説明

樹脂組成物、成形体、及び電気電子機器用筐体

【課題】成形性に優れ、ブリードアウトが抑制され、かつ曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性に優れる成形体が得られる樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 アシル置換度2.8以下のセルロースエステルと、可塑剤と、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物とを含有する樹脂組成物であって、前記イソシアネート基の含有量が前記セルロースエステル中のヒドロキシル基に対して0.005〜0.05当量であり、かつ熱可塑性を有することを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、成形体、及び電気電子機器用筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
コピー機、プリンター等の電気電子機器を構成する部材には、その部材に求められる特性、機能等を考慮して、各種の素材が使用されている。例えば、電気電子機器の駆動機等を収納し、当該駆動機を保護する役割を果たす部材(筐体)にはPC(Polycarbonate)、ABS(Acrylonitrile−butadiene−styrene)樹脂、PC/ABS等が一般的に多量に使用されている。これらの樹脂は、石油を原料として得られる化合物を反応させて製造されている。
ところで、石油、石炭、天然ガス等の化石資源は、長年月の間、地中に固定されてきた炭素を主成分とするものである。このような化石資源、又は化石資源を原料とする製品を燃焼させて、二酸化炭素が大気中に放出された場合には、本来、大気中に存在せずに地中深くに固定されていた炭素を二酸化炭素として急激に放出することになり、大気中の二酸化炭素が大きく増加し、これが地球温暖化の原因となっている。したがって、化石資源である石油を原料とするABS、PC等のポリマーは、電気電子機器用部材の素材としては、優れた特性を有するものであるものの、化石資源である石油を原料とするものであるため、地球温暖化の防止の観点からは、その使用量の低減が望ましい。
一方、植物由来の樹脂は、元々、植物が大気中の二酸化炭素と水とを原料として光合成反応によって生成したものである。そのため、植物由来の樹脂を焼却して二酸化炭素が発生しても、その二酸化炭素は元々、大気中にあった二酸化炭素に相当するものであるから、大気中の二酸化炭素の収支はプラスマイナスゼロとなり、結局、大気中のCOの総量を増加させない、という考え方がある。このような考えから、植物由来の樹脂は、いわゆる「カーボンニュートラル」な材料と称されている。石油由来の樹脂に代わって、カーボンニュートラルな材料を用いることは、近年の地球温暖化を防止する上で急務となっている。
このため、PCポリマーにおいて、石油由来の原料の一部としてデンプン等の植物由来資源を使用することにより石油由来資源を低減する方法が提案されている(特許文献1)。
しかし、より完全なカーボンニュートラルな材料を目指す観点から、さらなる改良が求められている。
【0003】
セルロースは植物から得られる地球上で再生産可能なバイオマス材料として、また環境中にて生分解可能な材料として、昨今の大きな注目を集めつつある。セルロースは紙に用いられるばかりではなく、その誘導体であるセルロースエステルは、例えばセルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート等が、フィルム材料等として用いられている。
【0004】
例えば、特許文献2には、脂肪族ポリエステル樹脂とセルロース誘導体とを含有し、更に分子内に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を含む樹脂組成物から形成される樹脂層を有する水溶性防水フィルムが記載されている。
特許文献3には、熱溶融性樹脂と架橋剤とを含み、更にセルロースエステルを含むことができる樹脂組成物からなる、カプセル型再帰反射シートの支持体フィルムが記載され、架橋剤としてはポリイソシアネート化合物が記載されている。
更に、特許文献4には、ポリイソシアネートとセルロースエステルからなる溶液(ドープ)からフィルムが製膜されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−24919号公報
【特許文献2】特開2003−145693号公報
【特許文献3】特開平8−234006号公報
【特許文献4】特開2004−292558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電気電子機器用筐体などのフィルム以外の成形体用樹脂としてセルロースエステルに着目した場合、セルロースエステルが一般的に熱可塑性を持たず加熱により溶融させて成形することが困難であるため、成形加工に適さず、熱可塑性を付与して溶融により成形しても成形品の強度が大きく衰える問題がある。実際に、特許文献2〜4では、セルロースエステルを含む樹脂組成物によりフィルムが製膜されているが、いずれもセルロースエステルを溶解した溶液の塗布や流延による製膜であり、溶融製膜されていない。
熱可塑性を付与するためにセルロースエステルに可塑剤を添加することもあるが、可塑剤などの添加剤の添加は、一般に、成形工程における揮散やブリードアウトが生じるといった問題がある。
また、特許文献2〜4ではセルロースエステルを含む樹脂組成物にイソシアネート化合物が用いられている。特許文献2〜4では、該樹脂組成物から溶液製膜によりフィルムが形成されており、該樹脂組成物は熱可塑性を有していないと考えられる。しかし、成形体を溶融にて成形する場合、200℃〜250℃の高温で樹脂組成物を混練し成形するため、樹脂組成物が多量のイソシアネート化合物を含むと、イソシアネート化合物が空気中の水分により分解し、アミンを生成し、セルロースエステルを分解してしまう。更に、イソシアネート化合物のような架橋剤を添加すると粘度が上がり、混練が困難に成ることが推察される。
しかしながら、セルロースエステルと可塑剤を含む樹脂組成物においてセルロースエステルのヒドロキシ基に対して少量のイソシアネート基が存在することで、粘度上昇とセルロースエステルの分解を抑え、ブリードアウトが抑制され、かつ強度(曲げ弾性率)、耐熱性、耐吸水性に優れる成形体が得られる樹脂組成物を得られることが分かった。
【0007】
本発明の目的は、様々な用途に用いることができる新規な樹脂組成物として、成形性に優れ、ブリードアウトが抑制され、かつ曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性に優れる成形体が得られる樹脂組成物を提供することである。また、本発明の別の目的は、該樹脂組成物を成形して得られる成形体、及び該成形体から構成される電気電子機器用筐体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の通り、本発明者らの検討により、セルロースエステルに対して少量、より詳細にはセルロースエステルのヒドロキシ基に対して0.005〜0.05当量のイソシアネート基が存在する場合、粘度上昇やセルロースエステルの分解を抑えつつ、樹脂組成物中での可塑剤の分散性を向上させ、ブリードアウトを抑制することできることを見出した。更に、イソシアネート基を有する化合物が1分子中にイソシアネート基を2個以上有することによりセルロースエステルが架橋することで、樹脂組成物の物性が向上し、該樹脂組成物により曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性に優れる成形体を得ることができることを見出した。
即ち、上記課題は以下の手段により達成することができる。
【0009】
[1]
アシル置換度2.8以下のセルロースエステルと、可塑剤と、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物とを含有する樹脂組成物であって、
前記イソシアネート基の含有量が前記セルロースエステル中のヒドロキシル基に対して0.005〜0.05当量であり、かつ
熱可塑性を有する樹脂組成物。
[2]
前記セルロースエステルがセルロースジアセテート又はセルロースアセテートプロピオネートである[1]に記載の樹脂組成物。
[3]
前記可塑剤がエステル結合を有する化合物である[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]
前記可塑剤の質量平均分子量が500以上である[1]〜[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5]
前記可塑剤の含有量が10〜30質量%である[1]〜[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[6]
前記1分子中に2個以上のイソシアネート基を含有する化合物が、以下の一般式(1)で表される連結基及び一般式(2)で表される連結基の少なくとも一方を有する[1]〜[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
(1):−NR−(C=O)−NR
(2):−NR−(C=O)−O−
[式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基を表す。]
[7]
更に、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤及びその他の無機系難燃剤から選択された1種以上の難燃剤を含有する[1]〜[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[8]
更に、フッ素系樹脂を含有する[1]〜[7]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[9]
更に、熱可塑性樹脂を含有する[1]〜[8]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[10]
前記セルロースエステルの含有量が40〜80質量%である[1]〜[9]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[11]
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネートである[9]又は[10]に記載の樹脂組成物。
[12]
[1]〜[11]のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
[13]
[12]に記載の成形体から構成される電気電子機器用筺体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、成形性に優れ、ブリードアウトが抑制され、該樹脂組成物により得られる成形体は曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性に優れる。したがって、例えば自動車、家電、電気電子機器等の構成部品、機械部品、住宅・建築用材料等として好適に使用することができる。また、本発明の樹脂組成物は、植物由来の樹脂であるセルロースから得られるセルロースエステル系樹脂を使用しているため、温暖化防止に貢献できる素材として、従来の石油由来の樹脂に代替できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、セルロースエステルと、可塑剤と、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物とを含有する樹脂組成物であって、前記イソシアネート基の含有量が前記セルロースエステル中のヒドロキシル基に対して0.005〜0.05当量であり、かつ熱可塑性を有する。
このような熱可塑性を有する樹脂組成物では、ブリードアウトが抑制され、かつ曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性に優れる成形体を得ることができる。
【0012】
(セルロースエステル)
本発明の樹脂組成物はセルロースエステルを含有する。
本発明におけるセルロースエステルとしては、特に限定はない。セルロースエステルは、通常、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、コットンリンターパルプ等のセルロースをエステル化して製造されている。
【0013】
セルロースエステルは、セルロースをアシル化剤と反応させる慣用のエステル化方法により生成でき、必要に応じてケン化又は熟成工程を経て製造できる。セルロースエステルは、通常、パルプ(セルロース)を活性化剤により活性化処理(活性化工程)した後、硫酸などの触媒を用いてアシル化剤によりエステル(トリエステルなど)を調製し(アシル化工程)、ケン化(加水分解)・熟成によりエステル化度を調整する(ケン化・熟成工程)ことにより製造できる。セルロースアセテートの場合は、例えば、硫酸触媒法、酢酸法、メチレンクロライド法等の慣用の方法で製造できる。
【0014】
アシル化工程におけるアシル化剤の割合は、所望のアシル化度(酢化度など)となる範囲で選択でき、例えば、パルプ(セルロース)100質量部に対して230〜300質量部、好ましくは240〜290質量部、更に好ましくは250〜280質量部程度である。なお、セルロースアセテートの場合、アシル化剤としては、例えば、無水酢酸などが使用できる。
【0015】
アシル化又は熟成触媒としては、通常、硫酸が使用される。硫酸の使用量は、通常、セルロース100質量部に対して、0.5〜15質量部、好ましくは5〜15質量部、更に好ましくは5〜10質量部程度である。また、ケン化・熟成の温度は、40〜160℃の範囲から選択でき、例えば、50〜70℃程度である。
更に、残留した硫酸を中和するために、アルカリで処理してもよい。
【0016】
セルロースエステルとしては、例えば、有機酸エステル[セルロースアセテート(酢酸セルロース)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート等の炭素数2〜6のカルボン酸とのセルロースカルボン酸エステルなど]、混合エステル(セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の炭素数2〜6のカルボン酸とのセルロースジカルボン酸エステルなど)、グラフト体(ポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテートなど)、無機酸エステル(硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等)、有機酸・無機酸混合エステル(硝酸酢酸セルロースなど)等が例示される。
本発明においては、これらのセルロースエステルのうち、有機酸で修飾されたセルロース有機酸エステルが好ましく、炭素数2〜12の有機酸で修飾されたセルロース有機酸エステルがより好ましい。具体的には、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネートブチレートなどが好ましく、セルロースジアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネートブチレートがより好ましい。
更に、ブリードアウト抑制、曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性向上の観点から、セルロースジアセテート、セルロースアセテートプロピオネートが好ましい。これらのセルロースエステルは、イソシアネート基と相互作用し易いヒドロキシル基の数が多いため、セルロースエステルの架橋が進み、上記諸性能の向上の効果が大きい。
【0017】
セルロースエステルのアシル置換度は2.8以下である。2.8以下の置換度の場合、アシル基で置換されていないヒドロキシル基と本発明に係るイソシアネート基を含有する化合物とが架橋し、その結果、成形体の曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性を向上させることができる。アシル置換度は、2.7以下であることが好ましく、2.65以下であることがより好ましく、2.6以下であることが更に好ましい。また、アシル置換度は1.0以上であることが好ましく、1.3以上であることが好ましく、1.5以上であることが更に好ましい。
セルロースアセテートの場合、平均酢化度30〜62.5%程度の範囲から選択でき、通常、平均酢化度43.7〜62.5%(アセチル基の平均置換度1.7〜3)、好ましくは45〜62.5%(平均置換度1.8〜3)、更に好ましくは48〜62.5%(平均置換度2〜3)程度である。
【0018】
セルロースエステルの重合度は、特に制限されず、粘度平均重合度200〜400、好ましくは250〜400、更に好ましくは270〜350程度である。
本発明におけるセルロースエステルの分子量は、数平均分子量(Mn)が5×10〜1000×10の範囲が好ましく、10×10〜500×10の範囲が更に好ましく、10×10〜250×10の範囲が最も好ましい。また、質量平均分子量(Mw)は、7×10〜10000×10の範囲が好ましく、15×10〜5000×10の範囲が更に好ましく、100×10〜3000×10の範囲が最も好ましい。この範囲の平均分子量とすることにより、成形性、及び成形体の力学強度等を向上させることができる。
分子量分布(MWD)は1.1〜10.0の範囲が好ましく、1.5〜8.0の範囲が更に好ましい。この範囲の分子量分布とすることにより、成形性等を向上させることができる。
本発明における、数平均分子量(Mn)、質量平均分子量(Mw)及び分子量分布(MWD)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行うことができる。具体的には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求めることができる。
【0019】
本発明におけるセルロースエステルは公知の方法で製造することができる。また、市販品を使用することもできる。例えば、セルロースアセテートプロピオネートとして、イーストマンケミカル社製、「482−20(アセチル置換度:0.1、プロピオニル置換度:2.5、Mn:73000、Mw:234000)」が、セルロースジアセテートとして、ダイセル化学製、「L−70(アセチル置換度:2.45、Mn:65000、Mw:200000)」、「FL−70(アセチル置換度:2.19、Mn:69800、Mw:207000)」、セルローストリアセテートとして、ダイセル化学製、「FRM(アセチル置換度:2.79、Mn:66000、Mw:186000)」などがある。
【0020】
本発明の樹脂組成物に含まれるセルロースエステルの含有量は特に限定されない。好ましくはセルロースエステルを樹脂組成物の全固形分に対して、35〜85質量%であり、より好ましくは40〜80質量%であり、更に好ましくは40.5〜75質量%、更に好ましくは41〜70質量%含有する。この範囲とすることで、カーボンニュートラルな材料としての意義を有しつつ、曲げ弾性率、耐熱性、及び耐吸水性に優れた成形体を得ることができる。
【0021】
(可塑剤)
本発明の樹脂組成物は可塑剤を含有する。これにより、成形性を向上させることができる。
可塑剤としては、ポリマーの成形に常用されるものを用いることができる。例えば、ポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤及びエポキシ系可塑剤等が挙げられる。
【0022】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジンなどの酸成分と、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのジオール成分からなるポリエステルや、ポリカプロラクトンなどのヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは単官能カルボン酸若しくは単官能アルコールで末端封鎖されていてもよく、またエポキシ化合物などで末端封鎖されていてもよい。
【0023】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネート、グリセリントリベンゾエート等が挙げられる。
【0024】
多価カルボン酸エステル系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジルなどのフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシル、トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)などのトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n−オクチル−n−デシル、アジピン酸メチルジグリコールブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコールなどのアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチルなどのクエン酸エステル、アゼライン酸ジ−2−エチルヘキシルなどのアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ−2−エチルヘキシル等が挙げられる。
【0025】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体などのポリアルキレングリコールあるいはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、及び末端エーテル変性化合物等が挙げられる。
【0026】
エポキシ系可塑剤とは、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリドなどを指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0027】
その他の可塑剤の具体例としては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレートなどの脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、オレイン酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチルなどのオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール等が挙げられる。
【0028】
本発明における可塑剤としては、エステル結合を有するものが好ましい。エステル結合を有する可塑剤は、セルロースエステルと相互作用しやすく、成形性の向上に有利であり、また、本発明の1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物の添加による耐吸水性向上効果を促進させることができる。エステル結合を有する可塑剤として、前述のポリエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル、オキシ酸エステルが挙げられる。
なかでも、ポリエステル系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤が好ましく、ポリエステル系可塑剤がより好ましい。
【0029】
本発明における可塑剤としては、質量平均分子量は500以上が好ましく、600〜4000がより好ましく、800〜2000が特に好ましい。可塑剤の平均分子量がこの範囲にあると、セルロースエステルとの相溶性が高まり、分散性が向上し、ブリードアウト抑制効果が高い。
【0030】
本発明の樹脂組成物における可塑剤の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して、10〜30質量%が好ましく、12〜25質量%がより好ましく、15〜20質量%が特に好ましい。含有量がこの範囲であると、曲げ弾性率、耐熱性、耐吸湿率の向上の観点から好ましい。
【0031】
(1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物)
本発明の樹脂組成物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物(以下、「特定イソシアネート化合物」と称する)を含有し、樹脂組成物中の該イソシアネート基の含有量はセルロースエステル中のヒドロキシル基に対して0.005〜0.05当量である。イソシアネート基の含有量がこの範囲となるように特定イソシアネート化合物を樹脂組成物中に含有させることにより、樹脂組成物の粘度上昇やセルロースエステルの分解を抑えつつ、可塑剤の分散性を向上させ、ブリードアウトを抑制できる。更に、セルロースエステルが架橋することにより樹脂組成物の物性が向上し、その結果、曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性に優れる成形体を得ることができる。樹脂組成物中のイソシアネート基の含有量は、セルロースエステル中のヒドロキシル基に対して0.01〜0.03当量が好ましく、0.015〜0.02当量がより好ましい。
特定イソシアネート化合物の1分子中のイソシアネート基は、2〜3個であることが好ましく、3個であることがより好ましい。この範囲であると、セルロースエステルとの架橋により粘度上昇を抑え易いので、成形性の観点から好ましい。
【0032】
特定イソシアネート化合物としては、炭化水素を有するものが好ましく、複数の炭化水素が、連結基により連結されていてもよい。炭化水素としては、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素が挙げられるが、セルロースエステルとの混ざり易さの観点から、脂肪族炭化水素が好ましい。
脂肪族炭化水素としては、オレフィン系炭化水素やシクロパラフィン系炭化水素が挙げられる。オレフィン系炭化水素としては、炭素数2〜12が好ましく、4〜8がより好ましく、4〜6が更に好ましい。シクロパラフィン系炭化水素としては、炭素3〜20が好ましく、5〜15がより好ましく、6〜12が更に好ましい。
芳香族炭化水素としては、炭素5〜20が好ましく、6〜15がより好ましく、6〜12が更に好ましい。
これらの炭化水素は、置換基を有していてもよく、置換基としては、アルキル基、アリール基ハロゲン、ヒドロキシル基が挙げられる。
複数の炭化水素が連結基により連結されている場合、該連結基としては、ウレタン結合、ウレイド結合、エーテル基、チオテーテル基、アミド基、エステル基が挙げられる。
【0033】
本発明の特定イソシアネート化合物としては、セルロースエステルとの相互作用の観点から、以下の一般式(1)で表される連結基及び一般式(2)で表される連結基の少なくとも一方を有することが好ましい。特に、一般式(2)で表される連結基を有することが好ましい。一般式(1)又は一般式(2)で表される連結基を有する特定イソシアネート化合物は可塑剤やセルロースエステルとの相互作用し易く、可塑剤の分散性向上や、成形体の曲げ強度、耐熱性及び耐吸水性の向上に有利である。
【0034】
(1):−NR−(C=O)−NR
(2):−NR−(C=O)−O−
[式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基を表す。]
【0035】
一般式(1)及び(2)について説明する。
及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基を表す。炭化水素基としては、アルキル基(好ましくは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル)、アリール基(好ましくは、フェニル)が挙げられる。置換基としては、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、ヒドロキシル基が挙げられる。
【0036】
一般式(1)又は一般式(2)で表される連結基により、好ましくはイソシアネート基が置換した炭化水素であり、該炭化水素としては、前述の脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素が挙げられる。
【0037】
本発明の特定イソシアネート化合物の具体例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジイソシアネートシクロヘキサン、トリデンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート,1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルシクロヘキサン−2,4(又は2,6)−ジイソシアネート、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、ジシクロヘキサンメタン4,4′−ジイソシアネート、4,4′−ジイソシアン酸メチレンジフェニル、2,2−ビス(4−イソシアネートフェニル)ヘキサフルオロプロパンなどが挙げられる。また、一般式(1)及び/又は一般式(2)で表される連結基を有する特定イソシアネート化合物としては、スミジュール44S、44V70(いずれも住化バイエルウレタン製)、TDI(トリレンジイソシアネート)とHDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)のコポリマーであるディスモジュールHL(住化バイエルウレタン製)、旭化成ケミカルズ製の各種デュラネート、すなわちデュラネート24A−100、デュラネート22A−75PX、デュラネート18H−70B、デュラネート21S−75E、デュラネートTHA−100、デュラネートTPA−100、デュラネートMFA−75X、デュラネートTSA−100、デュラネートTSS−100、デュラネートTSE−100、デュラネートD−101、デュラネートD−201、デュラネートP−301−75E、デュラネートE−402−90T、デュラネートE−402−90T、デュラネートE−405−80T、デュラネートME20−100、デュラネート17B−60PX、デュラネートTPA−B80X、デュラネートMF−B60X、デュラネートE−402−B80T、デュラネートME20−B80S、デュラネートWB40−100、デュラネートWB40−80D、デュラネートWT20−100、デュラネートWT30−100、デュラネートMHG−80B、URIC N−2023、URIC N−2312D、URIC N−2316(伊藤製油株式会社製)等の市販品を用いることができる。
【0038】
本発明の特定イソシアネート化合物の数平均分子量は、ブリードアウト抑制の観点から、200〜5000が好ましく、300〜4000がより好ましい。
また、本発明の樹脂組成物における特定イソシアネート化合物の含有量は、セルロースエステルのヒドロキシル基に対するイソシアネート基の当量が前述の範囲になるような量であれば特に制限されないが、樹脂組成物の全固形分に対して、好ましくは0.01〜1.5質量%であり、より好ましくは0.03〜1質量%であり、更に好ましくは0.05〜0.8質量%である。
【0039】
(難燃剤)
本発明の樹脂組成物は、更に、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤及びその他の無機系難燃剤から選択された1種以上の難燃剤を含むことが好ましい。これにより、燃焼速度の低下又は抑制といった難燃効果を向上させることができる。更に、可塑剤や特定イソシアネート化合物の分散性を向上させ、ブリードアウトを抑制し、耐吸水性を向上させることができる。
上記難燃剤のなかでも、臭素系難燃剤及びリン系難燃剤が好ましく、リン系難燃剤が特に好ましい。
【0040】
臭素系難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、デカブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモフタレートエステル、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモベンゼン、1,1−スルホニル[3,5−ジブロモ−4−(2,3−ジブロモプロポキシ)]ベンゼン、ポリジブロモフェニレンオキサイド、テトラブロムビスフェノール−S、トリス(2,3−ジブロモプロピル−1)イソシアヌレート、トリブロモフェノール、トリブロモフェニルアリルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、トリブロモネオペンチルアルコール、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリエチレン、テトラブロムビスフェノール−A、テトラブロモビスフェノールA又はその誘導体、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー又はポリマー、臭素化フェノールノボラックエポキシなどの臭素化エポキシオリゴマー又はポリマー、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー又はポリマー、テトラブロムビスフェノール−A−ビス(2−ヒドロキシジエチルエーテル)、テトラブロムビスフェノール−A−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロムビスフェノール−A−ビス(アリルエーテル)、テトラブロモシクロオクタン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、ポリ(ペンタブロモベンジル)アクリレート、オクタブロモトリメチルフェニルインダン、ジブロモネオペンチルグリコール、ペンタブロモベンジルポリアクリレート及びその反応体、ジブロモクレジルグリシジルエーテル、N,N’−エチレン−ビス−テトラブロモテレフタルイミド、臭素化トリアジン、トリブロモスチレン及びその反応体、トリブロモフェニルマレイミド及びその反応体などが挙げられる。
これらの臭素系難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
リン系難燃剤としては、他の難燃剤と比較して、曲げ弾性率や耐衝撃性の低下が抑制されるという利点がある。
本発明におけるリン系難燃剤としては、特に限定されることはなく、常用のものを用いることができる。例えば、リン酸エステル、リン酸縮合エステル、ポリリン酸塩などの有機リン系化合物が挙げられる。
【0042】
リン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0043】
リン酸縮合エステルとしては、例えば、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェート並びにこれらの縮合物などの芳香族リン酸縮合エステル等を挙げることができる。
【0044】
また、リン酸、ポリリン酸と周期律表1族〜14族の金属、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミンとの塩からなるポリリン酸塩を挙げることもできる。ポリリン酸塩の代表的な塩として、金属塩としてリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、鉄(II)塩、鉄(III)塩、アルミニウム塩など、脂肪族アミン塩としてメチルアミン塩、エチルアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、エチレンジアミン塩、ピペラジン塩などがあり、芳香族アミン塩としてはピリジン塩、トリアジン等が挙げられる。
【0045】
また、前記以外にも、トリスクロロエチルホスフェート、トリスジクロロプロピルホスフェート、トリス(β−クロロプロピル)ホスフェート)などの含ハロゲンリン酸エステル、また、リン原子と窒素原子が二重結合で結ばれた構造を有するホスファゼン化合物、リン酸エステルアミドを挙げることができる。
これらのリン系難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
これらのリン系難燃剤は公知の方法で製造することができる。また、市販品を使用することもでき、例えば、「PX−200、1,3−フェニレンビス(ジ−2,6−キシレニルホスフェート)(大八化学製)」を挙げることができる。
【0047】
窒素系難燃剤としては、含窒素硫酸塩、スルファミン酸塩、メラミンシアヌレートなどを挙げることができる。
含窒素硫酸塩としては、硫酸アンモニウム、硫酸ジメチルアミン、硫酸トリメチルアミン、硫酸ジエチルアミン、硫酸トリエチルアミン、硫酸ジフェニルアミン、硫酸トリフェニルアミン、硫酸グアニジン、硫酸グアニル尿素、硫酸メラミン又はその組み合わせが挙げられ、中でも、硫酸トリエチルアミン、硫酸グアニジン、硫酸グアニル尿素、硫酸メラミン又はその組み合わせが挙げられる。なかでも、硫酸メラミン、硫酸グアニジンがより好ましく、硫酸メラミンが更に好ましい。
スルファミン酸塩としては、分子中に窒素原子を2個以上有するものが挙げられる。具体的にはスルファミン酸アンモニウム、スルファミン酸グアニジン、スルファミン酸グアニル尿素、スルファミン酸メラミン、スルファミン酸ジメチルアミン、スルファミン酸トリメチルアミン、スルファミン酸ジエチルアミン、スルファミン酸トリエチルアミン、スルファミン酸トリフェニルアミン又はその組み合わせが挙げられる。なかでも、スルファミン酸グアニジン、スルファミン酸グアニル尿素、スルファミン酸メラミン又はその組み合わせが好ましく、スルファミン酸グアニジン、スルファミン酸グアニル尿素、スルファミン酸ジエチルアミン、スルファミン酸トリエチルアミンがより好ましく、スルファミン酸グアニジン、スルファミン酸グアニル尿素が更に好ましい。
これらの窒素系難燃剤は、1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
シリコーン系難燃剤としては、二次元又は三次元構造の有機ケイ素化合物、ポリジメチルシロキサン、又はポリジメチルシロキサンの側鎖又は末端のメチル基が、水素原子、置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基で置換又は修飾されたもの、いわゆるシリコーンオイル、又は変性シリコーンオイルが挙げられる。
置換又は非置換の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ベンジル基、アミノ基、エポキシ基、ポリエーテル基、カルボキシル基、メルカプト基、クロロアルキル基、アルキル高級アルコールエステル基、アルコール基、アラルキル基、ビニル基、又はトリフロロメチル基等が挙げられる。
これらのケイ素含有難燃剤は1種単独でも2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
また、前記臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤以外のその他の難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ、ヒドロキシスズ酸亜鉛、スズ酸亜鉛、メタスズ酸、酸化スズ、酸化スズ塩、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化第一錫、酸化第二スズ、ホウ酸亜鉛、ホウ酸アンモニウム、オクタモリブデン酸アンモニウム、タングステン酸の金属塩、タングステンとメタロイドとの複合酸化物、スルファミン酸アンモニウム、臭化アンモニウム、ジルコニウム系化合物、グアニジン系化合物、フッ素系化合物、黒鉛、膨潤性黒鉛等の無機系難燃剤を用いることができる。これらの他の難燃剤は、1種単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。
【0050】
本発明の成形材料において、難燃剤の含有量は限定的でないが、樹脂組成物の全固形分に対して、5〜20質量%であることが好ましく、10〜15質量%であることがより好ましい。含有量がこの範囲であると、曲げ弾性率、耐熱性、耐吸水性の向上の観点から好ましい。
【0051】
(フッ素系樹脂)
本発明の樹脂組成物は、更にフッ素系樹脂を含有することが好ましい。成形体が燃焼した場合のドリップを防止し、更に高度な難燃性を得るためである。
本発明におけるフッ素系樹脂とは、物質分子中にフッ素を含有する樹脂であり、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン/プロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライド/エチレン共重合体などが挙げられるが、中でもポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドが好ましく、特にポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体が好ましく、更にはポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体も好ましく用いられる。ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂の分子量は10万〜1000万の範囲のものが好ましく、とくに10万〜100万の範囲のものがより好ましく、本発明の押出成形性と難燃性にとくに効果がある。ポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、三井・デュポンフロロケミカル(株)製の“テフロン(登録商標)”6−J、“テフロン(登録商標)”6C−J、“テフロン(登録商標)”62−J、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製の“フルオン”CD1やCD076などが市販されている。また、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体の市販品としては、三菱レイヨン(株)から、“メタブレン(登録商標)”Aシリーズとして市販され、“メタブレン(登録商標)”A−3000、“メタブレン(登録商標)”A−3800などが市販されている。また、ポリテトラフルオロエチレンの“テフロン(登録商標)”6−Jなどは凝集し易いため、他の樹脂組成物と共にヘンシェルミキサーなどで機械的に強く混合すると凝集により塊が生じる場合があり、混合条件によってはハンドリング性や分散性に課題がある。一方、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体は前記のハンドリング性や分散性に優れ、とくに好ましく用いられる。前記のポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体とは、限定されるものではないが、特開2000−226523号公報で開示されているポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体などが挙げられ、前記の有機系重合体としては芳香族ビニル系単量体、アクリル酸エステル系単量体、及びシアン化ビニル系単量体を10重量%以上含有する有機系重合体などであり、それらの混合物でもよく、ポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体中のポリテトラフルオロエチレンの含有量は0.1重量%〜90重量%であることが好ましい。
【0052】
本発明の樹脂組成物におけるフッ素系樹脂の含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して、好ましくは0.01〜3質量%であり、より好ましくは0.05〜2質量%、更に好ましくは0.1〜1質量%である。この範囲とすることで、成形性への影響を抑えながら難燃性をより向上させることができる。
【0053】
(熱可塑性樹脂)
本発明の樹脂組成物は、更に、熱可塑性樹脂を含有することが好ましい。セルロースエステル以外の熱可塑性樹脂を含有することにより、成形性が向上し、曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性も向上させることができる。
【0054】
熱可塑性樹脂としては、具体的には、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン−1及びポリ−4−メチルペンテン−1等のポリオレフィン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート及びその他の芳香族ポリエステル等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン12等のポリアミド、ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、ポリアセタール(ホモポリマー及び共重合体を含む)、ポリウレタン、芳香族及び脂肪族ポリケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性澱粉樹脂、ポリメタクリル酸メチルやメタクリル酸エステル−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、ABS樹脂、AES樹脂(エチレン系ゴム強化AS樹脂)、ACS樹脂(塩素化ポリエチレン強化AS樹脂)、ASA樹脂(アクリル系ゴム強化AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ビニルエステル系樹脂、無水マレイン酸−スチレン共重合体、MS樹脂(メタクリル酸メチル−スチレン共重合体)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポポリビニルアルコール、不飽和ポリエステル、ポリ乳酸などを挙げることができる。
なかでも、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリ乳酸が好ましく、ポリカーボネートが更に好ましい。ポリカーボネートを併用した場合、特定のセルロース誘導体を単独で用いた場合に対して成形性が更に向上する。また、曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性といった性能にも優れる。
【0055】
本発明では、ポリカーボネートとして、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、及び芳香族−脂肪族ポリカーボネートのうちいずれも使用することができる。中でも芳香族ポリカーボネートがセルロースエステルとの相溶性、またそれらとの複合によって得られる樹脂の剛性・耐衝撃性・耐熱性のバランスに優れているという理由から好ましい。
本発明におけるポリカーボネート樹脂の分子量は、数平均分子量で5000〜400000の範囲であり、好ましくは8000〜100000、より好ましくは10000〜100000である。数均分子量が10000以上であれば機械的強度が向上し、100000以下であれば成形性が向上する。数平均分子量はより詳細には、N−メチルピロリドンを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から予め求められた換算分子量較正曲線を用いて求められる。GPC装置は、HLC−8220GPC(東ソー社製)を使用できる。
【0056】
(樹脂組成物、及び成形体)
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性を有する。本発明の熱可塑性の定義を以下に示す。
熱可塑性がある場合は、フローテスタ((株)島津製作所製CFT−100D、L=10mm、D=1.0mmのダイを使用)を用い、樹脂組成物をガラス転移温度以下の温度で装置に投入し、剪断速度100S−1、昇温速度2℃/minで昇温測定を行ったとき、250℃の際の粘度が100Pa・S以下となる場合と定義する。
本発明では、可塑剤や熱可塑性樹脂の量や種類を調整することにより、樹脂組成物に熱可塑性を付与することができる。
【0057】
本発明の樹脂組成物は、上記した成分のほか、必要に応じて、フィラー(強化材)等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、フィラー(強化材)を含有してもよい。フィラーを含有することにより、樹脂組成物によって形成される成形体の機械的特性を強化することができる。
フィラーとしては、公知のものを使用できる。フィラーの形状は、繊維状、板状、粒状、粉末状等いずれでもよい。また、無機物でも有機物でもよい。
具体的には、無機フィラーとしては、ガラス繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、金属繊維、チタン酸カリウムウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、マグネシウム系ウイスカー、珪素系ウイスカー、ワラステナイト、セピオライト、スラグ繊維、ゾノライト、エレスタダイト、石膏繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維及び硼素繊維等の繊維状の無機フィラーや;ガラスフレーク、非膨潤性雲母、カーボンブラック、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、タルク、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト、白土等の板状や粒状の無機フィラーが挙げられる。
【0059】
有機フィラーとしては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維等の合成繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、マニラ麻、亜麻、リネン、絹、ウール等の天然繊維、微結晶セルロース、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙等から得られる繊維状の有機フィラーや、有機顔料等の粒状の有機フィラーが挙げられる。
【0060】
樹脂組成物がフィラーを含有する場合、その含有量は限定的でないが、樹脂組成物の全固形分に対して、30質量%以下が好ましく、5〜10質量%がより好ましい。
【0061】
本発明の樹脂組成物は、前記したもの以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、成形性・難燃性等の各種特性をより一層改善する目的で他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、前記セルロースエステル以外のポリマー、離型剤(脂肪酸、脂肪酸金属塩、オキシ脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族部分鹸化エステル、パラフィン、低分子量ポリオレフィン、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、変成シリコーン)、帯電防止剤、難燃助剤、加工助剤、抗菌剤、防カビ剤等が挙げられる。更に、染料や顔料を含む着色剤などを添加することもできる。
【0062】
前記セルロースエステル、フッ素系樹脂及び熱可塑性樹脂以外の樹脂としては、熱硬化性樹脂等樹脂を用いてもよい。
具体的には、メラミン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、ポリイミドなどを挙げることができる。
また、各種アクリルゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、ジエン系ゴム(例えば、1,4−ポリブタジエン、1,2−ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えば、スチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合させたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、ブチルゴム、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、ニトリルゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーンゴム、その他ポリウレタン系やポリエステル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマー等を用いることもできる。
更に、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造等を有するもの、ビニル基などを有するもの、あるいは各種の平均粒径を有するものや、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成され、また隣接し合った層が異種の重合体から構成されるいわゆるコアシェルゴムと呼ばれる多層構造重合体なども使用することができ、更にシリコーン化合物を含有したコアシェルゴムも使用することができる。
これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
本発明の樹脂組成物が上記ポリマー等を含有する場合、その含有量は、樹脂組成物の全固形分に対して、30質量%以下が好ましく、2〜10質量%がより好ましい。
【0063】
本発明の樹脂組成物は、様々な用途に用いることが可能である。例えば、溶剤に溶かして塗布法によりフィルムとしてもよい。また、溶融押し出し法などによりフィルムとしてもよい。
本発明の樹脂組成物を用いて得られるフィルムは、光学特性(Rthなど)及び透湿度の観点で優れている。
【0064】
本発明の成形体は、本発明の樹脂組成物を成形することにより得られる。
本発明の成形体の製造方法は、本発明の樹脂組成物を加熱して溶融し、成形する工程を含む。
成形方法としては、例えば、射出成形、押し出し成形、ブロー成形等が挙げられる。
加熱温度は、通常160〜300℃であり、好ましくは180〜260℃である。
【0065】
本発明の成形体の用途は、とくに限定されるものではないが、例えば、電気電子機器(家電、OA・メディア関連機器、光学用機器及び通信機器等)の内装又は外装部品、自動車、機械部品、住宅・建築用材料等が挙げられる。これらの中でも、優れた耐熱性及び耐衝撃性を有しており、環境への負荷が小さい観点から、例えば、コピー機、プリンター、パソコン、テレビ等といった電気電子機器用の外装部品(特に筐体)として好適に使用することができる。
【0066】
また、本発明の樹脂組成物は成膜することで、透湿度及びRthの観点で優れたフィルムとすることができ、例えば光学フィルムとして使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0068】
[成形体の作製]
セルロースエステル、熱可塑性樹脂、可塑剤、特定イソシアネート化合物、及びその他の成分を表1及び2に示す配合割合(質量部)で混合し、樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を二軸混練押出機(テクノベル(株)製、Ultranano)に供給しペレットを作製し、ついで得られたペレットを、射出成形機(ファナック(株)Roboshot S−2000i、自動射出成形機)に供給して、4×10×80mmの多目的試験片を成形した。
なお、表1及び2の特定イソシアネート化合物の欄のカッコ内の「eq」で表す数値は、セルロースエステルのヒドロキシル基に対するイソシアネート基の当量である。
【0069】
表1及び2において、樹脂組成物の各成分の略号及び詳細は以下のとおりである。
・エチルセルロース:ダウ・ケミカル製、「エトセル100cp」
・セルローストリアセテート:ダイセル化学製、FRM(置換度:2.79、Mn:66000、Mw:186000)
・セルロースジアセテート:ダイセル化学製、L−70(置換度:2.45、Mn:65000、Mw:200000)
・セルロースジアセテート:ダイセル化学製、FL−70(置換度:2.19、Mn:69800、Mw:207000)
・セルロースアセテートプロピオネート:イーストマンケミカル社製、482−20(プロピオニル置換度:2.5/アセチル置換度:0.1、Mw:73000、Mn:234000)
・可塑剤1:ポリエチレングリコール200、Mw:200(関東化学社製)
・可塑剤2:グリセリントリベンゾエート、Mw:404.41(アルドリッチ社製)
・可塑剤3:トリメリット酸トリ(2−エチルヘキシル)、Mw:546.8(東京化成工業製)
・可塑剤4:DIC製、「ポリライトOD−X−286」、Mw:1000
・可塑剤5:DIC製、「ポリライトOD−X−2547」、Mw:4500
・イソシアネート1:ヘキサメチレンジイソシアネート、Mw:188.18(東京化成工業)
・イソシアネート2:ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、Mw:262.35(東京化成工業)
・イソシアネート3:4,4’−ジイソシアン酸メチレンジフェニル、Mw:250.25(東京化成工業)
・イソシアネート4:m−キシリレンジイソシアネート、Mw:188.18(東京化成工業)
・イソシアネート5:2,2−ビス(4−イソシアネートフェニル)ヘキサフルオロプロパン、Mw:386.25(東京化成工業)
・イソシアネート6:旭化成ケミカルズ製、「24A−100」(ウレイド結合含有、1分子中のイソシアネート基の個数は3)
・イソシアネート7:旭化成ケミカルズ製、「TSA−100」(ウレイド結合含有、1分子中のイソシアネート基の個数は3)
・イソシアネート8:旭化成ケミカルズ製、「E402−100」(ウレタン結合含有、1分子中のイソシアネート基の個数は3)
・イソシアネート9:イソシアン酸オクタデシル(1分子中のイソシアネート基の個数は1)、Mw:295.5(東京化成工業)
・難燃剤1:オクタブロモジフェニルエーテル(マナック製、「プラセフティ(R) ERB−8」)
・難燃剤2:信越化学製、「X−22−343」
・難燃剤3:硫酸メラミン(三和化学製、「アピノン901」)
・難燃剤4:トリフェニルホスフェート(東京化成製)
・難燃剤5:水酸化マグネシウム(協和化学工業製、「キスマ5L」)
・難燃剤6:大八化学製、「PX−200」
・フッ素系樹脂:三井・デュポンフロロケミカル製、「テフロン6−J」
・熱可塑性樹脂1:ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)社製、「ノバテックPP MA3)」)
・熱可塑性樹脂2:ポリカーボネート(帝人化成(株)社製、「パンライト L−1225Y」)
【0070】
[評価]
得られた樹脂組成物及び多目的試験片を用いて、以下の項目について評価した。評価結果は表1〜3に示した。
【0071】
(吸水率)
JIS K 7209に準拠して、成形試験片を50℃で24時間乾燥させた後、質量測定を行い、23℃の恒温水槽に試料を24時間浸漬し、試験片を取り出した後、表面に付着した水分以外の水分を取り除き、ただちに質量を測定した。吸水率(%)は{(浸漬後の質量/浸漬前の質量−1)×100}で求めた。測定は3回測定の平均値である。
なお、吸水率が多いと成形しにくいため、吸水率は成形性の指標の一つとなる。
【0072】
(吸水低下率)
吸水低下率は以下の式から計算される。なお、各実施例、比較例の樹脂組成物について、それぞれ特定イソシアネート化合物を添加しなかった場合の吸水率は別途求めた。
(吸水低下率)={(1−特定イソシアネート化合物を添加した試験片の吸水率/特定イソシアネート化合物を添加しなかった場合の試験片の吸水率)×100}
この値が小さいほど、特定イソシアネート化合物の添加による吸水率の低下が大きく、耐吸水性が向上していることを意味する。−はイソシアネート化合物を添加しない場合を表す。
【0073】
(熱変形温度(HDT))
耐熱性の指標として、熱変形温度を次のように測定した。ISO75に準拠して、試験片の中央に一定の曲げ荷重(1.8MPa)を加え(フラットワイズ方向)、等速度で昇温させ、中央部のひずみが0.34mmに達したときの温度(℃)を測定した。熱変形温度測定装置は、(株)東洋精機製作所製 HDT テスタ6M−2を用いた。測定は3回測定の平均値である。
【0074】
(曲げ弾性率)
ISO178に準拠して、射出成形にて成形した試験片を23℃±2℃、50%±5%RHで48時間以上調整した後、インストロン(東洋精機製、ストログラフV50)によって支点間距離64mm、試験速度2mm/minで曲げ弾性率を測定した。測定は3回測定の平均値である。
【0075】
(ブリードウト)
成形により得られた試験片の表面に油性インキで文字(ABC)と書き、この試験片を65℃、90%RHの条件下で4時間放置した。そして試験片表面の可塑剤のブリードアウト状態を目視により、以下の基準で判断した。
◎:ブリードアウトが全く見られず、インキの文字のにじみも全くない。
○:ブリードアウトがほとんど見られず、インキの文字のにじみもほとんどない。
△:ブリードアウトが若干見られ、インキの文字のにじみが見られる。
×:ブリードアウトが著しく、インキの文字が認識できないレベルににじんでいる。
【0076】
(難燃性)
難燃性の指標として、UL94に準拠した垂直燃焼試験をおこなった。試験本数は5本である。自己消火性の無いものをV−not、燃焼試験時に樹脂組成物のドリップがあり所定時間内に自己消火するものをV−2、燃焼時に樹脂組成物ドリップがなく所定時間内に自己消火するものをV−1(燃焼時間30秒以内)、V−0(燃焼時間10秒以内)とした。
【0077】
(成形性)
成形性評価は、射出成形機での成形適性を示しており、成形搬送性及び射出性ともに優れている樹脂組成物を○、いずれか一方に課題がある樹脂組成物を△、両方に課題がある樹脂組成物を×とした。
【0078】
(熱可塑性)
フローテスタ((株)島津製作所製CFT−100D、L=10mm、D=1.0mmのダイを使用)を用い、樹脂組成物をガラス転移温度以下の温度で装置に投入し、剪断速度100S−1、昇温速度2℃/minで昇温測定を行い、250℃の際の粘度を測定した。250℃の際の温度が100Pa・S以下の場合は樹脂組成物が熱可塑性を有することを意味し、○とした。100Pa・S以下でない場合には×とした。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
【表3】

【0082】
以上の結果より、セルロースエステル、可塑剤、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物を含有する樹脂組成物で、イソシアネート基の含有量が前記セルロースエステル中のヒドロキシル基に対して0.005〜0.05当量の本発明の樹脂組成物は、リードアウトが抑制され、かつ曲げ弾性率、耐熱性及び耐吸水性に優れる成形体が得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アシル置換度2.8以下のセルロースエステルと、可塑剤と、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物とを含有する樹脂組成物であって、
前記イソシアネート基の含有量が前記セルロースエステル中のヒドロキシル基に対して0.005〜0.05当量であり、かつ
熱可塑性を有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記セルロースエステルがセルロースジアセテート又はセルロースアセテートプロピオネートである請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記可塑剤がエステル結合を有する化合物である請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記可塑剤の質量平均分子量が500以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記可塑剤の含有量が10〜30質量%である請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記1分子中に2個以上のイソシアネート基を含有する化合物が、以下の一般式(1)で表される連結基及び一般式(2)で表される連結基の少なくとも一方を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
(1):−NR−(C=O)−NR
(2):−NR−(C=O)−O−
[式中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を有してもよい炭化水素基を表す。]
【請求項7】
更に、臭素系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤及びその他の無機系難燃剤から選択された1種以上の難燃剤を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
更に、フッ素系樹脂を含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
更に、熱可塑性樹脂を含有する請求項1〜8のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記セルロースエステルの含有量が40〜80質量%である請求項1〜9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネートである請求項9又は10に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項13】
請求項12に記載の成形体から構成される電気電子機器用筺体。

【公開番号】特開2011−208103(P2011−208103A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79927(P2010−79927)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】