】
他の実施態様では、本発明は有機−無機コンポジットをベースとする新規電気絶縁材料を提供する。熱伝導は、粘弾性特性や熱膨張係数、全体の絶縁のような他のファクターに加えて、誘電特性(誘電率や誘電損失)、導電率、絶縁耐力および電圧耐久性、熱安定性、引張弾性率、曲げ率、衝撃強さおよび熱耐久性のような他の絶縁特性に有害に影響することなく最適化される。有機および無機相は構成され、かつ選択されて特性と性能の適切なバランスを達成する。
【0073】
1実施態様では、所望の形状と大きさ分布を有するナノ、メソおよびミクロ無機充填剤の表面コーティング、および選択された表面特性、ならびにバルク充填剤特性は、互いに相補性である。これは、必要なバルク特性を維持しながら有機ホスト中の充填剤相の浸透構造と、相互結合特性を独立にコントロールできるようにする。さらに、有機および無機コーティング剤を単一または二次コーティング剤として使用して、粒子表面と有機マトリックスとの相溶化を確実にし、ホスト有機マトリックスと化学反応を生じるようにしてもよい。
【0074】
形状に関しては、本発明は増強した浸透のために棒状と板状の傾向が自然にある個々の粒子形状を利用する。ここで棒状物は、天然に形成されるものに加え、合成加工した材料を含めて最も有利な実施態様である。棒状物は、約5以上の平均アスペクト比を有する粒子として定義され、特殊な実施態様では10以上であるが、より特殊な実施態様では100未満である。1実施態様では、棒状物の軸方向長さは、約10nm〜100ミクロンの範囲内である。より小さな棒状物は、樹脂マトリックスに良く浸透し、樹脂の粘度において殆ど不利な作用がない。
【0075】
多くのミクロおよびナノ粒子は、球状および円盤状の形を形成するが、これは一定条件下で均質に分布する能力を下げるので、浸透が生じる濃度を減少させる凝集フィラメント状構造を導き得る。浸透を増大させることにより、樹脂の熱的性質を増大させることができ、または代わりに樹脂に加える必要があるHTC材料の量を減らすことができる。また、増強した浸透は、結果として回避すべき凝集よりも樹脂内でHTC材料の均質な分布を生じ、不所望な界面、不完全な粒子湿潤およびミクロ間隙形成を有さないような均質な製品を作り出す。同様に、凝集したフィラメント状または樹枝状構造は、球状(高密度の)凝集物または凝集塊よりも、高いアスペクト比の粒子から形成され、増大した熱伝導性を与える。
【0076】
さらに、流動場、電界および磁界をHTC材料に適用して、これらをエポキシ樹脂の内部に分布させ、構造的に組織化することができる。交番電界または静電界を使用することにより、棒状物および板状物をミクロスケールで配列させることができる。これは、様々な方向で種々の熱的性質を有する材料を形成する。電界の形成は、この分野で公知の様々な技術、例えば、絶縁した電気コンダクターにわたって電極を取付けることにより、または材料の中心または絶縁系でコンダクターを使用することにより遂行してもよい。
【0077】
有機表面コーティング剤、無機表面コーティング剤、例えば金属酸化物、窒化物、炭化物および混合系は、選択された粒度や形状分布と組合わさる場合に、絶縁系のバルク熱伝導率および電気伝導率がコントロールされた規定の浸透構造を提供し、その一方で粒子誘電率は系の誘電率をコントロールするように選択してもよい。コーティング剤のその他のタイプは、天然または合成源のミクロ粒子およびナノ粒子のダイヤモンドコーティング剤である。多結晶および単結晶ナノ粒子型では、粒子はキャリヤー粒子、例えばシリカの表面と結合していてよい。シリカは、それ自体が強い熱伝導材料ではないが、表面コーティング剤の添加により、更に高い熱伝導材料になる。しかし、シリカおよびその他の材料は、上記のように棒状粒子に容易に形成されるような利点をもたらす特性がある。このように、様々なHTC特性を組み合わせて1つの製品にできる。これらのコーティング剤は、樹脂含浸あり、または無しのマイカおよびガラス成分の両方を含むマイカテープ構造物への用途がある。
【0078】
反応性表面官能基は、無機コーティング剤に特有の表面基から形成しても、また付加的な有機コーティング剤を付与することにより達成してもよい。この両方には、ホスト有機マトリックスと化学反応が可能なヒドロキシル基、カルボン酸基、アミン基、エポキシド基、シラン基、ビニル基およびその他の基が含まれる。これらの単一または複数の表面コーティング剤および表面官能基は、湿式化学法、プラズマ重合を含めた非平衡プラズマ法および化学蒸着法および物理蒸着法、レーザービーム、スパッタイオンメッキ法および電子蒸着法ならびにイオンビーム蒸着法を用いて付与することもできる。
【0079】
他の実施態様では、本発明は有機−無機コンポジットをベースとする新規電気絶縁系を提供する。様々な無機および有機成分の間の界面を化学的および物理的に均質にして、種々の相の間で高い度合いの物理的連続性を確実にし、かつ機械的に強い界面を提供し、高電圧と低電圧の両方の用途で利用する電気絶縁系の操作の際に失敗しにくくする。このような材料は、高電圧および低電圧電気絶縁状態での用途があり、その際、増強した界面の結合性が増強した出力定格、絶縁系の高電圧応力、少ない絶縁材厚さに関して利点を与え、かつより高い熱輸送を達成するであろう。
【0080】
特殊な実施態様では、有機マトリックスに関して無機表面を相溶化できるか、またはホスト有機マトリックスとの化学反応を起こすことができる様々な表面官能基を導入するために、様々な表面処理、ナノ、メソおよびミクロ無機充填剤を使用する。これらの表面官能基には、ホスト有機マトリックスと化学反応できるヒドロキシル基、カルボン酸基、アミン基、エポキシド基、シラン基またはビニル基が含まれる。これらの官能基は、湿式化学法、非平衡プラズマ法、化学蒸着法および物理蒸着法、レーザービーム、スパッタイオンメッキ法および電子蒸着法ならびにイオンビーム蒸着法を用いて付与することもできる。
【0081】
多くの実施態様では、表面処理材料はマイカ−ガラステープ製造において結合樹脂として、通常のマイカテープ製造用の未反応の真空含浸(GVPI&VPI)樹脂として、および独立した電気絶縁コーティング剤またはバルク材料において使用して、回転および静電発電所ならびに高電圧および低電圧両方の電気装置、部材および製品における電気絶縁用途または導電用途を満たしてもよい。また、全ての化学反応は揮発性副生成物を回避するために、付加反応の結果生じるべきであって、縮合反応ではないのがよい。
【0082】
エポキシ樹脂における改善は、最近では液晶ポリマーを使用することにより行われている。エポキシ樹脂と液晶モノマーを混合することにより、または液晶性メソゲンをDGEBAのようなエポキシ樹脂分子に挿入することにより、架橋して十分に改善された機械特性を有する配列したネットワークを形成できるポリマーまたはモノマー含有の液晶性熱硬化性(LCT)エポキシ樹脂が製造される。米国特許第5904984号を参照し、これを本明細書に参照して取入れることとする。LCTの更なる利点は、これらが標準的なエポキシ樹脂に対して改善された熱伝導性を有し、かつ熱膨潤係数(CTE)を下げることである。
【0083】
LCTエポキシ樹脂をより興味を持たせるようにするものは、これらが標準的なエポキシ樹脂よりも熱を良好に伝導できることである。本明細書に参照して取入れる米国特許第6261481号は、LCTエポキシ樹脂が通常のエポキシ樹脂のものよりも大きな熱伝導を有して製造できることを教示している。例えば、標準的なビスフェノールAエポキシは、横方向(平面)と厚さ方向の両方で0.18〜0.24ワット・パー・メーターケルビン(W/mK)の熱伝導値を有することが示されている。これとは異なり、LCTエポキシ樹脂は、実際の用途で使用する場合には、横方向に0.4W/mK以下、かつ厚さ方向に0.9W/mKまでの熱伝導値を有することが示されている。
【0084】
HTC材料に関して使用されているように紙に当てはめると、基質という用語は、絶縁紙が形成されるホスト材料を示すのに対して、紙マトリックスは、基質から作られるより完全な紙の成分を示す。これらの2つの用語は、本発明の実施態様を検討する場合には多少互換性があって使用してもよい。熱伝導性の増大は、損失係数のような電気的性質、または引張り強さ、凝集特性のような基質の物理的性質に著しい障害を起こすことなく遂行されるべきである。物理的性質は、幾つかの実施態様では表面コーティング剤のようなものを用いてむしろ改善できる。さらに、幾つかの実施態様では、ホスト紙マトリックスの電気抵抗はHTC材料の添加により増強できる。
【0085】
通常は電気絶縁材に使用される標準のマイカ(白雲母、金雲母)の他に、黒雲母マイカならびにカオリナイト、ハロイサイト、モンモリロナイトおよびクロライトのような幾つかの他のマイカのようなアルミノケイ酸塩材料もある。モンモリロナイトは、その構造の中にラティスを有し、これは金属カチオン、有機化合物およびモノマーおよびポリマーのようなHTC材料と一緒に容易に挿入されて高い絶縁耐力のコンポジットを生じることができる。
【0086】
絶縁紙は、本発明の樹脂で含浸されてもよい単に1つのタイプの多孔質媒体にすぎない。多くの工業において、これらから作られるその他の多くの材料と成分は、その幾つかを以下に述べることにするが、種々のタイプの多孔質性媒体を使用して樹脂をこれらに含浸できる。一例としては、ガラス繊維マトリックスもしくは織物およびポリマーマトリックスもしくは織物があり、その際、織物は一般に布、マットまたはフェルトであってよい。平面の層板構造を有するガラス布の積層物である回路基板は、本発明の樹脂の使用から利点を得る1つの製品である。
【0087】
ステーターコイルと一緒に使用される樹脂含浸のタイプは、VPIやGVPIとして知られている。テープをコイルの回りに巻付け、次に真空含浸法(VPI)により低粘度の液体絶縁樹脂で含浸させる。このプロセスは、マイカテープ中に閉じこめられた空気と湿気を除去するためにコイル含有のチャンバーを排気し、次に圧力下に絶縁樹脂を挿入してマイカテープを完全に樹脂で含浸し、このように間隙を除去し、マイカホスト中に樹脂絶縁材を製造することから成る。約20%の圧縮は、幾つかの実施態様ではVPIプロセスに特定である。これが完了した後に、コイルを加熱して樹脂を硬化させる。樹脂は促進剤を含有してもよく、またテープはこの中に1つを有してもよい。このバリエーションでは、幅広いVPI(GVPI)は、乾燥した絶縁コイルを巻付け、次にステーター全体が個々のコイルよりも真空含浸されるプロセスを含む。GVPIプロセスでは、コイルは樹脂で含浸する前に圧縮される。それというのも、乾燥コイルが含浸前に最終的な位置に挿入されるからである。様々な圧縮法が上記で検討されてきたが、本発明の実際の圧縮工程にVPI/GVPI含浸法を使用することもできる。
【0088】
1実施態様では、本発明は高熱伝導性充填剤を含有するホスト樹脂マトリックスを有する高熱伝導性樹脂を提供する。高熱伝導性充填剤は、ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機―無機コンポジットを形成し、かつ該充填剤は3〜100のアスペクト比を有する。充填剤はホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質に分布しており、かつ実質的に同じ方向で配列している。幾つかの実施態様では、樹脂は高度構造化樹脂タイプである。
【0089】
関連する実施態様では、充填剤は1〜1000nmの長さであり、かつダイヤモンド、Al23、AlN、MgO、ZnO、BeO、BN、Si34、SiCおよびSiO2のような材料から成っていてもよい。充填剤は、高熱伝導性ではないコーティングを有するか、またはこれらは、HTCコーティングを有する高熱伝導性ではないコアの上にあってもよい。
【0090】
さらに他の実施態様では、本発明はホスト樹脂マトリックスを高熱伝導性充填剤で含浸し、かつ該高熱伝導性充填剤を樹脂マトリックス中に均質に分布させることから成る高熱伝導性樹脂を製造する方法を提供する。次に、高熱伝導性充填剤の少なくとも75%を共通方向の15゜以内に配列させ、かつ樹脂マトリックスを硬化または半硬化させる。高熱伝導性充填剤は、3〜100のアスペクト比を有する。幾つかの実施態様では、充填剤はホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成する。特殊な実施態様では、ホスト樹脂マトリックスは、高熱伝導性充填剤と均質に配列した高度構造化樹脂を有する。
【0091】
1実施態様では、配列は高熱伝導性充填剤の自己配列および凝集により行われ、他の実施態様では配列は外場の適用におこなわれる。外場の例には、機械、電気、磁気、ソニックおよび超音波が含まれる。ある場合には、充填剤は初めに外場応答性材料でコーティングされ、他の場合には外場応答性充填剤が高熱伝導性材料でコーティングされる。
【0092】
なお他の実施態様では、本発明はホスト樹脂マトリックスと高熱伝導性充填剤を有する高熱伝導性樹脂を提供する。高熱伝導性充填剤は、ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成し、かつ該高熱伝導性充填剤は3〜100のアスペクト比を有する。この充填剤は、ホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質に分布していて、かつ該高熱伝導性充填剤はホスト樹脂マトリックス内に下位構造を形成する。この下位構造は、少なくとも1つの円柱、層および規則格子であってよい。
【0093】
関連する実施態様では、高熱伝導性充填剤は、少なくとも1つの酸化物、窒化物および炭化物である。他の関連する実施態様では、高熱伝導性充填剤は、外場に応答することができる少なくとも1つの金属および有機金属化合物を含有する。
【0094】
また他の実施態様では、本発明は多孔質媒体と高熱伝導性材料を装填した樹脂を有する高熱伝導性樹脂で含浸した多孔質媒体を提供する。高熱伝導性材料は樹脂の5〜60体積%を有し、かつ該高熱伝導性材料は10〜50のアスペクト比を有し、かつ実質的に同じ方向で多孔質媒体中に配列している。
【0095】
本発明を主として電気工業での用途において検討してきたが、本発明は他の分野にも同等に適用可能である。熱輸送を増大させる必要のある工業では、本発明から同等に利益を得るであろう。例えば、エネルギー産業、化学工業、プロセス工業および石油やガスを含む製造工業ならびに自動車産業や宇宙産業である。本発明の他の注目点には、パワーエレクトロニックス、通常のエレクトロニックスならびに集積回路が含まれ、そこでは部材の密度を高めようとする絶え間ない要求が、局所的に、かつ大部分の領域で熱を効率的に取り除く必要性を生じる。本発明の特殊な実施態様が詳細に記載されている一方で、開示の全体的な教示に鑑みて、これらの詳細な説明に対して様々な修正や代案が生じ得ることが当業者には理解されるであろう。従って、開示された特殊なアレンジは、単に例示的なものを意味するのであって、本発明の範囲として限定されるわけではない。これは添付されている請求項の全ての範囲ならびにこれと同等のものに挙げられている。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】図1は、ステーターコイルの回りに巻かれた絶縁テープの使用を表す図である
【図2】図2は、本発明の装填樹脂を通って移動するフォノンを表す図である
【図3】図3は、配列した本発明の充填剤を有する充填樹脂を通って移動するフォノンを表す図である
【図4】図4は、本発明の1実施態様による配列した充填剤の円柱配列を表す図である
【図5】図5は、本発明の1実施態様による配列した充填剤の層配列の横断面図を表す図である
【図6】図6は、本発明の1実施態様による高度構造化樹脂内に配列したHTC充填剤を表す図である
【符号の説明】
【0097】
13 コイル、 14 コンダクター、 15 ターン絶縁材、 16 マイカテープ、 18 バッキングシート、 20 マイカ層、 21 外周テープ、 30 HTC材料、 32 樹脂マトリックス、 34 フォノン、 36 フォノン、 40 メソゲン基、 42 円柱、 44 層、 d 方向、 n 平均行程長さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のもの:
ホスト樹脂マトリックス;および
高熱伝導性充填剤;
を有する高熱伝導性樹脂であって、その際、前記高熱伝導性充填剤は前記ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成し、かつ前記高熱伝導性充填剤は、3〜100の間のアスペクト比を有し、前記高熱伝導性充填剤は、前記ホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質に分布しており、かつ前記高熱伝導性充填剤は実質的に同じ方向で配列している、高熱伝導性樹脂。
【請求項2】
高熱伝導性充填剤は、1〜1000nmの長さである、請求項1に記載の高熱伝導性樹脂。
【請求項3】
高熱伝導性充填剤は、少なくとも1つのダイヤモンド、Al23、AlN、MgO、ZnO、BeO、BN、Si34、SiCおよびSiO2である、請求項1に記載の高熱伝導性樹脂。
【請求項4】
高熱伝導性充填剤は、高熱伝導性ではない充填剤の上に表面コーティングされている、請求項1に記載の高熱伝導性樹脂。
【請求項5】
樹脂は、高度構造化樹脂である、請求項1に記載の高熱伝導性樹脂。
【請求項6】
次の:
ホスト樹脂マトリックスを高熱伝導性充填剤で含浸し、
前記高熱伝導性充填剤を前記樹脂マトリックス中に均質に分布させ、
前記高熱伝導性充填剤の少なくとも75%を共通方向の15゜以内に配列させ、かつ
前記樹脂マトリックスを硬化させる
ことから成る、熱伝導性樹脂を製造する方法であって、その際、前記高熱伝導性充填剤は3〜100の間のアスペクト比を有する、熱伝導性樹脂を製造する方法。
【請求項7】
高熱伝導性充填剤は、ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
高熱伝導性充填剤は、1〜1000nmの長さである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
配列は、高熱伝導性充填剤の自己配列および凝集により行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
配列は、外場の適用により行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
外場は、機械、電気、磁気、ソニックおよび超音波のうちの1つである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
さらに高熱伝導性充填剤を外場応答性材料で初めに表面コーティングすることから成る、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
さらに外場応答性充填剤を高熱伝導性コーティング剤でコーティングすることから成る、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
ホスト樹脂マトリックスは、高熱伝導性充填剤と均質に配列した高度構造化樹脂を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
次のもの:
ホスト樹脂マトリックス;および
高熱伝導性充填剤;
を有する高熱伝導性樹脂であって、その際、前記高熱伝導性充填剤は前記ホスト樹脂マトリックスと一緒に連続した有機−無機コンポジットを形成し、かつ前記高熱伝導性充填剤は、3〜100の間のアスペクト比を有し、前記高熱伝導性充填剤は、前記ホスト樹脂マトリックス中に実質的に均質に分布しており、かつ前記高熱伝導性充填剤は前記ホスト樹脂マトリックス内で下位構造を形成し、前記下位構造は、少なくとも1つの円柱、層および規則格子を有する、高熱伝導性樹脂。
【請求項16】
高熱伝導性充填剤は、少なくとも1つの酸化物、窒化物および炭化物である、請求項15に記載の高熱伝導性樹脂。
【請求項17】
高熱伝導性充填剤は、外場に応答することができる少なくとも1つの金属および有機金属化合物を含有している、請求項15に記載の高熱伝導性樹脂。
【請求項18】
次のもの:
多孔質媒体;および
高熱伝導性材料装填樹脂
を有する高熱伝導性樹脂で含浸した多孔質媒体であって、その際、前記高熱伝導性材料は前記樹脂の5〜60体積%を有し、前記高熱伝導性材料は10〜50のアスペクト比を有し、かつ前記多孔質媒体中に殆ど同じ方向で配列している、高熱伝導性樹脂で含浸した多孔質媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−507594(P2008−507594A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516712(P2007−516712)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/021217
【国際公開番号】WO2005/124790
【国際公開日】平成17年12月29日(2005.12.29)
【出願人】(505428721)シーメンス パワー ジェネレーション インコーポレイテッド (17)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Power Generation Inc.
【住所又は居所原語表記】4400Alafaya Trail,Orlando,Florida 32826,USA
【Fターム(参考)】