説明

樹脂成形品及びその製造方法

【課題】柔軟性及び耐摩耗性に優れた樹脂成形品を提供する。
【解決手段】(A)1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン5〜100質量部、及び(B)熱可塑性重合体0〜95質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)、を含有する重合体成分からなる成形品の表面に、照射線量が0.1〜10Mrad、加速電圧が10〜800kVの電子線を照射することによって得られる樹脂成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として医療用チューブ等として好適な柔軟性及び耐摩耗性を示す樹脂成形品、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンは、プラスチック(硬度)とゴム(弾性、柔軟性)との性質を併せ持つ熱可塑性エラストマーであり、一定の結晶性を持ちながら汎用されているポリマー加工機によって容易に成形することが可能であるため、各種工業用品に用いられるようになっている。特に、ガス透過性、透明性に優れ、可塑剤無添加で成形加工でき、柔軟かつ自己粘着性を適度に有するので、医療用チューブ、各種フィルム、例えば、表面保護用のフィルムとしてその応用が拡大しつつある。
【0003】
しかし、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンからなるシート等の成形品の表面は、爪による引っ掻き等によって簡単に傷跡が残る性質を有するため、外装材としての利用が制限されていた。外装材として用いる必要がある場合には、表面を塗装処理する必要があり、コストが上昇するとともに、環境負荷が増大するという問題があった。
【0004】
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの、プラスチック(硬度)とゴム(弾性、柔軟性)との性質を併せ持つ熱可塑性エラストマーであるという特性を保持しつつ、性能バランスの不足を解消する方法として、限定された波長の紫外線を照射することにより成形品の表層のみを架橋させて硬化させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、より硬質な表面を得るため、電子線を照射する方法も種々提案されている。
【0005】
また、柔軟性を維持しつつ、更なる耐傷付き性の向上、或いは耐蒸気滅菌性を図るべく、特定の1,2−ポリブタジエンを含有する成形品の表面に対して、所定条件で放射線を照射することによって、成形品の表面処理を行う方法が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献2、3等で開示された方法により得られる成形品は、耐摩耗性の向上に関しては、必ずしも十分に満足し得るものではなかった。このため、優れた耐摩耗性を有することが要求される医療用チューブ等をはじめとする各種の成形品としては、更なる改良を行う必要があった。また、従来の電子線を用いる方法は、照射線量が強いために架橋度が高くなりすぎ、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンが有する1つの性質である柔軟性が失われてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2000−129017号公報
【特許文献2】特開2002−60520号公報
【特許文献3】特開2004−307843号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、柔軟性及び耐摩耗性、表面滑り性に優れた樹脂成形品、並びにその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、特定のシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを含有する重合体成分からなる成形品の表面に対して、所定の条件で電子線を照射することによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下に示す樹脂成形品、及びその製造方法が提供される。
【0010】
[1](A)1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン5〜100質量部、及び(B)熱可塑性重合体0〜95質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)、を含有する重合体成分からなる成形品の表面に、照射線量が0.1〜10Mrad、加速電圧が10〜800kVの電子線を照射することによって得られる樹脂成形品。
【0011】
[2]引張試験により測定される破断伸びが、300%以上であり、DIN摩耗試験による測定される摩耗容積が350cc以下である前記[1]に記載の樹脂成形品。
【0012】
[3]前記(B)熱可塑性重合体が、熱可塑性重合体が、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体の水添物、スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体の水添物、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びエチレン・アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ポリブタジエン(但し、前記(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを除く)、ポリイソプレンからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]又は[2]に記載の樹脂成形品。
【0013】
[4]フィルム、シート、チューブ、ホース、又は靴底である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂成形品。
【0014】
[5](A)1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン5〜100質量部、及び(B)熱可塑性重合体0〜95質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)、を含有する重合体成分からなる成形品の表面に、照射線量が0.1〜10Mrad、加速電圧が10〜800kVの電子線を照射することにより樹脂成形品を得ることを含む樹脂成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の樹脂成形品は、柔軟性及び耐摩耗性に優れているといった効果を奏するものである。
【0016】
また、本発明の樹脂成形品の製造方法によれば、柔軟性及び耐摩耗性、表面滑り性に優れた樹脂成形品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0018】
(樹脂成形品、及びその製造方法)
本発明の樹脂成形品の一実施形態は、(A)1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(以下、「(A)成分」ともいう)5〜100質量部、及び(B)熱可塑性重合体(以下、「(B)成分」ともいう)0〜95質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)を含有する重合体成分からなる成形品の表面に、照射線量が0.1〜10Mrad、加速電圧が10〜800kVの電子線を照射することによって得られるものである。以下、その詳細について説明する。
【0019】
((A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン)
本実施形態の樹脂成形品を得るために用いられる重合体成分に含有される(A)成分は、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンである。この(A)成分の1,2−ビニル結合含量は70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。(A)成分の1,2−ビニル結合含量を70%以上とすることにより、柔軟性に優れた樹脂成形品とすることができる。なお、本明細書にいう「1,2−ビニル結合含量」は、赤外吸収スペクトル法(モレロ法)によって求めた値である。
【0020】
(A)成分の結晶化度は5〜50%、好ましくは10〜40%である。(A)成分の結晶化度を5〜50%の範囲内とすることにより、引張強度、引裂強度等の力学強度と柔軟性のバランスに優れた樹脂成形品とすることができる。なお、本明細書にいう「結晶化度」は、結晶化度0%の1,2−ポリブタジエンの密度を0.889g/cm3、結晶化度100%の1,2−ポリブタジエンの密度を0.963g/cm3として、水中置換法により測定した密度から換算した値である。
【0021】
(A)成分の融点(Tm)は、50〜150℃であることが好ましく、60〜140℃であることが更に好ましい。(A)成分の融点(Tm)が50〜150℃であると、耐熱性と力学強度と柔軟性のバランスに更に優れた樹脂成形品とすることができる。
【0022】
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は、1万〜500万であることが好ましく、1万〜150万であることが更に好ましく、5万〜100万であることが特に好ましい。重量平均分子量(Mw)が1万未満であると、流動性が高くなり、成形加工が困難となる傾向にある。一方、重量平均分子量(Mw)が500万超であると、流動性が低くなり、成形加工が困難となる傾向にある。なお、本明細書にいう「重量平均分子量(Mw)」とは、GPCにより測定される、ポリスチレン換算の値をいう。
【0023】
(A)成分は、ブタジエン以外の共役ジエンが少量共重合したものであってもよい。ブタジエン以外の共役ジエンとしては、1,3−ペンタジエン、高級アルキル基で置換された1,3−ブタジエン誘導体、2−アルキル置換−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。高級アルキル基で置換された1,3−ブタジエン誘導体の具体例としては、1−ペンチル−1,3−ブタジエン、1−ヘキシル−1,3−ブタジエン、1−ヘプチル−1,3−ブタジエン、1−オクチル−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。
【0024】
また、2−アルキル置換−1,3−ブタジエンの具体例としては、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−プロピル−1,3−ブタジエン、2−イソプロピル−1,3−ブタジエン、2−ブチル−1,3−ブタジエン、2−イソブチル−1,3−ブタジエン、2−アミル−1,3−ブタジエン、2−イソアミル−1,3−ブタジエン、2−ヘキシル−1,3−ブタジエン、2−シクロヘキシル−1,3−ブタジエン、2−イソヘキシル−1,3−ブタジエン、2−ヘプチル−1,3−ブタジエン、2−イソヘプチル−1,3−ブタジエン、2−オクチル−1,3−ブタジエン、2−イソオクチル−1,3−ブタジエン等を挙げることができる。
【0025】
上述のブタジエン以外の共役ジエンのうち、イソプレン、1,3−ペンタジエンが好ましい。なお、重合に供される単量体成分中のブタジエンの含有量は、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることが更に好ましい。
【0026】
(A)成分は、例えば、コバルト化合物及びアルミノオキサンを含有する触媒の存在下に、ブタジエンを重合して得ることができる。前記コバルト化合物としては、好ましくは炭素数4以上の有機酸とコバルトとの有機酸塩を挙げることができる。この有機酸塩の具体例として、酪酸塩、ヘキサン酸塩、ヘプチル酸塩、2−エチルヘキシル酸等のオクチル酸塩、デカン酸塩や、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸等の高級脂肪酸塩、安息香酸塩、トリル酸塩、キシリル酸塩、エチル安息香酸等のアルキル、アラルキル、アリル置換安息香酸塩やナフトエ酸塩、アルキル、アラルキル若しくはアリル置換ナフトエ酸塩を挙げることができる。これらのうち、2−エチルヘキシル酸のいわゆるオクチル酸塩や、ステアリン酸塩、安息香酸塩が、炭化水素溶媒への優れた溶解性のために好ましい。
【0027】
前記アルミノオキサンとしては、例えば、下記一般式(1)又は(2)で表されるものを挙げることができる。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
前記一般式(1)及び(2)中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭化水素基であり、好ましくはメチル基、エチル基であり、特に好ましくはメチル基である。また、mは、2以上、好ましくは5以上、更に好ましくは10〜100の整数である。アルミノオキサンの具体例としては、メチルアルミノオキサン、エチルアルミノオキサン、プロピルアルミノオキサン、ブチルアルミノオキサン等を挙げることができる。なかでも、メチルアルミノオキサンが好ましい。
【0031】
重合触媒には、前記コバルト化合物と前記アルミノオキサン以外に、ホスフィン化合物を含有させることが極めて好ましい。ホスフィン化合物は、重合触媒の活性化、ビニル結合構造及び結晶性の制御に有効な成分である。好適なホスフィン化合物としては、下記一般式(3)で表される有機リン化合物を挙げることができる。
P(Ar)n(R’)3-n (3)
【0032】
前記一般式(3)中、R’はシクロアルキル基又はアルキル置換シクロアルキル基であり、nは0〜3の整数であり、Arは下記一般式(4)で表される基である。
【0033】
【化3】

【0034】
前記一般式(4)中、R1、R2、及びR3は、各々同一又は異なってもよく、水素原子、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、又はアリール基である。
【0035】
前記R1、R2、及びR3におけるアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。また、前記R1、R2、及びR3におけるアルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。更に、前記R1、R2、及びR3におけるアリール基としては、炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0036】
前記一般式(3)で表されるホスフィン化合物の具体例としては、トリス(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−エチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,4−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−イソプロピルフェニル)ホスフィン、トリス(3−t−ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(3,5−ジエチルフェニル)ホスフィン、トリス(3−メチル−5−エチルフェニル)ホスフィン)、トリス(3−フェニルフェニル)ホスフィン、トリス(3,4,5−トリメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−エトキシ−3,5−ジエチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−ブトキシ−3,5−ジブチルフェニル)ホスフィン、トリ(p−メトキシフェニルホスフィン)、トリシクロヘキシルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリ(4−メチルフェニルホスフィン)、トリ(4−エチルフェニルホスフィン)等を挙げることができる。これらのうち、特に好ましいものとしては、トリフェニルホスフィン、トリス(3−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル)ホスフィン等が挙げられる。
【0037】
前記コバルト化合物としては、下記一般式(5)で表される化合物を用いることができる。
【0038】
【化4】

【0039】
前記一般式(5)で表される化合物は、塩化コバルトに対して、前記一般式(3)においてnが3であるホスフィン化合物を配位子に持つ錯体である。このコバルト化合物の使用に際しては、予め合成したものを使用してもよいし、又は重合系中に塩化コバルトとホスフィン化合物を接触させる方法で使用してもよい。錯体中のホスフィン化合物を種々選択することにより、得られるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンの1,2−結合含量、結晶化度の制御を行うことができる。
【0040】
前記一般式(5)で表されるコバルト化合物の具体例としては、コバルトビス(トリフェニルホスフィン)ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−エチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,4−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−イソプロピルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−t−ブチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジエチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メチル−5−エチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−フェニルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,4,5−トリメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−エトキシ−3,5−ジエチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−ブトキシ−3,5−ジブチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メトキシフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−ドデシルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−エチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド等を挙げることができる。
【0041】
これらのうち、特に好ましいものとしては、コバルトビス(トリフェニルホスフィン)ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3−メチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド、コバルトビス〔トリス(4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニルホスフィン)〕ジクロライド等を挙げることができる。
【0042】
ブタジエン単独重合の場合は、ブタジエン1モル当たり、共重合する場合はブタジエンとブタジエン以外の共役ジエンとの合計量1モル当たり、コバルト化合物を、コバルト原子換算で0.001〜1ミリモル触媒として使用することが好ましく、0.01〜0.5ミリモル使用することが更に好ましい。また、ホスフィン化合物の使用量は、コバルト原子に対するリン原子の比(P/Co)として、通常0.1〜50であり、0.5〜20であることが好ましく、1〜20であることが更に好ましい。更に、アルミノオキサンの使用量は、コバルト化合物のコバルト原子に対するアルミニウム原子の比(Al/Co)として、通常4〜107であり、10〜106であることが好ましい。なお、前記一般式(5)で表される錯体を用いる場合は、ホスフィン化合物の使用量がコバルト原子に対するリン原子の比(P/Co)が2であるとし、アルミノオキサンの使用量は、上記の記載に従う。
【0043】
重合溶媒として用いられる不活性有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の芳香族炭化水素溶媒、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ブタン等の脂肪族炭化水素溶媒、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒、及びこれらの混合物を挙げることができる。
【0044】
重合温度は、通常、−50〜120℃、好ましくは−20〜100℃である。重合反応は、回分式でも、連続式でもよい。なお、溶媒中の単量体濃度は、通常、5〜50質量%、好ましくは10〜35質量%である。また、重合体を製造するために、触媒及び重合体を失活させないために、重合系内に酸素、水、又は炭酸ガス等の失活作用のある化合物の混入を極力なくすような配慮が必要である。重合反応が所望の段階まで進行したら反応混合物をアルコール、その他の重合停止剤、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加し、次いで、通常の方法に従って生成重合体を分離、洗浄、乾燥すれば、シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを得ることができる。
【0045】
((B)熱可塑性重合体)
本実施形態の紫外線硬化用重合体組成物に含有される(B)成分は、熱可塑性重合体である。この(B)成分は任意成分であるが、配合すると、より柔軟にすることや耐光性を改良することができるために好ましい。
【0046】
(B)成分の具体例としては、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体の水添物、スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体の水添物、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びエチレン・アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ポリブタジエン(但し、前記(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを除く)、ポリイソプレンを挙げることができる。なかでも、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体が好ましい。これらは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
SBSの分子量に特に限定はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。SBSの市販品としては、JSR社製TR1600、TR2000、TR2003(いずれも商品名)、旭化成ケミカルズ社製タフプレン125、タフプレン126(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0048】
SEBSの分子量に特に限定はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。SEBSの市販品としては、JSR社製DYNARON8600(商品名)、クレイトン社製G1657(商品名)等を挙げることができる。
【0049】
SISの分子量に特に限定はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。SISの市販品としては、JSR社製SIS5200P、SIS5229P(いずれも商品名)、日本ゼオン社製クインタック3433(商品名)等を挙げることができる。
【0050】
SEPSの分子量に特に限定はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。SEPSの市販品としては、クラレ社製セプトンS2063、S2004(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0051】
エチレン・α−オレフィン共重合体は、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・オクテン共重合体であることが好ましい。エチレン・α−オレフィン共重合体の分子量に特に制限はないが、重量平均分子量は、好ましくは1万〜500万、更に好ましくは1万〜150万である。エチレン・α−オレフィン共重合体の市販品としては、JSR社製EP57P、EBM3041、デュポンエラストマー社製エンゲージ8200等を挙げることができる。
【0052】
ポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、超超低密度ポリエチレン(ULDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であることが好ましい。ポリエチレンの分子量に特に制限はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。ポリエチレンの市販品としては、日本ポリエチレン社製ノバテックYF30、UF340(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0053】
ポリプロピレンは、ランダムタイプのものであることが好ましい。ポリプロピレンの分子量に特に制限はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。ポリプロピレンの市販品としては、日本ポリプロ社製ノバテックBC8(商品名)等を挙げることができる。
【0054】
エチレン−酢酸ビニルコポリマーの分子量に特に制限はないが、重量平均分子量(Mw)が1万〜500万のものが好ましく、1万〜150万のものが更に好ましい。エチレン−酢酸ビニルコポリマーの市販品としては、日本ポリエチレン社製LV430、LV670(いずれも商品名)等を挙げることができる。
【0055】
エチレン・アルキル(メタ)アクリレート共重合体は、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・メチルメタアクリレート共重合体であることが好ましい。エチレン・アルキル(メタ)アクリレート共重合体の分子量に特に制限はないが、重量平均分子量は、好ましくは1万〜500万、更に好ましくは1万〜150万である。エチレン・アルキル(メタ)アクリレート共重合体の市販品としては、ARKEMA社製ロトリル20MA08、エバフレックスA704、A709等を挙げることができる。
【0056】
本実施形態の樹脂成形品を得るために用いられる重合体成分に含有される(A)成分と(B)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計を100質量部とした場合に、(A)成分が5〜100質量部、(B)成分が0〜95質量部であることが必要であり、(A)成分が10〜90質量部、(B)成分が10〜90質量部であることが好ましく、(A)成分が30〜70質量部、(B)成分が30〜70質量部であることが更に好ましい。(A)成分が5質量部未満では、電子線による架橋反応性が弱くなる。
【0057】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂成形品を得るために用いられる重合体成分には、(A)成分と(B)成分以外に、必要に応じて、着色用顔料、着色用染料、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、フィラー、オイル、発泡剤等の添加剤が含有されていてもよい。添加剤の具体例としては、フェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系の老化防止剤、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の滑剤;タルク、シリカ、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、ガラス、カーボンファイバー、ガラスバルーン等のフィラー;パラフィンオイル、シリコンオイル、エクスパンセル発泡剤(日本フィライト社取り扱いビーズ型発泡剤マイクロスフェアー)、ADCA(アゾジカルボンアミド)、OBSH(p,p'−オキシビスベンゼンスルフォニルヒドラジン)、重曹、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)等の発泡剤を挙げることができる。
【0058】
また、電子線による表面処理を調整するために、その他の添加剤を含有させることもできる。その他の添加剤としては、例えば、トリメチルプロパントリメタクリレート等の多官能モノマーを挙げることができる。これらその他の添加剤は、(A)成分の100質量部に対して、10質量部以下含有させることができる。
【0059】
(成形品の成形方法)
上述した各成分を混合し、加熱軟化させ、混練及び成形することにより、本実施形態の樹脂成形品を製造するために用いられる成形品(照射前成形品)を得ることができる。混練及び成形は、(A)成分の軟化点又は溶融温度以上の、成形性の良好な温度条件下で行うと、均質な成形品が得られるために好ましい。従って、成形温度は90〜170℃とすることが好ましい。
【0060】
成形品の成形方法には、特に制限はない。例えば、上述した各成分を混合及び混練した後、プレス成形、押出成形、射出成形、ブロー成形、異形押出成形、Tダイフィルム成形、インフレーション成形、パウダースラッシュ成形、回転成形等により、所望とする形状の成形品を得ることができる。或いは、上述した各成分を溶剤に溶解した後、基材や離型材に塗工してフィルム状又はシート状に成形することもできる。
【0061】
(電子線照射)
成形品(照射前成形品)に対して電子線を照射することにより、本実施形態の樹脂成形品を製造することができる。電子線を照射することにより、成形品を構成するシンジオタクチック1,2−ポリブタジエンが、その1,2−ビニル結合により架橋するため、耐摩耗性、表面滑り性に優れた本実施形態の樹脂成形品を得ることができる。
【0062】
電子線は、合成樹脂に対して透過性があり、その透過の程度は、成形品の厚みと、電子線の運動エネルギーに依存する。このため、厚み方向に均一に透過可能に電子線のエネルギーを調節すると、厚み方向で架橋度を均一にした樹脂成形品とすることができる。
【0063】
成形品の表面に対して照射する電子線の線量(照射線量)は、0.1〜10Mrad(SI単位系で、1〜100kGyに相当する)、好ましくは1Mrad以上、10Mrad未満、更に好ましくは2〜8Mradである。照射線量を上記範囲内とすることにより、架橋度が上がりすぎずに、全体として硬く脆くなり過ぎず、柔軟性及び耐摩耗性、表面滑り性に優れた樹脂成形品とすることができる。照射線量が0.1Mrad未満であると、成形品を十分に架橋することができず、耐摩耗性を付与することが困難となる。一方、照射線量が10Mrad超であると、架橋度が上がりすぎて柔軟性が低下して脆くなる。
【0064】
成形品の表面に対して照射する電子線の加速電圧は、10〜800kV、好ましくは50〜500kV、更に好ましくは80〜400kVである。加速電圧を上記範囲内とすることにより、架橋度が上がりすぎずに、全体として硬く脆くなり過ぎず、柔軟性及び耐摩耗性、表面滑り性に優れた樹脂成形品とすることができる。加速電圧が10kV未満であると、成形品を十分に架橋することができず、耐摩耗性を付与することが困難となる。一方、加速電圧が800kV超であると、架橋度が上がりすぎて柔軟性が低下して脆くなる。
【0065】
上述のようにして得られる本実施形態の樹脂成形品は、優れた柔軟性を有するものであり、引張試験により測定される破断伸びが300%以上であり、DIN摩耗試験による測定される摩耗容積が350cc以下である。引張試験により測定される破断伸びは、好ましくは300%以上であり、更に好ましくは400%以上であり、特に好ましくは500%以上である。DIN摩耗試験により測定される摩耗容積は、好ましくは350cc以下、更に好ましくは300cc以下、特に好ましくは250cc以下である。なお、本明細書にいう「破断伸び」は「JIS−K6251に準拠した引張試験」により測定される物性値であり、「摩耗容積」は「JIS−K6264に準拠したDIN摩耗試験」により測定される物性値である。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、各種物性値の測定方法を以下に示す。
【0067】
[硬度(デュロメーターA型)]:ASTM D−2240に準拠して測定した。
【0068】
[100%応力]:JIS−K6251に準拠して測定した。
【0069】
[破断強度、破断伸び]:JIS−K6251に準拠して測定した。
【0070】
[DIN摩耗試験]:JIS−K6264に準拠して測定した。
【0071】
[静摩擦係数]:東測精密工業社製のフィルム摩擦係数測定機(AFT−15−1)を使用して測定した。
【0072】
(実施例1)
シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン(商品名「RB820」、JSR社製、1,2−ビニル結合含量:92%、結晶化度:25%)を射出成形することにより、厚さ2.0mmのシートを得た。得られたシートの一方の表面に対し、電子線照射装置(商品名「B250/30/180L」、岩崎電気社製)を使用して、照射線量2Mrad、加速電圧300kVで電子線を照射し、シート状の樹脂成形品を得た。得られた樹脂成形品の、電子線照射面側の硬度(デュロメーターA型)は91、100%応力は7.4MPa、破断強度は13MPa、破断伸びは590%、並びにDIN摩耗試験により測定される、電子線照射面の摩耗容積は300cc、同じく電子線照射面の静摩擦抵抗値は0.75であった。
【0073】
(実施例2〜6、比較例1〜4)
表1に示す配合処方、及び電子線の照射条件とすること以外(但し、比較例1、2については、電子線を照射していない)は、前述の実施例1と同様にして、シート状の樹脂成形品を得た。得られたそれぞれの樹脂成形品の各種物性値を表1に示す。なお、表1の記載中、「SIS5229P」は、JSR社製のスチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(スチレン量:15%、重量平均分子量(Mw):22万)の商品名である。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、実施例1〜6の樹脂成形品は、比較例1〜4の樹脂成形品に比べて、十分な柔軟性を保ちながらも優れた耐摩耗性、表面滑り性を有するものであることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の樹脂成形品は、柔軟性及び耐摩耗性に優れたものであり、フィルム、シート、チューブ、ホース、靴底として各種用途に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン5〜100質量部、及び
(B)熱可塑性重合体0〜95質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)、
を含有する重合体成分からなる成形品の表面に、
照射線量が0.1〜10Mrad、加速電圧が10〜800kVの電子線を照射することによって得られる樹脂成形品。
【請求項2】
引張試験により測定される破断伸びが300%以上であり、DIN摩耗試験による測定される摩耗容積が350cc以下である請求項1に記載の樹脂成形品。
【請求項3】
前記(B)熱可塑性重合体が、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体の水添物、スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体の水添物、エチレン・α−オレフィン共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体及びエチレン・アルキル(メタ)アクリレート共重合体、ポリブタジエン(但し、前記(A)シンジオタクチック1,2−ポリブタジエンを除く)、ポリイソプレンからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1又は2に記載の樹脂成形品。
【請求項4】
フィルム、シート、チューブ、ホース、又は靴底である請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂成形品。
【請求項5】
(A)1,2−ビニル結合含量が70%以上、結晶化度が5〜50%であるシンジオタクチック1,2−ポリブタジエン5〜100質量部、及び
(B)熱可塑性重合体0〜95質量部(但し、(A)+(B)=100質量部)、
を含有する重合体成分からなる成形品の表面に、
照射線量が0.1〜10Mrad、加速電圧が10〜800kVの電子線を照射することにより樹脂成形品を得ることを含む樹脂成形品の製造方法。

【公開番号】特開2007−161777(P2007−161777A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356771(P2005−356771)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】