説明

樹脂製品及びその製造方法

【課題】樹脂製品の製造方法において、金型を分割することなくアンダーカットを解消して樹脂製品の外観を向上させる。
【解決手段】基材2をセットした金型15とソフト層成形用金型16とで形成したキャビティに溶融樹脂を射出、充填して基材2の表面にソフト層3が形成された成形品1Aを成形する。このとき、段差6を有するソフト層3の端部を基材2から離して外側へ折曲した形状に形成する。これにより、ソフト層成形用金型16を分割することなく、段差6によるアンダーカットを解消することができる。成形品1Aのソフト層3の端部を基材2に沿って内側へ折返して固定リブ12に加熱、溶着する。ソフト層成形用金型16を分割しないので、ソフト層3の表面にパーティングラインが生じることがなく、樹脂製品の外観を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のインストルメントパネル等の表面にクッション性を有するソフト層が形成された樹脂製品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば図12及び図13に示すように、自動車の内装部品であるインストルメントパネル1(以下、インパネ1という)には、硬質の合成樹脂からなる基材2の表面に発泡成形体等のクッション性を有するソフト層3を形成した2層構造のものがある。このインパネ1には、速度計、回転計、燃料計等の計器類を一体化したメータクラスタ、空調エアの吹出し口であるレジスタ、オーディオの操作パネル等の組付部品4を取付けるために開口部5が形成されている。そして、開口部5の周縁部のソフト層3には、段差6が形成されており、組付部品4を段差6に嵌合することによって組付部品4の外周端部を段差6によって隠して外観の向上を図っている。
【0003】
このように開口部5の周縁部に段差6が形成されたインパネ1を射出成形するための従来の射出成形金型について図14を参照して説明する。図14に示すように、射出成形金型7は、基材2側の金型8とソフト層3側の金型9とでキャビティを形成するが、図中に矢印で示す型開き方向に対して段差6がアンダーカットとなるため、ソフト層3側の金型9の一部が分割されてスライドコア10が設けられている。このように、成形品のアンダーカットを解消するために分割構造とした金型については、例えば特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2005−212370号公報
【0004】
しかしながら、分割構造とした従来のインパネ成形用金型7では、次のような問題がある。金型9には、スライドコア10の分割線11が存在するため、成形品であるインパネ1の表面にパーティングラインPLが形成されることになり、インパネ1の外観が損なわれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、金型を分割することなくアンダーカットを解消して外観を向上させることができる樹脂製品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明は、射出成形によって基材の表面に段差を有するソフト層を形成する樹脂製品の製造方法において、
前記段差が形成される前記ソフト層の端部を前記基材から離した形状の成形品を射出成形し、該成形品の前記ソフト層の端部を前記基材に密着させて固定することを特徴とする。
請求項2の発明に係る樹脂製品の製造方法は、上記請求項1の構成において、前記成形品のソフト層の端部は、前記基材から外側へ折曲された形状であることを特徴とする。
請求項3の発明に係る樹脂製品の製造方法は、上記請求項2の構成において、前記成形品のソフト層の前記基材から外側へ折曲された折曲部の裏側に凹部が形成されていることを特徴とする。
請求項4の発明に係る樹脂製品の製造方法は、上記請求項1の構成において、前記ソフト層の端部は、その裏面に形成された段部によって前記基材から離れた形状となっていることを特徴とする。
請求項5の発明に係る樹脂製品の製造方法は、上記請求項1乃至4のいずれかの構成において、前記ソフト層の端部は、前記基材の裏面側へ折返されて固定されることを特徴とする。
請求項6に係る発明は、射出成形によって基材の表面に段差を有するソフト層を形成した樹脂製品において、
前記段差が形成される前記ソフト層の端部を前記基材から離した形状の成形品を射出成形し、該成形品の前記ソフト層の端部を前記基材に密着させて固定したことを特徴とする。
請求項7の発明に係る樹脂製品は、上記請求項6の構成において、前記成形品のソフト層の端部は、前記基材から外側へ折曲された形状であることを特徴とする。
請求項8の発明に係る樹脂製品は、上記請求項7の構成において、前記成形品のソフト層の前記基材から外側へ折曲された折曲部の裏側に凹部が形成されていることを特徴とする。
請求項9の発明に係る樹脂製品は、上記請求項8の構成において、前記ソフト層の端部は、その裏面に形成された段部によって前記基材から離れた形状となっていることを特徴とする。
請求項10の発明に係る樹脂製品は、上記請求項6乃至9のいずれかの構成において、前記ソフト層の端部は、前記基材の裏面側へ折返されて固定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、段差を形成するソフト層の端部を基材から離すことにより、金型を分割することなく、ソフト層の段差によって生じるアンダーカットを解消することができるので、ソフト層の表面にパーティングラインが生じることがなく、樹脂製品の外観を向上させることができる。また、金型を簡素化して製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、図12及び図13に示す従来例に対して、同様の部分には同一の符号を付して、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0009】
本実施形態に係るインパネの図12におけるA−A線による縦断面を図3に示す。図3に示すインパネ1を製造するための成形品を図2に示す。図3に示すように、インパネ1(樹脂製品)は、硬質の合成樹脂からなる基材2の表面には、発泡成形された合成樹脂からなるクッション性を有するソフト層3が形成されている。インパネ1は、メータクラスタ取付用の開口部5の上部が内側へ湾曲されて断面形状が略J字形となっている。開口部5の縁部には、ソフト層3の表面を薄肉化して段差6が形成されている。
【0010】
インパネ1は、図2に示す成形品1から製造されている。ここで、インパネ1を製造するための射出成形品について図2を参照して説明する。図2に示すように、成形品1Aは、インパネ1を製造するための射出成形品であり、ソフト層3の端部は、基材2の末端部の手前で基材2から離して外側へ折曲した形状に形成されており、段差6がインパネ1のほぼ正面に向けられている。また、ソフト層3の端部は、基材2の末端よりも長く延ばされている。基材2の裏面にはインパネ1の前後方向に延びる複数の固定リブ12が立設され、また、ソフト層3の端部にはスリット13が形成されている。そして、図3に示すように、ソフト層3の端部は、基材2に沿って基材2の端部を覆うように内側へ折返され、固定リブ12がスリット13に挿入されて固定リブ12の先端部が加熱、溶着(熱カシメ)されている。このようにして、ソフト層3の端部を基材2に密着、固定されてインパネ1が完成される。組付部品4は、その外周端部を段差6に嵌合してインパネ1の開口部5に取付けられる。
【0011】
次に、本実施形態に係るインパネ1の製造方法について、図1乃至図3を参照して説明する。
図1に示すように、予め射出成形された基材2を発泡成形金型14のキャビティ内にセットする。このとき、基材2を射出成形する際に使用した一方の金型15(基材2の固定リブ12を有する裏面側を成形して金型)を引続き使用し、他方の金型をソフト層成形用金型16に交換することによって工程を簡素化することができる。基材2がセットされた金型15とソフト層成形用金型16とで図2に示す成形品1Aを成形するためのキャビティを形成する。このとき、段差6を有するソフト層3の端部が基材2の末端部の手前で基材2から離れて外側へ折曲した形状であり、段差6がインパネ1のほぼ正面に向けられているので、図1中に矢印で示す型開き方向に対して段差6がアンダーカットにならない。
【0012】
金型15及びソフト層成形用金型16は、溶融樹脂を射出、充填するキャビティを形成する射出充填位置と、射出充填位置から数mm程度開いて成形品1Aの形状のキャビティを形成する発泡位置(図1参照)とを切換えることができるようになっている。そして、射出充填位置において、ソフト層3を成形するための発泡剤、ガス等を含む溶融樹脂をキャビティ内に射出、充填し、その後、金型を数mm程度開いて発泡位置とし、発泡剤、ガス等による発泡を促進して基材2の表面に発泡体としてソフト層3を成形する。そして、発泡が完了して冷却、固化した後、金型を開いて成形品1Aを離型する。
【0013】
離型された成形品1Aのソフト層3の端部を図3に示すように基材2に沿って内側へ折返して基材2の端部を覆い、固定リブ12をスリット13に挿入し、固定リブ12の先端部を加熱、溶着してソフト層3の端部を基材2に密着、固定してインパネ1を完成する。
【0014】
このようにして、インパネ1の意匠面を成形する金型を分割することなくアンダーカットを解消することができ、開口部5の縁部に段差6を有するインパネ1を製造することができる。このようにして製造されたインパネ1は、意匠面を成形する金型を分割しないので、意匠面にパーティングラインが形成されることがなく、外観が損なわれることがない。また、金型を分割構造とすることなく、アンダーカットを解消することができるので、金型を簡素化することができ、製造コストを低減することができる。
【0015】
次に、本発明の他の実施形態について、図4乃至図11を参照して説明する。なお、以下の説明において、上記第1実施形態に対して、同様の部分には同一の符号を付して異なる部分についてのみ詳細に説明する。
【0016】
本発明の第2実施形態について図4及び図5を参照して説明する。図5に本実施形態に係るインパネ17を示し、図4にインパネ17を製造するための成形品17Aを示す。本実施形態に係るインパネ17及び成形品17Aでは、上記第1実施形態の固定リブ12の代りに、基材2の裏面に基材2の末端から突出する固定ピン18が立設され、また、ソフト層3の端部には、スリット13の代りに固定孔19が設けられている。そして、図5に示すように、ソフト層3の端部を折返して固定ピン18を固定孔19に挿通させ、固定ピン18の先端部を加熱、溶着することによってソフト層3が基材2に密着、固定されている。これにより、固定ピン18の先端部が基材2から突出しているので、加熱用工具を湾曲した基材2の内側へ挿入する必要がなく、加熱、溶着を容易に行うことができる。
【0017】
本発明の第3実施形態について図6を参照して説明する。図6に本実施形態に係るインパネを製造するための成形品20Aを示す。本実施形態に係る成形品20Aでは、上記第1実施形態の固定リブ12の代りに、基材2の末端部に複数の矩形の凸状部21が形成され、また、ソフト層3の端部に複数の矩形の切欠部22が形成されている。そして、上記第2実施形態と同様、ソフト層3の端部を基材2の内側へ折返して凸状部21を切欠部22に係合させ、凸状部21の先端部を加熱、溶着することによってソフト層3が基材2に密着、固定されている。これにより、上記第2実施形態と同様、加熱用工具を湾曲した基材2の内側へ挿入する必要がなく、加熱、溶着を容易に行うことができる。
【0018】
本発明の第4実施形態について図7及び図8を参照して説明する。図8に本実施形態に係るインパネ23を示し、図7にインパネ23を製造するための成形品23Aを示す。本実施形態に係るインパネ23及び成形品23Aでは、上記第3実施形態に対して、切欠部22の代わりにソフト層3の端部の裏面に凸状部21に係合する矩形の凸部24が形成されている。そして、ソフト層3の端部を基材2の表面に密着させ、凸部24を基材2の凸状部21に係合させて凸部24の先端部を加熱、溶着することにより、ソフト層3を基材2に密着、固定することができる。
【0019】
本発明の第5実施形態について図9を参照して説明する。本実施形態に係るインパネを製造するための成形品25Aを図9に示す。本実施形態に係る成形品25Aでは、上記第1実施形態に対して、ソフト層3の端部の折曲部の裏面に凹部26が形成されている。これにより、ソフト層3の端部を折返して基材2に密着させる際に、折曲部を容易に折り曲げることができ、折曲後の平滑性を高めることができる。
【0020】
本発明の第6実施形態について図10及び図11を参照して説明する。図11に本実施形態に係るインパネ27を示し、図10にインパネ27を製造するための成形品27Aを示す。本実施形態に係る成形品27Aでは、ソフト層3の端部が基材2の表面に沿って延ばされ、その裏面側が切欠かれて段部28が形成されている。これにより、図1に示す型開き方向に対してアンダーカットを生じることなく段部28を有するソフト層3を成形することができる。そして、図11に示すように、ソフト層3の段部28が形成された端部を基材2の表面に密着させることによってソフト層3の表面に段差6を形成し、ソフト層3の端部を接着剤等によって基材2に固定する。このようにして、アンダーカットを生じることなくソフト層3の表面に段差6を形成することができる。なお、この場合、上記第1乃至第5実施形態と同様、ソフト層3の端部を基材2の裏側へ折返すようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係るインパネを製造するための成形品をキャビティ内に収容した金型の縦断面図である。
【図2】図1に示す成形品を図12のA−A線によって破断して示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るインパネの図12のA−A線による縦断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るインパネを製造するための成形品を図12のA−A線によって破断して示す斜視図である。
【図5】本発明の第2実施形態に係るインパネの図12のA−A線による縦断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係るインパネを製造するための成形品を図12のA−A線によって破断して示す斜視図である。
【図7】本発明の第4実施形態に係るインパネを製造するための成形品を図12のA−A線によって破断して示す斜視図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係るインパネの図12のA−A線による縦断面図である。
【図9】本発明の第5実施形態に係るインパネを製造するための成形品を図12のA−A線によって破断して示す斜視図である。
【図10】本発明の第6実施形態に係るインパネを製造するための成形品を図12のA−A線によって破断して示す斜視図である。
【図11】本発明の第6実施形態に係るインパネの図12のA−A線による縦断面図である。
【図12】自動車のインパネの斜視図である。
【図13】従来のインパネの図12のA−A線による縦断面図である。
【図14】図13に示す従来のインパネの成形品をキャビティ内に収容した従来の金型の縦断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 インパネ、1A 成形品、2 基材、3 ソフト層、6 段差


【特許請求の範囲】
【請求項1】
射出成形によって基材の表面に段差を有するソフト層を形成する樹脂製品の製造方法において、
前記段差が形成される前記ソフト層の端部を前記基材から離した形状の成形品を射出成形し、該成形品の前記ソフト層の端部を前記基材に密着させて固定することを特徴とする樹脂製品の製造方法。
【請求項2】
前記成形品のソフト層の端部は、前記基材から外側へ折曲された形状であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
前記成形品のソフト層の前記基材から外側へ折曲された折曲部の裏側に凹部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項4】
前記ソフト層の端部は、その裏面に形成された段部によって前記基材から離れた形状となっていることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項5】
前記ソフト層の端部は、前記基材の裏面側へ折返されて固定されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の樹脂製品の製造方法。
【請求項6】
射出成形によって基材の表面に段差を有するソフト層を形成した樹脂製品において、
前記段差が形成される前記ソフト層の端部を前記基材から離した形状の成形品を射出成形し、該成形品の前記ソフト層の端部を前記基材に密着させて固定したことを特徴とする樹脂製品。
【請求項7】
前記成形品のソフト層の端部は、前記基材から外側へ折曲された形状であることを特徴とする請求項6に記載の樹脂製品。
【請求項8】
前記成形品のソフト層の前記基材から外側へ折曲された折曲部の裏側に凹部が形成されていることを特徴とする請求項7に記載の樹脂製品。
【請求項9】
前記ソフト層の端部は、その裏面に形成された段部によって前記基材から離れた形状となっていることを特徴とする請求項8に記載の樹脂製品。
【請求項10】
前記ソフト層の端部は、前記基材の裏面側へ折返されて固定されていることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の樹脂製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−313752(P2007−313752A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145780(P2006−145780)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】