説明

樹脂製構造体を道路の下に埋設している道路構造

【課題】道路下に埋設される空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体が備えるべき強度条件を設定し、それにより、高い安全性を備えた道路構造を得る。
【解決手段】道路3の道路構造において、樹脂製構造体Aは、水平応力・ひずみ曲線での比例領域における最大剪断ひずみが、応答変位法により算出される道路構造設計時の最大設計応答速度での樹脂製構造体Aが埋設される予定の埋設深度における地層の剪断ひずみを超えないように設計されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製構造体を道路の下に埋設している道路構造に関する。
【背景技術】
【0002】
空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体を、道路の下に埋設することで、道路の下を貯水槽などとして利用できるようにした道路構造はすでに知られており、特許文献1あるいは特許文献2などに記載されている。また、地中に埋設する樹脂製構造体、すなわち空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体も多くの形態のものが知られており、その一例が特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−36383号公報
【特許文献2】特開2006−266034号公報
【特許文献3】特開2009−24447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多くの道路は、地震発生時に生じる水平荷重(剪断荷重)によって崩壊しないだけの強度を持つように、路面下の地盤設計がなされている。また、車両等の重量物がその上を繰り返して通過することを前提に、車両等の通過によって路面に不規則な凹凸が生じないように、土層および表層に対して種々の強度設計が施され、車両交通の安全性を確保している。従来、そのような道路の強度設計は、路面下が、土砂構造物あるいは土砂と基礎杭との構造物であることを条件になされており、近年に至り、発泡樹脂ブロックを軽量盛土として路面下の地中に埋設した道路構造体についても、道路の強度設計がなされるようになってきている。
【0005】
しかし、路面下に空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体が埋設された構造を備える道路については、十分な強度解析がなされてなく、過去の経験によって樹脂製構造体に必要な圧縮強度や剪断強度を設定し、道路の設計と施工を行っているのが一般的である。そのようなことから、施工に当たって標準となる強度に関する指針が求められている。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、道路下に埋設される空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体が備えるべき強度条件を設定し、それにより、道路構造の高い安全性を保全することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、多くの実験とシミュレーション計算を行うことにより、道路下に埋設される樹脂製構造体が備えるべき最大剪断ひずみ量を、応答変位法によって算出される地層の剪断ひずみ量との関係で設定することにより、課題を解決できることを知見した。また、特定条件のもとで繰り返し荷重を樹脂製構造体に与えときに当該樹脂製構造体に生じるひずみが、樹脂製構造体の垂直応力・ひずみ曲線での弾性範囲内にあるように設計することで、さらに安全性の高い道路構造を得られることを知見した。本発明は、本発明者らが得た上記知見に基づいている。
【0008】
本発明による道路構造は、空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体が路面下の地盤中に埋設されてなる道路構造であって、前記樹脂製構造体は、水平応力・ひずみ曲線での比例領域における最大剪断ひずみが、応答変位法により算出される当該道路構造設計時の最大設計応答速度での前記樹脂製構造体が埋設される予定の埋設深度における地層の剪断ひずみを超えないように設計されていることを特徴とする。
【0009】
樹脂製構造体の最大剪断ひずみを上記のように設定することにより、樹脂製構造体は、地震発生時に生じる周囲の地盤の水平移動に破壊(塑性変形)することなく追従する。それにより、樹脂製構造体が路面下の地盤中に埋設されてなる道路構造が、地震時の樹脂製構造体の破損に起因して破壊するのを阻止することができ、安全性の高い道路構造が得られる。
【0010】
道路は、その路面上を多くの車両が繰り返し通過する。道路の安全性を保全するために車両の軸加重によって路面に凹凸が生じるのを極力回避すべきであるが、完全に回避することは容易でない。道路の安全性を確保するために、樹脂製構造体が路面下の地盤中に埋設されてなる道路構造においても、当該樹脂製構造体の垂直方向のひずみに起因して、路面の凹凸が大きくなるのは回避しなければならない。
【0011】
上記の道路構造において、前記樹脂製構造体を、最小載荷重10kN/m、最大載荷重70kN/mでの繰り返し圧縮載荷100万回の終了後であっても、載荷重70kN/mを載荷したときの垂直ひずみが垂直応力・ひずみ曲線での比例領域内にあるように設計することで、上記の課題を解決することができる。
【0012】
なお、「最小載荷重10kN/m、最大載荷重70kN/mでの繰り返し圧縮載荷100万回の終了後」の条件は、本発明者らの経験から、道路として最も過酷な条件として選定したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体が路面下の地盤中に埋設されてなる道路構造において、道路構造の高い安定性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による道路構造の一例を示す模式的図。
【図2】樹脂製構造体の剪断ひずみ量の測定方法を説明する図。
【図3】樹脂製構造体の繰り返し圧縮試験方法を説明する図。
【図4】繰り返し圧縮試験による応力履歴を受けた後の樹脂製構造体の対する圧縮荷重と垂直ひずみの関係を示すグラフ。
【図5】試験に用いた空間を有する樹脂製構造部材の要部を説明する図。
【図6】本発明による道路構造を実車走行試験したときの道路の縦断図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による道路構造を本発明者らが行った試験結果とともに説明する。
図1は、本発明による道路構造の一例を示す模式的図であり、例として図5に示すような、内部に空間を有する樹脂製構造部材Bを多段に積み上げて構成される樹脂製構造体Aが路面1の下の地盤中に埋設されている。この例において、図1は道路を横断する方向での模式的断面図であり、樹脂製構造体A上の地上部は舗装2を備えた道路3とされており、該道路3の路線方向に沿って樹脂製構造体Aは所定の長さで地中に埋設されている。
【0016】
最初に、樹脂製構造体Aの剪断ひずみ量について考察する。道路3の安全性を確保するためには、地震時での地盤の水平方向の移動によって、破壊等が生じないことが必要となる。そのためには、地震動による地盤の剪断ひずみが樹脂製構造体Aの許容剪断ひずみを超えないことが条件となる。換言すれば、地震時に当該道路3の地盤に水平方向の移動(剪断ひずみ)が生じたときに、その移動に追従して樹脂製構造体Aが弾性限界内での剪断方向のひずみを生じる場合には、樹脂製構造体Aに破損は生じない。
【0017】
次に、解析モデルを用いての耐震性能に関する条件を検討する。表1は本発明者らが行った検討条件を示している。
【0018】
【表1】

【0019】
上記の条件内で組み合わせを代えた多くのモデルについて、応答変位法に即して、樹脂製構造体Aの埋設予定深度である5mでの地盤の剪断ひずみ(%)を演算した。その結果のうち代表的な2つ(a)(b)について表2に示した。
【0020】
【表2】

【0021】
なお、上記の実験条件において、樹脂製構造体Aの予定埋設深さを5mとしたのは、従来使用されている、例えば特許文献3に記載されるように、貯水槽等を形成するために地中に埋設する樹脂製構造体は、地盤からの側圧による変形を回避するために、5m前後の深さに埋設されるのが一般的であることによる。また、上記条件での種々の組み合わせによるモデルにおいて、モデルbが最も大きな剪断ひずみを示した。
【0022】
したがって、上記の地盤条件のもので、路面の下に樹脂製構造体を埋設した道路構造とする場合、水平応力・ひずみ曲線での比例領域における最大剪断ひずみ1.57を超えないように設計された当該樹脂製構造体を地中5m程度の所に埋設することにより、設計最大設計応答速度を超えないレベルの地震振動が起こっても、樹脂製構造体は弾性体としての挙動を示し、樹脂製構造体に破壊等が生じないことがわかる。より大きな最大設計応答速度を引き起こす地震を設計条件とする場合には、その値に応じた応答変位法による演算を行い、地盤の最大剪断ひずみを設定することとなる。
【0023】
樹脂製構造体Aの最大剪断ひずみ量は適宜の手法により測定することができる。図2はその一例を示している。この例では、前記した特開2009−24447号公報に記載されている樹脂製構造部材Bを交互に90度位置をずらして10段に積み上げたものを用いている。
【0024】
図5は、特開2009−24447号公報に記載されている樹脂製構造部材の要部を示しており、箱状部8が、上面を形成する天板8Aと該天板8Aの外周縁から下方へ延びる4つの側板8B,8C,8D,8Eとを備え、前記天板8Aのうちの箱状部併設方向両端部8d,8eを中間部8cよりも低くし、該低くなった両端部8a,8bを、上側に位置する構造部材の下端、つまり箱状部8の併設方向と直交する方向の両端の下端8d,8eを載置して支持させるための載置部としている。前記下端8d,8eは、箱状部8の下端8fよりも上方に位置し、箱状部8,8間に位置する下端8eの箱状部8の併設方向と直交する方向の寸法が、端に位置する下端8dよりもほぼ2倍の寸法になっており、図5に示すように、隣り合う箱状部8,8の両端部の載置部8b,8aに下端8eが載置できるようになっている。構造部材を積み上げたときに、上側に位置する構造部材の箱状部8に、下側に位置する構造部材の箱状部8の中間部8cが入り込んで上側に位置する構造部材が箱状部併設方向と直交する方向(矢印X方向)への移動を阻止するべく、箱状部8の下端部の箱状部併設方向と直交する開口寸法L2を、箱状部8の中間部8cの箱状部併設方向の外形寸法よりも大きく設定して、構造部材を積み上げた状態においては、上側に位置する構造部材が箱状部併設方向と直交する方向Xへの移動を阻止することができるだけでなく、部品点数の削減化を図ることができるとともに組付け作業面において有利にすることができるようにしている。また、構造部材は各種の樹脂材料により成形された成形品であり、構造部材を積み上げたときに、下側の構造部材の載置部に載置される上側の構造部材の箱状部8の底部とこれに対応する前記第2側板8B,8Cとを上下方向で連結する縦向きの複数(ここでは4本であるが、何本であってもよい)の補強用のリブ8Rを備えることによって、特に荷重の加わる箇所での補強を行うことができ、軽量化を図りながらも変形や破損に対して有利になる。なお、この形態の樹脂製構造部材Bは、前記した特開2009−24447号公報に詳細に記載されており、必要に応じて、該公報の内容が参照される。
【0025】
図5に示す樹脂製構造部材Bを交互に90度位置をずらして10段に積み上げることで、図2に示すように、底辺が994mm、高さが1192.5mmの立方体である樹脂製構造体Aとした。その下段を固定し、上段に載荷板をおいてその上に押さえ板をローラーを介して配置する。そして、水平方向に作用する油圧シリンダーを配置して、最上段の樹脂製構造部材Bに荷重計を介して10mm/minの水平荷重を加える。水平方向のひずみは変位計により計測する。なお、実験で用いた樹脂製構造部材Bは、ポリプロピレン樹脂製で厚みがほぼ2mm、補強用のリブ8Rの厚みも2mmのものである。
【0026】
図2に示した試験装置により、当該樹脂製構造体Aの水平応力・ひずみ曲線を得たところ、剪断ひずみ6%程度までは、応力とひずみが比例する弾性領域を示した。したがって、この構成を備えた樹脂製構造体Aを、表1に示した条件下にある土壌の5mの深さに埋設することで、路面下に貯水槽を備えた道路構造とした場合に、設計地震レベル内においては樹脂製構造体Aが損傷することのない、安定した道路構造が得られることとなる。
【0027】
次に、上記構成を備えた樹脂製構造体Aを道路の下に埋設した道路において、その道路面を車両が反覆して通過することで、樹脂製構造体Aに同様な垂直方向のひずみが生じるかについて、検討した。すなわち、樹脂製構造体Aを車道下に適用した場合、応力履歴によるひずみ(垂直方向ひずみ)量が大きいと、樹脂製構造体Aのひずみに起因して道路面の沈下や、舗装面に段差ができるなど、悪影響が発生する。
【0028】
そこで、剪断ひずみ試験で用いたと同じ樹脂製構造体Aに対して、垂直方向の繰り返し圧縮試験を行った。図3は、繰り返し圧縮試験装置を示しており、水平基板上に樹脂製構造体Aを置き、最上部に載荷板を配置し、該載荷板を介して、油圧シリンダーによる繰り返し加重を100万回加えた。裁荷重は、最小載荷重10kN/m、最大載荷重70kN/mで、周波数は1.45Hzとした。なお、最小載荷重10kN/mは0.6mの覆土に相当するものであり、最大載荷重70kN/mは、樹脂製構造体Aの許容圧縮強度である。この試験条件は、きわめて過酷な使用条件下にある車道における、車道上を走行する車両によって生じる軸加重および走行輪数を超えるものである。
【0029】
したがって、上記の繰り返し圧縮試験を行った後の樹脂製構造体Aに対して、再び載荷重70kN/mを載荷したときの垂直ひずみが、垂直応力・ひずみ曲線での比例領域内にあるように設計することにより、通常の保守体制下にある道路において、路面の下に埋設した樹脂製構造体Aのひずみに起因して、道路面の沈下や舗装面に段差ができるなどの悪影響が発生するのを確実に阻止することが可能となり、空間を有する樹脂製構造部材Bを多段に積み上げて構成される樹脂製構造体Aが路面下の地盤中に埋設されてなる道路構造の安定性をさらに向上させることができる。
【0030】
図4は、前記した図5に示した、ポリプロピレン樹脂製で厚みがほぼ2mm、補強用のリブ8Rの厚みも2mmである樹脂製構造部材Bを10段積み上げた樹脂製構造体Aに対して、上記の繰り返し圧縮試験を行った後に、その樹脂製構造体Aに対して行った圧縮応力・垂直ひずみ曲線であり、130〜140kN/mの応力値まで、応力とひずみは比例関係和保持しており、上記樹脂製構造体Aは、垂直方向の加重に対しても、硬い安定性を示すことがわかる。
【0031】
したがって、上記樹脂製構造体Aを路面下に埋設している道路は、地震時での水平振動と車両の通過による垂直応力の双方に対して、安全性の高い道路構造となる。
【0032】
本発明者らは、さらに、上記樹脂製構造体Aを地中に埋設した道路(試験工区)と、埋設しない道路(比較工区)を実際に作成して、走行試験を行った。走行試験を行った道路の縦断面を図6に示した。走行車重量は324.3kN、軸重は、前69.1kN、後前128.1kN、後後127.1kNであり、それを20万輪(49kN相当)走行させた。その結果、試験工区の平坦性は、20万輪後において比較工区と同程度であった。また、試験工区の20万輪後の平坦性は、「路面の補修要否の判断目標値、路面の維持修理基準」で交通量の多い一般道路で維持補修要否判断の目標値されている4.0mmを下回る結果であった。
【符号の説明】
【0033】
1…路面、
2…舗装、
3…道路、
A…貯水槽等を形成する樹脂製構造体、
B…空間を有する樹脂製構造部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間を有する樹脂製構造部材を多段に積み上げて構成される樹脂製構造体が路面下の地盤中に埋設されてなる道路構造であって、
前記樹脂製構造体は、水平応力・ひずみ曲線での比例領域における最大剪断ひずみが、応答変位法により算出される当該道路構造設計時の最大設計応答速度での前記樹脂製構造体が埋設される予定の埋設深度における地層の剪断ひずみを超えないように設計されていることを特徴とする道路構造。
【請求項2】
請求項1に記載の道路構造であって、前記樹脂製構造体は、最小載荷重10kN/m、最大載荷重70の繰り返し圧縮載荷100万回の終了後であっても、載荷重70kN/mを載荷したときのひずみは垂直応力・ひずみ曲線での比例領域内にあることを特徴とする請求項1に記載の道路構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−211482(P2012−211482A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77951(P2011−77951)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】