説明

樹脂組成物、並びに当該組成物から得られる成形体及び電気・電子機器用筺体

【課題】植物由来であり良好な熱成形性及び靭性を有する樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、非水溶性セルロースエーテルに多官能エポキシ基を含む化合物を付加して得られる架橋セルロースエーテルを主成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な樹脂組成物、並びに当該組成物から得られる成形体及び電気・電子機器用筺体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気・電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気・電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筺体)にはPC(Polycarbonate)樹脂、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、これらの混成体等が一般的に多量に使用されている(特許文献1)。これらの樹脂は、石油を原料とする化合物から合成されている。
【0003】
石油等の化石資源は、長年、地中深くに固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源を原料とする製品が焼却され、二酸化炭素が大気中に放出された場合、本来は大気中に現存しなかった炭素が二酸化炭素として急激に放出されることになり、地球温暖化の一因となる。したがって、PC樹脂、ABS樹脂等は、電気・電子機器用部材の素材としては優れた特性を有するが、化石資源を原料とするため、地球温暖化の観点からは好ましくない。
【0004】
対して、植物は、大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成により生成される。そのため、たとえ植物から得られる樹脂が焼却され二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々大気中にあった二酸化炭素に相当するため、大気中の二酸化炭素の総量は増減しないと考えることができる。この考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。現在、石油由来の樹脂に代わって、植物由来の樹脂を用いることが、地球温暖化を防止する上で急務となっている。
【0005】
例えば、PC樹脂において、その原料の一部にデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油の使用量を低減する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法では低減量は不十分であり、石油の使用量を低減する樹脂の開発がより一層求められている。
【0006】
ところで、植物由来の樹脂として、セルロースが知られている。しかし、セルロースは一般的に熱可塑性を持たないため、加熱等により成形することが困難であり、成形加工に適さない。また、たとえ熱成形性を付与できたとしても、靭性が大きく衰える問題がある。
【0007】
また、特許文献3及び4には、植物由来のカルボキシセルロース等といった水溶性の多糖類に、多価エポキシ化合物にて架橋反応させた架橋樹脂が開示されている。特許文献5には、アクリルーポリエステル樹脂、架橋成分、セルロース樹脂及び不活性粒子等を含む磁気記録媒体用積層フィルムが記載されている。
しかし、特許文献3及び4の樹脂は、紙オムツ等の衛生用品、熱交換器用親水性表面処理フィン材等といった吸水性能又は親水性能を必須とする用途を目的としており、いずれの樹脂も熱成形性を必要とする電気・電子機器用筺体等の用途には不適である。特許文献5に記載のフィルムは、石油由来のアクリル−ポリエステル樹脂は主成分として構成されており、その用途も磁気記録媒体用のフィルムに限定されている。また、これらいずれの文献にも、靭性については一切言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−55425号公報
【特許文献2】特開2008−24919号公報
【特許文献3】特開2002−145990号公報
【特許文献4】特開2005−344144号公報
【特許文献5】特開2003−6838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、植物由来であり良好な熱成形性及び靭性を有する樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意研究を重ねた。その結果、植物由来の樹脂としてセルロースエーテルに着目し、更に、添加剤を投入し成形する前に予め特定の架橋剤を添加して架橋させることにより、上記目的を達成するに至った。
すなわち、本発明は下記の樹脂組成物、成形体及びこれらの製造方法に関する。
項1.非水溶性セルロースエーテルに多官能エポキシ基を含む化合物を付加して得られる架橋セルロースエーテルを主成分とする樹脂組成物。
項2.前記架橋セルロースエーテルを80質量%以上含む前記項1に記載の樹脂組成物。
項3.前記架橋セルロースエーテルを80質量%以上及び酸化防止剤を0.1〜15質量%含む前記項1又は2に記載の樹脂組成物。
項4.前記非水溶性セルロースエーテルの溶解度パラメータが8.0〜11.2(cal/cm1/2である前記項1〜3のいずれかに記載の樹脂組成物。
項5.前記非水溶性セルロースエーテルがメチルセルロース、エチルセルロース又はプロピルセルロースである前記項4に記載の樹脂組成物。
項6.前記非水溶性セルロースエーテルがエチルセルロースである前記項4に記載の樹脂組成物。
項7.前記多官能エポキシ基を含む化合物が2〜4のエポキシ基を含有する化合物である前記項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
項8.前記多官能エポキシ基を含む化合物が2官能のグリシジルエーテルである前記項7に記載の樹脂組成物。
項9.前記樹脂組成物が溶融成形用組成物である前記項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
項10.前記項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
項11.前記項10に記載の成形体から構成される電気・電子機器用筐体。
項12.前記項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、非水溶性セルロースエーテルに塩基存在下、多官能エポキシ基を含む化合物を付加反応させる工程、を備えた樹脂組成物の製造方法。
項13.前記項12に記載の工程に先立って、セルロースをエーテル化することにより非水溶性セルロースエーテルを得る工程、を更に備えた前記項12に記載の製造方法。
項14.セルロースを含有する成形体の製造方法であって、予め非水溶性セルロースエーテルに、塩基存在下で多官能エポキシ基を含む化合物を付加反応させることによりセルロース組成物を得る工程、及び 前記セルロース組成物を溶融することにより成形する工程、を備えた成形体の製造方法。
項15.前記項14に記載の工程に先立って、セルロースをエーテル化することにより非水溶性セルロースエーテルを得る工程、を更に備えた前記項14に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境面で優れ、良好な靭性を有し、熱成形に適した樹脂組成物及び当該組成物から得られた成形体を提供できる。
本発明によれば、成形時の作業環境性に優れた成形体の製法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、非水溶性セルロースエーテルに多官能エポキシ基を含む化合物(以下、「多官能エポキシ化合物」という。)を付加して得られる架橋セルロースエーテルを主成分とすることを特徴とする。以下、これを詳述する。
本発明の樹脂組成物に含有する非水溶性セルロースエーテルは、セルロースエーテルの中で非水溶性のものであれば限定的でない。本発明において、非水溶性とは、25℃の水100質量部への溶解度が5質量部以下であることをいう。
非水溶性セルロースエーテルの溶解度パラメータは好ましくは、8.0〜11.2(cal/cm1/2程度、好ましくは8.0〜11.0(cal/cm1/2程度、より好ましくは8.0〜10.8(cal/cm1/2程度である。この範囲とすることにより、架橋セルロースの疎水性が増大し、耐水性がより一層向上する。本発明の溶解度パラメータは、文献「日本接着学会誌、Vol.29、No.5、1993年」に記載された「沖津の式」によって決定される。
非水溶性セルロースエーテルとしては、前述の溶解度パラメータの範囲にあるものが好ましく、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ブチルセルロース、ペンチルセルロース、ヘキシルセルロース、ベンジルセルロース、シアノエチルセルロース、メチルエチルセルロース、メチルプロピルセルロース又はエチルプロピルセルロース等が挙げられる。この中でも好ましくは、メチルセルロース、エチルセルロース又はプロピルセルロースであり、特に好ましくはエチルセルロースである。
【0013】
本発明の樹脂組成物に含有する架橋セルロースエーテルは、非水溶性セルロースエーテルに多官能エポキシ化合物を付加して得られる。すなわち、本発明の架橋セルロースエーテルは、非水溶性セルロースエーテルの水酸基と多官能エポキシ化合物のエポキシ基とが開環付加反応してなる。
非水溶性セルロースエーテルの水酸基とは、一般的にはセルロースをエーテル化してセルロースエーテルを得る際に未反応であった水酸基をいい、セルロース骨格の2位、3位及び6位のいずれの位置の水酸基であってもよい。
例えば、上記非水溶性セルロースエーテルの水酸基の含有量は、0.1〜1.8程度であることが好ましい。より具体的には、例えば、メチルセルロースの水酸基量は、0.1〜1.0が好ましく、0.2〜0.8が更に好ましく、0.3〜0.5が特に好ましい。エチルセルロースの水酸基量は、0.1〜1.5が好ましく、0.2〜1.0が更に好ましく、0.4〜0.8が特に好ましい。プロピルセルロースの水酸基量は、0.1〜1.7が好ましく、0.2〜1.5が更に好ましく、0.4〜1.0が特に好ましい。なお、水酸基量とは、セルロースの無水グルコース単位に対する水酸基のモル量を表し、化学修飾されていないセルロースでは最大値3、全ての水酸基を化学修飾したセルロース誘導体では最小値0となる。水酸基量は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、1H−NMRにより、観測及び決定できる。
【0014】
(多官能エポキシを含む化合物)
本発明の多官能エポキシ化合物は、少なくとも2つ以上のエポキシ基を有する化合物であれば限定的でない。1分子中のエポキシ基の数は限定的でないが、好ましくは2〜4程度、より好ましくは2〜3程度、最も好ましくは2である。
多官能エポキシ化合物の具体例としては、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリジシルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル等の(好ましくはC−C等の)アルカンポリオール及びポリ(アルキレングリコール)のジグリシジルエーテル; ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、エリスリトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等の((好ましくはC−C等の)アルカンポリオール及びポリ(アルキレングリコール)のポリグリシジルエーテル; 1,2,3,4−ジエポキシブタン、1,2,4,5−ジエポキシペンタン、1,2,5,6−ジエポキシヘキサン、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,4−及び1,3−ジビニルベンゼンエポキシド等の(好ましくはC−C等の)ジエポキシアルカン; 4,4‘−イソプロピリデンジフェノールジグリシジルエーテル及びヒドロキノンジグリシジルエーテル等の(好ましくはC−C15等の)ポリフェノールポリグリシジルエーテル;等が挙げられる。
本発明では、2〜4官能のグリシジルエーテルが好ましく、更には2官能又は3官能のグリシジルエーテルが好ましく、特に2官能のグリシジルエーテルが好ましい。特に、アルカンポリオール及びポリ(アルキレングリコール)のジグリシジルエーテル、アルカンポリオール及びポリ(アルキレングリコール)のポリグリシジルエーテル等が好ましく、アルカンポリオール及びポリ(アルキレングリコール)のジグリシジルエーテルが耐水性、靭性等の観点から最も好ましい。
多官能エポキシが付加している割合は限定的でないが、例えば、セルロースエーテルの無水グルコース単位に対して、多官能エポキシ化合物が好ましくは0.01〜1モル当量程度、より好ましくは0.01〜0.5モル当量程度、最も好ましくは0.05〜0.3モル当量程度付加されていればよい。
【0015】
(架橋セルロースエーテル)
本発明の架橋セルロースエーテルは、非水溶性セルロースエーテルに多官能エポキシ化合物を付加して得られる。すなわち、非水溶性セルロースエーテルの水酸基に、多官能エポキシ化合物のエポキシ基が不規則に開環結合した構造をして架橋する。このような構造をしているため、内部可塑化による成形性向上と三次元網目化による成形性悪化がバランス良く相殺し、良好な熱成形性を持ちながら優れた靭性を発揮する樹脂であると推定される。また、剛性、耐熱性、耐水性等も良好である。
なお、本発明では、非水溶性セルロースエーテルに、多官能エポキシ化合物のエポキシ基が架橋するが、例えば、(1)複数のエポキシ基の1つのみが反応した状態であってもよく、また、(2)3つ以上のエポキシ基を有している場合は、2つのエポキシ基が反応し残りのエポキシ基が未反応であるといった状態等であってもよい。
架橋セルロースエーテルの数平均分子量は成形体の使用目的等に応じて適宜決定すればよいが、例えば、通常4万〜20万程度、好ましくは7万〜15万程度である。
本発明の樹脂組成物は、上記架橋セルロースエーテルを主成分として含む。樹脂組成物全量に対して60質量%以上、特に80質量%以上、好ましくは85〜99.9質量%以上、最も好ましくは、90〜99.5質量%含む。この範囲とすることにより、剛性及び耐熱性が向上し、電気電子機器用の外装部品等の熱溶融で得られる成形体に好適に利用することができる。
本発明の樹脂組成物は、本発明の架橋セルロースエーテルのほか、必要に応じて、酸化防止剤、フィラー、難燃剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0016】
(酸化防止剤)
本発明の樹脂組成物は、特に酸価防止剤を含有することが好ましい。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、チバ・ジャパン(株)製のイルガノックス1010、イルガノックス1076、イルガノックス3114等を好適に使用できる。アミン系酸化防止剤としては、例えば、チバ・ジャパン(株)製のイルガスタブFS301FF、イルガスタブFS110等を好適に使用できる。イオウ系酸化防止剤としては、例えば、チバ・ジャパン(株)製のイルガノックスPS800FD、イルガノックスPS802FD等を好適に使用できる。リン系酸化防止剤としては、例えば、チバ・ジャパン(株)製のイルガフォス168、イルガフォス168FF等を好適に使用できる。本発明においては、フェノール系酸化防止剤等を用いるのが好ましい。
本発明の樹脂組成物が酸化防止剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、組成物全量に対して、通常30質量%以下、好ましくは0.1〜15質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%とすれば良い。この範囲とすることにより、混練及び成形プロセスでの加熱に対して樹脂の十分な安定性向上効果を得ることができる。
【0017】
(フィラー)
本発明の樹脂組成物は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、樹脂組成物によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
【0018】
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0019】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0020】
樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、架橋セルロースエーテル100質量部に対して、通常30質量部程度以下、好ましくは5〜10質量部程度とすればよい。
【0021】
(難燃剤)
本発明の樹脂組成物は、難燃剤を含有してもよい。これによって、その燃焼速度の低下又は抑制といった難燃効果を向上させることができる。
難燃剤は、特に限定されず、常用のものを用いることができる。例えば、臭素系難燃剤、塩素系難燃剤、リン含有難燃剤、ケイ素含有難燃剤、窒素化合物系難燃剤、無機系難燃剤等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との複合時や成形加工時に熱分解してハロゲン化水素が発生して加工機械や金型を腐食させたり、作業環境を悪化させたりすることがなく、また、焼却廃棄時にハロゲンが気散したり、分解してダイオキシン類等の有害物質の発生等によって環境に悪影響を与える可能性が少ないことから、リン含有難燃剤及びケイ素含有難燃剤が好ましい。
【0022】
リン含有難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0023】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0024】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0025】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0026】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン含有難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
ケイ素含有難燃剤としては、式:RSi(4−m)/2(mは1以上3以下の整数、Rは、水素原子、置換若しくは非置換の脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基である)で表される構造単位を主構成単位とする二次元又は三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサンの側鎖又は末端のメチル基が、水素原子、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換又は修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0028】
置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、又はトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、前記リン含有難燃剤又はケイ素含有難燃剤以外の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0030】
本発明の樹脂組成物が難燃剤を含有する場合、その含有量は限定的でないが、架橋セルロースエーテル100質量部に対して、通常30質量部程度以下、好ましくは2〜10質量部程度とすればよい。この範囲とすることにより、耐衝撃性・脆性等を改良させたり、ペレットブロッキングの発生を抑制できる。
【0031】
(その他の添加剤)
本発明の樹脂組成物は、前記の架橋セルロースエーテル、フィラー及び難燃剤以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記架橋セルロースエーテル以外のポリマー、可塑剤、安定剤(紫外線吸収剤など)、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。更に、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0032】
前記架橋セルロースエーテル以外のポリマーとしては、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーのいずれも用い得るが、成形性の点から熱可塑性ポリマーが好ましい。架橋セルロースエーテル以外のポリマーの具体例としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレンホモポリマー、ポリプロピレンコポリマー(エチレン−プロピレンブロックコポリマーなど)、ポリブテン−1及びポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマー及び共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族及び脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルイミド等の熱可塑性ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などのフッ素系ポリマー、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0033】
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径(樹脂組成物中における)を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、更にシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらのポリマーは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明の樹脂組成物が架橋セルロースエーテル以外のポリマーを含有する場合、その含有量は、架橋セルロースエーテル100質量部に対して30質量部程度以下が好ましく、2〜10質量部程度がより好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤を含有してもよい。これにより、難燃性及び成形性をより一層向上させることができる。可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤等が挙げられる。
【0036】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸若しくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0037】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0038】
多価カルボン酸系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシルなどのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0039】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、及び末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0040】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0041】
本発明の樹脂組成物が可塑剤を含有する場合、その含有量は、架橋セルロースエーテル100質量部に対して通常5質量部程度以下であり、0.005〜5質量部程度が好ましく、より好ましくは0.01〜1質量部程度である。
【0042】
本発明の成形体の用途は、とくに限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性等を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【0043】
2.架橋セルロースエーテルの製造方法
本発明の架橋セルロースエーテルは、非水溶性セルロースエーテルに塩基存在下、多官能エポキシ化合物を付加反応させる工程により得ることができる。
非水溶性セルロースエーテル及び多官能エポキシ化合物を上述したものである。
塩基としては特に限定されず、有機塩基類(例えば、ピリジン、ルチジン、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジエチルグチルアミン、ジアザビシクロウンデセンなどのアミン類)及び無機塩基類(例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物など)を用いることができる。本発明では無機塩基類が好ましい。より好ましくはアルカリ金属水酸化物であり、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどが挙げられ、この中でも水酸化ナトリウムが特に好ましい。
塩基の添加量は限定的でないが、例えば、セルロースエーテルの無水グルコース単位に対して、塩基を0.1〜3.0モル当量程度、好ましくは0.1〜1.0モル当量程度とすればよい。
【0044】
多官能エポキシ化合物の添加量は限定的でないが、例えば、セルロースエーテルの無水グルコース単位に対して、多官能エポキシ化合物を0.01〜5モル当量程度、好ましくは0.02〜1.0モル当量程度、より好ましくは0.1〜0.6モル当量程度とすればよい。
【0045】
溶媒は限定的でないが、例えば、水、トルエン、アセトン等が挙げられる。これら溶媒は一種単独又は二種以上を混合して使用することができる。
反応温度は、非水溶性セルロースエーテル及び多官能エポキシ含有化合物の種類、反応時間等に応じて適宜決定すればよいが、通常30〜100℃、好ましくは50〜90℃で行えばよい。
反応時間は、上記化合物の種類、反応温度等に応じて適宜決定すればよいが、通常0.5〜6時間程度、好ましくは、1〜5時間程度とすればよい。
付加反応は、大気雰囲気下で行ってもよく、窒素等の不活性ガス下で行ってもよい。また、減圧下で行っても大気圧下で行ってもよい。必要に応じて攪拌してもよい。
付加反応により得られた架橋セルロースエーテルは、更に必要に応じて、洗浄、ろ過、乾燥等を行ってもよい。
【0046】
なお、本発明の製造方法において、非水溶性セルロースエーテルは市販のものを用いても良いし、上記工程に先立ってセルロースをエーテル化する工程を経て得られたセルロースエーテルを用いてもよい。
このエーテル化工程のセルロースの原料としては限定的でなく、例えば、綿、リンター、パルプ等が挙げられる。これらは粉砕して使用すればよい。
エーテル化工程は公知の方法を採用することができる。例えば、セルロースに、ハロゲン化炭化水素及び/又はアルキレンオキシド等を反応させればよい。
ハロゲン化炭化水素としては、ハロゲンで置換されたアルカン、芳香族炭化水素等であればよく、好ましくはアルキルハライド等が挙げられる。アルキルハライドとしては、例えば、C2n+1−X(Xは、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン)で表されるアルキルハライド又はその誘導体が好ましい。具体的には、nは例えば1〜10程度とすればよく、1〜4が好ましく、1〜3が更に好ましく、1〜2が最も好ましい。添加量は、セルロースの無水グルコース単位に対して、3〜15モル当量程度、好ましくは6〜12モル当量程度とすればよい。
【0047】
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなどが用いられる。添加量は、セルロースの無水グルコース単位に対して、0.1〜5モル当量程度、好ましくは0.1〜3モル当量程度とすればよい。
溶媒は限定的でないが、例えば、付加反応で上述したものと同じものが挙げられる。
反応温度は限定的でなく、通常40〜150℃、好ましくは60〜130℃で行えばよい。
反応時間は反応温度等に応じて適宜決定すれば良く、通常3〜15時間程度、好ましくは、5〜12時間程度とすればよい。
エーテル化工程は、大気雰囲気下で行ってもよく、窒素等の不活性ガス下で行ってもよい。また、減圧下で行っても大気圧下で行ってもよい。必要に応じて攪拌しながら行ってもよい。
エーテル化工程後に、必要に応じて、洗浄、ろ過、乾燥等を行ってもよい。また、エーテル化工程に先立って、セルロースに、水酸化アルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)などの塩基を添加してアルカリ化する活性化処理を行ってもよい。
【0048】
3.成形体の製造方法
本発明の成形体は、予め非水溶性セルロースエーテルに、塩基存在下で、多官能エポキシ化合物を付加反応させることによりセルロース組成物を得る工程、及び前記セルロース組成物を熱溶融することにより成形する工程により、製造することができる。これにより、優れた靭性等を有する成形体を得るだけでなく、熱溶融前にセルロース組成物を架橋(付加)させているため、熱溶融途中に架橋剤を添加する際と比べて、熱溶融の際の架橋剤の揮発が大幅に抑制でき、成形時の作業環境性にも優れる。
付加反応させる工程は上述した通りである。得られた架橋セルロースエーテルに必要に応じて添加物を添加及び混合することによりセルロース組成物を得ることができる。
熱溶融は、例えば、通常100〜300℃、好ましくは120〜250℃に加熱することにより行うことができる。必要に応じて、加圧してもよい。
成形方法は、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。他の条件は、常法に従って行えばよい。
【実施例】
【0049】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。なお、水酸基量は、Cellulose Communication 6,73−79(1999)に記載の方法を利用して、1H−NMRにより、観測及び決定した。
【0050】
<合成例1:P−1の合成>
2L三口フラスコにエチルセルロース(ダウケミカル社製、エトセル45CP、溶解度パラメータ9.98、水酸基量0.5)50g(1.0モル当量)、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム8.6g(1.0モル当量)/水14mL)、トルエン500mLを量り取り、窒素雰囲気下、50℃で1時間攪拌した。放冷後、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル(L−1)28mL(0.5モル当量)を加えて、60℃で1時間、80℃で3時間攪拌した。室温に戻した後、ヘキサン2Lへ激しく攪拌しながら投入することで白色固体を得た。得られた白色固体をヘキサン2Lで洗浄する操作を3回、更に熱水2Lで洗浄する操作を3回繰り返すことで白色固体を得た。得られた白色固体を吸引濾過によりろ別し、100℃で6時間真空乾燥することにより目的の架橋セルロースエーテル(P−1)を白色粉体として得た(収量50g)。
【0051】
<合成例2:P−2の合成>
合成例1においてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをエチレングリコールジグリシジルエーテル(L−2)に変更した以外は同様にして目的の架橋セルロースエーテル(P−2)を白色粉体として得た(収量46g)。
【0052】
<合成例3:P−3の合成>
合成例1においてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Mn=380、L−3)に変更した以外は同様にして目的の架橋セルロースエーテル(P−3)を白色粉体として得た(収量47g)。
【0053】
<合成例4:P−4の合成>
合成例1においてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Mn=680、L−4)に変更した以外は同様にして目的の架橋セルロースエーテル(P−4)を白色粉体として得た(収量46g)。
【0054】
<合成例5:P−5の合成>
オートクレーブ(耐圧硝子工業製、簡易型オートクレーブTEM−D3000M)に解砕パルプ100g(1.0モル当量)、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム222g(9.0モル当量)/水150mL)、トルエン150mLを量り取り、窒素雰囲気下、45℃で1時間攪拌した。放冷後、ドライアイス/メタノールバスで−40℃に冷却し、更に、クロロメタン278g(8.5モル当量)を加えて、60℃で1時間、100℃で6時間攪拌した。室温に戻した後、再びドライアイス/メタノールバスで−40℃に冷却し、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム74g(3.0モル当量)/水50mL)、クロロメタン90g(2.7モル当量)を加えて、100℃で6時間攪拌した。室温に戻した後、系内の残存ガスを排気し、水6Lへ激しく攪拌しながら投入することで灰色固体を得た。得られた灰色固体を熱水6Lで洗浄する操作を3回、更にメタノール2L/水6L混合溶媒で洗浄する操作を3回繰り返すことで灰白色固体を得た。得られた灰白色固体を吸引濾過によりろ別し、100℃で6時間真空乾燥することによりメチルセルロース(溶解度パラメータ10.40、水酸基量0.4)98gを灰白色粉体として得た。
得られたメチルセルロースを原料として、合成例1においてエチルセルロースをメチルセルロースに、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Mn=680、L−4)に変更した以外は同様にして目的の架橋セルロースエーテル(P−5)を灰白色粉体として得た(45g)。
【0055】
<合成例6:P−6の合成>
オートクレーブ(耐圧硝子工業製、簡易型オートクレーブTEM−D3000M)に解砕パルプ100g(1.0モル当量)、水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム222g(9.0モル当量)/水150mL)、トルエン150mLを量り取り、窒素雰囲気下、45℃で1時間攪拌した。放冷後、臭化プロパン477mL(8.5モル当量)を加えて、120℃で6時間攪拌した。室温に戻した後、系内の残存ガスを排気し、水6Lへ激しく攪拌しながら投入することで褐色固体を得た。得られた褐色固体を熱水6Lで洗浄する操作を3回、更にメタノール4Lで洗浄する操作を3回繰り返すことで灰白色固体を得た。得られた灰白色固体を吸引濾過によりろ別し、100℃で6時間真空乾燥することによりプロピルセルロース(溶解度パラメータ10.12、水酸基量1.0)160gを灰白色粉体として得た。
得られたプロピルセルロースを原料として、合成例1においてエチルセルロースをプロピルセルロースに、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル(Mn=680、L−4)に変更した以外は同様にして目的の架橋セルロースエーテル(P−6)を灰褐色粉体として得た(50g)。
【0056】
<合成例7:P−7の合成>
合成例1においてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル(L−7)に変更した以外は同様にして目的の架橋セルロースエーテル(P−7)を白色粉体として得た(収量51g)。
【0057】
<合成例8:P−8の合成>
合成例1においてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルを4,4‘−イソプロピリデンジフェノールジグリシジルエーテル(L−6)に変更した以外は同様にして目的の架橋セルロースエーテル(P−8)を白色粉体として得た(収量51g)。
【0058】
<比較化合物の合成例1:H−2の合成>
合成例1においてトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをテトラメチレンジイソシアネート(L−8)に変更した以外は同様にして目的の比較化合物(H−2)を白色粉体として得た(収量50g)。
【0059】
<比較化合物の合成例2:H−3の合成>
合成例1においてエチルセルロースをヒドロキシプロピルセルロース(東京化成工業社製、溶解度パラメータ11.38、水酸基量2.0)に変更した以外は同様にして目的の比較化合物(H−3)を白色粉体として得た(収量43g)。
【0060】
<比較化合物の合成例3:H−6の合成>
合成例1においてエチルセルロースをジアセチルセルロース(ダイセル化学工業製、L−70、溶解度パラメータ11.68、水酸基量0.6)に、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルをアジピン酸ジクロリド(L−5)変更した以外は同様にして目的の比較化合物(H−6)を白色粉体として得た(収量51g)。
【0061】
<実施例1:架橋セルロースエーテルの成形体の作製>
[試験片作製]
上記で得られた架橋セルロースエーテル(P−1)に酸化防止剤としてイルガノックス1010(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を組成物全量に対して1質量%となるように添加して組成物を作成し、当該組成物を射出成形機((株)井元製作所製、半自動射出成形機)に供給して表1に記載の成形温度(シリンダー温度)、金型温度40℃、射出圧力1.5kgf/cmにて4×10×80mmの試験片を成形した。
【0062】
<実施例2〜8、比較例1〜6>
実施例1と同様にして、架橋セルロースエーテル(P−2)〜(P−8)、エチルセルロース(H−1、ダウケミカル社製、エトセル45CP)、比較化合物(H−2)〜(H−3)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(H−4、東京化成試薬)、ジアセチルセルロース(H−5、ダイセル化学工業製、L−70)、比較化合物(H−6)を用いて、表1の成形条件に従って成形し試験片を作製した。
【0063】
<試験片の物性測定>
得られた試験片について、シャルピー衝撃強度、曲げ弾性率、熱変形温度(HDT)及び耐水性を下記の方法にしたがって評価した。結果を表1に示す。
【0064】
[シャルピー衝撃強度]
ISO179に準拠して、射出成形にて成形した試験片に入射角45±0.5°、先端0.25±0.05mmのノッチを形成し、30℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上調整した後、シャルピー衝撃試験機によってエッジワイズにて衝撃強度を測定した。
【0065】
[曲げ弾性率]
JISK7171に準拠して曲げ試験機によって曲げ弾性率を測定した。
【0066】
[熱変形温度(HDT)]
ISO75に準拠して、試験片の中央に一定の曲げ荷重(1.8MPa)を加え(フラットワイズ方向)、等速度で昇温させ、中央部のひずみが0.34mmに達したときの温度を測定した。
【0067】
[耐水性]
得られた試験片の耐水性は、23℃で24時間吸水(水に浸漬)させたときの外観を下記基準にしたがって官能評価した。
A:膨潤による寸度変化(体積比)が5%未満である。
B:膨潤による寸度変化(体積比)が5%以上10%未満である。
C:膨潤による寸度変化(体積比)が10%以上である。
D:溶解している。
【0068】
【表1】

【0069】
【化1】

【0070】
表1の結果から明らかなように、本発明の架橋セルロースエーテルは良好な剛性(曲げ弾性率)及び耐熱性(HDT)を有しつつ、靭性(シャルピー衝撃強度)を飛躍的に向上させることができる。また、エポキシ基含有化合物以外で架橋したH−2が成形中に熱分解してしまうのに対して、本発明のエポキシ基含有化合物で架橋された架橋セルロースエーテルは良好な熱成形性も保持できることもわかる。更に、本発明の架橋セルロースは耐水性にも優れており、特に2官能のグリシジルエーテルを使用した際に、より顕著に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性セルロースエーテルに多官能エポキシ基を含む化合物を付加して得られる架橋セルロースエーテルを主成分とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記架橋セルロースエーテルを80質量%以上含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記架橋セルロースエーテルを80質量%以上及び酸化防止剤を0.1〜15質量%含む請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記非水溶性セルロースエーテルの溶解度パラメータが8.0〜11.2(cal/cm1/2である請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記非水溶性セルロースエーテルがメチルセルロース、エチルセルロース又はプロピルセルロースである請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記非水溶性セルロースエーテルがエチルセルロースである請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記多官能エポキシ基を含む化合物が2〜4のエポキシ基を含有する化合物である請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記多官能エポキシ基を含む化合物が2官能のグリシジルエーテルである請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記樹脂組成物が溶融成形用組成物である請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項11】
請求項10に記載の成形体から構成される電気・電子機器用筐体。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、非水溶性セルロースエーテルに塩基存在下、多官能エポキシ基を含む化合物を付加反応させる工程、を備えた樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の工程に先立って、セルロースをエーテル化することにより非水溶性セルロースエーテルを得る工程、をさらに備えた請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
セルロースを含有する成形体の製造方法であって、
予め非水溶性セルロースエーテルに、塩基存在下で多官能エポキシ基を含む化合物を付加反応させることによりセルロース組成物を得る工程、及び
前記セルロース組成物を溶融することにより成形する工程、
を備えた成形体の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の工程に先立って、セルロースをエーテル化することにより非水溶性セルロースエーテルを得る工程、をさらに備えた請求項14に記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−195789(P2011−195789A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67071(P2010−67071)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】