説明

樹脂用難燃剤及び難燃性樹脂組成物

【課題】難燃性に優れるとともに高い耐光性を維持できる樹脂用難燃剤及び該樹脂用難燃剤を配合してなる難燃性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ハロゲン系難燃剤の表面を、紫外線遮蔽性を有する無機粒子で被覆してなる樹脂用難燃剤とする。樹脂用難燃剤が、熱可塑性樹脂からなるベース樹脂に配合されてなる難燃性樹脂組成物とする。無機粒子としては、酸化チタンと酸化亜鉛のいずれか一方、或いは両方を含有するものが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂用難燃剤及び樹脂用難燃剤を配合してなる難燃性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、従来からリサイクル性や成形性を有し、さらに意匠性、寸法安定性、機械的強度等に優れることから、電子部品などの各種デバイス材料や、自動車、家電製品の構造体の部材、建築材料等の幅広い分野の各種用途に利用されている。熱可塑性樹脂は通常燃え易い性質を有するため、難燃性を要求される用途では難燃剤の添加による難燃化が行われており、難燃剤のなかでも比較的安価で難燃効果の高いハロゲン系難燃剤が広く用いられている。
【0003】
しかしながら、ハロゲン系難燃剤を用いた場合、特に、太陽光や蛍光灯の光により成形品に黄変が生じやすく、外観を著しく損なうという問題がある。
【0004】
そのため、特表2004−517170号公報(特許文献1)、特開2002−322322号公報(特許文献2)に示されるように難燃性樹脂組成物に光遮断剤やUV遮蔽体を配合することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−517170号公報
【特許文献2】特開2002−322322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2の難燃性樹脂組成物は、樹脂組成物全体に光遮断剤やUV遮蔽剤を配合するものであり、ハロゲン系難燃剤の黄変を直接的に防止しているものではなく、耐光性を十分に向上できない問題がある。また、有機系耐光剤を配合する場合は、熱や経時変化により耐光剤の分解が起こるため、耐光性を長期に亘り持続できない問題がある。
【0007】
本発明は、前記背景技術に鑑みてなしたものであり、難燃性に優れるとともに高い耐光性を維持できる樹脂用難燃剤及び該樹脂用難燃剤を配合してなる難燃性樹脂組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は、ハロゲン系難燃剤の表面を、紫外線遮蔽性を有する無機粒子で被覆してなる樹脂用難燃剤を提供している。
【0009】
この樹脂用難燃剤において、無機粒子が、酸化チタンと酸化亜鉛のいずれか一方、或いは両方を含有することが好ましい。
【0010】
この樹脂用難燃剤において、無機粒子の平均粒子径はハロゲン系難燃剤の平均粒子径の0.1%以上20%以下であることが好ましい。
【0011】
この樹脂用難燃剤において、ハロゲン系難燃剤の平均粒子径が0.1μm〜10μmであることが好ましい。
【0012】
この樹脂用難燃剤において、無機粒子はシランカップリング剤をバインダーとして、ハロゲン系難燃剤を被覆してなることが好ましい。
【0013】
また、本発明はこの樹脂用難燃剤が、熱可塑性樹脂からなるベース樹脂に配合されてなる難燃性樹脂組成物を提供している。
【0014】
この難燃性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリル・アクリロニトリル・スチレン樹脂(AAS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、ポリアミド樹脂からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0015】
この難燃性樹脂組成物において、ハロゲン系難燃剤の融点がベース樹脂の融点よりも30℃以上高いことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の樹脂用難燃剤は、紫外線遮蔽性を有する無機粒子でハロゲン系難燃剤を直接被覆しているので、耐光性に優れ、従来のハロゲン系難燃剤で生じていた太陽や蛍光灯等の光による変色を大幅に抑制することができる。また、無機粒子でハロゲン系難燃剤を被覆するものとしているので、有機系の紫外線吸収剤を用いた場合のように、混合や成形時の加熱や酸化、経時劣化による紫外線遮蔽性の低下がなく、確実にハロゲン系難燃剤の変色を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の樹脂用難燃剤の構造を示す断面模式図。
【図2】本発明の樹脂用難燃剤の他の構造を示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態により、本発明を説明する。
【0019】
本発明の樹脂用難燃剤は、ハロゲン系難燃剤の表面を紫外線遮蔽性を有する無機粒子で被覆してなる構造を有している。
【0020】
本発明の樹脂用難燃剤に用いられるハロゲン系難燃剤としては、ハロゲンを含有する難燃剤であれは特に限定されず、塩素、臭素等のハロゲン元素を含む各種難燃剤を用いることができる。例えば、臭素系難燃剤としては、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネートオリゴマー、臭素化エポキシオリゴマー、エチレンビステトラブロムフタルイミド(EBTB)、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等を好適に用いることができる。
【0021】
紫外線遮蔽性を有する無機粒子は、紫外線領域(波長200〜400nm)の光を遮蔽することができる無機粒子を示す。このような無機粒子としては、紫外線領域(波長200〜400nm)の光を吸収する無機粒子であれば種々のものを用いることができる。このとき、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタンを含有させると、特に300〜380nmの波長域における紫外線吸収能を向上することができ、また酸化鉄を含有させた場合には特に370〜405nmの波長域における紫外線吸収能を向上することができる。
【0022】
紫外線遮蔽性を有する無機粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄のほか、これらの複合物等も用いることができる。なかでも、高い紫外線遮蔽性を有することから、酸化チタン、酸化亜鉛を好適に用いることができる。
【0023】
酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型のいずれの結晶構造のものを用いることもできるが、ルチル型のものを用いることが好ましい。それは、酸化チタンを含有する金属酸化物の結晶構造をアナターゼ型に代えてルチル型にすることによって耐候性や耐光性がより向上し、かつアナターゼ型の結晶よりもルチル型の結晶の方が屈折率は高いので、光を散乱でき、高い紫外線遮蔽性が得られるからである。
【0024】
本発明の樹脂用難燃剤において、無機粒子の平均粒子径はハロゲン系難燃剤の平均粒子径の20%以下の範囲とするのが好ましい。これは、無機粒子の平均粒子径がハロゲン系難燃剤の平均粒子径の20%以下であると、難燃剤の被覆効果が大きく、耐候性を向上させることができるからである。さらに好ましくは、無機粒子の平均粒子径はハロゲン系難燃剤の平均粒子径の10%以下である。一方、無機粒子の必要添加量を増大させないため、無機粒子の平均粒子径はハロゲン系難燃剤の平均粒子径の0.1%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは1%以上である。
【0025】
具体的には、ハロゲン系難燃剤の平均粒子径は0.1μm〜10μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜1μmであることが更に好ましい。ハロゲン系難燃剤の平均粒子径が0.1μm以上であると、難燃剤を完全に被覆するための無機粒子の必要添加量を増大させないようにすることができる。また、難燃剤の平均粒子径が10μm以下であると、難燃効果が得られ、難燃剤の必要量を過度に増大させることがない。なお、本願明細書において、平均粒子径はSEM観察による視野内の粒子200個の平均粒子径(数平均)を示す。
【0026】
一方、紫外線遮蔽性を有する無機粒子の平均粒子径は0.001〜0.5μmの範囲内であることが好ましく、0.01〜0.1μmであることが更に好ましい。無機粒子の平均粒子径が0.001μm以上であると紫外線の遮蔽効果を得ることができる。また無機粒子の平均粒子径が0.5μm以下であるとハロゲン系難燃剤に対する平均粒子径のバランスを適切に保ち、難燃剤の被覆効果を得ることができる。なお、ハロゲン系難燃剤及び無機粒子の形状は球状に限定されない。
【0027】
無機粒子の添加量は、ハロゲン系難燃剤100質量部に対し、通常、5〜100質量部であり、より好適には10〜50質量部である。これは5質量部以上であるとハロゲン系難燃剤の表面を無機粒子で完全に被覆することができるため、十分な耐候性を得ることができ、100質量部以下とすると無機粒子が過剰量となることはなく、成形性を得ることができる。
【0028】
また、紫外線遮蔽性を有する無機粒子とハロゲン系難燃剤とのバインダーとしてシリル化剤、さらにはシランカップリング剤が配合されていることが好ましい。シランカップリング剤は、空気中の水分で加水分解・重合してSi系無機化合物となる。
【0029】
シランカップリング剤としては、下記一般式(1)で示される4官能性アルコキシシラン、下記一般式(2)で示される3官能性アルコキシシラン、下記一般式(3)で示される2官能性アルコキシシラン、下記一般式(4)で示される1官能性アルコキシシラン等を用いることができる。
Si(OR)4 (1)
1Si(OR)3 (2)
12Si(OR)2 (3)
123Si(OR) (4)
式(1)乃至(4)中のRは1価の炭化水素基であれば特に限定されないが、炭素数1〜8の1価の炭化水素基が好適であり、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ペプチル基、オクチル基等のアルキル基を例示することができる。これらアルキル基のうち、炭素数が3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基等のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。また、式(2)乃至(4)中のR1〜R3は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ペプチル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基の他に、例えばγ−グリシドキシプロピル基等も例示される。
【0030】
一般式(1)で示される4官能性アルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン等を例示することができる。
一般式(2)で示される3官能性アルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリ−t−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等を例示することができる。
一般式(3)で示される2官能性アルコキシシランとしては、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジ−n−プロポキシシラン、ジフェニルジイソプロポキシシラン、ジフェニルジ−n−ブトキシシラン、ジフェニルジ−t−ブトキシシラン、ビス(2−エチルヘキシル)ジメトキシシラン、ビス(2−エチルヘキシル)ジエトキシシラン等を例示することができる。
一般式(4)で示される1官能性アルコキシシランとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリ−n−プロピルメトキシシラン、トリ−n−プロピルエトキシシラン、トリ−n−ブチルメトキシシラン、トリ−n−ブチルエトキシシラン、トリイソブチルメトキシシラン、トリイソブチルエトキシシラン、トリシクロヘキシルメトキシシラン、トリシクロヘキシルエトキシシラン等を例示することができる。なお、これらのアルコキシシランは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0031】
シリル化剤の加水分解基としては、前述したアルコキシル基の部分が、アセトキシ基、オキシム基(−O−N=C−Ra(Rb))、エノキシ基(−O−C(Ra)=C(Rb)Rc)、アミノ基、アミノキシ基(−O−N(Ra)Rb)、アミド基(−N(Ra)−C(=O)−Rb)(これらの基においてRa、Rb、Rcは、例えばそれぞれ独立に水素原子又は一価の炭化水素基等である)や、ハロゲン等に置換されたものを用いてもよい。
【0032】
シリル化剤の配合量は、紫外線遮蔽性を有する無機粒子100質量部に対して2〜200質量部が好ましく、5〜100質量部がさらに好ましく、5〜50質量部が最も好ましい。配合量を無機粒子100質量部に対して2質量部以上とするとシリル化剤を配合することによる難燃剤の被覆構造の強度を高める効果を得ることができ、100質量部以下とすると無機粒子に対するシリル化剤の割合を適切にすることができ、紫外線遮蔽性を得ることができる。
【0033】
本発明の樹脂用難燃剤は、例えば、次の方法で作製することができる。
ハロゲン系難燃剤をタンブラーミキサー、ドラムミキサー、ヘンシェルミキサー、ボールミル、遊星ミル等の混合装置に投入し、紫外線遮蔽性を有する無機粒子を投入して、さらに混合し、ハロゲン系難燃剤を無機粒子で被覆する。このようにして得られる樹脂用難燃剤1は、図1の模式図に示すように、ハロゲン系難燃剤2が紫外線遮蔽性を有する無機粒子3で被覆されている構造となる。ハロゲン系難燃剤は混合装置に投入する前にビーズミル等の粉砕装置で粉砕しておいてもよいし、所望の粒子径とされた市販品を用いてもよい。
【0034】
無機粒子を投入する際には、シランカップリング剤をバインダーとして配合することが好ましい。すると、図2の模式図に示すように、ハロゲン系難燃剤2と無機粒子3をシランカップリング剤4で結着させた構成の難燃性樹脂組成物1−2となり、ハロゲン系難燃剤2の表面に紫外線遮蔽性を有する無機粒子3を強固に担持させることができる。すると、樹脂に混練されても被覆構造が壊れにくくなるので、耐候性を確実に向上させることができる。なお、シリル化剤4を配合しなくても、図1のように静電気力でハロゲン系難燃剤の表面を無機粒子で被覆することもできる。
【0035】
このようにして得られた樹脂用難燃剤は、ベース樹脂に配合され、難燃性樹脂組成物とすることができる。樹脂用難燃剤は、ハロゲン系難燃剤の添加量換算として、ベース樹脂100質量部に対して通常3〜40質量部としており、4〜20質量部がさらに好ましい。これはハロゲン系難燃剤の配合量が3質量部以上とすると難燃効果を得ることができ、40質量部以下とすると成形性などの特性を低下させることがないからである。ベース樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のどちらを用いてもよいが、成型やリサイクルが容易である等の理由から、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0036】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリル・アクリロニトリル・スチレン樹脂(AAS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン等の脂肪族ナイロン、芳香族ナイロン等のようなポリアミド樹脂等を好適に用いることができる。
【0037】
なかでも、耐熱性や強度が要求される用途に用いる場合には、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート等のエンジニアリングプラスチックや、ポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができる。
【0038】
なお、前記ベース樹脂、樹脂用難燃剤のほかに、本発明の効果を損なわない限りにおいて、フィラー、顔料、染料、酸化防止剤、可塑剤等の各種樹脂用添加剤を混合しても構わない。
【0039】
前記樹脂用難燃剤を用いる難燃性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。例えば、各成分を計量後、ブレンダー、ミキサー等で混合し、押出機にて溶融混練してペレット化し、ペレット状の難燃性樹脂組成物とした後に成形機に投入して成形してもよいし、ペレット化せずにそのまま成形機に投入して成形してもよい。成形機としては、通常広く用いられている熱可塑性樹脂の成形機、射出成形機、射出圧縮成形機等を使用し、所望の形状に成形される。
【0040】
難燃性樹脂組成物において、樹脂用難燃剤のハロゲン系難燃剤の融点は、ベース樹脂の融点よりも30℃以上高いことが好ましく、さらに50℃以上高いことが好ましい。ハロゲン系難燃剤の融点が、ベース樹脂の融点よりも30℃以上高いと、ハロゲン系難燃剤をベース樹脂と溶融混合する際に、ハロゲン系難燃剤を溶融させず、前記樹脂用難燃剤の被覆構造を維持したままで、ベース樹脂に混合することができる。例えば、熱可塑性樹脂として融点が約210℃であるポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いる場合、ハロゲン系難燃剤に求められる融点としては240℃以上、好ましくは260℃以上である。
尚、紫外線遮蔽性を有する無機粒子は、ベース樹脂の溶融温度よりも大幅に融点が高いため、樹脂の溶融混練の際に溶融することはない。なお、ベース樹脂や難燃剤の劣化や変質を防ぐため、ベース樹脂の融点+20℃以下で混合することが好ましい。
【0041】
本発明の難燃性樹脂組成物は、難燃性が要求される各種樹脂成形品の成形用とでき、その用途は限定されない。なかでも、高い難燃性と耐候性が要求される、給電部品などの照明部材等に好適に用いることができる。
【0042】
本発明の樹脂用難燃剤は、紫外線遮蔽性を有する無機粒子でハロゲン系難燃剤を被覆した構造としているので、耐光性に優れる。そのため、従来のハロゲン系難燃剤で生じていた太陽光や蛍光灯の光等の光による変色を大幅に抑制することができる。
【0043】
特に、紫外線遮蔽性を有する無機粒子として、酸化チタンと酸化亜鉛のいずれか一方、或いは両方を用いると、紫外線遮蔽性に優れるので、確実に難燃剤の変色を防止することができる。
【0044】
また、この樹脂用難燃剤において、特に、紫外線遮蔽性を有する無機粒子の平均粒子径をハロゲン系難燃剤の平均粒子径の0.1%以上20%以下とすると、ハロゲン系難燃剤の露出を抑えて無機粒子による十分な被覆効果を得ることができ、十分な耐候性を備えるものとすることができる。さらに、ハロゲン系難燃剤を被覆するための無機粒子の必要添加量を過剰に増やさないようにすることができる。
【0045】
また、この樹脂用難燃剤において、特に、ハロゲン系難燃剤の平均粒子径を0.1μm〜10μmとすると、樹脂に混合される場合の分散性を確保することができる。
【0046】
また、この樹脂用難燃剤において、特に、無機粒子はシリル化剤をバインダーとして、ハロゲン系難燃剤を被覆するようにすると、無機粒子を確実にハロゲン系難燃剤の表面に固着し、確実に耐光性を向上させることができる。
【0047】
さらに、この樹脂用難燃剤を配合した難燃性樹脂組成物においては、従来生じていた太陽光や蛍光灯の光によるハロゲン系難燃剤の変色に起因する樹脂組成物及びこれを用いた成形品の変色を抑制することができる。
【0048】
この難燃性樹脂組成物において、特に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリル・アクリロニトリル・スチレン樹脂(AAS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、ポリアミド樹脂からなる群から選択される1種以上である熱可塑性樹脂をベース樹脂とすると、取り扱い性に優れる。
【0049】
この難燃性樹脂組成物において、特に、ハロゲン系難燃剤の融点はベース樹脂の融点よりも30℃以上高いものとすると、ベース樹脂へ混合されてもハロゲン系難燃剤の被覆構造を確実に維持したまま、樹脂組成物を得ることができる。
【0050】
次に本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0051】
(実施例1)
あらかじめビーズミル(寿工業製「アペックスミル」)にて微粉砕したエチレンビステトラブロモフタルイミド臭素系難燃剤(EBTB:アルベマール社製「BT93W」:平均粒子径0.5μm、融点300℃)14質量部に、テトラエトキシシラン(TEOS:信越シリコーン社製「LS−2430」0.8質量部、紫外線遮蔽性を有する無機粒子である酸化チタン(石原産業社製「TTO−55」、ルチル型:平均粒子径40nm)5.2質量部をボールミル(セイワ技研社製「BM−10」)にて80℃、60分間混合処理することにより、難燃剤の被覆を行い、樹脂用難燃剤を得た。
【0052】
次いで、二軸混練装置を用い、220℃にて熱可塑性樹脂であるポリブチレンテレフタレート(PBT:ポリプラスチックス社製「PBT2002」100質量部に得られた樹脂用難燃剤14質量部を混練し、ペレット化して実施例1の難燃性樹脂組成物を得た。
【0053】
得られたペレットを、射出成形機を用いて成形を行い、評価用の試験片(120mm×10mm×0.8mm)を得た。
【0054】
(実施例2)
紫外線遮蔽性を有する無機粒子として酸化亜鉛(ハクスイテック社製「F−3」、平均粒子径50nm)を5.2質量部用いた以外は実施例1と同様の条件にして樹脂用難燃剤を得たのち、実施例1と同様の方法で難燃性樹脂組成物及び評価用の試験片を得た。
【0055】
(実施例3)
難燃剤として臭素系難燃剤であるエチレンビステトラブロモフタルイミド(EBTB:アルベマール社製「BT93W(商品名)」、融点300℃、平均粒子径が3μm)を用いた以外は実施例1と同様の条件にして樹脂用難燃剤を得たのち、実施例1と同様の方法で難燃性樹脂組成物及び評価用の試験片を得た。
【0056】
(実施例4)
紫外線遮蔽性を有する無機粒子として平均粒子径が240nmの酸化チタン(石原産業社製「R−980」)を用いた以外は実施例1と同様の条件にして樹脂用難燃剤を得たのち、実施例1と同様の方法で難燃性樹脂組成物及び評価用の試験片を得た。
【0057】
(比較例1)
紫外線遮蔽性を有する無機粒子を用いずに実施例1と同様の処理を行い、評価用の試験片を得た。
【0058】
得られた実施例、比較例の試験片を用いて、以下の方法で評価を行った。製造条件とともに結果を表1に示す。
【0059】
(難燃性評価)
得られた試験片をUL−94規格に準拠して評価を行った。
【0060】
(耐候性評価)
キセノンランプを光源とするウェザーメーターを用いて、得られた試験片を120℃の温度環境下、14日間放置した。その後、試験片の色調変化を測色計(スガ試験機製(株)製「SM−7」より測定し、以下のように評価を行った。
○:色差ΔE*が3以下
△:色差ΔE*が3を超えて10以下
×:色差ΔE*が10以上
【0061】
【表1】

表1に示されるように、ハロゲン系難燃剤の表面を紫外線遮蔽性を有する無機粒子で被覆していない樹脂用難燃剤を配合した比較例1は、難燃性は良好であるが、十分な耐候性が得られなかった。これに対し、ハロゲン系難燃剤の表面を紫外線遮蔽性を有する無機粒子で被覆してなる樹脂用難燃剤を配合した実施例1〜4は十分な難燃性が得られ、かつ、耐光性も向上させることができた。なかでも、無機粒子の平均粒子径をハロゲン系難燃剤の平均粒子径の0.1%以上20%以下とし、かつ、0.5μmと小さい平均粒子径のハロゲン系難燃剤を用いた実施例1及び2は、優れた難燃性と耐候性を両立できるものであった。実施例3はハロゲン系難燃剤の平均粒子径が3μmと大きく、難燃性が実施例1、2よりも劣るが、耐候性には優れるものであった。実施例4は無機粒子の平均粒子径がハロゲン系難燃剤の平均粒子径の48%であり、ハロゲン系難燃剤の被覆効果が実施例1、2よりも劣るため、耐候性も劣っていたものと考えられる。
【符号の説明】
【0062】
1 樹脂用難燃剤
2 ハロゲン系難燃剤
3 無機粒子
4 シリル化剤の加水分解物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン系難燃剤の表面を、紫外線遮蔽性を有する無機粒子で被覆してなる樹脂用難燃剤。
【請求項2】
無機粒子が、酸化チタンと酸化亜鉛のいずれか一方、或いは両方を含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂用難燃剤。
【請求項3】
無機粒子の平均粒子径はハロゲン系難燃剤の平均粒子径の0.1%以上20%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂用難燃剤。
【請求項4】
ハロゲン系難燃剤の平均粒子径が0.1μm〜10μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の樹脂用難燃剤。
【請求項5】
無機粒子はシリル化剤をバインダーとして、ハロゲン系難燃剤を被覆してなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂用難燃剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の樹脂用難燃剤が、熱可塑性樹脂からなるベース樹脂に配合されてなる難燃性樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリル・アクリロニトリル・スチレン樹脂(AAS)樹脂、アクリロニトリル・スチレン(AS)樹脂、ポリアミド樹脂からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項6に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項8】
ハロゲン系難燃剤の融点がベース樹脂の融点よりも30℃以上高いことを特徴とする請求項6又は7に記載の難燃性樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−102168(P2012−102168A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249097(P2010−249097)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】