説明

樹脂組成物及びそれより成る成形体

【課題】照明カバーに好適に用いられ、可視光線の拡散性と透過性のバランスが良く、耐衝撃性、耐候性に優れ、低摩擦抵抗性である樹脂組成物及びその成形体を提供する。
【解決手段】40〜90重量%の(a)メタクリル系樹脂と、この(a)成分と合わせて100重量%となる10〜60重量%の(b)ポリアセタール系樹脂と、(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対して0.5〜20重量部の(c)オレフィン系共重合体及び/又は(d)少なくとも1個以上のスチレン系重合体ブロックと少なくとも1個以上の共役ジエン化合物ブロックより成る共重合体の水素添加物とを含有する樹脂組成物であって、(a)成分と(b)成分の2つの材料の230℃、荷重37.3Nの条件におけるMFR値の差が15以下であり、(a)成分乃至(d)成分の合計100重量部に対して0.1〜7重量部の(e)光拡散剤を少なくとも1種類以上配合して成る樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光線の拡散性と透過性のバランスがよく、耐衝撃性、耐候性に優れ、低摩擦抵抗性である樹脂組成物及びその成形体に関し、照明カバーに用いた場合に好適な樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅照明の分野、特にシーリングライトのような天井直付け型の照明器具においては、天井面に取り付けたときの、器具全体が天井面から突き出ているような印象を極力
緩和し、空間全体がすっきりとしたイメージになるような、器具全体の高さを低く(厚さを薄く)したデザインがトレンドになりつつある。このような照明器具には、器具本体の外周部よりも外側に大きく張り出し、且つ高さをより抑えた(低くした)薄型デザインのカバーの採用が増加している。このような薄型形状のカバーを成形体として得る場合、外周部(張出し部)近傍の肉厚が他の部分と比べて薄くなる傾向にあり、さらにデザインの制約上、外周部(張出し部)のRが小さくなる方向にあることから、外周部近傍が強度的に弱くなる傾向にあった。このようなカバーの薄型化は今後もさらに進む方向にあるため、従来より照明カバーに使用されている、光拡散剤などを添加したスチレン系樹脂やアクリル系樹脂のような耐衝撃性のやや低い樹脂組成物でカバーを形成した場合に、使用段階での性能を確保できたとしても、例えば輸送時やメンテナンス等の作業において取り扱いの不注意による破損(割れ)が発生しやすくなることは容易に予想される。
【0003】
また、住宅用シーリングライトのようなカバーが器具本体に狭持される構造を有する照明器具の場合、ランプの点灯後あるいは消灯後、数分〜数十分間程度で異音(ピシッ、ポン等の音)が発生することがあり、使用者に不快感を与える原因となることがあった。この異音は、安定器の振動により照明器具が共鳴して連続的に発生しているものではなく、ランプの点灯中あるいは消灯後に瞬時的に発生し、発生する間隔も不特定なものであった。
【0004】
この異音が発生する原因を追究すると、ランプの点灯や消灯の際に生ずる照明器具の温度の変化(およそ常温〜50℃)により、器具本体やカバーが熱膨張、熱収縮し、このときの各々の熱膨張率が違うために、器具本体とカバーとの接合部に瞬間的なずれが生じ、異音が発生することがわかった。これは、カバーの器具本体に狭持される強度が増すほど、また従来のスチレン系樹脂やアクリル系樹脂製カバーのような40℃以上における表面の静止摩擦抵抗が大きいものほど強く発生することがわかった。
【0005】
ところで、照明カバー等に用いられる器材について、これまでに、ゴム状の重合体を分散させた樹脂組成物を積層するなどの試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。このような場合、ゴム状弾性体の配合効果により、成形体の耐衝撃性を向上させることはできる。しかしながら、成形体表面の40℃以上における静止摩擦抵抗が大きく、照明カバーとした場合の異音を抑制することはできなかった。しかも、製造工程が複雑でコストが高くなるという問題があった。
【0006】
また、オレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂及びオレフィン−スチレンブロック共重合体で構成される樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)、更に、その樹脂組成物に白色の添加剤や耐候剤などを分散させた樹脂組成物及びその成形体が提案されている(例えば、特許文献3参照)。このような樹脂組成物の場合、オレフィン系樹脂とオレフィン−スチレンブロック共重合体の配合効果により、耐衝撃性を向上させることができ、また成形体表面の静止摩擦抵抗も低下するため、照明カバーとした場合の異音を抑制できる可能性はある。しかしながら、例えば前述のような薄型形状のカバーとして使用するに際し、カバーとランプの近接による光の影響の増大によって、耐候剤などを分散させた場合であっても、配合量の多いポリスチレン系樹脂成分の変色が進行するために、耐候性(耐候変色性)の確保が困難になると予想される。また、薄型化によって器具温度が上昇傾向にあり、異音の抑制も不十分となる可能性があった。
【0007】
また、ポリアセタール樹脂に、アクリル系樹脂、炭素鎖が2〜8個隣接するオキシアルキレン重合体、紫外線吸収剤、及び分子量の異なる2種のヒンダードアミン系物質の夫々特定量を添加配合してなるポリアセタール樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。このような樹脂組成物の場合、アクリル系樹脂、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系物質の配合効果により、耐候劣化・変色を抑制できる可能性はある。また、ポリアセタール樹脂の配合量が多いために、耐衝撃性が向上すると共に成形体表面の静止摩擦抵抗を低く抑えることができ、照明カバーとした場合の異音抑制にも効果的であると予測される。しかしながら、一方で、アクリル系樹脂の配合量が少ないために(ポリアセタール樹脂100重量部に対して0.1〜30重量部)、可視光線の透過性が著しく低下するだけでなく剛性の低下も伴うため、照明カバーとして使用するには不適であった。
【0008】
また、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂を配合してなる樹脂組成物、並びにそれからなる成形品、フィルム及び繊維が提案されている(例えば、特許文献5参照)。このような樹脂組成物の場合、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂の配合により、耐候劣化・変色の抑制、耐衝撃性の向上、成形体表面の静止摩擦抵抗抑制への効果は期待できるが、一方で、ポリ乳酸樹脂の配合による耐熱性、耐衝撃性の低下が伴うため、照明カバーとしての性能を満足するには不十分であった。
【特許文献1】特開平11−105207号公報
【特許文献2】特開2002−234981号公報
【特許文献3】特開2002−265723号公報
【特許文献4】特開平7−150006号公報
【特許文献5】特開2003−138119号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、「可視光線の拡散性と透過性のバランス」、薄型形状のカバーとした場合でも取り扱いの不注意等による割れを防止できる「耐衝撃性」、ランプ等の発熱による温度の変化が影響して発生する「異音の低減」、ランプを近接して使用しても変色が発生しにくい「耐候性」を同時に満足する照明カバーは存在しなかった。
【0010】
本発明は上記事由に鑑みてなしたものであり、その目的とするところは、可視光線の拡散性と透過性のバランスが良く、耐衝撃性、耐候性に優れ、低摩擦抵抗性である樹脂組成物及びその成形体、更に詳しくは、照明カバーに用いた場合に、可視光線の拡散性と透過性のバランスが良く、薄型形状のカバーとした場合でも割れにくい耐衝撃性及び変色しにくい耐候性を有し、ランプ等の発熱による温度の変化が影響して発生する異音を低減できる樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、
(a)40〜90重量%のメタクリル系樹脂成分と、
(b)前記(a)成分と合わせて100重量%となる10〜60重量%のポリアセタール系樹脂成分と、
(c)オレフィン系共重合体成分及び/又は(d)少なくとも1個以上のスチレン系重合体ブロックと少なくとも1個以上の共役ジエン化合物ブロックより成る共重合体の水素添加物成分と、
を含有し、
前記(c)成分及び/又は前記(d)成分の配合量が、前記(a)成分と前記(b)成分の合計100重量部に対して0.5〜20重量部となる樹脂組成物であって、
前記(a)成分と前記(b)成分の2つの材料の230℃、荷重37.3Nの条件におけるメルトフローレイト(MFR)値の差が15以下であり、
(e)前記(a)成分乃至前記(d)成分の合計100重量部に対して0.1〜7重量部の光拡散剤成分を、更に配合して成ることを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、(c)成分がエチレン−メタクリル酸メチル共重合体であることを特徴とする。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1に記載の発明において、(c)成分がエチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体であることを特徴とする。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1に記載の発明において、(c)成分がポリプロピレン−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体であることを特徴とする。
【0015】
請求項5の発明は、請求項1に記載の発明において、(c)成分がオレフィン系エラストマー−ポリメタクリル酸アルキルグラフト共重合体であることを特徴とする。
【0016】
請求項6の発明は、請求項1に記載の発明において、(c)成分が(エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体であることを特徴とする。
【0017】
請求項7の発明は、請求項1に記載の発明において、(c)成分が(エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体)―ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体であることを特徴とする。
【0018】
請求項8の発明は、請求項1に記載の発明において、(d)成分が無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEBS)の水素添加物であることを特徴とする。
【0019】
請求項9の発明は、請求項1に記載の発明において、(d)成分がスチレン−イソプレンブロック共重合体(SEPS)の水素添加物であることを特徴とする。
【0020】
請求項10の発明は、請求項1乃至請求項9の何れかに記載の樹脂組成物を成形して成る成形体である。
【0021】
請求項11の発明は、請求項1乃至請求項9の何れかに記載の樹脂組成物を成形して成る照明カバーである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、可視光線の拡散性と透過性のバランスが良く、耐衝撃性、耐候性に優れ、低摩擦抵抗性である樹脂組成物及びそれより成る成形体を得ることができる。更に詳しくは、照明カバーに用いた場合に、暗すぎず、眩しすぎず、ランプのイメージを見えにくくする等可視光線の拡散性と透過性のバランスが良く、薄型形状のカバーとした場合でも割れにくい耐衝撃性及び変色しにくい耐候性を有し、ランプ等の発熱による温度の変化が影響して発生する異音を低減できる樹脂組成物及びその成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の樹脂組成物における、(a)成分であるメタクリル系樹脂とは、メタクリル酸メチル(以後「MMA」と称する)50重量%以上を含む単量体を重合して得られた重合体が望ましく、特にMMAを80重量%以上含む単量体を重合して得られた重合体が望ましい。具体的には、MMAの単独重合体であるポリメタクリル酸メチルや、MMA50重量%以上と、MMAと共重合可能な不飽和単量体50重量%以下とからなる共重合体が挙げられる。
【0024】
MMAと共重合可能な不飽和単量体として、例えば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル等のMMA以外のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸、アクリル酸のような不飽和カルボン酸類;スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。必要に応じてこれらの2種類以上を用いることもできる。また、上記共重合体は、無水グルタル酸単位やグルタルイミド単位を有していてもよい。
【0025】
上記MMAと共重合可能な不飽和単量体として、アクリル酸メチルのようなアクリル酸アルキルエステル類が好ましい。アクリル酸アルキルエステル類をMMAと適量共重合させることで、成形時の流動性及び耐熱分解性等が向上して成形加工性が良好となるが、共重合が増えると耐熱性の低下、光線透過率の悪化等を招く。不飽和単量体として、アクリル酸アルキルエステル類を含む場合、上記共重合体における単量体組成として、MMAとアクリル酸アルキルエステル類の合計に対し、アクリル酸アルキルエステルが30重量%以下であるのが好ましく、15重量%以下であるのがより好ましく、10重量%以下であるのが更に好ましい。
【0026】
また、低吸湿性の観点から、MMAと共重合可能な不飽和単量体としてスチレンを用いることが好ましいが、スチレンの共重合量が多くなると光線透過率の悪化、耐候性の悪化等を招く。不飽和単量体としてスチレンを用いる場合、MMAとスチレンの合計に対して、スチレンが50重量%以下であるのが好ましく、20重量%以下であるのがより好ましく、15重量%以下であるのが更に好ましい。
【0027】
(a)成分の製造方法は特に制限はなく、公知の方法が適用できる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、塊状重合等の各重合方法が採用できる。その際、重合開始剤又は分子量調整剤として、公知のアゾ系化合物、過酸化物、各種メルカプタン化合物、テルペノイド系化合物等を適宜使用できる。
【0028】
本発明の(a)成分として使用できる市販のメタクリル系樹脂の一例として、アクリペットMD(三菱レイヨン株式会社製)が挙げられる。
【0029】
(b)成分であるポリアセタール系樹脂とは、オキシメチレン基(−CHO−)を主たる構成単位とする高分子化合物で、ポリオキシメチレンホモポリマー、オキシメチレン基以外に他の構成単位を少量有する、2成分で構成されたコポリマー、3成分で構成されたターポリマー等の複数の成分で構成されていてもよく、ランダムコポリマーの他、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーなどであってもよい。オキシメチレン基以外の他の構成単位とは、例えば炭素数2〜6程度、好ましくは炭素数2〜4程度のオキシアルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基等)が挙げられる。炭素数2〜6程度のオキシアルキレン基の割合は、所望の用途によって適当に選択でき、例えば、ポリアセタール全体に対して、0.1〜30モル%、好ましくは1〜20モル%程度である。また、ポリアセタール系樹脂は、分子が線状のみならず分岐、架橋構造を有するものであってもよい。さらにポリアセタール系樹脂の末端は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸とのエステル化等により安定化されていてもよい。ポリアセタール系樹脂の重合度、分岐度や架橋度も特に制限はなく、溶融成形可能であればよい。
【0030】
好ましいポリアセタール系樹脂には、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリアセタールコポリマー(例えば、少なくともオキシメチレン単位とオキシエチレン単位とで構成されたコポリマー)が含まれる。熱安定性の点からは、ポリアセタールコポリマーが好ましい。上記ポリアセタール系樹脂の分子量は特に制限されず、例えば、5000〜500000、好ましくは10000〜400000程度である。
【0031】
(b)成分の製造方法は特に制限はなく、慣用の方法、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド等のアルデヒド類、トリオキサン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,3−ジオキソラン等の環状エーテルを重合することにより製造できる。
【0032】
本発明の(b)成分として使用できる市販のポリアセタール系樹脂の一例として、ジュラコンHP25X(ポリプラスチックス株式会社製)が挙げられる。
【0033】
本発明の樹脂組成物における(a)成分と(b)成分の配合割合は、40重量%/60重量%〜90重量%/10重量%であり、好ましくは60重量%/40重量%〜80重量%/20重量%である。(a)成分が過少の場合、剛性が低下すると共に、剥離が生じやすく、脆くなるため好ましくない。一方、(a)成分が過多の場合、耐衝撃性が向上しないばかりか、異音抑制効果が不十分になり、耐薬品性、成形加工性も低下するため好ましくない。
【0034】
(c)成分であるオレフィン系共重合体としては、オレフィン系重合体セグメントから成るもの、オレフィン系重合体セグメントとビニル系重合体セグメントのグラフト共重合体から成るものがある。
【0035】
このような構成において使用されるオレフィン系重合体とは、高圧ラジカル重合、中低圧イオン重合等で得られる非極性α−オレフィン単量体の単独重合体又は2種類以上の非極性α−オレフィン単量体の共重合体、及び非極性α−オレフィン単量体と極性ビニル系単量体との共重合体であり、上記重合体の非極性α−オレフィン単量体としてはエチレンが好ましく、なかでも上記共重合体中のエチレン含量が70重量%以上からなる共重合体が好ましい。他の非極性α−オレフィン単量体としては、プロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1類が挙げられる。上記非極性α−オレフィン(共)重合体の具体例としては、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、超超低密度ポリエチレン、低分子量ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、これらを含むエラストマー等を挙げることができる。またこれらの非極性α−オレフィン(共)重合体は、混合して使用することもできる。非極性α−オレフィン単量体と極性ビニル系単量体とからなる共重合体における極性ビニル単量体とは、非極性α−オレフィン単量体と共重合可能なビニル基をもった単量体であって、例えばアクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ビシクロ(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、酸無水物及びその金属塩、アクリル酸メチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、MMA、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル等のα,β−不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、トリアルオル酢酸ビニル等のビニルエステル類、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、及びα−クロロアリル、マレイン酸、クロトン酸、フマ−ル酸等のグリシジルエステル類又はビニルグリシジルエ−テル、アリルグリシジルエ−テル、グリシジルオキシエチルビニルエ−テル、スチレン−p−グリシジルエ−テル等のグリシジルエ−テル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0036】
非極性α−オレフィン単量体と極性ビニル単量体とからなる共重合体の具体例として、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−アクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン−アクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン−アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン−アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−MMA共重合体、エチレン−メタクリル酸イソプロピル共重合体、エチレン−メタクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸イソブチル共重合体、エチレン−メタクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−プロピオン酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体等が挙げられるが、中でもエチレン−MMA共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体が好ましく用いられる。
【0037】
これらの非極性α−オレフィンと極性ビニル系単量体とからなる共重合体は、混合して使用することもできる。また、非極性α−オレフィン(共)重合体と非極性α−オレフィンと極性ビニル系単量体とからなる共重合体とを混合して使用することもできる。
【0038】
上記グラフト共重合体の構成セグメントであるビニル系重合体とは、具体的には、スチレン、核置換スチレン例えばメチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルスチレン、α−置換スチレン例えばα−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のビニル芳香族単量体、アクリル酸若しくはメタクリル酸、アクリル酸若しくはメタクリル酸の炭素数1〜7のアルキルエステル、例えば、(メタ)アクリル酸のメチル−、エチル−、プロピル−、イソプロピル−、ブチル−、グリシジル−、2−ヒドロキシプロピル−等の(メタ)アクリル酸エステル単量体、アクリロニトリル若しくはメタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル単量体、アクリルアミド、メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド類、無水マレイン酸、マレイン酸のモノ−、ジ−エステル等のビニル単量体の1種又は2種以上を重合して得られた(共)重合体である。これらの中でも特に、ビニル芳香族単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、シアン化ビニル単量体及びビニルエステル単量体が好ましく使用される。
【0039】
オレフィン系重合体セグメントとビニル系重合体セグメントから成るグラフト共重合体の具体例としては、ポリプロピレン−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、低密度ポリエチレン−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、オレフィン系エラストマー−ポリメタクリル酸アルキルグラフト共重合体、(エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−アクリル酸共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−アクリル酸メチル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−アクリル酸エチル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−メタクリル酸共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−メタクリル酸メチル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−アクリル酸エチル−メタクリル酸グリシジル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体等が挙げられるが、中でもポリプロピレン−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、オレフィン系エラストマー−ポリメタクリル酸アルキルグラフト共重合体、(エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体、(エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体が好ましく適用される。
【0040】
上記グラフト共重合体を構成するビニル系重合体の数平均重合度は5〜10000、好ましくは、10〜5000である。数平均重合度が低すぎると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の熱安定性が低下したり外観が悪化するため好ましくない。また、数平均重合度が高すぎると、溶融粘度が高く、成形性が低下したり、表面光沢が低下するために好ましくない。本発明のグラフト共重合体は、オレフィン系重合体セグメントが5重量%以上、好ましくは20重量%以上、95重量%以下、より好ましくは90重量%以下からなるものである。したがって、ビニル系重合体セグメントは5重量%以上、好ましくは10重量%以上、95重量%以下、より好ましくは80重量%以下である。オレフィン共重合体セグメントが過少であると、熱安定性改良効果が不十分であり、好ましくない。また、オレフィン系重合体が過多であると、熱可塑性樹脂への分散が悪く、外観の悪化あるいは機械的物性が低下したりするため好ましくない。
【0041】
上記グラフト共重合体を製造する際のグラフト化法は、一般によく知られている連鎖移動法、電離性放射線照射法等いずれの方法によってもよいが、最も好ましいのは、下記に示す方法によるものである。なぜならグラフト効率が高く熱による二次的凝集が起こらないため、性能の発現がより効果的であり、また製造方法が簡便であるためである。
【0042】
以下、上記グラフト共重合体の製造方法を具体的に詳述する。すなわち、オレフィン系重合体100重量部を水に懸濁せしめ、別に少なくとも1種のビニル単量体5〜400重量部に、下記一般式(1)又は(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物の1種又は2種以上の混合物を該ビニル単量体100重量部に対して0.1〜10重量部と、10時間の半減期を得るための分解温度が40〜90℃であるラジカル重合開始剤をビニル単量体とラジカル重合性有機過酸化物との合計100重量部に対して0.01〜5重量部とを溶解せしめた溶液を加え、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない条件で加熱し、ビニル単量体、ラジカル重合性有機過酸化物及びラジカル重合開始剤をオレフィン系重合体に含浸せしめ、この水性懸濁液の温度を上昇せしめ、ビニル単量体とラジカル重合性有機過酸化物とをオレフィン共重合体中で共重合せしめて、グラフト化前駆体を得る。次いで、グラフト化前駆体を100〜300℃の溶融下、混練することにより、本発明のグラフト共重合体を得ることができる。このとき、グラフト化前駆体に、別にオレフィン系重合体又はビニル系重合体を混合し、溶融下に混練してもグラフト共重合体を得ることができる。最も好ましいのはグラフト化前駆体を溶融混練して得られたグラフト共重合体である。
【0043】
上記一般式(1)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、
【化1】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基、Rは水素原子又はメチル基、R及びRはそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。mは1又は2である。)で表される化合物である。また、上記一般式(2)で表されるラジカル重合性有機過酸化物とは、
【化2】

(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R は水素原子又はメチル基、R 及びR はそれぞれ炭素数1〜4のアルキル基、R10は炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、アルキル置換フェニル基又は炭素数3〜12のシクロアルキル基を示す。nは0、1又は2である。)で表される化合物である。
【0044】
一般式(1)で表されるラジカル重合性有機過酸化物として、具体的には、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、t−アミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、クミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、t−アミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、クミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、t−アミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、クミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、t−アミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、クミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシエトキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート、t−アミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート、クミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート、p−イソプロピルクミルペルオキシアクリロイロキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート、t−アミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート、クミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート、p−イソプロピルクミルペルオキシメタクリロイロキシイソプロピルカーボネート等を例示することができる。
【0045】
さらに、一般式(2)で表される化合物としては、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート、t−アミルペルオキシアリルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアリルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシアリルカーボネート、p−メンタンペルオキシアリルカーボネート、クミルペルオキシアリルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート、t−アミルペルオキシメタリルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシメタリルカーボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシメタリルカーボネート、p−メンタンペルオキシメタリルカーボネート、クミルペルオキシメタリルカーボネート、t−ブチルペルオキシアリロキシエチルカーボネート、t−アミルペルオキシアリロキシエチルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアリロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリロキシエチルカーボネート、t−アミルペルキシメタリロキシエチルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシメタリロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート、t−アミルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシアリロキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート、t−アミルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート、t−ヘキシルペルオキシメタリロキシイソプロピルカーボネート等を例示することができる。中でも好ましくは、t−ブチルペルオキシアクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート、t−ブチルペルオキシアリルカーボネート、t−ブチルペルオキシメタリルカーボネート等を例示することができる。
【0046】
本発明の(c)成分として使用できる市販の材料の例として、アクリフトWH206(住友化学工業株式会社製)、ボンダインTX8030(住友化学工業株式会社製)、モディパーA3310(日本油脂株式会社製)、モディパーA4200(日本油脂株式会社製)、モディパーA8200(日本油脂株式会社製)、ノフアロイAP200(日本油脂株式会社製)が挙げられる。
【0047】
(d)成分である少なくとも1個以上のスチレン系重合体ブロックと少なくとも1個以上の共役ジエン化合物ブロックより成る共重合体の水素添加物を構成するスチレン系重合体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−又はp−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種又は2種以上が選択でき、中でもスチレン及びα−メチルスチレンが好ましい。
【0048】
また、共役ジエン化合物としては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、中でも1,3−ブタジエン、イソプレン及びこれらの組合せが好ましい。共役ジエン化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。共役ジエン化合物ブロックの構造は特に限定されず、また、1,2−結合や3,4−結合の含有量についても特に制限はない。
【0049】
上記共重合体の水素添加物におけるスチレン系重合体の含有率は特に制限されないが、好ましくは10重量%以上、より好ましくは15重量%以上、好ましくは80重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。また、共重合した共役ジエン化合物に基づくオレフィン性二重結合の少なくとも50%以上、好ましくは80%以上が水素添加されていることが好ましい。この共重合体の共重合形態としてランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体及びこれらの組み合わせが挙げられ、中でもブロック共重合体が好ましく、ブロック構造はジブロック、トリブロック、ラジアルテレブロック等特に限定されない。また、この共重合体の数平均分子量は特に制限されないが、通常30,000〜500,000である。
【0050】
尚、上記共重合体と他の不飽和単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸メチル、MMA、無水マレイン酸、アリールマレイン酸イミド、アルキルマレイン酸イミド等の不飽和有機酸又はその誘導体;酢酸ビニル、酢酸ビニル等のビニルエステル;ビニルトリメチルメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン;ジシクロペンタジエン、4−エチリデン−2−ノルボルネン、4−メチル1,4−ヘキサジエン、5−メチル1,4−ヘキサジエン等の非共役ジエン等を共重合した共重合体、並びに該共重合体の酸化、スルホン酸化等による変性物を用いることも可能である。
【0051】
このような共重合体の水素添加物の例としては、スチレン−ブタジエン共重合体(SBS,SEBS)の水素添加物、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエン共重合体の水素添加物、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP,SEPS,SEEPS)の水素添加物等が挙げられる。これらの中でも、耐候性及び衝撃強度、曲げ強度等の物性面の観点から、特に無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEBS)の水素添加物あるいはスチレン−イソプレンブロック共重合体(SEPS)の水素添加物が好適に用いられる。
【0052】
上記共重合体の製造方法としては、公知の方法が特に制限なく利用され、例えば、次のようなアニオン重合法を挙げることができる。すなわち、アルキルリチウム化合物等を開始剤としてn−ヘキサンやシクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、芳香族ビニル化合物、共役ジエン化合物を逐次重合させ、所望の分子構造及び分子量に達した時点でエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド等を付加した後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素を含有する化合物を添加して重合を停止し、得られたブロック共重合体をn−ヘキサンやシクロヘキサンなどの不活性有機溶媒中で、アルキルアルミニウム化合物とコバルト、ニッケル等からなるチーグラー系の触媒などの水添触媒の存在下に、反応温度20〜150℃、水素圧力1〜150kg/cmの条件下で水素添加を行う方法である。
【0053】
本発明の(d)成分として使用できる市販の材料の一例として、タフテックM1911(旭化成ケミカルズ株式会社製)、セプトン2104(クラレ株式会社製)が挙げられる。
【0054】
本発明の樹脂組成物における(c)成分及び/又は(d)成分の配合量は、(a)成分と(b)成分の合計100重量部に対して0.5〜20重量部である。0.5重量部未満では、剥離が生じやすいとともに割れ状態がガラス状となり好ましくない。また、20重量部を超えると剛性が低下するとともにコスト高となり好ましくない。
【0055】
本発明の樹脂組成物において(a)成分と(b)成分の2つの材料の230℃、荷重37.3Nの条件におけるメルトフローレイト(MFR)値の差が15以下、好ましくは10以下がよい。MFR値の差が15を超えると、組成物を溶融混練する場合に、(a)成分と(b)成分の流動性が異なるため、(a)成分と(b)成分が相溶化しない。よって十分に相溶していない組成物を任意の形状に成形した場合、得られる成形体にムラ等の外観不良が発生したり、剥離が生じやすく、衝撃強度、曲げ強度等の物性面も低下する。
【0056】
本発明の樹脂組成物には、(e)成分である光拡散剤微粒子を少なくとも1種類以上、すなわち1種又は複数種を組み合わせて添加する。このような(e)成分の種類に特に制限はなく、公知の有機微粒子や無機微粒子を使用条件等に応じて適宜選択すればよい。有機微粒子としては、架橋スチレン系微粒子、架橋又は高分子量アクリル系微粒子、架橋スチレン−アクリル系微粒子、架橋スチレン−ブタジエン系微粒子、架橋シリコーン微粒子、架橋シロキサン系微粒子、架橋ウレタン系微粒子、メラミン系重合体等が挙げられる。無機微粒子としては、炭酸カルシウム、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、マイカ、酸化セリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸バリウム、結晶形シリカ、不定形シリカ、ガラスフレーク、ガラス繊維、ガラスビーズ、クレー等があり、これらの無機微粒子に表面処理を施したものもある。照明カバーの材料として使用する際は、可視光線の透過性を損なわずに適度な光拡散性を付与できる硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化チタン、架橋シリコーン微粒子、架橋シロキサン系微粒子が好ましい。
【0057】
本発明の樹脂組成物における(e)成分の配合量は、(a)成分と(b)成分と(c)成分及び/又は(d)成分の合計100重量部に対して0.1〜7重量部である。0.1重量部未満では、隠蔽性が低く、適度な光拡散性が得られない。また、7重量部を超えると樹脂組成物及びその成形体の色調は不透明な白色となり、照明カバー等の光透過部材として使用できなくなるので好ましくない。
【0058】
本発明の(e)成分として使用できる市販の光拡散剤の一例として、AD硫酸バリウム(日本化学株式会社製)が挙げられる。
【0059】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、性能を損なわない範囲で、公知の方法で種々の公知の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、染料・顔料等の着色剤;顔料や光拡散剤の分散性を改善するための展着剤や分散剤;アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル類を主成分とするコアシェル型グラフト構造を有するゴム状重合体等に代表される耐衝撃性改質剤;ヒンダードアミン、ヒンダードフェノール類、ベンゾエート類のような耐熱安定剤・耐候性改質剤;ベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類、トリアジン類、マロン酸エステル類、サリシレート類、シアノアクリレート類、オギザニリド類のような紫外線吸収剤;リン酸エステルのような難燃剤;パルミチン酸、ステアリルアルコールのような滑剤;有機系及び無機系の抗菌剤;帯電防止剤等が挙げられる。尚、これらは必要に応じて複数を併用することもできる。
【0060】
本発明の樹脂組成物は、各成分の所定量をヘンシェルミキサー、タンブラー等の混合装置で機械的に混合し、一軸又はニ軸のスクリュー押出機、バンバリーミキサー等を用い、190〜230℃の温度で十分に溶融混練し、その後造粒してペレット化する方法等の公知の一般的方法によって製造される。本発明の樹脂組成物から成る成形体の製造方法としては、特に限定されず、射出成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形等の公知の方法や、押出成形によりシート状に成形したあと、所望の形状に真空成形、圧空成形、真空圧空成形、プレス成形する等の熱成形方法を用いることができる。
【0061】
本発明の樹脂組成物により成形される照明カバーは、例えば、ランプの前面を覆うように装着されるものであり、乳白色で光の拡散を伴うことにより、ランプからの光を和らげ、ランプイメージを和らげるタイプの照明カバーである。
【0062】
従って、本発明の樹脂組成物により成形される照明カバーは、全光線透過率が40%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、70%以下であることがより好ましい。全光線透過率が40%以上であれば、暗くなりすぎず、適度にランプからの光を和らげることができる。また、全光線透過率が70%以下であれば、ランプからの光を和らげることができ十分な明るさを得ることができる。
【0063】
このような照明カバーは、各種照明器具、例えばシーリングライト、ペンダント型ライト、流し元灯、浴室灯、シャンデリア、スタンド、ブラケット、行燈、ガレージライト、軒下灯、門柱灯、ポーチライト、ガーデンライト、エントランスライト、足元灯、階段灯、誘導灯、防犯灯、ダウンライト、ベースライト、電飾看板、サイン灯等用のカバー、自動車、自動二輪車等を初めとする車両用灯具向けのカバー等に好適に用いることができるが、特にカバーが器具本体に狭持される構造を有するシーリングライト等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。まず、実施例及び比較例における照明カバーの製造方法について説明する。
【0065】
(a)メタクリル系樹脂と、(b)ポリアセタール系樹脂と、(c)オレフィン系共重合体及び/又は(d)少なくとも1個以上のスチレン系重合体ブロックと少なくとも1個以上の共役ジエン化合物ブロックより成る共重合体の水素添加物と、(e)白色系の光拡散剤に、所要の添加剤を添加してタンブラーにて混合した。そして、これらをシリンダ径φ47mm、L/D31.5の同方向回転二軸押出機で、温度条件220℃にて混練溶融し、ストランドバスで水冷後、カッターにて切断しペレットを得た。この後、上記ペレットをシリンダー径φ65mmの単軸押出機で、温度条件230℃にて溶融し、Tダイから押出し、幅750mm、厚さ1.8mmのシートを得た。このシートを650mm×650mmのサイズに切断し、加熱、圧空成形し、主要透光部の厚さ0.7〜1.2mm(平均厚さ約0.9)のシーリングライト用照明カバーを得た。
【0066】
上記のようにして得た実施例1乃至実施例9、及び、比較例1乃至比較例11の(a)成分乃至(e)成分を表1及び表2に示す。表中、(c)成分であるオレフィン系共重合体、(d)成分であるスチレン系重合体ブロックと共役ジエン化合物ブロックより成る共重合体の水素添加物の配合量は、(a)成分であるメタクリル系樹脂と(b)成分であるポリアセタール系樹脂の合計100重量部に対する割合である。(e)成分である光拡散剤の配合量は、(a)成分乃至(d)成分の合計100重量部に対する割合である。
【表1】

【表2】

【0067】
また、実施例及び比較例における試験・評価方法は以下の通りである。
(1)全光線透過率
自記分光光度計(日立製作所製 U―4000)を使用し、サンプル厚さ約1mm、波長555nmにおける全光線透過率をデータとした。
【0068】
(2)ランプイメージ(光拡散性)
成形によって得られた照明カバーを、市販のシーリングライト(松下電工製 HHFZ5781X)に取り付け、照明カバーの内側に設けられたランプ(松下電器産業照明社製 ツインPa(100W)、白色光)を点灯させ、照明カバーの外側から目視観察し、ランプイメージの見え難さを下記判定基準にて評価した。
(判定基準)
○:ランプの形状・イメージが見え難い
△:ランプの形状・イメージがやや見え易い
×:ランプの形状・イメージが見え易い
【0069】
(3)落下衝撃試験(耐衝撃性)
成形によって得られた照明カバーを、市販のシーリングライト(松下電工製 HHFZ5781X)に取り付け、取り付けた照明カバーを床面からの高さ(垂直方向の高さ)50cmになる位置で、カバーの外周部(張出し部)が床面に対し垂直になるように保持した後、カバーの外周部が床面にほぼ垂直に衝突するように落下させ、目視観察し、白化、クラックの発生状態を下記判定基準にて評価した。
(判定基準)
○:白化、クラックが発生しない
△:白化が発生したがクラックが発生しない
×:クラックが発生した
【0070】
(4)異音試験
成形によって得られた照明カバーを、市販のシーリングライト(松下電工製 HHFZ5781X)に取り付け、周囲騒音24dB未満、約20℃雰囲気に消灯状態で一定時間放置後、照明カバーの内側に設けられたランプ(松下電器産業照明社製 ツインPa(100W)、白色光)を点灯させ、器具からの距離1mにおいて30分間に発生する異音を騒音計(ONO SOKKI製 LA−5120)を用いて測定した。また、この器具を約20℃雰囲気に点灯状態で一定時間放置後、ランプを消灯させ、30分間に発生する異音を同様の方法で測定し下記判定基準にて評価した。
(測定条件)
動特性 :FAST
周波数補正特性 :A特性
(判定基準)
○:点灯後/消灯後において24dB以上の異音の発生が各5回以下
×:点灯後/消灯後において24dB以上の異音の発生が各6回以上
【0071】
(5)MFR
JIS−K−7210に準拠し、樹脂温度230℃、荷重37.3Nの条件にて測定した。
【0072】
(6)耐候性
75℃雰囲気に調整された熱風循環式恒温槽内にサンプルを設置し、水銀灯を点灯させた状態で30日間放置した。その後、色彩色差計(スガ試験機製 SM−7)を使用し、未試験サンプルに対する色差(ΔE*)を測定し、3以下を合格とした。
【0073】
実施例1乃至実施例9、及び、比較例1乃至比較例11の評価結果を表3及び表4に示す。
【表3】

【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)40〜90重量%のメタクリル系樹脂成分と、
(b)前記(a)成分と合わせて100重量%となる10〜60重量%のポリアセタール系樹脂成分と、
(c)オレフィン系共重合体成分及び/又は(d)少なくとも1個以上のスチレン系重合体ブロックと少なくとも1個以上の共役ジエン化合物ブロックより成る共重合体の水素添加物成分と、
を含有し、
前記(c)成分及び/又は前記(d)成分の配合量が、前記(a)成分と前記(b)成分の合計100重量部に対して0.5〜20重量部となる樹脂組成物であって、
前記(a)成分と前記(b)成分の2つの材料の230℃、荷重37.3Nの条件におけるメルトフローレイト(MFR)値の差が15以下であり、
(e)前記(a)成分乃至前記(d)成分の合計100重量部に対して0.1〜7重量部の光拡散剤成分を、
更に配合して成ることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記(c)成分が、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(c)成分が、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記(c)成分が、ポリプロピレン−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(c)成分が、オレフィン系エラストマー−ポリメタクリル酸アルキルグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記(c)成分が、(エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体)−ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記(c)成分が、(エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸共重合体)―ポリメタクリル酸メチルグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記(d)成分が、無水マレイン酸変性スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEBS)の水素添加物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記(d)成分が、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEPS)の水素添加物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9の何れかに記載の樹脂組成物を成形して成る成形体。
【請求項11】
請求項1乃至請求項9の何れかに記載の樹脂組成物を成形して成る照明カバー。

【公開番号】特開2006−45407(P2006−45407A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230512(P2004−230512)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】