説明

樹脂材料の溶融押出装置およびその溶融押出方法

【課題】 樹脂材料を溶融押出する際に押出機の原料供給口の入口から直下までの領域にかけて加熱帯域を設けることに特に着目して、安定して前記樹脂材料を該押出機に連続供給し噛込み性を円滑にさせるとともに、例え小径スクリューを用いたとしても良好な吐出安定性を与える溶融押出装置および溶融押出方法を提供する。
【解決手段】 単軸スクリュー式押出機を有する溶融押出装置において、該押出機の原料供給口入口から該原料供給口の直下までの領域にかけて、その一部または全部に加熱温度を規定した加熱帯域を設け、かつ前記押出機のスクリュー径(D)を規定することを特徴とする樹脂材料の溶融押出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融押出装置およびその溶融押出方法に関し、さらに詳しくは単軸スクリュー式エクストルダー型押出機において、原料供給部の周囲に加熱帯域を設けることにより、安定して樹脂材料の溶融押出をすることが可能な樹脂材料の溶融押出装置およびその溶融押出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の合成繊維の生産は一昔前の多量少品種生産から、更なる高付加価値を付与すべく少量多品種生産へ移行しているのが現状である。そのため生産設備においても、前記少量多様化を反映すべく多量生産用設備からスケールダウンした設備が据え付けられている。
【0003】
例えば、溶融押出方法の構成として、エクストルダー型紡糸機を用いることは公知であるが、少量化つまりは低吐出容量化に対応するためには、小径化のスクリューを有する押出機を用いる必要がある。
【0004】
一般的な前記エクストルダー型紡糸機の溶融押出方法を図1を参照しながら説明すると、溶融押出の原料となる樹脂材料Tをエクストルダー本体1の供給部であるバレル2に供給し、該エクストルダー内部に有するスクリュー3の回転に伴って樹脂材料Tが供給押進され、加熱帯ヒータ4からの加熱および樹脂材料T同士の摩擦発熱等によりシリンダー5内にて圧縮溶融され、以後計量されて溶融ポリマーPとして先端で押出しが施されるものである。その中で上述したバレル内壁部の構成要素および形状は、溶融押出において吐出圧力の変動および吐出量の安定性等の現象に影響を及ぼす重要なパラメータであり、さらに詳しくは前記現象を発生させる原料の円滑移送(噛込み性能)を支配するパラメータといっても過言ではない。そして前記パラメータは押出機内のスクリューが小径化されるにつれてより一層顕著になるものである。そのような状況の中、良好な原料の円滑移送(噛込み)性能の向上を図るべく下記のような解決手段がとられている。
【0005】
例えば、スクリューの少なくともフィード部(原料供給部)に相当するバレルの内面に凹溝を設けて該凹溝にバレル内面よりも摩擦係数の大きい材料を充填し、供給材料とバレル内面との摩擦力を増大させ、フィード部での供給材料の前進作用を向上させるだけでなく噛込み性能を向上させることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら上記提案は、バレル内面に加工溝を施し充填材を硬化塗布するのにコスト高となるだけでなく、充填材の摩擦係数が大きすぎると反対に摩耗が経時的に進行してしまい、該充填材のメンテナンス(再加工、再塗布)の頻度が高くなり、結果、生産性が低下してしまう懸念がある。
【0006】
また、一方でバレル内面周壁にスクリュー回転方向ならびに軸方向に延伸する凹溝を設けることで、樹脂材料を安定して連続供給できる方法が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、本手法は、確かにバレル内壁とスクリュー供給部間の噛込み容積を拡大しているため原料は入りやすいが、小径スクリューを使用し、また粒度が大なる樹脂材料を溶融押出する場合には、該樹脂材料が過剰に供給されてスクリューの回転抵抗が過大となり、スクリューを駆動させるモータの電流値が高くなって(モータトリップして)しまい、安定した生産性に支障をきたしてしまう恐れがある。
【特許文献1】特開平02−297403号公報
【特許文献2】特開昭53−022562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の欠点に鑑みてなされたもので、樹脂材料を溶融押出する際に押出機の原料供給口の入口から直下までの領域にかけて加熱帯域を設けることに特に着目して、安定して前記樹脂材料を該押出機に連続供給し噛込み性を円滑にさせるとともに、例え小径スクリューを用いたとしても良好な吐出安定性を与える溶融押出装置および溶融押出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)単軸スクリュー式押出機を有する溶融押出装置において、該押出機の原料供給口入口から該原料供給口の直下までの領域にかけて、その一部または全部に下記(a)の加熱帯域を設け、かつ前記押出機のスクリュー径(D)が下記(b)を満足することを特徴とする樹脂材料の溶融押出装置。
Tg+30≦Tp≦Tg+110 ・・・(a)
ただし、Tg:樹脂材料のガラス転移点温度[℃]、Tp:加熱帯域温度[℃]
20≦D≦30 ・・・(b)
ただし、D[mm]:スクリュー径
(2)前記押出装置の原料供給口に供給される樹脂材料の安息角(θ)が下記(c)を満足することを特徴とする前記(1)記載の樹脂材料の溶融押出装置。
25≦θ[deg]≦45 ・・・(c)
(3)前記前記(1)または(2)に記載の溶融押出装置を用いて樹脂材料を溶融押出しすることを特徴とする樹脂材料の溶融押出方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、押出機の原料供給口の入口から直下までの領域にかけて加熱帯域を設けることで、原料となる樹脂材料が前記押出機内のスクリューに供給される途中に加熱されて、該樹脂材料同士および該材料とバレル表層面そして該材料とスクリュー表面との摩擦係数を変化させて、結果、該樹脂材料の供給能力が向上するために、圧力変動の抑制および良好な吐出安定性を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0011】
本発明におけるエクストルダー型押出機の単軸スクリューの種類としては、例えば単螺旋状を有するスクリューやスクリュー圧縮部等に多条螺旋を設けたスクリュー等が挙げられるが、これらに何ら限定されるものではない。また、押出機内のスクリュー部と原料供給部とのバレル内部構成(ハウジング構成)は、図2に示すがごとく、押出機直上面(図1 X方向)からみた時にスクリュー軸芯と対称であり、加えて図3に示すがごとく、押出機をスクリュー正面(図1 Y方向)からみた時にも、スクリュー軸芯垂直線に対称な構成となっているものが好ましい。
【0012】
本発明にて用いられる樹脂材料は、例えばポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系とかナイロン6および66などのポリアミド系、その他ポリアクリロニトリル系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系そしてポリウレタン系といった合成繊維の主原料となるものが挙げられるが、加えてこれらの共重合体などを用いても差し支えはない。
【0013】
これらの樹脂材料を単軸スクリュー式押出機の原料供給口部分に加熱帯域を設けて溶融押出を図るのであるが、前記原料供給口に設置する加熱帯域は、図4に示すがごとく、原料供給口筒の周壁部、または図5に示すがごとく、スクリューの少なくとも原料供給部に相当するバレルの内面周壁に沿って設置してもよい。
【0014】
さらに、溶融押出において効力を発揮するのは、前記押出機内シリンダーと原料供給部とのハウジング寸法が小さくなる小径スクリュー型押出機を用いる場合で、図7に示す通り該スクリュー径をφD[mm]とすると、20≦D≦30が有効であり、さらに好ましくは20≦D≦25である。D>30の時は、前記押出機の原料供給口の周囲に加熱帯域を設けてることを規制するまでもなく樹脂材料の噛込み性は安定しており、とりわけ新規的な発明効果は薄い。一方でD<20の時は、該樹脂材料同士、および該材料とバレル表層面、そして該材料とスクリュー表面などの摩擦係数を変化させて噛み込み性能を向上させる方法よりも、樹脂材料の形状や大きさとスクリューの溝深さや圧縮比等の諸元値との関係が噛み込み性能に大きく依存し、上記期待効果は薄くなる。
【0015】
また、前記溶融押出装置にて溶融押出を施す際には、樹脂材料のガラス転移点温度をTg[℃]として、加熱帯域の温度Tpを[℃]Tg+30≦Tp≦Tg+110に設定して溶融押出を図ることが望ましいが、さらに好ましくは、Tg+50≦Tp≦Tg+90の場合である。ここで樹脂材料のガラス転移点温度Tg[℃]とは、非結晶性重合体または部分結晶性重合体の非結晶領域における粘性状態またはゴム状態から(へ)硬質でかつ比較的もろい状態への可逆的変化が行われる温度範囲のほぼ中間点の温度(JIS K6900−1994)であり、例えばポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系では約70[℃]であり、ナイロン6および66などのポリアミド系では約50[℃]のガラス転移温度を有する。そこで加熱帯域の温度TpがTg+30[℃]未満の時には、供給される樹脂材料に十分な熱が付与されず該樹脂材料自体の表面の摩擦係数を変化させることができなく、噛込み不良が発生する。一方、前記温度TpがTg+110[℃]より大きくなれば、加熱帯ヒータの温度にも依存して、スクリューに供給される樹脂材料の溶融開始ポイントが早まると同時に滞留時間が長くなって溶融ポリマーの熱劣化を生じてしまう。
【0016】
また、本溶融押出方法にて用いる樹脂材料の安息角θは、25°≦θ≦45°であることが望ましいが、さらに好ましくは30°≦θ≦40°である。一般に安息角θは樹脂材料の流動性ならびに摩擦係数を示すパラメータであり、安息角θが大きくなる程、材料樹脂同士の摩擦係数が大きく流動性は悪くなるのである。したがって、安息角θがθ≧25°の時は、材料樹脂が加温されることにより、最適な摩擦係数となって本発明の効力を発揮する。一方、θ>45°と安息角が大なる場合は、該樹脂材料同士の摩擦係数は高くなり、噛込み性能が向上するために、加熱帯を設けなくとも円滑に行われる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。図6に示すがごとく単軸スクリュー式エクストルーダ型紡糸機のバレルの内面周壁部に加熱ヒータ41を設け加温し、樹脂材料をホッパーを介して供給したのち、3ゾーンから成立する加熱帯ヒータ4にて溶融(供給部:285[℃]、圧縮部:280[℃]、計量部:285[℃])し、スクリューにて計量、押出しを施した。
【0018】
また吐出圧力を設けるために、スクリュー先端部に一定の孔径を有するダイブロック6と該ダイブロックの孔径方向に対して流出するポリマーを妨げる絞り弁7を設け、該絞り弁を調整することで吐出圧力(80[kgf/cm])を発生させ、押出しテストを実施した。該押出しテストにおける実施例および比較例中の各特性値は次の方法で判断した。
[チップ安息角θの測定]
チップの安息角θを測定するにあたっては、JIS R 9301−2−2(2004年度)に従って測定した。
[圧力変動]
各目標圧力設定値に対し1時間程度押出しを施し、チャートに圧力(変動)値を採取して該目標圧力設定値に対する変動量の割合R[%]を以下に示す3段階で評価した。
【0019】
○:「優れている」(R=〜10[%]未満)
△:「普通」 (R=10〜20[%]未満)
×:「劣っている」(R=20[%]〜)
[吐出安定性]
上述通り1時間程度押出しを施している最中に数回溶融ポリマーの吐出量を計測し、目標吐出量に対する吐出変動量の割合Rq[%]を以下に示す3段階で評価した。
【0020】
○:「優れている」(Rq=〜5[%]未満)
△:「普通」 (Rq=5〜10[%]未満)
×:「劣っている」(Rq=10[%]〜)
[噛込み性]
上述同様に押出しテストを施している最中に、チップ供給口のホッパー下部でのチップの減り具合を目視で確認した結果を3段階評価した。
【0021】
○:「極めて円滑に減る」
△:「普通」
×:「ほとんど減らない」
[溶融ポリマーの熱劣化性]
溶融ポリマーをo−クロロフェノールに溶解し、25[℃]恒温下でオストワルド式粘度計にて固有粘度を測定し、以下に示す2段階で評価した。
【0022】
○:「熱劣化なし(固有粘度に変化なし)」
×:「熱劣化あり(固有粘度に変化有り)」
[総合評価]
圧力変動および吐出安定性、噛込み性、ポリマーの熱劣化性を加味した上で、以下に示す3段階で総合評価を実施した。尚、評価判定は、○〜△を合格(採用可能)としている。
【0023】
○:「優れている」(採用可能)
△:「普通」 (採用可能)
×:「劣っている」(採用不可能)
実施例1〜3、比較例1、2
樹脂材料の安息角θが30°で、押出機の原料供給部位の加熱ヒータ温度Tpが120[℃]にて、スクリュー径Dを検討した結果を表1に示す。比較例2では、さらに加熱ヒータ温度を上記120[℃]とオフ(加熱しない)の状態で調査したが、噛み込み性能としては、加熱ヒータ有無の差は特になかったので、総合評価は×(劣っている)とした。
尚、本実施に用いた樹脂材料形状は、楕円柱タイプのポリエステルチップであり、ガラス転移点温度Tgは約70[℃]である。
【0024】
実施例4〜11、比較例3〜6
スクリュー径Dが25[mm]で、樹脂材料の安息角θが40°にて、材料樹脂はポリエステルチップ(Tg:70[℃])ならびにナイロン66チップ(Tg:50[℃])を用いて、加熱ヒータ温度Tpを検討した結果を表2に示す。該加熱ヒータ温度Tpを高くするにつれて噛込み性については問題ないが、材料樹脂の溶融開始ポイントが早まると同時に滞留時間が長くなって溶融ポリマーが熱劣化を生じてしまい、品質面で好ましくなかったために、総合評価は×(劣っている)とした。
【0025】
実施例12〜15
スクリュー径Dが25[mm]で、押出機の原料供給部位の加熱ヒータ温度Tpが120[℃]にて、樹脂材料の安息角θを検討した結果を表3に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るエクストルーダ型紡糸機を例示した概略図
【図2】本発明に係るバレル内部構成であり、押出機直上面からみた時の概略図
【図3】本発明に係るバレル内部構成であり、押出機正面からみた時の概略図
【図4】本発明に係る押出機の原料供給口の入口部に加熱帯域を設けた一例を示した概略図であり、(A)は上面図であり、(B)は正面図。
【図5】本発明に係る押出機の原料供給口の直下部に加熱帯域を設けた一例を示した概略図であり、(A)は正面図であり、(B)は上面図。
【図6】本発明に係る押出しテスト装置の実施形態を例示した概略図
【図7】本発明に係るスクリューを例示した概略図
【符号の説明】
【0030】
1:エクストルダー本体
2:バレル
3:スクリュー
4:加熱帯ヒータ
41:加熱ヒータ
5:シリンダー
6:ダイブロック
7:絞り弁
T:樹脂材料
P:溶融ポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単軸スクリュー式押出機を有する溶融押出装置において、該押出機の原料供給口入口から該原料供給口の直下までの領域にかけて、その一部または全部に下記(a)の加熱帯域を設け、かつ前記押出機のスクリュー径(D)が下記(b)を満足することを特徴とする樹脂材料の溶融押出装置。
Tg+30≦Tp≦Tg+110 ・・・(a)
ただし、Tg:樹脂材料のガラス転移点温度[℃]、Tp:加熱帯域温度[℃]
20≦D≦30 ・・・(b)
ただし、D[mm]:スクリュー径
【請求項2】
押出装置の原料供給口に供給される樹脂材料の安息角(θ)が下記(c)を満足することを特徴とする請求項1記載の樹脂材料の溶融押出装置。
25≦θ[deg]≦45 ・・・(c)
【請求項3】
請求項1または2に記載の溶融押出装置を用いて樹脂材料を溶融押出しすることを特徴とする樹脂材料の溶融押出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−100224(P2007−100224A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287810(P2005−287810)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】