説明

樹脂組成物、電気絶縁用樹脂組成物及び電気機器絶縁物の製造方法

【課題】 硬化性、空気乾燥性に優れ、熱劣化時の絶縁破壊電圧の保持率や、電線との固着力が良好で、かつ環境対応可能な電気絶縁用樹脂組成物及びこの電気絶縁用樹脂組成物を用いた電気機器電気絶縁物の製造法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、(A)低分子量ポリエステルイミドと、(B)分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β-不飽和一塩基酸とを、反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、得られた不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する不飽和酸無水物を反応させて得られる低分子変性不飽和エポキシエステル(C)表面改質剤を必須材料としてなる樹脂組成物、電気絶縁用樹脂組成物及び電気機器を前記電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化する電気機器絶縁物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、電気絶縁用樹脂組成物及び電気機器絶縁物の製造方法に関する。さらに詳しくは、電気的および電子的成分用、並びにシート状絶縁材料の担体材料用に使用される含浸、流延および被覆組成物としての非又は低反応性希釈材含有樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学工業の分野においては、より安全な製品、より環境汚染の少ない製品を求めて、各種の環境対応技術が積極的に研究開発されており、その一例として低臭気・無溶剤型樹脂及び水溶性型樹脂がある。一方、モータ、トランス等の電気機器は、鉄コアの固着又は防錆、コイルの絶縁又は固着等を目的として、電気絶縁用樹脂組成物で処理されている。電気絶縁用樹脂組成物としては、硬化性、空乾性、電気絶縁性、安定性、経済性などのバランスに優れた不飽和ポリエステル樹脂の組成物が広く用いられている。
【0003】
電気絶縁用樹脂組成物は、液状タイプと粉体状タイプに分かれている。液状タイプは、合成樹脂を希釈剤に溶解して作業し易い粘度に調節しており、これらの希釈剤の種類により、溶剤型、無溶剤型及び水溶性の3種類に分類される。これらの希釈剤は、電気絶縁処理時に、一部もしくは全量が揮発するので、触媒燃焼装置等を用いて、外部への飛散防止処理が行われている。しかし、一部もしくは全量が、大気中に飛散する場合があり、適切な処理をしない場合は環境への影響が懸念される。これらのことから、近年、樹脂組成物中のVOC量の低減が熱望されてきている。
【0004】
そこで、電気絶縁処理時に発生するVOCを低減させる目的で、これまで以下の電気絶縁用樹脂組成物が用いられてきた。
(1)水溶性の電気絶縁用樹脂組成物を用いて稀釈剤の大部分を水とする
(2)粉体状の電気絶縁用樹脂組成物を用いて希釈剤を無くす
(3)樹脂含有率を上げる方法や無機充填材を添加する方法による電気絶縁用樹脂組成物のハイソリッド化
このうち、(1)水溶化は、電気絶縁用樹脂組成物中のVOC含有率を低下させようとすると、経日放置によって樹脂組成物が白濁してしまうので、樹脂と相溶性の良い有機溶剤を一部併用する必要がある。その結果、樹脂組成物中のVOC含有率は10重量%が限界である。(特許文献1、特許文献2)
(2)の粉体状化は、電気絶縁処理時には、VOCはほとんど発生しないが、電気絶縁用樹脂組成物が粉体状であるため、大気中へ拡散し、粉塵としての諸問題が起こる可能性が有る為、取り扱いが容易ではなかった。更に、組成物の溶融温度が高い場合や溶融時の粘度が高い場合、コイル内部への含浸性の低下が懸念される。
(3)のハイソリッド化は、従来の方法では、電気絶縁用樹脂組成物中のVOC含有率を低下させると、粘度が高くなり電気機器のコイルへの含浸性が低下してしまうことから、電気絶縁用樹脂組成物中のVOC含有率は20%が限界である。この対応策として、ジシクロペンタジエン(=DCPD)の構造単位を有する不飽和ポリエステル樹脂が、多数の特許の主題となり、活用されている。
【0005】
特許文献3によると、ポリエステルの製造に際してジシクロペンタジエン構造を新規導入することにより達成され、貯蔵安定性が良好であり、室温でも液体状の組成物、または容易に加工が行える程度に軟化点が低く、非常に長期間にわたり普遍の形状で安定に貯蔵される組成物がビニル性不飽和を有する単量体を含まずに得られるとあった。しかしこの方法では、空気乾燥性や、エナメル線皮膜との固着力が弱く実用できない上、熱劣化後の特性が汎用樹脂組成物と比較し著しく悪い。また、この方法では熱硬化による従来の製造方法では実際には使用できず、UV光と熱とを組み合わせた硬化のみに適している。
【0006】
また、表面改質剤を使用して固着力を上げた例としては、特許文献4記載のように、同様のエポキシ樹脂組成物に、アクリルのポリリン酸エステルであるモダフロー(モンサント社商品名)、アクリル系のディスパロン1970,230,L−1984−50,L−1985−50(楠本化成社商品名)、シリコーン系のTSA720(東芝シリコーン社商品名)エポキシ樹脂で作成した表面調整剤 を添加することにより、エナメル皮膜等の絶縁物に対する濡れ性が向上することができる手法が記載されている。しかしこの方法では,通常のポリエステルイミド等では効果が発生せず、固着力が向上しない不具合が発生する。
【0007】
また、空気乾燥性向上技術としては、特許文献5記載の方法のように、ジシクロペンタジエニルモノマレエートと乾性又は半乾性植物油の脂肪酸、不飽和二塩基酸、飽和酸及びアルコール成分を反応させて得られる不飽和ポリエステルにキシレン−ホルムアルデヒド樹脂と重合開始剤を含有してなる手法が書かれている。
【0008】
また、特許文献6では、テトラヒドロフタル酸類由来の構造単位を骨格に含むポリエステル(メタ)アクリレート 25〜50重量%と 、エポキシ(メタ)アクリレート 15〜55重量%、さらに一官能の(メタ)アクリレートモノマーおよび二官能の(メタ)アクリレートモノマーを50〜100重量%含む、6.7×10Paでの沸点が90℃以上のモノマー15〜45重量%を含有する硬化性樹脂組成物を使用する方法が記載されているが、これを使用する方法として、コンクリート、モルタル、鋼板、ガラス、木材等を被覆する材料、特にFRP防水ライニング用のトップコート材のみ明記されており、電気絶縁用樹脂組成物として適用されていない。
【0009】
【特許文献1】特開2001−243838号公報
【特許文献2】特開2002−235296号公報
【特許文献3】特開2000−515565号公報
【特許文献4】特開平10−257726号公報
【特許文献5】特開平10−139994号公報
【特許文献6】特開2001−151832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる問題に鑑み、環境にやさしい製品の上市を目的に、電気絶縁用樹脂組成物及びこれを用いた電気機器の製造法において、樹脂組成物に含まれるVOCを低減すべく、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の良好な電気絶縁性などの硬化物特性及び良好な安定性を示し、且つ、安全性向上、作業環境の観点から、電気機器の電気絶縁処理時に発生するVOCを低減することができる樹脂組成物を提供するものであり、さらに、本発明は、この電気絶縁用電気絶縁用含浸樹脂混合物を用いた電気機器の製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(A)低分子量ポリエステルイミド、(B)分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β-不飽和一塩基酸とを、反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、得られた不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する不飽和酸無水物を反応させて得られる低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び(C)表面調整剤を必須材料としてなる樹脂組成物に関する。
また、本発明は、低分子量ポリエステルイミド(A)の分子量が400〜10000の範囲であり、低分子変性不飽和エポキシエステル(B)の分子量が200〜10000である樹脂組成物に関する。
また本発明は、ポリエステルイミド(A)100重量部に対して、低分子変性不飽和エポキシエステル(B)10〜100重量部を含有する樹脂組成物に関する。また本発明は、表面改質剤(C)として、分子内に不飽和基を有する反応性モノマまたはオリゴマを含有する樹脂組成物に関する。また本発明は、前記樹脂組成物に重合開始剤、安定剤を含有してなる樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、前記記載の樹脂組成物100重量部に対して,表面改質剤(C)を0.01〜10重量部含有する電気絶縁用樹脂組成物に関する。
さらに、本発明は、電気機器を前記電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明になる電気機器絶縁用樹脂組成物は、安全性向上、作業環境の改善などの観点から、電気機器の電気絶縁処理時に発生するVOCを、従来の樹脂組成物よりも大幅に低減することができると共に、従来の液状タイプの樹脂組成物と同等以上の空気乾燥性、電気絶縁性、固着性などの硬化物特性及び良好な安定性を示し、信頼性の高い電気機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における低分子量ポリエステルイミド樹脂(A)としては、酸成分の一部として一般式(1)

〔式中、Rはトリカルボン酸の残基等の3価の有機基、Rはジアミンの残基等の2価の有機基を意味する〕
で表されるイミドジカルボン酸を用いるものが好ましい。
【0014】
一般式(1)で表されるイミドジカルボン酸としては、例えばジアミン1モルに対してトリカルボン酸無水物2モルを反応させることにより得られるイミドジカルボン酸(特公昭51−40113号公報参照)が挙げられる。また、あらかじめジアミンとトリカルボン酸無水物とを反応させてイミドジカルボン酸として用いないで、ジアミンとトリカルボン酸無水物をポリエステルイミドの製造時に加えて、イミドジカルボン酸の残基を形成してもよい。
【0015】
トリカルボン酸無水物としては、トリメリット酸無水物、3,4,4’−ベンゾフェノントリカルボン酸無水物、3,4,4’−ビフェニルトリカルボン酸無水物等があり、トリメリット酸無水物が好ましい。ジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン等が用いられる。
【0016】
イミドジカルボン酸の使用量は、全酸成分の5〜50当量%の範囲とすることが好ましく、20〜45当量%の範囲とすることがより好ましい。イミドジカルボン酸の使用量が少なすぎると耐熱性が劣る傾向にあり、多すぎると可とう性が低下する場合がある。
【0017】
上記のイミドジカルボン酸以外の酸成分としては、テレフタル酸又はその低級のアルキルエステル、例えば、テレフタル酸モノメチル、テレフタル酸の低級アルキルのジエステル等のテレフタル酸ジエステル、例えば、テレフタル酸ジメチルなどが用いられる。また、イソフタル酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸などを用いることもできる。
【0018】
また、アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール等のジオール類、グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等のトリオール類などが用いられる。これらの酸成分及びアルコール成分は単独で又は2種以上組み合わせて用いられる。
【0019】
アルコール成分と酸成分との配合割合は、低/無用剤型でかつ作業性が良好な低分子量を有し、かつ可とう性及び耐熱性の面から、カルボキシル基に対する水酸基の当量比を1.3〜30とすることが好ましく、1.5〜10とすることがより好ましい。カルボキシル基に対する水酸基の当量比が30より大きいと可とう性が低下する傾向があり、1.3より小さいと耐熱性が低下する傾向がある。
【0020】
本発明に用いる低分子量ポリエステルイミド樹脂の合成は、例えば、前記の酸成分とアルコール成分とをエステル化触媒の存在下に160〜250℃、好ましくは170〜250℃の温度で、3〜15時間、好ましくは5〜10時間加熱反応させることにより行われる。この際、用いられるエステル化触媒としては、例えば、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、ジブチルスズラウレート、ナフテン酸亜鉛などが挙げられる。また、反応は、窒素ガス等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。前記のイミドジカルボン酸は、あらかじめ合成したものを用いてもよく、また、ジアミン及び無水トリメリット酸のイミド酸となる成分を他の酸成分、アルコール成分と同時に混合加熱してイミド化及びエステル化を同時に行ってもよい。このときジアミンと無水トリメリット酸の配合量は、前記のイミドジカルボン酸の配合量に対応する量とするのが好ましい。
【0021】
本発明の低分子量ポリエステルイミド樹脂の数平均分子量(ゲルパーミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)は、400〜10000とされる。好ましくは、500〜3000である。400未満では、樹脂の硬化性および樹脂硬化物特性が極端に劣り、10000を超えると粘度が高すぎ作業性が悪化する。
【0022】
また、本発明における、低分子変性不飽和エポキシエステル(B)の必須合成原料である1分子に1個以上のエポキシ基を含有する化合物としては、例えば多価アルコール又は多価フェノールのグリシジルポリエーテル、エポキシ化脂肪酸、エポキシ化乾性油酸、エポキシ化ジオレフィン、エポキシ化ジ不飽和酸のエステル、エポキシ化飽和ポリエステル等が挙げられこれらを単独で又は併用して用いることができる。市販品の例としては、例えばシェル化学社製のEpon825、Epon828、Epon1001、Epon1002、Epon1004、Epon1007、又はEpon1009、油化シェルエポキシ社製のエピコート815、エピコート827、エピコート828、エピコート834、エピコート1055、エピコート827−X−75、エピコート1001−B−80、エピコート1001−X−70、エピコート1001−X−75、エピコート1001、エピコート1002、エピコート1004、エピコート1007又はエピコート1009、旭化成社製のAER334、AER330、AER331、AER337、AER661、AER664、AER667又はAER669、旭電化社製のアデカレジンEP−4200、アデカレジンEP−4300、アデカレジンEP−4100、アデカレジンEP−4340、アデカレジンEP−5100、アデカレジンEP−5200、アデカレジンEP−5400、アデカレジンEP−5700又はアデカレジンEP−5900、住友化学社製のスミエポキシELA−115、スミエポキシELA−127、スミエポキシELA−128、スミエポキシELA−134、スミエポキシESA−011、スミエポキシESA−012、スミエポキシESA−014、スミエポキシESA−017又はスミエポキシESA−019、大日本インキ社製のエピクロン855、エピクロン840、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン2050、エピクロン4050、エピクロン7050又はエピクロン9050、ダウ・ケミカル(日本)社製のDER330、DER331、DER661、DER662、DER664、DER667又はDER669、大日本色材社製のプリエポーPE−10、プリエポーPE−25、プリエポーPE−70、プリエポーPE−80、プリエポーPE−100、プリエポーPE−120又はプリエポーPE−150、東都化成社のエポトートYD−115、エポトートYD−127、エポトートYD−128、エポトートYD−134、エポトートYD−011、エポトートYD−012、エポトートYD−014、エポトートYD−017又はエポトートYD−019、日本チバガイギー社製のアラルダイトGY−250、アラルダイトGY−261、アラルダイトGY−30、アラルダイト6071、アラルダイト6084、アラルダイト6097又はアラルダイト6099三井化学エポキシ社製のエポミックR−130、エポミックR−139、エポミックR−140、エポミックR−144、エポミックR−301、エポミックR−302、エポミックR−304、エポミックR−307又はエポミックR−309等が挙げられる。これらのうち、特に、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、1分子中に1個だけエポキシ基を有する化合物は、0〜10重量%の範囲で使用されることが好ましい。
【0023】
α,β-不飽和一塩基酸としては、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、珪皮酸、ソルビン酸等を用いることができ、これらは併用することもできる。一般的に耐食性の観点からメタクリル酸を用いるのが好ましい。α,β-不飽和一塩基酸は、エポキシ基/カルボキシル基の当量比が好ましくは1.6〜0.6となるように、より好ましくは1.2〜0.9となるように配合される。
【0024】
低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基と反応させる不飽和酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等を用いることができる。
【0025】
不飽和酸無水物は、前記不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して1〜20モル%に相当する割合で使用されることが好ましく、2〜20モル%に相当する割合で使用されることがより好ましい。不飽和酸無水物の使用量がこの範囲以外では変性不飽和エポキシエステル樹脂の貯藏安定性が悪く、ゲル化しやすくなる。
【0026】
不飽和エポキシエステル樹脂と不飽和酸無水物との反応には、付加触媒として、塩化亜鉛、塩化リチウムなどのハロゲン化物、ジメチルサルファイド、メチルフェニルサルファイドなどのサルファイド類、ジメチルスルホキシド、メチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシドなどのスルホキシド類、N,Nジメチルアニリン、ピリジン、トリエチルアミン、へキサメチレンジアミンなどの第3級アミン及びその塩酸塩又は臭酸塩、テトラメチルアンモニウムクロライド、トリメチルドデシルベンジルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩、パラトルエンスルホン酸などのスルホン酸類、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタンなどのメルカプタン類等が用いられる。付加触媒の配合量は、不飽和エポキシエステル樹脂100重量部に対して、0.05〜2重量部が好ましく、0.1〜1.0重量部がさらに好ましい。
【0027】
低分子量変性不飽和エポキシエステルの製造方法としては、従来から公知の方法によることができる。例えば、多塩基酸成分、多価アルコール成分とを縮合反応させ、両成分が反応するときに生じる縮合水を系外に除きながら進められる。縮合水を系外に除去することは、好ましくは不活性気体を通じることによる自然留出又は減圧留出によって行われる。縮合水の留出を促進するため、トルエン、キシレンなどの溶剤を共沸成分として系中に添加することもできる。反応の進行は、一般に反応により生成する留出分量の測定、末端の官能基の定量、反応系の粘度の測定などにより知ることができる。
【0028】
反応の温度は90〜100℃以上とすることが好ましい。このことから、反応装置としては、ガラス、ステンレス製等のものが選ばれ、撹拌装置、水とアルコール成分の共沸によるアルコール成分の留出を防ぐための分留装置、反応系の温度を高める加熱装置、この加熱装置の温度制御装置等を備えた反応装置を用いるのが好ましい。
【0029】
合成反応を行うための反応温度は、80℃〜120℃の範囲で行うことが好ましく、90℃〜110℃の範囲で行うことがより好ましい。この温度が120℃を超えると、反応が激しくゲル化する不具合が発生する。反応温度は、使用する多価アルコ−ルにより、宜選択設定可能である。
【0030】
合成における重縮合反応を行うために調整する反応装置内圧力は、常圧でも全く問題なく反応を進めることができるが、加圧し、多価アルコ−ルの沸点をあげることにより、反応を促進することができる。この場合、常圧〜0.1MPaの範囲で行うことが好ましい。必要により重合禁止剤などを加えて不飽和ポリエステル樹脂組成物とされる。
【0031】
本発明の不飽和ポリエステル樹脂の数平均分子量(ゲルパーミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値、以下も同じ)は、200〜10000とされる。好ましくは、500〜2000である。200未満では、樹脂の硬化性および樹脂硬化物特性が極端に劣り、10000を超えると粘度が高すぎ作業性が悪化する。
【0032】
本発明に必須成分として用いられる表面改質剤(C)としては、分子内に不飽和基を有する反応性モノマまたはオリゴマ、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ジビニルベンゼン、tert−ブチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル等のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの多価アルコールのメタクリル酸エステル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、アクリロニトリルや、ポリエ−テル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリメチルアルキルシロキサン、フッ素変性ポリマ−、アクリル系共重合体等が上げられる。これらは、エナメル線との相性を考慮し、単独又は併用で用いることが出来る。このとき、前記記載の電気絶縁用樹脂組成物100部に対して、表面改質剤を0.01〜10重量部とすることが好ましい.0.01重量部未満の場合、エナメル線被覆との接着が低く、また10重量部以上添加剤を加えても、接着力は飽和してしまい、添加量に対する特性向上が見込まれなくなるうえ、VOC発生量が増大し、環境に悪影響を与える不具合が発生する。なお、表面調整剤は2種以上併用してもよく、また、それぞれの成分を電気絶縁用樹脂組成物に溶解可能な溶剤に分散した場合でも同様の効果を示す。
【0033】
本発明で必要に応じて使用できる、重合禁止剤としては、p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、得られる不飽和ポリエステル樹脂組成物の硬化性により便宜決定されるが、その配合量は、不飽和ポリエステル樹脂組成物100重量部に対して0.01〜5.0重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜3重量部である。
【0034】
本発明で用いられる硬化剤としては、ケトンパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、ハイドロパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、アルキルパーエステル類などが挙げられる。硬化剤の量は、硬化条件や樹脂硬化物の外観、特性等の面に影響があるため、それぞれに応じて決定される。材料の保存性、成形サイクルの面から前記不飽和ポリエステル樹脂及び重合性単量体の総量に対して0.5〜10重量%が好ましく、より好ましくは1〜5重量%である。
【0035】
本発明で必要に応じて用いられる安定剤としては、 p−ベンゾキノン、ハイドロキノン、ナフトキノン、p−トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、p−tert−ブチルカテコール、2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン、ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等が挙げられる。その配合量は、樹脂組成物の貯蔵安定性、実機処理時の硬化温度及び硬化時間により便宜に決定されるが、その配合量は、通常、樹脂組成物の総量100重量部に対して0.5重量部以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.1重量部である。
【実施例】
【0036】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、例中の「部」は特に断らない限り「重量部」を意味する。
【0037】
低分子量ポリエステルイミド樹脂組成物(A)の合成
温度計、チッ素吹き込み管、精留塔及び撹拌装置を備えた3リットルのフラスコに、2メチル1、3プロパンジオ−ル882部、4、4―ジアミノフェニルエタン138.6部、無水トリメリット酸268.8部、イソフタル酸581部、及びテトラブチルチタネ−ト 0.7部を入れ、窒素気流中で室温から1時間で175℃に昇温して2時間反応させた。次いで、得られた溶液を5時間で200℃に昇温して3時間反応させ、樹脂酸価22の樹脂を得た。得られた溶液に無水マレイン酸411.6 部を加え、再び215℃まで昇温し、6時間反応させたところ、酸価28のポリエステルイミド(A)を得た。このポリエステルイミド80部に対しスチレンを20部加え、不飽和ポリエステルイミド(A)を合成した。不飽和ポリエステルイミド(A)の粘度は25℃で2.8Pa・sであった。
【0038】
低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂(B)の合成
4,4’-イソプロピリデンジフェノールのジグリシジルエーテル(シエル化学社製、Ep-828、エポキシ当量188)376部、メタクリル酸172部、ベンジルジメチルアミン2部、ハイドロキノン0.05部を反応釜に仕込み、ll5℃で反応させた。酸価が5になったとき、無水マレイン酸24部をさらに反応釜の中に追加し、酸価が50になった時に反応をやめた。得られた反応生成物85部をスチレン15部に溶解して変性不飽和エポキシエステル樹脂組成物(B)を得た。低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂(B)の粘度は25℃で、4.0Pa・sであった。
【0039】
実施例1:
(1)樹脂混合物Aの作製
低分子量ポリエステルイミド樹脂組成物Aと低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂B及び表面改質剤としてメチルメタクリレ−トを25部/75部/0.5部で配合し、更に1部のt−ブチルパ−ベンゾエ−ト(日本油脂製パ−ブチルZ)を添加し樹脂組成物Aを得た。その樹脂組成物Aを用いて、一般特性をJIS C 2105に準じて測定した。
空気乾燥性の測定
樹脂組成物Aを90mmx90mmのブリキ板上に、全面が塗れるように3部のせた。このブリキ板を地面と垂直方向にたて、120℃乾燥機中に放置した。表面の状態を指で確認し、べたつきがなくなった時間を空気乾燥時間とした。
VOC発生量の測定方法
樹脂組成物Aを1.5部シャ−レ上に精秤し、150℃の乾燥機中に静置する。1時間後乾燥機より取り出し、組成物Aの重量変化率を測定した。
固着力の測定
日立マグネットワイヤ製KMK−22A、φ1.0mmのマグネットワイヤを使用し、ヘリカルコイルを作成した。これに、樹脂組成物Aを含浸させ、150℃30分間硬化させ試験片を作成した.この試験片を用い、支点間距離を50mmにし、島豆製作所製島津製作所製オ−トグラフを用いて50mm/minの速さで、試験片の中央部に荷重を加えた。試験片が破壊する荷重をもって固着力とした。
【0040】
実施例2
実施例1のうち、低分子量ポリエステルイミド樹脂組成物Aと低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂B及びC表面開始剤としてメチルメタクリレ−トを50部/50部/0.5部に配合を変更したほかは実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Bを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0041】
実施例3
実施例1のうち、低分子量ポリエステルイミド樹脂組成物Aと低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂B及び表面改質材Cとしてメチルメタクリレ−トを75部/25部/0.5部に配合を変更したほかは実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Cを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0042】
比較例1
実施例1のうち低分子量ポリエステルイミド樹脂組成物Aのみを使用したほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Dを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0043】
比較例2
実施例1のうち低分子量変性不飽和エポキシエステル樹脂Bのみを使用したほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Eを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0044】
比較例3
実施例1のうち表面改質剤を除いたほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Fを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0045】
比較例4
実施例1のうち表面改質剤の配合量を0.5部から5部に変更したほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Gを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
【0046】
比較例5
実施例1のうち表面改質剤の配合量を0.5部から10部に変更したほかは、実施例1と同様な操作を行い、樹脂組成物Gを作製し、一般特性、空気乾燥性、固着力を測定した。
得られた結果を表1に示す。
【0047】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)低分子量ポリエステルイミド、(B)分子中に1個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物とα,β-不飽和一塩基酸とを、反応させて不飽和エポキシエステル樹脂とし、得られた不飽和エポキシエステル樹脂のヒドロキシル基に対して2〜10モル%に相当する不飽和酸無水物を反応させて得られる低分子変性不飽和エポキシエステル樹脂及び(C)表面改質剤を必須材料としてなる樹脂組成物。
【請求項2】
低分子量ポリエステルイミド樹脂(A)の分子量が400〜10000の範囲である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
低分子変性不飽和エポキシエステル(B)の分子量が200〜10000である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ポリエステルイミド樹脂(A)100重量部に対して、低分子変性不飽和エポキシエステル(B)10〜100重量部を含有する請求項1、2または3記載の樹脂組成物。
【請求項5】
表面改質剤(C)として、分子内に不飽和基を有する反応性モノマまたはオリゴマを含有する請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の樹脂組成物に重合開始剤、安定剤を含有してなる樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6記載の樹脂組成物100重量部に対して,表面改質剤(C)を0.01〜10重量部含有する電気絶縁用樹脂組成物。
【請求項8】
電気機器を前記電気絶縁用樹脂組成物で被覆し、硬化することを特徴とする電気機器絶縁物の製造方法。


【公開番号】特開2006−143888(P2006−143888A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−335877(P2004−335877)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】