説明

樹脂成形品の製造方法

【課題】意匠性や表面硬度に優れ、強度や耐衝撃性が向上した樹脂成形品を作業効率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】熱硬化性樹脂11と充填材12とを含有する樹脂組成物1の成形方法であって、上記充填材12として熱硬化性樹脂11より比重の大きい材料を用い、樹脂組成物を硬化温度より低い温度で加熱して熱硬化性樹脂11の溶融粘度を低く保持して上記充填材12を沈降せしめ、その後硬化反応を終了させて樹脂成形品Aとするとともに、その表面が沈降により偏在した充填材12を含む表面樹脂層2により意匠性を付与させる。好ましくは、上記充填材12が比重3以上の粒子状鉱物から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は樹脂成形品に関し、さらに詳しくは、システムバスの浴槽や洗面台のカウンター等に用いられる人造大理石等の樹脂成形品を金型を用いて製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂等を含む樹脂組成物を金型に注入して成形し、人造大理石浴槽や洗面台の人造大理石カウンター等の樹脂成形品を製造することが行われている。例えば、特開平10−180940号公報には、優れた表面硬度と意匠性を維持しながら、成形性を向上でき、かつ、曲げ強さ、耐衝撃性、耐熱性等の物性が向上された天然石に近い模様を有する樹脂成形物およびその製造方法が開示されている。
【0003】
すなわち、上記公報の図1に示されているように、上記公報記載の天然石類似の模様を有する樹脂成形物は、粒状天然石を含む樹脂成形物であって、該粒状天然石が樹脂成形物の厚み方向の一方に偏在していることを特徴とする樹脂成形物が記載されている。
【0004】
そして、上記模様を有する樹脂成形物は、多数の粒状天然石を含み、これらの粒状天然石が樹脂成形物の厚み方向の一方に偏在していることにより、該樹脂成形物における粒状天然石が偏在している側の面における意匠性と表面硬度を保ったまま、粒状天然石の添加量を削減することができるとの効果が述べられている。また、樹脂成形物における粒状天然石が偏在している側と反対側の部分における曲げ強さ、耐衝撃性、耐熱性等の物性を向上させ得るとの効果も述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−180940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載の技術においては、まず、金型に所定量の粒状天然石を充填し、ついで、その粒状天然石の上に、液状の硬化性樹脂組成物を、その液面が粒状天然石の上端から1cm程度上に達するように流し込み、硬化前の合成樹脂で粒状天然石を覆い隠すという工程を含んでいる。
【0007】
ここで、粒状天然石が包含する空気や、液状の硬化性樹脂組成物を流し込む際に同伴した空気等は、加熱硬化工程で気泡となり、外観を劣ったものとし、また樹脂成形物の強度の低下の原因ともなる。そのため、特許文献1に記載の技術においては、金型内を真空にし、金型を振動させて、硬化前の合成樹脂の脱泡処理が行われている。
【0008】
しかし、上記脱泡処理を行うためには、真空ポンプ等の真空装置や振動装置を用いる脱泡工程を設ける必要があるため、生産効率的に優れたものとはいえず、必ずしもコスト的に有利に樹脂成形物を得られる方法とはいえない。
【0009】
本願発明は、上記背景技術に鑑みてなしたものであり、その目的は意匠性や表面硬度に優れ、強度や耐衝撃性が向上した樹脂成形品を作業効率よく製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本願請求項1に記載の発明に係る樹脂成形品の製造方法は、熱硬化性樹脂と充填材とを含有する樹脂組成物を成形して製造する樹脂成形品の製造方法であって、上記充填材として熱硬化性樹脂より比重の大きい材料を用い、樹脂組成物を硬化温度より低い温度で加熱して熱硬化性樹脂の溶融粘度を低く保持して上記充填材を沈降せしめ、その後硬化反応を終了させて、一方の表面に充填材を偏在せしめたことを特徴としている。
【0011】
本願請求項2に記載の発明に係る樹脂成形品の製造方法は、上記充填材が比重3以上の粒子状鉱物からなることを特徴としている。
【0012】
本願請求項3に記載の発明に係る樹脂成形品の製造方法は、上記硬化反応終了後、得られた樹脂成形品の表面樹脂層を研削し充填材を露出せしめることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本願請求項1記載の発明に係る樹脂成形品の製造方法においては、充填材として熱硬化性樹脂より比重の大きい材料を使用し、かつ樹脂組成物を硬化温度より低い温度で加熱して熱硬化性樹脂の溶融粘度を低く保持する。そのため、充填材と熱硬化性樹脂とを常温で混合して樹脂組成物とする工程で充填材が包含する空気や充填材どうしの間に抱持される空気等が脱泡され、ついで、熱硬化性樹脂の溶融粘度を低く保持して充填材を沈降させるため、たとえ残存空気が存在していても沈降過程で自然に脱気されやすい。
【0014】
そのため、公知の技術におけるように金型内を真空にして金型を振動させる等の工程が省略できるため、振動装置や真空装置等が不要となり、簡単な工程でコスト的に有利に樹脂成形品の製造を行うことができる。
【0015】
また、熱硬化性樹脂の溶融粘度を低く保持して充填材の沈降を促進させ、ついで硬化反応を終了させて樹脂成形品を得るため、沈降した充填材を含む表面樹脂層が製品の外面となり、表面に各種模様がデザインされた、意匠性に優れた樹脂成形品を得ることができる。
【0016】
本願請求項2記載の発明に係る樹脂成形品の製造方法においては、上記充填材を比重3以上の粒子状鉱物から構成した場合、従来、一般的に使用されている熱硬化性樹脂の比重(1.0〜1.2)との差が大となり、充填材の沈降が促進され、下金型のキャビティの底部に速やかに粒子状鉱物の沈降層を形成することができる。上記沈降した粒子状鉱物を含む表面樹脂層は製品の外面を形成するため、表面が、例えば天然大理石調に意匠された人造大理石を得ることができる。
【0017】
本願請求項3記載の発明に係る樹脂成形品の製造方法においては、上記硬化反応終了後、得られた樹脂成形品の表面樹脂層を研削し充填材を露出せしめることにより、天然石調の自然な風合いが現れて樹脂成形品の表面意匠性をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本願発明に係る樹脂組成物を下金型内に充填した状態を模式的に示す部分断面説明図、(b)は本願発明に係る樹脂組成物を加熱し溶融粘度が低下した状態を模式的に示す部分断面説明図、(c)は本願発明に係る樹脂組成物に含有される沈降充填材が下金型のキャビティ底部で表面樹脂層を形成した状態を模式的に示す部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明に係る樹脂成形品の製造方法の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態においては、熱硬化性樹脂と充填材とを含有する樹脂組成物を加熱して硬化させ、システムバスの浴槽や洗面台のカウンター等に用いられる人造大理石を製造する形態について説明する。
【0020】
上記成形材料として用いられる熱硬化性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型アクリル樹脂の単独あるいは、これらの2種類以上の混合系を用いることができる。
【0021】
ポリエステル樹脂としては、熱硬化性のものとして無水マレイン酸のような不飽和二塩基酸および無水フタル酸のような飽和二塩基酸とグリコール類とを縮合反応させて合成され、分子内に不飽和結合とエステル結合を有するものである。また通常、この樹脂には架橋剤としてスチレンモノマー、アクリルモノマー等が配合されていて、いわゆる、不飽和ポリエステル樹脂と称されるものを用いるが、その形態は特に限定されるものではない。
【0022】
ビニルエステル樹脂としては、ビスフェノール型ビニルエステル樹脂あるいはノボラック型ビニルエステル樹脂あるいはその両方を混合して用いることができる。ここで、ビスフェノール型ビニルエステル樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂と酸との付加反応物であって、いずれも両末端のみに反応性不飽和基を有するものである。また、ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、ビスフェノールF型等の各種のものを用いることができる。また通常、このビニルエステル樹脂には架橋剤としてスチレンモノマー、アクリルモノマー等が配合されているものであるが、その形態は特に限定されるものではない。
【0023】
熱硬化型アクリル樹脂としては、通常熱硬化型として、メチルメタアクリレートモノマーあるいは、多官能のアクリルモノマーあるいはプレポリマー、あるいはポリマーのそれぞれ2種以上の混合物で構成されたアクリルシロップと称されるものを用いるが、その形態は特に限定されるものではない。
【0024】
上記充填材としては、例えば、ガーネット(比重3.1〜4.3)、アルミナ(比重3.9)、ベーマイト(比重3.05)、硫酸バリウム(比重4.45)等の比重が3以上の粒子状鉱物が望ましい物であるが、用いる熱硬化性樹脂より比重の大なるものを用いることができるものである。そして、これらは人造大理石の表面に現出する模様が所望の意匠となるように、各粒子状鉱物の適当量を混合して用いても良いものである。
【0025】
なお、熱硬化性樹脂より比重の大きいものであれば、比重が異なる充填材を2種以上併用してもよい。この場合、充填材の沈降による偏在度合いが異なった樹脂成形品を製造することができ、外観の変化した樹脂成形品を容易に製造できるものである。また、熱硬化性樹脂より比重の小さな充填材を併用しても良い。
【0026】
上記不飽和ポリエステル樹脂、架橋剤、添加剤等と比重が3以上の粒子状鉱物とは、常温で混合して樹脂組成物とされる。この混合工程で粒子状鉱物が包含する空気や粒子状鉱物どうしの間に抱持される空気等は脱泡され、粒子状鉱物は不飽和ポリエステル樹脂中にほぼ均一に分散される。
【0027】
図1は、本願発明に係る樹脂成形品の製造方法の概略工程を示す説明図である。図1(a)は、熱硬化性樹脂11と充填材12とからなる樹脂組成物1を下金型Bのキャビティ内に充填した状態を模式的に示す部分断面説明図である。図1(a)に示すように、上記混合工程で充填材12が熱硬化性樹脂11中にほぼ均一に分散された樹脂組成物1は、まず下金型Bに充填される。ついでこの樹脂組成物1は硬化温度より低い温度(例えば40℃〜50℃)に加熱される。この加熱は、一般的には、下金型Bに内設された図示しない電熱ヒーター等の加熱手段によって行われる。
【0028】
図1(b)は上記樹脂組成物1を上記温度に加熱し溶融粘度が低下した状態を模式的に示す部分断面説明図である。一般的に熱硬化性樹脂11は温度が上昇すると粘度が低下するため、加熱された樹脂組成物1の溶融粘度は低下し、また、充填材12の比重は3以上であるため、速やかに沈降し始める。この沈降の過程で、仮に、充填材12あるいは充填材12どうしの間に空気が残存していても、自然に脱気される。
【0029】
図1(c)は、上記樹脂組成物1に含有された充填材12が下金型Bのキャビティ底部に沈降し、表面樹脂層2を形成した状態を模式的に示す部分断面説明図である。図1(c)に示すように、均一に沈降した充填材12は天然石の表面模様を形成するように下金型Bのキャビティ底部で表面樹脂層を形成する。
【0030】
上記表面樹脂層を形成した後、さらに樹脂組成物1を不飽和ポリエステル樹脂の硬化温度、例えば、約100℃に加熱し、その後約130℃程度まで加熱して硬化反応を促進させる。なお、上記例示した金型温度条件は一例であり、樹脂組成物1の組成あるいは目的とする製品によって金型温度は適宜設定される。
【0031】
上記温度条件の下で、成形圧力条件を例えば圧力を0.15MPa、保圧を0.4MPa、型締圧力を0.6MPとし、上記圧力条件を30〜60分間保持する。このようにすることによって樹脂組成物1の硬化反応は完結して人造大理石調のシステムバスの浴槽や洗面台のカウンター等の樹脂成形品Aを得ることができる。
【0032】
上記金型の型開きを行った後は、下金型Bのキャビティとの接触面が外側となるため、沈降した充填材12を含む表面樹脂層2が製品の外面となって、人造大理石調の模様が現出し、意匠性に優れた樹脂成形品Aを得ることができる。なお、上記模様の表面を公知の機械的手段等によって研削し、充填材12自体を露出させてもよい。このように表面を研削することによって天然石調の自然な風合いが現れ、意匠性をさらに高めることができる。
【0033】
また、人造大理石調の模様の表面に熱硬化性樹脂11よりも硬度の高い樹脂、例えばアクリル酸エステル系の光硬化性樹脂塗料をハードコートして表面保護層を設けてもよい。
【0034】
なお、本実施形態においては充填材12として、比重が3以上の粒子状鉱物を用いたが人造大理石調の模様の形成を妨げない限り、公知のフィラー、例えば水酸化アルミニウム、シリカ、炭酸カルシウムを添加してもよい。さらに、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維補強材を含んでもよい。このように本願発明に係る樹脂成形品の製造方法は、設計変更自在であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、いずれの場合も本願発明の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0035】
A 本願発明に係る樹脂成形品
B 下金型
1 本願発明に係る樹脂組成物
11 熱硬化性樹脂
12 充填材
2 表面樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂と充填材とを含有する樹脂組成物を成形して製造する樹脂成形品の製造方法であって、上記充填材として熱硬化性樹脂より比重の大きい材料を用い、樹脂組成物を硬化温度より低い温度で加熱して熱硬化性樹脂の溶融粘度を低く保持して上記充填材を沈降せしめ、その後硬化反応を終了させて、一方の表面に充填材を偏在せしめたことを特徴とする樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
上記充填材が比重3以上の粒子状鉱物からなる請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
上記成形後、得られた樹脂成形品の表面樹脂層を研削し充填材を露出せしめる請求項1〜2記載の樹脂成形品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−167901(P2011−167901A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33130(P2010−33130)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】