説明

樹脂製ブッシュに挿入する軸体の軽係止構造。

【課題】ハウジングで樹脂製ブッシュを介して軸体を受けたアセンブリであり、樹脂製ブッシュに、搬送、保管、組立時の取扱い程度では軸体が抜け外れない係止力の軽係止構造を施すことで、アセンブリの低コスト化を図る。
【解決手段】第1部材に取り付けられる樹脂製ブッシュ11に挿入する第2部材に取り付けられる軸体6が軸方向に移動するのを軽く係止する軽係止構造であり、樹脂製ブッシュ11の一端又は両端の外径を一定範囲に亘って径小にした径小部13を形成するとともに、径小部13の内周に軸体の外周に押当する複数の突起14を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機構を構成するブッシュと軸体といった組合せにおいて、軸体とブッシュを軽く係止する軽係止構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
第2部材を第1部材に対して回転可能に支持する場合、第1部材にブッシュを嵌め込み、これに第2部材に連係する軸体を挿入する構成がとられている。この場合において、ブッシュは金属との滑り相性のよい樹脂製のものが使用されている。これにおいて、軸体はブッシュに対して軸方向に移動してはならないから、その規制構造がとられている。もっとも一般的なものは、軸体を段付きにしてブッシュの一面に当て、他方をスナップリングで止めるか、両方ともスナップリングで止めるかの方法をとっている。
【0003】
これによると、軸体の形状が複雑になってコストが高くなるし、スナップリングの嵌入溝を形成するために軸体の強度も低下する。さらに、スナップリングを要することで部品点数が増すとともに、組立工数も増えてコストが高くなる。ところで、第1部材と第2部材との組付構造如何によっては、殊更、軸体の移動規制をする必要がない場合がある。例えば、自動車のキャビンをフレームに転回可能に支持するヒンジマウントのようなものがそうであるが、キャビンとフレームに取り付けられるブラケット同士が互いに幅方向移動を規制している。
【0004】
このような部品の場合、軸体を樹脂製ブッシュに挿入して二つのブラケットを一つの回転可能品としたアセンブリとして搬送や持ち運びをしている。したがって、この間に軸体がブッシュから抜け落ちては具合が悪い。すなわち、軸体をブッシュに軽係止しておく必要がある。その一例として、ブッシュと軸体の嵌合公差を軸体が抜け落ちない程度に緊くすることが考えられるが、軸体はブッシュ内で回転できなければならないから、あまり緊くもできない。このように、軸体を樹脂製ブッシュに抜け落ちない程度に軽く係止する先行技術は見当たらない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ブッシュにわずかな追加形状を施すことで、軸体をブッシュに軽係止できるようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題の下、本発明は、請求項1に記載した、第1部材に取り付けられる樹脂製ブッシュに挿入する第2部材に取り付けられる軸体が軸方向に移動するのを軽く係止する軽係止構造であり、ブッシュの一端又は両端の外径を一定範囲に亘って径小にした径小部を形成するとともに、径小部の内周に軸体の外周に押当する複数の突起を形成したことを特徴とする樹脂製ブッシュに挿入する軸体の軽係止構造を提供したものである。
【0007】
また、これにおいて、請求項2に記載した、樹脂製ブッシュが第1部材に取り付けられる金属製筒体に圧入されるものである手段、請求項3に記載した、軸体が金属製である手段、請求項4に記載した、金属製筒体及び樹脂製ブッシュがキャビン又はフレームに取り付けられ、金属製軸体がフレーム又はキャビンに取り付けられるキャビンのヒンジマウントである手段を提供する。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の手段によれば、樹脂製ブッシュの一端又は両端の外径を一定範囲に亘って径小にする径小部に形成するとともに、径小部の内周に軸体の外周に押当する複数の突起を形成するだけで、軸体をブッシュに軽係止できることになり、構造が簡単である。したがって、部品点数、組立工数ともに減じてコストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】キャビンマウントの組立前の斜視図である。
【図2】キャビンマウントの組立前の断面図である。
【図3】外筒、樹脂製ブッシュ、軸体の関係を示す要部の一部断面図である。
【図4】外筒、樹脂製ブッシュ、軸体の関係を示す要部の一部断面図である。
【図5】トラックのヒンジマウントの説明図である。
【図6】キャビンマウントの組立を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。本例では、自動車(トラック)のキャビンのヒンジマウントを例にしており、図5はその説明図であるが、キャビン(第1部材)1はフレーム(第2部材)2の上にキャビンマウント3によって前方へ転回可能に支持されている。このキャビンマウント3によるキャビン1のフレーム2への支持は、外筒4を含むハウジング5をキャビン1に連結し、外筒4に内挿される軸体(内筒)6をブラケット7でフレーム2に固定している。これにより、キャビン1はフレーム2に対して防振支持されるとともに、メンテナンス等に際して前方へ大きく転回できるものになっている。
【0011】
図1はヒンジマウント3の組立前の斜視図、図2は同じく断面図、図3はそれぞれ要部の一部断面図であるが、キャビンマウント3を構成する外筒4は、大径の第1外筒8にゴム弾性体9を介して小径の第2外筒10を加硫接着しており、第2外筒10の内周に樹脂製ブッシュ11を圧入し、さらに、樹脂製ブッシュ11の内周に軸体6を挿入しているものである。なお、ゴム弾性体9としては、防振性のよい液封タイプとすることも考えられる。樹脂としては、強度や耐磨耗性に優れるポリアセタールやポリアミド等が適する。
【0012】
これにおいて、樹脂製ブッシュ11の一端(挿入先端側)の外径を一定範囲に亘って径小化、つまり内径をそのままとすれば薄肉化するとともに(本例では途中にテーパ部12を形成している)、この径小部13の内周に複数の突起14を形成している。なお、この突起14は条であってもよいし、点であってもよい。また、形成は、同時成形でもよいし、別成形であってもよい。この他、樹脂製ブッシュの他端側も径小部13に形成するとともに、その内周に突起14を形成してもよい。
【0013】
このときの突起14の高さは軸体6を挿入したとき、突起14の先端が軸体6の外周に押当する程度にしておく。ただ、第2外筒10、樹脂製ブッシュ11及び軸体6の寸法にはバラツキがあるから、このバラツキが大きい場合でも、少なくとも突起14の先端は軸体6に押当するようにしておく。これにより、軸体6は突起14によって軽係止され、少々の軸方向外力が加わったとしても抜け外れるようなことはない。なお、軽係止であるから、軸体6に本格的な回転力が付与されたときには、さしたる抵抗とはならない。
【0014】
図3は第2外筒10の内周と軸体6の外周との隙間が大きい場合であるが、この場合は樹脂製ブッシュ11がほとんど変形(拡径)せず、樹脂製ブッシュ11の突起14が軸体6に押当することになる。図4は隙間が小さい場合であるが、この場合は樹脂製ブッシュ11の内周全体で軸体6を押当するから、突起14は却って障害になるが、径小部13の存在によって突起14が逃げ易くなり、この障害を排している。
【0015】
樹脂製ブッシュ11の外径や高さはこの範囲に入るようにしておけばよいから、成形精度のバラツキについても許容範囲が広い。なお、樹脂製ブッシュ11の圧入側一端を径小部13やテーパ部12に形成することは、これを第2外筒10に圧入するときに操作がスムーズで圧入力を減じる効果もある。
【0016】
ところで、ヒンジマウント3の場合では、外筒4、樹脂製ブッシュ11及び軸体6はアセンブリされ、これを単位に搬送、保管、取扱いがなされるが、このとき、軸体6は突起14によって軽係止されていることから、このような作業のときに軸体6が抜け外れことはない。
【0017】
図6はキャビンマウント3を組み立てた状態の断面図であるが、外筒4はキャビン1側の一つのブラケットとして構成されており、フレーム2側の別のブラケット15と転回可能に連結される。すなわち、軸体6はパイプに構成されており、この中にボルト16を通してナット17で止められる。このとき、軸体6はブラケット15の壁に当たっており、いくらナット17を締めてもブラケット15は変形しない。なお、外筒4を含むブラケットとブラケット15との間には軸体6が樹脂製ブッシュ11より長い分だけの隙間があり、この間で両者は動くが、お互いが当たって止まるようにしておけば十分である(この点で、軸体6の厳格な軸方向移動を規制する必要はない)。
【産業上の利用可能性】
【0018】
以上は、本発明をキャビンに使用するヒンジマウントに適用した例であるが、本発明はこれに限定されない。外筒の中に内筒を樹脂製ブッシュを介して回転可能に嵌合し、これを単位として持ち運びや取扱いをする場合において、軸体の軸方向移動を軽係止しておけば足りるすべての軸受に使用できる。さらに、突起が形成できる場合は、ブッシュが樹脂製である必要はなく、金属やセラミックといった他の素材でもよい。
【符号の説明】
【0019】
1 キャビン
2 フレーム
3 ヒンジマウント
4 外筒
5 ハウジング
6 軸体
7 ブラケット
8 第1外筒
9 ゴム弾性体
10 第2外筒
11 樹脂製ブッシュ
12 テーパ部
13 径小部
14 突起
15 ブラケット
16 ボルト
17 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材に取り付けられる樹脂製ブッシュに挿入する第2部材に取り付けられる軸体が軸方向に移動するのを軽く係止する軽係止構造であり、樹脂製ブッシュの一端又は両端の外径を一定範囲に亘って径小にした径小部を形成するとともに、径小部の内周に軸体の外周に押当する複数の突起を形成したことを特徴とする樹脂製ブッシュに挿入する軸体の軽係止構造。
【請求項2】
樹脂製ブッシュが第1部材に取り付けられる金属製筒体に圧入されるものである請求項1の樹脂製ブッシュに挿入する軸体の軽係止構造。
【請求項3】
軸体が金属製である請求項1又は2の樹脂製ブッシュに挿入する軸体の軽係止構造。
【請求項4】
金属製筒体及び樹脂製ブッシュがキャビン又はフレームに取り付けられ、金属製軸体がフレーム又はキャビンに取り付けられるキャビンのヒンジマウントである請求項3の樹脂製ブッシュに挿入する軸体の軽係止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−106551(P2011−106551A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261477(P2009−261477)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000157278)丸五ゴム工業株式会社 (25)
【Fターム(参考)】