説明

樹脂組成物、電線及びケーブル

【課題】GHz帯域において優れた誘電特性を有し、耐熱老化特性を効果的に向上させることができ且つブルーム現象の発生を抑制できる樹脂組成物、電線及びケーブルを提供すること。
【解決手段】ベース樹脂と、ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤とを含む樹脂組成物であって、金属不活性剤が、ベース樹脂100質量部に対して2質量部未満の割合で配合されていることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、電線及びケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、GHz帯域の周波数を使用した電子機器の開発に伴い、高周波同軸ケーブル、USB3.0ケーブル、HDMIケーブル、インフィニバンドケーブル、マイクロUSBケーブルなどの高速伝送ケーブルなどに対しては、GHz帯域においても優れた高周波数特性を有することが求められている。
【0003】
ところで、上述した高速伝送ケーブルには、導体を絶縁層で被覆した電線が含まれており、その絶縁層には、一般に酸化防止剤や金属不活性剤のような添加剤が使用される。酸化防止剤は、絶縁層を構成する材料の劣化を防止し、ケーブルの長寿命化を図るために添加されるものであり、金属不活性剤は、絶縁層中に含まれるポリプロピレンやエチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン樹脂の銅との接触による劣化の進行を抑制するために添加されるものである。
【0004】
これらの添加剤は、ケーブルの使用周波数がMHz帯域にある場合にはケーブルの誘電特性に大きな影響を与えなかったが、GHz帯域の周波数が使用されるようになってくると、上記の添加剤がケーブルに与える誘電特性への影響を無視できなくなってきた。
【0005】
そこで、例えば、酸化防止剤として、ヒンダードフェノール構造を有しないフェノール系の酸化防止剤を使用することにより、高周波においても十分に優れた誘電特性を付与することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−81132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1では、耐熱老化特性の点では未だ改良の余地があった。一方、添加剤は、過剰に添加されると、表面に粒子が浮き出るブルーム現象が生じることから、より少ない添加量で添加されることが望ましい。
【0008】
従って、GHz帯域において優れた誘電特性を有し、耐熱老化特性を効果的に向上させることができ且つブルーム現象の発生を抑制できる樹脂組成物が求められていた。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、GHz帯域において優れた誘電特性を有し、耐熱老化特性を効果的に向上させることができ且つブルーム現象の発生を抑制できる樹脂組成物、電線及びケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため、添加剤として酸化防止剤ではなく、金属不活性剤に着目して研究を進めた。その結果、本発明者は、一般に耐熱老化性を向上させるものとして知られる金属不活性剤にあっても、金属不活性剤の種類によって耐熱老化性を向上させる効果の点で大きな差があることを見出した。即ち、本発明者は、金属不活性剤のうちヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤が、これと異なる金属不活性剤に比べて、GHz帯域において優れた誘電特性を有しつつ、耐熱老化特性を効果的に向上させることができ且つブルーム現象の発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち本発明は、ベース樹脂と、ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤とを含む樹脂組成物であって、前記金属不活性剤が、前記ベース樹脂100質量部に対して2質量部未満の割合で配合されていることを特徴とする樹脂組成物である。
【0012】
この樹脂組成物は、GHz帯域において優れた誘電特性を有する。また金属不活性剤として、ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤を用いると、これとは異なる金属不活性剤をベース樹脂100質量部に対して同一割合で配合させた場合に比べて、耐熱老化特性に優れたものとなる。即ち上記金属不活性剤を用いることで、耐熱老化特性を効果的に向上させることができる。さらに金属不活性剤がベース樹脂100質量部に対して2質量部以上の割合で配合される場合に比べて、絶縁層の表面に金属不活性剤の粒子が浮き出るいわゆるブルーム現象の発生を十分に抑制できる。
【0013】
上記樹脂組成物においては、前記金属不活性剤が、前記ベース樹脂100質量部に対して1質量部以下の割合で配合されていることが好ましい。
【0014】
この場合、ブルーム現象の発生をより十分に抑制することができる。
【0015】
また上記樹脂組成物においては、前記金属不活性剤がデカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドであることが好ましい。
【0016】
金属不活性剤としてデカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドを用いると、耐熱老化特性をより効果的に向上させることができる。
【0017】
また本発明の電線は、導体と、前記導体を被覆する絶縁層とを備える電線であって、前記絶縁層が、上記樹脂組成物で構成され、又は上記樹脂組成物を架橋処理してなることを特徴とするものであり、本発明のケーブルは上記電線を有するものである。
【0018】
この電線及びケーブルによれば、GHz帯域において優れた誘電特性が得られるとともに、耐熱老化特性を効果的に向上させることができ、ブルーム現象の発生を十分に抑制することもできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、GHz帯域において優れた誘電特性を有し、耐熱老化特性を効果的に向上させることができ且つブルーム現象の発生を抑制できる樹脂組成物、電線及びケーブルが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のケーブルの一実施形態を示す部分側面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明のケーブルの他の実施形態を示す端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図1及び図2を用いて詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明に係るケーブルの一実施形態を示す部分側面図であり、電線をケーブルとしての同軸ケーブルに適用した例を示すものである。図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。図1に示すように、ケーブル10は同軸ケーブルを示しており、電線5と、電線5を包囲する外部導体3と、外部導体3を被覆するシース4とを備えている。そして、電線5は、内部導体1と、内部導体1を被覆する絶縁層2とを有している。
【0023】
ここで、絶縁層2は、ベース樹脂と金属不活性剤とを含む樹脂組成物を溶融混練することによって得られる。金属不活性剤としては、ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤が用いられ、この金属不活性剤は、ベース樹脂100質量部に対して2質量部未満の割合で配合される。
【0024】
このような構成を有するケーブル10によれば、上記構成の絶縁層2を用いた電線5が使用されることで、GHz帯域において優れた誘電特性を得ることができる。また金属不活性剤として、ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤を用いると、これとは異なる金属不活性剤をベース樹脂100質量部に対して同一割合で配合させた場合に比べて、優れた耐熱老化特性を得ることができる。即ち上記金属不活性剤を用いることで、ケーブル10の耐熱老化特性を効果的に向上させることができる。さらに金属不活性剤がベース樹脂100質量部に対して2質量部以上の割合で配合される場合に比べて、絶縁層2の表面に金属不活性剤の粒子が浮き出るいわゆるブルーム現象の発生を十分に抑制できる。
【0025】
次に、ケーブル10の製造方法について説明する。
【0026】
まず電線5の製造方法について説明する。
【0027】
<内部導体>
はじめに内部導体1を準備する。内部導体1としては、例えば銅線、銅合金線、アルミニウム線等の金属線が挙げられる。また、上記金属線の表面にスズや銀等のめっきを施したものを内部導体1として用いることもできる。また内部導体1としては、単線または撚線を用いることができる。
【0028】
<絶縁層>
次に、内部導体1上に絶縁層2を形成する。
【0029】
絶縁層2を形成するためには、ベース樹脂と、ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤とを準備する。
【0030】
(ベース樹脂)
ここで、まずベース樹脂について説明する。
【0031】
ベース樹脂は、樹脂としてはいかなるものでもよいが、ベース樹脂としては、好ましくはポリオレフィン系樹脂が用いられる。ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン系樹脂やプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
【0032】
エチレン系樹脂とは、エチレンを構成単位として含む樹脂であって、プロピレンを構成単位として含まないものを言うものとする。このようなエチレン系樹脂としては、例えばポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン−メチルアクリレート共重合体、エチレン−エチルメタクリレート共重合体、エチレン−1−ブテン共重合体、エチレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ポリエチレンには、低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)などが含まれる。
【0033】
プロピレン系樹脂とは、プロピレンを構成単位として含む樹脂を言う。従って、このようなプロピレン系樹脂には、プロピレンの単独重合により得られるホモポリプロピレン、プロピレン以外のオレフィンとプロピレンとの共重合体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。プロピレン以外のオレフィンとしては、例えばエチレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどが挙げられる。中でも、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセンなどのα−オレフィンが、脆化の抑制の観点から好ましく用いられ、より好ましくはエチレンが用いられる。
【0034】
上記ベース樹脂の中でも、表面硬さ及び柔軟性の両立の観点からエチレン−プロピレン共重合体が特に好ましい。
【0035】
ベース樹脂の溶融時(190℃)の破断張力は特に限定されるものではないが、絶縁層2が発泡絶縁層である場合は、通常1〜20gfである。ベース樹脂の溶融時(190℃)の破断張力は高線速押出時の微細発泡性とケーブル外観との両立の点から、好ましくは1〜4.9gfである。但し、絶縁層2が非発泡絶縁層である場合は、ベース樹脂の溶融時(190℃)の破断張力は、例えば1gf未満であってもよい。
【0036】
ベース樹脂の溶融時(190℃)の破断張力は、例えば押出機のダイス出口における温度を調整することで調整することができる。
【0037】
(金属不活性剤)
金属不活性剤は、内部導体1との接触によるベース樹脂の劣化を防止するためのものであり、ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤であればよい。このような金属不活性剤としては、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2’,3−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジド又はデカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドが用いられる。これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。中でも、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2’,3−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジドが、耐熱老化特性をより効果的に向上させることができるため好ましい。
【0038】
金属不活性剤は、ベース樹脂100質量部に対して2質量部未満の割合で配合する。2質量部以上であると、樹脂組成物中に金属不活性剤が占める割合が増大し、ブルーム現象が生じるためである。金属不活性剤は、ベース樹脂100質量部に対して1質量部以下の割合で配合することが好ましい。この場合、金属不活性剤を、1質量部を超える割合で配合する場合に比べて、ブルーム現象の発生をより十分に抑制することができる。但し、金属不活性剤による耐熱老化特性をより向上させる観点からは、ベース樹脂100質量部に対して0.2質量部以上の割合で金属不活性剤を配合することが好ましい。
【0039】
(酸化防止剤)
上記ベース樹脂には、酸化防止剤を添加してもよい。上記ベース樹脂100質量部に対する酸化防止剤の添加量は、例えば0.01質量部以上2質量部未満である。
【0040】
酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−第三−ブチルフェノール、2,6−ジ−第三−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−第三−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−第三−ブチル−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,4,6−トリ−第三−ブチルフェノール、o−第三−ブチルフェノール等のモノフェノール系、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−第三−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−エチル−6−第三−ブチルフェノール)、4,4’−メチレン−ビス−(2,6−ジ−第三−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス−(4−メチル−6−第三−ブチルフェノール)、アルキル化ビスフェノール、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−第三−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のポリフェノール系、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−第三−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−第三―ブチルフェニル)プロピオネート、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−第三−ブチルフェニル)ブタン、3,9−ビス[2−{3−(3−第三ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]−ウンデカン等のヒンダードフェノール系、4,4’−チオビス−(6−第三−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4’−チオビス−(6−第三−ブチル−o−クレゾール)、ビス(3,5−ジ−第三−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、ジアルキル・フェノール・スルフィド等のチオビスフェノール系、ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等のりん系トリス(ノニルフェニル)、ジラウリル・チオジプロピオネート、ジステアリル・チオジプロピオネート、ジステアリル−β,β−チオジブチレート、ラウリル・ステアリル・チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオネート、含硫黄エステル系化合物、アミル−チオグリコレート、1,1’−チオビス−(2−ナフトール)、2−メルカプトベンズイミダゾール、ヒドラジン誘導体、ヒンダードフェノール構造と異なる化学構造を有するフェノール系の酸化防止剤等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
ヒンダードフェノール構造と異なる化学構造を有するフェノール系の酸化防止剤としては、セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤やレスヒンダードフェノール系の酸化防止剤が挙げられる。
【0042】
セミヒンダードフェノール系の酸化防止剤としては、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−80)、エチレンビス(オキシエチエレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](例えば、BASFジャパン社のイルガノックス245)、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−70)が挙げられる。
【0043】
レスヒンダードフェノール系の酸化防止剤としては、4,4´−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール(例えば、大内新興化学工業社のノクラック300)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ターシャリーブチルフェニル)ブタン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−30)、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−40)が挙げられる。
【0044】
これらの酸化防止剤は、周波数による影響を比較的受け難く、GHz帯域における誘電特性をより良好にすることができる。
【0045】
なお、酸化防止剤に対する金属不活性剤の配合比(質量比)は、0.1〜10であることが好ましく、0.5〜5であることがより好ましい。
【0046】
上記絶縁層2は、上記ベース樹脂と金属不活性剤と必要に応じて酸化防止剤とを押出機に投入し押出機中の樹脂組成物を溶融混練して押し出し、この押出物で内部導体1を被覆することにより得られる。
【0047】
絶縁層2の外径は、40mm以下であることが好ましく、8mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることが特に好ましい。
【0048】
電線5においては、絶縁層2は非発泡絶縁層でも発泡絶縁層でもよいが、発泡絶縁層である場合には30〜60%の発泡度を有することが好ましい。
ここで、発泡度は、以下の式に基づいて算出されるものである。
【数1】

【0049】
この場合、ケーブル10のつぶれ(変形)を抑制でき、GHz帯域で使用されるケーブル用の電線として、絶縁層2にプロピレン系樹脂を使用したものを用いても発泡セルが粗大化するのを抑制でき、微細且つ均一な発泡セルを有する発泡状態の絶縁層2を得ることができる。また電線5を使用したケーブル10は、外径変動が小さく、絶縁層2を薄くしても潰れの問題が少なく、減衰量の劣化等のバラツキが十分に抑制される。なお、非発泡絶縁層とは、発泡度が0%である絶縁層を意味する。
【0050】
絶縁層2を発泡絶縁層とする場合、発泡絶縁層は、樹脂組成物中に化学発泡剤などの発泡剤を配合することで得ることができる。
【0051】
また絶縁層2と内部導体1との間に、未発泡樹脂からなる薄層、いわゆる内層を介在させることが好ましい。これにより絶縁層2と内部導体1との密着性を向上させることができる。特に未発泡樹脂がポリエチレンからなる場合、さらに熱老化特性を向上させることができる。また上記内層は、内部導体1中の銅による絶縁層2の劣化(脆化)を防止することもできる。なお、薄層の厚さは例えば0.01〜0.1mmとすればよい。
【0052】
さらに絶縁層2と外部導体3との間に、薄層、いわゆる外層を介在させることが好ましい。伝送ケーブルでは色付が必要な場合が多い。この場合、薄層として未発泡樹脂を用いると、外層なしで色付けを行う場合に比べて、顔料による電気特性悪化を抑制し容易に色付けを行うことができる。また、発泡樹脂からなる薄層を、絶縁層2と外部導体3との間に介在させると、電線5の外観が改善される。即ち電線5の外径変動が小さくなり、スキューやVSWRが向上し、また、耐つぶれ性が向上し、電線5の外径を小さくすることもできる。なお、薄層の厚さは例えば0.02〜0.2mmとすればよい。
【0053】
さらに絶縁層2は、樹脂組成物を溶融混練して内部導体1に押出被覆した後、その押出物に架橋処理を行って得られるものでもよい。この場合、架橋処理は、例えば電子線照射によって行うことができるが、樹脂組成物が有機過酸化物や硫黄などの架橋剤を含む場合には加熱することによっても行うことができる。但し、電気特性の向上の点からは、電子線照射によって行う方が好ましい。
【0054】
<外部導体>
次に、上記のようにして得られた電線5を包囲するように外部導体3を形成する。外部導体3としては、従来より使用されている公知のものを使用することができる。例えば外部導体3は、導線や、導電シートを樹脂シートの間に挟んで構成したテープなどを絶縁層2の外周に沿って巻くことなどによって形成することができる。また、外部導体3は、コルゲート加工、即ち波形成形した金属管で構成することもできる。
【0055】
<シース>
最後にシース4を形成する。シース4は、外部導体3を物理的又は化学的な損傷から保護するものであり、シース4を構成する材料としては、例えばフッ素樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等の樹脂が挙げられるが、環境性等の観点からポリエチレン樹脂等のハロゲンフリー材料が好ましく用いられる。
【0056】
以上のようにしてケーブル10が得られる。
【0057】
図3は、上記電線5を有するTwinaxタイプのケーブルを示す端面図である。図3に示すように、Twinaxタイプのケーブル20は、2本の電線5と、ドレンワイヤ6と、ラミネートテープ7と、2本の電力線8と、アルミテープ層及び編組層からなる積層体層9と、シース4とを備えている。ここで、2本の電線5は互いに平行に配置されており、これらは信号線として使用される。またラミネートテープ7は電線5及びドレインワイヤ6を巻回しており、シース4は積層体層9を包囲するように積層体層9上に形成されている。ラミネートテープ7は例えばアルミニウム箔とポリエチレンテレフタレートフィルムとの積層体で構成され、シース4は、例えばリケンテクノス社製のANA9897N等のオレフィン系ノンハロ材などで構成される。なお、電線5及び絶縁層2は上記実施形態と同様のものである。
【0058】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、電線5が、ケーブルとしての同軸ケーブルやTwinaxタイプのケーブルに適用された例が示されているが、電線5は、USB3.0ケーブル、HDMIケーブル、インフィニバンドケーブル、マイクロUSBケーブルなどの高速ケーブルなどにも適用可能である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
まずベース樹脂として、エチレン−プロピレンブロック共重合体であるBC3RA(以下、「EP」と呼ぶ)を用意した。
【0061】
そして、押出機(製品名:ラボプラストミルD2020、スクリュー径(D):φ20mm、有効スクリュー長(L):400mm、東洋精機製作所社製)にEP、酸化防止剤および金属不活性剤を投入してコンパウンドを作製し、これを押出機(スクリュー径(D):φ25mm、有効スクリュー長(L):800mm、聖製作所社製)に投入し溶融混練して、押出成形を行った。このとき、100質量部のEPに対して酸化防止剤および金属不活性剤を、表1に示す割合で配合し、溶融混練温度は200℃とした。なお、表1において、数値の単位は質量部を表す。
【0062】
そして、押出機から押出物をチューブ状に押し出し、このチューブ状の押出物で、直径0.60mmの銅線を被覆した。こうして、導体と、導体を被覆する絶縁層とからなる電線を作製した。このとき、押出物は、発泡絶縁層の外径が1.6mm、厚さが0.5mmとなるように押し出した。
【0063】
こうして得られた電線を、アルミニウム層とポリエチレンテレフタレート層との積層体からなる厚さ25μmのラミネートテープで巻回した。次に、これを、厚さ0.4mmのPVC(ポリ塩化ビニル)からなるシースで被覆した。こうして、非発泡および非架橋で、インピーダンスが50Ωである同軸ケーブルを作製した。
【0064】
(実施例2〜5及び比較例1〜7)
表1に示すベース樹脂、酸化防止剤及び金属不活性剤を、表1に示す割合で配合してコンパウンドを作製したこと以外は実施例1と同様にして同軸ケーブルを作製した。
【0065】
なお、表1に示されているベース樹脂、金属不活性剤および酸化防止剤としては具体的には以下のものを用いた。
(1)ベース樹脂
(1-1)HDPE
2070:宇部丸善ポリエチレン社製高密度ポリエチレン
(1-2)EP
BC3RA:日本ポリプロ社製エチレン・プロピレン共重合体
(2)金属不活性剤
(2-1)CDA−6
アデカスタブCDA−6(アデカ社製金属不活性剤、デカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド)
(2-2)IrMD1024
イルガノックスMD1024(BASFジャパン社製金属不活性剤、2’,3−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]プロピオノヒドラジド)
(3)酸化防止剤
(3-1)AO−80
アデカスタブAO−80(アデカ社製酸化防止剤、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)
【0066】
[特性評価]
実施例1〜5及び比較例1〜7で得られた同軸ケーブルについて、以下の特性を評価した。
【0067】
(1)誘電特性(tanδ)
誘電特性は誘電正接(tanδ)を測定することにより調べた。ここで、誘電正接(tanδ)は、実施例1〜5及び比較例1〜7の同軸ケーブルのうち絶縁層の製造に使用した樹脂組成物を、直径φ2mm、長さ75mmの丸棒状に成形し、このサンプルについてマイクロ波測定システム(商品名SUM−TM0m0 サムテック社製)を用いて、測定周波数3.0GHz、6.9GHz、10.7GHz、14.6GHzの各周波数にて測定した。なお、誘電率の測定も行った。結果を表2に示す。
上記各周波数ごとのtanδの合格基準については、以下の通りである。
3.0GHz・・・・1.7以下
6.9GHz・・・・2.1以下
10.7GHz・・・2.5以下
14.6GHz・・・2.9以下
【0068】
(2)誘電特性(減衰量)
実施例1〜5及び比較例1〜7で得られた同軸ケーブルについて、ネットワークアナライザー(8722ES アジレントテクノロジー社製)を用いて、周波数が3.0GHz、6.9GHz、10.7GHzおよび14.6GHzの場合のそれぞれについて減衰量を測定した。各周波数ごとの減衰量の合格基準については、以下の通りである。
3.0GHz・・・・0.92以下
6.9GHz・・・・1.50以下
10.7GHz・・・1.98以下
14.6GHz・・・2.47以下
【0069】
(3)耐熱老化特性
耐熱老化特性は以下のようにして評価した。即ちまず、実施例1〜5及び比較例1〜7で得られた同軸ケーブルの導体を引き抜いた絶縁体について引張試験を行い、引張強度および伸び残率を測定した。以下、それぞれ「初期引張強度」及び「初期伸び残率」という。次に、同軸ケーブルを恒温槽にて110℃で放置し、定期的に取り出して同様に引張試験を行い、引張強度および伸び残率を測定した。そして、この引張強度が初期引張強度の50%となり且つ伸び残率が初期伸び残率の50%となった年数を算出した。結果を表2に示す。なお、耐熱老化特性については、年数が0.8年以上であれば合格とし、0.8年未満であれば不合格とした。
【0070】
(4)ブルーム(ブルーミング)
ブルームは、長さ3mに切断した同軸ケーブルからシース及びラミネートテープを取り除き、50℃、3ヶ月放置した後、露出した絶縁層の表面を目視によって観察し、表面に異物が確認できる場合を不合格とし、表面に異物が確認できない場合を合格した。結果を表2に示す。なお、表2において、不合格の場合は「×」と表示し、合格の場合は「○」と表示した。
【0071】
表2に示す結果より、金属不活性剤の有無の点でのみ異なる実施例1と比較例2とを比較すると、実施例1は、高周波における誘電特性、耐熱老化性及びブルームのいずれの点でも合格基準に達していた。これに対し、比較例2は、高周波における誘電特性及びブルームの点では合格基準に達していたものの、耐熱老化性の点では合格基準に達しなかった。また例えばベース樹脂に対して同一の割合で異なる金属不活性剤を配合した実施例2と比較例3とを比較すると、実施例2は、高周波における誘電特性、耐熱老化特性及ブルームのいずれの点でも合格基準に達していた。これに対し、比較例3は、14.6GHzにおける誘電特性及び耐熱老化特性の点で合格基準に達しなかった。この結果は、ベース樹脂に対して同一の割合で異なる金属不活性剤を配合した他の実施例(実施例3〜5)および他の比較例(比較例4〜6)を比較しても同様であった。
【0072】
さらに金属不活性剤をベース樹脂100質量部に対して1質量部添加した実施例5は、高周波における誘電特性、耐熱老化性及びブルームのいずれの点でも合格基準に達していた。これに対し、金属不活性剤をベース樹脂100質量部に対して2質量部添加した比較例1では、高周波における誘電特性及びブルーム現象の点で合格基準に達しないことが分かった。
【0073】
よって、本発明の樹脂組成物によれば、GHz帯域において優れた誘電特性を有し、耐熱老化特性を効果的に向上させることができ且つブルーム現象の発生を抑制できることが確認された。
【表1】


【表2】

【符号の説明】
【0074】
1…内部導体(導体)、2…絶縁層、5…電線、10,20…ケーブル。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂と、
ヒンダードフェノールと異なる化学構造を有するヒドラジド系の金属不活性剤とを含む樹脂組成物であって、
前記金属不活性剤が、前記ベース樹脂100質量部に対して2質量部未満の割合で配合されていること、
を特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記金属不活性剤が、前記ベース樹脂100質量部に対して1質量部以下の割合で配合されている、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記金属不活性剤がデカメチレンジカルボン酸ジサリチロイルヒドラジドである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層とを備える電線であって、
前記絶縁層が、請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物で構成され、又は請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物を架橋処理してなること、
を特徴とする電線。
【請求項5】
請求項4に記載の電線を有するケーブル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−87184(P2012−87184A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233527(P2010−233527)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】