樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ
【課題】高作動角時における蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力を低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力を減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができ、かつ蛇腹の谷部がジョイント内に噛み込まれて破損するのを防ぎ得るようにする。また、高作動角時に大径取付部のバンド固定部周辺での亀裂や摩耗を防ぐ。
【解決手段】等速ジョイント2の外輪7に固定される大径取付部4と、シャフト8に固定される小径取付部5と、これら両取付部4,5の間に形成された蛇腹部3と、大径取付部4と蛇腹部3とを繋ぐ連結部6とを備えた樹脂製CVJブーツにおいて、蛇腹部3の連結部6に隣接または近傍の少なくとも1個の谷の内径Gと等速ジョイントの外輪外径FとをG>0.7Fの関係にして、高作動角時の蛇腹部の圧縮時に外輪外周面上に連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷部11が乗り上げるようにしている。
【解決手段】等速ジョイント2の外輪7に固定される大径取付部4と、シャフト8に固定される小径取付部5と、これら両取付部4,5の間に形成された蛇腹部3と、大径取付部4と蛇腹部3とを繋ぐ連結部6とを備えた樹脂製CVJブーツにおいて、蛇腹部3の連結部6に隣接または近傍の少なくとも1個の谷の内径Gと等速ジョイントの外輪外径FとをG>0.7Fの関係にして、高作動角時の蛇腹部の圧縮時に外輪外周面上に連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷部11が乗り上げるようにしている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに装着されてグリース保持および防塵などのために使用されるフレキシブルブーツ(本明細書においてはこのようなフレキシブルブーツを総称してCVJブーツという)に関する。更に、詳述すると、本発明は樹脂製CVJブーツの高作動角化を可能とする蛇腹構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CVJブーツは、耐オゾン性や耐摩耗性についての要求を十分に満足させるため、樹脂製であることが主流となっている。この樹脂製CVJブーツは、ゴム製の場合に比べて柔軟性に劣ることから、蛇腹の山数を増やすことなどで変形し易い構造を採るように工夫されている。それにもかかわらず、樹脂製CVJブーツでは、高作動角をとったときの蛇腹と連結部との間に加わる圧縮力(応力)が集中する部位が生じやすく、繰り返し屈曲に対する必要な耐疲労性が得られない問題がある。
【0003】
例えば、樹脂製ジョイントブーツにおいては、等速ジョイント作動角が大きくなったときに、この傾きに追随して蛇腹が折り曲げられる際の折り曲げトルクが大きくなる傾向にある。この折り曲げトルクは、両端の固定部をブーツ内側から剥がす向きの力として作用するため、シール性を損ないグリース漏れを起こすおそれがある。
【0004】
そこで、図8に示すように、大口径端短円筒部(大径取付部)101及び小口径端短円筒部(小径取付部;図示省略)において内周面側にシール用突条102が形成されると共に、このシール用突条102のジョイントブーツ軸方向における幅の中央部の外周面側に開口における幅寸法が深さ寸法に比べて同一か又はより大きい条溝103が備えられるようにして、締め付けバンドの締め付け力を増加させることなく充分なシール性が得られるようにした高作動角に対応する樹脂製CVJブーツが従来提案されている(特許文献1)。尚、図中の符号104は等速ジョイントの外輪、105はブーツの蛇腹部、106は蛇腹部と大口径端短円筒部とを繋ぐ円筒状連結部、109は谷部である。
【0005】
また、特許文献1にも開示されているように、樹脂製ジョイントブーツにおいては、等速ジョイントの外輪(アウターケース)104の端縁よりも奥側で大径取付部101が締め付けバンド108により固定されることから、大径取付部101と蛇腹部105とを繋ぐ円筒状の連結部106を備えることが一般的である。この円筒状連結部106を持つジョイントブーツにおいては、作動角を大きくした状態で回転させたときに、蛇腹部105の最も大径取付部側の谷部109が外輪104の先端面110に接触することに起因して大径取付部101に隣接する蛇腹部104の谷部109において耐久性が劣るという問題を有している。すなわち、図9並びに図10に示すように、屈曲内側において、蛇腹部105の大径取付部側の最初の谷部が、2番目以降の谷部によって外輪104の先端面110に押し付けられるように変形することに起因しているものと考えられる。尚、図中の符号107は等速ジョイントのシャフト、111は小径取付部である。
【0006】
そこで、図11に示すように、大径取付部201が外輪205の先端部外周を取り囲む筒状連結部203を介して蛇腹部202と連結されており、該筒状連結部203が軸方向中央部において半径方向内方に凹んだくびれ状に形成されたCVJブーツが提案されている(特許文献2)。つまり、蛇腹部202の谷部204が外輪205の端面に接触しないように空間Sをあけるように変形させる構造のCVJブーツが提案されている。このように筒状連結部203をくびれた筒状とすることにより、高作動角としたときに筒状連結部203を適度に撓ませることで蛇腹部204の大径取付部201側の谷部204が外輪205の先端面に接触することを回避することができ、耐久性を向上することができる。尚、図中の符号206はブッシュである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−228016
【特許文献2】特開2007−120580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、樹脂製CVJブーツは、図12に示すように、外輪とシャフトの寸法、最大作動角によって、ブーツ圧縮側の畳み込み間隔L1は決まってしまう。そして、作動角が高角度になると、より畳み込み間隔L1が小さくなる。一方、高角度にする場合にはブーツ伸び側の展開間隔L2がより大きくなるので、膜長が不十分であるとブーツの自然凹みが発生してブーツが機能しなくなることから、蛇腹の山数を減らすことはできない。このため、特許文献1の樹脂製CVJブーツ構造では、図10に示すように、高作動角が付いた場合に蛇腹105が外輪104と接触し、また蛇腹105が外輪104とシャフト107との間に挟まれて蛇腹105同士の接触圧が高くなり摩耗を生じるなどして、耐久性が低下する問題がある。
【0009】
また、蛇腹の谷部がジョイント内に噛み込んで破損したり、連結部が圧縮されてバンド固定部を変形させバンド固定部立ち上がり面とバンドとの接触またはバンド固定部底面のバンドエッジとの接触部の折れ曲がり等が生じる危険がある。
【0010】
他方、筒状連結部203をくびれた筒状とすることにより、高作動角としたときに筒状連結部203を適度に撓ませることで蛇腹部202の大径取付部側の谷部204が外輪205の先端面に接触することを回避する特許文献2のCVJブーツ、即ち蛇腹部の谷部が外輪の端面に接触しないように変形させる構造のCVJブーツでも、ブーツ圧縮側の畳み込み間隔L1は外輪とシャフトの寸法、最大作動角によって一義的に決まってしまうので、図11に示すように空間Sを設けて蛇腹部202の大径取付部側の谷部204が外輪205の先端面に接触することを回避するように変形することで却って蛇腹202同士の接触圧が高くなり摩耗を生じて耐久性が低下する問題が生ずる。
【0011】
そこで本発明は、高作動角時における蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力を低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力を減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができ、かつ蛇腹の谷部がジョイント内に噛み込まれて破損するのを防ぐことができる樹脂製CVJブーツを提供することを目的とする。また、本発明は、高作動角時に大径取付部のバンド固定部周辺での亀裂や摩耗を防ぐ樹脂製CVJブーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、等速ジョイントの外輪外周面に固定される大径取付部と、等速ジョイントのシャフトに固定される小径取付部と、これら両取付部の間に形成された円錐形または砲弾形に山谷径を漸減させる蛇腹部と、大径取付部と蛇腹部とを繋ぐ連結部とを備えた樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、蛇腹部の連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷の内径Gと等速ジョイントの外輪外径FとをG>0.7Fの関係して、高作動角時の蛇腹部の圧縮時に外輪外周面上に連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷部が乗り上げるようにしている。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、連結部が等速ジョイントの外輪の外側に向けて屈曲可能にされるようにしている。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、連結部が等速ジョイントの外輪に向けて内向きに突出する円弧状であり、蛇腹部からの圧縮力を受けたときに等速ジョイントの外輪の外側に向けて反り返るように屈曲可能としている。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、蛇腹部の圧縮時に外輪外周面上に乗り上げる谷部の内径が等速ジョイントの外輪の端面における内径よりも大きい関係にあることを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、連結部の屈曲点の内径Eと外輪の外径FがF‐10mm≦E≦F+2mmの関係にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の樹脂製CVJブーツによれば、高作動角時の蛇腹部の圧縮側で外輪外周面上に連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷部が乗り上げるようにしているので、その分だけ外輪とシャフトとで挟まれる蛇腹の量が減り、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力を低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力を減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。また、高作動角時における蛇腹の伸長側(開き側)の間隔と、圧縮側(畳み側)の間隔との差が小さくなり、ブーツの撓みが緩やかになることから、回転がスムーズになる。さらに、高作動角時には蛇腹の少なくとも1個の谷部が外輪外周面上に乗り上げるので、それに隣接する蛇腹の谷部がシャフトから離れるように全体に撓むため、谷部がジョイント内に噛み込まれる危険が少なくなる。
【0018】
さらに請求項2記載の樹脂製CVJブーツによれば、高作動角時に連結部が等速ジョイントの外輪の外側に向けて屈曲することで外輪外周面上に軸方向スペースができ、外輪外周面上に谷部が乗り上げやすくなる。これにより、外輪に乗り上げる大径取付部寄りの谷数が増え、外輪とシャフトとで挟まれる蛇腹の量が一層減り、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力をより低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力をより減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。
【0019】
さらに請求項3記載の樹脂製CVJブーツによれば、等速ジョイントが高作動角をとることで蛇腹部からの圧縮力を受けた時に等速ジョイントの外輪の外側に向けて連結部が反り返るように屈曲可能としているので、圧縮側となる連結部および蛇腹のよりスムーズな変形が期待できる。したがって、等速ジョイントの高作動角時に外輪外周面上に軸方向スペースができると共に径方向外側に連結部に隣接する谷部が移動することになり、外輪外周面上に谷部がより一層乗り上げ易くなる。これにより、外輪に乗り上げる大径取付部寄りの谷数が増え、外輪とシャフトとで挟まれる蛇腹の量が一層減り、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力をより低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力をより減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。
【0020】
さらに請求項4記載の樹脂製CVJブーツによれば、外輪外周面上に乗り上げる谷部の内径が等速ジョイントの外輪の端面における内径よりも大きいため、谷部が外輪端面に当接したとしても、谷部がジョイントへ噛み込まれることがなく、外輪外周面上に谷部が乗り上げやすくなる。
【0021】
さらに請求項5記載の樹脂製CVJブーツによれば、連結部の屈曲点の内径Eと外輪の外径FがF‐10mm≦E≦F+2mmの関係にあるため、連結部が外輪にきつく締まって嵌合し難くなることもなければ、また、高作動角時(ブーツ圧縮時)に連結部の軸方向並びに径方向への動きが適度に規制されて過度に動くのを防止して大径取付部にかかる負担や大径取付部の持ち上げを軽減し、破損およびシール性能の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる樹脂製CVJブーツの一実施形態を示す中央縦断面図で、等速ジョイントに装着した状態で作動角0度の状態を示す。
【図2】同樹脂製CVJブーツの高作動角時の状態を示す中央縦断面図である。
【図3】大径取付部と連結部と隣接する蛇腹部との関係を拡大して示す図で、連結部の形態を変更したものを(A)〜(D)に示す。
【図4】図1に示すCVJブーツの実施形態における外輪外周面の外径と、連結部の屈曲点における内径とも連結部に隣接する谷部の内径との関係を示す説明図である。
【図5】図1に示すCVJブーツの実施形態における高作動角時の圧縮側のブーツと外輪との関係を示す説明図である。
【図6】本発明にかかる樹脂製CVJブーツの他の実施形態を示す中央縦断面図で、等速ジョイントに装着した状態で作動角0度の状態を示す。
【図7】図6の樹脂製CVJブーツの高作動角時の状態を示す中央縦断面図である。
【図8】従来の樹脂製CVJブーツの大径取付部と連結部と蛇腹部と外輪との関係を示す説明図である。
【図9】同じく従来の樹脂製CVJブーツの高作動角時の外輪に対する連結部と蛇腹部ととの形状変化状態を示す中央縦断面図である。
【図10】図9の樹脂製CVJブーツにおける、外輪に対する連結部と蛇腹部との形状変化状態を拡大して示す説明図である。
【図11】従来の他の樹脂製CVJブーツの大径取付部と連結部と蛇腹部と外輪との関係を作動角を与えた状態で示す説明図である。
【図12】等速ジョイントに作動角を与えたときのCVJブーツの圧縮側と伸長側とのブーツ長さの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1及び図2に本発明の樹脂製CVJブーツの実施の一形態を示す。このCVJブーツ1は、蛇腹部3とこの蛇腹部3の両端を等速ジョイント2の外輪7並びにシャフト8にそれぞれ取り付けるための大径取付部4及び小径取付部5と、大径取付部4と蛇腹部3とを繋ぐ連結部6とを備えるものであり、大径取付部4が外輪7に嵌合されると共に小径取付部5がシャフト8に嵌合されてそれぞれ締付バンド9,10の締め付けにより固定されることにより、等速ジョイント2に装着される。
【0025】
このCVJブーツ1は、蛇腹部3の連結部6に隣接する谷部11の少なくとも1個の内径Gを等速ジョイント2の外輪外径Fと同じにすると共に、他の谷部12の内径Hを外輪外径Fよりも小さくして、高作動角時の蛇腹部3の圧縮時に外輪外周面7b上に連結部6に隣接する谷部11の少なくとも1個が乗り上げるように設けられている。ここで、蛇腹部3の連結部6に隣接する谷部11が等速ジョイントの作動角が0あるいは小さい状態で外輪7の外周面7bに触れるように存在すると、等速ジョイント2が高作動角をとる時に伸長側では外輪上の谷部11が外輪外周面7bを摺接するため摩耗する危険がある。その反面、高作動角時の伸長側のブーツの谷部11が外輪の外周面7bと摺接するのを防ぐために谷部11の内径を過剰に大きくすると、連結部6に隣接する部分のブーツの膜長が短くなることにより伸長時にブーツが凹んでしまう危険がある。そこで、等速ジョイント2の作動角が0あるいは小さい状態では、蛇腹部3の連結部6に隣接する谷部11が外輪外周面7bの上には存在せず、外輪外周面7bよりも小径取付部5側に位置していることが好ましい。尚、本実施形態において、外輪外周面7bとは、図5並びに図4に示すように、外輪の外周面7bと端面7aとの間に形成される面取り部分7cを除いたものであり、面取り7cよりも軸方向内側(矢印Iで示す反端面7a側)を外輪外周面7bと呼ぶ。また、符号Jで示す箇所が外輪の端面7aにおける外輪内径の位置である。
【0026】
ここで、等速ジョイント2の外輪外径Fとほぼ同じ内径Gの谷部11は、高作動角がとられた状態で外輪7上に少なくとも1個の谷11が外輪7上に乗り上げれば外輪7とシャフト8とで挟まれる蛇腹3の量をその分だけ減らすことができるので、連結部6に隣接する谷部11のうちの最も連結部寄りの少なくとも1つだけでも効果的である。他方、等速ジョイント2の外輪外径Fとほぼ同じ内径Gの谷部11の数が増えすぎると、同じ山谷数の蛇腹部3とする場合に蛇腹全体の膜長が不十分なものとなってブーツの自然凹みが発生してブーツが機能しなくなる虞が生ずることから、多くとも3,4個以内とすることが好ましい。そこで、等速ジョイント2の外輪外径Fとほぼ同じ内径Gの谷部11は、少なくとも1つ以上、好ましくは2つあるいは3つ設けることである。そして、他の谷部12の内径Hを図1に示すように外輪外径Fよりも十分に小さくすることによって、伸長側における必要な膜長を確保するように設けられている。
【0027】
また、連結部6は、特許文献1に示すような円筒状であっても良いが、等速ジョイント2の外輪7の外側に向けて屈曲可能な形状とされることが好ましい。この外向きに屈曲可能な構造によると、等速ジョイント2が高作動角をとる時に、圧縮力を受ける連結部6が等速ジョイント2の外輪7の外側に向けて屈曲することで外輪外周面7b上に軸方向スペースができ、外輪外周面7b上に谷部11が乗り上げやすくなる。特に、図1及び図2並びに図3の(A)に示す第1の実施形態のように、等速ジョイント2の外輪7に向けて内向きに突出する円弧状であり、かつ蛇腹部3からの圧縮力を受けたときに等速ジョイント2の外輪7の外側に向けて反り返るように屈曲可能な形状とする場合には、蛇腹部3からの圧縮力を受けた際に、連結部6が径方向外側へ反り返ることにより外輪外周面上に軸方向スペースができると共に連結部の径方向外側への反り返りにより隣接する谷部11が外輪よりも径方向外側に変位することになり、外輪外周面7b上に谷部11がより一層乗り上げ易くなる。また、図3の(B)に示すように大径取付部4から蛇腹部3側へ向けて漸次径を細くする円錐面形状に、あるいは図3の(C)に示すように大径取付部4との境界部分に外向き(外径側向き)に凹む凹部からなる屈曲部を設けた円筒状に、あるいは図3の(D)に示すように大径取付部4から蛇腹部3側へ向けて漸次径を大きくする円錐面形状とすることも可能である。尚、図6及び図7に図3の(D)に示した連結部を適用した樹脂製CVJブーツの実施形態を示す。
【0028】
また、樹脂製CVJブーツ1は、材質が樹脂で硬いこともあり組み込みが極めて困難となることから、ジョイント2への嵌合性能を考えると、等速ジョイント2の外輪7上に位置する屈曲点Xの内径寸法Eが外輪外径寸法Fに比べてあまり小さくすることは好ましくない。本発明者等の実験によると、φE<φF-10mmとすることは好ましくないと考えられる。他方、屈曲点Xの内径寸法EがφE-2>φFとなると、ブーツ圧縮時に屈曲点Xと外輪7との隙間が大きくなるので、連結部6の自由度が高くなりすぎて、圧縮時に連結部6が大径取付部4側に過度に動いて大径取付部4を持ち上げるように変形させるので、大径取付部4の締め付けバンド10のエッジ10aに当接する接触部6aおよびその付近に応力が集中して大径取付部4に負担がかかり、破損およびシール性能の低下を引き起こす原因となる(図5参照)と考えられる。そこで、連結部6の屈曲点Xの内径Eと外輪7の外径FがF-10mm≦E≦F+2mmの関係にあるように設定することが好ましい。
【0029】
以上のように構成された樹脂製CVJブーツによれば、同じ山谷数である場合において、蛇腹部3の大径取付部寄りの少なくとも1個の谷が外輪7の外周面に乗り上げると、図5に示すように圧縮側の畳み込み間隔L1が減少する。即ち、蛇腹が外輪端面7aとシャフト(小径側取付部5)との間に挟まれる蛇腹の数が減るため、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力を低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力を減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。また、圧縮側の畳み込み間隔L1が減少することから、同じ接触面圧力であれば、より高作動角とすることができる。さらに、ブーツ伸び側の展開間隔L2とブーツ圧縮側の畳み込み間隔L1との差が小さくなり、ブーツの撓みが緩やかになり、回転がスムーズになる。このことは、図6及び図7に例示した異なる形態の連結部6を適用した樹脂製CVJブーツにおいても同様である。
【実施例】
【0030】
図1に示す形状の樹脂製CVJブーツを作製し、等速ジョイントの高作動角時における圧縮側の蛇腹の外輪に対する乗り上げ発生について試験を行った。その結果を表1に示す。尚、本試験に用いたブーツは、ポリエステルエラストマー製であり、大径取付部内径74mm、小径取付部内径22mm、連結部に隣接する蛇腹部とされている。また、等速ジョイントの外輪の外径は76mmとされている。等速ジョイントの作動角θは48°である。
【表1】
【0031】
この試験結果から、谷部11の内径Gは、外輪外径Fの70%以上の大きさであれば、高作動角時に谷部11が外輪外周面に乗り上げて外輪端面に残らずに済むが、60%未満であると外輪外周面に乗り上げることができずに外輪端部に残ることが判明した。このことから、谷部11の内径Gは、外輪外径Fの70%以上の大きさであることが必要である。他方、谷径Gの上限は蛇腹形状を維持できるように隣り合う山の内径よりも小さいことが必要である。
【0032】
次に、同ブーツの連結部の屈曲点の内径寸法による耐久性について確認試験を行った。試験は、120℃の雰囲気中で、等速ジョイントの作動角θを48°に設定して、400rpmで50時間回転させたときのブーツの破断状態を確認した。結果を表2に示す。
【表2】
【0033】
この試験結果から、連結部連結部の屈曲点の内径寸法Eは、外輪外径Fに対して±2mmの範囲内に収められるときに同試験条件では破断が起きなかったことが判明した。
【0034】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば図示していないが、連結部6の肉厚を他の部分よりも肉薄に形成することにより外側へ屈曲し易くしたり、細かい蛇腹状の凹凸を与えることにより可撓性を高めるようにしても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 樹脂製CVJブーツ
2 等速ジョイント
3 蛇腹部
4 大径取付部
5 小径取付部
6 大径取付部と蛇腹部とを繋ぐ連結部
7 等速ジョイントの外輪
7a 外輪の端面
7b 外輪の外周面
7c 面取り
8 等速ジョイントのシャフト
9,10 締付けバンド
11 連結部に隣接する谷部
12 他の谷部(連結部に隣接する谷部以外の谷部)
E 連結部の屈曲部における内径
F 外輪の外周面の外径
G 連結部に隣接する谷部の内径
H 連結部に隣接する谷部以外の谷部の内径
I 外輪の外周面と面取り部分との境界位置
J 外輪端面における内径の位置
X 屈曲点
【技術分野】
【0001】
本発明は、等速ジョイントに装着されてグリース保持および防塵などのために使用されるフレキシブルブーツ(本明細書においてはこのようなフレキシブルブーツを総称してCVJブーツという)に関する。更に、詳述すると、本発明は樹脂製CVJブーツの高作動角化を可能とする蛇腹構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CVJブーツは、耐オゾン性や耐摩耗性についての要求を十分に満足させるため、樹脂製であることが主流となっている。この樹脂製CVJブーツは、ゴム製の場合に比べて柔軟性に劣ることから、蛇腹の山数を増やすことなどで変形し易い構造を採るように工夫されている。それにもかかわらず、樹脂製CVJブーツでは、高作動角をとったときの蛇腹と連結部との間に加わる圧縮力(応力)が集中する部位が生じやすく、繰り返し屈曲に対する必要な耐疲労性が得られない問題がある。
【0003】
例えば、樹脂製ジョイントブーツにおいては、等速ジョイント作動角が大きくなったときに、この傾きに追随して蛇腹が折り曲げられる際の折り曲げトルクが大きくなる傾向にある。この折り曲げトルクは、両端の固定部をブーツ内側から剥がす向きの力として作用するため、シール性を損ないグリース漏れを起こすおそれがある。
【0004】
そこで、図8に示すように、大口径端短円筒部(大径取付部)101及び小口径端短円筒部(小径取付部;図示省略)において内周面側にシール用突条102が形成されると共に、このシール用突条102のジョイントブーツ軸方向における幅の中央部の外周面側に開口における幅寸法が深さ寸法に比べて同一か又はより大きい条溝103が備えられるようにして、締め付けバンドの締め付け力を増加させることなく充分なシール性が得られるようにした高作動角に対応する樹脂製CVJブーツが従来提案されている(特許文献1)。尚、図中の符号104は等速ジョイントの外輪、105はブーツの蛇腹部、106は蛇腹部と大口径端短円筒部とを繋ぐ円筒状連結部、109は谷部である。
【0005】
また、特許文献1にも開示されているように、樹脂製ジョイントブーツにおいては、等速ジョイントの外輪(アウターケース)104の端縁よりも奥側で大径取付部101が締め付けバンド108により固定されることから、大径取付部101と蛇腹部105とを繋ぐ円筒状の連結部106を備えることが一般的である。この円筒状連結部106を持つジョイントブーツにおいては、作動角を大きくした状態で回転させたときに、蛇腹部105の最も大径取付部側の谷部109が外輪104の先端面110に接触することに起因して大径取付部101に隣接する蛇腹部104の谷部109において耐久性が劣るという問題を有している。すなわち、図9並びに図10に示すように、屈曲内側において、蛇腹部105の大径取付部側の最初の谷部が、2番目以降の谷部によって外輪104の先端面110に押し付けられるように変形することに起因しているものと考えられる。尚、図中の符号107は等速ジョイントのシャフト、111は小径取付部である。
【0006】
そこで、図11に示すように、大径取付部201が外輪205の先端部外周を取り囲む筒状連結部203を介して蛇腹部202と連結されており、該筒状連結部203が軸方向中央部において半径方向内方に凹んだくびれ状に形成されたCVJブーツが提案されている(特許文献2)。つまり、蛇腹部202の谷部204が外輪205の端面に接触しないように空間Sをあけるように変形させる構造のCVJブーツが提案されている。このように筒状連結部203をくびれた筒状とすることにより、高作動角としたときに筒状連結部203を適度に撓ませることで蛇腹部204の大径取付部201側の谷部204が外輪205の先端面に接触することを回避することができ、耐久性を向上することができる。尚、図中の符号206はブッシュである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−228016
【特許文献2】特開2007−120580
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、樹脂製CVJブーツは、図12に示すように、外輪とシャフトの寸法、最大作動角によって、ブーツ圧縮側の畳み込み間隔L1は決まってしまう。そして、作動角が高角度になると、より畳み込み間隔L1が小さくなる。一方、高角度にする場合にはブーツ伸び側の展開間隔L2がより大きくなるので、膜長が不十分であるとブーツの自然凹みが発生してブーツが機能しなくなることから、蛇腹の山数を減らすことはできない。このため、特許文献1の樹脂製CVJブーツ構造では、図10に示すように、高作動角が付いた場合に蛇腹105が外輪104と接触し、また蛇腹105が外輪104とシャフト107との間に挟まれて蛇腹105同士の接触圧が高くなり摩耗を生じるなどして、耐久性が低下する問題がある。
【0009】
また、蛇腹の谷部がジョイント内に噛み込んで破損したり、連結部が圧縮されてバンド固定部を変形させバンド固定部立ち上がり面とバンドとの接触またはバンド固定部底面のバンドエッジとの接触部の折れ曲がり等が生じる危険がある。
【0010】
他方、筒状連結部203をくびれた筒状とすることにより、高作動角としたときに筒状連結部203を適度に撓ませることで蛇腹部202の大径取付部側の谷部204が外輪205の先端面に接触することを回避する特許文献2のCVJブーツ、即ち蛇腹部の谷部が外輪の端面に接触しないように変形させる構造のCVJブーツでも、ブーツ圧縮側の畳み込み間隔L1は外輪とシャフトの寸法、最大作動角によって一義的に決まってしまうので、図11に示すように空間Sを設けて蛇腹部202の大径取付部側の谷部204が外輪205の先端面に接触することを回避するように変形することで却って蛇腹202同士の接触圧が高くなり摩耗を生じて耐久性が低下する問題が生ずる。
【0011】
そこで本発明は、高作動角時における蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力を低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力を減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができ、かつ蛇腹の谷部がジョイント内に噛み込まれて破損するのを防ぐことができる樹脂製CVJブーツを提供することを目的とする。また、本発明は、高作動角時に大径取付部のバンド固定部周辺での亀裂や摩耗を防ぐ樹脂製CVJブーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の発明は、等速ジョイントの外輪外周面に固定される大径取付部と、等速ジョイントのシャフトに固定される小径取付部と、これら両取付部の間に形成された円錐形または砲弾形に山谷径を漸減させる蛇腹部と、大径取付部と蛇腹部とを繋ぐ連結部とを備えた樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、蛇腹部の連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷の内径Gと等速ジョイントの外輪外径FとをG>0.7Fの関係して、高作動角時の蛇腹部の圧縮時に外輪外周面上に連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷部が乗り上げるようにしている。
【0013】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、連結部が等速ジョイントの外輪の外側に向けて屈曲可能にされるようにしている。
【0014】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、連結部が等速ジョイントの外輪に向けて内向きに突出する円弧状であり、蛇腹部からの圧縮力を受けたときに等速ジョイントの外輪の外側に向けて反り返るように屈曲可能としている。
【0015】
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、蛇腹部の圧縮時に外輪外周面上に乗り上げる谷部の内径が等速ジョイントの外輪の端面における内径よりも大きい関係にあることを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、連結部の屈曲点の内径Eと外輪の外径FがF‐10mm≦E≦F+2mmの関係にあることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の樹脂製CVJブーツによれば、高作動角時の蛇腹部の圧縮側で外輪外周面上に連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷部が乗り上げるようにしているので、その分だけ外輪とシャフトとで挟まれる蛇腹の量が減り、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力を低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力を減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。また、高作動角時における蛇腹の伸長側(開き側)の間隔と、圧縮側(畳み側)の間隔との差が小さくなり、ブーツの撓みが緩やかになることから、回転がスムーズになる。さらに、高作動角時には蛇腹の少なくとも1個の谷部が外輪外周面上に乗り上げるので、それに隣接する蛇腹の谷部がシャフトから離れるように全体に撓むため、谷部がジョイント内に噛み込まれる危険が少なくなる。
【0018】
さらに請求項2記載の樹脂製CVJブーツによれば、高作動角時に連結部が等速ジョイントの外輪の外側に向けて屈曲することで外輪外周面上に軸方向スペースができ、外輪外周面上に谷部が乗り上げやすくなる。これにより、外輪に乗り上げる大径取付部寄りの谷数が増え、外輪とシャフトとで挟まれる蛇腹の量が一層減り、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力をより低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力をより減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。
【0019】
さらに請求項3記載の樹脂製CVJブーツによれば、等速ジョイントが高作動角をとることで蛇腹部からの圧縮力を受けた時に等速ジョイントの外輪の外側に向けて連結部が反り返るように屈曲可能としているので、圧縮側となる連結部および蛇腹のよりスムーズな変形が期待できる。したがって、等速ジョイントの高作動角時に外輪外周面上に軸方向スペースができると共に径方向外側に連結部に隣接する谷部が移動することになり、外輪外周面上に谷部がより一層乗り上げ易くなる。これにより、外輪に乗り上げる大径取付部寄りの谷数が増え、外輪とシャフトとで挟まれる蛇腹の量が一層減り、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力をより低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力をより減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。
【0020】
さらに請求項4記載の樹脂製CVJブーツによれば、外輪外周面上に乗り上げる谷部の内径が等速ジョイントの外輪の端面における内径よりも大きいため、谷部が外輪端面に当接したとしても、谷部がジョイントへ噛み込まれることがなく、外輪外周面上に谷部が乗り上げやすくなる。
【0021】
さらに請求項5記載の樹脂製CVJブーツによれば、連結部の屈曲点の内径Eと外輪の外径FがF‐10mm≦E≦F+2mmの関係にあるため、連結部が外輪にきつく締まって嵌合し難くなることもなければ、また、高作動角時(ブーツ圧縮時)に連結部の軸方向並びに径方向への動きが適度に規制されて過度に動くのを防止して大径取付部にかかる負担や大径取付部の持ち上げを軽減し、破損およびシール性能の低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる樹脂製CVJブーツの一実施形態を示す中央縦断面図で、等速ジョイントに装着した状態で作動角0度の状態を示す。
【図2】同樹脂製CVJブーツの高作動角時の状態を示す中央縦断面図である。
【図3】大径取付部と連結部と隣接する蛇腹部との関係を拡大して示す図で、連結部の形態を変更したものを(A)〜(D)に示す。
【図4】図1に示すCVJブーツの実施形態における外輪外周面の外径と、連結部の屈曲点における内径とも連結部に隣接する谷部の内径との関係を示す説明図である。
【図5】図1に示すCVJブーツの実施形態における高作動角時の圧縮側のブーツと外輪との関係を示す説明図である。
【図6】本発明にかかる樹脂製CVJブーツの他の実施形態を示す中央縦断面図で、等速ジョイントに装着した状態で作動角0度の状態を示す。
【図7】図6の樹脂製CVJブーツの高作動角時の状態を示す中央縦断面図である。
【図8】従来の樹脂製CVJブーツの大径取付部と連結部と蛇腹部と外輪との関係を示す説明図である。
【図9】同じく従来の樹脂製CVJブーツの高作動角時の外輪に対する連結部と蛇腹部ととの形状変化状態を示す中央縦断面図である。
【図10】図9の樹脂製CVJブーツにおける、外輪に対する連結部と蛇腹部との形状変化状態を拡大して示す説明図である。
【図11】従来の他の樹脂製CVJブーツの大径取付部と連結部と蛇腹部と外輪との関係を作動角を与えた状態で示す説明図である。
【図12】等速ジョイントに作動角を与えたときのCVJブーツの圧縮側と伸長側とのブーツ長さの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
図1及び図2に本発明の樹脂製CVJブーツの実施の一形態を示す。このCVJブーツ1は、蛇腹部3とこの蛇腹部3の両端を等速ジョイント2の外輪7並びにシャフト8にそれぞれ取り付けるための大径取付部4及び小径取付部5と、大径取付部4と蛇腹部3とを繋ぐ連結部6とを備えるものであり、大径取付部4が外輪7に嵌合されると共に小径取付部5がシャフト8に嵌合されてそれぞれ締付バンド9,10の締め付けにより固定されることにより、等速ジョイント2に装着される。
【0025】
このCVJブーツ1は、蛇腹部3の連結部6に隣接する谷部11の少なくとも1個の内径Gを等速ジョイント2の外輪外径Fと同じにすると共に、他の谷部12の内径Hを外輪外径Fよりも小さくして、高作動角時の蛇腹部3の圧縮時に外輪外周面7b上に連結部6に隣接する谷部11の少なくとも1個が乗り上げるように設けられている。ここで、蛇腹部3の連結部6に隣接する谷部11が等速ジョイントの作動角が0あるいは小さい状態で外輪7の外周面7bに触れるように存在すると、等速ジョイント2が高作動角をとる時に伸長側では外輪上の谷部11が外輪外周面7bを摺接するため摩耗する危険がある。その反面、高作動角時の伸長側のブーツの谷部11が外輪の外周面7bと摺接するのを防ぐために谷部11の内径を過剰に大きくすると、連結部6に隣接する部分のブーツの膜長が短くなることにより伸長時にブーツが凹んでしまう危険がある。そこで、等速ジョイント2の作動角が0あるいは小さい状態では、蛇腹部3の連結部6に隣接する谷部11が外輪外周面7bの上には存在せず、外輪外周面7bよりも小径取付部5側に位置していることが好ましい。尚、本実施形態において、外輪外周面7bとは、図5並びに図4に示すように、外輪の外周面7bと端面7aとの間に形成される面取り部分7cを除いたものであり、面取り7cよりも軸方向内側(矢印Iで示す反端面7a側)を外輪外周面7bと呼ぶ。また、符号Jで示す箇所が外輪の端面7aにおける外輪内径の位置である。
【0026】
ここで、等速ジョイント2の外輪外径Fとほぼ同じ内径Gの谷部11は、高作動角がとられた状態で外輪7上に少なくとも1個の谷11が外輪7上に乗り上げれば外輪7とシャフト8とで挟まれる蛇腹3の量をその分だけ減らすことができるので、連結部6に隣接する谷部11のうちの最も連結部寄りの少なくとも1つだけでも効果的である。他方、等速ジョイント2の外輪外径Fとほぼ同じ内径Gの谷部11の数が増えすぎると、同じ山谷数の蛇腹部3とする場合に蛇腹全体の膜長が不十分なものとなってブーツの自然凹みが発生してブーツが機能しなくなる虞が生ずることから、多くとも3,4個以内とすることが好ましい。そこで、等速ジョイント2の外輪外径Fとほぼ同じ内径Gの谷部11は、少なくとも1つ以上、好ましくは2つあるいは3つ設けることである。そして、他の谷部12の内径Hを図1に示すように外輪外径Fよりも十分に小さくすることによって、伸長側における必要な膜長を確保するように設けられている。
【0027】
また、連結部6は、特許文献1に示すような円筒状であっても良いが、等速ジョイント2の外輪7の外側に向けて屈曲可能な形状とされることが好ましい。この外向きに屈曲可能な構造によると、等速ジョイント2が高作動角をとる時に、圧縮力を受ける連結部6が等速ジョイント2の外輪7の外側に向けて屈曲することで外輪外周面7b上に軸方向スペースができ、外輪外周面7b上に谷部11が乗り上げやすくなる。特に、図1及び図2並びに図3の(A)に示す第1の実施形態のように、等速ジョイント2の外輪7に向けて内向きに突出する円弧状であり、かつ蛇腹部3からの圧縮力を受けたときに等速ジョイント2の外輪7の外側に向けて反り返るように屈曲可能な形状とする場合には、蛇腹部3からの圧縮力を受けた際に、連結部6が径方向外側へ反り返ることにより外輪外周面上に軸方向スペースができると共に連結部の径方向外側への反り返りにより隣接する谷部11が外輪よりも径方向外側に変位することになり、外輪外周面7b上に谷部11がより一層乗り上げ易くなる。また、図3の(B)に示すように大径取付部4から蛇腹部3側へ向けて漸次径を細くする円錐面形状に、あるいは図3の(C)に示すように大径取付部4との境界部分に外向き(外径側向き)に凹む凹部からなる屈曲部を設けた円筒状に、あるいは図3の(D)に示すように大径取付部4から蛇腹部3側へ向けて漸次径を大きくする円錐面形状とすることも可能である。尚、図6及び図7に図3の(D)に示した連結部を適用した樹脂製CVJブーツの実施形態を示す。
【0028】
また、樹脂製CVJブーツ1は、材質が樹脂で硬いこともあり組み込みが極めて困難となることから、ジョイント2への嵌合性能を考えると、等速ジョイント2の外輪7上に位置する屈曲点Xの内径寸法Eが外輪外径寸法Fに比べてあまり小さくすることは好ましくない。本発明者等の実験によると、φE<φF-10mmとすることは好ましくないと考えられる。他方、屈曲点Xの内径寸法EがφE-2>φFとなると、ブーツ圧縮時に屈曲点Xと外輪7との隙間が大きくなるので、連結部6の自由度が高くなりすぎて、圧縮時に連結部6が大径取付部4側に過度に動いて大径取付部4を持ち上げるように変形させるので、大径取付部4の締め付けバンド10のエッジ10aに当接する接触部6aおよびその付近に応力が集中して大径取付部4に負担がかかり、破損およびシール性能の低下を引き起こす原因となる(図5参照)と考えられる。そこで、連結部6の屈曲点Xの内径Eと外輪7の外径FがF-10mm≦E≦F+2mmの関係にあるように設定することが好ましい。
【0029】
以上のように構成された樹脂製CVJブーツによれば、同じ山谷数である場合において、蛇腹部3の大径取付部寄りの少なくとも1個の谷が外輪7の外周面に乗り上げると、図5に示すように圧縮側の畳み込み間隔L1が減少する。即ち、蛇腹が外輪端面7aとシャフト(小径側取付部5)との間に挟まれる蛇腹の数が減るため、蛇腹と外輪端面との間の接触面圧力を低減させるだけでなく、蛇腹同士の接触面圧力を減らして蛇腹部分の摩耗の発生を抑えて耐久性の低下を防ぐことができる。また、圧縮側の畳み込み間隔L1が減少することから、同じ接触面圧力であれば、より高作動角とすることができる。さらに、ブーツ伸び側の展開間隔L2とブーツ圧縮側の畳み込み間隔L1との差が小さくなり、ブーツの撓みが緩やかになり、回転がスムーズになる。このことは、図6及び図7に例示した異なる形態の連結部6を適用した樹脂製CVJブーツにおいても同様である。
【実施例】
【0030】
図1に示す形状の樹脂製CVJブーツを作製し、等速ジョイントの高作動角時における圧縮側の蛇腹の外輪に対する乗り上げ発生について試験を行った。その結果を表1に示す。尚、本試験に用いたブーツは、ポリエステルエラストマー製であり、大径取付部内径74mm、小径取付部内径22mm、連結部に隣接する蛇腹部とされている。また、等速ジョイントの外輪の外径は76mmとされている。等速ジョイントの作動角θは48°である。
【表1】
【0031】
この試験結果から、谷部11の内径Gは、外輪外径Fの70%以上の大きさであれば、高作動角時に谷部11が外輪外周面に乗り上げて外輪端面に残らずに済むが、60%未満であると外輪外周面に乗り上げることができずに外輪端部に残ることが判明した。このことから、谷部11の内径Gは、外輪外径Fの70%以上の大きさであることが必要である。他方、谷径Gの上限は蛇腹形状を維持できるように隣り合う山の内径よりも小さいことが必要である。
【0032】
次に、同ブーツの連結部の屈曲点の内径寸法による耐久性について確認試験を行った。試験は、120℃の雰囲気中で、等速ジョイントの作動角θを48°に設定して、400rpmで50時間回転させたときのブーツの破断状態を確認した。結果を表2に示す。
【表2】
【0033】
この試験結果から、連結部連結部の屈曲点の内径寸法Eは、外輪外径Fに対して±2mmの範囲内に収められるときに同試験条件では破断が起きなかったことが判明した。
【0034】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば図示していないが、連結部6の肉厚を他の部分よりも肉薄に形成することにより外側へ屈曲し易くしたり、細かい蛇腹状の凹凸を与えることにより可撓性を高めるようにしても良い。
【符号の説明】
【0035】
1 樹脂製CVJブーツ
2 等速ジョイント
3 蛇腹部
4 大径取付部
5 小径取付部
6 大径取付部と蛇腹部とを繋ぐ連結部
7 等速ジョイントの外輪
7a 外輪の端面
7b 外輪の外周面
7c 面取り
8 等速ジョイントのシャフト
9,10 締付けバンド
11 連結部に隣接する谷部
12 他の谷部(連結部に隣接する谷部以外の谷部)
E 連結部の屈曲部における内径
F 外輪の外周面の外径
G 連結部に隣接する谷部の内径
H 連結部に隣接する谷部以外の谷部の内径
I 外輪の外周面と面取り部分との境界位置
J 外輪端面における内径の位置
X 屈曲点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
等速ジョイントの外輪外周面に固定される大径取付部と、等速ジョイントのシャフトに固定される小径取付部と、これら両取付部の間に形成された円錐形または砲弾形に山谷径を漸減させる蛇腹部と、前記大径取付部と前記蛇腹部とを繋ぐ連結部とを備えた樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、前記蛇腹部の前記連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷の内径Gと前記等速ジョイントの外輪外径FとをG>0.7Fの関係にして、高作動角時の前記蛇腹部の圧縮時に前記外輪外周面上に前記連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の前記谷部が乗り上げる樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項2】
前記連結部が前記等速ジョイントの外輪の外側に向けて屈曲可能にされている請求項1記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項3】
前記連結部が前記等速ジョイントの外輪に向けて内向きに突出する円弧状であり、前記蛇腹部からの圧縮力を受けたときに前記等速ジョイントの外輪の外側に向けて反り返るように屈曲可能である請求項2記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項4】
前記蛇腹部の圧縮時に前記外輪外周面上に乗り上げる前記谷部の内径が前記等速ジョイントの外輪の端面における内径よりも大きい関係にある請求項1から3のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項5】
前記連結部の屈曲点の内径Eと外輪の外径FがF‐10mm≦E≦F+2mmの関係にある請求項1から4のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項1】
等速ジョイントの外輪外周面に固定される大径取付部と、等速ジョイントのシャフトに固定される小径取付部と、これら両取付部の間に形成された円錐形または砲弾形に山谷径を漸減させる蛇腹部と、前記大径取付部と前記蛇腹部とを繋ぐ連結部とを備えた樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツにおいて、前記蛇腹部の前記連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の谷の内径Gと前記等速ジョイントの外輪外径FとをG>0.7Fの関係にして、高作動角時の前記蛇腹部の圧縮時に前記外輪外周面上に前記連結部に隣接または近傍の少なくとも1個の前記谷部が乗り上げる樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項2】
前記連結部が前記等速ジョイントの外輪の外側に向けて屈曲可能にされている請求項1記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項3】
前記連結部が前記等速ジョイントの外輪に向けて内向きに突出する円弧状であり、前記蛇腹部からの圧縮力を受けたときに前記等速ジョイントの外輪の外側に向けて反り返るように屈曲可能である請求項2記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項4】
前記蛇腹部の圧縮時に前記外輪外周面上に乗り上げる前記谷部の内径が前記等速ジョイントの外輪の端面における内径よりも大きい関係にある請求項1から3のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【請求項5】
前記連結部の屈曲点の内径Eと外輪の外径FがF‐10mm≦E≦F+2mmの関係にある請求項1から4のいずれか1つに記載の樹脂製等速ジョイント用フレキシブルブーツ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−236566(P2010−236566A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82150(P2009−82150)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000104490)キーパー株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000104490)キーパー株式会社 (23)
【Fターム(参考)】
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