説明

樹脂組成物及びその製造方法

【課題】 膨潤性層状ケイ酸塩などの大きなアスペクト比を有する異方性無機粒子の凝集を抑制し、光学用フィルム又はシートとして使用可能な、優れた透明性と機械強度を有する樹脂組成物及びその製造方法の提供。
【解決手段】 可塑性樹脂に、少なくとも、長径が1μm以下で、アスペクト比が3〜1000である無機粒子、及び分散剤を配合してなり、かつ、該無機粒子及び分散剤が、−30℃以下で凍結真空乾燥されたことを特徴とする樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に、特定の長径及びアスペクト比を有する無機粒子等を配合してなり、特に、光学用フィルム又はシートとして使用可能な、優れた透明性と機械強度を有する樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大きなアスペクト比を有する異方性無機微粒子は熱可塑性樹脂中に配合されることで、その異方性を利用して、熱可塑性樹脂に機械強度や耐熱性など機能を付与している。
例えば、ガラス繊維を配合した熱可塑性樹脂は、耐熱性及び機械強度が大幅に向上する。しかし、ガラス繊維が数10%配合されるため熱可塑性樹脂が本来持っている透明性は失われてしまい、着色されて自動車部品等に多く使用されているという問題があった。
また、近年の環境問題への関心の高まりの中で、自動車部品等を中心に更なる省エネルギー化が検討されている。特に、車重の軽量化による燃費低減や、廃棄物の低減のため、ガラス繊維を配合した樹脂と同等レベルの耐熱性、機械強度を有する代替材料が求められている。
【0003】
そこで、数%の膨潤性層状ケイ酸塩を熱可塑性樹脂中で微分散させることで、優れた耐熱性と機械強度が得られる技術が提案されている(特許文献1参照)。
膨潤性層状ケイ酸塩は、原子レベルで平滑かつ化学的安定な層表面に挟まれた空間を有している。層間を構成する層表面が化学的に安定で、通常負に荷電しているため、イオン性又は強い極性を有する様々な有機化合物や無機化合物を挿入することができる。その有機化合物は膨潤性層状ケイ酸塩の層表面と弱いイオン結合や水素結合によって物理的に結合することで、熱可塑性樹脂など疎水性物質中でも分散が可能になっている。これらの有機化合物により修飾された層状ケイ酸塩微粒子は非常にサイズが小さく、微分散していれば、透明性を付与できる可能性がある。
しかし、実際には有機化合物により修飾された層状ケイ酸塩微粒子における各層の側面は剥き出しの水酸基を有しているため、これらによる水素結合により2次凝集が発生したり、ベース樹脂との相溶性が悪く微分散が達成できておらず、そのため優れた透明性も得られていないという問題があった。
この問題を解決する方法として、一般的には側面水酸基をシラン処理することで、水素結合を阻害することで凝集の抑制が試みられているが、この方法でもシラン処理後の乾燥により2次凝集は完全には抑制できていない。
【0004】
そこで、例えば、膨潤性層状ケイ酸塩を水に懸濁することにより膨順させた後に、凍結乾燥して、懸濁時の分散状態を保持し、次いで、微分散された層状ケイ酸塩をプラズマ処理して、層表面や層間内の層表面まで有機化合物と反応させることで2次凝集の解決を試みる技術が提案されている(特許文献2参照)。
しかし、有機化合物で表面処理されてない未処理の層状ケイ酸塩を水に懸濁する場合、凍結乾燥しても完全に層間が剥離した分散状態を保持することができないという問題があった。
したがって、膨潤性層状ケイ酸塩などの大きなアスペクト比を有する異方性無機粒子の凝集を抑制し、光学用フィルム又はシートとして使用可能な、優れた透明性と機械強度を有する樹脂組成物は未だ提供されておらず、更なる改良開発が望まれているのが現状である。
【0005】
【特許文献1】特開昭51−109998号公報
【特許文献2】特許第2636204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、膨潤性層状ケイ酸塩などの大きなアスペクト比を有する異方性無機粒子の凝集を抑制し、光学用フィルム又はシートとして使用可能な、優れた透明性と機械強度を有する樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、アスペクト比が3〜1000である無機粒子を、分散剤と溶媒とにより分散させて得た分散溶液を、−30℃以下で凍結真空乾燥した後に、熱可塑性樹脂に配合することで、分散剤により表面処理された無機粒子の分散状態を損なわず、熱可塑性樹脂に配合することできることを見出した。
【0008】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 熱可塑性樹脂に、長径が1μm以下で、アスペクト比が3〜1000である無機粒子、及び分散剤を配合してなり、かつ、該無機粒子及び分散剤が、−30℃以下で凍結真空乾燥されたことを特徴とする樹脂組成物である。
<2> 無機粒子と分散剤との合計配合量が0.5〜30質量%である前記<1>に記載の樹脂組成物である。
<3> 凍結真空乾燥の時間が1時間以内である前記<1>から<2>のいずれかに記載の樹脂組成物である。
<4> 熱可塑性樹脂に対し、長径が1μm以下で、アスペクト比が3〜1000である無機粒子を、分散剤と溶媒とにより分散させて得た分散液を、−30℃以下で凍結真空乾燥した後に配合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法である。
<5> 熱可塑性樹脂に、凍結真空乾燥した無機粒子及び分散剤を溶融混練する前記<4>に記載の樹脂組成物の製造方法である。
<6> 凍結真空乾燥の時間が1時間以内である前記<4>から<5>のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記問題を解決し、膨潤性層状ケイ酸塩などの大きなアスペクト比を有する異方性無機粒子の凝集を抑制し、光学用フィルム又はシートとして使用可能な、優れた透明性と機械強度を有する樹脂組成物及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明の樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂に対し、長径が1μm以下で、アスペクト比が3〜1000である無機粒子を、分散剤と溶媒とにより分散させて得た分散液を、−30℃以下で凍結真空乾燥した後に配合することを特徴とする。
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に、長径が1μm以下で、アスペクト比が3〜1000である無機粒子、及び分散剤を配合してなり、かつ、該無機粒子及び分散剤が、−30℃以下で凍結乾燥されたことを特徴とする。該樹脂組成物は、本発明の製造方法によって好適に得られる。
以下、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明するが、それを通じて樹脂組成物の説明も行うこととする。
【0011】
−熱可塑性樹脂−
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリメタクリル酸、等の光学用途に利用できる透明性を有する樹脂が好適に挙げられる。これらの中でも特に、ポリエチレンテレフタレート(以下、単に「PET」ともいう。)、ポリカーボネート(以下、単に「PC」ともいう。)、ポリメタクリル酸メチルが、優れた透明性を有し、好ましい。
前記熱可塑性樹脂の配合量は、樹脂組成物100質量%に対し、70〜99.5質量%が好ましい。前記配合量が70質量%未満であると、無機粒子の分散性、透明性が低下したり、樹脂組成物を使用して作成された成型品が脆くなることがあり、実用に耐えられないことがある。前記配合量が99.5質量%を超えると、機械強度が向上しないことがある。
【0012】
−無機粒子−
前記無機粒子としては、上述の長径及びアスペクト比を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、膨潤性層状ケイ酸塩、炭酸ストロンチウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、カーボンナノテューブ、などが好適に挙げられる。なお、ここで、「膨潤性」とは、結晶層間に、水、アルコール、エーテル等の溶媒が侵入して膨潤する性質をいう。
前記膨潤性層状ケイ酸塩としては、例えば、スメクタイト属粘土鉱物、膨潤性雲母属粘土鉱物、バーミキュライト、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
前記スメクタイト属粘土鉱物としては、例えば、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ハイデライト、モンモリロナイト、ノントライト、ベントナイト、などが挙げられる。これらは天然物であってもよいし、合成物であってもよい。
前記膨潤性雲母属粘土鉱物としては、例えば、Na型テトラシリシックフッ素雲母、Li型テトラシリシックフッ素雲母、Na型フッ素テニオライト、Li型フッ素テニオライト、などが挙げられる。
前記膨潤性層状ケイ酸塩の具体的な市販品としては、例えば、ラポナイトXLG(英国、ラポート社製合成ヘクトライト類似物)、ラポナイトRD(英国、ラポート社製合成ヘクトライト類似物)、サーマビス(独国、ヘンケル社製合成ヘクトライト類似物)、スメクトンSA−1(クニミネ工業(株)製サポナイト類似物)、ベンゲル(豊順洋行(株)販売の天然モンモリロナイト)、クニピアF(クニミネ工業(株)販売の天然モンモリロナイト)、ビーガム(米国、バンダービルト社製天然ヘクトライト)、ダイモナイト(トピー工業(株)製合成膨潤性雲母)、ソマシフ(コープケミカル(株)製合成膨潤性雲母)、ルーセンタイトSWN(コープケミカル(株)製合成スメクタイト)、ルーセンタイトSWF(コープケミカル(株)製合成スメクタイト)、などが挙げられる。
前記無機粒子の長径は、上述のように1μm以下であることが必要である。前記長径が1μmを超える場合、配合量を減らしても透明性が損なわれてしまう。
前記無機粒子のアスペクト比は、上述のように3〜1000であることが必要である。該アスペクト比が3未満では、機械強度が向上しにくく、多量に配合しなければならず、透明性を得ることができない。また、前記アスペクト比が1000を超える場合、機械強度は大幅に向上するが、透明性を失ってしまう。
また、前記アスペクト比は、分散性及び透明性の点から、膨潤性層状ケイ酸塩であれば、3〜100であることが好ましく、炭酸ストロンチウムウィスカでは5〜100であることが好ましい。
前記長径の測定及びアスペクト比の算出方法としては、特に制限はなく、通常知られる方法により適宜選択して行うことができるが、例えば、押出成形して得た樹脂組成物のシートを任意の温度に加熱して延伸し、その延伸シートの断面をミクロトームにより切断して、断面を電子顕微鏡により500倍及び2万倍で観察する方法が挙げられる。
【0013】
−分散剤−
前記分散剤は、上述した無機粒子を、分散させることにより表面処理するのに使用される。
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、有機オニウムイオンを含む化合物、有機ヒドロキシ化合物、有機シラン化合物、有機ハロゲン化合物、エポキシ基含有化合物、などが好適に挙げられる。
前記有機オニウムイオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、などが挙げられる。これらの中でも、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオンが好ましく、耐熱性の面からホスホニウムイオンが特に好ましい。
前記ホスホニウムイオンは、下記式1で表される。
【化1】

前記式1中、R、R、R、Rは、水素、炭素数1〜20のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、フェニル基、エポキシ基を含む炭化水素基より選ばれる基である。ただし、アルキル基、フェニル基はその水素原子の一部がハロゲン、ヒドロキシル基、カルボキシル基、−COOR(Rは炭素数1〜5のアルキル基)からなる群より選ばれる基で置換されていてもよい。
前記有機ヒドロキシ化合物としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、等の炭素数1〜20のアルコール類、などが挙げられる。
前記有機ハロゲン化合物としては、例えば、メチルクロリド、エチルクロリド、プロピルクロリド、ブチルクロリド、ヘキシルクロリド、オクチルクロリド、シクロヘキシルクロリド、ベンジルクロリド、これらに対応するフルオリド、ブロミド、ヨージド、等の炭素数1〜20のハロゲン炭化水素基、などが挙げられる。
前記有機シラン化合物としては、例えば、下記一般式で表わされる化合物などが挙げられる。
〔一般式〕
nSiX4-n
ただし、前記一般式中、Rは炭化水素基、Xはハロゲン原子、OR基又はOH基であり、nは1〜3の整数である。
前記一般式で表される化合物としては、例えば、トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロルシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロルシラン、フェニルシラノール、トリメチルエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、などが挙げられる。特に、n−テトラジデシルトリフェニルホスホニウムブロミドや、プレーンアクトKR−44(味の素(株)製)、プラーンアクトKR−138S(味の素(株)製)、などの市販品が好適に挙げられる。
また、これらの分散剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
−配合量−
前記無機粒子と分散剤との合計配合量は、樹脂組成物100質量%に対し、0.5〜30質量%が好ましい。前記配合量が0.5質量%未満であると、機械強度が向上しないことがあり、30質量%を超えると、分散性、透明性が低下したり、樹脂組成物を使用して作成された成型品が脆くなることがあり、実用に耐えられないことがある。
【0015】
−溶媒−
前記溶媒は、上述の無機粒子及び分散剤を溶解又は懸濁させることで、該分散剤により無機粒子を分散させて、分散液を得るのに使用される。
前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、異方性無機微粒子の粒子表面の性質により、最適なものを選択して使用するのが好ましく、例えば、水、アセトン、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどが好適に挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記溶媒中に配合する無機粒子の量は、0.1〜4質量%が好ましい。前記無機粒子の量が0.1質量%未満であると、無機粒子の分散性が向上しにくくなったり、一度に生産できる量が少なく生産性が悪くなることがある。また、前記無機粒子の量が4質量%を超えると、溶媒中でゲル化が起こりやすくなり、分散性が低下することがある。
前記溶媒中に配合する分散剤の量は、0.05〜10質量%が好ましい。前記分散剤の量が0.05質量%未満であると、無機粒子の分散性が向上しにくくなったり、凝集物が多量に発生して透明性が低下することがある。また、前記分散剤の量が10質量%を超えると、未反応の分散剤が多量に存在し、得られる樹脂組成物の機械物性を低下させることがある。
前記溶媒中に、無機粒子及び分散剤を溶解又は懸濁させる方法としては、特に制限はなく、通常使用される方法を適宜選択して行うことができる。
【0016】
−凍結真空乾燥−
該凍結真空乾燥は、前記分散液を得た上で行うことが必要である。分散剤を添加しない溶液又は懸濁液により凍結乾燥を行い、後に分散剤を添加すると、透明性及び機械強度が低くなってしまう。
前記凍結真空乾燥を行う方法としては、特に制限はなく、通常使用される方法を適宜選択して行うことができるが、凍結により無機粒子の分散溶液内における分散状態を保持する観点から、凍結真空乾燥法により、凍結を行った後に同じ温度を保ちながら真空乾燥する方法が好ましい。
前記凍結真空乾燥を行う際の温度は、無機粒子の分散状態を保持するためには、上述のように−30℃であることが必要であり、早期に凍結させる観点から、−50℃以下であることが好ましい。前記温度が−30℃より高いと、分散液の凍結過程において、分散していた無機粒子が配向・凝集を起こしてしまう。
前記凍結真空乾燥において、凍結を行う時間は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記無機粒子を確実に配向・凝集させない観点から、1時間以内であることが好ましい。
前記真空乾燥時の圧力は、溶媒をある程度除去することができ、かつ、真空状態とできる程度の圧力であれば特に制限はないが、3.3〜26.6Paが好ましい。
また、前記分散液は、溶媒を完全に除去する観点から、前記凍結乾燥後に、二次乾燥を行うことが好ましい。
前記二次乾燥を行う際の温度は、20〜50℃が好ましく、圧力は、9.9〜40Paが好ましい。
【0017】
−配合方法−
前記凍結乾燥により、溶媒が除去された後、無機粒子及び分散剤は、熱可塑性樹脂に配合される。
前記無機粒子及び分散剤の配合方法としては、特に制限はなく、通常使用される方法を適宜選択して行うことができるが、前記無機粒子等の様々な添加方法を選択できる観点から、溶融混練法により溶融混練することが好ましい。
前記溶融混練を行うために使用される混練機としては、特に制限はなく、通常使用される機械を、目的に応じて適宜選択して使用することができるが、例えば、一軸押出機、同方向回転二軸押出機、異方向回転二軸混練機、回転円盤と固定円盤との間で混練を行う石臼型連続混練機(KCK)、バンバリーミキサー、ロールミル、などが挙げられる。
なお、前記溶融混練法により得られた樹脂組成物は、押出成形や射出成形をする際には、事前に真空乾燥又は熱風乾燥してもよい。
【0018】
−その他の添加剤−
前記樹脂組成物に対しては、その透明性と機械強度を損なわない範囲内で、通常使用されるその他の添加剤を併用してもよい。
前記添加剤としては、例えば、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤、帯電防止剤、相容化剤(アミド基及び/又はスルホン酸基を置換基にもつモノマーを共重合したポリエステル系共重合体等)、などが挙げられる。
【0019】
−用途−
前記樹脂組成物は、通常行われる各種成形方法により成形することで、成形品、フィルム、シートとして利用できる。特にフィルム、シートについては、未延伸状態でも使用できるが、1軸延伸、2軸延伸などの加工を加えて使用することもできる。
前記樹脂組成物は、機械的強度及び透明性に優れるため、具体的な用途として、例えば、成形品、光学用フィルム、光学用シート、磁気材料用支持体、画像形成材料用支持体、などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0021】
(調製例1)
水:アセトン=7:1の溶媒(以下、単に「溶媒1」という。)200ml中に、無機粒子としての膨潤性層状ケイ酸塩、ルーセンタイトSWN(コープケミカル(株)製合成スメクタイト)を2質量%、分散剤としての臭化ヘキサデシルトリフェニルホスホニウム(ヘキサデシルトリフェニルホスホニウムイオンを含む)を0.2質量%、それぞれ配合し、該無機粒子を分散剤により分散させ、有機化処理(イオン交換)を行い、有機層状ケイ酸塩分散液を得た。
この分散液を、凍結乾燥機(トリオマスターIIA−04、共和真空(株)製)を用いて、凍結真空乾燥法により、−50℃で30分凍結させ、無機粒子の分散状態を固定した後、6.6Paまで減圧し、真空乾燥を行い、分散液中の溶媒を90%除去した。このとき、昇華の崩壊温度を超えないようにサンプルを冷却しながら減圧乾燥を行った。その後、検体温度が30℃程度になるように調節しながら、13.3Paの圧力下で二次乾燥を行い、一旦減圧を止めてサンプルより溶媒が昇華して減圧度が下がらなくなったところで減圧を終了して、分散剤により処理された調製例1の無機粒子(以下、単に「微粒子1」という。)を得た。
【0022】
(調製例2)
調製例1において、凍結真空乾燥温度を−30℃、凍結時間を1時間にした以外は調製例1と同様にして、分散剤により処理された調製例2の無機粒子(以下、単に「微粒子2」という。)を得た。
【0023】
(調製例3)
調製例1において、凍結真空乾燥温度を−70℃、凍結時間を12分にした以外は調製例1と同様にして、分散剤により処理された調製例3の無機粒子(以下、単に「微粒子3」という。)を得た。
【0024】
(調製例4)
調製例1において、無機粒子としての膨潤性層状ケイ酸塩を、ソマシフ(コープケミカル(株)製合成膨潤性雲母)とした以外は、調製例1と同様にして、分散剤により処理された調製例4の無機粒子(以下、単に「微粒子4」という。)を得た。
【0025】
(調製例5)
調製例1において、溶媒を水のみとし、無機粒子を炭酸ストロンチウムウィスカ、分散剤をアミノアルキルジアルコキシシランとした以外は、調製例1と同様にして、分散剤により処理された調製例5の無機粒子(以下、単に「微粒子5」という。)を得た。
【0026】
(調製例6)
調製例1において、分散液の凍結真空乾燥をせず、調製例1における二次乾燥に相当する処理のみを13.3Paで行った以外は、調整例1と同様にして、分散剤により処理された調製例6の無機粒子(以下、単に「微粒子6」という。)を得た。
【0027】
(調製例7)
調製例6において、調製例1における二次乾燥に相当する処理を、120℃で行った以外は、調整例1と同様にして、分散剤により処理された調製例7の無機粒子(以下、単に「微粒子7」という。)を得た。
【0028】
(調製例8)
調製例4において、分散液の凍結真空乾燥をせず、調製例4における二次乾燥に相当する処理のみを、120℃、1.0×10Paの条件下で行った以外は、調整例4と同様にして、分散剤により処理された調製例8の無機粒子(以下、単に「微粒子8」という。)を得た。
【0029】
(調製例9)
調製例1において、無機粒子をホウ酸アルミニウムとし、分散剤をアミノアルキルジアルコキシシランとした以外は、調製例1と同様にして、分散剤により処理された調製例9の無機粒子(以下、単に「微粒子9」という。)を得た。
【0030】
(調製例10)
調製例9において、無機粒子を炭酸カルシウムとした以外は調製例1と同様にして、分散剤により処理された調製例10の無機粒子(以下、単に「微粒子10」という。)を得た。
【0031】
(調製例11)
調製例1において、凍結真空乾燥温度を−10℃、凍結時間を1時間とした以外は、調整例1と同様にして、分散剤により処理された調製例11の無機粒子(以下、単に「微粒子3」という。)を得た。
【0032】
(調製例12)
調製例1において、分散剤を溶媒中に配合せず、凍結真空乾燥及び二次乾燥後に添加した以外は、調製例1と同様にして、分散剤により処理された調製例12の無機粒子(以下、単に「微粒子12」という。)を得た。
【0033】
なお、便宜のために調製例1〜12で調製した微粒子1〜12の主な調製条件を表1に示す。
【表1】

【0034】
(実施例1)
−樹脂組成物の作製−
微粒子1を5質量%、熱可塑性樹脂としてのM−PET(富士写真フィルム(株)製PET)(以下、単に「PET1」という。)を95質量%の配合量で、二軸スクリュ押出機(東芝機械(株)製TEM−37)へ投入して、溶融混練法により溶融混練し、実施例1の樹脂組成物を得た。なお、混練はスクリュ回転数500rpm、温度275℃で行った。
得られた樹脂組成物を、二軸押出機(東洋精機(株)製)を用いて、275℃で押出成形して、厚み約150μmのシートを得た。
【0035】
−評価−
得られた樹脂組成物のシートについて、以下の評価を行った。その結果を表2に示す。
(1)長径の測定及びアスペクト比の算出
前記樹脂組成物のシートを任意の温度に加熱して延伸し、その延伸シートの断面をミクロトームにより切断して、断面を電子顕微鏡により500倍及び2万倍の倍率で観察することで、無機粒子の、長径の測定及びアスペクト比の算出を行った。
【0036】
(2)分散状態
無機粒子の分散状態を透過型電子顕微鏡により観察して、下記の4段階により評価した。
◎・・・凝集粒子無し
○・・・凝集粒子5%以下
△・・・凝集粒子30%以下
×・・・凝集粒子30%超
【0037】
(3)引張弾性率
前記樹脂組成物のシートにより厚み150μm、幅10mmの試験片を作成し、テンシロン万能試験機(STROGRAPH VE50、東洋精機製作所製)にて引っ張り試験を行い引張弾性率を求めた。同様にして、無機粒子等を配合しないPETのみのシートにおいても引張弾性率を求めた後、前記樹脂組成物のシートにおいて、PETのみのシートに比してどの程度引張弾性率が向上したかを百分率により算出し、その結果を下記の4段階により評価した。
◎・・・PETのみに対して50%以上向上
○・・・PETのみに対して20%以上50%未満向上
△・・・PETのみに対して5%以上20%未満向上
×・・・PETのみに対しての向上5%未満又は低下
【0038】
(4)平均分子量
前記樹脂組成物のシートにおいて、分散剤により処理された無機粒子を分離除去し、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(HLC−8220GPC、島津製作所製)により樹脂分の分子量分布を測定して平均分子量を求めた。同様にして、無機粒子等を配合しないPETのみのシートにおいても平均分子量を求めた後、PETのみのシートに比してどの程度平均分子量が大きいかを百分率により算出し、その結果を下記の4段階により評価した。
◎・・・PETのみに対して85%以上
○・・・PETのみに対して75%以上85%未満
△・・・PETのみに対して65%以上75%未満
×・・・PETのみに対して65%未満
【0039】
(5)透明性1
前記樹脂組成物のシートの全光線透過率をリン酸トリトリル中で測定した。同様にして、無機粒子等を配合しないPETのみのシートの全光線透過率も測定し、PETのみのシートに比してどの程度全光線透過率が高いかを百分率により算出し、その結果を下記の4段階により評価した。
◎・・・PETのみに対して90%以上
○・・・PETのみに対して80%以上90%未満
△・・・PETのみに対して70%以上80%未満
×・・・PETのみに対して70%未満
【0040】
(6)透明性2
前記樹脂組成物のシートを任意の温度に加熱して延伸し、縦1.5倍×横1.5倍に二軸延伸したシートの全光線透過率をリン酸トリトリル中で測定した。また、二軸延伸前の未延伸シートの全光線透過率も、予めリン酸トリトリル中で測定しておき、二軸延伸したシートの全光線透過率が、二軸延伸前の未延伸シートの全光線透過率に比してどの程度全光線透過率が高いかを百分率により算出し、その結果を下記の4段階により評価した。
◎・・・未延伸シートに対して90%以上
○・・・未延伸シートに対して80%以上90%未満
△・・・未延伸シートに対して70%以上80%未満
×・・・未延伸シートに対して70%未満
【0041】
(7)総合評価
前記(2)〜(6)の評価における◎及び○の数により、下記の3段階により総合評価した。
優・・・全て◎、又は○が1つで他が全て◎の場合
良・・・○が3つで他が全て◎の場合
不良・・・それ以外の場合
【0042】
(実施例2)
実施例1において、熱可塑性樹脂としてのPET1を、NEH2070(ユニチカ(株)製PET、溶融粘度(IV)=0.88dl/g)(以下、単に「PET2」という。)に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例2の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0043】
(実施例3)
実施例1において、熱可塑性樹脂としてのPET1を、イースター9921(イーストマンケミカル(株)製PET、溶融粘度(IV)=0.82dl/g)(以下、単に「PET3」という。)に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例3の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0044】
(実施例4)
実施例1において、熱可塑性樹脂としてのPET1を、PETG6763(イーストマンケミカル(株)製PET、溶融粘度(IV)=0.82dl/g)(以下、単に「PET4」という。)に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例4の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0045】
(実施例5)
実施例1において、微粒子1を微粒子2に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例5の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0046】
(実施例6)
実施例1において、微粒子1を微粒子3に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例6の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0047】
(実施例7)
実施例1において、微粒子1を微粒子4に代えた以外は、実施例1と同様にして実施例7の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0048】
(実施例8)
実施例1において、微粒子1の代わりに、微粒子5を1質量%、PET1の代わりに、タフロン(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製PC)を99質量%の配合量とした以外は、実施例1と同様にして実施例8の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0049】
(実施例9)
実施例1において、微粒子1をエチレングリコール中に溶解し、PETの重合時に添加して透明性熱可塑性樹脂組成物を得た以外は、実施例1と同様にして実施例9の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例10)
実施例1において、微粒子1の代わりに微粒子5を0.3質量%、PET1を99.7質量%の配合量とした以外は、実施例1と同様にして実施例10の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例1)
実施例1において、微粒子1を微粒子6に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例1の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0052】
(比較例2)
実施例2において、微粒子1を微粒子7に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例2の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0053】
(比較例3)
実施例1において、微粒子1を微粒子8に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例3の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0054】
(比較例4)
実施例1において、微粒子1を微粒子9に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例4の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0055】
(比較例5)
実施例1において、微粒子1を微粒子10に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例5の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0056】
(比較例6)
実施例1において、微粒子1を微粒子11に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例6の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0057】
(比較例7)
実施例1において、微粒子1を微粒子12に代えた以外は、実施例1と同様にして比較例7の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
(比較例8)
比較例7において、微粒子12を4.5質量%、分散剤としての臭化ヘキサデシルトリフェニルホスホニウムを0.5質量%(微粒子12調製時とは別に新たに配合)、PET1を94.5質量%の配合量とした以外は、比較例7と同様にして比較例8の樹脂組成物を作製し、得られた樹脂組成物のシートについて上記評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

表2の結果から、実施例1〜10の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に、長径が1μm以下で、アスペクト比が5〜1000である無機粒子、及び分散剤を配合してなり、かつ、該無機粒子及び分散剤が、少なくとも−30℃以下で凍結乾燥されているので、比較例1〜8の樹脂組成物に比して、優れた透明性と機械強度を有していることが判った。特に、実施例1〜8の樹脂組成物は、無機粒子と分散剤との合計配合量が0.5〜30質量%であるため、引張弾性率が飛躍的に向上することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の樹脂組成物は、機械的強度及び透明性に優れるため、具体的な用途として、例えば、成形品、光学用フィルム、光学用シート、磁気材料用支持体、画像形成材料用支持体、などに好適に使用することができる。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、機械的強度及び透明性に優れる樹脂組成物を製造することができるため、本発明の樹脂組成物の製造に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に、長径が1μm以下で、アスペクト比が3〜1000である無機粒子、及び分散剤を配合してなり、かつ、該無機粒子及び分散剤が、−30℃以下で凍結真空乾燥されたことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
無機粒子と分散剤との合計配合量が0.5〜30質量%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
凍結真空乾燥の時間が1時間以内である請求項1から2のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂に対し、長径が1μm以下で、アスペクト比が3〜1000である無機粒子を、分散剤と溶媒とにより分散させて得た分散液を、−30℃以下で凍結真空乾燥した後に配合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
熱可塑性樹脂に、凍結真空乾燥した無機粒子及び分散剤を溶融混練する請求項4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
凍結真空乾燥の時間が1時間以内である請求項4から5のいずれかに記載の樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−274181(P2006−274181A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99178(P2005−99178)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】