説明

樹脂結合型磁石の製造方法および樹脂結合型磁石

【課題】 実用的な低い配向磁場強度でも良好な異方性が付与でき、高い残留磁束密度と高い最大エネルギー積を有しつつ、機械強度も優れた、小型形状にも対応できる圧縮成形による樹脂結合型磁石とその製造方法の提供を課題とする。
【解決手段】 土類元素を含む磁性粉末(A)と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B)を主成分とする樹脂バインダーを含む、圧縮成形用の樹脂結合型磁石用組成物を用い、熱硬化性樹脂(B)を反応性架橋性モノマー(C)で希釈し磁性粉末(A)と混合しスラリー状態にし、このスラリー状態にされた樹脂結合型磁石用組成物を湿式磁場中圧縮成形法で成形を行う製造方法において、金型内にあらかじめ反応性架橋性モノマーを充填し、磁場を印加した後、前記スラリー状態にされた樹脂結合型磁石用組成物を注入することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂結合型磁石の製造法に関し、より詳しくは、実用的な低い配向磁場強度でも良好な異方性が付与でき、高い残留磁束密度と高い最大エネルギー積を有しつつ、機械強度も優れた、小型形状にも対応した圧縮成形用の樹脂結合型磁石の製造方法と該方法により得られる樹脂結合型磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、小型ハードディスクが伸張し、DVDが拡大することに伴って、小型モータにはダウンサイジング、高性能化への要求が非常に強くなっている。この小型モータの高性能化を支える要素として希土類ボンド磁石が使用されているため、かかるボンド磁石(樹脂結合型磁石)にも性能向上が望まれている。前記小型モータ用途の磁石は、リング形状のものが主で、必要に応じて複数極の磁極を有するように着磁され使用されている。
【0003】
これまで前記リング形状の磁石においては、成形が容易でかつ着磁に自由度があるため、Nd系の磁気的等方性の性能を有する磁性粉を使った希土類ボンド磁石が総合的に使い勝手に優れるとされ多用されている。しかしながら、磁気異方性が付加されていないため前記磁石応用製品の小型化、高性能化の要求に対応できない場合が多くなってきた。
【0004】
より性能の高い磁気異方性ボンド磁石を得るためには磁気異方性を有する磁性粉末を使用し、成形時に大きな磁界をかけ磁性粉を配向させる必要がある。磁気異方性の磁石粉末を十分に配向させるには、例えば2400〜4000kA/mという非常に強い印加磁場強度(配向磁場強度)を必要とする。前記のとおり、実際に使用される磁石は、リング形状のほか複雑な形状が多く、リング形状でも外形10mm以下の小型のものが増えており、このような環境の中で大きな配向磁界を確保することは工業生産上困難を伴う。したがって、特にコンパウンド中の磁性粉をラジアル方向に配列させるための十分な印加磁場強度が得られないという問題がある。この印加磁場での強度不足の問題は、極異方性のリング形状、あるいはラジアル配向または極異方性磁石のみの問題ではない。
【0005】
この点を改善し配向時の磁界を低減させるために、加熱した金型内に主に磁気異方性を有する希土類磁石粉末および熱硬化性樹脂からなる混合物を充填し、樹脂が軟化液状化した時に最大磁場を印加する成形方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法では、金型に特殊な加熱装置を設けなければならず、樹脂を軟化液状化するため、成形タクトが長くなってしまうといった問題が生じている。
【0006】
さらに、異方性を有するNd系の磁性粉では、その磁気特性を確保するために粒径を100μm程度としなければならず、1mmをきるような肉厚が薄い小型形状の磁石では成形上、表面精度等を含めかなり不利になってしまうといった問題点も指摘されている。
【0007】
このような事情もあって、最近では、希土類ボンド磁石用の磁性粉として、希土類・鉄・窒素系磁性粉が使用されるようになった。これにより、平均粒径が数μm程度の磁性粉を熱可塑性樹脂で結着した成形原料(コンパウンド)を用いて、例えば180〜250℃で磁場中射出成形を行うことにより、比較的良好に配向された異方性ボンド磁石を得ることができる。しかし、磁場中射出成形法による場合は、コンパウンドの流動性を確保するために、約20〜50体積%と圧縮成形法に比べて多くの樹脂が添加されるので、希土類・鉄・窒素系磁性粉の充填率が低くなり、より高性能の異方性ボンド磁石を得ることが困難である。また、磁性粉充填率の高い従来の磁場中圧縮成形法により異方性ボンド磁石を作製する場合は、前記Nd系磁性粉と同様に、240〜800kA/m程度の実用的な配向磁場強度では良好な配向ができず、高い磁気特性の希土類ボンド磁石が得られないという問題がある。
【0008】
この点を考慮して、液状熱硬化性樹脂とこの液状熱硬化性樹脂の硬化開始温度よりも低い沸点を有する有機溶媒とからなる混合液中に希土類・鉄・窒素系磁石材料粉末を投入してスラリー化し、このスラリーを用いて前記有機溶媒の沸点未満の温度(例えば室温)にて圧縮成形法により湿式磁場中成形し、得られた成形体を前記有機溶媒の沸点以上で、かつ前記液状熱硬化性樹脂の硬化開始温度未満の温度に保持して脱溶媒後、加熱硬化し、必要に応じてコイニングあるいはサイジングを行い、成形体密度を高める磁気異方性ボンド磁石の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、この場合、沸点が低い溶媒を利用し、この溶媒を揮発させて系外に除去していることから、成形時、磁性粉どうしの間にあるべき樹脂が、希薄になるか、もしくは存在しなくなる個所が現れ、磁性粉どうしの結合力が低下するという現象が発生する。このため、成形時にワレ、カケなどの発生が多くなり、かつ成形体そのものの機械的強度が低下してしまうといった問題が生じる。
【0010】
従って、成形時に生じるワレ、カケなどを低減し、かつ成形体そのものの機械強さを低下させずに圧縮成形できる希土類・鉄・窒素系磁石粉末と熱硬化性樹脂を主成分とする樹脂結合型磁石とその製造方法の提供が切望されていた。
【特許文献1】特開平9−199363公報
【特許文献2】特開2000−173810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、実用的な低い配向磁場強度でも良好な異方性が付与でき、高い残留磁束密度と高い最大エネルギー積を有しつつ、機械強度も優れた、小型形状にも対応できる圧縮成形による樹脂結合型磁石とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の第1の発明によれば希土類元素を含む磁性粉末(A)と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B)を主成分とする樹脂バインダーを含む、圧縮成形用の樹脂結合型磁石用組成物を用い、熱硬化性樹脂(B)を反応性架橋性モノマー(C)で希釈し磁性粉末(A)と混合しスラリー状態にし、このスラリー状態にされた樹脂結合型磁石用組成物を湿式磁場中圧縮成形法で成形を行う製造方法において、金型内にあらかじめ反応性架橋性モノマーを充填し、磁場を印加した後、前記スラリー状態にされた樹脂結合型磁石用組成物を注入することを特徴とする樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第2の発明によれば第1の発明の熱硬化性樹脂(B)おいて、室温で測定される粘度を5〜5000mPa・sとするに十分な量の反応性架橋性モノマー(C)で希釈することによって粘度調整を行い、かつ磁性粉末(A)と混合しスラリー状態なっていることを特徴とする樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第3の発明によれば、磁性粉末(A)が、Sm−Fe−N系の異方性磁性粉末であることを特徴とする第1の発明に記載の樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第4の発明によれば磁性粉末(A)の平均粒径が、2μm〜4μmであることを特徴とする第1の発明に記載の樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば磁性粉末(A)の表面が、少なくとも燐酸塩皮膜で被覆されていることを特徴とする第1の発明に記載の樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば熱硬化性樹脂(B)が、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂のいずれかであることを特徴とする第1の発明に記載の樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば反応性架橋性モノマー(C)が、スチレン系化合物であることを特徴とする第1の発明に記載の樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第8によれば前記樹脂バインダーが、さらにN−オキシル類化合物を含有することを特徴とする第1〜8の発明のいずれかに記載の樹脂結合型磁石の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第9の発明によれば第1〜8の発明のいずれかに記載の樹脂結合型磁石用組成物にあってそのスラリーの粘度が50000mPa・s以下であることを特徴とする第1〜8の発明に記載の樹脂結合型磁石用組成物の製造方法が提供される。
【0020】
また、本発明の第10の発明によれば硬化剤が、半減期10時間を得るための分解温度が150°C以下の性質を有する有機過酸化物であることを特徴とする第1〜9発明に記載の樹脂結合型磁石用組成物の製造方法が提供される。
【0021】
また、本発明の第11の発明によれば、第1〜10の発明に記載の樹脂結合型磁石用組成物の製造方法により製造されることを特徴とする樹脂結合型磁石が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱硬化性樹脂を反応性架橋性モノマーで希釈し磁性粉末と混合して得た樹脂結合型磁石用組成物スラリーを、あらかじめ前記反応性架橋性モノマーを充填した金型中に磁場中注入することで、磁粉が事前に充填されていた反応性架橋性モノマーの中を浮遊しつつ反応性架橋性モノマーを押し出しながら、金型内で磁場に沿って配置されていくため、磁性粉の配向度が極めて向上する。
また、反応性架橋性モノマーを用いて熱硬化性樹脂の粘度調整を行っているので、スラリー中で磁石粉末が分散し、しかも樹脂成分の自由度を大きくすることができる。そのため低いプレス圧で成形でき、成形後、反応性架橋性モノマーをはじめ成形物中に含まれる液状成分がすべて硬化に寄与することになり、得られる樹脂結合型磁石の機械強度が向上する。
また、従来揮発性溶剤を用いた場合に必要とされていた揮発乾燥工程を省略できるだけでなく、硬化物中に空隙がほとんどできないため、再度の追圧縮が不要となる。
従って、高密度化、高磁気特性化が容易となり、得られた本発明の樹脂結合型磁石は、HDDなど小型アクチュエータや小型モータを大量に使用する情報機器、OA機器など精密電気機械分野において幅広く適用する事が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
1.樹脂結合型磁石用組成物
本発明で使用する樹脂結合型磁石用組成物は、希土類元素を含む磁性粉末(A)と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B)を主成分とする樹脂バインダーを含む、圧縮成形用の樹脂結合型磁石用組成物であって、熱硬化性樹脂(B)は、成形温度において測定される粘度を5〜5000mPa・sとするに十分な量の反応性架橋性モノマー(C)で希釈することによって粘度調整を行い、かつ磁性粉末(A)と混合すると、組成物は、スラリー状態を示すことを特徴とする。
【0025】
(A)磁性粉末
本発明において、磁性粉末は、希土類元素を含む磁性粉末でなければならない。希土類元素としては、Sm、Nd、Pr、Y、La、Ce、またはGd等が挙げられ、単独若しくは混合物として使用できる。これらの中では、特にSm又はNdを5〜40原子%、Feを50〜90原子%含有するものが好ましい。希土類元素を含む鉄系磁石合金粉(粗粉)は、溶解法あるいは還元拡散法等を用いて製造される。磁性粉として好ましい還元拡散法によって得られるSmFe系合金粗粉は、窒化処理し、微粉砕して得ることができる。
【0026】
異方性磁性粉末は、特に制限されるわけではないが、例えばSm−Fe−N系、Sm−Co系、Nd−Fe−B系の異方性磁性粉末が挙げられる。このうち、Sm−Fe−N系磁性粉末が好ましい。特に、Sm量が磁石粉末全体に対して23.2〜23.6重量%のものが一層好ましい。
異方性磁性粉末の平均粒径は、成形後の希土類ボンド磁石の機械的強度と加工性の向上、および加工後の磁石の表面磁束の均一性に影響するため、2μm〜4μmであることが望ましい。平均粒径が2μm未満であると、希土類ボンド磁石の残留磁化とともに、最大エネルギー積も低下し、小型磁石に加工後、所定の最大エネルギー積を得ることができない。また、平均粒径が4μmを越えると、希土類ボンド磁石の保磁力とともに、最大エネルギー積も低下し、小型磁石に加工後、所定の最大エネルギー積を得ることができない。
【0027】
本発明において、磁石合金粉は、その表面が耐候性の皮膜で被覆されていることが望ましい。磁石合金粉の表面が、鉄と希土類元素の金属リン酸塩、及びアルミニウム、亜鉛、マンガン、銅又はカルシウムのいずれか1種以上を金属成分として含む金属リン酸塩が複合化した被膜で均一に被覆されていることが望ましい。ここで、均一に被覆されるとは、磁石合金粉表面の80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上が複合金属リン酸塩被膜で覆われていることをいう。
本発明においては、上記複合金属リン酸被膜の表面上に、シリケート被膜を形成することができる。このシリケート被膜は、その材料によって限定されるものではなく、シリカ粉を機械的に付着する方法、アルコキシシリケートを加水分解して被覆する方法、エチルシリケートを原料とするゾルゲル反応、又はプラズマ化学蒸着法で被覆する方法などによって得ることができるが、アルコキシシリケートを加水分解して被覆する方法が好適である。
アルコキシシリケートとは、アルコキシ基を有するシリケート化合物であり、具体的には、炭素数1〜6のアルキル基を有するアルコキシシランが部分加水分解縮合反応により、2〜100個結合したポリアルコキシポリシロキサンである。このようなアルコキシシリケートとしては、MKシリケートMS51(商品名、シリカ換算濃度が52重量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)、MKシリケートMS56S(商品名、シリカ換算濃度が57重量%であるメチルシリケートオリゴマー、三菱化学(株)製)、ES40(商品名、ヒュルスジャパン社製)のようなエチルシリケートの部分加水分解縮合物などを挙げることができる。
【0028】
本発明においては、上記磁石粉の燐酸塩被膜に、更にカップリング剤処理被膜を形成したものが好適である。ここで、カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤のいずれかが挙げられる。この中でも、シラン系カップリング剤が好ましい。
上記の磁性粉末に対するカップリング剤の添加量は、その成分の種類や濃度により異なるが、基本的には0.01重量%〜10重量%でよく、好ましくは0.05重量%以上7重量%であるが、本発明の効果をより顕著に得るためには、0.1重量%以上5重量%以下がより好ましい。添加量が0.01重量%未満の場合は、本発明の効果が十分に得られず、また10重量%を超えると密度の低下に伴う磁気特性の低下、機械強度の低下等のため、実用に耐えうる樹脂結合型磁石を得ることができない。
【0029】
上記少なくともいずれかの被膜形成後には、処理溶液と該磁石合金粉は、100〜500℃の真空オーブン中で1〜30時間乾燥させることが好ましい。この時、加熱処理を不活性ガス中または真空中で行うことが好ましい。100℃未満で加熱処理を施すと、該磁石合金粉の乾燥が十分進まずに、安定な表面被膜の形成が阻害される。また、500℃を超える温度で加熱処理を施すと、磁石合金粉が熱的なダメージを受け、保磁力がかなり低くなるという問題がある。この被膜の膜厚は、平均で1〜100nmの厚さが好ましい。平均厚さが1nm未満であると十分な耐塩水性、機械強度が得られず、一方、100nmを越えると磁気特性が低下し、またボンド磁石を作製する際には混練性や成形性が低下してしまう。
【0030】
また上記の磁性粉末は、事前にオレイン酸等の潤滑材を付着させていることがのぞましい。磁性粉末表面に潤滑材が付着することで、磁性粉同士のすべりがよくなり、配向性能を向上させることが出来る。磁性粉末に対して0.2〜0.8重量部のオレイン酸を添加することが望ましく、さらに剪断が加わる乾式粒子複合化装置等で磁粉の解凝を行いながら潤滑材を付着させることが望ましい。
【0031】
(B)熱硬化性樹脂
本発明において、樹脂バインダーは、熱硬化性樹脂である。ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂であれば、特に限定されるものではないが、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、その中でも不飽和ポリエステル樹脂またはビニルエステル樹脂であることが最も好ましい。これらは、低粘度の液状樹脂であることが最も好ましい。
【0032】
不飽和ポリエステル樹脂は、成形後の加熱硬化で磁性粉のバインダーとして働くものであれば、特にその種類に限定されることはなく、一般的に市販されている不飽和ポリエステル樹脂を用いることができる。
この不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、不飽和多塩基酸及び/又は飽和多塩基酸とグリコール類を分子量5000程度以下に予備的に重合させてオリゴマーやプレポリマー化させた主剤に、反応を開始させる硬化剤、長期の保存性を確保するための重合防止剤、及びその他の添加剤等から構成される。これにスチレン等の架橋剤を兼ねるモノマー類を加え粘度の調整を行うことが望ましい。
不飽和多塩基酸としては、例えば無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を、また、飽和酸としては、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘット酸、テトラブロム無水フタル酸等が挙げられる。
また、グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物、ジブロムネオペンチルグリコール、ペンタエリスリットジアリルエーテル、アリルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0033】
次に、ビニルエステル樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸とをエステル化触媒を用いて反応させることによって得ることができる。
上記ビニルエステル樹脂の原料として用いられるエポキシ化合物としては、分子中に、少なくとも1個のエポキシ基を有する化合物であれば、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールS等のビスフェノール類と、エピハロヒドリンとの縮合反応により得られるエピビスタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;フェノール、クレゾール、ビスフェノールとホルマリンとの縮合物であるノボラックとエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるノボラックタイプグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、安息香酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;水添加ビスフェノールやグリコール類とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;ヒダントインやシアヌール酸とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られる含アミングリシジルエーテル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
また、これらエポキシ樹脂と多塩基酸類および/またはビスフェノール類との付加反応により分子中にエポキシ基を有する化合物であってもよい。これらエポキシ化合物は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
さらに、上記ビニルエステル樹脂の原料として用いられる不飽和一塩基酸としては、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。また、マレイン酸、イタコン酸等のハーフエステル等を用いてもよい。さらに、これらの化合物と、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等の多価カルボン酸や、酢酸、プロピオン酸、ラウリル酸、パルチミン酸等の飽和一価カルボン酸や、フタル酸等の飽和多価カルボン酸またはその無水物や、末端基がカルボキシル基である飽和あるいは不飽和アルキッド等の化合物とを併用してもよい。これら不飽和一塩基酸は、一種類のみを用いてもよく、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0034】
上記エステル化触媒としては、具体的には、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミン等の第三級アミン類;トリメチルベンジルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;塩化リチウム、塩化クロム等の無機塩;2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;テトラメチルホスフォニウムクロライド、ジエチルフェニルプロピルホスフォニウムクロライド、トリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ベンジルトリエチルフェニルホスフォニウムクロライド、ジベンジルエチルメチルホスフォニウムクロライド、ベンジルメチルジフェニルホスフォニウムクロライド、テトラフェニルホスフォニウムブロマイド等のホスフォニウム塩;第二級アミン類;テトラブチル尿素;トリフェニルホスフィン;トリトリールホスフィン;トリフェニルスチビン等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらエステル化触媒は、一種類のみを用いてもよいし、適宜二種類以上を混合して用いてもよい。
【0035】
また、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物あるいは多価アルコール類とを反応させた後、さらに水酸基含有(メタ)アクリル化合物および必要に応じて水酸基含有アリルエーテル化合物を反応させることによって得ることができる。また、水酸基含有(メタ)アクリル化合物とポリヒドロキシ化合物あるいは多価アルコール類とを反応させた後、さらにポリイソシアネートを反応させてもよい。
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられるポリイソシアネートとしては、具体的には、例えば、2,4−トリレンジイソシアネートおよびその異性体、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、バーノックD 750、クリスポンNX(商品名;大日本インキ化学工業株式会社製)、デスモジュールL(商品名;住友バイエル社製)、コロネートL(商品名;日本ポリウレタン社製)、タケネートD102(商品名;武田薬品社製)、イソネート143L(商品名;三菱化成社製)等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらポリイソシアネートは、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
また、上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる多価アルコール類としては、具体的には、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ビスフェノールAとプロピレンオキシドまたはエチレンオキシドとの付加物、1,2,3,4−テトラヒドロキシブタン、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3−プロパンジオール、1,2−シクロヘキサングリコール、1,3−シクロヘキサングリコール、1,4−シクロヘキサングリコール、パラキシレングリコール、ビシクロヘキシル−4,4’−ジオール、2,6−デカリングリコール、2,7−デカリングリコール等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら多価アルコール類は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
さらに、上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられるポリヒドロキシ化合物としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられ、具体的には、例えば、グリセリンエチレンオキシド付加物、グリセリンプロピレンオキシド付加物、グリセリンテトラヒドロフラン付加物、グリセリンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパンテトラヒドロフラン付加物、トリメチロールプロパンエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシドプロピレンオキシド付加物等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらポリヒドロキシ化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる水酸基含有(メタ)アクリル化合物としては、特に限定されるものではないが、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、具体的には、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら水酸基含有(メタ)アクリル化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として必要に応じて用いられる水酸基含有アリルエーテル化合物としては、具体的には、例えば、エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、トリエチレングリコールモノアリルエーテル、ポリエチレングリコールモノアリルエーテル、プロピレングリコールモノアリルエーテル、ジプロピレングリコールモノアリルエーテル、トリプロピレングリコールモノアリルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアリルエーテル、1,2−ブチレングリコールモノアリルエーテル、1,3−ブチレングリコールモノアリルエーテル、ヘキシレングリコールモノアリルエーテル、オクチレングリコールモノアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら水酸基含有アリルエーテル化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0036】
また、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂は、特に限定されるものではなく、例えば、不飽和あるいは飽和ポリエステルの末端に(メタ)アクリル化合物を反応させることによって得ることができる。ポリエステルの原料としては、例えば上記不飽和ポリエステル樹脂の原料として例示した化合物と同様の化合物を用いることができる。ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる(メタ)アクリル化合物としては、具体的には、例えば、不飽和グリシジル化合物、(メタ)アクリル酸等の不飽和一塩基酸およびそのグリシジルエステル類等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これら(メタ)アクリル化合物は、一種類のみを用いてもよいし、適宜、二種類以上を混合して用いてもよい。
【0037】
(C)反応性架橋性モノマー
さらに、架橋剤を兼ねる反応性架橋性モノマーとしては、例えば、(I)スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンなどのスチレン系化合物、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル等のビニルモノマー類、(II)ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルイソフタレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルテトラブロムフタレート等のアリルモノマー類、(III)フェノキシエチルアクリレート、1,6ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類等が挙げられる。このうち好ましいのはビニルモノマー類であり、特にスチレン系化合物が好ましい。
【0038】
この反応性架橋性モノマーで上記特定の熱硬化性樹脂を粘度調整する。用いる反応性架橋性モノマーの量は、後で詳述するが、熱硬化性樹脂が成形温度において5〜5000mPa・sの粘度を有するのに十分な量とする。粘度は、JIS K7117(液状樹脂の回転粘度計による粘度試験方法)に準じて測定されるが、測定温度は、成形温度(成形時のシリンダー温度)にあわせた恒温漕内で測定される。
【0039】
これにより、室温でも簡単な撹拌装置を用いてスラリー化できるので混練設備コストを低減できる。そのため、磁性粉に機械的、熱的なダメージを与えず、磁性粉の磁気特性を損なうことなく成形体を得ることが可能となる。また磁石粉末同士が直接接触し拘束しあうことによる磁場配向劣化が低減される。また、磁石粉末が低粘度の液状樹脂の中にスラリー状態で自由に浮遊している状態にあるために、低い配向磁場強度で成形しても個々の磁石粉末粒子を良好に配向させることができる。
さらに、反応性架橋性モノマーは、ポリマー成分と反応して硬化するので、得られる成形物の機械強さが大きくなるという効果がある。
【0040】
2.樹脂結合型磁石用組成物の製造方法
本発明の樹脂結合型磁石用組成物は、(1)ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂に十分な量の反応性架橋性モノマーを混合攪拌して、特定の粘度範囲となるように調整した後、(2)この混合物に少なくとも硬化剤を配合し、引き続き、得られた樹脂バインダーに所定量の磁性粉末を混合攪拌して略均一なスラリー状態にして得る。
【0041】
(1)熱硬化性樹脂の粘度調整
本発明においては、まず熱硬化性樹脂に十分な量の反応性架橋性モノマーを混合攪拌して、特定の粘度範囲となるように調整する。
【0042】
使用する磁性粉は、希土類元素を含む磁性粉末であれば特に制限されないが、還元拡散法によって得られるSmFe系合金粗粉を窒化処理後、微粉砕して得られる磁石合金微粉末が好ましい。
本発明ではスラリー化に供する磁石粉末に、予め、燐酸系化合物、シラン系またはチタン系カップリング剤等の表面改質剤で皮膜を形成しておくことが結着強度および磁気特性を向上するために好ましい。例えば磁性粉へのシラン系カップリング剤による表面処理は、湿式処理法や乾式処理法によって単独で被覆処理を行っても、また熱硬化性樹脂バインダーと磁性粉末との混合時に併せて添加、処理を行っても良いが、磁性粉末に表面処理を行った後に100℃前後の加熱処理を併せて行うと、より安定した被覆磁性粉末が得られる。
この工程では、熱硬化性樹脂に十分な量の反応性架橋性モノマーを配合し、−20℃〜150℃のいずれかの成形温度で、粘度が5〜5000mPa・s、好ましくは10〜800mPa・sになるよう混合攪拌する。粘度が5mPa・s未満であると成形時に磁石粉末と樹脂バインダーが分離することがあり、また、5000mPa・sを超えると均一なスラリーを形成しにくくなるので好ましくない。
【0043】
(2)硬化剤、磁性粉末などの混合
次に、粘度調整された熱硬化性樹脂に硬化剤などを配合し、混合攪拌した後、得られた樹脂バインダーに磁性粉末を混合する。
【0044】
熱硬化性樹脂に配合される硬化剤としては、一般的に有機過酸化物が用いられ、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルセトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類、3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン等のパーオキシケタール類、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジ−イソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−クミルパーオキサイド、α、α'−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類、アセチルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、オクタノニルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、サクシニック酸パーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペロキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルペロキシジカーボネート、ジ−n−プロピルペロキシジカーボネート、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペロキシジカーボネート、ジ−ミリスチルペロキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルペロキシジカーボネート、ジ−メトキシイソプロピルペロキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)ペロキシジカーボネート、ジアリルペロキシジカーボネート等のパーオキシジカーボネート類、t−ブチルペロキシアセテート、t−ブチルペロキシイソブチレート、t−ブチルペロキシピバレート、t−ブチルペロキシネオデカノエート、クミルペロキシネオデカノエート、t−ブチルペロキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペロキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルペロキシラウレート、t−ブチルペロキシベンゾエート、ジ−t−ブチルペロキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2、5−ジ(ベンゾイルペロキシ)ヘキサン、t−ブチルペロキシマレイックアシッド、t−ブチルペロキシイソプロピルカーボネート、クミルペロキシオクトエート、t−ヘキシルペロキシネオデカノエート、t−ヘキシルペロキシピバレート、t−ブチルペロキシネオヘキサノエート、t−ヘキシルペロキシネオヘキサノエート、クミルペロキシネオヘキサノエート等のパーオキシエステル類やアセチルシクロヘキシルスルフォニルペロキサイド、t−ブチルペロキシアリルカーボネート等が挙げられる。
これらの有機過酸化物は、単独で用いることができる物もあるが、種類によっては炭化水素溶液類やフタル酸エステル類に希釈した状態、もしくは固形粉末に吸収させた状態で用いることがある。いずれにせよ、半減期10時間を得るための分解温度が150°C以下の性質を有する過酸化物を使用するのが望ましく、更には、同半減期を得るための温度が40°C以上120°C以下の過酸化物がより望ましい。
該半減期が150°Cを超える物を選択すると、充分な硬化成形体を得るための硬化温度が高くなり好ましくない。また、40°Cよりも低くなると過酸化物自体の取り扱い性が困難になるばかりでなく、希土類ボンド磁石用組成物の保管特性が悪くなり生産性に欠ける結果を招く。
これら過酸化物の添加量は、希釈率や活性酸素量によって異なるため規定はできないが、一般的にはラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂に対して0.01〜5wt%が添加される。
これらの過酸化物は、単独もしくは2種以上の混合系で用いることができるが、例えばナフテン酸コバルトやオクチル酸コバルト等のコバルト有機酸塩、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、ジメドン等のβ−ジケトン類、ジメチルアニリン等の芳香族3級アミン類、メルカプタン類、トリフェニルホスフィン、2−エチルヘキシルホスファイト等の燐化合物類、第4級アンモニウム塩類等の促進剤やアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、芳香族カルボニル化合物、ピナコン誘導体等との併用を行っても良い。
【0045】
ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂を含む樹脂バインダーは、これらの各種成分以外にも、長期の保存性を確保するためのN−オキシル化合物、重合防止剤、各反応性樹脂類や成形性改善剤など種々の有機添加剤を加えることができる。
N−オキシル化合物としては、樹脂結合型磁石用組成物の保管中の可使時間をより長くさせるために添加できる5員環のピロリジン系化合物、6員環のピペリジン系化合物などの含窒素環状化合物である。
本発明のような磁性粉末などを含む系では、レドックス反応のみならず、これに相まってラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂やスチレン等との複雑な反応も生起し、その促進効果も極めて高く、通常の遷移金属単体系の組成物よりも、可使時間が極めて短くなる。このような磁性粉末、ラジカル硬化剤、熱硬化性樹脂を含有する組成物に対して、N−オキシル類化合物を添加すると、かかる特殊な反応の抑制効果に極めて有効に機能し、可使時間を長くすることできる。
N−オキシル類化合物としては、6員環のピペリジン系化合物が好ましい。例えば、ジ−t−ブチルニトロキシル、1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−オール、1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−アセテート、1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−2−エチルヘキサノエート、1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−ステアレート、1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル−4−t−ブチルベンゾエート、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)コハク酸エステル、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジピン酸エステル、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)n−ブチルマロン酸エステル、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)フタレート、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)イソフタレート、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)テレフタレート、ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ヘキサヒドロテレフタレート、N,N'−ビス(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アジパミド、N−(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)カプロラクタム、N−(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)ドデシルサクシンイミド、2,4,6−トリス−N−ブチル−N−(1−オキシル −2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)−s−トリアジン、等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらN−オキシル 類は、一種類のみを用いてもよいし、適宜二種類以上を混合してもよい。
【0046】
重合防止剤としては、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、フェナンスラキノン、トルキノン、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン、2,5−ジアセトキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジカプロキシ−p−ベンゾキノン、2,5−ジアシロキシ−p−ベンゾキノン等のキノン類、ハイドロキノン、p−t−ブチルカテコール、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、モノ−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,5−ジ−t−アミルハイドロキノン等のハイドロキノン類、ジ−t−ブチル・パラクレゾールハイドロキノンモノメチルエーテル、アルファナフトール等のフェノール類、ナフテン酸銅等の有機ならびに無機の銅塩類、アセトアミジンアセテート、アセトアミジンサルフェート等のアミジン類、フェニルヒドラジン塩酸塩、ヒドラジン塩酸塩等のヒドラジン類、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、ラウリルピリジニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルベンジルアンモニウムオキザレート、ジ(トリメチルベンジルアンモニウム)オキザレート、トリメチルベンジルアンモニウムマレエート、トリメチルベンジルアンモニウムタータレート、トリメチルベンジルアンモニウムグリコレート等の第4級アンモニウム塩類、フェニル−β−ナフチルアミン、パラベンジルアミノフェノール、ジ−β−ナフチルパラフェニレンジアミン等のアミン類、ニトロベンゼン、トリニトロトルエン、ピクリン酸等のニトロ化合物、キノンジオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、ピロガロール、タンニン酸、レゾルシン等の多価フェノール類、トリエチルアミン塩酸塩、ジメチルアニリン塩酸塩、ジブチルアミン塩酸塩等のアミン塩酸塩類等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を混合して使用することができる。
【0047】
また、エポキシ樹脂を原料としたノボラック型やビスフェノール型のビニルエステル樹脂類、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ビス・マレイミドトリアジン樹脂、ポリアミドイミド樹脂等の各反応性樹脂類や、成形性の改善を目的とした、例えばパラフィンワックス、流動パラフィン、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、エステルワックス、カルナウバ、マイクロワックス等のワックス類、ステアリン酸、1,2−オキシステアリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、オレイン酸等の脂肪酸類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸アルミニウム、ラウリン酸カルシウム、リノール酸亜鉛、リシノール酸カルシウム、2−エチルヘキソイン酸亜鉛等の脂肪酸塩(金属石鹸類)ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド等脂肪酸アミド類、ステアリン酸ブチル等の脂肪酸エステル、エチレングリコール、ステアリルアルコール等のアルコール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、及びこれら変性物からなるポリエーテル類、ジメチルポリシロキサン、シリコングリース等のポリシロキサン類、弗素系オイル、弗素系グリース、含弗素樹脂粉末といった弗素化合物等を1種もしくは2種以上添加することができる。
【0048】
これらの有機添加物以外にも、必要に応じ、無機充填材や顔料等も任意に添加してもよい。これらは、例えば、窒化珪素、炭化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、二酸化珪素、二硫化モリブデン等の無機化合物粉体、ストロンチウムフェライト系、バリウムフェライト系等のフェライト類磁性粉、鉄等の軟磁性粉、タングステン等の密度調整用高比重金属粉、三酸化アンチモン等の難燃剤、酸化チタン等の顔料等が挙げられる。
【0049】
(3)組成物スラリーの形成
その後、得られた樹脂バインダーに磁性粉末を混合してスラリーを形成する。この工程は、得られた樹脂バインダーと磁性粉末を混合攪拌して樹脂結合型磁石用組成物を得る工程である。
【0050】
使用する磁性粉は、希土類元素を含む磁性粉末であれば特に制限されないが、還元拡散法によって得られるSmFe系合金粗粉を窒化処理後、微粉砕して得られる磁石合金微粉末が好ましい。本発明ではスラリー化に供する磁石粉末に、予め、燐酸系化合物、シラン系またはチタン系カップリング剤等の表面改質剤で皮膜を形成しておくことが結着強度および磁気特性を向上するために好ましい。例えば磁性粉へのシラン系カップリング剤による表面処理は、湿式処理法や乾式処理法によって単独で被覆処理を行っても、また熱硬化性樹脂バインダーと磁性粉末との混合時に併せて添加、処理を行っても良いが、磁性粉末に表面処理を行った後に100℃前後の加熱処理を併せて行うと、より安定した被覆磁性粉末が得られる。
【0051】
樹脂バインダーに磁性粉末を配合してから充分に混合することによって、樹脂結合型磁石用組成物中の樹脂に磁性粉が均一に分散したスラリーが形成される。磁性粉末を加えた後の組成物スラリーの粘度は、50000mPa・s以下、特に5000mPa・s以下となるようにすることが好ましい。50000mPa・sを超えると混合混練時の著しい混練トルクの上昇に伴う発熱によって硬化反応を招き、著しい流動性の低下が生じて成形困難になる。粘度が、5000〜50000mPa・sであれば成形時に充分な配向性を得ることができるが、粘度が高くなるにしたがって配向性はわずかずつ低下してくる。
本発明において、各成分の混合方法は、特に限定されず、例えばリボンブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等の混合機あるいは、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して実施される。
【0052】
3.樹脂結合型磁石の圧縮成形
(1)圧縮成形
本発明では、圧縮成型法を用いるが、まず図1、2に示すように金型内の空間に、前記反応性架橋性モノマー(図1ではスチレン)をあらかじめ注入し、金型を閉じ、金型に磁場を印加した後、金型内に前記組成物スラリーを充填する。この際に磁粉が事前に充填されていた反応性架橋性モノマーの中を浮遊しつつ反応性架橋性モノマーを押し出しながら、金型内で磁場に沿って配置されていくため、磁性粉の配向度が極めて向上する。
その後、余剰な液状成分を搾り出しながら金型を圧縮する。その後、印加していた磁界を解除し、金型を開放して成形体を取り出す。その後得られた成形体を加熱してバインダーである熱硬化性樹脂を硬化させて樹脂結合型磁石をえる。
この方法は、磁粉の配向が極めて向上し、かつ成形品の中の樹脂バインダー量を少なくでき、成形体中の磁石粉の比率を大きくすることが可能であり、磁気特性を容易に向上できる。
【0053】
(2)圧縮成型装置
本発明において圧縮成形装置は、特殊な構造を有する必要はなく、組成物の注入供給部と、成形部と、配向磁場印加部と、成形体取り出し部を有するものであればよい。
【0054】
注入供給部は、金型内に成形材料である組成物を充填する部分である。この供給部には、好ましくは下パンチの加圧前定常位置の直上位置に設定されることが望ましい。上記により樹脂結合型磁石用組成物中の樹脂に磁性粉がに分散して形成されたスラリーは、混合機から抜き出されて、磁性粉と樹脂とがスラリー状態を維持したままで金型に圧入供給される。ここで、反応性架橋性モノマーの含有量が多い場合、混合機から抜き出す際に、スラリーを攪拌しないと、磁性粉と樹脂の比重の違いから、金型への供給経路において磁粉が沈殿することになる。このような状態になると、圧入が不安定となるため、再攪拌して供給することが望ましい。また、反応性架橋性モノマーの含有量が多すぎる場合には、うわずみの樹脂を除去することができる。
【0055】
成形部は、金型に供給された組成物をパンチにより圧縮成形する部分である。パンチは、上パンチと下パンチからなり、それぞれ、金型の成形空間内で、駆動機構により軸方向に移動し得る。上パンチおよび下パンチの外径は、金型の内径(成形空間の直径)とほぼ等しいか、若干小さく設定される。また、上パンチおよび下パンチのそれぞれの端部には、組成物を加圧する平坦な加圧面が形成されている。これら両加圧面と、成形空間の内周面とで、成形体の形状が決まる。ここで、加圧面は平坦な面に限らず、例えば、所望に湾曲した面、突起や窪みを有する面、溝等が存在する面のいずれでも良い。また余剰な液状成分を効率的に搾り出すため、微細孔を有する加工を施しても良い。なお、下パンチの加圧面は、成形体を取り出す際以外は、成形空間内に位置し、成形空間の下端部を閉じている。各金型の成形空間は、成形すべき成形体の形状に対応しており、例えば、平板状や円柱状をなしている。ただし、成形空間の形状は、これに限定されず、例えば、横断面が半円形、楕円形、三角形、四角形、六角形等の多角形等のもの、円筒状(中空)、湾曲板状等、いかなるものでもよい。
【0056】
配向磁場印加部は、成形部である金型の周囲に、磁場を印加するためのコイルもしくは永久磁石を設置している。金型に装入された組成物は、240〜1200kA/m、好ましくは240〜800kA/mの配向磁場が印加される。配向磁場が240kA/m未満では磁性粉を充分に配向できず、1200kA/mを超える配向磁場は実用的ではない。
【0057】
本発明では、供給された組成物は、金型内において実質的に反応性架橋性モノマーを揮散させない条件下で成形される。そのため金型内で磁石粉が配向磁場を印加されたときに流動しうる状態にある。
【0058】
配向磁場よって配向された磁粉を含む組成物は、上パンチおよび下パンチから加圧を受け、配向を保ったまま余剰な液状成分が搾り出され、成形が行われる。なおこの圧縮成形の際余剰な液状成分を効率的に搾り取るため、上パンチおよび下パンチと組成物の間にフエルト等の濾布をセットしてもかまわない。成形後に必要とされる樹脂は磁粉の隙間に残り、空隙を発生することは無く、硬化後の成形体の強度向上に寄与する。
【0059】
成形体取り出し部は、成形体を金型から取り出す部分である。成形体は、下パンチをその加圧面が金型の上端面と一致する位置まで上昇させて、成形体を成形空間から排出し、次いで、該成形体を横方向へ移動させればよい。
【0060】
その後取り出された成形体をオーブン等の加熱室で加熱硬化を施すことによって所定の機械強度を得ることが出来る。プレスされた成形体の加熱温度は、樹脂の種類、硬化剤の種類や量により異なるが、例えば、60〜200℃、好ましくは100〜160℃であることが好ましい。この温度に加熱された組成物は所定の時間金型内で維持することで硬化する。加熱温度が60℃未満では、充分に硬化しない部分が発生し、200℃を超えると樹脂が変色したり、磁石特性が悪化する場合がある。
【0061】
4.樹脂結合型磁石
本発明の方法では、反応性架橋性モノマーにより希釈された低粘度の液状熱硬化性樹脂を使用しているため、湿式磁場中圧縮成形工程において、余剰な液状成分である低粘度樹脂が成形中途の成形体から滲みだしてくるため一種の潤滑効果を有し、金型カジリが改善される。得られた成形体に加熱硬化処理を施せば本発明の磁気異方性ボンド磁石が得られる。
【0062】
得られる樹脂結合型磁石は、次の式(1)で表される配向度が93%以上であるが、95%以上、特に97%以上とすることが磁石特性上好ましい。
配向度=[(成形後の樹脂結合型磁石の磁化)/(磁性粉100%での磁化×成形後の樹脂結合型磁石の磁性粉体積率)]×100…(1)
この式(1)において、配向度は、成形時に配向されたボンド磁石がもつ磁化の度合いを示し、これが大きいほど原料の磁性粉がもつ磁化に近いことになり、磁気特性が良好であることになる。
また、本発明の樹脂結合型磁石は、最大エネルギー積が130kJ/m3以上、特に140kJ/m3以上という優れた磁気特性を有する。さらに、機械強さが、60MPa以上であり、製造条件を最適化すれば80MPa以上の樹脂結合型磁石となる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0064】
次の各材料・成分を用い、混合してスラリー状の樹脂結合型磁石用組成物を得て、これを成形した磁石を評価した。
【0065】
1.材料・成分
(1)磁性粉末(A)
磁粉1:Sm−Fe−N系磁性粉末(住友金属鉱山(株)製 SmFeN合金粉末)、異方性磁場:16.8MA/m(210kOe)、100μm以下の粒径含有率99重量%
磁粉2:Nd−Fe−B系磁性粉末(商品名:MQP−B、マグネクエンチインターナショナル(株)製)、異方性磁場:5600kA/m(70kOe)、100μm以下の粒径含有率62重量%
(2)無機燐酸または無機燐酸化合物
燐酸系処理剤(商品名:燐酸(試薬)、関東化学(株)製)
(3)有機シランモノマー
有機シランモノマー:γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:信越シリコーンKBM503)
(4)熱硬化性樹脂
不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂):(商品名:ポリセット2212、日立化成工業(株)製)、25℃における粘度:500mPa・s
ビニルエステル樹脂(商品名:リポキシ液状樹脂H−610、昭和高分子(株)製)、25℃における粘度:100mPa・s
エポキシ樹脂主剤: ビスフェノールA型エポキシ樹脂主剤:(商品名:エポトートYD−013、軟化点85〜98℃、東都化成(株)製)
(5)硬化剤
硬化剤1(不飽和ポリエステル用):パーオキシケタール系過酸化物(1,1−ジ−t−ブチルペロキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、商品名:トリゴノックス29A、化薬アグゾ(株)製)、10時間の半減期を得るための分解温度90℃
硬化剤2(エポキシ用): ジシアンジアミド(商品名:DICY7、 融点207〜210℃、油化シェルエポキシ(株)製)
(6)N−オキシル類化合物
化合物:2,2,6,6−テトラメチル−4−ヒドロキシピペリジン−1−オキシル(商品名:アデカスタブ LA−7RD、旭電化(株)製)
【0066】
2.各評価方法
(1)磁気特性評価
上記射出成形条件にて得られた樹脂結合型磁石試料の磁気特性を、チオフィー型自記磁束計(東英工業社製)にて常温で測定した。尚、配向度は、SMM法、即ち、{(成形後の樹脂結合型磁石の磁化)/(磁性粉100%でのVSMにて測定した磁化×成形後の樹脂結合型磁石の磁性粉体積率)×100}で表した。
(2)機械強度評価
上記成形条件にて、別途幅5mm×高さ2mm×長さ10mmの試験片を成形し、JIS K7214(プラスチックの打ち抜きによる剪断試験方法)に準じて、剪断打ち抜き強さを測定した。
【0067】
(実施例1)
磁性粉(SmFeN)100重量部に対して、1重量部のIPA等のアルコール系有機溶媒に表面処理用燐酸化合物を溶解した後、当該処理溶液と磁性粉とをプラネタリーミキサー中で十分混合撹拌(40rpm,20℃)し、−760mmHg、120℃の真空オーブン中で24時間乾燥させ、ここで得られた処理済み粉(膜厚10nm)を、更にメカノフュージョン(ホソカワミクロン(株)製)にて有機シランモノマーの表面処理を行い、処理済磁性粉(膜厚60nm)を得た。
次に、あらかじめ所定の比率になるよう計量混合しておいた熱硬化性樹脂、反応性架橋性モノマー、硬化剤、N−オキシル類化合物等をそれぞれの磁性粉全量に加え、得られたスラリーは回転式攪拌装置で十分混合撹拌し、最終組成物を得た。なお、圧縮成形投入時の各成分の混合比を表1に示す。
その後、このスラリー、コンパウンドを用いて、事前に金型内に反応性架橋性モノマーとしてスチレンを充填し、強度397.9kA/mの配向磁場を加えた金型内に圧入注入実施し、5ton/cm2の成形圧力で湿式磁場中圧縮成形を行い、得られた成形体を150℃で1時間加熱し硬化処理することにより、本発明の磁気異方性ボンド磁石を得た。磁気特性のうち、最大磁気エネルギー積、配向度の結果と機械強度の評価結果を表1に示す。
【0068】
(比較例1)
比較例1は実施例1と同様のスラリーを用いて事前にスチレン充填を行わず、かつスラリー充填後に磁場を印加して成形を行った例である。得られた結果を表2に示した。表2より、配向度が低下していることが分かる。
【0069】
(比較例2)
比較例2は実施例1と同様のスラリーを用いて事前にスチレン充填を行わない状態で、配向磁場を加えた金型内に圧入注入実施し成形を行った例である。得られた結果を表2に示した。表2より、やはり配向度が低下していることが分かる。
【0070】
(実施例2)
実施例2は実施例1の樹脂をビニルエステルに変更した例である。得られた結果を表1に示した。樹脂バインダーの粘度がやや低くなるが、400kA/mの低磁界で十分な磁気特性を示している。
【0071】
(実施例3、比較例3)
実施例3と比較例3は、実施例1の配向磁界を変えた例である。得られた結果を表1と表2とに示した。比較例3の250kA/mの磁界では、磁気特性があまりよくないものの、実施例3と、実施例1の間では、大きな差異は無く、400kA/m程度の配向磁界でも特性が飽和していることが分かる。
【0072】
(実施例4)
実施例1の樹脂バインダー量を減らし組成物の粘度を高めて実験した。得られた結果を表1に示した。密度の低下と配向の若干の低下が見られるものの、磁気特性、機械強度とも十分な値が得られた。
またこれ以上の組成物粘度を高めたものは、混合混錬することは出来なかった。
【0073】
(実施例5、6、比較例4、5)
実施例5、6、比較例4、5は実施例1の樹脂バインダーの粘度を調整したものである。
得られた結果を表1と2とに示した。比較例4では、配向の低下から、十分な磁気特性が得られず、比較例5では密度の低下から磁気特性の低下が現れている。
【0074】
(比較例6〜10)
比較例6、7、10は、エポキシ樹脂を磁性粉に対して合計2.0重量部、硬化剤を0.2重量部のそれぞれを配合し、比較例7は、さらにメチルエチルケトンを加え、これらの各々に磁性粉末に添加して、プラネタリーミキサーにてよく混合撹拌した。
比較例8は、実施例1の反応性架橋性モノマーの代わりに溶媒としてアセトンを用いた。
得られた組成物を用いて、比較例6、7は、通常の乾式の磁場中成形で成形した。得られた結果を表2に示した。配向磁界を大きくすることにより磁気特性は改善するものの、低磁界の条件では配向度が上がらず、高磁気特性を得ることは出来なかった。
また、比較例8は、湿式の磁場中で成形を施した。得られた結果を表2に示した。湿式磁場中で圧縮成形後、30℃、10-1Torrの減圧下でアセトンを完全に揮散させ、その後、150℃で1時間、加熱硬化処理し、磁気異方性ボンド磁石を得た。密度が低いため磁気特性もやや低下しており、機械強度が低くかなり脆い成形物となっている。
比較例9は、比較例8と同様に湿式の磁場中成形を施した。湿式磁場中で圧縮成形後、30℃、10-1Torrの減圧下でメチルエチルケトンを完全に揮散させ、その後、150℃で1時間、加熱硬化処理し、磁気異方性ボンド磁石を得た。得られた結果を表2に示した。強度的には実施例6より改善されるものの十分なものを得ることは出来なかった。
比較例10は、等方性のボンド磁石として、米国MQI(マグネクエンチインターナショナル)社のMQP−B材(MQP−B材は、溶湯急冷法により作製したNd−Fe−B系等方性磁石粉末である)を用い、通常の乾式の磁場中成形で、成形を実施した。圧縮成形は無磁場で行った。得られたボンド磁石の評価結果を表3に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
評価:
表2より、実施例1〜6のものは、比較例1〜10のものに比べて、高い(BH)maxと高い機械強度を両立させていることが分かる。このように、スラリー化された樹脂結合型磁石用材料を使用し、事前に反応性架橋性モノマーを充填した金型に磁場を印加後、この樹脂結合型磁石用材料を圧入注入することによって、強度を保ちつつ400kA/mという低い配向磁場強度にて130kJ/m3以上の(BH)maxを有するボンド磁石が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の製造方法のフローシートを示したものである。
【図2】本発明の方法を実施した際の金型及び金型内部の状態を示したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素を含む磁性粉末(A)と、ラジカル重合反応性を有する熱硬化性樹脂(B)を主成分とする樹脂バインダーを含む、圧縮成形用の樹脂結合型磁石用組成物を用い、
熱硬化性樹脂(B)を反応性架橋性モノマー(C)で希釈し磁性粉末(A)と混合しスラリー状態にし、このスラリー状態にされた樹脂結合型磁石用組成物を湿式磁場中圧縮成形法で成形して樹脂結合型磁石を製造する方法において、金型内にあらかじめ反応性架橋性モノマーを充填し、磁場を印加した後、前記スラリー状態にされた樹脂結合型磁石用組成物を注入することを特徴とする樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1の熱硬化性樹脂(B)おいて、室温で測定される粘度を5〜5000mPa・sとするに十分な量の反応性架橋性モノマー(C)で希釈することによって粘度調整を行い、かつ磁性粉末(A)と混合しスラリー状態なっていることを特徴とする樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項3】
磁性粉末(A)が、Sm−Fe−N系の異方性磁性粉末であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項4】
磁性粉末(A)の平均粒径が、2μm〜4μmであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項5】
磁性粉末(A)の表面が、少なくとも燐酸塩皮膜で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項6】
熱硬化性樹脂(B)が、不飽和ポリエステル樹脂又はビニルエステル樹脂のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項7】
反応性架橋性モノマー(C)が、スチレン系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂バインダーが、さらにN−オキシル類化合物を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂結合型磁石の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の樹脂結合型磁石用組成物にあってそのスラリーの粘度が50000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1〜8に記載の樹脂結合型磁石の製造方法
【請求項10】
硬化剤が、半減期10時間を得るための分解温度が150°C以下の性質を有する有機過酸化物であることを特徴とする請求項1〜9に記載の樹脂結合型磁石用組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10記載のいずれかの方法で製造されたことを特徴とする樹脂結合型磁石。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−329294(P2007−329294A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159214(P2006−159214)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】