説明

樹脂組成物及びそれを用いる被加工部材の仮固定方法と表面保護方法

【課題】高接着強度を有し、しかも水中で容易にフィルム状に剥離する仮固定用の光硬化型接着剤とそれを用いる部材の仮固定方法を提供する
【解決手段】(A)多官能(メタ)アクリレート、(B)単官能(メタ)アクリレート、(C)N,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミド、(D)シクロペンタジエン骨格樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物、好ましくは、更に、(E)光重合開始剤、(F)アルコールを含有することを特徴する樹脂組成物。並びに、前記の樹脂組成物を用いて被加工部材を基材に接着し、硬化させた後、該被加工部材を加工後に90℃以下の温水に浸漬して、前記樹脂組成物の硬化体を取り外すことを特徴とする被加工部材の仮固定方法と表面保護方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いろいろな部材を加工するに際しての当該被加工部材の仮固定方法と表面保護方法に関し、またそれに好適な樹脂組成物と接着剤に関する。
【0002】
より詳細には、本発明は、光学用部材等を加工するに際し、被加工部材の表面にあって加工しない部分を加工時の汚れ等から保護することを目的とする被加工部材の表面保護方法を提示するとともに、基材に当該被加工物を接着し、被加工物を加工した後、接着部分を温水に浸漬して、硬化体を取り外すことで、被加工部材を回収することを特徴とする被加工部材の仮固定方法をも提示し、更に当該用途に好適な樹脂組成物並びに接着剤を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
半導体ウエハ、光学部品等の薄型化を行う場合、表面保護シートでウエハの回路面や光学部品の非加工面を保護すると共に、前記表面保護シートを介して基材に仮固定され回路面とは反対側の裏面が研削される、いわゆる裏面研削方法で加工される。
【0004】
現在、産業レベルでのウエハの肉厚は一般的には150μmであるが、益々、薄型化されたウエハが求められるようになっている。さらに薄い肉厚までウエハを薄型化していく場合、研削面(裏面)が回路面の凹凸の影響で不均一になる現象、すなわち、回路パターンの裏面転写現象が顕著になる。
【0005】
裏面転写現象が生じる原因は以下のように説明される。現在使用されている感圧接着性の表面保護シートは半導体ウエハの回路の凹凸に対する追従性には限界がある。このため、粘着剤層と回路面の間に隙間(空気ポケット)が介在することになり、ウエハはその領域では粘着剤(保護層)によって直接支持されていない。研削によりウエハを極薄化していくときに、支持されていないスクライブライン(ストリート)では空気ポケットを圧縮しながら回路ダイ間でウエハは垂直方向に移動して、結果としてこの領域では研削されず、他の部分より厚くなる。一方、バンプなどの硬い突起部がある場合には、ウエハはより削られて、結果として他の部分より薄くなる。
【0006】
この現象は、ウエハの仕上げ厚みが150μm以上の場合は、問題にならないが、100μmを超えてウエハを薄くする場合(特に50μm以下の厚みに仕上げる場合)や、バンプ等のウエハ回路面の高い突起が著しく大きい場合は(例えば、100μm以上の場合)、ウエハの抗折強度を大きく下げるだけでなく、ひどい場合には研削中にウエハを破損させることさえある。
【0007】
また、50μm付近までウエハを薄く削っていく場合、ウエハのエッジ欠けや、ウエハと表面保護層との間への研削水の進入すること等も問題となるが、この原因も、表面保護シートのウエハのエッジに対する密着性の欠如によるものであった。また、ウエハの薄型化と並び、バンプに代表される100μm以上の突起を回路面上に有する半導体ウエハでは、典型的な半導体表面保護シートを貼り付けて行う研削そのものが困難であった。
【0008】
従来の表面保護シートは、一般に、ポリマーフィルム材料上に表面保護層として粘着剤層を有するシートである。粘着剤は回路面の凹凸に追従するように低弾性率を有するように設計されている。しかしながら、この傾向が強すぎると、シートをウエハからピール除去する際に、大きな応力がウエハに掛かり、破損につながる。
【0009】
そこで、シートをピールする前に、紫外線などのエネルギー線を照射することにより粘着剤を硬化し、ウエハ・保護シート間の接着力を低下させるエネルギー線易剥離型保護シートが開発された。しかしながら、研削の間に粘着剤層が未硬化の状態では柔軟すぎて研削中にウエハが破損するという問題がある。
【0010】
特許文献1は、上記のようなエネルギー線易剥離型保護シートを回路が形成されたウエハに貼り付け、エネルギー線で粘着剤層を硬化した後に、ウエハの裏面研削を行う、ウエハ研削方法を開示している。しかしながら、粘着剤は、流動体ではないため、ウエハ回路面の凹凸に対する追従性が十分ではない。
【特許文献1】特開平11−026406号公報
【0011】
一方、特許文献2には、ホットメルト型の半導体表面保護シートが開示されている。60〜100℃に加熱することにより溶融し、流動性を示すホットメルト型シートは、回路面の凹凸に追従し、優れた研削性を示すことができる。しかしながら、このシートは、温度が融点を上回る度に溶融する性質がある。
【特許文献2】特開2000−38556号公報
【0012】
また、半導体ウエハは、一般に、保護シートと貼り合わされた後に、チップを固定するために使用するフィルム、すなわち、ダイアタッチメントフィルム(Die Attachment Film(以後、「DAF」とも呼ぶ。))の貼合わせ工程や、スパッタリングによる金属膜形成工程の間に加熱工程などを受けることがある。そのため、前記の工程における温度上昇によって、保護シートが再溶融するという不具合が発生していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
切削加工後の部材の寸法精度を向上させるために、高接着強度であり、かつ水中での剥離性に優れ、また、剥離後部材に糊残りのない環境的にも作業性に優れた光硬化型接着剤が望まれている。特に、裏面研削方法で半導体ウエハ、光学部品、レンズ等の薄型化を行う場合に、ウエハの回路面や光学部品、レンズの非加工面を保護し、前記特性を有する光硬化型接着剤が熱望されている。
【0014】
本発明者は、従来技術の課題を解決し、前記産業界の要望を満足するために、ウエハ、光学部品の回路面の凹凸に対する追従性が十分にある材料であって、かつ研削時の支持体として十分な剛性を有する組成物であり、且つ、温水中で短時間での剥離するものを求めて、いろいろ検討した結果、(メタ)アクリルモノマーとシクロペンタジエン骨格を含有する樹脂とN,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミドとを成分とする樹脂組成物が、前記の目的を達成するものであるとの知見を得て、本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明は、(A)多官能(メタ)アクリレート、(B)単官能(メタ)アクリレート、(C)N,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミド、(D)シクロペンタジエン骨格樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物であり、好ましくは、(A)多官能(メタ)アクリレート、(B)単官能(メタ)アクリレート、(C)N,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミド、(D)シクロペンタジエン骨格樹脂、(E)光重合開始剤、(F)アルコールを含有することを特徴する樹脂組成物である。
【0016】
本発明は、(D)シクロペンタジエン骨格樹脂が、分子内にエステル基と水酸基とのいずれかを含有することを特徴とする前記の樹脂組成物であり、好ましくは、(A)及び(B)成分が疎水性を有する(メタ)アクリレートであること特徴とする前記の樹脂組成物であり、更に好ましくは、(A)成分を1〜50質量部、(B)成分を5〜95質量部、(C)成分を1〜70質量部、(D)成分を0.1〜50質量部、(E)成分を0.5〜10質量部、(F)成分を0.5〜10質量部含有することを特徴とする前記の樹脂組成物である。
【0017】
本発明は、前記の樹脂組成物からなることを特徴とする接着剤であり、また、表面に、前記の樹脂組成物からなる硬化体を設けてなる特徴とする被加工部材である。
【0018】
更に、本発明は、前記の樹脂組成物を用いて被加工部材の表面に被覆し硬化させた後、該被加工部材を加工後に90℃以下の温水に浸漬して、短時間で前記樹脂組成物の硬化体を取り外すことを特徴とする被加工部材の表面保護方法であり、また、前記の樹脂組成物を用いて被加工部材を基材に接着し、硬化させた後、該被加工部材を加工後に90℃以下の温水に浸漬して、前記樹脂組成物の硬化体を取り外すことを特徴とする被加工部材の仮固定方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の樹脂組成物は、その組成故に、吸水性が大きいことから硬化物の膨潤性が大きく、当該組成物の硬化体が温水に接着した際に被着体から容易に剥離する性質を示す。このために、疎水性のみの成分からなる従来公知の接着剤に比べ、省力化、省エネルギー化、作業短縮の面で著しい効果が得られる。一方で、その硬化体は、加工時に用いる切削水などに影響せずに高い接着強度を発現できるので、部材の加工時にずれを生じ難く、寸法精度面で優れた部材が容易に得られるという効果が得られる。
【0020】
更に、本発明の樹脂組成物の硬化体は、特に90℃以下の温水に接触することで接着強度を低下させ部材間の或いは部材と治具との接合力を低下するので容易に部材の回収ができる特徴があり、従来の接着剤の場合に比べ、高価で、発火性の強い、或いは人体に有害なガスを発生する有機溶媒を用いる必要がないという格段の効果が得られるし、更に、特定の好ましい組成範囲の樹脂組成物においては、硬化体が90℃以下の温水と接触して膨潤し、フィルム状に部材から回収できるので、作業性に優れるという効果が得られる。
【0021】
本発明の部材の仮固定方法並びに表面保護方法は、前述した通りに、90℃以下の温水に接触するとき、硬化物の膨潤性が大きく被着体からの接着強度を低下させる樹脂組成物を用いているので、容易に部材と剥離し加工された被着体、即ち部材の回収ができる特徴があり、従来の接着剤の場合に比べ、高価で、発火性の強い、或いは人体に有害なガスを発生する有機溶媒を用いる必要がないという格段の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明に於いて、(A)多官能(メタ)アクリレートとしては、オリゴマー/ポリマー末端又は側鎖に2個以上(メタ)アクロイル化された多官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマーや2個以上の(メタ)アクロイル有するモノマーを使用することができる。例えば、多官能(メタ)アクリレートオリゴマー/ポリマーとしては1,2−ポリブタジエン末端ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、日本曹達社製、「TE−2000」、「TEA−1000」)、前記水素添加物(例えば、日本曹達社製、「TEAI−1000」)、1,4−ポリブタジエン末端ウレタン(メタ)アクリレート(例えば、大阪有機化学社製、「BAC−45」)、ポリイソプレン末端(メタ)アクリレート、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリート、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ビスA型エポキシ(メタ)アクリレート(例えば、大阪有機化学社製、「ビスコート#540」、昭和高分子社製、「ビスコートVR−77」)などが挙げられる。
【0023】
2官能(メタ)アクリレートモノマーとして、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、2−エチル−2−ブチル−プロパンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリストールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0024】
3官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、トメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロイキシエチル]イソシアヌレート等が挙げられ、4官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとしては、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる
【0025】
(A)多官能(メタ)アクリレートは、疎水性のものがより好ましく、水溶性の場合、切削加工時に樹脂組成物の硬化体が膨潤することにより位置ずれを起こし加工精度が劣る恐れがあるため好ましくない。親水性であっても、その樹脂組成物の硬化体が切削加工時に0℃〜40℃の水によって大きく膨潤もしくは一部溶解することがなければ、使用しても差し支えない。
【0026】
(A)多官能(メタ)アクリレートの添加量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計量100質量部中、1〜50質量部が好ましい。1質量部以上であれば十分な剥離性が得られ、しかも樹脂組成物の硬化体がフィルム状で剥離する。また、50質量部以下であれば、硬化収縮が大きくなり初期の接着性が低下する恐れもない。
【0027】
(B)成分の単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、メトキシ化シクロデカトリエン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、エトキシカルボニルメチル(メタ)アクリレート、フェノールエチレンオキサイド変性アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド2モル変性)アクリレート、フェノール(エチレンオキサイド4モル変性)アクリレート、パラクミルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド4モル変性)アクリレート、ノニルフェノール(エチレンオキサイド8モル変性)アクリレート、ノニルフェノール(プロピレンオキサイド2.5モル変性)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート、エチレンオキシド変性フタル酸(メタ)アクリレ−ト、エチレンオキシド変性コハク酸(メタ)アクリレート、トリフロロエチル(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、β−(メタ)アクロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、n−(メタ)アクリロイルオキシアルキルヘキサヒドロフタルイミド等が挙げられる。
【0028】
(B)単官能(メタ)アクリレートは、(A)成分同様に、疎水性のものがより好ましい。水溶性の場合には、切削加工時に樹脂組成物の硬化体が膨潤することにより位置ずれを起こし加工精度が劣る恐れがあるので避けた方が良い。親水性であっても、その樹脂組成物の硬化体が切削加工時に0℃〜40℃の水によって大きく膨潤もしくは一部溶解することがなければ、使用しても何ら差し支えない。
【0029】
(B)単官能(メタ)アクリレートの添加量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計量100質量部中、5〜95質量部が好ましい。5質量部以上であれば初期の接着性も十分であるし、95質量部以下ならば、剥離性が低下し、樹脂組成物の硬化体がフィルム状でないということもない。
【0030】
前記(A)及び(B)成分の配合組成に、(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、ジブチル2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート、ジオクチル2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジフェニル2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、(メタ)アクリロイルオキシエチルポリエチレングリコールアシッドフォスフェート等のビニル基又は(メタ)アクリル基を有するリン酸エステルを併用することで、金属面への密着性をさらに向上させることができる。
【0031】
(C)N,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミドは、親水性の硬化体を与えるが、切削加工時に0℃〜40℃の水によって大きく膨潤もしくは一部溶解することもなく、しかも後述する通りに90℃に近い温度の温水によって膨潤又は一部溶解し、後述する部材の表面保護方法や仮固定方法に好適な性質を付与する。
【0032】
(C)N,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミドの量はその合計が、(A)成分、及び(B)成分との合計量100質量部中、1〜70質量部が好ましい。1質量部以上で本発明の効果が十分に得ることができるし、70質量部以下で硬化物の水への膨潤溶解性が適度で、フィルム状に回収できる。
【0033】
(D)シクロペンタジエン骨格樹脂は、シクロペンタジエン骨格を有する樹脂ならばどのようなものでも構わないが、軟化点が50℃から200℃が好ましく、さらに数平均分子量(Mn)300から600のものが(A)や(B)への溶解性の面で望ましい。
【0034】
(D)シクロペンタジエン骨格樹脂は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計量100質量部に対して、0.5〜50質量部が好ましい。0.5質量部以上であれば、フィルムを形成せずに糊残りすることもなく、50質量部以下であれば接着性が低下することもない。
【0035】
(D)光重合開始剤の添加量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)の合計100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましい。より好ましくは3〜20質量部が好ましい。0.1質量部以上であれば、硬化促進の効果が確実に得られるし、20質量部以下で充分な硬化速度が達成できる。
【0036】
(E)光重合開始剤としては、可視光線や紫外線の活性光線により増感させて樹脂組成物の光硬化を促進するために配合するものであり、公知の各種光重合開始剤が使用可能である。具体的にはベンゾフェノン及びその誘導体、ベンジル及びその誘導体、エントラキノン及びその誘導体、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン誘導体、ジエトキシアセトフェノン、4−t−ブチルトリクロロアセトフェノン等のアセトフェノン誘導体、2−ジメチルアミノエチルベンゾエート、p−ジメチルアミノエチルベンゾエート、ジフェニルジスルフィド、チオキサントン及びその誘導体、カンファーキノン、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボン酸、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボキシ−2−ブロモエチルエステル、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボキシ−2−メチルエステル、7,7−ジメチル−2,3−ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン−1−カルボン酸クロライド等のカンファーキノン誘導体、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等のα−アミノアルキルフェノン誘導体、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシポスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジエトキシフェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体等が挙げられる。光重合開始剤は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物は、より好ましい実施態様として(E)光重合開始剤を添加することで、光照射量に依存なく硬化可能となり、さらに樹脂組成物の硬化体の架橋度が高くなり、切削加工時に位置ずれ等を起こさなくなる点や剥離性が向上する点でより好ましい。(E)光重合開始剤の量については、(A)成分、(B)成分、及び(C)の合計100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましい。
【0038】
また、本発明の樹脂組成物は、より好ましい実施態様として、(F)アルコールを添加することができる。(F)アルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられ、沸点として100℃以下を有するアルコールが好ましく選択される。沸点が100℃以下で充分な剥離性が得られるからである。特に臭気があまりなく、医薬用劇物と指定されていないエタノール、イソプロパノールが好ましい。
【0039】
(F)アルコールの添加量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計量100質量部に対して、0.5〜10質量部が好ましい。0.5質量部以上ならば充分な剥離性が達成できるし、10質量部以下で接着性が低下する恐れもなく、硬化体がフィルムを形成して糊残りする可能性が少ない。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、その貯蔵安定性向上のため少量の重合禁止剤を使用することができる。例えば重合禁止剤としては、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン、2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)、カテコール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノターシャリーブチルハイドロキノン、2,5−ジターシャリーブチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジターシャリーブチル−p−ベンゾキノン、ピクリン酸、クエン酸、フェノチアジン、ターシャリーブチルカテコール、2−ブチル−4−ヒドロキシアニソール及び2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール等が挙げられる。
【0041】
前記の重合禁止剤の使用量は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分の合計量100質量部に対して、0.001〜3質量部が好ましく、0.01〜2質量部がより好ましい。0.001質量部以上で貯蔵安定性が充分であるし、3質量部以下で確実な接着性が得られ、未硬化になるおそれもない。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、一般に使用されているアクリルゴム、ウレタンゴム、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンゴムなどの各種エラストマー、無機フィラー、溶剤、増量材、補強材、可塑剤、増粘剤、染料、顔料、難燃剤、シランカップリング剤及び界面活性剤等の添加剤を使用してもよい。
【0043】
本発明の樹脂組成物は、前記組成を採用している結果、その硬化体が切削加工時に0℃〜40℃の水によっても大きく膨潤したり、一部溶解したりすることがないが、90℃近い高温の温水と接触させるときには、温水吸水性が大きいことから硬化物の膨潤性が大きく、接着強度を低下させる特徴を示す。
【0044】
本発明の被加工部材の表面保護方法並びに仮固定方法は、前記特定な性質を有する樹脂組成物を用いた方法である。
【0045】
即ち、本発明の樹脂組成物を用いて被加工部材同士或いは被加工部材を基材に接着し、樹脂組成物を硬化して、仮固定し、仮固定された部材を加工後、加工された部材を必要なら基材ごと温水に浸漬して硬化した接着剤を取り外す被加工部材部材の仮固定方法である。この方法では、従来法で必須であった有機溶剤を用いることなく、光学用部材などのいろいろな部材を加工精度高く加工することができる。
【0046】
本発明の好ましい実施態様によれば、被加工部材を取り外すときに、樹脂組成物の硬化体が80℃以下の温水と接触して膨潤し、フィルム状に被加工部材から回収できるようにすることで、作業性に優れるという効果が得られる。
【0047】
本発明の仮固定方法において、前記本発明の樹脂組成物からなる接着剤を用いると、前記発明の効果が確実に得られるので、好ましい。
【0048】
本発明に於いて、適度に加熱した90℃以下の温水を用いる時、水中での剥離性が短時間に達成でき、生産性の面から好ましい。前記温水の温度に関しては、50℃〜90℃、好ましくは60〜80℃、の温水を用いると短時間で接着剤の硬化物が少し膨潤し、接着強度が低下するとともに、(F)成分のアルコールの蒸気圧が剥離力として働き、被着体のフィルム状に接着剤硬化体を取り外すことができるので、好ましい。尚、硬化体と水との接触の方法については、水中に接合体ごと浸漬し水流を与える方法が簡便であることから推奨される。
【0049】
本発明において、仮固定することのできる被加工部材並びに基材の材質に特に制限はなく、紫外線硬化型接着剤として用いる場合には、紫外線を透過できる材料からなる被加工部材や基材が好ましい。このような材質として、例えば、水晶部材、ガラス部材、プラスチック部材、ウエハが挙げられる。本発明の仮固定方法は、ガラスレンズ、プラスチックレンズ、ウエハ及び光ディスクの加工における仮固定に適用可能である。
【0050】
仮固定方法において、接着剤の使用方法に関しては、接着剤として光硬化性接着剤を用いる場合を想定すると、例えば、固定する一方の被加工部材又は支持基板の接着面に接着剤を適量塗布し、該被加工部材を可視光または紫外線を照射して、光硬化性接着剤を硬化させ仮固定する方法等が例示される。
【0051】
その後、仮固定された被加工部材を所望の形状に切断、研削、研磨、孔開け等の加工を施した後、該被加工部材を温水に浸漬することにより、接着剤の硬化物を被加工部材から剥離することができる。
【0052】
また、本発明は、前記の樹脂組成物を用いて被加工部材の表面に被覆し硬化させた後、該被加工部材を加工後に90℃以下の温水に浸漬して、前記樹脂組成物の硬化体を取り外すことを特徴とする被加工部材の表面保護方法である。即ち、被加工部材の加工されない表面に前記樹脂組成物を塗布し硬化させることで、加工時に当該表面が汚れたり、チッピングを発生するのを防ぐことができる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)(A)多官能(メタ)アクリレートとして、日本曹達社製TE−2000(1,2−ポリブタジエン末端ウレタンメタクリレート、以下「TE−2000」と略す。)20質量部、ジシクロテンタニルジアクリレート(B)単官能(メタ)アクリレートとして、n−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド(東亜合成社製TO−1429、以下「TO−1429」と略す。)30質量部(C)N,N−ジエチルアクリルアミド50質量部合計100質量部(D)シクロペンタジエン樹脂(日本ゼオン製クイントン1700)20質量部 (E)光重合開始剤として、ベンジルジメチルケタール(以下、「BDK」と略す。)10質量部、(F)アルコールとして、イソプロピルアルコール(以下、「IPA」と略す。)2質量部、重合禁止剤として2,2−メチレン−ビス(4−メチル−6−ターシャリーブチルフェノール)(以下、「MDP」と略す。)0.1質量部を配合して樹脂組成物を作成した。得られた樹脂組成物を使用して、以下に示す評価方法にてその硬化体の引張せん断接着強さの測定及び剥離試験を行った。それらの結果を表1に示す。
【0055】
(評価方法)
引張せん断接着強さ:JIS K 6850に従い測定した。具体的には被着材として、耐熱パイレックス(登録商標)ガラス(25mm×25mm×2.0mm)を用いて、接着部位を直径8mmとして、作成した樹脂組成物にて、2枚の耐熱パイレックス(登録商標)ガラスを貼り合わせ、無電極放電ランプを使用したフュージョン社製硬化装置により、365nmの波長の積算光量2000mJ/cmの条件にて硬化させ、引張せん断接着強さ試験片を作成した。作成した試験片は、万能試験機を使用して、温度23℃、湿度50%の環境下、引張速度10mm/minで引張せん断接着強さを測定した。
剥離試験:上記耐熱パイレックス(登録商標)ガラスに樹脂組成物を塗布し、無電極放電ランプを使用したフュージョン社製硬化装置により、365nmの波長の積算光量2000mJ/cmの条件にて樹脂組成物を硬化させ、剥離試験体を作成した。得られた試験体を、温水(80℃)に浸漬し、耐熱パイレックス(登録商標)ガラスから剥離する時間を測定し、また剥離状態も観察した。
【0056】
(実施例2〜26)
原材料を表1、表2、表3に示す組成で使用したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作成した。得られた樹脂組成物に関して、実施例1と同様に引張せん断接着強さの測定及び剥離試験を行った。それらの結果を表1、表2、表3に示す。
【0057】
(使用材料)
R−684:ジシクロテンタニルジアクリレート(日本化薬社製)
M−101A:フェノールエチレンオキサイド2モル変成アクリレート(東亜合成社製)
TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(BASF社製ルシリンTPO)
QM:ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(ローム&ハース社製QM−657)
BZ:ベンジルメタクリレート(共栄社化学社製ライトエステルBZ)
IBX:イソボルニルメタクリレート(共栄社化学社製ライトエステルIB−X)
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
(比較例1〜6)
原材料を表4に示す組成で使用したこと以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作成した。得られた樹脂組成物に関して、実施例1と同様に引張せん断接着強さの測定及び剥離試験を行った。それらの結果を表4に示す。
【0062】
(使用材料)
2−HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
MTEGMA:メトシキテトラエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学社製NKエステルM−90G)
【0063】
【表4】

【0064】
(実施例27、28、比較例7)
実施例1、実施例6及び比較例6の樹脂組成物をそれぞれ用いて、無電極放電ランプを使用したフュージョン社製硬化装置により、365nmの波長の積算光量を500、1000、2000、4000mJ/cmと変えて接着剤組成物を硬化させ、剥離試験体、引張せん断接着強さ試験片を作成したこと以外は、実施例1と同様に引張せん断接着強さの測定及び剥離試験を行った。それらの結果を表5に示す。
【0065】
【表5】

【0066】
(実施例29、30)
実施例1及び6の樹脂組成物を使用し、実施例1と同様に剥離試験体を作成し、温水の温度40℃、50℃、60、70℃を変えて剥離試験を行った。その結果を表5に示す。その結果、いずれの温度でも剥離性を有する。
【0067】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の樹脂組成物は、その組成故に光硬化性を有し、可視光または紫外線によって硬化し、その硬化体は切削水などに影響されずに、高い接着強度を発現できるので、部材の加工時にずれを生じ難く、寸法精度面で優れた部材が容易に得られるという効果が得られるし、更に、温水に接触することで接着強度を低下させ、部材間の或いは部材と治具との接合力を低下するので、容易に部材の回収ができる特徴があるので、光学レンズ、プリズム、アレイ、シリコンウエハ、半導体実装部品等の仮固定用接着剤として、産業上有用である。
【0069】
本発明の部材の仮固定方法並びに表面保護方法は、前記特徴ある樹脂組成物を用いているので、従来技術に於いて必要であった有機溶媒を用いる必要がなく、またフィルム状に部材から回収できるので作業性に優れるという特徴があるので、産業上非常に有用である。更に、本発明はその好ましい実施態様に於いて、基板に一時的に付着したまま部材から剥がれ、後に基板からもフィルム上に剥がれることから、加工部材の回収が効率的にでき、また基材の再使用も容易となることから、産業上非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)多官能(メタ)アクリレート、(B)単官能(メタ)アクリレート、(C)N,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミド、(D)シクロペンタジエン骨格樹脂を含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
(A)多官能(メタ)アクリレート、(B)単官能(メタ)アクリレート、(C)N,N−ジエチルアクリルアミド及び/又はN−イソプロピルアクリルアミド)、(D)シクロペンタジエン骨格樹脂、(E)光重合開始剤、(F)アルコールを含有することを特徴する樹脂組成物。
【請求項3】
(C)シクロペンタジエン骨格樹脂が、分子内にエステル基と水酸基とのいずれかを含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(A)及び(B)成分が疎水性を有する(メタ)アクリレートであること特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
(A)成分を1〜50質量部、(B)成分を5〜95質量部、(C)成分を1〜70質量部、(D)成分を0.1〜50質量部、(E)成分を0.5〜10質量部、(F)成分を0.5〜10質量部含有することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の樹脂組成物
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする接着剤。
【請求項7】
表面に、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる硬化体を設けてなる特徴とする被加工部材。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いて被加工部材の表面に被覆し硬化させた後、該被加工部材を加工後に90℃以下の温水に浸漬して、前記樹脂組成物の硬化体を取り外すことを特徴とする被加工部材の表面保護方法。
【請求項9】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の樹脂組成物を用いて被加工部材を基材に接着し、硬化させた後、該被加工部材を加工後に90℃以下の温水に浸漬して、前記樹脂組成物の硬化体を取り外すことを特徴とする被加工部材の仮固定方法。

【公開番号】特開2008−214593(P2008−214593A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57906(P2007−57906)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】