説明

樹脂組成物及び接着剤

【課題】極性材料と非極性材料のような互いに異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着することが可能な接着剤に用いられる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明の樹脂組成物は、(A)成分:脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)及びモノマー(A−1)と共重合可能なモノマー(A−2)を含む単量体成分を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、(B)成分:ポリビニルアルコール樹脂とを含有し、(A)成分は、モノマー(A−1)0.1〜99質量部と、モノマー(A−2)1〜99.9質量部(但し、モノマー(A−1)+モノマー(A−2)=100質量部)とを含む単量体成分を重合して得られたものであるとともに、(A)成分100質量部に対して、(B)成分を0.1〜100質量部含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び接着剤に関する。更に詳しくは、極性材料と非極性材料とのような互いに異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着することが可能な接着剤に用いられる樹脂組成物、及びこのような樹脂組成物を含有する接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶材料を光学用途に適用するための研究開発が活発に行われている。前記液晶材料を配向してフィルム化した配向フィルムは、液晶ディスプレイの色補償用途や視野角拡大用途などに実用化されている。
【0003】
このような配向フィルムは、偏光板に位相差フィルムなどを接着剤等を介して複合化した積層構造の状態で用いられている。
【0004】
なお、上記した偏光板が吸湿性を有するポリビニルアルコール樹脂からなるものの場合には、その特性が外部環境によって変化してしまうため、この偏光板を保護フィルム(例えば、トリアセチルセルロースフィルム。以下「TACフィルム」ということがある)で挟んで保護する必要がある。
【0005】
このような偏光板やTACフィルムと、上記位相差フィルムとを接着する接着剤としては、例えば、エチレン性不飽和二重結合及び重合性カルボニル基を分子中に有するモノマーと、エチレン性不飽和二重結合及びベンゼン環を分子中に有するモノマーと、エチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するモノマーとを用いて乳化重合してなるポリマーエマルションを含有する接着剤等が用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−52359号公報
【特許文献2】特開2006−168243号公報
【特許文献3】特開平8−165464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した偏光板やTACフィルムは、ポリビニルアルコール樹脂やトリアセチルセルロースのような極性材料からなるものであるのに対し、上記した位相差フィルムは、通常、ノルボルネン系樹脂のような非極性材料からなるものであるため、従来の接着剤を用いて両者を接着したとしても、接着力が十分に得られずに、例えば、偏光板と位相差フィルムとの界面で剥離が生じてしまうという問題があった。
【0008】
また、配向フィルムをガラスセル上に配置した後、配向フィルムの不良箇所を取り外し、配向フィルムを再取り付けする作業(以下、「リワーク」ということがある)を行った場合に、この配向フィルムとガラスセルとを接着する接着剤の接着力が、配向フィルムの積層構造内における接着力(例えば、偏光板と位相差フィルムとを接着する接着力)よりも高くなってしまうため、配向フィルムを取り外したガラスセル上に、位相差フィルム等が残ってしまうという問題もあった。
【0009】
このため、例えば、ポリビニルアルコール樹脂のような極性材料と、ノルボルネン系樹脂のような非極性材料とのような、互いに異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着することが可能な接着剤に用いられる樹脂組成物の開発が切望されている。
【0010】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、極性材料と非極性材料とのような互いに異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着することが可能な接着剤に好適に用いられる樹脂組成物、及びこのような樹脂組成物を含有する接着剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記のような従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、極性材料に対する良好な接着力を発現させることが可能なポリビニルアルコール樹脂と、非極性材料に対する良好な接着力を発現させることが可能な特定の(メタ)アクリル酸エステル共重合体とを含有させた樹脂組成物によって、上記課題を解決することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明により、以下の樹脂組成物、及び接着剤が提供される。
【0012】
[1] (A)脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)及び前記モノマー(A−1)と共重合可能なモノマー(A−2)を含む単量体成分を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、(B)ポリビニルアルコール樹脂とを含有し、前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、前記モノマー(A−1)0.1〜99質量部と、前記モノマー(A−2)1〜99.9質量部(但し、モノマー(A−1)+モノマー(A−2)=100質量部)とを含む前記単量体成分を重合して得られたものであるとともに、前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して、前記(B)ポリビニルアルコール樹脂を0.1〜100質量部含有する樹脂組成物。
【0013】
[2] 前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体と前記(B)ポリビニルアルコール樹脂とを含有する混合物である前記[1]に記載の樹脂組成物。
【0014】
[3] 前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体と前記(B)ポリビニルアルコール樹脂とをグラフト重合したグラフト共重合体である前記[1]に記載の樹脂組成物。
【0015】
[4] (C)水溶性エポキシ化合物を更に含有する前記[1]〜[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0016】
[5] 前記(B)ポリビニルアルコール樹脂のケン化度が、50〜100モル%である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0017】
[6] 前記[1]〜[5]のいずれかに記載の樹脂組成物を含有する接着剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明の樹脂組成物は、極性材料と非極性材料とのような互いに異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着する接着剤に好適に用いることができる。例えば、このような接着剤は、極性材料からなる偏光板と、非極性材料からなる位相差フィルムを良好に接着することができる。また、本発明の接着剤は、上述した異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0020】
[1]樹脂組成物:
本発明の樹脂組成物は、(A)脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)及び前記モノマー(A−1)と共重合可能なモノマー(A−2)を含む単量体成分を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、(B)ポリビニルアルコール樹脂とを含有するものである。
【0021】
この樹脂組成物は、極性材料に対しては、(B)ポリビニルアルコール樹脂(以下、「(B)成分」ということがある)が良好な接着力を発現させることができるとともに、非極性材料に対しては、(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体(以下、「(A)成分」ということがある)が、良好な接着力を発現させることができる。
【0022】
このように、上記樹脂組成物は、極性材料及び非極性材料のそれぞれに対する接着成分が含有されているため、例えば、極性材料と非極性材料とのような互いに異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着する接着剤に好適に用いることができる。なお、この樹脂組成物は、極性材料や非極性材料からなる二枚以上のフィルムの相互間に塗工して配置することにより、この樹脂組成物からなる層(中間層)を有するフイルム積層体を形成する際にも好適に用いることができる。
【0023】
なお、上記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)0.1〜99質量部と、モノマー(A−2)1〜99.9質量部(但し、モノマー(A−1)+モノマー(A−2)=100質量部)とを含む単量体成分を重合して得られたものである。
【0024】
このように構成することによって、脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)に由来する構造単位が、非極性材料に対する接着成分として良好に機能する。
【0025】
また、この樹脂組成物においては、上記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して、(B)ポリビニルアルコール樹脂が0.1〜100質量部含有されている。このように構成することによって、異なる極性を有する被着体同士の良好な接着が実現される。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体と(B)ポリビニルアルコール樹脂とをそれぞれ含有する混合物であってもよいし、(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体と(B)ポリビニルアルコール樹脂とをグラフト重合したグラフト共重合体を含有するものであってもよい。
【0027】
例えば、樹脂組成物が、(A)成分と(B)成分との混合物である場合には、高い接着力を有する接着剤を容易に製造することができる。一方、樹脂組成物が、(A)成分と(B)成分とのグラフト共重合体を含有するものである場合には、異なる極性を有する被着体同士に対する接着力をより向上させることが可能となる。
【0028】
以下、本発明の樹脂組成物の各成分について、更に詳細に説明する。
【0029】
[1−1](A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体:
(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)0.1〜99質量部と、このモノマー(A−1)と共重合可能なモノマー(A−2)1〜99.9質量部(但し、モノマー(A−1)+モノマー(A−2)=100質量部)とを含む単量体成分を重合して得られる共重合体である。
【0030】
上記したように、この(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、脂環構造を有するモノマー(A−1)に由来する構造単位を含んでいるため、例えば、ノルボルネン系樹脂のような非極性材料からなる被着体に対する高い接着力を発現させることができる。
【0031】
単量体成分におけるモノマー(A−1)とモノマー(A−2)との含有割合は、上記したように、モノマー(A−1)0.1〜99質量部に対して、モノマー(A−2)が1〜99.9質量部であるが、本発明の樹脂組成物においては、モノマー(A−1)30〜95質量部に対して、モノマー(A−2)は5〜70質量部であることが好ましく、モノマー(A−1)40〜90質量部に対して、モノマー(A−2)は10〜60質量部であることが更に好ましく、モノマー(A−1)50〜85質量部に対して、モノマー(A−2)は15〜50質量部であることが特に好ましい。但し、上記含有割合において、モノマー(A−1)+モノマー(A−2)=100質量部である。
【0032】
このように構成することによって、脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)に由来する構造単位が、非極性材料に対する接着成分として良好に機能する。モノマー(A−1)が30質量部未満であると、非極性材料に対する接着力が発現しないおそれがあり、一方、95質量部超であると、接着剤として用いて場合に、成膜不良が起こり、好ましい接着力が得られないおそれがある。
【0033】
[1−1a]モノマー(A−1):
モノマー(A−1)は、脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルであり、具体的には、(メタ)アクリル酸と、脂環構造を有するアルコールとのエステルである。
【0034】
具体的なモノマー(A−1)としては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニルアクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート類を好適例として挙げることができる。なお、本発明の樹脂組成物においては、特にシクロヘキシルメタクリレートが好ましい。
【0035】
[1−1b]モノマー(A−2):
モノマー(A−2)は、上記モノマー(A−1)と共重合可能なモノマーであれば特に制限はない。
【0036】
具体的なモノマー(A−2)としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン等を挙げることができる。
【0037】
[1−1c](A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法:
上記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体の製造方法は、特に限定されることなく、例えば、乳化重合法や懸濁重合法、溶液重合法を用いることができる。これらの中でも、乳化重合法により製造することが好ましい。
【0038】
乳化重合により製造する場合、まず、例えば、界面活性剤を用いて水中に各単量体(モノマー(A−1)及びモノマー(A−2))を含む単量体成分を乳化する。その後、重合開始剤として過酸化物触媒やレドックス系触媒などのラジカル重合開始剤、必要に応じてメルカプタン系化合物やテルペン化合物などの分子量調節剤を添加して、例えば、50〜90℃にて重合する。このようにして(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体を含む水系エマルジョンを得ることができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物に用いられる(A)成分は、このようにして得られた水系エマルジョンの状態で用いてもよいし、この水系エマルジョンから単離して用いることもできる。なお、(A)成分を、上記水系エマルジョンの状態で用いることにより、この水系エマルジョンを含有する樹脂組成物を用いて水系接着剤を製造することができる。
【0040】
この樹脂組成物に用いられる(A)成分は、ガラス転移温度(Tg)が−50〜80℃であることが好ましく、−20〜50℃であることが更に好ましく、0〜40℃であることが特に好ましい。
【0041】
例えば、(A)成分のガラス転移温度(Tg)が−50℃未満であると、樹脂組成物を接着剤に用いた場合に凝集破壊し、好ましい接着力が得られないおそれがあり、一方、80℃超であると、接着剤に用いた場合に成膜不良が起こり、好ましい接着力が得られないおそれがある。
【0042】
なお、本明細書において、「ガラス転移温度(Tg)」というときは、示差走査熱量計で測定された値をいうものとする。具体的には、共重合体(例えば、(A)成分)を加熱乾燥させた後、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ社製、商品名「EXSTAR6000DSC」)を用いて、昇温速度10℃/分の条件で、分析したときの値である。
【0043】
[1−2](B)ポリビニルアルコール樹脂:
(B)ポリビニルアルコール樹脂は、例えば、液晶材料として用いられる偏光板やTACフィルムのような極性材料からなる被着体に対する接着力を発現させる接着成分となる。
【0044】
このような(B)ポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、一般的な酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをケン化したポリビニルアルコールの他、架橋反応性ポリビニルアルコール、活性な末端基を持ったポリビニルアルコール等を挙げることができる。(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体との化学結合による接着力発現の観点から、上記した架橋反応性ポリビニルアルコール、活性な末端基を持ったポリビニルアルコールが好ましい。
【0045】
また、この(B)ポリビニルアルコール樹脂としては、そのケン化度が、50〜100モル%であることが好ましく、70〜100モル%であることが更に好ましく、80〜100モル%であることが特に好ましい。このように構成することによって、樹脂組成物を接着剤に用いた場合に、高い接着力を発現させることができる。例えば、ケン化度が50モル%未満であると、接着力が十分に得られないことがある。
【0046】
また、(B)ポリビニルアルコール樹脂としては、その構造単位中に、カルボキシル基を有するものであることが好ましい。このように構成することによって、極性材料からなる被着体への密着性を向上させて、高い接着力を発現させることができる。
【0047】
[1−3](C)水溶性エポキシ化合物:
本発明の樹脂組成物は、これまでに説明した(A)成分と、(B)成分とに加えて、(C)水溶性エポキシ化合物(以下、「(C)成分」ということがある)を更に含有したものであってもよい。
【0048】
このような(C)水溶性エポキシ化合物を更に含有させることによって、本発明の樹脂組成物を接着剤に用いた場合に、その接着剤の接着力を更に向上させることができる。
【0049】
(C)水溶性エポキシ化合物としては、例えば、従来の接着剤に用いられる水溶性のエポキシ化合物を用いることができる。本発明においては、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル等を好適例として挙げることができる。
【0050】
[2]樹脂組成物の製造方法:
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0051】
本発明の樹脂組成物を製造する際には、まず、モノマー(A−1)とモノマー(A−2)とを混合して、(A)成分を得るための単量体成分を調製する。このようにして得られた単量体成分を、例えば、上記した乳化重合法等を用いて重合し、(メタ)アクリル酸エステル共重合体((A)成分)を含む水系エマルジョンを製造する。重合方法については、懸濁重合法や溶液重合法を用いることもできる。
【0052】
なお、樹脂組成物が(A)成分と(B)成分との混合物である場合には、上記した(A)成分を含む水系エマルジョンに、(B)成分としてのポリビニルアルコール樹脂、及び必要に応じて(C)成分を加えて混合することによって製造することができる。
【0053】
一方、樹脂組成物が、(A)成分と(B)成分とをグラフト重合したグラフト共重合体を含有するものである場合には、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0054】
まず、モノマー(A−1)とモノマー(A−2)とを混合した単量体成分を用意する。
【0055】
次に、(B)成分を含む水溶液をオートクレーブ等に入れ、重合開始剤として過酸化物触媒やレドックス系触媒などのラジカル重合開始剤、必要に応じてメルカプタン系化合物やテルペン化合物などの分子量調節剤を添加して、例えば、50〜90℃に加熱する。
【0056】
次に、このオートクレーブ内に、上記した単量体成分を、一定時間かけて連続的に供給し、モノマー(A−1)とモノマー(A−2)とを重合させるとともに、得られた(A)成分と(B)成分とをグラフト重合させる。このようにして、(A)成分と(B)成分とのグラフト共重合体を含有する樹脂組成物を製造することができる。
【0057】
[3]接着剤:
次に、本発明の接着剤の実施形態について説明する。本発明の接着剤は、これまでに説明した本発明の樹脂組成物を含有する接着剤である。
【0058】
本発明の接着剤は、上述したように、極性材料に対して良好な接着力を発現させることができる(B)成分と、非極性材料に対して良好な接着力を発現させることができる(A)成分とを含む樹脂組成物を含有するものである。このため、例えば、ポリビニルアルコール樹脂のような極性材料と、ノルボルネン系樹脂のような非極性材料とのような、互いに異なる極性を有する被着体同士を高い接着力で接着することができる。
【0059】
本発明の接着剤は、樹脂組成物を含む水系エマルジョンを含有する水系接着剤であることが好ましい。このような水系接着剤は、従来の水系接着剤にはなかった強力な接着力を実現することができる。また、作業性もよく且つ低臭であるため、作業環境を良好なものとすることができる。
【0060】
また、この接着剤には、その使用用途に応じて、従来の接着剤に用いられる各種添加剤を更に含有させることもできる。なお、接着剤を光学用途等に使用する場合には、必要以上の添加剤を加えることなく、これまでに説明した本発明の樹脂組成物からなる接着剤とすることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。また、接着剤を構成するポリマーの平均粒子径と、本発明の接着剤の接着力の測定方法を以下に示す。
【0062】
[平均粒子径]:大塚電子社製の濃厚系粒径アナライザー「FPAR−1000」を用いて測定した。
【0063】
[接着力]:各実施例及び比較例によって得られた接着剤を用いて、極性材料からなるフィルムと、非極性材料からなるフィルムを接着したフィルム積層体を得、得られたフィルム積層体を用いて、各接着剤の接着力を、島津製作所社製の「オートグラフAG−B500」を用い、剥離速度5mm/minの90度剥離試験にて測定した。
【0064】
(実施例1)
〔単量体成分(1)の調製〕
モノマー(A−1)としてシクロヘキシルメタクリレート69質量部と、モノマー(A−2)として2−エチルヘキシルアクリレート25質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3質量部、及びメタクリル酸3質量部とを混合して、(A)成分を調製するための単量体成分(1)(モノマーの混合物)を調製した。
【0065】
〔(A)成分((A)成分を含む水系エマルジョン)の調製〕
攪拌機、温度調節器、及び還流式冷却器を備えたオートクレーブ内に、水420質量部、乳化剤として第一工業製薬社製の商品名「KH1025」を2質量部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3質量部とを仕込み、75℃に昇温した。
【0066】
このオートクレーブ内に、下記方法によって調製されたプレエマルジョンの全量247質量部をオートクレーブ内に3時間かけて連続的に供給しながら、75℃で単量体成分(1)の重合を行い、更に、80℃で3時間攪拌して重合反応を完結させることにより、(A)成分を含む水系エマルジョンを得た。
【0067】
上記プレエマルジョンは、単量体成分(1)100質量部と、乳化剤として第一工業製薬社製の商品名「KH1025」1質量部と、水146質量部とを添加した後、攪拌して乳化することにより調整した。
【0068】
得られた水系エマルジョンの固形分濃度は15.1%、(A)成分からなるポリマー粒子の平均粒子径は65nmであった。(A)成分の配合処方を表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
〔接着剤の製造〕
このようにして得られた(A)成分を含む水系エマルジョンを、アンモニアによりpH7.5に調整した後、(B)成分としてポリビニルアルコール樹脂(商品名「ゴーセノールGL−03」、日本合成化学社製)の15%水溶液を200質量部((B)成分として30質量部)添加して、樹脂組成物からなる接着剤を製造した。
【0071】
〔フィルム積層体の作製〕
実施例1の接着剤の接着力を測定するための被着体として、厚み100μmのノルボルネン系樹脂フィルム(非極性材料)と、厚み100μmのポリビニルアルコール樹脂フィルム(極性材料)とを用意し、この二枚のフィルムを、実施例1の接着剤によって接着した。
【0072】
接着に際しては、まず、それぞれのフィルムの表面をコロナ処理し、ノルボルネン系樹脂フィルムの処理面に、実施例1の接着剤を滴下し、直ちにポリビニルアルコール樹脂フィルムの処理面を重ね合わせ、ニップロールで加圧(ニップ温度23℃、ニップ圧力100N/cm)し、これを50℃恒温槽に2日間保存し、フィルム積層体を作製した。
【0073】
得られたフィルム積層体に対して、上記した方法に従って接着剤の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2)
〔単量体成分(2)の調製〕
モノマー(A−1)としてシクロヘキシルアクリレート94質量部と、モノマー(A−2)として2−ヒドロキシエチルメタクリレート3質量部、及びメタクリル酸3質量部とを混合して、(A)成分を調製するための単量体成分(2)を調製した。
【0075】
〔(A)成分((A)成分を含む水系エマルジョン)の調製〕
上記単量体成分(2)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によって、この単量体成分(2)の重合を行って、(A)成分を含む水系エマルジョンを得た。この水系エマルジョンの固形分濃度は15.0%、(A)成分のポリマー粒子の平均粒子径は70nmであった。(A)成分の配合処方を表1に示す。
【0076】
〔接着剤の製造、及びフィルム積層体の作製〕
上記方法にて得られた(A)成分を含む水系エマルジョンを用いること以外は、実施例1と同様の方法によって接着剤を製造した。更に、得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
〔単量体成分(3)の調製〕
モノマー(A−1)としてイソボルニルアクリレート62質量部と、モノマー(A−2)として2−エチルヘキシルアクリレート32質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3質量部、及びメタクリル酸3質量部とを混合して、(A)成分を調製するための単量体成分(3)を調製した。
【0078】
〔(A)成分((A)成分を含む水系エマルジョン)の調製〕
上記単量体成分(3)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によって、この単量体成分(3)の重合を行って、(A)成分を含む水系エマルジョンを得た。この水系エマルジョンの固形分濃度は15.0%、(A)成分のポリマー粒子の平均粒子径は76nmであった。(A)成分の配合処方を表1に示す。
【0079】
〔接着剤の製造、及びフィルム積層体の作製〕
上記方法にて得られた(A)成分を含む水系エマルジョンを用いること以外は、実施例1と同様の方法によって接着剤を製造した。更に、得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4)
〔単量体成分(4)の調製〕
モノマー(A−1)としてシクロヘキシルメタクリレート69質量部と、モノマー(A−2)として2−エチルヘキシルアクリレート25質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3質量部、及びメタクリル酸3質量部とを混合して、(A)成分を調製するための単量体成分(4)を調製した。
【0081】
〔接着剤の製造〕
攪拌機、温度調節器、及び還流式冷却器を備えたオートクレーブ内に、水467質量部、(B)成分としてポリビニルアルコール樹脂(商品名「ゴーセノールGL−03」、日本合成化学社製)の10%水溶液を300質量部((B)成分として30質量部)、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3質量部とを仕込み、75℃に昇温した。
【0082】
このオートクレーブ内に、上記の単量体成分(4)100質量部を3時間かけて連続的に供給しながら、75℃で単量体成分の重合を行い、更に、80℃で3時間攪拌して重合反応を完結させることにより、(A)成分と(B)成分とがグラフト重合したグラフト共重合体を含む水系エマルジョンを得た。この水系エマルジョンの固形分濃度は15.0%、ポリマー粒子の平均粒子径は80nmであった。
【0083】
このようにして得られた水系エマルジョンを、アンモニアによりpH7.5に調整して、接着剤を製造した。
【0084】
〔フィルム積層体の作製〕
得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0085】
(実施例5)
〔接着剤の製造、及びフィルム積層体の作製〕
(B)成分としてポリビニルアルコール樹脂(商品名「ポバールM205」、クラレ社製)の10%水溶液を300質量部用いたこと以外は、実施例4と同様の方法によって接着剤を製造した。更に、得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0086】
(実施例6)
〔(A)成分((A)成分を含む水系エマルジョン)の調製〕
実施例1と同様の方法によって、(A)成分を含む水系エマルジョンを得た。この水系エマルジョンの固形分濃度は15.1%、(A)成分のポリマー粒子の平均粒子径は65nmであった。(A)成分の配合処方を表1に示す。
【0087】
〔接着剤の製造〕
このようにして得られた(A)成分を含む水系エマルジョンを、アンモニアによりpH7.5に調整した後、(B)成分としてポリビニルアルコール樹脂(商品名「ポバールKL318」、クラレ社製)の15%水溶液を200質量部、及び(C)水溶性エポキシ化合物(商品名「デナコールEX−421」、ナガセケムテックス社製)3質量部を添加して、接着剤を製造した。
【0088】
〔フィルム積層体の作製〕
得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0089】
(比較例1)
〔単量体成分(5)の調製〕
比較例用のモノマーとしてメチルメタクリレート60質量部、モノマー(A−2)として2−エチルヘキシルアクリレート34質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3質量部、及びメタクリル酸3質量部とを混合して、単量体成分(5)を調製した。なお、比較例1においては、脂環構造を有するモノマー(A−1)を用いていない。
【0090】
〔水系エマルジョンの調製〕
上記単量体成分(5)を用いること以外は、実施例1と同様の方法によって、この単量体成分(5)の重合を行って、上記単量体成分(5)の共重合体を含む水系エマルジョンを得た。この水系エマルジョンの固形分濃度は15.2%、ポリマー粒子の平均粒子径は62nmであった。配合処方を表1に示す。
【0091】
〔接着剤の製造、及びフィルム積層体の作製〕
上記方法にて得られた水系エマルジョンを用いること以外は、実施例1と同様の方法によって接着剤を製造した。更に、得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。測定結果を表1に示す。
【0092】
(比較例2)
〔(A)成分((A)成分を含む水系エマルジョン)の調製〕
実施例1と同様の方法によって、(A)成分を含む水系エマルジョンを得た。この水系エマルジョンの固形分濃度は15.1%、(A)成分のポリマー粒子の平均粒子径は65nmであった。(A)成分の配合処方を表1に示す。
【0093】
〔接着剤の製造、及びフィルム積層体の作製〕
(B)成分としてのポリビニルアルコール樹脂を用いることなく、上記水系エマルジョンをアンモニアによりpH7.5に調整して、接着剤を製造した。更に、得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。
【0094】
(比較例3)
〔接着剤の製造〕
ポリビニルアルコール樹脂(商品名「ゴーセノールGL−03」、日本合成化学社製の)を水に溶解させ、15%水溶液としたものを比較例3の接着剤とした。
【0095】
〔フィルム積層体の作製〕
得られた接着剤を用いて、実施例1と同様の方法によってフィルム積層体を作製し、接着剤の接着力を測定した。
【0096】
(結果)
表1に示すように、実施例1〜6の接着剤は、全て接着力が3N/25mm以上となり、高い接着力を有するものであった。特に、(C)水溶性エポキシ化合物を更に含有させた実施例6は、極めて高い接着力を有するものであった。また、グラフト重合したグラフト共重合体を含む水系エマルジョンを用いた実施例4及び5は、(A)成分と(B)成分を混合した実施例1〜3と比較して、より高い接着力を有するものであった。
【0097】
一方、比較例1の接着剤は、脂環構造を有するモノマー(A−1)が用いられていないため、ノルボルネン系樹脂フィルム(非極性材料)に対する接着力が得られず、接着力が極めて低いものであった。また、比較例3の接着剤は、単なるポリビニルアルコール樹脂を水溶液にした接着剤((A)成分を含有していないもの)であるため、比較例1の接着剤と同様に、ノルボルネン系樹脂フィルム(非極性材料)に対する接着力が得られず、接着力が極めて低いものであった。
【0098】
また、比較例2の接着剤は、(B)成分としてのポリビニルアルコール樹脂が用いられていないため、ポリビニルアルコール樹脂フィルム(極性材料)に対する接着力が得られず、接着力が極めて低いものであった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の樹脂組成物は、接着剤の接着成分となる樹脂組成物として利用することができる。また、本発明の接着剤は、極性材料と非極性材料のような互いに異なる極性を有する被着体同士を接着するための接着剤として好適に利用することができる。
【0100】
例えば、液晶材料として用いられる偏光板やTACフィルムのような極性材料(例えば、ポリビニルアルコール樹脂やトリアセチルセルロース)からなる被着体と、位相差フィルムのような非極性材料(例えば、ノルボルネン系樹脂)からなる被着体との接着に特に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂環構造を有する(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)及び前記モノマー(A−1)と共重合可能なモノマー(A−2)を含む単量体成分を重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル共重合体と、
(B)ポリビニルアルコール樹脂とを含有し、
前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体は、前記モノマー(A−1)0.1〜99質量部と、前記モノマー(A−2)1〜99.9質量部(但し、モノマー(A−1)+モノマー(A−2)=100質量部)とを含む前記単量体成分を重合して得られたものであるとともに、
前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体100質量部に対して、前記(B)ポリビニルアルコール樹脂を0.1〜100質量部含有する樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体と前記(B)ポリビニルアルコール樹脂とを含有する混合物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)(メタ)アクリル酸エステル共重合体と前記(B)ポリビニルアルコール樹脂とがグラフト重合したグラフト共重合体である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
(C)水溶性エポキシ化合物を更に含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)ポリビニルアルコール樹脂のケン化度が、50〜100モル%である請求項1〜4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含有する接着剤。

【公開番号】特開2009−155523(P2009−155523A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336606(P2007−336606)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】