説明

樹脂組成物、およびそれからなる絶縁用部品

【課題】熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備える樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】カーボン系ナノフィラー(A)を0.1〜40質量%、樹脂(B)を5〜90質量%、フッ化カルシウム(C)を5〜90質量%含有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン系ナノフィラーを含有する樹脂組成物、およびこの樹脂組成物からなる絶縁用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などに用いられる電気・電子系樹脂部品は、近年、小型化および高出力化される傾向にあり、これに伴って樹脂部品の放熱性が重要な要素となっている。このため、絶縁性を維持したまま、熱伝導性を大幅に向上させた樹脂部品が求められている。また、樹脂部品を小型化したり、放熱性を高めたりするための薄肉化に伴い、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備える樹脂部品が求められている。
【0003】
従来の高熱伝導性を有する絶縁性樹脂材料としては、アルミナや窒化ホウ素といった絶縁性の高熱伝導性フィラーを樹脂に多量に添加したものが知られている。しかしながら、絶縁性の高熱伝導性フィラーを多量に添加すると、強度や耐衝撃性が低下するといった問題や成形加工性が低下したりするといった問題があった。また、高熱伝導性フィラーは高価なものであり、生産コストの面でも改良の余地があった。
【0004】
特開2002−188007号公報(特許文献1)、特開2003−40619号公報(特許文献2)、特表2007−517968号公報(特許文献3)には、樹脂とフッ化カルシウムとを含有する樹脂複合材料や樹脂組成物が開示されており、これらの樹脂複合材料や樹脂組成物が熱伝導性および成形性に優れたものであることも開示されている。しかしながら、これらの樹脂複合材料や樹脂組成物は、熱伝導性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備えるものではなく、自動車などに用いられる電気・電子系樹脂部品用材料としては十分なものではなかった。
【0005】
一方、カーボンナノチューブに代表されるカーボン系ナノフィラーは、熱伝導性に優れることから、これを樹脂に添加して樹脂に熱伝導性を付与したり、向上させたりすることが検討されている。このようなカーボン系ナノフィラーの添加によって熱伝導性は向上する傾向にあるが、樹脂中でカーボン系ナノフィラー同士が接触して電気伝導パスが形成されるため、電気伝導性が向上し、熱伝導性と絶縁性とを高水準で兼ね備える樹脂組成物を得ることは困難であった。
【0006】
そこで、本発明者らは、熱伝導性と絶縁性を高水準で兼ね備える樹脂組成物として、カーボン系ナノフィラーと変性ポリオレフィン系重合体と2種以上の樹脂とを含有する樹脂組成物を提案した(特開2010−100837号公報(特許文献4))。この樹脂組成物においては、変性ポリオレフィン系重合体を添加することによって、2種以上の樹脂のうちの分散相を形成する樹脂中にカーボン系ナノフィラーを偏在化させることができ、熱伝導性と絶縁性の向上を高水準でバランスよく達成させることが可能となった。また、特許文献4には、アルミナや窒化ホウ素といった高熱伝導性フィラーを併用することによって熱伝導性がさらに向上することも開示されている。
【0007】
しかしながら、自動車などに用いられる電気・電子系樹脂部品においては、さらに高い絶縁性が求められており、また、強度、剛性および耐衝撃性を高水準で兼ね備えることも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−188007号公報
【特許文献2】特開2003−40619号公報
【特許文献3】特表2007−517968号公報
【特許文献4】特開2010−100837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備える樹脂組成物、およびこの樹脂組成物からなる絶縁用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、カーボン系ナノフィラーとフッ化カルシウムとを併用して樹脂と混合することによって、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備える樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、カーボン系ナノフィラー(A)を0.1〜40質量%、樹脂(B)を5〜90質量%、フッ化カルシウム(C)を5〜90質量%含有することを特徴とするものである。また、モーター用樹脂部品(好ましくは、モーター用ステータ部品およびモーター用ローター部品)およびパワーコントロールユニット用樹脂部品といった本発明の絶縁用部品は、このような樹脂組成物からなることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の樹脂組成物において、フッ化カルシウム(C)の平均粒子径としては150μm以下が好ましい。樹脂(B)としては、2種以上の樹脂を含むものが好ましく、また、ポリオレフィン系重合体および変性ポリオレフィン系重合体のうちの少なくとも一方を含むものが好ましい。
【0013】
また、本発明の樹脂組成物には、カーボン系ナノフィラーおよびフッ化カルシウム以外の充填材(D)がさらに含まれていることが好ましい。
【0014】
なお、カーボン系ナノフィラーとフッ化カルシウムを併用することによって、本発明の樹脂組成物が熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備えるものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。樹脂の熱伝導性を向上させる従来の方法においては、アルミナやチッ化ホウ素といった高熱伝導性フィラーを樹脂に多量に配合する必要であった。このような高熱伝導性フィラーを添加すると、樹脂組成物の熱伝導性は向上するが、成形加工性は低下し、さらに強度および耐衝撃性が大幅に低下する傾向にあった。これは、上記のような高熱伝導性フィラーの硬度に起因するものと推察される。例えば、アルミナ(モース硬度9)、チッ化アルミニウム(モース硬度7)、酸化マグネシウム(モース硬度6.5)といった比較的高硬度の熱伝導性フィラーを樹脂に配合すると、強度(引張強さ)と靱性(耐衝撃性)が大きく低下する傾向にある。他方、チッ化ホウ素(モース硬度2)などの比較的低硬度の熱伝導性フィラーを配合すると、靱性(耐衝撃性)の低下は抑制されるが、剛性の向上も抑制される傾向にある。また、炭酸カルシウム(モース硬度3)はやや脆い上、フッ化カルシウムと比較して熱伝導性に劣るものである。このように、従来用いられていた高熱伝導性フィラーは、熱伝導性、強度、剛性および耐衝撃性の向上という観点においては一長一短であり、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく達成することが困難である。
【0015】
また、本発明に用いられるカーボン系ナノフィラーは、樹脂組成物の熱伝導性と剛性を向上させることができるものの、絶縁性を低下させる傾向にある。さらに、フッ化カルシウムは、熱伝導性に比較的優れているため、樹脂組成物の熱伝導性を大幅に向上させることができるが、硬すぎず脆すぎない適度な硬度(モース硬度4)を有するため、強度(引張強さ)と耐衝撃性の低下は抑制されるものの、大幅な向上までには至らない。すなわち、カーボン系ナノフィラーとフッ化カルシウムのいずれか一方だけでは、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく達成することは困難である。
【0016】
一方、本発明の樹脂組成物においては、カーボン系ナノフィラーとフッ化カルシウムとを併用することによって、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性が高水準でバランスよく達成されることから、カーボン系ナノフィラーとフッ化カルシウムとの相互作用により、絶縁性の低下が抑制され、強度、剛性および耐衝撃性が大幅に向上すると推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備える樹脂組成物、およびこの樹脂組成物からなる絶縁用部品を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。先ず、本発明の樹脂組成物について説明する。本発明の樹脂組成物は、カーボン系ナノフィラー(A)、樹脂(B)およびフッ化カルシウム(C)を含有するものである。この樹脂組成物においては、カーボン系ナノフィラー(A)とフッ化カルシウム(C)を併用することによって、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく達成することが可能となる。
【0019】
(A)カーボン系ナノフィラー
本発明に用いられるカーボン系ナノフィラー(A)としては特に制限はなく、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノツイスト、カーボンナノバルーン、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、グラフェン、ナノグラフェン、グラフェンナノリボン、およびこれらの誘導体といった異方性カーボン系ナノフィラー;フラーレンおよびその誘導体などが挙げられる。このようなカーボン系ナノフィラーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、このようなカーボン系ナノフィラーのうち、樹脂組成物の熱伝導性および剛性が向上するという観点から異方性カーボン系ナノフィラーが好ましく、熱伝導性がさらに向上するという観点からカーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレットがより好ましく、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルが特に好ましい。
【0020】
このようなカーボン系ナノフィラー(A)の平均直径としては特に制限はないが、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましく、100nm以下が最も好ましい。カーボン系ナノフィラー(A)の平均直径が前記上限を超えると、カーボン系ナノフィラー(A)とフッ化カルシウム(C)を併用しても、樹脂組成物の熱伝導性、強度、剛性および耐衝撃性が十分に向上しにくい傾向にある。また、添加量を少なくしても樹脂組成物の熱伝導性、強度、剛性および耐衝撃性が向上するという観点から、カーボン系ナノフィラー(A)の平均直径は小さい方が好ましく、その下限は特に制限されないが、0.3nm以上が好ましく、0.4nm以上がより好ましく、0.5nm以上が特に好ましい。
【0021】
また、カーボン系ナノフィラー(A)が異方性カーボン系ナノフィラーである場合、そのアスペクト比(長さ/直径)としては特に制限はないが、本発明の樹脂組成物を調製する場合に、少量添加で熱伝導性、強度および剛性が向上するという観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、40以上が特に好ましく、80以上が最も好ましい。
【0022】
本発明に用いられるカーボン系ナノフィラー(A)の形状としては、1本の幹状でも多数のカーボン系ナノフィラーが枝のように外方に成長している樹枝状であってもよいが、樹脂組成物の熱伝導性、機械強度などが向上するという観点から、1本の幹状であることが好ましい。また、本発明においてカーボン系ナノフィラー(A)としてカーボンナノチューブを使用する場合、単層、多層(2層以上)のいずれのカーボンナノチューブも用いることができ、用途に応じて使い分けたり、併用したりすることができる。さらに、前記カーボン系ナノフィラー(A)には炭素以外の原子、分子などが含まれていてもよく、必要に応じて金属や他のナノ構造体を内包させてもよい。
【0023】
本発明においては、カーボン系ナノフィラー(A)についてラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に観察されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に観察されるDバンドの比(G/D)は特に制限されないが、高熱伝導樹脂材料など高熱伝導性が要求される用途においては、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1.0以上であることがさらに好ましく、3.0以上であることが特に好ましく、5.0以上であることが最も好ましい。G/Dが前記下限未満になると、樹脂組成物の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0024】
このようなカーボン系ナノフィラー(A)は、レーザーアブレーション法、アーク合成法、HiPcoプロセスなどの化学気相成長法(CVD法)、直噴熱分解合成法(DIPS法)、溶融紡糸法などの従来公知の製造方法を用途に応じて適宜選択することにより製造できるが、これらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0025】
また、本発明においては、前記カーボン系ナノフィラーの構造中にカルボキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、有機シリル基などの置換基、ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどの高分子、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェンまたはポリフェニレンビニレンといった導電性高分子などが化学結合により導入されたもの、カーボン系ナノフィラーを他のナノフィラーで被覆したものも、カーボン系ナノフィラー(A)として用いることができる。
【0026】
本発明の樹脂組成物において、カーボン系ナノフィラー(A)の含有量は、樹脂組成物全体(100質量%)に対して0.1〜40質量%である。カーボン系ナノフィラー(A)の含有量が前記下限未満になると、樹脂組成物の熱伝導性、強度、剛性および耐衝撃性が低下し、他方、前記上限を超えると成形加工性が低下する。また、熱伝導性、強度、剛性および耐衝撃性が向上するという観点から、カーボン系ナノフィラー(A)の含有量の下限としては、0.2質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が特に好ましく、0.5質量%以上が最も好ましい。他方、カーボン系ナノフィラー(A)の含有量の上限としては、成形加工性が向上するという観点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が特に好ましく、5質量%以下が最も好ましい。
【0027】
(B)樹脂
本発明に用いられる樹脂(B)としては特に制限はなく、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂やノボラックフェノール型エポキシ樹脂といった各種エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性イミド樹脂、熱硬化性ポリアミドイミド、熱硬化性シリコーン樹脂、尿素樹脂(ユリア樹脂)、不飽和ポリエステル樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂およびウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリスチレン、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン樹脂などの芳香族ビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチル、ポリ(メタ)アクリル酸、およびこれらの共重合体などのアクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−アクリル酸メチル樹脂およびアクリロニトリル−ブタジエン樹脂といったシアン化ビニル系樹脂、イミド基含有ビニル系樹脂、ポリオレフィン系重合体、変性ポリオレフィン系重合体、変性アクリル系エラストマー、シリコーン樹脂、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリ1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレートといったポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリアリレート、液晶ポリエステル、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンスルフィドなどのポリアリーレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリオキシメチレン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンおよびポリフッ化ビニルに代表されるフッ素樹脂、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルアミドなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0028】
本発明においては、樹脂(B)として、このような樹脂のうちの少なくとも1種を選択すればよいが、熱伝導率と絶縁性を高水準でバランスよく備える樹脂組成物を得るためには、上記のような樹脂を2種以上使用することが好ましく、3種以上使用することがより好ましい。また、樹脂(B)としては、前記熱可塑性樹脂を含むものが好ましく、ポリオレフィン系重合体、変性ポリオレフィン系重合体、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアリーレンエーテル、およびポリアリーレンスルフィドから選択される少なくとも1種の樹脂を含むものがより好ましく、ポリオレフィン系重合体、変性ポリオレフィン系重合体、およびポリアリーレンスルフィドから選択される少なくとも1種の樹脂を含むものが特に好ましい。
【0029】
このような樹脂の組み合わせとしては、ポリオレフィン系重合体と他の樹脂(好ましくは熱可塑性樹脂、より好ましくはポリアリーレンスルフィド)との併用がより好ましく、ポリオレフィン系重合体と変性ポリオレフィン系重合体と他の樹脂(好ましくは熱可塑性樹脂、より好ましくはポリアリーレンスルフィド)との併用が特に好ましい。ポリオレフィン系重合体と他の樹脂とを併用すると、樹脂組成物の絶縁性、強度および耐衝撃性が向上する傾向にある。これは、ポリオレフィン系重合体の少なくとも一部が分散相を形成し、この分散相にカーボン系ナノフィラー(A)が取り込まれて系内で偏在化し、系全体にわたるカーボン系ナノフィラー(A)の連結構造が形成されにくくなるためであると推察される。また、ポリオレフィン系重合体と変性ポリオレフィン系重合体と他の樹脂とを併用すると、樹脂組成物の絶縁性、強度および耐衝撃性がさらに向上する傾向にある。これは、変性ポリオレフィン系重合体の添加により、ポリオレフィン系重合体からなる分散相と他の樹脂からなる連続相が形成しやすく、カーボン系ナノフィラー(A)が前記分散相に取り込まれて偏在化が顕著になり、系全体にわたるカーボン系ナノフィラー(A)の連結構造がさらに形成されにくくなるためであると推察される。
【0030】
(ポリオレフィン系重合体)
本発明に用いられるポリオレフィン系重合体としては特に制限はないが、オレフィン系モノマーの単独重合体、2種以上のオレフィン系モノマーの共重合体、1種以上のオレフィン系モノマーと1種以上のその他のビニル系モノマーとの共重合体などが挙げられる。前記共重合体の構造はランダム構造、ブロック構造、グラフト構造のいずれでもよい。また、ポリオレフィン系重合体としては、前記単独重合体や前記共重合体の水素添加物やハロゲン化物(塩素化物など)を用いることもできる。このようなポリオレフィン系重合体は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、ポリオレフィン系重合体の形状は直鎖状、分岐状のいずれでもよい。
【0031】
前記オレフィン系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−2−ブテン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンといったモノオレフィン系モノマー;1,2−プロパジエン、メチルアレン、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、ジシクロペンタジエン、クロロプレン、1,4−ヘキサジエン、1,4−シクロヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、およびこれらのハロゲン化物といったジエン系モノマーなどが挙げられる。このようなオレフィン系モノマーのうち、得られるポリオレフィン系重合体とカーボン系ナノフィラー(A)との親和性が高くなり、樹脂組成物の絶縁性および耐衝撃性が向上するという観点から、モノオレフィン系モノマーが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0032】
前記その他のビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ブロモスチレンなどの芳香族ビニル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アリル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、塩化ビニルなどが挙げられる。これらのその他のビニル系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0033】
ポリオレフィン系重合体としてエチレンの単独重合体を使用する場合においては、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPEまたはULDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE、一般に分子量150万以上のもの)などが挙げられ、樹脂組成物の熱伝導性が高くなるという観点から、HDPEが特に好ましい。
【0034】
また、オレフィン系モノマーの共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−4−メチル−1−ペンテン共重合体、エチレン−1−ヘキセン共重合体、エチレン−プロピレン−ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−ヘキサジエン共重合体、エチレン−プロピレン−1,4−シクロヘキサジエン共重合体、エチレン−1−オクテン共重合体、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)ブロック共重合体(SEP)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/プロピレン)−ポリスチレンブロック共重合体(SEPS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン/ブチレン)−ポリスチレンブロック共重合体(SEBS)、ポリスチレン−ポリ(エチレン−エチレン/プロピレン)−ポリスチレンブロック共重合体(SEEPS)といったエチレン系共重合体;プロピレン−1−ブテン−4−メチル−1−ペンテン共重合体およびプロピレン−1−ブテン共重合体といったプロピレン系共重合体;スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、(メタ)アクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、1−ヘキセン−4−メチル−1−ペンテン共重合体および4−メチル−1−ペンテン−1−オクテン共重合体などが挙げられる。また、前記ポリオレフィン系重合体としてポリプロピレン系重合体を使用する場合、このポリプロピレン系重合体としては、アイソタクティック、アタクティック、シンジオタクティックなどいずれのポリプロピレン系重合体も使用することができる。
【0035】
このようなポリオレフィン系重合体のうち、カーボン系ナノフィラー(A)との親和性が高く、樹脂組成物の絶縁性および耐衝撃性が向上するという観点から、エチレンの単独重合体およびエチレン系共重合体が好ましく、エチレン系共重合体がより好ましく、中でもエチレン−1−ブテン共重合体が特に好ましい。
【0036】
また、ポリオレフィン系重合体のメルトフローレート(MFR、JIS K6922−1に準拠して測定)としては特に制限はないが、0.1g/10min以上が好ましく、0.2g/10min以上がより好ましく、1g/10min以上がさらに好ましく、3g/10min以上が特に好ましく、10g/10min以上が最も好ましい。ポリオレフィン系重合体のMFRが前記下限未満になると、樹脂組成物の絶縁性と流動性が低下する傾向にある。また、ポリオレフィン系重合体のMFRの上限としては、150g/10min以下が好ましく、100g/10min以下がより好ましく、80g/10min以下がさらに好ましい。ポリオレフィン系重合体のMFRが前記上限を超えると、樹脂組成物の機械的特性が低下する傾向にある。
【0037】
(変性ポリオレフィン系重合体)
本発明に用いられる変性ポリオレフィン系重合体としては、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、アミド基、オキサゾリン基、水酸基、オキセタン基、メルカプト基、ウレイド基およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を備える変性ポリオレフィン系重合体が挙げられる。このような変性ポリオレフィン系重合体としては、1種以上のオレフィン系モノマーと1種以上の前記官能基を備えるビニル系モノマー(以下、「官能基含有ビニル系モノマー」という。)との共重合体、1種以上のオレフィン系モノマーと1種以上の官能基含有ビニル系モノマーと1種以上のその他のビニル系モノマーとの共重合体などが挙げられる。これらの共重合体の構造としては特に制限はなく、ランダム構造、ブロック構造、グラフト構造などが挙げられる。また、前記ポリオレフィン系重合体に前記官能基を付加したものなども変性ポリオレフィン系重合体として使用することが可能である。前記変性ポリオレフィン系重合体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0038】
このような変性ポリオレフィン系重合体のうち、樹脂組成物の絶縁性および耐衝撃性が向上するという観点から、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基、オキサゾリン基、水酸基、メルカプト基、ウレイド基およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を備える変性ポリオレフィン系重合体が好ましく、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、アミノ基およびイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を備える変性ポリオレフィン系重合体がより好ましく、エポキシ基、カルボキシル基および酸無水物基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を備える変性ポリオレフィン系重合体が特に好ましく、エポキシ基を備える変性ポリオレフィン系重合体が最も好ましい。
【0039】
また、このような変性ポリオレフィン系重合体中の官能基は、樹脂(B)として変性ポリオレフィン系重合体以外に少なくとも1種の他の樹脂を用いる場合、前記他の樹脂の末端基、側鎖および主鎖のうち少なくとも1つと、溶融混練などの加工時の加熱などにより反応することができるものである。この反応によりグラフトポリマーまたはブロックポリマー(好ましくはグラフトポリマー)が形成され、樹脂組成物の熱伝導性、絶縁性および耐衝撃性を向上させることが可能となる。
【0040】
このような官能基を備える変性ポリオレフィン系重合体の製造方法としては、オレフィン系モノマーと前記官能基を備えるビニル系モノマー(以下、「官能基含有ビニル系モノマー」という。)と必要に応じてこれら以外のその他のビニル系モノマーとを共重合させる方法、未変性のポリオレフィン系重合体に前記官能基含有ビニル系モノマーを、必要に応じてラジカル重合開始剤などの重合開始剤の存在下で、グラフト重合させる方法、前記官能基を備える重合開始剤や連鎖移動剤の存在下でオレフィン系モノマーおよび必要に応じてその他のビニル系モノマーを重合させる方法などが挙げられる。これらの重合体の重合方法としては特に制限はなく、従来公知の方法を好適に採用することができる。また、得られる共重合体の構造としては特に制限はなく、ランダム構造、ブロック構造、グラフト構造が挙げられる。また、本発明においては、前記官能基を備える市販の変性ポリオレフィン系重合体を使用することも可能である。
【0041】
前記変性ポリオレフィン系重合体に用いられる前記オレフィン系モノマーとしては、前記ポリオレフィン系重合体において例示したモノオレフィン系モノマーやジエン系モノマーなどが挙げられる。これらのオレフィン系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらのオレフィン系モノマーのうち、少なくともエチレンを含む1種以上のモノマーが好ましく、エチレンがより好ましい。これにより、樹脂組成物の熱伝導性が向上する傾向にある。これは、変性ポリオレフィン系重合体の添加により、ポリオレフィン系重合体からなる分散相と他の樹脂からなる連続相が形成した場合に、分散相と連続相との界面における熱抵抗が低減されるためであると推察される。
【0042】
前記官能基含有ビニル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸といった不飽和カルボン酸およびその金属塩;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸(シトラコン酸)、メチルフマル酸(メサコン酸)、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸といった不飽和ジカルボン酸およびその金属塩;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルといった前記不飽和ジカルボン酸のモノアルキルエステルおよびその金属塩;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸プロピルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸2−ジブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸3−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸3−ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸フェニルアミノエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミノエチル、p−アミノスチレン、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタリルアミン、N,N−ジメチルアリルアミンといったアミノ基含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水クロトン酸、メチル無水マレイン酸、メチル無水フマル酸、無水メサコン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物といった不飽和カルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、マレイン酸グリシジル、フマル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、クロトン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、グルタコン酸グリシジル、p−グリシジルスチレン、アリルグリシジルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルといったエポキシ基含有ビニル系モノマー;2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、5−メチル−2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリン、2−スチリル−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−ビニル−オキサゾリン、4,4−ジメチル−2−イソプロペニル−オキサゾリンといったオキサゾリン基含有ビニル系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミドといったアミド基含有ビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、シス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、トランス−5−ヒドロキシ−2−ペンテン、4−ジヒドロキシ−2−ブテンといった水酸基含有ビニル系モノマーなどが挙げられる。これらの官能基含有ビニル系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの官能基含有ビニル系モノマーのうち、樹脂組成物の絶縁性および耐衝撃性が向上するという観点から、エポキシ基含有ビニル系モノマーが好ましい。
【0043】
また、本発明にかかる変性ポリオレフィン系重合体に用いられるその他のビニル系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロスチレン、クロロメチルスチレン、ブロモスチレンなどの芳香族ビニル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸アリル、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、酢酸ブチル、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、塩化ビニルなどが挙げられる。これらのその他のビニル系モノマーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記変性ポリオレフィン系重合体において、前記官能基含有ビニル系モノマー単位の含有率としては、変性ポリオレフィン系重合体中の全構成単位に対して0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上が特に好ましく、8質量%以上が最も好ましく、また、99質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が最も好ましい。前記官能基含有ビニル系モノマー単位の含有率が前記下限未満になると、樹脂組成物の熱伝導性および絶縁性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると樹脂組成物の成形加工性が低下する傾向にある。
【0045】
(ポリアリーレンスルフィド)
本発明においては、前記ポリアリーレンスルフィドとして従来公知のものを用いることができ、例えば、直鎖状ポリアリーレンスルフィド、架橋ポリアリーレンスルフィドおよびこれらの混合物のいずれも用いることができる。このようなポリアリーレンスルフィドのうち、p−フェニレンスルフィド単独重合体およびm−フェニレンスルフィド(共)重合体が好ましい。
【0046】
このようなポリアリーレンスルフィドの溶融粘度(温度310℃、剪断速度1200秒−1)としては、樹脂組成物の絶縁性が向上するという観点から、3000Pa・s以下が好ましく、1000Pa・s以下がより好ましく、300Pa・s以下がさらに好ましく、100Pa・s以下が特に好ましく、50Pa・s以下が最も好ましい。また、前記ポリアリーレンスルフィドの溶融粘度の下限としては特に制限はないが、樹脂組成物の機械特性が向上するという観点から、1Pa・s以上が好ましく、3Pa・s以上がより好ましく、5Pa・s以上がさらに好ましく、10Pa・s以上が特に好ましい。また、本発明においては、溶融粘度が異なる複数のポリアリーレンスルフィドの混合物を用いることも好ましい。
【0047】
また、本発明の樹脂組成物には、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、エポキシ基含有有機シラン、イソシアネート基含有有機シラン、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、サリチルアルコール、ビスフェノールA−ジグリシジルエーテルといったビスフェノールA型エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステルといったグリシジルエステル系エポキシ化合物、N−グリシジルアニリンといったグリシジルアミン系エポキシ化合物などを添加してもよい。これらの化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0048】
本発明の樹脂組成物において、樹脂(B)の含有量は、樹脂組成物全体(100質量%)に対して通常5〜90質量%である。また、樹脂(B)の含有量の下限としては10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましい。他方、樹脂(B)の含有量の上限としては85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が最も好ましい。
【0049】
特に、本発明の樹脂組成物において、樹脂(B)としてポリオレフィン系重合体と他の樹脂とを併用する場合(さらに、変性ポリオレフィン系重合体を併用する場合を含む)、ポリオレフィン系重合体の含有量の下限としては、樹脂組成物の熱伝導性、絶縁性および耐衝撃性がバランスよく向上するという観点から、樹脂組成物全体(100質量%)に対して0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましく、2.5質量%以上が特に好ましく、3質量%以上が最も好ましい。他方、ポリオレフィン系重合体の含有量の上限としては、樹脂組成物の絶縁性が向上するという観点から、樹脂組成物全体(100質量%)に対して50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、15質量%以下が最も好ましい。
【0050】
また、本発明の樹脂組成物において、樹脂(B)として、変性ポリオレフィン系重合体と他の樹脂とを併用する場合(さらに、ポリオレフィン系重合体を併用する場合を含む)、変性ポリオレフィン系重合体含有量の下限としては、樹脂組成物の絶縁性が十分に向上するという観点から、樹脂組成物全体(100質量%)に対して0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましく、1質量%以上が特に好ましい。他方、変性ポリオレフィン系重合体含有量の上限としては、樹脂組成物の成形加工性を確保するという観点から、樹脂組成物全体(100質量%)に対して50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。
【0051】
なお、上記のようにポリオレフィン系重合体および/または変性ポリオレフィン系重合体と併用する場合における他の樹脂の含有量は、樹脂(B)の残りの量であるが、その下限としては、樹脂組成物全体(100質量%)に対して10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が特に好ましく、30質量%以上が最も好ましい。他方、他の樹脂の含有量の上限としては、樹脂組成物全体(100質量%)に対して85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましく、50質量%以下が最も好ましい。
【0052】
(C)フッ化カルシウム
本発明に用いられるフッ化カルシウム(C)としては特に制限はなく、未処理のフッ化カルシウム、有機シラン、有機チタネート、有機アルミネートなどの表面処理剤で処理したフッ化カルシウムなどが挙げられる。このようなフッ化カルシウム(C)をカーボン系ナノフィラー(A)と併用することによって、少量の添加で樹脂の導電性が向上するカーボン系ナノフィラー(A)が含まれているにもかかわらず、樹脂組成物は高い絶縁性を示し、熱伝導性、強度、剛性および耐衝撃性が向上し、樹脂組成物の熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく達成することが可能となる。また、本発明に用いられるフッ化カルシウムは従来の高熱伝導性フィラーに比べて低価格であるため、本発明の樹脂組成物を低コストで製造することが可能となる。
【0053】
前記有機シランとしては特に制限はなく、エポキシ変性有機シラン、アミノ基変性有機シラン、アクリル変性有機シラン、イソシアネート基変性有機シランなど従来公知のものが挙げられる。
【0054】
前記フッ化カルシウム(C)の平均粒子径としては特に制限はないが、500μm以下が好ましく、150μm以下がより好ましく、80μm以下がさらに好ましく、50μm以下が特に好ましく、20μm以下が最も好ましい。フッ化カルシウム(C)の平均粒子径が前記上限を超えると、カーボン系ナノフィラー(A)とフッ化カルシウム(C)を併用しても、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性の全てを高水準でバランスよく備える樹脂組成物を得ることが困難となる傾向にある。また、樹脂組成物の熱伝導性、絶縁性、強度および耐衝撃性が向上するという観点から、フッ化カルシウム(C)の平均粒子径は小さい方が好ましく、その下限は特に制限されないが、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。また、フッ化カルシウム(C)として、異なる平均粒子径を有する2種以上のものを併用することも可能である。
【0055】
このようなフッ化カルシウム(C)の製造方法としては特に制限はなく、例えば、鉱石から選別する方法、半導体などの製造時に使用するフッ酸などの含フッ素化合物の廃液からカルシウム塩として再生する方法などが挙げられる。
【0056】
本発明の樹脂組成物において、フッ化カルシウム(C)の含有量は、樹脂組成物全体(100質量%)に対して5〜90質量%である。フッ化カルシウム(C)の含有量が前記下限未満になると、樹脂組成物の熱伝導性および絶縁性が低下し、他方、前記上限を超えると成形加工性が低下する。また、熱伝導性および絶縁性が向上するという観点から、フッ化カルシウム(C)の含有量の下限としては、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましく、30質量%以上が最も好ましい。他方、フッ化カルシウム(C)の含有量の上限としては、成形加工性が向上するという観点から、85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましく、70質量%以下が特に好ましく、65質量%以下が最も好ましい。
【0057】
(D)充填材
本発明の樹脂組成物においては、必要に応じて、カーボン系ナノフィラー(A)およびフッ化カルシウム(C)以外の充填材を含んでいてもよい。このような充填材(D)としては、繊維状充填材、非繊維状充填材(粒状充填材など)のいずれの充填材も用いることができるが、樹脂組成物の剛性、耐熱性および寸法安定性が向上するという観点から、繊維状充填材が好ましい。
【0058】
前記繊維状充填材としては特に制限はないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維(例えば、鉄、ステンレス、ニッケル、銅、銀、金、チタン)、アラミド繊維、アルミナ繊維、シリコンカーバイド繊維、セルロース繊維、アスベスト、ワラストナイト、ウィスカ(例えば、チタン酸カリウムウイスカ、酸化亜鉛ウイスカ、硫酸カルシウムウイスカ、炭酸カルシウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ)などが挙げられる。このような繊維状充填材のうち、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイト、ウィスカが好ましく、強度および耐衝撃性の向上の観点から、ガラス繊維が特に好ましい。
【0059】
本発明の樹脂組成物中に含まれる繊維状充填材としてガラス繊維を使用する場合、その平均直径としては特に制限はないが、樹脂組成物の強度および剛性が向上するという観点から、50μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、12.5μm以下がさらに好ましく、12μm以下が特に好ましく、11μm以下が最も好ましい。また、繊維状充填材の平均直径の下限は特に制限されないが、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上が特に好ましい。
【0060】
また、前記繊維状充填材としてガラス繊維を使用する場合、その平均長軸長さとしては特に制限はないが、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、1000μm以下が特に好ましい。繊維状充填材の平均長軸長さが前記上限を超えると、樹脂組成物の剛性、耐衝撃性および寸法安定性が低下する傾向にある。また、繊維状充填材の平均長軸長さの下限は特に制限されないが、1μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が特に好ましい。
【0061】
また、前記非繊維状充填材としては特に制限はないが、例えば、ガラスフレーク、ガラスビーズ、タルク、モンモリロナイトに代表される粘土鉱物、マイカ(雲母)鉱物およびカオリン鉱物に代表される層状ケイ酸塩、シリカ、炭酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウムおよびドロマイトなどが挙げられる。
【0062】
このような非繊維状充填材の平均粒子径としては特に制限はないが、1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましく、50μm以下が最も好ましい。非繊維状充填材の平均粒子径が前記上限を超えると、樹脂組成物の絶縁性が低下する傾向にある。また、樹脂組成物の剛性が向上するという観点から、非繊維状充填材の平均粒子径は小さい方が好ましく、その下限は特に制限されないが、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上が特に好ましい。
【0063】
本発明の樹脂組成物において、充填材(D)の含有量としては特に制限はないが、その下限としては、樹脂組成物全体(100質量%)に対して0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上が特に好ましく、10質量%以上が最も好ましく、他方、その上限としては、樹脂組成物全体(100質量%)に対して70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0064】
(熱伝導性フィラー)
本発明の樹脂組成物においては、フッ化カルシウム(C)および充填材(D)以外に、本発明の効果を損なわない範囲であれば、熱伝導性フィラーが含まれていてもよい。このような熱伝導性フィラーとしては、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、結晶性シリカ、溶融シリカ、ダイヤモンド、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよび軟磁性フェライトなどが挙げられる。これらの形状としては特に制限はなく、例えば、粒状、平板状、ロッド状、繊維状、チューブ状などが挙げられる。これらの熱伝導性フィラーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0065】
このような熱伝導性フィラーの熱伝導率としては特に制限はないが、1W/m・K以上が好ましく、3W/m・K以上がより好ましく、5W/m・K以上がさらに好ましく、10W/m・K以上が特に好ましく、20W/m・K以上が最も好ましい。
【0066】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物においては、金属、金属酸化物および金属水酸化物などの金属化合物、カーボンブラック、グラファイト、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェンおよびポリフェニレンビニレンといった導電性ポリマーなどの導電性物質、および前記導電性物質で被覆されたフィラーなどを含有させることもできる。前記金属としては特に制限はないが、金、銀、銅、アルミニウム、鉄、白金、マグネシウム、モリブデン、ロジウム、亜鉛、パラジウム、タングステン、クロム、コバルト、ニッケル、スズ、チタン、金属ケイ素など、およびこれらの合金などが挙げられる。前記金属および金属化合物の形状としては特に制限はなく、例えば、粒状、平板状、ロッド状、チューブ状などが挙げられる。
【0067】
また、本発明の樹脂組成物には、その他の成分、例えば、塩化銅、ヨウ化第I銅、酢酸銅、ステアリン酸セリウムなどの金属塩安定剤、ヒンダードアミン系、ヒンダードフェノール系、含硫黄化合物系、アクリレート系、リン系有機化合物などの酸化防止剤や耐熱安定剤、ベンゾフェノン系、サリチレート系、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤や耐候剤、光安定剤、離型剤、滑剤、結晶核剤、粘度調節剤、着色剤、シランカップリング剤などの表面処理剤、顔料、蛍光顔料、染料、蛍光染料、着色防止剤、可塑剤、難燃剤(赤燐、金属水酸化物系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、およびこれらのハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせなど)、木材粉、もみがら粉、くるみ粉、古紙、蓄光顔料、ホウ酸ガラスや銀系抗菌剤などの抗菌剤や抗カビ剤、マグネシウム−アルミニウムヒドロキシハイドレートなどの金型腐食防止剤を添加することができる。
【0068】
<樹脂組成物およびその製造方法>
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物の製造方法としては、例えば、カーボン系ナノフィラー(A)、樹脂(B)(好ましくは2種以上の樹脂)、フッ化カルシウム(C)、および必要に応じて、充填材(D)、その他の添加剤などを、高速攪拌機などを用いて均一に混合した後、十分な混練能力のある一軸または多軸のベントを有する押出機などにより溶融混練して混合する方法;バンバリーミキサーやゴムロール機を用いた溶融混練により混合する方法などが挙げられる。
【0069】
前記各成分の形状は特に制限はなく、ペレット状、粉末状、細片状などいずれの形状のものを使用してもよい。また、本発明の樹脂組成物の製造方法としては、各成分を一括で混合する方法や、特定の成分を予め混合した後、残りの成分を混合する方法などが挙げられる。例えば、樹脂(B)としてポリオレフィン系重合体と変性ポリオレフィン系重合体とその他の樹脂とを併用する場合においては、(1)全ての成分を一括して混合する方法;(2)カーボン系ナノフィラー(A)とポリオレフィン系重合体と変性ポリオレフィン系重合体とを予め混合した後、残りの成分を混合する方法など、様々な混合方法の中から適宜選択することができる。前記(1)の製造方法としては、例えば、全ての成分を含む混合物を押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。また、前記(2)の製造方法としては、例えば、1つまたは複数のサイドフィーダーを備える押出機の上流のホッパーから、カーボン系ナノフィラー(A)とポリオレフィン系重合体と変性ポリオレフィン系重合体との混合物を、予め投入して溶融混練し、次いで残りの成分の各々を1つまたは複数のサイドフィーダーから投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0070】
このようにして得られた本発明の樹脂組成物は、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備えるものである。例えば、厚さ0.3mmの成形体について周期加熱法により測定した厚さ方向の熱伝導率としては、0.4W/mK以上が好ましく、0.5W/mK以上がより好ましく、0.6W/mK以上がさらに好ましく、0.7W/mK以上が特に好ましく、0.8W/mK以上が最も好ましい。絶縁破壊電圧としては、3.5kV/mm以上が好ましく、5kV/mm以上がより好ましく、10kV/mm以上がさらに好ましく、13kV/mm以上が特に好ましく、16kV/mm以上が最も好ましい。引張強さとしては、80MPa以上が好ましく、85MPa以上がより好ましく、90MPa以上がさらに好ましく、95MPa以上が特に好ましく、100MPa以上が最も好ましい。20℃での貯蔵弾性率としては、8.5GPa以上が好ましく、9.0GPa以上がより好ましく、9.5GPa以上がさらに好ましく、10.0GPa以上が特に好ましく、10.5GPa以上が最も好ましい。23℃で測定したシャルピー衝撃強さとしては、4.0kJ/m以上が好ましく、4.5kJ/m以上がより好ましく、5.0kJ/m以上がさらに好ましく、5.5kJ/m以上が特に好ましい。
【0071】
なお、本発明の樹脂組成物において、樹脂(B)としてポリオレフィン系重合体と他の樹脂とを併用した場合に、樹脂組成物の熱伝導率、絶縁性および耐衝撃性がさらに向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、ポリオレフィン系重合体と他の樹脂との混合系においては、ポリオレフィン系重合体の少なくとも一部が分散相を形成していると推察される。ポリオレフィン系重合体はカーボン系ナノフィラー(A)との親和性が比較的高いため、カーボン系ナノフィラー(A)が前記分散相に取り込まれ、系全体としてはカーボン系ナノフィラー(A)が偏在化した状態となると推察される。その結果、系全体にわたるカーボン系ナノフィラー(A)の連結構造の形成が抑制され、絶縁性がさらに向上すると推察される。
【0072】
また、本発明の樹脂組成物において、樹脂(B)としてポリオレフィン系重合体と変性ポリオレフィン系重合体と他の樹脂とを併用した場合に、樹脂組成物の絶縁性が著しく向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、ポリオレフィン系重合体と変性ポリオレフィン系重合体と他の樹脂との混合系においては、ポリオレフィン系重合体に比べてカーボン系ナノフィラー(A)との親和性が低い変性ポリオレフィン系重合体が、ポリオレフィン系重合体からなる分散相と他の樹脂からなる連続相との界面に存在していると推察される。このような系においては、カーボン系ナノフィラー(A)はさらに効率的に分散相に取り込まれ、系全体としてはカーボン系ナノフィラー(A)がさらに偏在化した状態となると推察される。その結果、系全体にわたるカーボン系ナノフィラー(A)の連結構造の形成がさらに抑制され、絶縁性が著しく向上すると推察される。
【0073】
例えば、樹脂(B)としてポリエチレン系重合体とエポキシ変性ポリエチレン系重合体とポリフェニレンスルフィドとを併用した場合、樹脂組成物の絶縁性は非常に優れたものとなる傾向にある。この理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、この系においては、ポリエチレン系重合体により分散相が形成され、ポリフェニレンスルフィドにより連続相が形成され、エポキシ変性ポリエチレン系重合体は分散相と連続相との界面に存在していると推察される。そして、ポリフェニレンスルフィドの末端基であるSNa基や、SNa基から酸処理などによって生成させたSH基、必要に応じて製造時や後処理により導入したアミノ基、カルボキシル基、あるいは製造時に用いたN−メチルピロリドンが反応して形成された末端基が、溶融混練などの加工時に、エポキシ変性ポリエチレン系重合体のエポキシ基とin situで反応すると推察される。この反応により形成した反応生成物の一部または全部が分散相と連続相と界面で安定に存在するため、ポリエチレン系重合体からなる分散相にカーボン系ナノフィラー(A)が効率的に取り込まれ、系全体としてはカーボン系ナノフィラー(A)が著しく偏在化した状態となると推察される。その結果、系全体にわたるカーボン系ナノフィラー(A)の連結構造の形成がさらに抑制され、絶縁性が著しく向上すると推察される。
【0074】
このような本発明の樹脂組成物を成形体に加工する方法としては特に制限はないが、溶融成形加工が好ましい。このような溶融成形方法としては、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、圧縮成形(射出圧縮成形など)、またはガスアシスト成形などの従来公知の成形方法が挙げられる。また、成形加工時に磁場、電場、超音波などを印加したり、延伸したりすることによりカーボン系ナノフィラー(A)および樹脂(B)の配向を制御することができる。
【0075】
<絶縁用部品>
本発明の絶縁用部品は上記の本発明の樹脂組成物からなるものであり、好ましくは、本発明の樹脂組成物を溶融成形加工して得られるものである。このような本発明の樹脂組成物を適用することが好ましい絶縁用部品としては、モーター用樹脂部品、モーター用ハウジング、パワーコントロールユニット用樹脂部品、半導体配線基板、ランプハウジング(LEDランプハウジングなど)、電池用材料、各種ケース、各種カバーなどが挙げられ、中でも、本発明の樹脂組成物が熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく達成するという観点から、モーター用樹脂部品、パワーコントロールユニット用樹脂部品がより好ましい。
【0076】
なお、前記モーター用樹脂部品としては、モーター用ステータ部品(例えば、インシュレータ材料、コイル封止材料、被覆材)、モーター用ローター部品などが挙げられる。また、前記パワーコントロールユニット用樹脂部品としては、リアクトル用封止材、パワーデバイス(絶縁基板)などが挙げられる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、得られた樹脂組成物の物性は以下の方法により測定した。
【0078】
(1)熱伝導率
ペレット状の樹脂組成物を300℃でプレス成形して厚み1mmの成形品を得た。この成形品から25mm×25mm×1mmの試料を切り出し、定常法熱伝導率測定装置(アルバック理工(株)製「GH−1」)を用い、40℃(上下の温度差24℃)で試料(1mm厚の部分)の厚さ方向の熱伝導率(W/mK)を測定した。
【0079】
(2)絶縁破壊電圧
ペレット状の樹脂組成物を300℃でプレス成形して厚み1mmの成形品を得た。この成形品の表面と裏面に導電ペースト(藤倉化成(株)製「ドータイトFA−705BN」、フィラー:Ag)をそれぞれ直径15mmと直径17mmの大きさにスクリーン印刷により塗布し、熱風乾燥機内で150℃で1時間熱硬化処理を施して導電ペーストを付着させ、電極を作製した。この電極付き成形品の絶縁破壊電圧を、超高圧耐電圧試験器((株)計測技術研究所製「モデル7474」)を用いて、シリコーンオイル(東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製「SRX310」)中、昇圧速度0.05kV/秒、室温で測定した。絶縁破壊が生じた時点の電圧を絶縁破壊電圧(kV/mm)とした。なお、厚さ1mmの成形品を用いて測定した場合の測定可能な絶縁破壊電圧の最大値は20kV/mmであり、20kV/mmにおいて絶縁破壊が確認されなかった場合は、「>20kV/mm」と示した。
【0080】
(3)引張強さ
ペレット状の樹脂組成物を樹脂温度320℃、金型温度135℃で射出成形して厚み4mmのISO試験片を得た。このISO試験片の引張強さ(MPa)を、(株)島津製作所製万能試験機「AG−1」を用いて引張速度2mm/分、温度23℃の条件で測定した。
【0081】
(4)貯蔵弾性率
ペレット状の樹脂組成物を300℃でプレス成形して幅4mm×長さ40mm×厚み1mmの試験片を得た。この試験片について、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御(株)製「itk DVA−220」)を用いて温度範囲:−150℃〜200℃、昇温速度:5℃/分、変形モード:引張、歪み:0.05%、測定周波数:10Hz、チャック間距離:25mmの条件で動的粘弾性測定を行い、20℃での貯蔵弾性率(GPa)を求めた。
【0082】
(5)シャルピー衝撃強さ
ペレット状の樹脂組成物を樹脂温度320℃、金型温度135℃で射出成形して80mm×10mm×4mmの成形品を得た。この成形品に、切削によりノッチ(シングルノッチ、Vノッチ、ノッチ角:45°、ノッチ深さ:2mm)を作製してノッチ付き試験片を得た。この試験片のシャルピー衝撃強さ(kJ/m)を、デジタル衝撃試験機((株)東洋精機製作所製「DG−UB JIS」)を用いて23℃で測定した。
【0083】
また、実施例および比較例で使用したカーボン系ナノフィラー(A)、樹脂(B)、フッ化カルシウム(C)、充填材(D)、ならびに比較例で使用した熱伝導フィラーを以下に示す。なお、カーボン系ナノフィラー(A)のG/D値は、レーザーラマン分光システム(日本分光(株)製「NRS−3300」)を用いて励起レーザー波長532nmにおいて測定を行い、約1585cm−1付近に観察されるGバンドと約1350cm−1付近に観察されるDバンドのラマンスペクトルのピーク強度から求めた。
【0084】
(A)カーボン系ナノフィラー
・カーボン系ナノフィラー(a−1)
カーボンナノファイバー(昭和電工(株)製「VGCF−S」、平均直径80nm、アスペクト比100以上、G/D値10.0)。
・カーボン系ナノフィラー(a−2)
カーボンナノファイバー(昭和電工(株)製「VGCF」、平均直径150nm、アスペクト比60、G/D値10.0)。
【0085】
(B)樹脂
・樹脂(b−1)
ポリエチレン(旭化成ケミカルズ(株)製「サンファインLH−311」、高密度ポリエチレン、比重0.97、MFR(JIS K7210に準拠して測定)18g/10min)。
・樹脂(b−2)
エチレンブテン共重合体(三井化学(株)製「タフマーA35070S」)。
・樹脂(b−3)
エポキシ変性ポリエチレン(住友化学(株)製「ボンドファースト−E」、メタクリル酸グリシジル含有量12重量%)。
・樹脂(b−4)
ポリフェニレンスルフィド((株)クレハ製「フォートロンW202A」、温度310℃および剪断速度1200秒−1における溶融粘度が20Pa・sの直鎖型ポリフェニレンスルフィド)。
【0086】
(C)フッ化カルシウム
・フッ化カルシウム(c−1)
キンセイマテック(株)製、平均粒子径8μm。
・フッ化カルシウム(c−2)
森田化学工業(株)製、平均粒子径30μm。
・フッ化カルシウム(c−3)
森田化学工業(株)製、平均粒子径100μm。
・フッ化カルシウム(c−4)
ステラケミファ(株)製、平均粒子径200μm。
・フッ化カルシウム(c−5)
キンセイマテック(株)製、平均粒子径300μm。
【0087】
(D)充填材
・繊維状充填材(d−1)
ガラス繊維(セントラル硝子(株)製「ECS03−631K」、平均直径13μm)。
・繊維状充填材(d−2)
ガラス繊維(日本電気硝子(株)製「ECS03T−717H」、平均直径10.5μm)。
・繊維状充填材(d−3)
炭素繊維(東レ(株)製「トレカT008−006」、平均直径7μm)。
【0088】
(熱伝導フィラー)
・熱伝導フィラー(e−1)
重質炭酸カルシウム(丸尾カルシウム(株)製、平均粒子径12μm)。
・熱伝導フィラー(e−2)
高純度合成球状アルミナ((株)アドマテックス製「アドマファインAO−800」、平均粒子径6μm)。
・熱伝導フィラー(e−3)
球状窒化ホウ素(水島合金鉄(株)製「FS−3」、平均粒子径50μm)。
【0089】
(実施例1)
全成分の合計100質量%に対して、カーボン系ナノフィラー(a−1)0.6質量%、樹脂(b−4)39.4質量%、フッ化カルシウム(c−1)30質量%、および繊維状充填材(d−2)30質量%を配合し、二軸押出機((株)日本製鋼所製「TEX30」)に投入してバレル設定温度310℃、スクリュ回転数200rpmの条件で溶融混練を実施した。混練物をストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにより切断してペレット状の樹脂組成物を得た。このペレット状の樹脂組成物を130℃で6時間真空乾燥した後、前記の各物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0090】
(実施例2〜17)
表1に示す種類および配合量のカーボン系ナノフィラー(A)、樹脂(B)、フッ化カルシウム(C)および充填材(D)を用いた以外は実施例1と同様にしてペレット状の樹脂組成物を得た。このペレット状の樹脂組成物を130℃で6時間真空乾燥した後、前記の各物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
(比較例1〜15)
表1に示す種類および配合量のカーボン系ナノフィラー(A)、樹脂(B)、フッ化カルシウム(C)、充填材(D)および熱伝導フィラーを用いた以外は実施例1と同様にしてペレット状の樹脂組成物を得た。このペレット状の樹脂組成物を130℃で6時間真空乾燥した後、前記の各物性を測定した。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表1に示した結果から明らかなように、カーボン系ナノフィラー(A)とフッ化カルシウム(C)とを併用した本発明の樹脂組成物(実施例1〜17)は、カーボン系ナノフィラー(A)とフッ化カルシウム(C)のいずれか一方のみを含む樹脂組成物(比較例1〜3、比較例6〜7、比較例13)、カーボン系ナノフィラー(A)とフッ化カルシウム(C)の代わりに熱伝導フィラーを含む樹脂組成物(比較例4、比較例8〜9)、フッ化カルシウム(C)の代わりに熱伝導フィラーを含む樹脂組成物(比較例5、比較例10〜12)、およびカーボン系ナノフィラー(A)の代わりに炭素繊維を含む樹脂組成物(比較例14〜15)と比較して、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランス良く兼ね備えたものであった。
【0094】
具体的には、実施例1と比較例2とを比較すると、フッ化カルシウム(C)を含有する樹脂組成物において、カーボン系ナノフィラー(A)を少量添加するだけで、熱伝導性、引張強さおよび耐衝撃性が向上し、特に引張強さが著しく向上することがわかった。また、実施例1と比較例14〜15とを比較すると、炭素繊維の代わりにカーボン系ナノフィラー(A)を用いても、熱伝導性、引張強さおよび耐衝撃性が向上し、特に引張強さが著しく向上することがわかった。さらに、実施例1と比較例5とを比較すると、熱伝導フィラーの代わりにフッ化カルシウム(C)を用いると、少量の添加で樹脂の導電性が向上するカーボン系ナノフィラー(A)が樹脂組成物に含まれているにもかかわらず、絶縁性が向上し、さらに、熱伝導性、引張強さ、貯蔵弾性率および耐衝撃性が向上し、特に引張強さが著しく向上することがわかった。
【0095】
また、比較例12と比較例5とを比較すると、カーボン系ナノフィラー(A)と熱伝導フィラーとを含有する樹脂組成物において、ポリフェニレンスルフィドとポリオレフィン系重合体および変性ポリオレフィン系重合体とを併用すると、熱伝導性および絶縁性が向上したが、絶縁破壊電圧は3.5kV/mm未満であり、自動車用絶縁樹脂部品において要求される絶縁破壊電圧としては十分なものではなかった。また、引張強さ、貯蔵弾性率および耐衝撃性についても自動車用絶縁樹脂部品において要求される物性としては十分なものではなかった。
【0096】
一方、実施例8と実施例1とを比較すると、カーボン系ナノフィラー(A)とフッ化カルシウム(C)とを含有する樹脂組成物において、ポリフェニレンスルフィドとポリオレフィン系重合体および変性ポリオレフィン系重合体とを併用すると、絶縁性、引張強さおよび耐衝撃性が向上し、特に絶縁性および耐衝撃性が著しく向上することがわかった。
【0097】
実施例3および5と実施例2および4とを比較すると、樹脂(B)としてエチレン系共重合体を用いることによって絶縁性および耐衝撃性が向上することがわかった。また、実施例2および3と実施例4および5とを比較すると、充填材(D)として平均直径が小さいガラス繊維を用いることによって引張強さおよび貯蔵弾性率が向上することがわかった。
【0098】
実施例5と実施例12とを比較すると、平均直径が小さいカーボン系ナノフィラー(A)を用いることによって、その添加量を少なくしても、熱伝導性、引張強さ、貯蔵弾性率および耐衝撃性を向上させることが可能であることがわかった。
【0099】
また、実施例5、13〜16を互いに比較すると、フッ化カルシウム(C)の平均直径が小さくなるにつれて、熱伝導性、絶縁性、引張強さおよび耐衝撃性が向上し、特に絶縁性が著しく向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明によれば、熱伝導性、絶縁性、強度、剛性および耐衝撃性を高水準でバランスよく備える樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0101】
したがって、本発明の樹脂組成物は、高熱伝導性や絶縁性が求められる部品に使用することができ、例えば、モーター用樹脂部品やパワーコントロールユニット用樹脂部品といった絶縁用部品に使用することが好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン系ナノフィラー(A)を0.1〜40質量%、樹脂(B)を5〜90質量%、フッ化カルシウム(C)を5〜90質量%含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記フッ化カルシウム(C)の平均粒子径が150μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂(B)が2種以上の樹脂を含むものであることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記樹脂(B)がポリオレフィン系重合体を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂(B)が変性ポリオレフィン系重合体を含むものであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
カーボン系ナノフィラー(A)およびフッ化カルシウム(C)以外の充填材(D)をさらに含有することを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする絶縁用部品。
【請求項8】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とするモーター用樹脂部品。
【請求項9】
前記モーター用樹脂部品がモーター用ステータ部品またはモーター用ローター部品であることを特徴とする請求項8に記載のモーター用樹脂部品。
【請求項10】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とするパワーコントロールユニット用樹脂部品。

【公開番号】特開2012−57151(P2012−57151A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173639(P2011−173639)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】