説明

樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋及びその製造方法

【課題】食品缶詰素材に要求される多くの特性に対応可能な、樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋及びその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂被覆鋼板からなる缶蓋の両面に開口用溝が形成され、開口用溝を破断することにより開缶する。前記樹脂被覆鋼板は、ポリエステルを主成分とする樹脂層を両面に有している。そして、樹脂層は、複層構造からなり、鋼板との密着層となる樹脂層がブロックフリーイソシアネート化合物を含有する。また、前記開口用溝の底断面形状は半径0.1mm〜0.5mmの曲面であり、かつ、最薄部の厚さが0.035mmから0.075mmである。そして、上記缶蓋は、両面に樹脂層が被覆された鋼板からなる缶蓋パネルに対し、先端半径0.1mm〜0.5mmの曲面型である上下1対の金型を使用し、最薄部の厚さが0.035mmから0.075mmの範囲内となるように押圧成形を施すことによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶体の缶蓋に形成された開口部を破断して開缶する、食品缶詰の缶蓋に使用されるイージーオープン缶蓋及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
魚、果物、野菜等の食物を収容する食品缶詰の蓋として、缶蓋に形成された開口部を指で破断し開缶するイージーオープン缶蓋が、広く使用されている。イージーオープン缶蓋は、主として食品缶詰に使用されるフルオープンタイプの缶蓋と、主として、飲料缶に使用されるパーシャルタイプの缶蓋とに大別される。
フルオープンタイプの缶蓋は、缶蓋の外周縁に沿って開口用溝が形成され、缶蓋外周縁近くのパネル部に取り付けられたタブを指先等で引き上げることによって、開口片を缶蓋から切り離すようになっている。
このようなイージーオープン缶蓋における開口用溝の形成は、従来、図1に示すように、所定の開口部輪郭が形成された刃先状(V字状)の突起を有する加工工具9を使用し、缶蓋の表面側より蓋板10の厚さの1/2以上の深さの開口用溝2が形成されるような高い荷重でプレスにより押圧成形することによって行われており、これによって、断面V字状の開口用溝2が形成されていた。
このように、開口用溝の形成は、加工工具を使用し、プレスによる高荷重の押圧成形で行われるために、両面を樹脂被覆された鋼板からなる缶蓋の場合には、押圧成形時に、缶蓋の両面に形成されている樹脂皮膜が損傷し、耐食性が劣化する問題が生ずる。したがって、耐食性の劣化を防止するために、押圧成形後に補修塗装を行わなければならず、多くの手間及び費用を要していた。
このような背景から、近年、食品缶詰の缶蓋の材料に、樹脂皮膜が損傷を受けても錆の生じないアルミニウムが使用されているが、アルミニウムの使用は、コスト高となる上、リサイクルの点からも問題がある。
そこで、樹脂皮膜が形成された表面処理鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に生ずる上述した問題の対策として、特許文献1〜3には、複合押し出し加工によって開口用溝を形成する方法が開示されている。
上記特許文献1〜3の記載によれば、複合押し出し加工によって、開口用溝が形成されるので、樹脂皮膜の損傷がなく補修塗装が不要であるとされている。しかし、複合押し出しの加工条件や溝形状の詳細が不明であり、安定して開口用溝が形成される再現性の判断が困難である。
また、特許文献4では、曲面型のスコア金型を用いる方法が開示されている。半径0.1〜1.0mmの曲面型である金型を使用し、最薄部の厚さが0.025〜0.08mmの範囲となるよう押圧成形を施すことが開示されている。この技術に従えば、確かに、従来のV字形状の開口用溝型に比較し、開口用溝加工部のフィルム損傷は格段に軽減する。しかし、適用するフィルムに関する技術開示が、「熱融着タイプのポリエステルフィルムをラミネート」するという記載のみであるため、加工部でのフィルム損傷を抑制することができない。その理由を、以下に示す。
【0003】
子供や老人でも容易に開缶できるようにするためには、本発明で規定するように、最薄部の厚みを0.075mm以下、好ましくは、0.060mm以下とする必要がある。缶蓋用の素材としては、0.15〜0.30mmのアルミニウム板や、表面に金属鍍金された表面処理鋼板等が使用されるため、最薄部の板厚みは、加工前板厚みの1/2以下となる。このため、最薄部のフィルムは、開口用溝加工によって厚み方向に50%以上圧縮され、幅方向に200%以上伸ばされることとなる。
【0004】
ここで、特許文献4に開示されているポリエステルフィルムは、一般的な機械物性を有するものと考えられるので、ポリエステルフィルムの破断伸びは、60〜165%の範囲である。したがって、開口用溝加工の最薄部において、フィルムが破断してしまい、鋼板素地が露呈して耐食性が確保できない。
【特許文献1】特開平6-115546号公報
【特許文献2】特開平6-115547号公報
【特許文献3】特開平6-115548号公報
【特許文献4】特開平11-91775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑み、レトルト処理による樹脂の色調変化(以後、レトルト白化現象と称す)抑制など、食品缶詰に要求される多くの特性に対応可能であり、開缶性に優れ衝撃破壊の生ずることがない、樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが、課題解決のため鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
特定の樹脂構成からなるポリエステル樹脂を鋼板との密着層とし、さらに密着層の上層にポリエステルフィルムを積層した樹脂被覆鋼板からなる缶蓋に、底断面形状および最薄部の厚さを規定した開口用溝を形成することで、開口用溝加工部の最薄部においてもフィルム損傷が生ずることなく、更にはレトルト処理による樹脂の色調変化(以後、レトルト白化現象と称す)の抑制など多くの機能を有する、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性に優れた樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋を得ることができる。
【0007】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]ポリエステルを主成分とする樹脂層を両面に有する樹脂被覆鋼板からなる缶蓋の両面に開口用溝が形成され、該開口用溝を破断することにより開缶する樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋であり、前記樹脂層は、複層構造であり、鋼板との密着層となる樹脂層がブロックフリーイソシアネート化合物を含有し、前記開口用溝の底断面形状は半径0.1mm〜0.5mmの曲面であり、かつ、最薄部の厚さが0.035mmから0.075mmであることを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
[2]前記[1]において、前記ブロックフリーイソシアネート化合物中に含まれるNCO基のモル数は、前記密着層を形成するポリエステル樹脂層に含まれるOH基のモル数の0.5倍以上15.0倍以下であることを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
[3]前記[1]または[2]において、前記密着層となるポリエステル樹脂層の付着量は、0.1μm以上3.0μm以下であることを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかにおいて、前記密着層中に着色剤を含むことを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
[5]前記[1]〜[4]のいずれかにおいて、前記密着層中に腐食抑制剤を5PHR以上含むことを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかにおいて、前記密着層中に導電性ポリマーを0.5PHR以上5.0PHR以下含むことを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかにおいて、前記密着層の上層を形成するポリエステル樹脂層はポリエステルフィルムから形成され、該ポリエステルフィルムは、ポリエステルの構成単位の93質量%以上がエチレンテレフタレート単位及び/またはエチレンナフタレート単位であり、かつ、面積換算平均粒子径が0.005〜5.0μmであり、式(1)に示される相対標準偏差が0.5以下であり、粒子の長径/短径比が1.0〜1.2で、モース硬度が7未満である粒子を0.005〜10質量%含有することを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【0008】
【数1】

【0009】
[8]両面に樹脂層が被覆された鋼板からなる缶蓋パネルに対し、先端半径0.1mm〜0.5mmの曲面型である上下1対の金型を使用し、最薄部の厚さが0.035mmから0.075mmの範囲内となるように押圧成形を施すことによって、前記[1]〜[7]のいずれかの缶蓋を製造することを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、食品缶詰に要求される多くの特性に対応可能であり、開缶性に優れ衝撃破壊の生ずることがない、樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋が得られる。
このように、本発明では、両面に樹脂層が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているめっき層および樹脂被膜層の損傷による補修塗装を必要とせず、しかも、子供や老人でも容易に開缶することができる、開缶性の優れたイージーオープン缶蓋が得られ、工業上有用な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋について詳細に説明する。
まず、缶蓋に用いる本発明の鋼板について説明する。
本発明の鋼板としては、缶用材料として広く使用されている軟鋼板等を用いることができる。特に、下層が金属クロム、上層がクロム水酸化物からなる二層皮膜を形成させた表面処理鋼板(以下、TFSと称す)等が最適である。
TFSの金属クロム層、クロム水酸化物層の付着量については、特に限定されないが、加工後密着性、耐食性の観点から、何れもCr換算で、金属クロム層は70〜200mg/m、クロム水酸化物層は10〜30mg/mの範囲とすることが望ましい。
【0012】
そして、本発明では上記鋼板の両面にポリエステルを主成分とする樹脂層を被覆し樹脂被覆鋼板とする。ポリエステルを主成分とする樹脂層とは、ポリエステルを50質量%以上100質量%以下含む樹脂であり、ポリエステル以外の樹脂を含む場合には、ポリオレフィンなどの樹脂を含有することができる。
【0013】
次いで、上記鋼板の両面に被覆するポリエステルを主成分とする樹脂層について説明する。
樹脂層は、複層構造のポリエステル樹脂層からなる。そして、ポリエステル樹脂層のうちの、鋼板の上層に形成する密着層は、ポリエステルを主成分とする樹脂層からなり、ブロックフリーイソシアネート化合物を含有する。
【0014】
ポリエステル樹脂層の組成としては、カルボン酸成分としてテレフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコールよりなるポリエチレンテレフタレートに代表されるが、他のカルボン酸成分としてイソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸等と、また他のグリコール成分としてジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等と成分を置き換えた共重合樹脂等も含まれる。酸成分として、テレフタル酸は、機械的強度、耐熱性、化学的耐性などから必須であるが、更に、イソフタル酸と共重合させることで、柔軟性、引き裂き強度などが向上する。イソフタル酸成分を、10.0mol%以上60.0mol%以下の範囲でテレフタル酸成分と共重合させることで、深絞り成形性、加工後密着性を向上させるよう機能するため、好適である。グリコール成分としては、エチレングリコール、プロパンジオールなどの柔軟性に優れる低Tg(Tg=ガラス転移温度)成分と、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの環構造を有する剛直な高Tg成分とを共重合させることが望ましい。強度と柔軟性をバランスできるためである。好適な例としては、酸成分がイソフタル酸10〜30mol%、テレフタル酸70〜90mol%で構成され、グリコール成分がエチレングリコール30〜50mol%、プロパンジオール50〜70mol%で構成されるポリエステル樹脂を挙げることができる。
【0015】
密着層に含有するイソシアネート化合物として、本発明では、ブロックフリーイソシアネートを適用する。ブロック化剤を用いないことで、フリーのイソシアネート基は、ポリエステル樹脂の末端の官能基や、基材であるポリエステルフィルムの表面の官能基と、速やかに反応することができる。これにより、熱融着ラミネート法などの、極めて短時間(1秒未満)の熱処理においても、イソシアネート架橋反応による高分子化が可能となる。そして、密着層の強度と加工性を大幅に向上させるとともに、基材フィルムとの強固な密着性を得ることができる。適用するイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、キシリレンイソシアネートなどが挙げられ、中でも、キシリレンイソシアネート化合物が、密着性、耐久性などの観点から、最も好適である。
【0016】
また、イソシアネート架橋反応によって分子鎖の三次元ネットワークが形成されるため、レトルト白化を効果的に抑制することができる。レトルト白化とは、レトルト殺菌処理中に、樹脂層そのものが白く濁ったように変色する現象であり、缶外面の意匠性を損なわせるため、消費者の購買意欲を減退させうる大きな問題である。発明者らが鋭意検討した結果、缶体を被覆する樹脂層内に水蒸気が浸透することによって、樹脂層の界面及び界面近傍に液胞が形成され、液胞部で光が散乱することが原因であることを新たに見出した。したがって、特性改善のためには、樹脂層の界面及び界面近傍での液胞形成を抑制することが重要である。
【0017】
樹脂中に侵入した水蒸気は、樹脂中を拡散し、鋼板との界面まで到達する。レトルト処理の開始直後は、缶内に充填された内容物が常温に近い状態にあるため、缶の外部か羅内部にかけて温度勾配が生ずる。即ち、樹脂中を拡散する水蒸気は、鋼板に近づくにつれて冷却されることになり、界面及び界面近傍で液化し、凝縮水となって液胞を形成する。液胞がレトルト処理後も界面及び界面近傍に残留することで、光の散乱を招き、樹脂表面が白濁してみえることとなる。したがって、レトルト白化を抑制するためには、界面及び界面近傍における液胞の形成を抑止すればよい。
発明者らが白化現象を鋭意検討した結果、上記イソシアネート架橋反応によるポリエステル分子鎖のネットワークを形成することで、液胞の形成を抑制できることを見出した。ポリエステル分子鎖のネットワークが、水蒸気が界面へ到達するのを抑制するとともに、界面及び界面近傍の樹脂強度及び弾性率が上昇することで、液胞の形成及び成長を抑制することが可能となる。
【0018】
ここで、ブロックフリーイソシアネート化合物中に含まれるNCO基(イソシアネート基)のモル数は、密着層を形成するポリエステル樹脂層に含まれるOH基のモル数の0.5倍以上とすることが好ましい。0.5倍未満のモル数であると、ポリエステル樹脂の末端官能基との架橋反応、もしくはポリエステルフィルム表面の官能基との架橋反応のいずれかが不十分となり、製蓋加工時に、樹脂層が剥離したり、素材が断裂してしまう場合がある。また、ネットワークの形成が不十分なため、レトルト白化を抑制することもできない。
【0019】
一方、NCO基のモル数の上限としては、ポリエステル樹脂層に含まれるOH基のモル数に対し、15.0倍以下が好ましい。15.0倍を超える場合、ポリエステル樹脂層の耐水性が低下してしまうため、レトルト処理時等にフィルムが缶から剥離してしまうおそれがあるためである。なお、より好ましくは、5.0倍以上10.0倍以下の範囲であり、効果的にレトルト処理時のフィルム剥離を抑制することができる。
【0020】
密着層となるポリエステル樹脂層の鋼板への付着量は、0.1μm以上3.0μm以下の範囲に規定するのが好ましい。0.1μm未満では、鋼板表面を均一に被覆することができず、膜厚が不均一になってしまう場合がある。改質剤を添加した場合は、改質剤の付着量が変動することとなり、安定した機能を得ることができず、不適である。一方、3.0μm超とすると、樹脂の凝集力が不十分となり、樹脂層の強度が低下してしまう場合がある。その結果、製蓋加工時に、樹脂層が凝集破壊してフィルムが剥離し、そこを起点に缶胴部が断裂してしまうこととなる。よって、付着量は、0.1μm以上3.0μm以下の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、0.5μm以上2.5μmの範囲である。
更に、密着層中に、染料、顔料などの着色剤を添加することで、下地の鋼板を隠蔽し、樹脂独自の多様な色調を付与できる。例えば、黒色顔料として、カーボンブラックを添加することで、下地の鋼色を隠蔽するとともに、黒色のもつ高級感を食品缶詰に付与することができる。カーボンブラックの添加量は、5PHR以上40PHR以下が望ましい。5PHR未満では黒色度が不十分であるとともに下地鋼の色調が隠蔽できず、高級感のある意匠性を付与できない場合がある。一方、40PHR超としても、黒色度は変化しないため意匠性の改善効果は得られないばかりか、ポリエステル樹脂の構造が脆弱となるため、製蓋加工時に樹脂層が容易に破壊してしまう場合がある。添加量を5PHR以上40PHR以下の範囲とすることで、意匠性と他の要求特性との両立が可能となる。
カーボンブラックの粒子径としては、5〜50nmの範囲のものを使用できるが、ポリエステル樹脂中での分散性や発色性を考慮すると、5〜30nmの範囲が好適である。
【0021】
黒色顔料以外にも、白色顔料を添加することで下地の鋼光沢を隠蔽するとともに、印刷面を鮮映化することができ、良好な外観を得ることができる。添加する顔料としては、容器成形後に優れた意匠性を発揮できることが必要であり、係る観点からは、二酸化チタンなどの無機系顔料を使用できる。着色力が強く、展延性にも富むため、容器成形後も良好な意匠性を確保できるので好適である。二酸化チタンの添加量は、対象樹脂層に対して、5〜30質量%であることが望ましい。5質量%以上であれば、充分な白色度が得られ、良好な意匠性が確保できる。一方、30質量%を超えて添加しても、白色度が飽和するため、経済上の理由で30質量%以下とすることが望ましい。より好ましくは、10〜20質量%の範囲である。なお、着色剤の添加量とは、着色剤を添加した樹脂層に対する割合である。
【0022】
容器表面に光輝色を望む場合には、アゾ系顔料の使用も好適である。透明性に優れながら着色力が強く、展延性に富むため、容器成形後も光輝色のある外観が得られる。本発明で使用できるアゾ系顔料としては、カラーインデックス(C.I.登録の名称)が、ピグメントイエロー12、13、14、16、17、55、81、83、139、180、181のうちの少なくとも1種類を挙げることができる。特に、色調(光輝色)の鮮映性、レトルト殺菌処理環境での耐ブリーディング性(顔料がフィルム表面に析出する現象に対する抑制能)などの観点から、分子量が大きく、PET樹脂への溶解性が乏しい顔料が望ましい。例えば、分子利用が700以上の、ベンズイミダゾロン構造を有するC.I.ピグメントイエロー180がより好ましく用いられる。
アゾ系顔料の添加量は、対象樹脂層に対して、10〜40PHRとすることが望ましい。添加量が10PHR以上であれば、発色に優れるので好適である。40PHR以下の方が、透明度が高くなり光輝性に富んだ色調となる。
【0023】
密着層中に、腐食抑制剤を5PHR以上添加することで、樹脂層に欠陥が生じて鋼板表面が露出した場合でも、金属の溶出を抑制することができる。腐食抑制剤としては、還元作用を有するアスコルビン酸、トコフェノール、カロテノイドなどの食品安全性が確認されている物質を使用することができる。これらの物質は、樹脂欠陥部において、自身が優先的に酸化することで、金属のアノード溶解を抑制する効果がある。
【0024】
また、密着層中に、導電性ポリマーを、0.5PHR〜5.0PHRの範囲で添加することも、欠陥部における鉄の溶出を抑制するうえで効果的である。導電性ポリマーとしては、複素環式共役系またはヘテロ原子含有共役系のπ共役ポリマーが好適である。π共役ポリマーは、下地鋼板に対して貴な電位にあるため下地鋼板との界面では還元反応を受ける。π共役ポリマーの還元に伴い、下地鋼板が酸化され、緻密な不働態皮膜が下地鋼板の表面に形成される。一方、空気に接触する表面側ではπ共役ポリマーが空気酸化され、元の状態に戻る。このような酸化還元反応の繰り返しにより、バリア性の高い不働態皮膜が下地鋼板表面に形成される。スクラッチ等の皮膜欠陥が生じても不働態化が促進されるため、欠陥部を起点とする腐食進行が抑制される。π共役ポリマーとしては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリンなどが使用でき、なかでもポリアニリンが最も好適に使用できる。
【0025】
密着層を形成するポリエステルの熱物性としては、ガラス転移点を50℃以上85℃以下の範囲に、軟化点を100℃以上200℃以下の範囲であることが望ましい。
樹脂被覆鋼板が保管・運搬される際には40℃程度の温度で長時間保持される可能性があるため、ガラス転移点は50℃以上であることが必要である。一方、ガラス転移点の上限は85℃に規定する。ガラス転移点が85℃を超えるポリエステルポリマーは、軟化点が上昇してしまい、本発明で規定する軟化点200℃以下の範囲を維持し難くなるためである。
【0026】
また、食缶用のレトルト殺菌処理は、100℃以上の高温で1時間以上に及ぶことがあり、100℃以上の温度域で耐熱性を有することが求められる。よって、JIS K2425に定める軟化点を100℃以上、望ましくは150℃以上に規定する必要がある。一方、軟化点の上限は、200℃に規定する。軟化点が200℃超となると、樹脂の熱流動性が低下してしまい、鋼板とのラミネート時や、製蓋加工時などの工程で、樹脂の柔軟性が不足することになる。ラミネート時の柔軟性不足は鋼板との密着性に影響を及ぼし、製蓋加工時の柔軟性不足は缶高さ方向への伸び変形を抑制し、樹脂損傷の原因となり、缶胴部を破裂させる原因となる。
【0027】
密着層を形成するポリエステル樹脂の質量平均分子量は、10000以上40000以下が好ましい。望ましくは、15000〜20000の範囲である。このような範囲の質量平均分子量を有するポリエステル樹脂は、加工性と強度のバランスに優れ、深絞り成形性及び成形加工後の密着性が良好となる。分子量10000以上とすることで樹脂の強度がアップし、深絞り成形時に樹脂が断裂することなく変形に追随する。その後のレトルト処理においても、上層に形成したフィルムの熱収縮に対抗して、トリム端等からのデラミを抑制することができる。また、製蓋加工後の耐衝撃性についても、欠陥の発生を抑制し、良好な性能を得ることができるようになる。一方、分子量が40000超となると、樹脂の強度が過大となり、逆に柔軟性を損なうおそれがある。40000以下とすることで、強度と柔軟性のバランスを維持することができる。
【0028】
密着層の耐水性を更に向上させるためには、脂肪酸由来の疎水性ポリオール樹脂を5PHR以上20PHR以下の範囲で含むことが好ましい。疎水性ポリオール樹脂としては、ダイマー酸系ポリオール、ポリジエン系ポリオール、ポリイソプレン系ポリオール等が挙げられる。中でも、長鎖アルキル基の炭素数20〜50のものを適用することで、エステル結合部を水から遮蔽し、レトルト処理等の湿潤環境下におけるフィルム剥離を効果的に防止することができる。
【0029】
疎水性ポリオール樹脂の添加量は5PHR以上20PHR以下であることが望ましい。5PHR未満では、十分な耐水性を得ることができず、20PHR超となると、ポリエステル樹脂の表面自由エネルギーが過度に低下するため、ポリエステルフィルム及び鋼板との密着性が阻害されてしまう場合がある。5PHR以上20PHR以下の範囲に規定することで、耐水性及び密着性の両立が可能となる。更に好ましくは、7PHR以上15PHR以下の範囲である。
【0030】
また、疎水性を阻害しない範囲で、ポリエステルポリオールを添加することができる。この場合、疎水性ポリオールとして、全ポリオール質量の50%以上の範囲が好適である。ポリエステルポリオールとしては、1、6ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどのグリコール成分と、マレイン酸、アジピン酸、オレイン酸、これらのダイマー酸等のエステルを用いることができる。特に好ましくは、オレイン酸のダイマー酸を用いたポリエステルポリオールである。
【0031】
次に、密着層の上層に形成するポリエステル樹脂層について説明する。
密着層の上層に形成するポリエステル樹脂層としては、レトルト後の味特性を良好とする点、および製蓋工程での摩耗粉の発生を抑制する点から、エチレンテレフタレート及び/またはエチレンナフタレートを主たる構成成分とすることが望ましい。すなわち、エチレンテレフタレート及び/またはエチレンナフタレートを主たる構成成分とするポリエステルとは、ポリエステルの構成単位の93重量%以上がエチレンテレフタレート単位及び/またはエチレンナフタレート単位であるポリエステルである。さらに好ましくは95重量%以上である。金属缶に食品を長期充填しても味特性が良好であるので望ましい。
一方、味特性を損ねない範囲で他のジカルボン酸成分、グリコール成分を共重合してもよく、ジカルボン酸成分としては、例えば、ジフェニルカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、p−オキシ安息香酸等のオキシカルボン酸等を挙げることができる。
一方、グリコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、シクロヘキサンジメタノール等の指環族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS等の芳香族グリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。なお、これらのジカルボン酸成分、グリコール成分は2種以上を併用してもよい。
また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、トリメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパン等の多官能化合物を共重合してもよい。
【0032】
粒子:面積換算平均粒子径が0.005〜5.0μmであり、式(1)に示される相対標準偏差が0.5以下であり、粒子の長径/短径比が1.0〜1.2で、モース硬度が7未満である粒子を0.005〜10重量%含有する
本発明で用いるポリエステル樹脂における粒子とは、組成的には有機、無機を問わず特に制限されるものではない。
耐摩耗性、加工性、味特性等の点から面積換算平均粒子径は0.005〜5.0μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.01〜3.0μmである。
また、耐摩耗性等の点から、下記式(1)に示される相対標準偏差が0.5以下であることが好ましい。さらに好ましくは0.3以下である。
【0033】
【数1】

【0034】
粒子の長径/短径比としては、耐摩耗性などの点から、1.0〜1.2であることが好ましい。モース硬度としては、突起硬さ、耐摩耗性などの点から7未満であることが好ましい。そして、これらの効果を十分に発現させるには、上記からなる粒子を0.005〜10重量%含有することが好ましい。
【0035】
具体的には、無機粒子として、湿式および乾式シリカ、コロイダルシリカ、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、カオリン、クレー等が挙げられる。中でも、粒子表面の官能基とポリエステルとが反応してカルボン酸金属塩を生成するものが好ましく、具体的には、粒子1gに対し、10−5mol以上有するものが、ポリエステルとの親和性、耐摩耗性などの点で好ましく、さらには2×10−5mol以上であることが好ましい。
また、有機粒子としては、さまざまな有機高分子粒子を用いることができるが、その種類としては、少なくとも一部がポリエステルに対し不溶の粒子であれば、いかなる組成の粒子でも構わない。また、このような粒子の素材としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメチルメタクリレート、ホルムアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、架橋ポリスチレン、シリコーン樹脂などを使用することができるが、耐熱性が高く、かつ粒度分布の均一な粒子が得られやすいビニル系架橋高分子粒子が特に好ましい。
【0036】
このような無機粒子および有機高分子粒子は、単独で用いても構わないが、2種以上を併用して用いることが好ましく、粒度分布、粒子強度など物性の異なる粒子を組み合わせることにより、さらに機能性の高いポリエステル樹脂を得ることができる。
また、本発明の効果を妨げない範囲において、他の粒子、例えば各種不定形の外部添加型粒子、及び内部析出型粒子、あるいは各種表面処理剤を添加しても構わない。
【0037】
更に、ポリエステルフィルムが二軸延伸ポリエステルフィルムであると、耐熱性・味特性の観点から好ましい。二軸延伸の方法としては、同時二軸延伸、逐次二軸延伸のいずれであってもよいが、延伸条件、熱処理条件を特定化し、フィルムの厚さ方向の屈折率が1.50以上であることが、ラミネート性、成形性を良好とする点で好ましい。さらに厚さ方向屈折率が1.51以上、特に1.52以上であると、ラミネート時に多少のばらつきがあっても成形性、耐衝撃性を両立させる上で面配向係数を特定の範囲に制御することが可能となるので好ましい。
【0038】
また、二軸延伸ポリエステルフィルムは、製蓋加工する際の加工性、耐衝撃性の点で固体高分解能NMRによる構造解析におけるカルボニル部の緩和時間が270msec以上であることが好ましい。さらに好ましくは、280msec以上、特に好ましくは300msec以上である。本発明の効果を妨げない範囲において、他の粒子、例えば各種不定形の外部添加粒子、及び内部析出型粒子、あるいは各種表面処理剤を用いても構わない。
【0039】
レトルト白化を抑制する技術として、密着層の上層に形成するポリエステル樹脂層の残存配向度を、2%〜30%の範囲に制御することも有効である。なお、ここでいう残存配向度とは、X線回折法により求められた値であって、以下により定義されるものとする。
(1)ラミネート前の配向ポリエステル樹脂(もしくは配向ポリエステルフィルム)及びラミネート後の樹脂(もしくはフィルム)について、X線回折強度を2θ=20〜30°の範囲で測定する。
(2)2θ=20°、2θ=30°におけるX線回折強度を直線で結びベースラインとする。
(3)2θ=22〜28°近辺にあらわれる最も高いピークの高さをベースラインより測定する。
(4)ラミネート前のフィルムの最も高いピークの高さをP1、ラミネート後のフィルムの最も高いピークをP2とした時、P2/P1×100を残存配向度(%)とする。
【0040】
本発明者らが鋭意検討した結果、残存配向度を上昇に伴い、樹脂層内部を透過する水蒸気量が低下することを見出した。残存配向度を2%以上とすることで、鋼板との界面に到達する水蒸気量が低減し、前述のイソシアネート添加効果とあわせ、レトルト白化を完全に抑制することができる。残存配向度の上昇とともに、透過水蒸気量は減少傾向となり、耐レトルト白化性は良好となるが、一方、樹脂の柔軟性・伸び特性は、低下する。残存配向度が30%超となると、製蓋加工への追随が不十分となり、フィルムの剥離や素材の断裂が生じてしまう。残存配向度を2%〜30%の範囲に調整することで、耐レトルト白化性と樹脂の柔軟性、成形性を両立することができる。
【0041】
本発明の密着層とその上層のポリエステルフィルム(上層)の厚みの合計としては、全体として5μm以上100μm以下であることが好ましく、更には8μm以上50μm以下、特に10μm以上25μm以下の範囲であることが好ましい。
【0042】
次に、本発明のポリエステル樹脂被覆鋼板の製造方法について説明する。
本発明の容器用ポリエステル樹脂被覆鋼板は、まず、上記からなる密着層をポリエステルフィルムの表面に形成する。次いで、鋼板とポリエステルの界面に密着層が存在するように、ポリエステルフィルムを鋼板表面にラミネートする。
密着層をフィルム表面に形成する方法について説明する。本発明で規定するポリエステル樹脂を有機溶剤中に溶解させコーティング液とする。次いで、前記コーティング液を、ポリエステルフィルム成膜時もしくは製膜後に、フィルム表面に塗布し乾燥する。形成方法は特に限定しないが、前述した方法が、本発明の目的・用途に適合しており好ましい。
本発明に規定するポリエステル樹脂を溶解させるための有機溶剤としては、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶剤、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン溶剤、酢酸エチル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエステル系溶剤などを挙げることができ、これらの1種以上を適宜選定して使用することができる。
また、本発明で規定するブロックフリーイソシアネート化合物や、長鎖アルキル基を側鎖に有する疎水性ポリオール樹脂、着色剤としてカーボンブラック、アゾ系顔料などの添加剤は、有機溶剤中に分散させて使用するのが望ましい。この際、分散剤を併用すると、添加剤の均一性が付与できるため、好適である。
【0043】
上記により作製したコーティング液を、ポリエステルフィルム成膜時もしくは製膜後に、フィルム表面に塗布し乾燥する。
コーティング液をポリエステルフィルムに塗布する方法としては、ロールコーター方式、ダイコーター方式、グラビア方式、グラビアオフセット方式、スプレー塗布方式など、既知の塗装手段が適用できるが、グラビアロールコート法が最も好適である。コーティング液塗布後の乾燥条件としては、80℃〜170℃で20〜180秒間、特に80℃〜120℃で60〜120秒間が好ましい。乾燥後のポリエステル樹脂層の付着量は、本発明に規定する0.1μm以上3.0μm以下の範囲が好ましい。
【0044】
次に、複層構造となったポリエステルフィルムを鋼板表面にラミネートする。
本発明では、例えば、鋼板を加熱装置(例えば、図2中、鋼板加熱装置5)にて一定温度以上に昇温し、その表面にポリエステルフィルムを圧着ロール(以後、ラミネートロールと称す)を用いて接触させ熱融着させる方法を用いることができる。このとき、コーティングした面を圧着ロール(以後ラミネートロールと称す)を用いて鋼板に接触させ熱融着させることが必要である。以下、ラミネート条件の詳細について記す。
【0045】
熱融着開始時の鋼板の温度は、ポリエステルフィルムの融点もしくは密着樹脂層(ポリエステル樹脂)の軟化点の、いずれか高いほうの値を基準として、+5℃〜+30℃の範囲とすることが望ましい。熱融着法によって、鋼板−密着樹脂層−ポリエステルフィルムの層間密着性を確保するためには、密着界面における樹脂の熱流動が必要である。鋼板の温度を、ポリエステルフィルムの融点もしくは密着樹脂層(ポリエステル樹脂)の軟化点の、いずれか高いほうの値を基準として、+5℃以上の温度範囲とすることで、各層間における樹脂が熱流動し、界面における濡れが相互に良好となって、優れた密着性を得ることができる。一方、+30℃超としても、更なる密着性の改善効果が期待できないことと、フィルムの溶融が過度となり、ラミロール表面の型押しによる表面荒れ、圧着ロールへの溶融物の転写などの問題が生じる懸念があるためである。
【0046】
ラミネート時にフィルムが受ける熱履歴としては、ポリエステルフィルムの融点もしくは密着樹脂層の軟化点の、いずれか高いほうの温度以上で、相互に接している時間が5msec.以上であることが望ましい。界面における濡れが良好となるためである。なお、時間の増加とともに濡れ性は良好となるものの、40msec.超では、ほぼ一定の性能を呈すようになり、効果が認められなくなる。生産性の低下を招く懸念もあるため、40msec以下とすることが望ましい。よって、5〜40msecの範囲が好適である。
【0047】
このようなラミネート条件を達成するためには、150mpm以上の高速操業に加え、熱融着中の冷却も必要である。例えば、図2中ラミネートロール3は内部水冷式であり、冷却水を通過させることで、フィルム及び密着樹脂層が過度に加熱されるのを抑制することができる。更に、冷却水の温度を変化させることで、ポリエステルフィルム及び密着樹脂層の熱履歴をコントロールできるため、好適である。
【0048】
ラミネートロールの加圧は、面圧として9.8〜294N/cm2(1〜30kgf/cm)が望ましい。9.8N/cm2未満の場合、たとえ熱融着開始時の温度がフィルムの融点+5℃以上であって、十分な流動性が確保できていたとしても、鋼表面に樹脂を押し広げる力が弱いため十分な被覆性が得られず、結果として密着性、耐食性などの性能に影響を及ぼす可能性がある。また、294N/cm2超となると、ラミネート鋼板の性能上は不都合がないものの、ラミネートロールにかかる力が大きく設備的な強度が必要となり装置の大型化を招くため不経済である。よって、ラミネートロールの加圧は、好適には9.8〜294N/cm2である。
【0049】
次に、本発明のイージーオープン缶蓋およびその製造方法を、図面を参照しながら説明する。
【0050】
図3は、本発明のイージーオープン缶蓋の一実施態様を示す、缶蓋に形成された開口用溝部分の断面図である。この実施態様においては、図3に示すように、両面に樹脂フィルム層3を有する、厚さt0の缶蓋1の表面1a及び裏面1bに、各々半径(R)が0.1〜0.5mmであって、その最薄部2aの厚さ(ts)が0.035〜0.075mmの範囲内の、断面が曲面形状の開口用溝2が形成されている。
【0051】
缶蓋1の表面1a及び裏面1bに、上述した半径(R)の、曲面形状の開口用溝2が形成されていることによって、子供や老人でも容易に開缶することができる程度にまで開缶力を安定して低減化することができ、しかも衝撃破壊の発生が防止される。
【0052】
開口用溝2の半径(R)が0.1mm未満では、樹脂層を損傷することなく、缶蓋パネルに上記開口用溝2を形成することが困難となる。一方、開口用溝2の半径(R)が0.5mmを超えると、缶蓋1における薄肉部の面積が多くなるために、開口部の破断位置が不安定になって開口形状が悪化する上、破断部の一部が垂れ下がる「だれ」が大きくなる問題が生ずる。開口用溝2の半径(R)を0.1mm〜0.5mmの範囲とすることで、樹脂層を損傷させることなく、開口用溝が形成できる。より好ましくは、0.2mm〜0.3mmの範囲である。
【0053】
また、開口用溝2の最薄部2aの厚さが0.035mm未満では、成形加工時に樹脂層が損傷し、また缶蓋パネルが破断する恐れがあるため、このような缶蓋が取り付けられた缶体を落としたり、外部から衝撃を受けたときに、その開口部が破断する危険が生ずる。一方、開口用溝2の最薄部2aの厚さが0.075mmを超えると、大きな開缶力が必要になる問題が生ずる。したがって、缶蓋の表面及び裏面に形成された開口用溝の断面形状は、半径0.1〜0.5mmの曲面で且つその最薄部の厚さが0.035〜0.075mmの範囲内であることが必要である。
【0054】
本発明の缶蓋は、先端半径0.1〜0.5mmの曲面型である1対の上下金型を使用し、最薄部の厚さが0.035〜0.075mmの範囲内になるよう、両面に樹脂層が形成された缶蓋パネルに対しプレス加工を施すことによって形成することができる。曲面型金型を上記寸法形状としたのは、缶蓋に前記寸法形状の加工用溝を形成するためであって、開口用溝の寸法形状の限定理由は、前述した通りである。
缶蓋パネルにプレス加工を施す際に、潤滑剤を使用すれば、金型と樹脂との間の摩擦力が低減するため、樹脂に発生するせん断応力が小さくなり、樹脂と鋼板との界面における剥離の発生を抑制することができる。
【実施例1】
【0055】
以下、本発明の実施例について説明する。
まず、密着層の上層に形成するポリエステルフィルムを製造する。ジオール成分とジカルボン酸成分を、表1および表2に示す比率にて重合したポリエステル樹脂を乾燥、溶融、押し出しし、冷却ドラム上で冷却固化させ、未延伸フィルムを得た後、二軸延伸・熱固定して、二軸配向ポリエステルフィルムを得た。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
次いで、密着層を、上記にて作製したポリエステルフィルムの表面に形成する。ポリエステル樹脂を主成分とする樹脂とイソシアネート化合物などの各種添加剤を、表1および表2に示す質量比にてトルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒中に溶解してコーティング液を作製した。このコーティング液を前記にて得られたポリエステルフィルムの片面に、グラビアロールコーターで用いて塗布・乾燥し、乾燥後の樹脂層の付着量を調整した。乾燥温度は、80〜120℃の範囲とした。なお、表1は缶蓋内面側になる樹脂層成分を示し、表2では缶蓋外面側となる樹脂層成分を示す。
【0059】
鋼板としては、クロムめっき鋼板を用いた。厚さ0.18mm、幅977mmの冷間圧延、焼鈍、調質圧延を施した鋼板を、脱脂、酸洗後、クロムめっきを行い製造した。クロムめっきは、CrO、F、SO2−を含むクロムめっき浴でクロムめっき、中間リンス後、CrO、Fを含む化成処理液で電解した。その際、電解条件(電流密度・電気量等)を調整して金属クロム付着量とクロム水酸化物付着量を、Cr換算でそれぞれ120mg/m、15mg/mに調整した。
【0060】
次いで、図2に示すラミネート装置を用い、前記で得たクロムめっき鋼板4を鋼板加熱装置5で加熱し、ラミネートロール6で前記クロムめっき鋼板4の一方の面に、容器成形後に缶蓋内面側になるポリエステルフィルムとして、表1から作製したフィルム7aをラミネート(熱融着)し、他方の面に、容器成形後に缶蓋外面側となるポリエステルフィルムとして、表2から作製したフィルム7bをラミネート(熱融着)した。その後、鋼板冷却装置8にて水冷を行い、ポリエステル樹脂被覆鋼板を製造した。図4に、ポリエステル樹脂被覆鋼板の断面構造を示す。
ラミネートロール6は内部水冷式とし、ラミネート中に冷却水を強制循環し、フィルム接着中の冷却を行った。樹脂フィルムを鋼板にラミネートする際に、鋼板に接する界面のフィルム温度がフィルムの融点以上になる時間を1〜20msecの範囲内にした。
【0061】
以上の方法にて得られたポリエステル樹脂被覆鋼板に対し、先端半径が0.1〜0.5mmの曲面型である上下1対の金型を使用し、最薄部の厚さが、0.035〜0.075mmの範囲内になるように、缶蓋パネルにプレス加工を施して、その表面に開口用溝を形成し、表3に示すイージーオープン缶蓋の供試体を作製した。なお、比較のために、上記クロムめっき鋼板に対し、樹脂フィルムの構成及び特性、曲面型金型の開口用溝の半径および/または最薄部の厚みが本発明の範囲外である供試体も、あわせて作製した。
【0062】
【表3】

【0063】
上述した本発明の供試体および比較用の供試体の、開缶力(ポップ値、ティア値)および樹脂皮膜の健全性、耐衝撃性、耐レトルト白化性を、以下の方法によって、測定・評価した。また、以上の方法で得られた鋼板上に有する樹脂層の特性について、ラミネート前のフィルムに対して、下記の方法によりそれぞれ測定、評価した。
(1)粒径比、面積換算平均粒子径、数平均粒子径、粒子径の測定及び相対標準偏差σの計算
粒子をポリエステルに配合し、0.2μmの厚みの超薄片にカッティング後、透過型電子顕微鏡で、少なくとも50個の粒子について観察し粒子径の測定を行なった。相対標準偏差σ、数平均粒子径の計算式は下記の通りである。
【0064】
【数1】

【0065】
(2)モース硬度の測定
ダイアモンド・砥石などで平滑な平面に仕上げた順位にある標準鉱石を用意する。各々の面を合わせ、その間に、粒子を挟んで擦り動かし、下位の基準鉱石にキズがつき、上位の基準鉱石にキズがつかない場合、その粒子の硬さは両基準鉱石の中間にあるものとした。
(3)開缶性(ポップ値)
引張試験機を用い、缶蓋に取り付けたタブを一定の速度で引き起こし、蓋開口部が開き始める最初の段階における極大ピーク値によって評価した。
(評点について)
◎:18(N)未満
○:18(N)以上22(N)未満
△:22(N)以上27(N)未満
×:27(N)以上
(4)開缶性(ティア値)
引き裂き開缶値は、タブを蓋面と90度の角度まで引き起こした後、蓋面に対して垂直方向に引き上げた時に観測される初期の極大ピーク値を評価した。
(評点について)
◎:40(N)未満
○:40(N)以上60(N)未満
△:60(N)以上70(N)未満
×:70(N)以上
(5)樹脂皮膜の損傷度の評価(通電試験)
3%塩化カリウム溶液を電解液とし、供試体(缶蓋)を陽極、白金電極を陰極として、印加電圧6.2Vで4秒間通電後の電流値を計測し、評価した。
◎:0.001(mA)未満
○:0.001(mA)以上0.01(mA)未満
△:0.01(mA)以上0.1(mA)未満
×:0.1(mA)以上
(6)耐衝撃性
各供試体(缶蓋)につき10個を、水道水を充填した缶胴部に巻き締めて密閉した。缶を蓋を下向きにして、高さ1.0mから塩ビタイル床面に落下させ、衝撃力が付加されたときの衝撃破壊の有無によって評価した。
(評点について)
○:開口用溝加工部の破損なし
×:開口用溝加工部に破損あり
(7)耐レトルト白化性
缶内に常温の水道水を満たした後、本発明の供試体および比較用の供試体である蓋を巻き締めて密閉した。その後、蓋を下向きにしてレトルト殺菌炉の中に配置し、125℃で90分間、レトルト処理を行った。処理後、缶底部外面の外観変化を目視で観察した。
(評点について)
◎:外観変化なし
○:外観にかすかな曇り発生
△:外観が白濁(白化発生)
×:外観が顕著に白濁(顕著な白化発生)
以上により得られた結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
表4より、本発明例によれば、両面に樹脂層が形成された鋼板からなる缶蓋に開口用溝を形成する際に、缶蓋の両面に形成されているめっき層および樹脂被覆層の損傷による補修塗装を必要とせず、しかもレトルト処理後も良好な色調を維持できる、開缶性に優れたイージーオープン缶蓋が得られているのがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
食品缶詰の蓋等を中心に、容器用途として好適な素材である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】缶蓋に形成された従来の開口用溝部分の断面構造を示す図である。
【図2】鋼板のラミネート装置の要部を示す図である。(実施例1)
【図3】缶蓋に形成された本発明の開口用溝部分の断面構造を示す図である。
【図4】樹脂被覆鋼板の断面構造を示す図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0070】
1 缶蓋
2 開口用溝
3 樹脂層
4 鋼板(クロムめっき鋼板)
5 鋼板加熱装置
6 ラミネートロール
7a、7b フィルム
8 鋼板冷却装置
9 加工工具
10 蓋板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを主成分とする樹脂層を両面に有する樹脂被覆鋼板からなる缶蓋の両面に開口用溝が形成され、該開口用溝を破断することにより開缶する樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋であり、前記樹脂層は、複層構造であり、鋼板との密着層となる樹脂層がブロックフリーイソシアネート化合物を含有し、前記開口用溝の底断面形状は半径0.1mm〜0.5mmの曲面であり、かつ、最薄部の厚さが0.035mmから0.075mmであることを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【請求項2】
前記ブロックフリーイソシアネート化合物中に含まれるNCO基のモル数は、前記密着層を形成するポリエステル樹脂層に含まれるOH基のモル数の0.5倍以上15.0倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【請求項3】
前記密着層となるポリエステル樹脂層の付着量は、0.1μm以上3.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【請求項4】
前記密着層中に着色剤を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【請求項5】
前記密着層中に腐食抑制剤を5PHR以上含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【請求項6】
前記密着層中に導電性ポリマーを0.5PHR以上5.0PHR以下含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【請求項7】
前記密着層の上層を形成するポリエステル樹脂層はポリエステルフィルムから形成され、該ポリエステルフィルムは、ポリエステルの構成単位の93質量%以上がエチレンテレフタレート単位及び/またはエチレンナフタレート単位であり、かつ、面積換算平均粒子径が0.005〜5.0μmであり、式(1)に示される相対標準偏差が0.5以下であり、粒子の長径/短径比が1.0〜1.2で、モース硬度が7未満である粒子を0.005〜10質量%含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋。
【数1】

【請求項8】
両面に樹脂層が被覆された鋼板からなる缶蓋パネルに対し、先端半径0.1mm〜0.5mmの曲面型である上下1対の金型を使用し、最薄部の厚さが0.035mmから0.075mmの範囲内となるように押圧成形を施すことによって、請求項1〜7のいずれかの缶蓋を製造することを特徴とする樹脂被覆鋼板製イージーオープン缶蓋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−13168(P2010−13168A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176592(P2008−176592)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】